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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102707
(43)【公開日】2023-07-25
(54)【発明の名称】ウェビング巻取装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 22/28 20060101AFI20230718BHJP
   B60R 22/36 20060101ALI20230718BHJP
【FI】
B60R22/28 106
B60R22/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003378
(22)【出願日】2022-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003551
【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横井 友哉
(72)【発明者】
【氏名】村仲 淳一
(72)【発明者】
【氏名】坂口 善輝
(72)【発明者】
【氏名】内堀 隼人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 優太
【テーマコード(参考)】
3D018
【Fターム(参考)】
3D018DA05
3D018DA07
(57)【要約】
【課題】フォースリミッタ荷重の切り替えを明瞭化する。
【解決手段】ウェビング巻取装置10は、ウェビング20Aを引き出し及び巻き取り可能なスプール20と、スプール20と対向するように配置され、緊急時に回転が阻止される回転体50と、基端部42が保持され、回転体50とスプール20との間に配置され、緊急時に変形されてウェビング20Aが引き出されるワイヤ40と、を備えている。ウェビング巻取装置10は、所定の荷重によって、ワイヤ40の保持が解除される保持解除誘導部としての溝部78を備えている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェビングを引き出し及び巻き取り可能なスプールと、
前記スプールと対向するように配置され、緊急時に回転が阻止される回転体と、
基端部が保持され、前記回転体と前記スプールとの間に配置され、緊急時に変形されて前記ウェビングが引き出されるワイヤと、
所定の荷重によって、前記ワイヤの保持が解除される保持解除誘導部と、
を備えるウェビング巻取装置。
【請求項2】
前記保持解除誘導部は、前記回転体に形成されている
請求項1に記載のウェビング巻取装置。
【請求項3】
前記スプールは、前記基端部に荷重を付与する荷重付与部を備える
請求項1又は請求項2に記載のウェビング巻取装置。
【請求項4】
前記荷重付与部は、前記ワイヤが巻き付けられる巻付部に、巻付方向の外側に突出して形成されている
請求項3に記載のウェビング巻取装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェビング巻取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェビング巻取装置には、ウェビングに加わる荷重が増加して、胸部を圧迫するのを防ぐため、ウェビングに一定以上の荷重がかかったときに、これを緩和するフォースリミッタ機構を設けることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、スプールの軸方向穴にエネルギ吸収ピンが嵌入され、緊急時に、トーションバーがねじられるとともに、エネルギ吸収ピンがスプールから引き抜かれて、エネルギが吸収される技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-331563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、このようなウェビング巻取装置では、フォースリミッタ荷重の切り替えを明瞭化することが好ましい。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、フォースリミッタ荷重の切り替えを明瞭化することができるウェビング巻取装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1態様のウェビング巻取装置は、ウェビングを引き出し及び巻き取り可能なスプールと、前記スプールと対向するように配置され、緊急時に回転が阻止される回転体と、基端部が保持され、前記回転体と前記スプールとの間に配置され、緊急時に変形されて前記ウェビングが引き出されるワイヤと、所定の荷重によって、前記ワイヤの保持が解除される保持解除誘導部と、を備える。
【0008】
本発明の第2態様のウェビング巻取装置は、本発明の第1態様のウェビング巻取装置において、前記保持解除誘導部は、前記回転体に形成されている。
【0009】
本発明の第3態様のウェビング巻取装置では、本発明の第1態様又は第2態様のウェビング巻取装置において、前記スプールは、前記基端部に荷重を付与する荷重付与部を備える。
【0010】
本発明の第4態様のウェビング巻取装置では、本発明の第3態様のウェビング巻取装置において、前記荷重付与部は、前記ワイヤが巻き付けられる巻付部に、巻付方向の外側に突出して形成されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1態様のウェビング巻取装置では、所定の荷重によって、ワイヤの保持が解除される保持解除誘導部を備えるとこで、ワイヤによるフォースリミッタ荷重を作用させている途中で、ワイヤの保持が解除される。そのため、ワイヤによるフォースリミッタ荷重が安定する荷重安定化領域の途中で、ワイヤの保持が解除されて、ワイヤによるフォースリミッタ荷重が急激に低下される。その結果、ウェビングの狙いの移動ストロークまでエネルギ吸収量を増加させると共に、狙いの移動ストロークに到達したら、フォースリミッタ荷重が急激に低下される。そのため、フォースリミッタ荷重の切り替えを明瞭化することができる。
【0012】
本発明の第2態様のウェビング巻取装置では、保持解除誘導部が回転体に形成されることで、緊急時にウェビングが引き出されてスプールが回転した際に、回転が阻止される回転体の保持誘導解除部に、所定の荷重を作用させることができる。そのため、ワイヤの保持を容易に解除することができる。
【0013】
本発明の第3態様のウェビング巻取装置では、ワイヤの基端部に荷重を付与する荷重付与部をスプールが備えることで、ワイヤが引き出される途中(ワイヤ作動中)において、荷重付与部により荷重が付与される。そのため、ワイヤの保持を、ウェビングの狙いの移動ストロークで解除することができる。
【0014】
本発明の第4態様のウェビング巻取装置では、荷重付与部は、ワイヤが巻き付けられる巻付部に、巻付方向の外側に突出して形成されることで、ワイヤが巻付部に巻き付けられる途中で、ワイヤを介して、基端部に荷重が付与される。そのため、荷重付与部により付与される荷重を、簡易な構成で設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係るウェビング巻取装置を示す分解斜視図である。
図2】本実施形態に係るスプール及ぶピニオンを示す斜視図である。
図3】本実施形態に係るウェビング巻取装置を示す断面図である。
図4】本実施形態に係るスプールに形成された収容孔にワイヤが挿入される前の状態を示す分解斜視図である。
図5図3のE部分を拡大して示す断面図であり、図5(A)は、ワイヤの基端部がピニオンに保持された状態を示し、図5(B)は、ワイヤの基端部の保持が解除された状態を示す。
図6】本実施形態に係るスプールを一端側から見て示す側面図であり、図6(A)は、スプールが引出方向に回転する前の状態を示す図であり、図6(B)は、スプールが引出方向に回転した状態を示す図である。
図7】ウェビングの移動ストロークとフォースリミッタ荷重との関係を示すグラフであり、図7(A)は、本実施形態のウェビング巻取装置のグラフであり、図7(B)は、比較例1のウェビング巻取装置のグラフであり、図7(C)は、比較例2のウェビング巻取装置のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施形態に係るウェビング巻取装置について、図面を参照して説明する。なお、各図において矢印FRは、車両前後方向の前方を示し、矢印OUTは、車幅方向の外方を示し、矢印UPは、車両上下方向の上方を示す。また、各図において、矢印Aは、スプール20がウェビング20Aを巻き取る際のスプール20の回転方向である巻取方向Aを示し、矢印Bは、巻取方向Aとは反対の引出方向Bを示す。また、各図において、スプール20の軸方向を軸方向Dとする。また、単に一端側及び他端側を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、スプール20の軸方向Dに対するものとする。
【0017】
[ウェビング巻取装置の構成]
図1に示されるように、ウェビング巻取装置10は、主に、フレーム12と、カバープレート14と、付勢機構16と、センサ機構18と、スプール20と、シャフト30と、回転体50と、シリンダ60と、を備えている。
【0018】
(フレーム12)
フレーム12は、金属製であり、車体としてのセンターピラー(図示省略)の車両下側に固定されている。フレーム12は、車両上下方向に見て四角筒状に形成され、車両前側に形成された脚板12Aと、車両後側に形成された脚板12Bと、を有している。脚板12Aには、車両前後方向に貫通した円形の貫通孔12Cが形成されている。脚板12Bには、車両前後方向に貫通した円形の貫通孔12Dが形成されている。脚板12Aの貫通孔12Cと、脚板12Bの貫通孔12Dとに挿入されたスプール20は、脚板12A及び脚板12Bによって回転可能に支持されている。
【0019】
(スプール20)
スプール20は、略円筒形状に形成されており、中心軸Cを回転軸として巻取方向A及び引出方向Bに回転可能とされている。スプール20には、長尺帯状のウェビング20Aの長手方向基端部が係止されている。スプール20が巻取方向Aへ回転されると、ウェビング20Aがスプール20に巻取られる。ウェビング20Aがスプール20から引出されることで、ウェビング20Aが引出方向Bへ回転される。また、スプール20からウェビング20Aが引き出されることで、車両のシートに着座した乗員にウェビング20Aが装着される。
【0020】
(付勢機構16)
フレーム12の車両後側には、付勢機構16が設けられている。付勢機構16は、ぜんまいばね等のスプール付勢手段(図示省略)が設けられている。スプール付勢手段は、スプール20に直接又は間接的に係合され、スプール20は、スプール付勢手段の付勢力によって巻取方向Aへ付勢されている。
【0021】
(シャフト30)
図3に示されるように、シャフト30は、第1エネルギ吸収部材としてのトーションシャフト32と、サブシャフト34と、で構成されている。
【0022】
トーションシャフト32は、金属製で略円柱状に形成されている。トーションシャフト32は、スプール20内に、スプール20の中心軸Cと同軸上にして配置されている。トーションシャフト32の他端側(車両後側)は、スプール20に一体回転可能に連結されている。トーションシャフト32の他端側は、付勢機構16に回転可能に支持されている。
【0023】
トーションシャフト32の一端側(車両前側)は、サブシャフト34に同軸上に連結されている。サブシャフト34は、金属製で略円柱状に形成されている。サブシャフト34の一端側は、センサ機構18に回転可能に支持されている。トーションシャフト32は、フォースリミッタ機構としての第1フォースリミッタ機構を構成する。
【0024】
(回転体50)
図1及び図3に示されるように、ロック機構を構成する回転体50は、軸方向Dにおいて、スプール20と対向するように設けられている。回転体50は、ピニオン70と、ロックベース80とで構成されている。ロックベース80は、ピニオン70より車両前側に設けられている。ロックベース80は、例えば、アルミダイカストにより円板状に形成され、スプール20の中心軸Cと同軸上に配置されている。
【0025】
図2及び図3に示されるように、ピニオン70は、例えば、アルミダイカストにより円板状に形成され、スプール20の中心軸Cと同軸上に配置されている。ピニオン70は、ロックベース80に一体回転可能に連結されている。
【0026】
ピニオン70には、トーションシャフト32の一端側が嵌合されており、ピニオン70とトーションシャフト32の一端側との相対回転が制限されている。これにより、スプール20、トーションシャフト32、ロックベース80及びピニオン70が一体回転可能にされている。
【0027】
図1に示されるように、ロックベース80は、ロックパウル56を備えている。ロックパウル56は、ロックベース80に回動可能に支持されている。
【0028】
図2に示されるように、ピニオン70には、軸方向Dに貫通した貫通孔72が形成されている。
【0029】
(カバープレート14)
図1及び図3に示されるように、フレーム12の車両前側の脚板12Aには、ピニオン70及びロックベース80を覆う金属製のカバープレート14が固定されている。カバープレート14には、車両前後方向に貫通したラチェット孔にラチェット歯14Aが形成されている。
【0030】
(センサ機構18)
カバープレート14の車両前側には、センサ機構18が設けられている。緊急時には、センサ機構18が作動されて、ロックパウル56が回動して、ロックベース80の径方向外側に移動し、ロックパウル56の先端部が、ラチェット歯14Aに噛み合う。これによって、ロックベース80の引出方向Bへの回転が制限され、スプール20の引出方向Bへの回転が間接的に制限される。緊急時とは、車両の衝突時等であって、車両の急減速時及びウェビング20Aのスプール20からの急引出し時等である。
【0031】
(シリンダ60)
図1に示されるように、ウェビング巻取装置10は、プリテンショナを構成するシリンダ60を備えている。シリンダ60の基端側には、マイクロガスジェネレータ62(以下、MGG62と言う)が挿入されている。MGG62は、ECU(図示省略)を介して車両に設けられた衝突検知センサ(図示省略)に電気的に接続されている。シリンダ60の内側には、ピストンとしてのシールボール64と、移動部材66と、が配置されている。
【0032】
車両衝突時の衝撃が衝突検知センサによって検知されると、MGG62がガスを発生し、移動部材66は、シールボール64に押圧されてシリンダ60の先端側へ移動される。そして、移動部材66は、ピニオン70及びロックベース80の歯部が突刺さった状態(食込んだ状態、係合された状態)で、移動されることで、スプール20が巻取方向Aに回転して、ウェビング20Aが巻き取られ、乗員を車両のシートに固定する。
【0033】
[第2フォースリミッタ機構の構成]
図3に示されるように、スプール20には、フォースリミッタ機構としての第2フォースリミッタ機構を構成する第2エネルギ吸収部材としてのワイヤ40が設けられている。
【0034】
(ワイヤ40)
ワイヤ40は、スプール20より、強度の高い金属(例えば、ピアノ線)で形成されている。図4に示されるように、ワイヤ40は、基端部42と、第1中間部44と、第2中間部45と、第3中間部46と、先端部48と、によって略クランク状に形成されている。
【0035】
基端部42は、円板状に形成されている。基端部42の外径は、ピニオン70に形成された貫通孔72の少なくとも最小内径より大きく形成されている。
【0036】
第1中間部44は、基端部42から他端側に延在した丸棒状に形成されている。第2中間部45は、第1中間部44の他端側の端部から軸方向Dに略直交する方向に延在した丸棒状に形成されている。第3中間部46は、第2中間部45の端部から軸方向Dに延在した丸棒状に形成されている。第1中間部44、第2中間部45及び第3中間部46は、略同じ直径とすることができる。
【0037】
先端部48は、第3中間部46の他端側の端部から軸方向Dに縮径した円錐台状に形成されている。先端部48は、ワイヤ40の先端に向かって先細りした形状に形成されている。
【0038】
(スプール20)
図4に示されるように、スプール20は、略円筒状のスプール本体部21と、スプール本体部21の軸方向Dの一端側に形成されたフランジ部22と、を備えている。
【0039】
フランジ部22は、スプール本体部21より大きい外形の円板状に形成され、外リブ23と、巻付部を構成する内リブ24と、溝部28と、を有している。
【0040】
外リブ23は、軸方向Dの一端側に突出するように、フランジ部22の外縁に形成されている。外リブ23は、円環状に形成されている。内リブ24は、軸方向Dの一端側に突出するように、フランジ部22の内縁に形成されている。内リブ24は、円環状に形成されている。溝部28は、外リブ23と内リブ24との間に、軸方向Dの他端側に凹んだ円環状の溝として形成されている。溝部28は、ワイヤ40の第2中間部45を収容する。
【0041】
図3及び図4に示されるように、溝部28には、ワイヤ40の第3中間部46及び先端部48が収容される収容孔29が形成されている。
【0042】
図3に示されるように、収容孔29は、スプール20を軸方向Dに貫通した円形の貫通孔とすることができる。収容孔29の内径は、ワイヤ40の第3中間部46の外径より、若干大きく形成されている。
【0043】
図6に示されるように、収容孔29は、溝部28の径方向内側部分に形成されている。収容孔29の少なくとも一部は、スプール20の径方向において、内リブ24が形成されている部分に形成されている。なお、収容孔は、止まり穴(非貫通孔)とすることもできる。
【0044】
<荷重付与部25>
図4及び図6に示されるように、内リブ24には、内リブ24の外周面から、内リブ24の径方向の外側に突出した荷重付与部25が形成されている。言い換えると、荷重付与部25は、内リブ24にワイヤ40が巻き付けられる巻付方向の外側に突出して形成されている。
【0045】
荷重付与部25は、軸方向Dの断面において、矩形状に形成されている。荷重付与部25は、溝部28の底面から、内リブ24の軸方向Dの一端側の端面まで延在している。すなわち、荷重付与部25の軸方向Dの高さは、内リブ24の軸方向Dの高さと略同じとすることができる。
【0046】
(ピニオン)
図5(A)に示されるように、ピニオン70には、貫通孔72が形成されている。貫通孔72は、第1部分74と第2部分76とで、ザグリ孔として形成されている。第1部分74の内径は、ワイヤ40の第1中間部44の外径より若干大きく形成されている。第1部分74の内径は、ワイヤ40の基端部42の外径より小さく形成されている。
【0047】
第2部分76の内径は、第1部分74の内径より大きく形成されている。第2部分76の内径は、基端部42の外径より大きく形成されている。
【0048】
第1部分74の一端側の端面75には、V字状の溝部78が形成されている。溝部78は、基端部42の外径(外縁)に沿って、円環状に形成されている。溝部78は、基端部42の外径より、若干大きく形成されている。
【0049】
端面75に対して、軸方向Dの他端側に所定の荷重がかかると、図5(B)に示されるように、溝部78を起点として、ピニオン70の第1部分74の周辺部78Aが破断するようになっている。溝部78は、保持解除誘導部を構成する。
【0050】
図2及び図3に示されるように、第1中間部44、第2中間部45、第3中間部46及び先端部48が、ピニオン70に形成された貫通孔72に挿入されて、基端部42が、ピニオン70の貫通孔72の端面75に保持されている。第3中間部46及び先端部48は、収容孔29に挿入されている。第2中間部45は、溝部28に収容されている。すなわち、第2中間部45は、ピニオン70とスプール20との間に配置されている。
【0051】
[フォースリミッタ機構の動作]
ウェビング巻取装置10では、スプール20からウェビング20Aが引き出されて、乗員にウェビング20Aが装着される。また、付勢機構16のぜんまいばねの付勢力により、スプール20が巻取方向Aに回転されて、ウェビング20Aがスプール20に巻取られることで、乗員に装着されたウェビング20Aの弛みが除去される。
【0052】
車両の衝突時には、センサ機構18が作動されて、ロックパウル56がカバープレート14のラチェット歯14Aへ接近する向きに回動して、ロックパウル56がラチェット歯14Aに噛み合うことで、ロックベース80の引出方向Bへの回転が規制され、スプール20の引出方向Bへの回転が規制される。
【0053】
このように、スプール20の引出方向Bへの回転が規制されることで、スプール20に巻き取られているウェビング20Aの引き出しが規制されるので、車両急減速時に車両前方側へ慣性移動しようとする乗員の身体がウェビング20Aにより拘束される。
【0054】
このような状態で、車両前方側へ慣性移動しようとする乗員の身体がウェビング20Aを引っ張ることで、図6(A)に示されるように、スプール20に付与される引出方向Bへの回転力によって、トーションシャフト32が捻じれ始めると共に、ワイヤ40が変形し始める。この際に、図7(A)に示されるように、ウェビング20Aの移動ストロークが第1ストロークS1の周辺において、波形が定常値となる基線を超過するオーバーシュート現象が発生する。
【0055】
スプール20に付与される引出方向Bへの回転力が、トーションシャフト32及びワイヤ40の機械的強度を上回ると、トーションシャフト32が捩じれるように塑性変形を開始して、回転が規制されたロックベース80に対し、スプール20が引出方向Bに回転を開始する。
【0056】
このようにロックベース80に対して、スプール20が引出方向Bに回転すると、基端部42がピニオン70の貫通孔72の端面75に保持された状態で、ワイヤ40の第3中間部46が収容孔29から抜け出る。
【0057】
このようにして、収容孔29から抜け出た第3中間部46は、収容孔29の開口縁にしごかれると共に、内リブ24の外周壁に圧接させられ、この外周壁に倣って湾曲させられ、ワイヤ40の第2中間部45及び第3中間部46が、内リブ24に巻き付けられる。すなわち、ワイヤ40は、緊急時に変形されて、ウェビング20Aが引き出された際に、スプール20の内リブ24に巻き付けられる。
【0058】
ここで、乗員によるウェビング20Aのスプール20からの引出荷重(スプール20の引出方向Bへの回転荷重)が、トーションシャフト32の耐捩れ荷重(第1フォースリミッタ荷重)と、ワイヤ40の耐変形荷重(第2フォースリミッタ荷重)との合計以上である際には、トーションシャフト32が捩れ変形されると共に、ワイヤ40が変形されて、スプール20のロックベース80及びピニオン70に対する引出方向Bへの回転が許容される。
【0059】
この際、図7(A)に示されるように、ウェビング20Aの移動ストロークが第2ストロークS2において、波形が定常値となり、フォースリミッタ荷重が安定化する第1荷重安定化領域T1が形成される。すなわち、第1荷重安定化領域T1は、トーションシャフト32の捩れ変形及びワイヤ40の変形によってフォースリミッタ荷重が安定化する領域である。これにより、乗員の運動エネルギが、トーションシャフト32の捩れ変形及びワイヤ40の変形によって吸収されて、乗員が保護される。
【0060】
スプール20がロックベース80に対して、更に引出方向Bに回転すると、図6(B)に示されるように、ワイヤ40の第1中間部45が、荷重付与部25に当接して、ワイヤ40が内リブ24に巻き付けられる経路が変更される。この際、ワイヤ40に荷重が付与されることで、基端部42から、端面75に対して、軸方向Dの他端側に荷重が作用する。なお、ワイヤ40の第2中間部45又は第3中間部46が、荷重付与部25に当接して、ワイヤ40が内リブ24に巻き付けられる経路が変更されてもよい。
【0061】
すなわち、荷重付与部25は、緊急時にワイヤ40が変形されて、スプール20の内リブ24に巻き付けられている途中で、基端部42に荷重を付与する。言い換えると、荷重付与部25は、緊急時に、第3中間部46が収容孔29から抜け出てから、ワイヤ40の先端部48が収容孔29から抜け出るまでの間に、基端部42に荷重を付与する。これにより、図5(B)に示されるように、溝部78を起点として、ピニオン70の第1部分74の周辺部78Aが破断し、基端部42のピニオン70による保持が解除される。
【0062】
この際、図7(A)に示されるように、ウェビング20Aの移動ストロークが第3ストロークS3から第4ストロークS4の間で、フォースリミッタ荷重が急激に低下する。
【0063】
そして、基端部42のピニオン70による保持が解除された状態で、スプール20がロックベース80に対して、更に引出方向Bに回転する。
【0064】
ここで、乗員によるウェビング20Aのスプール20からの引出荷重(スプール20の引出方向Bへの回転荷重)が、トーションシャフト32の耐捩れ荷重(第1フォースリミッタ荷重)以上である際には、トーションシャフト32が捩れ変形される。この際、図7(A)に示されるように、ウェビング20Aの移動ストロークが第4ストロークS4以降において、波形が定常値となり、フォースリミッタ荷重が安定化する第2荷重安定化領域T2が形成される。すなわち、第2荷重安定化領域T2は、トーションシャフト32の捩れ変形によってフォースリミッタ荷重が安定化する領域である。
【0065】
これにより、乗員の運動エネルギが、トーションシャフト32の捩れ変形によって吸収されて、乗員が保護される。
【0066】
すなわち、乗員の運動エネルギは、トーションシャフト32の捩れ変形及びワイヤ40の変形によって吸収され、その後、トーションシャフト32の捩れ変形によって吸収されるように、2段階で吸収されて、乗員が保護される。
【0067】
[本実施形態の作用]
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0068】
本実施形態のウェビング巻取装置10は、ウェビング20Aを引き出し及び巻き取り可能なスプール20と、スプール20と対向するように配置され、緊急時に回転が阻止される回転体50と、基端部42が保持され、回転体50とスプール20との間に配置され、緊急時に変形されてウェビング20Aが引き出されるワイヤ40と、を備えている。ウェビング巻取装置10は、所定の荷重によって、ワイヤ40の保持が解除される保持解除誘導部としての溝部78を備えている。
【0069】
例えば、所定の荷重によってワイヤ40の保持が解除される保持解除誘導部を備えない場合であって、全長が短いワイヤ40が使用される比較例1のウェビング巻取装置の場合、ワイヤ40の初期変形時(例えば、ワイヤ40とスプール20との間の摩擦が、静摩擦から動摩擦に切り替わる際)にオーバーシュートし、その後、すぐにワイヤ40の先端部48が収容孔29から抜ける。この際、図7(B)に示されるように、ウェビング20Aの移動ストロークが第1ストロークS1の周辺において、波形が定常値となる基線を超過するオーバーシュート現象が発生する。その後、ウェビング20Aの移動ストロークが第1ストロークS1から第4ストロークS4の間で、フォースリミッタ荷重が穏やかに低下する。そして、ウェビング20Aの移動ストロークが第4ストロークS4以降において、波形が定常値となり、トーションシャフト32の捩れ変形によってフォースリミッタ荷重が安定化する第2荷重安定化領域T2が形成される。
【0070】
全長が短いワイヤ40が使用される比較例1のウェビング巻取装置の場合、トーションシャフト32の捩れ変形及びワイヤ40の変形によってフォースリミッタ荷重が安定化する第1荷重安定化領域T1が発現し難い。そのため、フォースリミッタ荷重は、略三角形の波形となり、ウェビング20Aの短い移動ストロークのフォースリミッタ荷重に対応したものとなる。
【0071】
一方、所定の荷重によってワイヤ40の保持が解除される保持解除誘導部を備えない場合であって、全長が長いワイヤ40が使用される比較例2のウェビング巻取装置の場合、ワイヤ40の初期変形時に、オーバーシュートし、ワイヤ40の中間部46が収容孔29から引き出されることによるフォースリミッタ荷重が安定する荷重安定化領域を経てから、ワイヤ40の先端部48が収容孔29から抜ける。この際、図7(C)に示されるように、ウェビング20Aの移動ストロークが第1ストロークS1の周辺において、波形が定常値となる基線を超過するオーバーシュート現象が発生する。その後、ウェビング20Aの移動ストロークが第1ストロークS1から第2ストロークS2の間で、フォースリミッタ荷重が穏やかに低下する。その後、ウェビング20Aの移動ストロークが第2ストロークS2において、波形が定常値となり、トーションシャフト32の捩れ変形及びワイヤ40の変形によってフォースリミッタ荷重が安定化する第1荷重安定化領域T1が形成される。ウェビング20Aの移動ストロークが第5ストロークS5から第6ストロークS6において、フォースリミッタ荷重が穏やかに低下する。第6ストロークS6以降において、波形が定常値となり、トーションシャフト32の捩れ変形によってフォースリミッタ荷重が安定化する第2荷重安定化領域T2が形成される。
【0072】
すなわち、フォースリミッタ荷重は、略台形の波形となり、ウェビング20Aの長い移動ストロークのフォースリミッタ荷重に対応したものとなる。
【0073】
本実施形態では、所定の荷重によって、ワイヤ40の保持が解除される保持解除誘導部としての溝部78を備えることで、全長の長いワイヤ40を使用して、ワイヤ40の第3中間部46が収容孔29から引き出されることによるフォースリミッタ荷重が安定する第1荷重安定化領域T1の途中で、ワイヤ40の基端部42の保持を解除して、ウェビング20Aの短い移動ストロークのフォースリミッタ荷重に対応したものとなる。すなわち、図7(A)に示されるように、第1荷重安定領域T1を発現させることができる。
【0074】
そのため、図7(A)に示されるように、フォースリミッタ荷重は、略台形の波形としつつ、狙いの移動ストロークで、フォースリミッタ荷重を低下させることができる。その結果、狙いの移動ストロークまでエネルギ吸収量を増加させると共に、狙いの移動ストロークに到達したら、フォースリミッタ荷重が急激に低下される。その結果、フォースリミッタ荷重の切り替えを明瞭化することができる。
【0075】
本実施形態のウェビング巻取装置10では、保持解除誘導部としての溝部78は、回転体50に形成されている。
【0076】
保持解除誘導部としての溝部78が回転体50に形成されることで、緊急時にウェビング20Aが引き出されて、スプール20が回転した際に、回転が阻止される回転体50の溝部78に所定の荷重を作用させることができる。そのため、ワイヤ40の保持を容易に解除することができる。その結果、狙いの移動ストロークで、フォースリミッタ荷重を急激に低下させることができる。
【0077】
本実施形態のウェビング巻取装置10では、スプール20は、基端部42に荷重を付与する荷重付与部25を備えている。
【0078】
ところで、ワイヤ40が引き出されて、ワイヤ40とスプール20との間で摩擦力が作用する間、このワイヤ40によるフォースリミッタ荷重は、略一定となる。
【0079】
本実施形態では、基端部42に荷重を付与する荷重付与部25を備えることで、ワイヤ40が引き出される途中(ワイヤ作動中)で、荷重付与部25により荷重が付与される。そのため、狙いの移動ストロークでワイヤ40の基端部42の保持を安定して解除することができる。
【0080】
また、荷重付与部25の位置を調整することで、フォースリミッタ荷重を急激に低下させるウェビング20Aの移動ストロークの位置を調整することができる。
【0081】
本実施形態のウェビング巻取装置10では、荷重付与部25は、ワイヤ40が巻き付けられる巻付部としての内リブ24に、巻付方向の外側に突出して形成されている。
【0082】
荷重付与部25は、ワイヤ40が巻き付けられる内リブ24に、巻付方向の外側に突出して形成されることで、ワイヤ40が内リブ24に巻き付けられる途中で、ワイヤ40を介して、基端部42に荷重が付与される。そのため、荷重付与部25により付与される荷重を、簡易な構成で設定することができる。その結果、簡易な構成で、フォースリミッタ荷重の切り替えを明瞭化することができる。
【0083】
以上、本発明のウェビング巻取装置を、上記実施形態に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、この実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更などは許容される。
【0084】
上記実施形態では、ワイヤ40は、基端部42と、第1中間部44と、第2中間部45と、第3中間部46と、先端部48と、によって略クランク状に形成され、第3中間部46及び先端部48が、スプール20に形成された収容孔29に収容されている例を示した。しかし、ワイヤは、略円環状に形成され、収容孔29に収容されずに、溝部28に収容されるようにしてもよい。この場合、溝部28の底面から軸方向Dの一端側に突出する突出部と、外リブ23との間にワイヤの中間部が配置されるようにすることができる。これにより、ワイヤの基端部が保持された状態で、スプール20が引出方向Bに回転した場合、ワイヤの中間部が突出部によって変形されると共に、内リブ24に巻き付けられる。
【0085】
上記実施形態では、保持解除誘導部を溝部78とする例を示した。しかし、保持解除誘導部は、この態様に限定されず、所定の荷重で基端部42の保持が解除される構成であればよい。また、保持解除誘導部は、ワイヤの基端部を所定の荷重で破断するように構成してもよい。
【0086】
上記実施形態では、荷重付与部25は、内リブ24にワイヤ40が巻き付けられる巻付方向の外側に突出して形成される例を示した。しかし、荷重付与部25は、この態様に限定されず、例えば、溝部28の底面から軸方向Dの一端側に突出して凸部とすることもできる。
【0087】
上記実施形態では、荷重付与部25は、軸方向Dの断面において、矩形状に形成されている例を示した。しかし、荷重付与部は、軸方向Dの断面において、円形、三角形、その他の形状であってもよい。
【0088】
上記実施形態では、ワイヤ40を1つ設ける例を示した。しかし、ワイヤは、複数設けられてもよい。
【符号の説明】
【0089】
10・・・ウェビング巻取装置、20A・・・ウェビング、20・・・スプール、50・・・回転体、42・・・基端部、78・・・溝部(保持解除誘導部の一例)、24・・・内リブ(巻付部の一例)、25・・・荷重付与部
図1
図2
図3
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図5
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図7