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特開2023-102978グラウト注入用型枠とグラウト注入方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102978
(43)【公開日】2023-07-26
(54)【発明の名称】グラウト注入用型枠とグラウト注入方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/12 20060101AFI20230719BHJP
   E04B 1/58 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
E04G21/12 104D
E04B1/58 503C
E04G21/12 105Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003770
(22)【出願日】2022-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】シング ラヴィ
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA04
2E125AA14
2E125AB12
2E125AC02
2E125AG12
2E125CA83
2E125EB12
(57)【要約】
【課題】PCa部材の備えている全ての被充填空間に対して、グラウトを効率的かつ確実に充填することのできる、グラウト注入用型枠とグラウト注入方法を提供すること。
【解決手段】PCa部材60の備えるシース管63に対して鉄筋65が挿通され、PCa部材60の端面61において、鉄筋65が挿通されながら設置されて、シース管63にグラウトを注入する際に適用される、グラウト注入用型枠10であり、シース管63に対応する位置に開設されて鉄筋65が挿通される挿通孔15と、グラウトが注入される注入孔14とを備えている型枠面材11と、型枠面材11におけるシース管63に対向する背面13に取り付けられ、挿通孔15が背面13に臨む第1開口と注入孔14が背面13に臨む第2開口を囲繞して第1端面61に当接される、無端状のシール材21と、PCa部材60に対して仮固定される仮固定材19とを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャストコンクリート製のPCa部材の備えるシース管に対して鉄筋が挿通され、前記PCa部材の端面において、前記鉄筋が挿通されながら設置されて、前記シース管にグラウトを注入する際に適用される、グラウト注入用型枠であって、
前記シース管に対応する位置に開設されて前記鉄筋が挿通される挿通孔と、グラウトが注入される注入孔とを備えている、型枠面材と、
前記型枠面材における前記シース管に対向する背面に取り付けられ、前記挿通孔が前記背面に臨む第1開口と、前記注入孔が前記背面に臨む第2開口を囲繞して、前記PCa部材の側面に当接される、無端状のシール材と、
前記PCa部材に対して仮固定される、仮固定材とを有することを特徴とする、グラウト注入用型枠。
【請求項2】
複数の前記シース管のそれぞれに対応する、複数の前記挿通孔を備えていることを特徴とする、請求項1に記載のグラウト注入用型枠。
【請求項3】
前記PCa部材にはインサートが埋設され、前記インサートの端部が前記PCa部材の側面に臨んでおり、
前記仮固定材が前記インサートに仮固定されるようになっていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のグラウト注入用型枠。
【請求項4】
PCa部材の備えるシース管にグラウトを注入する、グラウト注入方法であって、
前記シース管に対応する位置に開設されて、鉄筋が挿通される挿通孔を備えている、型枠面材と、
グラウトが注入される注入孔と、
前記型枠面材における前記シース管に対向する背面に取り付けられ、前記挿通孔が前記背面に臨む第1開口と、前記注入孔が前記背面に臨む第2開口を囲繞して、前記PCa部材の側面に当接される、無端状のシール材と、
前記PCa部材に対して仮固定される、仮固定材とを有する、グラウト注入用型枠を用意する、A工程と、
前記PCa部材は、前記グラウト注入用型枠が設置される第1端面と、前記第1端面と反対側の第2端面を備え、前記シース管は、前記第1端面に臨む第1端面開口と、前記第2端面に臨む第2端面開口を備え、前記第1端面開口に前記挿通孔を位置合わせしながら、前記グラウト注入用型枠を前記第1端面に設置する、B工程と、
前記鉄筋を、前記挿通孔を介して前記シース管に挿通し、前記シース管に注入されたグラウトが排出されることを確認する、排出確認用治具を前記第2端面開口に位置合わせし、前記鉄筋の周囲に設置する、C工程と、
前記注入孔を介して、前記背面と前記第1端面の間の空間でかつ前記シール材の内部にグラウトを注入し、注入されたグラウトを前記シース管の内部に流通させ、前記排出確認用治具からグラウトが排出されたことを確認する、D工程と、を有することを特徴とする、グラウト注入方法。
【請求項5】
前記A工程では、複数の前記シース管に対応する複数の挿通孔を備えている前記グラウト注入用型枠を用意し、
前記B工程では、複数の前記グラウト注入用型枠を前記第1端面開口に位置合わせしながら設置し、
前記C工程では、複数組の前記挿通孔及び前記シース管に対して、複数の前記鉄筋を挿通し、かつ、複数の前記排出確認用治具を複数の前記第2端面開口に位置合わせしながら設置し、
前記D工程では、複数の前記シース管に対してグラウトを注入することを特徴とする、請求項4に記載のグラウト注入方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラウト注入用型枠とグラウト注入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、RC(Reinforced Concrete)造の柱と梁の柱梁接合部を、現場におけるコンクリート打設により施工する場合、工期の長期化が課題としてあり、高層建築物の場合はこの課題が一層顕著になる。そこで、上下の柱と双方の柱を繋ぐ仕口、さらには、仕口の側方にある梁をいずれもプレキャストコンクリート(以下、適宜「PCa」とする)製とし、PCa柱とPCa仕口とPCa梁(いずれもPCa部材に含まれる)を現場に搬送し、PCa柱とPCa仕口を組み付けた後、PCa仕口の左右の側方にそれぞれPCa梁を仮設置し、PCa仕口の備えるシース管に対して一方のPCa梁の端面から側方に張り出す鉄筋を挿通してPCa仕口の他方側へ張り出させ、他方のPCa梁の内部にある機械式継手に対して鉄筋を嵌合させることにより、PCa仕口と、左右のPCa梁とを相互に接続する施工方法が適用される場合がある。
【0003】
この接続方法では、その後、PCa仕口のシース管の内部や、PCa梁の内部にあって鉄筋同士を繋ぐ機械式継手の内部に対してグラウトを注入することにより、鉄筋とシース管や機械式継手との接続を図る必要がある。そこで、例えば機械式継手に対してグラウトの注入孔を設けておき、注入孔から注入したグラウトを、相互に連通する被充填空間に充填させていく方法が適用される。具体的には、機械式継手の内部に充填されたグラウトは、当該機械式継手を備えているPCa梁とPCa仕口の界面にある縦目地空間に流れて充填され、次いでPCa仕口のシース管の内部を流れて充填され、PCa仕口と他方のPCa梁の間の縦目地空間に流れて充填される。この他方のPCa梁には、縦目地空間に連通する排出孔を設けておき、縦目地空間に流れたグラウトが排出孔から外部に排出されたことを確認することにより、各被充填空間に対してグラウトが充填されていると判断することができる。
【0004】
しかしながら、注入孔から注入されたグラウトが、様々な被充填空間を経て注入孔から離れた位置にある排出孔から排出されていることを確認できたとしても、相互に連通する各被充填空間の全ての被充填空間に対して、グラウトが密実に充填されていることが必ずしも保証されるとは言えない。何らかの影響で一部の被充填空間にグラウトが充填されず、あるいはグラウトの充填が不十分な状態でグラウトが排出孔まで流れて排出されることも十分にあり得る。
【0005】
以上のことから、シース管を備えている一方のPCa部材と、端面から鉄筋が張り出している他方のPCa部材を相互に接続するに当たり、グラウトが充填される全ての被充填空間に対して、グラウトを効率的かつ確実に充填することのできる、グラウト注入治具とPCa部材の接続方法が望まれる。
【0006】
ここで、特許文献1には、プレキャスト梁部材とその梁構築法が提案されている。プレキャスト梁部材は、プレキャストコンクリートに多数の剪断補強筋を間隔を置いて埋設するとともに、2つのプレキャストコンクリートの端面の下部間に梁下端主筋を挿通して配筋するための複数の平行なシース管が各プレキャストコンクリートに埋設され、シース管の中央部に添え筋が配筋されて重ね継手形成部が設けられている。プレキャスト梁部材の梁構築法は、梁部材のシース管に梁下端主筋を挿通して柱上部間に順次架設し、梁下端主筋を移動調節して柱上部上のプレキャスト梁部材の端面間に通して配筋し、各梁下端主筋の前端部と後端部を重ね継手形成部内で連設させた後、プレキャスト梁部材の端面間にコンクリートを打設し、各シース管内にグラウト材を充填して構築する方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5-247999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のプレキャスト梁部材の梁構築法では、シース管内にグラウト材を充填して構築すると記載されているに過ぎず、グラウトが充填される全ての被充填空間に対してグラウトを確実に充填する手段や方法を開示するものではない。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、PCa部材の備えている全ての被充填空間に対して、グラウトを効率的かつ確実に充填することのできる、グラウト注入用型枠とグラウト注入方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成すべく、本発明によるグラウト注入用型枠の一態様は、
プレキャストコンクリート製のPCa部材の備えるシース管に対して鉄筋が挿通され、前記PCa部材の端面において、前記鉄筋が挿通されながら設置されて、前記シース管にグラウトを注入する際に適用される、グラウト注入用型枠であって、
前記シース管に対応する位置に開設されて前記鉄筋が挿通される挿通孔と、グラウトが注入される注入孔とを備えている、型枠面材と、
前記型枠面材における前記シース管に対向する背面に取り付けられ、前記挿通孔が前記背面に臨む第1開口と、前記注入孔が前記背面に臨む第2開口を囲繞して、前記PCa部材の側面に当接される、無端状のシール材と、
前記PCa部材に対して仮固定される、仮固定材とを有することを特徴とする。
【0011】
本態様によれば、シース管とともに鉄筋が挿通される挿通孔と、グラウトが注入される注入孔とを備える型枠面材と、型枠面材の背面において挿通孔の第1開口と注入孔の第2開口を囲繞する無端状のシール材と、PCa部材に仮固定される仮固定材とを有することにより、鉄筋が挿通されているPCa部材のシース管(被充填空間)に対してグラウトを確実に充填することができる。すなわち、注入孔を介して型枠面材の背面に注入されたグラウトは、当該背面とPCa部材の側面の間をシールするシール材の内部に溜まり、その後、溜まったグラウトが鉄筋が挿通されているシース管の内部に充填されていくことにより、シース管の内部にグラウトを確実に充填することができる。
【0012】
また、本発明によるグラウト注入用型枠の他の態様は、
複数の前記シース管のそれぞれに対応する、複数の前記挿通孔を備えていることを特徴とする。
【0013】
本態様によれば、PCa部材が複数のシース管を有する場合でも、型枠面材の背面に注入されたグラウトが、当該背面とPCa部材の側面の間をシールするシール材の内部に溜まり、その後、溜まったグラウトが複数のシース管の内部に充填されていくことにより、複数のシース管の内部にグラウトを確実に充填することができる。
【0014】
また、本発明によるグラウト注入用型枠の他の態様において、
前記PCa部材にはインサートが埋設され、前記インサートの端部が前記PCa部材の側面に臨んでおり、
前記仮固定材が前記インサートに仮固定されるようになっていることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、PCa部材に埋設されているインサートに仮固定材が仮固定されることにより、グラウト注入の際にはグラウト注入用型枠を容易かつ確実にPCa部材に仮固定することができ、グラウト注入後はPCa部材からグラウト注入用型枠を速やかに取り外すことができる。
【0016】
また、本発明によるグラウト注入方法の一態様は、
PCa部材の備えるシース管にグラウトを注入する、グラウト注入方法であって、
前記シース管に対応する位置に開設されて、鉄筋が挿通される挿通孔を備えている、型枠面材と、
グラウトが注入される注入孔と、
前記型枠面材における前記シース管に対向する背面に取り付けられ、前記挿通孔が前記背面に臨む第1開口と、前記注入孔が前記背面に臨む第2開口を囲繞して、前記PCa部材の側面に当接される、無端状のシール材と、
前記PCa部材に対して仮固定される、仮固定材とを有する、グラウト注入用型枠を用意する、A工程と、
前記PCa部材は、前記グラウト注入用型枠が設置される第1端面と、前記第1端面と反対側の第2端面を備え、前記シース管は、前記第1端面に臨む第1端面開口と、前記第2端面に臨む第2端面開口を備え、前記第1端面開口に前記挿通孔を位置合わせしながら、前記グラウト注入用型枠を前記第1端面に設置する、B工程と、
前記鉄筋を、前記挿通孔を介して前記シース管に挿通し、前記シース管に注入されたグラウトが排出されることを確認する、排出確認用治具を前記第2端面開口に位置合わせし、前記鉄筋の周囲に設置する、C工程と、
前記注入孔を介して、前記背面と前記第1端面の間の空間でかつ前記シール材の内部にグラウトを注入し、注入されたグラウトを前記シース管の内部に流通させ、前記排出確認用治具からグラウトが排出されたことを確認する、D工程と、を有することを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、本発明のグラウト注入用型枠を使用することにより、鉄筋が挿通されているPCa部材のシース管に対してグラウトを確実に注入することができる。
【0018】
また、本発明によるグラウト注入方法の他の態様において、
前記A工程では、複数の前記シース管に対応する複数の挿通孔を備えている前記グラウト注入用型枠を用意し、
前記B工程では、複数の前記グラウト注入用型枠を前記第1端面開口に位置合わせしながら設置し、
前記C工程では、複数組の前記挿通孔及び前記シース管に対して、複数の前記鉄筋を挿通し、かつ、複数の前記排出確認用治具を複数の前記第2端面開口に位置合わせしながら設置し、
前記D工程では、複数の前記シース管に対してグラウトを注入することを特徴とする。
【0019】
本態様によれば、PCa部材が複数のシース管を有する場合でも、本発明のグラウト注入用型枠を適用することにより、鉄筋が挿通されている全てのシース管に対してグラウトを確実に充填することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上の説明から理解できるように、本発明のグラウト注入用型枠とグラウト注入方法によれば、PCa部材の備えている全ての被充填空間に対して、グラウトを効率的かつ確実に充填することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態に係るグラウト注入用型枠の一例の斜視図である。
図2】実施形態に係るグラウト注入方法の一例の工程図である。
図3図2に続いて、実施形態に係るグラウト注入方法の一例の工程図である。
図4図3に続いて、実施形態に係るグラウト注入方法の一例の工程図である。
図5図4に続いて、実施形態に係るグラウト注入方法の一例の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施形態に係るグラウト注入用型枠とグラウト注入方法の一例について、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0023】
[実施形態に係るグラウト注入用型枠]
はじめに、図1を参照して、実施形態に係るグラウト注入用型枠の一例について説明する。ここで、図1は実施形態に係るグラウト注入用型枠の一例の斜視図である。
【0024】
グラウト注入用型枠10は、PCa部材の備えるシース管に対して鉄筋が挿通され、PCa部材の端面において、鉄筋が挿通されながら設置されて、シース管にグラウトを注入する際に適用される型枠である。
【0025】
グラウト注入用型枠10は、平面視矩形の型枠面材11と、型枠面材11におけるPCa部材の側面(のシース管)に対向する背面13に取り付けられている、無端状のシール材21と、型枠面材11の矩形の各隅角部に開設されている仮固定用孔18に挿通されて、PCa部材に対して仮固定される仮固定材19(ボルト)とを有する。
【0026】
型枠面材11は、合板や無垢材等の木質材や、硬質の樹脂材、鋼板等により形成される。型枠面材11には、PCa部材のシース管に対応する位置に開設されて、鉄筋が挿通される複数(図示例は12個)の挿通孔15と、グラウトが注入される注入孔14とを備えている。注入孔14は、型枠面材11の正面12から外側に突出する注入パイプにより形成されており、注入パイプの注入口から注入されたグラウトが、注入孔14を介して背面13に充填されるようになっている。
【0027】
無端状のシール材21は、型枠面材11における背面13において、複数の挿通孔15が背面13に臨む第1開口と、注入孔14が背面13に臨む第2開口を囲繞する。
【0028】
シール材21は、例えば硬質のスポンジ等のバッカー材により形成されており、その厚みt1は20mm程度に設定される。
【0029】
このように硬質でかつ変形性能を有するシール材21を適用することにより、ボルト19でグラウト注入用型枠10を締め付けた際に、シール材21が潰れ過ぎず、初期の厚みをほぼ確保した状態で、PCa部材の側面との間に確実にシールすることができる。このことにより、シール材21の高さで形成された空間にグラウトを満たした後、複数のシース管の内部へグラウトをスムーズに充填することが可能になる。
【0030】
例えば、シール材21の厚みが10mm程度であると、グラウトがシール材の内部から各シース管の内部へ十分に流動できず、ワーカビリティー不良となり得る。一方、シール材21の厚みが20mmを超えると、今度はグラウトの使用量が必要以上の量となり、一部のグラウトが廃棄されるなどの材料損失に繋がり得る。
【0031】
尚、複数のシース管にグラウトが注入され、グラウト注入用型枠10をPCa部材の側面から脱型した際に、シール材21の内部に溜まっていた硬化後のグラウトは、相互に接続される二つのPCa部材の間の縦目地となり得る。シール材21の厚みが20mm程度に設定されることで、形成される縦目地の厚みを20mm程度の好ましい厚みとして形成できる観点からも好適な厚みとなる。
【0032】
グラウト注入用型枠10を使用することにより、注入孔14を介して型枠面材11の背面13に注入されたグラウトは、背面13とPCa部材の側面の間をシールするシール材21の内部に溜まり、その後、溜まったグラウトが鉄筋が挿通されているPCa部材のシース管の内部に充填されていくことにより、シース管の内部にグラウトを確実に充填することができる。特に、PCa部材が複数のシース管を備えている場合には、全てのシース管に対して確実かつ効率的にグラウトを充填することが可能になる。
【0033】
[実施形態に係るグラウト注入方法]
次に、図1と、図2乃至図5を参照して、実施形態に係るグラウト注入方法の一例について説明する。ここで、図2乃至図5は順に、実施形態に係るグラウト注入方法の一例の工程図である。
【0034】
以下の説明では、プレキャストコンクリート製の第1PCa部材60であるPCa仕口が複数のシース管63を備え、この第1PCa部材60と、その左右にあるプレキャストコンクリート製の第2PCa部材70である2つのPCa梁とを接続する方法と合わせて説明する。
【0035】
施工現場において、PCa柱68を立設させ、PCa柱68の上端にPCa仕口60を設置する。ここで、図示を省略するが、PCa仕口60の例えば下方には複数の機械式継手が埋設されており、PCa柱68の上端面から上方に突設する柱主筋がPCa仕口の下方にある機械式継手に嵌合される。そして、PCa柱68とPCa仕口60の間にはグラウトが注入されることで不図示の横目地が形成され、このグラウトが機械式継手の内部に入り込むことで柱主筋と機械式継手が接続される。また、図示を省略するが、PCa仕口60には、その上端面から上方に突設する複数の仕口主筋が設けられており、不図示の上階のPCa柱の下方にある機械式継手に仕口主筋が嵌合されるようになっている。
【0036】
グラウト注入方法では、まず、図1に示すグラウト注入用型枠10を用意する(A工程)。
【0037】
次に、図2に示すように、PCa仕口60にグラウト注入用型枠10を設置する。図示例では、PCa仕口60の左側の端面を第1端面61とし、右側の端面を第2端面62とする。複数(図示例は12個)のシース管63は、第1端面61と第2端面62の間を水平に延びており、シース管63の各端面に臨む位置にはそれぞれ、第1端面開口63aと第2端面開口63bが設けられている。
【0038】
第1端面61には、12個のシース管63のそれぞれの第1端面開口63aが臨んでおり、グラウト注入用型枠10の設置に先行して、各シース管63の左右端領域には、後工程で挿通される第1鉄筋65をシース管63の断面中央に位置合わせするためのスペーサ50を設置する。
【0039】
シース管63にスペーサ50を設置した後、各第1端面開口63aに対して対応する挿通孔15を位置合わせしながら、グラウト注入用型枠10をPCa仕口60の第1端面61に取り付ける。
【0040】
PCa仕口60の第1端面61には、四つのインサート64が埋設されており、その端部開口が第1端面61に臨んでいる。グラウト注入用型枠10を第1端面61に位置合わせした後、仮固定用孔18を介してボルト19をインサート64に締め付けることにより、シール材21が第1端面61に押圧された状態で密着し、第1端面61に対してグラウト注入用型枠10が設置される(以上、B工程)。
【0041】
次に、各シース管63に第1鉄筋65を挿通し、第1端面開口63aと第2端面開口63bの双方から、第1鉄筋65が張り出した状態で各シース管63に仮に設置する。
【0042】
PCa仕口60の第2端面62に臨む複数の第2端面開口63bには、シース管63に注入されたグラウトが排出されることを確認するための排出確認用治具30を位置合わせし、対応する第1鉄筋65の周囲に設置し、ロックナット40で固定する。排出確認用治具30には、第2端面開口63bに連通する吐出口31が設けられている。排出確認用治具30としては、例えば吐出口31となるスリットを備えたバッカー材が適用される(以上、C工程)。
【0043】
次に、図3に示すように、グラウト注入用型枠10の注入孔14を介して、型枠面材11の背面13とPCa仕口60の第1端面61の間の空間で、かつシール材21の内部に対してY1方向にグラウトを注入する。
【0044】
注入されたグラウトは、背面13と第1端面61の間をシールするシール材21の内部へY2方向に流れて溜まり、その後、溜まったグラウトは、第1鉄筋65が挿通されている各シース管63の内部へY3方向に充填されていく。
【0045】
シース管63の内部をY3方向に流れたグラウトは、第2端面開口63bを介して各排出確認用治具30の吐出口31から外部へY4方向に吐出(排出)される。
【0046】
作業員は、このグラウトの吐出を確認することにより、シース管63の内部にグラウトが密実に充填されていると判断できる(以上、D工程)。
【0047】
各シース管63に対してグラウトが充填されたことを確認した後、図4に示すように、グラウト注入用型枠10と各排出確認用治具30を取り外す。図4に示すように、各シース管63の断面中央に第1鉄筋65が位置合わせされ、第1鉄筋65とシース管63の内面との間の空間にグラウトGが密実に充填されている。
【0048】
さらに、PCa仕口60の第1端面61の側方には、シール材21の内部に溜まっていたグラウトが硬化してできた縦目地91が形成されている。
【0049】
次に、第1鉄筋65の左右端と、左右にあるPCa梁70の端部から張り出している第2鉄筋75の端部をそれぞれ、カプラー等の機械式継手72に螺合することにより、機械式継手72を介して第1鉄筋65と第2鉄筋75を接続し、機械式継手72の内部にもグラウトもしくはエポキシ樹脂等を注入する。
【0050】
次に、図5に示すように、PCa仕口60と左右のPCa梁70の間の空間において、第1鉄筋65の一部と機械式継手72と第2鉄筋75の一部を埋設するようにしてコンクリートを打設し、例えばPCa梁70と同一断面形状及び同一断面寸法のコンクリート接続体80を施工することにより、コンクリート接続体80を介してPCa仕口60とPCa梁70を接続し、柱梁接合部100が施工される。
【0051】
この柱梁接合部100の施工に際しては、PCa仕口60の第2端面62の側方に縦目地空間を形成しておき、最後にグラウトを注入して縦目地92を施工する。
【0052】
図示するグラウト注入方法によれば、グラウト注入用型枠10を使用することにより、第1鉄筋65が挿通されているPCa仕口60の複数のシース管63に対して、グラウトを確実かつ効率的に注入することができる。
【0053】
また、PCa仕口60に埋設されているインサート64に対して、ボルト19をねじ込んでグラウト注入用型枠10を仮固定することにより、グラウト注入の際にはグラウト注入用型枠10を容易かつ確実にPCa仕口60の第1端面61に仮固定することができ、グラウト注入後は、第1端面61からグラウト注入用型枠10を速やかに取り外せることから、グラウト注入に関する施工性がより一層向上する。
【0054】
上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0055】
10:グラウト注入用型枠
11:型枠面材
12:正面
13:背面
14:注入孔(第2開口)
15:挿通孔(第1開口)
18:仮固定用孔
19:仮固定材(ボルト)
21:シール材
30:排出確認用治具
31:吐出口
40:ロックナット
50:スペーサ
60:第1PCa部材(PCa仕口、PCa部材)
61:第1端面(端面)
62:第2端面(端面)
63:シース管
63a:第1端面開口(端面開口)
63b:第2端面開口(端面開口)
64:インサート
65:第1鉄筋(鉄筋)
68:PCa柱
70:第2PCa部材(PCa梁、PCa部材)
72:機械式継手
75:第2鉄筋(鉄筋)
80:コンクリート接続体
91,92:縦目地
100:柱梁接合部
G:グラウト
図1
図2
図3
図4
図5