(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023010280
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 70/58 20060101AFI20230113BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20230113BHJP
C08K 3/40 20060101ALI20230113BHJP
B29C 70/28 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
B29C70/58
C08L101/00
C08K3/40
B29C70/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021114302
(22)【出願日】2021-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】521305273
【氏名又は名称】ジュネスプロパティーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(74)【代理人】
【識別番号】100143096
【弁理士】
【氏名又は名称】山岸 忠義
(72)【発明者】
【氏名】山田 邦久
【テーマコード(参考)】
4F205
4J002
【Fターム(参考)】
4F205AA24
4F205AB15A
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(57)【要約】
【課題】割れにくく、高級感があり、混合ムラの発生が抑制されたガラスと樹脂との複合材料からなる成形品を提供する。
【解決手段】
本発明の成形品の製造方法は、ガラスと樹脂とを含有する複合材料を加熱成形して成形品を製造する方法であって、(a)低融点ガラスおよび第1樹脂を含有する混合物を100℃以上の条件下で水と接触させてなる熱水処理物と、(b)第2樹脂とを含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスと樹脂とを含有する複合材料を加熱成形して成形品を製造する方法であって、
前記複合材料が、(a)低融点ガラスおよび第1樹脂を含有する混合物を100℃以上の条件下で水と接触させてなる熱水処理物と、(b)第2樹脂とを含有することを特徴とする、成形品の製造方法。
【請求項2】
前記熱水処理物および前記第2樹脂の合計に対する前記第2樹脂の配合割合が、50質量%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記熱水処理物および前記第2樹脂の合計に対する前記第2樹脂の配合割合が、80質量%以上であることを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記混合物における前記低融点ガラスの配合割合が、50質量%以上85質量%以下であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第1樹脂は、飽和ポリエステルであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記第1樹脂および前記第2樹脂は、同一種類であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスと樹脂との複合材料からなる成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コップなどの透明食器の材料として、ガラスやプラスチックが用いられている。ガラス製食器は、透明感や高級感の点で優れており、一方、プラスチック製食器は、割れにくさ(耐衝撃性)や軽量性の点で優れるため、これらの材料は、適材適所で使い分けがなされている。例えば、飛行機などの移動車両では、搭載重量や、揺れによる落下破損対策の観点から、プラスチック製食器の方が好まれて使用される。
【0003】
また、近年、非常に割れにくく、透明性に優れる樹脂として、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートが開発され、コップやワイングラスなどの飲用容器に使用されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート製の食器は、その軽量性のため、手に取ると、重量感(重厚感)がなく、高級感に欠けていることから、高級感が求められる場所での使用に適しない場合がある。一方、純粋なガラス製の食器は、落とすと、破損してまう。そこで、本発明者は、ガラス製とプラスチック製のそれぞれの長所を兼ね備える食器を提供するため、ガラスと樹脂とを混合することを検討した。
【0006】
しかしながら、ガラスと樹脂とは、それぞれ無機物と有機物とであるため、相溶性または親和性が低く、ガラス部分や樹脂部分がそれぞれ分離して斑模様などの混合ムラが発生する不具合が生じる。また、ガラスの混合が、樹脂の有する特性を大幅に低減させてしまい、かえって非常に割れやすくなる場合も生じる。
【0007】
本発明の課題は、ガラスと樹脂との複合材料からなる成形品であって、割れにくく、高級感があり、混合ムラの発生が抑制された成形品を提供する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記点に鑑み、鋭意検討したところ、成形品の材料として特定の処理を実施した材料を用いることにより、上記課題を解決するに至った。すなわち、本発明は、下記項に記載の発明に関する。
【0009】
<項1>ガラスと樹脂とを含有する複合材料を加熱成形して成形品を製造する方法であって、前記複合材料が、(a)低融点ガラスおよび第1樹脂を含有する混合物を100℃以上の条件下で水と接触させてなる熱水処理物と、(b)第2樹脂とを含有することを特徴とする、成形品の製造方法。
【0010】
<項2>前記熱水処理物および前記第2樹脂の合計に対する前記第2樹脂の配合割合が、50質量%以上であることを特徴とする、上記項1に記載の製造方法。
【0011】
<項3>前記熱水処理物および前記第2樹脂の合計に対する前記第2樹脂の配合割合が、80質量%以上であることを特徴とする、上記項2に記載の製造方法。
【0012】
<項4>前記混合物における前記低融点ガラスの配合割合が、50質量%以上85質量%以下であることを特徴とする、上記項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【0013】
<項5>前記第1樹脂は、飽和ポリエステルであることを特徴とする、上記項1~4のいずれか一項に記載の製造方法。
【0014】
<項6>前記第1樹脂および前記第2樹脂は、同一種類であることを特徴とする、上記項1~5のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のガラスと樹脂との複合材料からなる成形品は、割れにくく、高級感があり、混合ムラの発生が抑制されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のガラスと樹脂との複合材料(ガラス-樹脂複合材料;以下、「複合材料」と略する。)からなる成形品の製造方法は、(a)低融点ガラスおよび第1樹脂を含有する混合物を100℃以上の条件下で水と接触させてなる熱水処理物と、(b)第2樹脂とを含有する複合材料を用意し、この複合材料を加熱成形する。具体的には、成形品の製造方法は、好ましくは、熱水処理物調製工程、複合材料調製工程、および、成形工程を順に備える。以下、各工程を詳細に説明する。
【0017】
1.熱水処理物調製工程
熱水処理物調製工程では、熱水処理物を調製する。具体的には、低融点ガラスおよび第1樹脂を含有する混合物を、高温条件で水と接触させる。
【0018】
本発明における低融点ガラスは、600℃以下の温度範囲において、軟化または流動するガラスである。低融点ガラスのガラス転移点(または融点)は、好ましくは、500℃以下、好ましくは、400℃以下であり、また、例えば、200℃以上、好ましくは、300℃以上である。低融点ガラスを用いることにより、高温条件下(熱水処理)で低融点ガラスが第1樹脂に相溶または均一分散して、後述する成形工程時に熱水処理物が第2樹脂と均一に混合することができる。そのため、成形品の混合ムラを抑制しつつ、良好な耐衝撃性(割れにくさ)などの特性を発揮することができる。なお、本発明におけるガラス転移点は、示差走査熱量測定(DSC)を用いて、加熱温度10℃/分の条件で測定することができる。
【0019】
低融点ガラスとしては、例えば、ホウ酸塩系ガラス、珪酸塩系ガラス、鉛系ガラス、バナジン酸塩系ガラス、リン酸塩系ガラス、ヒ酸塩系ガラス、ゲルマネート系ガラス、テルライドガラス、カルコゲナイド系ガラスなどが挙げられる。食品用途の観点から、好ましくは、ホウ酸塩系ガラス、リン酸塩系ガラスが挙げられ、より好ましくは、ホウ酸塩系ガラスが挙げられる。
【0020】
ホウ酸塩系ガラスは、酸化ホウ素を含有していればよく、例えば、P2O5-Al2O3-R2O-B2O3-F、Bi2O3-B2O3-ZnO、SiO2-Al2O3-B2O3-R2O-CaO、B2O3-PbO-ZnO、B2O3-PbO-SiO2、ZnO-B2O3-PbO、ZnO-B2O3-SiO2などが挙げられる。なお、上記Rは、Li、Na、K、Rb、または、Csである。
【0021】
リン酸塩系ガラスは、リン酸を含有していればよく、例えば、P2O5-Al2O3-B2O3、P2O5-Al2O3-Li2O、P2O5-ZnO-Li2O、P2O5-ZnO-Na2O、P2O5-ZnO-K2O、P2O5-SnO-ZnOなどが挙げられる。
【0022】
低融点ガラスの比重は、第1樹脂および第2樹脂よりも大きければよく、例えば、2.0以上、好ましくは、2.5以上であり、例えば、10以下、好ましくは、8.0以下である。低融点ガラスの比重が上記範囲であれば、成形品を手に取ったときに、適度な重量感を付与し、高級感を感じさせることができる。
【0023】
本発明における比重は、JIS Z 8807:2012「固体の密度及び比重の測定方法」に記載の方法(例えば、比重瓶及びルシャトリエ比重瓶を使用した方法)を用いて測定することができる。また、組成による計算値から算出することもできる。
【0024】
低融点ガラスの形状は、例えば、粉末状、顆粒状、ペレット状などが挙げられ、好ましくは、粒状である。これにより、高温条件下でガラスが第1樹脂と相溶し易くなり、より均一に混合することができる。
【0025】
粒子径D50は、例えば、100μm以下、好ましくは、80μm以下、より好ましくは、50μm以下であり、また、例えば、1μm以上である。粒子径が上記上限以下であれば、成形品において、ガラス成分が塊として肉眼で認識されることを抑制することができる。なお、本発明における粒子径D50は、レーザー回折式粒度分布計を用いて測定することができる。
【0026】
第1樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂(熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂など)などが挙げられ、成形性などの観点から、好ましくは、熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0027】
熱可塑性樹脂としては、例えば、飽和ポリエステル、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリサルフォン、ポリテトラフロロエチレン、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂、エチレン-オレフィン系共重合体、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン系重合体などが挙げられる。これら熱可塑性樹脂は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
好ましくは、耐衝撃性および透明性の観点から、飽和ポリエステル、ポリカーボネートが挙げられ、より好ましくは、BPAフリーで食器用途に適していることから、飽和ポリエステルが挙げられる。
【0029】
飽和ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートなどが挙げられる。耐衝撃性の観点から、好ましくは、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートが挙げられる。
【0030】
飽和ポリエステルの市販品としては、例えば、イーストマンケミカル社製のトライタン(登録商標)(FX100、FX200、TX1001、TX2001、TX1501HF、TX1801)、三井化学社製の三井PET、クラレ社のクラペットなどが挙げられる。
【0031】
熱可塑性樹脂のガラス転移点(Tg)は、例えば、200℃以下、好ましくは、150℃以下、より好ましくは、120℃以下であり、また、例えば、80℃以上、好ましくは、110℃以上である。ガラス転移点が上記上限以下であれば、高温条件下で第1樹脂が容易に溶解して、低融点ガラスと均一に混合することができる。一方、ガラス転移点が上記下限以上であれば、成形品の耐熱性が優れる。
【0032】
樹脂の比重は、例えば、0.9以上、好ましくは、1.0以上であり、また、例えば、1.5以下、好ましくは、1.2以下である。
【0033】
混合物には、上記以外の成分として、充填材、着色剤、酸化防止剤、滑剤などの公知の添加剤を適宜の量で配合してもよい。
【0034】
熱水処理物調製工程では、まず、低融点ガラスと第1樹脂とを混合して、混合物を得る。具体的には、攪拌機能を内蔵した密閉可能な反応容器を用意し、その内部に低融点ガラスおよび第1樹脂を投入する。
【0035】
攪拌機能としては、例えば、攪拌羽根、スクリュー、ボールミル、ロールミルなどの公知または市販の攪拌機または混合機などが挙げられる。
【0036】
混合物(ひいては熱水処理物)中における低融点ガラスの配合割合(含有割合)は、例えば、50質量%以上、好ましくは、55質量%以上、より好ましくは、60質量%以上であり、また、例えば、95質量%以下、好ましくは、85質量%以下、より好ましくは、80質量%以下である。低融点ガラスの配合割合が上記下限以上であれば、成形品に高級感を確実に付与することができる。一方、低融点ガラスの配合割合が上記上限以下であれば、ガラスの過剰量に起因する成形品の混合ムラをより確実に抑制することができる。
【0037】
混合物中における第1樹脂の配合割合は、例えば、5質量%以上、好ましくは、20質量%以上であり、また、例えば、50質量%以下、好ましくは、40質量%以下である。第1樹脂の配合割合が上記下限以上であれば、第1樹脂および第2樹脂の相溶性のため、後述する成形工程時に熱水処理物が第2樹脂により一層均一に混合することができ、成形品の混合ムラをより確実に抑制することができる。一方、第1樹脂の配合割合が上記上限以下であれば、第1樹脂が高温条件下で多量に炭化することを防止して、成形品における黒色ないし茶色への着色を抑制して、透明性や色味(白色)を良好にすることができる。
【0038】
次いで、低融点ガラスおよび第1樹脂を攪拌しながら、反応器内の温度を上昇させ、反応容器内に水を投入する。
【0039】
水の投入割合は、混合物が充分に濡れる程度の量であればよく、混合物100質量部に対して、例えば、1質量部以上、好ましくは、10質量部以上であり、また、例えば、1000質量部以下、好ましくは、500質量部以下である。水の投入割合が上記下限以上であれば、熱水(高温条件の水)が確実に混合物に対し作用し、所望の熱水処理物を得ることができる。一方、水の投入割合が上記上限以下であれば、水過剰に起因する熱水処理物のスラリー化を抑制することができ、熱水処理物を塊状や粉末状などの固形物として得ることができる。
【0040】
密閉容器内を所定の温度に達した後、一定の時間、高温条件下で、混合物および水を攪拌させる。好ましくは、混合物を攪拌しながら、水熱合成処理を実施する。
【0041】
温度は、100℃以上であり、好ましくは、110℃以上、より好ましくは、120℃以上である。温度が上記下限以上であれば、熱水が混合物に作用して、低融点ガラスと第1樹脂とを相溶させることができ、所望の熱水処理物を得ることができる。また、上限は、例えば、400℃以下、好ましくは、300℃以下、より好ましくは、200℃以下である。
【0042】
処理時間は、例えば、3秒以上、好ましくは、5秒以上であり、また、例えば、10分以下、好ましくは、5分以下である。処理時間が上記下限以上であれば、充分な時間、熱水を混合物に接触させることができ、所望の熱水処理物を得ることができる。一方、処理時間が上記上限以下であれば、熱水処理効果の飽和時間を低減して、コスト低減や作業効率向上を図ることができる。
【0043】
圧力は、密閉容器内での加熱であるため、容器内は常温よりも高い圧力となっている。例えば、0.1MP以上、好ましくは、1MPa以上であり、また、例えば、22MPa以下、好ましくは、10MPa以下である。
【0044】
攪拌は、好ましくは、混合物および水を高温条件下で接触させている際も継続して実施する。
【0045】
以上の工程により、熱水処理物を得られる。熱水処理物は、固体であって、例えば、不定形破砕状、塊状(ブロック状)、または、これらの混合物のいずれの形状であってもよく、好ましくは、塊状である。
【0046】
必要に応じて、例えば、熱水処理物を粒子径100μm以下の微粉末状に粉砕して複合材料調製工程に使用してもよく、また、粉砕せずに塊状の熱水処理物をそのまま複合材料調製工程に使用してもよい。
【0047】
2.複合材料調製工程
複合材料調製工程では、熱水処理物および第2樹脂を混合して、成形品の原料である複合材料を得る。
【0048】
第2樹脂は、上記第1樹脂で例示した樹脂と同様の樹脂が挙げられる。好ましくは、成形性の観点から、熱可塑性樹脂が挙げられ、より好ましくは、耐衝撃性および透明性の観点から、飽和ポリエステル、ポリカーボネートが挙げられ、さらに好ましくは、BPAフリーで食器用途に適していることから、飽和ポリエステルが挙げられる。第2樹脂のガラス転移点および比重も、第1樹脂で例示したガラス転移点および比重の範囲と同様である。
【0049】
第2樹脂は、好ましくは、第1樹脂と同一種類のものを使用する。第2樹脂と第1樹脂とが同一種類であるとは、樹脂を重合する際に主鎖を構成する主モノマーが互いに一致していることを意味し、主モノマーとは、当該樹脂が構成するモノマー成分のなかで最も高い含有割合を有するものである。
【0050】
具体的には、好ましくは、第1樹脂および第2樹脂は、ともに、ポリエステルが挙げられ、より好ましくは、飽和ポリエステルが挙げられる。これにより、成形品は、耐衝撃性に優れる食器として好適に使用することができる。
【0051】
熱水処理物および第2樹脂の合計(ひいては、複合材料全量)に対する熱水処理物の配合割合(含有割合)は、例えば、1質量%以上、好ましくは、3質量%以上、より好ましくは、5質量%以上であり、また、例えば、50質量%以下、好ましくは、40質量%以下、より好ましくは、20質量%以下である。熱水処理物の配合割合が上記下限以上であれば、ガラスの特性、特に高級感を良好にすることができる。一方、熱水処理物の配合割合が上記上限以下であれば、成形品の混合ムラをより確実に抑制することができる。
【0052】
熱水処理物および第2樹脂の合計に対する第2樹脂の配合割合は、例えば、50質量%以上、好ましくは、60質量%以上、より好ましくは、80質量%以上であり、また、例えば、99質量%以下、好ましくは、97質量%以下、より好ましくは、95質量%以下である。第2樹脂の配合割合が上記下限以上であれば、成形品の耐衝撃性を良好にしたまま、成形品の混合ムラをより確実に抑制することができる。また、成形品の着色を抑制し、透明性や色味に優れる。一方、第2樹脂の配合割合が上記上限以下であれば、高級感を良好にすることができる。
【0053】
複合材料調製工程では、熱水処理物に第2樹脂を添加した際に、公知の方法で適宜混錬を実施してもよい。
【0054】
これにより、所望の複合材料を得ることができる。複合材料は、粉末状、顆粒状、ペレット状、不定形破砕状、塊状のいずれの形態であってもよく、通常は、塊状である。
【0055】
複合材料は、熱水処理物と第2樹脂とを含有する。複合材料では、好ましくは、マトリックス樹脂としての第2樹脂中に、熱水処理物が均一にまたは偏在して存在している。複合材料は、熱水処理された樹脂(第1樹脂)と、熱水処理されていない樹脂(第2樹脂)とを含んでいる。
【0056】
また、複合材料に、上記以外の成分として、充填材、着色剤、酸化防止剤、滑剤などの公知の添加剤を適宜の量で配合してもよい。
【0057】
3.成形工程
成形工程では、複合材料を所望の形状に加熱成形する。好ましくは、溶融成形する。
【0058】
成形方法としては、公知の方法が使用でき、例えば、射出成形法、ブロー成形法、押出成形法、圧縮成形法、真空成型法、粉末成形法、カレンダー成形法などが挙げられ、好ましくは、射出成形法が挙げられる。
【0059】
成形時の加熱温度は、例えば、150℃以上、好ましくは、200℃以上であり、また、例えば、400℃以下、好ましくは、300℃以下である。成形温度が上記下限以上であれば、第1樹脂および第2樹脂がより確実に溶融および流動し、低融点ガラス、第1樹脂および第2樹脂が均一に混合され、所望の成形品を得ることができる。一方、成形温度が上記上限以下であれば、樹脂の炭化による着色を抑制することができる。
【0060】
これにより、ガラスと樹脂との複合材料から成形品が得られる。本発明の製造法方法により得られる成形品は、(a)上記熱水処理物と(b)第2樹脂とを含有する複合材料を用いて、加熱成形されているため、割れにくく、高級感があり、混合ムラの発生が抑制されている。特に、ガラスを含んでいるため、純粋なプラスチック製品よりも重量感があり、手にした際に高級感を感じることができる。また、割れにくく、混合ムラが抑制されている。これは、本発明の製造方法では、成形品原料に含まれる熱水処理物が、第1樹脂および/または低融点ガラスが熱水によって化学変化し、かつ、両者が均一に混合されている形態であるため、熱水処理物は第2樹脂とともに加熱成形される際に、マトリックスである第2樹脂に対し高い相溶性または親和性を示し、低融点ガラスが第1樹脂とともに第2樹脂中に均一に相溶ないし分散されているためと推察されるが、本発明は当該推察に限定されない。
【0061】
成形品における低融点ガラスの配合割合は、例えば、0.5質量%以上、好ましくは、1質量%以上、より好ましくは、2質量%以上であり、また、例えば、40質量%以下、好ましくは、20質量%以下、より好ましくは、10質量%以下である。ガラスの配合割合が上記下限以上であれば、成形品の高級感が向上する。一方、ガラスの配合割合が上記上限以下であれば、成形品の混合ムラや着色をより確実に抑制することができる。
【0062】
成形品における樹脂全量(第1樹脂および第2樹脂の合計)の配合割合は、例えば、60質量%以上、好ましくは、80質量%以上、より好ましくは、90質量%以上であり、また、例えば、99.5質量%以下、好ましくは、99質量%以下、より好ましくは、98質量%以下である。樹脂全量の配合割合が上記下限以上であれば、成形品の耐衝撃性が向上する。一方、樹脂全量の配合割合が上記上限以下であれば、成形品の高級感が向上する。
【0063】
また、成形品における第1樹脂の配合割合は、例えば、0.1質量%以上、好ましくは、1質量%以上、より好ましくは、2質量%以上であり、また、例えば、20質量%以下、好ましくは、10質量%以下、より好ましくは、5質量%以下である。第1樹脂の配合割合が上記下限以上であれば、成形品の混合ムラをより確実に抑制することができる。一方、第1樹脂の配合割合が上記上限以下であれば、成形品の着色をより確実に抑制することができる。
【0064】
成形品における比重は、例えば、1.2以上、好ましくは、1.3以上であり、また、例えば、2.0以下、好ましくは、1.6以下である。比重が上記範囲内であれば、食器用途において、純粋なプラスチック製食器に比して重く、適度な重量感を有するため、高級感を与えることができる。
【0065】
成形品の用途としては限定されず、従来のガラス用品、プラスチック用品に代用することができる。具体的には、食器、航空機内装品、自動車用品、家電部品、医療器具、ベビー用品などに好適に用いられ、より好ましくは、食器、特に、飲用容器(コップ、グラスなど)に用いられる。
【実施例0066】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0067】
(実施例1)
内部に攪拌羽根が設置された密閉可能な容器に、低融点ガラス7質量部および飽和ポリエステル(第1樹脂)3質量部を投入し、密閉した。続いて、混合物を攪拌しながら、容器内部を加熱した。温度上昇中に、十分な量の水を容器内に投入し、3分かけて密閉容器内の温度を120℃まで到達させた。その後、高温状態を5秒間維持した後、塊状の熱水処理物を得た。
【0068】
得られた熱水処理物10質量部に、第2樹脂として飽和ポリエステル(第1樹脂と同一)90質量部を添加して、ガラスと樹脂とからなる複合材料を得た。
【0069】
次いで、複合材料を270~280℃の加熱条件で、直径7cm高さ9cm厚み1mmの円柱形コップとなるように射出成形して、実施例1の成形品を作製した。
【0070】
(実施例2~6)
原料および配合割合を下記表1に示す割合に変更した以外は、実施例1と同様にして、それぞれ実施例2~6の成形品を作製した。
【0071】
(比較例1)
飽和ポリエステルを用意し、実施例1と同様の成形工程を実施して、成形品を作製した。
【0072】
(比較例2)
低融点ガラス10質量部および飽和ポリエステル90質量部を用意し、熱水処理を実施せずに、実施例1と同様の成形工程を実施して、成形品を作製した。
【0073】
(比較例3)
低融点ガラス20質量部および飽和ポリエステル80質量部を用意し、実施例1と同様の熱水処理を実施した。この加熱処理物に対して、第2樹脂を混合せずに、実施例1と同様の成形工程を実施して、成形品を作製した。
【0074】
(比較例4)
低融点ガラスを、ガラス(非低融点)に変更した以外は、実施例1と同様にして、成形品を作製した。
【0075】
以下に、実施例および比較例で使用した材料を示す。
・低融点ガラス:商品名「CHK-5514M」、TOMATEC社製、P2O5-Al2O3-R2O-B2O3-F系ガラス、Tg345℃、比重2.60、粒度D50:30~45μm
・ガラス(非低融点):商品名「エアロジルR972」、日本エアロジル社製、Tg1000℃超
・飽和ポリエステル:商品名「トライタンTX2001」、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、イーストマンケミカル社製、Tg113℃、比重1.17
・ポリカーボネート:商品名「ルピロンS-3001R」、三菱エンジニアリングプラスチック社製、比重1.20
・アクリル樹脂:商品名「デルペット80N」、旭化成社製、Tg105℃、比重1.19
【0076】
【0077】
以下の評価試験を実施した。各結果を表1に示す。
(1)耐衝撃性(割れにくさ)
各実施例および各比較例のコップ(成形品)を地上5m付近から落下させて、下記のように評価した。
〇:コップに割れや欠損が生じず、コップとして使用可能であった。
△:コップ表面に傷が生じたが、コップとして一応使用可能であった。
×:コップに割れや欠損が生じ、コップとして使用できなかった。特に、比較例2および4のコップは手で握ると、容易に割ることができた。
【0078】
(2)混合ムラの有無(均一性)
各実施例および各比較例のコップを肉眼にて観察し、下記のように評価した。
〇:表面の色が均一であり、白色の斑模様が全く観察されなかった。
△:白色の斑模様が僅かに観察されたが、商品として利用可能なレベルであった。
×:白色の斑模様が全体的に数多く観察された。
【0079】
(3)着色の有無
各実施例および各比較例のコップを肉眼にて観察し、下記のように評価した。
〇:表面の色が、無色透明または白色であった。
△:表面の色が、僅かに茶色味がかっていたが、商品として利用可能なレベルであった。
×:表面の色が、黒味または茶色がかっていた。
【0080】
(4)重量感(高級感)
各実施例および各比較例のコップにおいて、比較例1のコップ(従来品)と持ち比べてた。重量感が増していると感じた場合を〇と評価し、変化がなかった場合を×と評価した。また、各実施例および各比較例のコップの比重を、各材料(ガラスおよび樹脂)の比重および配合割合から算出した。