(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102708
(43)【公開日】2023-07-25
(54)【発明の名称】ウェビング巻取装置
(51)【国際特許分類】
B60R 22/28 20060101AFI20230718BHJP
B60R 22/36 20060101ALI20230718BHJP
【FI】
B60R22/28 106
B60R22/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003379
(22)【出願日】2022-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003551
【氏名又は名称】株式会社東海理化電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横井 友哉
(72)【発明者】
【氏名】村仲 淳一
(72)【発明者】
【氏名】坂口 善輝
(72)【発明者】
【氏名】内堀 隼人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 優太
【テーマコード(参考)】
3D018
【Fターム(参考)】
3D018DA05
3D018DA07
(57)【要約】
【課題】一時的なフォースリミッタ荷重の上昇を抑制する。
【解決手段】ウェビング巻取装置10は、ウェビング20Aを引き出し及び巻き取り可能なスプール20と、スプール20と対向するように配置され、緊急時に回転が阻止される回転体50と、を備えている。ウェビング巻取装置10は、基端部42が保持され、回転体50とスプール20との間に配置され、緊急時に変形されてウェビング20Aが引き出された際に、スプール20の内リブ26に巻き付けられるワイヤ40と、ワイヤ40が内リブ26に巻き付けられた際に、ワイヤ40の先端部48が逃げる逃げ部24Bと、を備えている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェビングを引き出し及び巻き取り可能なスプールと、
前記スプールと対向するように配置され、緊急時に回転が阻止される回転体と、
基端部が保持され、前記回転体と前記スプールとの間に配置され、緊急時に変形されて前記ウェビングが引き出された際に、前記スプールの巻付部に巻き付けられるワイヤと、
前記ワイヤが前記巻付部に巻き付けられた際に、前記ワイヤの先端部が逃げる逃げ部と、
を備えるウェビング巻取装置。
【請求項2】
前記逃げ部は、前記巻付部にスロープ状に形成されている
請求項1に記載のウェビング巻取装置。
【請求項3】
前記逃げ部は、前記巻付部の周囲に凹状に形成されている
請求項1又は請求項2に記載のウェビング巻取装置。
【請求項4】
前記巻付部は、前記逃げ部側において、巻付方向の内側に凹んで形成されている
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のウェビング巻取装置。
【請求項5】
前記逃げ部は、前記ワイヤの前記先端部が収容されている前記スプールの収容孔の周囲に形成されている
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のウェビング巻取装置。
【請求項6】
前記ワイヤは、複数設けられている
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のウェビング巻取装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェビング巻取装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェビング巻取装置には、ウェビングに加わる荷重が増加して、胸部を圧迫するのを防ぐため、ウェビングに一定以上の荷重がかかったときに、これを緩和するフォースリミッタ機構を設けることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、スプールの軸方向穴にエネルギ吸収ピンが嵌入され、緊急時に、トーションバーがねじられるとともに、エネルギ吸収ピンがスプールから引き抜かれて、エネルギが吸収される技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、このようなウェビング巻取装置では、一時的なフォースリミッタ荷重の上昇を抑制することが好ましい。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、一時的なフォースリミッタ荷重の上昇を抑制することができるウェビング巻取装置を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1態様のウェビング巻取装置は、ウェビングを引き出し及び巻き取り可能なスプールと、前記スプールと対向するように配置され、緊急時に回転が阻止される回転体と、基端部が保持され、前記回転体と前記スプールとの間に配置され、緊急時に変形されて前記ウェビングが引き出された際に、前記スプールの巻付部に巻き付けられるワイヤと、前記ワイヤが前記巻付部に巻き付けられた際に、前記ワイヤの先端部が逃げる逃げ部と、を備える。
【0008】
本発明の第2態様のウェビング巻取装置は、本発明の第1態様のウェビング巻取装置において、前記逃げ部は、前記巻付部にスロープ状に形成されている。
【0009】
本発明の第3態様のウェビング巻取装置では、本発明の第1態様又は第2態様のウェビング巻取装置において、前記逃げ部は、前記巻付部の周囲に凹状に形成されている。
【0010】
本発明の第4態様のウェビング巻取装置では、本発明の第1態様から第3態様のいずれか1つのウェビング巻取装置において、前記巻付部は、前記逃げ部側において、巻付方向の内側に凹んで形成されている。
【0011】
本発明の第5態様のウェビング巻取装置では、本発明の第1態様から第4態様のいずれか1つのウェビング巻取装置において、前記逃げ部は、前記ワイヤの前記先端部が収容されている前記スプールの収容孔の周囲に形成されている。
【0012】
本発明の第6態様のウェビング巻取装置は、本発明の第1態様から第5態様のいずれか1つのウェビング巻取装置において、前記ワイヤは、複数設けられている。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1態様のウェビング巻取装置では、ワイヤが巻付部に巻き付けられた際に、ワイヤの先端部が逃げる逃げ部を備えることで、ワイヤの先端部によって、巻付部が削られることが抑制される。そのため、ワイヤの巻き付け時に、ワイヤからスプールに作用する荷重が一時的に上昇することが抑制される。その結果、フォースリミッタ荷重の一時的な上昇を抑制することができる。
【0014】
本発明の第2態様のウェビング巻取装置では、逃げ部が巻付部にスロープ状に形成されることで、ワイヤが巻付部に巻き付けられた際に、ワイヤの先端部がスロープ状に形成された逃げ部にガイド(案内)される。そのため、ワイヤの先端部が巻付部に強く押し付けられることが抑制される。その結果、ワイヤの先端部によって、巻付部が削られることが抑制される。そのため、簡易な構成によって、フォースリミッタ荷重の一時的な上昇を抑制することができる。
【0015】
本発明の第3態様のウェビング巻取装置では、逃げ部が巻付部の周囲に凹状に形成されることで、ワイヤが巻付部に巻き付けられた際に、ワイヤの先端部が凹状に形成された逃げ部に逃げる。そのため、ワイヤの先端部が巻付部に強く押し付けられることが抑制される。その結果、ワイヤの先端部によって、巻付部が削られることが抑制される。そのため、簡易な構成によって、フォースリミッタ荷重の一時的な上昇を抑制することができる。
【0016】
本発明の第4態様のウェビング巻取装置では、巻付部は、逃げ部側において、巻付方向の内側に凹んで形成されることで、巻付方向の内側に、ワイヤの先端部が逃げるスペースが形成される。そのため、ワイヤの先端部によって、巻付部が削られることがより抑制される。そのため、ワイヤの巻き付け時に、ワイヤからスプールに作用する荷重が一時的に上昇することがより抑制される。その結果、フォースリミッタ荷重の一時的な上昇をより抑制することができる。
【0017】
本発明の第5態様のウェビング巻取装置では、逃げ部がスプールの収容孔の周囲に形成されることで、収容孔からワイヤの先端部が引き出された際に、ワイヤの先端部が逃げ部に逃げる。そのため、ワイヤの先端部がスプールの収容孔から引き出された際に、ワイヤの先端部によって、巻付部が削られることが抑制される。その結果、フォースリミッタ荷重の一時的な上昇を抑制することができる。
【0018】
本発明の第6態様のウェビング巻取装置では、ワイヤが複数設けられることで、ワイヤの先端部のスプールの径方向外側への移動が、他のワイヤによって阻害される場合でも、当該先端部が、巻付部を削ることを逃げ部によって抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態に係るウェビング巻取装置を示す分解斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係るスプール及ぶピニオンを示す斜視図である。
【
図3】第1実施形態に係るウェビング巻取装置を示す断面図であり、
図2のA-A断面を示す。
【
図4】第1実施形態に係るスプールに形成された収容孔にワイヤが挿入される前の状態を示す分解斜視図である。
【
図5】第1実施形態に係るウェビング巻取装置の一端側を示す断面図であり、
図5(A)はスプールを示し、
図5(B)はスプール、ワイヤ及びピニオンを示す。
【
図6】第1実施形態に係るスプールを一端側から見て示す側面図である。
【
図7】第1実施形態に係るスプールを一端側から見て示す側面図であり、
図7(A)は、ウェビングが引き出され、スプールが引出方向に回転した状態を示し、
図7(B)は、ウェビングがさらに引き出され、スプールが引出方向にさらに回転した状態を示す。
【
図8】第2実施形態に係るスプールを一端側から見て示す側面図である。
【
図9】第2実施形態に係るスプールを示す図であり、
図9(A)は、ウェビングが引き出され、スプールが引出方向に回転した状態を、スプールの一端側から見て示す側面図であり、
図9(B)は、
図9(A)のB-B断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔第1実施形態〕
以下、第1実施形態に係るウェビング巻取装置について、図面を参照して説明する。なお、各図において矢印FRは、車両前後方向の前方を示し、矢印OUTは、車幅方向の外方を示し、矢印UPは、車両上下方向の上方を示す。また、各図において、矢印Aは、スプール20がウェビング20Aを巻き取る際のスプール20の回転方向である巻取方向Aを示し、矢印Bは、巻取方向Aとは反対の引出方向Bを示す。また、各図において、スプール20の軸方向を軸方向Dとする。また、単に一端側及び他端側を用いて説明する場合は、特に断りのない限り、スプール20の軸方向Dに対するものとする。
【0021】
[ウェビング巻取装置の構成]
図1に示されるように、ウェビング巻取装置10は、主に、フレーム12と、カバープレート14と、付勢機構16と、センサ機構18と、スプール20と、シャフト30と、回転体50と、シリンダ60と、を備えている。
【0022】
(フレーム12)
フレーム12は、金属製であり、車体としてのセンターピラー(図示省略)の車両下側に固定されている。フレーム12は、車両上下方向に見て四角筒状に形成され、車両前側に形成された脚板12Aと、車両後側に形成された脚板12Bと、を有している。脚板12Aには、車両前後方向に貫通した円形の貫通孔12Cが形成されている。脚板12Bには、車両前後方向に貫通した円形の貫通孔12Dが形成されている。脚板12Aの貫通孔12Cと、脚板12Bの貫通孔12Dとに挿入されたスプール20は、脚板12A及び脚板12Bによって回転可能に支持されている。
【0023】
(スプール20)
スプール20は、略円筒形状に形成されており、中心軸Cを回転軸として巻取方向A及び引出方向Bに回転可能とされている。スプール20には、長尺帯状のウェビング20Aの長手方向基端部が係止されている。スプール20が巻取方向Aへ回転されると、ウェビング20Aがスプール20に巻取られる。ウェビング20Aがスプール20から引出されることで、ウェビング20Aが引出方向Bへ回転される。また、スプール20からウェビング20Aが引き出されることで、車両のシートに着座した乗員にウェビング20Aが装着される。
【0024】
(付勢機構16)
フレーム12の車両後側には、付勢機構16が設けられている。付勢機構16は、ぜんまいばね等のスプール付勢手段(図示省略)が設けられている。スプール付勢手段は、スプール20に直接又は間接的に係合され、スプール20は、スプール付勢手段の付勢力によって巻取方向Aへ付勢されている。
【0025】
(シャフト30)
図3に示されるように、シャフト30は、第1エネルギ吸収部材としてのトーションシャフト32と、サブシャフト34と、で構成されている。
【0026】
トーションシャフト32は、金属製で略円柱状に形成されている。トーションシャフト32は、スプール20内に、スプール20の中心軸Cと同軸上にして配置されている。トーションシャフト32の他端側(車両後側)は、スプール20に一体回転可能に連結されている。トーションシャフト32の他端側は、付勢機構16に回転可能に支持されている。
【0027】
トーションシャフト32の一端側(車両前側)は、サブシャフト34に同軸上に連結されている。サブシャフト34は、金属製で略円柱状に形成されている。サブシャフト34の一端側は、センサ機構18に回転可能に支持されている。トーションシャフト32は、フォースリミッタ機構としての第1フォースリミッタ機構を構成する。
【0028】
(回転体50)
図1及び
図3に示されるように、ロック機構を構成する回転体50は、軸方向Dにおいて、スプール20と対向するように設けられている。回転体50は、ピニオン52と、ロックベース54とで構成されている。ロックベース54は、ピニオン52より車両前側に設けられている。ロックベース54は、例えば、アルミダイカストにより円板状に形成され、スプール20の中心軸Cと同軸上に配置されている。
【0029】
図2及び
図3に示されるように、ピニオン52は、例えば、アルミダイカストにより円板状に形成され、スプール20の中心軸Cと同軸上に配置されている。ピニオン52は、ロックベース54に一体回転可能に連結されている。
【0030】
ピニオン52には、トーションシャフト32の一端側が嵌合されており、ピニオン52とトーションシャフト32の一端側との相対回転が制限されている。これにより、スプール20、トーションシャフト32、ロックベース54及びピニオン52が一体回転可能にされている。
【0031】
図1に示されるように、ロックベース54は、ロックパウル56を備えている。ロックパウル56は、ロックベース54に回動可能に支持されている。
【0032】
図2に示されるように、ピニオン52には、軸方向Dに貫通した貫通孔52Aが2つ形成されている。貫通孔52Aは、長孔とすることができる。
【0033】
(カバープレート14)
図1及び
図3に示されるように、フレーム12の車両前側の脚板12Aには、ピニオン52及びロックベース54を覆う金属製のカバープレート14が固定されている。カバープレート14には、車両前後方向に貫通したラチェット孔にラチェット歯14Aが形成されている。
【0034】
(センサ機構18)
カバープレート14の車両前側には、センサ機構18が設けられている。緊急時には、センサ機構18が作動されて、ロックパウル56が回動して、ロックベース54の径方向外側に移動し、ロックパウル56の先端部が、ラチェット歯14Aに噛み合う。これによって、ロックベース54の引出方向Bへの回転が制限され、スプール20の引出方向Bへの回転が間接的に制限される。緊急時とは、車両の衝突時等であって、車両の急減速時及びウェビング20Aのスプール20からの急引出し時等である。
【0035】
(シリンダ60)
図1に示されるように、ウェビング巻取装置10は、プリテンショナを構成するシリンダ60を備えている。シリンダ60の基端側には、マイクロガスジェネレータ62(以下、MGG62と言う)が挿入されている。MGG62は、ECU(図示省略)を介して車両に設けられた衝突検知センサ(図示省略)に電気的に接続されている。シリンダ60の内側には、ピストンとしてのシールボール64と、移動部材66と、が配置されている。
【0036】
車両衝突時の衝撃が衝突検知センサによって検知されると、MGG62がガスを発生し、移動部材66は、シールボール64に押圧されてシリンダ60の先端側へ移動される。そして、移動部材66は、ピニオン52及びロックベース54の歯部が突刺さった状態(食込んだ状態、係合された状態)で、移動されることで、スプール20が巻取方向Aに回転して、ウェビング20Aが巻き取られ、乗員を車両のシートに固定する。
【0037】
[第2フォースリミッタ機構の構成]
図3に示されるように、スプール20には、フォースリミッタ機構としての第2フォースリミッタ機構を構成する第2エネルギ吸収部材としてのワイヤ40が2つ設けられている。
【0038】
(ワイヤ40)
ワイヤ40は、スプール20より、強度の高い金属(例えば、ピアノ線)で形成されている。ワイヤ40は、スプール20より、削られにくい金属で形成されている。2つのワイヤ40は、同一の長さで、同一形状とすることができる。
【0039】
図4に示されるように、ワイヤ40は、基端部42と、第1中間部44と、第2中間部45と、第3中間部46と、先端部48と、によって略クランク状に形成されている。
【0040】
基端部42は、円板状に形成されている。基端部42の外径は、ピニオン52に形成された貫通孔52Aの少なくとも最小内径より大きく形成されている。
少なくとも
【0041】
第1中間部44は、基端部42から他端側に延在した丸棒状に形成されている。第2中間部45は、第1中間部44の他端側の端部から軸方向Dに略直交する方向に延在した丸棒状に形成されている。第3中間部46は、第2中間部45の端部から軸方向Dに延在した丸棒状に形成されている。第1中間部44、第2中間部45及び第3中間部46は、略同じ直径とすることができる。
【0042】
先端部48は、第3中間部46の他端側の端部から軸方向Dに縮径した円錐台状に形成されている。先端部48は、ワイヤ40の先端に向かって先細りした形状に形成されている。
【0043】
(スプール20)
図4に示されるように、スプール20は、略円筒状のスプール本体部21と、スプール本体部21の軸方向Dの一端側に形成されたフランジ部22と、を備えている。
【0044】
フランジ部22は、スプール本体部21より大きい外形の円板状に形成され、外リブ23と、巻付部を構成する内リブ26と、溝部28と、を有している。
【0045】
外リブ23は、軸方向Dの一端側に突出するように、フランジ部22の外縁に形成されている。外リブ23は、円環状に形成されている。内リブ26は、軸方向Dの一端側に突出するように、フランジ部22の内縁に形成されている。内リブ26は、円環状に形成されている。溝部28は、外リブ23と内リブ26との間に、軸方向Dの他端側に凹んだ円環状の溝として形成されている。溝部28は、ワイヤ40の第2中間部45を収容する。
【0046】
図3及び
図6に示されるように、溝部28には、ワイヤ40の第3中間部46及び先端部48が収容される収容孔29が2つ形成されている。収容孔29は、スプール20の中心軸Cに垂直な断面において、中心軸Cに対して略点対称に2つ設けられている。言い換えると、ワイヤ40は、スプール20の中心軸Cに垂直な断面において、中心軸Cに対して略点対称に2本設けられている。
【0047】
図3に示されるように、収容孔29は、スプール20を軸方向Dに貫通した円形の貫通孔とすることができる。収容孔29の内径は、ワイヤの第3中間部46の外径より、若干大きく形成されている。
【0048】
図6に示されるように、収容孔29は、溝部28の径方向内側部分に形成されている。収容孔29の少なくとも一部は、スプール20の径方向において、内リブ26が形成されている部分に形成されている。なお、収容孔は、止まり穴(非貫通孔)とすることもできる。
【0049】
図4及び
図6に示されるように、内リブ26は、内側部25と、外側部24と、で構成されている。
【0050】
内側部25は、略円環状に形成されている。内側部25は、径方向において、略同じ厚さに形成されている。
【0051】
外側部24は、2つの収容孔29を接続するように、内側部25の外側に2つ形成されている。外側部24は、本体部24Aと、逃げ部24Bと、を備えている。本体部24Aは、2つの収容孔29から、それぞれ、引出方向Bに所定の角度(例えば、120度)延在して形成されている。本体部24Aの軸方向Dの高さは、略一定とすることができる。
【0052】
逃げ部24Bは、本体部24Aの引出方向Bの端部から、それぞれ、引出方向Bに所定の角度(例えば、30度)延在して形成されている。逃げ部24Bは、ワイヤ40の先端部48が収容されているスプール20の収容孔29の近傍に形成されている。逃げ部24Bの径方向の幅は、収容孔29に近づくにつれて狭くなるように形成されている。言い換えると、巻付部を構成する内リブ26は、逃げ部24B側において、巻付方向(内リブ26の周方向)の内側に凹んで形成されている。
【0053】
図5(A)に示されるように、逃げ部24Bは、本体部24Aの軸方向Dの一端側の端面から、溝部28の底面に向けて傾斜するように形成されている。すなわち、逃げ部24Bの軸方向Dの一端側の端面は、本体部24Aの軸方向Dの一端側の端面から、溝部28の底面に向けて傾斜するスロープ状に形成されている。
【0054】
スロープ状に形成された逃げ部24Bの長さは、先端部48と略同じ長さとすることができる。なお、スロープ状に形成された逃げ部24Bの長さは、先端部48の長さより長くしてもよいし、短くしてもよい。
【0055】
逃げ部24Bの軸方向Dの一端側の端面は、軸方向Dに垂直な垂直面に対して、所定の角度θ1(例えば、15°)で形成されている。後述するように、ワイヤ40の先端部48が収容孔29から抜け出た際、
図5(B)に示されるように、ワイヤ40の先端部48が収容孔29の周辺の溝部28と接する接点P1と、ワイヤ40の先端部48の根本がピニオン52と接する接点P2とを結ぶ線L1は、軸方向Dに垂直な垂直面に対して、角度θ1と同じ角度θ2(例えば、15°)で形成されている。なお、角度θ1と角度θ2とは、異なる角度とすることもできる。
【0056】
図2及び
図3に示されるように、第1中間部44、第2中間部45、第3中間部46及び先端部48が、ピニオン52に形成された貫通孔52Aに挿入されて、基端部42が、ピニオン52に保持されている。第3中間部46及び先端部48は、収容孔29に挿入されている。第2中間部45は、溝部28に収容されている。すなわち、第2中間部45は、ピニオン52とスプール20との間に配置されている。
【0057】
[フォースリミッタ機構の動作]
ウェビング巻取装置10では、スプール20からウェビング20Aが引出されて、乗員にウェビング20Aが装着される。また、付勢機構16のぜんまいばねの付勢力により、スプール20が巻取方向Aに回転されて、ウェビング20Aがスプール20に巻取られることで、乗員に装着されたウェビング20Aの弛みが除去される。
【0058】
車両の衝突時には、センサ機構18が作動されて、ロックパウル56がカバープレート14のラチェット歯14Aへ接近する向きに回動して、ロックパウル56がラチェット歯14Aに噛み合うことで、ロックベース54の引出方向Bへの回転が規制され、スプール20の引出方向Bへの回転が規制される。
【0059】
このように、スプール20の引出方向Bへの回転が規制されることで、スプール20に巻き取られているウェビング20Aの引き出しが規制されるので、車両急減速時に車両前方側へ慣性移動しようとする乗員の身体がウェビング20Aにより拘束される。
【0060】
このような状態で、車両前方側へ慣性移動しようとする乗員の身体がウェビング20Aを引っ張ることで、スプール20に付与される引出方向Bへの回転力が、トーションシャフト32及びワイヤ40の機械的強度を上回ると、トーションシャフト32が捩じれるように塑性変形を開始して、回転が規制されたロックベース54に対し、スプール20が引出方向Bに回転を開始する。
【0061】
さらに、このようにロックベース54に対して、スプール20が引出方向Bに回転を開始すると、
図7(A)に示されるように、基端部42がピニオン52に保持された状態で、ワイヤ40の第3中間部46が収容孔29から抜け出る。
【0062】
このようにして、収容孔29から抜け出た第3中間部46は、収容孔29の開口縁29A(
図4参照)にしごかれると共に、外側部24の外周壁に圧接させられ、この外周壁に倣って湾曲させられ、ワイヤ40の第2中間部45及び第3中間部46が、外側部24に巻き付けられる。すなわち、ワイヤ40は、緊急時に変形されて、ウェビング20Aが引き出された際に、スプール20の外側部24に巻き付けられる。
【0063】
ここで、乗員によるウェビング20Aのスプール20からの引出荷重(スプール20の引出方向Bへの回転荷重)が、トーションシャフト32の耐捩れ荷重(第1フォースリミッタ荷重)と、一対のワイヤ40の耐変形荷重(第2フォースリミッタ荷重)との合計以上である際には、トーションシャフト32が捩れ変形されると共に、一対のワイヤ40が変形されて、スプール20のロックベース54及びピニオン52に対する引出方向Bへの回転が許容される。これにより、乗員の運動エネルギが、トーションシャフト32の捩れ変形及び一対のワイヤ40の変形によって吸収されて、乗員が保護される。
【0064】
スプール20がロックベース54に対して、更に引出方向Bに回転すると、
図7(B)に示されるように、基端部42がピニオン52に保持された状態で、ワイヤ40の先端部48が収容孔29から抜け出る。ワイヤ40の先端部48が収容孔29から抜け出て、ワイヤ40の第2中間部45及び第3中間部46がスプール20の外側部24に巻き付けられた際に、ワイヤ40の先端部48は、スロープ状に形成された逃げ部24Bの軸方向Dの一端側の端面によって案内される。
【0065】
また、この際、ワイヤ40は、ピニオン52に保持された基端部42を回転中心として、回転しようとする。そして、第2中間部45又は第3中間部46が、もう一方のワイヤ40の先端部48を、径方向に押圧する。この際、先端部48と内リブ26との間には、内リブ26が逃げ部24B側において巻付方向の内側に凹んで形成されることで生じたスペースが形成される。
【0066】
ここで、乗員によるウェビング20Aのスプール20からの引出荷重(スプール20の引出方向Bへの回転荷重)が、トーションシャフト32の耐捩れ荷重(第1フォースリミッタ荷重)以上である際には、トーションシャフト32が捩れ変形される。
【0067】
これにより、乗員の運動エネルギが、トーションシャフト32の捩れ変形によって吸収されて、乗員が保護される。
【0068】
すなわち、乗員の運動エネルギは、トーションシャフト32の捩れ変形及び一対のワイヤ40の変形によって吸収され、その後、トーションシャフト32の捩れ変形によって吸収されるように、2段階で吸収されて、乗員が保護される。
【0069】
[第1実施形態の作用]
次に、第1実施形態の作用を説明する。
【0070】
第1実施形態のウェビング巻取装置10は、ウェビング20Aを引き出し及び巻き取り可能なスプール20と、スプール20と対向するように配置され、緊急時に回転が阻止される回転体50と、を備えている。ウェビング巻取装置10は、基端部42が保持され、回転体50とスプール20との間に配置され、緊急時に変形されてウェビング20Aが引き出された際に、スプール20の内リブ26に巻き付けられるワイヤ40と、ワイヤ40が内リブ26に巻き付けられた際に、ワイヤ40の先端部48が逃げる逃げ部24Bと、を備えている。
【0071】
ところで、内リブ26に逃げ部24Bを備えない場合、ワイヤ40の先端部48がスプール20に収容された収容孔29から抜けると、ワイヤ40の先端部48の保持が解除され、ワイヤ40の先端部48がワイヤ40の先端部48が、内リブ26に強く押し付けられる。また、ワイヤ40の基端部42がスプール20に対して偏心した位置に保持されているため、ワイヤ40が内リブ26に巻き付けられると、ワイヤ40は、ピニオン52に保持された基端部42を回転中心として、巻付方向の内側に回転しようとするが、ワイヤ40の先端部48が内リブ26を避けきれない。さらに、引き抜かれたワイヤ40の先端部48が巻付方向の内側に屈曲していることからも、ワイヤ40の先端部48が、内リブ26に強く押し付けられる。ここで、ピアノ線によって形成されたワイヤ40は、アルミダイカストによって形成されたスプール20より、削られにくい。そのため、ワイヤ40の先端部48が内リブ26に強く押し付けられることで、スプール20の内リブ26が削られることになる。その結果、ワイヤ40によるフォースリミッタ荷重が一時的に上昇する。
【0072】
第1実施形態では、ワイヤ40が内リブ26に巻き付けられた際に、ワイヤ40の先端部48が逃げる逃げ部24Bを備えることで、ワイヤ40の先端部48によって、内リブ26が削られることが抑制される。そのため、ワイヤ40の巻き付け時に、ワイヤ40からスプール20に作用する荷重が一時的に上昇することが抑制される。その結果、ワイヤ40によるフォースリミッタ荷重の一時的な上昇を抑制することができる。
【0073】
第1実施形態のウェビング巻取装置10では、逃げ部24Bは、内リブ26にスロープ状に形成されている。
【0074】
逃げ部24Bが内リブ26にスロープ状に形成されることで、ワイヤ40が内リブ26に巻き付けられた際に、ワイヤ40の先端部48がスロープ状に形成された逃げ部24Bにガイド(案内)される。そのため、ワイヤ40の先端部48が内リブ26に強く押し付けられることが抑制される。その結果、ワイヤ40の先端部48によって、内リブ26が削られることが抑制される。そのため、大型化せずに、簡易な構成によって、ワイヤ40によるフォースリミッタ荷重の一時的な上昇を抑制することができる。
【0075】
第1実施形態のウェビング巻取装置10では、内リブ26は、逃げ部24B側において、巻付方向の内側に凹んで形成されている。
【0076】
内リブ26は、逃げ部24B側において、巻付方向の内側に凹んで形成されることで、巻付方向の内側に、ワイヤ40の先端部48が逃げるスペースが形成される。そのため、外側のワイヤ40によって、ワイヤ40の先端部48を、スプール20の径方向内側に押さえつける力が作用した際にも、巻付方向の内側に、ワイヤ40の先端部48が逃げるスペースが形成される。その結果、ワイヤ40の先端部48によって、内リブ26が削られることがより抑制される。そして、ワイヤ40の巻き付け時に、ワイヤ40からスプール20に作用する荷重が一時的に上昇することがより抑制される。その結果、ワイヤ40によるフォースリミッタ荷重の一時的な上昇をより抑制することができる。
【0077】
第1実施形態のウェビング巻取装置10では、逃げ部24Bは、ワイヤ40の先端部48が収容されているスプール20の収容孔29の近傍に形成されている。
【0078】
逃げ部24Bがスプール20の収容孔29の近傍に形成されることで、収容孔29からワイヤ40の先端部48が引き出された際に、ワイヤ40の先端部48が逃げ部24Bに逃げる。そのため、ワイヤ40の先端部48がスプール20の収容孔29から引き出された際に、ワイヤ40の先端部48によって、内リブ26が削られることが抑制される。その結果、ワイヤ40によるフォースリミッタ荷重の一時的な上昇を抑制することができる。
【0079】
第1実施形態のウェビング巻取装置10では、ワイヤ40は、2本設けられている。
【0080】
ワイヤ40が2本設けられることで、ワイヤ40の先端部48のスプール20の径方向外側への移動が、他のワイヤ40によって阻害される場合でも、当該先端部48が内リブ26を削ることを逃げ部24Bによって抑制できる。また、2本のワイヤ40に対して、フォースリミッタ荷重を作用させることができるので、高荷重の2段階のフォースリミッタ荷重を発生させるフォースリミッタ構造とすることができる。
【0081】
また、長いワイヤ40を使用することで、フォースリミッタ荷重が作用するストロークを長くすることができる。さらに、内リブ26の本体部24Aの幅が一定であり、逃げ部24Bの幅が巻付方向の内側に凹んでいるため、2本のワイヤ40が巻き付けられる際の形状が、楕円形状になることを抑制することができる。すなわち、2本のワイヤ40が巻き付けられる際の形状が、円形状を保つことができる。そのため、一時的なフォースリミッタ荷重の上昇を抑制することができる。
【0082】
〔第2実施形態〕
第2実施形態のウェビング巻取装置は、逃げ部の構成が異なる点で、第1実施形態のウェビング巻取装置と相違する。
【0083】
以下、第2実施形態のウェビング巻取装置の構成を説明する。なお、第1実施形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については、同一用語又は符号を用いて説明する。
【0084】
[ウェビング巻取装置の構成]
図8に示すように、巻付部を構成する内リブ126は、軸方向Dの一端側に突出するように、フランジ部22の内縁に形成されている。内リブ126は、円環状に形成されている。内リブ126は、内側部25と、外側部124と、で構成されている。
【0085】
外側部124は、2つの収容孔29を接続するように、内側部25の外側に2つ形成されている。外側部124の軸方向Dの高さは、略一定とすることができる。
【0086】
図8及び
図9(B)に示されるように、逃げ部128は、溝部28の底面から軸方向Dの他端側に凹んだ凹状に形成されている。逃げ部128は、収容孔29から巻取方向Aに延在するように設けられている。逃げ部128は、内側部25の径方向外側に設けられている。逃げ部128は、巻付部として構成される内リブ126に、ワイヤ40が径方向に重なって巻き付けられた際に、外側のワイヤ40に到達するまで、収容孔29から延在するように形成されている。すなわち、逃げ部128は、外側部124の周囲に凹状に形成されている。
【0087】
逃げ部128の巻取方向Aの長さは、先端部48の長さと略同じとすることができる。逃げ部128の軸方向の深さは、先端部48の最大直径程度に形成されている。逃げ部128は、収容孔29に繋がるように形成され、逃げ部128と収容孔29との間には開口縁29Aが形成されている。
【0088】
[フォースリミッタ機構の動作]
第2実施形態のウェビング巻取装置110では、基端部42がピニオン52に保持された状態で、ワイヤ40の先端部48が収容孔29から抜け出るまで、第1実施形態のウェビング巻取装置10と同様の動作をする。
【0089】
ワイヤ40の先端部48が収容孔29から抜け出て、ワイヤ40の第2中間部45及び第3中間部46がスプール20の外側部124に巻き付けられる。この際、
図9(A)及び
図9(B)に示されるように、ワイヤ40の先端部48は、逃げ部128に案内され、もう一方のワイヤ40の第2中間部45の軸方向Dの他端側に潜り込む。
【0090】
[第2実施形態の作用]
第2実施形態のウェビング巻取装置10では、逃げ部128は、スプール20の収容孔29の近傍であって、スプール20の軸方向Dに凹状に形成されている。
【0091】
逃げ部128が、スプール20の収容孔29の近傍に、スプール20の軸方向Dに凹状に形成されることで、ワイヤ40が内リブ126に巻き付けられて、収容孔29からワイヤ40の先端部48が抜けた際に、他のワイヤ40の第2中間部45によって、ワイヤ40の先端部48を抑え込むように作用する。すなわち、一方のワイヤ40の先端部48を、他方のワイヤ40の下に潜り込ませることができる。そのため、ワイヤ40の先端部48が内リブ126に強く押し付けられることが抑制される。その結果、ワイヤ40の先端部48によって、内リブ126が削られることが抑制される。そのため、簡易な構成によって、ワイヤ40によるフォースリミッタ荷重の一時的な上昇を抑制することができる。
【0092】
なお、他の構成及び作用効果については、上記第1実施形態と略同様であるので説明を省略する。
【0093】
以上、本発明のウェビング巻取装置を、上記各実施形態に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、これらの実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更などは許容される。また、第1実施形態の逃げ部24Bと、第2実施形態の逃げ部128とを組み合わせることもできる。
【0094】
上記各実施形態では、先端部48は、ワイヤ40の先端に向かって先細りした形状に形成されている例を示した。しかし、先端部は、この態様に限定されず、丸棒状に形成されてもよい。
【0095】
上記各実施形態では、ワイヤ40は、略クランク状に形成されている例を示した。しかし、ワイヤは、この態様に限定されず、例えば、真っ直ぐに伸びた棒状に形成することもできる。
【0096】
上記各実施形態では、収容孔29は、溝部28の径方向内側部分に形成されている例を示した。しかし、収容孔は、溝部28の径方向外側部分に形成されてもよいし、径方向中間部分に形成されてもよい。
【0097】
上記各実施形態では、2つのワイヤ40は、同一の長さで、同一形状とする例を示した。しかし、2つのワイヤは、異なる長さとしてもよい。これにより、乗員の運動エネルギは、トーションシャフト32の捩れ変形及び2つのワイヤ40の変形によって吸収され、その後、トーションシャフト32の捩れ変形及び1つのワイヤ40の変形によって吸収され、その後、トーションシャフト32の捩れ変形によって吸収されるように、3段階で吸収されて、乗員を保護することができる。また、2つのワイヤ40は、異なる直径とすることもできる。
【0098】
上記各実施形態では、スプール20にワイヤ40を2つ設ける例を示した。しかし、スプール20には、ワイヤ40を1つ設けても良いし、3つ以上設けてもよい。
【符号の説明】
【0099】
10・・・ウェビング巻取装置、20A・・・ウェビング、20・・・スプール、50・・・回転体、42・・・基端部、26・・・内リブ(巻付部の一例)、24B・・・逃げ部、29・・・収容孔