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  • 特開-ボルトの素材として用いられる鋼材 図1
  • 特開-ボルトの素材として用いられる鋼材 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103101
(43)【公開日】2023-07-26
(54)【発明の名称】ボルトの素材として用いられる鋼材
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230719BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20230719BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20230719BHJP
   C21D 9/00 20060101ALN20230719BHJP
   C21D 8/06 20060101ALN20230719BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/14
C22C38/54
C21D9/00 B
C21D8/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003969
(22)【出願日】2022-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】崎山 裕嗣
(72)【発明者】
【氏名】松井 直樹
(72)【発明者】
【氏名】梅原 美百合
【テーマコード(参考)】
4K032
4K042
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA05
4K032AA08
4K032AA11
4K032AA14
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA21
4K032AA22
4K032AA23
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA35
4K032AA36
4K032AA40
4K032BA02
4K032CA02
4K032CB00
4K032CG00
4K042AA25
4K042BA08
4K042CA02
4K042CA03
4K042CA05
4K042CA06
4K042CA08
4K042CA09
4K042CA10
4K042CA12
4K042CA13
4K042CA14
4K042DA01
4K042DA02
4K042DC02
4K042DC03
4K042DE02
(57)【要約】
【課題】水素の侵入を抑制可能な鋼材を提供する。
【解決手段】本開示による鋼材は、質量%で、C:0.18~0.28%、Si:0.02~0.50%、Mn:0.30~1.20%、P:0.020%以下、S:0.020%以下、Cu:0.35~0.60%、Ni:0.30~0.60%、B:0.0002~0.0050%、Ti:0.005~0.100%、Mo:0.20~0.50%、Al:0.005~0.060%、Sn:0.010~0.500%以下、及び、N:0.0100%以下、を含有し、残部はFe及び不純物からなり、鋼材の長手方向及び径方向を含む断面のうち、鋼材の表面から径方向に1000μm、長手方向に1000μmの矩形観察領域において、Cu偏析度σが、0.050以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材であって、
質量%で、
C:0.18~0.28%、
Si:0.02~0.50%、
Mn:0.30~1.20%、
P:0.020%以下、
S:0.020%以下、
Cu:0.35~0.60%、
Ni:0.30~0.60%、
B:0.0002~0.0050%、
Ti:0.005~0.100%、
Mo:0.20~0.50%、
Al:0.005~0.060%、
Sn:0.010~0.500%以下、及び、
N:0.0100%以下、
を含有し、残部はFe及び不純物からなり、
前記鋼材の長手方向及び径方向を含む断面のうち、前記鋼材の表面から前記径方向に1000μm、前記長手方向に1000μmの矩形観察領域において、
前記径方向に400分割、前記長手方向に400分割された16万個の測定区域に対して、電子線マイクロアナライザによる面分析を実施し、得られた各測定区域での質量%でのCu含有量を、[Cu]MAとし、
全ての前記測定区域の前記[Cu]MAの算術平均値を、[Cu]AVEとし、
各測定区域の前記[Cu]MAの前記[Cu]AVEに対する比を、[Cu]とし、
複数の前記測定区域のうち、前記長手方向に一列に配列された一行分の複数の前記測定区域を測定行と定義したとき、各測定行において、前記測定行を構成する複数の前記測定区域の前記[Cu]の合計の、前記測定行を構成する複数の前記測定区域の総数に対する比を、[Cu]とし、
全ての前記測定行の前記[Cu]の標本標準偏差を、Cu偏析度σとしたとき、
前記Cu偏析度σは、0.050以下である、
鋼材。
【請求項2】
請求項1に記載の鋼材であってさらに、Feの一部に代えて、
Cr:0.10%以下、
V:0.10%以下、
Nb:0.10%以下、
Ca:0.0050%以下、
Mg:0.0050%以下、及び、
希土類元素:0.0200%以下、
からなる群から選択される1元素以上を含有する、
鋼材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、鋼材に関し、さらに詳しくは、ボルトの素材として用いられる鋼材に関する。
【背景技術】
【0002】
ボルトは、産業機械、自動車、橋梁及び建築物等の締結手段として用いられる。これらの用途のうち、橋梁や建築物等は、海浜地域に建てられたり、寒冷地に建てられたりする場合がある。海浜地域は塩分の多い腐食環境である。また、寒冷地では、融雪塩や凍結防止剤が使用される場合がある。融雪塩や凍結防止剤は、ボルトを構成する鋼材を腐食する。つまり、寒冷地も腐食環境である場合が多い。
【0003】
このような腐食環境では、水素脆化が起こりやすい。したがって、腐食環境で用いられるボルトでは、優れた耐水素脆化特性が求められる。
【0004】
耐食性の向上及び耐水素脆化特性の向上に関する技術が、特開2008-274367号公報(特許文献1)に提案されている。
【0005】
特許文献1に開示された鋼材は、質量%で、C:0.15~0.6%、Si:0.05~0.5%、Mn及びCr:合計で0.5~3.5%、P:0.05%以下、S:0.03%以下、Cu:0.3%未満、Ni:1%未満、O:0.01%以下、及び、Sn:0.05~0.50%を含有し、残部がFe及び不純物からなり、Cu/Sn比が1以下である組成を有する。この文献では、Snを含有することで水素の鋼材への侵入を抑制し、その結果、耐水素脆化特性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-274367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1にも開示されているとおり、鋼材への水素の侵入を抑制できれば、鋼材の耐水素脆化特性が高まることが知られている。鋼材の耐水素脆化特性を高めるために、特許文献1とは異なる手段により、鋼材への水素の侵入を抑制してもよい。
【0008】
本開示の目的は、水素の侵入を抑制可能な鋼材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示による鋼材は、次の構成を有する。
【0010】
鋼材であって、
質量%で、
C:0.18~0.28%、
Si:0.02~0.50%、
Mn:0.30~1.20%、
P:0.020%以下、
S:0.020%以下、
Cu:0.35~0.60%、
Ni:0.30~0.60%、
B:0.0002~0.0050%、
Ti:0.005~0.100%、
Mo:0.20~0.50%、
Al:0.005~0.060%、
Sn:0.010~0.500%以下、及び、
N:0.0100%以下、
を含有し、残部はFe及び不純物からなり、
前記鋼材の長手方向及び径方向を含む断面のうち、前記鋼材の表面から前記径方向に1000μm、前記長手方向に1000μmの矩形観察領域において、
前記径方向に400分割、前記長手方向に400分割された16万個の測定区域に対して、電子線マイクロアナライザによる面分析を実施し、得られた各測定区域での質量%でのCu含有量を、[Cu]MAとし、
全ての前記測定区域の前記[Cu]MAの算術平均値を、[Cu]AVEとし、
各測定区域の前記[Cu]MAの前記[Cu]AVEに対する比を、[Cu]とし、
複数の前記測定区域のうち、前記長手方向に一列に配列された一行分の複数の前記測定区域を測定行と定義したとき、各測定行において、前記測定行を構成する複数の前記測定区域の前記[Cu]の合計の、前記測定行を構成する複数の前記測定区域の総数に対する比を、[Cu]とし、
全ての前記測定行の前記[Cu]の標本標準偏差を、Cu偏析度σとしたとき、
前記Cu偏析度σは、0.050以下である、
鋼材。
【発明の効果】
【0011】
本開示による鋼材は、水素の侵入を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、Cu偏析度σを説明するための模式図である。
図2図2は、図1中の矩形観察領域100内でのCu偏析度σの測定方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、水素の侵入を抑制可能な鋼材について、調査及び検討を行った。その結果、次の知見を得た。
【0014】
初めに、本発明者らは、水素侵入を抑制可能な鋼材について、化学組成の観点から検討を行った。その結果、本発明者らは、鋼材にCuを含有することが有効であると考えた。鋼材への水素の侵入は、鋼材表面に発生した水素によって生じる現象である。Cuは鋼材の腐食を抑制する。腐食の抑制により、鋼材表面での水素の発生を抑制できる。そのため、Cuにより、鋼材への水素の侵入が抑制される。
【0015】
以上の知見に基づいて、水素の侵入を抑制可能な鋼材の化学組成を検討した。その結果、本発明者らは、質量%で、C:0.18~0.28%、Si:0.02~0.50%、Mn:0.30~1.20%、P:0.020%以下、S:0.020%以下、Cu:0.35~0.60%、Ni:0.30~0.60%、B:0.0002~0.0050%、Ti:0.005~0.100%、Mo:0.20~0.50%、Al:0.005~0.060%、Sn:0.010~0.500%以下、及び、N:0.0100%以下、Cr:0~0.10%、V:0~0.10%、Nb:0~0.10%、Ca:0~0.0050%、Mg:0~0.0050%、希土類元素:0~0.0200%、及び、残部はFe及び不純物からなる化学組成を有する鋼材であれば、水素の侵入を十分に抑制できる可能性があると考えた。
【0016】
しかしながら、上述の化学組成を有する鋼材であっても、依然として水素の侵入を十分に抑制できない場合があることが判明した。そこで、本発明者らは、水素侵入量を十分に低減できない理由について、さらに調査及び検討を行った。
【0017】
ここで、本発明者らは、鋼材の特に表層部分でのCu濃度分布の均一度に注目した。水素は外部から侵入するため、鋼材の表層でのCu濃度分布が影響する。化学組成中の各元素含有量が上述の範囲内であったとしても、表層のCu濃度分布が不均一であれば、表層のうち、Cu濃度の薄い領域から水素が侵入しやすくなる。さらに、Cu濃度分布が不均一であれば、鋼材表面が不均一に腐食される。この場合、鋼材表面に凹凸が生じ、腐食反応が生じる表面積が増大する。そのため、腐食反応が増大してしまい、水素侵入量を十分に抑えることができなくなる。
【0018】
以上の考察に基づいて、本発明者らは表層のCu濃度分布と水素侵入量との関係について、さらに調整を行った。その結果、後述の電子線マイクロアナライザを用いて面分析により得られる、表層でのCu偏析度σが0.050以下であれば、表層でのCu濃度が十分に均一となり、その結果、水素の侵入を十分に抑制できることを、本発明者らは知見した。
【0019】
以上の知見に基づいて完成した本実施形態による鋼材は、次の構成を有する。
【0020】
[1]
鋼材であって、
質量%で、
C:0.18~0.28%、
Si:0.02~0.50%、
Mn:0.30~1.20%、
P:0.020%以下、
S:0.020%以下、
Cu:0.35~0.60%、
Ni:0.30~0.60%、
B:0.0002~0.0050%、
Ti:0.005~0.100%、
Mo:0.20~0.50%、
Al:0.005~0.060%、
Sn:0.010~0.500%以下、及び、
N:0.0100%以下、
を含有し、残部はFe及び不純物からなり、
前記鋼材の長手方向及び径方向を含む断面のうち、前記鋼材の表面から前記径方向に1000μm、前記長手方向に1000μmの矩形観察領域において、
前記径方向に400分割、前記長手方向に400分割された16万個の測定区域に対して、電子線マイクロアナライザによる面分析を実施し、得られた各測定区域での質量%でのCu含有量を、[Cu]MAとし、
全ての前記測定区域の前記[Cu]MAの算術平均値を、[Cu]AVEとし、
各測定区域の前記[Cu]MAの前記[Cu]AVEに対する比を、[Cu]とし、
複数の前記測定区域のうち、前記長手方向に一列に配列された一行分の複数の前記測定区域を測定行と定義したとき、各測定行において、前記測定行を構成する複数の前記測定区域の前記[Cu]の合計の、前記測定行を構成する複数の前記測定区域の総数に対する比を、[Cu]とし、
全ての前記測定行の前記[Cu]の標本標準偏差を、Cu偏析度σとしたとき、
前記Cu偏析度σは、0.050以下である、
鋼材。
【0021】
[2]
[1]に記載の鋼材であってさらに、Feの一部に代えて、
Cr:0.10%以下、
V:0.10%以下、
Nb:0.10%以下、
Ca:0.0050%以下、
Mg:0.0050%以下、及び、
希土類元素:0.0200%以下、
からなる群から選択される1元素以上を含有する、
鋼材。
【0022】
以下、本実施形態による鋼材について詳述する。
なお、元素に関する「%」は、特に断りがない限り、質量%を意味する。
【0023】
[本実施形態の鋼材の特徴]
本実施形態の鋼材は、次の特徴を含む。
(特徴1)
化学組成中の各元素含有量が本実施形態に示すとおりである。
(特徴2)
後述の電子線マイクロアナライザを用いた面分析を実施して得られた鋼材の表層でのCu偏析度σが0.050以下である。
以下、各特徴について説明する。
【0024】
[(特徴1)化学組成について]
本実施形態による鋼材の化学組成は、次の元素を含有する。
【0025】
C:0.18~0.28%
炭素(C)は、鋼材の焼入れ性を高めて、鋼材を素材として製造されるボルトの強度を高める。C含有量が0.18%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、C含有量が0.28%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の冷間鍛造性が低下する。
したがって、C含有量は0.18~0.28%である。
C含有量の好ましい下限は0.19%であり、さらに好ましくは0.20%であり、さらに好ましくは0.21%である。
C含有量の好ましい上限は0.27%であり、さらに好ましくは0.26%であり、さらに好ましくは0.25%である。
【0026】
Si:0.02~0.50%
シリコン(Si)は、固溶強化により、鋼材を素材として製造されるボルトの強度を高める。Si含有量が0.02%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Si含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の冷間鍛造性が低下する。
したがって、Si含有量は0.02~0.50%である。
Si含有量の好ましい下限は0.04%であり、さらに好ましくは0.06%であり、さらに好ましくは0.08%である。
Si含有量の好ましい上限は0.45%であり、さらに好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.35%である。
【0027】
Mn:0.20~1.20%
マンガン(Mn)は、鋼材の焼入れ性を高めて、ボルトの強度を高める。Mn含有量が0.20%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Mn含有量が1.20%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の冷間鍛造性が低下する。
したがって、Mn含有量は0.20~1.20%である。
Mn含有量の好ましい下限は0.25%であり、さらに好ましくは0.30%である。
Mn含有量の好ましい上限は1.00%であり、さらに好ましくは0.90%であり、さらに好ましくは0.80%である。
【0028】
P:0.020%以下
燐(P)は不純物である。つまり、P含有量の下限は0%超である。P含有量が0.020%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Pが粒界に偏析する。その結果、ボルトの耐水素脆化特性が低下する。
したがって、P含有量は0.020%以下である。
P含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、P含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、P含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%である。
P含有量の好ましい上限は0.015%であり、さらに好ましくは0.012%であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.008%であり、さらに好ましくは0.007%である。
【0029】
S:0.020%以下
硫黄(S)は不純物である。つまり、S含有量の下限は0%超である。S含有量が0.020%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Sが粒界に偏析する。その結果、ボルトの耐水素脆化特性が低下する。
したがって、S含有量は0.020%以下である。
S含有量はなるべく低い方が好ましい。しかしながら、S含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、S含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%である。
S含有量の好ましい上限は0.012%であり、さらに好ましくは0.010%であり、さらに好ましくは0.008%である。
【0030】
Cu:0.35~0.60%
銅(Cu)は、鋼材の腐食を抑制する。これにより、鋼材表面での水素の発生が抑制される。その結果、鋼材への水素の侵入が抑制される。Cu含有量が0.35%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Cu含有量が0.60%を超えれば、鋼材が脆化する。そのため、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の熱間加工性や冷間鍛造性が低下する。
したがって、Cu含有量は、0.35~0.60%である。
Cu含有量の好ましい下限は0.38%であり、さらに好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.42%である。
Cu含有量の好ましい上限は0.58%であり、さらに好ましくは0.56%であり、さらに好ましくは0.54%である。
【0031】
Ni:0.30~0.60%
ニッケル(Ni)は、鋼材の焼入れ性を高め、ボルトの強度を高める。Niはさらに、ボルトの耐食性を高める。Niはさらに、Cuとともに含有されて、鋼材の熱間加工時の疵の発生を抑制する。その結果、Cuを含有する本実施形態の鋼材において、Niは、鋼材の熱間加工性を高める。Ni含有量が0.30%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Ni含有量が0.60%を超えれば、鋼材の焼入れ性が過剰に高くなる。この場合、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材の冷間鍛造性が低下する。
したがって、Ni含有量は0.30~0.60%である。
Ni含有量の好ましい下限は0.32%であり、であり、さらに好ましくは0.34%であり、さらに好ましくは0.36%である。
Ni含有量の好ましい上限は0.58%であり、さらに好ましくは0.56%であり、さらに好ましくは0.54%である。
【0032】
B:0.0002~0.0050%
ボロン(B)は、鋼材の焼入れ性を高め、ボルトの強度を高める。B含有量が0.0002%未満であれば、上記効果が十分に得られない。
一方、B含有量が0.0050%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大なB窒化物が生成する。粗大なB窒化物は破壊の起点になる。その結果、鋼材の冷間鍛造性が低下する。
したがって、B含有量は0.0002~0.0050%である。
B含有量の好ましい下限は0.0010%であり、さらに好ましくは0.0014%であり、さらに好ましくは0.0016%である。
B含有量の好ましい上限は0.0040%であり、さらに好ましくは0.0035%である。
【0033】
Ti:0.005~0.100%
チタン(Ti)は、Nと結合してTi窒化物を形成し、BがNと結合するのを抑制する。これにより、Bが鋼材の焼入れ性を高めることができる。Ti含有量が0.005%未満であれば、上記効果が十分に得られない。
一方、Ti含有量が0.100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、炭化物、炭窒化物等のTi析出物が過剰に多く生成する。この場合、鋼材の耐水素脆化特性が低下する。
したがって、Ti含有量は0.005~0.100%である。
Ti含有量の好ましい下限は0.010%である。
Ti含有量の好ましい上限は0.060%であり、さらに好ましくは0.050%である。
【0034】
Mo:0.20~0.50%
モリブデン(Mo)は、鋼の焼入れ性を高め、ボルトの強度を高める。Moはさらに、微細な炭化物を形成して、ボルトの強度を高める。Mo含有量が0.20%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Mo含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼材が過剰に硬くなる。この場合、鋼材の冷間鍛造性が低下する。
したがって、Mo含有量は0.20~0.50%である。
Mo含有量の好ましい下限は0.22%であり、さらに好ましくは0.24%であり、さらに好ましくは0.26%である。
Mo含有量の好ましい上限は0.48%であり、さらに好ましくは0.46%であり、さらに好ましくは0.44%である。
【0035】
Al:0.005~0.060%
アルミニウム(Al)は、鋼を脱酸する。Al含有量が0.005%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼の脱酸が不十分となる。この場合、粗大な酸化物が生成する。そのため、ボルトの耐水素脆化特性が低下する。
一方、Al含有量が0.060%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大なAl窒化物が生成する。粗大なAl窒化物は破壊の起点になる。そのため、鋼材の加工性が低下する。
したがって、Al含有量は0.005~0.060%である。
Al含有量の好ましい下限は0.010%であり、さらに好ましくは0.015%であり、さらに好ましくは0.020%である。
Al含有量の好ましい上限は0.050%であり、さらに好ましくは0.045%であり、さらに好ましくは0.040%である。
本実施形態の鋼材の化学組成において、Al含有量は、全Al(Total-Al)含有量を意味する。
【0036】
Sn:0.010~0.500%以下
スズ(Sn)は、鋼材への水素の侵入を抑制する。Sn含有量が0.010%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Sn含有量が0.500%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Snが粒界に偏析する。この場合、鋼材の熱間加工性及び冷間鍛造性が低下する。さらに、ボルトの耐水素脆化特性が低下する。
したがって、Sn含有量は0.010~0.500%である。
Sn含有量の好ましい下限は0.020%であり、さらに好ましくは0.040%であり、さらに好ましくは0.060%である。
Sn含有量の好ましい上限は0.400%であり、さらに好ましくは0.300%であり、さらに好ましくは0.250%であり、さらに好ましくは0.200%である。
【0037】
N:0.0100%以下
窒素(N)は、不可避に含有される。つまり、N含有量は0%超である。
Nは、Al又はTiと結合して窒化物又は炭窒化物を形成する。これらの窒化物及び炭窒化物は、ピンニング効果により結晶粒の粗大化を抑制する。その結果、鋼材の冷間鍛造性を高める。
しかしながら、N含有量が0.0100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大な窒化物が生成する。粗大な窒化物は破壊の起点になり、鋼材の冷間鍛造性を低下させる。さらに、ボルトの耐水素脆化特性が低下する。
したがって、N含有量は0.0100%以下である。
N含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%である。
N含有量の好ましい上限は0.0080%であり、さらに好ましくは0.0070%であり、さらに好ましくは0.0060%であり、さらに好ましくは0.0050%であり、さらに好ましくは0.0040%である。
【0038】
本実施形態による鋼材の化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、化学組成における不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、本実施形態による鋼材に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0039】
[任意元素(Optional Elements)]
本実施形態の鋼材はさらに、Feの一部に代えて、
Cr:0.10%以下、
V:0.10%以下、
Nb:0.10%以下、
Ca:0.0050%以下、
Mg:0.0050%以下、及び、
希土類元素:0.0200%以下、
からなる群から選択される1元素以上を含有してもよい。
これらの元素はいずれも任意元素であり、含有されなくてもよい。以下、これらの任意元素について説明する。
【0040】
[第1群:Cr]
Cr:0.10%以下
クロム(Cr)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cr含有量は0%であってもよい。
含有される場合、Crは、鋼材の耐食性を高める。Crが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Cr含有量が高すぎれば、製造コストが高くなる。
したがって、Cr含有量は0~0.10%であり、含有される場合、0.10%以下(0超~0.10%)である。
Cr含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。
Cr含有量の好ましい上限は0.09%であり、さらに好ましくは0.08%であり、さらに好ましくは0.07%である。
【0041】
[第2群:V及びNb]
本実施形態の鋼材は、Feの一部に代えて、Mo、V及びNbからなる群から選択される1元素以上を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも、鋼材の強度を高める。
【0042】
V:0.10%以下
バナジウム(V)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、V含有量は0%であってもよい。
含有される場合、つまり、V含有量が0%超である場合、Vは、炭化物、炭窒化物等のV析出物を形成する。V析出物はボルトの強度を高める。Vが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、V含有量が0.10%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、V析出物が多く生成する。この場合、鋼材への水素侵入量が多くなる。その結果、鋼材の耐水素脆化特性が低下する。
したがって、V含有量は0~0.10%であり、含有される場合、0.10%以下(0超~0.10%)である。
V含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。
V含有量の好ましい上限は0.08%であり、さらに好ましくは0.06%であり、さらに好ましくは0.04%である。
【0043】
Nb:0.10%以下
ニオブ(Nb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Nb含有量は0%であってもよい。含有される場合、つまり、Nb含有量が0%超である場合、Nbは、炭化物、炭窒化物等のNb析出物を形成する。Nb析出物はボルトの強度を高める。Nbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Nb含有量が0.10%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、Nb析出物が多く生成する。この場合、鋼材への水素侵入量が多くなる。その結果、鋼材の耐水素脆化特性が低下する。
したがって、Nb含有量は0~0.10%であり、含有される場合、0.10%以下(0超~0.10%)である。
Nb含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。
Nb含有量の好ましい上限は0.08%であり、さらに好ましくは0.06%である。水素侵入量をさらに低減させるためのより有効なNb含有量の好ましい上限は0.04%未満である。
【0044】
[第3群:Ca、Mg及び希土類元素]
本実施形態の鋼材は、Feの一部に代えて、Ca、Mg及び希土類元素(REM)からなる群から選択される1元素以上を含有してもよい。これらの元素は任意元素であり、いずれも、鋼材中のMnSを微細化して、鋼材の耐水素脆化特性を高める。
【0045】
Ca:0~0.0050%
カルシウム(Ca)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ca含有量は0%であってもよい。
Caが含有される場合、つまり、Caが0%超である場合、CaはMnSを微細化する。そのため、鋼材の耐水素脆化特性が高まる。Caが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Ca含有量が0.0050%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大なCa酸化物が生成する。この場合、鋼材の耐水素脆化特性が低下する。
したがって、Ca含有量は0~0.0050%である。
Ca含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%であり、さらに好ましくは0.0005%である。
Ca含有量の好ましい上限は0.0040%であり、さらに好ましくは0.0030%である。
【0046】
Mg:0~0.0050%
マグネシウム(Mg)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mg含有量は0%であってもよい。
Mgが含有される場合、つまり、Mgが0%超である場合、MgはMnSを微細化する。そのため、鋼材の耐水素脆化特性が高まる。Mgが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Mg含有量が0.0050%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大なMg酸化物が生成する。この場合、鋼材の耐水素脆化特性が低下する。
したがって、Mg含有量は0~0.0050%である。
Mg含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0002%であり、さらに好ましくは0.0005%である。
Mg含有量の好ましい上限は0.0040%であり、さらに好ましくは0.0030%である。
【0047】
希土類元素(REM):0~0.0200%
希土類元素(REM)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、REM含有量は0%であってもよい。
REMが含有される場合、つまり、REMが0%超である場合、REMはMnSを微細化する。そのため、鋼材の耐水素脆化特性が高まる。REMが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、REM含有量が0.0200%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、粗大な酸化物が生成する。この場合、鋼材の耐水素脆化特性が低下する。
したがって、REM含有量は0~0.0200%である。
REM含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%であり、さらに好ましくは0.0020%であり、さらに好ましくは0.0050%である。
REM含有量の好ましい上限は0.0150%であり、さらに好ましくは0.0100%である。
【0048】
本明細書におけるREMとは、原子番号21番のスカンジウム(Sc)、原子番号39番のイットリウム(Y)、及び、ランタノイドである原子番号57番のランタン(La)~原子番号71番のルテチウム(Lu)からなる群から選択される1元素以上の元素である。本明細書におけるREM含有量とは、これらの元素の合計含有量である。
【0049】
[鋼材の化学組成の測定方法]
本実施形態の鋼材の化学組成は、JIS G0321:2017に準拠した周知の成分分析法で測定できる。具体的には、ドリルを用いて、鋼材の表面から1mm深さ以上の内部から、切粉を採取する。採取された切粉を酸に溶解させて溶液を得る。溶液に対して、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry)を実施して、化学組成の元素分析を実施する。C含有量及びS含有量については、周知の高周波燃焼法(燃焼-赤外線吸収法)により求める。N含有量については、周知の不活性ガス溶融-熱伝導度法を用いて求める。
【0050】
なお、各元素含有量は、本実施形態で規定された有効数字に基づいて、測定された数値の端数を四捨五入して、本実施形態で規定された各元素含有量の最小桁までの数値とする。たとえば、本実施形態の鋼材のC含有量は小数第二位までの数値で規定される。したがって、C含有量は、測定された数値の小数第三位を四捨五入して得られた小数第二位までの数値とする。
【0051】
本実施形態の鋼材のC含有量以外の他の元素含有量も同様に、測定された値に対して、本実施形態で規定された最小桁までの数値の端数を四捨五入して得られた値を、当該元素含有量とする。
【0052】
なお、四捨五入とは、端数が5未満であれば切り捨て、端数が5以上であれば切り上げることを意味する。
【0053】
[(特徴2)鋼材表層部でのCu偏析度σについて]
本実施形態の鋼材ではさらに、鋼材の長手方向及び径方向を含む断面のうち、鋼材の表面から径方向(深さ方向)に1000μm、前記長手方向に1000μmの矩形観察領域において、径方向に400分割、長手方向に400分割された16万個の測定区域に対して、電子線マイクロアナライザによる面分析を実施し、得られた各測定区域での質量%でのCu含有量を、[Cu]MAとし、全ての測定区域の[Cu]MAの算術平均値を、[Cu]AVEとし、各測定区域の[Cu]MAの[Cu]AVEに対する比を、[Cu]とし、複数の測定区域のうち、長手方向に一列に配列された一行分の複数の測定区域を測定行と定義したとき、各測定行において、測定行を構成する複数の測定区域の前記[Cu]の合計の、測定行を構成する複数の測定区域の総数に対する比を、[Cu]とし、全ての測定行の前記[Cu]の標本標準偏差を、Cu偏析度σとしたとき、Cu偏析度σは、0.050以下である。
以下、Cu偏析度σについて説明する。
【0054】
[Cu偏析度σについて]
図1は、Cu偏析度σを説明するための模式図である。図1を参照して、鋼材の長手方向L及び径方向Dを含む断面10のうち、鋼材の表面10Sから径方向Dに1000μm、長手方向Lに1000μmの矩形観察領域100を選択する。
【0055】
図1中に矩形観察領域100の拡大図を示す。鋼材表層のミクロな領域(矩形観察領域100)において、Cu偏析領域SEGが存在する場合、Cu偏析領域SEGは、鋼材の長手方向Lに延びている。ここで、Cu偏析領域SEGとは、Cu偏析領域SEG以外の他の領域と比較して、Cu濃度が高い領域である。
【0056】
断面10のうち、表面10Sから径方向Dに1000μm深さまでの領域を表層10Lと称する。矩形観察領域100は、表層10Lの任意の一部である。矩形観察領域100において1又は複数のCu偏析領域SEGが存在する場合、矩形観察領域100内でCu濃度にばらつきが生じている。この場合、表層10LでCu濃度のばらつきが生じていることを意味する。表層10L内にこのようなCu濃度のばらつきが生じている場合、表層10Lのうち、Cu濃度の低い領域で、外部から水素が侵入しやすくなる。したがって、表層10L内において、Cu濃度の分布はなるべく均一であることが、水素の侵入抑制には有効である。
【0057】
そこで、本実施形態の鋼材では、鋼材の表層10LのCu濃度分布の均一性を示す指標として、次の測定方法で求められる「Cu偏析度σ」を用いる。
【0058】
[Cu偏析度σの測定方法]
本実施形態の鋼材のCu偏析度σは次の方法で測定できる。
図1を参照して、表層10L内において、任意の矩形観察領域100を選択する。上述のとおり、矩形観察領域100は、鋼材の表面10Sから径方向Dに1000μm、長手方向Lに1000μmの矩形とする。
【0059】
図2は、図1中の矩形観察領域100内でのCu偏析度σの測定方法を説明するための模式図である。図2を参照して、矩形観察領域100に対して、電界放出型電子線マイクロアナライザ(FE-EPMA)を用いた面分析を実施する。具体的には、矩形観察領域100を、長手方向Lに400分割し、かつ、径方向Dに400分割して、矩形観察領域100を16万個の測定区域MAに区画する。
【0060】
各測定区域MAに対して、元素分析を実施する。元素分析では、加速電圧を15kV、照射電流を400nA、ビーム径を2μm、積算時間を0.1秒とする。測定対象元素を、Cuとし、各測定区域MAでの質量%でのCu含有量を求め、当該Cu含有量を[Cu]MAと定義する。
【0061】
得られた各測定区域MAでの[Cu]MAを用いて、次の方法で、矩形観察領域100でのCu偏析度σを求める。
【0062】
全ての測定区域MAでの質量%のCu含有量[Cu]MAの算術平均値を、[Cu]AVEと定義する。さらに、各測定区域MAでのCu含有量[Cu]MAの[Cu]AVEに対する比を、[Cu]と定義する。要するに、[Cu]は、Cu含有量の影響を除いた、各測定区域でのCu量を意味する。
【0063】
図2を参照して、400×400個の測定区域MAのうち、長手方向Lに一列に配列された一行分の測定区域を「測定行」ML1~ML400と定義する。各測定行MLj(jは1~400までの整数)は、長手方向Lに一列に配列された400個の測定区域MAで構成される。図2において、破線で囲まれた領域の複数の測定区域MAは、測定行ML1を構成する。
【0064】
各測定行MLjを構成する複数の測定区域MAの[Cu]の合計の、当該測定行MLjを構成する複数の測定区域MAの総数(すなわち400)に対する比を、[Cu]と定義する。[Cu]は、測定行MLjでのCu量を意味する。
【0065】
全ての測定行MLjの[Cu]の標本標準偏差を求める。得られた値を「Cu偏析度σ」と定義する。Cu偏析度σの有効数字は、小数第三位とする。つまり、Cu偏析度σは小数第四位の数値を四捨五入して得られた値である。
【0066】
[Cu偏析度σの意義について]
図1及び図2の矩形観察領域100に示すとおり、Cu偏析領域SEGは、鋼材の長手方向Lに延びている。そのため、各測定行MLjでのCu量[Cu]の標本標準偏差σは、Cuの偏析度を示す指標となる。
【0067】
Cu偏析度σが0.050を超えれば、表層10Lにおいて、Cu濃度分布の十分な均一性が得られていない。つまり、Cu濃度分布が過剰にばらついている。この場合、特徴1を有する鋼材であっても、水素の侵入を十分に抑制できない。
【0068】
Cu偏析度σが0.050以下であれば、特徴1を有する鋼材の表層10LでのCu濃度分布が十分に均一である。そのため、水素の侵入を十分に抑制できる。
【0069】
Cu偏析度σの好ましい上限は0.045であり、さらに好ましくは0.040であり、さらに好ましくは0.035であり、さらに好ましくは0.030である。Cu偏析度σはなるべく低い方が好ましい。Cu偏析度σの好ましい下限は0.000であり、さらに好ましくは0.005であり、さらに好ましくは0.010である。
【0070】
[本実施形態の鋼材の形状]
本実施形態の鋼材は、棒鋼又は線材である。棒鋼又は線材は、棒状に延びる鋼材である。鋼材はコイル状に巻かれたものであってもよいし、所定の長さに切断されたものであってもよい。
【0071】
[本実施形態の鋼材のミクロ組織]
本実施形態の鋼材のミクロ組織は、特に限定されない。本実施形態の鋼材が、ボルトの素材として使用される場合、鋼材の硬さが高すぎれば、ボルトの製造工程(伸線加工工程又は冷間鍛造工程)を実施する前に、球状化焼鈍処理が実施される。球状化焼鈍された鋼材の冷間鍛造性は高まる。そのため、本実施形態の鋼材を素材として冷間鍛造を実施し、ボルトを製造することが可能である。したがって、本実施形態の鋼材のミクロ組織は特に限定されない。
【0072】
[本実施形態の鋼材の用途]
本実施形態の鋼材は、産業機械、自動車、橋梁及び建築物等の締結手段の1種であるボルトの素材として適用可能である。なお、本実施形態の鋼材が上記用途以外の用途に用いられてもよい。
【0073】
[鋼材の製造方法]
本実施形態の鋼材の製造方法の一例を説明する。以降に説明する鋼材の製造方法は、本実施形態の鋼材を製造するための一例である。したがって、上述の特徴1及び特徴2を有する鋼材は、以降に説明する製造方法以外の他の製造方法により製造されてもよい。しかしながら、以降に説明する製造方法は、本実施形態の鋼材の製造方法の好ましい一例である。
【0074】
本実施形態の鋼材の製造方法の一例は、次の工程を含む。
(工程1)素材準備工程
(工程2)粗圧延工程
(工程3)仕上げ圧延工程
本製造方法ではさらに、仕上げ圧延工程において、次の条件を満たす。
条件:鋼材温度が1000~880℃の範囲内で、25%以上の減面率でのパス数を2以上とする。
以下、各工程について説明する。
【0075】
[(工程1)素材準備工程]
素材準備工程では、本実施形態の鋼材の素材を準備する。具体的には、化学組成中の各元素含有量が本実施形態の範囲内である溶鋼を製造する。精錬方法は特に限定されず、周知の方法を用いればよい。たとえば、周知の方法で製造された溶銑に対して転炉での精錬(一次精錬)を実施する。転炉から出鋼した溶鋼に対して、周知の二次精錬を実施する。以上の工程により、特徴1を満たす化学組成の溶鋼を製造する。
【0076】
製造された溶鋼を用いて、周知の鋳造法により素材を製造する。たとえば、溶鋼を用いて造塊法によりインゴットを製造してもよい。また、溶鋼を用いて連続鋳造法によりブルームを製造してもよい。以上の方法により、素材(インゴット又はブルーム)を製造する。
【0077】
[(工程2)粗圧延工程]
粗圧延工程では、素材準備工程で準備された素材(インゴット又はブルーム)に対して粗圧延を実施して、ビレットを製造する。
【0078】
粗圧延工程は、次の工程を含む。
(工程21)加熱工程
(工程22)圧延工程
以下、各工程21及び工程22について説明する。
【0079】
[(工程21)加熱工程]
加熱工程では、周知の方法で加熱炉を用いて素材を加熱する。加熱温度は特に限定されない。加熱温度は周知の温度で足りる。加熱温度は例えば、1000~1200℃である。
【0080】
[(工程22)圧延工程]
圧延工程では、加熱工程で加熱された素材を、分塊圧延機、又は、分解圧延機及び連続圧延機を用いて圧延(粗圧延)して、ビレットを製造する。
【0081】
具体的には、加熱された素材を、分塊圧延機を用いてリバース圧延して、ビレットを製造する。分塊圧延機は一対の水平ロールを備える。分塊圧延機では、リバース圧延を実施する。リバース圧延とは、素材が分塊圧延機を上流から下流に通過するときに分解圧延機から圧下を受け、さらに、素材が分解圧延機を下流から上流に通過するときにも分解圧延機から圧下を受けることが可能な圧延方法を意味する。
【0082】
分塊圧延機の下流に連続圧延機が配置されている場合、分塊圧延後のビレットに対してさらに、連続圧延機を用いてタンデム圧延を実施して、さらにサイズの小さいビレットを製造してもよい。連続圧延機では、一対の水平ロールを有する水平スタンドと、一対の垂直ロールを有する垂直スタンドとが交互に一列に配列される。連続圧延機では、上流から下流にタンデム圧延が実施される。
【0083】
以上の粗圧延工程により製造されたビレットは、仕上げ圧延工程前に、常温まで放冷(空冷)される。
【0084】
[(工程3)仕上げ圧延工程]
仕上げ圧延工程では、粗圧延工程で製造されたビレットに対して仕上げ圧延を実施して、鋼材を製造する。ここで、鋼材は線材又は棒鋼である。仕上げ圧延工程は、次の工程を含む。
(工程31)加熱工程
(工程32)圧延工程
【0085】
仕上げ圧延工程ではさらに、圧延工程において、次の条件を満たす。
(条件)
鋼材温度が1000~880℃の範囲内で、25%以上の減面率でのパス数を2以上とする。
以下、仕上げ圧延工程での加熱工程及び圧延工程について説明する。
【0086】
[(工程31)加熱工程]
加熱工程では、常温まで冷却されたビレットを、加熱炉を用いて周知の方法で加熱する。加熱温度は特に限定されないが、例えば、900~1050℃である。
【0087】
[(工程32)圧延工程]
圧延工程では、加熱工程で加熱されたビレットに対して、連続圧延機を用いて、仕上げ圧延(連続圧延)を実施して、鋼材を製造する。連続圧延機は、上流から下流に一列に配列された複数の圧延スタンドを含む。各圧延スタンドは一対のワークロールを含む。各ロールにはカリバーが形成されており、一対のロールのカリバーで孔型を形成する。
【0088】
連続圧延機を用いた連続圧延において、各圧延スタンドを上流から下流に向かってビレットが通過するときに、当該圧延スタンドでビレットを減面することを、「1パス」圧下する、と定義する。
【0089】
連続圧延とは、連続圧延機を用いて、複数のパス数で圧下することを意味する。なお、連続圧延機中の全ての圧延スタンドでビレットを圧下しなくてもよい。例えば、連続圧延機が15台の圧延スタンドを含む場合であって、最後の圧延スタンドではビレットを圧下することなく通過させる場合、14パスの圧下が実行される。
【0090】
[条件について]
仕上げ圧延工程では、鋼材温度が1000~880℃の範囲内で、25%以上の減面率でのパス数を2以上とする。ここで、減面率は次の式で定義される。
減面率=(1-当該圧延スタンドの出側でのビレットの長手方向に垂直な断面積)/(当該圧延スタンドの入側でのビレットの長手方向に垂直な断面積)×100
【0091】
一般的に、加熱炉での加熱温度を調整して、Mn等の元素の偏析を低減することは知られている。しかしながら、Cuの場合、加熱温度を調整して拡散させやすくするよりも、特定の温度域で圧下して歪を多く導入した方が、鋼材表層において、均一に拡散しやすいことが本発明者らの調査により判明した。
【0092】
具体的には、鋼材温度が1000~880℃の範囲内で25%以上の減面率でのパス数が2未満である場合、歪の導入量が不足している。この場合、仕上げ圧延工程において、鋼材表層において、Cuが十分均一に拡散しない。その結果、Cu偏析度σが0.050を超える。
【0093】
鋼材温度が1000~880℃の範囲内で25%以上の減面率でのパス数が2以上であれば、Cuの拡散に適した温度域において、鋼材の表層に歪が十分に導入される。この場合、Cuが鋼材の表層に均一に拡散する。その結果、Cu偏析度σが0.050以下になる。
【0094】
したがって、鋼材温度が1000~880℃の範囲内で25%以上の減面率でパス数を2以上とする。
【0095】
鋼材温度が1000~880℃の範囲内で25%以上の減面率でのパス数の好ましい下限は3であり、さらに好ましくは4である。
鋼材温度が1000~880℃の範囲内で25%以上の減面率でのパス数の好ましい上限は特に限定されない。
【0096】
連続圧延機の各圧延スタンドの入側及び/又は出側には、測温計が配置されている。測温計は周知の装置であり、例えば、放射温度計、サーモグラフィー等である。各圧延スタンドでの入側及び/又は出側で、鋼材温度が測定される。また、各圧延スタンドでの減面率は予め設定されている。したがって、各圧延スタンドでの入側及び/又は出側で測定された鋼材温度、及び、各圧延スタンドでの減面率に基づいて、鋼材温度が1000~880℃の範囲内で25%以上の減面率でのパス数を求めることができる。
【0097】
仕上げ圧延工程において、連続圧延後の冷却方法は特に限定されない。冷却方法は、放冷であってもよいし、徐冷であってもよいし、急冷であってもよい。
【0098】
以上の製造工程により、特徴1及び特徴2を満たす鋼材を製造できる。
【0099】
[本実施形態の鋼材を素材としたボルトの製造方法]
本実施形態の鋼材を素材としたボルトの製造方法は、周知の製造方法である。ボルトの製造方法は例えば、次の工程を含む。
・伸線加工工程
・冷間鍛造工程
・焼入れ及び焼戻し工程
以下、各工程について説明する。
【0100】
[伸線加工工程]
伸線加工工程では、上述の鋼材に対して周知の伸線加工を実施して鋼線を製造する。伸線加工は、一次伸線のみであってもよいし、二次伸線等、複数回の伸線加工を実施してもよい。
【0101】
[冷間鍛造工程]
冷間鍛造工程では、伸線加工工程後の鋼線に対して、周知の冷間鍛造を実施して、ボルト形状の中間品を製造する。
【0102】
[焼入れ及び焼戻し工程]
焼入れ及び焼戻し工程では、中間品に対して、焼入れ及び焼戻しを実施する。
【0103】
[焼入れ]
焼入れは周知の方法で実施される。焼入れ温度及び焼入れ温度での保持時間は特に限定されない。焼入れ温度は例えば、840~970℃である。焼入れ温度での保持時間は例えば、15~360分である。保持時間経過後の中間品を急冷する。具体的には、中間品に対して水冷又は油冷を実施する。
【0104】
[焼戻し]
焼入れ後の中間品に対して、焼戻しを実施する。焼戻し温度及び焼戻し温度での保持時間は特に限定されない。焼戻し温度は例えば、400~550℃である。焼戻し温度での保持時間は、30~360分である。
【0105】
以上の製造方法により、本実施形態の鋼材を素材としたボルトを製造することができる。製造されたボルトは、特徴1及び特徴2を備える。そのため、腐食環境下での水素侵入が抑制される。
【実施例0106】
実施例により本実施形態の鋼材の効果をさらに具体的に説明する。以下の実施例での条件は、本実施形態の鋼材の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例である。したがって、本実施形態の鋼材はこの一条件例に限定されない。
【0107】
[素材準備工程]
表1-1及び表1-2に示す化学組成を有する鋼材を、次の方法で製造した。
【0108】
【表1-1】
【0109】
【表1-2】
【0110】
表1-1、表1-2中の「-」は、対応する元素含有量が、実施形態に規定の有効数字(最小桁までの数値)において、0%であることを意味する。換言すれば、対応する元素含有量において、上述の実施形態で規定の有効数字(最小桁までの数値)での端数を四捨五入した場合に0%であることを意味する。
例えば、本実施形態で規定されたCr含有量は小数第二位までの数値で規定されている。したがって、表1-2中の試験番号1では、測定されたCr含有量を小数第三位で四捨五入した場合に、0%であったことを意味する。
なお、四捨五入とは、規定された最小桁の下の桁(端数)が5未満であれば切り捨て、5以上であれば切り上げることを意味する。
【0111】
[粗圧延工程]
製造したブルームに対して粗圧延工程を実施して、ビレットを製造した。具体的には、加熱炉を用いてブルームを1100℃に加熱した。加熱後のブルームを、分塊圧延機及び連続圧延機を用いて圧延(粗圧延)して、ビレットを製造した。粗圧延工程で製造されたビレットを常温まで放冷した。
【0112】
[仕上げ圧延工程]
製造されたビレットに対して、仕上げ圧延工程を実施した。具体的には、各試験番号のビレットを950~1050℃に加熱した。加熱されたビレットに対して、連続圧延機を用いて、仕上げ圧延(連続圧延)を実施して、鋼材(丸棒)を製造した。このとき、鋼材温度が1000~880℃の範囲内で、25%以上の減面率のパス数PNは表2に示すとおりであった。
【0113】
【表2】
【0114】
仕上げ圧延後の鋼材(丸棒)を常温まで放冷した。以上の製造工程により、各試験番号の直径が10mmの鋼材(丸棒)を製造した。
【0115】
[評価試験について]
製造された各試験番号の鋼材に対して、次の鋼材評価試験(試験1~試験3)を実施した。
[鋼材評価試験]
(試験1)鋼材の化学組成測定試験
(試験2)Cu偏析度σ測定試験
(試験3)拡散性水素濃度測定試験
以下、各試験について説明する。
【0116】
[(試験1)鋼材の化学組成測定試験]
各試験番号の鋼材(丸棒)に対して、上述の[鋼材の化学組成の測定方法]に基づいて化学組成を分析した。その結果、いずれの試験番号の化学組成も、表1-1、表1-2に示すとおりであった。
【0117】
[(試験2)Cu偏析度σ測定試験]
各試験番号の鋼材(丸棒)に対して、上述の[Cu偏析度σの測定方法]に基づいて、Cu偏析度σを求めた。求めた結果を表2に示す。
【0118】
[(試験3)拡散性水素濃度測定試験]
各試験番号の鋼材に対して、次の拡散性水素濃度測定試験を実施した。
【0119】
[ボルト模擬材の製造]
初めに、各試験番号の丸棒を用いて、ボルト模擬材を製造した。具体的には、各試験番号の丸棒に対して、次の焼入れ処理及び焼戻し処理を実施した。
焼入れ処理は熱処理炉を用いて実施した。焼入れ温度を870~920℃とし、焼入れ温度での保持時間を60分とした。保持時間経過後の鋼材を水冷して焼入れを行った。なお、熱処理炉内は鋼材のC濃度と同等のカーボンポテンシャル雰囲気とし、鋼材の脱炭を抑制した。
【0120】
焼入れ処理後に焼戻し処理を実施した。焼戻し処理は熱処理炉を用いて実施した。焼戻しでは、ボルト模擬材の引張強度が1200~1400MPaの範囲内となるように、430~520℃の焼戻し温度(℃)で1~2時間保持した。保持時間経過後の鋼材を水冷した。以上の製造工程により、ボルト模擬材(丸棒)を製造した。
【0121】
[測定試験]
各試験番号のボルト模擬材(丸棒)を長手方向に垂直に切断し、長さ100mmの複数の丸棒試験片を採取した。粗圧延工程、仕上げ圧延工程、及び、ボルト模擬材製造時の焼入れ焼戻し時に生成したスケールの影響を省くため、丸棒試験片に対してブラスト処理を実施して、丸棒試験片の最表層のスケールを除去した。
【0122】
ブラスト処理後の丸棒試験片を用いて、JIS H8502(1999)に規定されている人工酸性雨サイクル試験(Cyclic Artificial Acid rain Test)を実施した。各試験番号ごとに、腐食試験での試験サイクルは、84サイクル、168サイクル、及び、256サイクルの3パターンとした。各パターンごとに別個の丸棒試験片を用いた。
【0123】
各サイクルでの試験において、試験終了後に丸棒試験片を取り出した。取り出した丸棒試験片に対してブラスト処理を実施して、腐食試験によって丸棒試験片の表面に生成した腐食生成物を除去した。湿式切断機を用いて、ブラスト処理後の丸棒試験片の長手方向の中央部分30mmを切り出した。
【0124】
切り出した試験片部分に対して、ガスクロマトグラフ式昇温脱離水素分析装置(TDA)を用いて、拡散性水素濃度を分析した。具体的には、切り出した試験片部分を100℃/hの昇温速度で室温から400℃まで加熱した。加熱により試験片部分から外部に放出された水素量を測定した。
【0125】
測定された水素量を、加熱前の試験片部分の質量で除して、拡散性水素濃度(ppm)を求めた。各試験番号において、上述の3パターンの各々での拡散性水素濃度を求めた。3つの拡散性水素濃度のうち、最も高い値を、その試験番号での拡散性水素濃度と定義した。
【0126】
[評価結果]
評価結果を表2に示す。
試験番号1~36では、化学組成が適切であった。さらに製造条件も適切であった。そのため、Cu偏析度が0.050以下であった。その結果、拡散性水素濃度が0.05ppm未満であり、水素の侵入を抑制できた。
【0127】
一方、試験番号37では、Cu含有量が低すぎた。そのため、拡散性水素濃度が0.05ppm以上となり、水素の侵入を十分に抑制できなかった。
【0128】
試験番号38では、Ni含有量が低すぎた。そのため、拡散性水素濃度が0.05ppm以上となり、水素の侵入を十分に抑制できなかった。
【0129】
試験番号39~42では、化学組成は適切であったものの、鋼材温度が1000~880℃の範囲内で、25%以上の減面率のパス数PNが2未満であった。そのため、Cu偏析度σが0.050を超えた。その結果、そのため、拡散性水素濃度が0.05ppm以上となり、水素の侵入を十分に抑制できなかった。
【0130】
以上、本開示の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本開示を実施するための例示に過ぎない。したがって、本開示は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
図1
図2