(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103114
(43)【公開日】2023-07-26
(54)【発明の名称】原子炉燃料集合体
(51)【国際特許分類】
G21C 3/30 20060101AFI20230719BHJP
G21C 3/322 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
G21C3/30 100
G21C3/322
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003986
(22)【出願日】2022-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】古市 肇
(72)【発明者】
【氏名】石田 直行
(57)【要約】
【課題】限界出力を向上することが可能な原子炉燃料集合体を提供する。
【解決手段】燃料集合体1は、燃料棒11と、燃料棒11よりも燃料有効長が短い部分長燃料棒10と、を備えており、部分長燃料棒10は、鉛直方向の上端部に、その側面に、螺旋状凹形状あるいは螺旋状凸形状が形成された飛散部材105を有している。飛散部材105に形成される螺旋状凹形状は好適には溝106であり、螺旋状凸形状は好適には突起部材130である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1燃料棒と、
前記第1燃料棒よりも燃料有効長が短い第2燃料棒と、を備えた燃料集合体であって、
前記第2燃料棒は、鉛直方向の上端部に、その側面に、螺旋状凹形状あるいは螺旋状凸形状が形成された円錐台型部材を有している
ことを特徴とする原子炉燃料集合体。
【請求項2】
請求項1に記載の原子炉燃料集合体において、
前記螺旋状凹形状は、溝である
ことを特徴とする原子炉燃料集合体。
【請求項3】
請求項1に記載の原子炉燃料集合体において、
前記螺旋状凸形状は、突起部材である
ことを特徴とする原子炉燃料集合体。
【請求項4】
請求項1に記載の原子炉燃料集合体において、
前記螺旋状凹形状あるいは前記螺旋状凸形状が複数形成されている
ことを特徴とする原子炉燃料集合体。
【請求項5】
請求項4に記載の原子炉燃料集合体において、
前記円錐台型部材は、その上面円周において複数の前記螺旋状凹形状あるいは前記螺旋状凸形状が接触しない高さとする
ことを特徴とする原子炉燃料集合体。
【請求項6】
請求項2に記載の原子炉燃料集合体において、
前記溝の幅または深さを300μm以下とする
ことを特徴とする原子炉燃料集合体。
【請求項7】
請求項3に記載の原子炉燃料集合体において、
前記突起部材の高さを300μm以下とする
ことを特徴とする原子炉燃料集合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は原子力発電プラントに用いられる原子炉燃料集合体に関する。
【背景技術】
【0002】
短縮形燃料棒の上方に設けることができ、燃料棒に関する限界熱流束性能を改善する冷却材導管の一例として、特許文献1には、燃料集合体が短縮形燃料棒とこの棒の軸線方向上方に配置された冷却材導管とを備え、この導管は、燃料棒を囲み気体および液体の二相混合物から成る流体が囲い込まれた流路へ入るのを許す少なくとも一つの入口孔と、この孔の上方に設けられた少なくとも一つの出口孔とを有し、また流体中に存在する気体の少なくとも一部を流体中に存在する液体から分離するために出口孔の上流で燃料棒および導管のうちの一つに取り付けられた分離装置を有する、ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
沸騰水型原子炉では、
図1に示すような燃料棒11(
図2参照)を正方配置した燃料集合体1において、核反応によって燃料棒11間を流れる冷却材(液体)を沸騰させ、発生した蒸気を発電に利用する。
【0005】
燃料棒11の反応熱が直接冷却材に伝わることで効率的な蒸気生成および燃料棒の冷却が実現される。
【0006】
冷却材は、沸騰により気相と液相とが混在する気液二相流を形成する。発生した蒸気は冷却材と共に上昇するため、燃料集合体1の高さ方向に沿って蒸気体積が大きくなり、燃料集合体1の上部では冷却材が環状流の流動様式を形成する。環状流では、冷却材が燃料棒11の表面で薄い膜状(液膜)となり、燃料棒11の間の中央では、蒸気とその蒸気に同伴される液滴とが流れる。
【0007】
液膜は燃料棒11の上部に流れるにつれ、蒸発または沸騰により徐々に薄くなる。ある高さで冷却材が沸騰遷移を起こし、液膜が消失(液膜ドライアウト)すると、燃料棒11の表面が直接蒸気に露出し、冷却材による冷却性能を失うことによって燃料棒11の健全性を維持できなくなる可能性がある。
【0008】
冷却材が沸騰遷移を起こす燃料集合体1の熱出力を限界出力と呼び、通常の原子炉では、熱的マージンを確保することによって燃料集合体1の全体が限界出力に至らない運転を維持している。したがって、原子炉の安全性の向上には、限界出力を向上することによって液膜を燃料棒11の表面に効果的に保持することが重要である。
【0009】
燃料集合体1では、燃料棒11の直径を小さくし、燃料集合体1に装荷する燃料棒11の本数を増加させることで、冷却水との伝熱面積を拡大し、燃料の経済性を向上させている。一方、伝熱面積の拡大により、4本の燃料棒11に囲まれる冷却水が流れるための流路(サブチャンネル)の水平断面積はそれぞれ小さくなり、冷却水の圧力損失が増加する。
【0010】
圧力損失を低減させる対策として、部分的に短尺な燃料棒(部分長燃料棒10、
図2参照)を燃料集合体内に装荷している。部分長燃料棒10は、通常の燃料棒11と比較して上端部の高さが低いため、燃料集合体1の上部である下流域での水平断面積を拡大して冷却材を流れ易くする、との効果がある。
【0011】
原子炉の限界出力を向上するには、燃料棒11の表面の液膜を厚くして、液膜ドライアウトに至るまでの熱出力を増加させることが有効である。しかしながら、燃料集合体1の上部では環状流を形成するため、部分長燃料棒10の表面を流れる液膜の大部分は、上端部において蒸気中に飛散し液滴となって流れる。それにより、蒸気中を同伴する液滴は燃料棒の冷却に直接的に寄与しない。
【0012】
液滴により限界出力を向上させるには、部分長燃料棒10の下流域において、周囲の通常の長さの燃料棒11の表面に液滴を付着させることが必要である。さらに、液滴の付着には、冷却材の流れ方向に垂直な力(例えば遠心力)を強制的に与えることが有効であるが、液滴は蒸気流のせん断力によって微細化するため、液滴が小さくなるほど、質量が小さくなり、周囲に付着させるための垂直な力を与えることができなくなる、との懸念がある。
【0013】
本発明は、限界出力を向上することが可能な原子炉燃料集合体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その一例を挙げるならば、第1燃料棒と、前記第1燃料棒よりも燃料有効長が短い第2燃料棒と、を備えた燃料集合体であって、前記第2燃料棒は、鉛直方向の上端部に、その側面に、螺旋状凹形状あるいは螺旋状凸形状が形成された円錐台型部材を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、限界出力を向上することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図4】実施例1に係る原子炉燃料集合体の部分長燃料棒の概要図である。
【
図5】実施例1に係る液滴に働く遠心力の概要図である。
【
図6】実施例2に係る原子炉燃料集合体の部分長燃料棒の概要図である。
【
図7】実施例3に係る原子炉燃料集合体の部分長燃料棒の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の原子炉燃料集合体の実施例を、図面を用いて説明する。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一、または類似の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0018】
<実施例1>
本発明の原子炉燃料集合体の実施例1について説明する。
【0019】
最初に、燃料集合体の全体構成について
図2乃至
図5を用いて説明する。
【0020】
図3は燃料集合体の水平断面の概要図を示す図である。燃料集合体1に正方配置された燃料棒11において、4本の燃料棒11に囲まれた流路をサブチャンネル12と呼び、サブチャンネル12内を冷却材が鉛直に上昇する。
【0021】
冷却材の流動様式が環状流の場合、各々の燃料棒11の表面には液膜が形成され、サブチャンネル12の中央には蒸気、およびこの蒸気に同伴される液滴が流れる。
【0022】
図2に示すように、燃料棒11は、高さ方向に複数設置された燃料スペーサ13によって保持される。燃料棒11のうち、1箇所または複数箇所に、燃料棒11よりも燃料有効長(核反応による発熱に有効な範囲)が短い部分長燃料棒10が配置される。
【0023】
部分長燃料棒10が複数存在する場合、複数の部分長燃料棒10のうち、最低でも1本、出来れば全ての部分長燃料棒10を本発明で示す構造とすることが望まれる。
【0024】
図4は、実施例1における部分長燃料棒の上端部の概要図である。部分長燃料棒10は、他の燃料棒11と同様に、燃料被覆管とその内部の燃料ペレットから構成される。このうち、部分長燃料棒10の鉛直方向の上端部に、その側面に、螺旋状凹形状が形成された円錐台形状の飛散部材105を有している。部分長燃料棒10の下端側は燃料棒11や従来の部分長燃料棒と同じ構造であり、詳細は省略する。
【0025】
飛散部材105は、被覆管と同じ材質で構成される。また、飛散部材105の円錐台側面102には、螺旋状凹形状として複数の溝106が加工される。溝106は飛散部材105の先端まで螺旋状に形成される。
【0026】
なお、溝106は複数である必要は無く、少なくとも1本以上形成されていればよい。
【0027】
部分長燃料棒10では、その有効長の範囲の表面を液膜107が燃料棒軸方向に流れ、飛散部材105の円錐台側面102に到達する。その後、液膜107は円錐台側面102の表面に形成された溝106に沿って流れ、飛散部材105の先端の円錐台上面109まで到達する。そして、先端部の円錐台上面109において、液膜が溝106から蒸気中に放出され、液滴103として飛散する。溝106が螺旋状のため、溝に沿った方向108に液滴103が放出される。円錐台上面の円周と溝の交点における接線の角度104に対し、液滴103に働く遠心力Fc[N]は次のような式(1)で表される。
【0028】
【0029】
ここで、ρLは水の密度[kg/m3]、rdは液滴半径[m]、vは接線方向の速度[m/s]、Rは円錐台上面の半径[m]である。
【0030】
上述の式(1)から、同じ運転条件(密度、速度一定)では、液滴半径r
dが大きいほど、円錐台上面109の半径Rが小さいほど、あるいは角度θが大きいほど、液滴103に遠心力が強く働くことが判る(
図5参照)。本実施例では、この遠心力を利用して、周囲の燃料棒11に衝突させるものである。
【0031】
一方、円錐台上面109の半径は、小さくするには飛散部材105を円錐形(R=0m)とすることが最も効果的であるが、螺旋状の溝106が円錐の頂点で接触すると、溝106を流れる液膜107が合体して飛散する液滴103の径が大きくなってしまい、燃料棒11の表面に付着する可能性が低くなることが懸念される。
【0032】
従って、本実施例の飛散部材105は円錐台形として、溝106同士が円錐台上面109の円周上において接触しない範囲の円錐台高さとすることが、先端から液滴103を放出するための条件となる。
【0033】
なお、溝106が1本の場合は、飛散部材105は限りなく円錐形に近い形状とすることができる。
【0034】
次に、本実施例の効果について説明する。
【0035】
上述した本発明の実施例1の燃料集合体1は、燃料棒11と、燃料棒11よりも燃料有効長が短い部分長燃料棒10と、を備えており、部分長燃料棒10は、鉛直方向の上端部に、その側面に、溝106が形成された飛散部材105を有している。
【0036】
これによって、部分長燃料棒10の表面の液膜107が部分長燃料棒10の上端部で飛散する際に、蒸気中を同伴する液滴103となるが、その液滴103に旋回力を与えることができる。このため周囲に設置される通常の燃料棒11に液滴103を積極的に付着させることができ、従来に比べて燃料棒11の上端部側の表面に液膜を形成できる、あるいは残存している液膜の厚さを厚くすることができる。従って、燃料棒11の上端側の限界出力の向上を図ることができ、トータルとしての限界出力の向上も図ることができる。
【0037】
また、溝106が複数形成されているため、液膜107をより効果的に液滴103に変化させることができる。
【0038】
更に、飛散部材105は、その上面円周において複数の螺旋状凹形状あるいは螺旋状凸形状が接触しない高さとすることで、飛散する液滴103の径を小さく保つことができ、燃料棒11の上端側での液膜の形成をより促すことができる。
【0039】
<実施例2>
本発明の実施例2の原子炉燃料集合体について
図6を用いて説明する。
【0040】
図6は実施例2に係る燃料集合体のうち、部分長燃料棒の上面図である。
【0041】
本実施例では、より効果的に液滴に遠心力を働かせるため、飛散部材105Aの円錐台上面109Aから飛散する液滴の直径を制御することが狙いである。
【0042】
気相の流れ21に同伴する液滴103は、気相のせん断力によって分裂し、霧化する。霧化すると、液滴103の径が例えば数μmと小さくなる。このため、上述の式(1)で示した遠心力が小さくなる。
【0043】
そこで、部分長燃料棒10Aの先端から飛散する液滴103の直径を、気相流れによって霧化しない最小液滴径に制御することで、飛散した液滴が霧化しないような設計をする。
【0044】
気相流れによって霧化しない最小液滴径を臨界液滴径Dcとしたときに、下記のような式(2)、および式(3)により算出される。
【0045】
【0046】
【0047】
ここで、Wecは臨界ウェーバ数[-]、ρgは蒸気の密度[kg/m3]、σは表面張力[N/m]、v0は蒸気速度[m/s]である。臨界液滴径Dcは臨界ウェーバ数Wec[-]で決定される。Wec<12では周囲の気相流れによって液滴がそれ以上分裂しない特性を示す。
【0048】
部分長燃料棒10Aの先端部から放出される液滴103は、溝106Aを流れる液膜107Aがせん断されて飛散する。したがって、おおよその液滴103の径が溝106Aの大きさによって決まるとすれば、溝106Aの大きさを臨界液滴径Dcとすれば、それ以上小さくならない液滴103が飛散し、遠心力20の低下を回避することができる。
【0049】
溝106Aの大きさは、溝106Aの深さ122、または溝106Aの幅121で決定される。
【0050】
BWRの運転条件(圧力7MPa)から、式(3)の臨界液滴径を見積もると、Dc≒300μmとなる、したがって、溝106Aの深さ122または溝106Aの幅123の上限を300μmとすることで、液滴103を霧化させることなく遠心力を与えることができる。
【0051】
その他の構成・動作は前述した実施例1の原子炉燃料集合体と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0052】
本発明の実施例2の原子炉燃料集合体においても、前述した実施例1の原子炉燃料集合体とほぼ同様な効果が得られる。
【0053】
<実施例3>
本発明の実施例3の原子炉燃料集合体について
図7および
図8を用いて説明する。
【0054】
図7および
図8は、実施例3に係る燃料集合体のうち、部分長燃料棒の概要図である。
【0055】
本実施例の部分長燃料棒10Bは、実施例1の部分長燃料棒10のような螺旋状凹形状(溝106,106A)とは異なり、鉛直方向の上端部の側面に、螺旋状凸形状として突起部材130が形成された飛散部材105Bを有している。
【0056】
突起部材130は、円錐台形状の飛散部材105の側面に対し垂直に設置され、液膜を受け止めるため、より強制的に液膜の流れ方向を螺旋状に変えることができる。したがって、先端から放出される液滴により強い遠心力を働かせることができる。
【0057】
なお、飛散する液滴径は突起部材130の高さ132で決まるため、実施例2で示した臨界液滴径による液滴径を制御するための設計手法については本実施例にも適用可能であり、突起部材130の高さを300μm以下とすることが望ましい。
【0058】
また、突起部材130の本数は特に限定されず、1本でも、2本以上でもよい。
【0059】
その他の構成・動作は前述した実施例1の原子炉燃料集合体と略同じ構成・動作であり、詳細は省略する。
【0060】
本発明の実施例3の原子炉燃料集合体においても、前述した実施例1の原子炉燃料集合体とほぼ同様な効果が得られる。
【0061】
<その他>
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0062】
また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0063】
1…燃料集合体
10,10A,10B…部分長燃料棒(第2燃料棒)
11…燃料棒(第1燃料棒)
12…サブチャンネル
13…燃料スペーサ
20…遠心力
102…円錐台側面
103…液滴
104…角度
105,105A,105B…飛散部材(円錐台型部材)
106,106A…溝
107,107A…液膜
108…流れ方向
109,109A…円錐台上面
121…溝の幅
122…溝の高さ
130…突起部材
132…突起部材の高さ