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特開2023-102992被切削部材、立坑壁、及び立坑壁の施工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023102992
(43)【公開日】2023-07-26
(54)【発明の名称】被切削部材、立坑壁、及び立坑壁の施工方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 5/11 20060101AFI20230719BHJP
   E21D 9/06 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
E21D5/11
E21D9/06 301E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003789
(22)【出願日】2022-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000207780
【氏名又は名称】大豊建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼見 昂亮
(72)【発明者】
【氏名】坂本 博明
(72)【発明者】
【氏名】内田 哲男
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 元治
(72)【発明者】
【氏名】大久保 健治
【テーマコード(参考)】
2D054
【Fターム(参考)】
2D054AC04
2D054AC05
2D054EA07
(57)【要約】
【課題】施工性を向上できる被切削部材、立坑壁、及び立坑壁の施工方法を提供する。
【解決手段】被切削部材20は、鉄筋コンクリート製の立坑壁100の一部に掘削可能領域を形成する。被切削部材20は、樹脂製の外壁22と、樹脂製の内壁23と、樹脂製の接続材24と、を備えている。外壁22は、立坑壁100の外面100aの一部を構成する。内壁23は、立坑壁100の内面100bの一部を構成する。接続材24は、外壁22と内壁23との間に配置され、外壁22と内壁23とを接続する。外壁22と内壁23との間には、立坑壁100のコンクリートが充填可能であり、外壁22の周縁部22bと内壁23の周縁部23bとの間には立坑壁本体10の鉄筋13が配置可能である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート製の立坑壁の一部に掘削可能領域を形成するための被切削部材であって、
前記立坑壁の外面の一部を構成する樹脂製の外壁と、
前記立坑壁の内面の一部を構成する樹脂製の内壁と、
前記外壁と前記内壁との間に配置され、前記外壁と前記内壁とを接続する樹脂製の接続材と、を備え、
前記外壁と前記内壁との間には、前記立坑壁のコンクリートが充填可能であり、
前記外壁の周縁部と前記内壁の周縁部との間には、前記立坑壁の鉄筋が配置可能であることを特徴とする被切削部材。
【請求項2】
前記外壁の前記周縁部と前記内壁の前記周縁部との間は、全周にわたって開口されていることを特徴とする請求項1に記載の被切削部材。
【請求項3】
前記外壁及び前記内壁の少なくとも一方は、繊維強化プラスチックであり、
前記繊維強化プラスチックに複合された繊維の少なくとも一部の配向方向は、前記立坑壁の周方向であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の被切削部材。
【請求項4】
前記接続材は、前記内壁及び前記外壁を貫通せずに取り付けられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の被切削部材。
【請求項5】
前記接続材は、前記掘削可能領域の掘削周縁部寄りに配置されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の被切削部材。
【請求項6】
前記外壁と前記内壁との間に充填されたコンクリートは、前記立坑壁のうち前記被切削部材を除いた立坑壁本体に充填されたコンクリートより薄いことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の被切削部材。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の被切削部材により掘削可能領域が形成されていることを特徴とする立坑壁。
【請求項8】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の被切削部材とともに前記立坑壁の鉄筋、型枠を設置する第1工程と、
前記型枠の内部及び前記外壁と前記内壁との間にコンクリートを打設する第2工程と、
前記型枠を取り外す第3工程と、を含み、
前記第1工程では、前記被切削部材に前記型枠を設置しないことを特徴とする立坑壁の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被切削部材、立坑壁、及び立坑壁の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、トンネル等を形成するのに、シールド掘削機を使用するシールド工法が用いられている。このシールド工法は、まず出発点となる場所に発進立坑を形成して、地上からトンネルを形成する深さまで垂直に掘る。そして、そこにシールド掘削機を降ろし、シールド掘削機を用いて水平にトンネルを掘り進んでいく。また、トンネルの終点や所定の中間地点に、発進立坑と同様な到達立坑を設けて、その立坑にシールド掘削機を到達させて行われる。
【0003】
発進立坑等の立坑には、地下水の噴出や地盤の崩れ等が発生しないように立坑壁(地中壁)が形成されている。この立坑壁として、コンクリートを鉄筋で補強した鉄筋コンクリート等で形成したものを用いる場合がある。そして、シールド掘削機が通過する領域である掘削可能領域には、鉄筋等を用いて補強することができないので、かかる領域に高強度であって掘削可能な繊維強化樹脂等を用いて掘削可能領域が補強される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-154475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の立坑壁は壁全体が鉄筋コンクリートで形成されている。このため掘削可能領域においてもコンクリートの内部に繊維強化樹脂等が埋め込まれている。ここで、立坑壁の壁全体がコンクリートの場合、掘削可能領域の掘削作業を容易にするために、一般的に掘削可能領域の厚みを薄く形成している。この場合、立坑壁を形成する際に、掘削可能領域を含まない他の領域(すなわち、立坑壁本体)を形成する本体用型枠と、掘削可能領域を形成する掘削領域用型枠との2種類の型枠を用意する必要がある。このため、立坑壁を形成する作業が煩雑になり、施工性の向上を妨げる要因になる。
【0006】
また、立坑壁の掘削可能領域に繊維強化樹脂などを用いて補強する場合、例えば、掘削可能領域の掘削中に掘削可能領域を形成する被切削部材と鉄筋が埋め込まれた領域(すなわち、立坑壁本体)との境界においてずれることが考えられる。このため、例えば、繊維強化樹脂などの形状を工夫して被切削部材のずれを防止する必要があり、そのことが被切削部材の形状を複雑にして施工性の向上を妨げる要因になる。
【0007】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、施工性を向上できる被切削部材、立坑壁、及び立坑壁の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
「1」本発明に係る被切削部材は、鉄筋コンクリート製の立坑壁の一部に掘削可能領域を形成するための被切削部材であって、前記立坑壁の外面の一部を構成する樹脂製の外壁と、前記立坑壁の内面の一部を構成する樹脂製の内壁と、前記外壁と前記内壁との間に配置され、前記外壁と前記内壁とを接続する樹脂製の接続材と、を備え、前記外壁と前記内壁との間には、前記立坑壁のコンクリートが充填可能であり、前記外壁の周縁部と前記内壁の周縁部との間には、前記立坑壁の鉄筋が配置可能である。
【0009】
上述の被切削部材であれば、樹脂製の外壁と樹脂製の内壁との間に樹脂製の接続材を配置して、外壁と内壁とを接続材により接続した。さらに、外壁と内壁との間にコンクリートを充填することにより立坑壁の一部に掘削可能領域を形成した。よって、掘削可能領域を形成する外壁と内壁とを型枠として兼ねることができる。これにより、掘削可能領域を形成するために必要とされていた掘削領域用型枠を不要にできる。したがって、立坑壁を形成する作業を簡単にでき、施工性を向上させることができる。
【0010】
さらに、外壁の周縁部と内壁の周縁部との間に立坑壁の鉄筋を配置した。具体的には、立坑壁において、鉄筋が埋め込まれた立坑壁本体から掘削可能領域を備えた被切削部材に鉄筋を延ばした。よって、立坑壁本体から被切削部材に延ばした鉄筋で立坑壁本体と被切削部材との境界を補強できる。すなわち、外壁の周縁部と内壁の周縁部との間に立坑壁の鉄筋を配置するだけの簡単な構成で立坑壁本体と被切削部材との境界において強度を確保できる。これにより、立坑壁を形成する作業を簡単にでき、施工性を向上させることができる。
加えて、立坑壁本体と被切削部材との境界において強度を確保することにより、例えば、掘削可能領域の掘削中に、立坑壁本体と被切削部材との境界において被切削部材が立坑壁本体からずれることを防止できる。
【0011】
「2」本形態において、前記外壁の前記周縁部と前記内壁の前記周縁部との間は、全周にわたって開口されていてもよい。
【0012】
この場合には、外壁の周縁部と内壁の周縁部との間を全周にわたって開口させた。よって、外壁の周縁部と内壁の周縁部との間の全周にわたって立坑壁の鉄筋を簡単に配置できる。これにより、被切削部材と立坑壁本体との境界の全周にわたって強度を確保できる。
【0013】
「3」本形態において、前記外壁及び前記内壁の少なくとも一方は、繊維強化プラスチックであり、前記繊維強化プラスチックに複合された繊維の少なくとも一部の配向方向は、前記立坑壁の周方向であってもよい。
【0014】
ここで、掘削可能領域において周方向の形状を変える方向に外部から土圧や水圧による曲げ応力が作用する。そこで、外壁及び内壁の少なくとも一方を繊維強化プラスチックで形成し、繊維の配向方向を立坑壁の周方向とした。これにより、繊維の配向方向を立坑壁の周方向とする簡単な構成で、外部から曲げ応力が作用する掘削可能領域の強度を確保できる。
【0015】
「4」本形態において、前記接続材は、前記内壁及び前記外壁を貫通せずに取り付けられていてもよい。
【0016】
ここで、内壁及び外壁を貫通させて接続材を取り付けた場合、接続材のうち内壁及び外壁を貫通して被切削部材の外側に突出した部位を除去する必要がある。あるいは、内壁及び外壁から突出した接続材を被切削部材から抜き出して、抜き出した後の開口孔にコンクリートを充填する必要がある。このため、施工性を向上させる妨げになる。また、接続材が内壁や外壁を貫通すると、内壁や外壁の強度が低下するおそれがある。
そこで、内壁及び外壁を貫通させないように接続材を取り付けた。これにより、被切削部材の外側に突出した部位を除去する工程、あるいは、接続材を被切削部材から抜き出して開口孔にコンクリートを充填する工程を省くことができ、施工性を向上させることができる。さらに、内壁や外壁の強度の低下を抑制することができる。
【0017】
「5」本形態において、前記接続材は、前記掘削可能領域の掘削周縁部寄りに配置されていてもよい。
【0018】
ここで、掘削可能領域において掘削周縁部寄りの部位に外部から土圧や水圧による大きなせん断力が作用する。そこで、接続材を掘削可能領域の掘削周縁部寄りに配置した。これにより、掘削周縁部寄りに接続材を配置する簡単な構成で、外部から大きなせん断力が作用する掘削周縁部寄りの部位の強度を確保できる。
【0019】
「6」本形態において、前記外壁と前記内壁との間に充填されたコンクリートは、前記立坑壁のうち前記被切削部材を除いた立坑壁本体に充填されたコンクリートより薄くしてもよい。
【0020】
この場合には、外壁と内壁との間に充填されたコンクリートを立坑壁本体に充填されたコンクリートより薄くした。これにより、掘削可能領域を掘削する際に掘削作業を容易にすることができる。
さらに、外壁及び内壁は、コンクリートを充填する際の型枠を兼ねている。よって、立坑壁の壁全体が鉄筋コンクリート製の場合に必要とされていた掘削領域用型枠を使用することなく、外壁と内壁との間のコンクリートを立坑壁本体のコンクリートより薄くできる。これにより、立坑壁を形成する作業を簡単にでき、施工性を向上させることができる。
【0021】
「7」本発明に係る立坑壁は、「1」から「6」のいずれかに記載の被切削部材により掘削可能領域が形成されている。
【0022】
上述の立坑壁であれば、樹脂製の外壁と樹脂製の内壁との間に樹脂製の接続材を配置し、外壁と内壁との間にコンクリートを充填することにより被切削部材を形成した。この被切削部材により掘削可能領域を形成することにより、立坑壁の一部に掘削可能領域を形成した。
よって、掘削可能領域を形成する外壁と内壁とを型枠として兼ねることができる。これにより、掘削可能領域を形成するために必要とされていた掘削領域用型枠を不要にできる。したがって、立坑壁を形成する作業を簡単にでき、施工性を向上させることができる。
【0023】
さらに、外壁の周縁部と内壁の周縁部との間に立坑壁の鉄筋を配置した。具体的には、立坑壁において、鉄筋が埋め込まれた立坑壁本体から掘削可能領域を備えた被切削部材に鉄筋を延ばした。よって、立坑壁本体から被切削部材に延ばした鉄筋で立坑壁本体と被切削部材との境界を補強できる。すなわち、外壁の周縁部と内壁の周縁部との間に立坑壁の鉄筋を配置するだけの簡単な構成で立坑壁本体と被切削部材との境界において強度を確保できる。立坑壁を形成する作業を簡単にでき、施工性を向上させることができる。
立坑壁本体と被切削部材との境界において強度を確保することにより、例えば、掘削可能領域の掘削中に、立坑壁本体と被切削部材との境界において被切削部材が立坑壁本体からずれることを防止できる。
【0024】
「8」本発明に係る立坑壁の施工方法は、「1」から「6」のいずれかに記載の被切削部材とともに前記立坑壁の鉄筋、型枠を設置する第1工程と、前記型枠の内部及び前記外壁と前記内壁との間にコンクリートを打設する第2工程と、前記型枠を取り外す第3工程と、を含み、前記第1工程では、前記被切削部材の部分に前記型枠を設置しないようにした。
【0025】
上述の立坑壁の施工方法であれば、被切削部材を構成する外壁、内壁、及び接続材とともに鉄筋及び型枠を設置する。ここで、被切削部材を構成する外壁及び内壁は被切削部材の型枠を兼ねることができる。よって、型枠を設置する第1工程において、被切削部材の部分には型枠を設定しないようにした。これにより、型枠を設定する工程において被切削部材の部分に型枠を設定する作業を省くことができ、さらに、型枠を取り外す工程において、被切削部材から型枠を取り外す作業を省くことができる。これにより、立坑壁の施工方法において、施工性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、外壁と内壁との間に立坑壁のコンクリートが充填され、外壁の周縁部と内壁の周縁部との間には立坑壁の鉄筋が配置されることにより施工性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の第1実施形態に係る立坑壁を示す斜視図である。
図2】立坑壁が矩形立坑である場合を示す変形例である。
図3図1に示す被切削部材の正面図である。
図4図3のIV-IV線に沿って破断した断面図である。
図5図3のV-V線に沿って破断した断面図である。
図6】本発明の第1実施形態に係る被切削部材、鉄筋、枠壁を設置した状態を示す断面図である。
図7】本発明の第2実施形態に係る被切削部材の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照し、本発明の第1実施形態に係る被切削部材、立坑壁、及び立坑壁の施工方法について説明する。
[第1実施形態]
図1図2及び図3に示すように、立坑壁100は、立坑壁本体10と、被切削部材20と、を備えている。立坑壁本体10は、コンクリート12の内部に鉄筋13(図4図5参照)が埋め込まれた鉄筋コンクリート製の壁である。被切削部材20は、樹脂製の外壁22と樹脂製の内壁23とが樹脂製の接続材24で接続された部材である。被切削部材20では、外壁22と内壁23との間の空間25にコンクリート26(双方、図4参照)が充填(打設)されている。被切削部材20は、例えば、不図示のシールド掘削機で掘削(切削)される掘削可能領域28を備えている。掘削可能領域28は、想像線で示す円の内側領域である。
すなわち、立坑壁100は、鉄筋コンクリート製の一部に被切削部材20を備え、被切削部材20に掘削可能領域28が形成されている。掘削可能領域28では、被切削部材20だけでなく、被切削部材20内に充填されているコンクリートも掘削可能である。被切削部材20は、掘削可能領域28の大きさに応じて、後述する高さ方向や周方向に複数並べられていてもよい。なお、被切削部材20については後で詳しく説明する。
【0029】
立坑壁100は、地上から地下に向けて設けられた縦穴の内壁を補強するために設けられる。立坑壁100は、例えば、地下鉄等のトンネル工事の際、シールド掘削の始点あるいは終点として用いられる。立坑壁100の外形は、図1に示すような円柱状であっても、図2に示すような四角柱(矩形)状であってもよい。さらに、立坑壁100の外形が、円柱状や四角柱状以外の形状であってもよく、外形に特に制限はない。
以下、立坑壁100の軸線に対する周方向を「周方向」、軸線方向を「高さ方向」、ということがある。
【0030】
シールド掘削機によって地下層を横方向に掘削する際は、まず立坑壁100内にシールド掘削機を運び込む。次に、シールド掘削機によって立坑壁100の内壁を横方向に掘削することで発進する。あるいは、シールド掘削機による掘削の終点に立坑壁100を設け、地下層を掘削したシールド掘削機の出口としてもよい。このようにして、立坑壁100を始点あるいは終点として地下トンネル工事を行う。また、シールド掘削機としては、例えば、泥土圧シールド、泥水式シールドが挙げられる。
【0031】
立坑壁100のコンクリートは、立坑壁100を形成する際、掘削した壁面を補強するために用いる。ここで、地面に縦穴を縦方向に掘削することによって生じる掘削側面は、土圧や水圧による崩壊や、地下水の流出が生じることがある。これを防ぐために、立坑壁100を掘削側面に形成する。なお、立坑壁100を形成する施工方法については後で詳しく説明する。
【0032】
図3から図5に示すように、被切削部材20は、外壁22と、内壁23と、複数の接続材24と、を備えている。外壁22は、立坑壁本体10の外面10aに沿って湾曲状、あるいは平坦状に形成されている。外壁22は、例えば、正面視において矩形状に形成され、さらに周方向の断面が矩形状に形成されている。外壁22は、立坑壁本体10の外面10aに対して面一に配置されている。すなわち、外壁22は、立坑壁100の外面100aの一部を構成している。
外壁22は、例えば、繊維強化プラスチックで形成された樹脂製の部材である。外壁22では、繊維強化プラスチックに複合された繊維の少なくとも一部の配向方向が立坑壁100の周方向に向いている。
【0033】
内壁23は、立坑壁本体10の内面10bに沿って湾曲状、あるいは平坦状に形成されている。内壁23は、外壁22に対して壁面同士が対向するように配置されている。内壁23は、外壁22と同様に、正面視において矩形状に形成され、周方向の断面が矩形状に形成されている。内壁23は、立坑壁本体10の内面10bに対して面一に配置されている。すなわち、内壁23は、立坑壁100の内面100bの一部を構成している。
内壁23は、例えば、外壁22と同様に、繊維強化プラスチックで形成された樹脂製の部材である。内壁23では、外壁と同様に、繊維強化プラスチックに複合された繊維の少なくとも一部の配向方向が立坑壁100の周方向に向いている。
【0034】
外壁22及び内壁23を形成する繊維強化プラスチックとしては、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂の樹脂にガラス繊維、炭素繊維等の繊維が複合されたものが挙げられる。繊維強化プラスチックの物性は、弾性率がコンクリート以上に設定されている。
また、外壁22及び内壁23の表面形状は、例えば、砂付け、炭酸カルシウム紙等に形成されている。さらに、外壁22及び内壁23の寸法は、例えば、厚みTが5~50mm、高さ方向の幅Wが100~1500mm、周方向の長さLが3000~16000mmに設定されている。
なお、本実施形態に係る立坑壁100では、図3から図5に示すように、被切削部材20が高さ方向や周方向に複数並べられておらず、被切削部材20が1つのみである。ここで図示しないが、例えば、被切削部材20を高さ方向に複数並べた(重ねた)場合、複数の被切削部材20全体の高さ方向の幅は、例えば、3000~16000mm程度に設定することができる。
【0035】
なお、第1実施形態では、外壁22及び内壁23において周方向の断面を矩形状に形成した例について説明するが、その他の例として、例えば、周方向の断面を波板形状、溝形状、凹凸形状に形成してもよい。
また、第1実施形態では、外壁22及び内壁23の両方を繊維強化プラスチックで形成する例について説明するが、外壁22及び内壁23の一方を繊維強化プラスチックで形成してもよい。
【0036】
接続材24は、外壁22と内壁23との間において外壁22及び内壁23に対して交差(第1実施形態では直交)するように配置されている。接続材24は、外壁22と内壁23とを接続する樹脂製の部材である。
具体的には、接続材24は、外端部24aが外壁22の内面22aに当接された状態において、例えば、不図示の接着剤やアングルにより接続されている。接続材24の外端部24aを外壁22の内面22aにアングルで接続する場合、例えば、アングルを接続材24の外端部24aと外壁22の内面22aとにボルト等で取り付ける。
【0037】
また、接続材24は、内端部24bが内壁23の内面23aに当接された状態において、例えば、不図示の接着剤やアングルにより接続されている。接続材24の内端部24bを内壁23の内面23aにアングルで接続する場合、例えば、アングルを接続材24の内端部24bと内壁23の内面23aとにボルト等で取り付ける。
【0038】
すなわち、複数の接続材24は、内壁23及び外壁22を貫通せずに取り付けられている。この状態において、複数の接続材24は、幅広に形成された面が周方向を向いて取り付けられている。
複数の接続材24は、内壁23及び外壁22の間に取り付けられた状態において、周方向に一定の間隔(等間隔)をあけて配置され、かつ、高さ方向に一定の間隔(等間隔)をあけて配置されている。これにより、外壁22及び内壁23が複数の接続材24により間隔をあけて組み立てられている。外壁22と内壁23との間には、コンクリート26を充填可能な空間25が形成されている。
この状態において、外壁22の周縁部22bと内壁23の周縁部23bとの間は、立坑壁本体10のコンクリート12や鉄筋13を配置可能に全周にわたって開口されている。言い換えると、外壁22の周縁部22bと内壁23の周縁部23bとの間は、全周にわたって閉塞されていない。
【0039】
外壁22と内壁23との間の空間25には、立坑壁本体10と同様に、立坑壁100の一部を形成するコンクリート26が充填(打設)されている。外壁22と内壁23との間の空間25にコンクリート26が充填されることにより、被切削部材20が形成されている。被切削部材20は、例えば、不図示のシールド掘削機で掘削(切削)される掘削可能領域28を備えている。換言すれば、掘削可能領域28は、被切削部材20に形成されている。掘削可能領域28は、例えば、シールド掘削機の掘削部に対応して外周が円に形成されている。なお、実際の立坑壁100において、掘削可能領域28の境界線は示されてはいない。図示している境界線は、仮想線である。
【0040】
ここで、外壁22の周縁部22bと内壁23の周縁部23bとの間は、全周にわたって開口されている。よって、外壁22と内壁23との間の空間25に充填されたコンクリート26(以下、単にコンクリート26とも言う)は、立坑壁本体10のコンクリート12に全周にわたって一体に連結されている。換言すれば、外壁22と内壁23との間の空間25には、立坑壁本体10に打設したコンクリート12の一部がコンクリート26として全周にわたって充填されている。
【0041】
また、コンクリート26は、コンクリート厚みTc1が、立坑壁本体10に充填されたコンクリート12のコンクリート厚みTc2より薄く形成されている。
さらに、外壁22の周縁部22bと内壁23の周縁部23bとの間に充填されたコンクリート26には、立坑壁本体10の鉄筋13が全周にわたって配置されている。具体的には、立坑壁本体10の鉄筋13(鉄筋13の端部)は、外壁22の周縁部22bと内壁23の周縁部23bとの間に充填されたコンクリート26の全周において、掘削可能領域28を避けた部位に埋め込まれている(配置されている)。なお鉄筋13の端部は、掘削可能領域28を避けた部位であれば、例えば、接続材24に対して、高さ方向や周方向に重なっていてもよい。
【0042】
次に、第1実施形態の立坑壁100の施工方法を図5図6に基づいて説明する。立坑壁100の施工方法は、以下に示す第1工程、第2工程、及び第3工程を含んでいる。
図6に示すように、第1工程において、被切削部材20の外壁22及び内壁23を複数の接続材24により組み立てる。被切削部材20は、外壁22の周縁部22bと内壁23の周縁部23bとの間が全周にわたって開口されている。次に、立坑壁100の形成予定地に被切削部材20を組み込んだ状態において、立坑壁100(すなわち、立坑壁本体10)の鉄筋13及び型枠14を設置する。
【0043】
立坑壁本体10の鉄筋13及び型枠14を設置した状態において、被切削部材20における外壁22の周縁部22bと内壁23の周縁部23bとの間の全周にわたる開口に、立坑壁本体10の鉄筋13が掘削可能領域28(図3参照)を避けて配置される。
また、被切削部材20の外壁22及び内壁23は、被切削部材20の内部に充填されるコンクリート26の型枠を兼ねている。よって、立坑壁本体10の鉄筋13及び型枠14を設置するときに、被切削部材20の部分には型枠14を設置しないようにできる。
【0044】
次に、第2工程において、立坑壁本体10の型枠14で形成された内部空間(型枠14の内部)16、及び被切削部材20の外壁22と内壁23との間の空間25にコンクリートを打設する。これにより、立坑壁本体10のコンクリート12と、被切削部材20のコンクリート26(双方、図5参照)とが一体に打設される。
【0045】
図5図6に示すように、第3工程において、立坑壁本体10の型枠14を取り外す。この状態において、被切削部材20における外壁22の周縁部22bと内壁23の周縁部23bとの間の全周にわたる開口に充填されたコンクリート26に、立坑壁本体10の鉄筋13が掘削可能領域28(図3参照)を避けて配置されている。
【0046】
以上説明したように、第1実施形態の被切削部材20及び立坑壁100によれば、図4図5に示すように、以下の作用、効果が得られる。
すなわち、外壁22と内壁23とを複数の接続材24により接続した。さらに、外壁22と内壁23との間の空間25にコンクリート12を充填することにより、立坑壁100の一部に被切削部材20を形成した。被切削部材20には掘削可能領域28が形成されている。よって、掘削可能領域28(すなわち、被切削部材20)を形成する外壁22と内壁23とを型枠として兼ねることができる。これにより、被切削部材20を形成するために必要とされる型枠(以下、掘削領域用型枠ということもある)を不要にできる。したがって、立坑壁100を形成する作業を簡単にでき、施工性を向上させることができる。
【0047】
さらに、外壁22の周縁部22bと内壁23の周縁部23bとの間に立坑壁本体10の鉄筋13を配置した。具体的には、立坑壁100において、鉄筋13が埋め込まれた立坑壁本体10から掘削可能領域28を備えた被切削部材20に鉄筋13を延ばした。よって、立坑壁本体10から被切削部材20に延ばした鉄筋13で立坑壁本体10と被切削部材20との境界31を補強できる。
すなわち、外壁22の周縁部22bと内壁23の周縁部23bとの間に立坑壁本体10の鉄筋13を配置するだけの簡単な構成で立坑壁本体10と被切削部材20との境界31において強度を確保できる。これにより、立坑壁100を形成する作業を簡単にでき、施工性を向上させることができる。
加えて、立坑壁本体10と被切削部材20との境界31において強度を確保することにより、例えば、掘削可能領域28の掘削中に、立坑壁本体10と被切削部材20との境界31において被切削部材20が立坑壁本体10からずれることを防止できる。
【0048】
また、外壁22の周縁部22bと内壁23の周縁部23bとの間を全周にわたって開口させた。よって、外壁22の周縁部22bと内壁23の周縁部23bとの間の全周にわたって立坑壁本体10の鉄筋13を簡単に配置できる。これにより、被切削部材20と立坑壁本体10との境界31の全周にわたって強度を確保できる。
【0049】
ここで、例えば、掘削可能領域28において周方向の形状を変える方向に外部から土圧や水圧による曲げ応力が作用する。そこで、外壁22及び内壁23を繊維強化プラスチックで形成し、繊維の配向方向を立坑壁100の周方向とした。これにより、繊維の配向方向を立坑壁100の周方向とする簡単な構成で、外部から曲げ応力が作用する掘削可能領域28の強度を確保できる。
加えて、複数の接続材24は、幅広に形成された面が周方向を向いて取り付けられている。これにより、周方向の形状を変える方向に外部から曲げ応力が作用する掘削可能領域28の強度を一層良好に確保できる。
【0050】
また、例えば、内壁23及び外壁22を貫通させて複数の接続材24を取り付けた場合、接続材24のうち内壁23及び外壁22を貫通して被切削部材20の外側に突出した部位を除去する必要がある。あるいは、内壁23及び外壁22から突出した接続材24を被切削部材20から抜き出して、抜き出した後の開口孔にコンクリートを充填する必要がある。このため、施工性を向上させる妨げになる。また、接続材24が内壁23や外壁22を貫通すると、内壁23や外壁22の強度が低下するおそれがある。
そこで、内壁23及び外壁22を貫通させないように複数の接続材24を取り付けた。これにより、被切削部材20の外側に突出した部位を除去する工程、あるいは、接続材24を被切削部材20から抜き出して開口孔にコンクリートを充填する工程を省くことができ、施工性を向上させることができる。さらに、内壁23や外壁22の強度の低下を抑制することができる。
【0051】
さらに、外壁22と内壁23との間に充填されたコンクリート26を立坑壁本体10に充填されたコンクリート12より薄くした。これにより、掘削可能領域28を掘削する際に掘削作業を容易にすることができる。
加えて、外壁22及び内壁23は、コンクリート26を充填する際の型枠を兼ねている。よって、立坑壁100の壁全体が鉄筋コンクリート製の場合に必要とされていた掘削領域用型枠を使用することなく、外壁22と内壁23との間のコンクリート26を立坑壁本体10のコンクリート12より薄くできる。これにより、立坑壁100を形成する作業を簡単にでき、施工性を向上させることができる。
【0052】
また、第1実施形態の立坑壁100の施工方法によれば、図5図6に示すように、被切削部材20を構成する外壁22、内壁23、及び複数の接続材24とともに鉄筋13及び型枠14を設置する。ここで、被切削部材20を構成する外壁22及び内壁23は被切削部材20の型枠を兼ねることができる。よって、鉄筋13及び型枠14を設置する第1工程において、被切削部材20の部分には鉄筋13及び型枠14を設置しないようにできる。これにより、鉄筋13及び型枠14を設置する第1工程において被切削部材20の部分に鉄筋13及び型枠14を設置する作業を省くことができ、さらに、鉄筋13及び型枠14を取り外す第3工程において、被切削部材20から型枠14を取り外す作業を省くことができる。これにより、立坑壁100の施工方法において、施工性を向上させることができる。
【0053】
次に、第2実施形態の被切削部材を図7に基づいて説明する。なお、第2実施形態において第1実施形態の被切削部材20と同一、類似部材については同じ符号を付して詳しい説明を省略する。
[第2実施形態]
図7に示すように、被切削部材50は、複数の接続材52が外壁22及び内壁23において掘削可能領域54の掘削周縁部55寄りに配置されている点が第1実施形態の被切削部材20と異なり、その他の構成は第1実施形態と同じである。掘削周縁部55は、掘削可能領域54の外周に相当する部位である。
掘削可能領域54は、掘削周縁部55が円に形成され、掘削周縁部55に複数の接続材52が寄せられた状態において接続されている。接続材52は、第1実施形態の接続材24と同様に形成されている。
【0054】
ここで、例えば、掘削可能領域54において掘削周縁部55寄りの部位に外部から土圧や水圧による大きなせん断力が作用する。そこで、第2実施形態において、複数の接続材52を掘削可能領域54の掘削周縁部55寄りに配置した。言い換えると、複数の接続材52が、中央部よりも掘削周縁部55に密になるように配置した。これにより、掘削周縁部55寄りに接続材52を配置する簡単な構成で、外部から大きなせん断力が作用する掘削周縁部55寄りの部位の強度を確保できる。
【0055】
以上説明したように、第2実施形態の被切削部材50、被切削部材50を備えた立坑壁100、及び立坑壁100の施工方法によれば、外壁22と内壁23とを複数の接続材52により接続した。さらに、複数の接続材52を掘削可能領域54の掘削周縁部55寄りに配置した。加えて、外壁22と内壁23との間の空間25にコンクリート26(図5参照)を充填することにより、立坑壁100の一部に被切削部材50を形成し、被切削部材50に掘削可能領域54を形成した。
よって、掘削可能領域54(すなわち、被切削部材50)を形成する外壁22と内壁23とを型枠として兼ねることができる。これにより、被切削部材50を形成するために必要とされる掘削領域用型枠を不要にできる。したがって、第2実施形態の立坑壁100を形成する作業を簡単にでき、施工性を向上させることができる。
【0056】
さらに、複数の接続材52を掘削可能領域54の掘削周縁部55寄りに配置する簡単な構成で、外部から大きなせん断力が作用する掘削周縁部55寄りの部位の強度を確保できる。
【0057】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0058】
例えば、内壁23や外壁22、接続材24、52が繊維強化プラスチック製でなくてもよい。
接続材24、52が、内壁23や外壁22を貫通していてもよい。
【0059】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0060】
10…立坑壁本体、12,26…コンクリート、13…鉄筋、14…型枠、16…型枠の内部空間(型枠の内部)、20,50…被切削部材、22…外壁、22b…外壁の周縁部、23…内壁、23b…内壁の周縁部、24,52…接続材、28,54…掘削可能領域、55…掘削周縁部、100…立坑壁、100a…立坑壁の外面、100b…立坑壁の内面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7