(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102661
(43)【公開日】2023-07-25
(54)【発明の名称】シート状綿およびこれを含む繊維製品並びにシート状綿の製造方法
(51)【国際特許分類】
D04H 1/4382 20120101AFI20230718BHJP
D01F 8/06 20060101ALI20230718BHJP
【FI】
D04H1/4382
D01F8/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003308
(22)【出願日】2022-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平松 愛由
【テーマコード(参考)】
4L041
4L047
【Fターム(参考)】
4L041BA09
4L041BA22
4L041BA49
4L041BA59
4L041BC20
4L041BD11
4L041CA43
4L041DD01
4L041DD04
4L047AA14
4L047AA17
4L047AA21
4L047AA23
4L047AA25
4L047AA27
4L047AB09
4L047CB02
4L047CB03
4L047CB06
4L047CC01
4L047CC06
(57)【要約】
【課題】保温性および風合いに優れたシート状綿およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】繊維の断面が、(a)領域および(b)領域の少なくとも2の領域を有する繊維を含む、シート状綿およびその製造方法並びにシート状綿を含む繊維製品;(a)領域:MFR(A)(260℃、5.0kg荷重)が30~180g/10minの範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)からなる;
(b)領域:MFR(B)(260℃、5.0kg荷重)が180g/10minを超え、400g/10min以下の範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)からなる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維の断面が、下記(a)領域および(b)領域の少なくとも2の領域を有する繊維を含む、シート状綿;
(a)領域:MFR(A)(260℃、5.0kg荷重)が30~180g/10minの範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)からなる;
(b)領域:MFR(B)(260℃、5.0kg荷重)が180g/10minを超え、400g/10min以下の範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)からなる。
【請求項2】
前記MFR(A)と前記MFR(B)の比(MFR(A)/MFR(B))が、0.10~0.65である、請求項1に記載のシート状綿。
【請求項3】
前記繊維が、サイドバイサイド型および偏心芯鞘型の少なくとも一方の、捲縮構造を有する複合繊維である、請求項1または2に記載のシート状綿。
【請求項4】
前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)が、下記要件(A-I)~(A-III)を満たし、前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)が下記要件(B-I)~(B-III)を満たす、請求項1~3のいずれか1項に記載のシート状綿;
(A-I)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有量(U1)が100~90.0モル%であり、エチレンおよび炭素原子数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)からなる群より選ばれるオレフィンから導かれる構成単位の含有量(U2)が0~10.0モル%である;
(A-II)JIS K7112(密度勾配管法)に準拠して測定した密度が820~850kg/m3の範囲にある;
(A-III)示差走査熱量計(DSC)で測定された融点(Tm)が200℃~260℃である;
(B-I)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有量(U3)が100~90.0モル%であり、エチレンおよび炭素原子数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位の含有量(U4)が0~10.0モル%である;
(B-II)JIS K7112(密度勾配管法)に準拠して測定した密度が820~850kg/m3の範囲にある;
(B-III)示差走査熱量計(DSC)で測定された融点(Tm)が200℃~260℃である。
【請求項5】
ポリエステル、ポリアミド、熱可塑性ポリアクリロニトリル、熱可塑性ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリエチレンおよびセルロース誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂からなる繊維を更に含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のシート状綿。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のシート状綿の製造方法であって、
260℃、5.0kgfで測定したMFR(A)が30~180g/10minの範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)と、260℃、5.0kgfで測定したMFR(B)が180g/10minを超え、400g/10min以下の範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)とを、複合して溶融紡糸する工程と、
前記工程で得られた繊維溶をシート化する工程と、
を有する、シート状綿の製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載のシート状綿を含む繊維製品。
【請求項8】
ブランケット、ラグ、寝具、クッション、マット、または衣料である、請求項7に記載の繊維製品。
【請求項9】
緩衝材、吸音材、遮音材、防振材、断熱材、または保温材である、請求項7に記載の繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状綿およびこれを含む繊維製品並びにシート状綿の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から軽量で嵩高性に優れた織編物が要望されており、これまでに種々の繊維が提案されている。
ポリメチルペンテンは、従来繊維に用いられていたポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンよりも比重が小さく、極めて軽量性に優れている。また、他のポリオレフィンよりも融点や軟化点が高く、耐熱性に優れ、さらには熱や光に対する耐性も高いため、衣料用途への展開が可能である。
【0003】
ポリメチルペンテンを用いた繊維としては、特許文献1に、ポリメチルペンテン系樹脂(A)およびポリメチルペンテン系樹脂(B)からなり、それぞれのMFR(測定温度260℃、荷重5kg)をMFR(A)、MFR(B)としたときに、MFR(A)<MFR(B)であるサイドバイサイド型複合繊維が開示されている。そして、特許文献1の実施例には、MFRが100g/10分のポリメチルペンテン系樹脂(A)とMFRが180g/10分のポリメチルペンテン系樹脂(B)を用い、捲縮数が1.1~3.0山/cmのサイドバイサイド型複合繊維を得たことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ポリメチルペンテンは結晶性が高く、収縮しにくいという特性を有している。そのため、ポリメチルペンテンを単独で繊維化した場合には、捲縮性を付与することは困難である。また、上記の捲縮性に加えて、特許文献1では、同文献に記載の従来のポリメチルペンテン系繊維からシート状綿を形成方法について何ら検討はなされておらず、また、従来のポリメチルペンテン系繊維から形成されるシート状綿よりも保温性および風合いに優れるシート状綿の開発が求められている。
本発明に係る一実施形態が解決しようとする課題は、保温性および風合いに優れたシート状綿およびこれを含む繊維製品を提供することである。本発明に係る一実施形態が解決しようとする他の課題は、保温性および風合いに優れたシート状綿の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 繊維の断面が、下記(a)領域および(b)領域の少なくとも2の領域を有する繊維を含む、シート状綿;
(a)領域:MFR(A)(260℃、5.0kg荷重)が30~180g/10minの範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)からなる;
(b)領域:MFR(B)(260℃、5.0kg荷重)が180g/10minを超え、400g/10min以下の範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)からなる。
<2> 前記MFR(A)と前記MFR(B)の比(MFR(A)/MFR(B))が、0.10~0.65である、<1>に記載のシート状綿。
<3> 前記繊維が、サイドバイサイド型および偏心芯鞘型の少なくとも一方の、捲縮構造を有する複合繊維である、<1>または<2>に記載のシート状綿。
<4> 前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)が、下記要件(A-I)~(A-III)を満たし、前記4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)が下記要件(B-I)~(B-III)を満たす、<1>~<3>のいずれか1つに記載のシート状綿;
(A-I)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有量(U1)が100~90.0モル%であり、エチレンおよび炭素原子数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)からなる群より選ばれるオレフィンから導かれる構成単位の含有量(U2)が0~10.0モル%である;
(A-II)JIS K7112(密度勾配管法)に準拠して測定した密度が820~850kg/m3の範囲にある;
(A-III)示差走査熱量計(DSC)で測定された融点(Tm)が200℃~260℃である;
(B-I)4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有量(U3)が100~90.0モル%であり、エチレンおよび炭素原子数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位の含有量(U4)が0~10.0モル%である;
(B-II)JIS K7112(密度勾配管法)に準拠して測定した密度が820~850kg/m3の範囲にある;
(B-III)示差走査熱量計(DSC)で測定された融点(Tm)が200℃~260℃である。
<5> ポリエステル、ポリアミド、熱可塑性ポリアクリロニトリル、熱可塑性ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリエチレンおよびセルロース誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂からなる繊維を更に含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載のシート状綿。
<6> <1>~<5>のいずれか1つに記載のシート状綿の製造方法であって、
260℃、5.0kgfで測定したMFR(A)が30~180g/10minの範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)と、260℃、5.0kgfで測定したMFR(B)が180g/10minを超え、400g/10min以下の範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)とを、複合して溶融紡糸する工程と、
前記工程で得られた繊維溶をシート化する工程と、
を有する、シート状綿の製造方法。
<7> <1>~<5>のいずれか1つに記載のシート状綿を含む繊維製品。
<8> ブランケット、ラグ、寝具、クッション、マット、または衣料である、<7>に記載の繊維製品。
<9> 緩衝材、吸音材、遮音材、防振材、断熱材、または保温材である、<7>に記載の繊維製品。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る一実施形態によれば、保温性および風合いに優れたシート状綿およびこれを含む繊維製品が提供される。本発明に係る他の実施形態によれば、保温性および風合いに優れたシート状綿の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の内容の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されることはない。
本明細書において、「重合体」とは、単独重合体および共重合体を含む概念である。
本明細書において、数値範囲を示す「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、数値範囲を示す「~」とはその前後いずれか一方に記載される単位は、特に断りがない限り同じ単位を示すことを意味する。
本明細書において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
(シート状綿)
本発明に係るシート状綿は、繊維の断面が、下記(a)領域および(b)領域の少なくとも2の領域を有する繊維を含む。
(a)領域:MFR(A)(260℃、5.0kg荷重)が30~180g/10minの範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)からなる。
(b)領域:MFR(B)(260℃、5.0kg荷重)が180g/10minを超え、400g/10min以下の範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)からなる。
【0010】
本発明に係るシート状綿は、上記構成を有することで保温性および風合いに優れる。この理由は明らかではないか以下のように推察される。
本発明に係るシート状綿に含まれる繊維は、繊維断面が(a)領域および(b)領域の少なくとも2の領域を有し、かつ、(a)領域および(b)領域がそれぞれ重合体(A)及び重合体(B)からなり、重合体(A)及び重合体(B)がそれぞれ異なるMFRの値を示すことで、捲縮性に優れた繊維となり、保温性および風合いに優れると推定している。
以下、シート状綿の各構成の詳細について説明する。
【0011】
<繊維>
本発明に係るシート状綿は、繊維の断面が、(a)領域および(b)領域の少なくとも2の領域を有する繊維を含む。
上記繊維は、繊維の断面が(a)領域および(b)領域の少なくとも2の領域を有する繊維であれば特に制限はされず、更に他の領域を有していてもよい。
繊維の断面において、(a)領域および(b)領域の少なくとも2の領域を有するか否かを確認する方法としては、シート状綿から繊維を抽出し、抽出繊維を短軸方向に切断し、その断面をレーザー顕微鏡(倍率×100)で観察し確認することができる。
【0012】
<<(a)領域>>
(a)領域は、MFR(メルトフローレート)(A)(260℃、5.0kg荷重)が30~180g/10minの範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)からなる。
【0013】
〔4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)〕
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の260℃、5.0kg荷重で測定したMFR(A)(以下、単に「MFR(A)」ともいう。)は、30~180g/10minであり、好ましくは30~150g/10min、より好ましくは50~145g/10minの範囲にある。
MFR(A)が30g/10min以上であると、重合体(A)は紡糸性に適した溶融粘度となり、紡糸性により優れる傾向にある。また、MFR(A)が180g/10minを超えない場合、MFR(A)は、後述の4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)のMFR(B)との溶融粘度差を大きくすることができ、得られる繊維の捲縮性により優れ、保温性および風合いに優れたシート状綿が得られる。
【0014】
また、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)のMFR(A)が上記範囲にあることにより、シート状綿に含まれる繊維を構成する4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)のMFR(B)との比である(MFR(A)/MFR(B))を0.10~0.65の範囲にすることが容易となる。
【0015】
得られるシート状綿の保温性および風合いに優れるという観点から、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、下記要件(A-I)~(A-III)を満たすことが好ましい。
<要件(A-I)>
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有量(U1)が、好ましくは100~90.0モル%であり、より好ましくは100~93.0モル%、さらに好ましくは99.5~95.0モル%の範囲であり、エチレンおよび炭素原子数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)からなる群より選ばれるオレフィンから導かれる構成単位の含有量(U2)が好ましくは0~10.0モル%であり、より好ましくは0~7.0モル%であり、さらに好ましくは0.5~5.0モル%の範囲である。ただし、(U1)と(U2)の合計量を100モル%とする。
【0016】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)が共重合体である場合、4-メチル-1-ペンテンと共重合するエチレン及び炭素原子数3~20のα-オレフィンとして具体的には、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセンおよび1-エイコセンなどが挙げられる。これらのうち好ましくは、エチレン、プロピレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、および、1-オクタデセンである。さらに好ましくは、1-ヘキセン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ヘキサデセン、および、1-オクタデセンである。これらのα-オレフィンは、1種単独でもよく、または2種以上の組み合わせでもよい。
【0017】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)中の4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位、ならびに、エチレンおよび炭素原子数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位の量は、重合反応中に添加する4-メチル-1-ペンテン、ならびに、エチレンおよび炭素原子数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)の量によって調整することができる。
かかる重合体を用いることにより、より保温性および風合いに優れたシート状綿が得られる。
【0018】
<要件(A-II)>
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、JIS K7112:1999(密度勾配管法)に準拠して測定した密度が好ましくは820~850kg/m3であり、より好ましくは825~845kg/m3、さらに好ましくは830~840kg/m3、特に好ましくは830~835kg/m3の範囲にある。
密度が上記範囲を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)を用いてなる繊維は軽量性に優れる。
【0019】
<要件(A-III)>
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、示差走査熱量計(DSC)で測定した融点(Tm)が、好ましくは200~260℃であり、より好ましくは210~250℃であり、更に好ましくは215~245℃の範囲にある。
融点(Tm)が上記範囲にあると耐熱性に優れる繊維が得られ、かつ、保温性および風合いに優れたシート状綿が得られる。
【0020】
また、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は、通常、示差走査熱量計(DSC)で測定した融解熱が好ましくは50J/g以下であり、より好ましくは10~50J/gであり、更に好ましくは15~45J/gであり、特に好ましくは20~40J/gの範囲にある。
【0021】
融解熱が上記範囲内にあると、繊維の捲縮性を高められ、かつ、得られるシート状綿は保温性および風合いに優れる。4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)の融解熱は、コモノマー種およびその量を適宜選択することなどにより任意に調整することができる。
【0022】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)は通常、135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]Aが、好ましくは1.35~2.20dl/g、より好ましくは1.40~2.20dl/g、更に好ましくは1.45~1.90dl/gの範囲にある。極限粘度[η]Aが上記範囲内であると、得られる繊維の捲縮性を高められ、かつ、得られるシート状綿は保温性および風合いに優れる。
【0023】
<<(b)領域>>
(b)領域は、MFR(B)(260℃、5.0kg荷重)が180g/10minを超え、400g/10min以下の範囲にある4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)からなる。
【0024】
〔4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)〕
4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は、260℃、5.0kgf(kg荷重)で測定したMFR(B)(以下、単に「MFR(B)」ともいう。)が180g/10minを超え、400g/10min以下であり、好ましくは200~400g/10min、より好ましくは230~380g/min、さらに好ましくは250~350g/10minの範囲にある。
【0025】
MFR(B)が上記範囲にあると、紡糸性および捲縮性に優れる繊維が得られ、かつ、保温性および風合いに優れたシート状綿が得られる。また、4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)のMFR(B)が上記範囲にあることにより、繊維を構成する成分の一つである上記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)のMFR(A)との比である(MFR(A)/MFR(B))を0.10~0.65の範囲にすることが容易となる。
【0026】
得られるシート状綿の保温性および風合いに優れるという観点から、4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は、下記要件(B-I)~(B-III)を満たすことが好ましい。
<要件(B-I)>
4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は、4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位の含有量(U3)が好ましくは100~90.0モル%であり、より好ましくは100~93.0モル%であり、さらに好ましくは99.5~95.0モル%の範囲であり、エチレンおよび炭素原子数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位の含有量(U4)が好ましくは0~10.0モル%であり、より好ましくは0~7.0モル%であり、さらに好ましくは0.5~5.0モル%の範囲である。ただし、上記(U3)と(U4)の合計量を100モル%とする。
【0027】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)が共重合体である場合、4-メチル-1-ペンテンと共重合するエチレン及び炭素原子数3~20のα-オレフィンとして具体的には、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセンおよび1-エイコセンなどが挙げられる。これらのうち好ましくは、エチレン、プロピレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、および1-オクタデセンである。さらに好ましくは、1-ヘキセン、3-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ヘキサデセン、および、1-オクタデセンである。これらのα-オレフィンは、1種単独でもよく、または2種以上の組み合わせでもよい。
【0028】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)中の4-メチル-1-ペンテンから導かれる構成単位、ならびに、エチレンおよび炭素原子数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)から導かれる構成単位の量は、重合反応中に添加する4-メチル-1-ペンテン、ならびに、エチレンおよび炭素原子数3~20のα-オレフィン(4-メチル-1-ペンテンを除く)の量によって調整することができる。
かかる重合体を用いることにより、より捲縮性に優れる繊維を得られ、かつ、保温性および風合いに優れたシート状綿が得られる。
【0029】
<要件(B-II)>
4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は、JIS K7112:1999(密度勾配管法)に準拠して測定した密度が好ましくは820~850kg/m3であり、より好ましくは825~845kg/m3であり、更に好ましくは830~840kg/m3であり、特に好ましくは830~835kg/m3の範囲にある。
密度が上記範囲を満たす4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を用いてなる繊維は軽量性に優れ、かつ、保温性および風合いに優れたシート状綿が得られる。
【0030】
<要件(B-III)>
4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は、上記要件に加え、示差走査熱量計(DSC)で測定した融点(Tm)が、通常、好ましくは200~260℃であり、より好ましくは210~250℃であり、更に好ましくは215~245℃の範囲にある。
融点(Tm)が上記範囲にあると耐熱性に優れる繊維が得られ、かつ、保温性および風合いに優れたシート状綿が得られる。
【0031】
また、4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は、通常、示差走査熱量計(DSC)で測定した融解熱が好ましくは30J/g以上であり、より好ましくは30~60J/gであり、更に好ましくは35~55J/gであり、特に好ましくは40~50J/gの範囲にある。
【0032】
融解熱が上記範囲内にあると、繊維の捲縮性を高められ、かつ、保温性および風合いに優れたシート状綿が得られる。4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)の融解熱は、コモノマー種およびその量を適宜選択することなどにより任意に調整することができる。
【0033】
4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は通常、135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]Bが、好ましくは1.00~1.35dl/gであり、より好ましくは1.05~1.35dl/gであり、更に好ましくは1.05~1.30dl/gであり、特に好ましくは1.10~1.25dl/gの範囲にある。極限粘度[η]Bが上記範囲内であると、得られる繊維の捲縮性を高められ、かつ、保温性および風合いに優れたシート状綿が得られる。
【0034】
<MFR(A)/MFR(B)>
上記MFR(A)と上記MFR(B)の比(MFR(A)/MFR(B))が、好ましくは0.10~0.65であることが好ましく、より好ましくは0.13~0.63、さらに好ましくは0.15~0.60、特に好ましくは0.18~0.50の範囲にある。
4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)と4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)とのMFRの比(MFR(A)/MFR(B))が、上記範囲にあると、溶融紡糸を容易に行うことができ、より捲縮性に優れる繊維が得られ、かつ、保温性および風合いに優れたシート状綿が得られる。
【0035】
本発明に係るシート状綿に含まれる繊維の構造は、シート状綿とし得る限り特に制限はなく、例えば、サイドバイサイド型の複合繊維および偏心芯鞘型の複合繊維等を挙げられる。
得られるシート状綿の保温性および風合いに優れる観点から、サイドバイサイド型および偏心芯鞘型の少なくとも一方の型の、捲縮構造を有する複合繊維であることが好ましい。
【0036】
捲縮構造の形状については、特に制限はなく、波形状捲縮構造であってもよいし、螺旋状捲縮構造であってもよいし、これらが混在した捲縮構造であってもよい。捲縮構造を有する複合繊維は、上記繊維を自己捲縮させてもよく、上記繊維について機械的に捲縮形状を付与したものであってもよい。
【0037】
「サイドバイサイド型の複合繊維」とは、少なくとも2種類の樹脂を溶融押出し、貼り合わせ、貼り合わせた面の面内方向に引き揃えて紡糸することで得られる繊維をいう。サイドバイサイド型繊維の断面は少なくとも2種類の樹脂からなる領域を持ち、その領域における面積比は、主に溶融押出時における樹脂の押出比率により決まる。
【0038】
「偏心芯鞘型の複合繊維」とは、芯鞘型繊維の断面形状において、内層部の重心位置が繊維全体の重心位置と異なる繊維をいい、内層部の重心位置が繊維全体の重心位置と異なるように配置された複合型ノズル、例えば偏心芯鞘型複合ノズルを用いて作製される。また、偏心芯鞘型複合繊維の断面は少なくとも2種類の樹脂からなる領域を持ち、その領域における面積比は、主に溶融押出時における樹脂の押出比率により決まる。
【0039】
このうち、より高い捲縮性を得られ、かつ、保温性および風合いに優れたシート状綿が得られるという観点からは、上記繊維としては、サイドバイサイド型の複合繊維であることが好ましい。また、捲縮性と紡糸成形性に優れ、かつ、保温性および風合いに優れたシート状綿が得られるという観点からは、偏心芯鞘型の複合繊維であることが好ましい。
上記繊維が、偏心芯鞘型の複合繊維である場合、芯成分は重合体(B)であり、鞘成分は重合体(A)であることが好ましい。
【0040】
上記芯成分の偏心率は、20~85%の範囲内にあることが好ましく、30~80%の範囲内にあることがより好ましく、40~75%の範囲内にあることが特に好ましい。なお、ここでいう偏心率とは、次式で定義される。
偏心率(%)=(複合繊維断面の中心と芯成分断面の中心との距離)
/複合繊維の半径×100
【0041】
繊維の断面の形状(外周形状)は、特に制限がなく、用途や要求特性に応じて適宜選択することができ、例えば、真円形、扁平形、だるま形、多葉形、および、多角形などが挙げられる。偏心芯鞘型複合繊維の場合、その断面形状は通常、真円形である。
【0042】
<<繊維長>>
シート状綿に含まれる繊維の繊維長は、特に制限はない。後述するその他の繊維を含まないシート状綿が得られやすいという観点からは、繊維の繊維長としては、40mmを超えることが好ましく、45mm以上80mm以下であることがより好ましく、50mm以上70mm以下であることが更に好ましい。
【0043】
保温性および風合いに優れたシート状綿が得られるという観点から、繊維の含有量としては、シート状綿の全質量に対して50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%であることが更に好ましい。上限は特に制限はないが、100質量%以下であることが好ましく、95質量%以上100質量%以下であることがより好ましい。
【0044】
<<繊維の製造方法>>
繊維の製造方法としては、特に制限はなく、公知の製造方法を用いることができる。例えば、上記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)と上記4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を二つの押出機を用いてそれぞれ個別に溶融し、複合紡糸口金から吐出して繊維を得る工程、前記繊維を冷却、延伸、細化して、捲縮させた後、捕集ベルト上に所定の厚さに堆積する工程、および、巻き取る工程など種々公知の製造方法を採り得る。
【0045】
〔偏心芯鞘型の複合繊維の製造方法〕
上記繊維が偏心芯鞘型の複合繊維である場合、繊維の製造方法としては、偏心芯鞘型複合ノズルの鞘成分注入ノズルおよび芯成分注入ノズルから、上記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)と上記4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)とを、それぞれ供給して紡糸する工程を有することが好ましい。
【0046】
以下、偏心芯鞘型の複合繊維の製造方法の一具体例について詳述する。
まず、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)および4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)をそれぞれ別々に溶融紡糸機にて溶融し、計量ポンプで計量した後、上記重合体(A)を偏心芯鞘型複合ノズルの鞘成分注入ノズルに供給し、上記重合体(B)を芯成分注入ノズルから供給し、前記偏心芯鞘複合型ノズルにおける芯部および鞘部の樹脂吐出量を調整して、鞘成分の質量分率および芯成分の含有量を制御して、吐出して紡出糸条を得る。得られた紡出糸条は冷却装置によって冷却、固化された後、油剤を付与され、交絡付与装置で交絡を付与される。その後、紡出糸条はゴデットロールに引き取られ、巻取機で巻き取られて巻取糸(偏心芯鞘型の複合繊維)となる。
【0047】
溶融紡糸機は、紡糸ができれば特に制限はなく、例えばエクストルーダー型、プレッシャーメルター型が挙げられる。製糸操業性、生産性、繊維の機械的特性を向上させるために、必要に応じて紡糸口金下部に2~20cmの長さの加熱筒や保温筒を設置してもよい。
【0048】
溶融紡糸における紡糸温度は、260~320℃であることが好ましい。紡糸温度が260℃以上であれば、紡糸口金より吐出された紡出糸条の伸長粘度が十分に低下するため吐出が安定し、さらには、紡糸張力が過度に高くならず、糸切れを抑制することができるため好ましい。紡糸温度は270℃以上であることがより好ましく、280℃以上であることが更に好ましい。一方、紡糸温度が320℃以下であれば、紡糸時の熱分解を抑制することができ、得られる複合繊維の機械的特性不良や着色が生じないため好ましい。紡糸温度は310℃以下であることがより好ましく、300℃以下であることが更に好ましい。
【0049】
溶融紡糸における紡糸速度は、紡糸温度や、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)と4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)との複合比率などに応じて適宜選択することができ、300~3000m/分であることが好ましい。紡糸速度が800m/分以上であると、走行糸条が安定し、糸切れを抑制することができるため好ましい。紡糸速度は1000m/分以上であることがより好ましく、1500m/分以上であることが更に好ましい。一方、紡糸速度が3000m/分以下であれば、紡出糸条を十分に冷却することができ、安定した紡糸を行うことができるため好ましい。紡糸速度は2750m/分以下であることがより好ましく、2500m/分以下であることが更に好ましい。
【0050】
溶融紡糸によって引き取られた未延伸糸は、所望の繊維特性を有する複合繊維が得られる観点から、延伸させることが好ましい。延伸の方法は、特に制限がなく、公知の方法に従い、ドラムに一旦巻き取った未延伸糸を延伸する2工程法、ドラムへ巻き取らずに連続して延伸する直接紡糸延伸法などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
延伸における加熱方法としては、走行糸条を直接的あるいは間接的に加熱できる装置であれば、特に限定されない。加熱方法の具体例として、加熱ローラー、熱ピン、熱板、レーザーなどの装置、温水、熱水などの液体浴、熱空、スチームなどの気体浴などが挙げられるがこれらに限定されない。これらの加熱方法は単独で使用してもよく、複数を併用してもよい。加熱方法としては、加熱温度の制御、走行糸条への均一な加熱、装置が複雑にならない観点から、加熱ローラーとの接触、熱ピンとの接触、熱板との接触、温水や熱水などの液体浴への浸漬を好適に採用できる。
【0052】
延伸を行う場合の延伸倍率は、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)と4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)との複合比率、延伸後複合繊維の強度や伸度などに応じて適宜選択することができるが、1.1~3.5倍であることが好ましい。延伸倍率が1.1倍以上であれば、延伸によって複合繊維の強度や伸度などの機械的特性を向上させることができるため好ましい。延伸倍率は1.2倍以上であることがより好ましく、1.3倍以上であることが更に好ましい。一方、延伸倍率が3.5倍以下であれば、延伸時の糸切れが抑制され、安定した延伸を行うことができるため好ましい。延伸倍率は3.2倍以下であることがより好ましく、3.0倍以下であることが更に好ましい。また、1段延伸法または2段以上の多段延伸法のいずれの方法によってもよい。
【0053】
延伸を行う場合の延伸温度は、延伸後の複合繊維の強度や伸度などに応じて適宜選択することができるが、80~140℃であることが好ましい。延伸温度が80℃以上であれば、延伸に供給される糸条の予熱が充分に行われ、延伸時の熱変形が均一となり、繊度斑の発生を抑制できるため好ましい。延伸温度は85℃以上であることがより好ましく、90℃以上であることが更に好ましい。一方、延伸温度が140℃以下であれば、延伸時の糸切れが抑制され、安定した延伸を行うことができるため好ましい。延伸温度は135℃以下であることがより好ましく、130℃以下であることが更に好ましい。また、必要に応じて、延伸後に80~150℃の熱セットを行ってもよい。
【0054】
〔サイドバイサイド型の複合繊維の製造方法〕
上記複合繊維がサイドバイサイド型の複合繊維である場合、繊維の製造方法としては、上記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)と上記4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)とをサイドバイサイド型に配して紡糸する工程を有することが好ましい。以下、サイドバイサイド型の複合繊維の製造方法の一例を、以下に示す。
【0055】
サイドバイサイド型の複合繊維は、例えば、上述した「上記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)と上記4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を二つの押出機を用いてそれぞれ個別に溶融し、複合紡糸口金から吐出して複合繊維を得る工程」において、サイドバイサイド型複合ノズルを用いること、4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)と4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)とを、紡糸口金で4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)と4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)とをサイドバイサイドに貼り合わせ、吐出して紡出糸条を得ること以外は上述した偏心芯鞘型の複合繊維の製造方法と同様の方法により、製造することができる。
【0056】
本発明に係るシート状綿は、上述の繊維以外の繊維を含んでもよく、その場合は、本発明の効果を損なわなければ特に制限されない。上述の繊維以外の繊維としては、例えば、コットン、シルク、ウール、麻、及びパルプなどの天然繊維、レーヨン、キュプラ、及び溶剤紡糸セルロース繊維などの再生繊維、及び、ポリアクリロニトリルなどのアクリル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、及びポリブチレンサクシネート及びその共重合体等のポリエステル、ナイロン6、ナイロン12及びナイロン66等のポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン(高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等を含む)、ポリ1-ブテン、エチレン-ビニルアルコール共重合体、及びエチレン-酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、ならびにポリウレタンなどの溶融紡糸可能な熱可塑性樹脂からなる合成繊維が挙げられる。
【0057】
上記合成繊維としては、ポリエステル、ポリアミド、熱可塑性ポリアクリロニトリル、熱可塑性ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリエチレンおよびセルロース誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂からなる繊維であることが好ましく、ポリエステル、および、ポリアミドからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂からなる繊維であることがより好ましく、ポリエチレンテレフタレートまたはナイロン6からなる繊維であることが更に好ましい。
【0058】
<<繊維長>>
シート状綿に含まれるその他の繊維の繊維長は特に制限はなく、適宜設定することができる。シート状綿が得られやすいという観点からは、その他の繊維の繊維長としては、40mmを超えることが好ましく、45mm以上80mm以下であることが好ましく、50mm以上70mm以下であることがより好ましい。
【0059】
保温性および風合いにより優れたシート状綿が得られるという観点から、その他の繊維の含有量は、シート状綿の全質量に対して50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましく、0~5質量%であることが特に好ましい。
【0060】
上記合成繊維は、単一繊維であっても、または、上記の樹脂から選択される2以上の樹脂からなるその他の複合繊維であってもよい。例えば、その他の複合繊維は、芯鞘型複合繊維、または分割型複合繊維であってよい。
【0061】
(シート状綿の製造方法)
本発明に係るシート状綿の製造方法は、上記重合体(A)と上記重合体(B)とを複合して溶融紡糸する工程と、得られた繊維をシート化する工程(シート化工程)と、を有することが好ましい。
【0062】
<<溶融紡糸工程>>
上記重合体(A)と、上記重合体(B)とを、複合して溶融紡糸する工程(溶融紡糸工程)は、上記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)と上記4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を二つの押出機を用いてそれぞれ個別に溶融し、複合紡糸口金から吐出して溶融紡糸する工程であることが好ましく、上記4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)と上記4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)を二つの押出機を用いてそれぞれ個別に溶融し、上記重合体(A)と上記重合体(B)とを、偏心芯鞘型複合ノズルの鞘成分注入ノズルおよび芯成分注入ノズルにそれぞれ供給して、溶融紡糸する工程であることが更に好ましい。溶融紡糸工程は、上記繊維の製造方法における各工程と同義であり、好ましい態様も同様である。
【0063】
<<シート化工程>>
溶融紡糸をシート化する工程(シート化工程)におけるシート化方法としては、特に制限はなく公知のシート化方法が挙げられる。シート化工程としては、例えば、上記工程で得られた繊維をカード機で繊維ウェブを作製する工程が挙げられる。
【0064】
<<その他の工程>>
シート状綿の製造方法は、上記溶融紡糸工程およびシート化工程以外の工程(以下、「その他の工程」)を更に有していてもよい。その他の工程としては、上記溶融紡糸工程で得られた繊維を切断する工程、上記得られた繊維とその他の繊維とを混合する工程、および、得られた繊維を開繊する工程等が挙げられる。これらの工程は、シート化工程の前に有することが好ましい。
【0065】
保温性および風合いに優れたシート状綿が得られるという観点から、得られるシート状綿の厚みとしては、好ましくは1mm~15mmであり、より好ましくは2mm~13mmである。保温性および風合いに優れたシート状綿が得られるという観点から、シート状綿の目付量としては、好ましくは50g/m2~150g/m2である。
【0066】
(繊維製品)
本発明に係る繊維製品は、上記シート状綿を含む。上記繊維製品は織物および不織布のいずれであってもよい。保温性および風合いに優れる観点から、繊維製品は、側地と中綿とを含み、上記中綿が上記シート状綿から形成された中綿を含むことが好ましく、側地及び中綿が、上記シート状綿から形成された側地及び上記シート状綿から形成された中綿であることがより好ましい。
【0067】
繊維製品において、例えば、上記シート状綿をそのまま中綿として用いてもよく、複数のシート状綿からなる積層体として中綿として用いてもよい。また、このシート状綿を含む中綿においては、繊維同士が接着されていてもよい。シート状綿は、繊維製品の中綿として用いた際に、製品内部で中綿が偏りにくいため好ましい。
【0068】
繊維製品は、表地と裏地の2枚の側地の間に中綿を有する構成(側地/中綿/側地の構成)あるいは表地である側地と中綿を有する構成(側地/中綿の構成)のいずれであってもよいが、表地および裏地の2枚の側地の間に中綿を有する構成であることが好ましい。側地が表地と裏地の2枚である場合、表地と裏地とは同じものであってもよく、異なっていてもよい。また、側地は1枚の生地から構成されていてもよく、2枚以上の生地から構成されていてもよい。また、中綿は1層であってもよく、2層以上積層したものであってもよい。
【0069】
繊維製品は、さらにキルトステッチを含んでもよい。すなわち繊維製品は、側地と中綿との少なくとも一部が、糸によるキルトステッチで固定されていてもよい。キルトステッチには、天然繊維もしくは合成繊維からなる糸を特に制限なく用いることができるが、4-メチル-1-ペンテン系重合体を含有する繊維からなる糸を用いることがより好ましい。キルトステッチに4-メチル-1-ペンテン系重合体を含有する繊維からなる糸を用いた場合には、側地、中綿およびキルトステッチがいずれも4-メチル-1-ペンテン系重合体から構成されたものとなり、よりリサイクル性に優れたものとなるため好ましい。
【0070】
繊維製品は、側地および中綿の両方が4-メチル-1-ペンテン系重合体を含む繊維からなることにより、従来広く用いられている綿(コットン)やポリエステルなどの素材からなる繊維製品と比較して、低密度で軽量であり、保温性が高く、風合いおよび防汚性に優れるとともに、洗濯等で水を含んだ場合の脱水性、乾燥性も良好なものとなる。また、繊維製品は、側地および中綿の両方が上記シート状綿からなることにより、耐熱性に優れ、側地と中綿とが同種の素材から構成されることからリサイクル性にも優れる。
【0071】
繊維製品は、各種用途に制限なく用いることができ、公知のキルト生地等が用いられる用途に好適に用いることができる。例えば、繊維製品は、側地および中綿を含むことにより、ブランケット;ラグ;掛け布団やシュラフ、枕等の寝具;例えば、自動車用、航空機用、鉄道車両用、船舶用の座席に使用するクッション;マット、衣料品等に好適である。上記繊維製品は、保温性および風合いに優れる観点から、ブランケット、ラグ、寝具、クッション、マット、または衣料に用いられることが好ましい。また、繊維製品は、側地および中綿を含むことにより、緩衝材、吸音材、遮音材、防振材、断熱材、または、保温材等に好適である。
【実施例0072】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例および比較例で用いた4-メチル-1-ペンテン系重合体(A)および4-メチル-1-ペンテン系重合体(B)は以下に示す製造例で各々製造した。
【0073】
[製造例1]
4-メチル-1-ペンテン・1-デセン共重合体(A-1)(重合体(A))の製造
国際公開第2006/054613号の比較例7において、得られる共重合体の4-メチル-1-ペンテンおよび1-デセンから導かれる構成単位の含有量が下記表1に記載の含有量となるようにモノマーの装入量を変更し、下記表1に記載のメルトフローレート(MFR)となるように重合時の水素量を調整することによって、4-メチル-1-ペンテン・1-デセン共重合体(A-1)を得た。
【0074】
[製造例2]
4-メチル-1-ペンテン・1-デセン共重合体(B-1)の製造
国際公開第2006/054613号の比較例7において、得られる共重合体の4-メチル-1-ペンテンおよび1-デセンから導かれる構成単位の含有量が下記表1に記載の含有量となるようにモノマーの装入量を変更し、下記表1に記載のメルトフローレート(MFR)となるように重合時の水素量を調整または混練溶融を行うことによって、4-メチル-1-ペンテン・1-デセン共重合体(B-1)を得た。
【0075】
【0076】
<繊維Xの製造方法>
上記で得られた4-メチル-1-ペンテン・1-デセン共重合体(A-1)および4-メチル-1-ペンテン・1デセン共重合体(B-1)をそれぞれ別個の押出機を用い、290℃で溶融し、計量ポンプで計量した後、紡糸ブロックに内蔵された紡糸パックに送った。紡糸パック内でろ過した後、紡糸温度290℃にて、偏心芯鞘型紡糸口金で4-メチル-1-ペンテン・1-デセン共重合体(A-1)と4-メチル-1-ペンテン・1デセン共重合体(B-1)とを、複合比率〔(A-1)/(B-1)〕(断面面積比)を60/40とし、偏心率73%として吐出して偏心芯鞘型複合繊維を製造した。得られた偏心芯鞘型複合繊維を、冷却装置によって冷却し、固化して、給油装置で油剤を付与した後、第1ゴデットロールに引き取られ、第2ゴデットロール、第3ゴデットロールおよび第4ゴデットロールを介して、巻取機で巻き取って、表2に示される偏心芯鞘型複合繊維を得た。得られた複合繊維は繊維長51mmにカットした。
【0077】
得られた複合繊維の断面をレーザー顕微鏡(倍率×100)で観察したところ、4-メチル-1-ペンテン・1-デセン共重合体(A-1)からなる(a)領域と、4-メチル-1-ペンテン・1-デセン共重合体(B-1)からなる(b)領域と、の2つの領域を有することが確認された。
【0078】
<繊維Yの製造方法>
ポリエチレンテレフタレート(PET)を押出機で溶融し、丸孔ノズルから吐出し、冷却装置によって冷却、固化した後、給油装置で油剤を付与した。その後繊維を延伸し、クリンパーで繊維に捲縮をかけ、熱セットして表2に示すポリエチレンテレフタレート繊維を得た。得られた繊維は繊維長51mmにカットした。
【0079】
【0080】
<繊度>
繊度は、JIS L1013:2010に準拠して測定した。
【0081】
<捲縮数および捲縮率>
捲縮数および捲縮率は、測定試料として上記繊維Xまたは繊維Yの製造方法で得られた繊維長51mmの繊維を用い、JIS L1015:2010に準拠して測定した。測定試料に、初荷重(0.18mN×試料の繊度)をかけたときの捲縮試験機のつかみ具間の距離(空間距離)(mm)を読み、1inchあたりの捲縮数を求めた。また、上記捲縮数の読み方は、山と谷の数を全部数え、2で除して求めた。
【0082】
捲縮率は、試料に1.8mN×試料の繊度(dtex)の初荷重をかけた場合の長さと、4.41mN×試料の繊度(dtex)の荷重をかけたときの長さから、下記式により算出した。
C=(b-a)×100/b
C:捲縮率(%)
a:初荷重をかけた時の長さ(mm)
b:4.41mN×試料の繊度(dtex)の荷重をかけた時の長さ(mm)
【0083】
[実施例1]
上記で得られた繊維Xをカード機に通して開繊し、目付100g/m2のシート状綿に加工し、厚さ2mmのシート状綿を作製した。
【0084】
[実施例2]
上記で得られた繊維Xをカード機に通して開繊し、目付80g/m2のシート状綿に加工し、厚さ2mmのシート状綿を作製した。
【0085】
[実施例3]
上記で得られた繊維Xと繊維Yを、それぞれをカード機に通して開繊し、繊維Xが50質量%、繊維Yが50質量%で構成される目付100g/m2のシート状綿に加工し、厚さ3.5mmのシート状綿を作製した。
【0086】
[比較例1]
上記で得られた繊維Yをカード機に通して開繊し、目付100g/m2のシート状綿に加工し、厚さ5mmのシート状綿を作製した。
【0087】
<保温率、厚さ辺りの保温率、および、保温性評価>
上記実施例1~3および比較例1で得られたシート状綿を試料とし、JIS L1096:2010 8.27 A法(恒温法)に準拠し、室温20℃、65%RH環境にて、ASTM形保温性試験機を使用して保温率を求めた。
すなわち、まず、一定温度に設定した熱板に、試験片をセットせずに2時間後に放熱された熱量a(J/cm2・s)を測定した。次に、試料から採取した試験片を熱板の上にセットし、2時間後に試験片を介して放熱された熱量b(J/cm2・s)を測定した。
上記で得られた熱量aおよび熱量bの値より、下記式を用いて、保温率(%)を求めた。
保温率(%)=(1-b/a)×100
【0088】
また、上記式で得られた保温率(%)を、シート状綿の厚さで割った値を厚さ辺りの保温率(%/mm)とした。
上記で得られた結果に対し、下記基準で保温性を評価した。評価結果は表3に示す。厚さ当たりの保温率が15%以上であると、保温性に優れるといえる。
【0089】
-保温性の評価基準-
A:厚さ当たりの保温率≧15%
B:厚さ当たりの保温率<15%
【0090】
<風合い評価>
10人の被験者にシート状綿を触ってもらい柔らかいと判定した人数に対し、下記基準で風合いを評価した。風合いの評価基準がA及びBの場合、風合いに優れるといえる。評価結果は表3に示す。
【0091】
-風合いの評価基準-
A:8人以上が柔らかいと判定
B:5人以上、8人未満が柔らかいと判定
C:5人未満が柔らかいと判定
【0092】
【0093】
実施例1~3のシート状綿は、比較例1のシート状綿に比べて、保温性および風合いに優れていることが分かる。