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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023010323
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】補修構造
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/02 20060101AFI20230113BHJP
【FI】
E04G23/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021114381
(22)【出願日】2021-07-09
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 岳央
(72)【発明者】
【氏名】山下 洋一
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA07
2E176BB01
(57)【要約】
【課題】引張力に対してより高い耐性を有する補修構造を提供すること。
【解決手段】補修構造100は、き裂50と、き裂50と交差するように延在する補修孔と、を有する母材1と、補修孔に挿入され、かつ、き裂50と交差するように延在する第1の辺2dおよび第2の辺2eを有する、補修部材2と、を備える。第1の辺2dは、第2の辺2eよりもき裂50の端部51に近い。補修部材2は、中心軸線2aを含む。中心軸線2aは、中心軸線2aとき裂50との間の交差部2bが、交差部2bにおけるき裂50の伸展方向において、中心軸線2aの両端部2cに比べて、き裂50の端部51から離れるように湾曲しており、第1の辺2dが、中心軸線2aと同じ向きに湾曲している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
き裂と、前記き裂と交差するように延在する補修孔と、を有する母材と、
前記補修孔に挿入され、かつ、前記き裂と交差するように延在し互いに反対側に位置する第1の辺および第2の辺を有する、補修部材であって、前記第1の辺は、前記第2の辺よりも前記き裂の端部に近く、当該補修部材は、前記第1の辺と前記第2の辺との間にあり、かつ、前記第1の辺上の点での前記き裂からの垂直距離と、前記第2の辺上の点での前記き裂からの垂直距離とが等しくなるようにとった、前記第1の辺および前記第2の辺上の2点の中点を結んで形成される中心軸線を含み、前記中心軸線は、前記中心軸線と前記き裂との間の交差部が、前記交差部における前記き裂の伸展方向において、前記中心軸線の両端部に比べて、前記き裂の前記端部から離れるように湾曲しており、前記第1の辺が、前記中心軸線と同じ向きに湾曲している、補修部材と、
を備える、補修構造。
【請求項2】
前記第2の辺も、前記中心軸線と同じ向きに湾曲している、請求項1に記載の補修構造。
【請求項3】
前記第2の辺は、前記第1の辺の曲率よりも小さな曲率で、前記中心軸線と反対向きに湾曲している、請求項1に記載の補修構造。
【請求項4】
き裂と、前記き裂と交差するように延在する補修孔と、を有する母材と、
前記補修孔に挿入され、かつ、前記き裂と交差するように延在し互いに反対側に位置する第1の辺および第2の辺を有する、補修部材とを備え、
前記補修部材の前記き裂の延長線を挟んだ第1半部の、前記母材の補修孔が形成された面と平行な面における面積重心である第1半部面積重心を前記延長線上に射影した点が、前記き裂と前記第1の辺の交点と、前記き裂と前記第2の辺の交点の中間点より、前記き裂の伸展方向において、前記き裂の端部に近い位置にあり、
前記補修部材の前記き裂の延長線を挟んだ第2半部の、前記母材の補修孔が形成された面と平行な面における面積重心である第2半部面積重心を前記延長線上に射影した点が、前記中間点より、前記き裂の伸展方向において、前記き裂の端部に近い位置にある、
補修構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、補修構造に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁またはクレーン等の構造物で使用される金属(例えば、鋼)には、繰り返し荷重による疲労に起因して、き裂が生じ得る。このようなき裂を補修するための様々な技術が提案されている。例えば、特許文献1は、き裂の進展を抑制するための構造を開示する。この構造では、き裂を有する板材に対して、き裂に交差するように孔が形成される。この孔に対して、き裂の進展を抑制するための部材が挿入される。この部材は、き裂と交差する方向に長手方向を有する。長手方向の両端は、中央部よりも大きな幅を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-199846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなき裂の補修構造では、き裂に対して曲げ力および引張力等の様々な荷重が加わる。したがって、このような補修構造は、様々な荷重に対してより高い耐性を有することが望まれる。
【0005】
本開示は、上記のような課題を考慮して、き裂に加わる荷重のうち、特に引張力に対してより高い耐性を有する、補修構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る補修構造は、き裂と、き裂と交差するように延在する補修孔と、を有する母材と、補修孔に挿入され、かつ、き裂と交差するように延在し互いに反対側に位置する第1の辺および第2の辺を有する、補修部材であって、第1の辺は、第2の辺よりもき裂の端部に近く、補修部材は、第1の辺と第2の辺との間にあり、かつ、第1の辺上の点でのき裂からの垂直距離と、第2の辺上の点でのき裂からの垂直距離とが等しくなるようにとった、第1の辺および第2の辺上の2点の中点を結んで形成される中心軸線を含み、中心軸線は、中心軸線とき裂との間の交差部が、交差部におけるき裂の伸展方向において、中心軸線の両端部に比べて、き裂の端部から離れるように湾曲しており、第1の辺が、中心軸線と同じ向きに湾曲している、補修部材と、を備える。
【0007】
第2の辺も、中心軸線と同じ向きに湾曲していてもよい。
【0008】
第2の辺は、第1の辺の曲率よりも小さな曲率で、中心軸線と反対向きに湾曲していてもよい。
【0009】
本開示の他の態様に係る補修構造は、き裂と、き裂と交差するように延在する補修孔と、を有する母材と、補修孔に挿入され、かつ、き裂と交差するように延在し互いに反対側に位置する第1の辺および第2の辺を有する、補修部材とを備え、補修部材のき裂の延長線を挟んだ第1半部の、母材の補修孔が形成された面と平行な面における面積重心である第1半部面積重心を延長線上に射影した点が、き裂と第1の辺の交点と、き裂と第2の辺の交点の中間点より、き裂の伸展方向において、き裂の端部に近い位置にあり、補修部材のき裂の延長線を挟んだ第2半部の、母材の補修孔が形成された面と平行な面における面積重心である第2半部面積重心を延長線上に射影した点が、中間点より、き裂の伸展方向において、き裂の端部に近い位置にある。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、引張力に対してより高い耐性を有する補修構造を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は第1実施形態に係る補修構造を示す平面図である。
図2図2は補修部材が挿入される前の図1の母材を示す平面図である。
図3図3は第2実施形態に係る補修構造を示す平面図である。
図4図4は比較例に係る補修構造を示す平面図である。
図5図5は第3実施形態に係る補修構造を示す平面図である。
図6図6は第4実施形態に係る補修構造を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す具体的な寸法、材料および数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また、本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0013】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る補修構造100を示す平面図である。補修構造100は、き裂50を有する既存の構造物(例えば、橋梁またはクレーン等)に適用される。補修構造100は、母材1と、複数(本実施形態では、4つ)の補修部材2と、を備える。なお、補修部材2の数は、例えば、き裂50のサイズ等の様々な要因に応じて決定することができ、例えば、3つ以下または5つ以上であってもよい。
【0014】
母材1は、構造物の一部であることができ、金属(例えば、鋼)で形成される。母材1は、例えば板状である。母材1は、き裂50を有する。
【0015】
き裂50は、例えば、構造物に加えられる繰り返し荷重に起因する疲労によって発生し得る。本実施形態では、き裂50は直線形状を有する。しかしながら、き裂50の形状はこれに限定されず、他の実施形態では他の形状であり得る。なお、図1では、より良い理解のために、き裂50の太さ(図1において上下方向の長さ)は誇張されている。実際の構造物においては、き裂50はより細くてもよい。
【0016】
き裂50は、母材1の表面11に端部51を有する。本実施形態では、き裂50の全体が、母材1の表面11の範囲内に位置する。したがって、本実施形態では、き裂50は、母材1の表面11の範囲内に2つの端部51を有する。しかしながら、他の実施形態では、き裂50は、母材1の縁12に達していてもよい。この場合、き裂50の端部51は、縁12上に位置する。
【0017】
図2は、補修部材2が挿入される前の図1の母材1を示す平面図である。母材1は、複数(本実施形態では、4つ)の補修孔13を有する。補修孔13は、端部51からのき裂50の進展を抑制するために、端部51の近傍に形成される。以下の補修孔13および補修部材2の説明において、「端部51」とは、これら補修孔13および補修部材2に最も近いものを意味し得る。
【0018】
補修孔13は、き裂50に交差するように延在する。例えば、補修孔13は、き裂50(または、き裂50の中心軸線)に対して、線対称となるように母材1に形成される。本実施形態では、補修孔13は、概ねブーメラン形状を有する。
【0019】
補修孔13は、第1の辺13dおよび第2の辺13eを有する。第1の辺13dおよび第2の辺13eの各々は、き裂50に交差するように延在する。第1の辺13dおよび第2の辺13eは、互いに反対側にある。第1の辺13dは、第2の辺13eに比べて、端部51により近い。補修孔13は、中心軸線13aを有する。中心軸線13aは、第1の辺13dと第2の辺13eとの間にあり、かつ、第1の辺13d上の点でのき裂50からの垂直距離と,第2の辺13e上の点でのき裂50からの垂直距離の両者が等しくなるようにとった,それぞれの辺上の2点の中点を結んだものとなっている。補修孔13の幅(第1の辺13dと第2の辺13eとの間の距離)は、中心軸線13aの両端部13c付近において最も大きい。
【0020】
中心軸線13aは、中心軸線13aとき裂50との間の交差部13bが、交差部13bにおけるき裂50の伸展方向(図2において左右方向)において、中心軸線13aの両端部13cに比べて、き裂50の端部51から離れるように、湾曲している。別の観点では、中心軸線13aは、中心軸線13aとき裂50との間の交差部13bが、中心軸線13aの両端部13cを結ぶ線に対して、端部51の反対側に位置するように、湾曲している。さらに別の観点では、本実施形態の交差部13bにおける中心軸線13aの曲率中心は、中心軸線13aの両端部13cを結ぶ線に対して、端部51側に位置する。本実施形態では、第1の辺13dおよび第2の辺13eの双方が、中心軸線13aと同じ向きに湾曲している。
【0021】
例えば、補修孔13は、応力集中を低減するために、曲線によって形成されることができる。しかしながら、他の実施形態では、補修孔13は、大きな応力集中が発生しない限りにおいて、直線部を含んでもよい。
【0022】
図1を参照して、補修部材2は、補修孔13に概ね対応する形状を有し、補修孔13に挿入される。例えば、補修部材2は、作業員が手でまたは道具を使用して補修部材2を補修孔13に嵌め込むことができるように、補修孔13よりも僅かに小さい。例えば、補修部材2と補修孔13との隙間は、不図示の接着剤によって充填されてもよい。なお、補修部材2の形状は、補修孔13に完全に対応していなくてもよく、例えば、補修部材2の一部の輪郭は、補修孔13の輪郭と異なっていてもよい。
【0023】
上記のように、本実施形態では、補修部材2は、補修孔13に対応する形状を有する。具体的には、補修部材2は、き裂50に交差するように延在する。例えば、補修部材2は、き裂50(または、き裂50の中心軸線)に対して、線対称である。本実施形態では、補修部材2は、概ねブーメラン形状を有する。
【0024】
補修部材2は、第1の辺2dおよび第2の辺2eを有する。第1の辺2dおよび第2の辺2eの各々は、き裂50に交差するように延在する。第1の辺2dおよび第2の辺2eは、互いに反対側にある。第1の辺2dは、第2の辺2eに比べて、端部51により近い。補修部材2は、中心軸線2aを有する。中心軸線2aは、第1の辺2dと第2の辺2eとの間にあり、かつ、第1の辺2d上の点でのき裂50からの垂直距離と、第2の辺2e上の点でのき裂50からの垂直距離の両者が等しくなるようにとった,それぞれの辺上の2点の中点を結んだものとなっている。補修部材2の幅(第1の辺2dと第2の辺2eとの間の距離)は、中心軸線2aの両端部2c付近において最も大きい。
【0025】
中心軸線2aは、中心軸線2aとき裂50との間の交差部2bが、交差部2bにおけるき裂50の伸展方向(図1において左右方向)において、中心軸線2aの両端部2cに比べて、き裂50の端部51から離れるように、湾曲している。別の観点では、中心軸線2aは、中心軸線2aとき裂50との間の交差部2bが、中心軸線2aの両端部2cを結ぶ線に対して、端部51の反対側に位置するように湾曲している。さらに別の観点では、本実施形態の交差部2bにおける中心軸線2aの曲率中心は、中心軸線2aの両端部2cを結ぶ線に対して、端部51側に位置する。本実施形態では、第1の辺2dおよび第2の辺2eの双方が、中心軸線2aと同じ向きに湾曲している。別の観点では、第1の辺2dは、補修部材2の外側に対して窪むように湾曲している一方で、第2の辺2eは、補修部材2の外側に向かって突出するように湾曲している。
【0026】
例えば、補修部材2は、応力集中を低減するために、曲線によって形成されることができる。しかしながら、他の実施形態では、補修部材2は、大きな応力集中が発生しない限りにおいて、直線部を含んでもよい。
【0027】
補修部材2は、例えば、母材1よりも高い強度を有する金属(例えば、高強度鋼(高張力鋼))で形成される。例えば、補修部材2の厚さは、母材1の厚さと同等、または、母材1の厚さよりも大きい。
【0028】
例えば、上記の補修孔13および補修部材2の形状は、き裂50を模擬した試験片を用いて、実験または解析によって、決定されてもよい。例えば、き裂50の端部51におけるひずみに基づいて応力拡大係数幅ΔKを算出する。この応力拡大係数幅ΔKが、下限界応力拡大係数幅ΔKth以下となるように、補修孔13および補修部材2の形状、それらの数、および、それらの間隔を算出してもよい。下限界応力拡大係数幅ΔKthは、例えば母材1の材料およびき裂50の寸法等の要因によって決定される。
【0029】
続いて、補修構造100を構造物に適用する方法について説明する。
【0030】
図2を参照して、き裂50が発見された構造物の母材1に対して、補修孔13を形成する。例えば、まず、カッターによって切り込みを母材1に形成し、その後、放電加工によって補修孔13を形成してもよい。例えば、補修孔13が、予め準備された補修部材2の形状に応じて形成されてもよい。代替的にまたは追加的に、補修部材2が、母材1に形成された補修孔13の形状に応じて、補修現場で作成または修正されてもよい。
【0031】
図1を参照して、続いて、補修孔13に補修部材2を嵌め込み、補修孔13と補修部材2との間の隙間を、接着剤によって充填する。
【0032】
続いて、補修構造100に対して引張力が加えられる場合について説明する。
【0033】
図4は、比較例に係る補修構造500を示す平面図である。補修構造500は、上記の補修部材2に代えて、補修部材9を備える。図4に示されるように、補修部材9では、中心軸線9aは直線であり、また、第1の辺9dおよび第2の辺9eは、中心軸線9aに対して線対称である。補修部材9は、中心軸線9aの両端部付近において、より大きい幅を有する。図4に示されるように、補修構造500に対して、き裂50の延在方向に垂直な引張力T0が加えられる場合、き裂50の端部51に対して、き裂50の延在方向に垂直な引張応力T1が加わる。このような引張応力T1は、補修部材9において、引張応力T1の方向と交差する部分(すなわち、中心軸線9aの両端部付近の幅広部分)によって受け止められる。
【0034】
対称的に、図1を参照して、本開示の補修部材2では、中心軸線2aとき裂50との間の交差部2bが、交差部2bにおけるき裂50の伸展方向において、中心軸線2aの両端部2cに比べて、き裂50の端部51から離れるように、中心軸線2aが湾曲しており、かつ、端部51に近い第1の辺2dが、中心軸線2aと同じ向きに湾曲している。このような補修部材2では、第1の辺2dのより多くの部分(両端部付近の部分)が、き裂50の延在方向に垂直な方向(すなわち、引張応力T1の方向)と交差する。したがって、第1の辺2dのより多くの部分が、引張応力T1を受け止めることができる。また、第2の辺2eは、引張応力T1の反力を受ける。この第2の辺2eも、中心軸線2aと同じ向きに湾曲している。すなわち、第2の辺2eは、突出するように湾曲している。したがって、第2の辺2eは、応力集中を抑制することができる。よって、本開示の補修構造100は、比較例に係る補修構造500に比べて、引張力T0に対する耐性を向上することができる。
【0035】
以上のように、本開示の補修構造100は、き裂50と、き裂50と交差するように延在する補修孔13と、を有する母材1と、補修孔13に挿入され、かつ、き裂50と交差するように延在し互いに反対側に位置する第1の辺2dおよび第2の辺2eを有する、補修部材2と、を備える。第1の辺2dは、第2の辺2eよりも、き裂50の端部51に近く、補修部材2は、第1の辺2dと第2の辺2eとの間にあり、かつ、第1の辺2d上の点でのき裂50からの垂直距離と、第2の辺2e上の点でのき裂50からの垂直距離とが等しくなるようにとった、第1の辺2dおよび第2の辺2e上の2点の中点を結んで形成される中心軸線2aを含み、中心軸線2aは、中心軸線2aとき裂50との間の交差部2bが、交差部2bにおけるき裂50の伸展方向において、中心軸線2aの両端部2cに比べて、き裂50の端部51から離れるように湾曲しており、第1の辺2dが、中心軸線2aと同じ向きに湾曲している。このような構成によれば、上記のように、第1の辺2dのより多くの部分が、引張応力T1の方向と交差する。したがって、第1の辺2dが、引張応力T1をしっかりと受けることができる。よって、補修構造100は、き裂50の延在方向に対して垂直な引張力T0に対してより高い耐性を有する。
【0036】
また、補修構造100では、第2の辺2eも、中心軸線2aと同じ向きに湾曲している。このような構成によれば、引張応力T1の反力を受ける第2の辺2eが、突出するように湾曲する。したがって、第2の辺2eの中央部Bは、応力集中を抑制することができる。
【0037】
[第2実施形態]
図3は、第2実施形態に係る補修構造200を示す平面図である。第2実施形態に係る補修構造200は、補修部材3の形状(および、補修孔の形状)が、第1実施形態に係る補修部材2の形状と異なる点で、第1実施形態に係る補修構造100と異なる。その他の点については、上記の補修構造100のものと同一であってもよい。したがって、その他の点の説明については省略する。また、上記のように、補修孔の形状は、補修部材3の形状と対応する。したがって、補修孔の説明についても省略する。
【0038】
第2実施形態に係る補修部材3では、第2の辺3eが、中心軸線3aと逆向きに湾曲している。具体的には、第2の辺3eは、第1の辺3dの曲率よりも小さな曲率で、中心軸線3aと逆向きに湾曲している。別の観点では、第2の辺3eは、補修部材3の外側から見て、凹となるように湾曲している。
【0039】
以上のような補修構造200は、第1実施形態に係る補修構造100と同様な効果を奏する。
【0040】
特に、補修構造200では、補修部材3の第2の辺3eが、第1の辺3dの曲率よりも小さな曲率で、中心軸線3aと反対向きに湾曲している。第2の辺3eの曲率は第1の辺3dの曲率よりも小さいため、このような補修構造200においても、第2の辺3eは、引張応力T1の反力を受ける場合に応力集中を抑制することができる。また、このような補修部材3では、第1実施形態に係る補修部材2に比べて、中心軸線3aの両端部3c付近において、補修部材3の幅がより大きくなる。したがって、両端部3c付近における補修部材3の強度を向上することができる。
【0041】
[第3実施形態]
図5は、第3実施形態に係る補修構造300を示す平面図である。第3実施形態に係る補修構造300は、補修構造300が補修板7およびボルト8を備える点で、第1実施形態に係る補修構造100と異なる。その他の点については、上記の補修構造100のものと同一であってもよい。したがって、その他の点の説明については省略する。
【0042】
補修板7は、板状である。補修板7は、例えば、き裂50の全体をカバーすることができるサイズを有する。本実施形態では、補修板7は矩形状である。しかしながら、補修板7の形状はこれに限定されず、例えば、き裂50の形状に応じて修正可能である。補修板7の厚さは、例えば、母材1の厚さと同様である。代替的に、補修板7の厚さは、母材1の厚さより小さくてもよく、または、大きくてもよい。補修板7は、例えば、母材1と同じ材料、補修部材2と同じ材料、または、母材1および補修部材2と異なる材料で形成されてもよい。補修板7は、例えば、接着剤によって母材1に貼り付けられてもよい。
【0043】
補修板7は、補修部材2の形状に対応する貫通孔を有する。したがって、本実施形態では、補修部材2は、母材1および補修板7の双方に嵌め込まれる。補修部材2と、母材1および補修板7との間の隙間には、接着剤が充填されてもよい。
【0044】
本実施形態では、母材1に対して、き裂50の端部51に貫通孔が形成される(いわゆる、ストップホール)。この貫通孔に、ボルト8が通される。同様に、補修板7は、母材1の貫通孔に対応する位置に、貫通孔を有する。この貫通孔に、ボルト8のボルト頭が位置する。ボルト8は、母材1を締め付ける。他の実施形態では、ボルト8のボルト頭は、補修板7上に位置してもよく、ボルト8は、母材1および補修板7を互いに締め付けてもよい。ボルト8は、例えば、高力ボルトまたはワンサイトボルトであってもよい。
【0045】
以上のような補修構造300は、第1実施形態に係る補修構造100と同様な効果を奏する。
【0046】
特に、補修構造300は、補修板7を更に備える。したがって、補修板7によって、き裂50の進展を更に抑制することができる。
【0047】
また、補修構造300は、ストップホールに通されるボルト8を更に備える。したがって、ストップホールおよびボルト8によって、端部51からのき裂50の進展を更に抑制することができる。
【0048】
[第4実施形態]
図6は、第4実施形態に係る補修構造400を示す平面図である。第4実施形態に係る補修構造400は、補修部材4の形状(および、補修孔の形状)が、第1実施形態に係る補修部材2の形状と異なる点で、第1実施形態に係る補修構造100と異なる。その他の点については、上記の補修構造100のものと同一であってもよい。したがって、その他の点の説明については省略する。また、上記のように、補修孔の形状は、補修部材4の形状と対応する。したがって、補修孔の説明についても省略する。第4実施形態に係る補修部材4では、第1の辺4dが、補修部材4の外側に対してより窪むように湾曲している。
【0049】
以上のような補修構造400は、第1実施形態に係る補修構造100と同様な効果を奏する。
【0050】
また、別の観点から見る場合、第4実施形態に係る補修部材4は、上半部(第1半部)41と、下半部(第2半部)42と、を含む。なお、本開示において、「上」および「下」との用語は、それぞれ図面における「上」および「下」を指し、特定の要素の特定の方向を意味しない可能性がある。上半部41と下半部42とは、き裂50を挟んで互いに反対に位置する。
【0051】
上半部41は、第1面積重心(第1半部面積重心)41aを含む。第1面積重心41aは、母材1の補修孔13が形成された表面11と平行な面における、上半部41の面積重心である。第1面積重心41aをき裂50の延長線L上に射影した点41b(以下、射影点とも称され得る)は、き裂50と第1の辺4dとの交点、および、き裂50と第2の辺4eとの交点の中間点43より、き裂50の伸展方向において、き裂50の端部51に近い位置にある。なお、き裂50の延長線Lとは、き裂と補修孔13の第1の辺4dの交点と、き裂と補修孔13第2の辺4eとの交点を結ぶ直線である。
【0052】
下半部42は、第2面積重心(第2半部面積重心)42aを含む。第2面積重心42aは、表面11と平行な面における、下半部42の面積重心である。第2面積重心42aを延長線L上に射影した点42b(以下、射影点とも称され得る)は、中間点43より、き裂50の伸展方向において、き裂50の端部51に近い位置にある。なお、本実施形態では、射影点42bは、射影点41bと同じ点に位置するが、他の実施形態では、これらは互いに異なる点に位置し得る。
【0053】
以上のような補修構造400は、き裂50と、き裂50と交差するように延在する補修孔13と、を有する母材1と、補修孔13に挿入され、かつ、き裂50と交差するように延在し互いに反対側に位置する第1の辺4dおよび第2の辺4eを有する、補修部材4とを備え、補修部材4のき裂50の延長線Lを挟んだ上半部41の第1面積重心41aの射影点41bが、き裂50と第1の辺4dの交点と、き裂50と第2の辺4eの交点の中間点43より、き裂50の伸展方向において、き裂50の端部51に近い位置にあり、補修部材4のき裂50の延長線Lを挟んだ下半部42の第2面積重心42aの射影点42bが、中間点43より、き裂50の伸展方向において、き裂50の端部51に近い位置にある。このような観点から見た場合にも、補修構造400では、第1の辺4dのより多くの部分が、引張応力T1の方向と交差する。したがって、第1の辺4dが、引張応力T1をしっかりと受けることができる。よって、補修構造400は、き裂50の延在方向に対して垂直な引張力T0に対してより高い耐性を有する。
【0054】
なお、第1実施形態に係る補修構造100、第2に実施形態に係る補修構造200および第3実施形態に係る補修構造300に対する上記の説明では、上半部の第1面積重心、下半部の第1面積重心、射影点および中間点について言及されていないものの、上半部41の第1面積重心41aと、下半部42の第1面積重心42aと、射影点41b、42bと、中間点43と、の間の上記の関係は、第4実施形態に係る補修構造400に限定されずに、補修構造100、補修構造200および補修構造300についても、同様に当てはまることに留意されたい。また、上記の関係は、さらに他の実施形態にも当てはまり得る。
【0055】
以上、添付図面を参照しながら実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0056】
例えば、上記の第2実施形態では、補修部材3の第2の辺3eは、中心軸線3aと逆向きに湾曲している。しかしながら、他の実施形態では、第2の辺3eは、湾曲しておらず、直線であってもよい。
【0057】
また、上記の実施形態では、補修構造100,200,300,400は、板状の母材1に生じたき裂50に対して適用される。しかしながら、他の実施形態では、補修構造100,200,300,400は、例えば、直角にまたは所定の角度で接合される複数の板状の母材の間の接合部に生じたき裂に対して適用されてもよい。この場合、例えば、補修部材2,3は、複数の母材にまたがって嵌め込まれるように構成されてもよい。
【0058】
本開示は、構造物のより良い補修を促進することができるので、国際連合が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「レジリエントなインフラを整備し、持続可能な産業化を推進するとともに、イノベーションの拡大を図る」および目標11「都市を包摂的、安全、レジリエントかつ持続可能にする」に貢献することが可能となる。
【符号の説明】
【0059】
1 母材
2 補修部材
2a 中心軸線
2b 交差部
2d 第1の辺
2e 第2の辺
3 補修部材
3a 中心軸線
3b 交差部
4 補修部材
4d 第1の辺
4e 第2の辺
41 上半部(第1の半部)
41a 第1面積重心(第1半部面積重心)
41b 第1面積重心をき裂の延長線上に射影した点
42 下半部(第2の半部)
42a 第2面積重心(第2半部面積重心)
42b 第2面積重心をき裂の延長線上に射影した点
43 中間点
13 補修孔
50 き裂
51 き裂の端部
100 補修構造
200 補修構造
300 補修構造
400 補修構造
L き裂の延長線
図1
図2
図3
図4
図5
図6