(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102776
(43)【公開日】2023-07-25
(54)【発明の名称】紡糸設備
(51)【国際特許分類】
D01D 5/092 20060101AFI20230718BHJP
【FI】
D01D5/092 103
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002163
(22)【出願日】2023-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2022002806
(32)【優先日】2022-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128923
【弁理士】
【氏名又は名称】納谷 洋弘
(74)【代理人】
【識別番号】100180297
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100128912
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 徹
(72)【発明者】
【氏名】小島 匠吾
【テーマコード(参考)】
4L045
【Fターム(参考)】
4L045AA05
4L045BA03
4L045CA01
4L045CB01
4L045DA09
4L045DA23
4L045DA24
4L045DA48
4L045DC31
(57)【要約】 (修正有)
【課題】口金や口金の周辺温度の低下を抑制することを可能にした紡糸設備を提供する。
【解決手段】口金24から溶融ポリマーを下方に紡出する紡糸パック23が挿入された紡糸ビーム21と、紡糸ビーム21の下方に配置され、口金24から紡出された溶融ポリマーを囲うように上下方向に延びる紡糸筒31を有し、紡糸筒31の周方向から供給される冷却風CFにより溶融ポリマーを冷却する冷却装置3と、紡糸ビーム21との間に作業空間が形成されるように紡糸ビーム21に対して冷却装置3を下方に移動させることが可能なエアシリンダ5と、少なくとも紡糸ビーム21に対して冷却装置3を下方に移動させた状態において、紡糸筒31への冷却風CFの供給を停止又は紡糸筒31への冷却風CFの供給量を抑制する制御装置とを備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
口金から溶融ポリマーを下方に紡出する紡糸パックが挿入された紡糸ビームと、
前記紡糸ビームの下方に配置され、前記口金から紡出された前記溶融ポリマーを囲うように上下方向に延びる紡糸筒を有し、前記紡糸筒の周方向から供給される冷却風により前記溶融ポリマーを冷却する冷却装置と、
前記紡糸ビームとの間に間隙が形成されるように前記紡糸ビームに対して前記冷却装置を下方に移動させることが可能な移動機構と、
少なくとも前記紡糸ビームに対して前記冷却装置を下方に移動させた状態において、前記口金の温度低下を抑制する温度低下抑制手段と、
を備えることを特徴とする紡糸設備。
【請求項2】
前記温度低下抑制手段は、
前記紡糸筒への冷却風の供給にかかる制御を少なくとも行う制御装置を含み、
前記制御装置は、
少なくとも前記紡糸ビームに対して前記冷却装置を下方に移動させた状態において、前記紡糸筒への冷却風の供給を停止させる制御、又は、前記溶融ポリマーの紡出が停止される前の状態と比べて前記紡糸筒への冷却風の供給量を抑制する制御を実行可能である、
ことを特徴とする請求項1に記載の紡糸設備。
【請求項3】
前記温度低下抑制手段は、
前記紡糸ビームと前記冷却装置との間、且つ、前記口金から紡出された前記溶融ポリマーの糸道と交差する方向に向けて送風する送風装置を含む、
ことを特徴とする請求項2に記載の紡糸設備。
【請求項4】
前記送風装置は、
前記紡糸ビームと前記冷却装置とが当接すると運転停止する、
ことを特徴とする請求項3に記載の紡糸設備。
【請求項5】
口金から溶融ポリマーを下方に紡出する紡糸パックが挿入された紡糸ビームと、
前記紡糸ビームの下方に配置され、前記口金から紡出された前記溶融ポリマーを囲うように上下方向に延びる紡糸筒を有し、前記紡糸筒に供給される冷却風により前記溶融ポリマーを冷却する冷却装置と、
を備える紡糸設備であって、
前記紡糸ビームとの間に間隙が形成されるように前記紡糸ビームに対して前記冷却装置を下方に移動させる準備工程と、
少なくとも前記紡糸ビームに対して前記冷却装置を下方に移動させた状態において、前記口金の温度低下を抑制する温度低下抑制工程と、
前記紡糸ビームに対して前記冷却装置を下方に移動させて保守を行った後、前記口金の温度低下を抑制しつつ前記紡糸ビームに対して前記冷却装置を上方に移動させる復帰工程と、
を実行することを特徴とする紡糸設備。
【請求項6】
前記温度低下抑制工程は、
前記紡糸筒への冷却風の供給を停止する工程、又は、前記準備工程が行われる前の状態と比べて前記紡糸筒への冷却風の供給量を抑制する工程を含む、
ことを特徴とする請求項5に記載の紡糸設備。
【請求項7】
前記温度低下抑制工程は、
前記紡糸ビームと前記冷却装置との間、且つ、前記口金から紡出された前記溶融ポリマーの糸道と交差する方向に向けて送風する送風工程を含む、
ことを特徴とする請求項6に記載の紡糸設備。
【請求項8】
前記送風工程は、
前記保守を行った後、前記復帰工程の実行中、又は前記復帰工程が終了すると、前記送風を終了する、
ことを特徴とする請求項7に記載の紡糸設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡糸設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、紡糸設備は、高温の溶融ポリマーを口金から紡出する紡糸パックが挿入された紡糸ビームの下方に、冷却装置を備えている。この冷却装置は、口金から紡出された高温の溶融ポリマーを囲う紡糸筒を備えており、紡糸筒に冷却風を供給して高温の溶融ポリマーに対して冷却風を吹き付けて冷却固化し、糸を形成している。
【0003】
この種の紡糸設備では、生産性・糸品質維持のため、口金面の掃除(以下「面掃」と称する)や紡糸パックを交換するために、定期的にメンテナンスが行われる。例えば特許文献1(特に段落[0026]を参照)には、冷却装置を下降させて、紡糸ビームとの間に作業スペースを確保し、紡糸設備のメンテナンスを行うことが開示されている。また、特許文献2(特に段落[0023]を参照)には、糸条冷却装置を昇降させ、糸条冷却装置の降下により紡糸パックの交換や、面掃を行えるようにした糸条冷却装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-145132号公報
【特許文献2】特開2005-42227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1や特許文献2に記載された技術によれば、冷却装置を下降させているときや冷却装置を上昇させるときに、紡糸筒から上方への空気流によって口金及びその周辺温度を大きく低下させてしまう虞がある。口金や口金の周辺温度が大きく低下すると、メンテナンス終了後に生産を開始した後、口金や口金の周辺温度が元の温度に復帰するまでに時間を要する。口金や口金の周辺温度が低下した状態で生産された糸は物性が低下し、廃棄される糸も増えてしまうといった課題がある。
【0006】
本発明は、以上の課題に鑑みてなされたものであり、口金や口金の周辺温度の低下を抑制することを可能にした紡糸設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の紡糸設備は、
口金から溶融ポリマーを下方に紡出する紡糸パックが挿入された紡糸ビームと、
前記紡糸ビームの下方に配置され、前記口金から紡出された前記溶融ポリマーを囲うように上下方向に延びる紡糸筒を有し、前記紡糸筒の周方向から供給される冷却風により前記溶融ポリマーを冷却する冷却装置と、
前記紡糸ビームとの間に間隙が形成されるように前記紡糸ビームに対して前記冷却装置を下方に移動させることが可能な移動機構と、
少なくとも前記紡糸ビームに対して前記冷却装置を下方に移動させた状態において、前記口金の温度低下を抑制する温度低下抑制手段と、
を備えることを特徴とする。
【0008】
上記(1)に記載の紡糸設備によれば、冷却装置を下降させてメンテナンスを行った場合に、口金や口金の周辺温度の低下を抑制できる。そのため、口金や口金の周辺温度が元の温度に復帰するまでの時間ひいては糸物性が安定するまでの時間を短縮することができ、廃棄される糸を削減することが可能となる。
【0009】
(2)上記(1)に記載の紡糸設備において、
前記温度低下抑制手段は、
前記紡糸筒への冷却風の供給にかかる制御を少なくとも行う制御装置を含み、
前記制御装置は、
少なくとも前記紡糸ビームに対して前記冷却装置を下方に移動させた状態において、前記紡糸筒への冷却風の供給を停止させる制御、又は、前記溶融ポリマーの紡出が停止される前の状態と比べて前記紡糸筒への冷却風の供給量を抑制する制御を実行可能である、
ことを特徴とする。
【0010】
上記(2)に記載の紡糸設備によれば、少なくとも紡糸ビームに対して冷却装置を下方に移動させた状態において、紡糸筒への冷却風の供給を停止させるか又は冷却風の供給量を抑制する制御が実行される。そのため、紡糸筒から上方に向かう空気流を停止又はその量を抑制することができ、紡糸筒から上方に向かう空気流によって口金及びその周辺温度の低下を抑制することができる。
【0011】
(3)上記(2)に記載の紡糸設備において、
前記温度低下抑制手段は、
前記紡糸ビームと前記冷却装置との間、且つ、前記口金から紡出された溶融ポリマーの糸道と交差する方向に向けて送風する送風装置を含む、
ことを特徴とする。
【0012】
上記(3)に記載の紡糸設備によれば、口金及びその周辺温度の低下を抑制しつつ、メンテナンス終了後に行われる紡糸筒への糸通し作業を容易に行うことが可能となる。詳述すると、紡糸設備のメンテナンスを行うときに、紡糸筒への冷却風の供給を停止したり、又は、紡糸筒への冷却風の供給量を抑制したりすると、口金から紡出された溶融ポリマーが冷却固化されず、メンテナンス終了後、紡糸筒への糸通しを行うことが困難となるおそれがある。そこで、紡糸ビームと冷却装置との間、且つ、口金から紡出された溶融ポリマーの糸道と交差する方向に向けて送風することにより、紡糸筒への冷却風の供給を停止したり、又は、紡糸筒への冷却風の供給量を抑制したりしたとしても、口金から紡出される溶融ポリマーを冷却固化することが可能となる。その結果、口金及びその周辺温度の低下を抑制しつつ、メンテナンス終了後に行われる紡糸筒への糸通し作業を容易に行うことが可能となる。また、口金から紡出される溶融ポリマーを冷却固化できることに加えて、口金に向かう空気があったとしても、かかる空気を阻むことができ、ひいては、口金に向かる空気を遮断したり、口金に向かう空気量を抑制したりすることができる。
【0013】
(4)上記(3)に記載の紡糸設備において、
前記送風装置は、
前記紡糸ビームと前記冷却装置とが当接すると運転停止する、
ことを特徴とする。
【0014】
上記(4)に記載の紡糸設備によれば、紡糸ビームと冷却装置とが当接すると、紡糸筒の上側の開口部が塞がる。紡糸筒の上側の開口部が塞がると、冷却装置から供給される冷却風の大部分が下方に向けて流れ、口金や口金の周辺温度の低下を抑制することができる。その結果、口金や口金の周辺温度が元の温度に復帰するまでの時間ひいては糸物性が安定するまでの時間を短縮することが可能となる。
【0015】
(5)本発明の紡糸設備は、
口金から溶融ポリマーを下方に紡出する紡糸パックが挿入された紡糸ビームと、
前記紡糸ビームの下方に配置され、前記口金から紡出された溶融ポリマーを囲うように上下方向に延びる紡糸筒を有し、前記紡糸筒に供給される冷却風により前記溶融ポリマーを冷却する冷却装置と、
を備える紡糸設備であって、
前記紡糸ビームとの間に間隙が形成されるように前記紡糸ビームに対して前記冷却装置を下方に移動させる準備工程と、
少なくとも前記紡糸ビームに対して前記冷却装置を下方に移動させた状態において、前記口金の温度低下を抑制する温度低下抑制工程と、
前記紡糸ビームに対して前記冷却装置を下方に移動させて保守を行った後、前記口金の温度低下を抑制しつつ前記紡糸ビームに対して前記冷却装置を上方に移動させる復帰工程と、
を実行することを特徴とする。
【0016】
上記(5)に記載の紡糸設備によれば、冷却装置を下降させてメンテナンスを行った場合に、口金や口金の周辺温度の低下を抑制できる。そのため、口金や口金の周辺温度が元の温度に復帰するまでの時間ひいては糸物性が安定するまでの時間を短縮することができ、廃棄される糸を削減することが可能となる。
【0017】
(6)上記(5)に記載の紡糸設備において、
前記温度低下抑制工程は、
前記紡糸筒への冷却風の供給を停止する工程、又は、前記準備工程が行われる前の状態と比べて前記紡糸筒への冷却風の供給量を抑制する工程を含む、
ことを特徴とする。
【0018】
上記(6)に記載の紡糸設備によれば、紡糸ビームと冷却装置との間に形成された間隙を通る溶融ポリマーに対して、この溶融ポリマーの糸道と交差する方向に送風されるため、口金及びその周辺温度の低下を抑制しつつ、口金から紡出された溶融ポリマーを冷却固化することができる。その結果、紡糸筒への糸通しを容易に行うことができる。なお、紡糸筒への冷却風の停止又は供給量の抑制は、少なくとも紡糸ビームに対して冷却装置を下方に移動させた状態で行われていればよい。
【0019】
(7)本発明の紡糸設備において、
前記温度低下抑制工程は、
前記紡糸ビームと前記冷却装置との間、且つ、前記口金から紡出された溶融ポリマーの糸道と交差する方向に向けて送風する送風工程を含む、
ことを特徴とする。
【0020】
上記(7)に記載の紡糸設備によれば、口金及びその周辺温度の低下を抑制しつつ、メンテナンス終了後に行われる紡糸筒への糸通し作業を容易に行うことが可能となる。詳述すると、紡糸設備のメンテナンスを行うときに、紡糸筒への冷却風の供給を停止したり、又は、紡糸筒への冷却風の供給量を抑制したりすると、口金から紡出された溶融ポリマーが冷却固化されず、メンテナンス終了後、紡糸筒への糸通しを行うことが困難となるおそれがある。そこで、紡糸ビームと冷却装置との間、且つ、口金から紡出された溶融ポリマーの糸道と交差する方向に向けて送風することにより、紡糸筒への冷却風の供給を停止したり、又は、紡糸筒への冷却風の供給量を抑制したりしたとしても、口金から紡出される溶融ポリマーを冷却固化することが可能となる。その結果、口金及びその周辺温度の低下を抑制しつつ、メンテナンス終了後に行われる紡糸筒への糸通し作業を容易に行うことが可能となる。また、口金から紡出される溶融ポリマーを冷却固化できることに加えて、口金に向かう空気があったとしても、かかる空気を阻むことができ、ひいては、口金に向かる空気を遮断したり、口金に向かう空気量を抑制したりすることができる。
【0021】
(8)上記(7)に記載の紡糸設備において、
前記送風工程は、
前記保守を行った後、前記復帰工程の実行中、又は前記復帰工程が終了すると、前記送風を終了する、
ことを特徴とする。
【0022】
上記(8)に記載の紡糸設備によれば、復帰工程が終了すると、紡糸筒の上側の開口部が塞がる。紡糸筒の上側の開口部が塞がると、冷却装置から供給される冷却風の大部分が下方に向けて流れ、口金や口金の周辺温度の低下を抑制することができる。その結果、口金や口金の周辺温度が元の温度に復帰するまでの時間ひいては糸物性が安定するまでの時間を短縮することが可能となる。
【0023】
なお、本発明に係る紡糸設備は、上記(1)~(4)に記載された構成の全部を備えることは必須でない。例えば、上記(1)に記載された紡糸設備に係る発明において、上記(2)~(4)に記載された構成は必須でない。また、整合を図ることができる範囲で、上記(1)に記載された構成と上記(2)に記載された構成のうち一部の構成又は全部の構成とを任意に組み合わせてもよいし、上記(1)に記載された構成と上記(2)に記載された構成のうち一部の構成又は全部の構成と上記(3)に記載された構成のうち一部の構成又は全部の構成とを任意に組み合わせてもよいし、上記(1)に記載された構成と上記(2)に記載された構成のうち一部の構成又は全部の構成と上記(3)に記載された構成のうち一部の構成又は全部の構成と上記(4)に記載された構成のうち一部の構成又は全部の構成とを任意に組み合わせてもよい。また、同様に、本発明に係る紡糸設備は、上記(5)~(8)に記載された構成の全部を備えることは必須でない。例えば、上記(5)に記載された紡糸設備に係る発明において、上記(6)~(8)に記載された構成は必須でない。また、整合を図ることができる範囲で、上記(5)に記載された構成と上記(6)に記載された構成のうち一部の構成又は全部の構成とを任意に組み合わせてもよいし、上記(5)に記載された構成と上記(6)に記載された構成のうち一部の構成又は全部の構成と上記(7)に記載された構成のうち一部の構成又は全部の構成とを任意に組み合わせてもよいし、上記(5)に記載された構成と上記(6)に記載された構成のうち一部の構成又は全部の構成と上記(7)に記載された構成のうち一部の構成又は全部の構成と上記(8)に記載された構成のうち一部の構成又は全部の構成とを任意に組み合わせてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、口金や口金の周辺温度の低下を抑制することを可能にした紡糸設備を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本実施形態に係る紡糸設備の一部を右側方から見た場合の概略図の一例である。
【
図2】
図1に示される紡糸設備の一部を前方から見た場合の概略図の一例である。
【
図3】
図1に示される紡糸設備において、冷却装置を下降させたときの紡糸設備の状態を示す概略図の一例である。
【
図4】紡糸設備の電気的構成の概略を示すブロック図の一例である。
【
図5】従来の紡糸設備のメンテナンス工程を説明するための図であって、稼働状態における紡糸設備の一部を示す概略図の一例である。
【
図6】従来の紡糸設備のメンテナンス工程を説明するための図であって、溶融ポリマーの紡出が停止されたときの紡糸設備の一部を示す概略図の一例である。
【
図7】従来の紡糸設備のメンテナンス工程を説明するための図であって、紡糸ビームに対して冷却装置を下端まで下降させたときの紡糸設備の一部を示す概略図の一例である。
【
図8】従来の紡糸設備のメンテナンス工程を説明するための図であって、紡糸パックを交換するときの紡糸設備の一部を示す概略図の一例である。
【
図9】従来の紡糸設備のメンテナンス工程を説明するための図であって、溶融ポリマーの紡出が再開されたときの紡糸設備の一部を示す概略図の一例である。
【
図10】従来の紡糸設備のメンテナンス工程を説明するための図であって、紡糸筒の上側の開口部を覆ったカバーが取り外された状態の紡糸設備の一部を示す概略図の一例である。
【
図11】従来の紡糸設備のメンテナンス工程を説明するための図であって、紡糸筒31に糸を通す糸通し作業が行われたときの紡糸設備の一部を示す概略図の一例である。
【
図12】従来のメンテナンス工程によりメンテナンスを行って稼働状態に復帰した後、時間の経過とともに変化する丸編染色評価の結果を示す模式図である。
【
図13】従来のメンテナンス工程によりメンテナンスを行って稼働状態に復帰した後、時間の経過とともに変化する糸の熱応力及び解撚張力の結果を示すグラフである。
【
図14】従来のメンテナンス工程によるメンテナンスを開始してから、時間の経過に応じた口金の表面温度の変化を示すグラフである。
【
図15】本発明に係るメンテナンス工程を説明するための図であって、紡糸筒への冷却風の供給を停止したときの紡糸設備の一部を示す概略図の一例である。
【
図16】本発明に係るメンテナンス工程を説明するための図であって、面掃時の紡糸設備の一部を示す概略図の一例である。
【
図17】本発明に係るメンテナンス工程を説明するための図であって、口金からの溶融ポリマーの紡出が再開されたときの紡糸設備の一部を示す概略図の一例である。
【
図18】本発明に係るメンテナンス工程を説明するための図であって、紡糸筒の上側の開口部を覆ったカバーが取り外された状態の紡糸設備の一部を示す概略図の一例である。
【
図19】本発明に係るメンテナンス工程を説明するための図であって、紡糸筒に糸を通す糸通し作業が行われたときの紡糸設備の一部を示す概略図の一例である。
【
図20】本発明に係るメンテナンス工程を説明するための図であって、稼働状態における紡糸設備の一部を示す概略図の一例である。
【
図21】変形例に係るメンテナンス工程を説明するための図であって、溶融ポリマーの紡出が停止されたときの紡糸設備の一部を示す概略図の一例である。
【
図22】変形例に係るメンテナンス工程を説明するための図であって、紡糸ビームに対して冷却装置を下端まで下降させたときの紡糸設備の一部を示す概略図の一例である。
【
図23】変形例に係るメンテナンス工程を説明するための図であって、溶融ポリマーの紡出が再開された後の紡糸設備の一部を示す概略図の一例である。
【
図24】変形例に係るメンテナンス工程を説明するための図であって、送風装置の運転を開始したときの紡糸設備の一部を示す概略図の一例である。
【
図25】変形例に係るメンテナンス工程を説明するための図であって、紡糸筒に糸を通す糸通し作業が行われたときの紡糸設備の一部を示す概略図の一例である。
【
図26】変形例に係るメンテナンス工程を説明するための図であって、紡糸ビームに対して冷却装置を上端まで上昇させたときの紡糸設備の一部を示す概略図の一例である。
【
図27】変形例に係るメンテナンス工程を説明するための図であって、稼働状態に復帰したときの紡糸設備の一部を示す概略図の一例である。
【
図28】本発明に係るメンテナンス工程によりメンテナンスを行い、稼働状態に復帰後、時間の経過とともに変化する丸編染色評価の結果を示す模式図である。
【
図29】従来のメンテナンス工程によりメンテナンスを行った場合と、変形例のメンテナンス工程によりメンテナンスを行った場合とにおいて、稼働状態に復帰後、時間の経過とともに変化する糸の熱応力及び解撚張力の結果の一例を示すグラフである。
【
図30】従来のメンテナンス工程と本発明のメンテナンス工程と変形例のメンテナンス工程とにおいて、メンテナンスを開始してから、時間の経過に応じた口金の表面温度の変化の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。なお、説明の便宜上、上下方向、左右方向、及び、前後方向の各方向は、後述する各図に示されるとおりである。
【0027】
[1.紡糸設備の概要]
先ず、本発明の実施の形態に係る紡糸設備1の概要について説明する。
図1は、本実施形態に係る紡糸設備1の一部を右側方から見た場合の概略図の一例である。
図2は、
図1に示される紡糸設備1の一部を前方から見た場合の概略図の一例である。
図3は、
図1に示される紡糸設備1において、冷却装置3を下降させたときの紡糸設備1の状態を示す概略図の一例である。ただし、
図1及び
図3において、
図2に示されるポリマータンク25及びポリマー配管26の図示が省略されている。また、
図3は、便宜上、溶融ポリマーP及び糸Yの図示を省略しているが、冷却装置3を下降させるときに溶融ポリマーPが口金24から紡出され、冷却装置3や他の条件により溶融ポリマーPが冷却固化され、糸Yを形成していてもよい。
【0028】
本発明の実施の形態に係る紡糸設備1は、合成繊維からなる糸Yを生産するための設備である。例えば
図1に示されるように、紡糸設備1は、少なくとも、紡糸装置2と、冷却装置3と、移動機構5と、送風装置6と、制御装置7(後述の
図4参照)とを備える。また、紡糸設備1は、これらの他に、油剤付与装置8、引取装置(不図示)、及び、巻取装置(不図示)等も備えるが、ここでは説明を省略する。
【0029】
(紡糸装置)
図1又は
図2に示されるように、紡糸装置2は、糸Yの材料である溶融ポリマーPを紡出するように構成された溶融紡糸装置である。紡糸装置2は、概ね直方体形状の紡糸ビーム21と、紡糸ビーム21に形成された複数のパックハウジング22と、複数のパックハウジング22にそれぞれ装着された複数(例えば複数のパックハウジング22と同数)の紡糸パック23と、ポリマーが収容されたポリマータンク25と、各紡糸パック23とポリマータンク25とを接続する複数のポリマー配管26とを有する。
【0030】
なお、
図2では、便宜上、パックハウジング22及び紡糸パック23の数が3個として図示されているが、これに限られず、パックハウジング22及び紡糸パック23の数はこれより多い数(例えば12個)であってもよい。
【0031】
ポリマータンク25内のポリマーは、複数のポリマー配管26を介して、複数の紡糸パック23へと送られる。ポリマータンク25から紡糸パック23にポリマーが送られるとき、ポリマータンク25及びポリマー配管26の内部のポリマーは、紡糸ビーム21によって所定の温度(例えば300℃)で加熱され、溶融ポリマーとなる。
【0032】
各紡糸パック23には、ポリマー配管26から、高温に加熱された液状の溶融ポリマーが供給される。各紡糸パック23の下端部には、口金24が配置されている。すなわち、口金24の数は、紡糸パック23と同数である。口金24は、例えば複数のノズル(不図示)を有する。紡糸パック23は、溶融ポリマーを口金24の複数のノズルからそれぞれ吐出する(言い換えると、糸Yを紡出する)。複数のノズルから吐出された溶融ポリマーPは、冷却装置3で冷却されて、複数のフィラメントからなる糸Yとなる。すなわち、1つの口金24ら1本の糸Yが紡出される。なお、各口金24が複数のノズルを有することは必須でなく、1つのノズルのみを有していても良い。この場合、糸Yはモノフィラメント糸として生成される。
【0033】
(冷却装置)
図1に示されるように、冷却装置3は、紡糸装置2の下側に配置される紡糸筒31と、紡糸筒31に接続されたダクト32と、ダクト32を介して紡糸筒31に冷却風CFを供給する第1の圧空源37(後述の
図4参照)とを有する。本実施形態では、冷却装置3として、例えば環状糸冷却装置が用いられる。紡糸筒31は、例えば、中空の箱体であって、口金24から紡出された溶融ポリマーを囲うように(中空部CEに溶融ポリマーPが位置するように)上下方向に延びている。紡糸筒31は内部に整流板33を有しており、第1の圧空源37から供給された冷却用の空気(以下、この空気を「冷却風CF」と称する)は、ダクト32内を通って紡糸筒31の下部空間(整流板33よりも下方の空間)内に供給される。紡糸筒31の下部空間に流入した冷却風CFは、整流板33を通過して上向きに整流され、紡糸筒31の上部空間(整流板33よりも上方の空間)へ流れる。フィルタ部材36の真下の位置には、複数の仕切筒35が配置されている。仕切筒35は、冷却風CFを仕切筒35の径方向に透過させないように構成されているため、紡糸筒31の下部空間から中空部CEには、冷却風CFが直接的には流れ込まない。紡糸筒31の上部空間に流入した冷却風CFは、例えばパンチングフィルタ及び冷却フィルタで構成されるフィルタ部材36を通過する際に整流されて、中空部CEに流れ込む。これにより、フィルタ部材36の周方向から、より詳しくはフィルタ36の外側全周方向から糸材料に冷却風CFが吹き付けられ、糸材料が冷却されて糸Yになる。なお、紡糸ビーム21と紡糸筒31とが当接する部位にはシール部材40が設けられている。このシール部材40により、紡糸ビーム21と紡糸筒31との当接面からのリークを防止できる。
【0034】
(移動機構)
移動機構5は、例えばエアシリンダで構成されており(以下、移動機構5をエアシリンダ5と称する)、冷却装置3を昇降移動可能に構成されている。より詳細には、エアシリンダ5は、例えば工場の床面に立設されている。エアシリンダ5は、ピストンロッド52が上下方向に長く、上下方向に拡縮可能に配置されている。紡糸筒31の下端には、下側へ延びた壁部材10が固定されている。壁部材10の側面には、ピストンロッド52の先端部が固定されている。このような構成において、冷却装置3全体が、エアシリンダ5の作動によって、紡糸設備1が稼働しているときの第1位置(
図1参照)と、第1位置よりも下側の第2位置(
図3参照)との間で移動可能である。冷却装置3は、エアシリンダ5のピストンロッド52が拡方向(
図1における上方向)に作動すると上昇し、ピストンロッド52が縮方向(
図1における下方向)に作動すると下降する。冷却装置3が第1位置に位置しているとき、糸Yが生成されることが可能である。冷却装置3が第1位置に位置しているとき、冷却装置3は、エアシリンダ5によって上側(紡糸ビーム21側)に向かう力を加えられている。冷却装置3が第2位置に位置しているとき、上下方向における紡糸装置2(より詳しくは紡糸ビーム21)と冷却装置3との間に、作業空間Swとしての間隙が形成される。以下において、便宜上、上記の「第1位置」を「上端」と称し、上記の「第2位置」を「下端」と称する。ただし、上記の「第1位置」は上端に限定されるものではなく、上記の「第2位置」も下端に限定されるものではない。
【0035】
(送風装置)
図3に示されるように、送風装置6は、冷却装置3が下端に位置しているときに、作業空間Swを略水平方向に横風SFが流れるように送風する装置である。なお、この明細書において、「送風」を「放出」と称することもある。
【0036】
送風装置6は、例えば、第2の圧空源66(後述の
図4参照)、第2の圧空源66から供給された空気(例えば圧縮空気)を横風SFとして放出可能な複数のエアノズル62、及び、第2の圧空源66と各エアノズル62とを接続するエア配管64等で構成されている。複数のエアノズル62は、それぞれ、複数の紡糸パック23と対応しており、左右方向に沿って並べて配置されている。本実施形態において、複数のエアノズル62は、エアノズル62から放出された横風SFが、上下方向における紡糸装置2と冷却装置3との間に形成される作業空間Swを、後方から前方に向かう一つの方向に放出されるように配置されている。複数のエアノズル62から放出された横風SFが一つの方向に流れるようにしているのは、異なる方向を向く冷却風CFが互いに干渉することを避けるためである。
【0037】
なお、複数のエアノズル62を、後方から前方に向けて冷却風CFが流れるように配置することは必須ではなく、例えば前方から後方に向けて横風SFが流れるように配置してもよい。また、複数のエアノズル62を、左方から右方又は右方から左方に横風SFが流れるように配置してもよい。ただし、エアノズル62からの距離が大きくなるにつれて横風SFの流量が減衰することに鑑みると、後方から前方、又は、前方から後方に向けて横風SFが流れるようにエアノズル62を配置することが好ましい。
【0038】
また、複数の紡糸パック23と対応する複数のエアノズル62を配置することは必須でない。例えば、複数のエアノズル62に代えて、複数の紡糸パック23のうち左端の紡糸パック23から右端の紡糸パック23までの左右方向長さよりも幅広のフラット状の一つのノズルを配置するようにしてもよい。
【0039】
また、エアノズル62から放出された横風SFが作業空間Swを略水平方向に流れるようにしているのは、エアノズル62から放出された横風SFが口金24及びその周辺に向かわないようにするためである。よって、エアノズル62から放出された圧縮空気が口金24及びその周辺に向かわないのであれば、エアノズル62から放出される圧縮空気が横風SFとして略水平方向に流れるようにエアノズル62を配置することは必須でない。例えば、エアノズル62から放出される圧縮空気が斜め下方に流れるようにエアノズル62を配置してもよいし、エアノズル62から放出される圧縮空気が斜め上方に流れるようにエアノズル62を配置してもよい。
【0040】
また、本実施形態では、エアノズル62に圧縮空気を供給する第2の圧空源66と、紡糸筒31に冷却風CFを供給する第1の圧空源37と、をそれぞれ別に設けているが、これに限られず、エアノズル62と紡糸筒31との両方に圧縮空気を供給する共通の圧空源を備えるようにしてもよい。さらに、第2の圧空源66と各エアノズル62とを、エア配管64で接続することは必須でなく、例えばエアホースで接続してもよい。
【0041】
(制御装置)
図4は、紡糸設備1の電気的構成の概略を示すブロック図の一例である。制御装置7は、紡糸設備1の運転にかかわる処理を実行するものであり、例えば、口金24からの溶融ポリマーPの紡出及び紡出の停止、エアシリンダ5の作動又は停止、紡糸筒31すなわち中空部CEに供給される冷却風CFの流量制御、送風装置6を構成するエアノズル62から放出される圧縮空気の流量制御等を行う。なお、本願発明の「温度低下抑制手段」は、制御装置7を含む。
【0042】
制御装置7は、CPU、ROM及びRAM等を有する。制御装置7は、オペレータが操作可能なボタン等で構成される操作部72、冷却装置3が上端にあることを検出する上端検出センサ76、及び、冷却装置3が下端にあることを検出する下端検出センサ78等に接続されている。制御装置7は、操作部72、上端検出センサ76及び下端検出センサ78等から信号を受信可能である。
【0043】
さらに、制御装置7は、口金24から溶融ポリマーPを紡出させることが可能なギアポンプ28、第1の圧空源37、第2の圧空源66、エアシリンダを作動させることが可能な電磁弁74等に接続されている。制御装置7は、操作部72、上端検出センサ76及び下端検出センサ78等からの各種信号を受信したことに基づいて、ギアポンプ28、第1の圧空源37、第2の圧空源66、及び電磁弁74等の制御を行う。制御装置7は、電磁弁74を制御することによって、エアシリンダ5の作動を制御する。
【0044】
第1の圧空源37が制御されると、紡糸筒31に供給される冷却風CFの流量(以下、「風量」と称する)が制御される。第2の圧空源66が制御されると、エアノズル62から放出される横風SFの流量(以下、冷却風CFの場合と同様に「風量」と称する)が制御される。
【0045】
なお、紡糸筒31に供給される冷却風CFの制御は、第1の圧空源37の運転及び運転の停止を制御することに代えて、ダクト32よりも上流側に自動弁を設けてこの自動弁を制御することで行ってもよい。また、エアノズル62から放出される横風SFの風量制御は、エアノズル62よりも上流側に自動弁を設けてこの自動弁を制御したりすることで行ってもよい。
【0046】
[2.メンテナンス工程]
次に、紡糸設備におけるメンテナンス工程について説明する。紡糸設備1において、本発明にかかるメンテナンス工程を説明する前に、先ず、従来のメンテナンス工程について、
図5~
図11を参照して説明する。なお、従来のメンテナンス工程を説明するにあたり、従来の紡糸設備100を構成する各種構成(紡糸装置、冷却装置等)に対して、本発明の実施の形態に係る紡糸設備1を構成する各種構成に付された符号を、そのまま流用するものとする。ただし、従来の紡糸設備100は、上述した送風装置6を備えていない。
【0047】
[2-1.従来の紡糸設備におけるメンテナンス工程]
図5は、生産中すなわち稼働状態における紡糸設備100の一部を示す概略図の一例である。紡糸設備100の稼働中、紡糸ビーム21と冷却装置3とが当接している。紡糸設備100の稼働中、口金24から溶融ポリマーPが紡出され、第1の圧空源37からダクト32を介して紡糸筒31に冷却風CFが供給される。紡糸筒31に供給された冷却風CFは、略水平方向に中空部CEに流れ込み、口金24から紡出された溶融ポリマーPを冷却する。
【0048】
[2-1-1.準備工程]
図6は、溶融ポリマーPの紡出が停止されたときの紡糸設備100の一部を示す概略図の一例である。紡糸設備100のメンテナンスを行う場合、先ず、
図6に示されるように、口金24からの溶融ポリマーPの紡出を停止する。溶融ポリマーPの紡出の停止は、例えばオペレータの操作に応じて制御装置7により実行される。なお、メンテナンス中、冷却装置3による冷却風CFの供給は継続される。この明細書において、メンテナンスは、例えば、口金24の面掃、紡糸パック23の交換等が相当する。
【0049】
図7は、紡糸ビーム21に対して冷却装置3を下端まで下降させたときの紡糸設備100の一部を示す概略図の一例である。制御装置7は、溶融ポリマーPの紡出を停止した後、
図7に示されるように、エアシリンダ5を縮方向に作動させて、紡糸ビーム21に対して冷却装置3を下降させる。紡糸ビーム21に対して冷却装置3を下降させると、上下方向における紡糸装置2と冷却装置3との間に作業空間Swが形成される。紡糸ビーム21に対して冷却装置3が下降すると、オペレータは、ただちに、紡糸筒31の上側の開口部をカバー42で覆う作業を行う。紡糸筒31の上側の開口部をカバー42で覆うことにより、紡糸筒31の上側の開口部から上方に向かう空気流(すなわち冷却風CF)を止めることができる。
【0050】
[2-1-2.メンテナンス本工程]
紡糸筒31の上側の開口部をカバー42で覆った後、オペレータは、メンテナンスを行う。メンテナンスの内容は、口金24の面掃、紡糸パック23の交換等である。メンテナンスに要する時間は、メンテナンスの内容にもよるが、概ね10分である。オペレータは、目的に応じて、口金24の面掃、又は紡糸パック23の交換を行う。
図8は、紡糸パック23を交換するときの紡糸設備100の一部を示す概略図の一例である。
【0051】
[2-1-3.溶融ポリマー紡出再開工程]
図9は、溶融ポリマーPの紡出が再開されたときの紡糸設備100の一部を示す概略図の一例である。メンテナンスが行われた後、制御装置7は、例えばオペレータの操作に応じて、
図9に示されるように、口金24からの溶融ポリマーPの紡出を開始(再開)する。
【0052】
[2-1-4.カバー取り外し工程]
図10は、紡糸筒31の上側の開口部を覆ったカバー42が取り外された状態の紡糸設備100の一部を示す概略図の一例である。溶融ポリマーPの紡出が再開されると、オペレータは、
図10に示されるように、紡糸筒31の上側の開口部を覆ったカバー42を取り外す作業を行う。
【0053】
[2-1-5.糸通し工程]
図11は、紡糸筒31に糸を通す糸通し作業が行われたときの紡糸設備100の一部を示す概略図の一例である。紡糸筒31の上側の開口部を覆ったカバー42を取り外す作業が行われた後、
図11に示されるように、オペレータは、口金24から紡出された溶融ポリマーP(又は冷却固化された糸Y)を、紡糸筒31に通す糸通し作業を行う。
【0054】
[2-1-6.復帰工程]
糸通し作業が行われた後、制御装置7は、例えばオペレータの操作に応じてエアシリンダ5を拡方向に作動させて、紡糸ビーム21に近付くように冷却装置3を上昇させる。制御装置7は、冷却装置3が上端にあることが上端検出センサ76(
図4参照)により検出されると、エアシリンダ5の作動を停止し、冷却装置3の上昇を停止させる。冷却装置3が上端で停止したとき、紡糸ビーム21と冷却装置3とがシール部材40を介して当接する。なお、復帰工程では生産開始に向けたその他の準備も行われるが、その他の準備に関する図示は省略する。
【0055】
復帰工程を終えると、紡糸設備100が通常に稼働し、生産中となる。従来は、上述した工程により、紡糸設備100のメンテナンスが行われていた。
【0056】
[2-1-7.従来のメンテナンス工程における課題等]
このような従来のメンテナンス工程によりメンテナンスを行って稼働状態に復帰した場合、糸物性が低下し、例えば
図12及び
図13に示されるように、糸物性が正常に戻るまで(すなわち正常糸と判断されるまで)に相当の時間を要する。
図12は、従来のメンテナンス工程によりメンテナンスを行って稼働状態に復帰した後、時間の経過とともに変化する丸編染色評価の結果を示す模式図である。
図13は、従来のメンテナンス工程によりメンテナンスを行って稼働状態に復帰した後、時間の経過とともに変化する糸の熱応力及び解撚張力の結果を示すグラフである。
【0057】
図12に示されるように、丸編染色評価の結果は、稼働状態に復帰後、概ね60分経過後も、基準となるベンチマーク(以下、「B.M」と称する)と比べて色が薄いため、正常糸と判断されない。そして、稼働状態に復帰後、概ね70分経過するとB.Mに近い色となり、正常糸と判断されるようになる。
【0058】
図13に示されるように、解撚張力及び熱応力は、いずれも、稼働状態に復帰後、概ね80分~90分経過後に、基準値に近い値となる。なお、
図13に示されるように、解撚張力の基準値であるB.Mは例えば30.8[cN]であり、熱応力の基準値であるB.Mは例えば83.1[cN]であるが、B.Mは糸種等に応じて異なる。
【0059】
このように、従来のメンテナンス工程によりメンテナンスを行って稼働状態に復帰した後、糸物性が正常に戻るまでに相当の時間を要するため、仮に生産を続けたとしても廃棄される糸が増えるだけの結果となってしまう。従来のメンテナンス工程によりメンテナンスを行って稼働状態に復帰した場合、糸物性が正常に戻るまでに相当の時間を要してしまう理由は、メンテナンス工程において口金24及びその周辺温度が大きく低下し、口金24及びその周辺温度が元の温度に復帰するまでに時間を要するからであると考えられる。
【0060】
図14は、従来のメンテナンス工程によるメンテナンスを開始してから、時間の経過に応じた口金24の表面温度の変化を示すグラフである。
図14に示されるように、紡糸ビーム21に対して冷却装置3を下降させると、口金24の表面温度がほぼ低下し続け、メンテナンスを終える頃には口金24の表面温度が大きく低下してしまう。メンテナンスが終了し、紡糸ビーム21に近付くように冷却装置3を上昇させると、口金24の表面温度が徐々に回復する。
図14に示されるように、口金24の表面温度が元の温度(例えばメンテナンスを行う前の温度)に戻るまでには、冷却装置3の上昇を開始してから概ね2000s以上の時間を要する。
【0061】
ところで、従来のメンテナンス工程において口金24の表面温度が大きく低下するのは、紡糸筒31に供給される冷却風CFが、紡糸筒31の上側の開口部から上方に向かうためであると考えられる。口金24から紡出された溶融ポリマーP(又は冷却固化された糸Y)を紡糸筒31に通す糸通し作業を行う際に、紡糸筒31の上側の開口部から上方に向けて流れる冷却風CF(例えば
図11参照)によって冷却固化される。この場合、オペレータは、道具を使用せずに糸通し作業を行うことができるが、口金24及びその周辺温度が、紡糸筒31の上側の開口部から上方に向かう冷却風CFによって冷却されてしまう。そのため、口金24及びその周辺温度が大きく低下し、稼働状態に復帰した後、口金24及びその周辺温度が元の温度に復帰するまでに時間を要してしまうものと思われる。
【0062】
そこで、このような従来のメンテナンス工程において顕在していた問題を解決するために、本発明の実施の形態に係る紡糸設備1では、以下のメンテナンス工程により、メンテナンスを行うようにしている。以下に、本発明の実施の形態に係る紡糸設備1のメンテナンス工程について説明する。
【0063】
[2-2.本発明に係るメンテナンス工程]
本発明に係るメンテナンス工程について、
図5、
図6、及び
図15~
図20を参照して説明する。本発明の実施の形態に係る紡糸設備1が従来の紡糸設備100と比べて大きく異なる点は、メンテナンス工程において、紡糸筒31に冷却風CFが供給されない点である。なお、本発明の実施の形態に係る紡糸設備1は、メンテナンス工程において送風装置6の運転が行われないため、送風装置6を備えることは必須でない。
図15~
図20では、送風装置6の図示を省略している。
【0064】
紡糸設備1の稼働中、
図5に示されるように、紡糸ビーム21の下端と冷却装置3の上端とが当接している。紡糸設備1の稼働中、口金24から溶融ポリマーPが紡出され、第1の圧空源37(
図4参照。以下同様。)からダクト32を介して紡糸筒31に冷却風CFが供給される。紡糸筒31に供給された冷却風CFは、略水平方向に中空部CEに流れ込み、口金24から紡出された溶融ポリマーPを冷却する。
【0065】
[2-2-1.準備工程]
紡糸設備1のメンテナンスを行う場合、先ず、
図6に示されるように、口金24からの溶融ポリマーPの紡出を停止する。溶融ポリマーPの紡出の停止は、例えばオペレータの操作に応じて制御装置7により実行される。
【0066】
図15は、紡糸筒31への冷却風CFの供給を停止したときの紡糸設備1の一部を示す概略図の一例である。制御装置7は、口金24からの溶融ポリマーPの紡出を停止した後、例えば第1の圧空源37の運転を停止し、例えば
図15に示されるように、紡糸筒31への冷却風CFの供給を停止する。
【0067】
図16は、紡糸ビーム21に対して冷却装置3を下端まで下降させたときの紡糸設備1の一部を示す概略図の一例である。制御装置7は、紡糸筒31への冷却風CFの供給を停止すると、
図16に示されるように、エアシリンダ5を縮方向に作動させて、紡糸ビーム21に対して冷却装置3を下降させる。紡糸ビーム21に対して冷却装置3を下降させると、上下方向における紡糸装置2と冷却装置3との間に作業空間Swが形成される。紡糸ビーム21に対して冷却装置3が下降すると、オペレータは、紡糸筒31の上側の開口部をカバー42で覆う作業を行う。ただし、紡糸筒31への冷却風CFの供給が停止しているため、紡糸筒31の上側の開口部をカバー42で覆う作業は必須でない。
【0068】
なお、口金24からの溶融ポリマーPの紡出を停止させるタイミングは、紡糸ビーム21に対する冷却装置3の下降開始前であることが好ましいが、これに限定されず、紡糸ビーム21に対して冷却装置3の下降中であってもよいし、紡糸ビーム21に対して冷却装置3を下端まで下降させた後であってもよい。
【0069】
また、紡糸筒31への冷却風CFの供給を停止させるタイミングは、口金24からの溶融ポリマーPの紡出を停止した後に限定されず、口金24からの溶融ポリマーPの紡出を停止する直前であってもよいし、口金24からの溶融ポリマーPの紡出の停止とほぼ同時であってもよい。
【0070】
[2-2-2.メンテナンス本工程]
紡糸ビーム21に対して冷却装置3が下降し、必須ではないが紡糸筒31の上側の開口部をカバー42で覆った後、オペレータは、口金24の面掃や紡糸パック23の交換等、目的に応じたメンテナンスを行う。メンテナンスに要する時間は、メンテナンスの内容にもよるが、概ね10分である。
【0071】
[2-2-3.溶融ポリマー紡出再開工程]
図17は、口金24からの溶融ポリマーPの紡出が再開されたときの紡糸設備1の一部を示す概略図の一例である。メンテナンスが行われた後、制御装置7は、例えばオペレータの操作に応じて、
図17に示されるように、口金24からの溶融ポリマーPの紡出を開始(再開)する。
【0072】
[2-2-4.カバー取り外し工程]
図18は、紡糸筒31の上側の開口部を覆ったカバー42が取り外された状態の紡糸設備1の一部を示す概略図の一例である。紡糸筒31の上側の開口部がカバー42で覆われている場合、口金24からの溶融ポリマーPの紡出が開始(再開)された後、オペレータは、紡糸筒31の上側の開口部を覆ったカバー42を取り外す作業を行う。なお、このとき、紡糸筒31への冷却風CFの供給が停止されているため、紡糸筒31の上側の開口部から冷却風CFが上方に向かうことはない。
【0073】
[2-2-5.温度低下抑制工程]
紡糸筒31への冷却風CFの供給を停止するタイミングは上述したとおりであるが、紡糸筒31の上側の開口部がカバー42で覆われていた場合は、少なくともカバー42が取り外されるまでに、紡糸筒31への冷却風CFを停止させればよい。紡糸筒31の上側の開口部がカバー42で覆われている間は、紡糸筒31の上側の開口部から口金24に冷却風CFが向かうことを防ぐことができるからである。紡糸筒31への冷却風CFの供給を停止する工程は、温度低下抑制工程に相当する。
【0074】
[2-2-6.糸通し工程]
図19は、紡糸筒31に糸を通す糸通し作業が行われたときの紡糸設備1の一部を示す概略図の一例である。紡糸筒31の上側の開口部を覆ったカバー42を取り外す作業が行われた後、
図19に示されるように、オペレータは、口金24から紡出された溶融ポリマーP(又は冷却固化された糸Y)を、紡糸筒31に通す糸通し作業を行う。このとき、紡糸筒31に冷却風CFが供給されていないため、口金24から紡出された溶融ポリマーPは冷却固化されずに溶融状態である可能性が高い。そこで、オペレータは、例えばハサミ等の道具を用いて糸通し作業を行うことが好ましい。
【0075】
[2-2-7.復帰工程]
図20は、紡糸ビーム21に対して冷却装置3を上端まで上昇させたときの紡糸設備1の一部を示す概略図の一例である。糸通し作業が行われた後、制御装置7は、例えばオペレータの操作に応じてエアシリンダ5を拡方向に作動させて、
図20に示されるように、紡糸ビーム21に近付くように冷却装置3を上昇させる。制御装置7は、紡糸ビーム21の下端と冷却装置3の上端とが当接するとエアシリンダ5の作動を停止し、冷却装置3の上昇を停止させる。
【0076】
紡糸ビーム21の下端と冷却装置3の上端とが当接して冷却装置3の上昇が停止すると、オペレータは、油剤付与装置8への糸掛けを行う。油剤付与装置8への糸掛けを行った後、制御装置7は、例えばオペレータの操作に応じて第1の圧空源37の運転を再開し、
図20に示されるように、紡糸筒31への冷却風CFの供給を開始する。なお、油剤付与装置8への糸掛けを行うタイミングは、紡糸ビーム21に対して冷却装置3が上昇した後に限定されず、紡糸ビーム21に対する冷却装置3の上昇を開始する前、又は、紡糸ビーム21に対する冷却装置3の上昇中であってもよい。
【0077】
なお、復帰工程では生産開始に向けたその他の準備も行われるが、その他の準備に関する図示は省略する。復帰工程を終えると、紡糸設備1が通常に稼働し、生産中となる。
【0078】
[2-2-8.作用効果等]
このような本発明に係るメンテナンス工程では、上述したように、少なくとも紡糸ビーム21に対して冷却装置3を下方に移動させた状態において、紡糸筒31への冷却風CFの供給が停止される。そのため、紡糸筒31から上方に向かう冷却風CFを停止させることができる。その結果、口金24及びその周辺温度の低下を、抑制することができる。
【0079】
なお、上述の本発明に係るメンテナンス工程では、紡糸筒31への冷却風CFの供給を停止することを前提として説明したが、紡糸筒31への冷却風CFの供給を停止することに代えて、紡糸筒31に供給する冷却風CFの風量を抑制するようにしてもよい。紡糸筒31に供給する冷却風CFの風量を抑制すると、紡糸筒31の上側の開口部から口金24に向かう冷却風CFの風量が抑制されるため、口金24及びその周辺温度の低下を抑制することができる。よって、稼働状態に復帰した後、口金24及びその周辺温度が元の温度に復帰するまでの時間を短縮することが可能となり、廃棄される糸の量を削減することができる。
【0080】
本発明の係るメンテナンス工程は上述したとおりであるが、従来のメンテナンス工程において顕在していた問題を解決するためのメンテナンス工程は、これに限られない。以下に、変形例に係るメンテナンス工程について説明する。
【0081】
[2-3.変形例に係るメンテナンス工程]
変形例に係るメンテナンス工程について、
図21~
図27を参照して説明する。生産中すなわち稼働状態における紡糸設備1の状態は
図1と同様であるため、稼働状態における紡糸設備1の状態を示す図面については省略する。
【0082】
変形例に係るメンテナンス工程が本発明に係るメンテナンス工程と比べて大きく異なる点は、少なくとも紡糸ビーム21に対して冷却装置3を下降させている間、上下方向における紡糸装置2と冷却装置3との間の作業空間Swに、横風SFを送風している点である。なお、メンテナンス工程において、紡糸筒31に冷却風CFが供給されない点は、本発明の係るメンテナンス工程と同じである。
【0083】
図1に示されるように、紡糸設備1の稼働中、紡糸ビーム21の下端と冷却装置3の上端とが当接している。紡糸設備1の稼働中、口金24から溶融ポリマーPが紡出され、ダクト32(
図4参照)を介して第1の圧空源37から紡糸筒31に冷却風CFが供給される。紡糸筒31に供給された冷却風CFは、略水平方向に中空部CEに流れ込み、口金24から紡出された溶融ポリマーPを冷却する。なお、紡糸設備1の稼働中、エアノズル62から横風SFは放出されていない。
【0084】
[2-3-1.準備工程]
図21は、溶融ポリマーPの紡出が停止されたときの紡糸設備1の一部を示す概略図の一例である。紡糸設備1のメンテナンスを行う場合、先ず、
図21に示されるように、口金24からの溶融ポリマーPの紡出を停止する。溶融ポリマーPの紡出の停止は、例えばオペレータの操作に応じて制御装置7により実行される。送風装置6は、運転を停止しており、第2の圧空源66からエアノズル62への空気の供給がないため、エアノズル62から横風SFは放出されていない。
【0085】
制御装置7は、溶融ポリマーPの紡出を停止した後、第1の圧空源37の運転を停止し、紡糸筒31への冷却風CFの供給を停止する。紡糸筒31への冷却風CFの供給を停止することにより、紡糸筒31の上側の開口部から口金24に冷却風CFが向かうことを防ぐことができ、口金24及びその周辺温度が大きく低下することを抑制できる。
【0086】
図22は、紡糸ビーム21に対して冷却装置3を下端まで下降させたときの紡糸設備1の一部を示す概略図の一例である。制御装置7は、紡糸筒31への冷却風CFの供給を停止すると、
図22に示されるように、エアシリンダ5を縮方向に作動させて、紡糸ビーム21に対して冷却装置3を下降させる。紡糸ビーム21に対して冷却装置3を下降させると、上下方向における紡糸装置2と冷却装置3との間に作業空間Swが形成される。紡糸ビーム21に対して冷却装置3が下降すると、オペレータは、紡糸筒31の上側の開口部をカバー42で覆う作業を行う。ただし、紡糸筒31への冷却風CFの供給が停止しているため、紡糸筒31の上側の開口部をカバー42で覆う作業は必須でない。送風装置6は、運転を停止しており、第2の圧空源66からエアノズル62への圧縮空気の供給がないため、エアノズル62から横風SFは放出されていない。
【0087】
なお、溶融ポリマーPの紡出を停止させるタイミングは、紡糸ビーム21に対する冷却装置3の下降開始前であることが好ましいが、これに限定されず、紡糸ビーム21に対して冷却装置3の下降中であってもよいし、糸ビーム21に対して冷却装置3を下端まで下降させた後であってもよい。
【0088】
また、紡糸筒31への冷却風CFの供給を停止させるタイミングは、溶融ポリマーPの紡出を停止した後に限定されず、溶融ポリマーPの紡出を停止する前であってもよいし、溶融ポリマーPの紡出の停止とほぼ同時であってもよい。
【0089】
[2-3-2.メンテナンス本工程]
紡糸ビーム21に対して冷却装置3が下降し、必須ではないが紡糸筒31の上側の開口部をカバー42で覆った後、オペレータは、口金24の面掃や紡糸パック23の交換等、目的に応じたメンテナンスを行う。メンテナンスに要する時間は、メンテナンスの内容にもよるが、概ね10分である。
【0090】
[2-3-3.溶融ポリマー紡出再開工程]
図23は、溶融ポリマーPの紡出が再開された後の紡糸設備1の一部を示す概略図の一例である。メンテナンスが行われた後、制御装置7は、例えばオペレータの操作に応じて、
図23に示されるように、口金24からの溶融ポリマーPの紡出を開始(再開)する。また、紡糸筒31の上側の開口部がカバー42で覆われている場合、オペレータは、紡糸筒31の上側の開口部を覆ったカバー42を取り外す作業を行う。
【0091】
[2-3-4.温度低下抑制工程]
上述した紡糸筒31への冷却風CFの供給を停止する工程は、温度低下抑制工程に含まれる。なお、紡糸筒31への冷却風CFの供給を停止するタイミングは上述したとおりであるが、紡糸筒31の上側の開口部がカバー42で覆われていた場合は、少なくともカバー42が取り外されるまでに、紡糸筒31への冷却風CFを停止させればよい。紡糸筒31の上側の開口部がカバー42で覆われている間は、紡糸筒31の上側の開口部から口金24に冷却風CFが向かうことをカバー42によって防ぐことができるからである。
【0092】
図24は、冷却装置3の運転を開始したときの紡糸設備1の一部を示す概略図の一例である。制御装置7は、溶融ポリマーPの紡出を再開した後、送風装置6の運転を開始する。送風装置6の運転が開始されると、上下方向における紡糸装置2と冷却装置3との間の作業空間Swにおいて、口金24から紡出された溶融ポリマーPに向けて略水平方向に、エアノズル62から横風SFが放出される。作業空間Swにおいて、口金24から紡出された溶融ポリマーPに向けて略水平方向に、エアノズル62から横風SFを放出する送風工程も、温度低下抑制工程に含まれる。
【0093】
送風装置6の運転の開始は、紡糸筒31の上側の開口部を覆ったカバー42を取り外した後であってもよいし、紡糸筒31の上側の開口部を覆ったカバー42を取り外す前であってもよい。このとき、紡糸筒31に冷却風CFが供給されていないため、紡糸筒31の上側の開口部から上方に向かう冷却風CFによって口金24及びその周辺温度が大きく低下することを抑制できる。
【0094】
なお、送風装置6の運転を開始するタイミングは、溶融ポリマーPの紡出を再開した後に限定されず、口金24の溶融ポリマーPの紡出を再開する前であってもよい。
【0095】
ところで、上述したように、紡糸筒31への冷却風CFの供給が停止されているため、口金24及びその周辺温度の低下を抑制することができる。その一方、紡糸筒31への冷却風CFの供給を停止すると、口金24から紡出される溶融ポリマーPを、紡糸筒31に供給される冷却風CFによって冷却固化させることができない。口金24から紡出された溶融ポリマーPが冷却固化されなければ、メンテナンス終了後に紡糸筒31への糸通しを行うことが困難となるおそれがある。しかし、作業空間Swにおいて、口金24から紡出された溶融ポリマーPに向けてエアノズル62から横風SFを放出することにより、口金24から放出された溶融ポリマーPを冷却固化させることができる。その結果、口金24及びその周辺温度の低下を抑制しつつ、メンテナンス終了後に行われる紡糸筒31への糸通しを容易に行うことが可能となる。
【0096】
[2-3-5.糸通し工程]
図25は、紡糸筒31に糸を通す糸通し作業が行われたときの紡糸設備1の一部を示す概略図の一例である。エアノズル62からの横風SFの放出が開始されると、
図25に示されるように、オペレータは、口金24から紡出された溶融ポリマーP(又は冷却固化された糸Y)を紡糸筒31に通す糸通し作業を行う。このとき、口金24から紡出された溶融ポリマーPは、エアノズル62から放出される横風SFによって冷却固化される。そのため、オペレータは、道具を使用せずに糸通し作業を行うことができる。
【0097】
[2-3-6.復帰工程]
図26は、紡糸ビーム21に対して冷却装置3を上端まで上昇させたときの紡糸設備1の一部を示す概略図の一例である。紡糸筒31への糸通し作業が行われた後、制御装置7は、
図26に示されるように、例えばオペレータの操作に応じてエアシリンダ5を拡方向に作動させて、紡糸ビーム21に近付くように冷却装置3を上昇させる。制御装置7は、紡糸ビーム21と冷却装置3とが当接するとエアシリンダ5の作動を停止し、冷却装置3の上昇を停止させる。また、制御装置7は、紡糸ビーム21と冷却装置3とが当接して冷却装置3の上昇が停止すると、送風装置6の運転を停止し、エアノズル62からの横風SFの放出を停止し、送風工程を終了する。エアノズル62からの横風SFの放出を停止させるタイミングは、紡糸ビーム21と冷却装置3とが当接して冷却装置3の上昇が停止したときであることが好ましい。口金24から紡出された溶融ポリマーPを冷却固化させることができるからである。ただし、紡糸ビーム21に対して冷却装置3を上昇させる前、又は、紡糸ビーム21に近付くように冷却装置3を上昇させている途中に、エアノズル62からの横風SFの放出を停止させるようにしてもよい。なお、紡糸ビーム21と冷却装置3とが当接すると、紡糸筒31の上側の開口部が塞がり、中空部CEに流れ込む冷却風CFの全部又は大部分が下方に向けて流れ、送風工程を終了したとしても、口金24や口金24の周辺温度の低下を抑制することができる。その結果、口金24や口金24の周辺温度が元の温度に復帰するまでの時間ひいては糸物性が安定するまでの時間を短縮することが可能となる。
【0098】
また、紡糸ビーム21に対する冷却装置3の上昇が停止した後、オペレータは、油剤付与装置8への糸掛けを行う。油剤付与装置8への糸掛けを行うタイミングは、紡糸ビーム21に対して冷却装置3が上昇した後に限定されず、紡糸ビーム21に対する冷却装置3の上昇を開始する前、又は、紡糸ビーム21に対する冷却装置3の上昇中であってもよいが、エアノズル62からの横風SFの放出を停止した後であることが好ましい。
【0099】
図27は、生産中すなわち稼働状態に復帰したときの紡糸設備1の一部を示す概略図の一例である。制御装置7は、紡糸ビーム21と冷却装置3とが当接して冷却装置3の上昇が停止すると、第1の圧空源37の運転を再開して紡糸筒31への冷却風CFの供給を開始する。
【0100】
なお、復帰工程では生産開始に向けたその他の準備も行われるが、その他の準備に関する図示は省略する。復帰工程を終えると、紡糸設備1が通常に稼働し、生産中となる。
【0101】
なお、紡糸筒31への冷却風CFの供給を開始するタイミングは、紡糸ビーム21と冷却装置3とが当接して冷却装置3の上昇が停止したときに限定されない。例えば、上下方向における紡糸装置2と冷却装置3との間をエアノズル62から放出された横風SFが流れている場合であれば、冷却装置3が下端にあるときに、紡糸筒31への冷却風CFの供給を開始してもよい。冷却装置3が下端にあるときに紡糸筒31への冷却風CFの供給が開始されると、紡糸筒31の上側の開口部から口金24に向けて冷却風CFが流れる可能性がある。しかし、エアノズル62から放出された横風SFがバリアとして機能するため、口金24及びその周辺温度の低下を抑制できる。
【0102】
[2-3-7.作用効果等]
上述の変形例に係るメンテナンス工程では、少なくとも紡糸ビーム21に対して冷却装置3を下方に移動させた状態において、紡糸筒31への冷却風CFの供給が停止される。そのため、紡糸筒31の上側の開口部から口金24に向かう冷却風CFを停止させることができる。その結果、口金24及びその周辺温度の低下を、抑制することができる。
【0103】
なお、上述の変形例に係るメンテナンス工程では、紡糸筒31への冷却風CFの供給を停止することを前提として説明したが、紡糸筒31への冷却風CFの供給を停止することに代えて、紡糸筒31に供給する冷却風CFの風量を抑制するようにしてもよい。紡糸筒31に供給する冷却風CFの風量を抑制すると、紡糸筒31の上側の開口部から口金24に向かう冷却風CFの風量が抑制されるため、口金24及びその周辺温度の低下を抑制することができる。なお、紡糸筒31に供給する冷却風CFの風量の抑制は、少なくとも、生産中すなわち溶融ポリマーPの紡出が停止される前と比べて抑制されるとよい。
【0104】
ところで、紡糸設備1のメンテナンスを行うときに紡糸筒31への冷却風CFの供給を停止したり冷却風CFの供給量を抑制したりすると、口金24から紡出された溶融ポリマーPが冷却固化されず、メンテナンス終了後に行われる紡糸筒31への糸通し作業が困難となるおそれがある。しかし、エアノズル62から放出される横風SFは、口金24から紡出された溶融ポリマーPの糸道と交差する方向に向けて流れるため、口金24から紡出された溶融ポリマーPを冷却固化させることが可能となる。そのため、口金24及びその周辺温度の低下を抑制しつつ、メンテナンス終了後に行われる紡糸筒への糸通しを容易に行うことが可能となる。その結果、稼働状態に復帰した後、口金24及びその周辺温度が元の温度に復帰するまでの時間を短縮することが可能となり、廃棄される糸の量を削減することができる。
【0105】
[3.本発明又は変形例に係るメンテナンス工程の検証結果]
上述の本発明に係るメンテナンス工程又は変形例に係るメンテナンス工程によりメンテナンスを行った場合、稼働状態に復帰後、糸物性が正常に戻るまでの時短を短縮することが可能となった。
図28は、本発明に係るメンテナンス工程によりメンテナンスを行い、稼働状態に復帰後、時間の経過とともに変化する丸編染色評価の結果を示す模式図である。
図29は、従来のメンテナンス工程によりメンテナンスを行った場合と、変形例のメンテナンス工程によりメンテナンスを行った場合とにおいて、稼働状態に復帰後、時間の経過とともに変化する糸の熱応力及び解撚張力の結果の一例を示すグラフである。
【0106】
図28に示されるように、丸編染色評価の結果は、稼働状態に復帰後、概ね15分経過後にはB.Mに近い色となり、正常糸と判断される。このように、従来のメンテナンス工程によりメンテナンスを行った場合と比べて、正常糸と判断されるまでに要する時間を大幅に短縮することが可能となった。
【0107】
また、
図29に示されるように、解撚張力及び熱応力は、いずれも、従来のメンテナンス工程によりメンテナンスを行った場合よりも、変形例のメンテナンス工程によりメンテナンスを行った場合の方が良好な結果を示していることが明らかである。
【0108】
図30は、従来のメンテナンス工程と本発明のメンテナンス工程と変形例のメンテナンス工程とにおいて、メンテナンスを開始してから、時間の経過に応じた口金24の表面温度の変化の一例を示すグラフである。
図30中に示される(a)は、従来のメンテナンス工程において、メンテナンスを開始してから、時間の経過に応じた口金24の表面温度の変化の一例を示す。
図30中に示される(b)は、本発明に係るメンテナンス工程において、メンテナンスを開始してから、時間の経過に応じた口金24の表面温度の変化の一例を示す。
図30中に示される(c)は、変形例に係るメンテナンス工程において、メンテナンスを開始してから、時間の経過に応じた口金24の表面温度の変化の一例を示す。
【0109】
図30に示されるように、従来のメンテナンス工程、本発明のメンテナンス工程及び変形例のメンテナンス工程のいずれにおいても、紡糸ビーム21に対して冷却装置3を下降させたときに口金24の表面温度が低下することが分かる。ただし、メンテナンスが終了し、冷却装置3を上昇させてから口金24の表面温度が元の温度に戻るまでの時間は、従来のメンテナンス工程と比べて、本発明のメンテナンス工程及び変形例のメンテナンス工程の方が短い。従来のメンテナンス工程によりメンテナンスを行った場合、冷却装置3を上昇させるときに、紡糸筒31の上側の開口部から上方に向かう冷却風CFによって口金24及びその周辺温度が大きく低下してしまうからであると考えられる。この点、本発明のメンテナンス工程では、紡糸筒31に冷却風CFが供給されないため、紡糸筒31の上側の開口部から上方に向かう冷却風CF自体がないか、又は、紡糸筒31の上側の開口部から上方に向かい冷却風CFの風量が抑制されるため、口金24の表面温度の低下を抑制することができる。また、変形例のメンテナンス工程では、紡糸筒31に供給された冷却風CFが上方に向かうものの、この冷却風CFは、冷却装置3のエアノズル62から放出される横風SFによって阻まれるため、口金24の表面温度の低下を抑制することができる。
【符号の説明】
【0110】
1 紡糸設備
3 冷却装置
5 エアシリンダ
6 送風装置
7 制御装置
21 紡糸ビーム
23 紡糸パック
24 口金
31 紡糸筒
P 溶融ポリマー
CF 冷却風
Sw 作業空間