(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102984
(43)【公開日】2023-07-26
(54)【発明の名称】Endo180産生促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20230719BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230719BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20230719BHJP
A61K 36/815 20060101ALI20230719BHJP
A61K 36/53 20060101ALI20230719BHJP
A61K 36/535 20060101ALI20230719BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20230719BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20230719BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20230719BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/00
A61Q19/08
A61K36/815
A61K36/53
A61K36/535
A61P17/00
A61P19/02
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003780
(22)【出願日】2022-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】591082421
【氏名又は名称】丸善製薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岩橋 弘恭
(72)【発明者】
【氏名】周 艶陽
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018MD48
4B018MD61
4B018ME14
4B018MF01
4C083AA111
4C083BB51
4C083CC03
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4C083FF01
4C088AB38
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4C088AC05
4C088BA08
4C088CA03
4C088NA14
4C088ZA89
4C088ZA96
(57)【要約】
【課題】天然物に由来する成分の中から、優れたEndo180産生促進作用を有するものを見出し、それを有効成分とするEndo180産生促進剤を提供する。
【解決手段】本発明のEndo180産生促進剤の有効成分として、クコ葉、サルビア、シソ、ローズマリーからなる群より選択される1種または2種以上の天然物からの抽出物を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クコ葉、サルビア、シソ、ローズマリーからなる群より選択される1種または2種以上の天然物からの抽出物を有効成分として含有することを特徴とするEndo180産生促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然物由来成分を有効成分とするEndo180産生促進剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
紫外線の長期曝露によって引き起こされる光老化では、真皮コラーゲン線維構造の量的、質的変化が確認されており、シワの形成に関与していると考えられている。コラーゲン線維構造は、コラーゲン線維の合成および分解の繰り返しによる代謝バランスによって恒常性が維持されている。このうち分解過程においては、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)によるコラーゲンの断片化と、断片化されたコラーゲンの線維芽細胞への取り込みおよび分解とが起こっており、断片化コラーゲンの細胞内への取り込みには、膜タンパク質であるコラーゲンレセプター「Endo180」の関与が知られている(非特許文献1)。
【0003】
Endo180は、マンノース受容体C2(MRC2)、ウロキナーゼプラスミノーゲン活性化因子受容体関連タンパク質(uPARAP)およびCD280としても知られ、再利用されるエンドサイトーシス受容体であり、コラーゲンなどのリガンドと結合してこれを細胞内に取り込み、エンドソームにおける分解へと誘導する。
【0004】
Endo180は、マクロファージマンノース受容体ファミリーであるマンノース受容体、ホスホリパーゼA2、DEC-205/MR6などと相同性を有する。Endo180は、細胞膜から、後期エンドソーム/リソソーム区画までではなく、リサイクリングエンドソームまでが標的とされるという点で、マンノース受容体のファミリーの中でも特殊であり、細胞遊走、および細胞内分解のためのコラーゲンの取り込みを促進することによって、細胞運動性や細胞外マトリックスの再構築において機能を果たす。また、uPARAPとして、ウロキナーゼ型プラスミン活性化因子(uPA)およびウロキナーゼ型プラスミン活性化因子受容体(uPAR)と三重複合体を形成し、プラスミノーゲンからのプラスミンの生成に関与する。Endo180は、細胞表面上のクラスリンで覆われたピットや、エンドソーム等に局在しており、線維芽細胞、内皮細胞、およびマクロファージにおいて主に発現する。組織としては、肺、血管、骨および皮膚において主に発現している(特許文献1参照)。
【0005】
一方、皮膚の真皮もコラーゲンに富む組織であり、真皮中のコラーゲン線維のリモデリングにおけるEndo180の関与が報告されている。これまでに、光老化皮膚では線維芽細胞においてEndo180発現が低下し、それに伴い真皮マトリックスにおいて断片化コラーゲンが蓄積されることが知られている(非特許文献2)。また、紫外線による皮膚線維芽細胞のEndo180発現低下メカニズムにケラチノサイトが産生するIL-1αが関与していることが知られている(非特許文献3)。さらに、皮膚線維芽細胞においてEndo180の発現が低下すると、取り込みが抑えられることで蓄積した断片化コラーゲンによって、線維芽細胞の機能障害が起きることで酸化ストレスが誘導され、コラーゲン産生の減少およびMMP-1産生の増加が引き起こされる結果、正常なコラーゲン線維構造の再生が阻害されることが知られている(非特許文献4)。これらのことから、Endo180の低下は、紫外線の長期曝露によって引き起こされる光老化皮膚の形成(例えば、シワの形成)に関与しているものと考えられている。
【0006】
そのため、例えば、線維芽細胞においてEndo180発現を促進することができれば、正常なコラーゲン線維構造の再生を促し、光老化皮膚やこれによるシワ等の形成を抑えることができると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J.Cell Sci.,2009年,vol.122,pp.4042-4048
【非特許文献2】J.Dermatol.Sci.,2013年,vol.70,pp.42-48
【非特許文献3】Photodermatol. Photoimmunol. Photomed.,2020年,vol.36,pp.34-41
【非特許文献4】Photodermatol. Photoimmunol. Photomed.,2021年,DOI:10.1111/phpp.12728
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、安全性の高い天然物由来成分の中から、優れたEndo180産生促進作用を有するものを見出し、それを有効成分とするEndo180産生促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のEndo180産生促進剤は、クコ葉、サルビア、シソ、ローズマリーからなる群より選択される1種または2種以上の天然物からの抽出物を有効成分とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、天然物に由来するクコ葉、サルビア、シソ、ローズマリーからなる群より選択される1種または2種以上の天然物からの抽出物を有効成分として用いることにより、作用効果に優れ、かつ安全性の高いEndo180産生促進剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態のEndo180産生促進剤は、クコ葉、サルビア、シソ、ローズマリーからなる群より選択される1種または2種以上の天然物からの抽出物を有効成分とするものである。
【0013】
本実施形態において使用する抽出原料は、クコ(学名:Lycium chinense Mill、またはLycium barbarum L.)の葉、サルビア(学名:Salvia officinalis L.)、シソ(学名:Perilla frutescens (L.) Britton var. crispa (Benth.) W.Deane)、ローズマリー(学名:Rosmarinus officinalis L.)である。
【0014】
ここで、本実施形態における「抽出物」には、上記天然物を抽出原料として得られる抽出液、当該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
【0015】
クコ(枸杞)は、ナス科クコ属の落葉低木である。前記クコは、日本及び朝鮮、中国、台湾などに分布しており、これらの地域から容易に入手可能である。クコは古来よりその果実、根皮、及び葉が食用、生薬、或いは漢方薬として服用されており、前記生薬としては、クコの果実からなる枸杞子(クコシ)、クコの根皮からなる地骨皮(ジコッピ)、クコの葉からなる枸杞葉(クコヨウ)などが挙げられる。このように、クコは、安全性の高い植物である。
【0016】
クコの種としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、Lycium chinense Mill、Lycium barbarum L.、Lycium chinense Mill.var.potaninii A.M.Lu、Lycium Barbarum L.var.auraticarpum K.F.Ching、Lycium ruthenicum、Lycium truncatum Y.C.Wang、Lycium dasystemum Pojark、Lycium dasystemum Pojark var.rubricaulium A.M.Lu、Lycium eylindricum Kuang et A.M.Luなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記クコの種としては、Lycium chinense Mill(以下、「マルハクコ」と称することがある)、Lycium barbarum L.(以下、「ナガバクコ」と称することがある)が好ましい。
前記クコ葉抽出物は、クコ葉から調製したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
【0017】
前記クコ葉の調製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記葉部を乾燥させた後、そのまま又は粗砕機を用い粉砕して溶媒抽出に供する方法などが挙げられる。前記乾燥は、天日で行ってもよいし、通常使用されている乾燥機を用いて行ってもよい。
【0018】
前記クコ葉抽出物は、植物の抽出に一般に用いられている方法により容易に得ることができる。前記クコ葉抽出物の形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、抽出液そのもの、抽出液の希釈液、抽出液の濃縮液、抽出液の乾燥物などが挙げられる。
【0019】
前記クコ葉の抽出方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、抽出溶媒を満たした処理槽に抽出原料である前記クコ葉を投入し、必要に応じて適宜攪拌しながら可溶性成分を溶出した後、濾過して抽出残渣を除くことにより抽出液を得る方法などが挙げられる。
また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0020】
前記クコ葉の抽出条件(抽出時間及び抽出温度)、抽出溶媒、及びその使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0021】
前記クコ葉の抽出溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、親水性溶媒、又はこれらの混合溶媒が挙げられる。
【0022】
前記水としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
前記親水性溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1~5の低級アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2~5の多価アルコールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
前記混合溶媒における前記水に対する前記親水性溶媒の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記低級アルコールを使用する場合は、水10質量部に対して1質量部~90質量部、前記低級脂肪族ケトンを使用する場合は、水10質量部に対して1質量部~40質量部、前記多価アルコールを使用する場合は、水10質量部に対して1質量部~90質量部添加することが好ましい。
【0025】
前記クコ葉の抽出溶媒の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、室温乃至溶媒の沸点以下の温度で用いることが好ましい。
【0026】
これらの中でも、前記クコ葉の抽出溶媒としては、熱水、水と低級アルコールとの混合溶媒が好ましい。
【0027】
得られた前記クコ葉抽出物は、前記クコ葉抽出物の希釈物、濃縮物、乾燥物、粗精製物、精製物などを得るために、常法に従って希釈、濃縮、乾燥、精製などの処理を施してもよい。
【0028】
前記クコ葉抽出物の精製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、液-液分配抽出、各種クロマトグラフィー、膜分離などの精製方法が挙げられる。
【0029】
前記サルビアは、北米・南米・アジア等に分布しているシソ科に属する植物であり、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得るサルビアの構成部位としては、例えば、葉部、茎部、根部、花部、全草、又はこれらの混合物などが挙げられるが、好ましくは葉部である。
【0030】
前記シソは、日本各地で栽培されているシソ科シソ属に属する多年生草本であり、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得るシソの構成部位としては、例えば、葉部、枝部、茎部、花部、蕾部、種子部、地上部、全草、又はこれらの混合物等が挙げられるが、好ましくは葉部である。
【0031】
前記ローズマリーは、ヨーロッパ、日本等に分布しているシソ科マンネンロウ属に属する常緑低木であり、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得る構成部位としては、例えば、葉部、枝部、樹皮部、幹部、茎部、果実部、種子部、花部等の地上部、根部又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくは葉部である。
【0032】
上記天然物からの抽出物は、抽出原料を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、上記抽出原料の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0033】
抽出溶媒としては、極性溶媒を使用することが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0034】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本実施形態において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0035】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1~5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2~5の多価アルコール等が挙げられる。
【0036】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を抽出溶媒として使用する場合には、水と低級脂肪族アルコールとの混合比が9:1~1:9(容量比)であることが好ましく、7:3~2:8(容量比)であることがさらに好ましい。また、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水と低級脂肪族ケトンとの混合比が9:1~2:8(容量比)であることが好ましく、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水と多価アルコールとの混合比が8:2~1:9(容量比)であることが好ましい。
【0037】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5~15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すると乾燥物が得られる。
【0038】
以上のようにして得られる、クコ葉、サルビア、シソ、ローズマリーからの抽出物は、優れたEndo180産生促進作用を有しているため、Endo180産生促進剤の有効成分として用いることができる。本実施形態のEndo180産生促進剤は、医薬品、医薬部外品、化粧品等、飲食品の幅広い用途に使用することができる。
【0039】
本実施形態のEndo180産生促進剤は、クコ葉、サルビア、シソ、ローズマリーからの抽出物またはこれらの混合物のみからなるものでもよいし、クコ葉、サルビア、シソ、ローズマリーからの抽出物またはこれらの混合物を製剤化したものでもよい。
【0040】
本実施形態のEndo180産生促進剤は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味・矯臭剤等を用いることができる。Endo180産生促進剤は、他の組成物(例えば、皮膚化粧料、飲食品等)に配合して使用することができるほか、軟膏剤、外用液剤、貼付剤等として使用することができる。
【0041】
本実施形態のEndo180産生促進剤を製剤化した場合、クコ葉、サルビア、シソ、ローズマリーからの抽出物またはこれらの混合物の含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜設定することができる。
【0042】
なお、本実施形態のEndo180産生促進剤は、必要に応じて、Endo180産生促進作用を有する他の天然抽出物等を、クコ葉、サルビア、シソ、ローズマリーからの抽出物またはこれらの混合物とともに配合して有効成分として用いることができる。
【0043】
本実施形態のEndo180産生促進剤の患者に対する投与方法としては、経皮投与、経口投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防・治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。また、本実施形態のEndo180産生促進剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0044】
本実施形態のEndo180産生促進剤は、有効成分であるクコ葉、サルビア、シソ、ローズマリーからの抽出物が有するEndo180産生促進作用を通じて、線維芽細胞においてEndo180の産生を促進し、これにより、エンドサイトーシスによる断片化コラーゲンの取り込みを促進して正常なコラーゲン線維構造の再生を促し、シワの形成等といった皮膚の光老化症状を予防、治療または改善することができる。また、本実施形態のEndo180産生促進剤は、正常なコラーゲン線維構造の再生を促すことにより、慢性関節リウマチ、変形性関節炎、化膿性関節炎、痛風性関節炎、外傷性関節炎、骨関節炎等の関節炎の予防、治療または改善などの用途に用いることができる。ただし、本実施形態のEndo180産生促進剤は、これらの用途以外にも上記作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0045】
また、本実施形態のEndo180産生促進剤は、優れたEndo180産生促進作用を有するため、例えば、皮膚外用剤や飲食品に配合するのに好適である。この場合に、クコ葉、サルビア、シソ、ローズマリーからの抽出物またはこれらの混合物をそのまま配合してもよいし、クコ葉、サルビア、シソ、ローズマリーからの抽出物またはこれらの混合物から製剤化したEndo180産生促進剤を配合してもよい。
【0046】
ここで、皮膚外用剤としては、その区分に制限はなく、経皮的に使用される皮膚化粧料、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものであり、具体的には、例えば、軟膏、クリーム、乳液、化粧水、美容液、ローション、ジェル、美容オイル、パック、ファンデーション、リップクリーム、入浴剤、ヘアートニック、ヘアーローション、シャンプー、リンス、石鹸、ボディシャンプー等が挙げられる。
【0047】
飲食品とは、人の健康に危害を加えるおそれが少なく、通常の社会生活において、経口又は消化管投与により摂取されるものをいい、行政区分上の食品、医薬品、医薬部外品等の区分に制限されるものではない。したがって、本実施形態における「飲食品」は、経口的に摂取される一般食品、健康食品(機能性飲食品)、保健機能食品(特定保健用食品,栄養機能食品)、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものである。
【0048】
また、本実施形態のEndo180産生促進剤は、優れたEndo180産生促進作用を有するので、これらの作用機構に関する研究のための試薬としても好適に利用することができる。
【0049】
なお、本実施形態のEndo180産生促進剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物(例えば,マウス,ラット,ハムスター,イヌ,ネコ,ウシ,ブタ,サル等)に対して適用することもできる。
【実施例0050】
以下、本発明の製造例、試験例を説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。
【0051】
後述の試験例で用いる被験試料を下記のようにして製造又は用意した。
【0052】
(製造例1:マルハクコ(Lycium chinense) 葉熱水抽出物)
乾燥したマルハクコ(Lycium chinense)葉20gに、溶媒として前記乾燥クコ葉の10倍量(w/v)の水を加え、80℃で2時間還流抽出を行った。次いで、減圧濾過を行った後、前記溶媒を除去し、マルハクコ葉熱水抽出物とした。収率は、27.8%であった。
【0053】
(製造例2:マルハクコ(Lycium chinense)葉50容量%エタノール抽出物)
乾燥したマルハクコ(Lycium chinense)葉20gに、溶媒として前記乾燥クコ葉の10倍量(w/v)の50容量%エタノールを加え、80℃で2時間還流抽出を行った。次いで、減圧濾過を行った後、前記溶媒を除去し、マルハクコ葉50容量%エタノール抽出物とした。収率は、29.4%であった。
【0054】
(製造例3:マルハクコ(Lycium chinense)葉80容量%エタノール抽出物)乾燥したマルハクコ(Lycium chinense)葉20gに、溶媒として前記乾燥クコ葉の10倍量(w/v)の80容量%エタノールを加え、80℃で2時間還流抽出を行った。次いで、減圧濾過を行った後、前記溶媒を除去し、マルハクコ葉80容量%エタノール抽出物とした。収率は、19.8%であった。
【0055】
(製造例4:ナガバクコ(Lycium barbarum)葉50容量%エタノール抽出物の製造)
前記製造例2において、マルハクコ(Lycium chinense)葉を、ナガバクコ(Lycium barbarum)葉に変更したこと以外は、製造例2と同様の方法でナガバクコ(Lycium barbarum)葉50容量%エタノール抽出物を製造した。収率は、29.1%であった。
【0056】
(製造例5:ナガバクコ(Lycium barbarum)葉80容量%エタノール抽出物の製造)
前記製造例3において、マルハクコ(Lycium chinense)葉を、ナガバクコ(Lycium barbarum)葉に変更したこと以外は、製造例3と同様の方法でナガバクコ(Lycium barbarum)葉80容量%エタノール抽出物を製造した。収率は、19.2%であった。
【0057】
(製造例6~8)
下記の被験試料は、市販品の凍結乾燥品を用意した。
製造例6:サルビア抽出液BG-J(丸善製薬株式会社製)
製造例7:シソ抽出液BG-J(丸善製薬株式会社製)
製造例8:ローズマリー抽出液BG-J(丸善製薬株式会社製)
【0058】
〔試験例1〕Endo180産生促進作用試験
上記製造例で製造又は用意したものを被験試料として用い、以下のようにしてEndo180産生促進作用を試験した。
【0059】
ヒト正常皮膚線維芽細胞(NB1RGB)を、10%FBS含有ダルベッコMEMを用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を1.0×105 cells/mLの細胞密度になるよう上記培地希釈した後、96ウェルマイクロプレートに1ウェル当たり100μLずつ播種し、二晩培養した。
【0060】
培養終了後、培地を除去し、0.25%FBS含有ダルベッコMEMに溶解した被験試料(試料濃度は下記表1、表2を参照)を各ウェルに100μLずつ添加し、24時間培養した。なお、コントロールとして、試料無添加の0.25%FBS含有ダルベッコMEMを用いて同様に培養した。培養終了後、各ウェルの細胞表面に存在するEndo180量をELISA法により測定した。測定結果から、下記式によりEndo180産生促進率(%)を算出した。
【0061】
Endo180産生促進率(%)=A/B×100
式中の各項はそれぞれ以下を表す。
A:被験試料添加でのEndo180産生量
B:試料無添加でのEndo180産生量
結果を表1、表2に示す。
【0062】
【0063】
【0064】
表1、表2に示すように、クコ葉抽出物、サルビア、シソ、ローズマリーは、いずれも優れたEndo180産生促進作用を有することが確認された。
本発明のEndo180産生促進剤は、シワの形成等といった皮膚の光老化症状の予防、治療または改善;各種関節炎の予防、治療または改善;などに大きく貢献できる。