(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102940
(43)【公開日】2023-07-26
(54)【発明の名称】誘電体コネクタ
(51)【国際特許分類】
H01P 1/04 20060101AFI20230719BHJP
H01P 3/16 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
H01P1/04
H01P3/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003705
(22)【出願日】2022-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】392026693
【氏名又は名称】株式会社NTTドコモ
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】濱田 裕史
(72)【発明者】
【氏名】福田 敦史
【テーマコード(参考)】
5J011
5J014
【Fターム(参考)】
5J011DA00
5J014HA01
(57)【要約】
【課題】2個の誘電体導波路を互いに接続するための誘電体コネクタを提供する。
【解決手段】誘電体コネクタ100は、第1誘電体導波路910と第2誘電体導波路920を互いに接続するための誘電体コネクタであり、中空棒状体である。この中空棒状体は、その一端に第1誘電体導波路910の端部がフィットする第1凹部100h1を持っており、その他端に第2誘電体導波路920の端部がフィットする第2凹部100h2を持っている。この中空棒状体は、筒部101と隔壁部102を含む。筒部101は、誘電体で形成されている。隔壁部102は、筒部101の比誘電率よりも大きい比誘電率を持つ誘電体で形成されており、且つ、筒部101の内部に位置しており、且つ、第1凹部100h1と第2凹部100h2を互いに隔てている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1誘電体導波路と第2誘電体導波路を互いに接続するための誘電体コネクタであって、
上記誘電体コネクタは、上記第1誘電体導波路の端部がフィットする第1凹部を一端に持っており、上記第2誘電体導波路の端部がフィットする第2凹部を他端に持っている、中空棒状体であり、
上記中空棒状体は、
誘電体で形成された筒部と、
上記筒部の比誘電率よりも大きい比誘電率を持つ誘電体で形成されており、且つ、上記筒部の内部に位置しており、且つ、上記第1凹部と上記第2凹部を互いに隔てる隔壁部と
を含む
誘電体コネクタ。
【請求項2】
請求項1に記載の誘電体コネクタにおいて、
上記筒部は発泡体である、
または、
上記隔壁部は発泡体である、
または、
上記筒部と上記隔壁部のそれぞれは発泡体である
ことを特徴とする誘電体コネクタ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の誘電体コネクタにおいて、
上記筒部の外表面が電気伝導体で覆われている
ことを特徴とする誘電体コネクタ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の誘電体コネクタにおいて、
上記筒部は、上記第1誘電体導波路を伝播する電磁波の伝播モードのスポットサイズと、上記第2誘電体導波路を伝播する電磁波の伝播モードのスポットサイズと、上記誘電体コネクタを伝播する電磁波の伝播モードのスポットサイズが、互いに一致するサイズを有している
ことを特徴とする誘電体コネクタ。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の誘電体コネクタにおいて、
電磁波が伝播する方向における上記隔壁部の長さはλg×(2N-1)/4を満たす、ただし、λgは電磁波の波長であり、Nは正整数である
ことを特徴とする誘電体コネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2個の誘電体導波路を互いに接続するための誘電体コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波(ミリ波と準ミリ波を含む)と呼ばれる高い周波数を持つ電磁波の伝送媒体として、金属導波管が知られている。金属導波管は、周囲を金属で囲まれた空洞によって電磁波の伝播を実現する。したがって、金属導波管の外部への電磁波の漏洩が極めて少なく、伝播損失が小さい。特に、ミリ波(30GHz~300GHz)の周波数帯において、伝送媒体である同軸線路と比較して伝播損失が非常に小さいので、金属導波管はミリ波帯の主要な伝送媒体として用いられている。しかし、金属導波管に特有の扱い難さも知られている。金属導波管では空洞が金属で囲まれているので、金属導波管を自由に曲げることが難しく、したがって、屋内のような狭隘環境において金属導波管を曲げて設置することが難しい。また、金属導波管は単位長さあたりの重量が大きく、したがって、金属導波管は長距離伝送に不向きである。
【0003】
このことから、金属を用いない有線伝送媒体として、誘電体導波路が近年、注目を集めている。誘電体導波路は誘電体で形成されており、コアおよびクラッドで構成される。コアはケーブルの如く、幅に比べて長さが著しく大きい外観形状を有している有体物である。クラッドは有体物であるとは限らず、例えば空気がクラッドとして機能する場合、誘電体導波路は有体物としてのクラッドを持たない。誘電体導波路ではコアの比誘電率がクラッドの比誘電率よりも大きい。したがって、全反射現象によってコアとコア近傍に電磁波を閉じ込め、これによって誘電体導波路の長手方向に電磁波が伝播するモード、つまり電磁波の伝播モードを形成することができる。クラッドとして、空気(比誘電率1)が用いられることが多い。
【0004】
誘電体導波路の断面(つまり、電磁波の伝播方向と直交する断面)のサイズは、伝播する電磁波の波長に比例する。ミリ波では誘電体導波路の断面サイズが小さいので、誘電体導波路は取り扱い易い伝送媒体である。例えば、28GHzの電磁波を伝播する誘電体導波路を比誘電率2.3のコアと空気のクラッドで構成する場合、誘電体導波路の断面(簡単のために長方形とする)は、3mm×6mm程度のサイズを持つまでに小型化される。誘電体導波路は金属よりも可撓性に優れた誘電体を用いているので、誘電体導波路は金属導波管よりも曲げやすく、また、単位長さあたりの重量も金属導波管に比べて小さい。したがって、金属導波管が持つ上述の問題を解消できる可能性がある。しかし、誘電体導波路は、伝送媒体として、いまだ普及するに至っていない。
【0005】
誘電体導波路が普及しない原因の一つは、誘電体導波路を互いに接続する難しさである。異なる2個の誘電体導波路の一方の端面とその他方の端面を互いに突き合わせた場合、一方の端面と他方の端面の接続領域において電磁波の反射あるいは放射による接続損失が生じる。これは、一方の端面と他方の端面の間に意図せず生じる空隙、あるいは、2個の誘電体導波路の軸ずれに起因する。したがって、空隙も軸ずれもなく2個の誘電体導波路を互いに接続するには、2個の誘電体導波路を互いに接続するための接続構造が必要である。
【0006】
2個の誘電体導波路を互いに接続するための接続構造として、
図1に示す接続構造800が知られている。この接続構造800は2個の金属導波管810,820を含み、一方の誘電体導波路910の一端に一方の金属導波管810が取り付けられ、他方の誘電体導波路920の一端に他方の金属導波管820が取り付けられており、一方の金属導波管810のフランジ810aと他方の金属導波管820のフランジ820aが互いにネジ830によってネジ止めされ、この結果、空隙も軸ずれもなく2個の金属導波管810,820が接続される。誘電体導波路910,920と金属導波管810,820との間の電磁波の伝播モードの変換は、誘電体導波路910,920の一端をテーパ形状に加工することによって達成される(非特許文献1参照)。この変換による電磁波の電力損失は一般に小さい。したがって、接続構造800は、2個の誘電体導波路910,920を低損失に互いに接続することできる。しかし、接続構造800には、次の問題がある。まず、金属導波管810,820を用いるので、接続構造800のサイズおよび重量がともに大きい。接続構造800のサイズは規格で規定されている。フランジ810a,820aの合わせ面の形状は、UG595フランジでは22mm角の正方形、UG381フランジでは28.5mm直径の円である。これらはいずれも前述のミリ波誘電体導波路の断面サイズの数倍程度の大きさを持つので、取扱容易性が損なわれる。さらに、誘電体導波路910,920のテーパ加工のために高い加工コストが必要である。また、金属導波管810,820のフランジ810a,820aの製造は精密な金属加工技術を要するので、接続構造800の製造コストは高い。
【0007】
このような接続構造800の類似技術として、2個の光ファイバを互いに接続するための光ファイバコネクタが存在する(特許文献1,2,3参照)。しかし、誘電体導波路のための接続構造は、光ファイバコネクタと以下の点で異なる。
【0008】
誘電体導波路で使用が予定されている電磁波の周波数帯域はマイクロ波(概ね1~数百GHz)の帯域であるのに対して、光ファイバで使用が予定されている電磁波の周波数帯域は概ね192THzである。したがって、誘電体導波路のサイズは光ファイバのサイズと大きく異なる。光ファイバの場合、シングルモード条件を満足するコアのサイズは典型的には直径9μm程度であり、誘電体導波路の場合、コアのサイズは小さくても1mm程度である。光ファイバのコアのサイズは著しく小さく、人間が手で光ファイバのコアを取り扱うことは難しい。このことから、光ファイバでは、コアの周りに50~100μm程度の厚さを持つクラッドが配置され、さらに、通例、クラッドはビニール等で覆われる。つまり、光ファイバは、人間の手が触れることによる光ファイバ内を伝播する光に対する擾乱がほぼ無いという状況で運用される。しかし、誘電体導波路のコアのサイズは、1mm以上であり、したがって人間が手で取り扱える大きさである。仮に光ファイバの如くクラッドでコアを保護し、上述の光ファイバのコア・クラッドのサイズ比に倣うとすれば、クラッド厚さは10mm程度であり、断面サイズが比較的大きくなる。例えば、28GHz帯誘電体導波路が有体物としてのクラッドを持つ場合、コア径がおよそ7mmであるから、クラッド厚は70mmであり、誘電体導波路の径は147mmである。このような太い誘電体導波路は、柔軟に曲げることが難しく、またそのサイズゆえに重量も大きく、通信媒体としての使用は極めて難しい。結果として、誘電体導波路は、有体物としてのクラッドを具備せず、有体物としてのコアそのものであることが望ましい。この場合、光ファイバと顕著に異なる点は、誘電体導波路を伝播する電磁波の伝播モードが、誘電体導波路に対する外部からの擾乱(例えば、手で触れる、金属を近づける、誘電体を近づける等)に極めて敏感であるということである。したがって、接続構造の構成において、望ましくは、接続構造を構成する部品の電気的パラメータ(例えばクラッドのサイズ、誘電率等)に留意するべきである。この点に関して、光ファイバは、上述のとおり、厚いクラッドと被覆のおかけで外部からの擾乱に対して鈍感であるので、接続構造を構成する部品の電気的パラメータへの留意は不要である。実際、特許文献1,2,3は、接続構造の電気的特性への留意を開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】日本国特開平7-234335号公報
【特許文献2】日本国特開平6-118266号公報
【特許文献3】日本国特開2005-302534号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】G. E. Ponchak et al., “Design and Analysis of Transitions from Rectangular Waveguide to Layered Ridge Dielectric Waveguide,” IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques (T-MTT), vol. 44, no. 7, pp. 1032 - 1040, Jul. 1996.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
既述のとおり、先行技術の接続構造は下記の2個の課題を有する。
(1)金属導波管を用いるので、接続構造のサイズと重量がともに大きい。
(2)誘電体導波路の一端のテーパ加工、および、金属導波管のフランジの形成が必要であり、接続構造の製作コストが高い。
【0012】
本発明は、これら2個の課題を同時に解決する、2個の誘電体導波路を互いに接続するための誘電体コネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
ここで述べる技術事項は、特許請求の範囲に記載された発明を明示的にまたは黙示的に限定するためではなく、さらに、本発明によって利益を受ける者(例えば出願人と権利者である)以外の者によるそのような限定を容認する可能性の表明でもなく、単に、本発明の要点を容易に理解するために記載される。他の観点からの本発明の概要は、例えば、この特許出願の出願時の特許請求の範囲から理解できる。
本発明の誘電体コネクタは、第1誘電体導波路と第2誘電体導波路を互いに接続するための誘電体コネクタであり、中空棒状体である。この中空棒状体は、その一端に第1誘電体導波路の端部がフィットする第1凹部を持っており、その他端に第2誘電体導波路の端部がフィットする第2凹部を持っている。この中空棒状体は、筒部と隔壁部を含む。筒部は、誘電体で形成されている。隔壁部は、筒部の比誘電率よりも大きい比誘電率を持つ誘電体で形成されており、且つ、筒部の内部に位置しており、且つ、第1凹部と第2凹部を互いに隔てている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、誘電体コネクタは誘電体で形成されており、金属を使用していないので、小型且つ軽量の誘電体コネクタを実現でき、さらに、誘電体導波路の一端のテーパ加工、および、金属導波管のフランジの形成が不要であるから、誘電体コネクタの製作コストは小さい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】フランジ付金属導波管を用いる接続構造(先行技術)。
【
図3】第1実施形態の接続構造の断面図(未接続時)。
【
図4】第1実施形態の接続構造の断面図(接続時)。
【
図7】第2実施形態の接続構造の断面図(接続時)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。実施形態の誘電体コネクタ100は、オスとメスの区別の無いコネクタである。以下、その概要と動作原理を説明する。
【0017】
<第1実施形態>
図2は誘電体コネクタ100の斜視図である。
図3は
図2に示す切断面における誘電体コネクタ100の断面図である。誘電体コネクタ100は、第1誘電体導波路910と第2誘電体導波路920を互いに接続するためのコネクタである。
【0018】
第1誘電体導波路910は、誘電体で形成された有体物であり、例えばケーブルの如く、幅に比べて長さが著しく大きい外観形状を有している(
図2-5,7では、第1誘電体導波路910の端部近傍のみを図示している)。第1誘電体導波路910は、有体物としてのクラッドを具備せず、有体物としてのコアそのものである。電磁波は、第1誘電体導波路910の長手方向に伝播する。第1誘電体導波路910は、直線的な形状を持っていてもよいし、少し蛇行する形状、換言すれば、第1誘電体導波路910の低損失伝播に悪影響を及ぼさない程度の曲げを持つ形状を持っていてもよい。第1誘電体導波路910は、形状と大きさと材質が任意の位置で一定である一様構造を持っている。この例では、第1誘電体導波路910は、細長い中実直方体の形状を有する有体物であるが、これに限定されず、例えば細長い中実円柱あるいは細長い中実楕円柱の形状を有する有体物であってもよい。
【0019】
同様に、第2誘電体導波路920は、誘電体で形成された有体物であり、例えばケーブルの如く、幅に比べて長さが著しく大きい外観形状を有している(
図2-5,7では、第2誘電体導波路920の端部近傍のみを図示している)。第2誘電体導波路920は、有体物としてのクラッドを具備せず、有体物としてのコアそのものである。電磁波は、第2誘電体導波路920の長手方向に伝播する。第2誘電体導波路920は、直線的な形状を持っていてもよいし、少し蛇行する形状、換言すれば、第2誘電体導波路920の低損失伝播に悪影響を及ぼさない程度の曲げを持つ形状を持っていてもよい。第2誘電体導波路920は、形状と大きさと材質が任意の位置で一定である一様構造を持っている。この例では、第2誘電体導波路920は、細長い中実直方体の形状を有する有体物であるが、これに限定されず、例えば細長い中実円柱あるいは細長い中実楕円柱の形状を有する有体物であってもよい。
【0020】
第1誘電体導波路910の長手方向と直交する断面における第1誘電体導波路910の形状とサイズは、それぞれ、第2誘電体導波路920の長手方向と直交する断面における第2誘電体導波路920の形状とサイズと同じである。第2誘電体導波路920の比誘電率は、第1誘電体導波路910の比誘電率と同じか、ほぼ同じである。
【0021】
誘電体コネクタ100は、中空棒状体であり、誘電体コネクタ100の一端に第1誘電体導波路910の端部がフィットする第1凹部100h1を持っており、誘電体コネクタ100の他端に第2誘電体導波路920の端部がフィットする第2凹部100h2を持っている。この中空棒状体は、筒部101と隔壁部102を含む。
【0022】
筒部101は誘電体で形成されている。筒部101は、この例では、円筒の外観形状を有する有体物であり、後述する隔壁部102が存在しなければその長手方向(ただし、筒部101の長手方向は、円筒の軸方向と平行である)に伸びる貫通孔を持っている。筒部101の空洞であるこの貫通孔の軸方向(ただし、貫通孔の軸方向は、筒部101の長手方向と平行である)における断面の形状とサイズは、それぞれ、誘電体コネクタ100に接続される誘電体導波路(第1誘電体導波路910と第2誘電体導波路920)の長手方向におけるその端部の断面の形状とサイズとほぼ一致しており、この例では、貫通孔の形状は直方体である。筒部101の外観形状は、円筒に限定されず、例えば角筒であってもよい。
【0023】
隔壁部102は、筒部101の比誘電率よりも大きい比誘電率を持つ誘電体で形成されている。隔壁部102は、この例では、矩形平板の形状を有している。隔壁部102は、筒部101の内部、つまり筒部101の貫通孔に位置しており、隔壁部102の面は筒部101の長手方向つまり貫通孔の軸方向と直交している。隔壁部102の法線方向における断面の形状とサイズは、それぞれ、貫通孔の軸方向における断面の形状とサイズと一致している。隔壁部102は、この例に限らず、筒部101の貫通孔が円柱形状を持つ場合には円板の形状を有する。
【0024】
第1凹部100h1と第2凹部100h2のそれぞれは筒部101の貫通孔の一部に相当する空間であり、第1凹部100h1と第2凹部100h2は隔壁部102によって互いに隔てられている。この例では、第1凹部100h1と第2凹部100h2はそれぞれ直方体の形状を持っており、第1凹部100h1の形状とサイズは、それぞれ、第2凹部100h2の形状とサイズと同じである。第1凹部100h1と第2凹部100h2は捩じれの位置関係にはなく、つまり、第1凹部100h1を筒部101の長手方向に沿って無回転で平行移動すると、第1凹部100h1は第2凹部100h2と一致する。先の説明から明らかなとおり、第1凹部100h1の軸方向(ただし、第1凹部100h1の軸方向は、筒部101の長手方向と平行である)における断面の形状とサイズは、それぞれ、第1誘電体導波路910の長手方向におけるその端部の断面の形状とサイズとほぼ一致している。同様に、第2凹部100h2の軸方向(ただし、第2凹部100h2の軸方向は、筒部101の長手方向と平行である)における断面の形状とサイズは、それぞれ、第2誘電体導波路920の長手方向におけるその端部の断面の形状とサイズとほぼ一致している。
【0025】
第1誘電体導波路910の一方の端部は第1凹部100h1に挿入され、第2誘電体導波路920の一方の端部は第2凹部100h2に挿入される(
図4参照)。必要であれば、
図5に示すように、例えば紐あるいは伸縮性を有する環状のバンド300で誘電体コネクタ100の筒部101を締め付けることによって、第1誘電体導波路910および第2誘電体導波路920が誘電体コネクタ100から抜けることを防止できる。
図5に示す例では、バンド300は、筒部101の外周面から突出する凸部101pの間に位置しており、バンド300の位置すれが防止されている。
【0026】
第1誘電体導波路910が第1凹部100h1に挿入されている状態において、第1誘電体導波路910の端面は隔壁部102と対面し、第2誘電体導波路920が第2凹部100h2に挿入されている状態において、第2誘電体導波路920の端面は隔壁部102と対面する(
図4参照)。
【0027】
次に、誘電体コネクタ100の動作原理を説明する。誘電体コネクタ100において、筒部101をクラッド、隔壁部102をコアと見做すことができるので、以下、便宜的に、筒部101をクラッド、隔壁部102をコアと呼称する。クラッドの比誘電率とコアの比誘電率をそれぞれε
clad,ε
coreとする。誘電体導波路(以下、特に断りの無い限り、第1誘電体導波路と第2誘電体導波路に共通する事項については、両者を区別せず、単に誘電体導波路と呼称する)の比誘電率をε
wgとする。説明を簡単にするために、凹部(以下、特に断りの無い限り、第1凹部100h1と第2凹部100h2に共通する事項については、両者を区別せず、単に凹部と呼称する)に誘電体導波路を差し込んだ状態において凹部と誘電体導波路との間に隙間ができないとする。この場合、誘電体コネクタ100の構造を決定するパラメータは、
図4に示すコア長(つまり、誘電体コネクタ100の長手方向における隔壁部102の長さ)、クラッド長(つまり、誘電体コネクタ100の長手方向における、隔壁部102を除く筒部101の長さの半分)、クラッド厚(つまり、筒部101の厚さ)、比誘電率ε
clad,ε
coreである。これらのパラメータは、以下の二つの条件(1),(2)を鑑みて決定される。
(1)所望の周波数帯において、誘電体コネクタ100を伝播する電磁波の伝播モードが存在すること。
(2)
図4に示す反射面A,A’,B,B’での電磁波の反射量が可能な限り小さくなること。
【0028】
条件(1)について、例えば、ε
coreがε
cladよりも小さい値である場合、誘電体コネクタ100を伝播する電磁波はコアに閉じこもることができなくなり、クラッドを通って誘電体コネクタ100の外部に放射される。このような状態はカットオフと呼称される。したがって、誘電体コネクタ100の透過特性が著しく悪化する。つまり、誘電体コネクタ100においては、次式(1)が成立している。
【数1】
【0029】
式(1)が満足されていても、ε
coreとε
cladのそれぞれが1に近い値である場合、カットオフになることがあるので、誘電体コネクタ100の設計において、有限要素法等を用いてコアの固有値モード解析を行い、所望周波数帯においてカットオフではないようなε
coreとε
cladを選定する必要がある。条件(1)を満足し、さらに誘電体コネクタ100の透過特性を良好なものにするために、条件(2)に示したように、各反射面での電磁波の反射量を可能な限り小さくする必要がある。つまり、筒部101は、第1誘電体導波路910を伝播する電磁波の伝播モードのスポットサイズと、第2誘電体導波路920を伝播する電磁波の伝播モードのスポットサイズと、誘電体コネクタ100を伝播する電磁波の伝播モードのスポットサイズが、互いに一致するようなサイズを有していることが望ましい。誘電体コネクタ100は、誘電体コネクタ100の長手方向つまり筒部101の長手方向における断面において、2個の対称軸(
図3に示す一点鎖線)を持っている。誘電体コネクタ100の対称性から、反射面Aでの反射量は反射面A’での反射量に等しく、また、反射面Bでの反射量は反射面B’での反射量に等しい。したがって、以下、反射面A,Bでの反射量のみを考える。簡単のために、誘電体導波路のクラッドは、空気(比誘電率1)であるとする。
【0030】
まず、反射面Bにおいて、誘電体導波路を伝播する電磁波が誘電体コネクタ100のクラッドによって影響を受ける。誘電体導波路を伝播する電磁波の空気中に染み出した部分(つまり、エバネッセント波)がクラッドによって擾乱を受け、この結果、反射が発生する。したがって、反射面Bでの反射を小さくするためには、εcladはできるだけ1に近い値であることが望ましい。
【0031】
しかし、現実には、ミリ波帯においてこのような小さい比誘電率を持つ材料を選定することが難しい場合がある。この観点から、筒部101は発泡体であってもよい。この例に限らず、隔壁部102が発泡体であってもよいし、または、筒部101と隔壁部102のそれぞれが発泡体であってもよい。
【0032】
発泡体は、例えば常温において固体である単一誘電体材料の中に所定の密度で気泡(気泡の比誘電率は1である)を含む。好ましくは、発泡体において気泡はできるだけ均一に分布している。発泡体の比誘電率は、おおむね、誘電体材料の比誘電率に、発泡体の体積(誘電体体積と気泡体積との和)に対する誘電体体積の割合を掛け合わせた値である。したがって、比誘電率が1よりも大きい誘電体で発泡体と非発泡体を製造した場合、一般に、発泡体の比誘電率は非発泡体の比誘電率よりも小さい。例えば、比誘電率2の誘電体材料を用いて製造された、全体積の25%が気泡である発泡体の比誘電率は1.5である。つまり、比誘電率a(a>1)の誘電体材料を用いて比誘電率b(1<b<a)のコアおよび/またはクラッドを実現できる。
【0033】
さらに、クラッド厚およびクラッド長も、同様の理由から、できる限り小さいことが望ましい。
【0034】
反射面Aにおいて、誘電体導波路のコアの比誘電率と誘電体コネクタ100のコアの比誘電率の違いによる反射が生じる。したがって、理想的には、次式(2)が成立することが望ましい。
【数2】
【0035】
式(2)が満たされる場合、反射面Aにおいて反射が生じないので、コア長がどのような値であっても、誘電体コネクタ100の透過特性は変化しない。もちろん、誘電体コネクタ100のコアそのものの誘電損失や、誘電体コネクタ100そのものの小型化を考えると、コア長はできるだけ小さいほうが良い。
図6に、ε
core=2.3,ε
clad=1.5,コア長1mm、クラッド長5mm、クラッド厚4mmの場合の誘電体コネクタ100の透過特性を示す。なお、誘電体導波路の比誘電率は2.3、その断面サイズは3mm×6mmである。この条件では、誘電体コネクタ100を透過する電磁波はカットオフにはならない。
図6から、誘電体コネクタ100の等価損失は0.5dB以下であり、非常に良好な透過特性を示すことがわかる。この解析では、誘電体コネクタ100のコアの比誘電率は誘電体導波路の比誘電率と同じであるから、
図6に示すわずかな損失は、
図4における反射面B,B’でのわずかな反射に由来するものである。クラッド厚を薄くすることによって、反射損失を低減し、透過特性を改善することが可能である。実際には、誘電体コネクタ100の強度、製作容易性などから決まるクラッド厚の下限が存在する。したがって、実際のクラッド厚は、その下限付近の値であればよい。反射面Bでの反射量が小さいならば、コネクタ長が誘電体コネクタ100の透過特性に与える影響は小さい。したがって、コネクタ長も、製作可能な値のうちでできるだけ小さい値であればよい。
【0036】
式(2)が満たされない場合、つまり、反射面Aにおいて反射が生じる場合、コア長が誘電体コネクタ100の透過特性に影響を及ぼす。反射面Aで反射した電磁波と反射面A’で反射した電磁波が誘電体導波路上で干渉するので、誘電体コネクタ100の透過特性にリップルが重畳する。この場合、コアを伝播する電磁波の波長をλ
gとし、コア長をL
cとし、Nを正整数(N=1,2,3,…)であるとすると、式(3)を満たすコア長L
cを選定することによって、所望周波数帯において、反射面Aで反射した電磁波と反射面A’で反射した電磁波が誘電体導波路上において逆位相で足しあわされることとなり、誘電体コネクタ100の透過特性からリップルが排除され、良好な透過特性を得ることができる。
【数3】
【0037】
<第2実施形態>
第2実施形態として、放射損失の低減のための改良を説明する。第1実施形態と第2実施形態との相違点のみを説明する。その他の技術事項については第1実施形態の説明を参照されたい。
【0038】
誘電体導波路と誘電体コネクタ100を伝播する伝播モードの不整合(つまり、実効屈折率およびスポットサイズにおける差異)があると反射が生じる。反射が生じる場合において、コア長が式(3)を満足する値であれば反射を低減できる。しかし、一般に、誘電体導波路においては、不整合箇所において、反射のみならず放射も生じる。放射された電磁波は、誘電体導波路外部の自由空間を伝播するTEM波と結合し、誘電体導波路の近傍には閉じこもらない。式(3)は電磁波が誘電体導波路の近傍に閉じこもった伝播モードに対して有効な条件であるから、放射される電磁波に適用できない。したがって、式(3)の条件にしたがって放射損失を低減することはできない。第2実施形態では、誘電体コネクタ100における放射を低減するために、
図7に示すように、筒部101の外表面が電気伝導体200で覆われている。電気伝導体200の典型例は金属である。不整合箇所から放射される電磁波は、電気伝導体200によって再び誘電体コネクタ100内部へと反射されるので、放射損失が小さくなる。なお、電気伝導体200の厚さは式(4)で計算される電磁波の表皮深さDよりも大きければ、放射を強く抑制することができる。式(4)において、ρは電気伝導体の電気抵抗率であり、fは電磁波の周波数であり、μは電気伝導体の透磁率である。
【数4】
【0039】
例えば、電磁波の周波数が28GHzであり、電気伝導体としてアルミニウムを用いる場合、Dは0.5マイクロメートル程度の非常に薄い値であるので、通常の蒸着等によって電気伝導体200の薄膜を形成できる。クラッド厚として、誘電体導波路の伝播モードのスポットサイズと誘電体コネクタ100の伝播モードのスポットサイズが互いに整合する値が選択されればよい。これは、誘電体コネクタ100の伝播モードの断面分布のクラッド厚依存性を有限要素法で解析することによって求められる。
【0040】
以下、シミュレーションによって確認した第2実施形態の効果を説明する。シミュレーションでは、電磁波の周波数は28GHzであり、比誘電率2.3、断面サイズ3mm×6mmの誘電体導波路を用いた。誘電体コネクタ100のコアでの反射を大きくするために、誘電体コネクタ100のコアの比誘電率を1(空気)とし、クラッドの比誘電率を1.5とした。このとき、有限要素法によるスポットサイズの計算からクラッド厚は4mm程度である。クラッド長は十分に長い5mmとし、コア長は式(3)を満たすように28GHzでのおよそ四分の一波長である0.25mmとした。電気伝導体200は理想導体とした。この設計パラメータにおいて、電気伝導体200が在る場合と無い場合の誘電体コネクタ100の透過特性を
図8に示す。
図8から、放射モードに起因する損失について式(3)の効果が働かないので、電気伝導体200が無い場合、1dB以上の大きな透過損失が発生することがわかる。電気伝導体200が在る場合、放射が抑制され、式(3)の効果が大きくなり、透過損失が0.5dB程度に抑制され、良好な特性が得られていることがわかる。
【0041】
上述の各種の実施形態に開示された技術的特徴は互いに排他的であるとは限らない。技術的観点から矛盾の無い限り、或る実施形態の技術的特徴を他の実施形態の技術的特徴に適用してもよい。特に、上述の実施形態によると、任意の2以上の実施形態に開示された技術的特徴を持つ実施形態も許容される。
【0042】
<補遺>
例示的な実施形態を参照して本発明を説明したが、当業者は本発明の範囲から逸脱することなく、様々な変更を行い、その要素を均等物で置き換えることができることを理解するであろう。さらに、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、特定のシステム、デバイス、またはそのコンポーネントを本発明の教示に適合させるために、多くの修正を加えることができる。したがって、本発明は、本発明を実施するために開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、添付の請求の範囲に含まれるすべての実施形態を含むものとする。
【0043】
さらに、「第1」、「第2」などの用語の使用は、それがもしあれば、順序や重要性を示すものではなく、「第1」、「第2」などの用語は要素を区別するために使用される。本明細書で使用される用語は、実施形態を説明するためのものであり、本発明を限定することを意図するものでは決してない。用語「含む」とその語形変化は、本明細書および/または添付の請求の範囲で使用される場合、言及された特徴、ステップ、操作、要素、および/またはコンポーネントの存在を明らかにするが、一つ以上の他の特徴、ステップ、操作、要素、コンポーネント、および/またはそれらのグループの存在または追加を排除しない。「および/または」という用語は、それがもしあれば、関連するリストされた要素の一つ以上のありとあらゆる組み合わせを含む。請求の範囲および明細書において、特に明記しない限り、「接続」、「結合」、「接合」、「連結」、またはそれらの同義語、およびそのすべての語形は、例えば互いに「接続」または「結合」されているか互いに「連結」している2個の間の一つ以上の中間要素の存在を必ずしも否定しない。請求の範囲および明細書において、「任意」という用語は、それがもしあれば、特に明記しない限り、全称記号∀と同じ意味を表す用語として理解されるべきである。
【0044】
特に断りが無い限り、本明細書で使用されるすべての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。さらに、一般的に使用される辞書で定義されている用語などの用語は、関連技術および本開示の文脈におけるそれらの意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、明示的に定義されていない限り、理想的にまたは過度に形式的に解釈されるものではない。
【0045】
本発明の説明において、多くの技法およびステップが開示されていることが理解されるであろう。これらのそれぞれには個別の利点があり、それぞれ他の開示された技法の一つ以上、または場合によってはすべてと組み合わせて使用することもできる。したがって、煩雑になることを避けるため、本明細書では、個々の技法またはステップのあらゆる可能な組み合わせを説明することを控える。それでも、明細書および請求項は、そのような組み合わせが完全に本発明および請求項の範囲内であることを理解して読まれるべきである。
【0046】
以下の請求項において手段またはステップと結合したすべての機能的要素の対応する構造、材料、行為、および同等物は、それらがあるとすれば、他の要素と組み合わせて機能を実行するための構造、材料、または行為を含むことを意図する。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更と変形が許される。選択され且つ説明された実施形態は、本発明の原理およびその実際的応用を解説するためのものである。本発明は様々な変更あるいは変形を伴って様々な実施形態として使用され、様々な変更あるいは変形は期待される用途に応じて決定される。そのような変更および変形のすべては、添付の請求の範囲によって規定される本発明の範囲に含まれることが意図されており、公平、適法および公正に与えられる広さに従って解釈される場合、同じ保護が与えられることが意図されている。