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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102706
(43)【公開日】2023-07-25
(54)【発明の名称】ウェビング巻取装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 22/28 20060101AFI20230718BHJP
   B60R 22/36 20060101ALI20230718BHJP
【FI】
B60R22/28 106
B60R22/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003377
(22)【出願日】2022-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003551
【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横井 友哉
(72)【発明者】
【氏名】村仲 淳一
(72)【発明者】
【氏名】坂口 善輝
(72)【発明者】
【氏名】内堀 隼人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 優太
【テーマコード(参考)】
3D018
【Fターム(参考)】
3D018DA05
3D018DA07
(57)【要約】
【課題】フォースリミッタ荷重を安定化させる。
【解決手段】ウェビング巻取装置10は、ウェビング20Aを引き出し及び巻き取り可能なスプール20と、スプール20と対向するように配置され、緊急時に回転が阻止される回転体50と、回転体50とスプール20との間に形成されたワイヤ収容部Sに収容されるワイヤ40と、を備えている。ウェビング巻取装置10は、ワイヤ収容部Sのスプール20の径方向外側を、スプール20の径方向内側よりスプール20の軸方向Dに狭くする凸部72を備えている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェビングを引き出し及び巻き取り可能なスプールと、
前記スプールと対向するように配置され、緊急時に回転が阻止される回転体と、
前記回転体と前記スプールとの間に形成されたワイヤ収容部に収容されるワイヤと、
前記ワイヤ収容部の前記スプールの径方向外側を、前記スプールの径方向内側より前記スプールの軸方向に狭くする凸部と、
を備えるウェビング巻取装置。
【請求項2】
前記凸部は、前記回転体が前記スプールに対して傾いた際に、前記ワイヤ収容部の前記軸方向の隙間が一定になるように設けられている
請求項1に記載のウェビング巻取装置。
【請求項3】
前記凸部は、前記ワイヤ収容部に収容されている
請求項1又は請求項2に記載のウェビング巻取装置。
【請求項4】
前記凸部は、前記径方向外側から前記径方向内側に向かって傾斜した傾斜面を有している
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のウェビング巻取装置。
【請求項5】
前記凸部は、前記回転体に設けられている
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のウェビング巻取装置。
【請求項6】
前記凸部は、前記スプールに設けられている
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のウェビング巻取装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェビング巻取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェビング巻取装置には、ウェビングに加わる荷重が増加して、胸部を圧迫するのを防ぐため、ウェビングに一定以上の荷重がかかったときに、これを緩和するフォースリミッタ機構を設けることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、スプールの軸方向穴にエネルギ吸収ピンが嵌入され、緊急時に、トーションバーがねじられるとともに、エネルギ吸収ピンがスプールから引き抜かれて、エネルギが吸収される技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-100114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、このようなウェビング巻取装置では、フォースリミッタ荷重を安定化させることが好ましい。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、フォースリミッタ荷重を安定化させることができるウェビング巻取装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1態様のウェビング巻取装置は、ウェビングを引き出し及び巻き取り可能なスプールと、前記スプールと対向するように配置され、緊急時に回転が阻止される回転体と、前記回転体と前記スプールとの間に形成されたワイヤ収容部に収容されるワイヤと、前記ワイヤ収容部の前記スプールの径方向外側を、前記スプールの径方向内側より前記スプールの軸方向に狭くする凸部と、を備える。
【0008】
本発明の第2態様のウェビング巻取装置は、本発明の第1態様のウェビング巻取装置において、前記凸部は、前記回転体が前記スプールに対して傾いた際に、前記ワイヤ収容部の前記軸方向の隙間が一定になるように設けられている。
【0009】
本発明の第3態様のウェビング巻取装置では、本発明の第1態様又は第2態様のウェビング巻取装置において、前記凸部は、前記ワイヤ収容部に収容されている。
【0010】
本発明の第4態様のウェビング巻取装置では、本発明の第1態様から第3態様のいずれか1つのウェビング巻取装置において、前記凸部は、前記径方向外側から前記径方向内側に向かって傾斜した傾斜面を有している。
【0011】
本発明の第5態様のウェビング巻取装置では、本発明の第1態様から第4態様のいずれか1つのウェビング巻取装置において、前記凸部は、前記回転体に設けられている。
【0012】
本発明の第6態様のウェビング巻取装置は、本発明の第1態様から第5態様のいずれか1つのウェビング巻取装置において、前記凸部は、前記スプールに設けられている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1態様のウェビング巻取装置では、ワイヤ収容部のスプールの径方向外側を、スプールの径方向内側よりスプールの軸方向に狭くする凸部を備えることで、ワイヤ収容部における、ウェビング送り方向下流側の軸方向の隙間は、狭くなる。そのため、緊急時にウェビングが引き出されて、スプールに対して、ウェビングの送り方向に荷重が作用した際、ワイヤ収容部の軸方向の隙間が広がることを抑制することができる。その結果、フォースリミッタ荷重を安定して発生させることができる。
【0014】
本発明の第2態様のウェビング巻取装置では、緊急時にウェビングが引き出されて、スプールに対して、ウェビングの送り方向に荷重が作用し、回転体がスプールに対して傾いた際に、ワイヤ収容部の軸方向の隙間が一定になるように凸部が設けられる。そのため、緊急時にウェビングが引き出されて、スプールに対して、ウェビングの送り方向に荷重が作用した際に、ワイヤ収容部の軸方向の隙が一定にされる。その結果、フォースリミッタ荷重を安定させることができる。
【0015】
本発明の第3態様のウェビング巻取装置では、凸部が、ワイヤ収容部に収容されることで、ウェビング巻取装置のスプールの軸方向の長さが短くなる。そのため、ウェビング巻取装置をコンパクトにすることができる。
【0016】
本発明の第4態様のウェビング巻取装置では、凸部は、径方向外側から径方向内側に向かって傾斜した傾斜面を有することで、緊急時にウェビングが引き出されて、スプールに対して、ウェビングの送り方向に荷重が作用して、回転体とスプールとの間のスプールの軸方向の隙間が広がった場合に、ワイヤ収容部における軸方向の隙間を略一定とすることができる。その結果、フォースリミッタ荷重を安定させることができる。
【0017】
本発明の第5態様のウェビング巻取装置では、凸部が回転体に設けられることで、ワイヤ収容部における、ウェビング送り方向下流側の軸方向の隙間は、狭くなる。そのため、緊急時にウェビングが引き出されて、スプールに対して、ウェビングの送り方向に荷重が作用した際、ワイヤ収容部の軸方向の隙間が広がることを抑制することができる。その結果、フォースリミッタ荷重を安定させることができる。
【0018】
本発明の第6態様のウェビング巻取装置では、凸部がスプールに設けられることで、ワイヤ収容部における、ウェビング送り方向下流側の軸方向の隙間は、狭くなる。そのため、緊急時にウェビングが引き出されて、スプールに対して、ウェビングの送り方向に荷重が作用した際、ワイヤ収容部の軸方向の隙間が広がることを抑制することができる。その結果、フォースリミッタ荷重を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】第1実施形態に係るウェビング巻取装置を示す分解斜視図である。
図2】第1実施形態に係るスプール及ぶピニオンを示す斜視図である。
図3】第1実施形態に係るウェビング巻取装置を示す断面図であり、図2のA-A断面を示す。
図4】第1実施形態に係るスプールに形成された収容孔にワイヤが挿入される前の状態を示す分解斜視図である。
図5】第1実施形態に係るスプールを一端側から見て示す側面図であり、図5(A)は、ワイヤの先端部が収容孔に挿入された状態を示し、図5(B)は、ワイヤの先端部が収容孔から抜け出された状態を示す。
図6】第1実施形態に係る回転体がスプールに対して傾いた状態を示す断面図である。
図7】第1実施形態に係るワイヤ収容部を示す断面図であり、図7(A)は、図5(A)のB-B断面であり、図7(B)は、図5(B)のC-C断面である。
図8】第2実施形態に係るワイヤ収容部を示す断面図であり、図8(A)は、通常時を示し、第8(B)は、緊急時を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔第1実施形態〕
以下、第1実施形態に係るウェビング巻取装置について、図面を参照して説明する。なお、各図において矢印FRは、車両前後方向の前方を示し、矢印OUTは、車幅方向の外方を示し、矢印UPは、車両上下方向の上方を示す。また、各図において、矢印Aは、スプール20がウェビング20Aを巻き取る際のスプール20の回転方向である巻取方向Aを示し、矢印Bは、巻取方向Aとは反対の引出方向Bを示す。また、各図において、スプール20の軸方向を軸方向Dとする。また、単に一端側及び他端側を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、スプール20の軸方向Dに対するものとする。
【0021】
[ウェビング巻取装置の構成]
図1に示されるように、ウェビング巻取装置10は、主に、フレーム12と、カバープレート14と、付勢機構16と、センサ機構18と、スプール20と、シャフト30と、回転体50と、シリンダ60と、を備えている。
【0022】
(フレーム12)
フレーム12は、金属製であり、車体としてのセンターピラー(図示省略)の車両下側に固定されている。フレーム12は、車両上下方向に見て四角筒状に形成され、車両前側に形成された脚板12Aと、車両後側に形成された脚板12Bと、を有している。脚板12Aには、車両前後方向に貫通した円形の貫通孔12Cが形成されている。脚板12Bには、車両前後方向に貫通した円形の貫通孔12Dが形成されている。脚板12Aの貫通孔12Cと、脚板12Bの貫通孔12Dとに挿入されたスプール20は、脚板12A及び脚板12Bによって回転可能に支持されている。
【0023】
スプール20は、貫通孔12Cに対して、隙間を有して配置されている。これにより、ウェビング20Aを引き出す際のフィーリングを向上させている。
【0024】
(スプール20)
スプール20は、略円筒形状に形成されており、中心軸Cを回転軸として巻取方向A及び引出方向Bに回転可能とされている。スプール20には、長尺帯状のウェビング20Aの長手方向基端部が係止されている。スプール20が巻取方向Aへ回転されると、ウェビング20Aがスプール20に巻取られる。ウェビング20Aがスプール20から引き出されることで、ウェビング20Aが引出方向Bへ回転される。また、スプール20からウェビング20Aが引き出されることで、車両のシートに着座した乗員にウェビング20Aが装着される。
【0025】
(付勢機構16)
フレーム12の車両後側には、付勢機構16が設けられている。付勢機構16は、ぜんまいばね等のスプール付勢手段(図示省略)が設けられている。スプール付勢手段は、スプール20に直接又は間接的に係合され、スプール20は、スプール付勢手段の付勢力によって巻取方向Aへ付勢されている。
【0026】
(シャフト30)
図3に示されるように、シャフト30は、第1エネルギ吸収部材としてのトーションシャフト32と、サブシャフト34と、で構成されている。
【0027】
トーションシャフト32は、金属製(例えば、軟鉄)で略円柱状に形成されている。トーションシャフト32は、スプール20内に、スプール20の中心軸Cと同軸上にして配置されている。トーションシャフト32の他端側(車両後側)は、スプール20に一体回転可能に連結されている。トーションシャフト32の他端側は、付勢機構16に回転可能に支持されている。
【0028】
トーションシャフト32の一端側(車両前側)は、サブシャフト34に同軸上に連結されている。サブシャフト34は、金属製で略円柱状に形成されている。サブシャフト34の一端側は、センサ機構18に回転可能に支持されている。トーションシャフト32は、フォースリミッタ機構としての第1フォースリミッタ機構を構成する。
【0029】
(回転体50)
図1及び図3に示されるように、ロック機構を構成する回転体50は、軸方向Dにおいて、スプール20と対向するように設けられている。回転体50は、ピニオン70と、ロックベース80とで構成されている。ロックベース80は、ピニオン70より車両前側に設けられている。ロックベース80は、例えば、アルミダイカストにより円板状に形成され、スプール20の中心軸Cと同軸上に配置されている。
【0030】
図2及び図3に示されるように、ピニオン70は、例えば、アルミダイカストにより円板状に形成され、スプール20の中心軸Cと同軸上に配置されている。ピニオン70は、ロックベース80に一体回転可能に連結されている。
【0031】
ピニオン70には、トーションシャフト32の一端側が嵌合されており、ピニオン70とトーションシャフト32の一端側との相対回転が制限されている。これにより、スプール20、トーションシャフト32、ロックベース80及びピニオン70が一体回転可能にされている。
【0032】
図1に示されるように、ロックベース80は、ロックパウル56を備えている。ロックパウル56は、ロックベース80に回動可能に支持されている。
【0033】
図2に示されるように、ピニオン70には、軸方向Dに貫通した貫通孔70Aが形成されている。貫通孔70Aは、長孔とすることができる。
【0034】
(カバープレート14)
図1及び図3に示されるように、フレーム12の車両前側の脚板12Aには、ピニオン70及びロックベース80を覆う金属製のカバープレート14が固定されている。カバープレート14には、車両前後方向に貫通したラチェット孔にラチェット歯14Aが形成されている。
【0035】
(センサ機構18)
カバープレート14の車両前側には、センサ機構18が設けられている。緊急時には、センサ機構18が作動されて、ロックパウル56が回動してロックベース80の径方向外側に移動し、ロックパウル56の先端部が、ラチェット歯14Aに噛み合う。これによって、ロックベース80の引出方向Bへの回転が制限され、スプール20の引出方向Bへの回転が間接的に制限される。緊急時とは、車両の衝突時等であって、車両の急減速時及びウェビング20Aのスプール20からの急引出し時等である。
【0036】
(シリンダ60)
図1に示されるように、ウェビング巻取装置10は、プリテンショナを構成するシリンダ60を備えている。シリンダ60の基端側には、マイクロガスジェネレータ62(以下、MGG62と言う)が挿入されている。MGG62は、ECU(図示省略)を介して車両に設けられた衝突検知センサ(図示省略)に電気的に接続されている。シリンダ60の内側には、ピストンとしてのシールボール64と、移動部材66と、が配置されている。
【0037】
車両衝突時の衝撃が衝突検知センサによって検知されると、MGG62がガスを発生し、移動部材66は、シールボール64に押圧されてシリンダ60の先端側へ移動される。そして、移動部材66は、ピニオン70及びロックベース80の歯部が突刺さった状態(食込んだ状態、係合された状態)で、移動されることで、スプール20が巻取方向Aに回転して、ウェビング20Aが巻き取られ、乗員を車両のシートに固定する。
【0038】
[第2フォースリミッタ機構の構成]
図4に示されるように、スプール20には、フォースリミッタ機構としての第2フォースリミッタ機構を構成する第2エネルギ吸収部材としてのワイヤ40が設けられている。
【0039】
(ワイヤ40)
ワイヤ40は、スプール20より、強度の高い金属(例えば、ピアノ線)で形成されている。図4に示されるように、ワイヤ40は、基端部42と、第1中間部44と、第2中間部45と、第3中間部46と、先端部48と、によって略クランク状に形成されている。
【0040】
基端部42は、円板状に形成されている。基端部42の外径は、ピニオン70に形成された貫通孔70Aの少なくとも最小内径より大きく形成されている。
【0041】
第1中間部44は、基端部42から他端側に延在した丸棒状に形成されている。第2中間部45は、第1中間部44の他端側の端部から軸方向Dに略直交する方向に延在した丸棒状に形成されている。第3中間部46は、第2中間部45の端部から軸方向Dに延在した丸棒状に形成されている。第1中間部44、第2中間部45及び第3中間部46は、略同じ直径とすることができる。
【0042】
先端部48は、第3中間部46の他端側の端部から軸方向Dに縮径した円錐台状に形成されている。先端部48は、ワイヤ40の先端に向かって先細りした形状に形成されている。
【0043】
(スプール20の詳細構成)
図4に示されるように、スプール20は、略円筒状のスプール本体部21と、スプール本体部21の軸方向Dの一端側に形成されたフランジ部22と、を備えている。
【0044】
フランジ部22は、スプール本体部21より大きい外径の円板状に形成され、外リブ23と、巻付部を構成する内リブ24と、溝部28と、を有している。
【0045】
外リブ23は、軸方向Dの一端側に突出するように、フランジ部22の外縁に形成されている。外リブ23は、円環状に形成されている。内リブ24は、軸方向Dの一端側に突出するように、フランジ部22の内縁に形成されている。内リブ24は、円環状に形成されている。溝部28は、外リブ23と内リブ24との間に、軸方向Dの他端側に凹んだ円環状の溝として形成されている。図7(A)に示されるように、溝部28は、ワイヤ40の第2中間部45を収容するワイヤ収容部Sを構成する。
【0046】
図4に示されるように、溝部28には、ワイヤ40の第3中間部46及び先端部48が収容される収容孔29が1つ形成されている。収容孔29は、スプール20を軸方向Dに貫通した円形の貫通孔とすることができる。収容孔29の内径は、ワイヤの第3中間部46の外径より、若干大きく形成されている。図5(A)に示されるように、収容孔29は、溝部28の径方向内側部分に形成されている。
【0047】
(ピニオン70の詳細構成)
図7(A)に示されるように、ピニオン70は、ピニオン70の他端側の端面70Aから他端側に突出した凸部72を備えている。凸部72は、ピニオン70の周方向の全周にわたって設けられている。
【0048】
凸部72のスプール20の径方向の幅は、溝部28のスプール20の径方向の幅より、若干小さく形成されている。凸部72は、溝部28に突出している。凸部72は、溝部28に収容されている。
【0049】
凸部72は、溝部28のスプール20の径方向外側を、スプール20の径方向内側よりスプール20の軸方向Dに狭くするように形成されている。凸部72は、スプール20の径方向外側から径方向内側に向かって一端側に傾斜した傾斜面72Aを有している。
【0050】
図7(A)に示されるように、通常時は、第2中間部45が溝部28の径方向内側に配置され、凸部72が溝部28の径方向外側に突出するように設けられている。
【0051】
図7(B)に示されるように、緊急時にウェビング20Aが引き出されて、スプール20に対して、ウェビング20Aの送り方向Fに荷重が作用して、ピニオン70がスプール20に対して傾いて、ピニオン70とスプール20との間の隙間が広がった際に、傾斜面72Aと、溝部28の底面とが略平行になるように設けられている。すなわち、ピニオン70がスプール20に対して傾いて、ピニオン70とスプール20との間の隙間が広がった際に、傾斜面72Aは、ワイヤ収容部Sの軸方向Dの隙間が一定になるように設けられている。
【0052】
図2及び図3に示されるように、第1中間部44、第2中間部45、第3中間部46及び先端部48が、ピニオン70に形成された貫通孔70Aに挿入されて、基端部42が、ピニオン70に保持されている。第3中間部46及び先端部48は、収容孔29に挿入されている。第2中間部45は、溝部28に収容されている。
【0053】
[フォースリミッタ機構の動作]
ウェビング巻取装置10では、スプール20からウェビング20Aが引出されて、乗員にウェビング20Aが装着される。また、付勢機構16のぜんまいばねの付勢力により、スプール20が巻取方向Aに回転されて、ウェビング20Aがスプール20に巻取られることで、乗員に装着されたウェビング20Aの弛みが除去される。
【0054】
緊急時には、センサ機構18が作動されて、ロックパウル56がカバープレート14のラチェット歯14Aへ接近する向きに回動して、ロックパウル56がラチェット歯14Aに噛み合うことで、ロックベース80の引出方向Bへの回転が規制され、スプール20の引出方向Bへの回転が規制される。
【0055】
このように、スプール20の引出方向Bへの回転が規制されることで、スプール20に巻き取られているウェビング20Aの引き出しが規制されるので、車両急減速時に車両前方側へ慣性移動しようとする乗員の身体がウェビング20Aにより拘束される。
【0056】
このような状態で、車両前方側へ慣性移動しようとする乗員の身体がウェビング20Aを引っ張ることで、スプール20に付与される引出方向Bへの回転力が、トーションシャフト32及びワイヤ40の機械的強度を上回ると、トーションシャフト32が捩じれるように塑性変形を開始して、図5(A)に示されるように、回転が規制されたロックベース80に対し、スプール20が引出方向Bに回転を開始する。
【0057】
ここで、車両前方側へ慣性移動しようとする乗員の身体がウェビング20Aを引っ張ると、図6に示されるように、ピニオン70は、カバープレート14のラチェット歯14Aに、ロックパウル56を介して支持されているロックベース80を支点として、ウェビング20Aの送り方向(車両上方)Fに旋回する。また、スプール20は、脚板12Bの貫通孔12Dを支点として、ウェビング20Aの送り方向Fに旋回する。このようにして、ピニオン70がスプール20に対して傾く。
【0058】
ピニオン70がスプール20に対して傾くと、ピニオン70とスプール20との間の、送り方向Fの下流側の隙間は、広がる。このピニオン70とスプール20との隙間は、スプール20の径方向内側より径方向外側の方が広く形成される。
【0059】
ところが、図7(B)に示されるように、傾斜面72Aによって、溝部28の底面と、傾斜面72Aとが略平行になり、ワイヤ収容部Sの軸方向Dの隙間が一定になる。
【0060】
一方、図6に示されるように、ピニオン70とスプール20との間の、送り方向Fの上流側の隙間は、狭まり、ワイヤ40と凸部72とが当接してピニオン70が変形する。
【0061】
また、ロックベース80に対して、スプール20が引出方向Bに回転を開始すると、図5(B)に示されるように、基端部42がピニオン70に保持された状態で、ワイヤ40の第3中間部46及び先端部48が収容孔29から抜け出る。
【0062】
このようにして、収容孔29から抜け出た第3中間部46及び先端部48は、収容孔29の開口縁にしごかれると共に、内リブ24の外周壁に圧接させられ、この外周壁に倣って湾曲させられ、ワイヤ40の第2中間部45及び第3中間部46が、内リブ24に巻き付けられる。
【0063】
ここで、ワイヤ40の先端部48が収容孔29から抜け出る前までは、乗員によるウェビング20Aのスプール20からの引出荷重(スプール20の引出方向Bへの回転荷重)が、トーションシャフト32の耐捩れ荷重(第1フォースリミッタ荷重)と、ワイヤ40の耐変形荷重(第2フォースリミッタ荷重)との合計以上である際には、トーションシャフト32が捩れ変形されると共に、ワイヤ40が変形されて、スプール20のロックベース80及びピニオン70に対する引出方向Bへの回転が許容される。これにより、乗員の運動エネルギが、トーションシャフト32の捩れ変形及びワイヤ40の変形によって吸収されて、乗員が保護される。
【0064】
ワイヤ40の先端部48が収容孔29から抜け出た後では、乗員によるウェビング20Aのスプール20からの引出荷重(スプール20の引出方向Bへの回転荷重)が、トーションシャフト32の耐捩れ荷重(第1フォースリミッタ荷重)以上である際には、トーションシャフト32が捩れ変形される。これにより、乗員の運動エネルギが、トーションシャフト32の捩れ変形によって吸収されて、乗員が保護される。
【0065】
すなわち、乗員の運動エネルギは、トーションシャフト32の捩れ変形及びワイヤ40の変形によって吸収され、その後、トーションシャフト32の捩れ変形によって吸収されるように、2段階で吸収されて、乗員が保護される。なお、このフォースリミッタ機構は、ピニオン70がスプール20に対して傾いていない状態でも、機能を発揮することができる。
【0066】
[第1実施形態の作用]
次に、第1実施形態の作用を説明する。
【0067】
第1実施形態のウェビング巻取装置10は、ウェビング20Aを引き出し及び巻き取り可能なスプール20と、スプール20と対向するように配置され、緊急時に回転が阻止される回転体50と、回転体50とスプール20との間に形成されたワイヤ収容部Sに収容されるワイヤ40と、を備えている。ウェビング巻取装置10は、ワイヤ収容部Sのスプール20の径方向外側を、スプール20の径方向内側よりスプール20の軸方向Dに狭くする凸部72を備えている。
【0068】
緊急時にウェビング20Aが引き出されて、スプール20に対して、ウェビング20Aの送り方向Fに荷重が作用した際、回転体50とスプール20との間の、スプール20の軸方向Dの隙間は、ウェビング20Aの送り方向Fの上流側より下流側が広がる。
【0069】
ところで、ワイヤ収容部Sにおけるスプール20の軸方向Dの隙間が狭くなると、ワイヤ40によるフォースリミッタ荷重が大きくなる。一方、ワイヤ収容部Sにおけるスプール20の軸方向Dの隙間が広くなると、ワイヤ40によるフォースリミッタ荷重が小さくなる。そのため、スプール20の位相によって、ワイヤ40によるフォースリミッタ荷重が不安定となる可能性がある。
【0070】
第1実施形態では、ワイヤ収容部Sのスプール20の径方向外側を、スプール20の径方向内側よりスプール20の軸方向Dに狭くする凸部72を備えることで、ワイヤ収容部Sにおける、送り方向Fの下流側の軸方向Dの隙間は、狭くなる。
【0071】
ここで、ピアノ線によって形成されたワイヤ40は、アルミダイカストによって形成されたピニオン70より、高い硬度を有している。そのため、スプール20に対して、ウェビング20Aの送り方向Fに荷重が作用した際、ワイヤ収容部Sにおける、送り方向Fの上流側の軸方向Dの隙間が狭まる方向に、ピニオン70とワイヤ40との間に荷重が作用すると、ピニオン70が変形する。その結果、ワイヤ収容部Sにおける、送り方向Fの上流側の軸方向Dの隙間は維持される。
【0072】
すなわち、緊急時にウェビング20Aが引き出されて、スプール20に対して、ウェビング20Aの送り方向Fに荷重が作用した際、ワイヤ収容部Sの軸方向Dの隙間が広がることを抑制することができる。その結果、ワイヤ40によるフォースリミッタ荷重を安定して発生させることができる。
【0073】
また、凸部72の突出量を調整することで、フォースリミッタ荷重を調整することができる。そのため、狙いのエネルギを吸収するフォースリミッタ構造とすることができる。
【0074】
第1実施形態のウェビング巻取装置10では、凸部72は、回転体50がスプール20に対して傾いた際に、ワイヤ収容部Sの軸方向Dの隙間が一定になるように設けられている。
【0075】
緊急時にウェビング20Aが引き出されて、スプール20に対して、ウェビング20Aの送り方向Fに荷重が作用し、回転体50がスプール20に対して傾いた際に、ワイヤ収容部Sの軸方向Dの隙間が一定になるように凸部72が設けられる。そのため、緊急時にウェビング20Aが引き出されて、スプール20に対して、ウェビング20Aの送り方向Fに荷重が作用した際に、ワイヤ収容部Sの軸方向Dの隙間が一定にされる。その結果、ワイヤ40によるフォースリミッタ荷重を安定させることができる。
【0076】
第1実施形態のウェビング巻取装置10では、凸部72は、ワイヤ収容部Sに収容されている。
【0077】
凸部72が、ワイヤ収容部Sに収容されることで、ウェビング巻取装置10のスプール20の軸方向Dの長さが短くなる。そのため、ウェビング巻取装置10をコンパクトにすることができる。
【0078】
また、凸部72は、ワイヤ収容部Sにおけるスプール20の径方向外側を、スプール20の径方向内側よりスプール20の軸方向Dに狭くしているので、ワイヤ収容部Sにおけるスプール20の径方向内側にスペースが形成される。そのため、通常時に、ワイヤ収容部Sにおけるスプール20の径方向内側に、ワイヤ40を配置することができる。
【0079】
第1実施形態のウェビング巻取装置10では、凸部72は、スプール20の径方向外側から径方向内側に向かって傾斜した傾斜面72Aを有している。
【0080】
凸部72は、スプール20の径方向外側から径方向内側に向かって傾斜した傾斜面72Aを有することで、緊急時にウェビング20Aが引き出されて、スプール20に対して、ウェビング20Aの送り方向Fに荷重が作用して、回転体50とスプール20との間のスプール20の軸方向Dの隙間が広がった場合に、ワイヤ収容部Sにおける軸方向Dの隙間を略一定とすることができる。その結果、ワイヤ40によるフォースリミッタ荷重を安定させることができる。
【0081】
第1実施形態のウェビング巻取装置10では、凸部72は、回転体50に設けられている。
【0082】
凸部72が回転体50に設けられることで、ワイヤ収容部Sにおける、ウェビング20Aの送り方向Fにおける下流側の軸方向Dの隙間は、狭くなる。そのため、緊急時にウェビング20Aが引き出されて、スプール20に対して、ウェビング20Aの送り方向Fに荷重が作用した際、ワイヤ収容部Sの軸方向Dの隙間が広がることを抑制することができる。その結果、ワイヤ40によるフォースリミッタ荷重を安定させることができる。
【0083】
〔第2実施形態〕
第2実施形態のウェビング巻取装置は、凸部の構成が異なる点で、第1実施形態のウェビング巻取装置と相違する。
【0084】
以下、第2実施形態のウェビング巻取装置の構成を説明する。なお、第1実施形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は符号を用いて説明する。
【0085】
[ウェビング巻取装置の構成]
図8(A)に示されるように、スプール120のフランジ部22は、外リブ23と、巻付部を構成する内リブ24と、溝部28と、を有している。溝部28には、溝部28の底面から、軸方向Dの一端側に向けて突出した凸部125を有している。
【0086】
凸部125の軸方向Dの一端側の端面は、外リブ23の内周面から溝部28の底面に向かって傾斜する傾斜面125Aを構成する。言い換えると、凸部125は、ワイヤ収容部Sのスプール120の径方向外側を、スプール120の径方向内側よりスプール120の軸方向Dに狭くする。凸部125は、スプール120の周方向の全周にわたって設けられている。ピニオン170は、軸方向Dの他端側の端面170Aが略平坦に形成されている。
【0087】
図8(A)に示されるように、通常時は、第2中間部45が溝部28の径方向内側に配置され、凸部125が溝部28の径方向外側に突出するように設けられている。
【0088】
図8(B)に示されるように、緊急時にウェビング20Aが引き出されて、スプール120に対して、ウェビング20Aの送り方向Fに荷重が作用して、ピニオン170がスプール120に対して傾いて、ピニオン170とスプール120との間の隙間が広がった際に、傾斜面125Aは、ワイヤ収容部Sの軸方向Dの隙間が一定になるように設けられている。
【0089】
[フォースリミッタ機構の動作]
第2実施形態のウェビング巻取装置110では、車両前方側へ慣性移動しようとする乗員の身体がウェビング20Aを引っ張ると、第1実施形態のウェビング巻取装置10と同様に、ピニオン170は、カバープレート14のラチェット歯14Aに、ロックパウル56を介して支持されているロックベース80を支点として、ウェビング20Aの送り方向(車両上方)Fに旋回する。また、スプール120は、脚板12Bの貫通孔12Dを支点として、ウェビング20Aの送り方向Fに旋回する。このようにして、ピニオン170がスプール120に対して傾く。
【0090】
ピニオン170がスプール120に対して傾くと、ピニオン170とスプール120との間の、送り方向Fの下流側の隙間は、広がる。このピニオン170とスプール120との隙間は、スプール120の径方向内側より径方向外側の方が広く形成される。
【0091】
ところが、図8(B)に示されるように、スプール120の傾斜面125Aと、ピニオン170の端面170Aとが略平行になり、ワイヤ収容部Sの軸方向Dの隙間が一定になる。
【0092】
その他のフォースリミッタ機構の動作は、第1実施形態のウェビング巻取装置10と同様の動作をする。
【0093】
[第2実施形態の作用]
第2実施形態のウェビング巻取装置110では、凸部125は、スプール120に設けられている。
【0094】
凸部125がスプール120に設けられることで、ワイヤ収容部Sにおける、ウェビング20Aの送り方向Fにおける下流側の軸方向Dの隙間は、狭くなる。そのため、緊急時にウェビング20Aが引き出されて、スプール120に対して、ウェビング20Aの送り方向Fに荷重が作用した際、ワイヤ収容部Sの軸方向Dの隙間が広がることを抑制することができる。その結果、ワイヤ40によるフォースリミッタ荷重を安定させることができる。
【0095】
なお、他の構成及び作用効果については、上記第1実施形態と略同様であるので説明を省略する。
【0096】
以上、本発明のウェビング巻取装置を、上記各実施形態に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、これらの実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更などは許容される。
【0097】
第1実施形態及び第2実施形態では、ワイヤ収容部Sをスプール20,120に設ける例を示した。しかし、ワイヤ収容部は、ピニオンに設けられても、スプール及びピニオンに設けられてもよい。
【0098】
第1実施形態及び第2実施形態では、シャフト30は、トーションシャフト32と、サブシャフト34とで別体で形成される例を示した。しかし、シャフトは、一体で形成されもよい。
【0099】
第1実施形態及び第2実施形態では、ワイヤ40を1つ設ける例を示した。しかし、ワイヤは、複数設けられてもよい。
【0100】
第1実施形態では、凸部72が傾斜面72Aを有し、第2実施形態では、凸部125が傾斜面125Aを有する例を示した。しかし、凸部は、傾斜面を有していなくても、ワイヤ収容部Sのスプールの径方向外側を、スプールの径方向内側より軸方向に狭く形成されていればよい。
【0101】
第1実施形態では、凸部72はピニオン70に設けられ、第2実施形態では、凸部125は、スプール120に設けられる例を示した。しかし、凸部は、スプール及びピニオンに設けられてもよい。
【0102】
第1実施形態及び第2実施形態では、先端部48は、ワイヤ40の先端に向かって先細りした形状に形成されている例を示した。しかし、先端部は、この態様に限定されず、丸棒状に形成されてもよい。
【0103】
第1実施形態及び第2実施形態では、収容孔29は、溝部28の径方向内側部分に形成されている例を示した。しかし、収容孔は、溝部28の径方向外側部分に形成されてもよいし、径方向中間部分に形成されてもよい。
【0104】
第1実施形態及び第2実施形態では、ワイヤ40は、引き抜かれたときに、2つのワイヤ40が重なるように巻かれる長さに設定されている例を示した。しかし、ワイヤは、引き抜かれたときに、2つのワイヤが重ならないように巻かれる長さとしてもよい。
【符号の説明】
【0105】
10・・・ウェビング巻取装置、20・・・スプール、20A・・・ウェビング、40・・・ワイヤ、50・・・回転体、72・・・凸部、72A・・・傾斜面、S・・・ワイヤ収容部
図1
図2
図3
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図8