(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102862
(43)【公開日】2023-07-26
(54)【発明の名称】加工支援装置及び加工システム
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/24 20060101AFI20230719BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
B23Q17/24 A
B23Q17/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003576
(22)【出願日】2022-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】長友 優志
【テーマコード(参考)】
3C029
【Fターム(参考)】
3C029CC02
3C029CC10
3C029FF06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】再加工を要する箇所を適切に検出することのできる加工支援装置及び加工装置を提供する。
【解決手段】加工支援装置Eは、複数種類のワーク表面の情報を提示する提示部15Aと、提示部15Aにより提示された複数種類のワーク表面の情報の中からいずれかを外部から指定可能な指定部15Bと、加工対象ワークKの加工後に加工対象ワークKの撮影画像を取得する撮影部12と、指定部15Bにより指定された情報と撮影画像から得られる情報とに基づいて加工対象ワークKの再加工を要する箇所を判定する再加工判定部24と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種類のワーク表面の情報を提示する提示部と、
前記提示部により提示された複数種類のワーク表面の情報の中からいずれかを外部から指定可能な指定部と、
加工対象ワークの加工後に前記加工対象ワークの撮影画像を取得する撮影部と、
前記指定部により指定された情報と前記撮影画像から得られる情報とに基づいて前記加工対象ワークの再加工を要する箇所を判定する再加工判定部と、
を備える加工支援装置。
【請求項2】
前記提示部が提示するワーク表面の情報は、ワーク表面の空間周波数成分を示す情報である、
請求項1記載の加工支援装置。
【請求項3】
前記撮影画像から得られる情報は、前記撮影画像中のワーク表面の空間周波数成分を示す情報である、
請求項1又は請求項2に記載の加工支援装置。
【請求項4】
前記撮影画像にFFTあるいはFFT及びIFFTの処理を行う第1画像処理部を更に備え、
前記第1画像処理部の前記処理によって前記空間周波数成分を示す情報が生成される、
請求項3記載の加工支援装置。
【請求項5】
前記撮影画像に含まれる曲線状の加工目が直線状になるように座標変換する第2画像処理部を更に備え、
前記第1画像処理部は、前記第2画像処理部により座標変換された画像に前記処理を行う、
請求項4記載の加工支援装置。
【請求項6】
前記撮影部は前記加工対象ワークの複数箇所の撮影画像を取得し、
前記複数箇所の撮影画像をAnoGANにより第1画像群と前記第1画像群よりも異常と検出された領域が多い第2画像群とに振り分けるAnoGAN処理部を更に備え、
前記再加工判定部は、前記第1画像群の撮影画像を対して再加工を要する箇所の判定を行わず、前記第2画像群の撮影画像に対して再加工を要する箇所の判定を行う、
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の加工支援装置。
【請求項7】
加工対象ワークの加工後に前記加工対象ワークの撮影画像を取得する撮影部と、
再加工を要する表面状態を示す情報と前記撮影画像から得られる情報とに基づいて前記加工対象ワークの再加工を要する箇所を判定する再加工判定部と、
を備える加工支援装置。
【請求項8】
加工処理を行う加工装置と、
請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の加工支援装置と、
を備える加工システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工支援装置及び加工システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、研磨を行う加工装置において、研磨後のワークの表面欠陥を検出し、検出された表面欠陥が除去されるように、再研磨を行う装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ワーク表面には、加工によって除去されるべき表面パターンから、加工後にも残される表面パターンまで、様々な表面パターンが含まれることがある。このような場合、特許文献1のように容易に再加工を行う箇所を検出することはできない。
【0005】
本発明は、再加工を要する箇所を適切に検出することのできる加工支援装置及び加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る加工支援装置は、
複数種類のワーク表面の情報を提示する提示部と、
前記提示部により提示された複数種類のワーク表面の情報の中からいずれかを外部から指定可能な指定部と、
加工対象ワークの加工後に前記加工対象ワークの撮影画像を取得する撮影部と、
前記指定部により指定された情報と前記撮影画像から得られる情報とに基づいて前記加工対象ワークの再加工を要する箇所を判定する再加工判定部と、
を備える。
【0007】
本発明に係るもう一つの態様の加工システムは、
加工対象ワークの加工後に前記加工対象ワークの撮影画像を取得する撮影部と、
再加工を要する表面状態を示す情報と前記撮影画像から得られる情報とに基づいて前記加工対象ワークの再加工を要する箇所を判定する再加工判定部と、
を備える。
【0008】
本発明に係る加工システムは、
加工処理を行う加工装置と、
上記の加工支援装置と、
を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、再加工を要する箇所を適切に検出することのできる加工支援装置及び加工装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る加工システムを示すブロック図である。
【
図2】画像処理部により実行される画像変換処理の一例を説明する図で、変換前の画像(A)と変換後の画像(B)とを示す。
【
図3】画像処理部により処理されるワーク表面画像、FFT処理画像及びIFFT画像の一例を示す図である。
【
図4】AnoGAN処理部により実行される学習処理(A)と判定処理(B)とを説明する図である。
【
図5】支援処理部が実行する表面状態指定処理を示すフローチャートである。
【
図6】再加工を要する表面状態を指定する指定画面の一例を示す表示画像図である。
【
図7】加工制御部及び再加工判定処理により実行される自動加工処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る加工システムを示すブロック図である。本実施形態に係る加工システム1は、加工対象ワークKに対して加工を行った後、再加工を要する箇所を判定し、当該箇所を再加工することのできるシステムである。このような処理が自動的に或いは半自動的に行われる。半自動的とは、処理に必要な幾つかの操作(例えば各段階の開始操作:加工開始操作、再加工を要する箇所の判定開始操作、再加工開始操作など)がユーザにより行われ、その他が自動的に行われる態様を意味する。
【0012】
さらに、本実施形態に係る加工システム1は、予め、ワークKaの複数種類の表面の情報をユーザに提示し、提示された複数種類の表面の情報の中からユーザが再加工を要するものを指定する機能を有する。ユーザにより指定された表面の情報により、上記の加工対象ワークKの加工処理において再加工を要する箇所が判定される。以下、ユーザに再加工を要する表面の情報を指定させる処理のことを、「表面状態の指定処理」と呼ぶ。
【0013】
本実施形態では、表面状態の指定処理の際に複数種類の表面の情報をユーザに提示するために使用されるワークと、実際に加工を行うワークとを、前者をワークKa、後者を加工対象ワークKと区別して表記している。ワークKaと加工対象ワークKとは、異なるものであってもよいし、例えば複数の加工対象ワークKの加工を行う際に、最初に加工を行う加工対象ワークKを複数種類の表面の情報をユーザに提示するために使用されるワークKaとしてもよい。
【0014】
加工システム1は、加工装置11と、加工対象ワークKの表面を撮影する撮影部12と、表面状態の指定処理で使用される設定用装置15と、加工装置11の駆動制御及び表面状態の指定処理の制御処理行う制御装置20とを備える。設定用装置15は、ユーザにワークKaの複数の表面の情報を出力する表示器(本発明に係る「提示部」に相当)15Aと、ユーザが指定操作を行うための入力装置(本発明に係る「指定部」に相当)15Bとを含む。
【0015】
加工装置11は、例えば加工対象ワークKの表面を研磨する研磨装置である。加工装置11は、研磨を行うヘッド部11aと、ヘッド部11aを移動させるロボットアーム11bとを含み、加工対象ワークKの表面の様々な箇所に対して、ヘッド部11aを移動させて当該箇所の研磨を行うことができる。
【0016】
撮影部12は、デジタルカメラなどであり、加工対象ワークKの加工表面を撮影する。撮影部12は、静止画が撮影できればよく、加工対象ワークKの加工表面の全領域が一画像内に収まるように加工対象ワークKを撮影する構成であってもよい。あるいは、撮影部12は、加工対象ワークKの加工表面の一部領域が一画像内に収まるように加工対象ワークKを撮影する構成であり、かつ、撮影位置を変えることのできる構成(例えばロボットアーム11bに取り付けられるなど)であり、撮影部12が様々な撮影位置から加工対象ワークKを撮影することで、加工対象ワークKの加工表面の全領域を撮影可能な構成であってもよい。
【0017】
表示器15Aは画像出力が可能な機器である。入力装置15Bは、マウスやキーボードなど、表示器15Aに表示出力された画像に対して、ユーザが指示操作可能な機器である。
【0018】
制御装置20は、CPU(Central Processing Unit)と、CPUがデータを展開するRAM(Random Access Memory)と、CPUが実行する制御プログラム並びに制御データを格納した記憶装置と、外部の機器とCPUとの間でデータの授受を行うインタフェースとを有するコンピュータである。制御装置20では、CPUが制御プログラムを実行することで、複数の機能モジュールが実現される。
【0019】
複数の機能モジュールには、表面状態の指定処理(ユーザに再加工を要する表面の情報を指定させる処理)を実行する支援処理部21と、撮影画像に対して画像処理を行う画像処理部22と、加工装置11の駆動制御を行う加工制御部23と、加工対象ワークKの加工時に要再加工箇所を判定する再加工判定部24と、要再加工箇所を判定する処理を補助するAnoGAN処理部25と、を備える。画像処理部22は、本発明に係る第1画像処理部及び第2画像処理部として機能する。
【0020】
<単位画像>
制御装置20の画像処理部22、再加工判定部及びAnoGAN処理部25は、加工対象ワークKの撮影画像を、所定サイズに切り分けた画像(以下、「単位画像」と呼ぶ)に対して処理を行う。単位画像のサイズは、加工対象ワークKの加工表面に対して表面状態を検査して再加工するか否かを判定する区画サイズに相当するように設定されてもよい。
【0021】
<画像処理部>
画像処理部22は、座標変換処理と、空間周波数成分の抽出処理とを行う。
図2は、画像処理部により実行される画像変換処理の一例を説明する図で、変換前の画像(A)と変換後の画像(B)とを示す。
図3は、画像処理部により処理されるワーク表面画像、FFT処理画像及びIFFT画像の一例を示す図である。
【0022】
座標変換処理は、撮影部12が撮影した加工対象ワークKの加工表面が写った複数の単位画像に対して、曲線状に表れた加工目が直線状になるように座標変換する処理である。座標変換処理において、画像処理部22は、例えば
図2(A)に示すように、まず、画像認識を行って単位画像D1に含まれる加工目の線L1を抽出し、次に、当該線L1を直線にする座標変換の式を求める。その後、画像処理部22は、
図2(B)に示すように、元の単位画像D1に上記の座標変換を適用することで、加工目の線L1が直線状に変換された単位画像D2を得る。上記の座標変換の式は、画像内の加工目の間隔と実際の加工目の間隔との差異を拡大しないという制約を付して求められるとよい。
【0023】
空間周波数成分の抽出処理は、加工目の線が曲線状であれば、上記の座標変換処理を経て直線状に変換された単位画像に対して行われ、加工目の線が曲線状でなければ、上記の座標変換処理を経ない単位画像に対して行われる。
【0024】
空間周波数成分とは、単位画像に含まれるに一定の間隔で繰り返される縞模様を意味し、当該間隔が周波数に対応する。一定の間隔で繰り返される縞模様は、加工表面の加工目(工具跡)が残ることで単位画像に現れるため、画像中の空間周波数成分は加工目の間隔及び大きさ(凹凸の高さ)を表わす指標となる。
【0025】
空間周波数成分の抽出処理において、画像処理部22は、
図3に示すように、単位画像D3、D4にFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)処理を行って二次元グラフに空間周波数成分が示された二次元画像F3、F4を取得する。二次元画像F3、F4は、二次元グラフを示す画像であり、中央点Oが周波数ゼロの成分を示し、中央点Oから{距離r、角度θ}の各点が空間周波数成分(縞模様)の周波数fと角度θとを示す。空間周波数成分の量は、二次元画像F3、F4の明度により表わされる。一例として、
図3の二次元画像F3には、ゼロ点以外に明度が高い2点P1、P2が含まれており、単位画像D3に主に2つの空間周波数成分が含まれていることを表わす。また、
図3の二次元画像F4には、ゼロ点以外に明度が高い点が含まれず、単位画像D4には大きな空間周波数成分が含まれていないことを表わす。なお、
図3の二次元画像F3、F4は、明暗を反転して示している。
【0026】
空間周波数成分の抽出処理において、画像処理部22は、二次元画像F3、F4を取得した後、明度の高い部分を抽出するフィルタ処理を行った後、当該フィルタ処理後の二次元画像F3、F4にIFFT(Inverse Fast Fourier transform:逆高速フーリエ変換)処理を行ってもよい。IFFT処理により、空間周波数成分のみが際立って抽出された加工対象ワークKの単位画像D3i、D4iが得られる。一例として、
図3の単位画像D3iは、二次元画像F3の2点P1、P2に対応する2つの空間周波数の縞模様J1、J2が含まれる画像となる。よって、単位画像D3iにより、元の単位画像D3に2つの縞模様J1、J2に対応する2種類の加工目が含まれていることを容易に判定できる。また、
図3の単位画像D4iは、ゼロ点以外に大きな空間周波数成分を含まないことに対応して縞模様を含まない画像となる。よって、単位画像D4iにより、元の単位画像D4には加工目がほぼ残されていないことを容易に判定できる。
【0027】
<AnoGAN処理部>
図4は、AnoGAN処理部により実行される学習処理(A)と判定処理(B)とを説明する図である。一般に、AnoGAN(Anomaly Detection with Generative Adversarial Networks)とは、GANと呼ばれる構造の機械学習モデルに、多数の正常画像を訓練データとして与えることで学習させ、学習後の機械学習モデルに判定対象の画像を与えることで、当該画像の異常箇所を検出させる異常判定のことを言う。
【0028】
本実施形態のAnoGAN処理部25は、
図4(A)、(B)に示すように、コンピュータに構築されたGAN構造を有する機械学習モデル25aを含む。機械学習モデル25aは、
図4(A)に示すように、正常に加工されたワーク表面の撮影画像Qtrから切り出された多数の単位画像Dtrを訓練データとして与えられ、当該訓練データを学習済みである。機械学習モデル25aは、
図4(B)に示すように、加工後の加工対象ワークKの撮影画像Q6から切り出された複数の単位画像D6の各々が与えられたときに、AnoGANによって各単位画像D6の異常箇所anを抽出する。訓練データである単位画像Dtrは、再加工を要さない加工済みのワークの単位画像が選定され、機械学習モデル25aは、再加工を要する可能性がある箇所を異常箇所anと判定する。一方、判定された異常箇所anは、再加工を要する箇所のみでなく、他の要因に基づく異常である可能性もある。したがって、単位画像D6中に含まれる異常箇所anの量(例えば面積)が一定以上ある場合、単位画像D6に再加工を要する表面状態が含まれる可能性が一定以上であると見なすことができる。一方、単位画像D6中に含まれる異常箇所anが一定未満である場合、単位画像D6中に再加工を要する表面状態が含まれる可能性が一定未満であると見なすことができる。
【0029】
AnoGAN処理部25は、さらに、単位画像D6に対して機械学習モデル25aが判定した異常箇所anの総合量(例えば総面積)を計数し、異常箇所anの総合量と所定の閾値と比較することで、単位画像D6の振り分けを行う振分処理部25bを有する。そして、AnoGAN処理部25は、当該比較結果が閾値より大きい単位画像D6を、要再加工と判定される可能性が一定以上ある単位画像D6aとし、上記比較結果が閾値未満の単位画像D6を、要再加工と判定される可能性が一定未満である単位画像D6naとして、振り分けを行う。単位画像D6naの集合が本発明に係る第1画像群の一例に相当する。単位画像D6aの集合が本発明に係る第2画像群の一例に相当する。
【0030】
<支援処理部及び表面状態の指定処理>
図5は、支援処理部により実行される再加工を要する表面状態の指定処理を示すフローチャートである。
図6は、再加工を要する表面状態を指定する指定画面の一例を示す表示画像図である。
【0031】
支援処理部21は、例えばユーザから表面状態の指定処理を開始するための操作が行われた場合に、
図5の表面状態の指定処理を開始する。指定処理が開始されると、まず、支援処理部21は、再加工を要する箇所を含んだワークKaを用意するよう、ユーザに通知する(ステップS1)。ここで、ユーザは、試し加工用のワークKaに加工装置11を様々な態様で作用させることで、加工が十分な箇所と不十分な箇所とを含んだワークKaを用意する。あるいは、予め加工が十分な箇所と不十分な箇所など様々な態様の加工が施されたワークKaが別途用意されていてもよい。そして、ユーザが当該ワークKaを作業台に載置したことを支援処理部21に通知すると(ステップS2のYES)、支援処理部21は、撮影部12を駆動してワークKaの表面を撮影する(ステップS3)。
【0032】
次に、支援処理部21は、ステップS3で取得された撮影画像を単位画像に切り分け(ステップS4)、複数の単位画像を画像処理部22に渡し、複数の単位画像に対して上述した座標変換処理とFFT処理及びIFFT処理とを行わせる(ステップS5、S6)。ステップS5、S6の処理により、
図3のIFFT画像に示すような、ワークKaの表面に含まれる縞模様が抽出された複数の単位画像が得られる。
【0033】
続いて、支援処理部21は、ステップS5、S6で得られた単位画像を表示器15Aの画面上に提示し、ユーザに再加工を要する表面状態を指定させる表示処理を行う(ステップS7)。より具体的には、
図6に示すように、表示器15AにステップS5、S6で得られた複数の単位画像の一覧表示H1と、ユーザに一覧の中から再加工を要するものを指定するよう促すメッセージH2とを表示器15Aから出力させる。
図6の例では、一覧表示H1に、元の単位画像DxとFFT処理後の二次元画像FxとIFFT処理後の単位画像Dxiとがセットになって、複数セットの画像が含まれる。なお、一覧表示H1には、IFFT処理後の単位画像Dxiだけ含まれていてもよいし、FFT処理後の二次元画像Fxだけ含まれていてもよいし、これらと、FFT処理前の単位画像Dxとが組み合わされて含まれていてもよい。
【0034】
そして、支援処理部21は、画像の指定が完了したか判定し(ステップS8)、画像の指定が完了するまでステップS8の判定を繰り返す。
【0035】
ここで、ユーザは、一覧表示H1のFFT処理後の二次元画像Fx又はIFFT処理後の単位画像Dxiに示される加工表面の空間周波数成分の情報に注目することで、どのような細かさの加工目がどのくらい残っているのか容易に識別することができる。そして、ユーザは、加工目の細かさ及び大きさ(凹凸の高さ)に基づいて、各々の二次元画像Fx又は単位画像Dxiが、再加工を要する表面状態か、再加工が不要な表面状態かを判断することができる。ここで、例えば、加工対象ワークKに、加工前に粗い当初の加工目が付いており、加工により当該粗い加工目が除去されるとともに、別の細かい加工目が付加されるような場合を想定する。このような場合には、ユーザは、当初の粗い加工目に相当する空間周波数成分が残っている二次元画像Fx又は単位画像Dxiが、再加工を要する表面状態と判定し、細かい加工目に相当する空間周波数成分が有っても無くても、粗い加工目に相当する空間周波数成分が残っていない二次元画像Fx又は単位画像Dxiであれば、再加工が不要な表面状態と判定できる。そして、ユーザは、一覧表示H1の中から、再加工を要する表面状態と判定した全ての画像を入力装置15Bを介して指示操作することで指定する。そして、完了を示すOKボタンH3が操作されるなど指定が完了したら、支援処理部21は、処理を次に進める。
【0036】
次に処理が進んだら、支援処理部21は、指定された二次元画像Fx又は単位画像Dxiと、指定されていない二次元画像Fx又は単位画像Dxiとを比較して、どのような空間周波数成分が含まれる場合に、再加工を要する表面状態と判定されているのか、再加工の要否を判定する条件を計算する(ステップS9)。具体的には、例えば、高い空間周波数の成分(細かい縞模様)が所定量以上の大きさで含まれる画像(二次元画像Fx又は単位画像Dxi)が、未指定の画像に含まれる場合には、支援処理部21は、当該高い空間周波数の成分は再加工が不要な工具目と判定する。また、例えば、低い空間周波数の成分(粗い縞模様)が所定量以上の大きさで含まれる画像が、指定された画像に含まれる一方、このような画像が、未指定の画像に含まれない場合には、当該低い空間周波数の成分が再加工を要する工具目と判定する。さらに、上記の低い空間周波数の成分が所定量未満含まれる画像が、未指定の画像に含まれる場合、支援処理部21は、当該画像に含まれる低い空間周波数の成分量に基づき、再加工の要否を分ける成分量の閾値を計算してもよい。このような処理により、支援処理部21は、例えば特定の空間周波数の成分が閾値以上含まれる場合には、再加工を要する箇所であるといった条件を求めることができる。
【0037】
再加工の要否を判定する条件が求められたら、支援処理部21は、当該条件を再加工判定部24に渡して(ステップS10)、
図5の指定処理を終了する。
【0038】
<加工制御部、再加工判定部及び自動加工処理>
図6は、加工制御部及び再加工判定部により実行される自動加工処理を示すフローチャートである。自動加工処理は、加工対象ワークKが作業台にセットされ、ユーザから加工開始の指令が入力されることで開始される。
【0039】
自動加工処理が開始されると、加工制御部23は、加工対象ワークKの加工対象面に加工を施すヘッド部11aの移動経路を生成する(ステップS21)。ここで、移動経路は、ユーザがダイレクトティーチングにより、加工制御部23へ与えてもよい。ダイレクトティーチングとは、ユーザがロボットアーム11bを操作して、ヘッド部11aを所望経路で移動させることで、当該経路を加工制御部23に覚えさせる方法に相当する。また、ユーザが移動経路を決定する位置情報と動作指令とを加工制御部23へ与えることで移動経路を計算してもよいし、あるいは、加工対象ワークKの位置検出を行って検出された位置に基づき加工制御部23が加工対象面に沿った移動経路を計算してもよい。
【0040】
続いて、加工制御部23は、ヘッド部11aを駆動しつつ、生成された移動経路に従ってヘッド部11aが移動するようにロボットアーム11bを駆動し、加工を実施する(ステップS22)。当該駆動により、加工対象ワークKの加工対象面に加工が施される。
【0041】
一旦、加工が完了したら、再加工判定部24は、撮影部12を駆動して、加工対象ワークKの加工対象面の全域の撮影を行う(ステップS23)。そして、再加工判定部24が、撮影画像を加工対象ワークKのいずれの箇所かを表わす箇所データと紐づけて複数の単位画像に切り分ける(ステップS24)。
【0042】
次に、再加工判定部24は、複数の単位画像をAnoGAN処理部25へ送って、検出された異常箇所anの量に基づき、要再加工と判定されるべき表面状態が含まれる可能性が一定以上ある単位画像と、要再加工と判定されるべき表面状態が含まれる可能性が一定未満である単位画像とに振り分けさせる(ステップS25)。
【0043】
そして、再加工判定部24は、要再加工と判定されるべき表面状態が含まれる可能性が一定以上ある単位画像を画像処理部22へ送って、曲線状の加工目を直線状に変換する座標変換処理(ステップS26)と、FFT処理、あるいは、FFT処理及びIFFT処理により単位画像に含まれる空間周波数成分を抽出し、抽出された空間周波数成分を周波数及び周波数成分の大きさとに数値化する処理を行わせる(ステップS27)。周波数及び周波数成分の大きさは、FFT処理後の二次元画像から明度の高い位置を探索し、その位置及び明度から得ることができる。あるいは、上記の周波数及び周波数成分の大きさは、IFFT処理後の単位画像から縞模様の間隔と縞模様の濃淡比とを画像認識処理により求めることで得ることができる。
【0044】
さらに、再加工判定部24は、ステップS27で抽出された空間周波数成分を示す値(周波数及び周波数成分の大きさ)を、
図5の指定処理で支援処理部21から渡された再加工の要否を判定する条件に当てはめて、再加工の要否判定を行う(ステップS28)。ここで、再加工判定部24は、ステップS26、S27の処理が行われた全ての単位画像について上記の判定処理を行う。
【0045】
その結果、条件に合致する(再加工を要する)と判定された単位画像が有るか判定し(ステップS29)、NOであれば、加工制御部23は、1つの加工対象ワークKについての自動加工処理を終了する。一方、ステップS29の判定結果がYESであれば、合致と判定された単位画像に紐づけられている箇所データに基づいて、加工制御部23は、当該単位画像に写されている加工対象ワークKの箇所に再加工を行うよう、ヘッド部11aを移動させる移動経路を生成する(ステップS30)。そして、加工制御部23は、生成された移動経路にしたがってヘッド部11aが移動するように、ヘッド部11aを駆動しつつ、ロボットアーム11bを駆動する(ステップS31)。ステップS31の処理により、再加工が要される箇所に再加工が及ぼされる。
【0046】
ステップS30で生成された経路でヘッド部11aが移動する再加工が終了したら、次に、加工制御部23及び再加工判定部24は、ステップS29でNO(再加工を要する条件に合致すると判定された単位画像が無い)と判定されるまで、ステップS23からの処理を繰り返す。そして、ステップS29でNOと判定されたら、1つの加工対象ワークKに加工を施す自動加工処理を終了する。当該自動加工処理により、加工システム1は、再加工を要する箇所が無くなるまで加工対象ワークKに加工を施すことができる。
【0047】
以上のように、本実施形態の加工システム1によれば、支援処理部21が、複数種類のワーク表面の情報をユーザに提示し、ユーザがこれらのワーク表面の情報からいずれかを入力装置15Bを用いて指定することができる。そして、再加工判定部24が、その後の自動加工処理において、加工後の加工対象ワークKの表面の撮影画像から得られる情報と、ユーザが指定したワーク表面の情報とに基づいて、加工対象ワークKの再加工を要する箇所を判定する。したがって、再加工が要求される表面状態と再加工が不要な表面状態とがあり、これらの区別が、例えば製品の仕様ごとに異なるような場合でも、本実施形態の加工システム1によれば、適切に再加工を要する箇所を判定し、当該箇所が再加工されるように制御できる。
【0048】
加工対象ワークKの表面には、加工目など一定間隔ごとに同様の模様(例えば凹凸)が繰り返されるパターンが生じることがあり、さらに、このようなパターンには、細かさが異なるもの、並びに、大きさ(凹凸の高さ)が異なるものが混在する。そして、どの細かさのパターンがどのくらい残っている箇所があれば、当該箇所の再加工を要するといった判定が要求されることがある。そこで、本実施形態の加工システム1によれば、表面状態の指定処理においてユーザに提示されるワーク表面の情報として、ワーク表面の空間周波数成分を示す情報を適用する。空間周波数成分の情報が示されることで、撮影上の陰影、繰り返されない凹凸などの模様、又は画像上のノイズなどを排除し、一定間隔ごとに同様の模様が繰り返されるパターンの情報のみ際立たせてユーザに認識させることができる。したがって、ユーザは、上記の空間周波数成分の情報に基づき、再加工を要する表面状態と、再加工を要さない表面状態とを正確に識別し、これらの指定を正確に行うことができる。
【0049】
さらに、本実施形態の加工システム1によれば、自動加工処理の際、再加工判定部24は、加工後の加工対象ワークKの撮影画像から、空間周波数成分の情報を取得して、この情報とユーザにより指定された空間周波数成分の情報とを比較することで、再加工を要する箇所の判定を行う。このような処理により、加工目など一定間隔ごとに繰り返されるパターンの有無又はその量に応じた要再加工箇所を、高い精度で検出することができ、加工対象ワークKの再加工の処理を適切に行うことができる。
【0050】
さらに、本実施形態の加工システム1によれば、画像処理部22が、撮影画像(その単位画像)にFFT処理又はFFT処理とIFFT処理とを行うことで、撮影画像に含まれる空間周波数成分の情報を生成する。FFT処理によって得られる二次元画像により、二次元画像中に含まれる高い明度を有する点を検索することで、空間周波数及びその成分の大きさを識別でき、加工目など一定間隔ごとに繰り返されるパターンを高い精度で識別できる。また、IFFT処理によって得られる単位画像により、縞模様の間隔及び濃淡によって、ユーザは、加工目など一定間隔ごとに繰り返されるパターンを容易に把握することができる。
【0051】
さらに、本実施形態の加工システム1によれば、画像処理部22が、撮影画像(その単位画像)に座標変換処理を行うことで、撮影画像に含まれる加工目が直線状になるように変換する。したがって、加工対象ワークKが曲面を有し、当該箇所を撮影する方向によって加工目が曲線状に写される場合でも、このような曲面による影響を排除することができる。その分、ユーザは、再加工を要する表面状態と再加工を要さない表面状態との指定を容易にかつ正確に行うことができ、また、再加工判定部24は再加工を要する箇所を高い精度で判定することができる。
【0052】
さらに、本実施形態の加工システム1によれば、AnoGAN処理部25が、加工対象ワークKの撮影画像(複数の単位画像D6)を、異常の判定領域が閾値以上の単位画像D6aと、異常の判定領域が閾値未満の単位画像D6naとに振り分ける。さらに、再加工判定部24は、振り分けられた一方の単位画像D6naについては再加工を要否の判定を行わず、振り分けられたもう一方の単位画像D6aについて再加工の要否を判定する。したがって、再加工判定部24が判定処理を行う単位画像の数を減らして、再加工判定部24の負荷の低減、並びに、再加工の要否を判定する処理の高速化を図ることができる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は上記の実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、制御装置20が加工装置11を制御することで自動的に加工対象ワークKに加工及び再加工を行う加工システムを示した。しかしながら、加工及び再加工は、作業員がロボットアーム11bを操縦して、あるいは、作業員がマニュアルで行う構成としてもよい。この場合、
図1の制御装置20からは加工制御部23は取り除かれる。また、加工システム1から加工制御部23と加工装置11が取り除かれた構成が、本発明に係る加工支援装置Eの一例を構成する。
【0054】
また、上記実施形態では、支援処理部21は、表面状態の指定処理において、ユーザにFFT処理された二次元画像、又は、IFFT処理された単位画像を提示する例を示した。しかし、FFT処理された二次元画像に複数の空間周波数成分が含まれる場合、また、IFFT処理された単位画像に複数の空間周波数成分が含まれる場合には、個々の空間周波数成分ごとに画像を分割してユーザに提示するようにしてもよい。例えば、FFT処理された二次元画像が第1の点P1と第2の点P2とに明度のピークを有する場合、第1の点P1のピークを残し、第2の点P2のピークを除外した二次元画像と、第1の点P1のピークを除外し、第2の点P2のピークを残した二次元画像との2つの画像に分けて、ユーザに提示してもよい。あるいは、このように2つに分けられた画像にそれぞれIFFT処理を行い、当該処理により得られた2つの単位画像(第1の点P1のピークに対応する縞模様が現れた単位画像と、第2の点P2のピークに対応する縞模様が現れた単位画像)をユーザに提示してもよい。また、上記実施形態では、支援処理部21が、再加工を要する表面状態をユーザにより指定させる構成を含んでいるが、既に支援処理部21が再加工を要する表面状態の情報を予め保持、あるいは、その時点以前の指定或いは学習により保持していてもよく、当該構成の場合、支援処理部21は、画像を提示して表面状態を指定させる構成を有さなくてもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、研磨加工を行う加工システムについて説明したが、本発明に係る加工システムは、研磨に限られず、切削加工、研削加工、放電又はレーザの照射あるいは電解作用を利用してワーク表面を加工する特殊加工など、様々な加工を行うシステムに適用できる。また、上記実施形態では、縞模様の加工目が再加工の要否判定の材料となる研磨加工を例にとって、撮影画像の空間周波数成分を抽出(縞模様の加工目を抽出)する処理を、表面状態の指定処理と再加工の要否判定の処理とに組み入れた構成を示した。しかし、撮影画像の空間周波数成分を抽出する処理を組み入れて好適な加工は、研磨加工に限られず、例えば、バリがほぼ等間隔で生じる切削加工など、同様のパターンが所定間隔ごとに繰り返し現れる表面状態が再加工の要否判定の材料となる加工であれば、撮影画像の空間周波数成分を抽出する処理を組み入れることは上記実施形態と同様に有用である。
【0056】
また、上記実施形態では、表面状態の指定処理においてユーザは再加工を要する表面の情報を指定する処理として説明したが、ユーザが再加工を要さない表面の情報を指定する処理としてもよい。また、上記実施形態で示した、撮影画像中の曲線状の加工目を直線状に変換する座標変化処理、AnoGANによる撮影画像の振り分け処理、または、これら両方は、省略されてもよい。また、上記実施形態では、表面状態の指定処理において、ユーザには撮影画像から抽出された空間周波数成分の情報が提示される構成を示したが、ユーザに提示されるワーク表面の情報は、加工状態がそのまま示された撮影画像であってもよいし、その他、撮影上の陰影やノイズを除去した画像としてもよい。その他、実施の形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 加工システム
E 加工支援装置
11 加工装置
11a ヘッド部
11b ロボットアーム
12 撮影部
15 設定用装置
15A 表示器(提示部)
15B 入力装置(指定部)
20 制御装置
21 支援処理部
22 画像処理部
23 加工制御部
24 再加工判定部
25 AnoGAN処理部
25a 機械学習モデル
25b 振分処理部
K 加工対象ワーク
D3、D4 単位画像(撮影画像)
F3、F4 二次元画像(FFT処理後の画像)
D3i、D4i単位画像(IFFT処理後の画像)
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