(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102985
(43)【公開日】2023-07-26
(54)【発明の名称】自動繊維束配置装置
(51)【国際特許分類】
B29C 65/16 20060101AFI20230719BHJP
B29C 70/38 20060101ALI20230719BHJP
B29C 70/54 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
B29C65/16
B29C70/38
B29C70/54
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003781
(22)【出願日】2022-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000215109
【氏名又は名称】津田駒工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西村 勲
(72)【発明者】
【氏名】石田 恭之
【テーマコード(参考)】
4F205
4F211
【Fターム(参考)】
4F205AC03
4F205AD16
4F205HA14
4F205HA23
4F205HA34
4F205HA37
4F205HA45
4F205HB01
4F205HK03
4F205HK04
4F205HM13
4F211AD16
4F211AD19
4F211AG15
4F211TA01
4F211TC23
4F211TN27
(57)【要約】
【課題】自動繊維束配置装置において、配置ヘッドの移動速度を速めるという要求を満たしつつも、積層面への繊維束の溶着がより確実に行われるようになる構成を提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂を含浸させた帯状の繊維束を配置ヘッドの移動により配置型上の積層面へ敷置すると共に、照射装置からのレーザの照射により繊維束を積層面に仮溶着して配置するように構成された自動繊維束配置装置において、照射装置は、積層面に敷置された繊維束における積層面側の面とは反対側の面を照射するように設けられている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含浸させた帯状の繊維束を配置ヘッドの移動により配置型上の積層面へ敷置すると共に、照射装置からのレーザの照射により繊維束を積層面に仮溶着して配置するように構成された自動繊維束配置装置において、
前記照射装置は、積層面に敷置された繊維束における積層面側の面とは反対側の面を照射するように設けられている
ことを特徴とする自動繊維束配置装置。
【請求項2】
繊維束を積層面に対し押圧する押圧ローラと、前記押圧ローラに対する繊維束の経路の上流側に設けられて前記押圧ローラに向けて繊維束の経路を転向させるガイドローラとを含み、
前記照射装置は、繊維束における前記押圧ローラと前記ガイドローラとの間の部分を照射するように設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の自動繊維束配置装置。
【請求項3】
前記配置ヘッドの移動速度と移動方向におけるレーザの照射範囲とで決まる照射時間が、0.1秒以上、且つ、0.4秒以下となるように前記移動速度及び/又は前記照射範囲が定められている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の自動繊維束配置装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂を含浸させた帯状の繊維束を配置ヘッドの移動により配置型上の積層面へ敷置すると共に、照射装置からのレーザの照射により繊維束を積層面に仮溶着して配置するように構成された自動繊維束配置装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動繊維束配置装置として、比較的幅の広い繊維束を配置型上に配置するATL(Automated Tape Layup)装置や、比較的幅の狭い繊維束を配置型上に配置するAFP(Automated Fiber Placement)装置が知られている。なお、本発明において、「繊維束」とは、複数本の強化繊維(炭素繊維、ガラス繊維等)の束にマトリックス樹脂を含浸させてテープ状に形成された所謂トウプリプレグやプリプレグのような材料を指す。また、そのマトリックス樹脂としては、加熱により硬化する熱硬化性樹脂と、加熱により軟化する熱可塑性樹脂とが知られている。
【0003】
それらのマトリックス樹脂のうち、熱可塑性樹脂は、性質上、常温(室温)においては粘着性を有さないものとなっている。そのため、熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする繊維束を配置型上に配置する場合においては、その繊維束を配置型上の積層面に溶着するための溶着装置が必要となる。そして、自動繊維束配置装置には、そのような溶着装置としてレーザ照射装置を備えたものがある。
【0004】
そのようなレーザ照射装置を備えた自動繊維束配置装置の一例として、特許文献1に開示されたものがある。その特許文献1に開示された自動繊維束配置装置は、熱可塑性樹脂を含浸させた帯状の繊維束を配置ヘッドの移動により配置型の積層面へ敷置すると共に、レーザ照射装置により繊維束に対しレーザを照射して配置型に対する繊維束の配置を達成するように構成されている。但し、その自動繊維束配置装置においては、そのレーザ照射装置によるレーザの照射は、繊維束における積層面側の面に向けて行われるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、レーザ照射装置によりレーザを照射して対象物を加熱する場合、レーザの焦点が対象物の表面からズレていると、適正な加熱が行えないため、レーザ照射装置(照射部分)は、対象物に対し、焦点が合うような適正な距離の位置に設けられている必要がある。また、レーザは指向性が高い光であることから、レーザ照射装置は、その照射部分の全体が、対象物の照射範囲全体に亘り、前記した適正な距離で正対するように設けられる必要がある。
【0007】
その上で、そのようなレーザ照射装置を前記した自動繊維束配置装置に適用する場合について、近年の自動繊維束配置装置では、繊維束を積層面上に配置するにあたり、その作業の効率を向上させるために、自動繊維束配置装置における配置ヘッドの移動速度を速めることが求められている。その場合において、レーザ照射装置による照射範囲が狭い場合には、その照射範囲に照射されるレーザによって繊維束を所望の温度に加熱して積層面への溶着を実現するために、レーザ照射装置により照射するレーザの出力を高める必要がある。しかし、レーザの出力を高めると、そのレーザを照射した繊維束の表面に焦げが発生してしまう場合がある。
【0008】
そこで、前記のような配置ヘッドの移動速度を速める要求を満たしつつ、その焦げが発生しない程度の出力で繊維束の確実な溶着を実現するためには、レーザ照射装置による繊維束の長手方向における照射範囲を拡大する必要がある。そして、その場合には、レーザ照射装置を、その照射部分がそのように拡大された照射範囲に対し前記のように正対する大きさであるようなものとする必要があり、それに伴い、レーザ照射装置自体が大型化してしまう。
【0009】
但し、特許文献1に開示された自動繊維束配置装置のようにレーザの照射が繊維束における積層面側の面に向けて行われるかたちでレーザ照射装置が設けられる場合、積層面に近接するような位置に前記のような大型化したレーザ照射装置を設けることは好ましく無く、また、レーザ照射装置は前記のように照射部分が繊維束に対し正対して設けられる必要があるため、その場合には、レーザ照射装置は、繊維束の経路に沿った方向で、積層面からある程度離間した位置に設けられることとなる。そのため、繊維束におけるレーザを照射される部分がそのレーザの照射を受けて加熱されてから積層面に達するまでの時間が長くなり、そのことに起因して、積層面への繊維束の溶着が適正に行われない、という問題が生じる虞がある。
【0010】
以上のような従来の自動繊維束配置装置に鑑み、本発明は、前記のような自動繊維束配置装置において、前記のような配置ヘッドの移動速度を速めるという要求を満たしつつも、積層面への繊維束の溶着がより確実に行われるようになる構成を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、熱可塑性樹脂を含浸させた帯状の繊維束を配置ヘッドの移動により配置型上の積層面へ敷置すると共に、照射装置からのレーザの照射により繊維束を積層面に仮溶着して配置するように構成された自動繊維束配置装置を前提とする。
【0012】
その上で、本発明は、照射装置が、積層面に敷置された繊維束における積層面側の面とは反対側の面を照射するように設けられていることを特徴とする。
【0013】
また、そのような本発明による自動繊維束配置装置において、その自動繊維束配置装置を、繊維束を積層面に対し押圧する押圧ローラと、押圧ローラに対する繊維束の経路の上流側に設けられて押圧ローラに向けて繊維束の経路を転向させるガイドローラとを含むものとし、その上で、照射装置を、繊維束における押圧ローラとガイドローラとの間の部分を照射する位置に設けるようにしても良い。
【0014】
また、そのような本発明による自動繊維束配置装置において、配置ヘッドの移動速度と移動方向におけるレーザの照射範囲とで決まる照射時間が0.1秒以上、且つ、0.4秒以下となるように、移動速度及び/又は照射範囲を定めるようにしても良い。
【0015】
なお、前記で言う「照射時間」とは、前記のように配置ヘッドの移動速度と移動方向におけるレーザの照射範囲とで決まる時間であり、具体的には、配置ヘッドの移動方向におけるレーザの照射範囲を配置ヘッドの移動速度で除して求められる値(時間)である。そして、その照射時間は、繊維束の長手方向における同一箇所に対し、照射装置からのレーザが照射され続ける時間を表す。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、前述のような照射装置からのレーザの照射により繊維束を積層面に仮溶着して配置するように構成された自動繊維束配置装置において、その照射装置は、積層面に敷置された繊維束における積層面側とは反対側の面を照射するように設けられている。それにより、その構成では、繊維束を加熱(溶着)するための照射装置による前記照射が、繊維束における積層面上に敷置された部分に対し行われることとなる。そして、その構成においては、その積層面上に敷置されて溶着されるべき繊維束の部分が直接的に前記照射によって加熱されることとなり、その繊維束の部分が前記照射に続いて積層面上に溶着されることとなる。したがって、そのように構成された本発明によれば、従来の自動繊維束配置装置と比べ、積層面に対する繊維束の溶着がより確実に行われるようになる。
【0017】
また、本発明の自動繊維束配置装置において、配置ヘッドの移動速度と移動方向におけるレーザの照射範囲とで決まる照射時間が0.4秒以下となるように移動速度及び/又は照射範囲を定めることで、前記した配置ヘッドの移動速度を速めるという要求が、より好ましい範囲で実現されることとなる。詳しくは、自動繊維束配置装置において、繊維束の長手方向におけるレーザの照射範囲は、最大でも100mm程度であるのが一般的である。また、繊維束の配置時における配置ヘッドの移動速度は、その作業の効率化の面において、15m/min以上であるのが好ましい。そこで、前記照射時間が0.4秒以下となるように移動速度及び/又は照射範囲を定めることで、照射範囲が前記のような一般的な大きさの範囲内であれば、その移動速度を15m/min以上とする要求が満たされることとなる。
【0018】
その上で、前記照射時間が、0.1秒以上となるように移動速度及び/又は照射範囲を定めることで、熱伝導のための時間が確保されるようになると共に、その積層面に対する繊維束の溶着が適正に行われるようになる範囲が広くなる。それにより、自動繊維束配置装置による適正な繊維束の前記溶着が実現し易くなり、その自動繊維束配置装置の実用性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明が適用される自動繊維束配置装置を示す側面図である。
【
図2】自動繊維束配置装置の配置ヘッドを示す説明図である。
【
図5】
図4のグラフを基に縦軸と横軸とを入れ替えたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、
図1~3に基づき、本発明による自動繊維束配置装置の一実施形態(本実施例)を説明する。
【0021】
図1に示すように、自動繊維束配置装置1は、繊維束2を配置ヘッド6の移動により配置型上の積層面へ敷置するように構成されている。但し、その繊維束2は、マトリックス樹脂として加熱により軟化する熱可塑性樹脂を含浸させたものである。そして、自動繊維束配置装置1は、その繊維束2が巻き付けられたボビン3が仕掛けられた供給装置4と、その供給装置4から供給された繊維束2の配置型5上への敷置を行うための配置ヘッド6と、その配置ヘッド6を移動させるための多関節ロボット7とを備えている。
【0022】
なお、本実施例においては、自動繊維束配置装置1は、8本の繊維束2の敷置が同時に行えるように構成されている。したがって、供給装置4には、繊維束2が巻かれたボビン3が8個(図示は手前側の4個のみ)仕掛けられている。また、供給装置4は、各ボビン3から引き出された繊維束2を多関節ロボット7よりも高い位置で多関節ロボット7側へ向けて案内するガイド部9を備えている。そして、各ボビン3から引き出された繊維束2は、ボビン3とガイド部9との間に設けられたダンサロール8を経由し、ガイド部9に案内された上で多関節ロボット7側へ導かれている。
【0023】
また、多関節ロボット7における先端側のアーム7aには、前記のようにガイド部9で案内された各繊維束2を案内するためのガイド機構10が取り付けられている。また、配置ヘッド6は、そのアーム7aの先端に取り付けられている。そして、前記のようにガイド部9で案内された各繊維束2は、ガイド機構10によって案内され、配置ヘッド6に導入されている。
【0024】
図2は、配置ヘッド6の内部の構成、及びそれに付随する構成を概略的に示した図である。その
図2に示すように、配置ヘッド6の内部には、配置ヘッド6における上部側に設けられて前記のように配置ヘッド6に導入される繊維束2を案内する導入ローラ11、及び導入ローラ11に対する繊維束2の経路の下流側に設けられて繊維束2を配置型5上の積層面5a側へ向けて送り出す送出機構12とが備えられている。また、配置ヘッド6には、送出機構12から送り出された繊維束2を積層面5aに押圧する押圧ローラ18、及び押圧ローラ18に対する前記経路の送出機構12側(上流側)に設けられて押圧ローラ18へ向けて繊維束2を転向させるガイドローラ17が備えられている。さらに、前記経路の送出機構12とガイドローラ17との間には、繊維束2を切断する切断装置14が備えられている。
【0025】
それらの各構成要素について、導入ローラ11は、配置ヘッド6に導入される各繊維束2に1対1で対応させるかたちで設けられている(図示は手前側の1個のみ)。また、送出機構12も、各繊維束2に対応させるかたちで、前記経路毎に設けられている。また、各送出し機構12は、送り機構12aと、送り機構12aを回転駆動する駆動モータ12bとで構成されている。さらに、その各送り機構12aは、繊維束2をニップするように設けられた一対のローラ12c、12dで構成されている。そして、各送り機構12aは、一対のローラ12c、12dのうちの一方(図示の例ではローラ12c)が駆動モータ12bによって回転駆動されることで、他方が従動回転し、それによって繊維束2を配置型5上の積層面5a側へ向けて送り出すものとなっている。
【0026】
また、ガイドローラ17は、前記のように送出機構12で送られた繊維束2を案内するために設けられたローラ状の部材であり、配置ヘッド6のフレームに対し回転可能に設けられている。なお、そのガイドローラ17は、各繊維束2に共通の単一の部材となっている。そして、そのガイドローラ17は、送出機構12に対する前記下流側において、その軸線方向を配置ヘッド6の移動方向に対し直交させる向きで、繊維束2の敷置時にその周面を積層面5aに対し押接させることができるような位置に設けられている。その上で、繊維束がそのガイドローラ17の周面に巻き掛けられるかたちで案内されるようになっており、それにより、前記経路は、積層面5aに沿った向きに転向される。
【0027】
また、押圧ローラ18は、前記のようにガイドローラ17で転向された繊維束2を積層面5aに対し押圧するために設けられたローラ状の部材であり、所謂コンパクションローラである。なお、その押圧ローラ18も、ガイドローラ17と同様に、各繊維束2に共通の単一の部材となっている。そして、その押圧ローラ18は、配置型5へ向けた押圧力を発生させる押圧機構(図示略)を介し、配置ヘッド6のフレームに対し支持されている。その上で、押圧ローラ18は、その押圧機構(前記フレーム)に対し回転可能に設けられている。また、押圧ローラ18は、その軸線方向をガイドローラ17の軸線方向と一致させると共に、配置ヘッド6の進行方向の側とは反対の側にガイドローラ17に対し間隔をあけて設けられている。さらに、その押圧ローラ18も、繊維束2の敷置時にその周面を積層面5aに対し押接させることができるような位置に設けられており、その敷置時においては、積層面5aに対し繊維束2を介して押接されるようになっている。
【0028】
そして、配置ヘッド6が以上のような各構成要素を含むかたちで構成されていることにより、繊維束2は、その配置ヘッド6内において、対応する導入ローラ11及び送り機構12aを経由し、ガイドローラ17により転向されて押圧ローラ18に至る経路を辿り、敷置時においては、積層面5aに沿うかたちとされる。なお、本実施例では、ガイドローラ17も、押圧ローラ18と同様に、配置型5へ向けた押圧力を発生させる押圧機構(図示略)を介し配置ヘッド6のフレームに支持されている。したがって、繊維束2は、その敷置時においては、ガイドローラ17によっても積層面5aに対し押接されるようになっている。
【0029】
さらに、切断装置14は、繊維束2の経路毎に設けられた切断刃15と、切断刃15とでその経路を挟むように設けられた固定部材16と、切断刃15毎に設けられて切断刃15に繊維束2を切断するための切断動作を行わせる駆動機構(図示略)とを含んでいる。そして、切断装置14は、駆動機構による切断刃15の切断動作により、切断刃15と固定部材16との協働で繊維束2の切断を行うものとなっている。
【0030】
また、
図1に示すように、自動繊維束配置装置1は、主制御装置30を備えている。なお、その主制御装置30は、自動繊維束配置装置1に備えられた制御ボックス(図示略)に収容されるかたちで設けられている。そして、その自動繊維束配置装置1は、前記敷置を実行するための多関節ロボット7の動作及びその多関節ロボット7に取り付けられた配置ヘッド6における各部の動作がその主制御装置30によって制御されるように構成されている。したがって、前記した配置ヘッド6に備えられる送出機構12(送り機構12a)や切断装置14の動作も、その主制御装置30によって制御される。
【0031】
なお、その各部の動作の制御は、予め設定された動作プログラムに従って実行される。そこで、主制御装置30は、
図2に示すように、その動作プログラムを記憶する記憶器31を含むと共に、その記憶器31に接続されて多関節ロボット7の制御を実行する配置制御装置32、及び、各送出機構12における駆動モータ12bの駆動を制御するモータ制御装置33を含んでいる。そして、その動作プログラムの設定は、記憶器31に接続された入力設定装置29により行われる。
【0032】
また、その入力設定装置29により記憶器31に設定される動作プログラムは、繊維束2の各前記敷置の際の配置ヘッド6の移動速度を含んでいる。そして、配置制御装置32は、各前記敷置において、その設定された前記移動速度で配置ヘッド6の移動がおこなわれるよう、多関節ロボット7における各部の動作を制御するように構成されている。また、配置制御装置32は、その各前記敷置において、設定された前記移動速度に応じた速度信号をモータ制御装置33に対し出力するように構成されている。さらに、配置制御装置32は、前記移動速度で移動する配置ヘッド6がその敷置における終了位置に達した時点で停止信号をモータ制御装置33に対し出力するように構成されている。
【0033】
また、モータ制御装置33は、積層面5a側へ繊維束2が送り出される速度(以下、「送り速度」と言う。)が前記移動速度に応じた速度となるように、前記移動速度に基づいて送出機構12(駆動モータ12b)の駆動を制御するものである。そこで、モータ制御装置33は、前記速度信号の入力に伴い、前記速度信号が示す前記移動速度に基づき、その前記移動速度と一致する前記送り速度が実現されるようなローラ12c(駆動モータ12b)の回転速度を求め、その求めた回転速度に従って駆動モータ12bの駆動を制御するように構成されている。
【0034】
以上のように構成された自動繊維束配置装置において、本発明では、自動繊維束配置装置は、前記した構成に加え、繊維束2を加熱して積層面5aへの仮溶着を実現するための照射装置を備えている。そして、本発明では、その照射装置は、積層面5aに敷置された繊維束2における積層面5a側の面とは反対側の面を照射するように設けられている。その上で、本実施例では、その照射装置は、繊維束2の経路における押圧ローラ18とガイドローラ17との間の部分を照射するように設けられている。そのような自動繊維束配置装置の一実施例(本実施例)を
図2及び
図3に基づき、以下で詳細に説明する。
【0035】
照射装置19は、供給される電力に応じてレーザダイオードが発振する赤外線レーザ光を照射対象に対し照射する所謂レーザ照射装置である。そして、照射装置19は、
図2に示すように、前記敷置において配置ヘッド6が進行する方向(配置ヘッド6の移動方向)と平行な方向(以下、「前後方向」と言う。)に関し押圧ローラ18とガイドローラ17との間に位置すると共に、前記敷置時において積層面5aと対向するような配置で、配置ヘッド6内に設けられている。
【0036】
但し、前記敷置時において押圧ローラ18とガイドローラ17とに亘る繊維束2の厚さ方向(上下方向)に関する照射装置19の配置は、押圧ローラ18及びガイドローラ17の周面における前記上下方向の最も下側となる位置に対し上側となっている。したがって、その照射装置19の配置は、前記敷置時において押圧ローラ18とガイドローラ17とに亘る繊維束2に対し、その積層面5a側とは反対側となっている。すなわち、その照射装置19は、前記敷置時において繊維束2における積層面5a側の面とは反対側の面に対し赤外線レーザ光を照射するように設けられている。
【0037】
また、本実施例では、その照射装置19は、
図3に示すように、各繊維束2に1対1で対応させるかたちで、ガイドローラ17の軸線方向(幅方向)に並べて設けられている。さらに、各照射装置19は、赤外線レーザ光の焦点を照射対象の表面に合わせるための光学部19dを備えている。
【0038】
その光学部19dは、光学レンズであり、赤外線レーザ光を対象物に対し照射する面である照射面19eが矩形状を成すように構成されている。その上で、各照射装置19は、その光学部19dにおける照射面19eを前記敷置時における繊維束2に正対させると共に、矩形状を成す照射面19eの長辺の方向を前記前後方向と一致させる向きで設けられている。
【0039】
なお、赤外線レーザ光は指向性が高い光である。また、光学部19dは、対象物(前記敷置時における繊維束2)に対する照射範囲が照射面19eと同じ範囲となるように構成されている。そして、前記のように各照射装置19が前記前後方向に関し押圧ローラ18とガイドローラ17との間に設けられていることから、各照射装置19(光学部19dにおける照射面19e)による前記前後方向における照射範囲L(以下、「前後方向照射範囲L」と言う。)も、その押圧ローラ18とガイドローラ17との間の部分となっている。
【0040】
また、各照射装置19は、前記のように前記幅方向に並べて設けられるものであるが、その前記幅方向における大きさは、繊維束2の幅よりも若干小さい大きさとなっている。その上で、各照射装置19(光学部19d)による前記幅方向における照射範囲B(以下、「幅方向照射範囲B」と言う。)は、本実施例では、繊維束2の幅の約30%の範囲となっている。
【0041】
また、照射装置19は、前記した主制御装置30に接続されており、主制御装置30によりその照射が制御されるものとなっている。そこで、主制御装置30は、その照射装置19による照射を実行するための照射制御装置34を備えている(
図2)。
【0042】
その照射制御装置34は、その入力端側において前記した配置制御装置32及び記憶器39と接続されている。また、照射制御装置34は、その出力端側において各照射装置19と接続されている。なお、配置制御装置32は、前記のようにモータ制御装置33に対し出力する前記速度信号及び前記停止信号を、照射制御装置34に対しても出力するように構成されている。そして、照射制御装置34は、前記速度信号の入力に伴い、その前記速度信号が示す前記移動速度及び前後方向照射範囲Lに基づき、繊維束2の長手方向における同一箇所に対し赤外線レーザ光の照射が継続される時間(以下、「照射時間」と言う。)を算出するように構成されている。具体的には、その照射時間は、前後方向照射範囲Lを前記移動速度で除して求められる。
【0043】
また、前記した記憶器31には、想定される複数の照射時間に応じて、その照射時間に亘る照射で積層面5aへの繊維束2の適正な溶着が行われることを踏まえて定められた赤外線レーザ光の出力に関する値が記憶されている。そして、本実施例では、その出力に関する値は、単位面積あたりの赤外線レーザ光の出力値(以下、「光密度」と言う。)となっている。具体的には、その光密度は、赤外線レーザ光の出力を照射範囲の面積(L×B)で除して求められる値である。そして、各光密度の記憶器31への入力は、入力設定装置29により行われる。
【0044】
その上で、照射制御装置34は、前記のように照射時間を算出するのに伴い、その算出した照射時間に応じた光密度を、記憶器31に記憶されている光密度の中から選択するように構成されている。さらに、照射制御装置34は、その選択した光密度となる赤外線レーザ光の出力値を算出するように構成されている。そして、照射制御装置34は、その算出した出力値となる赤外線レーザ光の照射が実現されるように、各照射装置19を制御するように構成されている。
【0045】
以上で説明した照射装置19を備えた本実施例における自動繊維束配置装置1について、その作用は以下の通りである。
【0046】
前記敷置の実行は、多関節ロボット7における各部の動作が、配置制御装置32により、前記した動作プログラムに従って制御されることで行われる。そして、1回の前記配置を開始するにあたっては、先ずは、配置ヘッド6が前記敷置の開始位置まで移動され、その開始位置において、その配置ヘッド6における押圧ローラ18が各繊維束2の先端を配置型5上に押圧した状態とされる。その上で、動作プログラムにおいてその前記敷置に対し設定された前記移動速度に基づき、前記のように押圧ローラ18で各繊維束2を押圧した状態で、配置ヘッド6の移動が行われる。また、その移動に伴い、各送出機構12における駆動モータ12bがモータ制御装置33により制御されるかたちで駆動され、各送出機構12が配置ヘッド6の前記移動速度と一致する送り速度での押圧ローラ18へ向けた繊維束2の送り出しを行う。それらにより、配置型5上での各繊維束2の前記敷置が実行される。
【0047】
また、その前記敷置のための移動の開始時に、配置制御装置32から、その前記敷置の前記移動速度に応じた速度信号が、照射制御装置34に対し出力される。そして、その速度信号が照射制御装置34に入力されると、照射制御装置34は、各照射装置19を制御し、各照射装置19による対応する繊維束2に対する赤外線レーザ光の照射が開始される。それにより、各繊維束2の前記配置が、対応する照射装置19による赤外線レーザ光の照射を伴って行われることとなる。
【0048】
なお、その前記配置時における赤外線レーザ光の照射は、積層面5aへの繊維束2の適正な仮溶着が実現されるような出力で行われる。詳しくは、前記のように速度信号が照射制御装置34に入力されると、照射制御装置34は、その速度信号が示す前記移動速度及び前後方向照射範囲Lに基づき、照射時間を算出する。その上で、照射制御装置34は、その算出した照射時間に応じた光密度を記憶器31に記憶されている光密度の中から選択する。さらに、照射制御装置34は、その選択した光密度となる赤外線レーザ光の出力値を算出する。そして、照射制御装置34は、その算出した出力値となる赤外線レーザ光の照射が実現されるように、各照射装置19を制御する。それにより、その前記配置時における赤外線レーザ光の照射が、積層面5aへの繊維束2の適正な仮溶着が実現されるような出力で行われることとなる。
【0049】
そして、各照射装置19が配置ヘッド6内において前述のように設けられていることから、各照射装置19による前記照射は、対応する繊維束2の積層面5a上に敷置された部分に対しその積層面5a側の面とは反対側の面へ向けて行われる。
したがって、その構成によれば、積層面5a上に敷置された状態となっていて積層面5aに対し溶着されるべき各繊維束2の部分が、前記照射によって直接的に加熱されることとなる。その上で、その敷置状態で加熱された各繊維束2の前記部分が、配置ヘッド6の進行方向における照射装置19の後方に位置する押圧ローラ18により、その加熱に続いて直ぐに積層面5aに対し押圧される。それにより、各繊維束2が、積層面5aに対し仮溶着された状態となる。
【0050】
そして、配置ヘッド6がその敷置における終了位置に達すると、配置制御装置32の制御により、多関節ロボット7による配置ヘッド6の移動が停止されると共に、停止信号がモータ制御装置33及び照射制御装置34に対し出力される。それにより、各送出機構12が押圧ローラ18へ向けた繊維束2の送り出しを停止すると共に、各照射装置19が前記照射を停止して、積層面5aに対する各繊維束2の1回の配置が終了する。その後、配置ヘッド6が、多関節ロボット7により押圧ローラ18と積層面5aとが離間した状態となる上下方向の位置まで移動され、次回の前記配置を開始するための敷置の開始位置まで移動される。
【0051】
このように、以上で説明した本発明に基づく自動繊維束配置装置1においては、各照射装置19が、配置ヘッド6内において積層面5aに敷置された対応する繊維束2における積層面5a側とは反対側の面を照射するように設けられている。その結果として、その自動繊維束配置装置1においては、積層面5a上に敷置された状態となっていて積層面5aに対し溶着されるべき繊維束2の部分が前記照射によって直接的に加熱され、その部分がその加熱に続いて直ぐに押圧ローラ18で押圧されて積層面5aに対し仮溶着されるので、従来の自動繊維束配置装置と比べ、積層面5aに対する各繊維束2の仮溶着がより確実に行われるようになる。
【0052】
ところで、本発明による自動繊維束配置装置1においては、装置の実用性を高めるべく、算出される照射時間が0.1秒以上となるように前記移動速度が定められるのが好ましい。詳しくは、以下の通り。
【0053】
自動繊維束配置装置1による積層面5aに対する繊維束2の仮溶着において、赤外線レーザ光の出力やその照射時間が、仮溶着の状態や繊維束2の状態に影響を及ぼすと予想される。そこで、前記仮溶着において、赤外線レーザ光の出力及び照射時間を変化させるかたちで、試験(仮溶着試験)を行うこととした。
【0054】
なお、その仮溶着試験では、マトリックス樹脂としてPAEK樹脂を含浸させた繊維束2を用いた。そのPAEK樹脂は、所謂スーパーエンジニアリングプラスチックであり、熱可塑性樹脂の中でも融点が比較的高い樹脂の一つとして知られている樹脂である。そのため、そのPAEK樹脂を含浸された繊維束2は、前記した融点が高いことに起因して、積層面5aへの配置においてその仮溶着の難易度が高いものとなっている。また、その仮溶着試験は、厚さ0.2mmの繊維束2を用いて行った。そして、その仮溶着試験では、配置型5の上面にマトリックス樹脂と同じPAEK樹脂製のフィルムを予め配置し、そのフィルムの上面を積層面5aとした。
【0055】
また、その仮溶着試験は、光学部19dの前記前後方向における長さLが84mmである照射装置19を用いて行った。その上で、前述のように照射時間は前後方向照射範囲Lを前記移動速度で除して求められることから、その仮溶着試験においては、前記移動速度を複数の速度に変化させ、それによって得られる複数の照射時間のそれぞれにおいて、赤外線レーザ光の出力を変化させ、その各出力での仮溶着の状態及び繊維束2の状態を確認することとした。
【0056】
具体的には、仮溶着の状態については、各照射時間において、前記出力を変化させ、どの程度以上の前記出力であれば所望の仮溶着状態となるかを確認し、所望の仮溶着状態が得られる前記出力の下限値(境界)を求めた。また、繊維束2の状態については、前記出力が高すぎると繊維束2の表面に焦げ等が発生して製品として許容できない状態となることから、各照射時間において、前記出力を変化させつつ繊維束2の表面状態を確認し、前記表面状態が許容できる範囲である前記出力の上限値を求めた。
【0057】
図4は、その仮溶着試験の結果を示すグラフである。但し、そのグラフにおいて、横軸は、照射時間であるが、縦軸は、赤外線レーザ光の出力そのものでは無く、光密度をパラメータとして採用している。その光密度は、前記したように、赤外線レーザ光の出力を照射範囲の面積(L×B)で除して求められる。なお、その縦軸を光密度とすることについて、レーザ照射装置における照射範囲の面積が変化すると、同じ出力の赤外線レーザ光の照射による仮溶着の状態や繊維束2の状態への影響が変化する。それに対し、赤外線レーザ光の出力を照射範囲の面積で除して求められる光密度であれば、照射範囲の面積が変化しても、その光密度と仮溶着の状態や繊維束の状態への影響との関係は変化することは無い。そこで、
図4では、照射範囲の面積(例えば、実施例の光学部19dにおける前記幅方向の照射範囲)が異なるレーザ照射装置でそのグラフの示す結果を同様に取り扱うことができるように、そのグラフの縦軸のパラメータを光密度とした。
【0058】
その上で、
図4のA1は、各照射時間での所望の仮溶着状態が得られる光密度の下限値を結んだグラフである。したがって、そのグラフA1に対する下側は、積層面5aに対する繊維束2の仮溶着が適正に行われない光密度の範囲である。また、
図4のA2は、許容できる繊維束2の表面状態が得られる光密度の上限値を結んだグラフである。したがって、そのグラフA2に対する上側は、繊維束2の表面状態が製品として許容できない状態(例えば、焦げが生じた状態)となる光密度の範囲である。
【0059】
そして、
図4のグラフA1とグラフA2との間の範囲は、製品として許容できる繊維束2の表面状態及び所望の仮溶着状態が得られ積層面5aに対する繊維束2の仮溶着が適正に行われる範囲である。なお、前述のように、各前記敷置における配置ヘッド6の移動速度は、予め設定される動作プログラムに含まれており、また、前後方向照射範囲Lは機械的に決まっていることから、各前記敷置における照射時間は、予め求められる時間となっている。そこで、各前記敷置においては、その予め求められる照射時間に対し、
図4のグラフA1とグラフA2との間の範囲となる光密度の値が設定されるようにすれば良い。
【0060】
その上で、その
図4のグラフを基に、縦軸と横軸とを入れ替えたのが
図5のグラフである。すなわち、
図5のグラフでは、横軸が光密度となり、縦軸が照射時間となっている。また、その
図5において、C1は、
図4におけるグラフA1の縦軸と横軸とを入れ替えたグラフであり、C2は、
図4におけるグラフA2の縦軸と横軸とを入れ替えたグラフである。そして、その
図5のグラフC1とC2との間の範囲が、製品として許容できる繊維束2の表面状態でありつつも所望の仮溶着状態が得られる、仮溶着が適正に行われる範囲となる。
【0061】
なお、繊維束2の前記敷置の作業効率を向上させる上では、その前記敷置の速度、すなわち、前記移動速度を速めることが求められる。そして、その前記移動速度を速めると、前後方向照射範囲Lをその前記移動速度で除して求められる照射時間は短くなる。さらに、そのように照射時間を短くすると、
図4、5のグラフから理解されるように、前記した適正な範囲で仮溶着が行われるようにするには、光密度の値を高くする必要がある。そして、
図5のグラフから読み取れるように、光密度の値が大きいと、その光密度(赤外線レーザ光の出力)で仮溶着を適正に行える照射時間の幅は小さくなる。
【0062】
また、前記移動速度は、前記のようにより速い方が好ましく、15m/min以上であることが求められる。そこで、前記移動速度が、例えば42m/minに設定されているものとする。その場合、前述した自動繊維束配置装置1では、その移動速度と前後方向照射範囲L(84mm)とで求められる照射時間は、0.12秒となる。そして、照射時間がそのような値の場合においては、
図4のグラフから読み取れるように、適正な仮溶着が行える光密度の範囲は、145~173W/cm2となる。
【0063】
そこで、そのときの仮溶着を行うための光密度を、例えば、その範囲の中央値である159W/cm2に設定されるものとする。すなわち、前記移動速度の設定値が42m/min(照射時間が0.12秒)で、照射される赤外線レーザ光の光密度が159W/cm2の場合について考える。なお、
図4のグラフにおいて、点線で示すのは、グラフA1とグラフA2との間の各範囲における光密度の中央値を結んだグラフA3である。
【0064】
ところで、配置ヘッド6は、多関節ロボット7の各部分が駆動されることで、その各部分の動作の複合により、動作プログラムに含まれる前記移動速度や方向で移動される。そのため、各前記配置においては、動作プログラムにおいて設定されている前記移動速度と前記配置中の各時点での実際の前記移動速度との間に誤差が生じている場合がある。そして、その誤差は、設定された前記移動速度が速いほど、大きくなる可能性がある。
【0065】
そのため、設定されている前記移動速度が前記のような42m/minの場合には、実際の移動速度は、±3m/minの範囲で前記誤差が生じた速度となる。具体的には、実際の移動速度は、39m/min~45m/minの範囲で変化することとなる。その場合、照射時間は、0.11秒~0.13秒の間で変化することとなる。すなわち、照射時間は、±0.01秒の範囲(0.02秒幅)で変化することとなる。
【0066】
その場合において、光密度が前記のように159W/cm2に設定される場合においては、
図5のグラフから読み取れるように、仮溶着が適正に行える照射時間の範囲は0.11秒から0.14秒であって、その幅は0.03秒である。したがって、設定される前記移動速度が42m/minの場合では、前記のように実際の照射時間に前記誤差が生じても、適正な範囲で仮溶着が行われることとなる。
【0067】
このように、機械的に定まっている前後方向照射範囲Lに基づき、設定される前記移動速度(そこから求められる照射時間)に対し、赤外線レーザ光の出力(光密度)が定められ、その場合において適正な仮溶着が行えるかどうかを判断することができる。なお、前記の場合において、設定される前記移動速度が42m/minよりも大きくされた(設定上の照射時間が短くなった)場合には、選択される赤外線レーザ光の出力(光密度)がより大きくなり、仮溶着が適正に行える照射時間の範囲(照射時間の幅)がより狭くなる。
【0068】
その上で、本出願の発明者らによる鋭意研究の結果として、機械的に決まっている前後方向照射範囲Lを基に、設定される前記移動速度から求まる照射時間が0.1秒以上となる場合であれば、それに対し定められる赤外線レーザ光の出力(光密度)において、前記のように実際の移動速度(照射時間)に誤差が生じることを踏まえても、より確実に適正な範囲で仮溶着が実現されることが見いだされた。
【0069】
言い換えれば、照射時間が0.1秒よりも小さくなるような前記移動速度とする場合には、適正な範囲での仮溶着の実現の確度が低くなるため、前記移動速度の設定が難しくなったり、あるいは、自動繊維束配置装置自体をより高精度な制御を行えるものとしなければならなくなったりして、装置に実用性や実現性の面で問題が生じてしまう。したがって、照射時間が0.1秒以上となるように前記移動速度が定められるのが好ましい。
【0070】
また、本発明による自動繊維束配置装置1においては、配置ヘッド6の前記移動速度を速めるという要求がより好ましい範囲で実現されるべく、前記移動速度で決まる照射時間が0.4秒以下となるように前記移動速度が定められているのが好ましい。詳しくは、以下の通り。
【0071】
自動繊維束配置装置においては、前述のように設定される前記移動速度は15m/min以上であることが好ましく、前記移動速度が15m/minである場合、前後方向照射範囲Lが84mmである本実施例の場合、照射時間は約0.34秒となる。
【0072】
但し、一般的な自動繊維束配置装置においては、最も大きいもので、前後方向照射範囲Lが100mm程度であるように照射装置が構成されたものも存在する。なお、前記移動速度が同じ場合、前後方向照射範囲Lが大きいほど照射時間は大きくなる。また、前記移動速度が速いほど照射時間は小さくなる。そこで、前後方向照射範囲Lを最大値の100mmとし、前記移動速度を最小値の15m/minとした場合について考えると、算出される照射時間は0.4秒となる。したがって、照射時間が0.4秒以下となるように前記移動速度を定めることで、前後方向照射範囲Lが前記のような一般的な大きさの範囲であれば、前記移動速度についての前記要求をみたしつつ、適正な仮溶着を実現することが可能になる。
【0073】
以上では、本発明による自動繊維束配置装置の一実施形態について説明したが、本発明は前記実施例において説明したものに限定されるものではなく、以下のような別の実施形態(変形例)での実施も可能である。
【0074】
(1)照射時間の下限について、前記実施例では、マトリックス樹脂としてPAEK樹脂を含浸させた繊維束2が用いられる場合において、前記移動速度と前後方向照射範囲Lとから算出される照射時間が 0.1秒以上となるように、その自動繊維束配置装置1での前記移動速度が定められている。しかし、繊維束におけるマトリックス樹脂によっては、照射時間が0.1秒よりも短い時間となるように、前記前後方向における照射範囲との関係で前記移動速度が定められるようにしても良い。
【0075】
具体的には、マトリックス樹脂としてPAEK樹脂よりも融点の低い樹脂(例えば、PA6樹脂)を含浸させた繊維束が用いられる場合、PAEK樹脂を含浸させた繊維束が用いられる場合と比べ、同じ光密度(赤外線レーザ光の出力)でも、所望の仮溶着状態が得られる照射時間が短くなる。したがって、そのような場合には、算出される照射時間が0.1秒よりも短くなるように、その自動繊維束配置装置において前記移動速度が定められるようにしても良い。
【0076】
また、照射時間の上限について、前記実施例では、照射時間が 0.4秒以下となるように、その自動繊維束配置装置1での前記移動速度が定められている。しかし、本発明の自動繊維束配置装置は、照射時間が0.4秒以下となるように設定されるのには限らない。例えば、繊維束2の前記敷置の作業に対しそれほど高い効率が必要とされない場合には、設定される前記移動速度が前記した15m/min以上でなくても良いこととなる。そして、その場合には、前記前後方向における照射範囲が前記のような一般的な大きさの範囲において、照射時間は0.4秒よりも長くなる。このように、前記敷置の作業効率等の関係によっては、照射時間が0.4秒よりも長くなるように自動繊維束配置装置が設定されていても良い。
【0077】
(2)前後方向照射範囲Lについて、前記実施例では、照射装置19は、前記前後方向における光学部19d(照射面19e)の範囲が前後方向照射範囲Lとなる構成とされている。すなわち、前記実施例の照射装置19は、前後方向照射範囲Lが固定された構成のものとなっている。しかし、本発明における照射装置は、前後方向照射範囲Lが固定された構成のものに限らず、前後方向照射範囲Lを変更できるように構成されたものであっても良い。
【0078】
前後方向照射範囲Lを変更できるように構成することについて、具体的には、照射装置を、その光学部が着脱可能であって、且つ、前記前後方向における長さ寸法が異なる光学部を取り付けることができるように構成する。その上で、その取り付けられる光学部を、前記前後方向における長さ寸法が異なるものに変更して、前後方向照射範囲Lを変更するようにしても良い。
【0079】
また、照射装置を、光学部と積層面5aとの間にレンズが備えられるように構成した上で、そのレンズと積層面5aとの間の距離が変更できるように設けられた構成とすることで、前後方向照射範囲Lを変更できるようにしても良い。
【0080】
より詳しくは、赤外線レーザ光を屈折させるレンズが光学部と積層面5aとの間に備えられた構成とした場合、光学部から照射された赤外線レーザ光はそのレンズによって屈折されるため、前後方向照射範囲Lは、そのレンズと積層面5aとの間の距離に応じた大きさとなる。そこで、照射装置を前記距離が変更できるように設けられた構成とした上で、前記距離を変更して前後方向照射範囲Lを変更するようにしても良い。なお、前記距離を変更するための構成としては、前記レンズのみが上下方向に位置を変更できるようにしても良いし、照射装置全体が上下方向に位置を変更できるように設けられるものとしても良い。
【0081】
なお、前記実施例では、所望の照射時間を実現する上で、前記移動速度をその照射時間に応じた速度に設定するようにしている。しかし、自動繊維束配置装置(照射装置)が前述のように前後方向照射範囲Lを変更可能に構成されている場合には、前記移動速度を固定し、前後方向照射範囲Lを変更することで所望の照射時間が実現されるようにしても良い。あるいは、前記移動速度及び前後方向照射範囲Lの両方を変更することで所望の照射時間が実現されるようにしても良い。このように、本発明の自動繊維束配置装置においては、前記移動速度及び/又は前後方向照射範囲Lを適宜に定めることで、所望の照射時間が得られる。
【0082】
また、幅方向照射範囲Bについて、前記実施例では、照射装置19は、照射する繊維束の幅に対する幅方向照射範囲Bの割合が約30%となるように構成されている。しかし、本発明においては、幅方向照射範囲Bは、何ら限定されるものでは無い。したがって、照射装置は、幅方向照射範囲Bの前記割合が前記の30%に対し小さく、あるいは、繊維束の幅までの範囲において大きくなるように構成されても良い。
【0083】
(3)繊維束を積層面に対し押圧する構成、及びそれに関する構成について、前記実施例では、配置ヘッド6は、繊維束を積層面5aに対し押圧する構成として押圧ローラ18を備えている。また、配置ヘッド18は、押圧ローラに対する繊維束の経路の上流側に設けられて繊維束の経路を押圧ローラ18へ向けて転向させるガイドローラ17を含んでいる。その上で、前記実施例では、そのガイドローラ17が、押圧ローラ18と同様に、繊維束を積層面5aに対し押圧するように設けられている。しかし、ガイドローラは、繊維束を積層面に対し押圧するようには設けられず、経路を押圧ローラに向けて転向させるためにのみ設けられていても良い。
【0084】
また、繊維束を積層面に対し押圧する構成は、前記実施例の押圧ローラのような回転するローラ状の部材に限らず、回転せずに繊維束と摺接するように設けられた所謂押圧シューであっても良い。また、本発明においては、繊維束を積層面に対し押圧する部材へ向けて繊維束の経路を転向させるガイドローラを備えるように配置ヘッドが構成されているのには限られない。例えば、繊維束を積層面に対し押圧する構成を、前記前後方向における前後方向照射範囲Lを含む範囲に亘って存在するようなガラス板とし、そのガラス板によって繊維束を積層面に対し押圧するように配置ヘッドを構成しても良い。その上で、照射装置による照射が、ガラス板を透過させて繊維束に向けられるかたちで行われるようにすれば良い。なお、その構成の場合には、繊維束は、その押圧するための部材としてのガラス板における前記前後方向における一端部で、積層面と平行な方向を向くように転向されることとなる。
【0085】
(4)前記実施例は、本発明を、8本の繊維束の敷置が同時に行えるように構成された自動繊維束配置装置に適用した例となっている。しかし、本発明が適用される自動繊維束配置装置は、そのように構成されたものに限らず、8本よりも多い、あるいは、8本よりも少ない本数の繊維束を同時に敷置するように構成されたものであっても良い。また、本発明による自動繊維束配置装置が適用される装置は、複数本の繊維束を同時に敷置するように構成されたものに限らず、1本の繊維束を敷置するように構成されたものであっても良い。さらに、本発明が適用される自動繊維束配置装置は、比較的幅の狭い繊維束を積層面に配置する所謂AFP(Automated Fiber Placement)装置に限らず、例えば、比較的幅の広いテープ状の繊維束を積層面に配置する所謂ATL(Automated Tape Layup)装置であっても良い。
【0086】
また、本発明は、以上で説明したいずれの実施形態にも限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜に変更可能である。
【0087】
1 自動繊維束配置装置
2 繊維束
3 ボビン
4 供給装置
5 配置型
5a 積層面
6 配置ヘッド
7 多関節ロボット
7a アーム
8 ダンサロール
9 ガイド部
10 ガイド機構
11 導入ローラ
12 送出機構
12a 送り機構
12b 駆動モータ
12c ローラ
12d ローラ
14 切断装置
15 切断刃
16 固定部材
17 ガイドローラ
18 押圧ローラ
19 照射装置
19d 光学部
19e 照射面
29 入力設定装置
30 主制御装置
31 記憶器
32 配置制御装置
33 モータ制御装置
34 照射制御装置
L 前後方向の照射範囲
B 幅方向の照射範囲
A1 所望の仮溶着状態が得られる光密度の下限値を結んだグラフ
A2 許容できる繊維束2の表面状態が得られる光密度の上限値を結んだグラフ
A3 A1とA2との間の各範囲における光密度の中央値を結んだグラフ
C1 グラフA1の縦軸と横軸とを入れ替えたグラフ
C2 グラフA2の縦軸と横軸とを入れ替えたグラフ
C3 C1とC2との間の各範囲における照射時間の中央値を結んだグラフ