(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102613
(43)【公開日】2023-07-25
(54)【発明の名称】制動装置及び建物の免震構造
(51)【国際特許分類】
F16F 15/06 20060101AFI20230718BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20230718BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20230718BHJP
F16F 1/32 20060101ALI20230718BHJP
F16F 1/04 20060101ALI20230718BHJP
【FI】
F16F15/06 G
E04H9/02 331Z
F16F15/02 E
F16F1/32
F16F1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003209
(22)【出願日】2022-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】303056368
【氏名又は名称】東急建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊丹 十夢
(72)【発明者】
【氏名】豊嶋 学
(72)【発明者】
【氏名】千葉 一樹
(72)【発明者】
【氏名】知念 輝
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J059
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB10
2E139BA19
2E139BA24
2E139BC08
2E139BD35
2E139CB04
2E139CC02
3J048AA01
3J048AC01
3J048BC02
3J048BC05
3J048BE12
3J048CB05
3J048CB21
3J048EA38
3J059AA08
3J059BA01
3J059BA23
3J059BB07
3J059BC02
3J059BD01
3J059DA25
3J059GA42
(57)【要約】
【課題】エネルギー吸収性能に優れ、かつ繰り返しの使用が可能であるうえに、外力の作用方向の長さを短くすることが可能な制動装置を提供する。
【解決手段】外力により生じるエネルギーを吸収させるための制動装置1である。
外力の作用方向に移動する一対のスライダー部2,2と、一対のスライダー部の間に介在されて、作用方向と略直交する方向が伸縮方向となるバネ部3と、バネ部の中心軸位置に配置されて、スライダー部とともに作用方向に移動する芯材部4と、スライダー部、バネ部及び芯材部を連動させるための本体部5とを備えている。
そして、スライダー部に外力が作用して作用方向に移動すると、それに伴って一対のスライダー部の間隔が狭くなってバネ部が収縮するとともに、本体部とスライダー部との間では、摺動によるエネルギー吸収が行われる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外力により生じるエネルギーを吸収させるための制動装置であって、
外力の作用方向に移動する一対のスライダー部と、
一対の前記スライダー部の間に介在されて、前記作用方向と略直交する方向が伸縮方向となるバネ部と、
前記バネ部の中心軸位置に配置されて、前記スライダー部とともに前記作用方向に移動する芯材部と、
前記スライダー部、バネ部及び芯材部を連動させるための本体部とを備え、
前記スライダー部に外力が作用して前記作用方向に移動すると、それに伴って一対の前記スライダー部の間隔が狭くなって前記バネ部が収縮するとともに、前記本体部と前記スライダー部との間では、摺動によるエネルギー吸収が行われることを特徴とする制動装置。
【請求項2】
前記スライダー部には、前記バネ部が収縮する移動の際の先端側が先細るテーパー面が形成されていて、前記本体部のテーパー面との間で摺動が生じることを特徴とする請求項1に記載の制動装置。
【請求項3】
前記バネ部は、剛性が異なる皿バネ材又はコイルバネ材を組み合わせることで形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の制動装置。
【請求項4】
前記バネ部の中空部に対して、密接可能な外形の前記芯材部が挿入されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の制動装置。
【請求項5】
免震装置が配置される建物の免震構造であって、
前記免震装置が配置される免震層に設置される請求項1乃至4のいずれか1項に記載の制動装置と、
前記免震層に所定以上の変形が生じる前に前記制動装置を作動させるための反力部とを備えていることを特徴とする建物の免震構造。
【請求項6】
前記免震層の上部側又は下部側に前記制動装置が設置されるとともに、
前記スライダー部の外力の作用面に対向する位置に、前記反力部となる突起部が設けられることを特徴とする請求項5に記載の建物の免震構造。
【請求項7】
前記免震装置によって支持される構造部材の側面又はその側面が対向する壁面に、前記制動装置が設けられることを特徴とする請求項5に記載の建物の免震構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外力により生じるエネルギーを吸収させるための制動装置、及びそれが設置された建物の免震構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地震の揺れの伝達を抑えるために、建物と基礎との間に免震装置が配置された建物の免震構造が知られている。こうした免震構造では、構造設計時に想定するレベルを上回る想定外の大地震が発生した場合に、免震装置が配置された免震層に過大変形が生じ、建物が周囲の擁壁に衝突したり、免震装置が過大変形することで免震層が損傷することが懸念される。また、擁壁衝突時の衝撃力によって、上部建物が損傷する可能性もある。
【0003】
そこで、特許文献1に開示されているように、緩衝材となるゴム製ブロックを、大地震時の過大変形によって衝突が起きうる箇所に予め設置しておくことで、衝撃を緩和させることが行われている。ここで、ゴム製ブロックは、大きな力が作用すると、塑性変形することでエネルギーを吸収することも知られている。
【0004】
一方、特許文献2には、外力の作用方向に複数の皿バネを並べたバネ機構を備えた振動抑制装置が開示されている。この振動抑制装置では、所定値より大きい変位が生じた際に可動するバネ量を増やすことで、変位が大きいときほど剛性が低くなるようにしている。こうした振動抑制装置は、免震装置に復元力を生じさせるためのバネ材として使用したり、減衰材などを付与することでダンパー材として使用したりすることができる。
【0005】
さらに、特許文献3には、建物などの構造物の制振機構として、外力の作用方向に複数の皿バネを並べたバネ部材を使用することが開示されている。この皿バネを要素としたバネ部材は、圧縮力と引張力の双方に対応し得る構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-71651号公報
【特許文献2】特開2017-78432号公報
【特許文献3】特開2012-163134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されたようなエネルギーを吸収するために塑性化させる装置は、塑性化によって性能が低下したときに交換する必要があるが、大地震後などでは早急な対応が難しいうえに、交換費用が必要になる。
【0008】
また、特許文献2,3に開示されたような外力の作用方向に複数の皿バネを並べる構成では、皿バネの1枚当たりの変形量が少ないので、外力の作用方向に一定以上の変位をさせようとする場合は、多くの皿バネを組み込む必要があり、装置の長さが長くなって大型化することになる。免震装置が配置される免震ピットは、多数の配管などが敷設されていて、利用できる空間に制約があるため、装置はなるべく小さい方が望ましい。
【0009】
そこで本発明は、エネルギー吸収性能に優れ、かつ繰り返しの使用が可能であるうえに、外力の作用方向の長さを短くすることが可能な制動装置、及びそれが設置された建物の免震構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の制動装置は、外力により生じるエネルギーを吸収させるための制動装置であって、外力の作用方向に移動する一対のスライダー部と、一対の前記スライダー部の間に介在されて、前記作用方向と略直交する方向が伸縮方向となるバネ部と、前記バネ部の中心軸位置に配置されて、前記スライダー部とともに前記作用方向に移動する芯材部と、前記スライダー部、バネ部及び芯材部を連動させるための本体部とを備え、前記スライダー部に外力が作用して前記作用方向に移動すると、それに伴って一対の前記スライダー部の間隔が狭くなって前記バネ部が収縮するとともに、前記本体部と前記スライダー部との間では、摺動によるエネルギー吸収が行われることを特徴とする。
【0011】
ここで、前記スライダー部には、前記バネ部が収縮する移動の際の先端側が先細るテーパー面が形成されていて、前記本体部のテーパー面との間で摺動が生じる構成とすることができる。
【0012】
また、前記バネ部は、剛性が異なる皿バネ材又はコイルバネ材を組み合わせることで形成される構成とすることができる。さらに、前記バネ部の中空部に対して、密接可能な外形の前記芯材部が挿入されている構成とすることができる。
【0013】
また、建物の免震構造の発明は、免震装置が配置される建物の免震構造であって、前記免震装置が配置される免震層に設置される上記いずれかに記載の制動装置と、前記免震層に所定以上の変形が生じる前に前記制動装置を作動させるための反力部とを備えていることを特徴とする。
【0014】
ここで、前記免震層の上部側又は下部側に前記制動装置が設置されるとともに、前記スライダー部の外力の作用面に対向する位置に、前記反力部となる突起部が設けられる構成とすることができる。
【0015】
また、前記免震装置によって支持される構造部材の側面又はその側面が対向する壁面に、前記制動装置が設けられる構成とすることもできる。
【発明の効果】
【0016】
このように構成された本発明の制動装置は、外力の作用方向と略直交する方向が伸縮方向となるバネ部を備えている。そして、スライダー部に外力が作用して移動すると、バネ部が収縮するとともに、本体部とスライダー部との間では、摺動によるエネルギー吸収が行われる。
【0017】
このため、エネルギー吸収性能に優れている。また、バネ部を伸縮させる機構のため、復元性能に優れ、繰り返しの使用が可能である。さらに、バネ部の伸縮方向が外力の作用方向と略直交する方向となっているので、制動装置の外力の作用方向の長さを短くすることができる。
【0018】
また、スライダー部の摺動面が、バネ部が収縮する移動の際の先端側が先細るテーパー面に形成されていれば、スライダー部の移動がバネ部の収縮に連続的に変換されるようになるので、スムーズな制動を行うことができるようになる。
【0019】
さらに、バネ部を、剛性が異なる皿バネ材又はコイルバネ材を組み合わせることで形成するのであれば、剛性増加型の復元力特性となるように設定して、緩やかな制動を行わせることができる。
【0020】
また、バネ部の中空部に対して密接可能な外形の芯材部が挿入される構成であれば、バネ部と芯材部とが一体になって外力の作用方向に移動できるようになり、バネ部の傾きや偏心を抑えることができる。
【0021】
また、建物の免震構造の発明は、免震装置が配置される免震層に制動装置が設置されるとともに、免震層に所定以上の変形が生じる前に制動装置を作動させるための反力部を備えている。このため、設計時の想定以上の大地震が発生しても、建物が周囲の擁壁に衝突したり、免震装置が過大変形することで免震層が損傷したりすることを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施の形態の制動装置の内部構造を説明するための破断斜視図である。
【
図2】本実施の形態の建物の免震構造を説明する図であって、(a)は平常時の状態を示す模式図、(b)は大地震時の状態を示す模式図である。
【
図3】本実施の形態の制動装置の構成を説明するための斜視図である。
【
図5】バネ部の剛性増加型の復元力特性を説明するためのグラフである。
【
図6】摩擦を含めた制動装置の復元力特性を説明するためのグラフである。
【
図7】制動装置の初期状態を説明するための側面図である。
【
図8】制動装置の作動時の状態を説明するための側面図である。
【
図9】制動装置の最大変形時の状態を説明するための側面図である。
【
図10】本実施の形態の建物の免震構造における制動装置の作動範囲を示した説明図である。
【
図11】本実施の形態の建物の免震構造における制動装置の設置例1を示した説明図である。
【
図12】本実施の形態の建物の免震構造における制動装置の設置例2を示した説明図である。
【
図13】本実施の形態の建物の免震構造における制動装置の設置例3を示した説明図である。
【
図14】本実施の形態の建物の免震構造における制動装置の設置例4を説明する斜視図である。
【
図15】本実施の形態の建物の免震構造における制動装置の設置例4を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1及び
図3は、本実施の形態の制動装置1の構成を説明するための斜視図である。また、
図2は、本実施の形態の建物の免震構造を模式的に示した説明図である。
【0024】
本実施の形態の制動装置1は、外力により生じるエネルギーを吸収させるための装置である。本実施の形態の制動装置1は、免震構造の建物と組み合わせて使用することができる。また、港湾の防舷材、鉄道の緩衝式車止め、フォークリフトなどの重機のバンパ、人工知能(AI)によって制御される移動機器などにも、本実施の形態の制動装置1を取り付けることができる。
【0025】
以下、本実施の形態では、
図2(a)に示すように、免震装置Eが配置された建物Mに対して制動装置1を設置する場合について、主に説明する。地震の揺れの伝達を抑えるために、建物Mと基礎Bとの間に免震装置Eが配置された建物Mでは、地震時に、免震装置Eが配置された免震層において変形が生じる(
図2(b)参照)。
【0026】
免震構造の建物Mでは、構造設計時に想定したレベルを上回る想定外の大地震が発生した場合に、
図2(b)に示すように免震層において過大な変形が生じ、建物Mが周囲の擁壁M4に衝突したり、免震装置Eが過大変形することで免震層が損傷することが懸念される。そこで、こうした免震層の過大変形を抑えるために、本実施の形態の制動装置1を設置する。
【0027】
本実施の形態の制動装置1は、
図1及び
図3に示すように、外力の作用方向に移動する一対のスライダー部2,2と、一対のスライダー部2,2の間に介在されるバネ部3と、バネ部3の中心軸位置に配置される芯材部4と、本体部5とを備えている。ここで、
図1は、制動装置1を厚さ方向の中央で半割にして内部構造を示した破断斜視図であり、
図3は、制動装置1の外観を示した斜視図である。なお、
図3では、後述する締結部52の上側を、二点鎖線で図示している。
【0028】
一対のスライダー部2,2は、それぞれクサビ状の同じ形状に形成されて、線対称に配置される。スライダー部2は、外力の作用方向(
図8の矢印参照)の先端側が先細る平面視略台形の四角柱状に形成される。すなわちスライダー部2の略長方形の後端面が作用面23となり、作用面23が押されると、スライダー部2が本体部5に向けて移動することとなる。
【0029】
ここで、平面視略台形の斜辺によって形成されるスライダー部2の側面を、テーパー面21とする。そして、線対称に配置された一対のスライダー部2,2の平面視略台形の下辺によって形成される側面間に、バネ部3が介在される。
【0030】
すなわち、外力の作用方向と略直交する方向が伸縮方向となるように、円筒状のバネ部3が配置される。そして、
図1に示すように、バネ部3の円柱状の中空部3aに対して、やや小さい直径の円柱状の外形の芯材部4が挿入される。なお、バネ部の中空部や芯材部は、角柱状であってもよい。
【0031】
芯材部4は、一定の長さの円柱形又は円筒形に形成されていて、両端部はスライダー部2の貫通穴22にそれぞれ挿し込まれる。この貫通穴22は、芯材部4の外周面よりわずかに大きい内周面に形成されていて、スライダー部2は、芯材部4の軸方向に沿って移動(スライド)することができる。一方、スライダー部2が外力の作用方向に移動する際には、芯材部4もそれに伴って外力の作用方向に移動する。
【0032】
また、芯材部4に装着されるバネ部3も、スライダー部2が外力の作用方向に移動する際には、それに伴って芯材部4とともに外力の作用方向に移動することになる。さらに、バネ部3は、芯材部4の軸方向に沿って伸縮することになる。
【0033】
一対のスライダー部2,2の作用面23,23が押されて外力の作用方向に移動すると、それに伴って芯材部4及びバネ部3も外力の作用方向に移動することになる。このスライダー部2の外力の作用方向への移動は、本体部5との連携によって、バネ部3に収縮を起こさせる移動にもなる。
【0034】
本体部5は、スライダー部2、バネ部3及び芯材部4を連動させるために設けられる。本体部5は、スライダー部2のテーパー面21に接触させる一対のガイド部51,51と、ガイド部51,51の広がりを防ぐための締結部52と、制動装置1を設置するための取付部53とを備えている。
【0035】
ガイド部51は、スライダー部2と同様にクサビ状に形成される。すなわち、ガイド部51は、外力の作用方向と反対側が先細る平面視略台形の四角柱状、又は平面視略直角三角形の三角柱状に形成される。ガイド部51のテーパー面511とスライダー部2のテーパー面21とは、対向して接触することになり、テーパー面21,511間で摩擦抵抗のある摺動が発生する。
【0036】
要するに、スライダー部2の作用面23が押されると、ガイド部51のテーパー面511に沿って、外力の作用方向で、かつバネ部3を収縮させる方向に、スライダー部2が移動することになる。
【0037】
ここで、スライダー部2とともに外力の作用方向に移動する芯材部4の両端は、ガイド部51に設けられた凹部512に収容されている。この凹部512は、芯材部4の外力の作用方向への移動の支障とならない空間に切り欠かれている。また、ガイド部51には、凹部512からの芯材部4の抜け出しを防ぐために、蓋部41が装着される。
【0038】
すなわち、一対のスライダー部2,2、バネ部3及び芯材部4は、本体部5の一対のガイド部51,51間に挟まれた範囲内で可動する。そして、
図3に示すように、スライダー部2の移動の際に作用する力によってガイド部51,51間が広がらないように、ガイド部51,51の先端間が、制動装置1の厚さ方向に対向して配置される一対の締結部52,52によって連結される。
【0039】
続いて、
図4及び
図5を参照しながら、バネ部3の構成及び復元力特性について説明する。本実施の形態の制動装置1に配置されるバネ部3は、剛性が異なる複数の皿バネ材を組み合わせることによって形成される。
【0040】
図4では、3種類の剛性が異なる皿バネ材が重ねられた構成を示している。詳細には、下から4枚の第1皿バネ材31と、4枚の第2皿バネ材32と、6枚の第3皿バネ材33とが重ねられている。
【0041】
第1皿バネ材31と第2皿バネ材32と第3皿バネ材33は、材厚や材質を変えることによって、異なる剛性になっている。ここでは、剛性が高い順に、第1皿バネ材31、第2皿バネ材32、第3皿バネ材33となる。また、バネ部3全体の剛性については、皿バネ材(31,32,33)を重ねる枚数によっても、調整することができる。
【0042】
図5は、バネ部3の剛性増加型の復元力特性を説明するためのグラフである。上述したように構成されたバネ部3は、変形の増大に伴って剛性を増加させることができるので、例えば免震層の変形の増加に従って、徐々にブレーキを効かせることができるようになる。
【0043】
図5のバネ部3に作用する荷重が0(kN)で変形が0(mm)のA点は、
図4に示すような初期状態を示している。そして、バネ部3を収縮(圧縮)させる荷重が作用すると、B点までは剛性が最も低い第3皿バネ材33が主に変形する。
【0044】
B点を超えて、さらにバネ部3に作用する荷重が増加すると、C点までは第2皿バネ材32が主に変形し、C点を超えると、最も剛性が高い第1皿バネ材31が主に変形することになる。このように、変形の増加に伴って段階的に系全体の剛性が増加するバネ部3の復元力特性を、剛性増加型という。
【0045】
本実施の形態の制動装置1は、このようなバネ部3の収縮時の復元力特性を利用した制動を行う。さらに、本実施の形態の制動装置1では、本体部5とスライダー部2との間で起きる摺動によっても、エネルギーの吸収が行われる。
【0046】
上述したように、スライダー部2の作用面23が押されて外力の作用方向の移動が始まると、スライダー部2のテーパー面21と、それに接するガイド部51のテーパー面511との間で、摩擦抵抗を伴った摺動が起きる。
【0047】
この際の摩擦抵抗(摩擦係数)の大きさは、テーパー面21,511の処理によって、任意に設定することができる。また、圧縮したバネ部3の復元力でスライダー部2のテーパー面21がガイド部51のテーパー面511に押し付けられることによって、摩擦力が増加することにもなる。
【0048】
さらに、
図7に示すように、スライダー部2の先端側の角度θによっても、摩擦力の大きさを調整することができる。角度θが小さいほどバネ部3に対して変形量を増幅できるが、角度θが小さくなり過ぎると摩擦力が大きくなりバネ部3が復元できなくなるおそれがある。そこで、角度θを10°から45°程度、例えば25°に設定する。
【0049】
図6は、摩擦を含めた制動装置1の復元力特性を説明するためのグラフである。グラフの破線は、
図5で説明したバネ部3のみの復元力特性を示している。そこに、テーパー面21,511間に生じる摩擦力を加えると、実線で示したような復元力特性に設定することができる。
【0050】
摩擦を含めた制動装置1の復元力特性では、スライダー部2の作用面23が押されて外力の作用方向の移動が始まると、テーパー面21,511間の摩擦力と第3皿バネ材33の収縮によって、バネ部3のみの場合と比べて、剛性の高い挙動を示す。
【0051】
このバネ部3のみの場合よりも剛性が上回る挙動は、変形が増加している間は続く。また、変形が大きくなるほど、バネ部3の収縮量が増えて復元力も大きくなるので、テーパー面21,511間の摩擦力も大きくなる。
【0052】
そして、外力が減少してバネ部3が復元(伸長)し始めると、テーパー面21,511間に摩擦力がある分だけ、制動装置1の復元力が小さくなり、エネルギー吸収量を増やすことができる。さらに摩擦を大きくして、建物Mに比べて制動装置1が遅れて復元する場合は、圧縮時の破線で囲まれた範囲のすべてがエネルギー吸収量となり、より大きなエネルギーを吸収することができる。
【0053】
次に、
図7-
図9を参照しながら、本実施の形態の制動装置1の動作について説明する。
図7は、制動装置1の初期状態を説明するための側面図である。制動装置1は、例えば
図2(a)に示すように、基礎梁や床梁などの梁部材M1の下面から、免震装置Eが配置された免震層に垂下させた垂下部M2に取り付けられる。
【0054】
詳細には、
図7に示すように、上下に張り出された取付部53にボルトなどをねじ込むことによって、垂下部M2の側面に制動装置1を取り付ける。要するに本体部5は、制動装置1内の相対的な位置関係では、固定部となる。また、性能を安定させるために、バネ部3には初期圧縮力が加えられて、少し圧縮された状態となっている。この初期圧縮力は、制動装置1の作動開始時に、大きな衝撃力が発生しない程度に調整される。
【0055】
図8は、制動装置1の作動時の状態を説明するための側面図である。
図2(b)に示すように、地震が起きて基礎Bの揺れが大きくなると、基礎Bから免震層に突出するように設けられた反力部となる突起部6に、制動装置1が接触する状況が起きる。
【0056】
このときに突起部6に接触するのが、スライダー部2の作用面23である。
図8に示した矢印は、突起部6から受ける外力の作用方向を示している。外力によって一対のスライダー部2,2が本体部5に向けて押し込まれると、スライダー部2,2は外力の作用方向に移動することになる。
【0057】
この際、バネ部3及びその中心軸位置に配置された芯材部4も、スライダー部2とともに外力の作用方向に移動することになる。ここで、芯材部4の端部は、ガイド部51の凹部512に収容されているので、凹部512の空間内であれば制限なく移動することができる。
【0058】
また、スライダー部2,2の移動は、ガイド部51のテーパー面511に沿って行われるので、上側のスライダー部2は下降することになり、下側のスライダー部2は上昇することになる。すなわち、一対のスライダー部2,2の間隔が狭くなって、バネ部3が収縮することになる。
【0059】
図9は、制動装置1の最大変形時の状態を説明するための側面図である。ガイド部51の凹部512の壁面に芯材部4が当たる場合、もしくは、形状により本体部5の中面55にスライダー部2の先端24が当たる場合、それ以上、スライダー部2を外力の作用方向(黒矢印)に押し込むことができなくなる。スライダー部2の移動が止まると、バネ部3もそれ以上に圧縮されることはないので、この状態がバネ部3の最大変形量(収縮量)となる。その他に、先にバネ部3が完全に収縮した場合、スライダー部2を外力の作用方向(黒矢印)に押し込むことができなくなり、制動装置1は最大変形状態となる。
【0060】
一方、作用面23を本体部5側に押し込む外力の作用がなくなると、バネ部3の復元力によってバネ部3が伸長し、一対のスライダー部2,2の間隔が広くなるような移動が起きて、スライダー部2,2、バネ部3及び芯材部4は、
図7に示すような初期状態に戻ることになる。
【0061】
次に、本実施の形態の制動装置1及び建物の免震構造の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態の制動装置1は、外力の作用方向(
図8の矢印参照)と略直交する方向が伸縮方向となるバネ部3を備えている。
【0062】
そして、スライダー部2に外力が作用して移動すると、バネ部3が収縮するとともに、本体部5とスライダー部2とのテーパー面21,511間では、摩擦抵抗を伴った摺動によるエネルギー吸収が行われる。この摺動は、バネ部3による復元力が作用した状態で行われるので、テーパー面21のテーパー面511への押し付けによって、より効率的にエネルギーを吸収させることができる。
【0063】
このため、エネルギー吸収性能に優れている。また、バネ部3を伸縮させる機構のため、復元性能に優れ、繰り返しの使用が可能である。特に、皿バネ材(31,32,33)は、変形後も塑性化しにくいので、大地震によって制動装置1が稼動した後も、塑性化による性能低下が生じることなく、そのまま繰り返し使用することができる。
【0064】
さらに、スライダー部2の摺動面が、バネ部3が収縮する移動の際の先端側が先細るテーパー面21に形成されていれば、スライダー部2の移動がバネ部3の収縮に連続的に変換されるようになるので、スムーズな制動を行うことができるようになる。
【0065】
また、バネ部3の伸縮方向が外力の作用方向と略直交する方向となっているので、制動装置1の外力の作用方向の長さを短くすることができる。例えば、1枚当たりの変形量が少ない皿バネ材を使用する場合、一定以上の変位をさせようとすると多くの皿バネ材(31,32,33)を組み込むことになるが、外力の作用方向と略直交する上下方向に積み上げるだけなので、制動装置1の外力の作用方向の長大化を抑えるができる。このため、配管などによって設置範囲の制限を受けることが多い免震層となる免震ピットにも、小型な制動装置1であれば様々な位置に設置することができる。
【0066】
さらに、バネ部3を、剛性が異なる皿バネ材(31,32,33)を組み合わせることで形成するのであれば、剛性増加型の復元力特性となるように設定して、緩やかな制動を行わせることができる。すなわち、変形の増加に伴って系全体の剛性が段階的に増加するバネ部3を利用するのであれば、初期の衝撃力の発生を抑えられるうえに、過大な変形に対しても制動を行うことができる。
【0067】
また、バネ部3の中空部3aに対して密接可能な外形の芯材部4が挿入される構成であれば、バネ部3と芯材部4とが一体になって外力の作用方向に移動できるようになり、移動中のバネ部3の傾きや偏心を抑えることができる。すなわち、バネ部3の中空部3aに対してやや小さい外形の芯材部4が挿入されていれば、バネ部3が変形した際に中空部3aが縮小しても、バネ部3の伸縮を妨げることなく、密接して一体化させることができる。
【0068】
本実施の形態の建物Mの免震構造は、免震装置Eが配置される免震層に制動装置1が設置されるとともに、免震層や免震装置Eに所定以上の変形が生じる前に制動装置1を作動させるための反力部を備えている。
【0069】
図10は、本実施の形態の建物Mの免震構造における制動装置1の作動範囲を説明する図である。制動装置1は、基礎Bから上方に向けて突出させた突起部6に当接させることで作動する。
【0070】
ここで、建物Mの梁部材M1の端面と、建物Mの周囲に設けられた擁壁M4との離隔をL2とすると、免震層にL2以上の変形が起きる前に制動装置1を作動させて、大地震によるエネルギーを吸収させる必要がある。そこで、制動装置1の作用面23と突起部6の当接面61との距離L1を、L2よりも小さくする。
【0071】
詳細には、距離L1に制動装置1の最大変形量を加えた値が、L2よりも小さくなるように距離L1を設定することになる。このような設定にすることで、設計時の想定以上の大地震が発生しても、建物Mが周囲の擁壁M4に衝突したり、免震装置Eやダンパー材などが過大変形することで引張破断や座屈などが起きて損傷したりするのを防ぐことができる。
【0072】
また、制動装置1が作動することで、免震層の剛性が徐々に増加していくことになり、上部に設けられる建物Mの応答加速度の増幅を抑えつつ、免震層の変形を抑制することができるようになる。
【0073】
図11-
図15は、本実施の形態の建物Mの免震構造における制動装置1の設置例1-4を説明する図である。
図11に示すように、突起部6は、基礎Bに下端部を埋設させたH型鋼などによって設けることができる。
【0074】
例えば、
図11に示した設置例1のように、免震装置Eで支持されるフーチング部材M3,M3間に設けられた梁部材M1の長手方向の中央に、制動装置1を設置することができる。制動装置1は、梁部材M1の下面から垂下させた垂下部M2の両側面に、それぞれ設置される。
【0075】
2つの制動装置1に対しては、それぞれに対向するように当接面61が設けられた突起部6が設けられる。この制動装置1の作用面23と突起部6の当接面61との距離L1は、免震装置Eの機能を充分に発揮させるためには、設計時に想定した規模の地震による免震層の変形の範囲では、接触が起きないようにする必要がある。
【0076】
図12に示した設置例2では、フーチング部材M3の側面及び梁部材M1の下面に接合された垂下部M2の1側面に、制動装置1を設置している。そして、それぞれの制動装置1に対しては、梁部材M1の中央側に突起部6が設けられる。なお、距離L1の設定など、それ以外の構成については、設置例1と同じである。
【0077】
一方、
図13に示した設置例3では、梁部材M1の中央の真下に、両側面に当接面61,61を備えた突起部6を設け、それぞれの当接面61,61に対向する位置に、それぞれ制動装置1,1を設置している。なお、距離L1の設定など、それ以外の構成については、設置例1と同じである。
【0078】
こうした設置例1-3のような制動装置1の分散配置や、制動装置1のスライダー部2の先端側の角度θ、テーパー面21,511間の摩擦抵抗(摩擦係数)及びバネ部3の復元力特性などは、免震層全体の復元力特性に基づいて設定することができる。
【0079】
また、
図14及び
図15に示した設置例4は、擁壁M4を制動装置1の反力部として利用する場合を示している。建物Mの免震層の上部には、梁部材M1やフーチング部材M3などの建物Mの構造部材が設けられていて、外周面に現れる構造部材の側面と擁壁M4とは対向する位置関係になる。
【0080】
そこで、最外周面となるフーチング部材M3の側面よりも擁壁M4側に作用面23が突出するように、制動装置1を外周側の梁部材M1の側面に取り付ける。一方、擁壁M4の壁面には、鋼板などで当接面M41を形成しておく。
【0081】
このような構成にすることで、設計時の想定以上の大地震の際には、制動装置1の作用面23が擁壁M4に接触することになるが、制動装置1のエネルギー吸収によって、擁壁M4やフーチング部材M3などが損傷するような衝突を防ぐことができる。すなわち、擁壁M4に接触しても、制動装置1の動作によって衝撃力の発生を抑えることができる。
【0082】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0083】
例えば、前記実施の形態では、免震構造の建物Mに制動装置1を設置する場合について主に説明したが、これに限定されるものではない。上記した防舷材や緩衝式車止め以外にも、工事用タワークレーンの壁繋ぎや足場の変位対応、工事用エレベーターの最下階における制動、天井クレーンの端部の衝突干渉装置などにも、本実施の形態の制動装置1を使用することができる。また、洗濯機などの家電の防振材、ロボットなどの接触部のダンパー材、突っ張り棒などの伸縮機構にも、本実施の形態の制動装置1を使用することができる。
【0084】
また、前記実施の形態では、3種類の剛性が異なる皿バネ材(31,32,33)を組み合わせることによってバネ部3を構成する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、複数の剛性が異なるコイルバネ材、角バネ材、ゴム材又はそれらに準ずる材料などを組み合わせることによってバネ部を形成することもできる。
【0085】
さらに、前記実施の形態では、免震層の上部側に制動装置1を設置して、下部側(基礎B側)に反力部を設ける場合について説明したが、これに限定されるものではなく、免震層の下部側に制動装置1を設置して、上部側に反力部を設けることもできる。
【符号の説明】
【0086】
1 :制動装置
2 :スライダー部
21 :テーパー面
23 :作用面
3 :バネ部
3a :中空部
31 :第1皿バネ材(皿バネ材)
32 :第2皿バネ材(皿バネ材)
33 :第3皿バネ材(皿バネ材)
4 :芯材部
5 :本体部
51 :ガイド部
511 :テーパー面
6 :突起部(反力部)
M :建物
E :免震装置
M1 :梁部材(構造部材)
M3 :フーチング部材(構造部材)
M4 :擁壁(反力部)