(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102761
(43)【公開日】2023-07-25
(54)【発明の名称】プレス成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 22/26 20060101AFI20230718BHJP
B21D 22/20 20060101ALI20230718BHJP
【FI】
B21D22/26 C
B21D22/20 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188001
(22)【出願日】2022-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2022002684
(32)【優先日】2022-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】澄川 智史
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA08
4E137AA15
4E137BA01
4E137BA05
4E137BA06
4E137BA07
4E137BB01
4E137BC01
4E137BC04
4E137CA03
4E137CA09
4E137CA21
4E137CA24
4E137EA01
4E137GA03
4E137GA06
4E137GA08
4E137GB03
(57)【要約】
【課題】プレス成形後に重ねたブランクの接合部の破断を生じることなく、目標形状のプレス成形品を得ることができるプレス成形品の製造方法を得る。
【解決手段】本発明に係るプレス成形品1の製造方法は、金属板からなる複数のブランクを重ねてプレス成形し、コの字断面形状またはハット形断面形状を有する目標形状のプレス成形品1を製造する方法であって、前記プレス成形において曲げ部における曲げの外側に配置されるブランクに、曲げの稜線方向に延びる凸形状13を付与した予成形ブランク15を成形する第1成形工程と、予成形ブランク15における凸形状13が形成された面と反対側の面に、前記プレス成形において曲げ部における曲げの内側に配置されるブランクを接合し、接合ブランク25を作成する接合ブランク作成工程と、接合ブランク25の凸形状13を曲げの外側になるように金型11に配置して目標形状にプレス成形する第2成形工程と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板からなる複数のブランクを重ねてプレス成形し、コの字断面形状またはハット形断面形状を有する目標形状のプレス成形品を製造するプレス成形品の製造方法であって、
前記プレス成形において曲げ部における曲げの外側に配置されるブランクに、曲げの稜線方向に延びる凸形状を付与した予成形ブランクを成形する第1成形工程と、
前記予成形ブランクにおける凸形状が形成された面と反対側の面に、前記プレス成形において曲げ部における曲げの内側に配置されるブランクを接合し、接合ブランクを作成する接合ブランク作成工程と、
前記接合ブランクの凸形状を曲げの外側になるように金型に配置して、目標形状にプレス成形する第2成形工程と、を有することを特徴とするプレス成形品の製造方法。
【請求項2】
前記予成形ブランクにおける凸形状を、前記目標形状のプレス成形品において曲げ稜線部となる部位に形成することを特徴とする請求項1に記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項3】
前記予成形ブランクにおける凸形状を、前記目標形状のプレス成形品における曲げ稜線部と平行となるように形成することを特徴とする請求項1又は2に記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項4】
前記予成形ブランクにおける凸形状が、前記目標形状のプレス成形品における曲げ稜線部より短いことを特徴とする請求項1又は2に記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項5】
前記予成形ブランクにおける凸形状が、前記目標形状のプレス成形品における曲げ稜線部より短いことを特徴とする請求項3に記載のプレス成形品の製造方法。
【請求項6】
目標形状における曲げ稜線部における天板部と縦壁部との曲げ角度をθ、前記予成形ブランクの板厚をt1、前記予成形ブランクに接合されるブランクの板厚をt2とし、前記予成形ブランクにおける前記凸形状の断面において凸の始点と終点とを直線で結んだ板厚中心の長さと、凸に沿って曲線で結んだ板厚中心の長さとの断面線長差ΔLが下式を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載のプレス成形品の製造方法。
0.3(t1+t2)θ≦ΔL≦0.7(t1+t2)θ
【請求項7】
目標形状における曲げ稜線部における天板部と縦壁部との曲げ角度をθ、前記予成形ブランクの板厚をt1、前記予成形ブランクに接合されるブランクの板厚をt2とし、前記予成形ブランクにおける前記凸形状の断面において凸の始点と終点とを直線で結んだ板厚中心の長さと、凸に沿って曲線で結んだ板厚中心の長さとの断面線長差ΔLが下式を満たすことを特徴とする請求項3に記載のプレス成形品の製造方法。
0.3(t1+t2)θ≦ΔL≦0.7(t1+t2)θ
【請求項8】
目標形状における曲げ稜線部における天板部と縦壁部との曲げ角度をθ、前記予成形ブランクの板厚をt1、前記予成形ブランクに接合されるブランクの板厚をt2とし、前記予成形ブランクにおける前記凸形状の断面において凸の始点と終点とを直線で結んだ板厚中心の長さと、凸に沿って曲線で結んだ板厚中心の長さとの断面線長差ΔLが下式を満たすことを特徴とする請求項4に記載のプレス成形品の製造方法。
0.3(t1+t2)θ≦ΔL≦0.7(t1+t2)θ
【請求項9】
目標形状における曲げ稜線部における天板部と縦壁部との曲げ角度をθ、前記予成形ブランクの板厚をt1、前記予成形ブランクに接合されるブランクの板厚をt2とし、前記予成形ブランクにおける前記凸形状の断面において凸の始点と終点とを直線で結んだ板厚中心の長さと、凸に沿って曲線で結んだ板厚中心の長さとの断面線長差ΔLが下式を満たすことを特徴とする請求項5に記載のプレス成形品の製造方法。
0.3(t1+t2)θ≦ΔL≦0.7(t1+t2)θ
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コの字断面形状またはハット形断面形状を有するプレス成形品の製造方法に関し、特に複数のブランクを重ねてプレス成形してプレス成形品を製造するプレス成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体は、衝突安全基準の厳格化により車体骨格部品のさらなる高強度化が進んでいる。例えば、自動車のピラーは衝突時のキャビン内の乗員を保護するために重要な部品であり、衝突荷重に耐え得る強度が要求される。そこで、これらの部品には、高張力鋼板などの高強度材の適用が図られている。
【0003】
ピラーなどのキャビンを構成する車体骨格部品は、強度を向上させるために部品全体の板厚を厚くすると、車体の重量が増加して、自動車の燃費を低下させ、二酸化炭素の排出量が増えるという問題が発生する。
【0004】
そのため、部品全体ではなく、必要な部位を補強することが考えられる。
衝突時の荷重は、主に部品の曲げの稜線を通じて伝達するため、車体骨格部品は、曲げの稜線近辺の一部に補強部品を付与して、部分的に補強することが多い。
このような一部を補強した部品を製造するには、例えば、本体部品と補強部品をそれぞれプレス成形し、その後の工程でこれらを接合するとよい。
しかし、この方法では、本体部品の金型と補強部品の金型をそれぞれ用意して個別にプレス成形する必要があり、金型製造コストが掛かりプレス成形工数も増える課題がある。
【0005】
これに対して、例えば特許文献1及び特許文献2に記載されているように、本体部品用ブランクと補強部品用ブランクを重ねた状態で予め接合しておいて、この重ね合わせて接合した接合ブランクを1つの金型でプレス成形するパッチワークと称するプレス成形方法がある。このパッチワークによれば、本体部品と補強部品とを一体でプレス成形できるので、金型製造コストやプレス成形工数を削減できる。
また、本体部品と補強部品をそれぞれプレス成形してこれらを接合したプレス成形品に比較して、パッチワークでプレス成形したプレス成形品は、本体部品と補強部品が密着するため、圧縮荷重が負荷した時にも座屈が生じにくく、性能向上の効率が良い。
【0006】
特許文献1は、ホットプレスによるブランクを重ねて行う製造方法であり、ブランクを加熱し、プレス成形すると同時に金型により急冷して焼入れを行うものである。
なお、特許文献1ではブランクに凸起を付与しているが、この凸起は、重ね合わせて加熱すると生じる表面割れを防ぐために、ブランク(メッキ板)から発生するZn蒸気を逃がすための空間を形成するためのものであり、その空間を形成するためにブランク同士が重ね合わされる内面の側に凸状に形成される。
【0007】
また、特許文献2には、重ね合わせたブランクの間のプレス成形時のずれを低減するため、重ね合わせたブランクをプレス成形品の曲げ方向と同じ方向に湾曲させた後に接合して、プレス成形することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013-184221号公報
【特許文献2】特開2020-121336号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示されたホットプレスは、ブランクの加熱コストが掛かり、急冷時間が必要なことから生産効率が低い。
そこで、最近では、1470MPa級のような超高張力な冷間プレス用鋼板を用いて、加熱コストを削減し、生産効率を向上できる冷間プレス成形が行われている。
しかし、パッチワークによる冷間プレス成形では、パンチ肩R部などの曲げ部位において、曲げの内側と曲げの外側で断面線長が異なるため、プレス成形中に重ねたブランクの間でずれが生じて、ブランクを重ねて予め接合した接合部がプレス成形時に破断してしまう場合があった。
【0010】
この点、特許文献2に開示されたように、重ね合わせたブランクをプレス成形品の曲げ方向と同じ方向に湾曲させた後に接合してプレス成形することで、重ね合わせたブランクの間のプレス成形時のずれを低減することができる。
しかし、特許文献2の方法では、複数の治具により2つのブランクを湾曲させるため、プレス成形時の天板部と縦壁部との大きな曲げ角度に対応するような変形を与えることはできない。
その結果、プレス成形中の重ねたブランクの間のずれが十分に解消されず、接合部が破断してしまう可能性が考えられる。
【0011】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、冷間プレス用鋼板を用いて、重ねたブランクの間のプレス成形中のずれを十分に解消し、プレス成形後に接合部の破断を生じることなく、目標形状のプレス成形品を得ることができるプレス成形品の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
具体的な手段を説明するに先立って、パッチワークにより重ね合わせたブランクをプレス成形する際に、重ね合わせたブランク間に生じるずれについて、
図11、
図12に基づいて説明する。
【0013】
図11は、パッチワークにより製造し、ハット形断面形状の本体部品3と本体部品3の内側に配置されたコの字断面形状の補強部品5からなるプレス成形品1の例であり、
図11(a)は斜視図、
図11(b)は
図11(a)に示したプレス成形品1の軸方向に直交する方向の断面図である。補強部品5は、本体部品3における両方のパンチ肩R部1c(
図12(b)参照)を覆うように稜線部27を形成し、両方の縦壁部1bに亘って配置され、スポット溶接部6によって本体部品3に接合されている。なお、
図11では図面を単純化するためパンチ肩R部1cのR形状の描画を省略している。
図12はプレス成形前(
図12(a))のブランクにおけるパンチ肩R部相当部位の拡大図と、プレス成形後(
図12(b))における、天板部1aから縦壁部1bに至るパンチ肩R部1cの拡大図である。本体部品3となる本体ブランク7の板厚をt
1、補強部品5となる補強ブランク9の板厚をt
2とする。
なお、本明細書において単にパンチ肩R部1cと表記したときには、原則として金型11におけるパンチ肩R部11cによって成形されたプレス成形品1の部位を指し、金型のパンチ肩R部を指す場合には「金型11のパンチ肩R部11c」と表記する。
【0014】
重ね合わせた平坦な2枚のブランクを接合せずに同時にプレス成形すると、パンチ肩R部1c(AB間)では外側に位置する本体ブランク7の断面線長が長くなり、天板部1aにおける重ね合わせた2枚のブランクの位置を同じにすると、重ね合わせたブランクのそれぞれの縦壁に相当する部位S1、S2はΔLだけずれが生じる(
図12(b)参照)。このΔLが、プレス成形後の本体ブランク7と補強ブランク9の断面線長差である。
【0015】
このΔLはブランクの伸び縮みによる変形により変化するが、このような変形を考慮しないならブランクの板厚と金型形状から幾何学的に算出できる。
金型11のパンチ肩R部11cにおける天板部11aと縦壁部11bとのなす角度をθ(ラジアン)、金型11のパンチ肩R部11cの半径をR(mm)とし、本体ブランク7及び補強ブランク9の板厚中心におけるパンチ肩R部1cの半径をそれぞれR1(mm)、R2(mm)とすると、パンチ肩R部1cにおける本体ブランク7の板厚中心の断面線長をL1(mm)、及び補強ブランク9の板厚中心の断面線長L2(mm)は、
L1=R1θ,L2=R2θ ・・・ (1)
と表わせる。
【0016】
また、R1=R+t1/2+t2,R2=R+t2/2 ・・・ (2)
となる。
以降、断面線長とは板厚中心の断面線長を示す。
本体ブランク7及び補強ブランク9の断面線長の伸び縮みはないものと仮定すると、本体ブランク7と補強ブランク9の幾何学的な断面線長差ΔL*は以下のように表わせる。
ΔL*=L1-L2=(R1-R2)θ=(t1+t2)θ/2 ・・・ (3)
(3)式から分かるように、本体ブランク7と補強ブランク9の板厚が厚いほど、また、天板部1aと縦壁部1bとのなす角度が大きいほど、この断面線長差ΔL*は大きくなる。
【0017】
このように、プレス成形によって本体ブランク7と補強ブランク9に断面線長差が発生することになり、この断面線長差によってブランクの板厚中心間にずれが生ずるため、プレス成形後の本体ブランク7と補強ブランク9の断面線長差を極力少なくする必要がある。
この点、本体ブランク7と補強ブランク9の目標形状における断面線長が確保できた状態で両者を接合することができれば、プレス成形時に本体ブランク7と補強ブランク9の接合部にずれが生じることはない。
そこで、発明者が鋭意検討した結果、パンチ肩R部1cにおける曲げの外側に位置し、断面線長が長くなる本体ブランク7について、本体ブランク7と補強ブランク9の接合前に断面線長が長くなるように予成形しておくことで、目標形状に成形する際の断面線長差を解消できるとの知見を得た。本発明はかかる知見に基づくものであり、具体的には以下の構成からなるものである。
【0018】
(1)本発明に係るプレス成形品の製造方法は、金属板からなる複数のブランクを重ねてプレス成形し、コの字断面形状またはハット形断面形状を有する目標形状のプレス成形品を製造する方法であって、
前記プレス成形において曲げ部における曲げの外側に配置されるブランクに、曲げの稜線方向に延びる凸形状を付与した予成形ブランクを成形する第1成形工程と、
前記予成形ブランクにおける凸形状が形成された面と反対側の面に、前記プレス成形において曲げ部における曲げの内側に配置されるブランクを接合し、接合ブランクを作成する接合ブランク作成工程と、
前記接合ブランクの凸形状を曲げの外側になるように金型に配置して、目標形状にプレス成形する第2成形工程と、を有することを特徴とするものである。
【0019】
(2)また、上記(1)に記載のものにおいて、前記予成形ブランクにおける凸形状を、前記目標形状のプレス成形品において曲げ稜線部となる部位に形成することを特徴とするものである。
【0020】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記予成形ブランクにおける凸形状を、前記目標形状のプレス成形品における曲げ稜線部と平行となるように形成することを特徴とするものである。
【0021】
(4)また、上記(1)乃至(3)に記載のものにおいて、前記予成形ブランクにおける凸形状が、前記目標形状のプレス成形品における曲げ稜線部より短いことを特徴とするものである。
【0022】
(5)また、上記(1)乃至(4)に記載のものにおいて、目標形状における曲げ稜線部における天板部と縦壁部との曲げ角度をθ、前記予成形ブランクの板厚をt1、前記予成形ブランクに接合されるブランクの板厚をt2とし、前記予成形ブランクにおける前記凸形状の断面において凸の始点と終点とを直線で結んだ板厚中心の長さと、凸に沿って曲線で結んだ板厚中心の長さとの断面線長差ΔLが下式を満たすことを特徴とするものである。
0.3(t1+t2)θ≦ΔL≦0.7(t1+t2)θ
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、冷間プレスのパッチワークで課題となる接合部の破断を抑制して、プレス成形品を安定して効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施の形態に係るプレス成形品の製造方法の各工程の説明図である。
【
図2】実施の形態の第1成形工程で成形される予成形ブランクの説明図である。
【
図3】予成形ブランクにおける凸形状の配置を説明する説明図である(その1)。
【
図4】予成形ブランクにおける凸形状の配置を説明する説明図である(その2)。
【
図5】予成形ブランクにおける凸形状の配置を説明する説明図である(その3)。
【
図6】予成形ブランクに形成される凸形状の成形前後の断面線長差の説明図である。
【
図7】予成形ブランクに形成される凸形状の形状変更のパラメータの説明図である。
【
図8】実施の形態の接合ブランク作成工程で作成される接合ブランクの説明図である。
【
図9】本発明で製造されるプレス成形品の他の態様の説明図である。
【
図10】実施例で製造したプレス成形品の説明図である。
【
図11】本発明の課題を説明する説明図である(その1)。
【
図12】本発明の課題を説明する説明図である(その2)。
【
図13】実施の形態の接合ブランク作成工程で作成される接合ブランクの他の形態の説明図である(その2)。
【
図14】実施の形態の接合ブランク作成工程で作成される接合ブランクの他の形態の説明図である(その3)。
【
図15】センターピラーに補強部品を適用した図である。
【
図16】フロントピラーに補強部品を適用した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本実施の形態に係るプレス成形品の製造方法は、金属板からなる複数のブランクを重ねてプレス成形し、コの字断面形状またはハット形断面形状を有する目標形状のプレス成形品1(
図1(d)参照)を製造するプレス成形品の製造方法であって、
図1に示すように、第1成形工程(
図1(a)参照)と、接合ブランク作成工程(
図1(b)参照)と、第2成形工程(
図1(c)参照)とを備えたものである。
本実施の形態のプレス成形品1は、
図11に示したものと同様に、ハット断面形状の本体部品3の内側にコ字断面形状の補強部品5を接合したものである(
図1(d)参照)。
なお、
図1において、
図11、
図12と同一部分には同一の符号を付してある。
以下、各工程を詳細に説明する。
【0026】
<第1成形工程>
第1成形工程は、プレス成形において曲げ部における曲げの外側に配置される本体ブランク7に、曲げの稜線27方向に延びる凸形状13を付与した予成形ブランク15を成形する工程である。
また、第1成形工程で用いる金型11は、
図1(a)に示すように、凸条部17を有する凸金型19と凹条部21を有する凹金型23から構成される。本体ブランク7を凸金型19と凹金型23の間にセットし、凸金型19又は凹金型23を相対的に移動させ本体ブランク7を挟み込むことで成形する。
なお、凸金型19と凹金型23の上下の配置は問わず、いずれが上又は下に配置されていてもよい。
図2に、本工程で作成した予成形ブランク15の一例を示す。
【0027】
第1成形工程で本体ブランク7に凸形状13を付与する部位は、プレス成形品1の目標形状におけるパンチ肩R部1cに相当する部位とするのがよい。
その理由は以下の通りである。
プレス成形中にはパンチ肩R部1cにおいて材料が大きく変形するため、パンチ肩R部1cに相当する部位に付与された凸形状13が押し潰されてパンチ肩R部1cに沿って断面線長を長くでき、本体ブランク7と補強ブランク9の断面線長差を容易に消去し、接合部のずれによる割れの発生を防止できる。
【0028】
他方、凸形状13が
図3に示すプレス成形品1の天板部1aや縦壁部1bなどの平坦部に相当する本体ブランク7の部位に付与された場合、第2成形工程で目標形状にプレス成形した後に、凸形状13が完全に平坦化せず曲げ癖として残存する場合もあり、その結果、目標形状の面精度(面の平坦度)を損ねてしまうことになる。
従って、
図3のように、凸形状13が目標形状のパンチ肩R部1cの範囲内にすることで、凸形状13を平坦化できて曲げ癖を低減することができる。すなわち、
図3(a)の成形前における予成形ブランク15の凸形状13の●と●を繋ぐ板厚中心の破線と同じ長さとして、
図3(b)の成形後における本体部品3の板厚中心に沿って●と●を繋いでトレースしたように、目標形状のパンチ肩R部1cである矢印で記載した範囲内にするとよい。
また、
図4又は
図5のように凸形状13の一部がパンチ肩R部1cに掛かるようにしても、凸形状13を平坦化できて曲げ癖を低減することができる。すなわち、
図4(a)又は
図5(a)の成形前における予成形ブランク15の凸形状13の●と●を繋ぐ板厚中心の破線と同じ長さとして、
図4(b)又は
図5(b)の成形後における本体部品3の板厚中心に沿って●と●を繋いでトレースしたように、目標形状のパンチ肩R部1cである矢印で記載した範囲内に掛かるようにするとよい。
【0029】
次に本工程で本体ブランク7に付与する凸形状13の断面線長について説明する。
図6に、本工程における凸形状13を付与する前の本体ブランク7と凸形状13を付与した予成形ブランク15の断面形状を示す。凸形状13を付与する前の本体ブランク7のA1-B1間の断面線長(●と●を繋ぐ破線の長さ)をL
0、凸形状13を付与した予成形ブランク15のA2-B2間の断面線長(●と●を繋ぐ破線の長さ)をLとする。
凸形状13を付与したことで、成形前の本体ブランク7よりも予成形ブランク15の断面線長が長くなり(L>L
0)、凸形状13を付与する前後の断面線長差ΔL(=L-L
0)を、第2成形工程でのパンチ肩R部1cの曲げによるプレス成形で吸収するとよい。
【0030】
プレス成形時に、本体ブランク7と補強ブランク9の接合部においてずれが生じないようにするためには、凸形状13を付与する前後の断面線長差ΔLが、前述した下記に示す式(3)に示されるΔL*と一致(ΔL=ΔL*)すればよい。
ΔL*=L1-L2=(R1-R2)θ=(t1+t2)θ/2 ・・・ (3)
【0031】
しかし、式(3)で示すΔL*は、ブランクの伸び縮みによる変形を考慮していない。ブランクは外力が加わると面内方向に変形するため、プレス成形時に接合部に割れが生じない断面線長差ΔLは最適な範囲を有する。
発明者は、この断面線長差ΔLの好適な範囲を検討した結果、ΔLが式(3)に示すΔL*の値の±40%、すなわち0.6倍から1.4倍の範囲であればよいことを見出した。
したがって、断面線長差ΔLは、下式(4)で示される範囲となる。
0.3(t1+t2)θ≦ΔL≦0.7(t1+t2)θ・・・(4)
【0032】
したがって、この好適な範囲の断面線長差ΔLとなる凸形状13を付与する予成形金型を設計・製作し、第1成形工程を行うとよい。
凸形状13の断面線長は、
図7に示す凸形状13の板厚中心間の高さhや幅wを変更することで調節できる。
【0033】
凸形状13が延びる方向は、曲げ稜線に対し平行であることが望ましい。曲げ成形をした際に曲げ稜線直交方向に引張荷重が生じても、凸形状13があることでそれが曲げ伸ばされて接合部のずれを防止できる。
凸形状13の稜線方向の長さの例として、
図8のように曲げ稜線部27の全長、すなわち予成形ブランク15の全長にわたる場合でもよいし、
図13のように凸形状13が、補強ブランク9に対しては全長にわたるが、予成形ブランク15に対しては全長にわたっていない場合でもよい。また、
図14のように予成形ブランク15および補強ブランク9の両方に対して全長にわたらない場合であってもよい。
【0034】
ここで、本発明の車体骨格部品への適用例を示す。
図15は本体部品3がセンターピラーの場合、
図16は本体部品3がフロントピラーの場合に、本発明を適用した場合の本体部品3と補強部品5の配置例である。一般的に、軽量化の観点からパッチワークで配置される補強部品5は本体部品3の長手方向の一部分となるような短い寸法であることが多い。本体ブランク7に付与する凸形状13は、接合部のずれを防止するために補強部品5との接合部の近傍にさえあればよく、補強部品5が存在しない稜線部27では凸形状13は必ずしも必要ではない。以上のことから、本体ブランク7に付与する凸形状13は、
図13および
図14のように、本体部品3の曲げ稜線部27より短いことが好ましい。
【0035】
<接合ブランク作成工程>
接合ブランク作成工程は、
図1(b)及び
図8に示すように、予成形ブランク15における凸形状13が形成された面と反対側の面に、プレス成形において曲げ部における曲げの内側に配置される補強ブランク9を接合し、接合ブランク25を作成する工程である。
ここでの接合は抵抗スポット溶接やアーク溶接、レーザー溶接、シーム溶接、機械接合など、金属板であるブランクを接合する方法であればいずれも適用できる。
【0036】
<第2成形工程>
第2成形工程は、
図1(c)に示すように、接合ブランク25の凸形状13を曲げの外側になるように金型11に配置して、目標形状にプレス成形する工程である。
本工程では、
図3~
図5に示したように、パンチ肩R部1cの成形過程で凸形状13が潰されて吸収され、予成形ブランク15における凸形状13が形成されていた部位が補強ブランク9に当接する。
このため、成形前後において予成形ブランク15におけるパンチ肩R部1cに相当する部位の断面線長差が生じず、接合した縦壁部の予成形ブランク15と補強ブランク9にずれが発生しない。
なお、第2成形工程の成形方法は、フォーム成形でもよいしドロー成形でもよい。
また、第2成形工程は、目標形状に成形するために複数のプレス成形を実施してもよい。
【0037】
以上のように、本発明によれば、冷間プレスのパッチワークで課題となる接合部の破断を抑制して、プレス成形品1を安定して効率良く製造することができる。
【0038】
なお、本発明は、フロントピラー、センターピラー、フロアクロスなどの超高強度材からなる耐衝突部品のプレス成形に好適に適用できる。
また、本発明が適用可能なプレス成形品1として、
図11、
図1(d)に示すように本体部品3の内側に補強部品5が配置されている構造でもよいし、
図9に示すように補強部品5が本体部品3の外側に配置されている構造でもよい。
また、プレス成形品1に成形するブランクは、鋼板のみならず、例えば、アルミニウム合金板、マグネシウム合金板、チタン合金板などの金属板が挙げられる。また、ブランクの強度においても制限はない。
【実施例0039】
本発明方法の作用効果について、具体的なプレス成形実験を行って検討したので、以下にその一例を説明する。
目標形状となるプレス成形品1の形状は、
図10に示すように、ハット形断面形状の本体部品3と、コの字断面形状の補強部品5とからなり、コの字断面形状の補強部品5がハット形断面形状の本体部品3の内側に配置され稜線部27を形成している構造である。なお、コの字断面形状の補強部品5は、本体部品3における両方のパンチ肩R部1cを覆うように、両方の縦壁部1bに亘って配置されている。
【0040】
本体部品3に成形する本体ブランク7は板厚1.0mmの590MPa級鋼板で、補強部品5に成形する補強ブランク9は板厚1.4mmの1470MPa級鋼板である。プレス成形品1のパンチ肩R部1cにおける天板部1aと縦壁部1bとのなす角度θは80°(約1.39ラジアン)、パンチ肩R部1cの曲げ半径Rは7mmである。
本体部品3と補強部品5はそれぞれの縦壁部1bにおいて、打点中心間距離が40mmピッチで部品長手方向に多点接合したスポット溶接部6により接合した(
図10(c)参照)。
【0041】
本発明のプレス成形品1の製造工程は、上記実施の形態で説明した
図1の通りである。すなわち、第1成形工程において、本体ブランク7に凸形状13を付与し、次いで、接合ブランク作成工程において、凸形状13を付与し外側(ブランク同士が重ね合わされる面の反対側)に配置した予成形ブランク15と平坦な補強ブランク9とを多点化したスポット溶接部6により接合し、接合ブランク25(
図8参照)を作成し、第2成形工程において、フォーム成形で目標形状に成形した。
【0042】
第1成形工程で成形する凸形状13について、目標形状のプレス成形品1に成形する際、接合部の割れを回避できる断面線長差ΔLの幾何学的な最適値ΔL*は、本体ブランク7の板厚と補強ブランク9の板厚とプレス成形品1のパンチ肩R部1cにおける天板部1aと縦壁部1bの曲げ角度を用いて、式(3)より、ΔL*=1.67mmとなる。
【0043】
本発明例では、第1成形工程において、本体ブランク7に付与する凸形状13の板厚中心の高さと幅を変化させて、断面線長が異なる6水準の予成形ブランク15を作成した。そして、接合ブランク作成工程、第2成形工程を実施して、各条件でのスポット溶接部6の割れの有無を評価した。
また、従来例として、第1成形工程を省略し、接合ブランク作成工程において、平坦なブランクを重ねて接合した接合ブランクを作成し、第2成形工程でプレス成形を実施した。
【0044】
表1に、従来例、本発明例の各条件における本体ブランク7に付与した凸形状13の板厚中心の高さhと幅w(
図7)、凸形状13を付与する前後の本体ブランク7の板厚中心の断面線長差ΔL、第2成形工程で接合した縦壁部における本体ブランク7の板厚中心と補強ブランク9の板厚中心とのずれが生じない幾何学的な断面線長差ΔL
*との誤差((ΔL-ΔL
*)/ΔL
*)、および、プレス成形品1の接合部の割れ発生の有無の結果を示す。
【0045】
【0046】
従来例では、本体ブランク7に予成形を実施していないため、第2成形工程で本体ブランク7と補強ブランク9の間にずれ(約1.67mm)が生じ、多点接合した接合部全部に割れが生じた。
本発明例1では、本体ブランク7に予成形を実施したが、プレス成形後の断面線長差ΔL=0.7mmで、ずれのない最適値ΔL*に比べ58%短いため、プレス成形時の断面線長差が十分吸収しきれず、多点接合した接合部の一部(2割)に割れが生じた。
一方、本発明例2~5ではΔL*との誤差は40%以内であり、プレス成形品1の接合部に割れは生じなかった。
また、本発明例6では、プレス成形後の断面線長差ΔL=2.5mmで、ずれのない最適値ΔL*より50%長い断面線長差であったため、第2成形工程で本体ブランク7の断面線長が余り、従来例や発明例1とは逆方向のずれが生じ、その結果、接合部の一部(1割)に割れが生じた。
【0047】
以上から、本発明は、冷間プレスのパッチワークで課題となる接合部の破断を抑制して、プレス成形品1を安定して効率良く製造できることがわかった。