(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103039
(43)【公開日】2023-07-26
(54)【発明の名称】医用情報処理装置、方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G16H 80/00 20180101AFI20230719BHJP
【FI】
G16H80/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003873
(22)【出願日】2022-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】狩野 佑介
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 杏莉
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA04
5L099AA15
(57)【要約】
【課題】診療支援において有益な予測根拠を提示できること。
【解決手段】本実施形態に係る医用情報処理装置は、予測部と、算出部と、提示部とを含む。予測部は、診療対象に対する治療判断として選択される可能性のある複数の選択肢について、各選択肢の治療効果を予測する。算出部は、前記治療効果の予測結果に基づき、前記治療効果に影響を及ぼす1以上の特徴量それぞれについて、前記複数の選択肢に共通する効果に関する第1重要度と、前記複数の選択肢間の効果差に関する第2重要度とを算出する。提示部は、前記第1重要度と前記第2重要度とを1つのグラフまたは1つのリストで提示する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
診療対象に対する治療判断として選択される可能性のある複数の選択肢について、各選択肢の治療効果を予測する予測部と、
前記治療効果の予測結果に基づき、前記治療効果に影響を及ぼす1以上の特徴量それぞれについて、前記複数の選択肢に共通する効果に関する第1重要度と、前記複数の選択肢間の効果差に関する第2重要度とを算出する算出部と、
前記第1重要度と前記第2重要度とを1つのグラフまたは1つのリストで提示する提示部と、
を具備する医用情報処理装置。
【請求項2】
前記提示部は、前記特徴量ごとに、前記第1重要度と前記第2重要度とを積み上げグラフとして表示する、請求項1に記載の医用情報処理装置。
【請求項3】
前記提示部は、ユーザ指示により、前記第1重要度または前記第2重要度を単独で表示するように切り替える、請求項2に記載の医用情報処理装置。
【請求項4】
前記提示部は、前記第1重要度を第1軸、前記第2重要度を第2軸とした2次元座標上に前記特徴量を表示する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の医用情報処理装置。
【請求項5】
前記特徴量の信頼性およびユーザの判断基準に関する事前情報に含まれる第1特徴量について、前記第1重要度および前記第2重要度が閾値以上であるか否かを判定する判定部と、
前記第1特徴量の前記第1重要度および前記第2重要度が前記閾値以上である場合、前記第1特徴量が重点的にレビューすべき特徴量であることを通知する通知部と、をさらに具備する請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の医用情報処理装置。
【請求項6】
ユーザが前記複数の選択肢に共通する効果を重視する場合であって、前記第1重要度が閾値以上である第1特徴量が存在するか否かを判定する判定部と、
前記第1特徴量が存在する場合、前記第1特徴量が重点的にレビューすべき特徴量であることを通知する通知部と、をさらに具備する請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の医用情報処理装置。
【請求項7】
ユーザが前記複数の選択肢間の効果差を重視する場合であって、前記第2重要度が閾値以上である第1特徴量が存在するか否かを判定する判定部と、
前記第1特徴量が存在する場合、前記第1特徴量が重点的にレビューすべき特徴量であることを通知する通知部と、をさらに具備する請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の医用情報処理装置。
【請求項8】
前記第1重要度および前記第2重要度が閾値以下である第1特徴量が存在する場合、前記第1特徴量は治療判断において不要な特徴量であると判定する判定部をさらに具備する請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の医用情報処理装置。
【請求項9】
過去の診療対象に関する前記1以上の特徴量に関する値と、前記過去の診療対象に対して選択された選択肢と、前記選択された選択肢による治療結果とを学習データとして、前記1以上の特徴量に関する値が入力され、各選択肢の治療効果を出力する予測モデルを生成する学習部をさらに具備する、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の医用情報処理装置。
【請求項10】
前記学習部は、前記予測モデルに基づき、前記第1重要度を出力する第1重要度予測モデルと、前記第2重要度を出力する第2重要度予測モデルとを生成する、請求項9に記載の医用情報処理装置。
【請求項11】
前記学習部は、前記第1重要度予測モデルの推論結果に対する根拠を説明する第1説明モデルと前記第2重要度予測モデルの推論結果に対する根拠を説明する第2説明モデルとの少なくとも一方を生成する、請求項10に記載の医用情報処理装置。
【請求項12】
診療対象に対する治療判断として選択される可能性のある複数の選択肢について、各選択肢の治療効果を予測し、
前記治療効果の予測結果に基づき、前記治療効果に影響を及ぼす1以上の特徴量それぞれについて、前記複数の選択肢に共通する効果に関する第1重要度と、前記複数の選択肢間の効果差に関する第2重要度とを算出し、
前記第1重要度と前記第2重要度とを1つのグラフまたは1つのリストで提示する、
医用情報処理方法。
【請求項13】
コンピュータに、
診療対象に対する治療判断として選択される可能性のある複数の選択肢について、各選択肢の治療効果を予測する予測機能と、
前記治療効果の予測結果に基づき、前記治療効果に影響を及ぼす1以上の特徴量それぞれについて、前記複数の選択肢に共通する効果に関する第1重要度と、前記複数の選択肢間の効果差に関する第2重要度とを算出する算出機能と、
前記第1重要度と前記第2重要度とを1つのグラフまたは1つのリストで提示する提示機能と、
を実現させる医用情報処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、医用情報処理装置、方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
臨床意思決定支援(CDS:Clinical Decision Support)において因果推論を応用したものがある。因果推論を応用したCDSは、複数の治療選択肢の中から個人ごとに最適な治療を推測することができ、個別化医療の実現につながる。CDSでは、説明可能性または解釈可能性も重要視されており、治療選択肢の推奨とともにその根拠が示されることで、患者および医師が納得感を持って判断を行いやすくなる。
しかし、治療選択肢ごとの重要度を表示した場合は、情報量が多過ぎるため、情報の解釈が難しいという問題がある。また、治療選択肢間の効果の差に寄与している要因、および、治療選択肢によらずに予後などのアウトカムに寄与している要因を特定したいというニーズがあるが、大量の情報から医師が判断に必要とする情報を取捨選択することは困難であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、診療支援において有益な予測根拠を提示できることである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限られない。後述する実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置づけることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態に係る医用情報処理装置は、予測部と、算出部と、提示部とを含む。予測部は、診療対象に対する治療判断として選択される可能性のある複数の選択肢について、各選択肢の治療効果を予測する。算出部は、前記治療効果の予測結果に基づき、前記治療効果に影響を及ぼす1以上の特徴量それぞれについて、前記複数の選択肢に共通する効果に関する第1重要度と、前記複数の選択肢間の効果差に関する第2重要度とを算出する。提示部は、前記第1重要度と前記第2重要度とを1つのグラフまたは1つのリストで提示する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る医用情報処理装置を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態に係る医用情報処理装置の動作を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、第1重要度および第2重要度の第1提示例を示す図である。
【
図4】
図4は、第1重要度および第2重要度の第2提示例を示す図である。
【
図5】
図5は、第1重要度および第2重要度の第3提示例を示す図である。
【
図6】
図6は、第1重要度および第2重要度の第4提示例を示す図である。
【
図7】
図7は、3つ以上選択肢がある場合の算出機能による処理の詳細を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、3つ以上選択肢がある場合の第2表示例を示す図である。
【
図9】
図9は、3つ以上選択肢がある場合の第3表示例を示す図である。
【
図10】
図10は、提示機能による提示情報の第1利用例を示す図である。
【
図11】
図11は、提示機能による提示情報の第2利用例を示す図である。
【
図12】
図12は、提示機能による提示情報の第3利用例を示す図である。
【
図13】
図13は、第2の実施形態に係る医用情報処理装置を示すブロック図である。
【
図14】
図14は、第2の実施形態に係る医用情報処理装置の通知処理を示すフローチャートである。
【
図15】
図15は、第2の実施形態に係る通知機能による通知例を示す図である。
【
図16】
図16は、第3実施形態に係る医用情報処理装置を示すブロック図である。
【
図17】
図17は、第3の実施形態に係る学習データの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係る医用情報処理装置、方法およびプログラムについて詳細に説明する。なお、以下の実施形態では、同一の参照符号を付した部分は同様の動作をおこなうものとして、重複する説明を適宜省略する。
【0008】
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る医用情報処理装置について
図1のブロック図を参照して説明する。
第1の実施形態に係る医用情報処理装置1は、処理回路10と、メモリ11と、入力インタフェース12と、通信インタフェース13と含む。
【0009】
なお、本明細書に記載の実施形態に係る医用情報処理装置1は、コンソール、ワークステーションなどに含まれてもよいし、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置、CT(Computed Tomography)装置などの医用画像診断装置に含まれてもよい。
【0010】
処理回路10は、取得機能101と、予測機能102と、算出機能103と、提示機能104とを含む。処理回路10は、ハードウェア資源として図示していないプロセッサを有する。
【0011】
取得機能101は、例えば診療情報データベース2から患者情報を取得する。
予測機能102は、診療対象に対する治療判断として選択される可能性のある複数の選択肢について、各選択肢の治療効果を予測する。
【0012】
算出機能103は、治療効果の予測結果に基づき、治療効果に影響を及ぼす1以上の特徴量それぞれについて、複数の選択肢に共通する効果(以下、ベースライン効果という)に関する第1重要度を算出する。さらに、算出機能103は、1以上の特徴量それぞれについて、複数の選択肢間の効果差に関する第2重要度を算出する。
提示機能104は、例えばディスプレイ(図示せず)に、第1重要度と第2重要度とを1つのグラフまたは1つのリストでユーザに提示する。ユーザは、ここでは、医師に代表される医療従事者、患者を含む。
【0013】
なお、処理回路10における各種機能は、コンピュータによって実行可能なプログラムの形態でメモリ11へ記憶されてもよい。この場合、処理回路10は、これら各種機能に対応するプログラムをメモリ11から読み出して実行することで、各プログラムに対応する機能を実現するプロセッサであるともいえる。換言すると、各プログラムを読みだした状態の処理回路10は、
図1の処理回路10内に示された複数の機能等を有することになる。
【0014】
なお、
図1においては単一の処理回路10にてこれら各種機能が実現されるものとして説明したが、複数の独立したプロセッサを組み合わせて処理回路10を構成し、各プロセッサがプログラムを実行することにより機能を実現するものとしても構わない。換言すると、上述のそれぞれの機能がプログラムとして構成され、1つの処理回路が各プログラムを実行する場合であってもよいし、特定の機能が専用の独立したプログラム実行回路に実装される場合であってもよい。
【0015】
メモリ11は、後述の各種データ、学習済みモデルなどを格納する。メモリ11は、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)、ソリッドステートドライブ(SSD:Solid State Drive)、光ディスク等である。また、メモリ11は、CD-ROMドライブやDVDドライブ、フラッシュメモリ等の可搬性記憶媒体との間で種々の情報を読み書きする駆動装置等であってもよい。
【0016】
入力インタフェース12は、ユーザからの各種指示や情報入力を受け付ける回路を有する。入力インタフェース12は、例えば、マウス等のポインティングデバイス、あるいはキーボード等の入力デバイスに関する回路を有する。なお、入力インタフェース12が有する回路は、マウス、キーボードなどの物理的な操作部品に関する回路に限定されない。例えば、入力インタフェース12は医用情報処理装置1とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、受け取った電気信号を医用情報処理装置1内の種々の回路へ出力するような電気信号の処理回路を有していてもよい。
【0017】
通信インタフェース13は、有線または無線により外部装置とデータのやり取りを実行する。通信方式およびインタフェースの構造については、一般的な通信手段を用いればよいため、ここでの説明を省略する。
【0018】
また、医用情報処理装置1は、例えば、ネットワーク(図示せず)および通信インタフェース13を介して、診療情報データベース2と通信可能に接続される。なお、医用情報処理装置1と診療情報データベース2とは直接接続されてもよい。
診療情報データベース2は、1以上の患者に関する患者情報を格納する。患者情報は、例えば、患者の年齢、性別、居住区域、糖尿病などの既往歴、といった患者に関する情報を含む。
【0019】
次に、第1の実施形態に係る医用情報処理装置1の動作例について、
図2のフローチャートを参照して説明する。
【0020】
ステップS201では、取得機能101が、診療対象として、対象患者の患者情報を取得する。
【0021】
ステップS202では、予測機能102が、患者情報と予め生成された予測モデルとに基づき、治療判断として選択される可能性のある複数の選択肢と各選択肢の治療効果とを予測する。選択肢としては、手術、投薬、経過観察といったことが挙げられる。治療効果は、例えば、回復までの期間、生存期間(予後期間)が挙げられる。予測モデルは、患者情報が入力され、複数の選択肢および各選択肢の治療効果を出力するモデルであり、機械学習により学習された予測モデルを想定する。具体的には、後述する第3実施形態で生成される学習済みの予測モデルを想定するが、これに限らず、患者情報が入力され、複数の選択肢および各選択肢の治療効果を出力するモデルであればよい。
【0022】
ステップS203では、算出機能103が、予測部の治療効果の予測結果に基づき、1以上の特徴量に関する、ベースライン効果に関する第1重要度を算出する。特徴量は、選択肢についての予測結果に影響する(寄与する)要因となりえるパラメータであり、例えば、患者の年齢、性別、ステージ、既往歴、居住区域といった情報が挙げられる。
【0023】
ステップS204では、算出機能103が、1以上の特徴量に関する、複数の選択肢間の効果差に関する第2重要度を算出する。
【0024】
ステップS205では、提示機能104が、特徴量ごとに、第1重要度と第2重要度とを1つのグラフまたは1つのリストで比較可能に提示する。例えば、特徴量ごとに第1重要度と第2重要度とを積み上げグラフとして、1つのグラフで表示する。または、第1重要度を第1軸、第2重要度を第2軸とした2次元座標上で、特徴量を1つの分布図で表示してもよい。または、特徴量ごとの第1重要度の値と第2重要度の値とをリスト形式で表示してもよい。なお、グラフとリストとを組み合わせて表示してもよい。
【0025】
次に、提示機能104による第1重要度および第2重要度の第1提示例について
図3を参照して説明する。
図3左図に示すグラフ30は、各特徴量31について第1重要度32の棒グラフおよび第2重要度33の棒グラフを積み上げグラフとして表示する。具体的に、特徴量31として、年齢、Frailty、性別、糖尿病、心房細動、弁圧較差を例示する。各特徴量31について、第1重要度32の棒グラフの後に第2重要度33が積み上げられて表示される。なお、
図3の例では、第1重要度32と第2重要度33の各値は、正規化された値で表示されるが、これに限らない。また、第1重要度を表示している状態を表すためのベースライン効果のアイコン34と、第2重要度を表示している状態を表すための選択肢間の効果差、以下では治療間の差に関するアイコン35とがそれぞれ、グラフ30の下部に表示される。なお、アイコン34,35とグラフ30とは、どのような位置関係で表示されてもよい。グラフ30では、特徴量31は、第1重要度および第2重要度の合算値の大きさの順番に表示されるとよい。
図3左図のグラフ30では、第1重要度および第2重要度の合算値として、特徴量31「年齢」が最も高く、特徴量31「Fraility」が2番目に高い。
【0026】
図3右図に示すグラフ36は、
図3左図のグラフ30の表示状態において治療間の差のアイコン35が選択された際の表示例を示す。例えば、治療間の差のアイコン35を選択することで、第2重要度33の棒グラフのみ表示させる。ここでは、視認性向上のため、第2重要度33のみで値を正規化した状態を想定するが、
図3左図の棒グラフの大きさのまま表示してもよい。選択された治療間の差のアイコン35の輪郭を太線で強調表示し、選択されていないベースライン効果のアイコン34の輪郭を破線で表示する。なお、選択されたアイコンは変えずに、選択されていないアイコンを薄く表示またはグレー表示するなど、選択されている重要度が判別できれば、どのような表示態様でもよい。
また、ユーザ指示により、第1重要度または第2重要度のどちらかを単独で表示するようにしてもよい。または、いわゆるトグル表示のように、第1重要度または第2重要度を自動的に所定間隔で切り替えて、単独で表示されるようにしてもよい。
【0027】
グラフ36では、第2重要度33のみが選択して表示するため、特徴量31「Fraility」の第2重要度33が最も高く、特徴量31「性別」の第2重要度33が2番目に高い。よって、特徴量31の値が降順になるように、特徴量31の表示順を切り替える。
【0028】
このように、注目する重要度に応じてグラフ表示を切り替えることで、医師などのユーザは、ベースライン効果に影響のある特徴量、治療間の差に影響のある特徴量、およびベースライン効果と治療間の差との双方に影響のある特徴量それぞれに関する重要度を容易に把握できる。
【0029】
次に、提示機能104による第1重要度および第2重要度の第2提示例について
図4を参照して説明する。
図4は、
図3と同様に、各特徴量31について第1重要度32および第2重要度33を積み上げグラフとして表示する一例を示す。ただし、
図3に示す第1重要度32および第2重要度33はそれぞれ、各特徴量31がベースライン効果または治療間の差に、プラスに影響する(寄与する)重要度(以下、Positive Impactという)を表示したが、
図4では、Positive Impactに加えて、マイナスに影響する(寄与する)重要度(以下、Negative Impactという)も表示する点が異なる。
【0030】
例えば、
図4左図に示すように、特徴量31「年齢」、「Fraility」、「性別」がPositive Impactであり、第1重要度32および第2重要度33がそれぞれ積み上げグラフとして表示される。一方、特徴量31「糖尿病」、「心房細動」、「弁圧較差」がNegative Impactであり、第1重要度41および第2重要度42がそれぞれ積み上げグラフとして表示される。
【0031】
図4右図は、
図3右図と同様であり、治療間の差のアイコン35が選択された、つまり第2重要度のみが表示される場合のグラフである。
図4右図に示すように、Positive Impactでは第2重要度33のみ、Negative Impactでは第2重要度42のみそれぞれ表示される。よって、
図3の場合と同様に、各特徴量について、ベースライン効果および治療間の差に対する重要度を一見して把握できる。
【0032】
次に、提示機能104による第1重要度および第2重要度の第3提示例について
図5を参照して説明する。
図5は、各選択肢についての特徴量ごとの重要度を表示する。例えば、
図3または
図4に示すグラフ上をクリックする、タッチする、またはマウスオーバーするといったアクションを実行することで、提示機能104により、各選択肢についての特徴量ごとの重要度を示すグラフ51を生成し、グラフ51を含む別ウィンドウを表示してもよい。別ウィンドウを表示する場合は、比較の観点では、グラフ30のような積み上げグラフと重ならないように表示することを想定するが、重畳して表示されてもよい。
【0033】
グラフ51は、ここでは選択肢として「投薬」および「治療」の2つがあり、「投薬」および「治療」それぞれについて、生存期間を示すグラフ52と、各選択肢に影響する特徴量の重要度のグラフ53とがそれぞれ表示される。グラフ52およびグラフ53は、予測機能102により、予測モデルを用いて推論された選択肢ごとの予測結果を用いればよい。
【0034】
次に、提示機能104による第1重要度および第2重要度の第4提示例について
図6を参照して説明する。
図6は、ベースライン効果を第1軸、治療間の差を第2軸とした2次元平面上での各特徴量31の分布図である。例えば、特徴量31「年齢」であれば、ベースライン効果に対する第1重要度が高い一方、治療間の差に対する第2重要度が低いことがわかる。また、特徴量31「糖尿病」であれば、ベースライン効果に対する第1重要度および治療間の差に対する第2重要度がともに低いことがわかる。なお、
図3から
図6までに示したような積み上げグラフまたは分布図に限らず、第1重要度および第2重要度が比較可能な形式であれば、どのような形式で各特徴量の第1重要度と第2重要度とを1つのグラフに表示してもよい。
【0035】
上述の例では、治療間の差に関する第2重要度は、2つの選択肢間の差を想定しているが、3以上の選択肢が存在する場合もある。この場合は、全ての2つの組み合わせについて第2重要度をそれぞれ算出し、算出された第2重要度を集約すればよい。
【0036】
3つ以上の選択肢が存在する場合の算出機能103によるステップS204の処理の詳細について、
図7のフローチャートを参照して説明する。
【0037】
ステップS701では、算出機能103が、2つの選択肢間のすべての組み合わせについて、第2重要度を算出する。例えば、ここでは3つの選択肢、大動脈弁狭窄症を例とすれば、人工弁置換手術(SAVR)、経カテーテル的大動脈弁の埋め込み手術(TAVI)および投薬を想定する。この場合、3C2=3通りの組み合わせ、つまり、「SAVR-TAVI」「SAVR-投薬」「投薬-TAVI」の3通りの組み合わせについて、それぞれ第2重要度を算出する。すなわち、n個(nは3以上の自然数)の選択肢があれば、nC2個の第2重要度が算出される。
【0038】
ステップS702では、算出機能103が、ステップS701で算出された複数の第2重要度を用いて1つの代表値を算出する。代表値の算出方法は、複数の第2重要度のうちの最大値、平均値、中央値などの統計処理により算出すればよい。
【0039】
さらに算出機能103は、標準偏差または分散などばらつきの情報を算出し、代表値と合わせて提示されてもよい。なお、第1重要度の算出方法については、2つの選択肢の場合も、3以上の選択肢の場合も同様である。その後のステップでは、代表値をステップS205の第2重要度として用いられればよい。
【0040】
次に、3つ以上の選択肢がある場合の提示部の提示例について
図8および
図9を参照して説明する。
図8は、3つの選択肢がある場合における、
図4に示す積み上げグラフと同様の表示例であり、
図9は、3つの選択肢がある場合における、
図6に示す分布図と同様の表示例である。ここでは、複数の選択肢に関する情報をアイコン81で表示する。
図8の例では、複数の選択肢に関する情報を、ベースライン効果(第1重要度)および治療間の差(第2重要度)のアイコンの下に表示し、
図9の例では、グラフの下部に表示する。なお、グラフの視認に影響がない位置であれば、アイコン81は画面上のどの位置に表示されてもよい。このように、3つ以上の選択肢がある場合でも2つの選択肢の場合と同様に、治療間の差を表示することができる。
【0041】
なお、治療間の差として代表値が表示されることに限らず、複数の選択肢のアイコンのうちの2つの選択肢が選択されることで、選択された2つの選択肢に関する治療間の差を表示するようにしてもよい。例えば、
図8において、選択肢1(SAVR)と選択肢2(TAVI)との2つが選択された場合、3つの第2重要度の平均ではなく、選択肢1(SAVR)と選択肢2(TAVI)との間で算出された第2重要度が表示されてもよい。
【0042】
次に、提示機能104による提示情報の第1利用例について
図10を参照して説明する。
図10では、ユーザである医師が患者を診察し、生存期間(予後期間)と治療方針とを決定する場面を想定する。ここでは、医師が患者に対して、「余命大体5年くらい」、「手術の方が良いだろう」と予想したとする。一方、第1の実施形態に係る医用情報処理装置1により、患者に対して、治療方針の選択肢および各選択肢の効果、すなわち生存期間1001について算出し、選択肢「手術」が生存期間「1.3年」、選択肢「投薬」が生存期間「1.0年」であったとする。
【0043】
選択肢「手術」のほうが生存期間が長いことは、医師の予想と医用情報処理装置1の処理結果とで同じ結果となったが、医用情報処理装置1の処理結果として生存期間が1年程度であり、医師自身が予想した5年よりもかなり短い。この場合、医師は、医用情報処理装置1の処理結果として、どの特徴量が生存期間に影響しているかを把握すべきである。よって、
図10の例では、提示機能より提示された分布図において、ベースラインへの影響が大きい特徴量、つまり第1重要度が大きい特徴量が分布する領域1002を重点的にレビューし、ベースラインへの影響が小さい特徴量、つまり第1重要度が小さい特徴量が分布する領域1003は、考慮しなくともよいと考えられる。すなわち、医師は、第1重要度が大きい特徴量が分布する領域1002を重点的にレビューすることで、生存期間が手術であれば1.3年、投薬であれば1年との推論結果に寄与した特徴量を素早く特定できる。
【0044】
次に、提示機能104による提示情報の第2利用例について
図11を参照して説明する。
図11は、医師が
図10と同様に予想した結果、医用情報処理装置1の処理結果である生存期間1101に関し、選択肢「手術」が生存期間「4.0年」、選択肢「投薬」が生存期間「6.0年」であった場合を示す。
【0045】
医用情報処理装置1により出力された生存期間は、それほど医師の予想とずれはないが、「手術」と「投薬」とで2年の生存期間の差があることがわかる。この場合、医師は、医用情報処理装置1の処理結果として、どの特徴量が選択肢間の生存期間の差に影響しているかを把握すべきである。よって、
図11の例では、提示機能により提示された分布図において、治療間の差への影響が大きい特徴量、つまり第2重要度が大きい特徴量が分布する領域1102を重点的にレビューし、治療間の差への影響が小さい特徴量、つまり第2重要度が小さい特徴量が分布する領域1103は、考慮しなくともよいと考えられる。すなわち、医師は、第2重要度が大きい特徴量が分布する領域1102を重点的にレビューすることで、生存期間に2年の差があるとの推論結果に寄与した特徴量を素早く特定できる。
【0046】
次に、提示機能104による提示情報の第3利用例について
図12を参照して説明する。
図12は、医師が「余命や推奨治療についてわからない」と考えている場合を想定する。このとき、医用情報処理装置1の処理結果である生存期間1201に関し、選択肢「手術」が生存期間「1.0年」、選択肢「投薬」が生存期間「1.3年」であった場合を示す。
【0047】
この場合、医師は、医用情報処理装置1の処理結果として、どの特徴量が生存期間に影響し、かつ、どの特徴量が選択肢間の生存期間の差に影響しているかの双方を把握すべきである。よって、
図12の例では、提示機能により提示された分布図において、ベースラインと治療間の差との双方への影響が大きい特徴量、つまり第1重要度が大きくかつ第2重要度が大きい特徴量が分布する領域1202を重点的にレビューし、ベースラインと治療間の差とへの影響が小さい特徴量、つまり第1重要度が小さくかつ第2重要度が小さい特徴量が分布する領域1203は、考慮しなくともよいと考えられる。すなわち、医師は、領域1202を重点的にレビューすることで、推奨治療と当該推奨治療の生存期間、
図11では「投薬」とその生存期間「1.3年」が出力された根拠として寄与する特徴量を容易に特定できる。
【0048】
以上に示した第1の実施形態によれば、予測モデルに基づいて、複数の選択肢に共通する効果であるベースライン効果に関する第1重要度と、選択肢間の効果差に関する第2重要度とを算出し、第1重要度と第2重要度とを1つのグラフまたは1つのリストで比較可能に表示する。例えば、同一のグラフに第1重要度と第2重要度とを積み上げグラフとして表示する。これにより、ユーザに対して予測モデルの根拠を提示でき、特に治療判断に大きな影響を及ぼす特徴量を容易に理解、把握させることができる。
すなわち、治療の選択肢などを提案する推奨型のCDSにおいて、結果を解釈できるため、患者や医師が納得感を持って結果を解釈できる。また、CDSの結果に対する特徴量の重要度および効果を把握できるため、医師も自身の判断の根拠との摺り合わせが容易となる。つまり、診療支援において有益な予測根拠を提示できる。
【0049】
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、特徴量およびユーザの判断基準に関する事前情報を取得することを想定する。
第2の実施形態に係る医用情報処理装置について
図13のブロック図を参照して説明する。第2の実施形態に係る医用情報処理装置1は、第1の実施形態に係る医用情報処理装置1の構成に加え、処理回路10が判定機能105および通知機能106を含む点が異なる。
【0050】
メモリ11は、特徴量およびユーザの判断基準に関する事前情報を格納する。特徴量の事前情報としては、例えば、信頼性、測定日時が挙げられる。具体的に、特徴量「Fraility」は、主観的な判断であるため、評価者間のばらつきが大きい。よって、特徴量「Fraility」は、信頼性が低いという情報を事前情報として保持すればよい。また、測定日時であれば、最新の測定日時が医用情報処理装置1による予測時点から一定期間以上前の日時であるかという条件を保持する。なお、測定日時を信頼性の条件として組み込んでもよい。すなわち、特徴量自体を信頼性が低いとする条件のほか、一定期間以上前に測定された特徴量を信頼性が低いと条件づけてもよい。また、ユーザの判断基準に関する事前情報としては、例えば、判断で重視するポイントが挙げられる。具体的には、ユーザである医師が、ベースラインの効果を重視するという判断傾向があれば、当該判断傾向を事前情報として保持すればよい。なお、事前情報はメモリ11に格納されることに限らず、診療情報データベース2など外部のデータベースに格納され、医用情報処理装置1の予測処理の実行時に参照されてもよい。
【0051】
判定機能105は、特徴量に関する事前情報と、予測モデルから出力される特徴量とを比較し、事前情報と一致する特徴量が存在する否かを判定する。例えば、特徴量「Fraility」が、事前情報と予測モデルから出力される特徴量の双方に存在すれば、事前情報と一致する特徴量であるといえる。また、特徴量「弁圧較差」の測定日時が、医用情報処理装置1による予測時点から一定期間以上前の日時であれば、事前情報と一致する特徴量が含まれると判定する。また、判定機能105は、判断に関する事前情報の中に、医用情報処理装置1を利用するユーザの判断基準が含まれるか否かを判定する。例えば、あるユーザAがベースライン効果を重視するという事前情報がある場合であって、ユーザAが医用情報処理装置1を利用する場合は、判定機能105は、ユーザの判断基準が事前情報に含まれると判定する。
通知機能106は、判定機能105による判定結果、算出機能103により算出された第1重要度および第2重要度に基づいて、重点的にレビューすべき特徴量をユーザに通知する。
【0052】
次に、第2の実施形態に係る医用情報処理装置1の通知処理について
図14のフローチャートを参照して説明する。
【0053】
ステップS1401では、判定機能105が、事前情報と、算出機能103による特徴量ごとの第1重要度および第2重要度に基づいて、事前情報と一致する特徴量が存在し、かつ当該特徴量の第1重要度および第2重要度が閾値以上であるか否かを判定する。事前情報と一致する特徴量が存在し、かつ当該特徴量の第1重要度および第2重要度が閾値以上である場合、ステップS1404に進み、当該条件を満たさなければステップS1402に進む。
【0054】
ステップS1402では、判定機能105が、ユーザが判断で重視するポイントは、ベースライン効果であり、かつ特徴量の第1重要度が閾値以上であるか否かを判定する。ユーザが判断で重視するポイントはベースライン効果であり、かつ特徴量の第1重要度が閾値以上である場合、ステップS1404に進み、当該条件を満たさない場合、ステップS1403に進む。
【0055】
ステップS1403では、判定機能105が、ユーザが判断で重視するポイントは、治療間の差であり、かつ特徴量の第2重要度が閾値以上であるか否かを判定する。ユーザが判断で重視するポイントは選択肢間の効果差であり、かつ特徴量の第2重要度が閾値以上である場合、ステップS1404に進み、当該条件を満たさない場合、処理を終了する。
【0056】
ステップS1404では、通知機能106が、該当する特徴量が、ユーザによる判断時に重点的にレビューすべき特徴量であることを通知する。例えば、事前情報として特徴量「Fraility」が含まれ、予測モデルの特徴量として「Fraility」が存在し、かつ第1重要度および第2重要度が閾値以上である場合、「Fraility」は信頼性が低い特徴量であるのにもかかわらず、予測結果の重要度が高いため、重点的にレビューすべきである、とユーザに通知できる。
【0057】
また、ユーザが選択肢間の効果差を重視する事前情報がある場合、例えば、ユーザの予測が手術であり、医用情報処理装置1からの予測結果が投薬である場合、ユーザが選択肢間の効果差を重視する状況であると考えられる。ここで、ある特徴量の第2重要度が閾値以上である場合、当該特徴量を重点的にレビューすべきである、とユーザに通知できる。
【0058】
次に、第2の実施形態に係る通知機能106による通知例について
図15を参照して説明する。
図15は、通知機能106および提示機能104により、重点的にレビューすべき特徴量をリスト1501で表示する例である。リスト1501は、ここでは、
図6のような分布図とともに表示することを想定するが、分布図とは独立して表示されてもよい。通知機能106は、第1重要度または第2重要度が高い順に優先度を設定し、提示機能104が、リスト1501において優先度順にレビューすべき特徴量1502を表示してもよい。提示機能104は、リスト表示とともに、またはリスト表示に代えて、例えば分布図において重点的にレビューすべき特徴量1502を表すプロットを点滅させる、プロットの直上にある文字列を囲み表示または太字にする、色を他の特徴量のプロットと変えるなど強調表示させてもよい。すなわち、重点的にレビューすべき特徴量1502が他の特徴量と区別可能であれば、どのような表示態様であってもよい。
【0059】
また、提示機能104は、リスト1501上に表示される特徴量がカーソルなどで選択された場合、選択された特徴量1502のみ分布図上で強調表示されるようにしてもよい。さらに、選択された特徴量1502の詳細情報がポップアップなどで表示されてもよい。具体的には、例えばリスト1501上に表示される特徴量の文字列、当該特徴量のプロット、およびプロット上にある特徴量の文字列のいずれかにカーソルが重畳される(いわゆるマウスオーバーされる)と、当該特徴量に関する実際の計測値、測定値および根拠となる生データなどの詳細情報がポップアップで表示される。これにより、ユーザが確認したい特徴量の第1重要度または第2重要度について把握が容易となり、詳細情報についてもすぐに確認することができる。
【0060】
なお、通知機能106は、優先度が高い特徴量が治療判断において重要であるといえるため、優先度の高い特徴量から順に検査するといった、取得する特徴量の順番を推奨することができる。反対に、通知機能106は、測定を省略できる特徴量を通知してもよい。
【0061】
例えば、対象患者の患者データの取得前に、予測機能102が、処理対象とする特徴量(以下、対象特徴量)について、例えば乱数を割り当て、他の特徴量とともに予測モデルを用いて予測結果を算出する。算出機能103が、当該予測結果から第1重要度および第2重要度を算出する。判定機能105により、算出された第1重要度および第2重要度が閾値以下であれば、実際の値または乱数にかかわらず対象患者の治療判断には不要な特徴量であると判定できる。不要な特徴量と判定された特徴量は検査を省略できる。例えば、特徴量「血中コレステロール値」が不要な特徴量と判定された場合、血液検査を省略できることになるため、少ない検査で、全てを検査した場合と同等の精度の治療判断を支援できるため、コスト及び時間を削減することができる。
【0062】
以上に示した第2の実施形態によれば、通知機能により、特徴量の重要度に応じて重点的にレビューすべき特徴量を通知するなど、追加の支援情報を提示する。これにより、数ある特徴量の中から重要な特徴量を絞ってレビューすることができるため、ユーザの判断の効率性が向上する。また、重要度が低い特徴量の測定を省略すること、少ない検査で十全と同等精度の治療判断の支援をすることができる。
【0063】
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、医用情報処理装置1が学習機能を含み、学習データを用いてモデルを学習することで予測モデルを生成する。
第3の実施形態に係る医用情報処理装置1について
図16のブロック図を参照して説明する。
【0064】
図16に示す医用情報処理装置1は、第1実施形態に係る処理回路10に加え、学習機能107を含む。
第2の実施形態に係るメモリ11は、学習データおよび学習前のモデルを格納してもよい。または医用情報処理装置1による学習処理が実行されるたびに、診療情報データベース2から学習データおよび学習前のモデルが取得され、メモリ11に格納されてもよい。学習データは、過去の診療判断および治療結果に関するデータであり、過去の複数の診療対象、つまり過去の複数の患者それぞれに関する1以上の特徴量に関する値と、当該過去の患者に対して選択された選択肢と、当該選択された選択肢による治療結果とを1組とするデータである。
【0065】
学習機能107は、学習データを用いてモデルを学習することにより予測モデルを生成する。具体的には、学習機能107は、1以上の特徴量に関する値が入力され、各選択肢の治療効果を出力する予測モデルを生成する。また、学習機能107は、予測モデルに基づき、第1重要度を出力する第1重要度予測モデルと、第2重要度を出力する第2重要度予測モデルとを生成する。さらに、学習機能107は、予測モデルが非線形モデルなど、予測モデル単体では特徴量の第1重要度および第2重要度を得ることが困難な場合に、特徴量の重要度を説明するための説明モデルを学習により生成する。もちろん、予測モデルが線形モデルである場合でも、説明モデルが生成されてもよい。
【0066】
次に、第3の実施形態に係る学習データの一例について
図17を参照して説明する。
図17は、過去の治療実績に基づく患者情報を示すテーブルである。ここでは、IDとなる番号と、年齢X
1と、疾患の進行度を示すステージX
2と、治療Tと、アウトカムである生存期間Y
(0)およびY
(1)とが、それぞれ対応付けられる。年齢とステージとは、特徴量の一例であり、ここでは2つの特徴量を示すが、これに限らずi個(iは2以上の自然数)の特徴量が存在してもよい。治療Tは、当該患者の治療としてどの選択肢が選択されたかを示し、ここでは、投薬であれば「0」、手術であれば「1」とする。生存期間Y
(0)は、治療で投薬が選択された場合の生存期間であり、生存期間Y
(1)は、治療で手術が選択された場合の生存期間である。なお、1人の患者の治療として1つの選択肢しか選択されない、つまりここでは、治療か手術かのどちらかしか選択されないため、1人の患者に対しては、生存期間Y
(0)または生存期間Y
(1)のどちらかしか情報が存在しない。
【0067】
ここで、
図17に示すような学習データを用いた予測モデルおよび重要度の算出モデルの第1の学習方法を説明する。第1の学習方法として、治療の選択肢ごとの治療効果(ここでは生存期間)を予測する予測モデルとして、個別因果効果(ITE:Individual Treatment Effect)を機械学習で推定するフレームワークであるMeta-Learnerの一種であるT-Learnerを用い、かつ線形回帰モデルを想定した方法を説明する。ここでは、説明の便宜上、選択肢として治療または手術の2種類を想定し、特徴量としてX
1およびX
2の2種類を想定するが、それぞれ3種類以上であっても同様の方法で学習できる。
【0068】
はじめに、学習機能107が、学習データから選択肢ごとにグループを生成する。すなわち、学習機能107が、治療として投薬が選択された患者情報のグループと、治療として手術が選択された患者情報のグループとに分類する。
【0069】
次に、学習機能107は、特徴量X
iを用いて、選択肢ごとに別々にアウトカムYを予測するモデルを教師あり学習によって学習する。つまり、
図17の例では、以下の式(1)のような投薬に関するモデルであれば、特徴量X
1およびX
2を入力し、生存期間Y
(0)を出力するようにモデルを学習することで、式(1)のα
0およびβ
0の係数が学習される。なお、γ
0はバイアスである。
Y
(0)=α
0X
1
(0)+β
0X
2
(0)+γ
0 (1)
なお、特徴量X
1およびX
2に対する上付き(0)は、投薬が選択された患者情報のグループの学習データであることを示す。
【0070】
同様に、以下の式(2)のような手術に関するモデルであれば、特徴量X1およびX2を入力し、生存期間Y(1)を出力するようにモデルを学習することで、式(2)のα1およびβ1の係数が学習される。なお、γ1はバイアスである。
Y(1)=α1X1
(1)+β1X2
(1)+γ1 (2)
なお、特徴量X1およびX2に対する上付き(1)は、手術が選択された患者情報のグループの学習データであることを示す。上述した選択肢ごとの予測モデルの学習については、T-Learnerにおけるアウトカムの推定モデルの学習と同様であるため、具体的な説明は省略する。
【0071】
ここで、投薬を標準治療とみなした場合、ベースライン効果τ^Bの算出式は、投薬に関する予測モデルである式(1)と同様であり、式(3)で表される。個別因果効果である治療間の効果差τ^ITEの算出式は、式(4)で表される。上付きハット「^」は、推定値であることを示す。
τ^B=α0X1+β0X2+γ0 (3)
τ^ITE=(α1-α0)X1+(β1-β0)X2+γ1-γ0 (4)
【0072】
ここでは式(3)および式(4)は線形回帰モデルで表されるため、式(3)は第1重要度予測モデルであるともいえる。係数α0は、特徴量X1のベースライン効果に対する影響度、つまり特徴量X1の第1重要度を示す。係数β0は特徴量X2のベースライン効果に対する影響度、つまり特徴量X2の第1重要度を示す。同様に、式(4)は第2重要度予測モデルであるともいえる。係数(α1-α0)の値が特徴量X1の治療間の効果差に対する影響度、つまり特徴量X1の第2重要度を示す。同様に、係数(β1-β0)は特徴量X2の治療間の効果差に対する影響度、つまり特徴量X2の第2重要度を示す。
よって、算出機能103により、式(3)および式(4)を用いて、各特徴量に関する第1重要度および第2重要度を算出することができる。
【0073】
次に、標準治療が存在しない場合の予測モデルおよび重要度の算出モデルの第2の学習方法について説明する。
第1の学習方法では、投薬治療を標準治療としてベースライン効果の選択肢と設定したが、明確な標準治療がない場合には、ベースライン効果を予測する予測モデルを別途生成する必要がある。
【0074】
例えば、治療に関する各選択肢、つまり投薬および手術のそれぞれの予測モデルの平均を、ベースライン効果の予測モデルとすればよく、式(5)で表せる。
τ^B={(α0+α1)/2}*X1+{(β0+β1)/2}*X2+(γ0+γ1)/2 (5)
言い換えれば、式(5)は第1重要度予測モデルであり、「(α0+α1)/2」の値が特徴量X1の第1重要度として得られ、「(β0+β1)/2」の値が特徴量X2の第2重要度として得られる。なお、治療間の効果差τ^ITEおよび第2重要度については、式(4)を用いて算出すればよい。
【0075】
他の例では、投薬と手術とに分けてそれぞれ予測モデルを生成するのではなく、全ての学習データを用いて、例えば式(6)に示すように、治療Tの項を入れずに予測モデルを学習してもよい。
Y(i)=αBX1
(i)+βBX2
(i)+γB,i∈(0,1) (6)
すなわち、投薬と治療とのどちらの選択肢も区別せずに、特徴量X1およびX2を入力データとし、アウトカムである生存期間を正解データとした学習データを用いて、式(6)における係数であるαBおよびβB、バイアスγBの値を学習させる。学習が完了した後、ベースライン効果の予測モデルは、例えば式(7)で表せる。
τ^B=αBX1+βBX2+γB (7)
式(7)によれば、「αB」の値が特徴量X1の第1重要度として得られ、「βB」の値が特徴量X2の第2重要度として得られる。
なお、ベースライン効果の予測モデルとして、式(8)に示すように治療Tの項を入れた予測モデルが用いられてもよい。λは係数である。
τ^B=λT+αBX1+βBX2+γB (8)
式(8)のような場合には、予測モデルに治療Tの項が含まれるため、厳密にはベースライン効果の予測モデルとはいえないが、第1重要度は各特徴量の係数で定まるため、予測モデルに治療Tの項が含まれていても問題ない。
【0076】
なお、上述の例では、学習データに含まれるそれぞれの患者データを均等に用いて学習を実行する場合を想定したが、一般的には治療の選択肢ごとに特徴量に偏りが生じるため、予測モデルによる予測結果にバイアスが生じる可能性がある。よって、傾向スコアを用いて学習データの偏りを調整してもよい。
【0077】
まず、例えば学習機能107により、選択肢ごとの傾向スコアを算出する傾向スコアモデルを学習する。傾向スコアモデルは、例えばロジスティック回帰を用いて算出すればよい。なお、傾向スコアモデルの学習および傾向スコアの算出については、一般的な手法を用いればよいため、ここでの具体的な説明は省略する。
【0078】
その後、学習機能107により、傾向スコアモデルを用いて算出された選択肢ごとの傾向スコアに基づいて、学習データを再構築する。例えば、選択肢の傾向スコアが高いほど、当該選択肢を選択する傾向にあることを示し、選択肢の傾向スコアが低いほど、当該選択肢を選択する可能性が低いことを示す。よって、選択肢の傾向スコアの逆数分、当該選択肢が選択された患者データを増やせばよい。例えば、手術の傾向スコアが「0.1」である場合、1/0.1=10人分のデータとなるように、手術が選択された1つの患者データから10個の患者データを生成する。生成される患者データは、生成元となる1つの患者データの特徴量の値を所定範囲内でランダムに振った値で生成されてもよい。
【0079】
次に、予測モデル、第1重要度予測モデルおよび第2重要度予測モデルの第3の学習方法について説明する。
第1の学習方法および第2の学習方法では、モデルが線形モデルである場合を想定したが、第2の学習方法では、モデルが非線形モデルである場合を想定する。
【0080】
例えば、投薬に関するアウトカムμ^0を出力する非線形モデルと、手術に関するアウトカムμ^1を出力する非線形モデルとは、式(9)および式(10)のように表せる。
μ^0=M0(Y(0)~X(0)) (9)
μ^1=M1(Y(1)~X(1)) (10)
ここで、M0( )は、投薬が選択された患者に関する患者データの特徴量X(0)と生存期間Y(0)とを用いた非線形モデルであり、M1( )は、手術が選択された患者に関する患者データの特徴量X(1)と生存期間Y(1)とを用いた非線形モデルである。非線形モデルとしては、例えばディープニューラルネットワーク、非線形サポートベクタマシンなど、一般的な機械学習および統計学で用いられる非線形モデルであればよい。なお、式(9)および式(10)で示される非線形モデルの学習は、学習データで用いた一般的な学習方法を用いればよい。
【0081】
投薬を標準治療としてベースラインの選択肢とみなした場合、ベースライン効果τ^Bと、治療間の効果差τ^ITEとは、式(11)および式(12)のように表せる。
τ^B=μ^0(X) (11)
τ^ITE=μ^1(X)-μ^0(X) (12)
ここで、線形モデルでは各特徴量の係数が第1重要度および第2重要度として用いることができるが、式(11)および式(12)に示すような非線形モデルでは、各特徴量の係数に相当する値がないため、第1重要度および第2重要度を算出するための説明モデルを用意する。
【0082】
説明モデルとしては、複雑なモデルを解釈可能なモデルに変換する大域説明モデルと、特定の入力に対する予測根拠を説明する局所説明モデルとを生成することを想定し、少なくともどちらか一方を用いて、第1重要度および第2重要度を算出すればよい。大域説明モデルは、例えばランダムフォレストおよびディープニューラルネットワークといった複雑なモデルを、単一の決定木、ルールベースのモデルといった可読性の高いモデルで近似的に表現する。大域説明モデルでは、決定木であれば、ノードとなる各要素が特徴量とみなせるので、各ノードの重み係数を非線形モデルM0およびM1に関する各特徴量の第1重要度および第2重要度として用いることができる。
【0083】
一方、局所説明モデルとしては、機械学習モデルの解釈性および説明性に対して用いられる手法である、予測モデルにおいて各特徴量の寄与を定量的に表現できるLIME(local interpretable model-agnostic explanations)、SHAP(Shapley Additive exPlanations)およびAnchorsなどを用いることができる。なお、各手法での特徴量に関する説明性を出力する処理については、一般的な手法であるため、ここでの説明は省略する。
【0084】
なお、ここでは、選択肢間の効果差τ^ITEを算出するためにX-Learnerを用いる例を示すが、これに限らず、X-Learner、R-Learner、DR-Learner、Causal Forest、GANITEなど一般的な個別因果効果を算出する方法であれば適用可能である。
【0085】
以上に示した第3の実施形態によれば、予測モデルを学習により生成し、さらに予測モデルが非線形モデルであるなど、特徴量の重要度を抽出できない場合は、重要度を算出するための説明モデルを学習して生成する。これにより、第1の実施形態に係る予測モデルとして利用することができる。また、ベースラインの効果および選択肢間の効果差に関する予測モデルが非線形モデルで生成され、単純に特徴量の重要度を算出できない場合でも、説明モデルにより特徴量の重要度を算出することができる。
【0086】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、診療支援において有益な予測根拠を提示できることである。
【0087】
加えて、実施形態に係る各機能は、当該処理を実行するプログラムをワークステーション等のコンピュータにインストールし、これらをメモリ上で展開することによっても実現することができる。このとき、コンピュータに当該手法を実行させることのできるプログラムは、磁気ディスク(ハードディスクなど)、光ディスク(CD-ROM、DVD、Blu-ray(登録商標)ディスクなど)、半導体メモリなどの記憶媒体に格納して頒布することも可能である。
【0088】
なお、上記説明において用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))などの回路を意味する。プロセッサが例えばCPUである場合、プロセッサは記憶回路に保存されたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。一方、プロセッサが例えばASICである場合、プログラムが記憶回路に保存される代わりに、当該機能がプロセッサの回路内に論理回路として直接組み込まれる。なお、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて1つのプロセッサとして構成し、その機能を実現するようにしてもよい。さらに、図における複数の構成要素を1つのプロセッサへ統合してその機能を実現するようにしてもよい。
【0089】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0090】
1 医用情報処理装置
2 診療情報データベース
10 処理回路
11 メモリ
12 入力インタフェース
13 通信インタフェース
30 グラフ
31 特徴量
32,41 第1重要度
33,42 第2重要度
34,35,81 アイコン
36,51~53 グラフ
81 アイコン
101 取得機能
102 予測機能
103 算出機能
104 提示機能
105 判定機能
106 通知機能
107 学習機能
1001,1101,1201 生存期間
1002,1003,1102,1103,1202,1203 領域
1501 リスト
1502 特徴量