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特開2023-10268構造用ケーブルの防食工法およびその防食工法が施された構造用ケーブル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023010268
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】構造用ケーブルの防食工法およびその防食工法が施された構造用ケーブル
(51)【国際特許分類】
   C23F 15/00 20060101AFI20230113BHJP
   E01D 11/02 20060101ALI20230113BHJP
   E01D 11/04 20060101ALI20230113BHJP
   E01D 19/16 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
C23F15/00
E01D11/02
E01D11/04
E01D19/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021114283
(22)【出願日】2021-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】000192626
【氏名又は名称】神鋼鋼線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003041
【氏名又は名称】特許業務法人安田岡本特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 実
(72)【発明者】
【氏名】石川 敬士
(72)【発明者】
【氏名】堀井 智紀
【テーマコード(参考)】
2D059
4K062
【Fターム(参考)】
2D059AA43
2D059BB06
2D059BB08
2D059GG02
2D059GG23
4K062AA05
4K062AA10
4K062BC06
4K062FA13
4K062FA16
4K062GA06
(57)【要約】
【課題】吊橋や斜張橋などの吊構造物に使用されている屋外露出された既設または新設の構造用ケーブルの防食工法において施工性を向上する。
【解決手段】構造用ケーブルの防食工法は、吊橋および斜張橋を含む吊構造物に使用されている屋外露出された構造用ケーブルの防食工法であって、溶着可能な樹脂薄膜により構造用ケーブルを包み込んで覆うものである。ここで、この溶着可能な樹脂薄膜の素材としては、ふっ素樹脂が好ましく特にETFEが好ましい。また、この溶着可能な樹脂薄膜の形状としては、テープ状であったりシート状であることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊橋および斜張橋を含む吊構造物に使用され、屋外露出された既設の構造用ケーブルまたは屋外露出される新設の構造用ケーブルの防食工法であって、
溶着可能な樹脂薄膜により前記構造用ケーブルを包み込んで覆うことを特徴とする、構造用ケーブルの防食工法。
【請求項2】
前記樹脂はふっ素樹脂であることを特徴とする、請求項1に記載の構造用ケーブルの防食工法。
【請求項3】
前記樹脂薄膜はテープ状であって、前記テープ状の樹脂薄膜をテープ幅の半分未満を重ね合わせて前記構造用ケーブルに螺旋状に巻き付けることにより、前記構造用ケーブルを前記テープ状の樹脂薄膜により包み込んで覆うことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の構造用ケーブルの防食工法。
【請求項4】
前記樹脂薄膜はシート状であって、前記シート状の樹脂薄膜を前記構造用ケーブルに、前記シート状の樹脂薄膜が単層の筒状になるように巻き付けて、前記構造用ケーブルの長手方向と垂直な方向のシート端部どうしを重ね合わせることにより、前記構造用ケーブルを前記シート状の樹脂薄膜により包み込んで覆うことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の構造用ケーブルの防食工法。
【請求項5】
前記樹脂薄膜どうしを重ね合わせた後に、重ね合わせた部分を加熱して熱溶着することを特徴とする、請求項3または請求項4に記載の構造用ケーブルの防食工法。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれかに記載の防食工法が施された、吊橋および斜張橋を含む吊構造物に使用されている屋外露出された構造用ケーブル。
【請求項7】
前記樹脂薄膜と前記構造用ケーブルとの間に、前記構造用ケーブルの外部から供給された乾燥空気が流れる構造を備える、請求項6に記載の構造用ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吊橋や斜張橋などの吊構造物に使用され、屋外露出された既設の構造用ケーブルまたは屋外露出される新設の構造用ケーブルの防食技術に関し、特に、このような構造用ケーブルの腐食を予防する場合に、または、構造用ケーブルが腐食した場合に(腐食が軽度で取替えが困難なときには特にその構造用ケーブルを取り替えるのではなく)、構造用ケーブルの延命策を図る防食工法およびその防食工法が施された構造用ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
吊橋や斜張橋に使用される構造用ケーブルは、屋外の厳しい気候条件にさらされるため、錆びなどの劣化を防ぐために塗装などが必要となる。従来、構造用ケーブルは耐候性のある塗料で塗装されていたが、塗装された構造用ケーブルがさらされる厳しい気候条件のために定期的な再塗装が必要な場合があり得た。しかしながら、このような構造用ケーブルは吊橋や斜張橋などの高い位置の主塔に設けられている等に起因する構造用ケーブルへのアクセス性の悪さのために、この再塗装には相当に高額の費用が必要であった。また、適切に再塗装するためには、再塗装前に既存の塗料を除去する必要があり、さらに費用が上昇することになっていた。
【0003】
このような再塗装による補修に対して、最近では、ネオプレンなどのポリクロロプレン製の被覆材(この被覆材の形状としてはたとえば螺旋状に巻き付けやすいテープ状)を、1の吊構造物であっても箇所により長さが異なる構造用ケーブルに螺旋状に巻き付けることで、このような構造用ケーブルをより永続的に屋外露出から守ることができることがわかってきた。しかしながら、この種のネオプレン製の被覆材は、それが使用される吊構造物(吊橋や斜張橋等)における構造用ケーブル以外の他の要素(桁、主塔、ハンガー等)と外観を一致させたり調和させたりする必要があるが、通常は適切に施工前に着色することができない。そのため、橋梁構造用ケーブルをネオプレン製の被覆材で螺旋状に巻いた後、被覆材の外面を塗装することで、構造用ケーブルと他の橋梁要素との間で適切な色合わせを行うことになるが、このような塗装工程は非常に手間がかかるため、非常に高価である。
【0004】
さらに、吊橋の構造用ケーブルをネオプレン製の被覆材(テープ)で螺旋状に巻く際には、被覆材(テープ)の各ターンを先行するターンにしっかりと接着して、その間の継ぎ目を適切にシールし、それによってカバーと構造用ケーブルの間の界面に湿気やほこりが侵入するのを防ぐことが重要である。このタイプのネオプレン製の被覆材を(テープ状の被覆材を構造用ケーブルに螺旋状に巻き付けて)使用する場合、被覆材(テープ)の連続したターンの間にかなりのオーバーラップを設け、溶剤を使用してオーバーラップした層を互いに接着することで、確実に、かつ、十分にシールできることが知られていた。しかしながら、溶剤の塗布は手間がかかるため高価であり、また、多くの溶剤は環境面、健康面および安全面で問題があるために、その取り扱いや廃棄には細心の注意が必要である。
【0005】
このような種々の問題点に鑑みて、米国特許第5390386号明細書(特許文献1)は、吊橋や斜張橋に用いられる屋外露出された構造用ケーブルに対して、柔軟でかつ適切な合成ゴムのクロロスルホン化ポリエスチレン材料により構造用ケーブルを螺旋状に巻き付けて包むことにより、厳しい気候条件への曝露から有利に保護することができる防食工法を開示する。この特許文献1に開示された防食工法は、吊橋または斜張橋などで用いられる構造用ケーブルに対して、柔軟な合成ゴムのテープ(クロロスルホン化ポリエチレン)を螺旋状に巻き付けて防食する工法であって、その巻き付け方は、テープを半分ずつ重ねてラップ(ハーフラップ)するように巻くことにより均一な厚さの二重層を形成した後にテープを加熱して重ね合わせた層を互いにヒートシールすることで継ぎ目をシールして、かつ、テープも収縮させることにより、構造用ケーブルに確実に、かつ、十分に柔軟な合成ゴムのテープ(クロロスルホン化ポリエチレン)をフィット(一体化)させる。このような防食工法によると、腐食した構造用ケーブルに合成ゴムのテープ(クロロスルホン化ポリエチレン)を巻き付けることによって空気および水分の浸入を抑制し、腐食の進行を遅らせることが可能となる。さらに、このような柔軟な合成ゴムのテープは防食工法を実行する前に着色することができるために、構造用ケーブルに元々着色されていた色と同じ色に柔軟な合成ゴムのテープを着色することにより、構造用ケーブルと他の要素との間で適切に色合わせすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5390386号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された防食工法は、合成ゴム(クロロスルホン化ポリエチレン)製のテープを使用しており、かつ、テープによる被覆層が二層となるように構造用ケーブルに巻き付けている(ハーフラップ巻きしている)ために、重量が大きくなり、施工性が極めて悪いという問題点がある。
本発明は、従来技術の上述の問題点に鑑みて開発されたものであり、その目的とするところは、吊橋や斜張橋などの吊構造物に使用され、屋外露出された既設の構造用ケーブルまたは屋外露出される新設の構造用ケーブルの防食工法であって、このような構造用ケーブルの腐食を予防する場合に、または、構造用ケーブルが腐食した場合に(腐食が軽度で取替えが困難なときには特にその構造用ケーブルを取り替えるのではなく)、構造用ケーブルの延命策を図る防食工法を良好な施工性で実行するとともに、その防食工法が施された構造用ケーブルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係る構造用ケーブルの防食工法およびその防食工法が施された構造用ケーブルは、以下の技術的手段を備える。
すなわち、本発明のある局面に係る構造用ケーブルの防食工法は、吊橋および斜張橋を含む吊構造物に使用されている屋外露出された構造用ケーブルの防食工法であって、溶着可能な樹脂薄膜により前記構造用ケーブルを包み込んで覆うことを特徴とする。
【0009】
好ましくは、前記樹脂はふっ素樹脂であるように構成することができる。
さらに好ましくは、前記樹脂薄膜はテープ状であって、前記テープ状の樹脂薄膜をテープ幅の半分未満を重ね合わせて前記構造用ケーブルに螺旋状に巻き付けることにより、前記構造用ケーブルを前記テープ状の樹脂薄膜により包み込んで覆うように構成することができる。
【0010】
さらに好ましくは、前記樹脂薄膜はシート状であって、前記シート状の樹脂薄膜を前記構造用ケーブルに、前記シート状の樹脂薄膜が単層の筒状になるように巻き付けて、前記構造用ケーブルの長手方向と垂直な方向のシート端部どうしを重ね合わせることにより、前記構造用ケーブルを前記シート状の樹脂薄膜により包み込んで覆うように構成することができる。
【0011】
さらに好ましくは、前記樹脂薄膜どうしを重ね合わせた後に、重ね合わせた部分を加熱して熱溶着するように構成することができる。
また、本発明の別の局面に係る防食工法が施された構造用ケーブルは、上述したいずれかに記載の防食工法が施された、吊橋および斜張橋を含む吊構造物に使用されている屋外露出された構造用ケーブルであることを特徴とする。
【0012】
好ましくは、前記樹脂薄膜と前記構造用ケーブルとの間に、前記構造用ケーブルの外部から供給された乾燥空気が流れる構造を備えるように構成することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る防食工法およびその防食工法が施された構造用ケーブルによると、吊橋や斜張橋などの吊構造物に使用され、屋外露出された既設の構造用ケーブルまたは屋外露出される新設の構造用ケーブルの防食工法であって、このような構造用ケーブルの腐食を予防する場合に、または、構造用ケーブルが腐食した場合に(腐食が軽度で取替えが困難なときには特にその構造用ケーブルを取り替えるのではなく)、構造用ケーブルの延命策を
図る防食工法を良好な施工性で実行するとともに、その防食工法が施された構造用ケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法において、ふっ素樹脂(好ましくはETFE)テープにより構造用ケーブルを包み込んで覆う態様であって(A)ハーフラップ未満で螺旋状に巻き付けている状態、(B)ハーフラップで螺旋状に巻き付けている状態を説明するための図である。
図2】本発明の実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法において、ふっ素樹脂(好ましくはETFE)シートにより構造用ケーブルを包み込んで覆う状態を説明するための図である。
図3図2に示す構造用ケーブルの防食工法を実施例として、その実施例と比較する比較例を示す図であって図1(B)に示すハーフラップで螺旋状に合成ゴムテープを巻き付けた図である。
図4】実施例(図2:ふっ素樹脂(好ましくはETFE)シートと比較例(図3:合成ゴムテープ)との重量比較を説明するための図である。
図5図4の比較で用いたふっ素樹脂(好ましくはETFE)と合成ゴムとの物性比較を説明するための図である。
図6図2に示すふっ素樹脂(好ましくはETFE)シートにより構造用ケーブルを包み込んで覆う防食工法が施工された構造用ケーブルに送気乾燥システムを適用した状態を示す図である。
図7図1(A)に示すふっ素樹脂(好ましくはETFE)テープにより構造用ケーブルを包み込んで覆う防食工法が施工された構造用ケーブルに送気乾燥システムを適用した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下において、本発明の実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法およびその防食工法が施された構造用ケーブルについて図面を参照して詳しく説明する。なお、本実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法(防食施工方法)が以下に説明する通りに施工された構造用ケーブルが、本発明の実施の形態に係る(防食工法が施された)構造用ケーブルである。なお、以下の説明においては、吊橋や斜張橋などの吊構造物に使用され、屋外露出された既設の構造用ケーブルの防食工法であって、構造用ケーブルが腐食した場合に(腐食が軽度で取替えが困難なときには特にその構造用ケーブルを取り替えるのではなく)、構造用ケーブルの延命策を図る防食工法について説明するが、本発明に係る防食工法が屋外露出された既設の構造用ケーブルに限定して施工されるものではなく、屋外露出される新設の構造用ケーブルの腐食の予防策を図る防食工法として施工されるものであっても構わない。
【0016】
ここで、以下の説明において参照する図については、本発明の容易な理解のために、基本的には詳細な構造を省略した模式図であって、内部ではなく外形で表現すべき部分であっても内部を透視するように表現している場合があったり、外形ではなく断面で表現すべき部分を外形で表現している場合があったり、断面ではなく外形で表現すべき部分を断面で表現している場合があったりする。
【0017】
本発明の実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法について、図1図5を参照して詳しく説明する。なお、図1は、本実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法において溶着可能な樹脂薄膜としてふっ素樹脂(好ましくはETFE)テープを採用したものであって、図2は、本実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法において溶着可能な樹脂薄膜としてふっ素樹脂(好ましくはETFE)シートを採用したものである。図3は、図2に示す実施例と比較するための比較例であって図1(B)におけるふっ素樹脂(好ましくはETFE)テープを合成ゴムテープへ変更したものである。
これらの図1図2に示すように、本実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法は、以下の特徴を備える。
【0018】
本実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法は、吊橋および斜張橋を含む吊構造物に
使用されている屋外露出された構造用ケーブルの防食工法であって、溶着可能な樹脂薄膜により構造用ケーブルを包み込んで覆うものである。ここで、この溶着可能な樹脂薄膜の素材としては、後述するようにふっ素樹脂が好ましくETFEが特に好ましい。また、この溶着可能な樹脂薄膜の形状としては、後述するようにテープ状であったりシート状であることが好ましい。
ここで、この樹脂薄膜の素材はふっ素樹脂であることが好ましい。ふっ素樹脂の中でも、ETFE(Ethylene tetrafluoroethylene、エチレン・四ふっ化エチレン共重合体)が特に好ましい。
【0019】
ふっ素樹脂(fluorocarbon polymers)とは、ふっ素を含むオレフィンを重合して得られる合成樹脂の総称である。耐熱性耐薬品性の高さや摩擦係数の小さいことが特徴である。中でも最も大量に生産されているふっ素樹脂はポリテトラフルオロエチレン〈四ふっ化樹脂〉である。化学薬品に対する耐久力や電気絶縁性が高く、表面の摩擦係数は既知物質では最も低く、高温にも安定で不燃性のため、エンジニアリングプラスチックとして利用されている。最初に開発されたこのポリテトラフルオロエチレンは、260℃の耐熱性を持つが熱可塑性を示さず加工性が好ましくなかったために成形性を高めるために、完全にふっ素化されているポリテトラフルオロエチレンの、ふっ素基の一部を水素または塩素で置換したり、オレフィンとした様々なクロロトリフルオロエチレン樹脂やポリふっ化ビニリデン樹脂が開発された。これらの樹脂は耐熱性でポリテトラフルオロエチレンに劣るものの加工性は高く、圧縮、押出し、射出成形が可能な素材である。
【0020】
(1)完全ふっ素化樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(四ふっ素化樹脂、略号:PTFE)があり、(2)部分ふっ素化樹脂としては、ポリクロロトリフルオロエチレン(三ふっ素化樹脂、略号:PCTFE、CTFE)、ポリふっ化ビニリデン(略号:PVDF)、ポリふっ化ビニル(略号:PVF)があり、(3)ふっ素化樹脂共重合体としては、ペルフルオロアルコキシふっ素樹脂(略号:PFA)、四ふっ化エチレン・六ふっ化プロピレン共重合体(略号:FEP)、エチレン・四ふっ化エチレン共重合体(略号:ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(略号:ECTFE)がある。
【0021】
一方で、一般的な合成樹脂の代表であるポリエチレン(PE:poly ethene)は、最も単純な分子構造の樹脂で安価で大量生産されているものの、その強度や耐熱性は極めて弱い。この特性は、熱応答性が良好な樹脂とも言え、比較的低い温度でも容易に成形できるため、極めて使い勝手の良い樹脂とも言える。このため、PEとPTFEの双方の性能を持つ樹脂として開発されたのがPVDFおよびETFEであって、いずれもPE部(C2H4)とPTFE部(C2F4)を組み合わせた(共重合)したものであるが、雑に共重合したPVDFと違い、ETFEは丁寧に交互重合している。PE連鎖が劣化の要因であるが、反応条件などを工夫して丁寧に交互重合することでPE連鎖部をETFEにおいては減らしている。ETFEはPE部の可動性によって溶融粘度が下がり、180℃弱で軟化するため、フィルム成形などの押出成形を可能とするとともに、その一方で、ラジカルによるPE部間の分解はFによってブロックされるため、紫外線等の分解に極めて強い性質を併せ持つ。そのため、高温環境下では使用しないが耐候性が欲しいような用途に好ましく使用される。このように、ETFEはPTFEとPEの性質を併せ持ちPTFEに比べて良好な成形性を持ち、射出やフィルム成形等も可能であって、テープ状にもシート状にも容易に加工することができる。また、無色透明であっても有色透明であっても、不透明であっても良く、様々な色合い(透明を含む)の樹脂薄膜を実現できる。
【0022】
ETFEの溶着は、接着幅(重なり幅)が狭くとも強度が得られるために、ハーフラップする必要はない点を書き加えておく。このため、合成ゴムテープに替えてふっ素樹脂テープ(特にETFEテープ)を採用する場合には、単位長さあたりの重量がふっ素樹脂テープ自体の方が合成ゴムテープよりも軽いこと、さらに、ETFEテープ幅の約1/2ずつ重ねて完全2重構造にするハーフラップするのではなくETFEテープ幅の約1/4ずつ重ねて不完全2重構造にするために、被覆材の重量を大幅に軽減できる点で、特許文献1に開示された防食工法(合成ゴムでハーフラップ)に対して図1(A)に示す防食工法では施工性が大幅に改善される。なお、単位長さあたりの重量がふっ素樹脂テープ自体の方が合成ゴムテープよりも軽いことにより、特許文献1に開示された防食工法(合成ゴムでハーフラップ)に対して、図1(B)に示す防食工法(樹脂薄膜でハーフラップ)でも施工性が改善される。
【0023】
また、樹脂薄膜はテープ状(ETFEテープ)であって、テープ状の樹脂薄膜をテープ幅の半分未満を重ね合わせて構造用ケーブルに螺旋状に巻き付けることにより(ただしテープ幅の半分を重ね合わせて構造用ケーブルに螺旋状に巻き付けるハーフラップを本発明が除外するものではない)、構造用ケーブルをテープ状の樹脂薄膜により包み込んで覆うことが好ましい。このとき、特許文献1に開示されたハーフラップはテープ幅の半分を重ね合わせて螺旋状に巻き付けるために完全な合成ゴムテープによる被覆層(ラッピング層)は完全2層構造を構成することに対して、本実施の形態においては、テープ幅の半分未満しか重ね合わせない不完全な2層構造で1重構造の部分を備えることになる。そして、樹脂薄膜どうしを重ね合わせた後に、重ね合わせた部分(ここではテープ幅の半分未満のみを重ね合わせた部分)を加熱して熱溶着することが好ましい。このようにすると、本実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法においては、特許文献1のように合成ゴムテープではなくふっ素樹脂テープ(ETFEテープ)を採用して、さらに任意的構成ではあるが(ハーフラップで完全2層構造にするのではなくテープ幅の半分未満(おおよそテープ幅の1/4程度)を重ね合わせる)不完全2層構造(一部1層構造)で構造用ケーブルに被覆層を形成するために、後述するように被覆材の重量が低減されて施工性が飛躍的に向上する。なお、本発明は、テープ状の樹脂薄膜をテープ幅の少なくとも半分未満を重ね合わせて構造用ケーブルに螺旋状に巻き付けるものであれば、重ね合わせるテープ幅は特に限定されるものではない。
【0024】
ここで、図1を参照して、テープ状の樹脂薄膜(ETFEテープ)を構造用ケーブルに螺旋状に巻き付けることにより、構造用ケーブルをテープ状の樹脂薄膜により包み込んで覆う態様について説明する。
図1(A)はETFEテープ150をハーフラップ未満(おおよそテープ幅の1/4程度)を重ね合わせ)で螺旋状に巻き付けている状態、図1(B)はハーフラップで螺旋状に巻き付けている状態を、それぞれ示す。なお、防食目的のための外套管120を備えないで、ケーブル素線110に防食塗料が直接塗布されていても構わない。
【0025】
図1(A)に示す状態は、防食工法を施工途中の構造用ケーブル100を示しており、ケーブル素線110とそのケーブル素線110の外周側を覆う外套管(防食目的のためのFRP管、PE管等)120とがETFEテープ150によりハーフラップ未満で螺旋状に巻き付けられて、構造用ケーブルがテープ状の樹脂薄膜により包み込まれている状態である。
図1(B)に示す状態は、防食工法を施工途中の構造用ケーブル102を示しており、ケーブル素線110とそのケーブル素線110の外周側を覆う外套管(PE管)120とがETFEテープ152によりハーフラップで螺旋状に巻き付けられて、構造用ケーブルがテープ状の樹脂薄膜により包み込まれている状態である。
【0026】
図1(A)および図1(B)のいずれの場合であっても、ケーブル素線110および外套管(PE管)120に螺旋状に巻き付けたETFEテープ150どうしの重なり部分(テープ幅の約1/4)、または、ETFEテープ152どうしの重なり部分(テープ幅の約1/2)を加熱して熱溶着する。この熱溶着によりETFEテープどうしが溶着して重なり部分から空気および水分の浸入を抑制して腐食の進行を遅らせることができる。
次に、図2を参照して、シート状の樹脂薄膜(ETFEシート)を構造用ケーブルに、シート状の樹脂薄膜が単層の筒状になるように巻き付けて、構造用ケーブルの長手方向と垂直な方向のシート端部どうしを重ね合わせることにより、構造用ケーブルをシート状の樹脂薄膜により包み込んで覆う態様について説明する。
【0027】
図2に示す状態は、防食工法を施工途中の構造用ケーブル104を示しておりは、ケーブル素線110とそのケーブル素線110の外周側を覆う外套管(防食用のFRP管、PE管等)120とが1枚のETFEシート160が単層の筒状になるように巻き付けて、
構造用ケーブルの長手方向と垂直な方向のシート端部162どうしを重ね合わせて、構造用ケーブルがシート状の樹脂薄膜により包み込まれている状態である。
【0028】
図2の場合であっても、ケーブル素線110および外套管(PE管)120に1枚のETFEシート160が単層の筒状になるように巻き付けて、ETFEシート160のシート端部162どうしの重なり部分を加熱して熱溶着する。この熱溶着によりETFEシート160のシート端部162どうしが溶着して重なり部分から空気および水分の浸入を抑制して腐食の進行を遅らせることができる。
【0029】
ETFEシートは単層(完全1重構造)であっても強度が得られるために、ハーフラップして完全2重構造する必要はない点を書き加えておく。このため、合成ゴムテープに替えてふっ素樹脂シート(特にETFEシート)を採用する場合には、単位面積あたりの重量がふっ素樹脂シート自体の方が合成ゴムテープよりも軽いこと、さらに、ETFEテープ幅の約1/2ずつ重ねて完全2重構造にするハーフラップするのではなくETFEシートを完全1重構造にするために、被覆材の重量を大幅に軽減できる点で、特許文献1に開示された防食工法(合成ゴムでハーフラップ)に対して図2に示す防食工法では施工性が大幅に改善される。
【0030】
なお、ケーブル素線110の外周側を覆う外套管120とETFEシート160との間は、被覆材の外部から内部への空気および水分の浸入が抑制できるのであれば、空隙が開いていても構わない。
このような本実施の形態に係る防食工法の作用効果について説明する。図2に示すふっ素樹脂(好ましくはETFE)シート)で構造用ケーブルを被覆したものを実施例として、その実施例と比較するために、図3に示すものを比較例として採用して、実施例を評価した。
【0031】
図3に示す状態は、防食工法を施工途中の構造用ケーブル202を示しており、図1(B)における被覆材であるふっ素樹脂テープ152を合成ゴムテープ252に変更したものであって、ケーブル素線110とそのケーブル素線110の外周側を覆う外套管(PE管)120とが合成ゴムテープ252によりハーフラップで螺旋状に巻き付けられて、構造用ケーブルがテープ状の合成ゴムにより包み込まれている状態である。
実施例と比較例との被覆材(ラッピング材)の重量比較を図4に示すとともに、実施例における被覆材(ここではETFEシート)および比較例における被覆材(ここでは合成ゴムテープCSP)の特性を図5に示す。
【0032】
この評価において想定した防食工法の施工は、比較例において使用する合成ゴムテープの厚さは1.2mmと仮定し、同等の耐荷重となるように実施例を設定した。図4に示すように、実施例と比較例とを比較した結果、被覆材(ラッピング材)の重量(図4中の1ケーブルあたりの重量(kg))が比較例に対して実施例は1/10以上軽減されて大幅に減少して非常に軽いものとなるという結果を得た。ケーブル1本あたりに使用する被覆材(ラッピング材)の重量も10kg以下(7.38kg)となり、人力で十分に持ち上げられる重量となり、重機を利用しなくても施工が可能となった。
【0033】
すなわち、従来技術(比較例、特許文献1)は合成ゴム(クロロスルホン化ポリエチレン)を被覆材として使用しており、かつ、被覆層(ラッピング層)が完全な2層となるように螺旋状に巻き付けている(ハーフラップ巻きである)ために、被覆材の重量が大きくなり施工性に課題が生じていた。
溶着可能な樹脂薄膜(好ましくはふっ素樹脂テープやふっ素樹脂シート)を被覆材(ラッピング材)として使用すると、樹脂薄膜は、一般的に合成ゴムより強度(N/mm)の高い材料であるため、同じ程度の耐荷重(N)を有するようにしても、薄い樹脂を使用することができる(図4におけるラッピング材の厚さ)。
【0034】
特に、ふっ素樹脂であるETFE(Ethylene tetrafluoroethylene、エチレン・四ふっ化エチレン共重合体)は、合成ゴムの数倍の強度を有しているため、同じ耐荷重を得るためであっても、数分の1程度の厚さの被覆材(ラッピング材)を使用することが可能である。そのため、ラップ部分(溶着部)の段差が小さくなり、ハーフラップにしなくてもほとんど均一な厚さが実現可能となり、ケーブルの覆い方の制約がなくなる。これにより、使用する被覆材(ラッピング材)の重量が小さくなり施工性を大きく改善することができる。なお、ETFEは、建築物の膜屋根において多数採用された実績があり、屋外環境下(耐候性・耐食性)に対しても信頼のある材料でもある。
以上のように説明してきた本実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法について、さらに詳しく説明する。
【0035】
上述したように、吊橋や斜張橋などの吊構造物に使用される構造用ケーブルとしては、[1]FRP(強化プラスチック)管やPE(ポリエチレン)管などの外套管を被せて防食しているケーブル、[2]防食塗料をケーブルに直接塗布して防食しているケーブル、の2つのケースが考えられ、各ケースにより実施の形態が異なる。
また、本実施の形態に係る構造用ケーブルの防食工法を施工する範囲については、防食工法の対象である構造用ケーブルの全長にわたって施工しても良いし、変状が生じており防水性・気密性を付与したい部分のみに施工しても良い。
【0036】
[1]FRP管やPE管などの外套管を被せて防食しているケーブル
外套管の一部のみが損傷しているが大部分は健全である場合には、外套管の上から直接ETFEテープを巻き付ける。巻き付け方法としては、上述した図1に示した態様と図2に示した態様との2種類がある。なお、外套管の破損が酷く、直接テープを巻けない場合には、外套管を除去して以下の[2]防食塗料を直接塗布して防食しているケーブルと同様の処置を行なうことになる。
【0037】
[2]防食塗料を直接塗布して防食しているケーブル
ケーブル表面の凹凸が小さくテープがフィットする場合は[1]と同様の処置を行うが、ケーブルを複数本束ねるなどして表面の凹凸が大きい場合には、凹凸を滑らかにするために段差部に成型材を充填して表面を滑らかにしてから[1]と同様の処置を行なうことになる。
以上のようにして、本実施の形態に係る防食工法が施された構造用ケーブルおよびその防食工法が施された構造用ケーブルによると、吊橋や斜張橋などの吊構造物に使用されている屋外露出された構造用ケーブルの防食工法であって、このような構造用ケーブルが腐食した場合に(腐食が軽度で取替えが困難なときには特に)その構造用ケーブルを取り替えるのではなく構造用ケーブルの延命策を図る防食工法を良好な施工性で実行するとともに、その防食工法が施された構造用ケーブルを提供することができる。
【0038】
<変形例>
以下において、本発明の実施の形態の変形例について説明する。この変形例は、本発明に係る防食工法が施された(施工された)構造用ケーブルに送気乾燥システムを適用した場合(すなわち本発明に係る防食工法が施された本発明に係る構造用ケーブルが送気乾燥機能を好適に備える場合)であって、図6および図7を参照して説明する。ここで、図6は、図2に示すふっ素樹脂(好ましくはETFE)シートにより構造用ケーブルを包み込んで覆う防食工法が施工された構造用ケーブルに送気乾燥システムを適用した状態を示す図であって、図7は、図1(A)に示すふっ素樹脂(好ましくはETFE)テープにより構造用ケーブルを包み込んで覆う防食工法が施工された構造用ケーブルに送気乾燥システムを適用した状態を示す図である。
【0039】
なお、この送気乾燥システムについても、本発明に係る防食工法と同様に、既設の構造用ケーブルであっても新設の構造用ケーブルであっても、本発明に係る防食工法が施された構造用ケーブルに好適に適用することができる。また、上述した実施の形態においては、PE管等の外套管120を含めて説明していたが、本発明においてはこの外套管120は必須構成ではなく、以下の変形例の説明ではこの外套管120を備えないものとして説明する。上述した実施の形態において外套管120を備えなくても構わないし、以下に示す変形例において、(後述する乾燥空気をその作用効果を奏するように乾燥空気を流通させることができるのであれば)外套管120を備えていても構わない。
【0040】
まず、送気乾燥システムについて簡単に説明する。上述したように本発明に係る防食工法によっても十分な防錆効果を発現させることができるのであるが、これに加えて送気乾燥システムを導入することが好ましく、この導入にあたり、本発明に係る防食工法が施さ
れた構造用ケーブルであるとこの送気乾燥システムを好適に導入することができる点で好ましい。すなわち、本発明に係る防食工法においては、樹脂薄膜(ふっ素樹脂(好ましくはETFEシート160、ETFEテープ150)と構造用ケーブル(ここでは鋼線束130により巻着された複数のケーブル素線110を指す)との間に、送気乾燥システムにおける乾燥空気が流れる構造を実現できるためである。
【0041】
送気乾燥システムは、水分の遮断をさらに効果的に実現するシステムであって、たとえば、吊橋における主塔および補剛桁に設置された送気設備で外気から塩分等を除去した乾燥空気を製造し、その乾燥空気を送気管へ通して構造用ケーブル100内へ送り込み、構造用ケーブル100内の空隙を通過した湿気を帯びた空気を排気バーおよび塔頂・アンカレイジサドル部から排出して、構造用ケーブル100内を常に乾燥させている。送気設備では、フィルターユニットを設置して外気を除塵、除塩しており、その外気を除湿機により乾燥させて送気ブロワーで加圧しケーブルに送気している。ここで、鋼線(鋼材)であるケーブル素線110は、相対湿度60%以下ではほとんど腐食が進行しないことを文献や試験で確認しているために、相対湿度60%以下を確実に保つために、ケーブル内の乾燥空気の管理目標値は、相対湿度40%とすることが好ましい。
【0042】
図6に示す場合には、本発明に係る防食工法の施工が完了した構造用ケーブル104において、構造用ケーブル104の外部から供給された乾燥空気は、樹脂薄膜(ここではETFEシート160)と構造用ケーブル(ここでは鋼線束130により巻着された複数のケーブル素線110を指す)との間の空間を流れる乾燥空気A(1)と、鋼線束130により巻着された複数のケーブル素線110どうしの間隙を流れる乾燥空気A(2)とに分かれるために、空気流通の抵抗が少なく、かつ、構造用ケーブル104内における極端な流通量の差を発現させることなく、構造用ケーブル104内のケーブル素線110の全体を常に部分的な偏りなく効果的に乾燥させることができる。
【0043】
図7に示す場合には、本発明に係る防食工法の施工が完了した構造用ケーブル100において、構造用ケーブル100の外部から供給された乾燥空気は、樹脂薄膜(ここではETFEテープ150)と構造用ケーブル(ここでは鋼線束130により巻着された複数のケーブル素線110を指す)との間の空間を流れる乾燥空気A(1)と、鋼線束130により巻着された複数のケーブル素線110どうしの間隙を流れる乾燥空気A(2)とに分かれるために、空気流通の抵抗が少なく、かつ、構造用ケーブル100内における極端な流通量の差を発現させることなく、構造用ケーブル100内のケーブル素線110の全体を常に部分的な偏りなく効果的に乾燥させることができる。
【0044】
以上のようにして、本発明に係る防食工法が施された構造用ケーブルであると、本変形例のように送気乾燥システムを好適に導入して、防錆効果をさらに高めることができる。
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、吊橋や斜張橋などの吊構造物に使用されている屋外露出された構造用ケーブルの防食技術に関し、このような構造用ケーブルが腐食した場合に(腐食が軽度で取替えが困難なときには特に)その構造用ケーブルを取り替えるのではなく構造用ケーブルの延命策を図る防食工法に特に好ましい。
【符号の説明】
【0046】
100、102、104、202 防食工法を施工途中の構造用ケーブル
110 ケーブル素線
120 外套管
150、152 ETFEテープ
160 ETFEシート
162 シート端部
252 合成ゴムテープ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7