(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103178
(43)【公開日】2023-07-26
(54)【発明の名称】難燃性壁紙
(51)【国際特許分類】
D06N 7/00 20060101AFI20230719BHJP
B32B 23/02 20060101ALI20230719BHJP
B32B 23/08 20060101ALI20230719BHJP
B32B 27/02 20060101ALI20230719BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20230719BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230719BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
D06N7/00
B32B23/02
B32B23/08
B32B27/02
B32B27/36
B32B27/30 A
B32B27/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022209094
(22)【出願日】2022-12-26
(31)【優先権主張番号】P 2022003987
(32)【優先日】2022-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】500203592
【氏名又は名称】株式会社ナガイ
(74)【代理人】
【識別番号】110003650
【氏名又は名称】弁理士法人ブランシェ国際知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100132621
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 孝行
(74)【代理人】
【識別番号】100123364
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 徳子
(72)【発明者】
【氏名】松島 慎吾
【テーマコード(参考)】
4F055
4F100
【Fターム(参考)】
4F055AA17
4F055BA11
4F055CA11
4F055DA13
4F055EA02
4F055EA04
4F055EA24
4F055FA10
4F055HA06
4F100AJ04A
4F100AJ07C
4F100AK04A
4F100AK07A
4F100AK25B
4F100AK25C
4F100AK42A
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100BA10C
4F100BA10E
4F100CA13D
4F100CA13E
4F100CB03C
4F100CC01B
4F100DD07A
4F100DG01A
4F100DG15A
4F100EJ39A
4F100GB08
4F100HB31E
4F100JA06B
4F100JA11A
4F100JJ07
4F100JL10D
4F100JL12C
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】燃焼しても有害物質の発生を抑えることができ、かつ建築基準法における「不燃材料」として認定可能な難燃性を有する難燃性壁紙を提供する
【解決手段】シート基材10の一方面に、受容層用塗料が含浸した受容層15を有する難燃性壁紙1であって、シート基材10は、5~60重量%のポリエステル繊維と、40~95重量%のパルプとを含む不織布であり、受容層15に含浸した受容層用塗料の乾燥時の重量が、1g/m
2~150g/m
2であり、受容層用塗料には、主成分として合成樹脂が含まれている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート基材の一方面に、受容層用塗料が含浸した受容層を有する難燃性壁紙であって、
前記シート基材は、5~55重量%のポリエステル繊維と、45~95重量%のパルプとを含む不織布であり、
前記受容層に含浸した前記受容用塗料の乾燥時の重量が、1g/m2~150g/m2であり、
前記受容層用塗料には、主成分として合成樹脂が含まれている、
ことを特徴とする難燃性壁紙。
【請求項2】
前記シート基材は、5~40重量%の前記ポリエステル繊維と、60~95重量%の前記パルプを含むことを特徴とする請求項1に記載の機能性壁紙。
【請求項3】
前記シート基材は、20~35重量%のポリエステルと、65~80重量%のパルプとを含む不織布であることを特徴とする請求項1に記載の難燃性壁紙。
【請求項4】
前記シート基材は、10~30重量%のポリエステルと、60~85重量%のパルプと、1~5重量%のポリオレフィン繊維とを含む不織布であることを特徴とする請求項1に記載の難燃性壁紙。
【請求項5】
前記シート基材の一方面の表面におけるポリエステル繊維の結晶化度が、前記シート基材の内部におけるポリエステル繊維の結晶化度よりも低いことを特徴とする請求項1に記載の難燃性壁紙。
【請求項6】
前記合成樹脂は、アクリル樹脂であることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の難燃性壁紙。
【請求項7】
前記シート基材の他方面に接着剤が塗布された接着層を有し、
前記接着剤は、澱粉を主成分とする澱粉系接着剤、アクリル酸エステルを主成分とする接着剤、水分を吸収することにより粘着性が生じる再湿糊またはホットメルト接着剤であり、
前記接着層の厚さが0.01mm~5mmであることを特徴とする請求項1に記載の難燃性壁紙。
【請求項8】
前記シート基材と前記接着層との間に、着色された着色層が設けられていることを特徴とする請求項7に記載の難燃性壁紙。
【請求項9】
前記受容層に含浸した受容層用塗料の乾燥時の重量が、1.5g/m2~137g/m2であることを特徴とする請求項1に記載の難燃性壁紙。
【請求項10】
前記受容層に含浸させる前の前記受容層用塗料の粘度が、0.26pa・s~1.7pa・sの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の難燃性壁紙。
【請求項11】
前記シート基材の一方面の表面の十点平均粗さが、8μm~14μmであることを特徴とする請求項1に記載の難燃性壁紙。
【請求項12】
前記受容層上に、顔料を含むインク層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の難燃性壁紙。
【請求項13】
前記シート基材の一方面にエンボス加工が施されていることを特徴とする請求項1に記載の難燃性壁紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル繊維と、パルプ等とで構成され、難燃性を有する壁紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内装材などの建材用途に対して、難燃性を有する塩化ビニル系樹脂が多く用いられてきた。しかし、塩化ビニル系樹脂は、焼却時に塩化水素ガスを発生したり、耐摩耗性に劣る等の問題があった。
【0003】
また、塩化ビニル系樹脂を用いた壁紙には、柔軟性を付与するために可塑剤が含まれており、このような壁紙に直射日光が当たると、可塑剤が空気中に放出されてしまうという問題点があった。
【0004】
さらには、塩化ビニル系樹脂を用いた壁紙は、経時的に徐々に硬化していくため、壁との接合部に空間が形成されることになる。そして、その空間部に湿気が入り込むと、壁紙の裏面にカビが発生し、最終的に壁紙が壁から剥がれてしまうという問題点があった。また、塩化ビニル系樹脂を用いた壁紙は、壁に貼る際に、塗布糊等に含まれる水分により、5~15%程度伸びた後、乾燥により縮み、壁に貼り付けられるので、正確な寸法で壁に貼り付けることができないという問題点があった。
【0005】
そこで、塩化ビニル系樹脂を使用しない、難燃性を有する壁紙が求められている。特に、日本の建築基準法において「不燃材料」として認定され得る、塩化ビニル系樹脂を使用しない難燃性壁紙が強く求められている。
【0006】
このような難燃性壁紙として、例えば、特許文献1には、経糸と緯糸の総繊度が280dtex未満であり、経糸と緯糸の何れか一方の糸条によるカバーファクターが1200以上であり、且つ、経糸と緯糸の双方の糸条による各カバーファクターが2500以下であり、経糸によるカバーファクターと緯糸による合計カバーファクターが2000~4000であり、目付け(質量)が220g/m2以下であり、布帛が単繊維繊度3dtex未満のポリエステル系繊維に成る織物に、ハロゲン系難燃剤を10g/m2以下付与し、リン系難燃剤を10g/m2以下含有する目付け100g/m2以下の難燃パルプ抄造裏打紙を、エチレン酢酸ビニル樹脂系接着剤によって貼り合わされた難燃繊維壁紙であって、建築基準法燃焼試験法による「不燃材料」および「準不燃材料」に適合するものが開示されている。
【0007】
また、同様に、難燃性壁紙として、例えば、特許文献2には、燐化合物を共重合した難燃性ポリエステル繊維からなる布帛と難燃性紙がホスフィン酸誘導体を配合した高分子接着剤を介して積層され、且つ、該難燃性ポリエステル繊維には有機フッ素化ポリマー系撥水剤が付着された壁紙であって、加工性、接着性、防汚性が良好で、且つ、室内環境汚染がなく、また、焼却時の有毒ガスの発生が少ない難燃性の優れたポリエステル繊維をその構成成分として含むものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006―144173号公報
【特許文献2】特開2000-178899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1および2に記載の壁紙は、ハロゲン系難燃剤等の難燃剤を含んでおり、燃焼した際に有害物質が発生してしまうという問題点があった。
【0010】
また、建築基準法において「不燃材料」の壁紙として認定されるには、難燃性能試験(例えば、一般財団法人建材試験センターの壁紙張/せっこうボードの防火性能試験等)において、次の条件(以下「難燃性条件」という。)を満たす必要がある。
(1)加熱開始後20分間の総発熱量が、8MJ/m2以下であること。
(2)加熱開始後20分間、防火上有害な裏面まで貫通する亀裂及び穴がないこと。
(3)加熱開始後20分間、発熱速度が、10秒以上継続して200kW/m2を超えないこと。
【0011】
しかしながら、上述した難燃剤等が含まれていない壁紙で、上記の条件を満たすものが存在しないという問題点があった。なお、難燃性条件を満たす壁紙は、建築基準法における「不燃材料」として認定され、建築基準法に定める内装制限(但し金属板を除く。)を受けることなく使用することができる。
【0012】
本発明は上述した事情に鑑み、塩化ビニル系樹脂を用いた壁紙と比較して、燃焼しても有害物質の発生量を抑えることができ、かつ建築基準法における「不燃材料」として認定可能な難燃性を有する難燃性壁紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の発明者は、上述した問題点に関して鋭意研究・開発を続けた結果、以下のような画期的な難燃性壁紙を見出した。
【0014】
上記課題を解決するための本発明の第1の態様は、シート基材の一方面に、受容層用塗料が含浸した受容層を有する難燃性壁紙であって、シート基材は、5~55重量%のポリエステル繊維と、45~95重量%のパルプとを含む不織布であり、受容層に含浸した受容用塗料の乾燥時の重量が、1g/m2~150g/m2であり、受容層用塗料は、主成分として合成樹脂が含まれている、ことを特徴とする難燃性壁紙にある。
【0015】
ここで、ポリエステル繊維とは、ポリエステルで構成された繊維をいう。また、「含浸」とは、塗料が不織布の微細な穴や溝等に浸み込んだ状態だけでなく、不織布の表面に塗料の一部が表出している状態を含む概念である。また、「乾燥時」とは、塗料の含水率が13%以下の状態(例えば、建築材料の含水率測定方法(JIS A 1476:2016)を用いた場合に、水性塗料の含水率が8%の状態)をいう。
【0016】
かかる第1の態様によれば、受容層により、後述する受容層上に形成されるインク層に含まれる塗料(顔料)の拡散やにじみを防止することができるので、精彩に着色することができる。また、塩化ビニル系樹脂を用いた壁紙と比較して、パルプは発熱速度を低く抑えることができるので、燃焼しても有害物質の発生量が少なく、かつ建築基準法における「不燃材料」として認定可能な難燃性を有する難燃性壁紙を提供することができる。そして、建築基準法における「不燃材料」として認定された難燃性壁紙であれば、内装制限(但し金属板を除く。)を受けることなく使用することができる。
【0017】
本発明の第2の態様は、シート基材は、5~40重量%のポリエステル繊維と、60~95重量%のパルプを含むことを特徴とする第1の態様に記載の機能性壁紙にある。
【0018】
かかる第2の態様によれば、塩化ビニル系樹脂を用いた壁紙と比較して、燃焼しても有害物質の発生量がより少なく、かつ建築基準法における「不燃材料」として認定可能な、より高い難燃性を有する難燃性壁紙を提供することができる。
【0019】
本発明の第3の態様は、シート基材は、20~35重量%のポリエステルと、65~80重量%のパルプとからなる不織布であることを特徴とする第1の態様に記載の難燃性壁紙にある。
【0020】
かかる第3の態様によれば、塩化ビニル系樹脂を用いた壁紙と比較して、燃焼しても有害物質の発生量がさらに少なく、かつ建築基準法における「不燃材料」として認定可能な、より高い難燃性を有する難燃性壁紙を提供することができる。
【0021】
本発明の第4の態様は、シート基材は、10~30重量%のポリエステルと、60~85重量%のパルプと、1~5重量%のポリオレフィン繊維とを含む不織布であることを特徴とする第1の態様に記載の難燃性壁紙にある。
【0022】
ここで、ポリオレフィン繊維とは、ポリオレフィンで構成された繊維をいう。
【0023】
かかる第4の態様によれば、耐水性や耐久性が高く、燃焼しても有害物質の発生量が少ない難燃性壁紙を提供することができる。
【0024】
本発明の第5の態様は、シート基材の一方面の表面におけるポリエステル繊維の結晶化度が、シート基材の内部におけるポリエステル繊維の結晶化度よりも低いことを特徴とする第1の態様に記載の難燃性壁紙にある。
【0025】
かかる第5の態様によれば、引張強度や水中伸度を変えることなく、シート基材の柔軟性を向上させることができる。その結果、後述するエンボスを容易に形成することができる。また、ポリエステル繊維の製造に純度の高い(結晶化度の低い)材料を用いる必要がなく、例えばリサイクル樹脂を用いたポリエステル繊維を利用することができる。
【0026】
本発明の第6の態様は、合成樹脂が、アクリル樹脂であることを特徴とする第1~第5の態様の何れか1つに記載の難燃性壁紙にある。
【0027】
かかる第6の態様によれば、他の合成樹脂と比較して、難燃性壁紙の柔軟性を維持しつつ強度を向上させることができる。
【0028】
本発明の第7の態様は、シート基材の他方面に接着剤が塗布された接着層を有し、接着剤は、澱粉を主成分とする澱粉系接着剤、アクリル酸エステルを主成分とする接着剤、水分を吸収することにより粘着性が生じる再湿糊またはホットメルト接着剤であり、接着層の厚さが0.01mm~5mmであることを特徴とする第1の態様に記載の難燃性壁紙にある。
【0029】
かかる第7の態様によれば、接着層も含めて、燃焼しても有害物質の発生量を抑えることができ、かつ建築基準法における「不燃材料」として認定可能な難燃性を有する難燃性壁紙を提供することができる。
【0030】
本発明の第8の態様は、シート基材の他方面と接着層との間に、着色された着色層が設けられていることを特徴とする第7の態様に記載の難燃性壁紙にある。
かかる第8の態様によれば、着色層を設けることにより、難燃性壁紙が貼付される壁の色が、難燃性壁紙を透過して、見えてしまうことを防止できる。その結果、より色鮮やかな難燃性壁紙を提供することができる。
【0031】
本発明の第9の態様は、受容層に含浸した受容層用塗料の乾燥時の重量が、1.5g/m2~137g/m2であることを特徴とする第1の態様に記載の難燃性壁紙にある。
【0032】
かかる第9の態様によれば、建築基準法における「不燃材料」として認定可能な、より高い難燃性を有する難燃性壁紙を提供することができる。
【0033】
本発明の第10の態様は、受容層に含浸させる前の受容層用塗料の粘度が、0.26pa・s~1.7pa・sの範囲にあることを特徴とする第1の態様に記載の難燃性壁紙にある。
【0034】
かかる第10の態様によれば、適切な量の受容層用塗料を不織布に均一含浸させることができるので、優れた美観の難燃性壁紙を製造することができる。
【0035】
本発明の第11の態様は、シート基材の一方面の表面の十点平均粗さが、8μm~14μmであることを特徴とする第1の態様に記載の難燃性壁紙にある。
【0036】
かかる第11の態様によれば、十分な厚みの受容層を形成することができるので、美観が損なわれ難い難燃性壁紙を提供することができる。
【0037】
本発明の第12の態様は、受容層上に、顔料を含むインク層が設けられていることを特徴とする第1の態様に記載の難燃性壁紙にある。
【0038】
かかる第12の態様では、精細な文字や色彩等が印刷された難燃性壁紙を提供することができる。
【0039】
本発明の第13の態様は、シート基材の一方面にエンボス加工が施されていることを特徴とする第1の態様に記載の難燃性壁紙にある。
【0040】
かかる第13の態様によれば、美観を向上させ、かつ美観が損なわれにくい難燃性壁紙を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】
図1は実施形態1に係る難燃性壁紙の概略側面図である。
【
図2】
図2は引張強度試験の試験結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は実施形態3に係る難燃性壁紙の概略側面図である。
【
図7】
図7は試験体Aに対する壁紙張/せっこうボードの防火性能試験結露試験の測定結果である。
【
図8】
図8は試験体Bに対する壁紙張/せっこうボードの防火性能試験結露試験の測定結果である。
【
図9】
図9は試験体Cに対する壁紙張/せっこうボードの防火性能試験結露試験の測定結果である。
【
図10】
図10は実施形態4に係る難燃性壁紙の概略側面図である。
【
図11】
図11は実施形態5に係る難燃性壁紙の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る難燃性壁紙の実施形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
(実施形態1)
【0043】
図1は、実施形態1に係る難燃性壁紙の概略側面図である。この図に示すように、本実施形態に係る難燃性壁紙1は、一方面(上面)に、受容層用塗料が含浸した受容層15を有するシート基材である不織布10で構成されている。
【0044】
まず、不織布10について説明する。不織布10は、5~55重量%のポリエステル繊維と、45~95重量%のパルプとを含むものであればその構造は特に限定されない。なお、不織布10には、10~20重量%のポリエステル繊維と、40~50重量%のパルプと、30~50重量%のこれら以外の成分とで構成されるものも当然含まれる。
【0045】
パルプは特に限定されないが、針葉樹さらし化学パルプ(NBCP)、広葉樹さらし化学パルプ(LBCP)やこれらの混合物を用いることができる。そして、パルプの断面形状は、特に限定されないが、円形状や楕円形状のもの(異形断面のものを含まない)が、パルプ同士が適度に絡み合うことで引張強度が向上するので好ましい。また、パルプおよびポリエステル繊維の径としては、5~20μmのものが好ましく、10~15μmのものがより好ましい。
【0046】
ポリエステル繊維は特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)等の繊維が好ましい。
【0047】
このような構成の不織布は、引張強度が高い(例えば100N/15mm以上)ので、構造物の乾燥や地殻の揺れ等による躯体の移動に伴う難燃性壁紙1の割れや破れを防ぐことができる。引張強度が100N/15mmより小さいと、躯体の移動に伴って難燃性壁紙の割れや破れが発生する可能性がある。
【0048】
また、このような構成の不織布10は水中伸度(浸水伸度)が低い(例えば0.5%以下、好ましくは0.3%以下)ので、水分(湿気)を吸収しても膨張し難い。その結果、水分の吸収による難燃性壁紙1の破れを防ぐことができる。水中伸度が1%より大きいと、水分の吸収による難燃性壁紙の破れが発生する可能性がある。さらに、このような構成の不織布10は、十分な吸湿性(例えば105g/m2以上)や放湿性(例えば77g/m2以上)を有する。ここで、吸湿性とは空気中の水分(湿気)を吸い取る性質をいい、放湿性とは吸収した水分を放出する性質をいう。
【0049】
なお、ポリエステル繊維およびパルプの重量比率は、それぞれ5~55重量%および45重量%~95重量%であれば特に限定されないが、5~40重量%および60~95重量%であれば、より高い引張強度と、より低い水中伸度とを兼ね備えているので好ましく、20~35重量%および65~80重量%は、さらに高い引張強度と、さらに低い水中伸度とを兼ね備えているので特に好ましい。加えて、このような構成の不織布10は、躯体の移動や水分の吸収による難燃性壁紙1の割れや破れの発生をより防ぐことができる。なお、不織布10には、ポリエステル繊維およびパルプ以外に、ガラス繊維を含むように不織布10を構成してもよい。ガラス繊維を含めることにより、不織布10の強度や耐久性を向上させることができる。
【0050】
さらに、不織布10には、これらの繊維以外に、安定剤として酸化チタン等が含まれていてもよいし、合成ゴム系・アクリル系・酢酸ビニル系・塩化ビニル系・ウレタン系のバインダー等が含まれていてもよい。なお、不織布10には、ポリエステル繊維およびパルプ以外のものが含まれていなくてもよいのは言うまでもない。
【0051】
加えて、不織布10の一方面(受容層15が形成される面)の表面の十点平均粗さ(Rz)は、8μm~14μmであるものが好ましい。十点平均粗さが8μmより小さいと、受容層用塗料が不織布10に含浸し難く、十分な厚みの受容層15を形成することができない。一方、十点平均粗さが14μmより大きいと、受容層15が剥がれ易くなってしまう。その結果、難燃性壁紙1の美観が損なわれ易くなってしまう。なお、不織布10の一方面(受容層15が形成される面)の表面の十点平均粗さは、9μm~13μmであるものが特に好ましい。このような構造の不織布10は、十分な厚みを有し、剥がれ難い受容層15を容易に形成することができる。なお、十点平均粗さ(Rz)は、例えばZygo製白色干渉計NEXVIEW等を用いて測定することができる。
【0052】
さらに、不織布10の表面におけるポリエステル繊維の結晶化度が、不織布10の内部におけるポリエステル繊維の結晶化度よりも低いことが好ましい。このような構造の不織布は、引張強度や水中伸度を変えることなく、不織布10の柔軟性を向上させることができる。ポリエステル繊維の結晶化度については、例えば、ポリエステル繊維の融点を比較すること等によって把握することができる(融点の低いポリエステル繊維の方が、融点の高いポリエステル繊維よりも結晶化度が低いと判断できる)。なお、このような不織布は、加熱した後に、急速に冷却したり、ポリエステル繊維の原料にリサイクル樹脂を用いること等によって製造することができる。
【0053】
次に、受容層15について説明する。受容層15は、不織布10の一方面に受容層用塗料が含浸している層であればその厚みは限定されないが、受容層15に含浸した受容層用塗料の乾燥時の重量は1g/m2~150g/m2である必要がある。
【0054】
受容層15に含浸した受容層用塗料の乾燥時の重量が1g/m2より少ないと、受容層15の厚みが不十分で適性に欠ける。その結果、難燃性壁紙1の美観が損なわれ易くなってしまう。一方、受容層15に含浸した受容層用塗料の乾燥時の重量が150g/m2より多いと、燃焼した際の発熱量が増大し、上述した難燃性条件を満たすことができなくなる。
【0055】
なお、受容層15に含浸した受容層用塗料の乾燥時の重量は、1.5g/m2~137g/m2であることが好ましく、16g/m2~70g/m2であることが特に好ましい。受容層用塗料の乾燥時の重量がこの範囲の受容層15は、厚みが十分で削れにくく、かつ割れ難い。その結果、美観が損なわれ難く、扱いやすい難燃性壁紙1となる。加えて、燃焼した際の発熱量を抑えることができる。
【0056】
ここで、受容層用塗料は、主成分として合成樹脂を含み、不織布10に含浸することができるものであれば特に限定されない。合成樹脂を含む受容層用塗料を用いることにより、不織布10の一方面の表面を平坦にすることができる。また、受容層用塗料に含まれる合成樹脂は特に限定されないが、アクリル樹脂、セルロースアセテート、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリエステル、ウレタンが好ましく、アクリル樹脂が特に好ましい。特に、主成分としてアクリル樹脂を含む受容層用塗料を用いた場合には、アクリル樹脂が不織布10に含浸することにより、他の合成樹脂を用いた場合と比較して、難燃性壁紙の柔軟性を維持しつつ強度を向上させることができる。ここで、アクリル樹脂とは、アクリル酸、メタクリル酸およびこれらの誘導体を重合させたものをいう。
【0057】
なお、受容層用塗料には、光触媒材料、水酸化カルシウムや水酸化マグネシウム等の水和金属化合物が1種類以上含まれていてもよい。光触媒材料としては、光触媒機能を有するものであれば特に限定されず、例えば、光触媒機能を有する二酸化チタン等が挙げられる。
【0058】
さらに、受容層用塗料としては、受容層15に含浸させる前の粘度が0.26pa・s~1.7pa・sであるものが好ましい。受容層用塗料の粘度が0.26pa・sより小さいと、受容層用塗料を不織布10の表面に十分に塗布することができず、適切な量の受容層用塗料を不織布10に均一含浸させることができなくなる。その結果、美観が良くない難燃性壁紙1となる。一方、受容層用塗料の粘度が1.7pa・sより大きいと、適切な量の受容層用塗料を均一に含浸させることができなくなる。なお、粘度は、受容層用塗料の温度を20℃とし、ザーンカップ5番等を用いて測定することができる。
【0059】
次に、本実施形態に係る難燃性壁紙1の製造方法について説明する。本実施形態に係る難燃性壁紙1は、次のようにして製造することができる。まず、不織布10の一方面に、ロールコータ―等のコーター機を用いて、受容層用塗料を塗布する。次に、受容層用塗料が塗布された不織布を乾燥させる。その後、所定の形状に裁断することによって、難燃性壁紙1製造することができる。
(実施形態2)
【0060】
上述した実施形態では、ポリエステル繊維と、パルプとで不織布を構成したが、本発明はこれに限定されない。例えば、10~30重量%のポリエステルと、60~85重量%のパルプと、1~5重量%のポリオレフィン繊維とで不織布を構成してもよい。
【0061】
このような構造の不織布は、ポリオレフィン繊維を含むことにより耐水性・密着性が向上するので、引張強度がより高く、水中伸度がより低く、かつ毛羽立ちを防ぐことができるものとなる。その結果、高い引張強度と低い水中伸度とを兼ね備えており、躯体の移動や水分の吸収による割れや破れの発生を、より防ぐことができる難燃性壁紙を提供することができる。
【0062】
ここで、ポリオレフィン繊維は特に限定されないが、ポリエチレンまたはポリプロピレンで構成されたものが好ましい。ポリエチレンまたはポリプロピレンからなるポリオレフィン繊維を用いることにより、引張強度がさらに高く、水中伸度がさらに低い不織布となる。
【0063】
また、ポリエステル繊維は20~30重量%で、パルプは60~70重量%で、ポリオレフィン繊維は3~5重量%のものが、引張強度がさらに高く、水中伸度がさらに低いものとなるので、好ましい。
【0064】
なお、不織布には、ポリエステル繊維、パルプおよびポリオレフィン繊維以外に、上述したガラス繊維、安定剤またはバインダー等が含まれていてもよいが、それらが含まれていなくてもよいのは言うまでもない。
<引張強度試験>
【0065】
次の本発明に係る不織布〔実施例1〕と、従来のビニールクロス〔比較例1〕に関し、引張強度試験を行った。
〔実施例1〕
不織布:30重量%のポリエステル繊維(PETおよびPBT)と67重量%のパルプ、3%のポリオレフィン繊維(PEおよびPP)で構成された不織布
〔比較例1〕
ビニールクロス:SP2350(株式会社サンゲツ社製)
【0066】
これらのシート基材に対し、JIS P 8113に準拠して、引張強度を測定した。その結果を
図2に示す。この図に示すように、本実施形態に係る不織布(a1)は、従来のビニールクロス(b1)と比較して、縦方向の引張強度および横方向の引張強度の何れも高い値を示したことが分かった。なお、この試験において、縦方向とは、裁断前のロール状に製造された不織布の長手方向をいい、横方向とは、裁断前のロール状に製造された不織布の短手方向のことをいう。
(実施形態3)
【0067】
実施形態1では、基材である不織布の他方面の表面に何も設けなかったが、接着剤を含浸させた接着層を設けてもよい。
図3は、本実施形態に係る難燃性壁紙の概略側面図である。この図に示すように、不織布10の他方面(下面)に接着層20が設けられている。
【0068】
接着層20は、不織布10の他方面に、接着剤が含浸して形成されていてもよいし、不織布10の他方面の表面に接着剤が塗布されていてもよいし、不織布10の他方面に接着剤の一部が含浸し、その他の接着剤が不織布10の他方面の表面に塗布された状態で形成されていてもよい。接着層20を形成することにより、建物の壁等に、難燃性壁紙1Aを容易に貼付することができる。
【0069】
ここで、接着層20の厚さは、0.01mm~5mmであることが好ましい。0.01mmより小さいと、十分な接着力を有さず、難燃性壁紙が壁面等から剥がれてしまう可能性がある。一方、5mmより大きいと、燃焼した際の発熱量が増大し、上述した難燃性条件を満たすことができなくなる。なお、接着層20の厚みは、0.1mm~2mmであることが、より好ましい。接着層20の厚みがこの範囲内にあると、十分な接着力を有すると共に、上述した難燃性条件を満たす難燃性壁紙を提供することができる。
【0070】
なお、接着剤は、難燃性壁紙1Aを、建物の壁等に接着することができるものであれば特に限定されない。接着剤としては、澱粉を主成分とする澱粉系接着剤、アクリル酸エステルを主成分とする接着剤、水分を吸収することにより粘着性が生じる再湿糊またはホットメルト接着剤が好ましい。
【0071】
澱粉系接着剤としては、例えばウォールボンド(登録商標)100(ウォールボンド工業株式会社製)、ルーアマイルド(登録商標)(ヤヨイ化学工業株式会社製)等が挙げられる。
【0072】
アクリル酸エステルを主成分とする接着剤に含まれるアクリル酸エステルとしては、例えばアクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシルまたはアクリル酸2-ヒドロキシエチル等が挙げられる。
【0073】
再湿糊は、澱粉を主成分とし、水分を吸収することにより粘着性が生じる澱粉系再湿糊や、水溶性アクリル系樹脂を含み、水分を吸収することにより粘着性が生じる接着剤等であれば特に限定されないが、澱粉系再湿糊が好ましい。再湿糊としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA、ポバール)、障子・ふすまのり(株式会社アサヒペン社製)またはW&Wパーフェクト(株式会社中村製紙所社製)等が挙げられる。
【0074】
ホットメルト接着剤は、熱(例えば80~100℃)をかけて融かして接着させることができる接着剤であれば特に限定されず、例えばエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、オレフィン系、合成ゴム(エラストマー)を主成分とする接着剤が挙げられ、ポリプロピレンやポリエチレン等を主成分としたオレフィン系接着剤が好ましい。ホットメルト接着剤としては、例えばアロンメルトPPET(東亜合成株式会社製)やP-10(泰平ケマック株式会社製)等が挙げられる。
【0075】
また、接着層20が設けられる不織布10の表面の十点平均粗さ(Rz)は、8μm~14μmであるものが好ましい。十点平均粗さが8μmより小さいと、接着剤が不織布10に含浸し難く、十分な厚みを有する接着層20を形成することができない。一方、十点平均粗さが14μmより大きいと、接着層20が剥がれ易くなってしまう。その結果、難燃性壁紙1Aが壁等から剥がれ易くなってしまう。なお、不織布10の他方面(接着層20が形成される面)の表面の十点平均粗さは、9μm~13μmであるものが特に好ましい。このような構造の不織布10は、十分な厚みを有し、剥がれ難い接着層20を容易に形成することができる。
<壁紙張/せっこうボードの防火性能試験>
【0076】
図4~
図6に示す本発明に係る試験体A~Cに対し、一般財団法人建材試験センターにて、「壁紙張/せっこうボードの防火性能試験」を行った。その結果を
図7~
図9にそれぞれ示す。
【0077】
この結果から分かるように、試験体A~Cは、上述した難燃性条件を満たすことが分かった。
(実施形態4)
【0078】
実施形態3では、不織布の他方面の表面に、接着層を直接設けるようにしたが、本発明はこれに限定されない。例えば
図10に示すように、不織布10と接着層20との間に、着色された着色層50を設けてもよい。着色層50を設けることにより、難燃性壁紙が貼付される壁の色が、難燃性壁紙1Bを透過して見えてしまうことを防止できる。すなわち、難燃性壁紙1Bの隠蔽性を向上させることができる。
【0079】
ここで、着色層50は、白色をはじめ、着色された材料で構成され、貼付する壁面の色が、難燃性壁紙1Bを透過して、見えないようにするものであれば特に限定されない。着色層50としては、例えば、白色やその他の有色の顔料が含まれた塗料を不織布10の他方面に含浸させて形成したもの、白色やその他の有色で着色された紙、オレフィンシート、合成紙等が挙げられる。なお、着色層50を有色の紙で構成した場合には、上述したような接着剤等で、その紙を不織布10の他方面の表面に貼付する必要があるのは言うまでもない。なお、接着剤を着色することによって、隠蔽性をより向上させることができる。
【0080】
また、着色層50の厚みは特に限定されないが、0.02mm~0.9mmのものが、難燃性に影響を与えず、かつ壁の色が透過してしまうのを防止できるので好ましく、0.07~0.3mmのものがより好ましい。0.02mmよりも薄いと、壁面の色が難燃性壁紙1Bを透過して見えてしまう。一方、0.9mmより厚いと、燃焼した際の発熱量が増大し、上述した難燃性条件を満たすことができず、かつ壁等への貼付の施行性が悪くなる。
(実施形態5)
【0081】
上述した実施形態では、受容層上に何も設けなかったが、本発明はこれに限定されない。例えば、
図11に示すように、受容層15上に、顔料を含むインク層30を設けてもよい。インク層30を設けることによって、精細な文字や色彩等が印刷された難燃性壁紙1Cを提供することができる。
【0082】
ここで、インク層30は、顔料を含むものであれば特に限定されない。なお、インク層30は、例えばインクジェット式印刷機によって受容層15上にポリマー等の塗料を塗布し、その塗料を乾燥させることによって形成することができる。なお、インク層30は、一層構造でも、二層以上の多層構造でもよい。
【0083】
インク層30の厚みは特に限定されないが、0.01mm~0.03mmの範囲が好ましい。0.01mmより薄いと十分に発色せず、0.03mmより厚いとインク層30が剥がれ易くなる。
【0084】
次に、インク層30を形成する際に用いるインクについて説明する。インクは特に限定されず、溶剤インク、水性インク、ラテックスインク、紫外線硬化インク(UVインク)等を用いることができるが、ラテックスインクまたはUVインクが好ましい。
【0085】
インクとしてラテックスインクを用いた場合は、難燃性壁紙1Cに塗布する際に加熱し、難燃性壁紙1Cの表層(受容層15上)でラテックスインクを固化させてインク層30を形成するので、難燃性壁紙1Cの強度を向上させることができる。
【0086】
また、インクとしてUVインクを用いた場合は、難燃性壁紙1Cの表層(受容層15上)にUVインクを塗布した後、紫外線を照射して、難燃性壁紙1Cの表層(受容層15上)でUVインクを固化させてインク層30を形成するので、ラテックスインクと同様に、難燃性壁紙1Cの強度を向上させることができる。
【0087】
なお、受容層15上に形成されるインク層30の厚みは、0.01mm~0.015mmが好ましい。
【0088】
さらに、水性インクを用いる場合には、受容層15上にラミネートフィルム等を貼付してもよい。また、インク層30は、いわゆるオプティマイザーを塗布した後に、インクを塗布することで形成してもよい。
(他の実施形態)
【0089】
上述した実施形態では、難燃性壁紙の表面にエンボス加工を施していないが、エンボス加工を施してもよい。エンボス加工は、従来の壁紙にエンボス加工を施す方法と同様の方法を用いることができる。難燃性壁紙の表面にエンボス加工を施すことによって、建物の壁等の下地の凹凸が難燃性壁紙の表面に現れにくくなるので、難燃性壁紙の美観を向上させることができると共に、下地との間に空気層が形成されるので、難燃性壁紙が水等で濡れてしまっても、エンボス加工を施していない難燃性壁紙と比較して、乾き易いという効果を有する。
【符号の説明】
【0090】
1、1A、1B、1C 難燃性壁紙
10 不織布(シート基材)
15 受容層
20 接着層
30 インク層
50 着色層