(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102884
(43)【公開日】2023-07-26
(54)【発明の名称】真空ポンプ、真空ポンプ用回転体、及び真空ポンプの製造方法
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20230719BHJP
B22F 10/18 20210101ALI20230719BHJP
B22F 10/14 20210101ALI20230719BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20230719BHJP
B22F 10/25 20210101ALI20230719BHJP
B22F 7/08 20060101ALI20230719BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20230719BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20230719BHJP
【FI】
F04D19/04 F
F04D19/04 D
B22F10/18
B22F10/14
B22F10/28
B22F10/25
B22F7/08 E
B33Y10/00
B33Y80/00
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003614
(22)【出願日】2022-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100123674
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 亮
(74)【代理人】
【識別番号】100173680
【弁理士】
【氏名又は名称】納口 慶太
(72)【発明者】
【氏名】樺澤 剛志
【テーマコード(参考)】
3H131
4K018
【Fターム(参考)】
3H131AA02
3H131BA06
3H131CA03
3H131CA34
4K018AA14
4K018AA33
4K018BA08
4K018BA17
4K018JA09
4K018KA70
(57)【要約】
【課題】素材が無駄になるのを防止することが可能で、製造が容易な真空ポンプを提供する。
【解決手段】本体ケーシング127、129と、本体ケーシング127、129内に回転自在に設置された回転体103と、を備え、回転体103が、内側に配置される第1の部品の周囲に第2の部品を被せた構造を有する。第2の部品は、粉末を固めて形成されている。第1の部品が、押出材、鋳造材、及び、鍛造材のうちの少なくとも1つで形成されている。第2の部品が、圧粉体で形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器と、
前記真空容器内に回転自在に設置された回転体と、を備えた真空ポンプにおいて、
前記回転体が、
内側に配置される第1の部品の周囲に、粉末を固めて形成された第2の部品を被せた構造を有することを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記第1の部品が、押出材、鋳造材、及び、鍛造材のうちの少なくとも1つで形成されたことを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記第1の部品が、PBF法またはDED法を用いた立体造形装置で形成されたことを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記第1の部品が、BJ法またはFDM法を用いた立体造形装置で形成後、焼結されたことを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記第2の部品が、圧粉体で形成されたことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記第2の部品が、BJ法またはFDM法を用いた立体造形装置で形成されたことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の真空ポンプ。
【請求項7】
前記第1の部品と、前記第1の部品に被せられた前記第2の部品とが共に焼結処理されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の真空ポンプ。
【請求項8】
前記第1の部品と前記第2の部品が、前記焼結処理前には隙間バメされ、かつ、前記焼結処理後にはしまりバメされていることを特徴とする請求項7に記載の真空ポンプ。
【請求項9】
前記第2の部品が、放射状に配設された翼列からなるターボ分子ポンプ機構用回転翼を備えたことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の真空ポンプ。
【請求項10】
前記第2の部品が、外周面に配設された円板部からなるシグバーンポンプ機構用回転翼を備えたことを特徴とする請求項1から9のいずれか一項に記載の真空ポンプ。
【請求項11】
前記第2の部品が、外周面に配設された円筒部からなるホルベックポンプ機構用回転翼を備えたことを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の真空ポンプ。
【請求項12】
真空ポンプの真空容器内に回転自在に設置される真空ポンプ用回転体において、
内側に配置される第1の部品の周囲に、粉末を固めて形成された第2の部品を被せた構造を有することを特徴とする真空ポンプ用回転体。
【請求項13】
前記第1の部品と、前記第1の部品に被せられた前記第2の部品とが共に焼結処理されていることを特徴とする請求項12に記載の真空ポンプ用回転体。
【請求項14】
真空容器と、
前記真空容器内に回転自在に設置された回転体と、を備えた真空ポンプの製造方法において、
前記回転体が、
内側に配置される第1の部品の周囲に、粉末を固めて形成された第2の部品を被せる第1の工程と、
前記第1の部品と前記第2の部品とを共に焼結処理する第2の工程とを備えたことを特徴とする真空ポンプの製造方法。
【請求項15】
前記第1の部品と前記第2の部品が、前記焼結処理前には隙間バメされ、かつ、前記焼結処理後にはしまりバメされることを特徴とする請求項14に記載の真空ポンプの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばターボ分子ポンプ等の真空ポンプ、真空ポンプ用回転体、及び真空ポンプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、真空ポンプの一種としてターボ分子ポンプが知られている。このターボ分子ポンプにおいては、ポンプ本体内のモータへの通電により回転翼を回転させ、ポンプ本体に吸い込んだガス(プロセスガス)の気体分子(ガス分子)を弾き飛ばすことによりガスを排気するようになっている。また、このようなターボ分子ポンプには、ポンプ内の温度を適切に管理するために、ヒータや冷却管を備えたタイプのものがある。
【0003】
ターボ分子ポンプ用の回転翼は、モータ駆動される回転体に、半径方向に突出するよう設けられる。回転体は、高速で回転するため、回転時に大きな遠心力が作用する。このため、回転体には、例えば、下記のような制約条件がある。
(1)回転時にバランス不良が生じないよう、高精度での加工が必要。
(2)高速回転時に生じる遠心力に耐えるため、高い材料強度が必要。
【0004】
上記のような制約条件を満たすため、回転体は、円柱状の素材から全体的に削り出されることが多い。しかし、回転体を円柱状の素材から全体的に削り出す方法においては、素材の大部分(例えば80%以上)を削ることになり、素材の無駄が多くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような事情の下、上記特許文献1には、円筒状のロータ軸(ローター軸(15))と、円板状のロータディスク(ローターディスク66)を別々に作り、組み合わせる技術が開示されている。特許文献1には、ロータ軸とロータディスクを組み合わせる方法として、以下の3つが開示されている。しかし、それぞれに課題があり、各々の方法の適用は容易ではない。
【0007】
(1)方法1:両者(ロータ軸(15)とロータディスク(66))をしまりバメにする(段落0028、0081)。
方法1の課題: ロータディスク(66)のようなリング状の部品は、高速回転時に生じる遠心力によって、膨張しやすい。ロータディスク(66)が緩まないように、大きなシメシロ(しめ代)が必要となる。そのため、ロータディスク(66)に作用する負荷(圧入による負荷、与圧による負荷、応力による負荷)が増える。
(2)方法2:両者を、摩擦溶接、摩擦攪拌溶接等により接合する(段落0063)。
方法2の課題:ロータ軸(15)、ロータディスク(66)のどちらか一方を固定し、もう一方に強い荷重をかけながら回す必要がある。しかし、ロータディスク(66)には、工作機械のチャックで掴めるような箇所(平坦な箇所)がないため、ロータディスク(66)の加工が難しいと考えられる。
(3)方法3:両者を溶接等により結合させる(段落0063)。
方法3の課題:組み付けた後に対向面全体を溶接等するのが難しく、端面付近のみ(表面の浅い部分のみ)の溶接等が行われると考えられる。そのため、固定強度が不充分になり易い。
【0008】
本発明の目的とするところは、素材が無駄になるのを防止することが可能で、製造が容易な真空ポンプ、真空ポンプ用回転体、及び真空ポンプの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記目的を達成するために本発明に係る真空ポンプは、真空容器と、
前記真空容器内に回転自在に設置された回転体と、を備えた真空ポンプにおいて、
前記回転体が、
内側に配置される第1の部品の周囲に、粉末を固めて形成された第2の部品を被せた構造を有することを特徴とする。
(2)上記目的を達成するために本発明に係る真空ポンプ用回転体は、真空ポンプの真空容器内に回転自在に設置される真空ポンプ用回転体において、
内側に配置される第1の部品の周囲に、粉末を固めて形成された第2の部品を被せた構造を有することを特徴とする。
(3)上記目的を達成するために本発明に係る真空ポンプの製造方法は、真空容器と、
前記真空容器内に回転自在に設置された回転体と、を備えた真空ポンプの製造方法において、
前記回転体が、
内側に配置される第1の部品の周囲に、粉末を固めて形成された第2の部品を被せる第1の工程と、
前記第1の部品と前記第2の部品とを共に焼結処理する第2の工程とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記発明によれば、素材が無駄になるのを防止することが可能で、製造が容易な真空ポンプ、真空ポンプ構成部品、及び、真空ポンプの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係るターボ分子ポンプの構成を模式的に示す説明図である。
【
図3】電流指令値が検出値より大きい場合の制御を示すタイムチャートである。
【
図4】電流指令値が検出値より小さい場合の制御を示すタイムチャートである。
【
図5】回転体の構成を模式的に示す縦断面図である。
【
図6】回転体の組み付け前から焼結処理後の状態を示す説明図である。
【
図7】回転体の製造作業の一例を示す説明図である。
【
図8】BJ法による立体造形装置を模式的に示す説明図である。
【
図9】FDM法による立体造形装置を模式的に示す説明図である。
【
図10】シグバーン型排気機構部とホルベック型排気機構部の両方を備えたタイプのターボ分子ポンプの構成とガスの流れとを示す説明図である。
【
図11】
図10中に二点鎖線の枠Lで囲った部分におけるガスの流れを模式的に示す説明図である。
【
図12】下流側の固定円板における上流側の板面を概略的に示す説明図である。
【
図13】回転円板環部を模式的に示す縦断面図である。
【
図14】PBF法による立体造形装置を模式的に示す説明図である。
【
図15】DED法による立体造形装置を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る真空ポンプについて、図面に基づき説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る真空ポンプとしてのターボ分子ポンプ100を示している。このターボ分子ポンプ100は、例えば、半導体製造装置等のような対象機器の真空チャンバ(図示略)に接続されるようになっている。
【0013】
<ターボ分子ポンプ100の基本構成>
このターボ分子ポンプ100の縦断面図を
図1に示す。
図1において、ターボ分子ポンプ100は、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成した回転体103が備えられている。この回転体103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。
【0014】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104の近接に、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応されて4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定された回転体103の径方向変位を検出し、制御装置200に送るように構成されている。
【0015】
この制御装置200においては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、
図2に示すアンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0016】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0017】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が制御装置200に送られるように構成されている。
【0018】
そして、制御装置200において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0019】
このように、制御装置200は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0020】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置200によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0021】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。制御装置200では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0022】
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙(所定の間隔)を隔てて複数枚の固定翼123(123a、123b、123c・・・)が配設されている。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。
【0023】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0024】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設されている。ベース部129には排気口133が形成され、外部に連通されている。チャンバ(真空チャンバ)側から吸気口101に入ってベース部129に移送されてきた排気ガスは、排気口133へと送られる。
【0025】
さらに、ターボ分子ポンプ100の用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ネジ付スペーサ131が配設される。ネジ付スペーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のネジ溝131aが複数条刻設されている。ネジ溝131aの螺旋の方向は、回転体103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。回転体103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)が形成された回転体本体103aの下部には回転体下部円筒部103bが垂下されている。この回転体下部円筒部103bの外周面は、円筒状で、かつネジ付スペーサ131の内周面に向かって張り出されており、このネジ付スペーサ131の内周面と所定の隙間を隔てて近接されている。回転翼102および固定翼123によってネジ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ネジ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。このように、ネジ付スペーサ131と、これに対向する回転体下部円筒部103bは、ホルベック型排気機構部204を構成する。ホルベック型排気機構部204は、ネジ付スペーサ131に対する回転体下部円筒部103bの回転により、排気ガスに方向性を与え、ターボ分子ポンプ100の排気特性を向上する。ホルベック型排気機構部204については後述する。
【0026】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0027】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子(ガス分子)などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0028】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外部へと伝達する。
【0029】
なお、上記では、ネジ付スペーサ131は回転体103の回転体下部円筒部103bの外周に配設し、ネジ付スペーサ131の内周面にネジ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に回転体下部円筒部103bの外周面にネジ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
【0030】
また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれる場合もある。
【0031】
この場合には、ベース部129には図示しない配管が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部の間の隙間を通じて排気口133へ送出される。
【0032】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0033】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0034】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiCl4が使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl3)が析出し、ターボ分子ポンプ100内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口付近やネジ付スペーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0035】
そのため、この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周に図示しないヒータや環状の水冷管149を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管149による冷却の制御(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われている。
【0036】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路の回路図を
図2に示す。
【0037】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0038】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0039】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0040】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0041】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置200の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0042】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0043】
なお、回転体103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力での回転体103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の高電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0044】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0045】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0046】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、
図3に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0047】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、
図4に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0048】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0049】
このような基本構成を有するターボ分子ポンプ100は、
図1中の上側(吸気口101の側)が対象機器の側に繋がる吸気部となっており、下側(排気口133を構成する排気ポート15が図中の右側に突出するようベース部129に設けられた側)側が、図示を省略する補助ポンプ(バックポンプ)等に繋がる排気部となっている。そして、ターボ分子ポンプ100は、
図1に示すような鉛直方向の垂直姿勢のほか、倒立姿勢や水平姿勢、傾斜姿勢でも用いることが可能となっている。
【0050】
また、ターボ分子ポンプ100においては、前述の外筒127とベース部129とが組み合わさって1つのケース(以下では両方を合わせて「本体ケーシング」などと称する場合がある)を構成している。また、ターボ分子ポンプ100は、箱状の電装ケース(図示略)と電気的(及び構造的)に接続されており、電装ケースには前述の制御装置200が組み込まれている。
【0051】
ターボ分子ポンプ100の本体ケーシング(外筒127とベース部129の組み合わせ)の内部の構成は、モータ121によりロータ軸113等を回転させる回転機構部と、回転機構部より回転駆動される排気機構部に分けることができる。また、排気機構部は、回転翼102や固定翼123等により構成されるターボ分子ポンプ機構部と、回転体下部円筒部103bやネジ付スペーサ131等により構成されるネジ溝ポンプ機構部(ホルベック型排気機構部204)に分けて考えることができる。
【0052】
また、前述のパージガス(保護ガス)は、軸受部分や回転翼102等の保護のために使用され、排気ガス(プロセスガス)に因る腐食の防止や、回転翼102の冷却等を行う。このパージガスの供給は、一般的な手法により行うことが可能である。
【0053】
例えば、ベース部129の所定の部位(排気口133に対してほぼ180度離れた位置など)に、径方向に直線状に延びるパージガスポート13を設ける。そして、このパージガスポート13に対し、ベース部129の外側からパージガスボンベ(N2ガスボンベなど)や、流量調節器(弁装置)などを介してパージガスを供給する。
【0054】
前述の保護ベアリング120は、「タッチダウン(T/D)軸受」、「バックアップ軸受」などとも呼ばれる。これらの保護ベアリング120により、例えば万が一電気系統のトラブルや大気突入等のトラブルが生じた場合であっても、ロータ軸113の位置や姿勢を大きく変化させず、回転翼102やその周辺部が損傷しないようになっている。
【0055】
なお、ターボ分子ポンプ100や回転体103の構造を示す各図(
図1、
図5~
図11、
図13~
図15)では、部品の断面を示すハッチングの記載は、図面が煩雑になるのを避けるため省略している。
【0056】
<回転体103の製造>
図5及び
図6は、上述のようなターボ分子ポンプ100に用いられている回転体103の部品の構成を概略的に示している。本実施形態において、回転体103は、内側に配置される第1の部品の周囲に、粉末を固めて形成された第2の部品を被せた構造を有する。
【0057】
回転体103は、
図5及び
図6に示すように、内側筒部302、外側筒部304、及び多段(ここでは11段)のブレード環部306a~306kを備えている。内側筒部302は、第1の部品に分類され、外側筒部304、及びブレード環部306a~306kは、第2の部品に分類される。
【0058】
第1の部品(ここでは内側筒部302)は相対的に内側に配置され、第2の部品(ここでは外側筒部304、及びブレード環部306a~306k)は第1の部品よりも外側に配置される。第2の部品は、回転体103の製造時に、収縮(縮小)して第1の部品に結合される。第1の部品と第2の部品の製造方法や、回転体103の製造方法については後述する。
【0059】
図5及び
図6の左端部には、XYZ軸による直交座標が示されている。直交座標において、X軸及びY軸は水平方向に延びており、Z軸は、鉛直方向に延びX軸及びY軸に直交している。各軸の矢印における矢の向きが正の向き(正方向)を示している。座標における〇印は、紙面の奥から手前へ向かう向きを示しており、〇に×を付加した印は、紙面の手前から奥に向かう向きを示している。
【0060】
<<内側筒部302>>
図6における左右の図に示す外側筒部304は、第1の部品に分類され、回転体本体103a(
図1)を構成する。
図6における左側の図に示すように、内側筒部302は、段付きな円筒状に形成されている。内側筒部302の外径は、軸方向の一端部(
図6における下端部)ほど大きく、他端部(
図6における上端部)へいくほど段階的に小さくなっている。内側筒部302の外周面310には、上端側から下端側へ順に、第1の段差部312、第2の段差部314、及び第3の段差部316が形成されている。
【0061】
第1の段差部312、第2の段差部314、及び第3の段差部316の大きさは、互いに異なっている。これらの段差部312、314、316の大きさは、回転体103の径方向への突出量(張り出し量)により表すことができる。第1の段差部312は最も大きく、第3の段差部316は、第2の段差部314よりも大きい。第1の段差部312、第2の段差部314、及び第3の段差部316の突出方向は、直交座標におけるXY平面内に延びる方向である。
【0062】
内側筒部302は、上下方向(Z軸方向)の両端を開放しており、軸心方向の途中の部位に円盤部318を有している。円盤部318の中央には、貫通穴320が設けられている。この貫通穴320には、回転体103の完成後に、ロータ軸113(
図1)の上端部が下方から差し込まれる。
【0063】
円盤部318は、内側筒部302の軸心に対して、第1の段差部312とほぼ同様の位置に配置されている。第2の段差部314は、円盤部318と、内側筒部302の下端部とのほぼ中間程度の位置に配置されている。第3の段差部316は、内側筒部302の下端部に配置されている。
【0064】
以下では、内側筒部302において、第1の段差部312よりも上端側の部位を第1の円筒部322とし、第1の段差部312と第2の段差部314の間の部位を第2の円筒部324とする。さらに、第2の段差部314と第3の段差部316の間の部位を第3の円筒部326とする。第3の円筒部326の下端部には、全周に亘って半径方向に張り出したフランジ部328が形成されている。
【0065】
<<外側筒部304>>
外側筒部304は、上下の端部(軸心方向の両端部)を開放した円筒状に形成されている。外側筒部304は、第2の部品に分類され、前述した回転体下部円筒部103bを構成するものである。外側筒部304における上部には真円状の上部開口332が形成され、下部にも、同じく真円状の下部開口334が形成されている。上部開口332の直径(内径)は、下部開口334の直径(内径)よりも小さい。
【0066】
外側筒部304は、内側筒部302に対して同心的に組み合わされ、内側筒部302に被せられる。この際、内側筒部302は、外側筒部304の下部開口334から外側筒部304の中に進入し、
図6における右側の図に示すように、外側筒部304の上部開口332から上方に突出する。外側筒部304における上部開口332の周縁部が、内側筒部302のフランジ部328に載り、フランジ部328が、外側筒部304における上部開口332の周縁部に、下方から係止する。
【0067】
外側筒部304は、ホルベック型排気機構部204の回転体下部円筒部103b(
図1)を構成する。
図1に示すように、ホルベック型排気機構部204においては、回転体下部円筒部103bやネジ溝131aを有するネジ付スペーサ131に、回転体下部円筒部103bが対向する。
【0068】
回転体下部円筒部103bは、ネジ溝131aの外側で、ネジ付スペーサ131に対し相対的に回転変位する。回転体下部円筒部103bは、一種の翼として機能する。そして、回転体下部円筒部103bの回転により、ネジ溝131aに沿った排気ガスの流れが発生し、排気ガスに方向性が与えられる。
【0069】
このようなホルベック型排気機構部204を備えたターボ分子ポンプは、第2の部品(ここでは外側筒部304)が、外周面に配設された(外周面を構成する)円筒部からなるホルベックポンプ機構用回転翼を備えたものであるといえる。
【0070】
<<ブレード環部306a~306k>>
ブレード環部306a~306kは、回転翼102(102a、102b、102c・・・)、を有する部品である。ブレード環部306a~306kにおいては、筒状の回転翼スペーサ部336a~336k毎の外周部に、多数の回転翼102a~102kが、所定角度間隔(例えば10度間隔)で、半径方向に突出するよう設けられている。各ブレード環部306a~306kに所定数ずつ設けられた回転翼102a~102kの形状や向きなどは、一般的なものと同様とすることができる。
【0071】
ブレード環部306a~306kにおいて、回転翼スペーサ部336a~336kの軸心方向(Z軸方向)の長さや内径、均一ではなく、それぞれが機能や配置に応じた最適な値に設定されている。
【0072】
ブレード環部306a~306kは、放射状に配設された翼列からなるターボ分子ポンプ機構用回転翼(回転翼102)を備えた部品である。個々のブレード環部306a~306kを、ターボ分子ポンプ機構用回転翼として分類することが可能である。また、ブレード環部306a~306kを、全体としてターボ分子ポンプ機構用回転翼に分類することも可能である。また、ブレード環部306a~306kと一体に用いられる外側筒部304までを含めて、ターボ分子ポンプ機構用回転翼に分類することも可能である。
【0073】
ブレード環部306a~306kは、
図6における左側の図に示すように、内側筒部302に対して同心的に組み合わされ、外側から被せられる。この際、内側筒部302は、回転翼スペーサ部336a~336kの中に下方から進入し、ブレード環部306a~306kは、軸心方向(Z軸方向)に同心的に積み重なる。
図6の例において、最上段から3段目までのブレード環部306a~306cは、内側筒部302における第1の円筒部322に被せられる。
【0074】
上から3段目のブレード環部306cは、内側筒部302における第1の段差部312に載り、第1の段差部312によって支持される。2段目のブレード環部306bは、3段目のブレード環部306cに載り、3段目のブレード環部306cによって支持される。1段目のブレード環部306aは、2段目のブレード環部306bに載り、2段目のブレード環部306bに載り、によって支持される。
【0075】
同様に、4段目~7段目までのブレード環部306d~306gは、内側筒部302における第2の円筒部324に被せられる。7段目のブレード環部306gは、内側筒部302における第2の段差部314に載る。積み重なった4段目~6段目のブレード環部306d~306fは、7段目のブレード環部306gによって支持される。
【0076】
8段目~11段目までのブレード環部306h~306kは、内側筒部302における第3の円筒部326に被せられる。11段目のブレード環部306kは、外側筒部304における上部開口332の周縁部に載る。積み重なった8段目~10段目のブレード環部306h~306jは、11段目のブレード環部306kによって支持される。
【0077】
<第1の部品の製造方法>
前述したように、内側筒部302は、第1の部品に分類され、外側筒部304、及びブレード環部306a~306kは、第2の部品に分類される。本実施形態では、第2の部品は、回転体103の製造時に、収縮して第1の部品に結合される。
【0078】
図5及び
図6の例においては、第1の部品である内側筒部302は、金属塊の素材(中実な円柱状の素材など)から削り出すことにより形成されている。内側筒部302は、削り出しの際に、完成品の回転体103における各部の寸法と同等に加工される。内側筒部302は、後述するように、第2の部品(ここでは外側筒部304、及びブレード環部306a~306k)とともに焼結されるが、焼結処理における収縮は生じない。収縮が生じたとしても、第2の部品と比べれば、収縮は大幅に少ない。
【0079】
より厳密には、金属塊から内側筒部302を削り出した場合には、焼結しても基本的に寸法は変わらないが、焼結前に残留応力が残っていた場合には、僅かに収縮する可能性がある。また、後述する第2実施形態(
図14及び
図15)のように、第1の部品(ここでは内側筒部302)をBJ法やFDM法により製造し、第2の部品(ここでは外側筒部304、及びブレード環部306a~306k)の組み付け組の前に焼結した場合にも、第1の部品(ここでは内側筒部302)が僅かに収縮する可能性がある。
【0080】
内側筒部302が削り出される素材を、例えば、押出しにより製造された押出材、鋳造により製造された鋳造材、及び、鍛造により製造された鍛造材のうちのいずれかとすることが可能である。つまり、内側筒部302が、押出材、鋳造材、及び、鍛造材のうちのいずれかであるようにすることが可能である。
【0081】
また、内側筒部302を、単一の部品や、複数の部品により構成することが可能である。このため、内側筒部302を、押出材、鋳造材、及び、鍛造材のうちの少なくとも1つで形成されたものとすることが可能である。また、内側筒部302を、これらの素材の組み合わせにより構成することも可能である。
【0082】
第1の部品である内側筒部302は、他の方法によっても製造することが可能である。例えば、内側筒部302を、3Dプリンタを用いた積層造形により製造することも可能である。内側筒部302を3Dプリンタにより製造する方法については、他の実施形態(
図14及び
図15)として後述する。また、内側筒部302を粉末冶金により製造し、予め焼結しておくことも可能である。この場合も、第2の部品(ここでは外側筒部304、及びブレード環部306a~306k)と共に焼結される際の収縮は生じない。
【0083】
<第2の部品の製造方法>
第2の部品である外側筒部304、及びブレード環部306a~306kは、圧粉体で形成されている。圧粉体は、プレス成型により圧力を加えて固められた金属粉(アルミニウム合金やステンレス鋼などの粉)により構成されている。外側筒部304、及びブレード環部306a~306kの製造は、3Dプリンタ(立体造形装置)を用いた積層造形により行うことも可能である。
【0084】
3Dプリンタによる積層造形の方式としては、例えば、PBF(Powder Bed Fusion、粉末床溶融結合)法、BJ(Binder Jetting、結合剤噴射)法、DED(Directed Energy Deposition、指向性エネルギー堆積)法、及びFDM(Fused Deposition Modeling、熱溶解積層)法等が知られている。
【0085】
これらのうち、PBF法及びDED法は、積層後に焼結処理を行う必要がない方法に分類でき、BJ法及びFDM法は、積層後に焼結処理を行う必要がある方法に分類できる。外側筒部304、及びブレード環部306a~306kの製造は、BJ法またはFDM法のように、焼結処理を要する方法を用いた立体造形装置により行うことができる。外側筒部304、及びブレード環部306a~306kの製造を、3Dプリンタを用いた積層造形により行うことで、削り出しを採用した場合に比べ、素材が無駄になるのを防止できる。以下に、BJ法及びFDM法の概要を説明する。
【0086】
<<BJ法>>
BJ法(
図8)は、平坦に敷き詰めた材料粉末238に対し、ヘッド部230がインクジェットノズル(図示略)から選択的に液体の結合剤(Binder)250を噴射し、材料粉末238を一層ずつ固形化する。
図8に示すBJ法においては、立体造形装置220の筐体222の中に、材料供給部224、積層部226、余剰材料受入部228、及び、ヘッド部230が備えられている。材料供給部224、積層部226、及び、余剰材料受入部228は、一方向(
図8では左から右、X軸方向)に並んでいる。
【0087】
材料供給部224は、供給エレベータ232やローラ(「リコータ」などともいう)234を備えている。供給エレベータ232は、ねじ部236を用いて上方(
図8中のXYZ座標におけるZ軸の正方向)へ移動し、材料粉末238を全体的に押し上げる。供給エレベータ232の移動量(上昇量)は、例えば、一回の移動につき数十ミクロン程度である。ローラ234は回転し、押し上げられた材料粉末238を掻き取って、積層部226へ移動させる。
【0088】
積層部226は、積層エレベータ240を備えている。積層部226は、ねじ部242を用い、積層エレベータ240の積層テーブル244を、一回の積層毎に所定量ずつ、下方(Z軸の負方向)へ変位させる。積層テーブル244の一回の変位量は、一回の積層における造形厚さ(積層厚さ)に相当する。積層テーブル244が下がる度に発生するスペースに対して、ローラ234により材料粉末238が供給され、材料粉末238が敷き詰められる。
【0089】
ヘッド部230は、位置決め機構部248により、高速で移動し、位置決めされる。図示は省略するが、位置決め機構部248は、X軸方向及びY軸方向の変位機構を備えている。位置決め機構部248がZ軸の変位機構を備えていてもよい。
【0090】
ヘッド部230が、造形の対象となる被造形物(ここでは外側筒部304)の各層のデータに基づき移動しながら、インクジェットノズルから、結合剤250を選択的に噴射する。一層の形成が完了すると、積層テーブル244が一段下がり、ローラ234が新しい材料粉末238を敷く。新たに敷かれた材料粉末238の層に、外側筒部304の断面形状に従って、結合剤250が噴射される。外側筒部304の造形が完了するまで、材料粉末238の敷設と各層の形成が繰り返される。
【0091】
造形の完了後には、被造形物が取り出され、
図6における左側の図に示したような組み付けの後、
図6における右側の図に示したような造形物の焼結が行われる。焼結は、結合剤250で結合された材料粉末238の機械的特性を向上するために行われる。高温炉で熱を加えられることにより、被造形物中の結合材が焼失するとともに、造形物が幾分収縮し、必要な機械的特性が得られる。
【0092】
<<FDM法>>
図9の例のFDM法においては、立体造形装置260に、フィラメント供給部262やヘッド部264が備えられている。以下では、BJ法(
図8)と同様な部分については同一符号を付し、適宜説明は省略する。
【0093】
ヘッド部264は、位置決め機構部248に搭載されており、被造形物(ここでは外側筒部304)の断面形状に合わせて移動する。FDM法(
図9)による立体造形装置260は、フィラメント供給部262から、結合剤を含むフィラメント266を導出する。立体造形装置260は、フィラメント266を、熱源の熱で溶かしながらヘッド部264から押し出し、積層テーブル244の上に各層を積み上げて立体造形を行う。
【0094】
<<支持具400により支持した状態での第2の部品と第1の部品との結合>>
圧粉体により外側筒部304、及びブレード環部306a~306k(第2の部品)が形成された後、これらの部品は、
図6における左側の図に示したように、内側筒部302(第1の部品)に組み付けられる。外側筒部304、及びブレード環部306a~306kが、内側筒部302に、同心的に被せられる。この後、内側筒部302と、内側筒部302に被せられた外側筒部304、及びブレード環部306a~306kとが共に焼結処理される。
【0095】
内側筒部302、外側筒部304、及びブレード環部306a~306kの組み付けの際には、
図7に示すような支持具400が用いられる。支持具400は、段付きな円柱状に形成されている。
【0096】
なお、
図7は、焼結処理後(収縮後)の外側筒部304、及びブレード環部306a~306kの状態を示している。支持具400は、焼結処理時にも使用されるが、外側筒部304のような収縮は生じず、焼結処理の前後の寸法はほとんど変わらない。ここでは、焼結処理の前後に関わらず、
図7を援用して支持具400の説明を行う。
【0097】
支持具400の外径は、軸方向の一端部(
図7における下端部)ほど大きく、他端部(
図7における上端部)へいくほど段階的に小さくなっている。支持具400の外周面410には、上端側から下端側へ順に、第1の段差部412、及び、第2の段差部414が形成されている。
図7の例では、第1の段差部412、及び第2の段差部414の大きさは、互いに同程度である。
【0098】
支持具400の上端部は、相対的に細径な第1の円柱部416となっており、第1の円柱部416よりも下側の部分は、第1の円柱部416よりも大径な第2の円柱部418となっている。第2の円柱部418の下端部には、フランジ部420が全周に亘って半径方向に張り出している。
【0099】
内側筒部302に外側筒部304を被せる際には、先ず、内側筒部302が、支持具400における第1の円柱部416に上方から被せられる。内側筒部302のフランジ部328が、支持具400における第1の段差部412に被せられ、第2の円柱部418に載せられる。内側筒部302のフランジ部328は、第2の円柱部418に上方から接触している。
【0100】
内側筒部302における第3の円筒部326の内径は、支持具400における第1の円柱部416の直径よりも幾分大きく形成されている。このため、内側筒部302における第3の円筒部326と、支持具400における第1の円柱部416との間には、隙間430が発生している。
【0101】
外側筒部304における上部開口332の周縁部は、内側筒部302におけるフランジ部328に上方から接触している。このため、外側筒部304の軸心方向(Z軸方向)における位置は、内側筒部302のフランジ部328により規制される。
【0102】
焼結処理が行われる焼結工程においては、外側筒部304、及びブレード環部306a~306kは、支持具400に支持された状態で、約20%収縮する。内側筒部302は、焼結処理時に収縮しないよう、削り出し等の方法により形成されている。このため、内側筒部302に被せられた外側筒部304、及びブレード環部306a~306kが収縮し、内側筒部302に密着する。
【0103】
焼結処理において、内側筒部302と、外側筒部304、及びブレード環部306a~306kとの間の隙間は消滅する。焼結処理における加熱により、内側筒部302と、外側筒部304、及びブレード環部306a~306kとは、融着して接合される。
【0104】
焼結前における、内側筒部302と、外側筒部304、及びブレード環部306a~306kとの間における隙間の大きさは、外側筒部304、及びブレード環部306a~306kの収縮により、内側筒部302との間の隙間が消滅し、部品間の接合が生じるよう決められている。このため、例えば、焼結後に、回転体103を縦方向に切断したとしても、外側筒部304、及びブレード環部306a~306kは、内側筒部302から分離しない。外側筒部304と内側筒部302との接触面が融着するので、回転中には外側筒部304が遠心力で半径方向に広がるのを抑え、外側筒部304に生じる応力を緩和する効果もある。
【0105】
以上のようにして製造された回転体103は、内側筒部302と、外側筒部304、及びブレード環部306a~306kとが、焼結処理前には隙間バメされ、かつ、焼結処理後にはしまりバメされているものであるということができる。そして、このような製造方法によれば、内側の部品に外側の部品を被せた後に、圧入、焼きバメ、溶接、ロウ付け等の作業を行う必要がない。したがって、内側筒部302に外側筒部304、及びブレード環部306a~306kを組み付ける作業が容易であり、更に部品の素材へのダメージが小さい。
【0106】
なお、上記焼結処理は、1回で終了させることに限らず、例えば複数回(2回や3回など)に分けて行ってもよい。
【0107】
<焼結を考慮した部品寸法の設定>
金属粉を固めて得られた部品である外側筒部304、及びブレード環部306a~306kは、焼結工程において約20%収縮する。また、回転体103の軸心を基準として、相対的に半径方向の外側に位置する部品は、内側に位置する部品に比べて、遠心力による影響を大きく受け、回転時の変形を生じ易い。このため、焼結により収縮した部品に、回転中の遠心力によるゆるみが生じないよう、対策を施すことが考えられる。
【0108】
対策としては、焼結前の部品寸法を、内側(軸側)の部品と、外側(穴側)の部品との間の隙間(隙間の基準寸法)が、以下のような関係を満たすように、部品寸法を設定することが考えられる。
隙間の基準寸法=a-(c-b)-(d+e)/2
ここで、各記号の意味は以下のとおりである。
a:焼結時の収縮による直径変化量[mm]
b:内側(軸側)の部品の遠心力による直径変化量[mm]
c:外側(穴側)の部品の遠心力による直径変化量[mm]
d:内側(軸側)の部品の公差幅[mm]
e:外側(穴側)の部品の公差幅[mm]
【0109】
例えば、内側の部品(ここでは内側筒部302)の直径(外径)がΦ100±0.05mmの場合、aは以下のようになる。さらに、この場合に、b~eのパラメータを以下のようにする。
a:100mm×0.2=20mm
b:0.1mm
c:0.2mm
d:内側の部品の公差幅0.1mm(±0.05mm)
e:外側の部品の公差幅0.2mm(±0.1mm)
この条件の下では、隙間の基準寸法は、20-(0.2-0.1)-(0.1+0.2)/2=18.75mmとなり、焼結時の収縮による直径変化量(20mm)よりも小さくなる。
そして、外側の部品(例えば、ブレード環部306a~306k)の内径を、118.75±0.1mmとし、この値を目安にして、各部品の設計を行う。
【0110】
このようにすることで、径方向に関し片側で10mm近く(18.75/2=9.375mm)の大きさの隙間を確保できる。このため、厳密な位置合わせ等を行うことなく、部品を被せたり積み上げたりすることができる。このため、部品の組み付け作業が行い易く、作業性が向上する。
【0111】
さらに、焼結工程中に外側の部品が収縮する際には、内側の部品と外側の部品の係合関係が、隙間バメから徐々にしまりバメに変化し、自動的に芯出し(調心)が行われる。したがって、組み付け作業の際に厳密な芯出しが不要であり、このことによっても組み付け作業が容易になる。また、第2の部品である外側筒部304、及びブレード環部306a~306kが積層造形により形成されているので、削り出しにより形成した場合と比べ、切り粉の発生を防止でき、材料の無駄や、廃棄物に係るリサイクルの手間を削減できる。
【0112】
<焼結工程中の工夫>
<<支持具400の利用>>
焼結工程において、第2部品に20%程度の収縮が生じるが、収縮を想定した工夫を事前に施しておくことが有効である。例えば、
図7に示すように支持具400を用いることにより、焼結工程において、外側筒部304、及びブレード環部306a~306が収縮しても、内側筒部302、外側筒部304、及びブレード環部306a~306の係止状態を確保でき、これらの部品同士が分離してしまうのを防止できる。
【0113】
<<押圧力の付与>>
また、内側筒部302に、外側筒部304、及びブレード環部306a~306kを組み付ける際に、
図7に矢印Aで示すように、上方から押圧力を付与する。このようにすることで、1段目~3段目のブレード環部306a~306cが、内側筒部302の第1の段差部312に押し付けられ、ブレード環部306a~306cの、内側筒部302に対する緩みが防止される。
【0114】
この場合、4段目~7段目のブレード環部306d~306gの寸法を好適に確保し、4段目のブレード環部306dの高さ(Z軸方向における位置)を、第1の段差部312に面一になるよう設定することで、押圧力(矢印A)を、4段目~7段目のブレード環部306d~306gに伝えることができる。これにより、4段目~7段目のブレード環部306d~306gが、内側筒部302の第2の段差部314に押し付けられ、ブレード環部306d~306gの、内側筒部302に対する緩みが防止される。
【0115】
また、8段目~11段目のブレード環部306h~306k、及び外側筒部304の寸法を好適に確保し、8段目のブレード環部306hの高さ(Z軸方向における位置)を、第2の段差部314に面一になるよう設定することで、押圧力(矢印A)を、8段目~11段目のブレード環部306h~306k、及び外側筒部304に伝えることができる。これにより、8段目~11段目のブレード環部306h~306k、及び外側筒部304が、内側筒部302の第3の段差部316に押し付けられ、ブレード環部306h~306k、及び外側筒部304の、内側筒部302に対する緩みが防止される。
【0116】
ここで、
図7は、前述したように、収縮後の外側筒部304、及びブレード環部306a~306kの状態を示している。収縮後には、外側筒部304、及びブレード環部306a~306kが、内側筒部302に接合されると共に、外側筒部304の下端部と、支持具400のフランジ部420との間に隙間432が発生する。
【0117】
つまり、内側筒部302は、支持具400における第2の円柱部418に載せられていることから、内側筒部302のフランジ部328と、支持具400における第1の段差部412との接触部が基準位置Bとなり、収縮後も接触を維持する。そして、回転体103における全体の収縮に伴い、外側筒部304の下端部が、基準位置Bに近づき、支持具400のフランジ部420との間の隙間432が発生する。
【0118】
このように、内側筒部302に第1の段差部312~第3の段差部316を設けて、外側筒部304、及びブレード環部306a~306kを、鉛直方向(Z軸方向、軸心方向)に支持しながら焼結を行うことで、第1の段差部312~第3の段差部316が、それぞれ位置決め箇所となる。そして、第1の段差部312~第3の段差部316により、鉛直方向の収縮による位置ずれの影響を可能な限り抑制することができる。
【0119】
より具体的には、金属粉の充填率(金属粉が含まれる割合)により、焼結時の収縮率は変わる。そして、単に、外側筒部304、及びブレード環部306a~306kを積み重ねただけでは、最上段に位置する1段目のブレード環部306aに係る位置ずれ量が最も大きくなり、位置ずれ量が無視できなくなる場合もあり得る。
【0120】
しかし、
図7の例のように、第1の段差部312~第3の段差部316のそれぞれの位置で位置決めを行うことにより、位置ずれ量の最大値を抑制できる。つまり、複数の部品のまとまり毎の最下段の部品である3段目のブレード環部306c、7段目のブレード環部306g、外側筒部304の位置ずれが防止され、位置ずれ量の累積値が抑えられる。この結果、例えば1段目のブレード環部306aであっても、位置ずれ量が抑制された値となり、位置ずれ量を許容レベルに収め易くなる。
【0121】
ここで、
図7の例では、3段目のブレード環部306cと4段目のブレード環部306dとの間や、7段目のブレード環部306gと8段目のブレード環部306hとの間に、収縮による隙間が発生し得るが、隙間の部分にばね座金等の弾性体(ばね要素)を介在させて、下方に押し付ける力が発生するようにしてもよい。
【0122】
なお、
図7の例では、矢印Aで示す押圧力が2箇所に付与されているが、例えば、1段目のブレード環部306aにおける、回転翼スペーサ部336aの全周に亘り環状に押圧力を付与しても良い。また、押圧力を回転翼スペーサ部336aに対し、円弧状に、且つ、部分的に(或いは断続的に)付与してもよい。さらに、押圧力の付与は、例えば、ばね座金、コイルばね、板ばね等の各種の弾性体(ばね要素)を介して行うことが可能である。
【0123】
<第2の部品のその他の適用対象>
第2の部品とすることができるのは、上述のようなターボ分子ポンプ機構用回転翼や、ホルベックポンプ機構用回転翼(回転体下部円筒部103b(
図1)を構成する外側筒部304)に限定されない。例えば、ターボ分子ポンプ100には、
図10に示すように、シグバーン型排気機構部202が備えられる場合がある。シグバーン型排気機構部202を構成するシグバーンポンプ機構用回転翼(
図13に示す回転円板環部370a~370c)も、第2の部品とすることができる。
【0124】
図10に示すように、シグバーン型排気機構部202は、ホルベック型排気機構部204と組み合わせて備えられる場合がある。また、図示は省略するが、シグバーン型排気機構部202は、ホルベック型排気機構部204を伴わず、単独で備えられる場合もある。シグバーン型排気機構部202を備えることにより、排気されるガスに方向性が与えられ、ターボ分子ポンプ100の排気性能が向上する。
【0125】
図10は、ターボ分子ポンプ100に、シグバーン型排気機構部202と、ホルベック型排気機構部204の両方を備えた構造の一例を示している。以下では、シグバーン型排気機構部202の構造や、シグバーン型排気機構部202とホルベック型排気機構部204との関係について説明するが、
図1に示すターボ分子ポンプ100と同様な部分については同一符号を付し、その説明は適宜省略する。
【0126】
シグバーン型排気機構部202は、前述した回転翼102(102a、102b、102c・・・、各々が翼列を有する)や固定翼123(123a、123b、123c・・・)等により構成されるターボ分子ポンプ機構部の次段(直後の下流側)に、空間的に連続するよう形成されている。一方、ホルベック型排気機構部204は、シグバーン型排気機構部202の次段(直後の下流側)に、空間的に連続するよう形成されている。
【0127】
シグバーン型排気機構部202は、シグバーン型の排気機構であり、固定円板349a、349bと、回転円板350a~350cとを有している。回転円板350a~350cが設けられている回転円板環部370a~370c(
図13、後述する)は、外周面に配設された円板部からなるシグバーンポンプ機構用回転翼として機能する。
【0128】
回転円板350a~350cは、回転翼102の下段に続けて配置され、軸心方向に並んでいる。回転円板350a~350cは、回転体103に一体に形成されており、回転体103の回転に伴い、ロータ軸113及び回転体103と同じ方向に回転する。つまり、回転円板350a~350cは、回転翼102(102a、102b、102c・・・)とも一体的に回転する。
【0129】
固定円板349a、349bと回転円板350a~350cとの間には、
図11に拡大して示すように、断面形状が矩形状な多数の山部351が突出するよう形成されている。さらに、隣り合った山部351の間には、
図11に示すように、渦巻き状溝流路であるシグバーン渦巻き状溝部352が形成されている。
【0130】
図11は、
図10に示すロータ軸113の右側の部位(二点鎖線の枠L内)における溝排気機構部を拡大して示している。なお、溝排気機構部は、本体ケーシング(外筒127とベース部129の組み合わせ)やロータ軸113等の軸心を中心として線対称(
図10中では左右対称)の構造を有していることから、ここでは
図10中の右側の部位のみを拡大して図示し、左側の部位については図示を省略する。
【0131】
このような構造のシグバーン型排気機構部202においては、モータ121が駆動されると、回転円板350a~350cが回転する。そして、各固定円板349a、349bと、各回転円板350a~350cとの間での相対的な回転変位が行われる。さらに、
図10~
図12に多数の矢印Q(一部のみ符号を付す)で示すように、ターボ分子ポンプ機構部(回転翼102や固定翼123等により構成される)により移送されてきたガスが、溝排気機構部のシグバーン型排気機構部202に到達する。
【0132】
シグバーン型排気機構部202に到達したガスは、最上流のシグバーン渦巻き状溝部352に流入し、深さ方向(ロータ軸113の軸方向)において徐々に狭まる流路を通る。その後のガスは、折り返し部354、356や、一定の深さのシグバーン渦巻き状溝部352を経て、求心方向(軸心方向)や遠心方向に向かい、後述するホルベック型排気機構部204へ流入する。
【0133】
このようなシグバーン型排気機構部202においては、回転円板350a~350cが、回転翼102に対して、軸方向に並んで配置されている。このため、ブレード環部306a~306k(
図6)と同様に、内側筒部302に組み付ける構造とすることが可能である。
【0134】
例えば、
図13に示すように、回転円板環部370a~370cを、金属粉を固めて凝固させた圧粉体により、それぞれ別個に形成する。回転円板環部370a~370cは、ブレード環部306a~306kの回転翼スペーサ部336a~336k(
図6)と同様な回転円板スペーサ部372a~372cを有している。回転円板環部370a~370cにおいては、回転円板スペーサ部372a~372cから回転円板350a~350cが、半径方向にフランジ状に突出している。
【0135】
回転円板環部370a~370cの製造は、3Dプリンタを用いた積層造形により行うことが可能である。3Dプリンタによる積層造形の方式としては、ブレード環部306a~306kと同様に、例えば、焼結処理を要するBJ法又はFDM法等を採用する。そして、回転円板環部370a~370cを、BJ法またはFDM法を用いた立体造形装置220、260で形成されたものとする。
【0136】
回転円板環部370a~370cの組み付けの際には、回転円板環部370a~370cを、内側筒部302に外側から順に、隙間バメの状態で被せる。回転円板環部370a~370cを、内側筒部302、外側筒部304、及びブレード環部306a~306kと共に焼結処理し、内側筒部302に一体化する。焼結処理の前の、回転円板環部370a~370cの内周部と、内側筒部302との間の隙間は、ブレード環部306a~306kと同様に設定することができる。
【0137】
以上説明したような構造や製造方法を採用するにより、回転円板350a~350cを有する部品(ここではシグバーンポンプ機構用回転翼として機能する回転円板環部370a~370c)を、削り出しによらずに形成することができる。そして、削り出しにより形成した場合と比べ、切り粉の発生を防止でき、材料の無駄や、廃棄物に係るリサイクルの手間を削減できる。
【0138】
また、シグバーンポンプ機構用回転翼(ここでは回転円板環部370a~370c)を、内側筒部302に容易に組み付けることができ、更に部品の素材へのダメージも小さい。そして、組み付け作業の際に厳密な芯出しが不要であり、このことによっても組み付け作業が容易になる。
【0139】
このようなシグバーン型排気機構部202の次段に、
図10~
図12の例のようにホルベック型排気機構部204を設けた場合、ホルベック排気流路360(
図11)は、シグバーン排気流路366を通ったガスを受け入れる。そして、ホルベック排気流路360は、受け入れたホルベック渦巻き状溝部362により、外周側から内周側に導き、折曲部を経て、ネジ溝131aに導入する。さらに、ネジ溝131aにおいては、導入されたガスが、回転体103の回転に伴い、ネジ溝131aに沿って下流側へ導かれる。
【0140】
なお、
図10~
図12の例におけるホルベック型排気機構部204は、ロータ軸113の軸線を基準として径方向へのガスの移送と、ロータ軸113の軸線方向へのガスの移送を行うようになっている。しかし、径方向へのガスの移送を行う部分をシグバーン型排気機構部202に含まれるよう分類し、ロータ軸113の軸線方向へのガスの移送を行う部分のみをホルベック型排気機構部204に分類することも可能である。
【0141】
<第1の部品の製造方法に係る第2実施形態>
第1実施形態に係る第1の部品の製造方法においては、第1の部品である内側筒部302は、金属塊の素材(円柱状の素材など)から削り出すことにより形成されていた。本第2実施形態では、内側筒部302は、3Dプリンタを用いた積層造形により製造される。
【0142】
内側筒部302の製造には、PBF法又はDED法を利用することが可能である。PBF法及びDED法は、積層後に焼結処理を行う必要がない方法に分類できる。内側筒部302の製造を、3Dプリンタ(立体造形装置)を用いた積層造形により行うことで、削り出しを採用した場合に比べ、素材が無駄になるのを防止できる。以下に、PBF法又はDED法の概要を説明する。なお、
図8に示したBJ法や、
図9に示したFDM法と同様の部分については同一符号を付し、適宜説明は省略する。
<<PBF法>>
PBF法(
図14)は、平坦に敷き詰めた材料粉末238を、ヘッド部272から出力される熱源(レーザや電子ビームなど)により、一層ずつ溶融及び固着しながら積層する。
図14に示す立体造形装置270においては、熱源としてレーザが用いられている。ヘッド部272は、内蔵した光学系(図示略)を介して、レーザ光源からのレーザ光274の照射を行う。
【0143】
図14の例では、レーザ光274の照射(レーザ照射)は、真下(Z軸の負方向)の材料粉末238に向けて、所定のビーム径で行われる。レーザ光274の照射により、材料粉末238が溶融し、固化する。レーザ光274の照射形状(レーザ光274の移動軌跡の形状)は、内側筒部302の3Dモデルデータをスライスして得られた各層のデータに基づき決定される。一層についてのレーザ照射が完了すると、次の層に係るレーザ照射が行われ、材料粉末238の供給とレーザ照射とが繰り返される。
【0144】
造形中には、造形が行われる領域(造形領域)内に、例えばアルゴン(Ar)などの不活性ガスを充満させて酸素濃度を低下させ、材料粉末238が酸化するのを防止してもよい。ヘッド部272を複数搭載し、生産性の向上を図ってもよい。
<<DED法>>
DED法(
図15)は、レーザ、電子ビーム、プラズマアークなどの指向エネルギービームにより、金属粉末(材料粉末)や、フィラメントの金属を溶融し、肉盛溶接する。以下では、これまでに説明した各種の方式と同様な部分については同一符号を付し、適宜説明は省略する。
【0145】
図15の例のDED法においては、立体造形装置280に、フィラメント供給部282やヘッド部284が備えられている。ヘッド部284は、位置決め機構部248に搭載されており、被造形物(ここでは内側筒部302)の輪郭形状に合わせて移動する。フィラメント供給部282から導出されたフィラメント286の先端部に対し、ヘッド部284がレーザ光(図示略)を照射する。ヘッド部284により、フィラメント286の溶融や凝固が行われ、内側筒部302の各層が積層される。
【0146】
なお、内側筒部302を、BJ法またはFDM法を用いた立体造形装置で形成後、焼結して第1の部品としてもよい。この場合は、BJ法またはFDM法を実行する3Dプリンタにより、第2の部品(ここでは外側筒部304、及びブレード環部306a~306k)だけでなく、第1の部品(ここでは内側筒部302)も製造できるようになり、第1の部品の製造にあたり、その他の方式(PBF法またはDED法など)の3Dプリンタを使用する必要がない。
【0147】
<各実施形態から抽出可能な発明>
以上説明したように、本出願に係る真空ポンプ(ターボ分子ポンプ100など)は、以下のような特徴を有している。
(1)本出願に係る真空ポンプは、
真空容器(外筒127とベース部129とが組み合わさって構成される本体ケーシングなど)と、
前記真空容器内に回転自在に設置された回転体(回転体103など)と、を備えた真空ポンプにおいて、
前記回転体が、
内側に配置される第1の部品(内側筒部302など)の周囲に、粉末を固めて形成された第2の部品(外側筒部304、ブレード環部306a~306k、及び回転円板350a~350cなど)を被せた構造を有することを特徴とする。
(2)上記(1)に係る真空ポンプの一実施形態は、
前記第1の部品が、押出材、鋳造材、及び、鍛造材のうちの少なくとも1つで形成されたことを特徴とする。
(3)上記(1)に係る真空ポンプの一実施形態は、
前記第1の部品が、PBF法またはDED法を用いた立体造形装置で形成されたことを特徴とする。
(4)上記(1)に係る真空ポンプの一実施形態は、
前記第1の部品が、BJ法またはFDM法を用いた立体造形装置で形成後、焼結されたことを特徴とする。
(5)上記(1)から(4)のいずれか一項に係る真空ポンプの一実施形態は、
前記第2の部品が、圧粉体で形成されたことを特徴とする。
(6)上記(1)から(4)のいずれか一項に係る真空ポンプの一実施形態は、
前記第2の部品が、BJ法またはFDM法を用いた立体造形装置で形成されたことを特徴とする。
(7)上記(1)から(6)のいずれか一項に係る真空ポンプの一実施形態は、
前記第1の部品と、前記第1の部品に被せられた前記第2の部品とが共に焼結処理されていることを特徴とする。
(8)上記(7)に係る真空ポンプの一実施形態は、
前記第1の部品と前記第2の部品が、前記焼結処理前には隙間バメされ、かつ、前記焼結処理後にはしまりバメされていることを特徴とする。
(9)上記(1)から(8)のいずれか一項に係る真空ポンプの一実施形態は、
前記第2の部品が、放射状に配設された翼列からなるターボ分子ポンプ機構用回転翼(回転翼102など)を備えたことを特徴とする。
(10)上記(1)から(9)のいずれか一項に係る真空ポンプの一実施形態は、
前記第2の部品が、外周面に配設された円板部からなるシグバーンポンプ機構用回転翼(外側筒部304など)を備えたことを特徴とする。
(11)上記(1)から(10)のいずれか1項に係る真空ポンプの一実施形態は、
前記第2の部品が、外周面に配設された円筒部からなるホルベックポンプ機構用回転翼(回転円板350a~350cなど)を備えたことを特徴とする。
(12)本出願に係る真空ポンプ用回転体は、
真空ポンプの真空容器内に回転自在に設置される真空ポンプ用回転体(回転体103など)において、
内側に配置される第1の部品(内側筒部302など)の周囲に、粉末を固めて形成された第2の部品(外側筒部304、ブレード環部306a~306k、及び回転円板350a~350cなど)を被せた構造を有することを特徴とする。
(13)上記(12)に係る真空ポンプ用回転体の一実施形態は、
前記第1の部品と、前記第1の部品に被せられた前記第2の部品とが共に焼結処理されていることを特徴とする。
(14)本出願に係る真空ポンプの製造方法は、
真空容器(外筒127とベース部129とが組み合わさって構成される本体ケーシングなど)と、
前記真空容器内に回転自在に設置された回転体(回転体103など)と、を備えた真空ポンプの製造方法において、
前記回転体が、
内側に配置される第1の部品(内側筒部302など)の周囲に、粉末を固めて形成された第2の部品(外側筒部304、ブレード環部306a~306k、及び回転円板350a~350cなど)を被せる第1の工程と、
前記第1の部品と前記第2の部品とを共に焼結処理する第2の工程とを備えたことを特徴とする。
(15)上記(14)に係る真空ポンプ用回転体の一実施形態は、
前記第1の部品と前記第2の部品が、前記焼結処理前には隙間バメされ、かつ、前記焼結処理後にはしまりバメされることを特徴とする。
【0148】
なお、本発明は、上述の各実施形態に限定されず、要旨を逸脱しない範囲で種々に変形や各実施形態の組合せをすることが可能である。
【符号の説明】
【0149】
100 :ターボ分子ポンプ
102(102a、102b、102c・・・):回転翼
103 :回転体
113 :ロータ軸
121 :モータ
131 :ネジ付スペーサ
131a :ネジ溝
202 :シグバーン型排気機構部
204 :ホルベック型排気機構部
220、260、270、280:立体造形装置
302 :内側筒部
304 :外側筒部
306a~306k:ブレード環部
312 :第1の段差部
314 :第2の段差部
316 :第3の段差部
322 :第1の円筒部
324 :第2の円筒部
326 :第3の円筒部
328 :フランジ部
332 :上部開口
334 :下部開口
336a~336k:回転翼スペーサ部
349a、349b:固定円板
350a~350c:回転円板
370a~370c:回転円板環部
400 :支持具