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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102657
(43)【公開日】2023-07-25
(54)【発明の名称】設備診断装置、設備診断方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20230718BHJP
   G01M 13/04 20190101ALI20230718BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20230718BHJP
【FI】
G05B23/02 302T
G01M13/04
G01H17/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003299
(22)【出願日】2022-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】青戸 勇太
(72)【発明者】
【氏名】外田 脩
(72)【発明者】
【氏名】前田 俊二
(72)【発明者】
【氏名】谷口 哲至
(72)【発明者】
【氏名】小松 尭
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
3C223
【Fターム(参考)】
2G024AC01
2G024CA13
2G024FA01
2G024FA06
2G024FA11
2G064AB02
2G064BA02
2G064BD02
2G064DD02
3C223AA01
3C223AA11
3C223BA01
3C223CC01
3C223DD01
3C223EB01
3C223EB02
3C223EB03
3C223FF04
3C223FF13
3C223FF16
3C223FF35
3C223GG01
3C223HH02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】センサデータ間の相関関係の評価に応じた診断を行って複数のセンサデータによる診断の容易化を図る。
【解決手段】回転機11に加速度センサ12と電流センサ13とを設置し、センサ12,13の任意時間幅の時系列データを計測データとしてデータ計測器14に蓄積する。設備診断装置10は、各計測データを一定時間毎の分布区間を事前に設定された確率変数の階級数に分割し、各階級の計測値の個数に応じた確率分布に変換する。該装置は、各センサの確率分布を特定の式(1)(2)で任意時間ごとのエントロピーに変換するエントロピー変換部と、各センサの確率分布から同一時間の相互情報量を特定の式(3)で算出し、相互情報量の相関変化に基づき設備を診断する相互情報変換部と、各センサの確率分布を特定の式(4)(5)でKLDに変換するKLD変換部と、エントロピー・相互情報量・KLDを監視し、監視データを診断する監視部とを備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断対象の設備に複数のセンサを設置し、前記各センサの任意の時間幅の時系列データを計測データとして前記設備を診断する装置であって、
前記各センサの計測データに一定時間ごとの分布区間を設定し、設定された分布区間を事前設定の確率変数を示す階級数に分割し、前記各階級の計測値の個数に応じた確率分布に変換する確率分布変換部と、
前記確率分布変換部で変換された各センサの確率分布から同一時間の相互情報量を、式(3)を用いて算出する相互情報量変換部と、
【数3】
X(x):一方のセンサの確率変数X={x1,x2,...xn}の確率分布
Y(y):他方のセンサの確率変数Y={y1,y2,...yn}の確率分布
ただし、確率変数X=確率変数Y
I(X;Y):PX(x),PY(y)の相互情報量
XY(x,y):同時確率(一方のセンサのデータと他方のセンサのデータが同一のタイミングで、それぞれの階級に含まれる場合の相対度数)
を備え、
前記相互情報量変換部の算出する相互情報量の相関変化に基づき前記設備を診断することを特徴とする設備診断装置。
【請求項2】
前記確率分布から基準となる確率分布PX *(x)を生成し、
前記確率分布PX *(x)と同間隔で得られる前記各センサの確率分布PX(x),PY(y)から前記確率分布PX *(x)と同一の確率変数「X=Y={x1,x2,...xn}の比較対象となる確率分布PY(x)を取得し、
前記確率分布PX *(x),PY(x)から式(4)のKLD「Kullback-Leibler divergence/DKL(X||Y)」に変換するKLD変換部を備え、
【数4】
前記変換されたKLDが散布図中の正常分布から離れた外れ値として検出されるか否かにより、
前記設備を診断することを特徴とする請求項1記載の設備診断装置。
【請求項3】
前記KLD変換部は、さらに前記確率分布PX *(x)と前記PY(x)とを入れ替えて、式(5)のKLD「DKL(Y||X)」に変換する一方、
【数5】
式(4)(5)のKLDが、共に散布図中の正常分布から離れた外れ値として検出されるか否かにより、
前記設備を診断することを特徴とする請求項2記載の設備診断装置。
【請求項4】
前記確率分布変換部で変換された各センサの確率分布を、式(1)(2)を用いて任意時間ごとのエントロピーに変換するエントロピー変換部を備え、
【数1】
【数2】
H(X):一方のセンサのエントロピー
H(Y):他方のセンサのエントロピー
前記各センサのエントロピーが閾値以上の変化を生じたか否かにより、
前記設備を診断することを特徴とする請求項1~3のいずれか記載の設備診断装置。
【請求項5】
診断対象の設備に複数のセンサを設置し、前記各センサの任意の時間幅の時系列データを計測データとして前記設備を診断する装置の実行する方法であって、
前記各センサの計測データに一定時間ごとの分布区間を設定し、設定された分布区間を事前設定の確率変数を示す階級数に分割し、前記各階級の計測値の個数に応じた確率分布に変換する確率分布変換ステップと、
前記確率分布変換ステップで変換された各センサの確率分布から同一時間の相互情報量を、式(3)を用いて算出する相互情報量変換ステップと、
【数3】
X(x):一方のセンサの確率変数X={x1,x2,...xn}の確率分布
Y(y):他方のセンサの確率変数Y={y1,y2,...yn}の確率分布
ただし、確率変数X=確率変数Y
I(X;Y):PX(x),PY(y)の相互情報量
XY(x,y):同時確率(一方のセンサのデータと他方のセンサのデータが同一のタイミングで、それぞれの階級に含まれる場合の相対度数)
前記相互情報量変換ステップで算出する相互情報量の相関変化に基づき前記設備を診断する診断ステップと、
を有することを特徴とする設備診断方法。
【請求項6】
前記確率分布から基準となる確率分布PX *(x)を生成し、
前記確率分布PX *(x)と同間隔で得られる前記各センサの確率分布PX(x),PY(y)から前記確率分布PX *(x)と同一の確率変数「X=Y={x1,x2,...xn}の比較対象となる確率分布PY(x)を取得し、
前記確率分布PX *(x),PY(x)から式(4)のKLD「Kullback-Leibler divergence/DKL(X||Y)」に変換するKLD変換ステップをさらに有し、
【数4】
前記診断ステップは、前記KLD変換ステップで変換されたKLDが散布図中の正常分布から離れた外れ値として検出されるか否かにより、
前記設備を診断することを特徴とする請求項5記載の設備診断方法。
【請求項7】
前記KLD変換ステップにおいて、さらに前記確率分布PX *(x)と前記PY(x)とを入れ替えて、式(5)のKLD「DKL(Y||X)」に変換する一方、
【数5】
前記診断ステップにおいて、式(4)(5)のKLDが共に散布図中の正常分布から離れた外れ値として検出されるか否かにより、
前記設備を診断することを特徴とする請求項6記載の設備診断方法。
【請求項8】
前記確率分布変換ステップで変換された各センサの確率分布を、式(1)(2)を用いて任意時間ごとのエントロピーに変換するエントロピー変換ステップを有し、
【数1】
【数2】
H(X):一方のセンサのエントロピー
H(Y):他方のセンサのエントロピー
前記診断ステップにおいて、前記各センサのエントロピーが閾値以上の変化を生じたか否かにより、
前記設備を診断することを特徴とする請求項5~7のいずれか記載の設備診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断対象の設備に設置した複数センサの計測データに基づき前記設備を診断する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電力や交通などの社会を支えるインフラストラクチャ設備は、その故障が社会に与えるインパクトが大きく計画外の停止を未然に防ぐことが必要とされている。また、工場における生産設備などにおいても、その故障が企業の生産活動に大きな影響を与えるおそれがある。
【0003】
これらの設備は経年劣化が進むとともに、少子高齢化に伴う人材不足や世界的な競争が進む中でコストの抑制などが要求されている。そのため、設備の故障や異常を早期に検出することを目的とした無人かつ遠隔監視が期待されている。
【0004】
そこで、設備の監視を24時間356日行うため、監視の対象となる設備に多くのセンサを取り付け、各センサの検知した多次元時系列信号に基づく診断技術が提案されている。
【0005】
例えば特許文献1では、振動センサで回転機の振動を計測し、計測の結果による診断が提案されている。また、特許文献2では、接地線に流れる電流を計測することで診断を実現している。これらの診断によれば、異常の予兆は振動や電流に現れ、それらを計測することで異常検知を可能としている。
【0006】
特許文献3では、異常の判断に用いる状態量(物理量)の種類を多くすれば、より正確に異常検知や故障予測が可能と提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-144054
【特許文献2】特開2021-50921
【特許文献3】特開2021-177074
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】”機械学習で用いられるDivergence(KL-Divergence)やらEntropy(Cross-Entropy)の世界へ入門する” [online] 2021年12月27日検索,インターネット<URL:https://qiita.com/harmegiddo/items/2a24a36418fade0eaf44>
【非特許文献2】赤穂昭太,”機械学習と微分幾何学”,数理科学,Vol.56,no.8,pp.14-19,Aug.2018
【非特許文献3】S.Kullback and R. A. Leibler,”On information and sufficiency Ann. Math. Statist” ,PP. :79-,1951
【非特許文献4】S.Amari and H.Nagaoka, ”Methods of Information Geometry” A co-publication of the AMS and Oxford University Press, 2000.
【非特許文献5】安食拓哉,中村雅美,前田俊二,小松尭,谷口哲 至,”KLD の双対性を用いた異常検知手法の提案”, 第 72 回電気・情報関連学会中国支部連合大会, 2021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、複数のセンサデータを用いる場合、計測する物理量が違えば、そのデータの特性(単位や統計量など)が変わるため、その関係性を把握することが難しくなり、相関分析が容易に行えないおそれがある。
【0010】
本発明は、センサデータ間の相関関係の評価に応じた診断を行うことで複数のセンサデータによる診断の容易化を図ることを解決課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明の一態様は、
診断対象の設備に複数のセンサを設置し、前記各センサの任意の時間幅の時系列データを計測データとして前記設備を診断する装置であって、
前記各センサの計測データに一定時間ごとの分布区間を設定し、設定された分布区間を事前設定の確率変数を示す階級数に分割し、前記各階級の計測値の個数に応じた確率分布に変換する確率分布変換部と、
前記確率分布変換部で変換された各センサの確率分布から同一時間の相互情報量を、式(3)を用いて算出する相互情報量変換部と、
【0012】
【数3】
【0013】
X(x):一方のセンサの確率変数X={x1,x2,...xn}の確率分布
Y(y):他方のセンサの確率変数Y={y1,y2,...yn}の確率分布
ただし、確率変数X=確率変数Y
I(X;Y):PX(x),PY(y)の相互情報量
XY(x,y):同時確率(一方のセンサのデータと他方のセンサのデータが同一のタイミングで、それぞれの階級に含まれる場合の相対度数)
を備え、
前記相互情報量変換部の算出する相互情報量の相関変化に基づき前記設備を診断することを特徴としている。
【0014】
(2)本発明の他の態様は、診断対象の設備に複数のセンサを設置し、前記各センサの任意の時間幅の時系列データを計測データとして前記設備を診断する装置の実行する方法であって、
前記各センサの計測データに一定時間ごとの分布区間を設定し、設定された分布区間を事前設定の確率変数を示す階級数に分割し、前記各階級の計測値の個数に応じた確率分布に変換する確率分布変換ステップと、
前記確率分布変換ステップで変換された各センサの確率分布から同一時間の相互情報量を、式(3)を用いて算出する相互情報量変換ステップと、
【0015】
【数3】
【0016】
X(x):一方のセンサの確率変数X={x1,x2,...xn}の確率分布
Y(y):他方のセンサの確率変数Y={y1,y2,...yn}の確率分布
ただし、確率変数X=確率変数Y
I(X;Y):PX(x),PY(y)の相互情報量
XY(x,y):同時確率(一方のセンサのデータと他方のセンサのデータが同一のタイミングで、それぞれの階級に含まれる場合の相対度数)
前記相互情報量変換部の算出する相互情報量の相関変化に基づき前記設備を診断する診断ステップと、
を有することを特徴としている。
【0017】
(3)前記各態様において、
前記確率分布から基準となる確率分布PX *(x)を生成し、
前記確率分布PX *(x)と同間隔で得られる前記各センサの確率分布PX(x),PY(y)から前記確率分布PX *(x)と同一の確率変数「X=Y={x1,x2,...xn}の比較対象となる確率分布PY(x)を取得し、
前記確率分布PX *(x),PY(x)から式(4)のKLD「Kullback-Leibler divergence/DKL(X||Y)」に変換し、
【0018】
【数4】
【0019】
前記変換されたKLDが散布図中の正常分布から離れた外れ値として検出されるか否かにより、前記設備を診断することもできる。
【0020】
このとき前記確率分布PX *(x)と前記PY(x)とを入れ替えて、式(5)のKLD「DKL(Y||X)」に変換し、
【0021】
【数5】
【0022】
式(4)(5)のKLDが共に散布図中の正常分布から離れた外れ値として検出されるか否かにより、前記設備を診断してもよい。
【0023】
(4)また、前記各態様において、
前記確率分布変換部で変換された各センサの確率分布を、式(1)(2)を用いて任意時間ごとのエントロピーに変換し、
【0024】
【数1】
【0025】
【数2】
【0026】
H(X):一方のセンサのエントロピー
H(Y):他方のセンサのエントロピー
前記各センサのエントロピーが閾値以上の変化を生じたか否かにより、前記設備を診断することもできる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、複数のセンサデータによる診断の容易化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】(a)は本発明の実施形態に係る設備診断システムの診断情報量(エントロピー)の概略図、(b)は相互情報量の概略図、(c)は「KLD」の概略図。
図2】同 診断方法の処理ステップを示す全体図。
図3】実施例による対象設備の診断状況を示す構成図。
図4】同 診断方法の処理ステップを示す全体図。
図5】(a)はセンサ12のセンサデータ図、(b)はセンサ13のセンサデータ図。
図6】(a)は確率分布変換部に入力されるセンサ12の時系列センサデータ図、(b)は(a)の時系列センサデータを確率分布に変換後に確率分布変換部から出力されるデータ図。
図7】(a)はエントロピー変換部に入力されるセンサ12の一定時間毎の確率分布を示すデータ図、(b)は(a)の確率分布をエントロピーに変換後にエントロピー変換部から出力されるデータ図。
図8】(a)は相互情報量変換部に入力されるセンサ12の確率分布を示すデータ図、(b)は同センサ13の確率分布を示すデータ図、(c)は(a)(b)の確率分布を相互情報量に変換後に相互情報変換部から出力されるデータ図。
図9】(a)はKLD変換部に入力される基準となる確率分布(センサ12)のデータ図、(b)は同比較対象の確率分布(センサ13)のデータ図、(c)は(a)(b)の確率分布から求めたKLD変換部の出力結果の外れ値検出図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態に係る設備診断装置(設備診断方法)を説明する。この診断装置は、診断対象の現象を物理量として数値(データ)化し、該数値を「平均・分散などの統計」で表す。これを情報の価値に変換し、情報の「めずらしさ」を診断の指標として用いる。
【0030】
具体的には前記診断装置は、診断対象の設備に付加された複数センサによる種々の単位を持つセンサデータを発生頻度に基づく確率分布として捉え、各センサデータから求めたエントロピーや相互情報量などに着目し、診断対象の異常/異常予兆の有無を診断する。
【0031】
このような複数のセンサデータに基づく評価手法として、非特許文献1の「JSD(Jensen-Shannon Divergence)」や非特許文献2の「Wasserstein」、非特許文献3~5のKLD「Kullback-Leibler divergence」などが提案されている。
【0032】
これに対して前記診断装置は、3つの情報量(エントロピー,相互情報量,KLD)を組み合わせることで「JSD」,「Wasserstein」,「KLD」単体で検出できなかった異常/異常予兆の検出を図る。
【0033】
すなわち、複数のセンサデータを用いる場合、それぞれのセンサデータが多様な変化をしており、単位も異なるため、その扱いが難しい。そこで、前記診断装置は、診断対象の設備に付加した種々のセンサから収集された異なる物理量のセンサデータを発生頻度に基づく確率分布に変換し、共通単位の情報量を示すエントロピーや相互情報量などに変換することで単位系を統一し、さらに統一された単位系のもとでセンサデータ間の相関評価を行って複数センサデータによる診断の容易化を図っている。
【0034】
(1)情報量
図1に基づき前記各情報量による診断の概略を説明する。
【0035】
A:図1(a)に示すように、各センサデータのエントロピー(平均情報量)Hを一定時間ごとに算出する。このとき算出されたエントロピーH毎の時間的変化に基づきそれぞれのセンサデータの状態異常を検出し、診断対象の異常/異常予兆の有無を診断する。ここでは設備の異常などをエントロピーHの変化として捉えることにより単位系の統一を図る。
【0036】
B:図1(b)に示すように、センサデータ間の相互情報量Iを一定時間ごとに算出する。算出された相互情報量Iによる相関から状態異常のセンサデータを検出し、診断対象の異常/異常予兆の有無を診断する。すなわち、センサデータ間の相互情報量を求めることにより正常時のセンサデータ間の従属性や正常から異常へと変化する際の関係性の時間的変化から設備を診断する。この診断は、物理量の影響を受けないため、安定的に検出することが可能である。
【0037】
C:図1(c)に示すように、事前に記録した基準の確率分布(基準データ)と診断対象の確率分布との「KLD」を一定時間毎に算出する。ここでは「KLD」の変化からセンサデータの異常を検出し、診断対象の異常/異常予兆の有無を診断する。このとき基準の確率分布と比較対象の確率分布とが同じセンサのセンサデータである必要はない。
【0038】
(2)診断手順
図2に基づき前記診断装置による診断手順(診断ステップ)の全体的な概略を説明する。まず診断対象の物理現象を数値化した情報、即ち診断対象のセンサ1,2によるセンサデータを取得する(S01)。
【0039】
つぎに取得した各センサデータを統計指標で表現するため、それぞれのセンサデータを確率分布「PX(x),PY(y)」に変換する(S02)。変換された確率分布「PX(x),PY(y)」を「情報の価値」の指標に表現する。
【0040】
ここでは確率分布「PX(x),PY(y)」を、
・エントロピーH(X),H(Y)
・相互情報量I(X;Y)
・KLD「2変量DKL(X||Y),DKL(Y||X)」
に変換する(S03~S05)。その後、S03~S05で変換された各情報の数値監視を行う(S06~S08)。
【0041】
すなわち、S06の「エントロピーHの監視(自己状態診断)」では、エントロピーHの数値上昇・数値低下を監視する。監視の結果、「数値上昇=ばらつき増大」・「数値低下=数値偏り増大」と認定し、診断対象に異常/異常予兆が発生したと判定する。
【0042】
また、S07の「相互情報量Iの数値監視」では、相互情報量Iについて「数値上昇=センサ1,2の関係性大」・「数値低下=同関係性小(独立)」と認定し、センサ1,2の関係性が崩れたか否かを監視する。監視の結果、前記関係性が崩れれば、診断対象に異常/異常予兆が発生したと判定する。
【0043】
さらにS08の「KLDの数値監視」では、前記2変量に分布変化が生じたか否かを監視する。監視の結果、分布変化が生じていれば、診断対象に異常/異常予兆が発生したと判定する。
【実施例0044】
図3図9に基づき前記診断装置の実施例を説明する。ここでは回転機を設備の一例として説明する。
【0045】
≪構成例≫
図3中の11は、診断対象の設備となる回転機を示している。この回転機11の軸受近傍には軸受振動(加速度)を計測する加速度センサ12が設置されている。
【0046】
また、回転機11のハウジング11aには、回転機11の電源電流や漏れ電流を計測する電流センサ13が設置されている。この両センサ12,13で計測された計測データ(センサデータ)は、記憶装置(例えばSSD,HDDなど)を備えたデータ計測器14に収集されて蓄積される。
【0047】
ここではデータ計測器14に設備診断装置10が接続され、収集・蓄積された計測データは設備診断装置10に入力される。この設備診断装置10は、入力された計測データに基づき確率分布の生成や前記各情報量(エントロピー・相互情報量・KLD)により回転機11を診断する。診断結果は、前記診断装置10に接続された図示省略の表示装置(モニタ)に表示することでユーザが確認可能となっている。
【0048】
具体的には前記診断装置10は、コンピュータにより構成され、コンピュータの通常のハードウェアリソース(例えばCPU,RAM・ROMの記憶装置等)を備える。
【0049】
このハードウェアリソースとソフトウェアリソース(OS,アプリケーション等)の協働の結果、前記診断装置10は図示省略の確率分布変換部・エントロピー変換部・相互情報量変換部・KLD変換部・監視部(診断部)を実装する。
【0050】
≪診断手順≫
図4に基づき実施例の診断手順(診断ステップ)を説明する。
【0051】
S11:センサ12,13は、診断対象の回転機11の物理情報(加速度・電流値)を連続的に計測する。ここで計測されたセンサデータはデータ計測器14に取り込まれる。
【0052】
このときデータ計測器14は、取り込まれた各センサデータを定期的に任意の時間幅の時系列データとして記録する。図5はセンサ12,13の時系列データ例を示し、1秒間を1回の計測として記録されている。ここではセンサ12,13の時系列データは、共にサンプリング周波数が「51,200Hz」であり、1秒で「51,200」サンプルのデータが記録される。
【0053】
これにより1秒ごとに診断用の時系列データがデータ計測器14に蓄積され、蓄積された時系列データが前記診断装置10に出力される。なお、図5中のD1は、センサ12の時系列データ(4.0~5.0)の異常(100Hz混入)を示している。
【0054】
S12:データ計測器14に蓄積されたセンサ12,13の時系列データが前記診断装置10に入力される。ここで入力された各時系列データに基づき確率分布変換部は一定時間毎の確率分布Pを生成(算出)する。このとき以下のパラメータを用意する。
【0055】
(1)分布区間[a,b]
分布区間[a,b]は、確率分布の範囲を決める値を示している。この範囲は、計測値の最大値から最小値よりも広い区間を設定することが望ましい。例えば図6(a)の時系列センサデータでは、計測値は「±0.3」に含まれる状態であり、分布区間[a,b]=[-0.4,0.4](±0.4)とされている。
【0056】
(2)階級数「n」
階級数「n」は、計測値をいくつかの区分に分けるときの分解能を決める値を示している。
【0057】
分布区間[a,b]に対して階級数「n」で分割し、小区間(以下、階級という)に分ける。例えば、分布区間[-0.4,0.4],階級数「n」=40であれば、階級の系列は、{[-0.4,-0.38],[-0.38,-0.36},...,[+0.38,+0.36]の40区分となる。
【0058】
そして、各階級に含まれる計測値の個数(以下、度数という)を求める。センサ12の計測値を一例に説明すれば、階級を「X={x1,x2,...,xn}」と置き、これを確率変数とする。このときセンサ12の確率分布PXは、各階級の度数をサンプルデータ数で除算した値で表される。
【0059】
例えば度数の序列{0,0,0,1,6,15,33,72,...,0},サンプルデータ数「51200」であれば、PX(x)={0,0,0,0,0.0001,0.0003,0.0006,0.0014,0.0031,0.0055,...,0}となり、図6(b)中のD2に示す確率分布PX(x)が得られる。
【0060】
同様な処理をセンサ13の計測値に施すことで同センサ13の確率分布PY(y)が得られる。このようなS12の処理は、S11の処理が行われる度に各センサ12,13のセンサデータに対して実行される。
【0061】
そして、前述のように1秒間を1回の計測としてセンサデータを収集していることから、1秒毎に最新の確率分布PX(x),PY(y)が算出される。ここで算出された確率分布PX(x),PY(y)は、記憶装置(HDD,SSDなど)に蓄積されるとともに、エントロピー変換部・相互情報量変換部・KLD変換部に出力される。
【0062】
S13:エントロピー変換部は、確率分布PX(x),PY(y)が入力される度に各センサ12,13のセンサデータについて、エントロピーHを一定時間毎に算出する。
【0063】
図7(a)に示すセンサ12の確率分布PX(x)についてエントロピーH(X)を算出すると、図7(b)に示す出力結果が得られる。このとき確率変数X={x1,x2,...,xn}からなる確率分布をPX(x)とすると、エントロピーH(X)は、式(1)から求めることができる。
【0064】
【数1】
【0065】
同様にセンサ13の確率分布PY(y)についてエントロピーH(Y)を算出する。このとき確率変数Y={y1,y2,...,yn}からなる確率分布をPY(y)とすると、エントロピーH(Y)は、式(2)から求めることができる。
【0066】
【数2】
【0067】
ただし、センサ12,13のセンサデータにおいて同一の確率変数を用いてエントロピーHを求めることとする(確率変数X=確率変数Y)。この点で単位系の統一を図ることができる。
【0068】
S14:監視部は、S13で算出されるエントロピーH(X),H(Y)の数値変化を監視し、エントロピーH(X),H(Y)が算出される度に異常/異常予兆の有無を診断する。この診断は、エントロピーH(X),H(Y)毎に行われ、事前に設定された閾値に基づき行われる。この閾値は、経験的に得られた変化幅に基づき定められる。
【0069】
図7(b)のD3(5秒後のエントロピーH(X))は、確率分布D2から算出されたエントロピーH(X)が閾値を超えた状態を示している。ここでは4秒後からエントロピーH(X)が増大したため、5秒後に通常とは異なる値を示して閾値を超えた。この場合には回転機11に異常/異常予兆ありと診断され、診断結果が表示装置に表示される。なお、閾値は異常/異常予兆毎に段階的に設定し、異常/異常予兆毎に表示装置に表示することもできる。
【0070】
S15:相互情報変換部は、S12の確率分布PX(x),PY(y)が入力される度に確率分布PX(x),PY(y)から同一時間の相互情報量Iを算出する。例えば図8(a)(b)の確率分布PX(x),PY(y)から1秒毎の相互情報量Iを求めると図8(c)の出力結果が得られる。
【0071】
ここで確率変数X={x1,x2,...,xn},確率変数Y={y1,y2,...,yn}の確率分布をPX(x),PY(y)とすると相互情報量I(X;Y)は、式(3)から求めるられる。
【0072】
【数3】
【0073】
式(3)中のPXY(x,y)は同時確率を表している。この同時確率は、センサ12,13のセンサデータが同一のタイミングで、それぞれの階級に含まれる場合の相対度数を示している。
【0074】
例えば確率変数X=Yとし、階級x1=y1=[-0.4,-0.38]の同時確率PXY(x1,y1)を求める場合を想定する。この場合、時間「t=0.1」秒でのみ2つの計測値がそれぞれ「-0.39」,「-0.385」であれば度数は「1」であり、サンプルデータ数で除算した値が同時確率PXY(x1,y1)となる。
【0075】
S16:監視部は、S15で算出される相互情報量I(X;Y)の数値変化を監視し、相互情報量I(X;Y)が算出される度に異常/異常予兆の有無を診断する。
【0076】
ここでは相互情報量I(X;Y)の数値変化が事前に設定された閾値を超えた場合にセンサ12,13のセンサデータ間の相互関係が崩れ、いずれかのセンサデータに異常が発生したものと判定する。この閾値も、経験的に得られた変化幅に基づき定められる。
【0077】
例えば図8(c)の出力結果によれば、確率変数X=Yとして相互情報量I(X;Y)を求めた結果、相互情報量Iは4秒までは大きな変化はなかったものの、4秒後から数値が上昇している。
【0078】
ここでは図8(c)中のD5に示すように、5秒後に閾値を超える変化量が認められたため、いずれかのセンサデータの異常発生が検出される。この検出をもって回転機11に異常/異常予兆ありと診断し、診断結果が表示装置に表示される。なお、閾値は異常/異常予兆毎に段階的に設定し、異常/異常予兆毎に表示装置に表示することもできる。
【0079】
S17:KLD変換部は、非特許文献3~5のKLDを用いてセンサ12,13のセンサデータを評価する。具体的にはKLD変換部は、事前にデータ計測器14に蓄積された過去の確率分布から基準となる確率分布を生成し、これを記録して入力とする。ここでは図9(a)に示すように、センサ12の過去の分布から基準の確率分布PX *(x)を生成した場合を説明する。
【0080】
この場合、図9(b)に示すように、確率分布PX *(x)と同様に1秒間隔で得られる比較対象となる確率分布PY(x)を取得する。このとき確率分布PY(x)は異なるセンサの確率分布だけでなく、確率分布PX *(x)と同一センサの確率分布も用いる。
【0081】
そして、取得した確率分布PY(x)と基準となる確率分布PX *(x)とをもとにKLDを求める。図9(c)は、確率分布PX *(x)と異なるセンサの確率分布として、センサ13の確率分布PY(x)を比較対象とした状態を表している。
【0082】
このときPY(x)は、PX *(x)と同一の確率変数、即ち確率変数「X=Y={x1,x2,...xn}={y1,y2,...yn}」からなるセンサ13の確率分布とする。そのため、PY(x)は、S12,S13のPY(y)と実質的に同一であり、確率分布変換部から出力されたセンサ13の確率分布PY(x)を入力として、そのまま用いることができる。そして、まず式(4)により「KLD(DKL(X||Y))」を求める。
【0083】
【数4】
【0084】
つぎにKLDは非対称性を有し別の値を示す。これにより確率分布の組PX *(x),PY(x)から2変量を得ることができる。KLDの非対称性を相殺しようとした非特許文献1のJSDは、確率分布の組から1つの数値しか得ることしかできず、KLDに対して相対的に少ない情報で診断になる。本実施例は、KLDの非対称性を診断に利用することで、豊富な情報に基づく診断が可能となる。また、非特許文献2の「Wasserstein」距離に比べて豊富な情報を元に診断が可能となる。ここでは式(4)と確率分布を入れ替えた「KLD(DKL(Y||X))」を、式(5)により求める。
【0085】
【数5】
【0086】
これにより図9(c)の出力結果、即ち2変量「DKL(X||Y),DKL(Y||X)」が得られる。また、PX *(x)と同一センサの確率分布として、センサ12の確率分布PX(x)を比較対象の確率分布PY(x)に置き換えて同様な処理を実行する。
【0087】
なお、本実施例では一例としてセンサ12を対象とし、図9(a)に示す1秒後の確率分布を基準にKLDを求めているが、センサ13を対象に基準の確率分布とすることもできる。この場合には、センサ13の過去の確率分布から生成した基準の確率分布をPX *(x)と読み替えるとともに、センサ12,13の確率分布を比較対象の確率分布PY(x)と読み替えればよい。
【0088】
S18:監視部は、S17で算出された前記各2変量を監視し、前記各2変量の正常分布からの逸脱を基準に回転機11を診断する。正常分布は、事前に回転機11の正常運転時にS11,S12,S17を実行しておき、前記2変量の値から求めておくものとする。
【0089】
図9(c)中のD6は正常分布を示し、D7は前記2変量を示している。ここでは前記2変量D7は、正常分布D6からの外れ値として検出されるため、異常状態と認定される。これにより回転機11に異常/異常予兆ありと診断され、診断結果が表示装置に表示される。この外れ値検出は、正常分布から閾値以上離れたか否かにより行うことができ、また閾値を異常/異常予兆毎に段階的に定めることができる。
【0090】
このような設備診断によれば、センサ12,13により収集されたセンサデータ間を同一の確率変数によるエントロピーの変化により診断し、さらに相互情報量の変化量・KLDの外れ値検出により相関評価することが可能となる。これにより複数のセンサデータによる診断の容易化を図ることができる。
【0091】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載された範囲内で変形して実施することができる。例えばセンサは、加速度センサ12,電流センサ13に限定されることなく、他のセンサ(レベルセンサ,流量計など)を用いてもよい。また、エントロピーHによるセンサ独自毎の診断も必ずしも行う必要はなく、さらにKLDの非対称性を用いない診断も可能である。
【符号の説明】
【0092】
9…設備診断システム
10…設備診断装置
11…回転機(設備)
12…加速度センサ
13…電流センサ
14…データ計測器
図1
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