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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102658
(43)【公開日】2023-07-25
(54)【発明の名称】細胞外小胞低減システム
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/34 20060101AFI20230718BHJP
   A61K 35/16 20150101ALI20230718BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20230718BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20230718BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20230718BHJP
   B01D 71/40 20060101ALI20230718BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20230718BHJP
   A61K 45/00 20060101ALN20230718BHJP
【FI】
A61M1/34 100
A61K35/16 A
A61K35/16 Z
B01D69/00
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/40
A61P35/00
A61K45/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003302
(22)【出願日】2022-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(71)【出願人】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松阪 諭
(72)【発明者】
【氏名】久野村 駿
(72)【発明者】
【氏名】平山 佑介
(72)【発明者】
【氏名】宮本 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】小山 伸也
【テーマコード(参考)】
4C077
4C084
4C087
4D006
【Fターム(参考)】
4C077AA07
4C077BB02
4C077KK13
4C077LL05
4C077LL17
4C077NN14
4C077PP10
4C084AA17
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZB262
4C087AA02
4C087BB34
4C087CA04
4C087DA07
4C087DA15
4C087NA20
4D006GA06
4D006HA02
4D006KA01
4D006KB20
4D006MA01
4D006MA09
4D006MA22
4D006MB01
4D006MC37X
4D006MC63X
4D006MC87
4D006MC88
4D006NA01
4D006NA46
4D006PA01
4D006PB09
4D006PC41
(57)【要約】
【課題】本発明は、血液などから細胞外小胞を効率的に分離することができる分離材を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る細胞外小胞低減システムは、患者から血液を抜き出して細胞外小胞分離材へ供給する経路、前記細胞外小胞分離材により分離された細胞外小胞含有血漿を排出する経路、前記細胞外小胞分離材により少なくとも一部の細胞外小胞含有血漿が分離された濃縮血液に血漿を補充する経路、および血漿を補充された濃縮血液を患者に返送する経路を有し、前記細胞外小胞分離材の、バブルポイント法で測定した最大孔径が100nm以上、400nm以下であり、前記細胞外小胞分離材の、バブルポイント法で測定した平均孔径が50nm以上、200nm以下であり、前記細胞外小胞分離材が、コーティング層を有するポリマー糸で構成されており、前記コーティング層が、アルキル(メタ)アクリレート単位およびアルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単位を含む水不溶性(メタ)アクリレート共重合体で構成されていることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者から血液を抜き出して細胞外小胞分離材へ供給する経路、前記細胞外小胞分離材により分離された細胞外小胞含有血漿を排出する経路、前記細胞外小胞分離材により少なくとも一部の細胞外小胞含有血漿が分離された濃縮血液に血漿を補充する経路、および血漿を補充された濃縮血液を患者に返送する経路を有し、
前記細胞外小胞分離材の、バブルポイント法で測定した最大孔径が100nm以上、400nm以下であり、
前記細胞外小胞分離材の、バブルポイント法で測定した平均孔径が50nm以上、200nm以下であり、
前記細胞外小胞分離材が、コーティング層を有するポリマー糸で構成されており、
前記コーティング層が、アルキル(メタ)アクリレート単位およびアルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単位を含む水不溶性(メタ)アクリレート共重合体で構成されていることを特徴とする細胞外小胞低減システム。
【請求項2】
更に、抗腫瘍剤を供給する経路を有する請求項1に記載の細胞外小胞低減システム。
【請求項3】
前記アルキル(メタ)アクリレート単位が、下記式(I)で表されるものである請求項1または2に記載の細胞外小胞低減システム。
【化1】
[式中、R1はC2-30アルキル基またはC6-12アリール-C1-6アルキル基を示し、R2はHまたはメチル基を示す。]
【請求項4】
前記アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単位が、下記式(II)で表されるものである請求項1~3のいずれかに記載の細胞外小胞低減システム。
【化2】
[式中、R3はHまたはC1-6アルキル基を示し、R4はHまたはメチル基を示し、nは1以上、1000以下の整数を示す。]
【請求項5】
前記水不溶性(メタ)アクリレート共重合体における前記アルキル(メタ)アクリレート単位と前記アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単位の共重合比アルキル(メタ)アクリレート単位:アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単位が0.5~0.9:0.1~0.5である請求項1~4のいずれかに記載の細胞外小胞低減システム。
【請求項6】
前記ポリマー糸がポリアリールスルホン系ポリマーで構成されている請求項1~5のいずれかに記載の細胞外小胞低減システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液などから細胞外小胞を効率的に分離することができる細胞外小胞低減システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エクソソームは細胞外小胞の一種であり、様々な細胞が分泌する直径30~200nm程度の膜小胞であり、分泌細胞由来の脂質二重膜で囲まれ、様々なタンパク質やRNA等を含む。細胞外小胞は、長年、不要な細胞内容物の放出に関与すると考えられていたが、mRNAやmiRNA等の核酸物質が細胞外小胞を介して他の細胞へと受け渡されている可能性が示され、新たな細胞間情報伝達媒体として注目されている。特にがん細胞は、細胞増殖、免疫抑制、転移などのために、細胞間情報伝達媒体として細胞外小胞を放出することが明らかにされている。
【0003】
細胞外小胞を構成する脂質二重膜には、分泌細胞の脂質二重膜由来の膜タンパク質が含まれていることがある。よって、膜タンパク質をターゲットとする抗体医薬品が血中の細胞外小胞と反応することにより、がん細胞に対する抗体医薬品の作用が阻害されるおそれがある。例えば非特許文献1には、HER2過剰発現がん細胞株であるSKBR3およびBT474によって放出された細胞外小胞が、抗HER2抗体医薬品の治療活性を阻害することが記載されている。
【0004】
そこで、細胞外小胞を捕捉する技術が検討されている。例えば特許文献1には、細胞外小胞に微粒子を結合させて結合体を得、当該結合体を基板上に捕捉する方法が記載されている。しかし当該方法では、細胞外小胞が第1~3の検出対象物質を有することと、捕捉前からこれらの検出対象物質を特定すること、また、第1~3の検出対象物質と結合する第1~3の結合物質が必要であり、当該方法は決して簡便なものではない。
【0005】
特許文献2には、孔径が40nm以上150nm以下のサイズ除去ろ過用多孔膜を用いて血漿をろ過することにより、50nm以上、1.5μm以下の微粒子を除去する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-40595号公報
【特許文献2】特開2015-231523号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Valentina Ciravoloら,J.Cell Physiol.,2012,227(2),pp.658-667
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、多孔膜を使って血漿から微粒子を除去する方法が特許文献2に記載されている。
しかし本発明者らは、特許文献2の実施例で実際に使用されている再生セルロースからなる多孔膜は、細胞外小胞の除去性能が十分でないことを明らかにした。
そこで本発明は、血液などから細胞外小胞を効率的に分離することができる分離材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、特定サイズの孔径を有し、水不溶性(メタ)アクリレート共重合体でコーティングされた分離材を用いれば、溶血を抑制しつつ細胞外小胞を効率的に分離できるシステムを構築できることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0010】
[1] 患者から血液を抜き出して細胞外小胞分離材へ供給する経路、前記細胞外小胞分離材により分離された細胞外小胞含有血漿を排出する経路、前記細胞外小胞分離材により少なくとも一部の細胞外小胞含有血漿が分離された濃縮血液に血漿を補充する経路、および血漿を補充された濃縮血液を患者に返送する経路を有し、
前記細胞外小胞分離材の、バブルポイント法で測定した最大孔径が100nm以上、400nm以下であり、
前記細胞外小胞分離材の、バブルポイント法で測定した平均孔径が50nm以上、200nm以下であり、
前記細胞外小胞分離材が、コーティング層を有するポリマー糸で構成されており、
前記コーティング層が、アルキル(メタ)アクリレート単位およびアルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単位を含む水不溶性(メタ)アクリレート共重合体で構成されていることを特徴とする細胞外小胞低減システム。
【0011】
[2] 更に、抗腫瘍剤を供給する経路を有する前記[1]に記載の細胞外小胞低減システム。
【0012】
[3] 前記アルキル(メタ)アクリレート単位が、下記式(I)で表されるものである前記[1]または[2]に記載の細胞外小胞低減システム。
【化1】
[式中、R1はC2-30アルキル基またはC6-12アリール-C1-6アルキル基を示し、R2はHまたはメチル基を示す。]
【0013】
[4] 前記アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単位が、下記式(II)で表されるものである前記[1]~[3]のいずれかに記載の細胞外小胞低減システム。
【化2】
[式中、R3はHまたはC1-6アルキル基を示し、R4はHまたはメチル基を示し、nは1以上、1000以下の整数を示す。]
【0014】
[5] 前記水不溶性(メタ)アクリレート共重合体における前記アルキル(メタ)アクリレート単位と前記アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単位の共重合比アルキル(メタ)アクリレート単位:アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単位が0.5~0.9:0.1~0.5である前記[1]~[4]のいずれかに記載の細胞外小胞低減システム。
【0015】
[6] 前記ポリマー糸がポリアリールスルホン系ポリマーで構成されている前記[1]~[5]のいずれかに記載の細胞外小胞低減システム。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る細胞外小胞低減システムは、細胞外小胞の分離性能に極めて優れている。よって、例えば、本発明に係る細胞外小胞低減システムによりがん患者の血液を処理して細胞外小胞の量を低減することにより、細胞外小胞による抗体医薬品の作用効果の低減が抑制され得る。また、抗体医薬品候補の探索のためのin vitro実験において、本発明に係る細胞外小胞低減システムを使ってがん細胞の培養液や培養上清から細胞外小胞を除去または低減することにより、抗体医薬品候補の活性をより正確に評価することが可能になり得る。よって、本発明に係る細胞外小胞低減システムは、近年、注目されている細胞外小胞による悪影響を低減できるものとして、産業上非常に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明に係る細胞外小胞低減システムの一例を示す模式図である。
図2図2は、本発明に係る細胞外小胞低減システムの一例を示す模式図である。
図3図3は、抗がん剤投与のみ、および抗がん剤投与と血漿交換との組み合わせによる、経過日数と胃がん由来細胞株NCI-N87担がんラットの腫瘍体積との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る細胞外小胞低減システムは、患者から血液を抜き出して細胞外小胞分離材へ供給する経路、前記細胞外小胞分離材により分離された細胞外小胞含有血漿を排出する経路、前記細胞外小胞分離材により少なくとも一部の細胞外小胞含有血漿が分離された濃縮血液に血漿を補充する経路、および血漿を補充された濃縮血液を患者に返送する経路を有する。
【0019】
患者から血液を抜き出して細胞外小胞分離材へ供給する経路は、患者から抜き出した血液を細胞外小胞分離材へ供給するための経路である。
【0020】
患者は、血液中の細胞外小胞の濃度を低減する必要があれば特に制限されず、またヒトに限定されず、イヌやネコ等の愛玩動物;ウシ、ブタ、ニワトリ、ウマ等の家畜などであってもよい。
【0021】
細胞外小胞とは、細胞から放出される、脂質二重膜で囲まれた粒子であって、核を有さないことから複製されることができないものをいい、主にエクソソーム、マイクロベシクル、アポトーシス小胞に分類される。エクソソームは、50~150nm程度のサイズのエンドサイトーシス過程で形成されるエンドソーム膜由来の小胞であり、主に脂質、タンパク質、および核酸で構成されている。マイクロベシクルは100~1,000nmと幅広いサイズの小胞であり、細胞膜から直接出芽して細胞外へと分泌される点がエクソソームと異なるが、エクソソームと完全に区別することは難しい。アポトーシス小胞は、アポトーシスを起こした細胞が膜から出芽される粒子であり、マイクロメートルオーダーのサイズを有する。細胞外小胞は、親細胞の細胞膜と同様の構成を有し、親細胞の細胞膜に存在した膜タンパク質をそのまま有することがある。その結果、例えばがん細胞の膜タンパク質をターゲットとする抗体医薬は、細胞外小胞にも結合し、薬効が十分に発揮されない可能性がある。それに対して、本発明に係る細胞外小胞低減システムにより血液中の細胞外小胞の濃度を低減すれば、抗体医薬の薬効をより確実に発揮せしめることが可能になると考えられる。
【0022】
患者から血液を抜き出して細胞外小胞分離材へ供給する経路の患者側末端には、患者の血管から血液を抜き出すための留置針を設ける。患者から十分量の血液を抜き出すためには、患者には、シャント等のバスキュラーアクセスを設けてもよい。また、当該経路には、患者から血液を抜き出すためのポンプを設ける。当該ポンプの流量は、患者により適宜調整すればよいが、例えば、150mL/分以上、250mL/分以下とすることができる。
【0023】
細胞外小胞分離材は、適切な孔径を有することにより、血球など比較的大きい血液成分から細胞外小胞を分離するものである。
【0024】
本発明に係る細胞外小胞の分離材のバブルポイント法で測定した最大孔径は100nm以上、400nm以下であり、バブルポイント法で測定した平均孔径は50nm以上、200nm以下である。
【0025】
本発明に係る分離材をイソプロピルアルコールに浸漬し、分離材の下側から空気の圧力を上げていくと、最大孔径の孔から最初に気泡が発生する。このときの圧力をバブルポイント圧力といい、下記式から最大孔径が求められる。
最大孔径(μm)=(4γcosθ)/P
[式中、γは溶媒の表面張力(N/m)を示し、θは分離材と溶媒との接触角(°)を示し、Pはバブルポイント圧力(Pa)を示す。なお、イソプロピルアルコールの表面張力γは20.8N/mであり、本発明の分離材とイソプロピルアルコールとの接触角は0°とする。]
【0026】
バブルポイント法によって、分離材の平均孔径も求められる(ASTM F316-86)。具体的には、バブルポイント圧力よりも高い圧力下では、最大孔径よりも小さい孔径の孔からも気泡が発生する。先ず、乾燥した分離材での空気圧とガス透過流束とをプロットした直線を得る。次に、表面張力の低い液体、例えば界面活性剤溶液に分離材を浸漬させ、同様に空気圧とガス透過流速とをプロットして曲線を得る。乾燥分離材における1/2ガス透過流束直線と、湿潤分離材のガス透過流束曲線との交点における圧力をバブルポイント圧力とする孔径を、平均孔径とする。本発明においては、多孔質材料自動細孔径分布測定システムであるPMI社製のパームポロメーターCFP-1200AEXを用いて平均孔径を測定することができ、また、上記界面活性剤溶液として、孔構造測定用のフッ素系界面活性剤溶液であるPorous Materials社製のGalWickを用いることができる。
【0027】
分離材の最大孔径としては、150nm以上が好ましく、200nm以上がより好ましく、また、350nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましい。
【0028】
本発明に係る分離材は、コーティング層を有するポリマー糸で構成されている。当該ポリマー糸を構成するポリマーとしては、紡糸成形が容易で、血液などの処理に十分な耐久性や強度を有するものが好ましく、例えば、ポリアリールスルホン(PAS)系ポリマーが好ましい。
【0029】
PAS系ポリマーは、スルホン結合を有する芳香族ポリマーの総称である。具体的には、下記式(III)および下記式(IV)で表される繰り返し単位を持つポリスルホンおよびポリエーテルスルホンが、親水性高分子であるポリビニルピロリドン(PVP)と相溶でき、また入手も容易なため好ましい。
【0030】
【化3】
【0031】
【化4】
【0032】
上記ポリマーには、ポリマー糸の親水性を高めて、細胞外小胞を含む液体試料の溶媒である水への濡れ性を改善するために、親水性高分子を配合することが好ましい。かかる親水性高分子としては、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)が挙げられる。PVPは、一般的に、下記式(V)で表される繰り返し単位を有する。PVPの分子量としては、重量平均分子量で10,000以上、1,500,000以下のものを用いることができる。例えば、BASF社製の重量平均分子量9,000(K17)、45,000(K30)、450,000(K60)、900,000(K80)、1,200,000(K90)のPVPを用いることができる。
【0033】
【化5】
【0034】
ポリマー糸は、織布または不織布に成形してもよいが、細胞外小胞を分離する目的により、その孔を非常に微細にする必要があることから、中空糸膜とすることが好ましい。
【0035】
中空糸膜は、非溶媒誘起分離法や熱誘起相分離法などの常法により作製することができる。具体的には、先ず、ポリマー糸の原料ポリマーを溶媒に溶解した後、非溶媒を添加して紡糸原液を調製する。本発明において溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、およびジメチルアセトアミドから選択される1以上の溶媒を用いることができる。本発明において非溶媒としては、例えば、水、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、およびテトラエチレングリコールから選択される1以上の非溶媒を用いることができ、非溶媒による相分離により、微細な孔を形成する。熱誘起相分離法では、非溶媒を用いずに、高温で均一なポリマー溶液を調製し、製膜後に冷却して相分離を起こすことにより多孔構造を形成する。非溶媒誘起分離法においても、比較的高温でポリマー溶液を調製してもよい。次に、紡糸原液を二重管ノズルのスリット部から吐出し、中心部から芯液を同時に吐出し、エアギャップを経て凝固浴中に浸漬することで中空糸膜を得ることができる。
【0036】
本発明に係る分離材は、コーティング層を有するポリマー糸で構成されており、当該コーティング層は、アルキル(メタ)アクリレート単位およびアルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単位を含む水不溶性(メタ)アクリレート共重合体で構成されている。分離材が水不溶性(メタ)アクリレート共重合体でコーティングされていることにより、分離材の細胞外小胞に対する捕捉能や除去率が顕著に高まる。また、水不溶性(メタ)アクリレート共重合体は、生体適合性にも優れ、溶血性も低いため、血液などの処理に適する。
【0037】
本開示において(メタ)アクリレート共重合体が水不溶性であるとは、(メタ)アクリレート共重合体に対して100倍質量の37℃生理食塩水を加えて30日間静置した場合に該共重合体の重量減少率が1質量%以下であることをいう。水不溶性であることにより、血液などと接触した場合にも、該共重合体の血液などへの溶出をより確実に抑制することができる。
【0038】
上記アルキル(メタ)アクリレート単位としては、上記式(I)で表されるものが好ましく、上記アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単位としては、上記式(II)で表されるものが好ましい。
【0039】
本開示において「C2-30アルキル基」は、炭素数2以上、30以下の直鎖状または分枝鎖状の一価飽和脂肪族炭化水素基をいい、環状炭化水素基が含まれていてもよい。例えば、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、2-メチルヘキシル、2-エチルヘキシル、n-オクチル、n-デシル、n-ドデシル、n-テトラデシル、n-イコシル、n-トリアコンチル等が挙げられる。好ましくはC4-20アルキル基であり、より好ましくはC6-16アルキル基であり、より更に好ましくはC8-14アルキル基である。
【0040】
「C6-12アリール基」とは、炭素数が6以上、12以下の一価芳香族炭化水素基をいう。例えば、フェニル、ナフチル、インデニル、ビフェニル等であり、好ましくはフェニルである。
【0041】
「C1-6アルキル基」は、炭素数1以上、6以下の直鎖状または分枝鎖状の一価飽和脂肪族炭化水素基をいう。例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル等である。好ましくはC1-4アルキル基であり、より好ましくはC1-2アルキル基であり、より更に好ましくはメチルである。
【0042】
上記アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単位におけるポリエチレングリコールの重合度nとしては、2以上が好ましく、3以上がより好ましく、また、500以下または200以下が好ましく、100以下または50以下がより好ましく、30以下、20以下、10以下または5以下がより更に好ましい。
【0043】
水不溶性(メタ)アクリレート共重合体におけるアルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単位の割合は適宜調整すればよいが、例えば、共重合比アルキル(メタ)アクリレート単位:アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単位としては0.5~0.9:0.1~0.5が好ましい。当該数値範囲内におけるアルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単位により生体適合性や低溶血性がより確実に得られ、また、アルキル(メタ)アクリレート単位により、共重合体の水不溶性がより確実に得られる。なお、上記共重合比は、共重合体を1H NMRで分析し、各単位に特徴的なピーク、例えばアルキル(メタ)アクリレート単位のエステル基中のアルキル基のピークと、アルコキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート単位の末端アルコキシ基のピークの面積から求めることができる。
【0044】
上記共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体およびグラフト共重合体のいずれであってもよい。また、本発明の共重合体を製造するための共重合反応自体には特別の制限はなく、ラジカル重合、イオン重合、光重合、マクロマーを利用した重合などの公知の方法を用いることができる。通常の共重合反応によれば、上記共重合体はランダム共重合体であると考えられる。
【0045】
コーティング方法は特に制限されず、常法を用いればよいが、例えば、上記共重合体を有機溶媒に溶解し、得られた溶液を上記ポリマー糸に塗布した後、乾燥すればよい。上記溶液に用いられる有機溶媒としては、細胞外小胞の分離という目的に適した低毒性のものが好ましく、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロパノール等のアルコール系溶媒;アセトン等のケトン系溶媒;n-ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素溶媒;テトラヒドロフラン、1、4-ジオキサン等のエーテル系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド系溶媒が挙げられ、この中でも特に低毒性であり、沸点が低く、コーティング後の乾燥が容易なアルコール系溶媒がより好ましく、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールがより更に好ましい。溶液の塗布方法は特に制限されず、例えば、スプレーしたり浸漬してもよいが、上記ポリマー糸を中空糸膜、織布、不織布など分離材に成形した上で溶液を通液してもよい。
【0046】
細胞外小胞分離材により分離された細胞外小胞含有血漿を排出する経路は、細胞外小胞分離材の血液流路と反対側に結合されており、細胞外小胞分離材を透過した、細胞外小胞を含む比較的小さな成分を排出するための経路である。
【0047】
細胞外小胞分離材を透過する成分は、細胞外小胞分離材の孔径にもよるが、細胞外小胞の他、例えば、アルブミン、フィブリノーゲン、免疫グロブリン等のタンパク質;カルシウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、鉄イオン、銅イオン、リンイオン等の無機イオン;グルコース等の糖類;トリグリセライド、コレステロール等の脂質などが挙げられる。
【0048】
当該経路には、細胞外小胞分離材を透過した血漿を排出するためのポンプを設ける。当該ポンプの流量は、患者や、細胞外小胞分離材を透過する血漿の流量などにより適宜調整すればよい。
【0049】
本発明では、細胞外小胞分離材の孔径に応じて、細胞外小胞の少なくとも一部を血液から分離するため、細胞外小胞より小さい血漿成分の少なくとも一部も細胞外小胞と共に血液から分離される。そこで、細胞外小胞分離材により少なくとも一部の細胞外小胞含有血漿が分離された濃縮血液に血漿を補充する経路により、必要な血漿を濃縮血液に添加する。
【0050】
補充する血漿の組成は、細胞外小胞分離材から分離された血漿の組成と同一であっても、異なっていてもよい。例えば、細胞外小胞分離材から分離された血漿の組成に対して、糖尿病患者には補充用血漿のグルコース濃度を低減してもよいし、高脂血症患者には補充用血漿の脂質濃度を低減してもよい。
【0051】
当該経路には、濃縮血液に血漿を補充するためのポンプを設ける。当該ポンプの流量は、患者へ返送する血液の成分組成が適切になるよう適宜調整すればよい。
【0052】
本発明に係る細胞外小胞低減システムは、血漿を補充された濃縮血液を患者に返送する経路を有する。当該経路の患者側末端は、一般的に針により患者の静脈に当該血液を返送する。
【0053】
患者に返送される血液において、細胞外小胞の濃度は低減されている。よって、細胞外小胞を原因とする抗腫瘍剤の効果低下を抑制することができる。よって、本発明に係る細胞外小胞低減システムには、更に、抗腫瘍剤を供給する経路を設けてもよい。また、かかる作用効果が発揮されるメカニズムより、抗腫瘍剤としては抗体医薬が好ましい。
【実施例0054】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0055】
比較例1
(1)紡糸原液の調製
PAS系ポリマーとしてポリエーテルスルホン(「6020P」BASF社製)を17.0質量%、PVP(「コリドンK-30」BASF社製)を10.0質量%、溶媒としてNMP(三菱化学社製)32.85質量%、非溶媒としてTEG(三菱化学社製)40.15質量%を60℃で混練、溶解し、紡糸原液を調製した。
【0056】
(2)中空糸膜の製造
得られた紡糸原液を60℃に加温し、二重管ノズルから芯液とともに吐出させ、紡糸管により外気と遮断された40mmのエアギャップを通過後、凝固液としてNMP33.3質量%、TEG40.7質量%、RO水26.0質量%の混合液を用い、温度68℃に加温した凝固液に紡糸原液を導入して凝固させ、水洗浴を通過させた後に綛で捲き上げることにより、中空糸膜を得た。得られた乾燥中空糸膜の内径は250μm、膜厚は75μmであった。
【0057】
(3)中空糸膜モジュールの作製
中空糸膜を約10cmの長さに切断し、表1に示す本数を束ね、ポリエチレンフィルムで巻いて中空糸膜束とした。この中空糸膜束を円筒型のポリカーボネート製筒状容器に挿入し、両末端をウレタンポッティング剤で固めた。端部を切断して、両末端が開口したモジュールを得た。中空糸膜の本数は、適宜設定した。なお、円筒状の筒状容器は円筒面2箇所にポートを設け、中空糸膜の外面を流体が灌流できるようにし、両末端にはヘッダーを装着して、中空糸膜の内面を流体が灌流できるようにした。
【0058】
(4)ループ型ミニモジュールの作製
中空糸膜をループ型に束ね、端部をパラフィンフィルムで固定した。このループ型中空糸膜束の端部をパイプ(スリーブ)に挿入し、パラフィンフィルム又はウレタンポッティング剤で固めた。端部を切断して、端部がスリーブで固定されたループ型ミニモジュールを得た。中空糸膜の本数、長さは適宜設定した。
【0059】
実施例1
メトキシトリエチレングリコールアクリレート(MTEGA)151.0gおよび2-エチルヘキシルアクリレート(EHA)297.0gにアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.445gを加えて、酢酸エチル1800g中で80℃、20時間の条件で重合反応を行った。重合反応終了後、反応液をメタノールに滴下して沈殿させ、生成物を単離した。生成物をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ、メタノールに滴下する操作を2回行って精製した後、一昼夜60℃にて減圧乾燥することにより、目的とする(メタ)アクリレート共重合体を得た。疎水性部(EHA)と親水性部(MTEGA)の共重合比は0.68:0.32であった。ポリマーのガラス転移温度は-58℃、数平均分子量は14,000であった。
上記(メタ)アクリレート共重合体をヘキサンで溶解して1.0質量%溶液を調製し、ペリスタポンプを使って、当該溶液を1.0mL/minの速度で、比較例1で得られた中空糸膜モジュール及びループ型ミニモジュールに30分間通液させたのち、1000rpmで30分間遠心脱液することにより、中空糸膜へコーティングした。
【0060】
比較例2
凝固液としてNMP26.1質量%、TEG31.9質量%、RO水42.0質量%の混合液を用い、凝固液温度を温度63℃に変更した以外は比較例1と同様にして、モジュールとミニモジュールを作製した。
【0061】
実施例2
実施例1と同様にしてコーティングした以外は比較例2と同様にして、モジュールとミニモジュールを作製した。
【0062】
比較例3
ポリエーテルスルホン(「6020P」BASF社製)を16.5質量%、PVP(「コリドンK-30」BASF社製)を3.0質量%、溶媒としてジメチルアセトアミドを75.5質量%、非溶媒としてRO水5.0質量%を用いて紡糸原液を調製し、得られた紡糸原液を400mmのエアギャップを通過後、凝固液として30.0質量%ジメチルアセトアミド水溶液を用い、凝固液温度を70℃に変更した以外は実施例1と同様にして、モジュールとミニモジュールを作製した。
【0063】
比較例4
ポリエーテルスルホン(「6020P」BASF社製)を14.8質量%、PVP(「コリドンK-30」BASF社製)を10.0質量%、溶媒としてNMP(三菱化学社製)30.08質量%、非溶媒としてTEG(三菱化学社製)45.12質量%を用いて紡糸原液を調製し、得られた紡糸原液を60mmのエアギャップを通過後、凝固液としてNMP29.2質量%、TEG43.8質量%、RO水27.0質量%の混合液を用い、凝固液温度を75℃に変更した以外は実施例1と同様にして、モジュールとミニモジュールを作製した。
【0064】
試験例1: 最大孔径の測定
実施例1,2及び比較例1~4のループ型ミニモジュール全体を十分な量の2-プロパノール(以下、「iPA」と略記する)に3分間浸漬して、内腔と膜壁部分にiPAを行き渡らせた。ループ型モジュールの中空糸膜部分全体がiPAに浸った状態で、スリーブに圧力計を装着して加圧圧力がモニターできるようにした窒素ラインに接続し、加圧した。中空糸膜の膜壁部分からコンスタントに気泡が出始めたポイントをバブルポイントP[Pa]として記録した。1サンプルにつき3回の測定を実施し、バブルポイントの測定値の平均値をそのサンプルのバブルポイントとした。更に、以下の式により、iPAで測定したバブルポイント(P[Pa])から算出される最大孔径を得た。結果を表1に示す。
最大孔径(μm)=4γcosθ/P
[式中、γは溶媒の表面張力(N/m)を示し、iPAの表面張力γは20.8N/mであり、θは膜素材と溶媒との接触角(°)を示し、何れの例でも0°であり、Pはバブルポイント圧力(Pa)を示す。]
【0065】
試験例2: 平均孔径の測定
バブルポイント法(ASTM F316-86)に基づき、ループ型ミニモジュールを用いて、多孔質材料自動細孔径分布測定システム(「パームポロメーターCFP-1200AEX」PMI社製)により、測定を実施した。まずDry状態で測定を行った。次に、フッ素系界面活性剤(「GalWick」PMI社製)にループ型ミニモジュールを浸漬させ、Wet状態で同様に測定を実施した。DRYの1/2流量とWetの流量の交点から平均孔径を得た。結果を表1に示す。
【0066】
試験例3: 中空糸膜の内径と膜厚の測定
適当本数の中空糸膜を、スライドグラスの中央に開けられたφ2~3mmの穴に抜け落ちない程度に通し、スライドグラスの上下面でカミソリにより切断した。万能投影機(「V-12BSC」Nikon社製)を用いて、得られた中空糸膜断面サンプルの短径と長径を測定した。中空糸膜断面1個につき2方向の短径と長径を測定し、それぞれの算術平均値を中空糸膜断面1個の内径および外径とした。また、膜厚を、式(外径-内径)/2で算出した。10断面について同様に測定を行い、外径、内径、及び膜厚の平均値を求めた。結果を表1に示す。
【0067】
試験例4: 中空糸膜の面積
中空糸膜モジュールの膜面積を、中空糸膜の内径に基づいて下記式で求めた。
中空糸膜面積=n×π×d×L(mm2
[式中、nはモジュール内の中空糸の本数を示し、πは円周率を示し、dは中空糸の内径(mm)を示し、Lはモジュール内の中空糸有効長(mm)を示す。]
【0068】
【表1】
【0069】
試験例5: がん由来エクソソームの捕捉率と除去率の測定
(1)培養上清スパイク牛血の調製
175cm2の培養フラスコ中に細胞培養用培地(約25mL)を添加し、更にヒト肺がん由来細胞(「PC-9」ECACCより入手)を加え、細胞がコンフルエントになるまで培養した後、培養上清を得た。
ウシ血液(DARD社製,5mL)と上記培養上清(2.5mL)を混合し、培養上清スパイク牛血とした。なお、混合により培養上清は3倍に希釈されることになるが、この程度であればELASA法による測定が可能であると判断された。
別途、微小凝集塊を除去するためにウシ血液(DARD社製)を輸血フィルター(「SQ40s-M」川澄化学工業社製)で濾過した後、遠沈管に移し、4℃、3000rpmで15分間遠心分離し、補充用血漿として用いる上清を得た。
【0070】
(2)がん由来エクソソームの捕捉率と除去率の測定
各中空糸モジュールを傾け、エア抜きチューブから空気を抜きながら、各中空糸モジュールの半分より下程度までヘパリン生理食塩水を満たした後、エア抜きチューブを鉗子で止め、中空糸モジュール内をヘパリン生理食塩水で満たした。
上記各中空糸モジュールを用い、図1に模式的に示すシステムを構築した。
37℃の恒温槽に遠沈管2本を浸漬し、上記培養上清スパイク牛血と補充用血漿をそれぞれ加えた。血液流入側チューブと血漿補充用チューブの各先端を、それぞれ培養上清スパイク牛血と補充用血漿に浸し、血漿分離用ポンプ側チューブの先端を空遠沈管に入れた。
血漿補充用ポンプを起動し、三方活栓の回路まで血漿を満たしておいた。
各ポンプを起動して血液循環を開始し、回路内のヘパリン生理食塩水が全て抜けたのを目視で確認後、流出側のチューブを培養上清スパイク牛血の遠沈管に浸し、血漿交換を50分間実施し、培養上清スパイク牛血の血漿の90%を交換した。次いで、血漿補充ポンプと血漿分離用ポンプを停止した。回路中の牛血が全て還流したのを目視で確認した後、血液循環用ポンプを停止した。
次に、培養上清スパイク牛血(300μL)を採取し、4℃、3000rpmで15分間遠心分離した後、上清(100μL)を回収した。また、血漿交換前の培養上清スパイク牛血からも、同様に上清を回収した。
得られた上清に含まれるエクソソームの量を、膜タンパク質PD-L1の含有量を指標として、その測定キット(「Human PD-L1 ELISA Kit」abcam社製)を用いて測定した。循環前血液のエクソソーム含有量(100%)から、循環後血液と分離血漿のエクソソーム含有率(%)を差し引いた値をエクソソーム捕捉率(%)として算出した。また、循環前血液のエクソソーム含有量(100%)から、循環後血液のエクソソーム含有率(%)を差し引いた値をエクソソーム除去率(%)とした。結果を表2に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
試験例6: In vivo実験
(1)担がんラットの作製
T細胞機能が欠如しているヌードラット(F344/NJcl-rnu/rnu_male,日本クレア社より入手)の背中の皮下4箇所に、胃がん由来細胞株NCI-N87(ATCCより入手)の懸濁液(1×107cells,250μL)をシリンジで移植した。
【0073】
(2)血液循環
試験例5(2)と同様にして各中空糸モジュール内をヘパリン生理食塩水で満たし、図2に模式的に示す血漿交換システムを構築した。なお、一方の中空糸モジュールが閉塞したり、一方の中空糸モジュールから漏血や溶血した場合のために、予備的に2つの中空糸モジュールを並列に設置した。
ヌードラット血漿(F344/NJcl-rnu/rnu由来),日本エスエルシー社より入手)を遠沈管にいれ、血漿補充ポンプ用のチューブを浸しておき、また血漿分離ポンプ用のチューブを空の遠沈管に挿入しておいた。また、血漿補充用ポンプを起動し、三方活栓の回路まで血漿を満たしておいた。
がん細胞の移植箇所に皮膚の隆起が確認され、がん細胞の生着が確認されたヌードラットを3%イソフルランで麻酔し、恒温マット上に静置した。ラット大腿部を切開し、ピンセットを使用して大腿動静脈周辺の薄膜や脂肪を切除し、大腿動静脈にサーフロー留置針を刺し、滅菌糸で固定した。固定したサーフロー留置針と回路を接続した。静脈側回路の三方活栓からからシリンジで血液を吸引し、静脈側サーフロー留置針に残存したエアを除去した。
各ポンプを起動し、静脈側回路の三方活栓からヘパリン生理食塩水(1mL)を抜いた後、静脈側の流路を開いて、血液循環を開始した。この際、麻酔の設定濃度を2%に変更した。
血液が動脈ラインから中空糸膜を通り、分離された血球成分が補充血漿と共に静脈ラインへ還流されている様子が確認された。また、中空糸膜から分離された血漿が、血漿側用ポンプで回収できていることが確認された。
体外循環前の血液試料として、血液成分測定用に0.8mL、+ヘマトクリット測定用に0.1mLの計0.9mLを、動脈側回路の三方活栓から採血した。また、血液循環開始から30分後、ヘマトクリット測定用として、動脈側回路の三方活栓から0.1mL採血した。
血漿交換率が90%となるまで血液循環を継続した。次いで、血液循環終了から24時間後、頚動脈から採血した。
【0074】
(3)抗がん剤の投与と腫瘍サイズの確認
全ての血流ポンプを停止して血液循環を終了させた後、血液成分測定用に0.8mL、+ヘマトクリット測定用に0.1mLの計0.9mLを、動脈側回路の三方活栓から採血した。
静脈側回路の三方活栓へ、抗HER2抗体である抗がん剤の点滴製剤(「カドサイラ」中外製薬社製)を、10mg/kg体重分、シリンジで注入し、血液循環用ポンプのみ起動した。
大腿動脈を結紮し、動脈側の留置針を外した。空気が流入しない位置まで回路中の血液が還流されたのを確認後、血液循環用ポンプを停止した。大腿静脈を結紮後、静脈側の留置針を外し、大腿部を縫合した。鎮痛剤(「レペタン注0.2mg」大塚製薬社製)と抗菌剤(「犬猫用エンロフロキサシン注25「KS」」共立製薬社製)をそれぞれ0.2mL/kg体重ずつを投与した。
その後、ラットをゲージに入れて管理し、体重と容態を記録した。また、所定期間ごとに腫瘍の長径と短径をノギスで計測し、下記式に従って腫瘍体積を算定した。
腫瘍体積(mm3)={腫瘍長径(mm)×[腫瘍短径(mm)]2}/2
所定時間経過後ごとに腫瘍体積を測定し、治療開始時の腫瘍体積を100%とした場合の腫瘍体積の割合(%)を算出した。結果を図3に示す。
また、比較のために、血漿交換はせずに抗がん剤を投与のみした群についても、同様に実験を行った。
更に、以下の基準に基づいて、各被検ラットの状態を臨床的に判定した。結果を表3に示す。
【0075】
【表3】
【0076】
CR(Complete Response): 腫瘍が完全に消失した状態
PR(Partial Response): 腫瘍体積の和が20%以上減少した状態
PD(Progressive Disease): 腫瘍体積の和が20%以上増加かつ絶対値でも5mm以上増加した状態
PFS(Progression-free survival): 治療後、増悪と判断された状態までの期間(days)
【0077】
図3と表3に示される結果の通り、抗がん剤の投与と血漿交換を組み合わせた場合には、抗がん剤の投与のみの場合に比べて、腫瘍体積が小さくなる傾向があることが認められた。
図1
図2
図3