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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102722
(43)【公開日】2023-07-25
(54)【発明の名称】スポット空調システム
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/46 20180101AFI20230718BHJP
   F24F 11/74 20180101ALI20230718BHJP
   F24F 13/06 20060101ALI20230718BHJP
   F24F 11/62 20180101ALI20230718BHJP
【FI】
F24F11/46
F24F11/74
F24F13/06 C
F24F11/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003403
(22)【出願日】2022-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】513056204
【氏名又は名称】株式会社ミナミテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100149320
【弁理士】
【氏名又は名称】井川 浩文
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神鳥 雅吉
【テーマコード(参考)】
3L080
3L260
【Fターム(参考)】
3L080BD01
3L080BD04
3L260AA05
3L260AB07
3L260BA19
3L260BA41
3L260CA02
3L260CA07
3L260CB85
3L260EA07
3L260FA07
3L260FC06
(57)【要約】
【課題】 一括供給分岐方式のスポット空調装置を使用しつつ、作業者に対してのみ空調空気を供給し、結果的に消費電力量を低減させるスポット空調システムを提供する。
【解決手段】 空調管理エリア内で作業する者に装着され、特定の電波を発信する携帯型発信機と、複数の吹出口のそれぞれの近傍に設置され、携帯型発信機が発信する電波を受信する受信機と、複数の吹出口のそれぞれについて開閉を可能にするシャッタ部と、それぞれのシャッタ部を操作する操作部とを備える。複数の吹出口の近傍に設置される各受信機は、携帯型発信機が発信する電波の強弱を検出可能としており、シャッタ部を操作する各操作部は、受信機が検出した電波が予め定めた強度を超えるときに吹出口を開口させるようにシャッタ部を操作し、電波が予め定めた強度以下のときに吹出口を閉口させるようにシャッタ部を操作する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調に利用される空気を送気し、複数の吹出口から空調管理エリア内に個別に排出するスポット空調において、
前記複数の吹出口のそれぞれの近傍に1または複数設置され、前記空調管理エリア内で作業する者を検知する人感センサと、前記複数の吹出口のそれぞれについて開閉を可能にするシャッタ部と、それぞれのシャッタ部を操作する操作部とを備え、
前記シャッタ部を操作する各操作部は、1または複数の前記人感センサが検出する検出値が予め定めた強度を超えるときに前記吹出口を開口させるように該シャッタ部を操作し、該検出値が予め定めた強度以下のときに前記吹出口を閉口させるように該シャッタ部を操作するものであることを特徴とするスポット空調システム。
【請求項2】
空調に利用される空気を送気し、複数の吹出口から空調管理エリア内に個別に排出するスポット空調において、
前記空調管理エリア内で作業する者に装着され、特定の電波を発信する携帯型発信機と、前記複数の吹出口のそれぞれの近傍に設置され、前記携帯型発信機が発信する電波を受信する受信機と、前記複数の吹出口のそれぞれについて開閉を可能にするシャッタ部と、それぞれのシャッタ部を操作する操作部とを備え、
前記複数の吹出口の近傍に設置される各受信機は、携帯型発信機が発信する電波の強弱を検出可能としており、
前記シャッタ部を操作する各操作部は、前記受信機が検出した電波の強度に基づいて前記吹出口を開閉させるように該シャッタ部を操作するものであることを特徴とするスポット空調システム。
【請求項3】
前記受信機は、1以上の前記携帯型発信機が発信する電波を同時に受信するものであり、受信する電波の強さを個別に検知可能としている請求項2に記載のスポット空調システム。
【請求項4】
さらに、前記受信機によって受信される受信情報を処理する処理装置を備えており、前記処理装置は、複数の吹出口に設置される受信機ごとに受信する携帯型発信機の電波の強度を入力値とし、予め定めた強度を超えるとき前記吹出口を開口させる信号を前記操作部に出力し、予め定めた強度以下のとき前記吹出口を閉口させる信号を前記操作部に出力するものである請求項2または3に記載のスポット空調システム。
【請求項5】
前記処理装置は、複数の吹出口に設置される受信機ごとに受信する携帯型発信機ごとの電波の強度変化から携帯型発信機の位置の変化を演算するとともに、当該携帯型発信機の移動状態と時間情報に基づいて、空調管理エリア内で作業する者の移動の軌跡を演算し、該軌跡を記憶するものである請求項4に記載のスポット空調システム。
【請求項6】
さらに、コントローラを備えており、該コントローラは、前記処理装置が前記操作部に対して出力する出力情報の入力により負荷率を演算するとともに、演算結果に基づいて空調に利用される空気を送気する送気装置の出力を制御するものである請求項4または5に記載のスポット空調システム。
【請求項7】
さらに、空調装置と、コントローラとを備えており、該コントローラは、前記処理装置が前記操作部に対して出力する出力情報の入力により負荷率を演算するとともに、演算結果に基づいて前記空調装置の出力を制御するものである請求項4または5のいずれかに記載のスポット空調システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工場や農業用ハウス等の比較的大空間を有する建物内で作業その他の業務等に従事する者(以下、単に「作業する者」または「作業者」という場合がある。)に対して、局所的に空調空気を供給するスポット空調において、当該空調空気の供給状態を制御するスポット空調システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のスポット空調システムは、空調装置によって調整された空気を送気ダクトによって所定場所まで送気し、送気ダクトを分岐させて作業者に供給するような(一括供給分岐方式による)構成とされていた(特許文献1参照)。ところが、無駄な運転時間を有することから消費電力量が多くなるなどの問題点があったことから、消費電力量を軽減するための工夫がなされてきた。例えば、外気温が室内温度よりも低温である場合には、外気をそのまま供給させるように、両者に温度センサを設けて、その温度差に応じて切り替える構成とするものがあった(前掲の特許文献1参照)。また、夏季において、ミストを噴霧するノズルを設置し、ミストと冷風によって迅速に温度効果をさせる構成があった(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3-113224号公報
【特許文献2】特開2011-033221号公報
【特許文献3】特開平5-164380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前掲の特許文献1に開示される技術は、外気温が室内温度よりも低い場合に外気を取り入れるものであり、また、特許文献2に開示される技術はミストの気化によって温度の降下を利用するものであった。これらの技術は、空調された空気や外気などを特定の位置に吹き出させることを前提としており、送気ダクトの吹出口からは常に空調に利用される空気が供給されるものとなっていた。
【0005】
しかしながら、最近は、各種の自動化装置の発達により、一人の作業者が担当すべき作業の内容が変化し、継続的に同じ位置で作業する環境が変化しつつある。すなわち、自動化装置による作動状態を監視し、または人為的作業が必要な部分のみを作業者が作業することが多く、そのため、作業者は頻繁に移動し、また、その作業者の数も極めて減少傾向となっている。これは、機械的装置の組み立て工場に限らず、各種の製造現場においても同様であり、農業用ハウス内における農作業においても同様である。
【0006】
このような状況にあっては、比較的大空間を有する建物内において作業する者に対してのみ空調空気を供給するとしても、対人追従型スポット空調装置(特許文献3参照)のように、人感センサによって検知される作業者に対して局所的な空調空気を供給することが要求されるものとなっていた。ところが、この種の対人追従型のスポット空調装置は、建物内で複数の作業者が作業している環境下にあっては、作業者の数だけの空調装置を必要とすることから、全体として高価なものとならざるを得ないものとなっていた。
【0007】
本発明は、上記諸点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、従来の一括供給分岐方式による空調システムでありながら、作業者に対してのみ空調空気を供給し、結果的に消費電力量を低減させるスポット空調システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明のスポット空調システムは、空調に利用される空気を送気し、複数の吹出口から空調管理エリア内に個別に排出するスポット空調において、前記複数の吹出口のそれぞれの近傍に1または複数設置され、前記空調管理エリア内で作業する者を検知する人感センサと、前記複数の吹出口のそれぞれについて開閉を可能にするシャッタ部と、それぞれのシャッタ部を操作する操作部とを備え、前記シャッタ部を操作する各操作部は、1または複数の前記人感センサが検出する検出値が予め定めた強度を超えるときに前記吹出口を開口させるように該シャッタ部を操作し、該検出値が予め定めた強度以下のときに前記吹出口を閉口させるように該シャッタ部を操作するものであることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、空調空気(空調に利用される空気)を一括供給分岐方式により供給することを前提としつつ、個々の吹出口は、その近傍に作業者を検知した場合にのみシャッタ部の操作によって限定的に開口し、空調空気を特定の範囲に対してのみ供給することができる。このような構成の場合、人感センサとして、例えば、焦電素子を使用する焦電型赤外線センサとすることにより、作業者から発せられる赤外線による焦電素子の温度変化に応じて、近傍における作業者の存在を検出することができる。このとき焦電素子によって発生する電流値(または電圧値)の大きさに対して閾値を設けることにより、焦電型赤外線センサが検出する検出値の強度を設定し、それを超える場合には吹出口を開放させるように、また、設定強度以下の場合には吹出口を閉口させるようにシャッタ部を操作することが可能となる。なお、シャッタ部の操作には操作部としてアクチュエータを使用することができる。
【0010】
上記のような構成における個々の吹出口の近傍には、1または複数の人感センサが設置されることから、作業者を検知する範囲を適宜調整することができる。すなわち、空調管理エリアの状況に応じて、特定の方向(比較的限られた方向)における作業者の検出を要する場合は、1つの人感センサを特定の方向に向けて設置すればよく、広角的な方向(比較的広い方向)における作業者の検出が要求される場合は、異なる複数の方角に対して複数の人感センサを設置することとなる。
【0011】
また、本発明は、空調に利用される空気を送気し、複数の吹出口から空調管理エリア内に個別に排出するスポット空調において、前記空調管理エリア内で作業する者に装着され、特定の電波を発信する携帯型発信機と、前記複数の吹出口のそれぞれの近傍に設置され、前記携帯型発信機が発信する電波を受信する受信機と、前記複数の吹出口のそれぞれについて開閉を可能にするシャッタ部と、それぞれのシャッタ部を操作する操作部とを備え、前記複数の吹出口の近傍に設置される各受信機は、携帯型発信機が発信する電波の強弱を検出可能としており、前記シャッタ部を操作する各操作部は、前記受信機が検出した電波の強度に基づいて前記吹出口を開閉させるように該シャッタ部を操作するものであることを特徴とする。
【0012】
上記構成によれば、これまた空調空気を一括供給分岐方式により吹出口から排出することを前提としており、吹出口を開閉させることにより限定的な吹出口のみで空調空気を供給させることができる。すなわち、吹出口には受信機が設置されており、この受信機が、作業者に装着された携帯型発信機から発信される電波を受信して、その強弱の程度により作業者の存在を検知させるものであり、作業者が存在する場合にのみ受信機が設置されているところの吹出口を開口させることにより、当該作業者に対して空調空気を供給できるものである。
【0013】
ここで、前記携帯型発信機には、特定周波数帯域の電波を低い出力により間欠発信させる小型の発信機とすれば、前記空調管理エリア内で作業する者の携行品に装着されるものとすることができるこのように、作業者が作業において使用し、または身に付けるべき携行品に小型の発信機を装着することにより、発信機の装着忘れによる空調不全を解消することができる。ここで、携行品としては、例えば、ヘルメットや制服または作業用ベルトなどを選択することができる。また、農作業を行う者の場合には、農業用作業着や作業器具などを選択することができる。
【0014】
上記構成の発明において、前記受信機は、1以上の前記携帯型発信機が発信する電波を同時に受信するものであり、受信する電波の強さを個別に検知可能とするような構成とすることができる。
【0015】
上記構成の場合には、複数の作業者が接近して作業する場合であっても、作業者ごとの位置情報(距離情報)を得ることができることから、個々の発信機から発信される電波の強弱のみによって吹出口の開閉を操作することができ、複数の発信機による電波の強度を合算することによる誤操作を防止することができる。この場合、個々の発信機には個別のIDを付与することとなる。当該発信機にIDが付与されることにより、発信される電波を個別に受信させ、その電波の強弱を検知させることが可能となる。
【0016】
なお、吹出口は、空調管理エリア内に適宜な間隔で設けることができ、空調管理エリアを移動する作業者の移動可能な範囲に多数の吹出口を設置し、その相互間距離を長短調整することにより、空調管理エリアの状況に応じて空調空気を良好に供給させることができる。すなわち、隣接する複数の吹出口の中間において作業者が作業する場合には、隣接する複数の吹出口を同時に開口して、作業者に対して複数の吹出口から空調空気を供給し、また、特定の1つの吹出口の近傍で作業する場合には、当該1つの吹出口みを開口させて、その吹出口による空調空気を供給することができる。これにより、必要最低限の吹出口から供給される空調空気によって作業者の作業環境を好適に維持させることができるものとなる。
【0017】
上記における携帯型発信機を用いる構成の発明においては、さらに、前記受信機によって受信される受信情報を処理する処理装置を備えるものとし、前記処理装置が、複数の吹出口に設置される受信機ごとに受信する携帯型発信機の電波の強度を入力値とし、予め定めた強度を超えるとき前記吹出口を開口させる信号を前記操作部に出力し、予め定めた強度以下のとき前記吹出口を閉口させる信号を前記操作部に出力する構成とすることができる。
【0018】
上記構成によれば、処理装置によって、個々の吹出口近傍に設けられる受信機による受信情報(電波強度やIDなどの情報)を処理させることができる。この処理装置による処理のうち、操作部に対するシャッタ部の操作(吹出口の開閉操作)の判断を処理させることにより、個々の受信機または操作部が個別に受信電波の強弱について閾値を設けることなく一括管理が可能となる。すなわち、受信機は受信した電波の強度(感度)を出力電流(または出力電圧)として処理装置に入力することにより、その電流値(または電圧値)を入力値として強弱を判定し、受信電波の強度の閾値と比較したうえで操作部に対する操作信号を出力できることとなる。
【0019】
この場合、設置される受信機(受信機が設置される吹出口)の位置情報および操作部の位置情報が処理装置によって整合されるものとなっており、受信機ごとに入力される電波強度の入力値に基づき、当該受信機が設置されている吹出口の開閉を操作させるべき操作部に対して所望の操作信号を出力させることができる。なお、個々の受信機から出力される情報には、受信機による他の受信情報が含まれることから、携帯型発信機のIDを同時に処理装置へ出力することで、携帯型発信機ごとの情報として処理装置による処理が可能となる。
【0020】
このような構成の発明の場合、前記処理装置は、複数の吹出口に設置される受信機ごとに受信する携帯型発信機ごとの電波の強度変化から携帯型発信機の位置の変化を演算するとともに、当該携帯型発信機の移動状態と時間情報に基づいて、空調管理エリア内で作業する者の移動の軌跡を演算し、該軌跡を記憶するように構成してもよい。
【0021】
上記構成によれば、処理装置が吹出口の開閉を判断するために取得した受信機の受信情報に基づき、受信機の位置、受信された電波の強度変化および発信される電波の発信元となる携帯型発信機の位置変化を演算することができ、この演算結果と時間情報(時刻)とを関連付けることにより、携帯型発信機を携帯する作業者の移動の軌跡を演算することが可能となる。
【0022】
このような構成の場合には、本来的には、作業者の移動の状況に応じて作業者の作業範囲を検出し、空調管理エリアまたは作業エリアの設定に利用するものであるが、同時に、位置を時間情報(時刻)に関連付けることにより、時間的な位置の変動を移動として検出することが可能となり、これを管理期間中の全範囲で検出することによって作業者の移動軌跡を得ることができる。この移動軌跡を一定の期間中記録する(例えば記憶手段により記憶させる)ことで、作業者の移動状況(行動パターン)として解析可能となり、作業能率や作業者の動線の改善などにも利用することも可能となる。
【0023】
上記のような構成の各発明においては、コントローラを備える構成とし、該コントローラは、前記処理装置が前記操作部に対して出力する出力情報の入力により負荷率を演算するとともに、演算結果に基づいて空調に利用される空気を送気する送気装置の出力を制御するように構成してもよい。また、さらに空調装置を備え、空調に利用される空気が温度調整された後の冷風または温風とするものであってもよい。
【0024】
このような構成の場合には、コントローラに対し、制御装置から出力される出力情報(例えば開口信号を出力している総数)を入力値とすることによって、吹出口から空調管理エリアに対して供給される空調空気の供給総量を算出し、この空調空気の供給総量から負荷率を算出したうえ、送気装置または空調装置(以下、空調装置等と称する場合がある)を制御して低負荷運転させることができる。ここで、負荷率とは、空調装置等の供給能力に対する需要量の割合を示すものである。従って、ある期間(例えば、10分または1時間など)ごとに算出した場合の負荷率が低い場合には、空調装置等が不必要に稼働していることであるから、その出力(消費電力)を抑えるものとし、逆に負荷率が高い場合には、空調装置等の稼働状況に余裕がないことであるから、出力(消費電力)を上げて適正な空調空気を供給させることができる。なお、空調装置等の出力制御は、専ら送気のための送気ファンのほか、室外機の圧縮機または冷却ファンなどの稼働状態を制御するものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、一括供給分岐方式によるスポット空調装置を前提とし、送気される空調空気を分岐された末端の吹出口から作業者に供給するものであり、当該吹出口の開閉を操作し、特に作業者が存在する場所に限定して吹出口を開口させることによって、そのような作業者に対してのみ空調空気を供給することができるものとなる。このように空調空気の供給を限定的なものとすることにより、供給すべき空調空気を削減することができることから、空調装置を小型化または省力化させることができ、その結果として消費電力量を低減させる。
【0026】
特に、空調装置にコントローラを設ける構成のスポット空調システムにあっては、負荷率を算出したうえで、その負荷率に応じて装置の出力を加減することが可能となるから、同一出力の空調装置を設置する場合であっても、さらに消費電力の削減を可能とするものとなる。
【0027】
また、本発明に係るスポット空調システムは、本来的には、作業者の移動の状況に応じて作業者の位置を検出するものであるが、副次的に、作業者の移動軌跡を得ることができることから、作業者が一定期間内(例えば終日)における移動距離などを解析することによって、作業者の移動状況(行動パターン)を得ることができ、作業者の作業能率を評価することに利用でき、また、作業者の動線の改善などに利用することができる効果をも有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】スポット空調システムの全体構成を示す説明図である。
図2】第1の実施形態の構成を示す説明図である。
図3】吹出口の周辺におけるシャッタ構造を示す説明図である。
図4】焦電型赤外線センサによる検知エリアを示す説明図である。
図5】第2の実施形態の構成を示す説明図である。
図6】第3の実施形態における処理装置の構成を示す説明図である。
図7】第4の実施形態におけるコントローラの構成を示す説明図である。
図8】実施形態の使用態様を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
<全体構成>
図1は、本発明に係るスポット空調システムを導入した場合の工場内の状態を例示するイメージ図である。イメージ図であるため、工場内のラインの数や配置、加工装置類等を適当に配置したものとしている。この図に例示されるように、例えば、スポット空調システムは、工場Aの内部に設置される作業ラインB1,B2の上方に空調空気を一括供給するための送気ダクト1が配置され、この送気ダクト1から分岐する分岐ダクト2の末端に吹出口3が設けられるものである。空調のための装置(空調装置)4は、送風機能のみを有する送気装置でもよいが、ここではエアコンディショナを例示している。そのため、室内機41と室外機42で構成されるものとしている。室内機41は空調空気を供給するための送気ファンを有するものであって、送気ダクト1が接続されることにより所定の吹出口3に空調空気を供給するものであり、室外機42は熱交換のための圧縮機とファンを有する。
【0030】
このような構成のスポット空調システムは、一括供給分岐方式であり、工場Aの内部の全体的を空調するものではなく、空調管理エリア(ここでは工場Aの内部全体)において、その一部に空調空気を送気して局所的な空調管理を行うものである。なお、図では、送気ダクト1および分岐ダクト2を作業ラインB1,B2の上方に配置し、吹出口3は下向きに空調空気を排出させるものを例示しているが、送気ダクト1を床面に配設して横方向または上方へ向かって分岐する分岐ダクト2を設け、吹出口から横向きまたは上向きに空調空気を排出させる場合もあり得る。
【0031】
<第1の実施形態>
本発明の第1の実施形態は、図1に示すイメージ図のように、一括供給分岐方式としつつ、吹出口3の開閉を管理することにより、必要な吹出口3から空調空気を供給し、不要な吹出口3からの空調空気の供給を停止させるものである。必要な吹出口3とは、周辺に作業者X,Yが作業している当該吹出口3であり、不要な吹出口3とは、周辺に作業者X,Yが作業していない当該吹出口3である。以下、図2を参照しつつ説明する。
【0032】
図2は、上記イメージ図に示した構成を部分的に省略しつつ簡略化したものであり、図2(a)は、1列分の作業ラインBにおける側面視の状態、図2(b)は、平面視の状態を示す。なお、図中の網掛け領域には空調空気が流通している部分を表すものとしている。ここでは空調管理エリアEを作業ラインBが一列とした場合のスペースとし、作業者は3人(X,Y,Zとして示す)を例示し、また、送気ダクト1は上方に配置し、吹出口3を下向きに開口したものを例示している。
【0033】
図2(a)に示しているように、本実施形態は、空調空気を一括して送気し、適宜場所で分岐させて空調空気を供給するものであるから、空調装置4の室内機41に連結された送気ダクト1によって空調空気を送気し、分岐ダクト21,22・・・25(図は5箇所分岐を例示)に分岐させ、複数の吹出口31,32・・・35(図は5個を例示)において排出させる構造となっている。なお、空調空気が温度調整を行わない場合は、室内機41は送風装置単体が設置されることとなる。
【0034】
各吹出口31,32・・・35の先端近傍には人感センサとして機能する焦電型赤外線センサ51,52・・・55が設けられている。この焦電型赤外線センサ51~55は、作業者X,Y,Zが作業を行うであろう地点に向けて設置されており、当該センサ51~55が有するFOV(視野角)に応じて広角的に作業者X,Y,Zを検知する。このとき、焦電型赤外線センサ51~55は、焦電素子を有しており、人から発せられる赤外線によって焦電素子の温度が変化し、焦電体の表面電荷に出現により焦電流を検出することができるものである。そのため、各焦電型赤外線センサ51~55は、それぞれが個別に、作業者X,Y,Zから発せられる赤外線を受けることができ、焦電素子の温度が変化した場合に作業者X,Y,Zの存在を検出するものである。また、焦電型赤外線センサ51~55に使用される焦電素子は、焦電効果によって発生する焦電流の電流値(または焦電流の電圧値)を検出値とするため、その検出値の大きさに対して特定の閾値を設けることにより、焦電型赤外線センサが検出する検出値の強度を設定することができる。従って、予め所定の閾値を設定することにより、それを超える場合には、作業者X,Y,Zが接近した場所に存在するものとして、その位置の吹出口31~35を開放させ、それ以下の場合には、作業者X,Y,Zが存在しないものとして、その位置の吹出口31~35を閉口させるのである。このときの吹出口31~35の操作は、後述するように、シャッタ部を稼働させることによることとなる。
【0035】
ところで、図2(b)に示すように、分岐ダクト2は、単一の送気ダクト1の両側において分岐させる構成とすることができる。すなわち、作業者X,Y,Zは、作業ラインBの両側に分かれて作業することが一般的と考えられることから、作業ラインBの上方に送気ダクト1を配置する場合には、当該作業ラインBの長手方向に沿った状態で中央に配置し、その両側に分岐する分岐ダクト21a,21b,・・・25bを設け、個々の先端に吹出口31a,31b,・・・35bを設けるのである。
【0036】
このように構成される吹出口31a~35bの先端近傍には、それぞれ上記のような焦電型赤外線センサ51a,51b,・・・55bが設置されることから、作業者X,Y,Zが作業ラインBの両側において移動する範囲を網羅的に検出することが可能となる。そして、この図2(b)に示されているように、個々の焦電型赤外線センサ51a~55bのFOV(視野角)の範囲内における作業者X,Y,Zが接近した場所の焦電型赤外線センサ51a~55bが当該作業者X,Y,Zを検知したとき、吹出口31a~35bが開口する。
【0037】
この図の例では、焦電型赤外線センサ51bが作業者Xを検知し、焦電型赤外線センサ52aが作業者Yを検知し、焦電型赤外線センサ54aが作業者Zを検知している。その結果、吹出口31a~35bのうち、3つの吹出口31b,32a,34aのみが開口し、その他の吹出口は閉口した状態が維持されるものとなる。
【0038】
ここで、吹出口3を開閉するシャッタ部について説明する。図3は、分岐ダクト2の末端に設けられる吹出口3の周辺を例示するものである。この図に示される形態は、分岐ダクト2と、吹出口(吹出口として機能するパイプ部材)3との間に、中間設置型のシャッタ構造体6を設けた構成としている。このシャッタ構造体6は、パイプ状に形成された本体部60の内部において、円形板状のシャッタ部61を回転させる構成とするものである。この例示では、シャッタ部61の円形板状が、本体部60のパイプの内径と略同外径かつ略同形状としており、このシャッタ部61が回転軸62を中心に回転可能となっている。円形板状のシャッタ部61の表面が本体部60の中心線に平行となっている状態(図示の状態)において開口状態となり、当該表面が本体部60の中心線に対して直交させる状態において、閉口状態となるものである。
【0039】
このシャッタ部61を回転させる回転軸62は、本体部60の外側に付設される操作部7によって操作されるものである。この操作部7の内部には、前記回転軸62を回転させるためのアクチュエータ(モータ)71と、そのモータ71のON・OFFを操作する電磁スイッチ72を有するものとなっている。従って、この電磁スイッチ72のON・OFFにより、回転軸62が回転駆動し、シャッタ部61を回転させ、吹出口3を開口させるものである。電磁スイッチ72は、シャッタ部61の回転を円滑にするため、チャタリングを防止するための遅延処理が可能な構造とすることが好ましく、オンディレイタイマを実装するなどによってチャタリングを防止させることができる。この場合オンディレイタイマの設定時間を0.1秒~0.5秒の範囲とすることで、0.5秒以内に開閉作動を開始させることが可能となる。なお、シャッタ部61は、回転軸62に回転駆動を作用させない状態(電磁スイッチ72がOFFの状態)において、吹出口3を閉口させるために、例えば、回転軸62に捻りコイルバネ等を使用して閉口状態に付勢するように構成することができる。閉口のための駆動(開閉の両駆動)をモータ71の正逆回転による場合には、電磁スイッチ72を切り替えスイッチとし、別途リレーによって操作させるように構成してもよい。
【0040】
また、吹出口3の先端外部には、焦電型赤外線センサ5が設置されており、この焦電型赤外線センサ5の検出値の大きさに応じて、操作部7に設けられる電磁スイッチ72のON・OFFを決定するものとなっている。すなわち、前記のとおり、焦電型赤外線センサ5によって、作業者を検知するとき、その検出値が閾値を超える場合に、所定の電圧を出力し、電磁スイッチ72を作動させる(ON状態にする)ことを可能とするものである。従って、焦電型赤外線センサ5による検出値が閾値より小さい場合には、検出値として定格の電圧を出力せず、電磁スイッチ72は作動しない(OFFの状態が維持される)こととなる。なお、モータ71の作動には電源を要するが、ここでは電源供給を省略して説明している。
【0041】
このような構成の場合には、図4に示すように、個々の焦電型赤外線センサ5によって検出できる領域に応じて予め設置間隔および検知方向などを調整しておくこととなる。すなわち、焦電型赤外線センサ5のFOV(視野角α)を調整できる場合はともかくとして、一般的には、焦電素子の設置状態に応じてFOV(視野角α)は個別に決定されている。
【0042】
そこで、吹出口3から供給される方向を中心として、その中心近傍における作業者を検知する場合には、図4(a)に示すように、焦電型赤外線センサ5の向きを吹出口3の軸線方向Fに沿って設置することとなる。これにより、焦電型赤外線センサ5のFOV(視野角α)は吹出口雄3の軸線Fを中心に左右対称に配置することができる。
【0043】
上記に対し、広角的(吹出口3の両側)における作業者をも検知する場合には、図4(b)に示すように、同じ複数(図は2個)のセンサ5の向きを吹出口3の軸線方向Fを中心に相互に有角的に設置することで対応させることができる。このように、複数の焦電型赤外線センサ5のFOV(視野角α)によって、異なる方角を検知させることで、広角な検知エリアβに対応させることができる。
【0044】
なお、図4(a)のように、単一の焦電型赤外線センサ5を設置する形態としては、隣接する位置にも同様の構造を有する吹出口3が存在する場合が想定され、図4(b)のように複数の焦電型赤外線センサ5を設置する形態としては、隣接する両側(またはいずれか一方)に同様の構造を有する吹出口3が存在しない場合(作業ラインの末端など)が想定される。
【0045】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。本実施形態は、前述の第1の実施形態を変形したものである。図5は、第1の実施形態を示す図2を基準として、本実施形態において変形した部分を示す図である。
【0046】
図5に示すように、本実施形態は、第1の実施形態における人感センサ(焦電型赤外線センサ)51,52・・・55に代えて、受信機を設置するとともに、個々の作業者X,Y,Zに携帯型発信機50を携行させる構成としたものである。携帯型発信機50は、特定周波数帯域の電波を低い出力により間欠発信させることにより小型化が可能となり、作業者X,Y,Zは、作業に支障のない範囲で発信機50を携行することができるものとなる。作業者X,Y,Zによる携行は、例えば、ヘルメットに固定する方法のほか、個々の名札(認証カード等)に固定する方法などがある。
【0047】
ところで、本実施形態においては、発信機50と受信機51~55の関係は、第1の実施形態における人感センサ(焦電型赤外線センサ)51~55と作業者X,Y,Zとの関係に近似している。すなわち、受信機51~55は、FOV(視野角)を有していないが、全方位からの電波を受信できることから、発信機50から発せられる電波を受信することができる。そして、その受信する電波の強弱によって発信機50(すなわち作業者X,Y,Z)との距離を検出することができるのである。
【0048】
携帯型発信機50に使用される電波は、任意の周波数帯を使用することができる。例えば、Bluetooth(登録商標)などにおいて使用される2.4GHzを使用するほか、920MHzや8.5GHz~9.5GHzの超広帯域の電波を使用してもよい。出力は1db~8dbの範囲としてよいが、これには限定されない。受信機51~55によって受信される電波強度が判別できる程度に出力を調整すればよいものである。受信する電波強度が判別されれば、その強度に応じて操作部7を操作させるように構成することができる。なお、シャッタ構造体6および操作部7の構成は第1の実施形態と同様とすることができる。
【0049】
そこで、受信機51~55は、送気ダクト1から分岐される分岐ダクト21~25の末端に形成されている吹出口31~35のそれぞれ近傍に設置することにより、発信機50から発せられる電波を個々の発信機51~55が受信可能となる。そして、受信機51~55のうち、いずれかにおいて強く電波を受信するとき、発信機50(作業者X,Y,Z)が近くに存在していることを検知できることとなり、当該電波を受信した位置の吹出口31~35を開口させることで局所的な空調が可能となるのである。このとき、受信電波の強さに対する閾値を設けることにより、個々の吹出口31~35のいずれを開口させるかを決定することができる。
【0050】
例えば、図5(b)に示すように、作業ラインBの両側に3人の作業者X,Y,Zが作業する場合において、作業ラインBの一方の側で作業する作業者Y,Zは、それぞれ吹出口32a,34aの近くで受信機50を携行して作業しているため、受信機52a,54aが、発信機50からの強い電波を受信し、当該吹出口32a,34aを開口させるものとなる。また、作業ラインBの他方の側で作業する作業者Xは、2つの吹出口31b,32bの中間的な位置で作業しており、双方の受信機51b,52bにおいて受信される状態であるため、双方の吹出口31b,32bを開口して空調を実施させることとなる。
【0051】
<第3の実施形態>
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。本実施形態は、上記第2の実施形態を発展的に変更したものであって、図5(a)に示す個々の受信機51~55(図5(b)では受信機51a~55b)による受信データを処理装置により処理し、操作部7に対する操作信号の出力によって吹出口31~35(31a~35b)の開閉を操作するものである。このような処理装置による処理の構成を図6に示す。
【0052】
この図6に示すように、処理装置8は、入力部81、記憶部82、処理部(演算部)83および出力部84を備える構成としている。入力部81には、各吹出口に設置した複数の受信機5~5の位置情報と受信情報とが入力され、処理後の制御信号が、出力部84を介して再び個々の受信機5~5に返送される。入力された受信情報は、記憶部82に記されるとともに、処理部(演算部)83に入力され、受信電波の強度に対する閾値との比較により吹出口の開閉(操作部の作動)が判断される。受信電波の強度に対する閾値は、予め決定されたものが記憶部に記憶されており、これを読み出したうえで入力情報と比較される。なお、処理部(演算部)83では、受信機5~5から信号が入力された場合に実行されるものであり、受信機5~5が電波を受信しない場合は、入力信号がないものとして処理を実行せず、入力される個別の受信機5~5に対してのみ実行される。発信機50は電波を間欠発信するタイプを使用する場合、受信機5~5が電波を間欠的に受信するタイミングで処理装置8に入力されることとなる。
【0053】
ここで、複数の受信機5~5には、第1番目の受信機5から第n番目の5として個別の番号が割り振られ、個々の番号ごとに情報が処理され、同じ番号の受信機5~5に対して個別に制御信号を出力する。受信機5~5は、個々の受信機5~5が設置される吹出口の近傍において開閉を操作する操作部7~7に直結されており、受信機5~5が受信した制御信号を、そのまま操作部7~7に出力させるものとしている。このように、処理装置8は個別の受信機5~5ごとに信号を入出力することにより、特定の受信情報に基づく制御信号を個別に出力でき、出力された制御信号によって、受信機5~5に直結された操作部7~7のみを操作することとなるため、吹出口ごとに開閉を操作することができるものとなる。
【0054】
さらに、電波を発信させる発信機50~50は、第1番目から第m番目について個別にID等によって識別可能なものを使用してよい。個別に識別可能な発信機50~50から発せられる電波が受信機5~5によって受信される際には、個々のID等ごとの発信電波として受信され、電波を受信した受信機5~5は、当該ID等の情報とともにその強度を処理装置8に出力することとなる。
【0055】
このような構成の場合には、受信機5~5において発信機50~50の電波を受信するとき、その発信元を特定することができ、特定された発信元データが処理装置8に入力されると、記憶部82によって入力時の時間情報とともに記憶させることができる。この発信元情報、受信機情報および時間情報を総合的に処理することにより、発信元の発信機50~50を携帯する作業者における移動の状態を検出することが可能となる。さらに作業者ごとの移動の状態を総合することにより、作業者の移動状況(行動パターン)として解析可能となり、空調管理エリア内における作業能率や作業者の動線の改善などにも利用することも可能となる。
【0056】
他方、個々の受信機5~5に対する判断後の制御信号は、出力部84を介して出力されるとともに、記憶部82に記憶させることにより、吹出口の開閉の状態を蓄積させることができる。この蓄積されたデータを定期的に読み出すことにより、空調管理エリア内における空調状態を検出することができる。すなわち、吹出口が開口する数と時間によって、空調管理エリア内に供給されている空調空気の全体量を算出することができる。このような空調空気の供給量は、作業者人数や作業場所の集中・分散の程度などによって変化するため、その変化量に応じて空調装置4の運転状態をコントロールさせることができる。そのための情報をコントローラ9に出力させる構成としてもよい。
【0057】
<第4の実施形態>
次に、第4の実施形態について説明する。本実施形態は、前述の第3の実施形態にコントローラ9を付加する構成である。コントローラ9は、空調装置4の運転状態をコントロールするものであり、空調装置4は、前述のとおり、送風機能のみを有する装置の場合もあるが、前掲の例示のように室内機41および室外機42によって温度調整されるエアコンディショナとする場合がある。ここでは特に特定しないものとする。
【0058】
図7に示すように、本実施形態は、空調装置4を制御するための運転制御コントローラ9を備える構成である。この運転制御コントローラ9は、入力部91を備え、前述(第3の実施形態)の処理装置8によって処理された情報が入力されるものである。入力される情報としては、専ら所定時間内における空調空気の供給量に関する情報である。所定時間とは、分単位または数十分単位など任意に設定される時間であり、当該所定時間中に開口させた吹出口の数と時間によって算出される総開口時間数によって空調空気の供給量が換算される。
【0059】
運転制御コントローラ9に入力された情報は、処理部(演算部)92に入力され、空調装置4の装置出力が判断され、出力部93を介して制御信号を空調装置4に出力する。すなわち、処理装置8によって算出される空調空値の供給量から空調装置4の負荷率をさらに算出し、所望の負荷率となるように、空調装置4の装置出力を変更するための制御信号を出力する。
【0060】
ここで、負荷率とは、空調装置4の供給能力に対する需要量の割合を示すものである。負荷率は、概ね75%~100%の範囲で任意に設定することができるものとし、設定値としては、空調空気の供給量に対する余裕を考慮して、例えば、80%とすることができる。このような設定値により、所定時間(例えば、10分間)ごとの空調空気の需要量(総供給量など)を算出し、供給能力に対する割合として算出して負荷率を演算するとき、その負荷率が75%であった場合には、需要量よりも供給能力が大きい状態であるから、装置出力を抑えるような制御信号を出力する。これにより負荷率を80%となるように供給能力を低下させることができる。他方、負荷率が90%を超える場合には、供給能力を上昇させるために装置出力を増大させるような制御信号を出力するのである。
【0061】
なお、空調装置4がエアコンディショナである(室内機41および室外機42を有する)場合には、当然のことながら需要量は、空調空気の設定温度によっても左右されるから、負荷率を算出する際の需要量には、空調空気を設定温度に調整するためのエネルギと供給すべき総供給量などによって算出されるものである。このとき、室外機42に対する出力制御としては、専ら圧縮機もしくはファンまたはその双方の稼働の状態を制御するものとなる。
【0062】
このように、空調空気の供給量の多寡に応じて、適宜適正な負荷率による空調装置4の運転状態を制御することができることから、過大な装置出力による運転を回避し、よって消費電力を必要な最低限の状態で維持させることができるものとなる。
【0063】
<使用態様>
次に、上記実施形態の使用態様について説明する。図8は、図1に示したイメージ図を簡略化しつつ平面視における状態を示す図である。なお、空調装置4は、空調管理エリアEの両側に配置するものに変形している。また、図中の網掛け領域には空調空気が流通しているものとしている。この使用形態では、例えば、図8(a)に示すように、正方形の部屋(空調管理エリアE)内において、2本の作業ラインB1,B2が設けられることを仮定する。このような空調管理エリアEの中には、合計6人の作業者X1~X3,Y1~Y3が、各ラインB1,B2に各3人配置され、作業していることを想定している。作業者X1~X3,Y1~Y3の検知には、人感センサ(焦電型赤外線センサ)を使用する場合(第1の実施形態)であってもよく、送受信機を使用する場合(第2~第4の実施形態)であってもよい。
【0064】
この図8(a)に示されるように、各ラインB1,B2ごとに、個別の空調装置(送風装置)4から空調空気が供給され、送気ダクト1a,1bによってラインB1,B2の長手方向へ送気される。この送気ダクト1a,1bには、それぞれ分岐ダクト2a1,・・・2a10,2b1,・・・2b10が対象に配置され、これらの分岐ダクト2a1~2b10の末端には、それぞれ吹出口3a1~3b10が開閉可能に設けられている。吹出口3a1~3b10の開閉には、電動シャッタによるものとし、この電動シャッタの作動により吹出口3a1~3b10の開閉を行うものとしている。
【0065】
上記のような構成の場合、例えば、第1の作業ラインB1で作業する作業者X1~X3のうち、第1の作業者X1は、第1の吹出口3a1と第2の吹出口3a2の中間で作業する者であるが、第2の吹出口3a2に近く、第2の吹出口3a2に設置する人感センサまたは受信機が閾値を超えて、その存在を検知することとなり得ることから第1の作業者X1に対しては、第2の吹出口3a2のみが開口して空調空気を供給することとなる。
【0066】
同様に第2の作業者X2は、第4の吹出口3a4に設置する人感センサまたは受信機によって検知され、当該吹出口3a4のみを開口させ、第3の作業者X3は第6の吹出口3a6が開口する。第2の作業ラインB2で作業する作業者Y1~Y3についても同様である。
【0067】
ここで、第2の作業ラインB2で作業する第2の作業者Y2のように、第7の吹出3b7と第8の吹出口3b8の中間に位置するような場合には、双方の人感センサまたは受信機による検出値がいずれも閾値を超えた状態となる場合がある。このような場合には、双方の吹出口3b7,3b8を開口させるこことで当該作業者Y2に対して好適な空調空気の供給が可能となる。なお、空調空気の供給量が中間的位置まで到達できる場合であって、処理装置8を有する構成(第3または第4の実施形態)であれば、いずれか一方のみを選択するように、例えば、空調装置4に近い側を優先するように、予め設定しておくことにより、単一の吹出口(上記例示の場合は3b7)のみを開口させてもよい。
【0068】
図8(a)の例示は、空調管理エリアEは1辺の長さを20mとする場合を想定した場合において、個々の吹出口3a1~3a10,3b1~3b10で隣接する相互の間隔を約4mに配置したものを想定している。このような場合には、作業者X1~X3,Y1~Y3は、個々の吹出口3a1~3a10,3b1~3b10の中間的な位置で作業する可能性が高くなるため、稀なケースとして、各作業者X1~X3,Y1~Y3の全員が、その両側2箇所の吹出口から空調空気の供給を受ける場合も想定される。
【0069】
そこで、図8(b)に示すように、相互の吹出口3a1~3a10,3b1~3b10の中間にも追加的な吹出口3c1,3c2,・・・,3c8,3d1,3d2,・・・,3d8を設けることにより、隣接する相互間の間隔を2m程度とすることができる。このように間隔を縮小する場合には、図示のように、作業者X1~X3,Y1~Y3は、いずれかの吹出口の近傍で作業することとなり、いずれか単一の吹出口のみから空調空気の供給を受けることが可能となる。なお、このような吹出口の間隔は、上記の数値に制限されるものではなく、空調管理エリアEの広さ、作業等の内容、作業員の数などを総合的に考慮して適宜任意に設定することが可能である。
【0070】
ここで、上記の使用態様におけるスポット空調システムにおける空調効率について概略説明する。図8(a)に示すような空調管理エリアEにおいて空調管理を行う場合を想定すると、この場合、1辺の長さを20mとする部屋(空調管理エリアE)の中において、その全体を空調するとする場合には、当該空調管理エリアEに対する空調効率(冷房効率)は、床面積400mに対し、必要冷房能力120kW(熱負荷300W/m)以上となり、空調装置の選定に際しては44馬力となる。このように、400mの部屋で作業する6人の作業者X1~X3,Y1~Y3のための空調としては大容量となってしまう。
【0071】
これに対し、スポット空調を採用する場合には、図8(a)のように適宜間隔で10箇所の吹出口3a1~3a10を設けることを想定すると、全ての吹出口3から毎分約15m(吹出口径200mm(断面積0.0314m)、風速8m/sとする)の空調空気を供給する場合、総吹出能力は、1ライン(10個の吹出口)当たり毎分150m以上を要し、空調装置は20馬力を選定する必要があり、2ラインでは、合計40馬力の空調装置を必要とする。
【0072】
上記の両空調効率に対し、限られた吹出口のみから空調空気を供給することを想定する場合、各吹出口から供給されるべき空調空気の容量は、前記と同じ毎分約15mとすると、1ラインで3箇所の吹出口を選択できれば、合計の供給容量は毎分約45mとなるから、空調装置は5馬力を選定でき、2ラインでも10馬力の空調装置によって空調することができることとなる。
【0073】
上記のような空調効率に係る計算よれば、使用すべき空調装置は、その出力において44馬力から10馬力へ約1/4の小型化を可能にする。このような小型の空調装置を使用することから、消費電力量を低減できることは明らかである。
【0074】
<まとめ>
上記実施形態に例示したように、本発明では、一括供給分岐方式によるスポット空調装置によって分岐された末端の吹出口から空調空気を作業者に供給するものであるから、空調エリア全体の温度管理を行う場合に比較して消費電力の低減を可能にすることができる。さらに、作業者が存在する場所に限定して吹出口を開口させることから、スポット空調装置から放出される空調空気の全体量を削減することができ、空調装置を小型化または省力化させることができる。その結果として当然ながら消費電力量を低減させることができる。
【0075】
また、コントローラを設ける構成の実施形態のように、負荷率を算出したうえで、その負荷率に応じて装置出力を加減する場合には、必要以上に空調装置を稼働させる時間を軽減することとなり、一層の消費電力の削減を可能とすることができる。
【0076】
<変形例等>
本発明の実施形態は上記のとおりであるが、本発明が上記の実施形態に限定されるものではない。従って、上記の実施形態を構成する要素を変更し、または他の要素を追加する構成とするものであってもよい。例えば、送受信機を使用する実施形態(第2~第4)において、受信機は、単純に電波を受信するものではなく、特定の周波数帯域内にある異なる複数の周波数の電波を区別して受信できるものとし、同時に1以上の複数の電波を受信する際、電波の強度を個別に検知できるものを使用することができる。これは、複数の作業者が接近して作業する場合に、複数の携帯型発信機による電波干渉を防止するとともに、複数の作業者に対して個別に空調空気の供給の要否を判断するためである。
【0077】
また、複数設けられる吹出口3a1~3b10(図8(a)参照)について、上記実施形態では、全てについてシャッタ部による開閉を操作するものとしているが、一部に限定してもよい。すなわち、部分的に開閉可能な吹出口として、上記のとおり人感センサ等による作業者の検知に応じて開閉するものとしつつ、他の吹出口では常時空調空気を排出させるような方式である。このような形態は、例えば、作業ラインの特定場所において、いずれかの作業者が頻繁に作業するような状況があれば、当該場所の近傍における吹出口を常時開口されるものとすることができる。また、そのような場所がない場合でも、作業ラインの中央付近における吹出口を常時開口させ、その周辺についてはシャッタ部を操作させるように区分してもよい。
【0078】
さらに、上記第3または第4の実施形態において、処理装置8の記憶部82またはコントローラ9の記憶部94に記憶されるデータは、オンラインで外部処理装置に出力させることもできるが、記憶媒体に出力させるものであってもよい。さらには、クラウドサーバに保存させるようにネットワーク構築してもよい。なお、上記の実施形態においては、空調装置4(室内機41)を床置きタイプとしているが、天吊りタイプを使用してもよい。受信機と処理装置との間における各種信号の送受信に際しては、有線によって送受信してもよいが、無線で行ってもよい。
【符号の説明】
【0079】
1 送気ダクト
2,21,22,23,24,25,2a1~2a10,2b1~2b10 分岐ダクト
3,31,32,33,34,35,3a1~3a10,3b1~3b10,3c1~3c8,3d1~3d8 吹出口
4 空調装置
5,51,52,53,54,55 焦電型赤外線センサまたは受信機
6 シャッタ構造体
7 操作部
8 処理装置
9 コントローラ(運転制御コントローラ)
41 室内機
42 室外機
50 発信機
60 シャッタ構造体の本体部
61 シャッタ部
62 回転軸
71 モータ
72 電磁スイッチ
81,91 入力部
82,94 記憶部
83,92 処理部(演算部)
84、93 出力部
α 焦電型赤外線センサのFOV(視野角)
β 検知エリア
A 工場
B1,B2 作業ライン
E 空調管理エリア
X,Y,Z,X1,X2,X3,Y1,Y2,Y3 作業者
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8