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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103323
(43)【公開日】2023-07-26
(54)【発明の名称】エレヌマブ組成物及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20230719BHJP
   A61P 25/06 20060101ALI20230719BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230719BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230719BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20230719BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20230719BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20230719BHJP
   C12P 21/02 20060101ALN20230719BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
A61P25/06
A61P25/00
A61K39/395 N
G01N33/68
C12N15/13
C12P21/08
C12P21/02 C
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023076664
(22)【出願日】2023-05-08
(62)【分割の表示】P 2020553476の分割
【原出願日】2019-04-01
(31)【優先権主張番号】62/651,651
(32)【優先日】2018-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】500203709
【氏名又は名称】アムジェン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】ケネス ローソン
(72)【発明者】
【氏名】ノエル リーダー
(72)【発明者】
【氏名】スミンダ ハプアラチュチ
(72)【発明者】
【氏名】ホセ グレゴリオ ラミレス
(57)【要約】      (修正有)
【課題】エレヌマブの機能活性に影響するエレヌマブバリアントの同定及び特徴付けを提供する。また、エレヌマブ及び1つ以上のエレヌマブバリアントを含む組成物、その組成物を含む医薬製剤、並びにその組成物を使用する方法及び特徴付けする方法を提供する。
【解決手段】エレヌマブ及び1種以上のエレヌマブバリアントを含む組成物であって、前記1種以上のエレヌマブバリアントが、異性化バリアント及び脱アミドバリアントを含み、且つ前記組成物中の前記異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量が約30%未満である、組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体を本明細書に援用する、2018年4月2日に出願された米国仮特許出願第62/651,651号の利益を主張する。
【0002】
電子的に提出されたテキストファイルの説明
本出願は、ASCIIフォーマットで電子的に提出された配列表を包含し、その配列表は、全体として参照により本明細書に援用される。2019年3月1日に作成されたコンピューターで読み取り可能なフォーマットの配列表のコピーは、名称がA-2190-WO-PCT_SeqList_ST25であり、サイズが15キロバイトである。
【0003】
本発明は、バイオ医薬品の分野に関する。特に、本発明は、エレヌマブの機能活性に影響するエレヌマブバリアントの同定及び特徴付けに関する。本発明はまた、エレヌマブ及び1つ以上のエレヌマブバリアントを含む組成物、その組成物を含む医薬製剤、並びにその組成物を使用する方法及び特徴付けする方法に関する。
【背景技術】
【0004】
エレヌマブは、ヒトカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)受容体に特異的に結合し、CGRPリガンドが受容体に結合し且つ受容体を活性化するのを妨げる完全ヒトモノクローナル抗体である。CGRPは、片頭痛の病理発生において関係づけられてきた(Durham,New England Journal of Medicine,Vol.350:1073-1075,2004;Edvinsson et al.,Neurotherapeutics,Vol.7:164-175,2010)。第2相及び第3相臨床試験において、エレヌマブで治療された慢性又は反復性片頭痛を有する患者は、プラセボを受容している患者と比較して、1ヶ月の片頭痛の日数の減少を経験した(Tepper et al.,Lancet Neurol.,Vol.16:425-434,2017;Goadsby et al.,New England Journal of Medicine,Vol.377:2123-2132,2017)。
【0005】
モノクローナル抗体などの複雑な治療用生物製剤は、生物製剤の安全性及び/又は有効性に影響し得る多数の製品品質属性を有し得る。そのような属性を同定し、分子の特性に対するそれらの影響を理解するために、通常、分子の包括的な構造及び機能評価が必要となる。分子の属性の理解は、一貫した製品の製造を保証するために重要である。
【0006】
生物製剤のバリアントは、製造プロセス中又は保管条件下で生じる可能性がある。そのような製品バリアントは、製品関連物質又は製品関連不純物として分類され得る。製品関連物質は、製品の製造又は保管中に形成される所望の製品の分子バリアントであり、所望の製品のものに匹敵する特性を有し、不純物とはみなされない。逆に、製品関連不純物は、所望の製品の分子バリアントであり、これらは製品の有効性及び患者の安全性に関して所望の製品のものに匹敵する特性を有しない。したがって、製品関連不純物の同定及び特徴付けは、特に、生物製剤の薬物製品の製造及び品質管理に有用である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、エレヌマブの製品関連不純物、特に、機能活性が低減したエレヌマブのバリアントの同定及び特徴付けに部分的に基づく。治療用エレヌマブ組成物中のこれらのバリアントの量の管理及びモニタリングは、エレヌマブ組成物が所望の臨床効果をもたらすのに必要な効力を有することを保証する。したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、エレヌマブ及び1種以上のエレヌマブバリアントを含むエレヌマブ組成物であって、エレヌマブバリアントが、異性化バリアント、脱アミドバリアント、酸性バリアント、ジスルフィドアイソフォームバリアント、高分子量(HMW)種、又はこれらの組合せを含み、組成物中のエレヌマブバリアントの量が、特定の範囲内に制御されるエレヌマブ組成物を提供する。
【0008】
ある種の実施形態では、本発明は、エレヌマブ及び1種以上のエレヌマブバリアントを含む組成物であって、1種以上のエレヌマブバリアントが、異性化バリアント及び脱アミドバリアントを含む組成物を提供する。いくつかの実施形態では、異性化バリアントは、エレヌマブの一方又は両方の重鎖(配列番号1又は配列番号3)におけるアミノ酸位置105でイソアスパラギン酸残基又はスクシンイミドを有する。これら及び他の実施形態では、脱アミドバリアントは、アスパラギン酸残基、スクシンイミド、又はイソアスパラギン酸残基に変換されたエレヌマブの一方又は両方の重鎖(配列番号1又は配列番号3)におけるアミノ酸位置102でアスパラギン残基を有する。組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、例えば、疎水性相互作用クロマトグラフィー高速液体クロマトグラフィー(HIC-HPLC)によって決定されるとおり、約30%未満、約15%未満、約8%未満、又は約4%未満であり得る。
【0009】
本発明はまた、エレヌマブ及びエレヌマブの1種以上の酸性バリアントの組成物を提供する。組成物中の酸性バリアントの量は、約40%未満、例えば、約25%~約38%又は約26%~約34%であり得る。いくつかの実施形態では、エレヌマブ組成物中の酸性バリアントの量は、カチオン交換高速液体クロマトグラフィー(CEX-HPLC)によって決定される。エレヌマブの酸性バリアントは、ジスルフィドアイソフォームバリアント、脱アミドバリアント、断片化バリアント、非コンセンサスグリコシル化バリアント、HMW種、及びこれらの組合せを含む。ある種の実施形態では、酸性バリアントは、ジスルフィドアイソフォームバリアント、断片化バリアント、又はこれらの組合せを含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、本発明は、エレヌマブ及びエレヌマブのジスルフィドアイソフォームバリアントの組成物を提供する。エレヌマブのジスルフィドアイソフォームバリアントは、IgG2-Bアイソフォーム及び/又はIgG2-A/Bアイソフォームを含み得る。組成物中のIgG2-Bアイソフォームの量は、約20%未満、例えば、約10%未満、又は約8%未満、例えば、約4%~約6%であり得る。組成物中のIgG2-A/Bアイソフォームの量は、約20%~約40%、約26%~約38%、又は約34%~約37%であり得る。ある種の実施形態では、ジスルフィドアイソフォームの量は、非還元逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)によって決定される。
【0011】
本発明はまた、エレヌマブ及びエレヌマブの1種以上のサイズバリアント、例えば、低分子量(LMW)種、中分子量(MMW)種、及び高分子量(HMW)種を含む組成物を含む。ある種の実施形態では、組成物中のHMW種の量は、約3.0%未満、例えば、約2.5%又はそれ未満、約2.1%又はそれ未満、約1.8%又はそれ未満、約1.4%又はそれ未満、又は約1.2%又はそれ未満である。1つの特定の実施形態では、エレヌマブのHMW種は、主にエレヌマブの共有結合された二量体で構成される。エレヌマブ組成物中のHMW種の量は、サイズ排除超高速液体クロマトグラフィー(SE-UHPLC)によって決定され得る。
【0012】
いくつかの実施形態では、本発明はまた、エレヌマブ組成物の品質を評価又は査定する方法を提供する。一実施形態では、方法は、エレヌマブ及び1種以上のエレヌマブバリアントを含有するエレヌマブ組成物を得ること;組成物中の1種以上のエレヌマブの量を測定すること;既定の参照基準に対して1種以上のエレヌマブバリアントの測定された量を比較すること;及び比較が、既定の参照基準を満たすことを示す場合に、エレヌマブ組成物の医薬製剤又は医薬製品を作製することを含む。方法は、以下のうちの1つ、2つ、又は3つを含み得る:(1)組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量を測定すること(例えば、HIC-HPLCにおけるプレピークのピーク面積パーセンテージによる)、(2)組成物中の酸性バリアントの量を測定すること(例えば、CEX-HPLCにおける酸性ピークのピーク面積パーセンテージによる)、及び/又は(3)組成物中のHMW種の量を測定すること(例えば、SE-UHPLCにおけるプレピークのピーク面積パーセンテージによる)。ある種の実施形態では、3つ全ての測定が、エレヌマブ組成物に対して実施される。
【0013】
本明細書に記載されるエレヌマブ組成物を含む医薬製剤もまた、本発明に含まれる。いくつかの実施形態では、医薬製剤は、本明細書に記載されるエレヌマブ組成物及び1種以上の薬学的に許容される賦形剤、例えば、緩衝剤、糖、及び界面活性剤を含む。医薬製剤は、プレフィルドシリンジ又は自動注入装置などの注射デバイスに取り込まれ得る。そのような実施形態では、プレフィルドシリンジ又は自動注入装置のための注射体積は、約2mL未満、例えば、約1mLである。
【0014】
本発明はまた、本発明のエレヌマブ組成物及び医薬製剤を使用して、必要とする患者における頭痛の発生を治療するか、予防するか、又は低減する方法を含む。一実施形態では、方法は、本明細書に記載されるエレヌマブ組成物を含む医薬製剤を患者に投与することを含む。頭痛は、片頭痛、群発頭痛、又は他の種類の頭痛障害、例えば、緊張型頭痛、片麻痺性片頭痛、月経関連片頭痛、及び網膜性片頭痛であり得る。ある種の実施形態では、本発明の方法又は使用に従って治療されることになる患者は、反復性片頭痛又は慢性片頭痛などの片頭痛を有するか、又はそれと診断される。
【0015】
本明細書に記載される方法のいずれかにおける又は本明細書に開示される方法のいずれかによる投与のための医薬の作製のためのエレヌマブ組成物の使用が、具体的に検討される。例えば、本発明は、必要とする患者において頭痛の発生を治療するか、予防するか、又は低減するための方法における使用のための本明細書に記載されるエレヌマブ組成物又は医薬製剤を含む。本発明はまた、必要とする患者において頭痛の発生を治療するか、予防するか、又は低減するための医薬の作製における本明細書に記載されるエレヌマブ組成物又は医薬製剤の使用を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A-1B】エレヌマブに関する重鎖(図1A;配列番号1)及び軽鎖(図1B;配列番号2)のアミノ酸配列を示す。各鎖における相補性決定領域(CDR)は、太字にされ且つ下線が引かれている。重鎖は、306位のアスパラギン残基にN結合グリコシル化部位を含有する。
図1C-1D】エレヌマブに関してN及びC末端に共通の翻訳後修飾を有する重鎖(図1C;配列番号3)及び軽鎖(図1D;配列番号4)のアミノ酸配列を示す。各鎖におけるCDRは、太字にされ且つ下線が引かれている。pEは、ピログルタミン酸を表す。
図1E-1F】エレヌマブに関する重鎖可変領域(図1E;配列番号5)及び軽鎖可変領域(図1F;配列番号6)のアミノ酸配列を示す。各可変領域におけるCDRは、太字にされ且つ下線が引かれている。
図2A-2B】原寸(図2A)及び拡大スケール(図2B)でのエレヌマブ原体の代表的なHIC-HPLCプロファイルを示す。エレヌマブ原体は、硫酸アンモニウムの線形の減少勾配による溶出及び280nm吸光度での検出とともに酢酸ナトリウムpH5.5の移動相を使用して、HIC-HPLCによって分析された。
図3】HIC-HPLCにより分析されたHIC-HPLC回収画分及びエレヌマブ原体の重ね合わせを示す。エレヌマブ原体及びセミ分取HIC-HPLCから回収された画分(F1~F7)は、硫酸アンモニウムの線形の減少勾配による溶出及び280nm吸光度での検出とともに酢酸ナトリウムpH5.5の移動相を使用して、HIC-HPLCによって分析された。各パネルは、数分間の溶出時間に対する280nmでの吸光度のプロットである。エレヌマブ原体を伴う全部で7つのHIC-HPLC画分の重ね合わせが、パネル8において示される。
図4】濃縮されたHIC-HPLC画分(F2~F6)及び分画されていないエレヌマブ原体(DS)に関するエレヌマブ重鎖CDR3内のペプチドについての溶出領域の還元トリプシンペプチドマップの重ね合わせである。TH12H13ペプチドは、配列番号1のアミノ酸残基99~113に相当し、TH13は、配列番号1のアミノ酸残基101~113に相当する。
図5】熱ストレスに暴露されたエレヌマブ原体の、HIC-HPLCプロファイルである。50℃で14日間インキュベートされたエレヌマブ原体は、硫酸アンモニウムの線形勾配による溶出及び280nm吸光度での検出とともに酢酸ナトリウムpH5.5の移動相を使用して、HIC-HPLCによって分析された。上部のトレースは、14日目の時点に相当する。
図6】50℃で14日間ストレスを与えられたエレヌマブ原体に関する拡大スケールでの還元トリプシンペプチドマッププロファイルを示す。TH12H13ペプチドは、配列番号1のアミノ酸残基99~113に相当し、TH13は、配列番号1のアミノ酸残基101~113に相当する。TH26ペプチドは、配列番号1のアミノ酸残基311~326に相当し、検出された断片は、L315とT316の間の非特異的切断に起因する。
図7】pH7.4及び37℃でストレスを与えられたエレヌマブ原体のHIC-HPLCプロファイルである。PBS、pH7.4で10mg/mLに希釈され、37℃で14日間インキュベートされたエレヌマブ原体が、硫酸アンモニウムの線形勾配による溶出及び280nm吸光度での検出とともに酢酸ナトリウム、pH5.5移動相を使用して、HIC-HPLCによって分析された。対照試料は、生理的pHストレス条件試料とともに、製剤緩衝液、pH5.2中で希釈され、37℃で14日間インキュベートされた。
図8】pH8.0及び25℃でストレスを与えられたエレヌマブ原体のHIC-HPLCプロファイルである。トリス塩基、pH8.0で10mg/mLに希釈され、25℃で14日間インキュベートされたエレヌマブ原体が、硫酸アンモニウムの線形勾配による溶出及び280nm吸光度での検出とともに酢酸ナトリウム、pH5.5移動相を使用して、HIC-HPLCによって分析された。対照試料は、高pHストレス条件試料とともに、製剤緩衝液、pH5.2中で希釈され、25℃で14日間インキュベートされた。
図9】4種の異なる保管条件に関する同じロットのHIC-HPLC分析におけるプレピークのピーク面積のパーセントの関数としての、エレヌマブのロットの相対的な効力のパーセントのプロットである。データの線形回帰分析からフィットさせた回帰線が、各温度について示される。40℃の条件に関して、回帰線の傾きは、統計的にゼロから異なり、相対的な効力のパーセントがHIC-HPLCプレピークの面積パーセントの増加とともにどのように減少するかを示す。
図10】70%の相対的な効力閾値と交差するように延長されたフィットさせた線を有する図9における40℃の保管条件からのデータに関する、プロット及びフィットさせた回帰線を示す。70%の相対的な効力の閾値線は、28.85%のHIC-HPLCプレピーク面積あたりで回帰線と交差する。
図11】エレヌマブ原体の代表的なCEX-HPLCプロファイルを示す。エレヌマブ原体は、塩化ナトリウムの線形勾配による溶出及び280nm吸光度での検出とともにリン酸ナトリウムpH6.6の移動相を使用して、CEX-HPLCによって分析された。
図12】CEX-HPLCにより分析されたCEX-HPLC回収画分及びエレヌマブ原体の重ね合わせを示す。エレヌマブ原体及びセミ分取CEX-HPLCから回収された画分(F1~F9)は、塩化ナトリウムの線形勾配による溶出及び280nm吸光度での検出とともにリン酸ナトリウムpH6.6の移動相を使用して、CEX-HPLCによって分析された。各パネルは、数分間の溶出時間に対する280nmでの吸光度のプロットである。
図13A-13B】CEX-HPLCの酸性及びメインピーク画分(図13A)並びにCEX-HPLCの塩基性ピーク画分(図13B)のRP-HPLCプロファイルを示す。エレヌマブ原体(DS)及びCEX-HPLC画分(F1~F9)は、Waters BEH300 C4カラム(1.7μm粒径、2.1mm×50mm)を使用するRP-HPLCによって分析され、215nmでの検出とともに75℃で0.1%のTFA含有移動相及び1-プロパノールの勾配を使用して溶出された。IgG2-A、IgG2-A/B、及びIgG2-Bは、エレヌマブの各種ジスルフィドアイソフォームに相当する。各種ジスルフィドアイソフォームの構造は、図15A~15Cにおいて模式的に示される。
図14】非還元(上部のトレース)及び還元(下部のトレース)エレヌマブのLys-Cペプチドマップを示す。エレヌマブ原体が、変性され、エンドプロテアーゼLys-Cで消化された。還元のマップにおける標識されたピークは、還元Lys-Cペプチドマップにおいて存在するが非還元Lys-Cペプチドマップにおいては存在しないペプチドを同定する。標識されたペプチドの各々に関する説明は、表18及び19において列挙される。
図15A】非還元及び還元Lys-Cペプチドマップによって同定されたエレヌマブジスルフィドアイソフォームIgG2-A構造の模式図である。
図15B】非還元及び還元Lys-Cペプチドマップによって同定されたエレヌマブジスルフィドアイソフォームIgG2-A/B構造の模式図である。
図15C】非還元及び還元Lys-Cペプチドマップによって同定されたエレヌマブジスルフィドアイソフォームIgG2-B構造の模式図である。
図16A】拡大スケールでのエレヌマブ原体の非還元RP-HPLCプロファイルである。エレヌマブ原体は、Waters BEH300 C4カラム(1.7μm粒径、2.1mm×50mm)を使用するRP-HPLCによって分析され、215nmでの検出とともに75℃で0.1%のTFA含有移動相及び1-プロパノールの勾配を使用して溶出された。IgG2-A、IgG2-A/B、及びIgG2-Bは、エレヌマブの各種ジスルフィドアイソフォームに相当する。各種ジスルフィドアイソフォームの構造は、図15A~15Cにおいて模式的に示される。
図16B】エレヌマブ原体に対するジスルフィドアイソフォームバリアント濃縮CEX-HPLC画分のRP-HPLCプロファイルの重ね合わせである。エレヌマブ原体及びCEX-HPLC画分は、Waters BEH300 C4カラム(1.7μm粒径、2.1mm×50mm)を使用するRP-HPLCによって分析され、215nmでの検出とともに75℃で0.1%のTFA含有移動相及び1-プロパノールの勾配を使用して溶出された。
図17A-17B】原寸(図17A)及び拡大スケール(図17B)でのエレヌマブ原体の代表的なSE-UHPLCプロファイルを示す。エレヌマブ原体は、100mMのリン酸ナトリウム、250mMの塩化ナトリウム、pH6.8移動相及び280nm吸光度での検出を使用して、SE-UHPLCによって分析された。緩衝液のピークは、アスタリスク(*)で表した。
図18】SE-UHPLCにより分析されたSE-UHPLC回収画分及びエレヌマブ原体の重ね合わせを示す。エレヌマブ原体及びセミ分取SE-HPLCから回収された画分は、100mMのリン酸ナトリウム、250mMの塩化ナトリウム、pH6.8移動相及び280nm吸光度での検出を使用して、SE-UHPLCによって分析された。各パネルは、エレヌマブ原体に関するSE-UHPLCプロファイル上に重層された各画分についての分単位の溶出時間に対する280nmでの吸光度のプロットである。エレヌマブ原体を伴う全部で3つのSE-UHPLC画分の重ね合わせが、パネル4において示される。
図19】拡大スケールでのSE-UHPLC回収画分及びエレヌマブ原体のrCE-SDSプロファイルである。エレヌマブ原体(DS)及びSE-UHPLC画分(メイン、HMW1、HMW2)は、25℃のSDSゲル緩衝液で充填されたベアフューズドシリカキャピラリーへの動電学的注入の前に変性され、還元された。吸光度は、220nmでモニターされた。系のピークは、アスタリスク(*)で表した。LMW=低分子量種;MMW=中分子量種;HMW=高分子量種;LC=軽鎖;HC=重鎖;NGHC=非グリコシル化重鎖;ポスト-HC=ポスト重鎖。
図20】熱ストレスに暴露されたエレヌマブ原体のSE-UHPLCプロファイルである。50℃で最大14日間インキュベートされたエレヌマブ原体は、100mMのリン酸ナトリウム、250mMの塩化ナトリウム、pH6.8移動相及び280nm吸光度での検出を使用して、SE-UHPLCによって分析された。上部のトレースは、14日目の時点に相当する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、機能活性の低減を示すエレヌマブのバリアントの同定及び特徴付けに関する。特に、一定の構造改変を有するエレヌマブのバリアントは、CGRPリガンドによるCGRP受容体の活性化を遮断する際にエレヌマブよりはるかに効力が低い。各々が本明細書においてより詳細に記載されるこのようなバリアントは、異性化バリアント、脱アミドバリアント、ジスルフィドアイソフォームバリアント、酸性バリアント、及びHMW種を含む。エレヌマブ原体及びエレヌマブ薬物製品においてこれらのバリアントの量を制限することによって、エレヌマブ組成物の全体的な効力が維持され得るか、又は臨床試験中に利用され且つ臨床的有効性を有すると観察されたエレヌマブ組成物に匹敵し得る。したがって、本発明は、エレヌマブ及び1種以上のエレヌマブバリアントを含む組成物であって、組成物中のエレヌマブバリアントの量が、本明細書に記載されるとおりの特定の範囲又は限度内に制御される組成物を提供する。
【0018】
エレヌマブという用語は、配列番号5の重鎖可変領域配列及び配列番号6の軽鎖可変領域配列を含むIgG2抗体を指す。一実施形態では、エレヌマブは、配列番号1の配列を含む重鎖及び配列番号2の配列を含む軽鎖を含む。そのような実施形態では、エレヌマブは、2つの重鎖及び2つの軽鎖を含む抗体であって、重鎖の各々が、配列番号1の配列を含み、且つ軽鎖の各々が、配列番号2の配列を含む抗体である。組換えにより作製される場合、エレヌマブは、重鎖の456位でのC末端リジン残基の除去並びに軽鎖及び重鎖におけるN末端グルタミン残基のピログルタミン酸への環化などの、重鎖及び軽鎖の末端での共通の翻訳後修飾を経る場合がある。したがって、エレヌマブという用語は、重鎖の一方若しくは両方におけるC末端リジン残基を欠き、且つ/又は軽鎖の一方若しくは両方及び/又は重鎖の一方若しくは両方におけるグルタミン残基の代わりにN末端残基としてピログルタミン酸残基を含むIgG2抗体を指してもよい。例えば、いくつかの実施形態では、エレヌマブは、2つの重鎖及び2つの軽鎖を含む抗体であって、重鎖の各々が、配列番号3の配列を含み、且つ軽鎖の各々が、配列番号4の配列を含む抗体である。他の実施形態では、エレヌマブは、2つの重鎖及び2つの軽鎖を含む抗体であって、重鎖の各々が、配列番号1又は配列番号3の配列を含み、且つ軽鎖の各々が、配列番号2又は配列番号4の配列を含む抗体である。
【0019】
ある種の実施形態では、本発明の組成物中に存在するエレヌマブバリアントは、電荷バリアントである。電荷バリアントは、とりわけ、抗体の実効電荷を直接的に変えるか、立体構造変化を誘導するか、又は局所的な電荷分布に影響を及ぼす翻訳後修飾に起因する様々な電荷プロファイルを有するエレヌマブのバリアントを指す。このような翻訳後修飾は、脱アミド、異性化、糖化、酸化、及びシアル酸付加グリコシル化を含み得る。電荷バリアントは、イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、又は疎水性相互作用クロマトグラフィーを使用して、エレヌマブから分離され、且つ検出され得る。エレヌマブの電荷バリアントは、異性化バリアント、脱アミドバリアント、ジスルフィドアイソフォームバリアント、酸性バリアント、及びグリコシル化バリアントを含むが、これらに限定されない。
【0020】
いくつかの実施形態では、エレヌマブの電荷バリアントは、異性化バリアントである。エレヌマブの異性化バリアントは、重鎖ポリペプチド又は軽鎖ポリペプチドにおける1つ以上のアスパラギン酸残基が、イソアスパラギン酸又はスクシンイミドに変換されているエレヌマブのバリアントを指す。一実施形態では、エレヌマブの異性化バリアントは、エレヌマブの一方又は両方の重鎖(配列番号1又は配列番号3)におけるアミノ酸位置105でイソアスパラギン酸残基又はスクシンイミドを有する。実施例1において記載されるとおり、重鎖可変領域のCDR3における105位でのアスパラギン酸残基からイソアスパラギン酸への変換は、エレヌマブの阻害性の効力を著しく低減する。
【0021】
他の実施形態では、エレヌマブの電荷バリアントは、脱アミドバリアントである。エレヌマブの脱アミドバリアントは、重鎖ポリペプチド又は軽鎖ポリペプチドにおける1つ以上のアスパラギン残基が、アスパラギン酸に変換され、そして次に、スクシンイミド又はイソアスパラギン酸に変換され得るエレヌマブのバリアントを指す。一実施形態では、脱アミドバリアントは、アスパラギン酸、スクシンイミド、又はイソアスパラギン酸に変換されたエレヌマブの一方又は両方の重鎖(配列番号1又は配列番号3)におけるアミノ酸位置102でアスパラギン残基を有する。実施例1において記載されるとおり、重鎖可変領域のCDR3における102位でのアスパラギン残基の脱アミドは、エレヌマブの阻害性の効力を著しく低減する。別の実施形態では、脱アミドバリアントは、アスパラギン酸、スクシンイミド、又はイソアスパラギン酸に変換されたエレヌマブの一方又は両方の重鎖におけるアミノ酸位置393及び/又は398でアスパラギン残基を有する。
【0022】
エレヌマブの異性化バリアント及び脱アミドバリアントを検出し、且つ定量化する方法としては、実施例1において記載される疎水性相互作用クロマトグラフィー高速液体クロマトグラフィー(HIC-HPLC)法などの疎水性相互作用クロマトグラフィー、実施例1において記載されるESI-MS/MSペプチドマッピング法などのペプチドマッピング、実施例3において記載されるカチオン交換高速液体クロマトグラフィー(CEX-HPLC)法などのイオン交換クロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)、及び当業者に知られる他の方法、例えば、Kameoka et al.,Journal of Biochemistry,Vol.134:129-135,2003;Zhang et al.,Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis,Vol.30:1479-1490,2003;Yang et al.,Electrophoresis,Vol.31:1764-1772,2010;Faseri et al.,Journal of Chromatography A,Vol.1498:215-223,2017;及びLeblanc et al.,Journal of Chromatography B,Vol.1048:130-139,2017において記載されるものが挙げられる。
【0023】
本発明の組成物は、エレヌマブ組成物の全体的な効力が臨床的有効性を有すると観察されるレベルで維持されるような、制御された量のエレヌマブの異性化バリアント及び脱アミドバリアントを含む。実施例1及び2を参照されたい。例えば、ある種の実施形態では、本発明は、エレヌマブ及び1種以上のエレヌマブバリアントを含む組成物であって、1種以上のエレヌマブバリアントが、異性化バリアント及び脱アミドバリアントを含み、且つ組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量が、約30%未満である組成物を提供する。組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、約25%未満、約20%未満、約17%未満、約15%未満、約12%未満、約10%未満、約8%未満、約6%未満、又は約4%未満であり得る。一実施形態では、組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、約15%未満である。別の実施形態では、組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、約8%未満である。さらに別の実施形態では、組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、約4%未満である。いくつかの実施形態では、組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、約0.5%~約30%、約1%~約20%、約1%~約17%、約1%~約15%、約1%~約12%、約1%~約10%、約0.5%~約8%、約0.5%~約6%、約1%~約4%、約0.5%~約3.5%、約1.5%~約2.5%、又は約1.7%~約2.1%であり得る。一実施形態では、組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、約1%~約10%である。別の実施形態では、組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、約1%~約4%である。さらに別の実施形態では、組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、約0.5%~約3.5%である。
【0024】
本発明の組成物中のエレヌマブの異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、これらのバリアントを検出し、且つ定量化するための上記の方法のいずれかによって決定され得る。ある種の実施形態では、組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、HIC-HPLCによって決定される。異性化バリアント(例えば、重鎖中のAsp105の異性化)及び脱アミドバリアント(例えば、重鎖中のAsn102の脱アミド)は、HIC-HPLCのプレピーク画分において支配的な種である。実施例1及び2を参照されたい。したがって、エレヌマブ組成物中のこれらのバリアントの量は、HIC-HPLCクロマトグラムにおけるプレピークのピーク面積のパーセンテージから決定され得る。HIC-HPLCクロマトグラムのプレピークは、通常、最大のピークの高さを有するクロマトグラムにおけるピークであるメインピークに関する保持時間より短い保持時間を有する、検出限界を超えるピークの高さを有するピークを指す。図2A、2B、5、7、及び8を参照されたい。メインピークは、エレヌマブ(例えば、配列番号1又は3の配列を有する2つの重鎖及び配列番号2又は4の配列を有する2つの軽鎖を含む抗体)に相当し、これは、組成物中の抗体分子の主要な形態である。プレピークのピーク面積のパーセンテージは、以下の式に従って計算され得る:
【数1】
(式中、総積分ピーク面積は、検出限界を超えるピークの高さを有するクロマトグラム中の全てのピークについて合わせた面積である)。同様に、メインピークのピーク面積のパーセンテージは、以下の式に従って計算され得る:
【数2】
(式中、総積分ピーク面積は、検出限界を超えるピークの高さを有するクロマトグラム中の全てのピークについて合わせた面積である)。いくつかの実施形態では、HIC-HPLC法は、実施例1において記載されるとおりに実施される。
【0025】
ある種の実施形態では、本発明の組成物中の異性化バリアント(例えば、重鎖におけるAsp105の異性化)及び脱アミドバリアント(例えば、重鎖におけるAsn102の脱アミド)は、HIC-HPLCにおけるプレピークにより測定されるとおり、約15%又はそれ未満である。一実施形態では、組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、HIC-HPLCにおけるプレピークにより測定されるとおり、約10%又はそれ未満である。別の実施形態では、組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、HIC-HPLCにおけるプレピークにより測定されるとおり、約8%又はそれ未満である。別の実施形態では、組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、HIC-HPLCにおけるプレピークにより測定されるとおり、約6%又はそれ未満である。さらに別の実施形態では、組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、HIC-HPLCにおけるプレピークにより測定されるとおり、約4%又はそれ未満である。さらに別の実施形態では、組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、HIC-HPLCにおけるプレピークにより測定されるとおり、約3.2%又はそれ未満である。別の実施形態では、組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、HIC-HPLCにおけるプレピークにより測定されるとおり、約2.7%又はそれ未満である。いくつかの実施形態では、組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、HIC-HPLCにおけるプレピークにより測定されるとおり、約1%~約10%である。他の実施形態では、組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、HIC-HPLCにおけるプレピークにより測定されるとおり、約1%~約4%である。さらに他の実施形態では、組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、HIC-HPLCにおけるプレピークにより測定されるとおり、約0.5%~約3.5%である。
【0026】
いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、エレヌマブ及び1種以上のエレヌマブバリアントを含み、エレヌマブバリアントは、異性化バリアント及び脱アミドバリアントを含み、且つ
(i)組成物中のエレヌマブの量は、HIC-HPLCにおけるメインピークによって測定されるとおり、約90%又はそれ超、約92%又はそれ超、約93.9%又はそれ超、約94.4%又はそれ超、約96.2%又はそれ超、約96.8%又はそれ超、又は約97.3%又はそれ超であり;且つ
(ii)組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、HIC-HPLCにおけるプレピークによって測定されるとおり、約10%又はそれ未満、約8%又はそれ未満、約6.1%又はそれ未満、約5.6%又はそれ未満、約3.8%又はそれ未満、約3.2%又はそれ未満、又は約2.7%又はそれ未満である。
【0027】
一実施形態では、組成物中のエレヌマブの量は、HIC-HPLCにおけるメインピークによって測定されるとおり、約92%又はそれ超であり、且つ組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、HIC-HPLCにおけるプレピークによって測定されるとおり、約8%又はそれ未満である。別の実施形態では、組成物中のエレヌマブの量は、HIC-HPLCにおけるメインピークによって測定されるとおり、約96.8%又はそれ超であり、且つ組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、HIC-HPLCにおけるプレピークによって測定されるとおり、約3.2%又はそれ未満である。さらに別の実施形態では、組成物中のエレヌマブの量は、HIC-HPLCにおけるメインピークによって測定されるとおり、約97.3%又はそれ超であり、且つ組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、HIC-HPLCにおけるプレピークによって測定されるとおり、約2.7%又はそれ未満である。これら及び他の実施形態では、HIC-HPLCは、実施例1において記載されるとおりに実施され、且つ量は、メインピーク及びプレピークに関するピーク面積のパーセンテージから決定される。
【0028】
実施例2において記載されるとおり、重鎖CDR3におけるAsp105の異性化は、強制的な熱ストレス条件に対して高度に感受性であり、且つ重鎖CDR3(Asn102)及びFc領域(Asn393及びAsn398)の両方における脱アミドは、高いpH(例えば、pH7.4又はそれ超)に暴露されたときに増加した。したがって、エレヌマブの異性化バリアント及び脱アミドバリアントの生成は、エレヌマブ組成物の室温を超える温度及び塩基性溶液、例えば、7.0を超えるpHを有する溶液への暴露時間を制限することによって、製造プロセス及び保管の間制御され得る。例えば、いくつかの実施形態では、製造中のプールでの保持又はエレヌマブ組成物の保管は、14日以下の間室温で保たれる。他の実施形態では、エレヌマブ組成物の長期間の保管は、15℃未満、例えば、2℃~8℃の間の温度で実施される。エレヌマブの異性化バリアント及び脱アミドバリアントはまた、疎水性相互作用クロマトグラフィー又はイオン交換クロマトグラフィーなどの精製プロセスを通してエレヌマブ組成物から除去され得る。エレヌマブの異性化バリアント及び脱アミドバリアントの両方が、HICにおいてエレヌマブより早く溶出し、したがって、これらのバリアントは、これらの早期の溶出画分を回収し、且つ廃棄することによってエレヌマブ組成物から除去され得る。エレヌマブの脱アミドバリアントは一般に、エレヌマブより多くの負の電荷を有するため、カチオン交換クロマトグラフィーにおいてエレヌマブより早く溶出することになるか、又はアニオン交換クロマトグラフィーにおいてエレヌマブより遅く溶出することになる。したがって、より酸性の脱アミドバリアントは、カチオン交換又はアニオン交換レジンから溶出する画分の回収の時間を適切に調節することによって、エレヌマブ組成物から除去され得る。
【0029】
ある種の実施形態では、本発明の組成物中のエレヌマブの電荷バリアントは、酸性バリアントである。酸性バリアントは、負の電荷を得たか若しくは正の電荷を失ったか、又は立体構造変化による表面電荷プロファイルの変化を有し、それによりエレヌマブと比較してより酸性の性質を有するエレヌマブのバリアントを指す。エレヌマブの酸性バリアントは、エレヌマブと比較して低減した阻害性の効力を示す。実施例3及び表14を参照されたい。酸性バリアントは、等電点ゲル電気泳動、キャピラリー等電点ゲル電気泳動、カチオン交換クロマトグラフィー(CEX)及びアニオン交換クロマトグラフィー(AEX)などの電荷特性に基づいてタンパク質を分離する任意の方法を使用して、エレヌマブから分離され、検出され、且つ定量化され得る。イオン交換クロマトグラフィーによって分析される場合、酸性バリアントは、エレヌマブに相当するメインピークに対するそれらの保持時間によって同定され得る。例えば、酸性バリアントは、CEXからのメインピークより早く溶出する、すなわち、酸性バリアントは、CEXにおけるメインピークについての保持時間より短い保持時間を有する。AEXを使用する場合、酸性バリアントは、メインピークより遅く溶出し、したがって、AEXにおけるメインピークについての保持時間より長い保持時間を有する。
【0030】
いくつかの実施形態では、本発明は、エレヌマブ組成物の全体的な効力が臨床的有効性を有すると観察されるレベルで維持されるような、制御された量のエレヌマブの酸性バリアントを含む組成物を提供する。実施例3を参照されたい。したがって、ある種の実施形態では、本発明は、エレヌマブ及び1種以上のエレヌマブ酸性バリアントを含む組成物を提供し、組成物中の酸性バリアントの量は、約40%未満である。組成物中の酸性バリアントの量は、約38%未満、約37%未満、約36%未満、約35%未満、約34%未満、約33%未満、約32%未満、約31%未満、約30%未満、約29%未満、約28%未満、約27%未満、又は約26%未満であり得る。一実施形態では、組成物中の酸性バリアントの量は、約38%未満である。別の実施形態では、組成物中の酸性バリアントの量は、約35%未満である。別の実施形態では、組成物中の酸性バリアントの量は、約32%未満である。さらに別の実施形態では、組成物中の酸性バリアントの量は、約30%未満である。いくつかの実施形態では、組成物中の酸性バリアントの量は、約20%~約40%、約25%~約38%、約24%~約35%、約28.5%~約37.5%、約26%~約34%、約28%~約32%、約32.5%~約37.5%、約28.7%~約31.3%、又は約26.5%~約33.6%であり得る。一実施形態では、組成物中の酸性バリアントの量は、約25%~約38%である。別の実施形態では、組成物中の酸性バリアントの量は、約26%~約34%である。さらに別の実施形態では、組成物中の酸性バリアントの量は、約28%~約32%である。
【0031】
本発明の組成物中のエレヌマブの酸性バリアントの量は、これらのバリアントを検出し、且つ定量化するための上記の方法のいずれかによって決定され得る。ある種の実施形態では、組成物中の酸性バリアントの量は、イオン交換クロマトグラフィーによって決定される。1つの特定の実施形態では、組成物中の酸性バリアントの量は、実施例3において記載される方法などの、CEX-HPLCによって決定される。エレヌマブの酸性バリアントは、CEXによって分離される場合、エレヌマブ(メインピーク)よりも早く溶出し、エレヌマブの塩基性バリアントは、エレヌマブ(メインピーク)よりも遅く溶出する。図11を参照されたい。エレヌマブ組成物中の酸性バリアントの量は、CEX-HPLCクロマトグラムにおける酸性ピークのピーク面積のパーセンテージから決定され得る。酸性ピークは、メインピークについての保持時間より短い保持時間を有する、検出限界を超えるピークの高さを有するそれらのピークである。塩基性ピークは、メインピークについての保持時間より長い保持時間を有する、検出限界を超えるピークの高さを有するそれらのピークである。所望の成分(例えば、酸性ピーク、メインピーク、又は塩基性ピーク)に関するピーク面積のパーセンテージは、所望の成分(例えば、酸性ピーク、メインピーク、又は塩基性ピーク)に関するピーク面積を、総積分ピーク面積で割り、その結果に100を乗ずることによって計算され得る。ある種の実施形態では、CEX-HPLC法は、実施例3において記載されるとおりに実施される。
【0032】
いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、エレヌマブ及び1種以上のエレヌマブバリアントを含み、エレヌマブバリアントは、酸性バリアントを含み、且つ組成物中の酸性バリアントの量は、CEX-HPLCにおける酸性ピークによって測定されるとおり、約40%又はそれ未満、約38%又はそれ未満、約36%又はそれ未満、約35%又はそれ未満、約34%又はそれ未満、又は約32%又はそれ未満である。一実施形態では、組成物中の酸性バリアントの量は、CEX-HPLCにおける酸性ピークによって測定されるとおり、約25%~約38%である。別の実施形態では、組成物中の酸性バリアントの量は、CEX-HPLCにおける酸性ピークによって測定されるとおり、約26%~約34%である。さらに別の実施形態では、組成物中の酸性バリアントの量は、CEX-HPLCにおける酸性ピークによって測定されるとおり、約26.5%~約33.6%である。さらに別の実施形態では、組成物中の酸性バリアントの量は、CEX-HPLCにおける酸性ピークによって測定されるとおり、約28.7%~約31.3%である。別の実施形態では、組成物中の酸性バリアントの量は、CEX-HPLCにおける酸性ピークによって測定されるとおり、約32.5%~約37.5%である。これら及び他の実施形態では、CEX-HPLCは、実施例3において記載されるとおりに実施され、酸性バリアントの量は、酸性ピークに関するピーク面積のパーセンテージから決定される。
【0033】
酸性バリアントは、ジスルフィドアイソフォームバリアント、脱アミドバリアント、断片化バリアント、非コンセンサスグリコシル化バリアント、高分子量(HMW)種、及びこれらの組合せを含み得る。ある種の実施形態では、酸性バリアントは、ジスルフィドアイソフォームバリアント(本明細書でより詳細に記載される)、断片化バリアント、又はこれらの組合せを含む。実施例3において記載されるとおり、断片化バリアント又はジスルフィドアイソフォームバリアント、特に、IgG2-Bジスルフィドアイソフォームにおいて濃縮された酸性画分は、エレヌマブと比較して低減した効力を示す。
【0034】
いくつかの実施形態では、酸性バリアントは、断片化バリアントを含む。断片化バリアントは、軽鎖ポリペプチド及び/又は重鎖ポリペプチドの切断をもたらすペプチド結合の加水分解によって形成され得る。したがって、エレヌマブの断片化バリアントは、全長鎖より少ないアミノ酸からなるエレヌマブ軽鎖(配列番号2又は4)の断片又はエレヌマブ重鎖(配列番号1又は3)の断片を指す。断片化バリアントは、低分子量(LMW)及び中分子量(MMW)種としてこれらの断片化されたバリアントを分離する、実施例3において記載されるrCE-SDS法などのドデシル硫酸ナトリウムによる還元キャピラリー電気泳動(rCE-SDS)を使用して測定され得る。エレヌマブのLMW種は、約22,790Daの分子量を有する、インタクトなエレヌマブ軽鎖のもの未満の分子量を有する断片である。エレヌマブのMMW種は、約50,165Da(脱グリコシル化)の分子量を有する、インタクトなエレヌマブ軽鎖のものより大きいが、インタクトなエレヌマブ重鎖のもの未満の分子量を有する断片である。rCE-SDSで分離すると、エレヌマブのLMW種は、エレヌマブ軽鎖ピークの前に移動し、エレヌマブのMMW種は、エレヌマブ軽鎖ピークとエレヌマブ重鎖ピークの間に移動する。例えば、図19を参照されたい。
【0035】
エレヌマブ組成物中の酸性バリアントの量は、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、又は混合形式のクロマトグラフィーなどの、電荷特性に基づいてタンパク質を分離するクロマトグラフィー法を使用して還元され得る。例えば、米国特許第8,946,395号明細書;同第9,067,990号明細書;同第9,249,218号明細書;及び同第9,346,879号明細書において記載される方法を参照されたい。上記のとおり、エレヌマブの酸性バリアントは、カチオン交換クロマトグラフィーにより分離するとエレヌマブ(メインピーク)より早く溶出する。したがって、酸性バリアントは、エレヌマブメインピークの溶出の前に回収され、且つ廃棄され得るか、又はエレヌマブ画分の回収は、酸性バリアントの溶出後に開始され得る。アニオン交換クロマトグラフィーによって分離される場合、エレヌマブの酸性バリアントは、エレヌマブ(メインピーク)より遅く溶出し、したがって、酸性バリアントは、酸性バリアントの溶出前にエレヌマブ画分の回収を止めることによってエレヌマブ組成物から減少され得るか又は除去され得る。
【0036】
ある種の実施形態では、酸性バリアントは、ジスルフィドアイソフォームバリアントを含む。IgG2抗体は、ヒンジ領域におけるジスルフィド結合の配置に基づいて異なる構造アイソフォームを示し得る。IgG2-Aとして知られる古典的なジスルフィドアイソフォームにおいて、Fabアームは、ヒンジ領域にジスルフィド結合を介して連結されず、1つの重鎖のヒンジ領域における4つのシステイン残基(例えば、配列番号1又は3のC232、C233、C236、及びC239)はそれぞれ、他の重鎖のヒンジ領域における対応するシステイン残基とジスルフィド結合を形成する。図15Aを参照されたい。ジスルフィドアイソフォームバリアントは、古典的なIgG2-Aアイソフォームにおいて見出されるものとは異なるジスルフィド結合の結合性を有するIgG2抗体のバリアントを指す。いくつかの実施形態では、ジスルフィドアイソフォームバリアントは、IgG2-Bアイソフォームである。IgG2-Bアイソフォーム構造において、両方のFabアームは、重鎖定常CH1領域及び/又は軽鎖定常CL領域におけるシステイン残基とジスルフィド結合を形成するヒンジ領域において1つ以上のシステイン残基によってヒンジ領域に連結される。図15Cを参照されたい。例えば、一実施形態では、IgG2-Bアイソフォームは、重鎖に関する配列番号1又は3及び軽鎖に関する配列番号2又は4に対するアミノ酸位置を有する第1の重鎖(HC1)、第1の軽鎖(LC1)、第2の重鎖(HC2)、及び第2の軽鎖(LC2)の間で以下のジスルフィド結合の結合性を含む:
・HC2のC157に対するHC1のC232
・LC1のC215に対するHC1のC233
・HC1のC157に対するHC2のC232
・LC2のC215に対するHC2のC233
・HC2のC236に対するHC1のC236
・HC2のC239に対するHC1のC239
【0037】
他の実施形態では、ジスルフィドアイソフォームバリアントは、IgG2-A/Bアイソフォームである。IgG2-A/Bアイソフォーム構造において、一方のみのFabアームが、重鎖定常CH1領域及び/又は軽鎖定常CL領域におけるシステイン残基とジスルフィド結合を形成するヒンジ領域において1つ以上のシステイン残基によってヒンジ領域に連結される。図15Bを参照されたい。一実施形態では、IgG2-A/Bアイソフォームは、重鎖に関する配列番号1又は3及び軽鎖に関する配列番号2又は4に対するアミノ酸位置を有するHC1、LC1、HC2、及びLC2の間で以下のジスルフィド結合の結合性を含む:
・HC2のC157に対するHC1のC232
・LC2のC215に対するHC2のC232
・HC2のC233に対するHC1のC233
・HC2のC236に対するHC1のC236
・HC2のC239に対するHC1のC239
【0038】
本発明は、エレヌマブ及びその1種以上のジスルフィドアイソフォームバリアントを含む組成物を含む。ジスルフィドアイソフォームバリアントは、IgG2-Bアイソフォーム、IgG2-A/Bアイソフォーム、又はこの2つの組合せを含み得る。いくつかの実施形態では、組成物は、エレヌマブ及びその1種以上のジスルフィドアイソフォームバリアントを含み、1種以上のジスルフィドアイソフォームバリアントは、IgG2-Bアイソフォームを含み、且つ組成物中のIgG2-Bアイソフォームの量は、約20%未満である。組成物中のIgG2-Bアイソフォームの量は、約18%未満、約16%未満、約14%未満、約12%未満、約10%未満、約9%未満、約8%未満、約7%未満、又は約6%未満であり得る。一実施形態では、組成物中のIgG2-Bアイソフォームの量は、約10%未満である。別の実施形態では、組成物中のIgG2-Bアイソフォームの量は、約8%未満である。ある種の実施形態では、組成物中のIgG2-Bアイソフォームの量は、約0.5%~約20%、約1%~約16%、約3%~約12%、約0.5%~約8%、約1%~約6%、約4%~約6%、約4.4%~約5.9%、又は約4.6%~約5.2%であり得る。一実施形態では、組成物中のIgG2-Bアイソフォームの量は、約0.5%~約8%である。別の実施形態では、組成物中のIgG2-Bアイソフォームの量は、約4%~約6%である。
【0039】
ある種の実施形態では、本発明の組成物は、エレヌマブ及びその1種以上のジスルフィドアイソフォームバリアントを含み、1種以上のジスルフィドアイソフォームバリアントは、IgG2-A/Bアイソフォームを含む。組成物中のIgG2-Bアイソフォームの量は、約10%~約56%、約20%~約40%、約26%~約38%、約27%~約32%、約32%~約38%、約34%~約37%、又は約34.2%~約35.5%であり得る。一実施形態では、組成物中のIgG2-A/Bアイソフォームの量は、約32%~約38%である。別の実施形態では、組成物中のIgG2-A/Bアイソフォームの量は、約34%~約37%である。
【0040】
いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、エレヌマブIgG2-Aアイソフォーム、エレヌマブIgG2-A/Bアイソフォーム、及びエレヌマブIgG2-Bアイソフォームを含み、
(i)組成物中のIgG2-Aアイソフォームの量は、約50%~約70%、約52%~約66%、約56%~約60%、又は約57.4%~約59.3%であり、
(ii)組成物中のIgG2-A/Bアイソフォームの量は、約26%~約38%、約32%~約38%、約34%~約37%、又は約34.2%~35.5%であり;且つ
(iii)組成物中のIgG2-Bアイソフォームの量は、約3%~約12%、約1%~約10%、約4%~約8%、又は約4.6%~約5.2%である。
【0041】
ジスルフィドアイソフォームを検出し、定量化する方法としては、実施例3及び4並びにWypych et al.,Journal of Biological Chemistry,Vol.283(23):16194-16205,2008において記載されるRP-HPLC法などの非還元逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC);実施例4において記載されるLys-Cペプチドマッピング法などのペプチドマッピング;並びにZhang et al.,Anal Chem.,Vol.82(3):1090-1099,2010及びZhang et al.,Biochemistry,Vol.54:1956-1962,2015において記載されるものなどの質量分析に基づく方法が挙げられる。ある種の実施形態では、本発明の組成物中のジスルフィドアイソフォーム(例えば、IgG2-A、IgG2-A/B、及びIgG2-B)の量は、非還元RP-HPLC、必要に応じて、RP-HPLCプロファイルにおけるアイソフォームの各々についてのピーク面積パーセンテージを使用することによって決定される(例えば、図16Aを参照のこと)。
【0042】
ジスルフィドアイソフォームの比率は、全体が参照により本明細書によって援用されるDillon et al.,Journal of Biological Chemistry,Vol.283(23):16206-16215,2008、国際公開第2006/047340号パンフレット、又は国際公開第2006/060083号パンフレットに記載される方法を使用して、還元-酸化(酸化還元)剤単独又はカオトロピック薬剤との組合せに対して、異なるアイソフォームを含む組成物を暴露することによって変化させられ得る。例えば、IgG2-Aアイソフォームの比率は、酸化還元剤(例えば、システイン/シスチン又はグルタチオン/酸化グルタチオン)及びカオトロピック薬剤(例えば、グアニジン塩酸塩)に対して、異なるアイソフォームを含む組成物を暴露することによって増加され得る。したがって、いくつかの実施形態では、IgG2-A/B及びIgG2-Aアイソフォームより著しく低い効力であるエレヌマブのIgG2-Bアイソフォームの量は、必要に応じて、Dillon et al.,2008;国際公開第2006/047340号パンフレット;又は国際公開第2006/060083号パンフレットにおいて記載される方法に従って、カオトロピック薬剤と組み合わせた酸化還元剤に対して組成物を暴露することによって減少され得るか又は組成物から除去され得る。
【0043】
ある種の実施形態では、本発明の組成物中に存在するエレヌマブバリアントは、サイズバリアントである。エレヌマブのサイズバリアントは、エレヌマブ単量体より低い分子量又はエレヌマブ単量体より高い分子量のいずれかを有するバリアントを指す。本明細書で使用する場合、エレヌマブ単量体という用語は、2つの重鎖及び2つの軽鎖を含むインタクトな抗体を指し、単量体は、N又はC末端修飾を伴わない脱グリコシル化重鎖及び軽鎖を測定するとき、約146,194Daの分子量を有する。サイズバリアントは、上記のLMW種及びMMW種、並びに高分子量(HMW)種などの断片化バリアントを含む。エレヌマブのHMW種は、エレヌマブ単量体より大きい分子量を有する種を指す。HMW種は、共有結合性及び非共有結合性の自己会合により形成される二量体、多量体、及びエレヌマブの他の凝集体形態を含み得る。いくつかの実施形態では、エレヌマブのHMW種は、エレヌマブの共有結合された二量体(すなわち、2つの共有結合されたエレヌマブ単量体)を含む。ある種の実施形態では、共有結合されたエレヌマブ二量体は、還元及び変性条件下で二量体が個々の重鎖及び軽鎖に還元している、還元できる二量体である。
【0044】
エレヌマブのサイズバリアントを検出し、定量化する方法としては、実施例5に記載されるサイズ排除超高速液体クロマトグラフィー(SE-UHPLC)法などのサイズ排除クロマトグラフィー、実施例3に記載されるrCE-SDS及びnrCE-SDS法などの還元又は非還元条件下で実施されるドデシル硫酸ナトリウムによるキャピラリー電気泳動(CE-SDS)、沈降速度超遠心分離法、並びにモル質量を決定するための静的光散乱検出を伴うSE-UHPLCが挙げられる。
【0045】
HMW種において濃縮される画分は、エレヌマブと比較して、CGRP受容体のリガンド誘導性活性化を阻害することにおいて大幅に効力が低い。実施例5及び表26を参照されたい。したがって、本発明は、エレヌマブ組成物の全体的な効力が臨床的有効性を有すると観察されるレベルで維持されるような、制御された量のHMW種を含有するエレヌマブ組成物を提供する。いくつかの実施形態では、本発明の組成物は、エレヌマブ及びエレヌマブのHMW種を含み、組成物中のHMW種の量は、約3.0%未満である。組成物中のHMW種の量は、約2.5%又はそれ未満、約2.4%又はそれ未満、約2.3%又はそれ未満、約2.2%又はそれ未満、約2.1%又はそれ未満、約2.0%又はそれ未満、約1.8%又はそれ未満、約1.6%又はそれ未満、約1.4%又はそれ未満、約1.2%又はそれ未満、約1.0%又はそれ未満、約0.8%又はそれ未満、約0.6%又はそれ未満、又は約0.4%又はそれ未満であり得る。一実施形態では、組成物中のHMW種の量は、約1.8%又はそれ未満である。別の実施形態では、組成物中のHMW種の量は、約1.4%又はそれ未満である。さらに別の実施形態では、組成物中のHMW種の量は、約1.2%又はそれ未満である。さらに別の実施形態では、組成物中のHMW種の量は、約0.6%又はそれ未満である。いくつかの実施形態では、組成物中のHMW種の量は、約0.3%~約2.4%、約0.4%~約1.2%、約0.6%~約2.1%、約0.3%~約1.8%、約1.0%~約1.6%、又は約0.6%~約1.4%であり得る。一実施形態では、組成物中のHMW種の量は、約0.4%~約1.2%である。別の実施形態では、組成物中のHMW種の量は、約0.6%~約2.1%である。
【0046】
本発明の組成物中のサイズバリアントの量は、これらのバリアントを検出し、且つ定量化するための上記の方法のいずれかによって決定され得る。ある種の実施形態では、サイズバリアント(例えば、HMW種)の量は、SE-UHPLCによって決定される。エレヌマブのHMW種は、SE-UHPLC中のエレヌマブ単量体(メインピーク)より早く溶出し、したがって、SE-UHPLCクロマトグラムにおけるプレピークに相当するが、LMW及びMMW種は、エレヌマブ単量体より遅く溶出し、したがって、SE-UHPLCクロマトグラムにおけるポストピークに相当する。実施例5並びに図17A及び17Bを参照されたい。したがって、エレヌマブ組成物中のこれらのサイズバリアントの量は、SE-UHPLCクロマトグラムにおけるプレピーク(HMW種)又はポストピーク(LMW及びMMW種)のピーク面積のパーセンテージから決定され得る。いくつかの実施形態では、SE-UHPLC法は、実施例5において記載されるとおりに実施される。
【0047】
ある種の実施形態では、本発明の組成物は、エレヌマブ及び1種以上のエレヌマブサイズバリアントを含み、エレヌマブサイズバリアントは、エレヌマブのHMW種を含み、且つ
(i)組成物中のエレヌマブの量は、SE-UHPLCにおけるメインピークによって測定されるとおり、約97.5%又はそれ超、約97.9%又はそれ超、約98.2%又はそれ超、約98.4%又はそれ超、約98.6%又はそれ超、約98.8%又はそれ超、約99.2%又はそれ超、又は約99.4%又はそれ超であり;且つ
(ii)組成物中のHMW種の量は、SE-UHPLCにおけるプレピークによって測定されるとおり、約2.5%又はそれ未満、約2.1%又はそれ未満、約1.8%又はそれ未満、約1.6%又はそれ未満、約1.4%又はそれ未満、約1.2%又はそれ未満、約0.8%又はそれ未満、又は約0.6%又はそれ未満である。
【0048】
一実施形態では、組成物中のエレヌマブの量は、SE-UHPLCにおけるメインピークによって測定されるとおり、約97.9%又はそれ超であり、且つ組成物中のHMW種の量は、SE-UHPLCにおけるプレピークによって測定されるとおり、約2.1%又はそれ未満である。別の実施形態では、組成物中のエレヌマブの量は、SE-UHPLCにおけるメインピークによって測定されるとおり、約98.2%又はそれ超であり、且つ組成物中のHMW種の量は、SE-UHPLCにおけるプレピークによって測定されるとおり、約1.8%又はそれ未満である。さらに別の実施形態では、組成物中のエレヌマブの量は、SE-UHPLCにおけるメインピークによって測定されるとおり、約98.8%又はそれ超であり、且つ組成物中のHMW種の量は、SE-UHPLCにおけるプレピークによって測定されるとおり、約1.2%又はそれ未満である。さらに別の実施形態では、組成物中のエレヌマブの量は、SE-UHPLCにおけるメインピークによって測定されるとおり、約98.6%又はそれ超であり、且つ組成物中のHMW種の量は、SE-UHPLCにおけるプレピークによって測定されるとおり、約1.4%又はそれ未満である。これら及び他の実施形態では、SE-UHPLCは、実施例5において記載されるとおりに実施され、且つ量は、メインピーク及びプレピークに関するピーク面積のパーセンテージから決定される。
【0049】
エレヌマブ組成物中のサイズバリアント(例えば、HMW種)の量は、サイズ排除クロマトグラフィー及び濾過工程などのサイズ又は流体力学的体積に基づいてタンパク質を分離する方法を使用して減少され得る。加えて、親和性クロマトグラフィー(例えば、プロテインAクロマトグラフィー)、カチオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、及び混合形式のクロマトグラフィーもまた、効率的にHMW種を減少させることができる。例えば、Shukla et al.,Journal of Chromatography B,Vol.848:28-39,2007;Chen et al.,Journal of Chromatography A,Vol.1217:216-224,2010;米国特許第6,620,918号明細書;同第9,505,803号明細書;及び同第9,783,570号明細書に記載される方法を参照されたい。上記のとおり、エレヌマブのHMW種は、サイズ排除クロマトグラフィーにより分離するとエレヌマブ(メインピーク)より早く溶出する。したがって、HMW種は、エレヌマブメインピークの溶出の前に回収され、且つ廃棄され得るか、又はエレヌマブ画分の回収は、HMW種の溶出後に開始され得る。
【0050】
本発明のエレヌマブ組成物は、本明細書に記載されるエレヌマブバリアントのうちの1種以上に関して分析され得る。例えば、いくつかの実施形態では、本発明は、エレヌマブ及び1種以上のエレヌマブバリアントを含む組成物を含み、エレヌマブバリアントは、異性化バリアント、脱アミドバリアント、酸性バリアント、HMW種、又はこれらの組合せを含み、且つ組成物は、制御された量のこれらのバリアントの各々を有する。一実施形態では、組成物は、エレヌマブ及び1種以上のエレヌマブバリアントを含み、エレヌマブバリアントは、異性化バリアント、脱アミドバリアント、酸性バリアント、HMW種、又はこれらの組合せを含み、且つ組成物は、以下の特徴のうちの1つ以上又は全てを有する:(a)組成物中の酸性バリアントの量は、CEX-HPLCによって測定されるとおり、約25%~約38%である;(b)組成物中のHMW種の量は、SE-UHPLCによって測定されるとおり、約2.1%又はそれ未満である;及び(c)組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、HIC-HPLCにおけるプレピークによって測定されるとおり、約8.0%又はそれ未満である。別の実施形態では、組成物は、以下の特徴のうちの1つ以上又は全てを有する:(a)組成物中の酸性バリアントの量は、CEX-HPLCによって測定されるとおり、約38%未満である;(b)組成物中のHMW種の量は、SE-UHPLCによって測定されるとおり、約2.5%又はそれ未満である;及び(c)組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、HIC-HPLCにおけるプレピークによって測定されるとおり、約10%又はそれ未満である。別の実施形態では、組成物は、以下の特徴のうちの1つ以上又は全てを有する:(a)組成物中の酸性バリアントの量は、CEX-HPLCによって測定されるとおり、約32.5%~約37.5%である;(b)組成物中のHMW種の量は、SE-UHPLCによって測定されるとおり、約1.8%又はそれ未満である;及び(c)組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、HIC-HPLCにおけるプレピークによって測定されるとおり、約6.1%又はそれ未満である。さらに別の実施形態では、組成物は、以下の特徴のうちの1つ以上又は全てを有する:(a)組成物中の酸性バリアントの量は、CEX-HPLCによって測定されるとおり、約26.5%~約33.6%である;(b)組成物中のHMW種の量は、SE-UHPLCによって測定されるとおり、約1.2%又はそれ未満である;及び(c)組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、HIC-HPLCにおけるプレピークによって測定されるとおり、約3.2%又はそれ未満である。さらに別の実施形態では、組成物は、以下の特徴のうちの1つ以上又は全てを有する:(a)組成物中の酸性バリアントの量は、CEX-HPLCによって測定されるとおり、約26.5%~約33.6%である;(b)組成物中のHMW種の量は、SE-UHPLCによって測定されるとおり、約1.2%又はそれ未満である;及び(c)組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、HIC-HPLCにおけるプレピークによって測定されるとおり、約2.7%又はそれ未満である。別の実施形態では、組成物は、以下の特徴のうちの1つ以上又は全てを有する:(a)組成物中の酸性バリアントの量は、CEX-HPLCによって測定されるとおり、約26.5%~約33.6%である;(b)組成物中のHMW種の量は、SE-UHPLCによって測定されるとおり、約1.4%又はそれ未満である;及び(c)組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、HIC-HPLCにおけるプレピークによって測定されるとおり、約3.2%又はそれ未満である。別の実施形態では、組成物は、以下の特徴のうちの1つ以上又は全てを有する:(a)組成物中の酸性バリアントの量は、CEX-HPLCによって測定されるとおり、約28.7%~約31.3%である;(b)組成物中のHMW種の量は、SE-UHPLCによって測定されるとおり、約0.6%又はそれ未満である;及び(c)組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、HIC-HPLCにおけるプレピークによって測定されるとおり、約2.1%又はそれ未満である。
【0051】
本発明のエレヌマブ組成物は、宿主細胞において重鎖及び軽鎖をコードする核酸を組換えにより発現すること、宿主細胞培養物又は宿主細胞可溶化物からエレヌマブを部分的に精製するか又は精製すること、及び以下に詳細に記載される方法に従って本明細書に詳述されるエレヌマブバリアントのうちの1種以上に関して得られた組成物を分析することによって作製され得る。
【0052】
エレヌマブの組換え産生のために、重鎖(例えば、配列番号1のアミノ酸配列を含む重鎖ポリペプチド)及び軽鎖(例えば、配列番号2のアミノ酸配列を含む軽鎖ポリペプチド)をコードする1種以上の核酸が、1種以上の発現ベクターに挿入される。重鎖をコードする核酸及び軽鎖をコードする核酸が、単一の発現ベクターに挿入され得るか、又はそれらは、別々の発現ベクターに挿入され得る。本明細書で使用される用語「発現ベクター」又は「発現構築物」は、特定の宿主細胞における作動可能に連結されたコード配列の発現に必要である、所望のコード配列及び適切な核酸制御配列を含む組換えDNA分子を指す。発現ベクターは、転写、翻訳に影響を及ぼすか又はそれを制御し、且つイントロンが存在する場合、それに作動可能に連結されたコード領域のRNAスプライシングに影響を及ぼす配列を含み得る。原核生物での発現に必要な核酸配列には、プロモーター、任意選択的にオペレーター配列、リボソーム結合部位及び場合により他の配列が含まれる。真核細胞は、プロモーター、エンハンサー並びに終結及びポリアデニル化シグナルを利用することが知られている。目的のコード配列に作動可能に連結された分泌シグナルペプチド配列も、任意選択的に発現ベクターによってコードされ得、その結果、必要に応じて細胞から目的ポリペプチドがより容易に単離されるように、組換え宿主細胞に発現ポリペプチドを分泌させることができる。ベクターはまた、ベクターが導入された宿主細胞の選択を促進する1種以上の選択マーカー遺伝子を含み得る。エレヌマブの重鎖及び軽鎖並びに好適なシグナルペプチド配列及びエレヌマブを組換えにより発現するための発現ベクターのための他の成分をコードする例示的な核酸は、全体として参照により本明細書によって援用される国際公開第2010/075238号パンフレットにおいて記載される。
【0053】
発現ベクターが構築され、エレヌマブの重鎖及び軽鎖成分をコードする1つ以上の核酸分子がベクターの適当な部位に挿入された後、完成したベクターは、増幅及び/又はポリペプチド発現に好適な宿主細胞に挿入され得る。選択された宿主細胞へのエレヌマブのための発現ベクターの形質転換は、トランスフェクション、感染、リン酸カルシウム共沈、エレクトロポレーション、微量注入、リポフェクション、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、又は他の既知の技術を含む、よく知られる方法によって行われ得る。選択される方法は、部分的に、使用される宿主細胞の型に応じることになる。これらの方法及び他の好適な方法は、当業者によく知られており、例えば、Sambrook,Fritsch and Maniatis(eds),Molecular Cloning;A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor,N.Y.,(1989),Ausubel et al.(eds.)Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates,(1989)において記載される。
【0054】
宿主細胞は、適切な条件下で培養されると、エレヌマブを合成し、これは、続いて、培養培地(宿主細胞がそれを培地中に分泌する場合)から、又はそれを産生する宿主細胞(それが分泌されない場合)から直接回収され得る。適切な宿主細胞の選択は、所望する発現レベル、活性(グリコシル化又はリン酸化など)のために所望されるか又は必要であるポリペプチドの改変及び生物学的に活性な分子へのフォールディングの容易さなどの種々の因子によるであろう。
【0055】
例示的な宿主細胞としては、原核生物、酵母又は高等真核生物細胞が挙げられる。原核生物の宿主細胞としては、グラム陰性又はグラム陽性微生物などの真正細菌、例えば腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、例えばエシェリキア属(Escherichia)、例えば大腸菌(E.coli)、エンテロバクター属(Enterobacter)、エルウィニア属(Erwinia)、クレブシエラ属(Klebsiella)、プロテウス属(Proteus)、サルモネラ属(Salmonella)、例えばサルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、セラチア属(Serratia)、例えばセラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)及びシゲラ属(Shigella)並びにバチルス属(Bacillus)、例えばB.ズブチリス(B.subtilis)、B.リケニフォルミス(B.licheniformis)、シュードモナス属(Pseudomonas)及びストレプトミセス属(Streptomyces)が挙げられる。真核生物の微生物、例えば糸状菌又は酵母は、組換えポリペプチドに好適な適切なクローニング宿主又は発現宿主である。サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)又は一般的なパン酵母は、下等真核生物宿主微生物の中で最も一般的に使用される。しかしながら、ピチア属(Pichia)、例えばP.パストリス(P.pastoris)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces
pombe)、クロイベロミセス属(Kluyveromyces)、ヤロウイア属(Yarrowia);カンジダ属(Candida);トリコデルマ・レシア(Trichoderma reesia);ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa);シュヴァンニオミセス属(Schwanniomyces)、例えばシュヴァンニオミセス・オシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis);並びに糸状菌、例えばニューロスポラ属(Neurospora)、ペニシリウム属(Penicillium)、トリポクラジウム属(Tolypocladium)及びアスペルギルス属(Aspergillus)宿主、例えばA.ニドゥランス(A.nidulans)及びA.ニガー(A.niger)などのいくつかの他の属、種及び株が一般に利用可能であり、本明細書において有用である。
【0056】
グリコシル化抗体の発現のための宿主細胞は、多細胞生物由来であり得る。無脊椎動物細胞の例としては、植物及び昆虫細胞が挙げられる。多数のバキュロウイルス株及びバリアント並びにツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)(イモ虫)、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)(蚊)、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)(蚊)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)(ミバエ)及びカイコ(Bombyx mori)などの宿主由来の対応する許容昆虫宿主細胞が同定されている。このような細胞のトランスフェクションのための種々のウイルス株、例えばオートグラファカリフォルニアNPV(Autographa californica NPV)のL-1変異体及びカイコNPV(Bombyx mori NPV)のBm-5株が公に入手可能である。
【0057】
脊椎動物宿主細胞もまた好適な宿主であり、このような細胞からの抗体の組換え産生は常法となっている。発現の宿主として利用可能な哺乳動物細胞株は、当該技術分野でよく知られており、限定されないが、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)から入手可能な不死化細胞株、例えば、限定されないが、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、例えばCHOK1細胞(ATCC CCL61)、DXB-11、DG-44及びチャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO、Urlaub et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216,1980);SV40(COS-7、ATCC CRL 1651)によって形質転換されたサル腎臓CV1株;ヒト胚腎臓株(懸濁培養液中の増殖用としてサブクローニングされた293又は293細胞(Graham et al.,J.Gen Virol.36:59,1977);ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL 10);マウスセルトリ細胞(TM4、Mather,Biol.Reprod.23:243-251,1980);サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587);ヒト頸癌細胞(HELA、ATCC CCL 2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL 34);バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75);ヒト肝細胞癌細胞(Hep G2、HB 8065);マウス乳癌(MMT 060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Mather et al.,Annals N.Y Acad.Sci.383:44-68,1982);MRC 5細胞又はFS4細胞;哺乳動物骨髄腫細胞及び多くの他の細胞株が挙げられる。CHO細胞は、エレヌマブを発現するためのいくつかの実施形態において好ましい宿主細胞である。
【0058】
宿主細胞はエレヌマブの産生のために、上記の発現ベクターで形質転換又はトランスフェクトされ、プロモーターの誘導、形質転換体の選択、又は所望の配列をコードする遺伝子の増幅のために適切に改変された従来の栄養培地中で培養される。エレヌマブを産生するために使用される宿主細胞は、様々な培地中で培養され得る。ハムF10(Sigma)、最小必須培地(MEM、Sigma)、RPMI-1640(Sigma)及びダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Sigma)などの市販の培地は、宿主細胞を培養するのに適している。さらに、Ham et al.,Meth.Enz.58:44,1979;Barnes et al.,Anal.Biochem.102:255,1980;米国特許第4,767,704号明細書;同第4,657,866号明細書;同第4,927,762号明細書;同第4,560,655号明細書;若しくは同第5,122,469号明細書;国際公開第90/03430号パンフレット;又は国際公開第87/00195号パンフレットにおいて記載される培地のいずれかが、宿主細胞のための培養培地として使用され得る。これらの培地のいずれかは、必要に応じて、ホルモン及び/又は他の成長因子(インスリン、トランスフェリン、又は上皮成長因子など)、塩(塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、及びリン酸塩など)、緩衝液(HEPESなど)、ヌクレオチド(アデノシン及びチミジンなど)、抗生物質(ゲンタマイシン(商標)薬剤など)、微量元素(通常、マイクロモル範囲の最終濃度で存在する無機化合物として定義される)、並びにグルコース又は同等のエネルギー源を補充され得る。任意の他の必要な栄養補助物質も、当業者に知られる適切な濃度で含まれ得る。温度、pHなどの培養条件は、発現のために選択された宿主細胞で以前に使用されたものであり、当業者に明らかであろう。
【0059】
宿主細胞を培養すると、抗体は、細胞内、細胞膜周辺腔内で産生され得るか、又は培地中に直接分泌され得る。抗体が細胞内で産生される場合、第1の工程として、宿主細胞が溶解され(例えば、機械的剪断、浸透圧ショック、又は酵素的方法により)、粒状の細片(例えば、宿主細胞及び溶解断片)が、例えば、遠心分離、精密濾過、又は限外濾過によって除去される。抗体が培養培地に分泌される場合、抗体は、遠心分離又は精密濾過により宿主細胞から分離されてもよく、続いて必要に応じて、限外濾過により濃縮されてもよい。エレヌマブはさらに、例えば、親和性クロマトグラフィー(例えば、プロテインA又はプロテインG親和性クロマトグラフィー)、カチオン交換クロマトグラフィー、アニオン交換クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、又は混合形式のクロマトグラフィーなどの1種以上のクロマトグラフィー工程を使用して精製され得るか又は部分的に精製され得る。
【0060】
エレヌマブ組成物が精製されるか又は得られると、組成物は、異性化バリアント、脱アミドバリアント、酸性バリアント、及びサイズバリアント(例えば、HMW種)を含む本明細書に記載される1種以上のエレヌマブバリアントの存在及び量について評価され得る。したがって、本発明は、エレヌマブ組成物の品質を査定するための方法であって、エレヌマブ及び1種以上のエレヌマブバリアントを含有するエレヌマブ組成物を得ること;組成物中の1種以上のエレヌマブバリアントの量を測定すること;既定の参照基準に対して1種以上のエレヌマブバリアントの測定された量を比較すること;及び比較が、既定の参照基準を満たすことを示す場合に、エレヌマブ組成物の医薬製剤又は医薬製品を作製することを含む方法を含む。いくつかの実施形態では、方法は、(1)組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量を測定すること、(2)組成物中の酸性バリアントの量を測定すること、及び/又は(3)組成物中のHMW種の量を測定することのうちの1つ、2つ、又は3つを含む。ある種の実施形態では、3つ全ての測定が、エレヌマブ組成物に対して実施される。
【0061】
各エレヌマブバリアントに関する既定の参照基準は、CGRP受容体のリガンド誘導性の活性化を阻害するためのエレヌマブ組成物の効力に著しく影響を及ぼさないバリアントの閾値量又は量の範囲であり得る。例えば、各エレヌマブバリアントに関する既定の参照基準は、バリアントのこれらの限度/範囲を有するエレヌマブ組成物が、臨床試験において評価され、且つ臨床的有効性を有すると示されたエレヌマブ組成物に匹敵する効力を有したため、バリアントの各々に関して本明細書で開示される限度又は範囲のいずれかであり得る。
【0062】
方法のある種の実施形態では、組成物中のエレヌマブバリアントの測定された量が既定の参照基準を満たす場合、エレヌマブ組成物は、許容できるものとして分類され、例えば、組成物の医薬製剤を作製することによる(例えば、1種以上の賦形剤又は希釈剤と組み合わせることにより);組成物の医薬製品を作製することによる(例えば、バイアル、シリンジ、自動注入装置、又は他の容器若しくは送達デバイスに充填することにより);使用のための指示書、希釈剤、及び/又は送達デバイスとともに組成物をパッケージ化すること;又は市販又は販売業者への配送のために組成物をリリースすることなどの、製造又は分配プロセスにおける次の工程に進められ得る。方法のいくつかの実施形態では、組成物中のエレヌマブバリアントの測定された量が既定の参照基準を満たす場合、エレヌマブ組成物の医薬製剤が作製される。方法の他の実施形態では、組成物中のエレヌマブバリアントの測定された量が既定の参照基準を満たす場合、エレヌマブ組成物の医薬製品が作製される。エレヌマブ組成物の医薬製剤及び医薬製品を作製する方法は、下により詳細に記載される。組成物中のエレヌマブバリアントの測定された量が既定の参照基準を満たさない場合、方法のいくつかの実施形態では、エレヌマブ組成物は、許容できないものとして分類され、且つ廃棄され得るか、消失させられ得るか、又は既定の参照基準が満たされるように組成物中のエレヌマブバリアントの量を除去するか又は減少させるための追加の精製などの、追加の製造工程にかけられ得る。
【0063】
一実施形態では、エレヌマブ組成物の品質を査定するための方法は、エレヌマブ及びエレヌマブ異性化バリアント及び脱アミドバリアントを含有するエレヌマブ組成物を得ること;組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量を測定すること;異性化バリアント及び脱アミドバリアントの測定された量を既定の参照基準と比較すること;並びに比較が、既定の参照基準を満たすことを示す場合にエレヌマブ組成物の医薬製剤又は医薬製品を作製することを含む。エレヌマブ組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量に関する既定の参照基準は、約30%未満、例えば、約25%又はそれ未満、約20%又はそれ未満、約17%又はそれ未満、約15%又はそれ未満、約12%又はそれ未満、約10%又はそれ未満、約8%又はそれ未満、約6%又はそれ未満、又は約4%又はそれ未満であり得る。一実施形態では、エレヌマブ組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量に関する既定の参照基準は、約15%又はそれ未満である。別の実施形態では、エレヌマブ組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量に関する既定の参照基準は、約10%又はそれ未満である。別の実施形態では、エレヌマブ組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量に関する既定の参照基準は、約8%又はそれ未満である。さらに別の実施形態では、エレヌマブ組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量に関する既定の参照基準は、約6%又はそれ未満である。さらに別の実施形態では、エレヌマブ組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量に関する既定の参照基準は、約4%又はそれ未満である。ある種の実施形態では、エレヌマブ組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量に関する既定の参照基準は、約3.2%又はそれ未満である。他の実施形態では、エレヌマブ組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量に関する既定の参照基準は、約2.7%又はそれ未満である。いくつかの実施形態では、エレヌマブ組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量に関する既定の参照基準は、ある範囲の量、例えば、エレヌマブ組成物の約1%~約10%、エレヌマブ組成物の約1%~約4%、又はエレヌマブ組成物の約0.5%~約3.5%であり得る。ある種の実施形態では、エレヌマブ組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量は、例えば、HIC-HPLCにおけるプレピークのピーク面積のパーセンテージにより、HIC-HPLCによって測定される。そのような実施形態では、HIC-HPLC法は、実施例1において記載されるとおりに実施され得る。
【0064】
別の実施形態では、エレヌマブ組成物の品質を査定するための方法は、エレヌマブ及びエレヌマブ酸性バリアントを含有するエレヌマブ組成物を得ること;組成物中の酸性バリアントの量を測定すること;酸性バリアントの測定された量を既定の参照基準と比較すること;及び比較が、既定の参照基準を満たすことを示す場合にエレヌマブ組成物の医薬製剤又は医薬製品を作製することを含む。エレヌマブ組成物中の酸性バリアントの量に関する既定の参照基準は、約40%未満、例えば、約38%又はそれ未満、約37%又はそれ未満、約36%又はそれ未満、約35%又はそれ未満、約34%又はそれ未満、約33%又はそれ未満、約32%又はそれ未満、約31%又はそれ未満、約30%又はそれ未満、約29%又はそれ未満、約28%又はそれ未満、約27%又はそれ未満、又は約26%又はそれ未満であり得る。一実施形態では、エレヌマブ組成物中の酸性バリアントの量に関する既定の参照基準は、約38%又はそれ未満である。別の実施形態では、エレヌマブ組成物中の酸性バリアントの量に関する既定の参照基準は、約35%又はそれ未満である。さらに別の実施形態では、エレヌマブ組成物中の酸性バリアントの量に関する既定の参照基準は、約32%又はそれ未満である。さらに別の実施形態では、エレヌマブ組成物中の酸性バリアントの量に関する既定の参照基準は、約30%又はそれ未満である。いくつかの実施形態では、エレヌマブ組成物中の酸性バリアントの量に関する既定の参照基準は、ある範囲の量、例えば、エレヌマブ組成物の約25%~約38%、エレヌマブ組成物の約32.5%~約37.5%、エレヌマブ組成物の約26%~約34%、又はエレヌマブ組成物の約26.5%~約33.6%である。1つの特定の実施形態では、エレヌマブ組成物中の酸性バリアントの量に関する既定の参照基準は、約25%~約38%である。別の特定の実施形態では、エレヌマブ組成物中の酸性バリアントの量に関する既定の参照基準は、約26.5%~約33.6%である。ある種の実施形態では、エレヌマブ組成物中の酸性バリアントの量は、例えば、CEX-HPLCにおける酸性ピークのピーク面積のパーセンテージにより、CEX-HPLCによって測定される。そのような実施形態では、CEX-HPLC法は、実施例3において記載されるとおりに実施され得る。
【0065】
別の実施形態では、エレヌマブ組成物の品質を査定するための方法は、エレヌマブ及びエレヌマブのHMW種を含有するエレヌマブ組成物を得ること;組成物中のHMW種の量を測定すること;HMW種の測定された量を既定の参照基準と比較すること;及び比較が、既定の参照基準を満たすことを示す場合にエレヌマブ組成物の医薬製剤又は医薬製品を作製することを含む。エレヌマブ組成物中のHMW種の量に関する既定の参照基準は、約3.0%未満、例えば、約2.5%又はそれ未満、約2.4%又はそれ未満、約2.3%又はそれ未満、約2.2%又はそれ未満、約2.1%又はそれ未満、約2.0%又はそれ未満、約1.8%又はそれ未満、約1.6%又はそれ未満、約1.4%又はそれ未満、約1.2%又はそれ未満、約1.0%又はそれ未満、約0.8%又はそれ未満、約0.6%又はそれ未満、又は約0.4%又はそれ未満であり得る。一実施形態では、エレヌマブ組成物中のHMW種の量に関する既定の参照基準は、約2.5%又はそれ未満である。別の実施形態では、エレヌマブ組成物中のHMW種の量に関する既定の参照基準は、約1.8%又はそれ未満である。別の実施形態では、エレヌマブ組成物中のHMW種の量に関する既定の参照基準は、約1.4%又はそれ未満である。さらに別の実施形態では、エレヌマブ組成物中のHMW種の量に関する既定の参照基準は、約1.2%又はそれ未満である。さらに別の実施形態では、エレヌマブ組成物中のHMW種の量に関する既定の参照基準は、約0.6%又はそれ未満である。エレヌマブ組成物中のHMW種の量に関する既定の参照基準は、いくつかの実施形態では、ある範囲の量、例えば、エレヌマブ組成物の約0.3%~約2.4%、エレヌマブ組成物の約0.6%~約2.1%、エレヌマブ組成物の約0.4%~約1.2%、又はエレヌマブ組成物の約0.6%~約1.4%であり得る。ある種の実施形態では、エレヌマブ組成物中のHMW種の量は、例えば、SE-UHPLCにおけるプレピークのピーク面積のパーセンテージにより、SE-UHPLCによって測定される。そのような実施形態では、SE-UHPLC法は、実施例5において記載されるとおりに実施され得る。
【0066】
本発明の方法のある種の実施形態では、方法は、
(a)エレヌマブ及び1種以上のエレヌマブバリアントを含有するエレヌマブ組成物であって、エレヌマブバリアントが、異性化バリアント、脱アミドバリアント、酸性バリアント、HMW種、又はこれらの組合せを含むエレヌマブ組成物を得ること;
(b)以下の:
(i)HIC-HPLCにおけるプレピークによって組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量を測定し、且つ測定された量を約10%又はそれ未満の既定の参照基準と比較すること;
(ii)CEX-HPLCにおける酸性ピークによって組成物中の酸性バリアントの量を測定し、且つ測定された量を約25%~約38%の既定の参照基準と比較すること;及び/又は
(iii)SE-UHPLCにおけるプレピークによって組成物中のHMW種の量を測定し、且つ測定された量を約2.5%又はそれ未満の既定の参照基準と比較することのうちの1つ、2つ、又は3つ全てを実施することによってエレヌマブ組成物を評価すること;並びに
(c)工程(b)における比較が、既定の参照基準/判定基準を満たすことを示す場合にエレヌマブ組成物の医薬製剤又は医薬製品を作製すること
を含む。いくつかの実施形態では、3つの工程(b)(i)、(b)(ii)、及び(b)(iii)全てが実施される。他の実施形態では、(b)(i)及び(b)(ii)の工程のみが実施される。さらに他の実施形態では、(b)(ii)及び(b)(iii)の工程のみが実施される。ある種の実施形態では、(b)(i)及び(b)(iii)の工程のみが実施される。
【0067】
本発明の方法のある種の他の実施形態では、方法は、
(a)エレヌマブ及び1種以上のエレヌマブバリアントを含有するエレヌマブ組成物であって、エレヌマブバリアントが、異性化バリアント、脱アミドバリアント、酸性バリアント、HMW種、又はこれらの組合せを含むエレヌマブ組成物を得ること;
(b)以下の:
(i)HIC-HPLCにおけるプレピークによって組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量を測定し、且つ測定された量を約3.2%又はそれ未満の既定の参照基準と比較すること;
(ii)CEX-HPLCにおける酸性ピークによって組成物中の酸性バリアントの量を測定し、且つ測定された量を約26.5%~約33.6%の既定の参照基準と比較すること;及び/又は
(iii)SE-UHPLCにおけるプレピークによって組成物中のHMW種の量を測定し、且つ測定された量を約1.2%又はそれ未満の既定の参照基準と比較することのうちの1つ、2つ、又は3つ全てを実施することによってエレヌマブ組成物を評価すること;並びに
(c)工程(b)における比較が、既定の参照基準/判定基準を満たすことを示す場合にエレヌマブ組成物の医薬製剤又は医薬製品を作製すること
を含む。いくつかの実施形態では、3つの工程(b)(i)、(b)(ii)、及び(b)(iii)全てが実施される。他の実施形態では、(b)(i)及び(b)(ii)の工程のみが実施される。さらに他の実施形態では、(b)(ii)及び(b)(iii)の工程のみが実施される。ある種の実施形態では、(b)(i)及び(b)(iii)の工程のみが実施される。
【0068】
本発明の方法のいくつかの実施形態では、方法は、
(a)エレヌマブ及び1種以上のエレヌマブバリアントを含有するエレヌマブ組成物であって、エレヌマブバリアントが、異性化バリアント、脱アミドバリアント、酸性バリアント、HMW種、又はこれらの組合せを含むエレヌマブ組成物を得ること;
(b)以下の:
(i)HIC-HPLCにおけるプレピークによって組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量を測定し、且つ測定された量を約2.7%又はそれ未満の既定の参照基準と比較すること;
(ii)CEX-HPLCにおける酸性ピークによって組成物中の酸性バリアントの量を測定し、且つ測定された量を約26.5%~約33.6%の既定の参照基準と比較すること;及び/又は
(iii)SE-UHPLCにおけるプレピークによって組成物中のHMW種の量を測定し、且つ測定された量を約1.2%又はそれ未満の既定の参照基準と比較することのうちの1つ、2つ、又は3つ全てを実施することによってエレヌマブ組成物を評価すること;並びに
(c)工程(b)における比較が、既定の参照基準/判定基準を満たすことを示す場合にエレヌマブ組成物の医薬製剤又は医薬製品を作製すること
を含む。いくつかの実施形態では、3つの工程(b)(i)、(b)(ii)、及び(b)(iii)全てが実施される。他の実施形態では、(b)(i)及び(b)(ii)の工程のみが実施される。さらに他の実施形態では、(b)(ii)及び(b)(iii)の工程のみが実施される。ある種の実施形態では、(b)(i)及び(b)(iii)の工程のみが実施される。
【0069】
本発明の方法の他の実施形態では、方法は、
(a)エレヌマブ及び1種以上のエレヌマブバリアントを含有するエレヌマブ組成物であって、エレヌマブバリアントが、異性化バリアント、脱アミドバリアント、酸性バリアント、HMW種、又はこれらの組合せを含むエレヌマブ組成物を得ること;
(b)以下の:
(i)HIC-HPLCにおけるプレピークによって組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量を測定し、且つ測定された量を約3.2%又はそれ未満の既定の参照基準と比較すること;
(ii)CEX-HPLCにおける酸性ピークによって組成物中の酸性バリアントの量を測定し、且つ測定された量を約26.5%~約33.6%の既定の参照基準と比較すること;及び/又は
(iii)SE-UHPLCにおけるプレピークによって組成物中のHMW種の量を測定し、且つ測定された量を約1.4%又はそれ未満の既定の参照基準と比較することのうちの1つ、2つ、又は3つ全てを実施することによってエレヌマブ組成物を評価すること;並びに
(c)工程(b)における比較が、既定の参照基準/判定基準を満たすことを示す場合にエレヌマブ組成物の医薬製剤又は医薬製品を作製すること
を含む。いくつかの実施形態では、3つの工程(b)(i)、(b)(ii)、及び(b)(iii)全てが実施される。他の実施形態では、(b)(i)及び(b)(ii)の工程のみが実施される。さらに他の実施形態では、(b)(ii)及び(b)(iii)の工程のみが実施される。ある種の実施形態では、(b)(i)及び(b)(iii)の工程のみが実施される。
【0070】
品質を査定するか又は上記のエレヌマブ組成物を評価するための本発明の方法は、様々な状況において採用され得る。例えば、この方法は、エレヌマブのための製造プロセスの各種工程での品質管理法として(例えば、製造中の管理法として)使用され得る。いくつかの実施形態では、方法は、製造プロセスの大部分又は全ての完了時に、例えば、エレヌマブ原体(例えば、有効活性成分又はAPI)又はエレヌマブ薬物製品(例えば、ヒトへの使用のための1種以上の賦形剤で製剤化されたAPI)のためのロットリリース方法として使用され得る。方法はまた、様々な期間で保管されたエレヌマブ組成物を評価するために使用されて、薬物の有効期限の決定を容易にし得る。方法はまた、既定の参照基準が、初めは満たされず、再処理された(例えば、追加の精製操作にかける)エレヌマブ組成物を再評価するために使用され得る。
【0071】
したがって、方法において採用されるエレヌマブ組成物は、エレヌマブ及び場合によっては1種以上のエレヌマブバリアントを含む任意の組成物であり得る。いくつかの実施形態では、エレヌマブ組成物は、配列番号1の重鎖をコードする核酸及び配列番号2の軽鎖をコードする核酸を発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株から得られる。そのような実施形態では、エレヌマブ組成物は、細胞培養収集物(例えば、清澄化された細胞培養上清又は清澄化された細胞可溶化物)である。他のそのような実施形態では、エレヌマブ組成物は、1つ以上の精製操作(例えば、1つ以上のクロマトグラフィー又は濾過工程に由来するプール又は画分)にかけられたエレヌマブの部分的に精製された調製物である。一実施形態では、エレヌマブ組成物は、カチオン交換クロマトグラフィー材料からの溶出プールである。別の実施形態では、エレヌマブ組成物は、エレヌマブ原体(例えば、有効活性成分又はAPI)である。さらに別の実施形態では、エレヌマブ組成物は、エレヌマブ薬物製品(例えば、ヒトへの使用のための1種以上の賦形剤で製剤化されたエレヌマブ原体又はAPI)である。
【0072】
エレヌマブ組成物の生物活性は、上記の品質評価法の一部として評価され得る。いくつかの実施形態では、方法は、ヒトCGRP受容体のCGRPリガンド誘導性の活性化を阻害するエレヌマブ組成物の能力を査定することを含む。CGRP受容体の活性化を査定するための様々なアッセイは、当該技術分野において知られており、CGRPリガンド誘導性カルシウム動員及びcAMP生成を測定する細胞系アッセイを含む。例示的な細胞系cAMPアッセイが、実施例1に記載される。他の好適なCGRP受容体活性化アッセイは、全てが全体として参照により本明細書により援用される、Aiyar et al.,Molecular and Cellular Biochemistry,Vol.197:179-185,1999;Pin et al.,European Journal of Pharmacology,Vol.577:7-16,2007;米国特許第8,168,592号明細書、及び国際公開第2010/075238号パンフレットに記載される。
【0073】
本発明は、本明細書に記載されるエレヌマブ組成物のいずれか1つ及び1種以上の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬製剤を含む。「薬学的に許容される」は、使用する用量及び濃度でヒトレシピエントに対して毒性がなく、且つ/又はヒトに投与したときにアレルギー又は有害な反応を生じない分子、化合物及び組成物を指す。ある種の実施形態では、医薬製剤は、エレヌマブ組成物の、例えば、pH、モル浸透圧濃度、粘性、透明性、色調、等張性、匂い、無菌性、安定性、溶解速度若しくは放出速度、吸収性、又は透過性の改変、維持、又は保存のための材料を含有し得る。そのような実施形態では、好適な材料としては、アミノ酸(グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン又はリジンなど);抗菌剤;抗酸化剤(アスコルビン酸、亜硫酸ナトリウム又は亜硫酸水素ナトリウムなど);緩衝剤(酢酸塩、炭酸水素塩、トリス-HCl、クエン酸塩、リン酸塩又は他の有機酸など);充填剤(マンニトール又はグリシンなど);キレート剤(エチレンジアミン四酢酸(EDTA)など);錯化剤(カフェイン、ポリビニルピロリドン、β-シクロデキストリン又はヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリンなど);充填剤;単糖類;二糖類;及び他の炭水化物(グルコース、マンノース又はデキストリンなど);タンパク質(血清アルブミン、ゼラチン又は免疫グロブリンなど);着色剤;乳化剤;親水性ポリマー(ポリビニルピロリドンなど);低分子量ポリペプチド;塩形成対イオン(ナトリウムなど);防腐剤(塩化ベンザルコニウム、安息香酸、サリチル酸、チメロサール、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロルヘキシジン、ソルビン酸又は過酸化水素など);溶媒(グリセリン、プロピレングリコール又はポリエチレングリコールなど);糖アルコール(マンニトール又はソルビトールなど);界面活性剤又は湿潤剤(プルロニック(登録商標)、PEG、ソルビタンエステル、ポリソルベート20、ポリソルベート80などのポリソルベート、トリトン、トロメタミン、レシチン、コレステロール、チロキサパールなど);安定性促進剤(スクロース又はソルビトールなど);等張化促進剤(アルカリ金属ハロゲン化物、好ましくは塩化ナトリウム又は塩化カリウム、マンニトールソルビトールなど);希釈剤;賦形剤及び/又は医薬アジュバントが挙げられるが、これらに限定されない。治療的使用のための分子を製剤化するための方法及び好適な材料は、薬学分野において知られており、例えばREMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES,18th Edition,(A.R.Genrmo,ed.),1990,Mack Publishing Companyに記載されている。
【0074】
いくつかの実施形態では、本発明の医薬製剤は、本明細書に記載されるエレヌマブ組成物、約4.5~約6.5の範囲内に溶液のpHを維持する緩衝剤、安定剤、及び必要に応じて界面活性剤を含む。好適な緩衝剤としては、グルタミン酸塩、酢酸塩、トリス、クエン酸塩、ヒスチジン、コハク酸塩、及びリン酸塩緩衝剤が挙げられるが、これらに限定されない。ある種の実施形態では、医薬製剤は、酢酸塩緩衝剤を含む。酢酸塩緩衝剤は、酢酸又は酢酸塩、例えば、酢酸ナトリウムから作製され得る。例えば、酢酸塩のカリウム、アンモニウム、カルシウム又はマグネシウム塩などの他の塩が使用され得る。酢酸緩衝剤を含む医薬製剤は通常、約4.5、約4.6、約4.7、約4.8、約4.9、約5.0、約5.1、約5.2、約5.3、約5.4、及び約5.5を含む、約4.5~約5.5のpH又は約4.8~約5.2のpHを有する。
【0075】
安定剤は、抗体の天然の立体構造を安定化し、且つ/又は抗体の物理的又は化学的分解を防ぐか若しくは低減する賦形剤を指す。好適な安定剤としては、ポリオール(例えば、ソルビトール、グリセロール、マンニトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトール、エリスリトール及びトレイトール)、糖(例えば、フルクトース、グルコース、グリセルアルデヒド、ラクトース、アラビノース、マンノース、キシロース、リボース、ラムノース、ガラクトース、マルトース、スクロース、トレハロース、ソルボース、スクラロース、メレチトース及びラフィノース)、並びにアミノ酸(例えば、グリシン、メチオニン、プロリン、リジン、アルギニン、ヒスチジン、又はグルタミン酸)が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、医薬製剤は、安定剤として糖を含む。これら及び他の実施形態では、糖は、スクロースである。
【0076】
ある種の実施形態では、医薬製剤は、界面活性剤を含む。界面活性剤は、溶解した液体の表面張力を低下させる働きをする物質である。界面活性剤は、例えば、液体製剤中の凝集、粒子形成及び/又は表面吸着を防ぐか若しくは制御するか、又は凍結乾燥の間及び/又は凍結乾燥製剤における再構成プロセスの間にこれらの現象を防ぐか若しくは制御することを含む、様々な目的のために医薬製剤中に含まれ得る。界面活性剤としては、例えば、有機溶媒及び水溶液の両方において粒子溶解性を呈する両親媒性有機化合物が挙げられる。界面活性剤の一般的な特徴は、水の表面張力を低下させ、油と水の間の界面張力を低下させ、且つミセルをも形成するそれらの能力を含む。本発明の医薬製剤に組み込まれ得る界面活性剤は、非イオン性及びイオン性界面活性剤の両方を含む。好適な非イオン性界面活性剤としては、アルキルポリ(エチレンオキシド)、オクチルグルコシド及びデシルマルトシドなどのアルキルポリグルコシド、セチルアルコール及びオレイルアルコールなどの脂肪アルコール、コカミドMEA、コカミドDEA、及びコカミドTEAが挙げられるが、これらに限定されない。非イオン性界面活性剤の特定の例としては、例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート28、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80、ポリソルベート81、ポリソルベート85などを含むポリソルベート;例えば、ポロキサルコール又はポリ(エチレンオキシド)-ポリ(プロピレンオキシド)としても知られるポロクサマー188、ポロクサマー407又はポリエチレン-ポリプロピレングリコ-ルなど、及びポリエチレングリコール(PEG)が挙げられる。好適なイオン性界面活性剤としては、例えば、アニオン性、カチオン性及び双性イオン界面活性剤が挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、石鹸、脂肪酸塩、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ラウリル硫酸アンモニウム及び他のアルキル硫酸塩などのスルホン酸塩系又はカルボン酸塩系界面活性剤が挙げられるが、これらに限定されない。カチオン性界面活性剤としては、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)、他のアルキルトリメチルアンモニウム塩、塩化セチルピリジニウム、ポリエトキシル・タロウ・アミン(POEA)及び塩化ベンザルコニウムなどの第四級アンモニウム系界面活性剤が挙げられるが、これらに限定されない。双性イオン又は両性界面活性剤としては、例えば、ドデシルベタイン、ドデシルジメチルアミンオキシド、コカミドプロピルベタイン及びココアンホグリシン塩が挙げられる。ある種の実施形態では、医薬製剤は、非イオン性界面活性剤を含む。一実施形態では、非イオン性界面活性剤は、ポリソルベート20である。別の実施形態では、非イオン性界面活性剤は、ポリソルベート80である。
【0077】
ある種の実施形態では、医薬製剤は、本明細書に記載されるエレヌマブ組成物(例えば、約70mg/mL~約140mg/mLのエレヌマブ組成物)、約20mM~約40mMの酢酸塩、約6%~約9%(w/v)のスクロース、及び約0.008%~約0.012%(w/v)のポリソルベート80又はポリソルベート20のいずれか1つを含む。これらの製剤のpHは、約4.9~約5.5(例えば、約4.9、約5.0、約5.1、約5.2、約5.3、又は約5.4のpH)の範囲である。1つの特定の実施形態では、医薬製剤は、70mg/mLの本明細書に記載されるエレヌマブ組成物、約25mMの酢酸塩、約7.3%(w/v)のスクロース、及び約0.010%(w/v)のポリソルベート80を含み、医薬製剤は、約5.2±0.2のpHを有する。別の特定の実施形態では、医薬製剤は、140mg/mLの本明細書に記載されるエレヌマブ組成物、約34mMの酢酸塩、約6.5%(w/v)のスクロース、及び約0.010%(w/v)のポリソルベート80を含み、医薬製剤は、約5.2±0.2のpHを有する。
【0078】
医薬製剤は、非経口の注射(例えば、静脈内又は皮下注射)に好適であることが好ましい。非経口の注射に好適な代表的な医薬品形態は、滅菌水溶液又は分散液及び注射用滅菌溶液又は分散体の即時調製のための滅菌粉末を含む。好ましくは、医薬製剤は、無菌であり、且つシリンジ又は他の注射デバイスを介する送達を可能にするために十分に流動性を有する(すなわち、製剤は、シリンジ又は他の注射デバイスの通過を妨げるような過度に粘性のあるものではない)。滅菌は、滅菌濾過膜を通す濾過により達成することができる。組成物が凍結乾燥される場合、この濾過方法を用いた滅菌は、凍結乾燥及び再構成の前又は後のいずれに行われてもよい。非経口投与用医薬組成物は、凍結乾燥形態で又は溶液中に貯蔵することができる。非経口製剤は、滅菌アクセスポートを有する容器、例えば、皮下注射針で穿刺可能な栓を有する静脈内注射用溶液バッグ又はバイアルに入れられてもよい。非経口製剤は、シリンジ、自動注入装置、又はペン注射デバイス又はそのような注射デバイスとの使用のために適合されたカートリッジ中に貯蔵され得る。
【0079】
上記の医薬製剤は、バイアル、シリンジ、自動注入装置、又は他の容器若しくは送達デバイスに充填されてもよく、必要に応じて、医薬製品を調製するための使用のための指示書(例えば、頭痛、例えば、片頭痛の発生を治療するか、予防するか、又は低減するための医薬製剤を使用するための指示書を含む処方情報)とともにパッケージ化されてもよい。ある種の実施形態では、本明細書に記載される医薬製剤は、自己投与注射デバイスに組み込まれる。そのようなデバイスは、市販されており、自動注入装置、投与ペン、微量注入ポンプ、及びプレフィルドシリンジが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の医薬製剤が組み込まれ得る例示的なデバイスとしては、自動注入装置(例えば、SureClick(登録商標)、EverGentle(登録商標)、Avanti(登録商標)、DosePro(登録商標)、Molly(登録商標)、及びLeva(登録商標))、ペン注射デバイス(例えば、Madie(登録商標)ペン注射器、DCP(商標)ペン注射器、BD Vystra(商標)ディスポーザブルペン、BD(商標)再利用可能ペン)、並びにプレフィルドシリンジ(BD Sterifill(商標)、BD Hypak(商標)、Baxterからのプレフィルドシリンジ)が挙げられる。いくつかの実施形態では、医薬製剤は、プレフィルドシリンジを製造するために、シリンジ内に組み込まれ、且つ貯蔵される。他の実施形態では、医薬製剤は、自動注入装置内に組み込まれる。プレフィルドシリンジ又は自動注入装置の注射体積は、約2mL又はそれ未満、約1.5mL又はそれ未満、又は約1mL又はそれ未満であり得る。ある種の実施形態では、本明細書に記載される医薬製剤は、約1mLの注射体積でシリンジ又は自動注入装置内に組み込まれる。
【0080】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明は、約4.5~約5.5のpHで約70mg/mL~約140mg/mLの本明細書に記載されるエレヌマブ組成物、約20mM~約40mMの酢酸塩、約6%~約9%(w/v)のスクロース、及び約0.008%~約0.012%(w/v)のポリソルベート80又はポリソルベート20を含むプレフィルドシリンジを提供する。一実施形態では、プレフィルドシリンジは、約5.2±0.2のpHで70mg/mLの本明細書に記載されるエレヌマブ組成物、約25mMの酢酸塩、約7.3%(w/v)のスクロース、及び約0.010%(w/v)のポリソルベート80を含む。別の実施形態では、プレフィルドシリンジは、約5.2±0.2のpHで140mg/mLの本明細書に記載されるエレヌマブ組成物、約34mMの酢酸塩、約6.5%(w/v)のスクロース、及び約0.010%(w/v)のポリソルベート80を含む。これらの実施形態のいずれかにおいて、プレフィルドシリンジの注射体積は、約1mLであり得る。
【0081】
他の実施形態では、本発明は、約4.5~約5.5のpHで約70mg/mL~約140mg/mLの本明細書に記載されるエレヌマブ組成物、約20mM~約40mMの酢酸塩、約6%~約9%(w/v)のスクロース、及び約0.008%~約0.012%(w/v)のポリソルベート80又はポリソルベート20を含む自動注入装置を提供する。一実施形態では、自動注入装置は、約5.2±0.2のpHで70mg/mLの本明細書に記載されるエレヌマブ組成物、約25mMの酢酸塩、約7.3%(w/v)のスクロース、及び約0.010%(w/v)のポリソルベート80を含む。別の実施形態では、自動注入装置は、約5.2±0.2のpHで140mg/mLの本明細書に記載されるエレヌマブ組成物、約34mMの酢酸塩、約6.5%(w/v)のスクロース、及び約0.010%(w/v)のポリソルベート80を含む。これらの実施形態のいずれかにおいて、自動注入装置の注射体積は、約1mLであり得る。
【0082】
本明細書に記載されるエレヌマブ組成物及びそのような組成物を含む医薬製剤は、頭痛の発生を治療するか、予防するか、又は低減するために使用され得る。したがって、本発明は、必要とする患者において頭痛の発生を治療するか、予防するか、又は低減するための方法であって、患者に本明細書に記載されるエレヌマブ組成物又はエレヌマブ組成物を含む医薬製剤のいずれかを投与することを含む方法を含む。ある種の実施形態では、本発明は、必要とする患者において頭痛の発生を治療するか、予防するか、又は低減する際の使用のための本明細書に記載されるエレヌマブ組成物又はエレヌマブ組成物を含む医薬製剤を提供する。他の実施形態では、本発明は、必要とする患者において頭痛の発生を治療するか、予防するか、又は低減するための医薬の作製における本明細書に記載されるエレヌマブ組成物又はエレヌマブ組成物を含む医薬製剤の使用を含む。「頭痛の発生を予防するか又は低減する」は、組成物/製剤の投与の前の頭痛の頻度、持続時間、若しくは重症度と比較して又は組成物/製剤が投与されていない患者(すなわち、対照対象)における頭痛の頻度、持続時間、若しくは重症度と比較して、頭痛の頻度、持続時間、若しくは重症度における低減を指す。
【0083】
ある種の実施形態では、本発明の方法又は使用は、本明細書に記載されるエレヌマブ組成物又はエレヌマブ組成物を含む医薬製剤のいずれかを患者に投与することによって、必要とする患者における片頭痛の発生を治療するか、予防するか、又は低減する。「片頭痛」は、吐き気若しくは嘔吐又は光若しくは音に対する過敏と関連する頭痛及び/又は以下の痛みの特徴:片側性の痛み、ズキズキする痛み、中度~重度の痛みの強さ又は身体活動によって悪化する痛みの少なくとも2つを特徴とする頭痛である。いくつかの実施形態によれば、70mg又は140mgの本明細書に記載されるエレヌマブ組成物を含む医薬製剤は、患者における片頭痛の発生を治療するか、予防するか、又は低減するために1ヶ月に1回患者に投与される。そのような実施形態では、医薬製剤は、例えば、上記の注射デバイス(例えば、プレフィルドシリンジ又は自動注入装置)の1つを使用して、皮下注射によって送達され得る。
【0084】
いくつかの実施形態では、本発明の方法により治療される患者は、反復性片頭痛を有するか、患っているか又は診断されている。片頭痛歴(例えば、これまでに少なくとも5回の片頭痛の発作)を有する患者が1ヶ月に14日以下の片頭痛日を有する場合、反復性片頭痛と診断される。「片頭痛日」は、前兆の有無に関わらず、患者が30分を超えて続く「片頭痛」の発症、継続又は再発を経験する任意の暦日を含む。いくつかの実施形態では、反復性片頭痛を有するか、患っているか又は診断された患者は、平均して1ヶ月あたり少なくとも4日で15日未満の片頭痛日を有する。関連する実施形態では、反復性片頭痛を有するか、患っているか又は診断された患者は、平均して1ヶ月あたり15日未満の頭痛日を有する。本明細書で使用される場合、「頭痛日」は、患者が片頭痛又は30分を超えて持続するか、若しくは急性頭痛治療を必要とする任意の頭痛を経験するいずれかの暦日である。ある種の実施形態では、患者は、高頻度反復性片頭痛を有するか又は患っていると分類され得る。高頻度反復性片頭痛患者は、1ヶ月あたり8~14日の片頭痛日を有する患者である。他の実施形態では、患者は、低頻度反復性片頭痛を有するか又は患っていると分類され得る。低頻度反復性片頭痛患者は、1ヶ月あたり8日未満の片頭痛日を有する患者である。
【0085】
いくつかの実施形態では、本発明の方法により治療される患者は、慢性片頭痛を有するか、患っているか又は診断されている。慢性片頭痛は、片頭痛患者(すなわちこれまでに少なくとも5回の片頭痛の発作を有する患者)のある患者が1ヶ月に15日以上の頭痛を有し、且つ少なくとも8日の頭痛日が片頭痛日である場合に診断される。いくつかの実施形態では、慢性片頭痛を有するか、患っているか又は診断された患者は、平均して1ヶ月あたり15日以上の頭痛日を有する。
【0086】
ある種の実施形態では、本発明の方法により治療される片頭痛患者は、予防的な片頭痛療法を以前に受けていなかった。他の実施形態では、本発明の方法により治療される片頭痛患者は、1つ以上の予防的な片頭痛療法に失敗したか又はそれに対して不耐性である。1つのそのような実施形態では、患者は、以前の少なくとも1つの片頭痛予防薬による療法に対して応答できなかった。「応答できない」又は「治療失敗」は、薬剤の標準治療レジメン後の患者において片頭痛の頻度、持続時間、及び/又は重症度を低減する際の予防薬の有効性の欠如を指す。例えば、一実施形態では、片頭痛予防薬による以前の治療に失敗した患者は、その薬剤による治療の前の1ヶ月間の片頭痛日数と比較して、片頭痛予防薬の投与後に同じ又はより多い1ヶ月間の片頭痛日数を経験した患者である。片頭痛予防薬による以前の治療に応答できないことはまた、片頭痛予防薬に耐容性を示すことができないことも含み得る。例えば、いくつかの実施形態では、片頭痛予防薬による以前の治療に失敗した患者は、薬剤に関連した副作用に耐容性を示すことができない患者である。そのような実施形態では、薬剤に関連した副作用は、患者が有する別の医学的状態を悪化させる場合があるか、又はそれと適合しない場合がある。ある種の実施形態では、患者は、β遮断薬(例えば、プロプラノロール、チモロール、アテノロール、メトプロロール、及びナドロール)、抗てんかん薬(例えば、ジバルプロエクス、バルプロ酸ナトリウム、バルプロ酸、トピラマート、及びガバペンチン)、三環系抗うつ薬(例えば、アミトリプチリン、ノルトリプチリン、ドキセピン、及びフルオキセチン)、並びにオナボツリナムトキシンAから選択される1種以上の薬剤による治療に失敗したか又は耐容性を示さない。
【0087】
本明細書に記載されるエレヌマブ組成物及びそのような組成物を含む医薬製剤はまた、緊張型頭痛、群発頭痛、片麻痺性片頭痛、月経性片頭痛、及び網膜性片頭痛などの他の種類の頭痛障害の発生を治療するか、予防するか、又は低減するために使用され得る。CGRP/CGRP受容体シグナル伝達に関連した他の疾患又は状態はまた、本明細書に記載されるエレヌマブ組成物及びそのような組成物を含む医薬製剤により治療又は改善され得る。CGRP/CGRP受容体シグナル伝達に関連した疾患又は状態としては、慢性疼痛(例えば、侵害受容性疼痛、神経因性疼痛、炎症性疼痛、線維筋痛症、関節炎疼痛)、アロディニア、炎症(例えば、神経因性炎症、乾癬、変形性関節症)、II型糖尿病、過活動膀胱、及び喘息が挙げられるが、これらに限定されない。
【0088】
本発明の医薬製剤は、非経口的に患者に投与されることが好ましい。非経口投与としては、腹腔内、筋肉内、静脈内、動脈内、皮内、皮下、脳内、脳室内、及び髄腔内投与が挙げられる。ある種の実施形態では、医薬製剤は、患者に静脈内投与される。他の実施形態では、医薬製剤は、例えば、皮下注射によって、患者に皮下投与される。注射は、本明細書に記載されるデバイス(例えば、プレフィルドシリンジ及び自動注入装置)のうちの1つ以上を使用して、患者に送達され得る。
【0089】
実施された実験及び達成された結果を含む以下の実施例は、例示の目的のみのために提供されるものであり、添付の特許請求の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例0090】
実施例1.HIC-HPLCによるエレヌマブ電荷バリアントの同定及び特徴付け
エレヌマブは、IgG2サブクラスの完全ヒトモノクローナル抗体である。抗体は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞において組換えにより産生され、2つの重鎖及びラムダサブクラスの2つの軽鎖からなる。各重鎖は、4つの鎖内ジスルフィドを伴う456個のアミノ酸を含有する。各軽鎖は、2つの鎖内ジスルフィドを伴う216個のアミノ酸を含有する。エレヌマブは、合計で18個の鎖内及び鎖間ジスルフィド結合のための6個の鎖間ジスルフィドを含有する。エレヌマブの重鎖及び軽鎖のためのアミノ酸配列は、それぞれ図1A及び1Bにおいて示される。各重鎖は、配列番号1の306位のアスパラギン残基のコンセンサスグリコシル化部位でN結合グリカンを含有する。哺乳動物細胞によって産生される抗体について頻繁に観察されるとおり、重鎖における456位のC末端リジン残基は、細胞培養における産生の間に存在するカルボキシペプチダーゼによって大部分が除去される。加えて、重鎖及び軽鎖の両方におけるN末端グルタミン残基は頻繁に、産生の間にピログルタミン酸に変換される。これらのN末端及びC末端修飾を伴うエレヌマブの重鎖及び軽鎖に関するアミノ酸配列は、それぞれ図1C及び1Dにおいて示される。両方の重鎖から除去されたC末端リジン並びに完全な重鎖及び軽鎖のN末端ピログルタミン酸構造を伴う脱グリコシル化エレヌマブの計算質量は、145,872ダルトンである。
【0091】
エレヌマブは、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)受容体の細胞外ドメインに特異的に結合し、CGRPの受容体への結合及び受容体の活性化を妨げる。CGRPは、侵害受容性シグナル伝達を調節する神経ペプチドであり、且つ片頭痛の病態生理と関連してきた血管拡張薬である。エレヌマブは、強力且つ特異的にCGRPのCGRP受容体に対する結合と競合し、細胞内環状アデノシン一リン酸(cAMP)シグナル伝達カスケードのCGRP誘導性活性化を阻害する。エレヌマブは、アドレノメデュリン受容体、カルシトニン受容体、又はアミリン受容体でいずれの著しい薬理学的活性も呈さず、CGRP受容体でのアゴニスト活性を欠く。
【0092】
商業スケールの製造プロセスによって産生されるエレヌマブ原体の生化学的、生物物理学的、及び生物学的特徴付けを実施して、原体の構造及び機能特性を解明した。この実施例は、低減したCGRP受容体阻害機能を呈したエレヌマブの電荷バリアントの同定及び特徴付けを記載する。この実施例におけるエレヌマブの電荷不均一性は、疎水性相互作用クロマトグラフィー高速液体クロマトグラフィー(HIC-HPLC)によって評価された。
【0093】
HIC-HPLCは、主に分子の表面疎水性に基づいてタンパク質を分離し、構造不均一性及びカラムマトリックスとの分子相互作用に影響する他の修飾によって影響される場合もある。HIC-HPLCにおけるピーク溶出は、比較的低い表面疎水性を有する分子より遅く溶出する比較的高い表面疎水性を有する分子との正味の表面疎水性に応じたものである。
【0094】
エレヌマブ原体の試料は、疎水性相互作用クロマトグラフィーカラム(ProPac HIC-10、5μm粒径、4.6mm×250mm、ThermoFisher Scientific)上にロードされた。移動相Aは、pH5.5の10mMの酢酸ナトリウム、1Mの硫酸アンモニウムを含有し、移動相Bは、pH5.5の10mMの酢酸ナトリウムからなった。タンパク質は、0分から52分まで25%~100%の移動相Bで生成される減少性の塩勾配、及び55.5分から75分までに25%の移動相Bに戻すことによって分離された。溶出液は、280nmのUV吸光度によってモニターされた。カラムは35℃で操作され、移動相は、0.5mL/分の流速でカラムにアプライされた。
【0095】
HIC-HPLCプロファイルは、プレピーク、メインピーク、及びポストピークを含む3つの特徴的な領域を含有した(図2A及び2B)。プレピーク、メインピーク、及びポストピーク領域にわたる7つの画分が単離された。回収された画分は、HIC-HPLCによって再分析され、画分が特徴付けのための十分な純度であることが実証された。単離された画分のHIC-HPLCプロファイル及び純度は、それぞれ図3及び表1において示される。
【0096】
【表1】
【0097】
図3及び表1におけるプレピーク、メインピーク、及びポストピーク画分は、サイズ排除超高速液体クロマトグラフィー(SE-UHPLC)、LC-MS/MSによる還元トリプシンペプチドマッピング、及び細胞系バイオアッセイを含む様々な分析技術によって特徴付けされた。
【0098】
分画されていない原体及び7つのHIC-HPLC画分は、BEH200分析UHPLCカラム(1.7μm粒径、4.6mm×150mm、Waters Corporation)及び100mMのリン酸ナトリウム、250mMの塩化ナトリウム、pH6.8を含む移動相を使用して、SE-UHPLCによって分析された。SE-UHPLC分析により、全てのプレピーク及びポストピーク画分は、高分子量(HMW)種において濃縮されたが、最も早いプレピーク画分(F1)及び最も遅いポストピーク画分(F7)のみが、分画されていない原体と比較して低分子量(LMW)種において濃縮されたことが明らかになった(表2)。
【0099】
【表2】
【0100】
濃縮されたプレピーク、メインピーク、及びポストピーク画分、並びに分画されていない原体に存在するエレヌマブの生化学的修飾は、エレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析(ESI-MS/MS)による検出を伴う還元トリプシンペプチドマッピングによって査定された。原体及び7つのHIC-HPLC画分は、7.5Mのグアニジン塩酸塩溶液中で変性され、0.5Mの還元剤ジチオスレイトール(DTT)で処理され、全てのシステイン残基が、0.5Mのヨード酢酸ナトリウム(IAA)の添加によってアルキル化された。還元及びアルキル化試料は、ゲル濾過によって脱塩された後、トリプシンにより37℃で35分間消化された。消化された試料は、C18カラム(1.8μm粒径、2.1mm×150mm)及び0.3mL/分の流速のアセトニトリル勾配を有する0.1%のTFA移動相を使用して、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)によって分離された。ペプチドの検出は、215nmでの紫外線(UV)光吸光度によるものであり、オンラインESI-MS/MSによるピークの同定を伴った。次に、各ペプチドイオンの断片化パターンが、その予測されるMS/MSスペクトルに対して調べられた。
【0101】
原体と濃縮された画分の重ね合わせは、図4において示され、重鎖CDR3:TH12H13(配列番号1のアミノ酸残基99~113)及びTH13(配列番号1のアミノ酸残基101~113)内の2つのペプチドに関する溶出領域を示す。プレピーク画分F2、F3及びF4並びにポストピーク画分F6は全て、原体に対してCDR3ペプチド(TH13)において多様性を示した。TH13ペプチドにおける相違は、画分F1及びF7については観察されなかった。プレピーク画分F2、F3、及びF4並びにポストピーク画分F6は、重鎖CDR3ペプチドTH13内の脱アミド及び異性化バリアント(イソアスパラギン酸(IsoAsp)及びスクシンイミド中間体)の両方において濃縮された。102位のアスパラギン残基の脱アミド及び105位のアスパラギン酸残基の異性化(両方ともに配列番号1に関する位置)が観察された。異なる保持時間で溶出するIsoAsp105として同定された2つの別々のペプチドが観察された。これらのペプチドは、アスパラギン酸の異性化の間に生成された構造的エナンチオマーである可能性がある。天然のペプチドの後に溶出する105位のスクシンイミド中間体に相当するさらなるTH13ペプチドバリアントもまた観察された。修飾レベルは、修飾ペプチドの抽出されたイオンクロマトグラム(EIC)のピーク面積を未修飾ペプチドから生成されたものと比較することによって近似された。質量分析は、プレピーク及びポストピーク領域内の増加した脱アミド及びIsoAspバリアントの存在を確証した(表3)。
【0102】
【表3】
【0103】
プレピーク画分F1は、rCE-SDSによるこの画分の分析が以前に、LMW及び中分子量(MMW)種の著しいレベルを示したため、還元され、ESI-TOF質量分析によって分析された。合計6つの切断断片が、プレピーク画分F1において同定され、そのうちの4つの切断部位(Leu315/Thr316;Ser197/Val198;Leu195/Ser196;及びLeu192/Tyr193)は、重鎖CH1及びCH2ドメイン内にあった。2つの切断部位(Gly108/Tyr109及びAsp105/Ser106)もまた、重鎖のCDR3において同定された。全ての種に関して、C末端断片のみが検出された。Leu195/Ser196切断部位のレベルの上昇は、原体に対してプレピーク画分F1内で観察された(表3)。
【0104】
エレヌマブ原体と比較される濃縮されたHIC-HPLC画分の生物活性は、細胞系バイオアッセイによって評価された。細胞系バイオアッセイは、エレヌマブのヒトCGRP受容体のリガンド誘導性活性化を阻害する能力を測定することによってエレヌマブの効力を査定する。CGRP受容体はGタンパク質共役型受容体であり、このファミリーの受容体は、そのシグナル伝達機構の一部として細胞内でcAMPを生成することが示されている。ヒトCGRP受容体を発現する安定なチャイニーズハムスター卵巣K1(CHO-K1)細胞株(CHO-K1 huCGRP)を、CGRPリガンド並びに様々な濃度のエレヌマブ標準品及び試験試料とともにインキュベートした。エレヌマブ標準品及び試験試料の存在下又は非存在下でCGRPとのインキュベーション後に細胞により生成されたcAMPの量は、競合的ホモジニアス時間分解蛍光エネルギー転移(TR-FRET)アッセイを使用して測定され、検出シグナルは、標識されたアッセイ成分(Alexa Fluor(登録商標)647色素で標識されたcAMP及び抗cAMPモノクローナル抗体-クリプテート)が互いに結合するときに生成される。cAMPが、CGRPによるCGRP受容体の活性化によって細胞内で生成されるとき、細胞によって生成された天然のcAMPは、クリプテート標識された抗cAMPモノクローナル抗体への結合についてAlexa Fluor(登録商標)647色素標識cAMPと競合し、検出シグナルが低減される。したがって、TR-FRET cAMPアッセイの競合的性質により、生成されるシグナルは、細胞中のcAMPの濃度に反比例する。TR-FRETシグナルは、プレートリーダーによって測定された。試験試料の活性は、試験試料により生成されるシグナルとエレヌマブ標準品により生成されるシグナルを比較することによって決定され、相対的な効力として報告される。
【0105】
下の表4において示されるとおり、全てのプレピーク画分は、効力の著しい低減を示した。これらの低減は、上記のとおりのプレピーク画分において優勢なバリアントである、高いレベルの断片化(F1画分に関する)又は重鎖CDR3領域における脱アミド及び異性化(画分F2~F4に関する)のいずれかに起因する。ポストピーク画分もまた、上記のとおりのポストピーク画分において優勢なバリアントである増加したHMW種及び低いレベルの重鎖CDR3アスパラギン酸(Asp105)異性化の結果の可能性がある効力の低減を示した。
【0106】
【表4】
【0107】
この実施例において記載された分析の結果は、エレヌマブ原体のHIC-HPLCプロファイルが、プレピーク、メインピーク及びポストピークを含む3種の異なる領域を含有することを実証した。HIC-HPLCによって検出される主要なエレヌマブバリアントとしては、プレピーク及びポストピーク領域の両方における重鎖CDR3アスパラギン酸異性化(例えば、配列番号1のAsp105の異性化)及び脱アミド(例えば、配列番号1のAsn102の脱アミド)バリアントが挙げられる。断片化された種はプレピーク群において観察され、HMW種のレベルの上昇は、ポストピーク群において観察された。全てのエレヌマブHIC-HPLCプレピーク及びポストピーク画分の効力は、細胞系バイオアッセイによって評価されるとおり、原体より低かった。プレピークは、重鎖CDR3領域におけるアスパラギン酸異性化及び脱アミド並びに高いレベルの断片化バリアントの結果として効力の著しい低減を示した。ポストピークもまた、高いレベルのHMW種及び重鎖CDR3異性化バリアントの結果として効力の低減を示した。
【0108】
エレヌマブの重鎖CDR3アスパラギン酸異性化及びアスパラギン脱アミドバリアントの存在が組成物の阻害性の効力に影響したため、商業スケールで製造されたエレヌマブ原体(140mg/mL)のいくつかのロットは、HIC-HPLCクロマトグラムにおけるプレピークのピーク面積のパーセンテージによって測定される異性化及び脱アミドバリアントの存在及び量を査定するために、HIC-HPLCによって分析された。原体のロットの効力はまた、上記の細胞系効力アッセイによっても評価され、第II相/第III相臨床試験において採用されたエレヌマブ原体の標本であるロット番号78137の効力と比較された。データの概要は、下の表5において提供される。
【0109】
【表5】
【0110】
表5におけるデータによって示されるとおり、商業スケールで製造されたエレヌマブ原体は、HIC-HPLCプレピークによって測定されるとおり、1.7%~2.1%の範囲の一貫したレベルの異性化及び脱アミドバリアントを含有した。この範囲の脱アミド/異性化バリアントのレベルを含有した原体は、臨床試験において採用されたエレヌマブ原体の効力に匹敵する効力を呈した。
【0111】
実施例2.様々な保管条件下でのエレヌマブ異性化及び脱アミドの評価
Asn102の脱アミド及びAsp105のイソアスパラギン酸への変換は、原体の製造中のエレヌマブ重鎖のCDR3において観察された(実施例1)。これらの修飾を有するエレヌマブバリアントは、エレヌマブの未修飾形態と比較して効力の低減を呈した(実施例1)。エレヌマブ原体の効力に対するAsn102脱アミド及びAsp105異性化バリアントの影響をさらに評価するために、エレヌマブ原体は、脱アミド及び異性化バリアントの形成を増加させるためにストレス条件にかけられ、ストレスを与えられた原体の効力が査定された。特に、エレヌマブ原体は、脱アミド及び異性化バリアントの生成を容易にするために以下の3つのストレス条件にかけられた:
・熱暴露(50℃で14日間)
・生理的pH及び温度(pH7.4 37℃で14日間)
・高pH暴露(pH8.0 25℃で14日間)
【0112】
経時的に各ストレス条件によって誘導された脱アミド及び異性化バリアントの形成は、実施例1において記載されるHIC-HPLC及び還元トリプシンペプチドマッピング法によってモニターされた。各ストレス条件に関して、試料は、試験及び凍結の持続時間にわたる様々な時点で取り出された。最終の時点の後、全ての試料は、分析による可変性を最小化するために並行して分析された。
【0113】
熱暴露
50℃でストレスを与えられたエレヌマブ原体のHIC-HPLC分析の結果は、プレピークにおいて著しい増加を示した(図5及び表6)。プレピークにおけるこの増加は、下に詳細が説明される還元トリプシンペプチドマッピング分析によって明らかにされるとおり、熱ストレスに対する暴露の14日後のアスパラギン酸異性化の増加に主に起因する。ポストピークにおける増加もまた、実施例1において表2に示されるとおり、比較的遅く溶出するポストピークの一部としてこれらが溶出するため、おそらくHMW種のレベルの増大に起因して観察された。
【0114】
【表6】
【0115】
ペプチドマップのクロマトグラムは、新しいピークの存在又は暴露時間にわたって存在するピークのピーク面積における著しい変化について評価された。相違が観察された領域を強調している0日目と14日目の試料の拡大スケールの重ね合わせは、図6において示される。重鎖CDR3(ペプチドTH12H13及びTH13)におけるAsp105でのアスパラギン酸異性化は、ペプチドマップの重ね合わせにおいて観察された主な分解物であった。Fc領域におけるLeu315とThr316の間のペプチドTH26(配列番号1のアミノ酸残基311~326に相当する)の加水分解断片もまた、14日目の試料のクロマトグラムにおいて観察された。
【0116】
熱ストレス条件に暴露されたエレヌマブ原体の生物活性は、実施例1において記載される細胞系バイオアッセイによって評価された。表7において示されるとおり、熱ストレスは、14日間50℃に暴露した後、エレヌマブ原体の相対的な効力に負の影響を及ぼした。熱ストレス後の効力の低減は、Asp105異性化バリアント及び高分子量種の増加に起因し、この両方が効力に影響することが示された(実施例1及び実施例5を参照のこと)。
【0117】
【表7】
【0118】
生理的pH及び温度
エレヌマブ原体は、pH7.4のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液によるおよそ10mg/mLへの希釈によって生理的pHに暴露され、37℃(生理的温度)で14日間インキュベートされた。製剤緩衝液(15mMの酢酸ナトリウム、8.2%(w/v)のスクロース、0.010%(w/v)のポリソルベート80)、pH5.2中で希釈された原体であったpH対照は、37℃で14日間インキュベートされた。したがって、「生理的pHストレス試料」は、pH及び熱ストレスの両方に暴露されたが、「pH対照試料」は、熱ストレスのみに暴露された。
【0119】
14日目の生理的pHストレス試料と0日目の試料に関するHIC-HPLCプロファイルの比較は、プレピーク及びポストピークの両方における増加を示した(図7及び表8)。生理的pHストレス試料及びpH対照試料に由来する14日目のトレースは、およそ30分で溶出する同様のレベルのプレピークを示したが、これはAsp105異性化バリアントに相当し、このイソアスパラギン酸バリアントが、主にpHストレスではなく熱ストレスによって促進されることを示唆している。Asp102脱アミドバリアントに相当するおよそ34分で溶出するプレピークは、pH対照ではなく14日目の生理的pHストレス試料において増加したが、これはAsp102の脱アミドが、主に熱ストレスではなくpHストレスによって促進されることを示している。ポストピークの増加もまた、0日目の試料と14日目のpH対照試料の両方と比較して、14日目の生理的pHストレス試料において観察されたが、これは、その変化が主にpHストレスによって促進されることを示している。
【0120】
【表8】
【0121】
生理的pH及び温度でストレスを与えられたエレヌマブ原体の生化学的修飾は、トリプシンによる消化後の質量分析(MS)による還元ペプチドマッピングによってモニターされた。MSデータの分析は、重鎖CDR3(Asn102)及びFc領域(Asn393及びAsn398)の両方における脱アミドの増加並びに重鎖CDR3 Asp105異性化の量の増加を示した(データは示さず)。重鎖CDR3 Asp105異性化及びAsn102脱アミドのレベルの増加は、図7及び表8において示されるHIC-HPLCによるプレピーク及びポストピークにおいて観察された増加と一致している。
【0122】
生理的pH及び温度でストレスを与えられたエレヌマブ原体の生物活性は、細胞系バイオアッセイによって評価された。表9において示されるとおり、生理的pH及び温度ストレスは、暴露の14日後のエレヌマブ原体の効力における低減をもたらした。Asn102脱アミド及びAsp105異性化バリアントのレベルの増加がこれらのストレス条件下で観察されたが、わずかな効力の低減のみが観察された。この結果は、細胞系バイオアッセイによって測定されるとおり、あまりに低すぎて効力に著しく影響しない、原体の約6%を占めたこれらの脱アミド及び異性化バリアントの全体的なレベルに起因している可能性がある。
【0123】
【表9】
【0124】
高pH暴露
エレヌマブ原体は、pH8.0のトリス塩基溶液によるおよそ10mg/mLへの希釈によって高pHに暴露され、25℃で14日間インキュベートされた。製剤緩衝液(15mMの酢酸ナトリウム、8.2%(w/v)のスクロース、0.010%(w/v)のポリソルベート80)、pH5.2中で希釈された原体であったpH対照は、25℃で14日間インキュベートされた。
【0125】
HIC-HPLC分析の結果は、0日目の試料及びpH対照試料と比較して、Asn102脱アミドに起因するプレピークの増加及び14日目の高pHストレス試料におけるポストピークの増加を示した(図8及び表10)。
【0126】
【表10】
【0127】
高pHでストレスを与えられたエレヌマブ原体の生化学的修飾は、トリプシンによる消化後のMSによる還元ペプチドマッピングによってモニターされた。生理的pHストレス条件と同様に、Asn102での重鎖CDR3並びにAsn393及びAsn398でのFc領域内の脱アミドの増加が、0日目及びpH対照試料に対して、14日目のストレス試料について観察された。高pHでストレスを与えられたエレヌマブ原体の生物活性は、細胞系バイオアッセイによって評価された。表11において示されるとおり、高pHストレスは、暴露の14日後のエレヌマブ原体の効力に中程度の影響を及ぼした。生理的pH及び温度ストレス条件で得られた結果と同様に、ストレスを与えられた原体において存在するAsn102脱アミドバリアントの全体的なレベルは、細胞系バイオアッセイによって測定されるとおり、あまりに低すぎて効力に著しい影響を及ぼさなかった。
【0128】
【表11】
【0129】
エレヌマブ原体の効力を著しく低減するのに必要なAsn102脱アミド及びAsp105異性化バリアントのレベルをより良好に確認するために、効力とHIC-HPLCプレピーク面積のパーセンテージの間の関連性をモデル化する統計分析が、異なる温度で保管された各種エレヌマブロットから利用可能なデータで実施された。エレヌマブロットは、5℃(13ロット)、25℃(4ロット)、30℃(4ロット)、又は40℃(5ロット)で保管された。5℃の保管条件からのデータに関して、ただ1つの時点の6ロット、及びただ2つの時点の9ロットがあった。他の全ての保管条件は、少なくとも3つの異なる時点からのデータを有した。
【0130】
細胞系バイオアッセイによって測定されるとおりの%相対的な効力は、4つの異なる保管条件に関するHIC-HPLCクロマトグラムにおけるプレピークについての%ピーク面積の関数としてプロットされ、回帰分析が実施された(図9)。フィットした回帰線の傾きの推定値は、試験に関する調整済みp値とともに各温度に関して決定されて、傾きが0とは異なるかどうかが決定された(表12)。40℃の保管条件からのデータに関する回帰線の傾きは、0.05の有意レベルでゼロから統計的に有意であった。40℃の保管条件からのデータの回帰分析に基づいて、HIC-HPLCプレピーク面積における1%の増加は、相対的な効力における1.14%の減少をもたらした。
【0131】
【表12】
【0132】
臨床試験において採用されたエレヌマブ原体の相対的な効力は、細胞系バイオアッセイによって測定されるとおり、70%を超えた。臨床試験のために許容できたレベル(70%)未満にエレヌマブ原体の効力を低減することになるAsn102脱アミド及びAsp105異性化バリアント(HIC-HPLCプレピークによって表される)のレベルを推定するために、図9に示される40℃の保管条件に関するフィットした回帰線が外挿されて、70%の相対的な効力のためのHIC-HPLCプレピークの%面積を示した。図10において示されるとおり、フィットした回帰線に基づく70%の相対的な効力のための%HIC-HPLCプレピーク面積の予測値は、約28.85%である。
【0133】
この実施例において記載される実験の結果は、エレヌマブ原体におけるAsn102脱アミドバリアントのレベル及び/又はAsp105異性化バリアントのレベルにおける増加が、エレヌマブのCGRP受容体のCGRP誘導性活性化を阻害する能力の減少をもたらすことを実証している。脱アミド及び異性化バリアントのレベルは、モニターされるべきであり、且つ臨床試験において採用されたエレヌマブ原体と同様のレベルに原体の効力を維持するために原体の約30%未満に制御されるべきである。いくつかの実施形態では、原体におけるAsn102脱アミド及び/又はAsp105異性化バリアントの比較的低いレベル(例えば、約15%未満)が、原体における約17%のこれらのバリアントがエレヌマブ原体の効力の著しい低減をもたらしたため所望される(表6及び7を参照のこと)。
【0134】
実施例3.CEX-HPLCによるエレヌマブ電荷バリアントの同定及び特徴付け
この実施例は、低減したCGRP受容体阻害機能を呈したエレヌマブのさらなる電荷バリアントの同定及び特徴付けを記載する。この実施例におけるエレヌマブの電荷不均一性は、カチオン交換高速液体クロマトグラフィー(CEX-HPLC)によって評価された。
【0135】
CEX-HPLCは、主に表面電荷の不均一性に基づいてタンパク質を分離するが;構造不均一性及びイオン交換レジンとの分子相互作用に影響する他の修飾によって影響される場合もある。この方法におけるピークの溶出は、早く溶出する負に荷電した種及び遅く溶出する正に荷電した種による実効表面電荷に応じたものである。
【0136】
エレヌマブ原体の試料は、分析的CEX-HPLCカラム(BioPro SP-F、5μm粒径、4.6mm×100mm、YMC America,Inc.)上にロードされた。移動相Aは、pH6.6の20mMのリン酸ナトリウムを含有し、移動相Bは、pH6.6の20mMのリン酸ナトリウム、500mMの塩化ナトリウムからなった。タンパク質は、0分から4分まで5%~12%の移動相Bで生成される線形の塩勾配、18分で23%の移動相B、18.5分から20.5分までに100%の移動相Bを使用し、且つ21分から25分までに5%の移動相Bに戻すことによって分離された。溶出液は、280nmのUV吸光度によってモニターされた。カラムは28℃で操作され、移動相は、0.6mL/分の流速でカラムにアプライされた。
【0137】
CEX-HPLCプロファイルは、酸性ピーク、メインピーク、及び塩基性ピークを含む3つの特徴的な領域を含有した(図11)。酸性ピーク、メインピーク、及び塩基性ピーク領域にわたる9つの画分が単離された。回収された画分は、CEX-HPLCによって再分析され、画分が特徴付けのための十分な純度であることが実証された。単離された画分のCEX-HPLCプロファイル及び純度は、それぞれ図12及び表13において示される。
【0138】
【表13】
【0139】
エレヌマブ原体と比較される濃縮されたCEX-HPLC画分の各々の生物活性は、実施例1に記載される細胞系バイオアッセイによって評価された。表14において示されるとおり、酸性ピーク画分F1及びF2の両方が、原体と比較して効力の低減を示したが、残りの酸性、メイン、及び塩基性ピーク画分は、有意差を示さなかった。
【0140】
【表14】
【0141】
酸性画分中のどのバリアントが効力に対する影響を有したかをより完全に理解するために、濃縮されたCEX-HPLC画分が、非還元ドデシル硫酸ナトリウムキャピラリー電気泳動(nrCE-SDS)、還元ドデシル硫酸ナトリウムキャピラリー電気泳動(rCE-SDS)、及び非還元逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)を含む様々な分析技術によって特徴付けされた。
【0142】
分画されていない原体及び9つのCEX-HPLC画分が、nrCE-SDSによって分析された。試料は、25℃のSDSゲル緩衝液で充填されたベアフューズドシリカキャピラリーへの動電学的注入の前に、pH6.5のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)及びN-エチルマレイミドの存在下で加熱することによって変性された。吸光度は、220nmでモニターされた。下の表15において示されるとおり、酸性画分F1は、原体と比較して、プレピーク及びポストピーク種の両方において濃縮された。プレピーク種は、インタクトなエレヌマブ(メインピーク)より低い分子量の種を含み、ペプチド加水分解又は部分的な分子会合のいずれかからもたらされるが、ポストピーク種は、メインピークと比較してサイズが大きい。全体として、プレピーク種の相対的な量は、残りの酸性、メイン及び塩基性ピーク画分(すなわち、F2からF9)並びに原体の間で一貫していたが、プレピーク群内の分布においてわずかな相違が観察された。
【0143】
【表15】
【0144】
エレヌマブ原体及び9つのCEX-HPLC画分もまた、rCE-SDSによって分析された。rCE-SDSに関する方法は、試料が、キャピラリーへの注入の前にSDS及びβ-メルカプトエタノールの存在下で加熱することによって還元され、変性されることを除いて、nrCE-SDSについてのものと同様であった。rCE-SDS分析の結果は、酸性ピーク画分F1を除く全ての画分が分画されていない原体対照と同様であることを示した。酸性ピーク画分F1は、ペプチド加水分解断片に相当する可能性が非常に高いLMW及びMMW種において有意に濃縮された(データは示さず)。酸性ピーク画分F1、及びより少ない量の画分F2は、非コンセンサスグリコシル化バリアントに相当する重鎖の後に濃縮された。
【0145】
次に、原体及びCEX-HPLC画分は、Waters BEH300 C4カラム(1.7μm粒径、2.1mm×50mm)を使用するRP-HPLCによって分析され、75℃で0.1%のTFA含有移動相及び1-プロパノールの勾配を使用して溶出された。215nmでの吸光度がモニターされた。CEX-HPLCプロファイル全体にわたって、酸性画分において濃縮されたIgG2-B及びIgG2-A/Bアイソフォームによるジスルフィドアイソフォームの濃縮の観測傾向があったが、IgG2-Aジスルフィドアイソフォームは、メイン及び塩基性ピーク画分において濃縮される(図13及び表16)。実施例4においてより詳細に記載されるとおり、IgG2-Bジスルフィドアイソフォームは、エレヌマブ原体又はIgG2-A及びIgG2-A/Bジスルフィドアイソフォームより著しく効力が低かった。酸性ピーク画分F1のRP-HPLCプロファイルは、原体のクロマトグラムと一致しなかったが、これは、上記のとおり、それぞれrCE-SDS及びnrCE-SDSによって観察される、著しいレベルの還元できる共有結合性の断片化の結果である可能性が非常に高かった。
【0146】
【表16】
【0147】
この実施例において記載される分析の結果は、CEX-HPLCクロマトグラムにおける酸性ピークに相当する断片化バリアント及びジスルフィドアイソフォームバリアントなどのエレヌマブのある種の酸性バリアントが、エレヌマブ原体より効力が低いことを示す。特に、酸性画分F1は、rCE-SDS及びnrCE-SDSによって検出される高レベルの断片化の結果として効力の著しい低減を示した。酸性画分F2もまた、非分画原体と比較して、この画分において濃縮されるIgG2-Bジスルフィドアイソフォームのレベルの上昇に起因する効力の低減を示した。全体として、CEX-HPLCによって検出される主要なエレヌマブバリアントは、酸性ピークにおいて濃縮されるIgG2-B及びIgG2-A/Bアイソフォームを伴うジスルフィドアイソフォームバリアントを含む。脱アミド、断片化(LMW及びMMW)、HMW種及び非コンセンサスグリコシル化バリアントもまた、酸性ピーク画分において検出された。
【0148】
商業スケールで製造されたエレヌマブ原体(140mg/mL)のいくつかのロットを、CEX-HPLCによって分析して、CEX-HPLCクロマトグラムにおける酸性ピークのピーク面積パーセンテージによって測定されるとおり、酸性バリアント(例えば、IgG2-Bジスルフィドアイソフォーム)の存在及び量を査定した。原体のロットの効力はまた、細胞系効力アッセイによっても評価され、第II相/第III相臨床試験において採用されたエレヌマブ原体の標本であるロット番号78137の効力と比較された。データの概要は、下の表17において提供される。
【0149】
【表17】
【0150】
表17におけるデータによって示されるとおり、商業スケールで製造されたエレヌマブ原体は、HIC-HPLC酸性ピークによって測定されるとおり、28.7%~31.3%の範囲の一貫したレベルの酸性バリアントを含有した。この範囲の酸性バリアントのレベルを含有した原体は、臨床試験において採用されたエレヌマブ原体の効力に匹敵する効力を呈した。
【0151】
実施例4.エレヌマブのジスルフィドアイソフォームバリアント
エレヌマブは、IgG2サブクラスの抗体であり、したがって、IgG2分子について記載されてきたジスルフィドアイソフォームバリアントを示す場合がある(Dillon
et al.,J Chromatogr A.,Vol.1120(1-2):112-120,2006;Wypych et al.,Journal of Biological Chemistry,Vol.283(23):16194-16205,2008;Dillon et al.,Journal of Biological Chemistry,Vol.283(23):16206-16215,2008)。エレヌマブにおいて検出されるジスルフィド結合の結合性は、同定のためのエレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析(ESI-MS/MS)と組み合わせた非還元及び還元Lys-Cペプチドマップを使用して解明された。この手法を通して、IgG2-A/B及びIgG2-B構造に相当するジスルフィド結合だけでなく、古典的なIgG2-A構造の予測されるジスルフィド結合が解明された。
【0152】
ジスルフィド連結ペプチドは、図14に示されるとおりの非還元及び還元条件下でエンドプロテアーゼLys-Cを使用するペプチドマッピングによって原体において同定された。逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)分離の放出口は、吸光度検出に加えて直交性の質量分析のためのエレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析(ESI-MS/MS)に結合された。非還元消化の一部は、還元剤のトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(TCEP)で処理され、同じRP-HPLC条件を使用して分析された。
【0153】
非還元Lys-Cマップ(図14、上部のトレース)は、ピーク「A」~「G」及び還元条件下で消失する「a」~「i」で標識される。還元後のこれらのペプチドの消失は、それらが未変性タンパク質中のジスルフィド結合に関与することを示す。非還元Lys-C消化においてジスルフィド結合を含有するペプチド及び還元Lys-C消化における対応する還元ペプチドは、吸光度クロマトグラム中のそれらの有無によって決定され、インタクトなペプチド質量精度及び特徴的なMS/MS産物イオンの存在によって確認された。ジスルフィド連結ペプチドを検証するために使用されるペプチドイオンの全てについての理論質量及び観測質量は、非還元及び還元ペプチドマップに関して、それぞれ表18及び表19において示される。同定された非還元及び還元ペプチドは、図15Aにおいて模式的に示される、予想されるIgG2-Aジスルフィドアイソフォーム構造を説明する。
【0154】
【表18】
【0155】
【表19】
【0156】
Lys-Cペプチドマッピングにより、ヒンジペプチドと分子の他の領域の間のジスルフィド対形成の不均一性に相当する軽微なジスルフィド連結ペプチドピークが明らかになった。図14において標識される主要なジスルフィド連結ペプチドピークに加えて、還元マップには存在しない非還元マップにおける軽微な溶出の遅いピーク(「a」~「i」)が存在し、それらが未変性タンパク質においてジスルフィド結合に関与することを示している。これらの遅く溶出するペプチドは、IgG2の既知の構造アイソフォームに関する鎖間ジスルフィド結合ペプチドとして質量分析によって同定された(Wypych et
al.,Journal of Biological Chemistry,Vol.283(23):16194-16205,2008;Dillon et al.,Journal of Biological Chemistry,Vol.283(23):16206-16215,2008;及びZhang et al.,Anal
Chem.,Vol.82(3):1090-1099,2010)。ペプチド「a」、「b」、「d」、及び「e」は、構造アイソフォームIgG2-Bに相当するが、ペプチド「c」、「f」、及び「i」は、構造アイソフォームIgG2-A/Bに相当する。IgG2-A/B及びIgG2-Bジスルフィドアイソフォーム構造の略図は、それぞれ図15B及び15Cにおいて示される。IgG2-A/B及びIgG2-Bジスルフィド連結ペプチドを検証するために使用されるペプチドイオンの全てについての理論質量及び観測質量は、表18において示される。分析は、エレヌマブのジスルフィド結合が、IgG2抗体について以前に観察されたものと一致することを示唆する(Wypych et
al.,2008;Dillon et al.,2008;及びZhang et al.,2010)。
【0157】
上に詳述されるとおり、ペプチドマッピングにより、優勢なIgG2-A構造に関するジスルフィド結合ペプチド、並びにさらなるIgG2-A/B及びIgG2-Bジスルフィド構造アイソフォームと関連した結合性を有するペプチドの存在が明らかになった。図15に示されるとおり、IgG2-Bアイソフォームにおいては両方のFabアームがヒンジ領域に連結されるが、IgG2-Aアイソフォームにおいては、どちらのFabアームもヒンジに連結しない。IgG2-A/Bアイソフォームは、これらの2つの形態の間の複合型であり、1つのFabアームのみがヒンジにジスルフィド連結する。非還元逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)によるIgG2ジスルフィドアイソフォームの分離は、以前に報告されている(Wypych et al.,2008及びDillon et al.,2008)。これらの研究において、ジスルフィドアイソフォームA、A/B及びBに相当するペプチドは、RP-HPLCピーク画分において同定された(Wypych et al.,2008及びDillon et al.,2008)。非還元RP-HPLCによって分析されたエレヌマブ原体に関する代表的なプロファイルは、図16Aにおいて示され、Wypych et al.,2008によって報告された溶出順序と一致して標識されるジスルフィドアイソフォームピークを有する。遅く溶出するピークは、IgG2-Aアイソフォームとして同定され、相対的なパーセントの報告のためにIgG2-Aピークとともにグループ化される。エレヌマブ原体におけるジスルフィドアイソフォームの相対的なレベルは、およそ59.5%のIgG2-A、34.7%のIgG2-A/B、及び4.4%のIgG2-Bであり、およそ1.5%の早く溶出するプレピーク種を伴う。
【0158】
非還元RP-HPLCは、ジスルフィドアイソフォームバリアントの相対的な量の決定のための有効な方法であるが、移動相及び分離条件は、エレヌマブの阻害性の効力を決定するために使用される細胞系バイオアッセイと両立しない。したがって、ジスルフィドアイソフォームが濃縮された画分は、実施例3に記載されるとおりのセミ分取CEX-HPLCから回収され、実施例1に記載される細胞系バイオアッセイを使用して効力に関して試験された。原体に対するジスルフィドアイソフォームIgG2-A、IgG2-A/B、及びIgG2-Bにおいて濃縮された3つのCEX-HPLC画分(表16及び図13A)は、下により詳細に記載されるとおりに効力に関して分析された。濃縮されたIgG2-A、IgG2-B、及びIgG2-A/BジスルフィドアイソフォームCEX-HPLC画分を、非還元RP-HPLCにより分析して、効力の評価の前に十分な純度を確認した。分画されていない原体に対する3つのCEX-HPLC回収画分のRP-HPLCの重ね合わせは、図16Bにおいて示され、RP-HPLCジスルフィドアイソフォーム分布データは、表20において提供される。
【0159】
【表20】
【0160】
表21に示されるとおり、IgG2-A及びIgG2-A/Bが濃縮されたアイソフォーム画分の相対的な効力は、エレヌマブ原体の相対的な効力と同様である。しかしながら、IgG2-Bジスルフィドアイソフォームについて濃縮された画分は、原体及び濃縮されたIgG2-A/B及びIgG2-Aアイソフォーム画分と比較して著しく低減した効力を示した。
【0161】
【表21】
【0162】
これらのデータは、エレヌマブのヒンジ領域におけるジスルフィド結合の立体構造が、抗体の生物活性に重要であることを示唆する。特に、原体におけるIgG2-Bジスルフィドアイソフォームのレベルの上昇は、阻害性の効力に著しく影響する。商業スケールで製造されたエレヌマブ原体のいくつかのロットの分析により、原体におけるIgG2-Bジスルフィドアイソフォームの一貫したレベルが明らかになり、その範囲は、非還元RP-HPLCによって測定されるとおり、4.6%~5.2%であった。これらのエレヌマブ原体ロットにおけるIgG2-A/B及びIgG2-Aジスルフィドアイソフォームのレベルもまた、34.2%~35.5%の範囲のIgG2-A/Bレベル及び57.4%~59.3%の範囲のIgG2-Aレベルと一致した。
【0163】
実施例5.エレヌマブサイズバリアントの同定及び特徴付け
この実施例は、低減したCGRP受容体阻害機能を呈したエレヌマブのサイズバリアントの同定及び特徴付けを記載する。エレヌマブのサイズバリアントは、高分子量(HMW)種及び低分子量(LMW)種を含み得る。単量体より大きい種(例えば、二量体及びより高次のオリゴマー種)であるHMW種は、非共有結合性の会合、還元できる共有結合性の会合、及び/又は還元できない共有結合性の会合により形成され得る。LMW種は、ポリペプチド骨格の断片化及び/又は軽鎖及び重鎖などのサブユニット成分の不完全な集合により生じる可能性がある。
【0164】
この実施例において、エレヌマブのサイズの不均一性は、SE-UHPLCによって評価された。SE-UHPLCは、主に流体力学的体積の違いに基づいて、タンパク質を分離する。SE-UHPLC法を、非還元、非変性条件下で実施して、未変性条件下でのエレヌマブのサイズ分布を査定した。エレヌマブ原体の試料は、分析的SE-UHPLCカラム(BEH200カラム、1.7μm粒径、4.6mm×150mm、Waters Corporation)上にロードされ、タンパク質は、pH6.8の100mMのリン酸ナトリウム、250mMの塩化ナトリウムを含む移動相を使用して均一濃度で分離された。溶出液は、280nmでのUV吸光度によってモニターされた。カラムは周囲温度で操作され、移動相は、0.4mL/分の流速でカラムにアプライされた。
【0165】
3つの別々の領域は、エレヌマブ原体のSE-UHPLCプロファイルにおいて明白であり、図17A及び17Bに示されるとおり優勢な単量体(メイン)ピーク並びに低レベルのHMW(プレピーク)及びLMW(ポストピーク)を含む。プレピーク、メインピーク及びポストピーク領域に由来する画分が回収され、画分において分離されたバリアントが特徴付けされた。SE-UHPLCによるHMWピーク(図17B)は、2つの不完全に分解された種から構成されており、そのため、それぞれHMWピークのリーディングエッジとテーリングエッジを表す2つの別々の画分として回収された。2つのHMWピーク及びメインピークは、セミ分取SE-HPLCを使用して単離された後、分析的SE-HPLCによってさらに濃縮された。回収されたHMW及びメインピーク画分は、分子量カットオフフィルターを使用して濃縮され、特徴付けの分析の前にpH5.2の15mM酢酸ナトリウムに緩衝液交換された。SE-UHPLCによるLMWピーク群(図17B)は、2つの小さなピークで構成されており、その合計は原体中の0.3%のアッセイ定量限界未満である。LMWピーク群が単離され、分析的SE-UHPLCを使用して濃縮され、下により詳細に記載されるとおりの限定的な特徴付け試験にかけられた。
【0166】
SE-UHPLC HMW画分の特徴付け
それぞれ図18及び表22に示される単離されたHMW及びメインピーク画分のSE-UHPLCプロファイル及び純度は、それらの画分が特徴付けのために十分な純度であったことを実証している。
【0167】
【表22】
【0168】
図18及び表22における濃縮されたHMW及びメインピーク画分は、静的光散乱検出を伴うSE-UHPLC、還元ドデシル硫酸ナトリウムキャピラリー電気泳動(rCE-SDS)、非還元ドデシル硫酸ナトリウムキャピラリー電気泳動(nrCE-SDS)、及び細胞系バイオアッセイを含む、様々な分析技術によって特徴付けされた。
【0169】
分画されていない原体を伴うHMW及びメインピーク画分を、静的光散乱検出を伴うSE-HPLC(SE-HPLC-SLS)により分析して、各クロマトグラムにおける支配的なピークのモル質量を決定した。SE-HPLC-SLS分析は、Agilent 1100 HPLCシステムを使用して実施された。カラムは、TSK-GEL G3000SWxl、5μm粒径、7.8mm ID×300mmカラム長(Tosho Biosep)であった。使用された検出器は、Wyatt Heleos II光散乱検出器、Wyatt Optilab rEX RI検出器、及び280nmの波長設定によるAgilent UV検出器であった。SE-HPLCの行程は、移動相として使用される100mMのリン酸カリウム、250mMの塩化カリウム、pH6.8の緩衝液により室温で実施され、流速は0.5mL/分であった。注入体積は4.3μLであり、300μgのタンパク質を注入した。分子量(MW)計算に関して、LS(光散乱)及びRI(屈折率)シグナル及び0.185の試料屈折率増加(dn/dc)値が使用された。
【0170】
メインピーク画分からの単量体(2つの重鎖及び2つの軽鎖を含むインタクトな抗体)の測定質量は149kDaであり、原体対照は143kDaであったが、これらの両方は、エレヌマブ単量体(148.8kDa)の理論分子質量と一致する(表23)。両方のHMWが濃縮された画分(HMW1及びHMW2)に関するHMWピークの測定質量はそれぞれ、292kDa及び279kDaであり、これらの両方は、エレヌマブ二量体(297.6kDa)の分子質量と一致する(表23)。これらのデータは、HMW1及びHMW2の両方が濃縮された画分が、主にエレヌマブ二量体で構成されることを実証している。
【0171】
【表23】
【0172】
実施例3に記載される方法に従うnrCE-SDSにより濃縮された画分及び分画されていない原体の分析により、両方のHMW画分が、単量体(メインピーク)より大きい共有結合性の高分子量種に相当するポストピークにおいて濃縮され、対照に匹敵するプレピーク面積を有することが明らかになった(表24)。
【0173】
【表24】
【0174】
非共有結合性及び共有結合性の二量体の比率は、未変性条件下で濃縮された画分の純度を変性条件下のものと比較することによって近似され得る。未変性条件下の二量体のレベル(SE-UHPLC:表22における%HMW)を変性条件下の共有結合性の二量体のレベル(nrCE-SDS:表24における%ポストピーク)と比較すると、共有結合性の二量体のレベルが、未変性の原体において推定され得る。この比較に基づいて、エレヌマブ原体中の未変性の二量体種の大部分は共有結合性であり、HMW1二量体種の約68%とHMW2二量体のほぼ全てが変性試験条件下で残存している。
【0175】
エレヌマブ原体並びに濃縮されたHMW種及びメインピーク画分もまた、実施例3に記載される方法に従ってrCE-SDSによって分析された。図19において示されるとおり、rCE-SDS分析の結果は、HMW1及びHMW2の両方の画分が、原体に対して中分子量(MMW)及び高分子量(HMW)種において濃縮されることを示した。共有結合性及び非共有結合性の二量体種のレベルの評価と同様に、rCE-SDSを使用して、原体における還元できる二量体種及び還元できない二量体種のレベルを近似できる。未変性条件下の二量体のレベル(SE-UHPLC:%HMW)を還元及び変性条件下の非共有結合性の二量体のレベル(nrCE-SDS:%HMW)と比較すると、非共有結合性の二量体のレベルが、未変性の原体において推定され得る。表25において示されるとおりの比較に基づいて、エレヌマブ原体中の未変性の二量体種の大部分は還元することができ、HMW1二量体種の約87%とHMW2二量体種の約93%が還元及び変性試験条件下で個々の成分に還元している。
【0176】
【表25】
【0177】
エレヌマブ原体と比較される濃縮されたSE-UHPLC画分の生物活性は、実施例1に記載される細胞系バイオアッセイによって評価された。表26において示されるとおり、HMW1及びHMW2が濃縮された画分の両方が、原体及び濃縮されたメインピークと比較して効力の低減を呈した。これらの画分におけるHMW種のかなりの部分が、上記のとおり共有結合により連結され、且つ分離できない。自己会合は、立体構造変化をもたらし得る立体障害を負わせ、これはCGRP受容体標的に対する分子の結合に影響を及ぼす可能性があるため、観察された効力の低減を説明している。
【0178】
【表26】
【0179】
SE-UHPLC LMW画分の特徴付け
LMWピーク(図17B)は、単一の画分においてSE-UHPLCによって回収され、特徴付けの分析の前に分子量カットオフフィルターを使用して濃縮された。SE-UHPLCに対するLMW画分の再注入は、約34.4%までのLMW種の濃縮を示した(データは示さず)。回収され濃縮されたLMW画分を、非還元条件下での全体の質量分析によって分析して、LMW種の性質を特徴付けた。
【0180】
濃縮されたLMW画分の質量は、エレクトロスプレーイオン化飛行時間型質量分析に連結されたRP-HPLCを使用して、未変性の非還元条件下での質量分析によって決定された。分析からの結果は、回収されたLMW画分が、分画されていない原体と比較して共有結合された軽鎖二量体(LC-LC)において濃縮されることを示す。
【0181】
この実施例に記載される分析の結果は、エレヌマブが、非変性条件下でのSE-UHPLCによって、2つの重鎖及び2つの軽鎖(原体の約99.2%)を含むインタクトな抗体として予想されるその単量体形態において主に存在することが示されたことを示す。残りの部分は、二量体で主に構成されるHMW種(原体の0.5%)及び痕跡レベルのLMW種からなる。より高次のオリゴマーは観察されなかった。HMW種において濃縮されたエレヌマブ原体のSE-UHPLC画分は、エレヌマブの単量体形態と比較して阻害性の効力の低減を呈した。
【0182】
エレヌマブ二量体は、主に共有結合された単量体サブユニットで構成され、変性条件下で解離しない。二量体の大部分は還元することができ、還元及び変性条件下で重鎖及び軽鎖成分に変換され、したがって、ジスルフィド結合により結合される。還元できない種は、共有結合性の二量体の微量成分として存在し、rCE-SDSによって重鎖ピークの後に移動する。SE-UHPLC LMWピークの特徴付けは、軽鎖二量体が濃縮されるピークであることを示した。
【0183】
商業スケールで製造されたエレヌマブ原体(140mg/mL)のいくつかのロットを、SE-UHPLCによって分析して、SE-UHPLCクロマトグラムにおけるHMW及びLMWピークのピーク面積パーセンテージによって測定されるとおり、サイズバリアント(例えば、HMW及びLMW種)の存在及び量を査定した。原体のロットの効力はまた、細胞系効力アッセイによっても評価され、第II相/第III相臨床試験において採用されたエレヌマブ原体の標本であるロット番号78137の効力と比較された。データの概要は、下の表27において提供される。
【0184】
【表27】
【0185】
表27におけるデータによって示されるとおり、商業スケールで製造されたエレヌマブ原体は、SE-UHPLCによって測定されるとおり、一貫したレベルの約0.6%のHMW種を含有した。このレベルのHMW種を含有した原体は、臨床試験において採用されたエレヌマブ原体の効力に匹敵する効力を呈した。
【0186】
表27からの原体バッチのうちの3つ(63131、63132、及び63133)は、25℃で3ヶ月間保管され、試料はSE-UHPLC分析及び効力試験にかけられて、経時的なサイズバリアントのレベルの変化に起因する原体の効力に対するいずれかの影響が査定された。この安定性試験の結果は、表28において示される。
【0187】
【表28】
【0188】
HMW種を1.6%の高いレベルで含有した原体は、臨床試験で採用されたエレヌマブ原体に匹敵する効力を有した。
【0189】
熱ストレス条件下でサイズバリアントを形成するエレヌマブの感受性を評価するため、エレヌマブ原体を、50℃で14日間インキュベートされた。試料は、試験及び凍結の持続時間にわたる様々な時点で取り出された。最終の時点の後、全ての試料は、分析による可変性を最小化するために並行して分析された。試料は、上記の方法に従うSE-UHPLC及び実施例1に記載される細胞系バイオアッセイによって査定された。
【0190】
50℃でストレスを与えられたエレヌマブ原体の0日目及び14日目の未変性のSE-UHPLCプロファイルは、図20において示される。図20において示されるピークに関する相対的なピーク面積%は、細胞系バイオアッセイによって評価されるとおりの試料の%相対的な効力とともに表29において提示される。HMW種は、メインピークにおける対応する減少とともに14日間にわたって増加を示す支配的な分解物であった。生成されたHMW種は、主により高次の凝集物(二量体より大きいHMW種)で構成された。また、14日目にはLMW種の増加が観察された。エレヌマブ原体の熱ストレスを与えられた試料は、効力の著しい低減を呈した。効力の低減は主に、HMW種の増加及びAsp105異性化バリアントの増加に起因し、これらはまた、エレヌマブ原体の熱ストレスを与えられた試料においても増加した(実施例2を参照のこと)。
【0191】
【表29】
【0192】
さらなる熱ストレス試験は、商業スケールで製造されたさらなるエレヌマブ原体バッチに対して実施された。表27からの原体バッチのうちの3つ(63131、63132、及び63133)は、40℃で最大30日間保管され、試料はSE-UHPLC分析及び細胞系効力試験にかけられて、経時的なサイズバリアントのレベルの変化に起因する原体の効力に対するいずれかの影響がさらに査定された。この熱ストレス試験の結果は、表30において示される。
【0193】
【表30】
【0194】
この試験の結果は、HMW及びLMW種の増加とともに効力の低減の全般的な傾向を示す。特に、原体中における約2.5%を超えるHMW種のレベルは、原体の効力の低減と関連した。63132ロットの30日目の試料は効力の低減を示さなかったが、これはおそらく、細胞系バイオアッセイの可変性に起因することが認められる。
【0195】
本明細書において議論され及び引用された全ての刊行物、特許及び特許出願は、その全体が参照により本明細書に援用される。開示した本発明は、記載された特定の方法論、プロトコル及び材料に限定されず、これらは、変化し得ることが理解される。また、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態を説明するためのものに過ぎず、添付の特許請求の範囲を限定することを意図されていないことも理解される。
【0196】
当業者であれば、単なる日常的な実験により、本明細書に記載した本発明の特定の実施形態に対する多くの均等物を認識又は確認することができるであろう。このような均等物は、添付の特許請求の範囲に包含されるものとする。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
エレヌマブ及び1種以上のエレヌマブバリアントを含む組成物であって、前記1種以上のエレヌマブバリアントが、異性化バリアント及び脱アミドバリアントを含み、且つ前記組成物中の前記異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量が約30%未満である、組成物。
(項目2)
前記組成物中の前記異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量が、約15%未満である、項目1に記載の組成物。
(項目3)
前記組成物中の前記異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量が、約8%未満である、項目1に記載の組成物。
(項目4)
前記組成物中の前記異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量が、約4%未満である、項目1に記載の組成物。
(項目5)
前記組成物中の前記異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量が、約1%~約10%である、項目1に記載の組成物。
(項目6)
前記組成物中の前記異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量が、約1%~約4%である、項目1に記載の組成物。
(項目7)
前記異性化バリアントが、エレヌマブの一方又は両方の重鎖(配列番号1又は配列番号3)におけるアミノ酸位置105でイソアスパラギン酸残基又はスクシンイミドを有する、項目1~6のいずれか一項に記載の組成物。
(項目8)
前記脱アミドバリアントが、アスパラギン酸残基、スクシンイミド、又はイソアスパラギン酸残基に変換されたエレヌマブの一方又は両方の重鎖(配列番号1又は配列番号3)におけるアミノ酸位置102でアスパラギン残基を有する、項目1~7のいずれか一項に記載の組成物。
(項目9)
前記組成物中の前記異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量が、疎水性相互作用クロマトグラフィー高速液体クロマトグラフィー(HIC-HPLC)によって決定される、項目1~8のいずれか一項に記載の組成物。
(項目10)
エレヌマブ及び1種以上のエレヌマブ酸性バリアントを含む組成物であって、前記組成物中の酸性バリアントの量が、約40%未満である組成物。
(項目11)
前記組成物中の酸性バリアントの量が、約35%未満である、項目10に記載の組成物。
(項目12)
前記組成物中の酸性バリアントの量が、約25%~約38%である、項目10に記載の組成物。
(項目13)
前記組成物中の酸性バリアントの量が、約26%~約34%である、項目10に記載の組成物。
(項目14)
1種以上の酸性バリアントが、ジスルフィドアイソフォームバリアント、断片化バリアント、又はこれらの組合せを含む、項目10~13のいずれか一項に記載の組成物。
(項目15)
前記組成物中の酸性バリアントの量が、カチオン交換高速液体クロマトグラフィー(CEX-HPLC)によって決定される、項目10~14のいずれか一項に記載の組成物。
(項目16)
エレヌマブ及びその1種以上のジスルフィドアイソフォームバリアントを含む組成物であって、前記1種以上のジスルフィドアイソフォームバリアントが、IgG2-Bアイソフォームを含み、且つ前記組成物中の前記IgG2-Bアイソフォームの量が、約20%未満である組成物。
(項目17)
前記組成物中の前記IgG2-Bアイソフォームの量が、約10%未満である、項目16に記載の組成物。
(項目18)
前記組成物中の前記IgG2-Bアイソフォームの量が、約4%~約6%である、項目16に記載の組成物。
(項目19)
前記1種以上のジスルフィドアイソフォームバリアントがさらに、IgG2-A/Bアイソフォームを含む、項目16~18のいずれか一項に記載の組成物。
(項目20)
前記組成物中の前記IgG2-A/Bアイソフォームの量が、約34%~約37%である、項目19に記載の組成物。
(項目21)
前記組成物中のジスルフィドアイソフォームバリアントの量が、非還元逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)によって決定される、項目16~20のいずれか一項に記載の組成物。
(項目22)
エレヌマブ及びエレヌマブの高分子量(HMW)種を含む組成物であって、前記組成物中の前記HMW種の量が、約2.5%未満である組成物。
(項目23)
前記組成物中の前記HMW種の量が、約1.8%又はそれ未満である、項目22に記載の組成物。
(項目24)
前記組成物中の前記HMW種の量が、約1.2%又はそれ未満である、項目22に記載の組成物。
(項目25)
前記HMW種が、エレヌマブの共有結合された二量体を含む、項目22~24のいずれか一項に記載の組成物。
(項目26)
前記組成物中の前記HMW種の量が、サイズ排除超高速液体クロマトグラフィー(SE-UHPLC)によって決定される、項目22~25のいずれか一項に記載の組成物。
(項目27)
エレヌマブ及び1種以上のエレヌマブバリアントを含む組成物であって、前記エレヌマブバリアントが、異性化バリアント、脱アミドバリアント、酸性バリアント、HMW種、又はこれらの組合せを含み、前記組成物が、以下の特徴:
(a)前記組成物中の酸性バリアントの量が、CEX-HPLCによって測定されるとおり、約25%~約38%である;
(b)前記組成物中のHMW種の量が、SE-UHPLCによって測定されるとおり、約2.1%又はそれ未満である;及び
(c)前記組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量が、HIC-HPLCにおけるプレピークにより測定されるとおり、約8%又はそれ未満である
のうちの1つ以上を有する組成物。
(項目28)
前記組成物が、以下の特徴:
(a)前記組成物中の酸性バリアントの量が、CEX-HPLCによって測定されるとおり、約26.5%~約33.6%である;
(b)前記組成物中のHMW種の量が、SE-UHPLCによって測定されるとおり、約1.2%又はそれ未満である;及び
(c)前記組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量が、HIC-HPLCにおけるプレピークにより測定されるとおり、約3.2%又はそれ未満である
のうちの1つ以上を有する、項目27に記載の組成物。
(項目29)
エレヌマブが、配列番号1の重鎖及び配列番号2の軽鎖を含む、項目1~28のいずれか一項に記載の組成物。
(項目30)
エレヌマブが、配列番号3の重鎖及び配列番号4の軽鎖を含む、項目1~28のいずれか一項に記載の組成物。
(項目31)
項目1~30のいずれか一項に記載の組成物及び1種以上の薬学的に許容される賦形剤を含む医薬製剤。
(項目32)
必要とする患者において頭痛の発生を治療するか、予防するか、又は低減するための方法であって、前記患者に項目31に記載の医薬製剤を投与することを含む、方法。
(項目33)
前記頭痛が、片頭痛である、項目32に記載の方法。
(項目34)
前記片頭痛が、反復性片頭痛又は慢性片頭痛である、項目33に記載の方法。
(項目35)
必要とする患者における頭痛の発生を治療するか、予防するか、又は低減するための方法における使用のための項目1~30のいずれか一項に記載のエレヌマブ組成物。
(項目36)
前記頭痛が、片頭痛である、項目35に記載のエレヌマブ組成物。
(項目37)
前記片頭痛が、反復性片頭痛又は慢性片頭痛である、項目36に記載のエレヌマブ組成物。
(項目38)
必要とする患者における頭痛の発生を治療するか、予防するか、又は低減するための医薬の作製における項目1~30のいずれか一項に記載のエレヌマブ組成物の使用。
(項目39)
前記頭痛が、片頭痛である、項目38に記載の使用。
(項目40)
前記片頭痛が、反復性片頭痛又は慢性片頭痛である、項目39に記載の使用。
(項目41)
エレヌマブ組成物の品質を査定するための方法であって、
エレヌマブ及び1種以上のエレヌマブバリアントを含有するエレヌマブ組成物を得ること;
前記エレヌマブバリアントが、異性化バリアント、脱アミドバリアント、酸性バリアント、HMW種、又はこれらの組合せを含む、前記組成物中の1種以上のエレヌマブバリアントの量を測定すること;
前記1種以上のエレヌマブバリアントの測定された量を既定の参照基準と比較すること;及び
前記比較が前記既定の参照基準を満たすことを示す場合に、前記エレヌマブ組成物の医薬製剤又は医薬製品を作製すること
を含む、方法。
(項目42)
異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量が測定され、且つ前記既定の参照基準が約10%又はそれ未満である、項目41に記載の方法。
(項目43)
前記エレヌマブ組成物中の異性化バリアント及び脱アミドバリアントの量が、HIC-HPLCによって測定される、項目42に記載の方法。
(項目44)
酸性バリアントの量が測定され、且つ前記既定の参照基準が約38%又はそれ未満である、項目41に記載の方法。
(項目45)
前記エレヌマブ組成物中の酸性バリアントの量が、CEX-HPLCによって測定される、項目44に記載の方法。
(項目46)
HMW種の量が測定され、且つ前記既定の参照基準が約2.5%又はそれ未満である、項目41に記載の方法。
(項目47)
HMW種の量が、SE-UHPLCによって測定される、項目46に記載の方法。
(項目48)
前記エレヌマブ組成物が、配列番号1の重鎖をコードする核酸及び配列番号2の軽鎖をコードする核酸を発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株から得られる、項目41~47のいずれか一項に記載の方法。
図1A-1B】
図1C-1D】
図1E-1F】
図2A-2B】
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A-13B】
図14
図15A
図15B
図15C
図16A
図16B
図17A-17B】
図18
図19
図20
【配列表】
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【外国語明細書】