(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102829
(43)【公開日】2023-07-26
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/06 20060101AFI20230719BHJP
H01J 37/12 20060101ALI20230719BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20230719BHJP
H01J 37/14 20060101ALI20230719BHJP
H01J 23/07 20060101ALI20230719BHJP
H05H 7/08 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
H01J37/06 A
H01J37/12
H01J37/28 B
H01J37/14
H01J23/07
H05H7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003512
(22)【出願日】2022-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】500159772
【氏名又は名称】中筋 護
(72)【発明者】
【氏名】中筋 護
【テーマコード(参考)】
2G085
5C101
【Fターム(参考)】
2G085BA01
5C101AA03
5C101DD05
5C101DD13
5C101DD25
5C101DD38
5C101EE13
5C101EE19
5C101EE47
5C101EE59
5C101EE65
5C101EE78
5C101FF04
5C101GG15
5C101HH21
(57)【要約】
【課題】従来の中空ビーム形成方法では、エミッタンスを小さくするのが困難であった。また、(ビーム電流/電子銃電流)比が極端に小さく、大部分のビームはアノードや、開口で吸収されていた。従来の中実ビームでは球面収差が大きくビームを小さくすると電流が極端に小さくなる傾向があった。
【解決手段】
円環形状のカソード、ウエーネルト電極、アノードを有する電子銃でクロスオーバとカソード像とが形成される条件にし、且つクロスオーバ像がカソード像と同じ或いはその前方に形成される条件に制御することにより、ケーラー照明光学系と組み合わせ可能にした。
【選択図】
図18
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環形状の荷電粒子放出領域、荷電粒子収束電極、加速電極を有する荷電粒子源の前方に少なくとも1段のレンズを有し、上記荷電粒子源がクロスオーバ像及び上記荷電粒子放出領域の像を形成する条件にした事を特徴とする荷電粒子線装置
【請求項2】
請求項1に於いて、上記荷電粒子源はクロスオーバ像と同じ位置或いはその前方に上記荷電粒子放出領域の像を結像する条件にした事を特徴とする荷電粒子線装置
【請求項3】
請求項1に於いて、上記レンズでクロスオーバからの主光線を光軸と平行になるよう調整する事を特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項1に於いて、更にレンズを上記レンズの前方に追加し、上記荷電粒子放出領域の像を初段レンズの主面に一致させ、クロスオーバ像を2段目レンズの主面に結像し、荷電粒子放出領域の像を上記2段目のレンズで所定の面に像を形成する事を特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項1に於いて、上記レンズの前方に2段のレンズを設け、上記荷電粒子源はクロスオーバ像を初段レンズで2段目のレンズの主面に結像させ、上記荷電粒子放出領域の実像位置と初段のレンズ位置を一致させる事を特徴とする荷電粒子線装置
【請求項6】
請求項3に於いて、上記レンズの前方に更にレンズを設け、あらかじめ決められた面にクロスオーバ像を形成する事を特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項7】
請求項1に於いて、上記クロスオーバ位置に環状荷電粒子源の像を一致させた条件とし、上記第1のレンズ主面の強度分布を第2レンズであらかじめ指定された面に像を形成する事を特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項8】
請求項2に於いて、上記荷電粒子線源は上記荷電粒子源の像をクロスオーバ像と同じあるいはその前方に調整するのに、上記集束電極に与える電圧を調整する事を特徴とする荷電粒子線装置
【請求項9】
請求項1に於いて、上記荷電粒子収束電極は上記円環形状の荷電粒子放出領域の外側と内側に有し、上記2個の収束電極は互いに独立に制御可能にし、上記あらかじめ決められた面での荷電粒子線像の性能を調整する事を特徴とする荷電粒子線装置
【請求項10】
請求項9に於いて上記2個の収束電極の片方の収束電極にパルス電圧を印加し、中空のパルスビームを発生させる事を特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項11】
請求項1に於いて、上記円環形状の荷電粒子放出領域の光軸に直角方向の断面は凸面形状あるいはナイフエッジ状である事を特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項12】
請求項1に於いて、前記荷電粒子放出領域の像を形成する方法は、上記円環形状の荷電粒子放出領域の1点から少なくとも2本の角度方向に放出され電子の軌道を計算し、それらの軌道が交差する様上記荷電粒子収束電極に与える電圧を調節する事を特徴とする荷電粒子線装置
【請求項13】
請求項5に於いて、上記クロスオーバ像を2段目のレンズの主面に結像させる方法は、上記2段目のレンズ主面に開口と2段目の前方の所定の面に入射するビーム電流を測定可能の機器を設け、上記初段レンズの励起を変化させた時のビーム電流が最大になる条件に上記初段レンズの条件を決める事特徴とする荷電粒子線装置
【請求項14】
請求項5に於いて、上記クロスオーバ像を2段目のレンズの主面に結像させる方法は、上記2段目のレンズ主面に接地と絶縁された開口とその開口に入射するビーム電流を測定可能の機器を設け、上記初段レンズの励起を変化させた時の上記開口で吸収させる電流が最小になる条件に上記初段レンズの条件を決める事特徴とする荷電粒子線装置
【請求項15】
請求項1に於いて、上記円環形状の荷電粒子放出領域は、円筒形の透明材料で作成し、この円筒の片面は尖らせ、表面に導電性があり、且つ光電子放出能のある膜を形成し、複数のグラスファイバーで、上記円筒の反対方向から励起光を入射させる事を特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項16】
請求項1に於いて、上記円環形状の荷電粒子放出領域の性能を調節する場合、更に試料面とその面上にビーム評価試料を設け、中空ビームで上記試料を走査し信号の強度プロファイルを表示し、その内側と外側強度の傾斜が最大になる様上記制御電極に与える電圧を調整する事を特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項17】
請求項1に於いて、上記レンズの前方に更に2段のレンズを設け、3段目のレンズの焦点距離が、2段と3段のレンズ間隔と等しいレンズを配置する事を特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項18】
請求項2に於いて、上記荷電粒子線源は上記環状荷電粒子源の像をクロスオーバ像と同じ位置或いはそれより前方に調整するのに、上記集束電極の光軸との角度を調整する事を特徴とする荷電粒子線装置
【請求項19】
請求項17に於いて、上記1段目のレンズはクロスオーバの縮小像を形成する事を特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項20】
請求項1に於いて、上記クロスオーバ位置と環状荷電粒子源の像を一致させた条件とし、上記クロスオーバを上記2段のレンズにより指定された面に縮小像を形成する事を特徴とする荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線加速器、超高圧電子顕微鏡、あるいはマイクロ波進行波管等に使用可能な中空ビーム或いは中空円筒状ビームを形成する装置、或いは低いカソード電流密度で高輝度の中実ビームを形成する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、
【非特許文献1】に示した様に、電子銃の前方に2段のレンズを設け、ケーラー照明にする事により電子銃の輝度を大きくする事が可能で、且つその最大値はLangmuir limit を500倍程度超えることが可能である事が実験的に示されている。更に、
【非特許文献2】に示されている様に、中空ビームは、マイクロ波電子管で、ら線遅波回路と共に使用され、構造の概略図が知られている。1
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】M. Nakasuji, K. Goto and Y. Hirano, AIP Advances, 11, 035011 (2021).
【非特許文献2】山本賢三監訳、基礎電子管工学[2]、p352、広川書店 (昭和42年)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、ケーラー照明にすると輝度を高くする事が知られているが、どの様な電子銃条件にすれば、(ビーム電流/カソード電流)比を大きく出来るかは報告例がなかった。
従来の中空ビーム装置では、カソード径、環丈の穴を有するアノード径等をら線遅波回路の内径と等しくし、円環カソードから放出された電子ビームを円環状の穴を設けたアノードでビームを加速し、ら線遅波回路に入射し、ビームの発散を収束磁場で防止する構造であった。遅波回路の内径が小さい場合、あるいは大きいビーム電流が必要な場合はカソード電流密度を大きくする必要があり、例えば人口衛星に搭載し、太陽電池が作る電力を進行波管で地球に送信する場合、送信波長を短くできず、地上のアンテナが巨大化する問題があった。さらに、カソード電流密度が大きくなりカソード寿命が短くなる問題が予測された。また、加速器等のエミッタンスの小さいビームが要する装置用の電子銃は、Langmuir limitの問題からカソード材料の仕事関数を小さくするしか解がないと考えられていた。更に超高圧電子顕微鏡では、球面収差を小さくしないとビームを微小径に絞れない問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
1)請求項1 上記課題を解決するため本発明の第1の手段では、円環形状の、荷電粒子収束電極、加速電極を有する荷電粒子源の前方に少なくとも1段のレンズを有し、上記荷電粒子源がクロスオーバ像及び上記荷電粒子放出領域の像を形成する条件にした。
ここで荷電粒子が電子ビームの場合、荷電粒子放出領域はカソード、収束電極はウエーネルト、加速電極はアノードである。クロスオーバ像が形成はカソード面の1点から面に垂直或いは光軸に平行に放出された電子が光軸と交差することである。その交差位置はクロスオーバ位置である。またカソード面の1点から面に垂直或いは光軸に平行に放出された電子の軌道を主光線と呼ぶ。副光線は主光線以外のビームである。カソード像は、主光線と一定の角度で放出された電子が主光線と交差する位置に形成される。また、前方とはビームの進行方向のことである。
【0006】
2) 請求項2、上記手段1に於いて、上記荷電粒子源はクロスオーバ像と同じ位置或いはその前方に上記荷電粒子放出領域の像を結像する条件にした。
3)請求項3、上記手段1に於いて、上記レンズでクロスオーバからの主光線を光軸と平行になるよう調整する様にした。
4)請求項4、上記手段1に於いて、更にレンズを上記レンズの前方に追加し、上記荷電粒子放出領域の像を初段レンズの主面に一致させ、クロスオーバ像を2段目レンズの主面に結像し、荷電粒子放出領域の像を上記2段目のレンズで所定の面に像を形成する様にした。
5)請求項5、上記手段1に於いて、上記レンズの前方に2段のレンズを設け、上記荷電粒子源はクロスオーバ像を初段レンズで2段目のレンズの主面に結像させ、上記荷電粒子放出領域の実像位置と初段のレンズ位置を一致させる様にした。
【0007】
6)請求項6、上記手段3に於いて、上記レンズの前方に更にレンズを設け、あらかじめ決められた面にクロスオーバ像を形成する様にした。
7)請求項7、上記手段1に於いて、上記クロスオーバ位置に環状荷電粒子源の像を一致させた条件とし、上記第1のレンズ主面の強度分布を第2レンズであらかじめ指定された面に像を形成する様にした。
8)請求項8、上記手段2に於いて、上記荷電粒子線源は上記荷電粒子源の像をクロスオーバ像と同じあるいはその前方に調整するのに、上記集束電極に与える電圧を調整する様にした。
9)請求項9、上記手段1に於いて、上記荷電粒子収束電極は上記円環形状の荷電粒子放出領域の外側と内側に有し、上記2個の収束電極は互いに独立に制御可能にし、上記あらかじめ決められた面での荷電粒子線像の性能を調整する様にした。
10)請求項10、上記手段9に於いて上記2個の収束電極の片方の収束電極にパルス電圧を印加し、中空のパルスビームを発生させる様にした。
【0008】
11、請求項11、上記手段1に於いて、上記円環形状の荷電粒子放出領域の光軸に直角方向の断面は凸面形状あるいはナイフエッジ状である様にした。
12、請求項12、上記手段1に於いて、前記荷電粒子放出領域の像を形成する方法は、上記円環形状の荷電粒子放出領域の1点から少なくとも2本の角度方向に放出され電子の軌道を計算し、それらの軌道が交差する様上記荷電粒子収束電極に与える電圧を調節する様にした。
13、請求項13、上記手段5に於いて、上記クロスオーバ像を2段目のレンズの主面に結像させる方法は、上記2段目のレンズ主面に開口と2段目の前方の所定の面に入射するビーム電流を測定可能の機器を設け、上記初段レンズの励起を変化させた時のビーム電流が最大になる条件に上記初段レンズの条件を決める様にした。
14、請求項14、上記手段5に於いて、上記クロスオーバ像を2段目のレンズの主面に結像させる方法は、上記2段目のレンズ主面に接地と絶縁された開口とその開口に入射するビーム電流を測定可能の機器を設け、上記初段レンズの励起を変化させた時の上記開口で吸収させる電流が最小になる条件に上記初段レンズの条件を決める様にした。
15、請求項15、上記手段1に於いて、上記円環形状の荷電粒子放出領域は、円筒形の透明材料で作成し、この円筒の片面は尖らせ、表面に導電性があり、且つ光電子放出能のある膜を形成し、複数のグラスファイバーで、上記円筒の反対方向から励起光を入射させる様にした。
【0009】
16、請求項16、上記手段1に於いて、上記円環形状の荷電粒子放出領域の性能を調節する場合、更に試料面とその面上にビーム評価試料を設け、中空ビームで上記試料を走査し信号の強度プロファイルを表示し、その内側と外側強度の傾斜が最大になる様上記制御電極に与える電圧を調整する様にした。
17、請求項17、上記手段1に於いて、上記レンズの前方に更に2段のレンズを設け、3段目のレンズの焦点距離が、2段と3段のレンズ間隔と等しいレンズを配置する様にした。
18、請求項18、上記手段2に於いて、上記荷電粒子線源は上記環状荷電粒子源の像をクロスオーバ像と同じ位置或いはそれより前方に調整するのに、上記集束電極の光軸との角度を調整する様にした。
19、請求項19、上記手段17に於いて、上記1段目のレンズはクロスオーバの縮小像を形成する様にした。
20、請求項20、上記手段1に於いて、上記クロスオーバ位置と環状荷電粒子源の像を一致させた条件とし、上記クロスオーバを上記2段のレンズにより指定された面に縮小像を形成する様にした。
【発明の効果】
【0010】
本方法では、発明を実施するための形態で説明するように小エミッタンスの円筒状ビームをカソード電流密度の小さいカソードで形成し、輝度の高い中実ビームを成型可能にし、あるいは小口径の中空ビームを得られる。更に(ビーム電流/カソード電流)比の大きいビームが得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明を実施するための形態の電子銃の断面を示す。構造は光軸1-6を中心に回転した形状である。1-1は円環形状のカソード、1-2,1-3はそれぞれ外側及び内側のウエーネルトである。1-4はアノード、1-5はアノード穴である。1-17は外側制御電極の光軸との角度、1-18は内側制御電極の光軸との角度。
図2は両側のウエーネルトにー450V、アノードに50kVの電圧を与え、カソード面のラジアル方向の角度が-90、0、90度方向に放出された電子ビームの軌道である。主光線が光軸と交差する場所にクロスオーバ2-1が形成されている。カソード像は形成されていない。カソード付近2-2の拡大図を
図3に示す。
図3はカソード付近の-90、0、90度方向に放出された電子ビーム軌道の拡大図である。3-1は90度、3-2は0度、3-3はー90度方向の軌道である。制御電極にはー500Vの電圧が印加されている。
【0012】
図4は、ウエーネルト電圧をー500V に
図2より深くした場合である。円で示した近辺にカソード像が形成されている。この拡大図を
図5に示す。
図5で、5-1はー90度方向、5-2は0度方向、5-3は90度方向へ放出された電子の軌道である。5-2と5-3は図の中央部で交差しているが、5-1は僅かに離れている。この量は後の光学系の解像度に比べて十分小さいので、問題はない。もし問題になる大きさなら、内側ウエーネルトに印加する電圧を少し深めに調整すれば良い。
図6はウエーネルト電圧がー600Vの場合で、カソード像は6-1で示した様にクロスオーバ像より後方で、ケーラー照明のレンズ系を形成出来ない場合である。この場合、収束電極の光軸との角度1-7,1-8を調整する事によってこれらの2つの像位置をケーラー照明のレンズ系を形成出来る順序に制御できる。
図6の軌道はパルスビームを形成する場合に有用である。
図4と比較すると僅か100V電圧を深くしたのみで、カソード像6-1やクロスオーバ6-2はカソードに近くなりビームはアノード穴に当たり吸収され、その先の光学系に悪影響はない。従ってウエーネルト電極にー500Vとー600Vを交互に与えれば、-500Vの時間帯のみのパルスビームが形成され、-600Vの時間帯はアノード穴でエミッシヨンは吸収され、ビームは光学系に入射しない。外側のウエーネルト電極にのみ深い電圧にすれば更に小さい電圧変化でビームを遮断できる。
ケーラー照明条件を満たす条件を纏めると次の様になる。
1.実のクロスオーバを形成する。言い換えれば、発散ビームや平行ビームではない。
2.カソード像がクロスオーバ像より前方或いは同じ位置に形成される。
【0013】
図7はケーラー照明の光学図である。7-1に電子銃が形成したクロスオーバ7-1は第1レンズ7-3で第2レンズの主面7-6に拡大結像される。電子銃により形成された円環状のカソード像7-4は、その位置と第1レンズの主面7-3は一致している。クロスオーバから収束してきたビーム7-2は第1レンズで向きを変えられ、第2のレンズに入射しこのレンズで収束され基準面7-7に円環状の縮小像を結像させる。7-5はクロスオーバ7-1の拡大像でありこの外側にはビームは事実上存在しない。第2レンズに設けるアパーチャの半径が7-5より大きければカソードから放出されたビームはロスすることなく7-7面に到達する。7-8は指定された面での中空ビーム半径で、電子銃で形成された中空ビーム半径7-4に比べて縮小されている。指定された面をレンズから遠ざけると中空ビームのサイズは大きくなり、収束半角は小さくなり、エミッタンスは小さい値で保存される。
この光学系には走査コイル7-10があり、走査電源7-9の走査信号で基準面7-8上を2次元走査できる。7-8面にはSiウエーハ上に重金属の小さい点がパターンニングされている。2次元走査時の7-8からの2次電子信号を検出器7-11で受けモニター7-12の垂直軸に入力すると、円環状のパターンが得られる。走査信号を1次元にし、円環の直径方向に合わせると7-12に示した様な強度プロファイルが得られる。この強度プロファイルの内側と外側の立ち上がりの傾斜が異なるのが見られる。レンズ7-6の励磁を調整してもこの傾向が向上しなければ、電子銃の収束電極の片側の電圧を調整すれば改善される。
【0014】
図8は中実ビームがほしい場合の光学系で、中空ビームの結像位置にレンズ8-2を設け、8-5にクロスオーバを結像する。ここにレンズ8-4を設け、中空ビームの縮小像8-6をレンズ8-4で形成する。クロスオーバ像8-5はレンズ8-6でターゲット8-7に形成したものである。この場合レンズ8-2と8-6の主面では円環状にのみビームが存在するので対応する収束角にのみビームがあるので、球面収差を極端に小さく出来る。レンズ8-2と8-4の効果は
図9で述べる。
【0015】
図9は、ケーラー照明ではなく従来のレンズ7-6で中空ビームを縮小した場合の光学系である。カソード像の結像面9-3にレンズは無く収束してきたビーム7-2はそのまま9-2の様に直進し、レンズ7-6主面では図示の様に大口径になり、収束半角9-1が大きくなり、
図7の場合に比べ輝度が大幅に減少する。これがケーラー照明光学系での高輝度・低エミッタンスが得られる理由である。
【0016】
図10は円環状のカソードの実施の形態例である。10-1は円環状のカソード、10-2は絶縁用のギャップ、10-3は加熱電流導入端子、10-4はカソードの断面の拡大図である。10-5はカソード位置が動作中に移動しないよう固定する為の絶縁部品である。カソードのアノード方向は円周状突起を有し中空ビームのR方向の厚みが小さくなるよう設計しても良い。この突起の曲率半径は100μm以下に小さくしても円周方向の長さがあるので、カソード電流密度が小さくても、充分なエミッシヨンは得られ、材料をタングステンにしても低いカソード温度で動作できる。その結果、動作中での熱膨張によるカソード位置不安定が起きない。
【0017】
図11は本発明の実施の形態のイメージ図である。11-1は中空ビーム形成電子銃、11-2は内側ウエーネルト、11-3はパルス電源で、2個のウエーネルトの内、小電圧でパルスビームを成型可能な外側電極にパルス電圧し、所定の微小時間のみ中空電子ビームを形成し、その他の時間のエミッシヨンはアノード穴で吸収され、後段の加速器11-6には入射しない。加速器の遅波回路内でビームの発散を抑える為、収束磁界発生装置11-5が外部に設けられている。所定のエネルギーに加速された中空ビームは、ストレージリング11-8に入射し種々の仕事をする。11-4はケーラー照明光学系で、円筒ビーム形成レンズ11-9の主面に中空ビームを形成する。ケーラー照明の2段レンズから発散してくる中空ビームの主光線はレンズ11-9で平行になり、中空ビームは円筒形状ビームに変換される。
図12は円環状のカソードの第2の実施の形態である。12-1はカソードの平面
図12-2はカソードの立面図である。12-3カソード断面の拡大図、カソードのアノード方向は円周状突起を有し中空ビームのR方向の厚みが小さくなるよう設計しても良い。この突起の曲率半径は100μm以下に小さくしても円周方向の長さがあるので、カソード電流密度が小さくても、充分なエミッシヨンは得られ、材料をタングステンにしても低いカソード温度で動作できる。これは円筒形状なので、動作温度で安定である。
図13は、環状でないカソードの電子銃が作るクロスオーバは大きい球面収差を有し、クロスオーバ径は環状カソードのクロスオーバ径より大きい事の説明図。11-3が最小錯乱円の直径である。
図14は環状カソードから中実ビームを作成する光学系の第2の実施の形態である。14-1は環状カソードの電子銃が形成するクロスオーバ、14-2はそのカソード像、14-3は第1レンズ、14-4は最終レンズ、14-5は所定の面である。クロスオーバは第1レンズで縮小され、14-6に縮小像をむすぶび、最終レンズで所定の面に更に縮小され結像する。カソード像14-2は第1レンズで最終レンズの主面に細いリング状の像を結ぶ。これらの結像線で囲まれた内部の領域にのみビームが存在し、この外側や内側にはビームは無い。従って、電子銃電流の全てが14-5に到達し、(ビーム電流/電子銃電流)が1に近い電流が得られる。カソード像と第1レンズの距離を離すためケーラー照明光学系を容易に配置できる。通常、レンズ14-3は無く、クロスオーバ14-1はレンズ142及び144で2段縮小され、ターゲット14-5に結像される。この場合開口角は14-10である。レンズ14-3があると、副光線14-7は屈折され開口角は14-9に示したように14-10に比べてちいさくなる。つまり、クロスオーバを2段縮小する場合、最初の像位置にレンズを設け、ればエミッタンスを小さく出来る。
【0018】
図16は、光励起カソードの実施の形態である。16-1は石英等の透明の円筒の片側をナイフエッジ状にし、その尖端は20μm 半径の曲面に研磨されている。表面は16-2に示した様に炭酸カルシウム等の薄膜が形成され、さらに導電性をもたせるため16-3の金属でコーチングされている。製作後、真空中で過熱処理し、CaOにして仕事関数の低い幕にする。励起光は16-4に示した多数のグラスファイバーで周方向の斜め方向から入射させ16-1の尖端で多くのファイバーからの光が互いに重なり、一様な明るさで照射されるようにした。
【0019】
図17は、中空ビーム17-2と3段目レンズの磁極17-1、17-3、そのコイル17-2、収束磁場発生磁極17-3、そのコイル17-4、及び遅波回路17-6を示す。3段目レンズの励磁は焦点距離が2段と3段のレンズ間距離と等しくなる様調整する。この結果、レンズを出た中空ビームは平行ビームになる。平行ビームの主光線は平行であるが、17-7のボケを伴い次第にビームの環幅はおおきくなる。これを防止するための収束磁場を発生すると、発散ボケ17-7は17-2に示したように細くなる。3段レンズと収束磁場の磁極17-3は共通で、レンズ用磁場と収束磁場用の光軸上の向きは反対方向か同じ向きかは実験で決めれば良い。円環ビームの直径は2段と3段のレンズ間距離に比例する。直径を小さくしたい場合は、このレンズの間隔を狭くすれば良い。
【0020】
図18は、電子・陽電子の衝突装置の概略である。円環状のカソード18-2から放出された電子線は18-6でクロスオーバ、18-8でカソード像を結ぶ。カソード像は円筒ビーム形成レンズ18-10で平行ビームにされ、平衡ビームの拡がりを最小にする収束磁場18-11の内部の遅波回路18-12の高周波電界で加速され、高エネルギーになって集束レンズ18-13で収束され。陽電子との衝突点18-14にクロスオーバ像を結像させる。
陽電子発生電極からの陽電子は電子線と同様の方法で衝突点18-14に収束され、衝突で発生する諸現象は検出器18-19で検出される。
図19は、ウエーネルト電極1-2にー560Vを印加した場合のカソード面の法線に対してー90 19-3、0、90度19-2方向にスタートした電子線の軌道である。
図4と
図6を比較すれば明らかな様に、ウエーネルト電圧の変化に対してカソード像位置の変化はクロスオーバ位置の変化より大きい。従って本図の様に、両者の像位置をほぼ一致させることが出来る。この場合、第1レンズ19-5の様にカソード像19-4から離れた位置に配置するので、第1レンズ主面での強度分布は少し幅のある環状である。しかし、クロスオーバ径はほんらいのクロスオーバとカソード像が重なっている為小さくこの第1レンズによる第2レンズへの像は小さい。そのため上記環状のビームからの開き角はちいさくなる。
また、この場合、クロスオーバ径は電子銃をレンズ系とみなした時の球面収差が小さく、カソードから全方向にスタートした電子の軌道も重なるので、小さい像が得られる。この像を2段レンズで縮小すれば、更に小さいビームが得られる。また、2段目のレンズ主面では円環状のビームのみ存在するので、球面収差も小さく出来る。ここで注意点は、19-1付近の実像の径ではなく、19-2,19-3のレンズ主面での接線を光軸まで引き、実質的なクロスオーバ系が問題になり、レンズで形成された像を測定すれば評価できる。シミュレーションソフトでeffective crossover として出力させても良い。
【0021】
図20は、電子銃が作るクロスオーバ7-1の後方にカソード像7-4を作成し、その位置に第1のレンズ7-3を一致させ、クロスオーバからの主光線7-2が20-1に示した様に光軸20-4に平行になる様レンズ7-3の励磁強度を調整した。厚みが距離に依存して増加する円筒状のビームが成型できる。
図21は、電子銃が作るクロスオーバ位置とカソード像位置を一致させ、そこから離れた位置にレンズ21-5を設け、クロスオーバからの主光線21-2が光軸21-9に平行になる様レンズ励磁を決める。副光線21-3,21-4も同じ点から出ているのでこれらの副光線21-3,21-4も光軸に平行になる。円筒の厚みがビームの進行に依存せず一定の円筒ビームが得られる。この場合、主光線上のビーム強度が最も強く外側の強度傾斜は外側の傾斜より急峻である。このような強度分布は、副光線21-3はカソードからー90度方向(光軸方向)に出たビームである事を考慮すれば、内側ウエーネルトの電圧をより深く調整すればよい。
【0022】
図22は、クロスオーバ位置とカソード像位置を一致させた電子銃からのビームをレンズ22-5で平行ビームにし、遅波回路22-9の高周波電界で加速し、高エネルギーにした電子線から中実ビームを形成する光学系である。高エネルギーであり、レンズボーア径を小さく出来ないので、レンズ22-10で少し絞り、ビーム径が小さくなってからレンズ22-11で、少しはなれたターゲット22-12に結像させる。この場合、レンズに入射時ビームは既に収束方向をむいているのでレンズ22-11はボーア径も小さくでき、収束可能である。しかし、エミッタンスはレンズ22-10以降で不変である。
【0023】
図23は、円筒ビームから中実ビームを形成する光学系である。
図22の場合に比べて1段余分のレンズ23-4が必要である。主光線23-1は光軸に平行であるが副光線23-2が発散気味だがレンズ23-3でクロスオーバを形成した時副光線は収束気味に出来る。副光線は種々な角度をもっているが、クロスオーバ位置にレンズ23-4を設け、副光線を収束すると副光線は23-7で示したようにレンズ23-5で最小幅になるようレンズ23-4を調整できる。主光線はレンズ23-4の有無に係らないので中実ビームの径は23-10である。レンズでのエミッタンス対象のビーム面積はレンズ23-4の有り無しで23-9と23-8である。図を見て明らかな様にレンズ23-4が有る場合,エミッタンスは減少する。
【実施例0024】
図15は、本発明の実施例の電力送信装置のイメージ図である。太陽電池15-12で発生した直流電力は昇圧され、中空ビーム発生電子銃15-1の円環形状カソード15-2に与えられる。カソードから放出された電子線はアノード15-3で加速され、中実のクロスオーバ像とカソード像を形成し、レンズ系15-4に入射する。カソード像と第1レンズ15-5の主面は一致する様調整され、中実のクロスオーバ像は第1レンズに依って第2レンズ15-6の主面に結像され、電流ロスの殆ど無い中空ビームを形成し、後進波管15-11に入射する。後進波管15-11の遅波回路15-8のコレクター15-9側は無反射板で終端されている。中空ビーム15-12は遅波回路15-8の図の右方向に進む位相速度とビーム速度が一致する周波数の高周波電力を発振し、導波管15-10で進行波管の遅波回路15-8のビーム入射側に送られる。この高周波電力はビーム速度と高周波の遅波回路上の位相速度は一致しているので、増幅され大きい電力で送信アンテナ15-11に導波管15-10で送られ、送信アンテナから地上の受信アンテナで受信される。
中空ビーム発生電子銃15-1の円環形状カソードは大口径なのでカソード電流密度は小さく、カソード寿命は長い。ビームはケーラー照明光学系でビームの損失なく縮小されるので、小口径大ビームのビームを後進波管や進行波管に送れるので、高周波の波長は短い波長が使え、人口衛星のアンテナや地上の受信アンテナを小型化でき、環境への電波障害の低減が期待される。
以上、本発明に係る荷電粒子線装置を加速器等遅波回路内で高周波電界と相互作用を行う装置に用いると、ビームは高周波電界の強い場所を走行するので、小さいRF電力で、所定の効果が期待される。将来の宇宙空間での進行波管あるいは後進行波管に利用すれば、カソード寸法に比較し、縮小された中空ビームを形成できるので、カソードは大きいサイズにでき、小さいカソード電流密度で必要なビーム電流が得られ、カソード動作温度を小さくし、カソード寿命も長くできる。超高圧電子顕微鏡に適用すれば、(ビーム電流/エミッシヨン電流)の大きいビームが得られる。