(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102666
(43)【公開日】2023-07-25
(54)【発明の名称】レーダ装置、及び、バイタル検出装置
(51)【国際特許分類】
G01S 13/56 20060101AFI20230718BHJP
G01S 7/02 20060101ALI20230718BHJP
G01S 13/524 20060101ALI20230718BHJP
【FI】
G01S13/56
G01S7/02 218
G01S13/524
【審査請求】未請求
【請求項の数】24
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003313
(22)【出願日】2022-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸上 高明
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB18
5J070AC01
5J070AC02
5J070AD03
5J070AE09
5J070AF01
5J070AH34
5J070AH35
(57)【要約】
【課題】レーダ装置において物標を精度良く検知すること。
【解決手段】レーダ装置は、同相加算が行われる複数のレーダ送信信号が送信される期間において、2πの整数倍を同相加算が行われる回数で除算した値に基づいて算出される複数の位相回転量を各レーダ送信信号に付与する送信位相回転回路と、位相回転量が付与された複数のレーダ送信信号を送信する送信アンテナと、を具備する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同相加算が行われる複数のレーダ送信信号が送信される期間において、2πの整数倍を前記同相加算が行われる回数で除算した値に基づいて算出される複数の位相回転量を各レーダ送信信号に付与する送信位相回転回路と、
前記位相回転量が付与された前記複数のレーダ送信信号を送信する送信アンテナと、
を具備するレーダ装置。
【請求項2】
前記送信アンテナが複数のアンテナであり、
前記複数の送信アンテナのうち、前記レーダ送信信号を送信する送信アンテナを、前記期間毎に切り替える制御回路、をさらに具備する、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項3】
連続する複数の前記期間内の基準タイミングに対して送信されるタイミングが同じ時間差を有するペアとなるレーダ送信信号が、前記複数の送信アンテナのうち切り替えられた送信アンテナから送信される、
請求項2に記載のレーダ装置。
【請求項4】
符号系列に含まれる複数の符号要素に基づく位相回転量を、前記期間毎に前記複数のレーダ送信信号に付与する符号多重回路、を更に具備する、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項5】
連続する複数の前記期間内の基準タイミングに対して前記複数の符号要素のうち同じ符号要素が使用されるタイミングが同じ時間差を有するペアとなるレーダ送信信号が、前記複数の送信アンテナのうち切り替えられた送信アンテナから送信される、
請求項4に記載のレーダ装置。
【請求項6】
前記レーダ送信信号が物標にて反射された反射波信号に対して、前記送信位相回転回路による位相回転と逆方向に、前記位相回転量を付与する受信位相回転回路と、
前記受信位相回転回路により前記位相回転量が付与された前記反射波信号を、前記期間において同相加算する同相加算回路と、を更に具備する、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項7】
前記同相加算後の前記反射波信号に基づいて、バイタル情報を検出する検出回路、を更に具備する、
請求項6に記載のレーダ装置。
【請求項8】
前記同相加算後の前記反射波信号に基づいて、ドップラ周波数解析を行う解析回路、を更に具備する、
請求項6に記載のレーダ装置。
【請求項9】
前記期間はレーダ測位毎に設定される、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項10】
前記レーダ送信信号の送信を停止する時間はレーダ測位毎に設定される、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項11】
前記時間は、前記複数のレーダ送信信号の送信周期の整数倍である、
請求項10に記載のレーダ装置。
【請求項12】
前記レーダ送信信号が物標にて反射された反射波信号を受信する受信アンテナをさらに含み、
前記送信アンテナ、及び、前記受信アンテナの少なくとも一方の数は1つである、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項13】
前記送信アンテナが複数のアンテナであり、
前記送信位相回転回路は、前記複数の送信アンテナの少なくとも一部に共通して備える、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項14】
前記期間内において、連続して送信される前記レーダ送信信号の位相は反転している関係である、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項15】
前記複数の位相回転量の種類の数は、前記同相加算が行われる回数の約数のうち一つと一致する、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項16】
前記レーダ送信信号は、周波数変調信号である、
請求項1に記載のレーダ装置。
【請求項17】
レーダ送信信号を送信する複数の送信アンテナと、
前記複数の送信アンテナを、前記レーダ送信信号がN(Nは2以上の整数)回送信される期間毎に切り替える制御回路と、
2πの整数倍を、前記期間内において前記Nで除算した値に基づいて算出される位相回転量を、前記期間内の前記N回送信されるレーダ送信信号の各々に付与する送信位相回転回路と、を具備し、
前記位相回転量が付与された前記N個のレーダ送信信号は、前記複数の送信アンテナのうち、前記制御回路によって切り替えられる送信アンテナを用いて送信される、
レーダ装置。
【請求項18】
符号系列に含まれる複数の符号要素に基づく第1の位相回転量を、M(Mは1以上の整数)個の期間を単位としてM×N(Nは2以上の整数)個のレーダ送信信号に付与する符号多重回路と、
2πの整数倍を、前記期間内において前記Nで除算した値に基づいて算出される第2の位相回転量を、前記期間内の前記N個のレーダ送信信号の各々に付与する送信位相回転回路と、
前記第1及び第2の位相回転量が付与された前記M×N個のレーダ送信信号を送信する送信アンテナと、
を具備するレーダ装置。
【請求項19】
N(Nは2以上の整数)個のレーダ送信信号が送信アンテナから送信される送信期間と、前記レーダ送信信号を停止する停止期間とを所定回繰り返し、前記停止期間はレーダ測位期間よりも長い、レーダ装置であって、
2πの整数倍を、前記送信期間内にて前記Nで除算した値に基づいて算出される位相回転量を、前記送信期間内の前記N個のレーダ送信信号の各々に付与する送信位相回転回路と、を具備し、
前記位相回転量が付与された前記N個のレーダ送信信号は、前記送信アンテナを用いて送信される、
レーダ装置。
【請求項20】
前記送信アンテナが複数のアンテナであり、
前記複数の送信アンテナのうち、前記レーダ送信信号を送信する送信アンテナを、前記期間内に切り替える制御回路、をさらに具備し、、
前記位相回転量が付与された前記N個のレーダ送信信号は、前記複数の送信アンテナのうち、前記制御回路によって切り替えられる送信アンテナを用いて送信される、
請求項19に記載のレーダ装置。
【請求項21】
前記制御回路は、前記複数の送信アンテナのうちの第1の送信アンテナから前記レーダ送信信号がN個以下の回数で連続的に送信後、前記第1の送信アンテナから、前記第1の送信アンテナと異なる第2の送信アンテナへ切り替える、
請求項20に記載のレーダ装置。
【請求項22】
前記制御回路は、前記複数の送信アンテナを前記レーダ送信信号の送信周期毎に切り替える、
請求項20に記載のレーダ装置。
【請求項23】
前記停止期間は、前記レーダ送信信号の送信周期の整数倍の間隔である、
請求項19~22の何れかに記載のレーダ装置。
【請求項24】
同相加算が行われる複数のレーダ送信信号が送信される期間において、2πの整数倍を前記同相加算が行われる回数で除算した値に基づいて算出される複数の位相回転量を各レーダ送信信号に付与する送信位相回転回路と、
前記位相回転量が付与された前記複数のレーダ送信信号を送信する送信アンテナと、
前記レーダ送信信号が物標にて反射された反射波信号を受信する受信アンテナと、
前記送信位相回転回路による位相回転と逆方向に、前記位相回転量を前記反射波信号に付与する受信位相回転回路と、
前記受信位相回転回路により前記位相回転が付与された前記反射波信号を、前記期間において同相加算する同相加算回路と、
前記同相加算後の前記反射波信号に基づいて、バイタル情報を検出する検出回路と、
を具備するバイタル検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーダ装置、及び、バイタル検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高分解能が得られるマイクロ波又はミリ波を含む波長の短いレーダ送信信号を用いたレーダ装置の検討が進められている。
【0003】
レーダ装置を用いた測位では、例えば、物標(又は、ターゲットと呼ぶ)の距離又はレーダ装置と物標との間の相対速度を検出するためドップラ周波数検出が行われる。また、レーダ装置において、複数のアンテナを用いることにより、物標の方位角又は仰角の測定(例えば、測角)も可能である。
【0004】
測角処理を行う場合のレーダ装置の構成として、複数のアンテナ(アンテナ素子)で構成されるアレーアンテナによって反射波を受信し、素子間隔(アンテナ間隔)に対する受信位相差に基づく信号処理アルゴリズムによって反射波の到来角(到来方向)を推定する手法(到来角推定手法。Direction of Arrival (DOA) estimation)を用いる構成がある。例えば、到来角推定手法には、フーリエ法(Fourier法)、又は、高い分解能が得られる手法としてCapon法、MUSIC(Multiple Signal Classification)及びESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)が挙げられる。
【0005】
また、レーダ装置として、例えば、受信部に加え、送信部にも複数のアンテナ(アレーアンテナ)を備え、送受信アレーアンテナを用いた信号処理によりビーム走査を行う構成(MIMO(Multiple Input Multiple Output)レーダと呼ぶこともある)が提案されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Li, and P. Stoica, "MIMO Radar with Colocated Antennas", Signal Processing Magazine, IEEE Vol. 24, Issue: 5, pp. 106-114, 2007
【非特許文献2】F. Michler , B. Scheiner , T. Reissland , R. Weigel and A. Koelpin , Micrometer Sensing With Microwaves: Precise Radar Systems for Innovative Measurement Applications," in IEEE Journal of Microwaves, vol. 1, no. 1, pp. 202-217, 2021,
【非特許文献3】M. Kronauge, H.Rohling,"Fast two-dimensional CFAR procedure", IEEE Trans. Aerosp. Electron. Syst., 2013, 49, (3), pp. 1817-1823
【非特許文献4】Direction-of-arrival estimation using signal subspace modeling Cadzow, J.A.; Aerospace and Electronic Systems, IEEE Transactions on Volume: 28 , Issue: 1 Publication Year: 1992 , Page(s): 64 - 79
【非特許文献5】M. Alizadeh, G. Shaker, J. C. M. D. Almeida, P. P. Morita and S. Safavi-Naeini, "Remote Monitoring of Human Vital Signs Using mm-Wave FMCW Radar," in IEEE Access, vol. 7, pp. 54958-54968, 2019.
【非特許文献6】D. Sasakawa, N. Honma, T. Nakayama and S. Iizuka, "Fast Living-Body Localization Algorithm for MIMO Radar in Multipath Environment," in IEEE Transactions on Antennas and Propagation, vol. 66, no. 12, pp. 7273-7281, Dec. 2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、レーダ装置(例えば、MIMOレーダ)において物標の検出精度を向上する方法について検討の余地がある。
【0008】
本開示の非限定的な実施例は、物標を精度良く検知できるレーダ装置の提供に資する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一実施例に係るレーダ装置は、同相加算が行われる複数のレーダ送信信号が送信される期間において、2πの整数倍を前記同相加算が行われる回数で除算した値に基づいて算出される複数の位相回転量を各レーダ送信信号に付与する送信位相回転回路と、前記位相回転量が付与された前記複数のレーダ送信信号を送信する送信アンテナと、を具備する。
【0010】
なお、これらの包括的または具体的な実施例は、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム、または、記録媒体で実現されてもよく、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラムおよび記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一実施例によれば、レーダ装置において物標を精度良く検知できる。
【0012】
本開示の一実施例における更なる利点および効果は、明細書および図面から明らかにされる。かかる利点および/または効果は、いくつかの実施形態並びに明細書および図面に記載された特徴によってそれぞれ提供されるが、1つまたはそれ以上の同一の特徴を得るために必ずしも全てが提供される必要はない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図7】送信アンテナ切替時の送信信号の一例を示す図
【
図18】送信アンテナ切替時の送信信号の一例を示す図
【
図22】位相変動量と符号間干渉電力比との関係の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0014】
MIMOレーダは、例えば、時分割(TDM:Time Division Multiplexing)、周波数分割(FDM:Frequency Division Multiplexing)、又は、符号分割(CDM:Code Division Multiplexing)を用いて多重した信号(レーダ送信波、レーダ信号、又は、レーダ送信信号とも呼ぶ)を複数の送信アンテナ(又は送信アレーアンテナと呼ぶ)から送信する。また、MIMOレーダは、例えば、周辺物体において反射された信号(レーダ反射波又は反射波信号とも呼ぶ)を複数の受信アンテナ(又は受信アレーアンテナと呼ぶ)を用いて受信し、それぞれの受信信号から、多重された送信信号を分離して受信する。このような処理により、MIMOレーダは、送信アンテナ数と受信アンテナ数との積で示される伝搬路応答を取り出すことができ、これらの受信信号を仮想受信アレーとしてアレー信号処理を行う。
【0015】
また、MIMOレーダでは、送受信アレーアンテナにおける素子間隔を適切に配置することにより、仮想的にアンテナ開口を拡大し、角度分解能の向上を図ることができる(例えば、非特許文献1を参照)。
【0016】
また、マイクロ波及びミリ波といった波長の短いレーダ送信信号を用いたレーダ装置については、小型化及び低廉化が進展し、例えば、ジェスチャー検出といった非接触インターフェース、生体検出、又は、呼吸あるいは心拍といった生物(例えば、人体)のバイタル情報(又は、バイタルサイン、生体情報とも呼ぶ)の検出などの用途への応用が検討され、適用範囲が拡大している。例えば、呼吸又は心拍といったバイタル情報の検出へのレーダ装置の適用により、非接触であり、また、リアルタイム計測が可能となり、被検者が意識することなく計測できるメリットがあり、技術開発が進展している。
【0017】
例えば、バイタル情報の検出におけるレーダ装置の検出精度(又は、測位精度)に関しては改善の余地がある。
【0018】
レーダ装置を用いた呼吸又は心拍といったバイタル情報の検出処理は、例えば、呼吸又は心拍よる人体の位置変化を、受信位相の変化として検出する原理を用いてよい(例えば、非特許文献2を参照)。
【0019】
例えば、
図1に示すように、レーダ装置が人体の胸部正面にレーダ送信波を送信した際に、呼吸又は心拍による位置変動Δxが生じた場合、レーダ反射波の行路は2Δx変化する。このような位置変動Δxに伴い、レーダ受信位相は変化する。レーダ受信位相の変化(例えば、位相変動)ΔΨは、例えば、次式(1)のように表される。式(1)に示すように、レーダ送信波の波長λが小さいほど、受信位相の変化ΔΨは大きくなり、レーダ装置は、微小な位相変化を検出しやすくなる。ここで、式(1)において、Ψ(t)は時刻tにおける位相を表し、Ψ(t
0)は基準時刻t
0における基準位相を表す。また、x(t)は、後述する式(4)に示すように位相Ψ(t)を基にして時刻tにおける位置を算出したものである。位置変動Δxは、基準時刻t
0における基準位置x(t
0)を用いて、Δx=x(t)-x(t
0)と表すことができる。
【数1】
【0020】
一例として、呼吸による位置変動量Δxが10mmであり、60GHzの周波数のレーダ送信波を用いた場合、レーダ送信波の波長λは5mmであり、位相変動量ΔΨ=8πである。このように、レーダ装置は、複素位相平面における位相変動を検出することにより、呼吸数を検出可能となる。
【0021】
例えば、複素平面上において時刻tの同相成分(in-phase成分。例えば、I成分と呼ぶ)がi(t)、直交成分(quadrature-phase成分。例えば、Q成分と呼ぶ)がq(t)の場合の位相Ψ(t)(=angle[i(t)+jq(t)])は、次式(2)のように算出されてよい。
【数2】
【0022】
また、位相変動量|ΔΨ|がπを超える場合、レーダ装置は、例えば、位相変動量を正しく推定するために位相アンラッピング処理を行ってよい。位相アンラッピング処理は、例えば、連続する測定データ間の位相変化がπラジアン以上の場合、位相変化がπ未満となる2πの整数倍値を加算することによって位相をシフトする処理である。
【0023】
以下では、実数xに対して位相アンラッピング処理を行う関数をunwrap[x]と表記する。ここで、-π<x≦πである。
【0024】
位相アンラッピング処理を施して得られる位相Ψ(t)は次式(3)のように示される。
【数3】
【0025】
このように算出された時刻tにおける位相Ψ(t)よって、レーダ装置は、例えば、次式(4)のように、時刻tにおける距離(あるいは位置)に換算したx(t)を算出してよい。
【数4】
【0026】
レーダ装置は、例えば、このように算出された位相アンラッピング処理を施して得られる位相Ψ(t)又は距離(あるいは位置)x(t)を、所定の時間区間に亘り計測することにより、位相又は距離(あるいは位置)の時間変動を観測できる。また、レーダ装置は、例えば、これらの計測結果に対して、フーリエ変換(例えば、Fast Fourier Transform(FFT))を用いた周波数解析を行うことにより、呼吸や心拍などに対応する変動周期を検出することで、呼吸回数又は心拍数を推定できる。
【0027】
上述した手法では、例えば、
図1に示すように、レーダ装置は、物標(例えば、人体)にて反射した反射波信号を受信し、受信信号に対してレーダ送信波をミキシングして、複素レーダ受信信号(例えば、I成分及びQ成分を含む)を出力する直交検波部を備えてよい。
【0028】
ここで、直交検波部において、DCオフセット又はIQミスマッチといったアナログ回路誤差が発生すると、IQ位相平面が歪み、レーダ装置は、位相変動を正確に検出することが困難になり得る。例えば、アナログ回路誤差としてDCオフセットが存在する場合、同相成分のDCオフセット成分「DCI」、及び、直交成分のDCオフセット成分「DCQ」が存在する場合、位相Φ(t)は次式(5)によって示されてよい。
【数5】
【0029】
例えば、
図2の(a)及び(b)に示すように、直交検波部において発生するDCオフセット成分(例えば、DCI及びDCQ)が大きいほど、位相変動(例えば、測定データ)の中心点が原点からシフトされるため、レーダ装置では、位相の正確な検出が困難となり、位相検出の精度が低減し得る。
【0030】
このような誤差要因に対する技術として、以下の方法が挙げられる。
【0031】
例えば、非特許文献5に開示されているように、複素レーダ受信信号の統計処理(例えば、最小二乗法)によってDCオフセットを算出して補正する方法(例えば、「方法1」と呼ぶ)がある。しかしながら、方法1では、DCオフセットの算出の際に逆行列演算(例えば、測定データ数の次元の逆行列演算を行う)が行われるため、演算量が増大し得る。また、方法1では、測定データ数の数が少ない場合にはDCオフセット算出の際の誤差が生じやすくなる。
【0032】
また、例えば、非特許文献6に開示されているように、複素レーダ受信信号の差分を用いて位相変動を算出する方法(例えば、「方法2」と呼ぶ)がある。方法2では、方法1と比較して少ない演算量によりDCオフセットの抑制が可能である。しかしながら、方法2では、複素レーダ受信信号の差分を用いるため、複素レーダ受信信号のSNR(信号電力対雑音電力比)が低い場合に、ノイズの影響を受けやすい。
【0033】
本開示の非限定的な実施例では、少ない演算量によってDCオフセット成分を抑制(例えば、除去)し、また、受信信号レベルの向上によりノイズの影響を低減することにより、呼吸又は心拍といったバイタル情報の検出精度を向上する方法について説明する。
【0034】
以下、本開示の一実施例に係る実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、実施の形態において、同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は重複するので省略する。
【0035】
(実施の形態1)
[レーダ装置の構成]
以下では、レーダ装置において、レーダ送信部において、複数の送信アンテナから時分割多重(TDM)されたレーダ送信信号を送出し、レーダ受信部において、各レーダ送信信号を分離して受信処理を行う構成(例えば、MIMOレーダ構成)について説明する。
【0036】
また、以下では、一例として、チャープ(chirp)パルスのような周波数変調したパルス波を用いたレーダ方式(例えば、チャープパルス送信(fast chirp modulation)とも呼ぶ)の構成について説明する。ただし、変調方式は、周波数変調に限定されない。例えば、本開示の一実施例は、パルス列を位相変調又は振幅変調して送信するパルス圧縮レーダを用いたレーダ方式についても適用可能である。
【0037】
図3は、本実施の形態に係るレーダ装置1(例えば、バイタル検出装置に対応)の構成例を示す。
【0038】
図3のレーダ装置1は、例えば、レーダ送信部(送信ブランチ又はレーダ送信回路に対応)100と、レーダ受信部(受信ブランチ又はレーダ受信回路に対応)200と、を有する。
【0039】
レーダ送信部100は、例えば、レーダ送信信号を生成し、複数の送信アンテナ108-1~108-Ntによって構成される送信アレーアンテナを用いて、レーダ送信信号を所定の送信周期にて送信する。例えば、レーダ送信信号の送信周期は、比較的緩やかな変動を有する、バイタル情報の変動に対応する周期(例えば、バイタル情報のサンプリング周期)よりも短い周期でもよい。
【0040】
レーダ受信部200は、例えば、物標(ターゲット。図示せず)により反射したレーダ送信信号である反射波信号を、複数の受信アンテナ202-1~202-Naを含む受信アレーアンテナを用いて受信する。レーダ受信部200は、各受信アンテナ202において受信した反射波信号の信号処理を行う。例えば、レーダ受信部200は、信号処理後の反射波信号に基づいて、バイタル情報を検出してよい。
【0041】
[レーダ送信部100の構成例]
レーダ送信部100は、例えば、レーダ送信信号生成部101と、送信位相回転部105と、アンテナ切替制御部106と、スイッチ部(SW部)107と、送信アンテナ108と、を有する。
【0042】
レーダ送信信号生成部101は、例えば、レーダ送信信号を生成する。生成されるレーダ送信信号は、例えば、所定の周波数変調波(例えば、周波数チャープ信号又はチャープ信号)でよい。
【0043】
レーダ送信信号生成部101は、例えば、信号制御部102、変調信号発生部103及びVCO(Voltage Controlled Oscillator: 電圧制御発振器)104を有する。以下、レーダ送信信号生成部101における各構成部について説明する。
【0044】
信号制御部102は、例えば、変調信号発生部103又はVCO104に対して、レーダ送信信号の生成を制御する。例えば、信号制御部102は、1回のレーダ測位につき、チャープ信号を送信周期Tr毎にNc回送信するように、チャープ信号に関するパラメータ(例えば、変調パラメータ)を設定してよい。信号制御部102は、例えば、レーダ送信信号の生成制御に関する情報を、変調信号発生部103及びアンテナ切替制御部106に出力してよい。
【0045】
変調信号発生部103は、例えば、のこぎり歯形状の変調信号を周期的に発生させる。ここで、レーダ送信周期をTrとする。変調信号発生部103は、例えば、信号制御部102から入力される情報に基づいて、変調信号を発生させてよい。
【0046】
VCO104は、変調信号発生部103から出力される変調信号に基づいて、チャープ信号を生成し、送信位相回転部105、及び、レーダ受信部200(後述するミキサ部204)へ出力する。
【0047】
図4は、レーダ送信信号生成部101から出力されるチャープ信号の一例を示す。例えば、レーダ装置1は、レーダ送信信号生成部101においてレーダ送信周期T
rで生成される複数のチャープ信号を送信し、物標においてチャープ信号が反射された反射波を複数回測定することにより、物標の測位結果の時間変動を検出できる。なお、以下では、N
c回の送信周期T
rでチャープ信号を送信するものとし、それぞれの送信周期をインデックス「m」で表す。ここで、m=1~N
cの整数である。
【0048】
また、例えば、レーダ装置1が複数回のレーダ測位を行う場合、信号制御部102は、所定の送信停止時間Tstop(又は、送信停止期間とも呼ぶ)を設けてよい。例えば、信号制御部102は、送信周期Tr毎にNc回の送信を行った後に、送信停止時間Tstopを経て、送信周期Tr毎にNc回送信を繰り返す制御を行ってよい。このような送信制御により、レーダ装置1は、例えば、バイタル情報といった時間変動が比較的緩やかなデータを長時間に亘って検出可能となる。例えば、レーダ装置1は、複数Nrepeat回のレーダ測位を繰り返すことで、(Nc×Tr+Tstop)×Nrepeatに亘る時間(期間とも呼ぶ)において、チャープ信号をNc×Nrepeat回送信して得られる物標の時間変動を観測できる。
【0049】
ここで、送信停止時間T
stopは、例えば、T
rの整数倍に設定されてよい。例えば、
図5は、信号制御部102が、送信周期T
r毎にN
c回の送信を行った後に、T
rの整数倍単位の間隔となる送信停止時間T
stopを経て、送信周期T
r毎にN
c回送信を繰り返す制御を行う場合のレーダ送信波の例を示す。例えば、送信停止時間T
stopがT
rの整数倍単位の間隔でない場合は、レーダ装置1は、複数回のレーダ測位間での測定時間間隔を揃えるためのリサンプリングによる補間処理を行う。これに対して、
図5に示すように、送信停止時間T
stopを、T
rの整数倍単位の間隔とすることで、レーダ装置1では、例えば、複数回のレーダ測位間の測定時間間隔がT
rの整数倍の間隔となる。従って、複数回のレーダ測位間の測定時間間隔を揃えるためのリサンプリングによる補間処理が不要となり、より好適である。なお、以降の他の実施の形態又はバリエーションにおいても複数回のレーダ測位を行う制御について同様に適用してよい。
【0050】
図6は、レーダ送信信号生成部101から出力されるチャープ信号の例を示す。
【0051】
図6に示すように、チャープ信号に関する変調パラメータには、例えば、中心周波数f
c、周波数掃引帯域幅B
w、掃引開始周波数f
cstart、掃引終了周波数f
cend、周波数掃引時間T
sw、及び、周波数掃引変化率D
mが含まれてよい。なお、D
m=B
w/T
swである。また、B
w= f
cend-f
cstart及びf
c=(f
cstart+f
cend)/2である。
【0052】
また、周波数掃引時間T
swは、例えば、後述するレーダ受信部200のA/D変換部207におけるA/Dサンプルデータを取り込む時間範囲(又は、レンジゲートと呼ぶ)に対応する。周波数掃引時間T
swは、例えば、
図6の(a)に示すようにチャープ信号の全体の区間に設定されてもよく、
図6の(b)に示すように、チャープ信号の一部の区間に設定されてもよい。
【0053】
なお、
図4及び
図6では、変調周波数が時間の経過とともに徐々に高くなるアップチャープの波形の例を示すが、これに限定されず、変調周波数が時間の経過とともに徐々に低くなるダウンチャープが適用されてもよい。変調周波数がアップチャープ及びダウンチャープの何れであるかに依らず同様な効果を得ることができる。
【0054】
図3において、レーダ送信部100は、Nt個の送信アンテナ108(例えば、Tx#1~Tx#Ntとも表す)を有し、各送信アンテナ108は、それぞれ個別のSW部107に接続されてもよい。また、各送信アンテナ108に対応するSW部107は、それぞれ個別の送信位相回転部105に接続されてもよい。
【0055】
Nt個の送信位相回転部105は、例えば、レーダ送信信号生成部101から入力されるチャープ信号に対して、複数回(例えば、「Ncoh」と表す)のチャープ信号の送信周期(Ncoh×Tr)において、チャープ信号の送信周期Tr毎に所定の位相回転Φ(m)を付与し、位相回転Φ(m)を付与した信号をSW部107に出力する。複数回Ncohは、例えば、レーダ受信部200における同相加算回数に対応してよい。なお、送信位相回転部105における動作の例については後述する。
【0056】
アンテナ切替制御部106は、複数の送信アンテナ108のうち、レーダ送信信号を送信する送信アンテナ108を、複数回Ncohのチャープ信号の送信周期に対応する期間(Ncoh×Tr)毎に切り替える。例えば、アンテナ切替制御部106は、複数回Ncohのチャープ信号の送信周期(Ncoh×Tr)毎に(例えば、Ncoh×Trの単位で)、送信アンテナ108を所定の順番で切り替えるようにSW部107を制御する。また、アンテナ切替制御部106は、アンテナ切替制御に関する情報をレーダ受信部200(例えば、出力切替部211)へ出力する。
【0057】
例えば、アンテナ切替制御部106は、第1~Ncoh番目の送信周期に、第1の送信アンテナ108(Tx#1)に対応するSW部107をONに設定し、第1の送信アンテナ108と異なる他の送信アンテナ108に対応するSW部107をOFFに設定してよい。
【0058】
また、例えば、アンテナ切替制御部106は、第(Ncoh+1)~(2Ncoh)番目の送信周期に、第2の送信アンテナ108(Tx#2)に対応するSW部107をONに設定し、第2の送信アンテナ108と異なる他の送信アンテナ108に対応するSW部107をOFFに設定してよい。
【0059】
アンテナ切替制御部106は、これらのSW部107の制御(切り替え)を繰り返して、第((n-1)×Ncoh+1)~(n×Ncoh)番目の送信周期に、第nの送信アンテナ108(Tx#n)に対応するSW部107をONに設定し、第nの送信アンテナ108と異なる他の送信アンテナ108に対応するSW部107をOFFに設定してよい。ここで、n=1~Ntの整数である。
【0060】
また、アンテナ切替制御部106は、例えば、第((Nt-1)×Ncoh+1)~(Nt×Ncoh)番目の送信周期に、第Ntの送信アンテナ108(Tx#Nt)に対応するSW部107をONに設定し、第Ntの送信アンテナ108と異なる他の送信アンテナ108に対応するSW部107をOFFに設定してよい。
【0061】
アンテナ切替制御部106は、例えば、Nt個の送信アンテナ108の切り替えが終了した場合、以降、n=1~Ntまでと同様のアンテナ切替制御を繰り返し行ってよい。
【0062】
なお、アンテナ切替制御部106は、例えば、第m番目のチャープ信号の送信周期において、送信アンテナTx#[mod(floor((m-1)/Ncoh),Nt)+1]に対応するSW部107をONに設定し、他の送信アンテナ108に対応するSW部107をOFFに設定してもよい。ここで、mod(x, y)はモジュロ演算子であり、xをyで割った後の余りを出力する関数である。また、floor(x)は、実数xを超えない最大の整数値を返す関数である。
【0063】
Nt個のSW部107は、例えば、アンテナ切替制御部106からの制御に基づいて、ON及びOFFの状態を切り替える。ここで、第n番目のSW部107がON状態の場合、第n番目の送信位相回転部105から入力される送信信号は、第n番目の送信アンテナ108から出力される。その一方で、第n番目のSW部107がOFF状態の場合、第n番目の送信位相回転部105から入力される送信信号は、第n番目の送信アンテナ108から出力されない。ここで、n=1~Ntの整数である。
【0064】
よって、複数のSW部107のうち、ON状態のSW部107に対応する送信位相回転部105の出力信号が、所定の送信電力に増幅され、ON状態のSW部107に対応する送信アンテナ108から空間に放射される。
【0065】
例えば、アンテナ切替制御部106が、第m番目のチャープ信号の送信周期において、送信アンテナTx#[mod(floor((m-1)/N
coh),Nt)+1]のSW部107をONに設定し、他の送信アンテナ108のSW部107をOFFに設定するように、SW部107を制御する場合について説明する。この場合、第m番目のチャープ信号の送信周期において、送信アンテナTx#[mod(floor((m-1)/N
coh),Nt)+1]から、次式(6)のようなレーダ送信信号が出力されてよい。ここでcp(t)は送信周期毎のチャープ信号を表す。ここで、jは虚数単位を表す。
【数6】
【0066】
図7は、一例として、送信アンテナ数Nt=2、N
coh=4の場合の第1~第16番目の送信周期(例えば、T
r#1~T
r#16)における、各送信アンテナ108(例えば、Tx#1及びTx#2)から出力されるレーダ送信波(チャープ信号)を示す。N
coh=4であるので、レーダ送信部100は、チャープ信号のN
coh回の送信周期(4T
r)毎に、送信アンテナ108を切り替える。例えば、
図7の(a)に示すように、送信アンテナTx#1からは、T
r#1~T
r4、及び、T
r#9~T
r#12において、チャープ信号が出力される。また、例えば、
図7の(b)に示すように、送信アンテナTx#2からは、T
r#5~T
r#8、及び、T
r#13~T
r#16において、チャープ信号が出力される。
【0067】
[レーダ受信部200の構成例]
図3において、レーダ受信部200は、Na個の受信アンテナ202(例えば、Rx#1~Rx#Na)を備え、アレーアンテナを構成する。また、レーダ受信部200は、Na個のアンテナ系統処理部201と、CFAR(Constant False Alarm Rate)部213と、方向推定部214と、ビームウェイト乗算部215と、バイタル信号検出部216を有する。ここで、Na≧1である。
【0068】
アンテナ系統処理部201は、例えば、Na個の受信アンテナ202のそれぞれに対応して備えてよい。
【0069】
Na個の受信アンテナ202のそれぞれは、レーダ送信部100の送信アンテナ108から送信されるレーダ送信信号が物標(例えば、レーダ測定ターゲットを含む反射物体)に反射した反射波信号を受信し、受信した反射波信号を、対応するアンテナ系統処理部201へ受信信号として出力する。
【0070】
各アンテナ系統処理部201は、受信無線部203と、信号処理部206とを有する。
【0071】
受信無線部203は、ミキサ部204と、LPF(low pass filter)205と、を有する。受信無線部203において、ミキサ部204は、受信した反射波信号(受信信号)に対して、送信信号であるチャープ信号とのミキシングを行う。また、ミキサ部204の出力を、LPF205に通過させることにより、反射波信号の遅延時間に応じた周波数となるビート信号が取り出される。例えば、
図8に示すように、送信信号(送信周波数変調波)の周波数と、受信信号(受信周波数変調波)の周波数との差分周波数がビート周波数(又は、ビート信号)として得られる。
【0072】
図3において、各アンテナ系統処理部201-z(z=1~Naの何れか)の信号処理部206は、A/D変換部207と、ビート周波数解析部208と、受信位相回転部209と、同相加算部210と、出力切替部211と、記憶部212と、を有する。
【0073】
LPF205から出力された信号(例えば、ビート信号)は、信号処理部206において、A/D変換部207によって、離散的にサンプリングされた離散サンプルデータに変換される。
【0074】
ビート周波数解析部208は、送信周期Tr毎に、所定の時間範囲(レンジゲート)において得られたNdata個の離散サンプルデータをFFT処理する。これにより、信号処理部206では、反射波信号(レーダ反射波)の遅延時間に応じたビート周波数にピークが現れる周波数スペクトラムが出力される。なお、FFT処理の際、ビート周波数解析部208は、例えば、Han窓又はHamming窓等の窓関数係数を乗算してもよい。窓関数係数を用いることにより、ビート周波数ピーク周辺に発生するサイドローブを抑圧できる。
【0075】
なお、Ndataが2のべき乗でない場合には、例えば、ゼロ埋めしたデータを含めることで2べき乗個のデータサイズとしてFFT処理が可能である。このような場合は、ゼロ埋めしたデータを含めたデータ数をNdataと見なすことで、Ndataが2のべき乗であるか否かに依らずに同様に扱ってよい。
【0076】
ここで、第z番目のアンテナ系統処理部201の信号処理部206において、チャープ信号の第m番目のチャープパルス送信によって得られるビート周波数解析部208から出力されるビート周波数応答を「RFTz(fb, m)」と表す。ここで、fbはビート周波数インデックスを表し、FFTのインデックス(ビン番号)に対応する。例えば、fb=0~Ndata/2-1であり、z=1~Naの整数であり、m=1~NCの整数である。ビート周波数インデックスfbが小さいほど、反射波信号の遅延時間が小さい(例えば、物標との距離が近い)ビート周波数を示す。
【0077】
また、ビート周波数インデックスf
bは、例えば、式(7)を用いて、距離情報R(f
b)に変換されてよい。以下では、ビート周波数インデックスf
bを「距離インデックスf
b」と呼ぶ。
【数7】
【0078】
ここで、Bwは、チャープ信号におけるレンジゲート内での周波数掃引帯域幅を表し、C0は光速度を表す。
【0079】
受信位相回転部209は、例えば、ビート周波数解析部208から出力されるビート周波数応答RFT
z(f
b, 1), RFT
z(f
b, 2), ~, RFT
z(f
b, N
c)に対して、距離インデックスf
b毎に、送信位相回転部105において付与される位相シフトΦ(m)を打ち消す位相回転を付与する。例えば、受信位相回転部209は、次式(8)のように、送信位相回転部105による位相回転と逆方向(位相回転の方向を反転、例えば、位相回転の符号反転)に位相回転量(例えば、逆位相シフト(-Φ(m)))を反射波信号に付与してよい。ここで、z=1~Naの整数であり、m=1~Ncである。
【数8】
【0080】
受信位相回転部209は、例えば、位相回転を付与した信号(RxRotRFTz(fb, m))を、同相加算部210へ出力する。
【0081】
同相加算部210は、例えば、受信位相回転部209から出力信号に対して同相加算を行う。例えば、レーダ送信部100において複数回N
cohのチャープ信号の送信周期(N
coh×T
r)において、チャープ信号の送信周期T
r毎に所定の位相回転Φ(m)が付与された信号が出力される。そこで、同相加算部210は、例えば、複数回N
cohの送信周期に対応する期間(N
coh×T
r)において得た受信位相回転部209からの出力(例えば、複素数値)に対して、次式(9)に示すように、距離インデックスf
b毎に同相加算を行う(以下、複素数値の加算処理を、同相加算と呼ぶ)。ここで、s=1~N
c/N
cohである。例えば、N
cは、N
cohの整数倍の値に設定することが好適である。
【数9】
【0082】
同相加算部210は、同相加算処理後の信号(SumRFTz(fb, s))を出力切替部211へ出力する。
【0083】
出力切替部211は、例えば、Nt個の送信アンテナ108毎に得られる受信信号をNt個の記憶部212において記憶するように出力を切り替える。例えば、レーダ送信部100において複数回Ncohのチャープ信号の送信周期(Ncoh×Tr)にて送信アンテナ108が切り替えられる。そのため、出力切替部211は、同相加算部210からの出力SumRFTz(fb, s)におけるインデックスsに応じて、Nt個の記憶部212への出力を切り替えてよい。
【0084】
例えば、アンテナ切替制御部106が第m番目のチャープ信号の送信周期において、送信アンテナTx#[mod(floor((m-1)/Ncoh),Nt)+1]のSW部107をONに設定し、他の送信アンテナ108のSW部107をOFFに設定するように、SW部107を制御して、送信アンテナ108を切り替えてレーダ送信信号が送信される場合について説明する。この場合、出力切替部211は、例えば、第z番目のアンテナ系統処理部201の信号処理部206における同相加算部210からの出力SumRFTz(fb, s)を、第(mod(s-1,Nt)+1)番目の記憶部212に出力する。
【0085】
Nt個の記憶部212のそれぞれは、出力切替部211から入力される信号を記憶する。例えば、出力切替部211の動作により、第n番目の記憶部212(又は、記憶部212-nと表す)は、第n番目の送信アンテナ108から送信されるレーダ送信信号に対する反射波信号をz番目の受信アンテナ202にて受信した、距離インデックスfb毎の同相加算部210の出力信号であるSumRFTz(fb, mod(n-1, Nt)+1)を記憶する。ここで、fbはビート周波数インデックスを表し、fb=0~Ndata/2-1である。
【0086】
以上、信号処理部206の各構成部における処理について説明した。
【0087】
図3において、CFAR部213は、第1~第Na番目のアンテナ系統処理部201の信号処理部206それぞれにおけるNt個の記憶部212からの出力を用いて、CFAR処理(例えば、適応的な閾値判定により、レーダ反射波(受信信号)の局所的なピークの選択的な抽出)を行ってよい。CFAR部213は、局所的なピーク信号を与える距離インデックスf
b_cfar、及び、当該距離インデックスf
b_cfarにおける記憶部212にて記憶された受信データSumRFT
z(f
b_cfar, s)を抽出し、方向推定部214へ出力する。
【0088】
例えば、CFAR部213は、第1~第Na番目のアンテナ系統処理部201の信号処理部206におけるNt個の記憶部212の出力に対して、次式(10)に示すように電力加算値(例えば、PowerRFT(f
b))を算出して、CFAR処理を行ってよい。
【数10】
【0089】
なお、CFAR処理の動作については、例えば、非特許文献3に技術開示されており、詳細動作の説明を省略する。
【0090】
図3において、方向推定部214は、例えば、CFAR部213から入力される情報(例えば、距離インデックスf
b_cfar、及び、記憶部212にて記憶された受信データSumRFT
z(f
b_cfar, s))に基づいて、物標の方向推定処理を行う。
【0091】
例えば、方向推定部214は、距離インデックスfb_cfar毎に、物標の方向推定処理を行ってよい。例えば、方向推定部214は、距離インデックスfb_cfar毎に、式(11)に示すような仮想受信アレー相関行列ベクトルH(fb_cfar)を生成し、方向推定処理を行う。
【0092】
ここで、仮想受信アレー相関行列H(f
b_cfar)は、式(11)に示すように、送信アンテナ数Ntと受信アンテナ数Naとの積である(Nt×Na)行、及び、Nc/(N
coh×Nt)列の要素を含む。仮想受信アレー相関行列H(f
b_cfar)は、例えば、物標からの反射波に対して受信アンテナ202間の位相差に基づく方向推定を行う処理に用いられてよい。
【数11】
【0093】
式(11)において、h(f
b_cfar, ns)は、次式(12)に示す仮想受信アレー相関ベクトルを示す。なお、ns=1~Nc/(N
coh×Nt)である。
【数12】
【0094】
式(12)において、hcal[b]は、送信アレーアンテナ間及び受信アレーアンテナ間の位相偏差及び振幅偏差を補正するアレー補正値である。ここで、b=1~(Nt×Na)の整数である。
【0095】
方向推定部214は、例えば、方向推定評価関数値PH(θu, fb_cfar)における方位方向θuを所定の角度範囲内で可変して空間プロファイルを算出する。方向推定部214は、算出した空間プロファイルの極大ピークを大きい順に所定数抽出し、極大ピークの方位方向を到来方向推定値(例えば、測位出力)としてビームウェイト乗算部215へ出力してよい。
【0096】
なお、方向推定評価関数値PH(θu, fb_cfar)は、到来方向推定アルゴリズムによって各種の方法がある。例えば、非特許文献4に開示されているアレーアンテナを用いた推定方法を用いてもよい。
【0097】
例えば、ビームフォーマ法は次式(13)のように表すことができる。ビームフォーマ法の他にも、Capon, MUSICといった手法も同様に適用可能である。なお、式(13)において、上付き添え字Hはエルミート転置演算子である。
【数13】
【0098】
また、式(13)において、a(θ
u)は、レーダ送信信号の中心周波数fcにおける方位方向θ
uの到来波に対する仮想受信アレーの方向ベクトルを示し、Nt×Na個の仮想受信アレーが等間隔d
Hで直線状に配置される場合、式(14)で表される。式(14)において、λは、中心周波数f
cの場合のレーダ送信信号(例えば、チャープ信号)の波長であり、λ=C
0/f
cである。
【数14】
【0099】
また、方位方向θuは到来方向推定を行う方位範囲内を所定の方位間隔β1で変化させたベクトルである。例えば、θuは以下のように設定される。
θu=θmin + uβ1、整数u=0~ NU
NU=floor[(θmax-θmin)/β1]+1
ここでfloor(x)は、実数xを超えない最大の整数値を返す関数である。
【0100】
また、上述した例では、方向推定部214が到来方向推定値として方位方向を算出する例について説明したが、これに限定されず、仰角方向の到来方向推定、又は、矩形の格子状に配置されたMIMOアンテナを用いることにより、方位方向及び仰角方向の到来方向推定も可能である。例えば、方向推定部214は、到来方向推定値として方位方向及び仰角方向を算出して、測位出力としてもよい。
【0101】
以上の動作により、方向推定部214は、例えば、測位出力として、距離インデックスfb_cfarにおける到来方向推定値θ(fb_cfar)をビームウェイト乗算部215へ出力してよい。
【0102】
ビームウェイト乗算部215は、例えば、方向推定部214から測位出力として入力される、距離インデックスf
b_cfarにおけるレーダ反射波の到来方向推定値θ(f
b_cfar)に基づいて、Nt×Na個の仮想受信アンテナにおける受信信号に対する受信ビームウェイトW(f
b_cfar)を生成する。受信ビームウェイトW(f
b_cfar)は、例えば、次式(15)で表されてよい。
【数15】
【0103】
ビームウェイト乗算部215は、例えば、生成した受信ビームウェイトを、仮想受信アンテナにおける受信信号に乗算した信号(例えば、BeamSumRFT(f
b_cfar,ns))を、バイタル信号検出部216に出力する。仮想受信アンテナにおける受信信号に乗算した信号BeamSumRFT(f
b_cfar,ns)は、例えば、次式(16)で表されてよい。
【数16】
【0104】
受信ビームウェイトの乗算により、到来方向推定値θ(fb_cfar)方向からの到来波の受信品質(例えば、SNR:Signal to Noise Ratio)を向上できる。
【0105】
例えば、受信ビームウェイトW(f
b_cfar)は、次式(17)のように、到来方向推定値θ(f
b_cfar)方向に指向性ビームを向けるビームウェイトでよい。
【数17】
【0106】
または、受信ビームウェイトW(f
b_cfar)は、例えば、次式(18)のように、到来方向推定値θ(f
b_cfar)方向に指向性ビームを向けつつ、到来方向推定値θ(f
b_cfar)方向と異なる方向の受信電力が最小となるビームウェイト(例えば、Caponビームウェイト)でもよい。
【数18】
【0107】
バイタル信号検出部216は、例えば、ビームウェイト乗算部215からの出力信号に基づいて、人体といった生体のバイタル情報(又は、生体情報とも呼ぶ)を検出する。バイタル情報には、例えば、呼吸数又は心拍数といった情報が含まれてよい。呼吸数及び心拍数の検出方法は、例えば、非特許文献2に記載され、呼吸又は心拍数といったバイタル情報は、以下のような処理によって検出されてよい。
【0108】
バイタル信号検出部216は、例えば、CFAR部213においてピーク検出される距離インデックスf
b_cfar毎にバイタル情報を検出するために、次式(19)のような、ビームウェイト乗算部215の出力信号BeamSumRFT(f
b_cfar, ns)の位相成分を算出してよい。ここで、ns=1~N
c/(N
coh×Nt)である。
【数19】
【0109】
また、位相変動が±πを超えることが想定される場合、バイタル信号検出部216は、例えば、次式(20)のように、位相アンラッピング処理を用いて、ビームウェイト乗算部215の出力信号BeamSumRFT(f
b_cfar, ns)の位相成分を算出してよい。
【数20】
【0110】
また、バイタル信号検出部216は、例えば、算出した位相成分Ψ(fb_cfar, s)に対して、LPF(Low Pass Filter)、BPF(Band Pass Filter)又はHPF(High Pass Filter)といったフィルタを通過させてノイズ成分又は不要振動成分を除去してよい。
【0111】
その後、バイタル信号検出部216は、例えば、位相成分が変動する周波数(以下、「位相成分変動周波数」と呼ぶ)を検出するために、フーリエ周波数解析又はウエーブレット周波数解析を行ってよい。バイタル信号検出部216は、例えば、所定の位相成分変動周波数の範囲内に、所定のピークレベル(例えば、閾値)を超える成分が有る場合、バイタル情報が有ると判定し、ピークとなる位相成分変動周波数をバイタル検出結果として出力してよい。その一方で、バイタル信号検出部216は、例えば、所定の位相成分変動周波数の範囲内に、所定のピークレベル(例えば、閾値)を超える成分が無い場合、バイタル情報が無しと判定してよい。
【0112】
バイタル信号検出部216は、例えば、以上のような動作を、CFAR部213においてピーク検出された複数(例えば、全て)の距離インデックスfb_cfarに対して行ってよい。
【0113】
一例として、バイタル情報として呼吸数が検出される場合の想定される位相成分変動周波数の範囲は0.03~0.5Hz程度であり、バイタル情報として心拍数が検出される場合の想定される位相成分変動周波数の範囲は0.67~15Hz程度である。このことから、バイタル信号検出部216は、検出対象のバイタル情報のそれぞれに対応する周波数範囲を通過させるフィルタを適用してよい。また、バイタル信号検出部216は、例えば、複数のフィルタを組み合わせて適用してもよい。
【0114】
なお、複数回のレーダ測位を行う場合、レーダ装置1は、例えば、複数Nrepeat回のレーダ測位を繰り返すことにより、(Nc×Tr+Tstop)×Nrepeatに亘る時間において、チャープ信号をNc×Nrepeat回送信して得られる物標の時間変動を観測できる。このような場合、バイタル信号検出部216は、例えば、Nc×Nrepeat回のチャープ信号の送信によって得られるバイタル信号検出部216への入力に対して、上述した処理と同様の処理を行ってよい。
【0115】
[送信位相回転部105における位相回転の動作例]
次に、レーダ送信部100の送信位相回転部105における位相回転の動作例について説明する。
【0116】
送信位相回転部105は、例えば、複数回N
cohのチャープ信号の送信周期(N
coh×T
r)において、第m番目のチャープ信号の送信周期T
r毎に、次式(21)に示す位相回転Φ(m)をチャープ信号に付与する。ここで、αはゼロ以外の整数値である。また、N
coh≧2の整数値である。また、Φ
0は初期位相である。
【数21】
【0117】
式(21)のように、送信位相回転部105は、例えば、同相加算が行われる複数回Ncohの送信周期に対応する期間において、2πの整数倍を複数回Ncohで除算した位相回転量(例えば、2πα/Ncoh)に基づく位相回転を、レーダ送信信号(例えば、チャープ信号)に付与する。ここで、αは0を除く整数である。
【0118】
一例として、N
coh=2、α=1、Φ
0=0の場合、送信位相回転部105は、入力される第m番目のチャープ信号に対して、次式(22)のような位相回転Φ(m)を付与する。
【数22】
【0119】
他の例として、N
coh=4、α=1、Φ
0=0の場合、送信位相回転部105は、入力される第m番目のチャープ信号に対して、次式(23)のような位相回転Φ(m)を付与する。
【数23】
【0120】
他の例として、N
coh=4、α=-1、Φ
0=0の場合、送信位相回転部105は、入力される第m番目のチャープ信号に対して、次式(24)のような位相回転Φ(m)を付与する。
【数24】
【0121】
他の例として、N
coh=4、α=1、Φ
0=-π/2の場合、送信位相回転部105は、入力される第m番目のチャープ信号に対して、次式(25)のような位相回転Φ(m)を付与する。
【数25】
【0122】
他の例として、N
coh=4、α=-1、Φ
0=-π/2の場合、送信位相回転部105は、入力される第m番目のチャープ信号に対して、次式(26)のような位相回転Φ(m)を付与する。
【数26】
【0123】
他の例として、N
coh=8、α=1、Φ
0=0の場合、送信位相回転部105は、入力される第m番目のチャープ信号に対して、次式(27)のような位相回転Φ(m)を付与する。
【数27】
【0124】
例えば、第z番目のアンテナ系統処理部201のビート周波数解析部208から出力されるビート周波数応答RFT
z(f
b, 1)、RFT
z(f
b, 2)、~、RFT
z(f
b, N
c)において、同相成分(in-phase)のDCIオフセット成分「DCI」、及び、直交成分(quadrature-phase)のDCオフセット成分「DCQ」が存在する場合、ビート周波数応答RFT
z(f
b, m)は次式(28)で示される。
【数28】
【0125】
ここで、RealRFTz(fb, m)は、DCオフセット成分が無い場合のRFTz(fb, m)の実数成分を示し、ImageRFTz(fb, m)は、DCオフセット成分が無い場合のRFTz(fb, m)の虚数成分を示す。DCオフセット成分(例えば、DCI及びDCQの少なくとも一つ)が大きいほど、位相変動の原点がシフトするため、レーダ装置1では位相の正確な検出が困難となり、位相検出精度が劣化する可能性がある。
【0126】
一例として、N
coh=2、α=1、Φ
0=0の場合、送信位相回転部105において、入力される第m番目のチャープ信号に対して、次式(29)のような位相回転Φ(m)が付与される場合について説明する。
【数29】
【0127】
この場合、同相加算部210からの出力は、次式(30)で表すことができる。式(30)に示すように、同相加算部210の出力では、DCオフセット成分であるDCI及びDCQが除去される。
【数30】
【0128】
この例と異なる場合も同様に、送信位相回転部105において式(21)を満たす位相回転Φ(m)の付与により、同相加算部210の出力は、次式(31)で表される。また、式(31)におけるRFTORG
z(f
b, m)は式(32)で表される。
【数31】
【数32】
【0129】
式(31)の第1項目において、RFTORGz(fb, m)には、送信位相回転部105において付与される位相回転成分exp(jΦ(m))が含まれるが、受信位相回転部209において付与される位相回転成分exp(-jΦ(m))により、位相回転成分は相殺されてゼロとなり、同相加算処理が行われる。そのため、例えば、伝搬路応答が静止又は準静止状態であれば、同相加算利得により、受信品質(例えば、SNR)はNcoh倍に改善される。
【0130】
式(31)の第2項目において、レーダ受信部200の処理(例えば、直交検波)において発生するDCオフセット成分(DCI+jDCQ)には、受信位相回転部209において式(21)の逆位相回転成分exp(-jΦ(m))が付与される。このため、同相加算処理は、2π の整数倍(2πα)をNcoh分割した位相回転exp(-jΦ(m))を付与する加算となり、例えば、DCオフセット成分(DCI+jDCQ)が一定であれば、その加算値はゼロとなる。よって、上述した同相加算処理により、DCオフセット成分であるDCI及びDCQは除去される。ここで、αは0を除く整数である。
【0131】
ここで、Ncohが少なくとも2以上の場合、DCオフセット成分DCI及びDCQの除去が可能であり、バイタル情報の検出精度を改善できる。
【0132】
また、Ncohが大きいほど、同相加算利得を増加でき、受信品質(例えば、SNR)を改善し、バイタル情報の検出精度を改善できる。なお、Ncohに比例して受信品質(例えば、SNR)は向上する関係がある。例えば、同相加算部210の入力時と出力時とを比較すると、受信品質(例えば、SNR)はNcoh倍になる。
【0133】
その一方で、Ncohが大きいほど、呼吸又は心拍に起因する位相変動が平滑化されやすくなり、バイタル情報の正確な検出の妨げとなる可能性がある。よって、Ncohがとり得る範囲には適正な範囲がある。例えば、想定される心拍の最高値をFmax[Hz]に設定する場合、同相加算部210において同相加算を行う送信周期(Ncoh×Tr)は、少なくともサンプリング定理の条件(Ncoh×Tr)≦1/(2Fmax)を満たすように設定されてもよい。
【0134】
また、バイタル情報には、不規則な変動が含まれ得るため、サンプリング定理を満たす周波数の10倍程度のマージンをみて、同相加算部210において同相加算を行う送信周期(Ncoh×Tr)が設定されてもよい。例えば、同相加算部210において同相加算を行う送信周期(Ncoh×Tr)は、(Ncoh×Tr)≦1/(20×Fmax)を満たすように設定されることがより好適である。
【0135】
以上のように、本実施の形態において、レーダ送信部100において、送信位相回転部105は、チャープ信号に対して送信位相回転を付与し、レーダ受信部200において、受信位相回転部209は、受信信号に対して受信位相回転を付与し、同相加算部210は、受信位相回転の付与後の信号を同相加算する。
【0136】
例えば、送信位相回転部105は、同相加算が行われる複数のレーダ送信信号が送信される期間(例えば、Ncoh×Tr)において、2πの整数倍を同相加算が行われる回数Ncohで除算した値(例えば、2πα/Ncoh)に基づいて算出される複数の位相回転量(Φ(m)=(2πα/Ncoh)(m-1)+Φ0)を各レーダ送信信号に付与する。ここで、αは0を除く整数である。または、送信位相回転部105は、例えば、複数の送信アンテナ108を複数のレーダ送信信号が送信される期間(例えば、Ncoh×Tr)毎に切り替え、2πの整数倍を、期間内(例えば、Ncoh×Tr)において複数のレーダ送信信号が送信される回数(例えば、Ncoh)で除算した値(例えば、2πα/Ncoh)に基づいて算出される複数の位相回転量(Φ(m)=(2πα/Ncoh)(m-1)+Φ0)を各レーダ送信信号に付与してよい。
【0137】
また、受信位相回転部209は、送信位相回転部105による位相回転と逆方向に位相回転(-Φ(m))を、レーダ送信信号が物標にて反射された反射波信号に付与し、同相加算部210は、位相回転が付与された反射波信号を、Ncoh×Trの期間において同相加算し、バイタル信号検出部216は、同相加算後の反射波信号に基づいて、バイタル情報を検出する。
【0138】
これらの処理により、レーダ装置1は、DCオフセット成分を除去し、また、受信信号レベルの向上によってノイズ影響を抑圧して、呼吸又は心拍といったバイタル情報の検出精度を改善できる。
【0139】
また、レーダ装置1において、受信位相回転部209及び同相加算部210の演算は、例えば、1回のチャープ信号毎、及び、一つの距離インデックスfb毎の1回の複素乗算とNcoh回の複素加算とである。よって、本実施の形態によれば、例えば、逆行列演算を用いる方法と比較して、演算量の低減が可能である。
【0140】
(実施の形態1のバリエーション1)
本実施の形態において、信号制御部102は、レーダ測位毎に同相加算の回数Ncoh(又は、同相加算が行われる期間Ncoh×Tr)を可変に設定してもよい。
【0141】
例えば、レーダ検出エリア内においてバイタル情報が継続して検出されない場合、信号制御部102は、Ncohを小さく設定する制御を行ってもよい。また、例えば、レーダ検出エリア内においてバイタル情報が検出される場合、信号制御部102は、Ncohを大きく設定する制御を行ってもよい。これにより、バイタル情報を検出するターゲットが存在しない場合には、チャープ信号の送信回数は少なく設定されやすいため、レーダ装置1の消費電力を低減できる。また、バイタル情報を検出するターゲットが存在する場合には、チャープ信号の送信回数は多く設定されやすくなり、受信品質(例えば、SNR)を改善でき、バイタル情報の検出精度を向上できる。
【0142】
また、本実施の形態において、信号制御部102は、レーダ測位毎に、レーダ送信波の送信を停止する送信停止時間Tstopを可変に設定してもよい。
【0143】
例えば、レーダ検出エリア内においてバイタル情報が継続して検出されない場合、信号制御部102は、送信停止時間Tstopを長く設定する制御を行ってもよい。また、例えば、レーダ検出エリア内においてバイタル情報が検出される場合、信号制御部102は、送信停止時間Tstopを小さく設定する制御を行ってもよい。これにより、バイタル情報を検出するターゲットが存在しない場合には、チャープ信号の送信回数は少なく設定されやすいため、レーダ装置1の消費電力を低減できる。また、バイタル情報を検出するターゲットが存在する場合には、チャープ信号の送信回数が多く設定されやすくなり、受信品質(例えば、SNR)を改善でき、バイタル情報の検出精度を向上できる。
【0144】
また、例えば、信号制御部102は、上述した、Ncohの可変設定と、送信停止時間Tstopの可変設定とを組み合わせて設定してもよい。Ncohの可変設定及び送信停止時間Tstopの可変設定の両者を組み合わせることにより、上述した効果を得ることができる。
【0145】
(実施の形態1のバリエーション2)
本実施の形態では、レーダ装置1のレーダ受信部200において、バイタル信号検出部216が、バイタル情報の有無の検出、及び、バイタル情報を検出する構成について説明したが、レーダ装置1の構成はこれに限定されない。
【0146】
図9は、実施の形態1のバリエーション2に係るレーダ装置1aの構成例を示すブロック図である。
【0147】
例えば、
図9に示すように、レーダ装置1aのレーダ受信部200aは、バイタル信号検出部216の代わりに、ドップラ周波数解析部217を備える。
【0148】
ドップラ周波数解析部217は、例えば、同相加算後の反射波信号に基づいて、ドップラ周波数解析を行う。例えば、ドップラ周波数解析部217は、距離インデックスfb_cfar毎のビームウェイト乗算部215からの出力BeamSumRFT(fb_cfar, ns)に対して、ドップラ周波数解析を行い、ドップラ周波数を検出する。ドップラ周波数解析部217は、例えば、FFTといったフーリエ解析処理を行い、距離インデックスfb_cfar毎のフーリエ解析処理によって得られるドップラ周波数スペクトルにおいて、局所的なピークを与える一つ又は複数のドップラ周波数(例えば、ピークドップラ周波数と呼ぶ)fdop(fb_cfar)を検出してよい。
【0149】
ドップラ周波数解析部217は、例えば、測位結果出力として、距離インデックスfb_cfar、到来方向推定値θ(fb_cfar)、及び、ピークドップラ周波数fdop(fb_cfar)の少なくとも一つを出力してよい。また、ドップラ周波数解析部217は、距離インデックスfb_cfarに関する情報を距離情報R(fb)に変換して出力してもよい。
【0150】
図9に示す構成により、同相加算利得によって受信品質(例えば、SNR)が改善されたレーダ測位結果が得られる。
【0151】
なお、他の実施の形態又はバリエーションにおいても、実施の形態1のバリエーション2と同様の構成を適用してもよく、同様の効果が得られる。
【0152】
(実施の形態1のバリエーション3)
本実施の形態では、レーダ装置1のレーダ受信部200において、バイタル信号検出部216が、バイタル情報の有無の検出、及び、バイタル情報を検出する構成について説明したが、レーダ装置1の構成はこれに限定されない。
【0153】
図10は、実施の形態1のバリエーション3に係るレーダ装置1bの構成例を示すブロック図である。
【0154】
例えば、
図10に示すように、レーダ装置1bのレーダ受信部200bは、バイタル信号検出部216、及び、ドップラ周波数解析部217を備える。バイタル信号検出部216は、例えば、上述した実施の形態1と同様の動作を行い、ドップラ周波数解析部217は、上述した実施の形態1のバリエーション2と同様の動作を行ってもよい。
【0155】
図10に示す構成により、レーダ装置1bは、バイタル信号検出部216からの検出結果出力として、バイタル情報の有無の検出及びバイタル情報の検出結果を出力し、ドップラ周波数解析部217からの測位結果出力として、距離インデックスf
b_cfar、到来方向推定値θ(f
b_cfar)及びピークドップラ周波数fdop(f
b_cfar)を出力してもよい。
【0156】
なお、他の実施の形態又はバリエーションにおいても、実施の形態1のバリエーション3と同様の構成を適用してもよく、同様の効果が得られる。
【0157】
(実施の形態1のバリエーション4)
本実施の形態では、複数の送信アンテナ108を用いて時分割送信を行うMIMOレーダ構成の動作例について説明したが、これに限定されず、送信アンテナ108及び受信アンテナ202の少なくとも一方の数が1つでもよい。
【0158】
例えば、送信アンテナ108の数Ntは、1つでもよい。例えば、送信アンテナ108が1個の場合(Nt=1)でも上述した実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0159】
図11は、実施の形態1のバリエーション4に係るレーダ装置1cの構成例を示すブロック図である。例えば、
図11に示すように、レーダ装置1cのレーダ送信部100cは、1つの送信アンテナ108(Tx#1)を備える(例えば、Nt=1)。
【0160】
図11において、レーダ送信部100cは、アンテナ切替制御部106及びSW部107を備えなくてよく、VCO104から出力されるチャープ信号を送信位相回転部105に入力してよい。また、レーダ受信部200cは、出力切替部211を備えなくてよく、同相加算部210の出力を、第1番目の記憶部212に入力してよい。レーダ装置1cのこれらの動作以外の動作は、実施の形態1においてNt=1の場合の動作と同様であるため、説明を省略する。
【0161】
また、受信アンテナ202の数Naは、1つでもよい。例えば、受信アンテナ202が1個の場合(Na=1)でも上述した実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0162】
図12は、実施の形態1のバリエーション4に係るレーダ装置1dの構成例を示すブロック図である。例えば、
図12に示すように、レーダ装置1cにおいて、レーダ送信部100cは、1つの送信アンテナ108(Tx#1)を備え(例えば、Nt=1)、レーダ受信部200dは、1つの受信アンテナ202(Rx#1)を備える(例えば、Na=1)。
【0163】
図12において、レーダ受信部200dは、
図11の構成と比較して、方向推定部214及びビームウェイト乗算部215を備えなくてもよく、CFAR部213の出力をバイタル信号検出部216に入力してよい。
【0164】
バイタル信号検出部216は、例えば、CFAR部213においてピーク検出された距離インデックスfb_cfar毎のバイタル情報を検出するために、ビームウェイト乗算部215の出力信号BeamSumRFT(fb_cfar, ns)の位相成分を算出する代わりに、SumRFT(fb_cfar, s)を用いてもよい。ここで、s=1~Nc/Ncohである。レーダ装置1dのこれらの動作以外の動作は、実施の形態1におけるNt=1、Na=1の場合の動作と同様であるため、説明を省略する。
【0165】
(実施の形態1のバリエーション5)
図13は、実施の形態1のバリエーション5に係るレーダ装置1eの構成例を示すブロック図である。
【0166】
送信位相回転部105は、全ての送信アンテナ108に共通の位相回転付与するため、
図13のように、レーダ送信部100eは、VCO104の出力に対して1個の送信位相回転部105を備え、送信位相回転部105の出力を各送信アンテナ108に接続するNt個のSW部107へ入力してもよい。
【0167】
図13のような構成により、送信位相回転部105は共通化され1個となるため、レーダ装置1eの回路構成を簡易化できる。
【0168】
なお、
図13では、送信位相回転部105が複数の送信アンテナ108の全てに共通して備えられる場合について説明したが、これらに限定されない。例えば、送信位相回転部105は、複数の送信アンテナ108の少なくとも一部に共通して備えられてもよい。
【0169】
(実施の形態1のバリエーション6)
上記実施の形態では、送信位相回転部105が、複数回Ncohのチャープ信号の送信周期(Ncoh×Tr)において、第m番目のチャープ信号の送信周期Tr毎に式(21)に示す位相回転Φ(m)を付与する場合について説明したが、チャープ信号に付与される位相回転Φ(m)の設定方法は、式(21)に示す方法に限定されない。
【0170】
以下、実施の形態1のバリエーション6の送信位相回転部105における送信位相回転の設定方法の例について説明する。なお、バリエーション6に係る送信位相回転の設定方法は、他の実施の形態又はバリエーションにおいても同様に適用でき、同様の効果が得られる。
【0171】
<方法1>
式(21)では、(Ncoh×Tr)に対応する期間において位相回転が一定の間隔で変化するように設定する場合(Φ(m+1)-Φ(m)=2πα/Ncoh)について説明したが、これに限定されない。
【0172】
方法1では、例えば、(Ncoh×Tr)に対応する期間における位相(Φ0、2πα/Ncoh+Φ0、~、2πα(Ncoh-1))/Ncoh+Φ0)の順序を入れえて送信位相回転を付与されたチャープ信号が送信されてもよい。この場合でも、上述した実施の形態と同様の効果が得られる。
【0173】
例えば、レーダ装置1は、Ncoh=4、Φ0=0、α=1の場合の位相(0、π/2、π、~、3π/2)の順序を入れ替えてチャープ信号を送信してもよい。例えば、レーダ装置1は、Φ(m)=0、Φ(m+1)=π、Φ(m+2)=3π/2、Φ(m+3)=π/2のような順で位相回転を付与してもよく、同様な効果が得られる。
【0174】
例えば、この例のように、Φ(m)=0、Φ(m+1)=π、あるいは、Φ(m+2)=3π/2、Φ(m+3)=π/2に基づいて付与される位相回転は、連続する2つの送信周期(例えば、m番目とm+1番目の送信周期、又は、m+2番目とm+3番目の送信周期)の間において位相が反転する関係となる。また、例えば、Ncoh×Trの期間内において、連続して送信されるレーダ送信信号(例えば、m番目及びm+1番目の送信周期にて送信されるレーダ送信信号、又は、m+2番目及びm+3番目の送信周期にて送信されるレーダ送信信号)の位相は反転している関係となる。この場合、連続する2つの送信周期に対応する位相回転量の差はπでよい。これにより、伝搬路の変動が含まれる場合でも、DCオフセット成分の除去性能の劣化の影響を受けにくい。
【0175】
<方法2>
方法2では、例えば、複数回Ncohの1より大きい約数となる周期の位相回転のパターンを、(Ncoh×Tr)に対応する期間において繰り返してもよい。
【0176】
例えば、Ncoh=4、Φ0=0、α=1の場合、レーダ装置1は、Ncohの約数2に基づいて、(Ncoh×Tr)に対応する期間4Trにおいて、Ncoh=2の場合の式(21)に基づく位相回転のパターンを2回繰り返してもよい。方法2では、例えば、複数回Ncohの送信周期において使用される複数の位相回転量の種類の数は、Ncohの約数のうち一つと一致する。例えば、Ncoh=4の場合、位相回転量の種類の数は、Ncoh=4の約数2と一致してよい。例えば、Φ(m)=0、Φ(m+1)=π、Φ(m+2)=0、Φ(m+3)=πのような順で位相回転が付与されてもよく、同様な効果が得られる。
【0177】
(実施の形態1のバリエーション7)
レーダ装置1が、複数回のレーダ測位を行う場合、例えば、信号制御部102が、1回のレーダ測位あたり送信周期Tr毎にNc回のレーダ送信波(例えば、チャープ信号)の送信を行った後に、Trの整数倍単位の間隔となる送信停止時間Tstopを経て、引き続きレーダ測位として送信周期Tr毎にNc回のレーダ送信波の送信を繰り返す制御を行う場合がある。この場合に、例えば、レーダ測位あたりのレーダ信号の送信回数であるNc回と、レーダ測位毎の同相加算の回数Ncoh(又は、同相加算が行われる期間Ncoh×Tr)との関係をNc=Ncoh×Ntとしてもよい。ここで、Ntは、送信アンテナ108の数である。
【0178】
例えば、
図14は、送信アンテナ数Nt=1の場合に、信号制御部102が、送信周期T
r毎にN
c=N
coh=4回の送信を行った後に、T
rの整数倍単位の間隔となる送信停止時間T
stop=4T
rを経て、送信周期T
r毎にN
c回送信を繰り返す制御を行う場合のレーダ送信波の例を示す。このような設定により、1回のレーダ測位におけるレーダ送信回数は、本開示の一態様における効果が得られる最小のレーダ送信回数(=N
coh回)としつつ、送信停止時間T
stopを経て、複数回のレーダ測位が可能となる。従って、このような信号制御部102の制御により、レーダ装置1は、本開示の一実施例における効果を得つつ、例えば、バイタル情報といった時間変動が比較的緩やかなデータを長時間に亘って検出可能とし、レーダ送信が消費する電力を低減できる。また、レーダ送信時に発生する発熱量も低減でき、放熱ファンなど放熱のため構成を簡略化でき、レーダ装置1の小型化が可能となる。
【0179】
また、送信アンテナ数Nt=1の場合に、例えば、送信周期Tr毎にNc回のレーダ送信をするレーダ測位時間Nc×Trに対し、レーダ送信を停止する送信停止時間Tstopを倍以上の長い時間に設定してもよい。この設定により、例えば、他のレーダシステムからの干渉が存在する場合においても、相互に干渉する時間を確率的に低減でき、相互の干渉影響を低減する効果も得られる。
【0180】
例えば、送信周期Trを400μ秒とし、レーダ装置1が送信周期Tr毎にNc=Ncoh=4回のレーダ送信を行う場合、レーダ測位時間Nc×Trは1.6msとなる。ここで、レーダ送信停止時間Tstop=9×Nc×Tr=14.4msとすることで、レーダ測位時間とレーダ送信停止時間とを合計した16ms周期において、レーダ測位はそのうち10%の時間区間(以下、「Duty10%」と呼ぶ)である1.6msで行われる。例えば、バイタル情報として呼吸数が検出される場合の想定される位相成分変動周波数の範囲は0.03~0.5Hz程度であり、バイタル情報として心拍数が検出される場合の想定される位相成分変動周波数の範囲は0.67~15Hz程度である。このため、このようなレーダ送信信号の制御(例えば、送信停止時間の設定)を適用しても、レーダ装置1は、バイタルの変動を十分捉えることができる。また、レーダ装置1の低消費電力化と低放熱化による小型化が実現でき、さらに、他のレーダシステムからの干渉が存在する場合においても、相互に干渉する時間を確率的に低減でき、相互の干渉影響を低減する効果も得られる。
【0181】
例えば、
図15は、送信アンテナ数Nt=2の場合に、信号制御部102及びアンテナ切替制御部106が、送信周期T
r毎に、2つの送信アンテナ108毎にN
coh=4回の送信(レーダ測位時間N
c×Nt×T
r)を行った後に、T
rの整数倍単位の間隔となる送信停止時間T
stop=4T
rを経て、送信周期T
r毎にN
c回送信を繰り返す制御を行う場合のレーダ送信波の例を示す。このような設定により、1回のレーダ測位における送信アンテナ108毎のレーダ送信回数は、本開示の一実施例における効果が得られる最小のレーダ送信回数としつつ、送信停止時間T
stopを経て、複数回のレーダ測位が可能となる。このような信号制御部102における制御により、レーダ装置1は、例えば、バイタル情報といった時間変動が比較的緩やかなデータを長時間に亘って検出可能としつつ、レーダ送信が消費する電力を低減できる。また、レーダ送信時に発生する発熱量も低減でき、放熱ファンなど放熱のため構成を簡略化でき、レーダ装置1の小型化が可能となる。
【0182】
さらに、複数の送信アンテナ108の場合(例えばNt=2の場合)、例えば、送信周期Tr毎にNc回のレーダ送信をするレーダ測位時間Nc×Trに対し、レーダ送信を停止する送信停止時間Tstopを倍以上の長い時間に設定してもよい。この設定により、例えば、他のレーダシステムからの干渉が存在する場合においても、相互に干渉する時間を確率的に低でき、相互の干渉影響を低減する効果も得られる。
【0183】
例えば、送信周期Trを400μ秒とし、レーダ装置1が送信周期Tr毎にNc=Ncoh×Nt=8回のレーダ送信を行う場合、レーダ測位時間Nc×Trは3.2msとなる。ここで、レーダ送信停止時間Tstop=9×Nc×Tr=28.8msとすることで、レーダ測位時間とレーダ送信停止時間とを合計した32ms周期において、レーダ測位はそのうち10%の時間区間(以下、「Duty10%」と呼ぶ)である3.2msで行われる。例えば、バイタル情報として呼吸数が検出される場合の想定される位相成分変動周波数の範囲は0.03~0.5Hz程度であり、バイタル情報として心拍数が検出される場合の想定される位相成分変動周波数の範囲は0.67~15Hz程度である。このため、このようなレーダ送信制御(例えば、送信停止時間の設定)を適用しても、レーダ装置1は、バイタルの変動を十分捉えることができる。また、レーダ装置1の低消費電力化と低放熱化による小型化が実現でき、さらに、他のレーダシステムからの干渉が存在する場合においても、相互に干渉する時間を確率的に低減することでき、相互の干渉影響を低減する効果も得られる。
【0184】
(実施の形態1のバリエーション8)
実施の形態1におけるレーダ送信部100において、アンテナ切替制御部106は、複数の送信アンテナ108のうち、レーダ送信信号を送信する送信アンテナ108を、複数回Ncohのチャープ信号の送信周期に対応する期間(Ncoh×Tr)毎に切り替える動作について説明した。例えば、アンテナ切替制御部106は、複数の送信アンテナ108において、或る送信アンテナ108からレーダ送信信号が連続的に(例えば、Ncoh回)送信後、当該送信アンテナ108から、異なる送信アンテナ108へ切り替えるようにSW部107を制御した。
【0185】
アンテナ切替制御部106におけるアンテナ切替の制御方法は、これに限定されない。
【0186】
例えば、アンテナ切替制御部106は、チャープ信号の送信周期に対応する期間Tr毎に、複数の送信アンテナ108を所定の順番で切り替えるようにSW部107を制御してもよい。この場合でも、実施の形態1で説明した動作による効果と同様な効果が得られる。
【0187】
図16は、例えば、送信アンテナ数Nt=2の場合に、信号制御部102及びアンテナ切替制御部106が、送信周期T
r毎に、2つの送信アンテナ108を所定の順番で切り替えるようにSW部107を制御し、2つの送信アンテナ毎にN
coh=4回の送信(レーダ測位時間N
c×Nt×T
r)を行った後に、T
rの整数倍単位の間隔となる送信停止時間T
stop=4T
rを経て、同様な送信周期T
r毎のN
c回送信を繰り返す制御を行う場合のレーダ送信波の例を示す。
【0188】
以下、本バリエーションにおける動作例を説明する。以下では、実施の形態1と異なる動作について説明する。
【0189】
本バリエーションにおいて、Nt個の送信位相回転部105は、例えば、レーダ送信信号生成部101から入力されるチャープ信号に対して、チャープ信号の送信周期Tr毎に、送信位相回転部105から出力される所定の位相回転Φを付与し、位相回転Φを付与した信号をSW部107に出力する。
【0190】
ここで、送信位相回転部105は、実施の形態1で説明した動作と同様であるが、アンテナ切替制御部106がチャープ信号の送信周期Tr毎にNt個の送信アンテナを切り替える制御を行うことから、Φ(m)の代わりに、Φ(floor[(m+1)/Nt])を用いる。これにより、Nt個の送信アンテナ108の切り替えが一巡する期間(Nt×Tr)において、送信位相回転部105は、同一の位相回転Φを付与する。従って、各送信アンテナ108から出力されるレーダ送信波(チャープ信号)における、送信位相回転部105により付与される位相回転は、実施の形態1と同様となる。
【0191】
アンテナ切替制御部106は、複数の送信アンテナ108のうち、レーダ送信信号を送信する送信アンテナ108を、送信周期Tr毎に切り替える。例えば、アンテナ切替制御部106は、送信周期Tr毎に、送信アンテナ108を所定の順番で切り替えるようにSW部107を制御する。また、アンテナ切替制御部106は、アンテナ切替制御に関する情報をレーダ受信部200(例えば、出力切替部211)へ出力する。
【0192】
次に、レーダ受信部200における動作を説明する。本バリエーションに係るレーダ受信部200の構成例を
図17に示す。なお、レーダ送信部100の構成は、実施の形態1(例えば、
図3)と同様であるため、
図17では省略している。
図17では、実施の形態1において説明した
図3の構成と異なり、受信位相回転部209の後段に、出力切替部211、同相加算部210、及び、記憶部212の順で構成される。
図17において、それ以外は
図3と同様の構成でよい。以下、
図17に示す構成のレーダ受信部200の動作例を説明する。
【0193】
出力切替部211は、例えば、Nt個の送信アンテナ108毎に得られる受信信号をNt個の同相加算部210に出力するように、出力を切り替える。例えば、レーダ送信部100において、送信周期Tr毎に、送信アンテナ108が切り替えられる。そのため、出力切替部211は、送信周期Tr毎に、受信位相回転部209からの出力を、送信アンテナ毎に対応する同相加算部210に出力する。
【0194】
Nt個の同相加算部210は、例えば、出力切替部211から出力信号に対して同相加算を行う。ここで、レーダ送信部100により、複数回N
coh×Ntのチャープ信号の送信周期(N
coh×Nt×T
r)において、チャープ信号の送信周期T
r×Nt毎に所定の位相回転Φ(floor[(m+1)/Nt])が付与された信号が出力される。そこで、各同相加算部210は、例えば、出力切替部211の出力に含まれる、送信アンテナ108毎に複数回N
cohの送信回数で得た受信位相回転部209からの出力(例えば、複素数値)に対して、次式(33)に示すように、距離インデックスf
b毎に、複数回N
cohの同相加算を行う。ここで、s=1~N
c/N
cohであり、第n番目の同相加算部210―nの同相加算出力をSumRFT
z,n(f
b, s)と表す。第n番目の同相加算部210―nは、第n番目の送信アンテナ108(Tx#n)からの送信信号に対する同相加算を行う処理を行う。ここで、n=1~Ntの整数である。
【数33】
【0195】
第n番目の同相加算部210-nからの出力SumRFTz,n(fb, s)は、第n番目の記憶部212―nに出力される。
【0196】
Nt個の記憶部212のそれぞれは、同相加算部210から入力される信号を記憶する。例えば、第n番目の同相加算部210-nの動作により、第n番目の記憶部212(又は、記憶部212-nと表す)は、第n番目の送信アンテナ108から送信されるレーダ送信信号に対する反射波信号をz番目の受信アンテナ202にて受信した、距離インデックスfb毎の同相加算部210の出力信号であるSumRFTz,n(fb, s)を記憶する。ここで、fbはビート周波数インデックスを表し、fb=0~Ndata/2-1である。
【0197】
以降のCFAR部213、方向推定部214、ビームウェイト乗算部215及びバイタル信号検出部216における処理には、各記憶部212に記憶された、各送信アンテナ108から送信される信号の同相加算出力SumRFT
z,n(f
b, s)を用いることで、レーダ装置1は実施の形態1と同様の処理を行うことができ、実施の形態1と同様な効果が得られる。なお、
図16では、1送信周期毎に送信するアンテナを切り替えたが、N
coh/N
t送信周期毎に送信するアンテナを切り替えてもよい。
【0198】
以上、信号処理部206の各構成部における実施の形態1と異なる動作について説明した。
【0199】
(実施の形態2)
本実施の形態に係るレーダ装置1は、実施の形態1と同様の構成でよい。
【0200】
実施の形態1では、バイタル情報を検出するターゲットが静止している状態、又は、全ての送信アンテナ108が切り替わる送信周期間(Tr×Nt×Ncoh)においてレーダ装置1とターゲットとの相対的な位置関係が変化しない、あるいは無視可能な準静的な状態を想定した。
【0201】
その一方で、ターゲット又はレーダ装置1が移動する場合、或いは、ターゲット又はレーダ装置1が車室内にあり、ターゲット又はレーダ装置1がバイタル情報とは異なる車両からの振動を受ける状況にある場合、(Tr×Nt×Ncoh)の期間においてレーダ装置1とターゲットとの相対的な位置関係が準静的な状態とならない可能性がある。
【0202】
例えば、ターゲット又はレーダ装置1が移動する場合、或いは、ターゲット又はレーダ装置1が車室内にあり、ターゲット又はレーダ装置1が車から振動を受ける状況において、各送信アンテナ108に切り替わる間隔(Tr×Nt×Ncoh)毎にΔの位相回転が生じる場合について説明する。この場合、例えば、送信アンテナTx#1での受信位相を基準とすると、第n番目の送信アンテナTx#nでは(n-1)×Δの位相ずれが生じ、送信アンテナTx#Ntでは(Nt-1)×Δの位相ずれが生じ得る。
【0203】
このように送信アンテナ切替に伴う位相ずれは、送信アンテナ108の数(Nt)が増加するほど、Ntに比例して増大する。送信アンテナ切替に伴う位相ずれ量が大きいほど、方向推定部214における方向推定誤差が増大する。また、方向推定部214における方向推定誤差が生じると、ビームウェイト乗算部215においてビームウェイトが適切に生成されず、受信品質(例えば、SNR)が低下しやすくなる。
【0204】
本実施の形態では、送信アンテナ切替に伴う位相ずれによる受信品質の低下を抑制する方法について説明する。本実施の形態では、以下のように、アンテナ切替制御部106及び同相加算部210の動作が実施の形態1と異なる。
【0205】
[レーダ送信部100の動作例]
アンテナ切替制御部106は、例えば、複数回Ncohのチャープ信号の送信周期(Ncoh×Tr)毎に、送信アンテナ108を所定の順序(例えば、「第1の順序」と呼ぶ)で切り替えるようにSW部107を制御する。また、アンテナ切替制御部106は、例えば、続く複数回Ncohのチャープ信号の送信周期(Ncoh×Tr)毎に、送信アンテナ108を、第1の順序の逆順(例えば、「第2の順序」とも呼ぶ)で切り替えるようにSW部107を制御する。
【0206】
例えば、アンテナ切替制御部106は、第1~Ncoh番目の送信周期において、送信アンテナ#1に対応するSW部107をONに設定し、送信アンテナ#1と異なる他の送信アンテナ108に対応するSW部107をOFFに設定してよい。
【0207】
また、例えば、アンテナ切替制御部106は、第(Ncoh+1)~(2Ncoh)番目の送信周期に、送信アンテナ#2に対応するSW部107をONに設定し、送信アンテナ#2と異なる他の送信アンテナ108に対応するSW部107をOFFに設定してよい。
【0208】
以降、同様に、アンテナ切替制御部106は、第((n-1)×Ncoh+1)~(n×Ncoh)番目の送信周期に、送信アンテナ#nに対応するSW部107をONに設定し、送信アンテナ#nと異なる他の送信アンテナ108に対応するSW部107をOFFに設定してよい(ここで、n=1~Ntである)。
【0209】
また、第((Nt-1)×Ncoh+1)~(Nt×Ncoh)番目の送信周期に、送信アンテナ#Ntに対応するSW部107をONに設定し、送信アンテナ#Ntと異なる他の送信アンテナ108に対応するSW部107をOFFに設定してよい。
【0210】
第1~(Nt×Ncoh)番目の送信周期におけるSW部107の制御(第1の順序に基づく制御)が終了すると、アンテナ切替制御部106は、例えば、続く、第(Nt×Ncoh+1)~(2×Nt×Ncoh)番目の送信周期において、Ncoh回毎の送信周期(Ncoh×Tr毎の周期)で送信アンテナ#Nt、#Nt-1、#Nt-2,~、#1の順に切り替えるようにSW部107の制御(第2の順序に基づく制御)を行う。例えば、第1~(Nt×Ncoh)番目の送信周期における送信アンテナ108の切り替え順序と、第(Nt×Ncoh+1)~(2×Nt×Ncoh)番目の送信周期における送信アンテナ108の切り替え順序とは逆順である。
【0211】
アンテナ切替制御部106は、以降、上述した動作を繰り返す制御を行ってよい。
【0212】
図18は、一例として、送信アンテナ数Nt=2(例えば、送信アンテナTx#1、Tx#2)、N
coh=4の場合の第1~第16番目の送信周期(T
r#1~T
r#16)において各送信アンテナ108から出力されるレーダ送信信号(チャープ信号)を示す。
【0213】
図18では、N
coh=4であるので、アンテナ切替制御部106は、チャープ信号の4回の送信周期(4T
r)毎に、送信アンテナ108(例えば、SW部107)の切り替え動作を行う。
【0214】
例えば、
図18に示すように、アンテナ切替制御部106は、T
r#1~T
r#4の送信周期において送信アンテナTx#1からレーダ送信信号を出力し、T
r#5~T
r#8の送信周期において送信アンテナTx#2からレーダ送信信号を出力する。
【0215】
また、例えば、
図18に示すように、アンテナ切替制御部106は、続くT
r#9~T
r#16の送信周期において、送信アンテナ108の切り替え順を、前のT
r#1~T
r#8の送信周期(=8×T
r=Nt×N
coh×T
r)における送信アンテナ切替順である(Tx1、Tx2)と逆順の(Tx#2,Tx#1)の順で送信アンテナ108を切り替える。例えば、
図18に示すように、アンテナ切替制御部106は、T
r#9~T
r#12の送信周期において送信アンテナTx#2からレーダ送信信号を出力し、T
r#13~T
r#16の送信周期において送信アンテナTx#1からレーダ送信信号を出力する。
【0216】
以降の送信周期において、アンテナ切替制御部106は、Tr#1~Tr#16の送信周期(=16×Tr=2×Nt×Ncoh×Tr)における送信アンテナ108の切り替えを同様に繰り返してよい。
【0217】
なお、上述したアンテナ切替制御部106は、例えば、第m番目のチャープ信号の送信周期に対して、floor((m-1)/(Nt×Ncoh))が偶数となる場合、送信アンテナ#[mod(floor((m-1)/Ncoh),Nt)+1]に対応するSW部107をONに設定し、他の送信アンテナ108に対応するSW部107をOFFに設定するように、SW部107を制御してよい。また、アンテナ切替制御部106は、例えば、第m番目のチャープ信号の送信周期に対して、floor((m-1)/(Nt×Ncoh))が奇数となる場合、送信アンテナ#[Nt-(mod(floor((m-1)/Ncoh),Nt)+1)+1]に対応するSW部107をONに設定し、他の送信アンテナ108に対応するSW部107をOFFに設定するように、SW部107を制御してもよい。
【0218】
ここで、mod(x, y)はモジュロ演算子であり、xをyで割った後の余りを出力する関数である。また、floor(x)は、実数xを超えない最大の整数値を返す関数である。
【0219】
本実施の形態では、
図18に示すように、複数の送信アンテナ108(例えば、Tx#1及びTx#2)のそれぞれにおいて、レーダ送信信号(例えば、チャープ信号)が送信される複数のタイミングは、それぞれ、連続する複数の(N
coh×T
r)の期間内の基準タイミング(又は、基準時間と呼ぶ)に対して同じ時間差を有してよい。
【0220】
例えば、
図18において、第8番目の送信周期T
r#8と第9番目の送信周期T
r#9との中間点を基準時間(
図18において、8.5Tr(=(NtN
coh+1/2)×Tr)の時間)に設定する。この場合、例えば、送信アンテナTx#1において、レーダ送信信号が送信されるタイミング(例えば、T
r#1~T
r#4とT
r#13~T
r#16)は、それぞれ、基準時間に対して同じ時間差を有する。例えば、
図18において、T
r#4~T
r#1は、それぞれ基準時間から、時間的に遅れており、4.5Tr, 5.5Tr, 6.5Tr, 7.5Trの時間差を有する。同様に、
図18において、T
r#13~T
r#16は、時間的に進んでおり、それぞれ基準時間から、4.5Tr, 5.5Tr, 6.5Tr, 7.5Trの時間差を有する。同様に、例えば、送信アンテナTx#2において、レーダ送信信号が送信されるタイミング(例えば、T
r#5~T
r#8とT
r#9~T
r#12)は、それぞれ、基準時間に対して同じ時間差を有する。例えば、
図18において、T
r#8~T
r#5は、それぞれ基準時間から、時間的に遅れており、0.5Tr, 1.5Tr, 2.5Tr, 3.5Trの時間差を有する。同様に、
図18において、T
r#9~T
r#12は、時間的に進んでおり、それぞれ基準時間から、0.5Tr, 1.5Tr, 2.5Tr, 3.5Trの時間差を有する。
【0221】
よって、
図18に示すように、例えば、基準時間よりも前の時間での第1~第8番目の送信周期のTx#1及びTx#2の切り替えパターンと、基準時間より後の時間での第9~第16番目の送信周期のTx#1及びTx#2の切り替えパターンとは、基準時間に対して時間軸で対称的に送信アンテナ108が切り替わってチャープ信号が送信される。
【0222】
[レーダ受信部200の動作例]
同相加算部210は、例えば、レーダ送信部100において、複数回N
cohのチャープ信号の送信周期(N
coh×T
r)において、チャープ信号の送信周期T
r毎に所定の位相回転Φ(m)を付与した信号を出力することから、複数回N
cohの送信周期において得られる受信位相回転部209からの出力を、次式(34)に示すように、距離インデックスf
b毎に、同相加算を行う。
【数34】
【0223】
ここで、s=1~Nc/Ncohであり、NcはNcohの整数倍に設定することが好適である。以下、式(34)の同相加算処理を「第1の同相加算」と呼ぶ。なお、第1の同相加算は実施の形態1で説明した同相加算部の処理と同一である。
【0224】
また、同相加算部210は、レーダ送信部100において、2Nt×Ncohのチャープ信号の送信周期(2Nt×Ncoh×Tr)において、同一の送信アンテナ108に対応するSumRFTz(fb, s)を同相加算する。以下、この同相加算を「第2の同相加算」と呼ぶ。
【0225】
例えば、
図18に示すように、送信アンテナ数Nt=2、N
coh=4の場合について説明する。
【0226】
図18において、同相加算部210は、例えば、第1の同相加算処理では、第1~4番目の送信周期(例えば、s=1に対応)、第5~8番目の送信周期(例えば、s=2に対応)、第9~12番目の送信周期(例えば、s=3に対応)、第13~16番目の送信周期(例えば、s=4に対応)のそれぞれにおいて、SumRFT
z(f
b, 1)、SumRFT
z(f
b, 2)、SumRFT
z(f
b, 3)、及び、SumRFT
z(f
b, 4)をそれぞれ算出する。
【0227】
また、第1~4番目の送信周期(例えば、s=1に対応)、及び、第13~16番目の送信周期(例えば、s=4に対応)において、送信アンテナTx#1からチャープ信号が送信される。このため、同相加算部210は、第2の同相加算処理において、SumRFT
z(f
b, 1)とSumRFT
z(f
b, 4)を同相加算したTxsum
1(f
b, 1)=SumRFT
z(f
b, 1)+SumRFT
z(f
b, 4)を出力する。同様に、
図18に示すように、第5~8番目の送信周期(例えば、s=2に対応)、及び、第9~12番目の送信周期(例えば、s=3に対応)において、送信アンテナTx#2からチャープ信号が送信される。このため、同相加算部210は、第2の同相加算処理において、SumRFT
z(f
b, 2)とSumRFT
z(f
b, 3)とを同相加算したTxsumRFT
2(f
b, 1)=SumRFT
z(f
b, 2)+SumRFT
z(f
b, 3)を出力する。
【0228】
また、続く第17~32番目の送信周期(図示せず)においても同様に、第17~20番目の送信周期(例えば、s=5に対応)、及び、第29~32番目の送信周期(s=8に対応)において、送信アンテナTx#1からチャープ信号が送信されるため、同相加算部210は、SumRFTz(fb, 5)とSumRFTz(fb, 8)とを同相加算したTxsum1(fb, 2)=SumRFTz(fb, 5)+SumRFTz(fb, 8)を出力する。同様に、第21~24番目の送信周期(s=6に対応)、及び、第25~28番目の送信周期(s=7に対応)において、送信アンテナTx#2からチャープ信号が送信されるため、同相加算部210は、SumRFTz(fb, 6)とSumRFTz(fb, 7)とを同相加算したTxsumRFT2(fb, s)=SumRFTz(fb, 6)+SumRFTz(fb, 7)を出力する。以降、同相加算部210は、同様の処理を繰り返してよい。
【0229】
以上のように、同相加算部210は、第m番目のチャープ信号の送信周期に対して、floor((m-1)/(Nt×N
coh))が奇数となるタイミング(
図18の例ではT
r#1~T
r#8)と、floor((m-1)/(Nt×N
coh))が偶数となるタイミング(
図18の例ではT
r#9~T
r#16)とで、同一の送信アンテナ108の受信位相回転部209の出力を加算する。
【0230】
ここで、第m番目の送信周期において、floor((m-1)/(Nt×Ncoh))が奇数となる場合は、チャープ信号の送信に使用される送信アンテナ108は、Tx#[mod(floor((m-1)/Ncoh),Nt)+1]である。第m番目の送信周期において、floor((m-1)/(Nt×Ncoh))が偶数となる場合は、チャープ信号の送信に使用される送信アンテナ108は、Tx#[Nt-(mod(floor((m-1)/Ncoh),Nt)+1)+1]である。
【0231】
以上、送信アンテナ数Nt=2、Ncoh=4の場合の同相加算部210における第2の同相加算の動作例について説明したが、送信アンテナ数Nt及びNcohはこれに限定されない。以下、より一般的な場合について説明する。
【0232】
同相加算部210の第1の同相加算の出力SumRFTz(fb, s)(ここで、s=1~Nc/Ncoh)において、floor((s-1)/Nt)+1=2k-1(例えば、奇数)となるsの範囲を「S1(k)」と表記する。ここで、k=1~Nc/(Ncoh×Nt)である。S1(k)の範囲に含まれるsにおける送信アンテナ108は、mod(s-1, Nt)と与えられる。例えば、S1(1)の範囲のsはs=1,2,~,Ntであり、各sに対する送信アンテナ108は、Tx#1,2,~,Ntである。また、例えば、S1(2)の範囲のsはs=2Nt+1,~,3Ntであり、各sに対する送信アンテナは、Tx#1,2,~,Ntである。
【0233】
また、floor((s-1)/Nt)+1=2k(例えば、偶数)となるsの範囲を「S2(k)」と表記する。S2(k)の範囲に含まれるsにおける送信アンテナ108は、Nt-mod(s-1. Nt)と与えられる。例えば、S2(1)の範囲のsはs=Nt+1~2Ntであり、各sに対する送信アンテナ108は、Tx#Nt,Nt-1,~,1である。また、例えば、S2(2)の範囲のsはs=3Nt+1~4Ntであり、各sに対する送信アンテナ108は、Tx#Nt,Nt-1,~,1である。
【0234】
従って、同相加算部210における、2Nt×N
cohのチャープ信号の送信周期(2Nt×N
coh×T
r)での同一の送信アンテナ108のSumRFT
z(f
b, s)を同相加算する動作(第2の同相加算)は、SumRFT
z(f
b, s1(n, k))及びSumRFT
z(f
b, s2(s, k))を用いて、次式(35)のように同相加算する処理となる。
【数35】
【0235】
ここで、S1(k)の範囲及びS2(k)の範囲において、送信アンテナTx#nとなるsをそれぞれ、「s1(n,k)」及び「s2(n,k)」と表記する。
【0236】
同相加算部210は、例えば、このような処理を全てのk毎のn=1~Ntに対して同様の処理を行い、TxSumz(fb, n, k)を算出する。そして、第n番目の送信アンテナTx#nに対するTxSumz(fb, n, k)は、第n番目の記憶部212に出力され、記憶される。
【0237】
以上のような第2の同相加算の動作により、以下の効果が得られる。
【0238】
例えば、
図18に示すように、送信アンテナ数Nt=2、N
coh=4の場合、第1~16番目の送信周期において、各送信アンテナTx#1及びTx#2それぞれから、N
coh×2回の送信周期でチャープ信号が送信される。
【0239】
例えば、
図18において、第8番目の送信周期と第9番目の送信周期との中間点を基準時間とする。上述したように、例えば、基準時間よりも前の時間での第1~第8番目の送信周期のTx#1及びTx#2の切り替えパターンと、基準時間より後の時間での第9~第16番目の送信周期のTx#1及びTx#2の切り替えパターンとは、基準時間に対して時間軸で対称的に送信アンテナ108が切り替わってチャープ信号が送信される。
【0240】
このような送信アンテナ108の時分割切り替え送信により、例えば、送信周期毎にΔの位相回転が生じる場合に、Tx#1とTx#2の時分割送信の時間的なシフト(ずれ)に起因する位相回転を低減する効果を得ることができる。以下、式を用いて説明する。
【0241】
例えば、送信周期毎にΔの位相回転が生じ、また、Nt=2の場合、Tx#1(例えば、n=1の場合)に対する第2の同相加算の動作(例えば、k=1の場合)は、次式(36)のように表される。なお、式(36)において、A
Tx1は送信アンテナTx#1に対する受信信号RxRotRFT
z(f
b, 1)の振幅成分を表し、θ
Tx1は送信アンテナTx#1に対する受信信号RxRotRFT
z(f
b, 1)の位相回転Δに関する成分を除く位相成分を表す。
【数36】
【0242】
同様の場合で、Tx#2(例えば、n=2の場合)に対する第2の同相加算の動作(例えば、k=1の場合)は、次式(37)のように表される。なお、式(37)において、A
Tx2は送信アンテナTx#2に対する受信信号RxRotRFT
z(f
b, 1)の振幅成分を表し、θ
Tx2は送信アンテナTx#2に対する受信信号RxRotRFT
z(f
b, 1)の位相回転Δに関する成分を除く位相成分を表す。
【数37】
【0243】
ここで、第m番目の送信周期が送信アンテナTx#nの場合、及び、送信周期毎にΔの位相回転が生じる場合の受信位相回転部209の出力RxRotRFT
z(f
b, m)は、次式(38)のように表される。なお、式(38)において、A
Txnは送信アンテナTx#nに対する受信信号RxRotRFT
z(f
b, m)の振幅成分を表し、θ
Txnは送信アンテナTx#nに対する受信信号RxRotRFT
z(f
b, m)の位相回転Δに関する成分を除く位相成分を表す。
【数38】
【0244】
従って、上記展開した式(36)、式(37)より、例えば、送信周期毎にΔの位相回転が生じる場合において、TxSum
z(f
b, 1, 1)及びTxSum
z(f
b, 2, 1)には、共通の位相回転の項exp [j{Δ×(NtN
coh+1/2)}]が含まれる。また、上記展開した式(36)、式(37)において、
【数39】
の項は、実数となるため、位相は変動しない。
【0245】
以上より、送信周期毎に位相ずれΔが生じる場合でも、各送信アンテナ108(例えば、Tx#1及びTx#2)に対する第2の同相加算により、Tx#1に対する位相ずれΔに起因する位相回転と、Tx#2に対する位相ずれΔに起因する位相回転とは同じ位相回転(例えば、exp j{Δ×(NtNcoh+1/2)})を与えることになる。例えば、第2の同相加算によって、送信周期毎の位相ずれΔに起因する位相回転は、Tx#1及びTx#2の双方とも基準時間(基準タイミング)に対応する位相回転(例えば、Δ×(NtNcoh+1/2))となる。このように、送信周期毎に生じる位相ずれΔが与える影響が各送信アンテナ108に同様となるので、例えば、ターゲット又はレーダ装置1が移動する場合、或いは、ターゲット又はレーダ装置1が車室内にあり、ターゲット又はレーダ装置1が車から振動を受ける状況でも、レーダ装置1は、送信アンテナ切替に伴う位相ずれの影響を受けずに、信号処理を行うことができる。
【0246】
従って、送信アンテナ切替に伴う位相ずれによる受信品質の低下を抑制でき、送信アンテナ108の切り替え時間が異なることに起因する方向推定時の誤差影響を抑制できる。
【0247】
なお、上記の例では、k=1の場合について示したが、任意のkに含まれる最初の送信周期における位相回転を基準位相とすることで、同様の式の展開となり、同様の効果を得られる。
【0248】
また、同相加算部210における第2の同相加算は、2Nt×N
cohのチャープ信号の送信周期(2Nt×N
coh×T
r)において、同一の送信アンテナ108のSumRFT
z(f
b, s)を同相加算する動作について説明したが、これに限定されない。例えば、第2の同相加算において、Nt×N
cohのチャープ信号の送信周期(Nt×N
coh×T
r)における加算結果をオーバーラップした次式(39)の加算結果を用いてもよい。
【数40】
【0249】
第2の同相加算において、オーバーラップした加算結果を併用することにより、伝搬路の変動が大きい場合でも、方向推定部214における誤差を低減できる。
【0250】
(実施の形態3)
実施の形態1では、時分割多重を用いたMIMOレーダについて説明したが、本開示の一実施例が適用される多重送信方法は、時分割多重に限定されない。本実施の形態では、符号多重を用いたMIMOレーダに、本開示の一実施例を適用する場合について説明する。この場合でも実施の形態1と同様の効果が得られる。
【0251】
以下、主に、実施の形態1と異なる構成の動作例について説明する。
【0252】
図19は、本実施の形態に係るレーダ装置1fの構成例を示すブロック図である。レーダ装置1fは、例えば、周波数変調したチャープ信号をレーダ送信信号に用いる。
【0253】
[レーダ送信部100fの動作例]
レーダ送信信号生成部101は、実施の形態1と同様、信号制御部102、変調信号発生部103及びVCO104を備え、信号制御部102からの制御に基づいて、所定の周波数変調波(チャープ信号)を生成する。生成されるチャープ信号は、送信位相回転部105、及び、レーダ受信部200fの各受信無線部203のミキサ部204に出力される。
【0254】
例えば、信号制御部102は、1回のレーダ測位につき、チャープ信号を送信周期Tr毎にNc回送信するように、変調信号発生部103及びVCO104を制御してよい。なお、以下では、Nc回の送信周期Trのそれぞれの送信周期をインデックス「m」で表す。ここで、m=1~Ncである。
【0255】
また、例えば、レーダ装置1fが複数回のレーダ測位を行う場合、信号制御部102は、所定の送信停止時間Tstopを設定し、送信周期Tr毎にNc回送信後、所定の送信停止時間Tstopを経て、送信周期Tr毎にNc回送信を繰り返す制御を行ってよい。このような送信制御により、レーダ装置1fは、例えば、バイタル情報といった時間変動が比較的緩やかなデータを長時間に亘って検出可能となる。例えば、レーダ装置1fは、複数Nrepeat回のレーダ測位を繰り返すことで、(Nc×Tr+Tstop)×Nrepeatに亘る時間において、チャープ信号をNc×Nrepeat回送信して得られる物標の時間変動を観測できる。
【0256】
ここで、送信停止時間Tstopは、例えば、Trの整数倍の単位で設定されてよい。これにより、例えば、複数回のレーダ測位でのチャープ信号の送信間隔は、Trの整数倍単位の間隔となるので、レーダ装置1fでは、例えば、測定時間間隔を揃えるためのリサンプリングによる補間処理が不要となり、より好適である。
【0257】
図19において、Nt個の送信位相回転部105は、実施の形態1と同様、入力されるチャープ信号に対して、複数回N
cohのチャープ信号の送信周期(N
coh×T
r)において、チャープ信号の送信周期T
r毎に所定の位相回転Φ(m)を付与した信号を出力する。ここで、n=1~Ntである。
【0258】
Nt個の符号多重部109は、Nt個の送信位相回転部105の出力をそれぞれ入力とする。Nt個の符号多重部109は、符号長Ncolenの直交符号系列を用いて、複数Nt個の送信アンテナ108に対して、互いに直交する符号を重畳したチャープ信号をNt個の送信アンテナ108に出力する。
【0259】
ここで、符号多重数Ncodeは、Ncode=Ntでよい。なお、一部の送信アンテナ108を符号多重に用いなくてもよく、又は、複数の送信アンテナ108を束ねてビーム送信してもよい。この場合、符号多重数Ncodeは、Ncode≦Ntを満たすように予め設定されてもよい。なお、以下では、一例として、符号多重数Ncode=Ntの場合について説明する。
【0260】
符号長Ncolenの直交符号系列をCodencm={OCncm(1), OCncm(2),~, OCncm(Ncolen)}と表記する。ここで、OCncm(noc)は第ncm番目の直交符号系列Codencmにおけるnoc番目の符号要素を表す。nocは符号要素のインデックスであり、noc=1~Ncolenである。また、ncmは1以上、Ncmの整数値をとる。Ncmは符号長Ncolenの直交符号系列数を表し、Ncode≦Ncmとなる直交符号が使用されてよい。
【0261】
直交符号系列は、例えば、互いに直交する(無相関となる)符号でよい。例えば、直交符号系列は、Walsh-Hadamard-符号でもよい。例えば、直交符号系列がWalsh-Hadamard-符号の場合、Ncolenは2のべき乗値をとり、Ncm=Ncolenで与えられる。
【0262】
例えば、Ncode=2の場合、符号長Ncolen=2のWalsh-Hadamard-符号を用いてもよい。この場合、符号長Ncolen=2のWalsh-Hadamard-符号の系列数Ncm=2であり、直交符号系列は、Code1={1,1}、Code2={1,-1}となる。なお、直交符号系列を構成する符号要素が1の場合、1=exp(j0)より、その位相は0である。また、直交符号系列を構成する符号要素が-1の場合、-1=exp(jπ)より、その位相はπである。
【0263】
また、例えば、Ncode=3又は4の場合、符号長Ncolen=4のWalsh-Hadamard-符号を用いてもよい。この場合、符号長Ncolen=4のWalsh-Hadamard-符号の系列数Ncm=4であり、直交符号系列は、Code1={1,1, 1, 1}、Code2={1,-1, 1, -1}, Code3={1,1, -1, -1}、及び、Code4={1,-1, -1, 1}となる。
【0264】
ここで、符号多重部109は、例えば、複数回Ncohのチャープ信号の送信周期(Ncoh×Tr)において、Nt個の送信位相回転部105によりチャープ信号の送信周期Tr毎に所定の位相回転Φ(m)が付与された出力信号に対して、複数回Ncohのチャープ信号の送信周期(Ncoh×Tr)毎に、一つの符号要素を重畳するように多重してよい。
【0265】
例えば、第n番目の符号多重部109において、第m番目の送信周期における第n番目の送信アンテナ108(Tx#n)に対して、符号長N
colenの直交符号系列のうち、第n番目の符号Code
n={OC
n(1), OC
n(2),~, OC
n(N
colen)}を重畳した場合の出力信号は次式(40)で表される。
【数41】
【0266】
ここで、angle[x]は実数xのラジアン位相を出力する演算子であり、例えば、angle[1]=0、angle[-1]=π、angle[j]=π/2、angle[-j]=-π/2である。また、floor[x]は実数xを超えない最大の整数を出力する演算子である。jは虚数単位である。また、mod(x, y)はモジュロ演算子であり、xをyで割った後の余りを出力する関数である。また、m=1~Ncである。Ncはレーダ測位に用いる送信周期数である。なお、Nc/(Ncode×Ncolen)が整数となるNc、Ncode及びNcolenの設定により、符号多重送信される送信信号間の直交性を維持でき、符号多重における相互干渉を抑圧できる関係となり、好適な設定となる。
【0267】
なお、符号多重部109の出力は、これに限定されない。また、符号多重部109において、Ncolen個の符号要素OCn(Ncolen)を重畳後、符号要素OCn(1)から巡回的に重畳してよい。
【0268】
一例として、送信アンテナ数Nt=2、Ncoh=4の場合、第1~10番目の送信周期において、各送信アンテナ108から送信されるレーダ送信波(チャープ信号)について説明する。
【0269】
第1の送信アンテナ108(Tx#1)から送信されるチャープ信号には、符号長Ncolen=2のWalsh-Hadamard-符号Code1={1,1}(angle(Code1)=[0, 0])が付与され、第2の送信アンテナ108から送信されるチャープ信号には、符号長Ncolen=2のWalsh-Hadamard-符号Code2={1,-1}(angle(Code1)=[0,π])が付与されてよい。
【0270】
この場合の符号多重部109の出力例を以下に示す。
【0271】
1)第1の符号多重部109の出力(第1の送信アンテナ108へ出力、N
coh=4、Code
1={1,1})
【数42】
【0272】
2)第2の符号多重部109の出力(第2の送信アンテナ108へ出力、N
coh=4、Code
1={1,-1})
【数43】
【0273】
このように、例えば、符号多重部109は、直交符号系列に含まれる複数の符号要素に基づく位相回転を、複数回Ncohの送信周期に対応する期間(Ncoh×Tr)の単位でレーダ送信信号に付与してよい。
【0274】
図19において、第n番目の送信アンテナ108(Tx#n)からは、第n番目の符号多重部109の出力信号が、所定の送信電力に増幅され、空間に放射される。
【0275】
図20は、一例として、送信アンテナ数Nt=2、N
coh=4の場合の第1~第16番目の送信周期(例えば、T
r#1~T
r#16)における、各送信アンテナ108(Tx#1及びTx#2)から送信されるレーダ送信波(チャープ信号)を示す。
【0276】
図20に示す例では、N
coh=4であるので、チャープ信号の4回の送信周期(4T
r)毎に、符号要素が変化した信号が送信される。例えば、
図20に示すように、送信アンテナTx#1及びTx#2のそれぞれから、異なる直交符号が重畳されてチャープ信号が送信される。
【0277】
[レーダ受信部200fの動作例]
次に、レーダ装置1fのレーダ受信部200fの動作例について説明する。
【0278】
図19において、レーダ受信部200fは、Na個の受信アンテナ202(例えば、Rx#1~Rx#Na)を備える。ここで、Na≧1である。
【0279】
Na個の受信アンテナRx#1~Rx#Naは、Nt個の送信アンテナ108から送信されるレーダ送信信号が物標(例えば、レーダ測定ターゲットを含む反射物体)に反射した反射波信号を受信する。
【0280】
Na個の受信アンテナ202で受信された各信号は、各受信アンテナ202に対応するアンテナ系統処理部201の受信無線部203に出力される。また、Na個の受信無線部203からの出力信号のそれぞれは、Na個の信号処理部206fに出力される。
【0281】
例えば、受信無線部203において、ミキサ部204は、実施の形態1と同様に、受信した反射波信号(受信信号)に対して、送信信号であるチャープ信号とのミキシングを行う。また、ミキサ部204の出力を、LPF205に通過させることにより、反射波信号の遅延時間に応じた周波数となるビート信号が取り出される。また、実施の形態1と同様に、各受信無線部203(LPF205)から出力されるビート信号は、信号処理部206fのA/D変換部207によって離散的にサンプルリングされた離散サンプリングデータに変換される。また、ビート周波数解析部208は、送信周期Tr毎に、所定時間範囲(レンジゲート)Tswにおいて得られたNdata個の離散サンプリングデータをFFT処理する。これにより、信号処理部206fでは、反射波信号(レーダ反射波)の遅延時間に応じたビート周波数にピークが現れる周波数スペクトラムが出力される。
【0282】
第z番目のアンテナ系統処理部201の信号処理部206fにおける受信位相回転部209は、例えば、ビート周波数解析部208から出力されるビート周波数応答RFTz(fb, 1)、RFTz(fb, 2),~,RFTz(fb, Nc)に対して、距離インデックスfb毎に、送信位相回転部105において付与される位相シフトΦ(m)を打ち消す位相回転を付与する。例えば、受信位相回転部209は、送信位相回転量Φ(m)と逆方向の位相回転を与える逆位相シフト(-Φ(m))を、式(8)のように反射波信号に付与してよい。ここで、z=1~Naであり、m=1~Ncである。
【0283】
第z番目のアンテナ系統処理部201の信号処理部206fにおける同相加算部210は、例えば、受信位相回転部209から出力信号に対して同相加算を行う。例えば、レーダ送信部100fにおいて複数回Ncohのチャープ信号の送信周期(Ncoh×Tr)において、チャープ信号の送信周期Tr毎に所定の位相回転Φ(m)が付与された信号が出力される。そこで、同相加算部210は、例えば、複数回Ncohの送信周期に対応する期間(Ncoh×Tr)において得た受信位相回転部209からの出力(例えば、複素数値)に対して、式(9)に示すように、距離インデックスfb毎に同相加算を行う。ここで、s=1~Nc/Ncohであり、Ncは(Ncoh×Ncolen)の整数倍に設定することが好適である。
【0284】
第z番目のアンテナ系統処理部201の信号処理部206fにおける符号分離部218は、例えば、同相加算部210の出力を用いて、符号多重送信された信号を分離受信する。
【0285】
例えば、第n番目の送信アンテナ108に対して、第n番目の符号Code
n={OC
n(1), OC
n(2),~, OC
n(N
colen)}を用いて符号多重送信される信号を分離する処理は、次式(41)で表される。
【数44】
【0286】
式(41)において、同相加算部210の出力SumRFTz(fb, s)に対して、exp[-j×angle{OCn(mod(u-1, Ncolen)+1)}]で表される第n番目の符号の複素共役が乗算されることにより、符号多重された信号Demn,z(fb, u)の分離が可能となる。ここで、u=1~Nc/(Ncolen×Nc)である。
【0287】
第z番目のアンテナ系統処理部201の信号処理部206fにおけるNt個の記憶部212のそれぞれは、符号分離部218から入力される信号を記憶する。例えば、符号分離部218の動作により、第n番目の記憶部212は、第n番目の送信アンテナ108から送信されるレーダ送信信号に対する反射波信号をz番目の受信アンテナ202にて受信した、距離インデックスfb毎の符号分離された出力信号であるDemn,z(fb, u)を記憶する。ここで、fbはビート周波数インデックスを表し、fb=0~Ndata/2-1である。また、u=1~Nc/(Ncolen×Nc)である。
【0288】
以上、信号処理部206fの各構成部における処理について説明した。
【0289】
図19において、CFAR部213は、第1~第Na番目のアンテナ系統処理部201の信号処理部206fそれぞれにおけるNt個の記憶部212からの出力を用いて、CFAR処理を行ってよい。CFAR部213は、局所的なピーク信号を与える距離インデックスf
b_cfar、及び、当該距離インデックスf
b_cfarにおける記憶部212にて記憶された受信データDem
n,z(f
b_cfar, u)を抽出し、方向推定部214へ出力する。
【0290】
例えば、CFAR部213は、第1~第Na番目のアンテナ系統処理部201の信号処理部206fにおけるNt個の記憶部212の出力に対して、次式(42)に示すように電力加算値(例えば、PowerRFT(f
b))を算出して、CFAR処理を行ってよい。
【数45】
【0291】
なお、CFAR処理の動作については、例えば、非特許文献3に技術開示されており、詳細動作の説明を省略する。
【0292】
方向推定部214は、例えば、CFAR部213から入力される情報(例えば、距離インデックスfb_cfar、及び、記憶部212にて記憶された受信データDemn,z(fb_cfar, u)に基づいて、距離インデックスfb_cfar毎に、物標の方向推定処理を行う。方向推定部214の動作については、実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0293】
また、ビームウェイト乗算部215及びバイタル信号検出部216の動作については、実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0294】
本実施の形態では、実施の形態1と同様に、レーダ装置1fが、送信位相回転部105、受信位相回転部209、及び、同相加算部210を有するので、実施の形態1と同様、DCオフセット成分を除去し、また、MIMOレーダの符号多重送信が可能となる。以下、このような効果の詳細について説明する。
【0295】
例えば、第z番目のアンテナ系統処理部201のビート周波数解析部208から出力されるビート周波数応答RFTz(fb, 1)、RFTz(fb, 2)、~、RFTz(fb, Nc)には、Nt個の送信アンテナ108から物標に反射してz番目の受信アンテナ202にて受信される反射波成分が含まれる。このような反射波信号を「RXz,n(fb, m)」と表記する。なお、RXz,n(fb, m)は、振幅及び位相成分を有する複素数値からなる伝搬路応答である。
【0296】
また、n番目の送信アンテナ108から送信されるチャープ信号には、送信位相回転部105において位相回転Φ(m)が付与され、また、符号多重部109において符号要素OCn(m)が重畳されるため、符号多重送信された反射波信号は、exp(jΦ(m))×exp(j×angle(OCn(m))×RXz,n(fb, m)のように表記される。
【0297】
このようなNt個の送信アンテナ108から符号多重を用いて同時多重送信されたレーダ送信信号に対する反射波信号が受信されるため、第z番目のアンテナ系統処理部201のビート周波数解析部208から出力されるビート周波数応答RFT
z(f
b, m)は、次式(43)のように表される。なお、ここでは、雑音成分を無視する。
【数46】
【0298】
ここで、送信位相回転部105において付与される位相回転Φ(m)は、複数(例えば、全て)の送信アンテナ108に対して共通であるため、次式(44)のように、共通項として括りだせる。
【数47】
【0299】
また、N
coh×T
rのチャープ信号の送信周期に対応する期間内において同じ符号要素がチャープ信号に重畳されるため、N
coh×T
rのチャープ信号の送信周期に対応する期間においてRX
z,n(f
b, m)が静止又は準静的とみなせる場合、式(44)の積和の項は、N
coh×T
rのチャープ送信周期に対応する期間内では一定の複素数値と見なせる。例えば、式(44)の積和の項を一定の複素数値「A
z(f
b)」と表記する場合、ビート周波数応答RFT
z(f
b, m)は、次式(45)のように表される。また、複素数値A
z(f
b)は、式(46)のように表される。
【数48】
【数49】
【0300】
例えば、N
coh×T
rのチャープ信号の送信周期に対応する期間において、同相成分のDCオフセット成分「DCI」、及び、直交成分のDCオフセット成分「DCQ」が存在する場合、ビート周波数応答RFT
z(f
b, m)は、次式(47)で表される。
【数50】
【0301】
ここで、RealRFTz(fb, m) は、DCオフセット成分が無い場合のRFTz(fb, m)の実数成分を示し、ImageRFTz(fb, m) は、DCオフセット成分が無い場合のRFTz(fb, m)の虚数成分を示す。DCオフセット成分(例えば、DCI及びDCQの少なくとも一つ)が大きいほど、位相変動の原点がシフトするため、レーダ装置1fでは位相の正確な検出が困難となり、位相検出精度が劣化する可能性がある。
【0302】
このようなビート周波数応答RFT
z(f
b, m)に対して、N
coh×T
rのチャープ信号の送信周期に対応する期間において、受信位相回転部209にて逆位相回転exp(-jΦ(m))を付与後に同相加算部210において同相加算処理を行うと、次式(48)のように、DCオフセット成分(例えば、DCI及びDCQ)が除去された信号が得られる。
【数51】
【0303】
以上のように、本実施の形態では、符号多重送信を用いるMIMOレーダでも、送信位相回転部105において式(21)を満たす位相回転を付与することにより、レーダ装置1fは、受信位相回転部209及び同相加算部210の動作によって、実施の形態1と同様、DCオフセット成分(例えば、DCI、DCQ)を除去し、同相加算効果を得ることができる。例えば、送信位相回転部105は、符号系列に含まれる複数の符号要素に基づく位相回転量が複数のレーダ送信信号に付与される単位の所定の期間内において複数のレーダ送信信号が送信される回数で、2πの整数倍(例えば、2πα)を除算した値に基づいて算出される位相回転量を、上記所定の期間内の複数のレーダ送信信号の各々に付与してよい。
【0304】
また、本実施の形態において、符号分離部218は、DCオフセット成分が除去された同相加算部210の出力を用いて、符号分離処理を行うため、多重信号の相互干渉を低減した分離処理が可能となる。
【0305】
なお、本実施の形態において、送信位相回転部105は、全ての送信アンテナ108に共通の位相回転を付与する。そのため、例えば、
図21に示すレーダ送信部100gのように、VCO104の出力に対して1個の送信位相回転部105を備え、送信位相回転部105の出力を各送信アンテナ108に接続するNt個の符号多重部109へ入力する構成でもよい。
図21に示す構成により、送信位相回転部105は共通化され1個となるため、レーダ装置1fの回路構成を簡易化できる。
【0306】
(実施の形態4)
本実施の形態に係るレーダ装置1fは、実施の形態3と同様の構成でよい。
【0307】
実施の形態3では、バイタル情報を検出するターゲットが静止している状態、又は、符号多重に使用される符号長Ncolenの全ての符号要素が使用される送信周期間(Tr×Ncolen×Ncoh)においてレーダ装置1fとターゲットとの相対的な位置関係が変化しない、あるいは無視可能な準静的な状態を想定した。
【0308】
その一方で、ターゲット又はレーダ装置1fが移動する場合、或いは、ターゲット又はレーダ装置1fが車室内にあり、ターゲット又はレーダ装置1fがバイタル情報とは異なる車両からの振動を受ける状況にある場合、(Tr×Ncolen×Ncoh)の期間においてレーダ装置1fとターゲットとの相対的な位置関係が準静的な状態とならない可能性がある。
【0309】
例えば、ターゲット又はレーダ装置1fが移動する場合、或いは、ターゲット又はレーダ装置1fが車室内にあり、ターゲット又はレーダ装置1fが車から振動を受ける状況において、送信周期毎にΔの位相回転が生じる場合について説明する。この場合、例えば、第1の符号要素が使用される最初の送信周期での受信位相を基準とすると、第k番目の符号要素が使用される最初の送信周期での受信位相には(k-1)×Ncoh×Δの位相ずれが生じ、第Ncolen番目の符号要素が使用される送信周期での受信位相には(Ncolen-1)×Ncoh×Δの位相ずれが生じ得る。
【0310】
このように符号要素が使用される期間における受信位相のずれは、符号長が長いほど、符号長に比例して増大する。符号要素が使用される期間における受信位相ずれ量が大きいほど、符号分離部218において符号分離処理の際に、符号多重送信される信号間で理想的な分離処理が困難となり、相互干渉量が増大する。また、相互干渉量が大きいほど、符号分離された信号の位相成分に含まれる誤差が多くなり、方向推定部214における方向推定誤差が増大する。また、方向推定部214における方向推定誤差が生じると、ビームウェイト乗算部215においてビームウェイトが適切に生成されず、受信品質(例えば、SNR)が低下しやすくなる。
【0311】
本実施の形態では、符号要素が使用される期間における受信位相ずれによる受信品質の低下を抑制する方法について説明する。本実施の形態では、
図19を用いて、実施の形態3と異なる動作について主に説明する。
【0312】
レーダ送信部100fにおいて、レーダ送信信号生成部101は、実施の形態3と同様の動作でよい。
【0313】
[レーダ送信部100fの動作例]
例えば、信号制御部102は、1回のレーダ測位につき、チャープ信号を送信周期Tr毎にNc回送信するように、変調信号発生部103及びVCO104を制御してよい。なお、以下では、Nc回の送信周期Trのそれぞれの送信周期をインデックス「m」で表す。ここで、m=1~Ncである。
【0314】
また、例えば、レーダ装置1fが複数回のレーダ測位を行う場合、信号制御部102は、例えば、所定の送信停止時間Tstopを設定し、送信周期Tr毎にNc回送信後、所定の送信停止時間Tstopを経て、送信周期Tr毎にNc回送信を繰り返す制御を行ってよい。このような送信制御により、レーダ装置1fは、例えば、バイタル情報といった時間変動が比較的緩やかなデータを長時間に亘って検出可能となる。例えば、レーダ装置1fは、複数Nrepeat回のレーダ測位を繰り返すことで、(Nc×Tr+Tstop)×Nrepeatに亘る時間において、チャープ信号をNc×Nrepeat回送信して得られる物標の時間変動を観測できる。
【0315】
ここで、送信停止時間Tstopは、例えば、Trの整数倍の単位で設定されてよい。これにより、例えば、複数回のレーダ測位でのチャープ信号の送信間隔は、Trの整数倍単位の間隔となるので、例えば、測定時間間隔を揃えるためのリサンプリング処理による補完処理が不要となり、より好適である。
【0316】
Nt個の送信位相回転部105は、実施の形態3(又は、実施の形態1)と同様、入力されるチャープ信号に対して、複数回Ncohのチャープ信号の送信周期(Ncoh×Tr)において、チャープ信号の送信周期Tr毎に所定の位相回転Φ(m)を付与した信号を出力する。ここで、n=1~Ntである。
【0317】
Nt個の符号多重部109は、Nt個の送信位相回転部105の出力をそれぞれ入力とする。Nt個の符号多重部109は、符号長Ncolenの直交符号系列を用いて、複数Nt個の送信アンテナ108に対して、互いに直交する符号を重畳したチャープ信号をNt個の送信アンテナ108に出力する。
【0318】
ここで、符号多重数Ncodeは、Ncode=Ntでよい。なお、一部の送信アンテナ108を符号多重に用いなくてもよく、又は、複数の送信アンテナ108を束ねてビーム送信してもよい。この場合、符号多重数Ncodeは、Ncode≦Ntを満たすように予め設定されてもよい。なお、以下では、一例として、符号多重数Ncode=Ntの場合について説明する。
【0319】
符号長Ncolenの直交符号系列をCodencm={OCncm(1), OCncm(2),~, OCncm(Ncolen)}と表記する。ここで、OCncm(noc)は第ncm番目の直交符号系列Codencmにおけるnoc番目の符号要素を表す。nocは符号要素のインデックスであり、noc=1~Ncolenである。また、ncmは1以上、Ncmの整数値をとる。Ncmは符号長Ncolenの直交符号系列数を表し、Ncode≦Ncmとなる直交符号が使用されてよい。
【0320】
直交符号系列は、例えば、互いに直交する(無相関となる)符号でよい。例えば、直交符号系列は、Walsh-Hadamard-符号でもよい。例えば、直交符号系列がWalsh-Hadamard-符号の場合、Ncolenは2のべき乗値をとり、Ncm=Ncolenで与えられる。
【0321】
符号多重部109は、例えば、複数回Ncohのチャープ信号の送信周期(Ncoh×Tr)において、Nt個の送信位相回転部105によりチャープ信号の送信周期Tr毎に所定の位相回転Φ(m)が付与された出力信号に対して、複数回Ncohのチャープ信号の送信周期(Ncoh×Tr)毎に、一つの符号要素を重畳するように多重してよい。
【0322】
例えば、第n番目の符号多重部109は、第m番目の送信周期において、第n番目の送信アンテナ108(Tx#n)に対して、符号長Ncolenの直交符号系列のうち、第n番目の符号Coden={OCn(1), OCn(2),~, OCn(Ncolen)}をチャープ信号に重畳して出力する。
【0323】
符号多重部109は、例えば、Ncolen個の符号要素OCn(Ncolen)を重畳後、続く複数回Ncohのチャープ信号の送信周期(Ncoh×Tr)毎に、第n番目の符号Coden={OCn(1), OCn(2),…, OCn(Ncolen)}の符号を、符号要素OCn(1), OCn(2),~, OCn(Ncolen)の順序の逆順の符号要素OCn(Ncolen), OCn(Ncolen-1),~, OCn(1)の順に、チャープ信号に重畳して出力する。
【0324】
以降、符号多重部109は、同様に、Ncolen個の符号要素OCn(1)の重畳後、続く複数回Ncohのチャープ信号の送信周期(Ncoh×Tr)毎に、第n番目の符号Coden={OCn(1), OCn(2),~, OCn(Ncolen)}の符号を、符号要素OCn(1), OCn(2),~, OCn(Ncolen)の順の重畳と、符号要素OCn(Ncolen), OCn(Ncolen-1), ~, OCn(1)の順の重畳とを繰り返してよい。
【0325】
以上の動作は、例えば、第n番目の符号Code
n={OC
n(1), OC
n(2),~, OC
n(N
colen) }の代わりに、符号長2N
colenに拡張した符号CodeEx
n={OC
n(1), OC
n(2),~, OC
n(Ncolen), OC
n(N
colen), OC
n(N
colen-1),~, OC
n(1)}={OCEX
n(1), OCEX
n(2),~, OCEX
n(2N
colen)}を用いて、次式(49)のように巡回的に重畳する動作として表されてもよい。
【数52】
【0326】
なお、Nc/(2×Ncode×Ncolen)が整数となるNc、Ncode及びNcolenの設定により、符号多重送信される送信信号間の直交性を維持でき、符号多重における相互干渉を抑圧できる関係となり、好適な設定となる。
【0327】
一例として、送信アンテナ数Nt=2、Ncoh=2の場合、第1~10番目の送信周期において、各送信アンテナ108から送信されるレーダ送信波(チャープ信号)について説明する。
【0328】
第1の送信アンテナ108(Tx#1)から送信されるチャープ信号には、符号長Ncolen=2のWalsh-Hadamard-符号Code1={1,1}(angle(Code1)=[0, 0])が付与され、第2の送信アンテナ108から送信されるチャープ信号には、符号長Ncolen=2のWalsh-Hadamard-符号Code2={1,-1}(angle(Code1)=[0,π])が付与されてよい。
【0329】
この場合の符号多重部109の出力例を以下に示す。
【0330】
1)第1の符号多重部109の出力(第1の送信アンテナ108へ出力、N
coh=2、Code
1={1,1})
【数53】
【0331】
2)第2の符号多重部109の出力(第2の送信アンテナ108へ出力、N
coh=4、Code
1={1,-1})
【数54】
【0332】
このように、例えば、符号多重部109は、直交符号系列に含まれる複数の符号要素に基づく位相回転を、複数回Ncohの送信周期に対応する期間(Ncoh×Tr)の単位でレーダ送信信号に付与してよい。
【0333】
また、本実施の形態では、直交符号系列に含まれる複数の符号要素について、当該符号要素に基づく位相回転に使用される複数のタイミングは、それぞれ、連続する複数の(Ncoh×Tr)の期間内の基準タイミング(又は、基準時間と呼ぶ)に対して同じ時間差を有してよい。
【0334】
例えば、上述した例において、第4番目の送信周期Tr#4と第5番目の送信周期Tr#5との中間点を基準時間(4.5Tr(=(Ncode×Ncolen +1/2)×Trの時間)に設定する。この場合、例えば、第1番目の符号要素(例えば、OC1(1)又はOC2(1))が使用されるタイミング(例えば、Tr#1~Tr#2とTr#7~Tr#8)は、それぞれ、基準時間に対して同じ時間差を有する。例えば、Tr#2~Tr#1は、それぞれ基準時間から、時間的に遅れており、2.5Tr, 3.5Trの時間差を有する。同様に、例えば、Tr#7~Tr#8は、時間的に進んでおり、それぞれ基準時間から、2.5Tr, 3.5Trの時間差を有する。同様に、例えば、第2番目の符号要素(例えば、OC1(2)又はOC2(2))が使用されるタイミング(例えば、Tr#3~Tr#4とTr#5~Tr#6)は、それぞれ、基準時間に対して同じ時間差を有する。例えば、Tr#4~Tr#3は、それぞれ基準時間から、時間的に遅れており、0.5Tr, 1.5Trの時間差を有する。同様に、例えば、Tr#5~Tr#6は、時間的に進んでおり、それぞれ基準時間から、0.5Tr, 1.5Trの時間差を有する。
【0335】
よって、上述した例では、基準時間よりも前の時間での第1~第4番目の送信周期の符号要素の切り替えパターンと、基準時間より後の時間での第5~第8番目の送信周期の符号要素の切り替えパターンとは、基準時間に対して時間軸で対称的に符号要素が切り替わってチャープ信号が送信される。
【0336】
第n番目の送信アンテナ108(Tx#n)からは、第n番目の符号多重部109の出力信号が、所定の送信電力に増幅され、空間に放射される。
【0337】
[レーダ受信部200fの動作例]
次に、レーダ装置1fのレーダ受信部200fの動作例について説明する。
【0338】
本実施の形態において、受信アンテナ202、受信無線部203の動作は、実施の形態3と同様であるので説明を省略する。Na個の受信無線部203からの出力信号のそれぞれは、Na個の信号処理部206fに出力される。
【0339】
また、第z番目のアンテナ系統処理部201の信号処理部206fにおける受信位相回転部209は、実施の形態3と同様の動作でよい。例えば、受信位相回転部209は、ビート周波数解析部208から出力されるビート周波数応答RFTz(fb, 1)、RFTz(fb, 2),~,RFTz(fb, Nc)に対して、距離インデックスfb毎に、送信位相回転部105において付与される位相シフトΦ(m)を打ち消す位相回転を付与する。例えば、受信位相回転部209は、送信位相回転量Φ(m)と逆方向の位相回転を与える逆位相シフト(-Φ(m))を、式(8)のように反射波信号に付与してよい。ここで、z=1~Naであり、m=1~Ncである。
【0340】
第z番目のアンテナ系統処理部201の信号処理部206fにおける同相加算部210は、実施の形態3と同様の動作でよい。例えば、レーダ送信部100fにおいて複数回Ncohのチャープ信号の送信周期(Ncoh×Tr)において、チャープ信号の送信周期Tr毎に所定の位相回転Φ(m)が付与された信号が出力される。そこで、同相加算部210は、例えば、複数回Ncohの送信周期に対応する期間(Ncoh×Tr)において得た受信位相回転部209からの出力(例えば、複素数値)に対して、式(9)に示すように、距離インデックスfb毎に同相加算を行う。ここで、s=1~Nc/Ncohであり、Ncは(Ncoh×Ncolen)の整数倍に設定することが好適である。
【0341】
第z番目のアンテナ系統処理部201の信号処理部206fにおける符号分離部218は、例えば、同相加算部210の出力を用いて、符号多重送信された信号を分離受信する。
【0342】
例えば、第n番目の送信アンテナ108に対して、第n番目の符号Code
n={OC
n(1), OC
n(2),~, OC
n(N
colen)}の代わりに、符号長2Ncolenに拡張した符号CodeEx
n={OC
n(1), OC
n(2),~, OC
n(N
colen), OC
n(N
colen), OC
n(N
colen-1),~, OC
n(1)}={OCEX
n(1), OCEX
n(2),~, OCEX
n(2N
colen)}を用いて符号多重送信される信号を分離する処理は、次式(50)で表される。
【数55】
【0343】
式(50)において、同相加算部210の出力SumRFTz(fb, s)に対して、exp[-j×angle{OCEXn(mod(u-1, Ncolen)+1)}]で表される第n番目の符号の複素共役が乗算されることにより、符号多重された信号Demn,z(fb, u)の分離が可能となる。ここで、u=1~Nc/(2Ncolen×Nc)である。
【0344】
第z番目のアンテナ系統処理部201の信号処理部206fにおけるNt個の記憶部212のそれぞれは、実施の形態3と同様、符号分離部218から入力される信号を記憶する。例えば、符号分離部218の動作により、第n番目の記憶部212は、第n番目の送信アンテナ108から送信されるレーダ送信信号に対する反射波信号をz番目の受信アンテナ202にて受信した、距離インデックスfb毎の符号分離された出力信号であるDemn,z(fb, u)を記憶する。ここで、fbはビート周波数インデックスを表し、fb=0~Ndata/2-1である。また、u=1~Nc/(2Ncolen×Nc)である。
【0345】
以上、信号処理部206fの各構成部における処理について説明した。
【0346】
CFAR部213は、実施の形態3と同様、第1~第Na番目のアンテナ系統処理部201の信号処理部206fそれぞれにおけるNt個の記憶部212からの出力を用いて、CFAR処理を行ってよい。CFAR部213は、局所的なピーク信号を与える距離インデックスfb_cfar、及び、当該距離インデックスfb_cfarにおける記憶部212にて記憶された受信データDemn,z(fb_cfar, u)を抽出し、方向推定部214へ出力する。ここで、u=1,…,Nc/(2Ncolen×Nc)である。
【0347】
例えば、CFAR部213は、第1~第Naのアンテナ系統処理部201の信号処理部206fにおけるNt個の記憶部212の出力に対して、次式(51)に示すように電力加算値(例えば、PowerRFT(f
b))を算出して、CFAR処理を行ってよい。
【数56】
【0348】
なお、CFAR処理の動作については、例えば、非特許文献3に技術開示されており、詳細動作の説明を省略する。
【0349】
方向推定部214は、例えば、CFAR部213から入力される情報(例えば、距離インデックスfb_cfar、及び、記憶部212にて記憶された受信データDemn,z(fb_cfar, u)に基づいて、距離インデックスfb_cfar毎に、物標の方向推定処理を行う。方向推定部214の動作については、実施の形態3と同様であるため、説明を省略する。
【0350】
また、ビームウェイト乗算部215及びバイタル信号検出部216の動作については、実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
【0351】
本実施の形態では、実施の形態3と同様に、レーダ装置1fが、送信位相回転部105、受信位相回転部209、及び、同相加算部210を有するので、実施の形態1と同様、DCオフセット成分を除去し、また、MIMOレーダの符号多重送信が可能となる。
【0352】
また、本実施の形態では、ターゲット又はレーダ装置1fが移動する場合、又は、ターゲット又はレーダ装置1fが車室内にあり、ターゲット又はレーダ装置1fが車の振動を受ける状況において、全ての符号要素が送信される送信周期間(Tr×Ncolen×Ncoh)毎にΔの位相回転が生じる場合でも、Δの位相回転の影響を低減し、相互干渉量の増大を低減することができる。以下、このような効果の詳細について説明する。
【0353】
例えば、第z番目のアンテナ系統処理部201のビート周波数解析部208から出力されるビート周波数応答RFTz(fb, 1)、RFTz(fb, 2)、~、RFTz(fb, Nc)には、Nt個の送信アンテナ108から物標に反射してz番目の受信アンテナ202にて受信される反射波成分が含まれる。このような反射波信号を「RXz,n(fb, m)」と表記する。なお、RXz,n(fb, m)は、振幅及び位相成分を有する複素数値からなる伝搬路応答である。
【0354】
また、n番目の送信アンテナ108から送信されるチャープ信号には、送信位相回転部105において位相回転Φ(m)が付与され、また、符号多重部109において符号要素OCEXn(m)が重畳されるため、符号多重送信された反射波信号は、exp(jΦ(m))×exp(j×angle(OCEXn(m))×RXz,n(fb, m)のように表記される。
【0355】
例えば、第1の符号要素が送信される送信周期での受信位相を基準とすると、第k番目の符号要素が送信される送信周期での受信位相には(k-1)×Δの位相ずれが生じ、第2Ncolen番目の符号要素が送信される送信周期での受信位相には(2Ncolen-1)×Δの位相ずれが生じる。
【0356】
このように符号要素が送信される期間での受信位相に位相ずれΔが含まれる場合、第1の符号要素が送信される送信周期での受信位相を基準とすると、第k番目の符号要素が送信される送信周期での符号多重送信された反射波信号は、exp(jΦ(k))×exp(j×(k-1)Δ)×exp(j×angle(OCEXn(k))×RXz,n(fb, k)のように表記される。ここで、k=1~2Ncolenである。
【0357】
このようなNt個の送信アンテナ108から符号多重を用いて同時多重送信されたレーダ送信信号に対する反射波信号が受信されるため、第z番目のアンテナ系統処理部201のビート周波数解析部208から出力される第k番目の送信周期におけるビート周波数応答RFT
z(f
b, k)は、次式(52)のように表わされる。なお、ここでは、雑音成分を無視する。
【数57】
【0358】
ここで、送信位相回転部105において付与される位相回転Φ(k)は、複数(例えば、全て)の送信アンテナ108に対して共通であるため、次式(53)のように共通項として括りだせる。
【数58】
【0359】
また、N
coh×T
rのチャープ信号の送信周期に対応する期間内において同じ符号要素がチャープ信号に重畳されるため、ビート周波数応答RFT
z(f
b, k)は、次式(54)のように表される。また、式(54)における複素数値A
z(f
b, k)は、式(55)のように表される。
【数59】
【数60】
【0360】
例えば、N
coh×T
rのチャープ信号の送信周期に対応する期間において、同相成分のDCオフセット成分「DCI」、及び、直交成分のDCオフセット成分「DCQ」が存在する場合、ビート周波数応答RFT
z(f
b, k)は、次式(56)で表される。
【数61】
【0361】
ここで、RealRFTz(fb, k)は、DCオフセット成分が無い場合のRFTz(fb, k)の実数成分を示し、ImageRFTz(fb, k)は、DCオフセット成分が無い場合のRFTz(fb, k)の虚数成分を示す。DCオフセット成分(例えば、DCI及びDCQの少なくとも一つ)が大きいほど、位相変動の原点がシフトするため、レーダ装置1fでは位相の正確な検出が困難となり、位相検出精度が劣化する可能性がある。
【0362】
このようなビート周波数応答RFT
z(f
b, k)に対して、N
coh×T
rのチャープ信号の送信周期に対応する期間において、受信位相回転部209にて逆位相回転exp(-jΦ(m))を付与後に同相加算部210において同相加算処理を行うと、次式(57)のように、DCオフセット成分(例えば、DCI及びDCQ)が除去された信号が得られる。
【数62】
【0363】
以上のように、本実施の形態では、符号多重送信を用いるMIMOレーダでも、送信位相回転部105において式(21)を満たす位相回転を付与することにより、レーダ装置1fは、受信位相回転部209及び同相加算部210の動作によって、実施の形態1と同様、DCオフセット成分(例えば、DCI、DCQ)を除去し、同相加算効果を得ることができる。
【0364】
また、本実施の形態では、基準時間(基準タイミング)よりも前の送信周期における符号要素の切替パターンと、基準時間よりも後の送信周期における符号要素の切り替えパターンとが、基準時間に対して時間軸で対称的に符号要素が切り替わってチャープ信号が送信される。これにより、基準時間よりも前の送信周期と、基準時間よりも後の送信周期との間において、信号に含まれる干渉成分の位相が反転するため、例えば、ターゲット又はレーダ装置1fが移動する場合、或いは、ターゲット又はレーダ装置1fが車室内にあり、ターゲット又はレーダ装置1fが車から振動を受ける状況でも、レーダ装置1fは、符号要素切替に伴う位相ずれの影響を低減することができる。以下、このような効果の説明を行う。
【0365】
ここで、符号分離部218における符号分離処理で、例えば、送信周期毎にΔの位相回転が生じる場合、同相加算部210の出力毎(符号要素毎)に、exp[j ×Ncoh×Δ]の変動成分が含まれるため、符号多重される信号成分間において直交性が崩れて、信号を完全に分離することが困難となり、符号干渉影響が発生する可能性がある。
【0366】
例えば、符号Code
1= [1,1], Code
2= [1,-1]を用いる場合、式(58)のような符号干渉量CodeErrが残留し得る。例えば、Δ=0の場合には|CodeErr|=0であり、Δ≠0の場合には|CodeErr|≠0となる。
【数63】
【0367】
本実施の形態においては、符号Code
1= [1,1], Code
2 = [1,-1]に対し、拡張した符号である符号CodeEx
1= [1,1,1,1], CodeEx
2= [1,-1,-1,1]を用いる。この場合、次式(59)のような符号干渉量ExCodeErrが残留し得る。
【数64】
【0368】
式(59)において、Δ=0の場合には|ExCodeErr|=0であり、Δ≠0の場合には|ExCodeErr|≠0となる。
【0369】
本実施の形態においては、例えば、符号Code1= [1,1], Code2 = [1,-1]に対し、拡張した符号である符号CodeEx1= [1,1,1,1], CodeEx2= [1,-1,-1,1]を用いることで、Δ×Ncohが比較的小さい範囲において、拡張した符号の前半部分のNcolen個の符号要素において生じる送信周期毎にΔの位相回転により生じる符号間干渉成分を、拡張した符号の後半部分のNcolen個の符号要素において生じる符号干渉成分によって部分的に打ち消す関係となることを利用して符号間干渉量を低減する。
【0370】
例えば、式(59)において、exp[1.5jN
cohΔ]で括りだして整理すると、次式(60)で表される。Δ×N
cohが比較的小さい範囲において、式(60)における
【数65】
の項が、式(59)における(1-exp[jN
cohΔ])の項よりも小さくなり、符号間干渉量を低減する効果が得られる。以下、計算機シミュレーションによりその効果を示す。
【数66】
【0371】
図22は、横軸に送信周期毎の位相変動量Δを示し、縦軸に符号干渉量CodeErr及びExCodeErrを2乗した符号干渉電力比(|ExCodeErr|
2/|CodeErr|
2)を示すグラフである。
図22の(a)はN
coh=2の場合の結果を示し、
図22の(b)はN
coh=4の場合の結果を示す。
図22において、符号干渉量電力比は、符号干渉量CodeErrを2乗した符号干渉電力を基準した値であるため、縦軸の値が1より小さい領域であれば、拡張した符号CodeEx
nの使用により、例えば、実施の形態3と比較して、符号間干渉の抑圧効果が得られる。
【0372】
図22の(a)に示すように、N
coh=2の場合、Δ≦14°であれば、符号間干渉量は実施の形態3よりも低減できる。また、
図22の(b)に示す様に、N
coh=4の場合、Δ≦7°であれば、符号間干渉量は実施の形態3よりも低減できる。
【0373】
図22に示すように、Nc=2の場合には、Nc=4の場合よりも符号間干渉量を低減でき、特に有効である。
【0374】
以上、本開示に係る一実施例について説明した。
【0375】
[他の実施の形態]
なお、上述した各実施の形態において、レーダ送信信号として、チャープ(Chirp)信号を用いる構成について説明したが、レーダ送信信号は、チャープ(Chirp)信号と異なる信号でもよい。例えば、レーダ送信信号は、符号化パルス信号といったパルス圧縮波でもよい。レーダ送信信号に符号化パルス信号を用いる場合、受信無線部203のミキサ部204は、高周波受信信号をベースバンド信号に変換し、ビート周波数解析部208の代わりに、送信する符号化パルス信号との相関を行う相関器(図示せず)を用いることで、以降の処理を上述した各実施の形態に係る処理と同様に行うことができ、同様の効果をえることができる。
【0376】
また、上述した各実施の形態又はバリエーションにおけるレーダ装置は、例えば、屋内又は車室内に設置されてよく、レーダ受信部のバイタル検出結果出力又は測位出力(推定結果に関する情報)は、例えば、屋内での監視システム、健康モニタリング、あるいは車室内での置き去り検知又は運転者の健康モニタリングなどのセンサ情報として利用されてもよい。また、レーダ装置は、例えば、路側の電柱又は信号機といった比較的高所の構造物(図示なし)に取り付けられてよい。また、レーダ装置は、例えば、不審者の侵入防止システム(図示なし)におけるセンサとして利用されてもよい。また、レーダ受信部の測位出力は、例えば、車室内での運転者の健康モニタリングシステム又は置き去り検知システムにおける制御装置(図示なし)に接続され、警報発呼制御又は異常検出制御に利用されてもよい。なお、レーダ装置の用途はこれらに限定されず、他の用途に利用されてもよい。また、物標はレーダ装置が検出する対象の物体であり、例えば、車両(4輪及び2輪を含む)、人、ブロック又は縁石などを含む。以降の実施の形態においても同様に、適用が可能である。
【0377】
また、上述した各実施の形態では、バイタル信号検出部216がレーダ装置に含まれる場合について説明したが、これに限定されず、バイタル信号検出部216は、レーダ装置に含まれず、レーダ装置の外部の装置に含まれてもよい。この場合、レーダ装置は、レーダ測位結果を外部の装置へ出力してよい。
【0378】
本開示の一実施例に係るレーダ装置において、レーダ送信部及びレーダ受信部は、物理的に離れた場所に個別に配置されてもよい。また、本開示の一実施例に係るレーダ受信部において、方向推定部と、他の構成部とは、物理的に離れた場所に個別に配置されてもよい。
【0379】
また、本開示の一実施例において、例えば、送信アンテナ数、受信アンテナ数、符号多重数、同相加算回数Ncoh、レーダ測位に用いる送信周期数Ncといったパラメータに用いた数値は一例であり、それらの値に限定されない。
【0380】
本開示の一実施例に係るレーダ装置は、図示しないが、例えば、CPU(Central Processing Unit)、制御プログラムを格納したROM(Read Only Memory)等の記憶媒体、およびRAM(Random Access Memory)等の作業用メモリを有する。この場合、上記した各部の機能は、CPUが制御プログラムを実行することにより実現される。但し、レーダ装置のハードウェア構成は、かかる例に限定されない。例えば、レーダ装置の各機能部は、集積回路であるIC(Integrated Circuit)として実現されてもよい。各機能部は、個別に1チップ化されてもよいし、その一部または全部を含むように1チップ化されてもよい。
【0381】
以上、図面を参照しながら各種の実施形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。また、開示の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0382】
また、上述した実施の形態における「・・・部」という表記は、「・・・回路(circuitry)」、「・・・アッセンブリ」、「・・・デバイス」、「・・・ユニット」、又は、「・・・モジュール」といった他の表記に置換されてもよい。
【0383】
上記各実施形態では、本開示はハードウェアを用いて構成する例にとって説明したが、本開示はハードウェアとの連携においてソフトウェアでも実現することも可能である。
【0384】
また、上記各実施形態の説明に用いた各機能ブロックは、典型的には集積回路であるLSIとして実現される。集積回路は、上記実施の形態の説明に用いた各機能ブロックを制御し、入力端子と出力端子を備えてもよい。これらは個別に1チップ化されてもよいし、一部または全てを含むように1チップ化されてもよい。ここでは、LSIとしたが、集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。
【0385】
また、集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路または汎用プロセッサおよびメモリを用いて実現してもよい。LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)、LSI内部の回路セルの接続又は設定を再構成可能なリコンフィギュラブル プロセッサ(Reconfigurable Processor)を利用してもよい。
【0386】
さらには、半導体技術の進歩又は派生する別技術により、LSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて機能ブロックを集積化してもよい。バイオ技術の適用等が可能性としてありえる。
【0387】
<本開示のまとめ>
本開示の非限定的な一実施例に係るレーダ装置は、同相加算が行われる複数のレーダ送信信号が送信される期間において、2πの整数倍を前記同相加算が行われる回数で除算した値に基づいて算出される複数の位相回転量を各レーダ送信信号に付与する送信位相回転回路と、前記位相回転量が付与された前記複数のレーダ送信信号を送信する送信アンテナと、を具備する。
【0388】
本開示の非限定的な一実施例において、前記送信アンテナが複数のアンテナであり、前記複数の送信アンテナのうち、前記レーダ送信信号を送信する送信アンテナを、前記期間毎に切り替える制御回路、をさらに具備する。
【0389】
本開示の非限定的な一実施例において、連続する複数の前記期間内の基準タイミングに対して送信されるタイミングが同じ時間差を有するペアとなるレーダ送信信号が、前記複数の送信アンテナのうち切り替えられた送信アンテナから送信される。
【0390】
本開示の非限定的な一実施例において、符号系列に含まれる複数の符号要素に基づく位相回転量を、前記期間毎に前記複数のレーダ送信信号に付与する符号多重回路、を更に具備する。
【0391】
本開示の非限定的な一実施例において、連続する複数の前記期間内の基準タイミングに対して前記複数の符号要素のうち同じ符号要素が使用されるタイミングが同じ時間差を有するペアとなるレーダ送信信号が、前記複数の送信アンテナのうち切り替えられた送信アンテナから送信される。
【0392】
本開示の非限定的な一実施例において、前記レーダ送信信号が物標にて反射された反射波信号に対して、前記送信位相回転回路による位相回転と逆方向に、前記位相回転量を付与する受信位相回転回路と、前記受信位相回転回路により前記位相回転量が付与された前記反射波信号を、前記期間において同相加算する同相加算回路と、を更に具備する。
【0393】
本開示の非限定的な一実施例において、前記同相加算後の前記反射波信号に基づいて、バイタル情報を検出する検出回路、を更に具備する。
【0394】
本開示の非限定的な一実施例において、前記同相加算後の前記反射波信号に基づいて、ドップラ周波数解析を行う解析回路、を更に具備する。
【0395】
本開示の非限定的な一実施例において、前記期間はレーダ測位毎に設定される。
【0396】
本開示の非限定的な一実施例において、前記レーダ送信信号の送信を停止する時間はレーダ測位毎に設定される。
【0397】
本開示の非限定的な一実施例において、前記時間は、前記複数のレーダ送信信号の送信周期の整数倍である。
【0398】
本開示の非限定的な一実施例において、前記レーダ送信信号が物標にて反射された反射波信号を受信する受信アンテナをさらに含み、前記送信アンテナ、及び、前記受信アンテナの少なくとも一方の数は1つである。
【0399】
本開示の非限定的な一実施例において、前記送信アンテナが複数のアンテナであり、前記送信位相回転回路は、前記複数の送信アンテナの少なくとも一部に共通して備える。
【0400】
本開示の非限定的な一実施例において、前記期間内において、連続して送信される前記レーダ送信信号の位相は反転している関係である。
【0401】
本開示の非限定的な一実施例において、前記複数の位相回転量の種類の数は、前記同相加算が行われる回数の約数のうち一つと一致する。
【0402】
本開示の非限定的な一実施例において、前記レーダ送信信号は、周波数変調信号である。
【0403】
本開示の非限定的な一実施例に係るレーダ装置は、レーダ送信信号を送信する複数の送信アンテナと、前記複数の送信アンテナを、前記レーダ送信信号がN(Nは2以上の整数)回送信される期間毎に切り替える制御回路と、2πの整数倍を、前記期間内において前記Nで除算した値に基づいて算出される位相回転量を、前記期間内の前記N回送信されるレーダ送信信号の各々に付与する送信位相回転回路と、を具備し、前記位相回転量が付与された前記N個のレーダ送信信号は、前記複数の送信アンテナのうち、前記制御回路によって切り替えられる送信アンテナを用いて送信される。
【0404】
本開示の非限定的な一実施例に係るレーダ装置は、符号系列に含まれる複数の符号要素に基づく第1の位相回転量を、M(Mは1以上の整数)個の期間を単位としてM×N(Nは2以上の整数)個のレーダ送信信号に付与する符号多重回路と、2πの整数倍を、前記期間内において前記Nで除算した値に基づいて算出される第2の位相回転量を、前記期間内の前記N個のレーダ送信信号の各々に付与する送信位相回転回路と、前記第1及び第2の位相回転量が付与された前記M×N個のレーダ送信信号を送信する送信アンテナと、を具備する。
【0405】
本開示の非限定的な一実施例に係るレーダ装置は、N(Nは2以上の整数)個のレーダ送信信号が送信アンテナから送信される送信期間と、前記レーダ送信信号を停止する停止期間とを所定回繰り返し、前記停止期間はレーダ測位期間よりも長い、レーダ装置であって、2πの整数倍を、前記送信期間内にて前記Nで除算した値に基づいて算出される位相回転量を、前記送信期間内の前記N個のレーダ送信信号の各々に付与する送信位相回転回路と、を具備し、前記位相回転量が付与された前記N個のレーダ送信信号は、前記送信アンテナを用いて送信される。
【0406】
本開示の非限定的な一実施例において、前記送信アンテナが複数のアンテナであり、前記複数の送信アンテナのうち、前記レーダ送信信号を送信する送信アンテナを、前記期間内に切り替える制御回路、をさらに具備し、前記位相回転量が付与された前記N個のレーダ送信信号は、前記複数の送信アンテナのうち、前記制御回路によって切り替えられる送信アンテナを用いて送信される。
【0407】
本開示の非限定的な一実施例において、前記制御回路は、前記複数の送信アンテナのうちの第1の送信アンテナから前記レーダ送信信号がN個以下の回数で連続的に送信後、前記第1の送信アンテナから、前記第1の送信アンテナと異なる第2の送信アンテナへ切り替える。
【0408】
本開示の非限定的な一実施例において、前記制御回路は、前記複数の送信アンテナを前記レーダ送信信号の送信周期毎に切り替える。
【0409】
本開示の非限定的な一実施例において、前記停止期間は、前記レーダ送信信号の送信周期の整数倍の間隔である。
【0410】
本開示の非限定的な一実施例に係るバイタル検出装置は、同相加算が行われる複数のレーダ送信信号が送信される期間において、2πの整数倍を前記同相加算が行われる回数で除算した値に基づいて算出される複数の位相回転量を各レーダ送信信号に付与する送信位相回転回路と、前記位相回転量が付与された前記複数のレーダ送信信号を送信する送信アンテナと、前記レーダ送信信号が物標にて反射された反射波信号を受信する受信アンテナと、前記送信位相回転回路による位相回転と逆方向に、前記位相回転量を前記反射波信号に付与する受信位相回転回路と、前記受信位相回転回路により前記位相回転が付与された前記反射波信号を、前記期間において同相加算する同相加算回路と、前記同相加算後の前記反射波信号に基づいて、バイタル情報を検出する検出回路と、を具備する。
【産業上の利用可能性】
【0411】
本開示は、広角範囲を検知するレーダ装置として好適である。
【符号の説明】
【0412】
1,1a,1b,1c,1d,1e,1f,1g レーダ装置
100,100c,100e,100f,100g レーダ送信部
101 レーダ送信信号生成部
102 信号制御部
103 変調信号発生部
104 VCO
105 送信位相回転部
106 アンテナ切替制御部
107 スイッチ部
108 送信アンテナ
109 符号多重部
200,200a,200b,200c,200d,200f レーダ受信部
201 アンテナ系統処理部
202 受信アンテナ
203 受信無線部
204 ミキサ部
205 LPF
206,206c,206f 信号処理部
207 A/D変換部
208 ビート周波数解析部
209 受信位相回転部
210 同相加算部
211 出力切替部
212 記憶部
213 CFAR部
214 方向推定部
215 ビームウェイト乗算部
216 バイタル信号検出部
217 ドップラ周波数解析部
218 符号分離部