(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102964
(43)【公開日】2023-07-26
(54)【発明の名称】船外機および船舶
(51)【国際特許分類】
B63H 20/12 20060101AFI20230719BHJP
B63H 20/16 20060101ALI20230719BHJP
B63H 25/42 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
B63H20/12 100
B63H20/16 100
B63H25/42 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003747
(22)【出願日】2022-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 公隆
(72)【発明者】
【氏名】萩 朋洋
(57)【要約】
【課題】船外機が大型化するのを抑制しながら、船外機本体を転舵軸回りに回動可能な角度範囲を大きくすることが可能な船外機および船舶を提供する。
【解決手段】この船外機100(船舶120)では、転舵機構40は、ピニオン42が油圧アクチュエータ44(第1駆動源)によって回動することにより、第1転舵角度範囲A10内で船外機本体102を転舵させることが可能な状態と、ピニオン42が電気モータ45(第2駆動源)によって回動することにより、少なくとも第1転舵角度範囲A10とは異なる角度範囲を含む第2転舵角度範囲A20内で船外機本体102を転舵させることが可能な状態と、を切り換え可能に構成されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
船外機本体と、
前記船外機本体を転舵軸回りに回動させる転舵機構と、を備え、
前記転舵機構は、
前記船外機本体の左右方向における中央部に配置され、前記船外機本体とともに回動するピニオンと、
前記ピニオンを回動させるように直線移動するラックと、
前記ラックを直線移動させることにより前記ピニオンを駆動させる第1駆動源と、
前記ピニオンに駆動力を伝達する駆動力伝達機構と、
前記駆動力伝達機構を介して前記ピニオンを駆動させる第2駆動源と、を含み、
前記ピニオンが前記第1駆動源によって回動することにより、第1転舵角度範囲内で前記船外機本体を転舵させることが可能な状態と、前記ピニオンが前記第2駆動源によって回動することにより、少なくとも前記第1転舵角度範囲とは異なる角度範囲を含む第2転舵角度範囲内で前記船外機本体を転舵させることが可能な状態と、を切り換え可能に構成されている、船外機。
【請求項2】
前記転舵機構は、前記ピニオンが前記第1駆動源である油圧アクチュエータによって回動することにより、前記第1転舵角度範囲内で前記船外機本体を転舵させることが可能な状態と、前記ピニオンが前記第2駆動源である電気モータによって回動することにより、前記第1転舵角度範囲よりも大きな角度範囲を含む前記第2転舵角度範囲内で前記船外機本体を転舵させることが可能な状態と、を切り換え可能に構成されている、請求項1に記載の船外機。
【請求項3】
前記転舵機構を制御する転舵制御部をさらに備え、
前記転舵制御部は、前記ピニオンを前記第1駆動源によって回動させる場合に、前記第1駆動源による駆動力を発生させるように前記第1駆動源を制御するとともに、前記ピニオンを前記第2駆動源によって回動させる場合に、前記第2駆動源による駆動力を発生させるように前記第2駆動源を制御するように構成されている、請求項1または2に記載の船外機。
【請求項4】
前記転舵機構は、前記ピニオンを前記第1駆動源によって回動させる場合に、前記ラックが前記ピニオンと係合するとともに、前記ピニオンを前記第1駆動源によって回動させない場合に、前記ラックが前記ピニオンと係合しないように構成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の船外機。
【請求項5】
前記ラックのうちの前記ピニオンと係合する歯は、前記ピニオンを前記第1駆動源によって回動させる場合に前記ラックが前記ピニオンと係合し、かつ、前記ピニオンを前記第1駆動源によって回動させない場合に前記ラックが前記ピニオンと係合しないように、前記ラックの長手方向において所定の範囲に形成されている、請求項4に記載の船外機。
【請求項6】
前記ラックは、
前記ピニオン側に設けられ、前記ピニオンを前記第1駆動源によって回動させる場合に前記ラックが前記ピニオンと係合するように歯が形成された歯形成部分と、
前記ピニオン側に設けられ、かつ、前記歯形成部分に隣り合うように設けられ、前記ピニオンを前記第1駆動源によって回動させない場合に前記ラックが前記ピニオンと係合せずかつ接触しないように歯が形成されていない歯非形成部分と、を含む、請求項5に記載の船外機。
【請求項7】
前記転舵機構は、
前記ラックの位置を検出するラック位置検出部と、
前記ピニオンの回動位置を検出するピニオン位置検出部と、をさらに含む、請求項4~6のいずれか1項に記載の船外機。
【請求項8】
前記駆動力伝達機構は、前記ピニオンを前記第2駆動源である電気モータによって回動させる場合に、前記電気モータから前記ピニオンに駆動力を伝達する状態と、前記ピニオンを前記電気モータによって回動させない場合に、前記電気モータから前記ピニオンに駆動力を伝達しない状態とを切り換え可能に構成されたクラッチを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の船外機。
【請求項9】
前記クラッチは、
前記電気モータにより回動する第1のギアと、
前記ピニオンと一体的に回動する第2のギアと、
前記第2のギアと一体的に回動するとともに、前記第1のギアに係合した状態と、前記第1のギアに係合しない状態とを切り換え可能な切換用ギアと、を含む、請求項8に記載の船外機。
【請求項10】
前記転舵機構は、前記ピニオンが前記第1駆動源である油圧アクチュエータによって回動する状態から、前記ピニオンが前記電気モータによって回動する状態に切り換える際に、前記ラックを前記ピニオンに係合させるとともに前記油圧アクチュエータによる前記ラックの直線移動を停止させることによって前記切換用ギアの回動を停止させた状態で、前記電気モータにより前記第1のギアを回動させながら、前記第1のギアと前記切換用ギアとを係合させるように構成されている、請求項9に記載の船外機。
【請求項11】
前記第1転舵角度範囲は、下限が約0度に設定されるとともに、上限が約30度以上約45度以下に設定されており、
前記第2転舵角度範囲は、下限が約0度に設定されるとともに、上限が前記第1転舵角度範囲の上限よりも大きい角度に設定されている、請求項1~10のいずれか1項に記載の船外機。
【請求項12】
前記船外機本体は、
ブラケットを介して船体に取り付けられるアッパー部と、
前記アッパー部の下方に配置されプロペラが設けられたロワー部と、を含み、
前記転舵機構は、前記アッパー部に対して前記ロワー部を前記転舵軸回りに回動させるように構成されている、請求項1~11のいずれか1項に記載の船外機。
【請求項13】
船外機本体と、
前記船外機本体を転舵軸回りに回動させる転舵機構と、を備え、
前記転舵機構は、
前記船外機本体の左右方向における中央部に配置され、前記船外機本体とともに回動する回動部材と、
前記回動部材を回動させるように直線移動する直線移動部材と、
前記直線移動部材を直線移動させることにより前記回動部材を駆動させる第1駆動源と、
前記回動部材に駆動力を伝達する駆動力伝達機構と、
前記駆動力伝達機構を介して前記回動部材を駆動させる第2駆動源と、を含み、
前記回動部材が前記第1駆動源によって回動することにより、第1転舵角度範囲内で前記船外機本体を転舵させることが可能な状態と、前記回動部材が前記第2駆動源によって回動することにより、少なくとも前記第1転舵角度範囲とは異なる角度範囲を含む第2転舵角度範囲内で前記船外機本体を転舵させることが可能な状態と、を切り換え可能に構成されている、船外機。
【請求項14】
船外機本体と、
前記船外機本体を転舵軸回りに回動させる転舵機構と、を備え、
前記転舵機構は、
前記船外機本体の左右方向における中央部に配置され、前記船外機本体とともに回動する回動部材と、
前記回動部材を回動させるように直線移動するラックと、
前記ラックを直線移動させることにより前記回動部材を駆動させる第1駆動源と、
前記回動部材に駆動力を伝達する駆動力伝達機構と、
前記駆動力伝達機構を介して前記回動部材を駆動させる第2駆動源と、を含み、
前記回動部材が前記第2駆動源によって回動することにより前記船外機本体を転舵させながら、第1速度範囲内で船舶を航行させることが可能な状態と、前記回動部材が前記第1駆動源によって回動することにより前記船外機本体を転舵させながら、少なくとも前記第1速度範囲とは異なる速度範囲を含む第2速度範囲内で前記船舶を航行させることが可能な状態と、を切り換え可能に構成されている、船外機。
【請求項15】
船体と、
前記船体の船尾に取り付けられる船外機と、を備え、
前記船外機は、
船外機本体と、
前記船外機本体を転舵軸回りに回動させる転舵機構と、を備え、
前記転舵機構は、
前記船外機本体の左右方向における中央部に配置され、前記船外機本体とともに回動するピニオンと、
前記ピニオンを回動させるように直線移動するラックと、
前記ラックを直線移動させることにより前記ピニオンを駆動させる第1駆動源と、
前記ピニオンに駆動力を伝達する駆動力伝達機構と、
前記駆動力伝達機構を介して前記ピニオンを駆動させる第2駆動源と、を含み、
前記ピニオンが前記第1駆動源によって回動することにより、第1転舵角度範囲内で前記船外機本体を転舵させることが可能な状態と、前記ピニオンが前記第2駆動源によって回動することにより、少なくとも前記第1転舵角度範囲とは異なる範囲を含む第2転舵角度範囲内で前記船外機本体を転舵させることが可能な状態と、を切り換え可能に構成されている、船舶。
【請求項16】
前記転舵機構は、前記ピニオンが前記第1駆動源である油圧アクチュエータによって回動することにより、前記第1転舵角度範囲内で前記船外機本体を転舵させることが可能な状態と、前記ピニオンが前記第2駆動源である電気モータによって回動することにより、前記第1転舵角度範囲よりも大きな角度範囲を含む前記第2転舵角度範囲内で前記船外機本体を転舵させることが可能な状態と、を切り換え可能に構成されている、請求項15に記載の船舶。
【請求項17】
前記転舵機構を制御する転舵制御部をさらに備え、
前記転舵制御部は、前記ピニオンを前記第1駆動源によって回動させる場合に、前記第1駆動源による駆動力を発生させるように前記第1駆動源を制御するとともに、前記ピニオンを前記第2駆動源によって回動させる場合に、前記第2駆動源による駆動力を発生させるように前記第2駆動源を制御するように構成されている、請求項15または16に記載の船舶。
【請求項18】
前記転舵機構は、前記ピニオンを前記第1駆動源によって回動させる場合に、前記ラックが前記ピニオンと係合するとともに、前記ピニオンを前記第1駆動源によって回動させない場合に、前記ラックが前記ピニオンと係合しないように構成されている、請求項15~17のいずれか1項に記載の船舶。
【請求項19】
前記ラックのうちの前記ピニオンと係合する歯は、前記ピニオンを前記第1駆動源によって回動させる場合に前記ラックが前記ピニオンと係合し、かつ、前記ピニオンを前記第1駆動源によって回動させない場合に前記ラックが前記ピニオンと係合しないように、前記ラックの長手方向において所定の範囲に形成されている、請求項18に記載の船舶。
【請求項20】
前記ラックは、
前記ピニオン側に設けられ、前記ピニオンを前記第1駆動源によって回動させる場合に前記ラックが前記ピニオンと係合するように歯が形成された歯形成部分と、
前記ピニオン側に設けられ、かつ、前記歯形成部分に隣り合うように設けられ、前記ピニオンを前記第1駆動源によって回動させない場合に前記ラックが前記ピニオンと係合せずかつ接触しないように歯が形成されていない歯非形成部分と、を含む、請求項19に記載の船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、船外機および船舶に関し、特に、船外機本体を転舵軸回りに回動させる転舵機構が、船外機本体とともに回動する回動部材と、回動部材を回動させるように直線移動する直線移動部材と、を含む船外機および船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、船外機本体を転舵軸回りに回動させる転舵機構が、船外機本体とともに回動する回動部材と、回動部材を回動させるように直線移動する直線移動部材と、を含む船外機が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、船外機本体を転舵軸回りに回動させる転舵機構を備える船外機が記載されている。上記特許文献1に記載されている船外機では、転舵機構は、船外機本体の左右方向における中央部に配置され、船外機本体とともに回動する回動部材(たとえば、ピニオン)と、回動部材を回動させるように船外機本体の左右方向に沿って直線移動する直線移動部材(たとえば、ラック)と、を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載されている船外機では、直線移動部材(たとえば、ラック)を直線移動させることにより回動部材(たとえば、ピニオン)を駆動させるので、船外機本体を転舵軸回りに回動可能な角度範囲を大きくする場合、直線移動部材が移動する方向において、直線移動部材を直線移動させる距離が比較的大きくなる。この場合、直線移動部材が移動する方向において、直線移動部材を直線移動させるために必要となるスペースが比較的大きくなる。すなわち、船外機が大型化する。このため、船外機が大型化するのを抑制しながら、船外機本体を転舵軸回りに回動可能な角度範囲を大きくすることが可能な構成が望まれている。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、船外機が大型化するのを抑制しながら、船外機本体を転舵軸回りに回動可能な角度範囲を大きくすることが可能な船外機および船舶を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面による船外機は、船外機本体と、船外機本体を転舵軸回りに回動させる転舵機構と、を備え、転舵機構は、船外機本体の左右方向における中央部に配置され、船外機本体とともに回動するピニオンと、ピニオンを回動させるように直線移動するラックと、ラックを直線移動させることによりピニオンを駆動させる第1駆動源と、ピニオンに駆動力を伝達する駆動力伝達機構と、駆動力伝達機構を介してピニオンを駆動させる第2駆動源と、を含み、ピニオンが第1駆動源によって回動することにより、第1転舵角度範囲内で船外機本体を転舵させることが可能な状態と、ピニオンが第2駆動源によって回動することにより、少なくとも第1転舵角度範囲とは異なる角度範囲を含む第2転舵角度範囲内で船外機本体を転舵させることが可能な状態と、を切り換え可能に構成されている。
【0008】
この発明の第1の局面による船外機では、上記のように、転舵機構は、ピニオンが第1駆動源によって回動することにより、第1転舵角度範囲内で船外機本体を転舵させることが可能な状態と、ピニオンが第2駆動源によって回動することにより、少なくとも第1転舵角度範囲とは異なる角度範囲を含む第2転舵角度範囲内で船外機本体を転舵させることが可能な状態と、を切り換え可能に構成されている。これにより、ピニオンを第2駆動源によって回動させることによって、ピニオンを第1駆動源によって回動させることなく、第1転舵角度範囲とは異なる角度範囲で船外機本体を転舵させることができる。すなわち、ピニオンを第2駆動源によって回動させる際にピニオンとラックとの間の駆動力の伝達が解除されている場合、ピニオンが第1駆動源のみによって回動する場合と比較して、ラックが移動する方向において、ラックを直線移動させる距離を変化させることなく、船外機本体を転舵軸回りに回動可能な角度範囲を大きくすることができる。その結果、船外機が大型化するのを抑制しながら、船外機本体を転舵軸回りに回動可能な角度範囲を大きくすることができる。
【0009】
上記第1の局面による船外機において、好ましくは、転舵機構は、ピニオンが第1駆動源である油圧アクチュエータによって回動することにより、第1転舵角度範囲内で船外機本体を転舵させることが可能な状態と、ピニオンが第2駆動源である電気モータによって回動することにより、第1転舵角度範囲よりも大きな角度範囲を含む第2転舵角度範囲内で船外機本体を転舵させることが可能な状態と、を切り換え可能に構成されている。ここで、船舶を比較的大きな速度で航行させる場合には、駆動源には比較的大きな負荷が掛かるので、船外機本体を転舵させる角度が比較的小さな角度範囲内に限定される。一方、船舶を比較的小さな速度で航行させる場合には、駆動源には比較的小さな負荷しか掛からないので、船外機本体を比較的大きな角度で転舵させる場合がある。したがって、船舶を比較的大きな速度で航行させる場合に、上記のようにピニオンが油圧アクチュエータによって回動することにより第1転舵角度範囲内で船外機本体を転舵させることによって、駆動源に掛かる比較的大きな負荷を油圧によって容易に受けることができる。また、船舶を比較的小さな速度で航行させる場合に、上記のようにピニオンが電気モータによって回動することにより第1転舵角度範囲よりも大きな角度範囲を含む第2転舵角度範囲内で船外機本体を転舵させることによって、船外機本体を比較的大きな角度で容易に転舵させることができる。すなわち、船外機本体を転舵させるための2つの駆動源を適切に使い分けることができる。
【0010】
上記第1の局面による船外機において、好ましくは、転舵機構を制御する転舵制御部をさらに備え、転舵制御部は、ピニオンを第1駆動源によって回動させる場合に、第1駆動源による駆動力を発生させるように第1駆動源を制御するとともに、ピニオンを第2駆動源によって回動させる場合に、第2駆動源による駆動力を発生させるように第2駆動源を制御するように構成されている。このように構成すれば、転舵制御部による制御によって、転舵機構を、ピニオンが第1駆動源によって回動することにより第1転舵角度範囲内で船外機本体を転舵させることが可能な状態と、ピニオンが第2駆動源によって回動することにより第2転舵角度範囲内で船外機本体を転舵させることが可能な状態との間で容易に切り換えることができる。
【0011】
上記第1の局面による船外機において、好ましくは、転舵機構は、ピニオンを第1駆動源によって回動させる場合に、ラックがピニオンと係合するとともに、ピニオンを第1駆動源によって回動させない場合に、ラックがピニオンと係合しないように構成されている。このように構成すれば、ピニオンを第1駆動源によって回動させる場合に、ラックがピニオンと係合するので、ピニオンを第1駆動源によって適切に回動させることができる。また、ピニオンを第1駆動源によって回動させない場合に、ラックがピニオンと係合しないので、ピニオンを第2駆動源によって回動させる場合に、ラックがピニオンと係合して第2駆動源によるピニオンの適切な回動が妨げられるのを防止することができる。すなわち、船外機本体を転舵させるための2つの駆動源の切り換えを構造的に容易に行うことができる。
【0012】
この場合、好ましくは、ラックのうちのピニオンと係合する歯は、ピニオンを第1駆動源によって回動させる場合にラックがピニオンと係合し、かつ、ピニオンを第1駆動源によって回動させない場合にラックがピニオンと係合しないように、ラックの長手方向において所定の範囲に形成されている。このように構成すれば、ラックは直線移動するので、ラックのうちのピニオンと係合する歯の形成範囲を調整することにより、転舵機構を、ピニオンを第1駆動源によって回動させる場合にラックがピニオンと係合するとともに、ピニオンを第1駆動源によって回動させない場合にラックがピニオンと係合しないように、容易に構成することができる。
【0013】
上記ラックのうちのピニオンと係合する歯がラックの長手方向において所定の範囲に形成されている構成において、好ましくは、ラックは、ピニオン側に設けられ、ピニオンを第1駆動源によって回動させる場合にラックがピニオンと係合するように歯が形成された歯形成部分と、ピニオン側に設けられ、かつ、歯形成部分に隣り合うように設けられ、ピニオンを第1駆動源によって回動させない場合にラックがピニオンと係合せずかつ接触しないように歯が形成されていない歯非形成部分と、を含む。このように構成すれば、ラックのうちのピニオンと係合する歯がラックの長手方向において所定の範囲に形成されている構成を、容易に実現することができる。
【0014】
上記ピニオンを第1駆動源によって回動させる場合にラックがピニオンと係合するとともにピニオンを第1駆動源によって回動させない場合にラックがピニオンと係合しない構成において、好ましくは、転舵機構は、ラックの位置を検出するラック位置検出部と、ピニオンの回動位置を検出するピニオン位置検出部と、をさらに含む。このように構成すれば、ラック位置検出部およびピニオン位置検出部により、それぞれ、ラックの位置およびピニオンの回動位置を検出することができるので、ラックがピニオンと係合しない状態からラックがピニオンと係合する状態に切り換わる場合に、ラックの位置とピニオンの回動位置を予め設定された所定の位置で係合させることができる。
【0015】
上記第1の局面による船外機において、好ましくは、駆動力伝達機構は、ピニオンを第2駆動源である電気モータによって回動させる場合に、電気モータからピニオンに駆動力を伝達する状態と、ピニオンを電気モータによって回動させない場合に、電気モータからピニオンに駆動力を伝達しない状態とを切り換え可能に構成されたクラッチを含む。このように構成すれば、ピニオンを電気モータによって回動させる場合に、電気モータからピニオンに駆動力が伝達されるので、ピニオンを電気モータによって適切に回動させることができる。また、ピニオンを電気モータによって回動させない場合に、電気モータからピニオンに駆動力が伝達されないので、ピニオンを第1駆動源によって回動させる場合に、電気モータからピニオンに駆動力が伝達されて第1駆動源によるピニオンの適切な回動が妨げられるのを防止することができる。
【0016】
この場合、好ましくは、クラッチは、電気モータにより回動する第1のギアと、ピニオンと一体的に回動する第2のギアと、第2のギアと一体的に回動するとともに、第1のギアに係合した状態と、第1のギアに係合しない状態とを切り換え可能な切換用ギアと、を含む。このように構成すれば、切換用ギアによって、電気モータからピニオンに駆動力を伝達する状態と、電気モータからピニオンに駆動力を伝達しない状態とを容易に切り換えることができる。
【0017】
上記クラッチが第1のギアと第2のギアと切換用ギアとを含む構成において、好ましくは、転舵機構は、ピニオンが第1駆動源である油圧アクチュエータによって回動する状態から、ピニオンが電気モータによって回動する状態に切り換える際に、ラックをピニオンに係合させるとともに油圧アクチュエータによるラックの直線移動を停止させることによって切換用ギアの回動を停止させた状態で、電気モータにより第1のギアを回動させながら、第1のギアと切換用ギアとを係合させるように構成されている。このように構成すれば、第1のギアと切換用ギアとを係合させる際に、油圧によって切換用ギアの回動を確実に停止させた状態にすることができるので、第1のギアと切換用ギアとを容易に係合させることができる。
【0018】
上記第1の局面による船外機において、好ましくは、第1転舵角度範囲は、下限が約0度に設定されるとともに、上限が約30度以上約45度以下に設定されており、第2転舵角度範囲は、下限が約0度に設定されるとともに、上限が第1転舵角度範囲の上限よりも大きい角度に設定されている。このように構成すれば、ピニオンが第1駆動源によって回動することにより、約0度と、約30度以上約45度以下の角度との間の角度で船外機本体を転舵させることができるとともに、ピニオンが第2駆動源によって回動することにより、約0度と、約30度以上約45度以下の角度よりも大きな角度との間の角度で船外機本体を転舵させることができる。
【0019】
上記第1の局面による船外機において、好ましくは、船外機本体は、ブラケットを介して船体に取り付けられるアッパー部と、アッパー部の下方に配置されプロペラが設けられたロワー部と、を含み、転舵機構は、アッパー部に対してロワー部を転舵軸回りに回動させるように構成されている。このように構成すれば、アッパー部に対してロワー部を転舵軸回りに回動させるように構成において、船外機が大型化するのを抑制しながら、船外機本体を転舵軸回りに回動可能な角度範囲を大きくすることができる。
【0020】
また、上記目的を達成するために、この発明の第2の局面による船外機は、船外機本体と、船外機本体を転舵軸回りに回動させる転舵機構と、を備え、転舵機構は、船外機本体の左右方向における中央部に配置され、船外機本体とともに回動する回動部材と、回動部材を回動させるように直線移動する直線移動部材と、直線移動部材を直線移動させることにより回動部材を駆動させる第1駆動源と、回動部材に駆動力を伝達する駆動力伝達機構と、駆動力伝達機構を介して回動部材を駆動させる第2駆動源と、を含み、回動部材が第1駆動源によって回動することにより、第1転舵角度範囲内で船外機本体を転舵させることが可能な状態と、回動部材が第2駆動源によって回動することにより、少なくとも第1転舵角度範囲とは異なる角度範囲を含む第2転舵角度範囲内で船外機本体を転舵させることが可能な状態と、を切り換え可能に構成されている。
【0021】
この発明の第2の局面による船外機では、上記のように、転舵機構は、回動部材が第1駆動源によって回動することにより、第1転舵角度範囲内で船外機本体を転舵させることが可能な状態と、回動部材が第2駆動源によって回動することにより、少なくとも第1転舵角度範囲とは異なる角度範囲を含む第2転舵角度範囲内で船外機本体を転舵させることが可能な状態と、を切り換え可能に構成されている。これにより、上記第1の局面による船外機と同様に、回動部材を第2駆動源によって回動させることによって、回動部材を第1駆動源によって回動させることなく、第1転舵角度範囲とは異なる角度範囲で船外機本体を転舵させることができる。すなわち、回動部材を第2駆動源によって回動させる際に回動部材と直線移動部材との間の駆動力の伝達が解除されている場合、回動部材が第1駆動源のみによって回動する場合と比較して、直線移動部材が移動する方向において、直線移動部材を直線移動させる距離を変化させることなく、船外機本体を転舵軸回りに回動可能な角度範囲を大きくすることができる。その結果、上記第1の局面による船外機と同様に、船外機が大型化するのを抑制しながら、船外機本体を転舵軸回りに回動可能な角度範囲を大きくすることができる。
【0022】
また、上記目的を達成するために、この発明の第3の局面による船外機は、船外機本体と、船外機本体を転舵軸回りに回動させる転舵機構と、を備え、転舵機構は、船外機本体の左右方向における中央部に配置され、船外機本体とともに回動する回動部材と、回動部材を回動させるように直線移動するラックと、ラックを直線移動させることにより回動部材を駆動させる第1駆動源と、回動部材に駆動力を伝達する駆動力伝達機構と、駆動力伝達機構を介して回動部材を駆動させる第2駆動源と、を含み、回動部材が第2駆動源によって回動することにより船外機本体を転舵させながら、第1速度範囲内で船舶を航行させることが可能な状態と、回動部材が第1駆動源によって回動することにより船外機本体を転舵させながら、少なくとも第1速度範囲とは異なる角度範囲を含む第2速度範囲内で船舶を航行させることが可能な状態と、を切り換え可能に構成されている。
【0023】
この発明の第3の局面による船外機では、上記のように、転舵機構は、回動部材が第2駆動源によって回動することにより船外機本体を転舵させながら、第1速度範囲内で船舶を航行させることが可能な状態と、回動部材が第1駆動源によって回動することにより船外機本体を転舵させながら、少なくとも第1速度範囲とは異なる速度範囲を含む第2速度範囲内で船舶を航行させることが可能な状態と、を切り換え可能に構成されている。上述したように、船舶を比較的大きな速度で航行させる場合には、駆動源には比較的大きな負荷が掛かるので、船外機本体を転舵させる角度が比較的小さな角度範囲内に限定される。一方、船舶を比較的小さな速度で航行させる場合には、駆動源には比較的小さな負荷しか掛からないので、船外機本体を比較的大きな角度で転舵させる場合がある。したがって、船舶を比較的大きな速度で航行させるとともに、船外機本体を転舵させる角度が比較的小さな角度範囲内に限定される場合に、上記のように回動部材が第2駆動源によって回動することにより船外機本体を転舵させながら第1速度範囲内で船舶を航行させればよい。また、船舶を比較的小さな速度で航行させるとともに、船外機本体を比較的大きな角度で転舵させる場合に、上記のように回動部材が第1駆動源によって回動することにより船外機本体を転舵させながら、少なくとも第1速度範囲とは異なる速度範囲を含む第2速度範囲内で船舶を航行させればよい。その場合、転舵機構では、回動部材が第1駆動源によって回動することにより、第1転舵角度範囲内で船外機本体を転舵させることが可能な状態と、回動部材が第2駆動源によって回動することにより、少なくとも第1転舵角度範囲とは異なる角度範囲を含む第2転舵角度範囲内で船外機本体を転舵させることが可能な状態とが切り換わる。これにより、上記第2の局面による船外機と同様に、回動部材を第2駆動源によって回動させることによって、回動部材を第1駆動源によって回動させることなく、第1転舵角度範囲とは異なる角度範囲で船外機本体を転舵させることができる。すなわち、上記第2の局面による船外機と同様に、回動部材を第2駆動源によって回動させる際に回動部材と直線移動部材との間の駆動力の伝達が解除されている場合、回動部材が第1駆動源のみによって回動する場合と比較して、直線移動部材が移動する方向において、直線移動部材を直線移動させる距離を変化させることなく、船外機本体を転舵軸回りに回動可能な角度範囲を大きくすることができる。その結果、上記第1の局面による船外機と同様に、船外機が大型化するのを抑制しながら、船外機本体を転舵軸回りに回動可能な角度範囲を大きくすることができる。
【0024】
また、上記目的を達成するために、この発明の第4の局面による船舶は、船体と、船体の船尾に取り付けられる船外機と、を備え、船外機は、船外機本体と、船外機本体を転舵軸回りに回動させる転舵機構と、を備え、転舵機構は、船外機本体の左右方向における中央部に配置され、船外機本体とともに回動するピニオンと、ピニオンを回動させるように直線移動するラックと、ラックを直線移動させることによりピニオンを駆動させる第1駆動源と、ピニオンに駆動力を伝達する駆動力伝達機構と、駆動力伝達機構を介してピニオンを駆動させる第2駆動源と、を含み、ピニオンが第1駆動源によって回動することにより、第1転舵角度範囲内で船外機本体を転舵させることが可能な状態と、ピニオンが第2駆動源によって回動することにより、少なくとも第1転舵角度範囲とは異なる範囲を含む第2転舵角度範囲内で船外機本体を転舵させることが可能な状態と、を切り換え可能に構成されている。
【0025】
この発明の第4の局面による船舶では、上記のように、転舵機構は、ピニオンが第1駆動源によって回動することにより、第1転舵角度範囲内で船外機本体を転舵させることが可能な状態と、ピニオンが第2駆動源によって回動することにより、少なくとも第1転舵角度範囲とは異なる角度範囲を含む第2転舵角度範囲内で船外機本体を転舵させることが可能な状態と、を切り換え可能に構成されている。これにより、上記第1の局面による船外機と同様に、船外機が大型化するのを抑制しながら、船外機本体を転舵軸回りに回動可能な角度範囲を大きくすることができる。
【0026】
上記第4の局面による船舶において、好ましくは、転舵機構は、ピニオンが第1駆動源である油圧アクチュエータによって回動することにより、第1転舵角度範囲内で船外機本体を転舵させることが可能な状態と、ピニオンが第2駆動源である電気モータによって回動することにより、第1転舵角度範囲よりも大きな角度範囲を含む第2転舵角度範囲内で船外機本体を転舵させることが可能な状態と、を切り換え可能に構成されている。このように構成すれば、上記第1の局面による船外機と同様に、2つの駆動源を適切に使い分けることができる。
【0027】
上記第4の局面による船舶において、好ましくは、転舵機構を制御する転舵制御部をさらに備え、転舵制御部は、ピニオンを第1駆動源によって回動させる場合に、第1駆動源による駆動力を発生させるように第1駆動源を制御するとともに、ピニオンを第2駆動源によって回動させる場合に、第2駆動源による駆動力を発生させるように第2駆動源を制御するように構成されている。このように構成すれば、上記第1の局面による船外機と同様に、転舵機構を、ピニオンが第1駆動源によって回動することにより第1転舵角度範囲内で船外機本体を転舵させることが可能な状態と、ピニオンが第2駆動源によって回動することにより第2転舵角度範囲内で船外機本体を転舵させることが可能な状態との間で容易に切り換えることができる。
【0028】
上記第4の局面による船舶において、好ましくは、転舵機構は、ピニオンを第1駆動源によって回動させる場合に、ラックがピニオンと係合するとともに、ピニオンを第1駆動源によって回動させない場合に、ラックがピニオンと係合しないように構成されている。このように構成すれば、上記第1の局面による船外機と同様に、船外機本体を転舵させるための2つの駆動源の切り換えを構造的に容易に行うことができる。
【0029】
この場合、好ましくは、ラックのうちのピニオンと係合する歯は、ピニオンを第1駆動源によって回動させる場合にラックがピニオンと係合し、かつ、ピニオンを第1駆動源によって回動させない場合にラックがピニオンと係合しないように、ラックの長手方向において所定の範囲に形成されている。このように構成すれば、上記第1の局面による船外機と同様に、転舵機構を、ピニオンを第1駆動源によって回動させる場合にラックがピニオンと係合するとともに、ピニオンを第1駆動源によって回動させない場合にラックがピニオンと係合しないように、容易に構成することができる。
【0030】
上記ラックのうちのピニオンと係合する歯がラックの長手方向において所定の範囲に形成されている構成において、好ましくは、ラックは、ピニオン側に設けられ、ピニオンを第1駆動源によって回動させる場合にラックがピニオンと係合するように歯が形成された歯形成部分と、ピニオン側に設けられ、かつ、歯形成部分に隣り合うように設けられ、ピニオンを第1駆動源によって回動させない場合にラックがピニオンと係合せずかつ接触しないように歯が形成されていない歯非形成部分と、を含む。このように構成すれば、上記第1の局面による船外機と同様に、ラックのうちのピニオンと係合する歯がラックの長手方向において所定の範囲に形成されている構成を、容易に実現することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、上記のように、船外機が大型化するのを抑制しながら、船外機本体を転舵軸回りに回動可能な角度範囲を大きくすることが可能な船外機および船舶を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の一実施形態による船舶を示した平面図である。
【
図2】本発明の一実施形態による船舶における制御系の構成を示したブロック図である。
【
図3】本発明の一実施形態による船外機を示した側面図である。
【
図4】本発明の一実施形態による船外機の転舵機構を示した平面図である。
【
図5】本発明の一実施形態による船外機の転舵機構を示した斜視図である。
【
図6】本発明の一実施形態による船外機の操作モードがジョイモードの場合および非ジョイモードの場合における船舶を航行させる速度の範囲および船外機本体を転舵させる角度の範囲を示した図である。
【
図7】本発明の一実施形態による船外機の転舵機構においてラックがピニオンと係合していない状態を示した平面図である。
【
図8】本発明の一実施形態による船外機の転舵機構におけるクラッチの動作を説明するための図である。
【
図9】本発明の一実施形態の第1変形例による船外機の転舵機構を示した平面図である。
【
図10】本発明の一実施形態の第2変形例による船外機の転舵機構を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。
【0034】
図1~
図8を参照して、本発明の一実施形態による船外機100および船舶120の構成について説明する。なお、図中のFWD、BWD、L、R、Z1およびZ2は、それぞれ、船舶120の前方、後方、左方(左舷側)、右方(右舷側)、上方および下方を示している。
【0035】
(船舶の全体構成)
図1示すように、船舶120は、船体110と、船外機100と、を備える。船外機100は、船体110を推進するための船舶用推進装置である。船外機100は、船体110の船尾111に取り付けられている。船外機100は、船体110の左右方向に並ぶように複数(本実施形態では、2つ)取り付けられている。船舶120は、比較的小型の船舶である。船舶120は、たとえば、遊覧や魚釣り等に用いられる船舶である。
【0036】
(船体の構成)
図2示すように、船体110は、船舶120を操縦(操船)するための操作を受け付ける操作部112を備える。操作部112は、リモートコントローラ112aと、ステアリングホイール112bと、ジョイスティック112cと、を含む。
【0037】
リモートコントローラ112aには、傾倒可能なレバーが設けられている。リモートコントローラ112aのレバーが傾倒されることにより、船外機100の推力(プロペラ35(
図3参照)の回転数)の変更、船外機100のシフト状態(前進状態、後進状態、ニュートラル状態)の切り換え等が行われる。
【0038】
ステアリングホイール112bは回動可能に構成されている。そして、ステアリングホイール112bが回動されることにより、船外機100の転舵(船体110に対するプロペラ35(
図3参照)の向きの変更)が行われる。
【0039】
船舶120では、リモートコントローラ112aに対する操作とステアリングホイール112bに対する操作との組み合わせにより、船舶120(
図1参照)の並進移動、旋回等が行われる。
【0040】
ジョイスティック112cには、傾倒可能かつ回動可能なレバーが設けられている。ジョイスティック112cのレバーが傾倒されるか、回動されるか、または、傾倒かつ回動されることにより、船外機100の推力の変更、船外機100のシフト状態の切り換え、船外機100の転舵等が行われる。
【0041】
船舶120では、ジョイスティック112cのレバーが傾倒されることにより、船舶120(
図1参照)の並進移動が行われる。また、ジョイスティック112cのレバーが傾倒かつ回動されることにより、船舶120の旋回が行われる。また、ジョイスティック112cのレバーが回動されることにより、船舶120の回頭が行われる。
【0042】
ジョイスティック112cには、ジョイスティックモードスイッチが設けられている。船舶120では、ジョイスティックモードスイッチが押下されることにより、操作モードが、ジョイスティックモードと非ジョイスティックモードとが切り換わるように構成されている。ジョイスティックモードでは、船舶120が、リモートコントローラ112aおよびステアリングホイール112bに対する操作を受け付けず、かつ、ジョイスティック112cに対する操作を受け付ける状態となる。非ジョイスティックモードでは、船舶120が、ジョイスティック112cに対する操作を受け付けず、かつ、リモートコントローラ112aおよびステアリングホイール112bに対する操作を受け付ける状態となる。
【0043】
船体110は、操作部112に対する操作に基づいて船外機100(のECU(Engine Control Unit)51、SCU(Steering Control Unit)52等)を制御する制御部113を備える。制御部113は、たとえば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等を含む。なお、SCU52は、特許請求の範囲の「転舵制御部」の一例である。
【0044】
(船外機の構成)
図3に示すように、船外機100は、船外機本体102を備える。船外機本体102は、ブラケット101を介して船体110の船尾111に取り付けられたアッパー部10と、アッパー部10の下方に配置されプロペラ35が設けられたロワー部20と、を含む。アッパー部10は、エンジン31を収納するカウル11と、カウル11の下方に配置され船体110の船尾111に取り付けられたアッパーケース12と、を含む。ロワー部20は、ロワーケース21を含む。
【0045】
船外機100は、エンジン31によりプロペラ35を駆動させるように構成されたエンジン式船外機である。具体的には、船外機本体102は、エンジン31と、ドライブシャフト32と、ギア部33と、プロペラシャフト34と、プロペラ35と、を含む。エンジン31は駆動力を発生させる内燃機関である。ドライブシャフト32は、カウル11とロワーケース21とに跨って上下方向に延びるように配置されている。ドライブシャフト32は、エンジン31のクランクシャフト(図示しない)に接続されている。ギア部33は、ロワーケース21に配置されている。ギア部33は、ドライブシャフト32の下端部と接続されている。プロペラシャフト34は、ギア部33に接続されている。プロペラシャフト34は、ギア部33の後方において、前後方向に延びるように配置されている。プロペラ35は、プロペラシャフト34の後端部に接続されている。プロペラ35は、船外機本体102の外部に露出するように、ロワーケース21の外部に配置されている。そして、エンジン31の駆動力は、ドライブシャフト32、ギア部33およびプロペラシャフト34を介して、プロペラ35に伝達される。プロペラ35は、伝達されたエンジン31の駆動力により、水中において回転することにより推力を発生させる。
【0046】
船外機本体102は、船外機100のシフト状態(前進状態、後進状態およびニュートラル状態)を切り換えるシフトアクチュエータ36を含む。シフトアクチュエータ36は、ギア部33の噛み合いを切り換えることにより、船外機100のシフト状態を、前進状態と後進状態とニュートラル状態との間で切り換えるように構成されている。前進状態は、プロペラ35から前方側への推進力を発生させるようにエンジン31の駆動力をプロペラ35に伝達する状態である。後進状態は、プロペラ35から後方側への推進力を発生させるようにエンジン31の駆動力をプロペラ35に伝達する状態である。ニュートラル状態は、エンジン31の駆動力をプロペラ35に伝達しない状態である。
【0047】
船外機100は、船外機本体102のうちの一部を転舵軸41回りに回動させる転舵機構40を備える。転舵機構40は、アッパー部10に対してロワー部20を転舵軸41回りに回動させるように構成されている。すなわち、船外機100では、船体110に対して、船外機本体102のうちの一部(ロワー部20)のみが回動するように構成されている。なお、転舵機構40の詳細に関しては、後述する。
【0048】
図2に示すように、船外機100は、エンジン31を制御するECU51と、転舵機構40を制御するSCU52と、を含む。ECU51は、船体110に設けられた制御部113による制御に基づいて、エンジン31の駆動およびシフトアクチュエータ36の駆動を制御するように構成されている。SCU52は、制御部113による制御に基づいて、転舵機構40の駆動を制御するように構成されている。ECU51およびSCU52は、たとえば、CPU、ROM、RAM等を含む。
【0049】
(転舵機構の詳細な構成)
図4に示すように、転舵機構40は、船外機本体102のうちの一部(ロワー部20)とともに回動するピニオン42を含む。ピニオン42は、船外機本体102の左右方向における中央部102aに配置されている。ピニオン42の内側には、転舵軸41が配置されている。ピニオン42は、ピニオン42の回動に伴って転舵軸41が回動するように、転舵軸41に固定されている。
【0050】
図3に示すように、転舵軸41は、転舵軸41の回動に伴ってロワーケース21が回動するように、ロワーケース21の上部に固定されている。転舵軸41は、アッパーケース12の下部とロワーケース21の上部とに跨って、上下方向に延びるように配置されている。
図4に示すように、転舵軸41は、中空状に形成されている。転舵軸41の中央部には、ドライブシャフト32が転舵軸41に接触しないように、ドライブシャフト32が貫通している。
【0051】
転舵機構40は、ピニオン42を回動させるように直線移動するラック43と、ラック43を直線移動させることによりピニオン42を駆動させる油圧アクチュエータ44と、を含む。すなわち、転舵機構40は、ラック43およびピニオン42によって直線運動を回転運動に変換するように構成されている。なお、油圧アクチュエータ44は、特許請求の範囲の「第1駆動源」の一例である。
【0052】
ラック43は、ピニオン42に対して1つ設けられている。ラック43は、ピニオン42の右舷側に配置されている。ラック43は、船外機本体102の前後方向に沿って延びている。ラック43は、ピニオン42の歯42aと係合する43aを有する。ラック43は、船外機本体102の前後方向に沿って直線移動可能に構成されている。ラック43の歯43aがピニオン42の歯42aと係合した状態で、ラック43が船外機本体102の前後方向に沿って直線移動することによって、ピニオン42が回動する。
【0053】
油圧アクチュエータ44は、ラック43が収容された油圧シリンダ44aを含む。油圧シリンダ44aは、前後方向に沿って延びるように配置されている。油圧シリンダ44aの内部には、2つの油室44bが形成されている。2つの油室44bは、ラック43が延びる方向(船外機本体102の前後方向)において、ラック43の一方側および他方側に形成されている。ポンプ駆動用モータ(図示しない)により油圧ポンプ(図示しない)が駆動されることによって、2つの油室44bのうちの一方への作動油の供給、および、2つの油室44bのうち他方からの作動油の排出が行われる。2つの油室44bの作動油の量が調整されることにより、ラック43が油圧シリンダ44aの内部を直線移動する。
【0054】
転舵機構40は、ピニオン42に駆動力を伝達する駆動力伝達機構60と、駆動力伝達機構60を介してピニオン42を駆動させる電気モータ45と、を含む。なお、電気モータ45は、特許請求の範囲の「第2駆動源」の一例である。
【0055】
図5に示すように、駆動力伝達機構60は、ウォームギア61と、ギア62と、クラッチ63と、ギア64と、を含む。ウォームギア61は、電気モータ45の駆動力によって回転するウォーム61aと、ウォーム61aの歯と係合するウォームホイール61bと、を含む。ウォームギア61は、ウォームホイール61b側からウォーム61a側に駆動力が伝達されないように、ウォーム61aの歯の角度が調整されている。ギア62は、ウォームホイール61bと同軸上に配置され、ウォームホイール61bと一体的に回動する。クラッチ63は、ギア62とギア64との間に配置され、電気モータ45の駆動力を、ギア62からギア64に伝達する。ギア64は、ピニオン42と同軸上に配置され、ピニオン42と一体的に回動する。なお、クラッチ63の詳細に関しては、後述する。
【0056】
ここで、
図6に示すように、船舶120を比較的大きな速度Vで航行させる場合には、駆動源には比較的大きな負荷が掛かるものの、船外機本体102を転舵させる角度Aは比較的小さな角度範囲内に限定される。一方、船舶120を比較的小さな速度Vで航行させる場合には、駆動源には比較的小さな負荷しか掛からないものの、船外機本体102を比較的大きな角度Aで転舵させる場合がある。
【0057】
したがって、転舵機構40(
図5参照)は、ピニオン42(
図4参照)が油圧アクチュエータ44(
図4参照)によって回動することにより、第1転舵角度範囲A10内で船外機本体102(
図4参照)を転舵させることが可能な状態と、ピニオン42が電気モータ45(
図4参照)によって回動することにより、少なくとも第1転舵角度範囲A10とは異なる角度範囲を含む第2転舵角度範囲A20内で船外機本体102を転舵させることが可能な状態と、を切り換え可能に構成されている。また、転舵機構40は、ピニオン42が電気モータ45によって回動することにより船外機本体102を転舵させながら、第1速度範囲V10内で船舶120を航行させることが可能な状態と、ピニオン42が油圧アクチュエータ44によって回動することにより船外機本体102を転舵させながら、少なくとも第1速度範囲V10とは異なる角度範囲を含む第2速度範囲V20内で船舶120を航行させることが可能な状態と、を切り換え可能に構成されている。
【0058】
具体的には、制御部113(
図2参照)は、操作モードが非ジョイスティックモードである場合には、船舶120の速度Vを第2速度範囲V20内で調整するように、ECU51(
図2参照)を介してエンジン31(
図2参照)を制御する。また、制御部113は、操作モードが非ジョイスティックモードである場合には、ピニオン42(
図4参照)が油圧アクチュエータ44(
図4参照)によって回動するとともに、船外機本体102を転舵させる角度Aを第1転舵角度範囲A10内で調整するように、SCU52(
図2参照)を介して転舵機構40(
図4参照)を制御する。すなわち、SCU52は、ピニオン42を油圧アクチュエータ44によって回動させる場合に、油圧アクチュエータ44による駆動力を発生させるように油圧アクチュエータ44を制御する。
【0059】
一方、制御部113(
図2参照)は、操作モードがジョイスティックモードである場合には、船舶120の速度Vを第1速度範囲V10内で調整するように、ECU51(
図2参照)を介してエンジン31(
図2参照)を制御する。また、制御部113は、操作モードがジョイスティックモードである場合には、ピニオン42(
図4参照)が電気モータ45(
図4参照)によって回動するとともに、船外機本体102を転舵させる角度Aを第2転舵角度範囲A20内で調整するように、SCU52を介して転舵機構40(
図4参照)を制御する。すなわち、SCU52は、ピニオン42を電気モータ45によって回動させる場合に、電気モータ45による駆動力を発生させるように電気モータ45を制御するように構成されている。
【0060】
第1速度範囲V10は、下限が約0(m/s)に設定されるとともに、上限が速度V1(m/s)に設定される。第2速度範囲V20は、下限が約0(m/s)に設定されるとともに、上限が速度V2(m/s)に設定される。速度V1は、速度V2よりも小さい。速度V2は、船舶120の最高速度に相当する。すなわち、第2速度範囲V20は、第1速度範囲V10を含むとともに第1速度範囲V10よりも大きな角度範囲を含む。
【0061】
第1転舵角度範囲A10は、下限が約0度に設定されるとともに、上限が角度A1に設定される。第2転舵角度範囲A20は、下限が約0度に設定されるとともに、上限が角度A2に設定される。角度A1は、角度A2よりも小さい。角度A1は、約0度以上約45度以下に設定される。すなわち、第2転舵角度範囲A20は、上限が第1転舵角度範囲A10の上限よりも大きい角度Aに設定されている。また、第2転舵角度範囲A20は、第1転舵角度範囲A10を含むとともに第1転舵角度範囲A10よりも大きな角度範囲を含む。
【0062】
図7に示すように、転舵機構40は、ピニオン42を油圧アクチュエータ44によって回動させる場合に、ラック43がピニオン42と係合するとともに、ピニオン42を油圧アクチュエータ44によって回動させない場合に、ラック43がピニオン42と係合しないように構成されている。詳細には、ラック43のうちのピニオン42と係合する歯43aは、ピニオン42を油圧アクチュエータ44によって回動させる場合にラック43がピニオン42と係合し、かつ、ピニオン42を油圧アクチュエータ44によって回動させない場合にラック43がピニオン42と係合しないように、ラック43の長手方向において所定の範囲Rに形成されている。なお、
図7では、ラック43がピニオン42と係合していない状態を示している。
【0063】
具体的には、ラック43は、歯形成部分43bと、歯非形成部分43cと、を含む。歯形成部分43bおよび歯非形成部分43cは、ピニオン42側に設けられている。歯形成部分43bは、ラック43が直線移動する方向において、ラック43の中央部に形成されている。歯形成部分43bは、ピニオン42を油圧アクチュエータ44によって回動させる場合にラック43がピニオン42と係合するように歯43aが形成されている。また、歯非形成部分43cは、ラック43が直線移動する方向において、歯形成部分43bに隣り合うように歯形成部分43bの両側に設けられている。歯非形成部分43cは、ピニオン42を油圧アクチュエータ44によって回動させない場合にラック43がピニオン42と係合せずかつ接触しないように歯43aが形成されていない。
【0064】
転舵機構40は、ラック43の位置を検出するラック位置検出部46と、ピニオン42の回動位置を検出するピニオン位置検出部47と、を含む。ラック位置検出部46は、ラック43に対してピニオン42とは反対側に設けられている。ラック位置検出部46は、ラック43のうちのラック位置検出部46側に設けられた検出部側ギア部43dと係合するラック位置検出用ギア46aを含む。ラック位置検出部46は、ラック位置検出用ギア46aの回動角度を検出することにより、ラック43の位置を検出する。ピニオン位置検出部47は、ピニオン42の歯42aと係合するピニオン位置検出用ギア47aを含む。ピニオン位置検出部47は、ピニオン位置検出用ギア47aの回動角度を検出することにより、ピニオン42の回動位置を検出する。
【0065】
図5に示すように、クラッチ63は、ピニオン42を電気モータ45によって回動させる場合に、電気モータ45からピニオン42に駆動力を伝達する状態と、ピニオン42を電気モータ45によって回動させない場合に、電気モータ45からピニオン42に駆動力を伝達しない状態とを切り換え可能に構成されている。詳細には、クラッチ63は、電気モータ45により回動する第1のギア63aと、ピニオン42と一体的に回動する第2のギア63bと、第2のギア63bと一体的に回動するとともに、第1のギア63aに係合した状態と、第1のギア63aに係合しない状態とを切り換え可能な切換用ギア63cと、を含む。
【0066】
具体的には、第1のギア63aの上部は、ギア62と係合している。第2のギア63bは、ギア64と係合している。第1のギア63a、第2のギア63bおよび切換用ギア63cは、回転軸63dを回転中心として回転する。第2のギア63bおよび切換用ギア63cは、常に、回転軸63dと一体的に回転する。切換用ギア63cは、クラッチ用アクチュエータ63eによって、上下方向にスライドするように構成されている。切換用ギア63cが上方にスライドされ、切換用ギア63cが第1のギア63aの下部と係合する状態では、第1のギア63aの回動に伴って切換用ギア63cが回動する。すなわち、電気モータ45の駆動力がピニオン42に伝達される状態となる。一方、切換用ギア63cが下方にスライドされ、切換用ギア63cが第1のギア63aの上部と係合しない状態では、第1のギア63aが回動しても切換用ギア63cが回動しない。すなわち、電気モータ45の駆動力がピニオン42に伝達されない状態となる。なお、
図6では、切換用ギア63cが、第1のギア63aの下部と係合しない状態を示している。
【0067】
なお、転舵機構40は、ピニオン42が油圧アクチュエータ44(
図4参照)によって回動する状態から、ピニオン42が電気モータ45によって回動する状態に切り換える際に、ラック43をピニオン42に係合させるとともに油圧アクチュエータ44によるラック43の直線移動を停止させることによって切換用ギア63cの回動を停止させた状態で、電気モータ45により第1のギア63aを回動させながら、第1のギア63aと切換用ギア63cとを係合させるように構成されている。具体的には、
図8(a)に示すように、ピニオン42が油圧アクチュエータ44によって回動する状態では、第1のギア63aの下部の係合歯63fの位置と、切換用ギア63cの係合歯63gの位置とが、回転方向にずれている場合がある。その場合、電気モータ45が駆動していない状態で、まず、ラック43をピニオン42に係合させるとともに油圧アクチュエータ44によるラック43の直線移動を停止させる。すなわち、切換用ギア63cの回転を停止させる。そして、
図8(b)に示すように、第1のギア63aの下部の係合歯63fの位置と、切換用ギア63cの係合歯63gの位置とが、回転方向に揃うように、電気モータ45により第1のギア63aを回動させる。そして、
図8(c)に示すように、第1のギア63aの下部の係合歯63fの位置と、切換用ギア63cの係合歯63gの位置とが、回転方向に揃った状態で、クラッチ用アクチュエータ63eによって、切換用ギア63cを上方にスライドさせることによって、切換用ギア63cを第1のギア63aの下部と係合させる。
【0068】
(実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0069】
本実施形態では、上記のように、転舵機構40は、ピニオン42が油圧アクチュエータ44によって回動することにより、第1転舵角度範囲A10内で船外機本体102を転舵させることが可能な状態と、ピニオン42が電気モータ45によって回動することにより、少なくとも第1転舵角度範囲A10とは異なる角度範囲を含む第2転舵角度範囲A20内で船外機本体102を転舵させることが可能な状態と、を切り換え可能に構成されている。これにより、ピニオン42を電気モータ45によって回動させることによって、ピニオン42を油圧アクチュエータ44によって回動させることなく、第1転舵角度範囲A10とは異なる角度範囲で船外機本体102を転舵させることができる。すなわち、ピニオン42を油圧アクチュエータ44によって回動させる際にピニオン42とラック43との間の駆動力の伝達が解除されている場合、ピニオン42が油圧アクチュエータ44のみによって回動する場合と比較して、ラック43が移動する方向において、ラック43を直線移動させる距離を変化させることなく、船外機本体102を転舵軸41回りに回動可能な角度範囲を大きくすることができる。その結果、船外機100が大型化するのを抑制しながら、船外機本体102を転舵軸41回りに回動可能な角度範囲を大きくすることができる。
【0070】
また、本実施形態では、上記のように、転舵機構40は、ピニオン42が電気モータ45によって回動することにより船外機本体102を転舵させながら、第1速度範囲V10内で船舶120を航行させることが可能な状態と、ピニオン42が油圧アクチュエータ44によって回動することにより船外機本体102を転舵させながら、少なくとも第1速度範囲V10とは異なる角度範囲を含む第2速度範囲V20内で船舶120を航行させることが可能な状態と、を切り換え可能に構成されている。これにより、船舶120を比較的大きな速度Vで航行させるとともに、船外機本体102を転舵させる角度Aが比較的小さな角度範囲内に限定される場合に、上記のようにピニオン42が電気モータ45によって回動することにより船外機本体102を転舵させながら第1速度範囲V10内で船舶120を航行させればよい。また、船舶120を比較的小さな速度Vで航行させるとともに、船外機本体102を比較的大きな角度Aで転舵させる場合に、上記のようにピニオン42が油圧アクチュエータ44によって回動することにより船外機本体102を転舵させながら、少なくとも第1速度範囲V10とは異なる速度範囲を含む第2速度範囲V20内で船舶120を航行させればよい。その場合、転舵機構40では、ピニオン42が油圧アクチュエータ44によって回動することにより、第1転舵角度範囲A10内で船外機本体102を転舵させることが可能な状態と、ピニオン42が電気モータ45によって回動することにより、少なくとも第1転舵角度範囲A10とは異なる角度範囲を含む第2転舵角度範囲A20内で船外機本体102を転舵させることが可能な状態とが切り換わる。これにより、上述したように、ピニオン42を電気モータ45によって回動させることによって、ピニオン42を油圧アクチュエータ44によって回動させることなく、第1転舵角度範囲A10とは異なる角度範囲で船外機本体102を転舵させることができる。すなわち、ピニオン42を油圧アクチュエータ44によって回動させる際にピニオン42とラック43との間の駆動力の伝達が解除されている場合、ピニオン42が油圧アクチュエータ44のみによって回動する場合と比較して、ラック43が移動する方向において、ラック43を直線移動させる距離を変化させることなく、船外機本体102を転舵軸41回りに回動可能な角度範囲を大きくすることができる。その結果、上述したように、船外機100が大型化するのを抑制しながら、船外機本体102を転舵軸41回りに回動可能な角度範囲を大きくすることができる。
【0071】
また、本実施形態では、上記のように、転舵機構40は、ピニオン42が油圧アクチュエータ44によって回動することにより、第1転舵角度範囲A10内で船外機本体102を転舵させることが可能な状態と、ピニオン42が電気モータ45によって回動することにより、第1転舵角度範囲A10よりも大きな角度範囲を含む第2転舵角度範囲A20内で船外機本体102を転舵させることが可能な状態と、を切り換え可能に構成されている。これにより、船舶120を比較的大きな速度Vで航行させる場合に、上記のようにピニオン42が油圧アクチュエータ44によって回動することにより第1転舵角度範囲A10内で船外機本体102を転舵させることによって、駆動源に掛かる比較的大きな負荷を油圧によって容易に受けることができる。また、船舶120を比較的小さな速度Vで航行させる場合に、上記のようにピニオン42が電気モータ45によって回動することにより第1転舵角度範囲A10よりも大きな角度範囲を含む第2転舵角度範囲A20内で船外機本体102を転舵させることによって、船外機本体102を比較的大きな角度Aで容易に転舵させることができる。すなわち、船外機本体102を転舵させるための2つの駆動源を適切に使い分けることができる。
【0072】
また、本実施形態では、上記のように、船外機100は、転舵機構40を制御するSCU52を備える。そして、SCU52は、ピニオン42を油圧アクチュエータ44によって回動させる場合に、油圧アクチュエータ44による駆動力を発生させるように油圧アクチュエータ44を制御するとともに、ピニオン42を電気モータ45によって回動させる場合に、電気モータ45による駆動力を発生させるように電気モータ45を制御するように構成されている。これにより、SCU52による制御によって、転舵機構40を、ピニオン42が油圧アクチュエータ44によって回動することにより第1転舵角度範囲A10内で船外機本体102を転舵させることが可能な状態と、ピニオン42が電気モータ45によって回動することにより第2転舵角度範囲A20内で船外機本体102を転舵させることが可能な状態との間で容易に切り換えることができる。
【0073】
また、本実施形態では、上記のように、転舵機構40は、ピニオン42を油圧アクチュエータ44によって回動させる場合に、ラック43がピニオン42と係合するとともに、ピニオン42を油圧アクチュエータ44によって回動させない場合に、ラック43がピニオン42と係合しないように構成されている。これにより、ピニオン42を油圧アクチュエータ44によって回動させる場合に、ラック43がピニオン42と係合するので、ピニオン42を油圧アクチュエータ44によって適切に回動させることができる。また、ピニオン42を油圧アクチュエータ44によって回動させない場合に、ラック43がピニオン42と係合しないので、ピニオン42を電気モータ45によって回動させる場合に、ラック43がピニオン42と係合して電気モータ45によるピニオン42の適切な回動が妨げられるのを防止することができる。すなわち、船外機本体102を転舵させるための2つの駆動源の切り換えを構造的に容易に行うことができる。
【0074】
また、本実施形態では、上記のように、ラック43のうちのピニオン42と係合する歯43aは、ピニオン42を油圧アクチュエータ44によって回動させる場合にラック43がピニオン42と係合し、かつ、ピニオン42を油圧アクチュエータ44によって回動させない場合にラック43がピニオン42と係合しないように、ラック43の長手方向において所定の範囲Rに形成されている。これにより、ラック43は直線移動するので、ラック43のうちのピニオン42と係合する歯43aの形成範囲を調整することにより、転舵機構40を、ピニオン42を油圧アクチュエータ44によって回動させる場合にラック43がピニオン42と係合するとともに、ピニオン42を油圧アクチュエータ44によって回動させない場合にラック43がピニオン42と係合しないように、容易に構成することができる。
【0075】
また、本実施形態では、上記のように、ラック43は、ピニオン42側に設けられ、ピニオン42を油圧アクチュエータ44によって回動させる場合にラック43がピニオン42と係合するように歯43aが形成された歯形成部分43bと、ピニオン42側に設けられ、かつ、歯形成部分43bに隣り合うように設けられ、ピニオン42を油圧アクチュエータ44によって回動させない場合にラック43がピニオン42と係合せずかつ接触しないように歯43aが形成されていない歯非形成部分43cと、を含む。これにより、ラック43のうちのピニオン42と係合する歯43aがラック43の長手方向において所定の範囲Rに形成されている構成を、容易に実現することができる。
【0076】
また、本実施形態では、上記のように、転舵機構40は、ラック43の位置を検出するラック位置検出部46と、ピニオン42の回動位置を検出するピニオン位置検出部47と、を含む。これにより、ラック位置検出部46およびピニオン位置検出部47により、それぞれ、ラック43の位置およびピニオン42の回動位置を検出することができるので、ラック43がピニオン42と係合しない状態からラック43がピニオン42と係合する状態に切り換わる場合に、ラック43の位置とピニオン42の回動位置を予め設定された所定の位置で係合させることができる。
【0077】
また、本実施形態では、上記のように、駆動力伝達機構60は、ピニオン42を電気モータ45によって回動させる場合に、電気モータ45からピニオン42に駆動力を伝達する状態と、ピニオン42を電気モータ45によって回動させない場合に、電気モータ45からピニオン42に駆動力を伝達しない状態とを切り換え可能に構成されたクラッチ63を含む。これにより、ピニオン42を電気モータ45によって回動させる場合に、電気モータ45からピニオン42に駆動力が伝達されるので、ピニオン42を電気モータ45によって適切に回動させることができる。また、ピニオン42を電気モータ45によって回動させない場合に、電気モータ45からピニオン42に駆動力が伝達されないので、ピニオン42を油圧アクチュエータ44によって回動させる場合に、電気モータ45からピニオン42に駆動力が伝達されて油圧アクチュエータ44によるピニオン42の適切な回動が妨げられるのを防止することができる。
【0078】
また、本実施形態では、上記のように、クラッチ63は、電気モータ45により回動する第1のギア63aと、ピニオン42と一体的に回動する第2のギア63bと、第2のギア63bと一体的に回動するとともに、第1のギア63aに係合した状態と、第1のギア63aに係合しない状態とを切り換え可能な切換用ギア63cと、を含む。これにより、切換用ギア63cによって、電気モータ45からピニオン42に駆動力を伝達する状態と、電気モータ45からピニオン42に駆動力を伝達しない状態とを容易に切り換えることができる。
【0079】
また、本実施形態では、上記のように、転舵機構40は、ピニオン42が油圧アクチュエータ44によって回動する状態から、ピニオン42が電気モータ45によって回動する状態に切り換える際に、ラック43をピニオン42に係合させるとともに油圧アクチュエータ44によるラック43の直線移動を停止させることによって切換用ギア63cの回動を停止させた状態で、電気モータ45により第1のギア63aを回動させながら、第1のギア63aと切換用ギア63cとを係合させるように構成されている。これにより、第1のギア63aと切換用ギア63cとを係合させる際に、油圧によって切換用ギア63cの回動を確実に停止させた状態にすることができるので、第1のギア63aと切換用ギア63cとを容易に係合させることができる。
【0080】
また、本実施形態では、上記のように、第1転舵角度範囲A10は、下限が約0度に設定されるとともに、上限が約30度以上約45度以下に設定されており、第2転舵角度範囲A20は、下限が約0度に設定されるとともに、上限が第1転舵角度範囲A10の上限よりも大きい角度Aに設定されている。これにより、ピニオン42が油圧アクチュエータ44によって回動することにより、約0度と、約30度以上約45度以下の角度Aとの間の角度Aで船外機本体102を転舵させることができるとともに、ピニオン42が電気モータ45によって回動することにより、約0度と、約30度以上約45度以下の角度Aよりも大きな角度Aとの間の角度Aで船外機本体102を転舵させることができる。
【0081】
また、本実施形態では、上記のように、船外機本体102は、ブラケット101を介して船体110に取り付けられるアッパー部10と、アッパー部10の下方に配置されプロペラ35が設けられたロワー部20と、を含む。そして、転舵機構40は、アッパー部10に対してロワー部20を転舵軸41回りに回動させるように構成されている。これにより、アッパー部10に対してロワー部20を転舵軸41回りに回動させるように構成において、船外機100が大型化するのを抑制しながら、船外機本体102を転舵軸41回りに回動可能な角度範囲を大きくすることができる。
【0082】
[変形例]
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であり制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更(変形例)が含まれる。
【0083】
たとえば、上記実施形態では、転舵機構40が、アッパー部10に対してロワー部20を転舵軸41回りに回動させるように構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、転舵機構が、船体に対して船外機本体の全体を転舵軸回りに回動させるように構成されていてもよい。
【0084】
また、上記実施形態では、第1転舵角度範囲A10が、上限が約30度以上約45度以下に設定されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、第1転舵角度範囲の上限が、約30度未満に設定されていてもよいし、約45度よりも大きな角度に設定されていてもよい。
【0085】
また、上記実施形態では、転舵機構40が、ピニオン42が油圧アクチュエータ44によって回動する状態から、ピニオン42が電気モータ45によって回動する状態に切り換える際に、ラック43をピニオン42に係合させるとともに油圧アクチュエータ44によるラック43の直線移動を停止させることによって切換用ギア63cの回動を停止させた状態で、電気モータ45により第1のギア63aを回動させながら、第1のギア63aと切換用ギア63cとを係合させるように構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、転舵機構が、ピニオンが油圧アクチュエータによって回動する状態から、ピニオンが電気モータによって回動する状態に切り換える際に、ラックをピニオンに係合さない状態で、電気モータにより第1のギアを回動させながら、第1のギアと切換用ギアとを係合させるように構成されていてもよい。また、転舵機構が、ピニオンが油圧アクチュエータによって回動する状態から、ピニオンが電気モータによって回動する状態に切り換える際に、ラックをピニオンに係合させるとともに油圧アクチュエータによりラックを直線移動させることによって切換用ギアを回動させた状態で、電気モータにより第1のギアを回動させながら、第1のギアと切換用ギアとを係合させるように構成されていてもよい。
【0086】
また、上記実施形態では、クラッチ63が、電気モータ45により回動する第1のギア63aと、ピニオン42と一体的に回動する第2のギア63bと、第2のギア63bと一体的に回動するとともに、第1のギア63aに係合した状態と、第1のギア63aに係合しない状態とを切り換え可能な切換用ギア63cと、を含む例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、電気モータからピニオンに駆動力を伝達する状態と、電気モータからピニオンに駆動力を伝達しない状態とを切り換え可能であれば、クラッチの構成が、上記の第1のギアと第2のギアと切換用ギアとを含む構成以外であってもよい。
【0087】
また、上記実施形態では、特許請求の範囲の「第1駆動源」および「第2駆動源」が、それぞれ、油圧アクチュエータ44および電気モータ45である例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、特許請求の範囲の「第1駆動源」が、油圧アクチュエータ以外の駆動源であってもよいし、特許請求の範囲の「第2駆動源」が、電気モータ以外の駆動源であってもよい。
【0088】
また、上記実施形態では、第2転舵角度範囲A20が、第1転舵角度範囲A10よりも大きな角度範囲を含む例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、第2転舵角度範囲が、第1転舵角度範囲よりも大きな転舵角度範囲を含まなくてもよい。すなわち、第2転舵角度範囲が、第1転舵角度範囲よりも小さな転舵角度範囲を含んでいてもよい。
【0089】
また、上記実施形態では、ラック43が、ピニオン42に対して1つ設けられている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ラックが、ピニオンに対して複数設けられていてもよい。
【0090】
また、上記実施形態では、ラック43が、ピニオン42の右舷側に配置されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、ラックが、ピニオンの左舷側に配置されていてもよい。
【0091】
また、上記実施形態では、ラック43が、船外機本体102の前後方向に沿って延びている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、
図9に示す第1変形例のように、ラックが、船外機本体の左右方向に沿って延びていてもよい。
図9に示すように、第1変形例による船外機200は、船外機本体202と、転舵機構240と、を備える。転舵機構240では、ラック43は、船外機本体202の左右方向に沿って延びている。なお、
図9では、ラック43がピニオン42の前方側に配置された例を示したが、ラック43がピニオン42の後方側に配置されていてもよい。
【0092】
また、上記実施形態では、船外機100が、船体110の船尾111に船体110の左右方向に並ぶように複数取り付けられている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、船外機が、船体の船尾に1つのみ取り付けられていてもよい。
【0093】
また、上記実施形態では、転舵機構40が、ラック43およびピニオン42によって直線運動を回転運動に変換するように構成されている例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、
図10に示す第2変形例のように、転舵機構が、ラックおよびピニオン以外の部品によって直線運動を回転運動に変換するように構成されていてもよい。
図10に示すように、第2変形例による船外機300は、船外機本体302と、船外機本体302を転舵軸341回りに回動させる転舵機構340と、を備える。転舵機構340は、船外機本体302とともに回動するリンク部材342と、リンク部材342を回動させるように直線移動するピストン343と、を含む。具体的には、リンク部材342は、転舵軸341を取り囲むように配置された円筒部342aと、円筒部342aからピストン343側に延びるアーム部342bと、を含む。円筒部342aは、円筒部342aの回動に伴って転舵軸341が回動するように、スプライン係合により転舵軸341に固定されている。ピストン343は、船外機本体302の前後方向においてピストン343の中央部に配置され、ピストン343に対して回動可能な回動部343aを有する。アーム部342bは、ピストン343の回動部343aの孔343bに嵌め込まれて、ピストン343に対して固定されている。ピストン343を船外機本体302の前後方向において直線移動させると、ピストン343の回動部343aが回動しながら、転舵軸341に対するアーム部342bの位置が変化する。転舵軸341に対するアーム部342bの位置の変化に伴って、転舵軸341に固定された円筒部342aが回動する。なお、リンク部材342およびピストン343は、それぞれ、特許請求の範囲の「回動部材」および「直線移動部材」の一例である。
【符号の説明】
【0094】
10 アッパー部
20 ロワー部
35 プロペラ
40、240、340 転舵機構
41、341 転舵軸
42 ピニオン
43 ラック
43a (ラックのうちのピニオンと係合する)歯
43b 歯形成部分
43c 歯非形成部分
44 油圧アクチュエータ(第1駆動源)
45 電気モータ(第2駆動源)
46 ラック位置検出部
47 ピニオン位置検出部
52 SCU(転舵制御部)
60 駆動力伝達機構
63 クラッチ
63a 第1のギア
63b 第2のギア
63c 切換用ギア
100、200、300 船外機
101 ブラケット
102、202、302 船外機本体
102a (船外機本体の左右方向における)中央部
110 船体
111 (船体の)船尾
120 船舶
342 リンク部材(回動部材)
343 ピストン(直線移動部材)
A10 第1転舵角度範囲
A20 第2転舵角度範囲
R 所定の範囲
V10 第1速度範囲
V20 第2速度範囲