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特開2023-103372改良された核酸標的濃縮および関連方法
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  • 特開-改良された核酸標的濃縮および関連方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103372
(43)【公開日】2023-07-26
(54)【発明の名称】改良された核酸標的濃縮および関連方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6832 20180101AFI20230719BHJP
   C12Q 1/6827 20180101ALI20230719BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20230719BHJP
【FI】
C12Q1/6832 Z
C12Q1/6827 Z
C12Q1/6844 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023080564
(22)【出願日】2023-05-16
(62)【分割の表示】P 2021548236の分割
【原出願日】2020-02-19
(31)【優先権主張番号】62/808,734
(32)【優先日】2019-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100196243
【弁理士】
【氏名又は名称】運 敬太
(72)【発明者】
【氏名】ゲットゥシェ,トゥーミー
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ルイ
(72)【発明者】
【氏名】シャロン,ドナルド・イー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】プローブ結合がFANCAタンパク質によって促進される、標的濃縮および標的枯渇の改善された方法を提供する。
【解決手段】標的核酸配列を捕捉するための方法であって、a)i)1つまたは複数の標的配列を含んでもよいまたは含まなくてもよい核酸試料と、ii)前記1つまたは複数の標的配列と少なくとも部分的に相補的な1つまたは複数のオリゴヌクレオチドプローブと、iii)ファンコニ貧血相補群A(FANCA)タンパク質と、を含む反応混合物を形成することと、b)複数の標的-プローブハイブリッドを形成するために、前記1つまたは複数の標的配列と複数の前記プローブとの間のハイブリダイゼーションが前記FANCAタンパク質によって触媒される条件下で前記反応混合物をインキュベートすることと、を含む、方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的核酸配列を捕捉するための方法であって、
a)
i)1つまたは複数の標的配列を含んでもよいまたは含まなくてもよい核酸試料と、
ii)前記1つまたは複数の標的配列と少なくとも部分的に相補的な1つまたは複数のオリゴヌクレオチドプローブと、
iii)ファンコニ貧血相補群A(FANCA)タンパク質と、
を含む反応混合物を形成することと、
b)複数の標的-プローブハイブリッドを形成するために、前記1つまたは複数の標的配列と複数の前記プローブとの間のハイブリダイゼーションが前記FANCAタンパク質によって触媒される条件下で前記反応混合物をインキュベートすることと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記核酸試料がゲノムDNAを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記核酸試料がRNA標的配列を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つの前記標的配列が一塩基多型(SNV)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つの前記標的配列がゲノムコピー数多型(CNV)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記複数のプローブが、捕捉部分に結合されたプローブを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記プローブが基板に固定されている、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記複数のプローブが照合ヌクレオチドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記反応混合物が、RAD52タンパク質またはFANCGタンパク質をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
1つまたは複数のオリゴヌクレオチドプローブと、ファンコニ貧血相補群A(FANCA)タンパク質とを含む、配列特異的核酸捕捉のための組成物。
【請求項11】
核酸配列を捕捉するためのキットであって、1つまたは複数のオリゴヌクレオチドプローブと、ファンコニ貧血相補群A(FANCA)タンパク質とを含むキット。
【請求項12】
前記捕捉プローブが検出部分をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
標的核酸配列を複製する方法であって、
a)
i)1つまたは複数の標的配列を含んでもよいまたは含まなくてもよい核酸試料と、
ii)前記1つまたは複数の標的配列と少なくとも部分的に相補的な少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマーと、
iii)ファンコニ貧血相補群A(FANCA)タンパク質と、
を含む反応混合物を形成することと、
b)前記1つまたは複数の標的配列と前記少なくとも1つのプライマーとの間のハイブ
リダイゼーションが前記FANCAタンパク質によって触媒される条件下で前記反応混合物をインキュベートすることと、
c)前記少なくとも1つのプライマーを伸長し、それによって前記1つまたは複数の標的配列を複製することと、
を含む、方法。
【請求項14】
標的核酸配列を増幅する方法であって、
a)
i)1つまたは複数の標的配列を含んでもよいまたは含まなくてもよい核酸試料と、
ii)前記1つまたは複数の標的配列と少なくとも部分的に相補的な少なくとも1対のフォワードおよびリバースオリゴヌクレオチドプライマーと、
iii)ファンコニ貧血相補群A(FANCA)タンパク質と、
を含む反応混合物を形成することと、
b)前記1つまたは複数の標的配列と前記少なくとも1対のフォワードおよびリバースオリゴヌクレオチドプライマーとの間のハイブリダイゼーションが前記FANCAタンパク質によって触媒される条件下で前記反応混合物をインキュベートすることと、
c)プライマー伸長、変性、プライマーハイブリダイゼーションおよびプライマー伸長の一連のサイクルにおいて、前記少なくとも1対のフォワードおよびリバースオリゴヌクレオチドプライマーを伸長させ、それによって前記1つまたは複数の標的配列を増幅することと、
を含む、方法。
【請求項15】
試料から核酸を選択的に枯渇させる方法であって、
a)前記試料を、枯渇されるべき核酸と少なくとも部分的に相補的な1つまたは複数のオリゴヌクレオチドプローブおよびファンコニ貧血相補群A(FANCA)タンパク質と接触させることと;
b)前記枯渇されるべき核酸と前記オリゴヌクレオチドプローブとの間のハイブリダイゼーションが前記FANCAタンパク質によって触媒される条件下で前記試料をインキュベートすることと;
c)工程b)で形成された複合体を前記試料から除去することと;
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸配列決定の分野に関し、より具体的には、高処理量単一分子核酸配列決定のための標的濃縮に関する。
【背景技術】
【0002】
高処理量配列決定技術は、研究および臨床において新たな用途を見出し続けている。現代の方法は、次第により低いコストで生物のゲノム全体を配列決定することができる。多くの配列決定用途は、ゲノムの一部または試料中に存在するすべての核酸の一部にのみ焦点を当てている。標的濃縮方法は、配列決定のために所望の核酸を捕捉し、任意に増幅する。既存の標的濃縮方法は、関心対象の配列を捕捉し、濃縮するために、多様な一本鎖DNA(ssDNA)プローブの大きな集団のハイブリダイゼーションを必要とする。典型的には、DNA試料を合成タグ付きDNAプローブと接触させ、次いで、アニールした二重鎖をアフィニティー精製する。この過程は、非効率的であり、不正確であり、時間がかかる可能性がある。高度に多様な捕捉プールにおいては、鎖のアニーリングは遅い速度論を特徴とするため、ハイブリダイゼーション反応は長いインキュベーション期間を必要とすることが多いが、所望の標的のほんの一部しか捕捉されない。現在の方法は、標的でない配列(off-target sequences)の非特異的捕捉にも悩まされており、その結果、関心対象の配列の提示が減少する。したがって、DNA濃縮アッセイの効率および精度を改善するための方法が非常に望ましい。
【0003】
ファンコニ貧血(FA)患者における二本鎖切断修復(DBR)経路中の欠陥の研究により、複数のFA相補群タンパク質(FANCタンパク質)が同定されるに至った。これらのタンパク質は、一本鎖アニーリング切断修復経路において利用され、この経路では、切断の両側の末端において5’鎖が切除され、次いで、一本鎖3’末端上の相補的反復配列がアニーリングされ、処理され、リガーゼによって閉鎖される。Benitezら、(2018)FANCA promotes DNA double-strand break repair by catalyzing single-strand annealing and strand exchange,Molecular Cell 71:621 8つのFANCファミリーメンバータンパク質が、FA患者において最も頻繁に変異するタンパク質であるファンコニ貧血相補群A(FANCA)を含むコア複合体に関与している。FANCAは、最近、インビトロで高レベルの一本鎖DNA鎖アニーリング(SA)および鎖交換(SE)活性を示すことが実証された。RAD52ファミリータンパク質を含むさらなるタンパク質は、FANCAと核酸鎖との間の複合体の形成を補助する、Van den Boschら、(2002)DNA double strand break repair by homologous recombination,Biol.Chem.383:873を参照。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、ファンコニ貧血相補群A(FANCA)タンパク質の存在下でハイブリダイゼーション反応を実施することによる核酸の改良されたハイブリダイゼーションを教示する。プローブハイブリダイゼーションによる標的捕捉または標的検出、標的複製または標的増幅、標的配列決定ワークフローおよびCRSPR法などのインビトロ組換え法を含むがこれらに限定されない核酸ハイブリダイゼーション工程を含む任意の方法が、本明細書に開示される改善によって強化され得る。
【0005】
いくつかの実施形態では、本発明は、標的核酸配列を捕捉する方法であって、1つまたは複数の標的配列を含んでもよいまたは含まなくてもよい核酸試料と、1つまたは複数の
標的配列と少なくとも部分的に相補的な複数のオリゴヌクレオチドプローブと、ファンコニ貧血相補群A(FANCA)タンパク質とを含む反応混合物を形成することと;複数の標的-プローブハイブリッドを形成するために、前記1つまたは複数の標的配列と前記複数のプローブとの間のハイブリダイゼーションが前記FANCAタンパク質によって触媒される条件下で前記反応混合物をインキュベートすることと、を含む、方法である。核酸試料は、ゲノムDNAまたはRNA標的配列を含み得る。前記標的配列の少なくとも1つは、一塩基多型(SNV)またはゲノムコピー数多型(CNV)を含み得る。
【0006】
いくつかの実施形態では、複数のプローブは、ビオチンなどの捕捉部分に結合されたプローブを含む。いくつかの実施形態では、プローブは基板に固定されている。いくつかの実施形態では、基板(substrate)は、アビジンまたはストレプトアビジンなどの捕捉部分に対するリガンドを備える。いくつかの実施形態では、基板は、微粒子またはマイクロアレイスライドである。いくつかの実施形態では、ハイブリダイゼーションは固相上で起こる。
【0007】
いくつかの実施形態では、複数のプローブは照会ヌクレオチド(interrogation nucleotide)を含む。
【0008】
いくつかの実施形態では、反応混合物は、RAD52タンパク質またはFANCGタンパク質をさらに含む。
【0009】
いくつかの実施形態では、方法は、標的-プローブハイブリッドを反応混合物から分離することと、標的-プローブハイブリッドから標的を放出させることと、配列を決定することによってまたは蛍光標識などの検出可能な標識を検出することによって前記放出された標的核酸配列を検出することと、をさらに含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、本発明は、1つまたは複数のオリゴヌクレオチドプローブと、ファンコニ貧血相補群A(FANCA)タンパク質とを含む、配列特異的核酸捕捉のための組成物である。
【0011】
いくつかの実施形態では、本発明は、1つまたは複数のオリゴヌクレオチドプローブとファンコニ貧血相補群A(FANCA)タンパク質とを含む核酸配列を捕捉するためのキットである。キットは、RAD52タンパク質またはFANCGタンパク質をさらに含み得る。
【0012】
いくつかの実施形態では、捕捉プローブは、蛍光部分などの検出部分をさらに含む。
【0013】
いくつかの実施形態では、本発明は、標的核酸配列を複製する方法であって、1つまたは複数の標的配列を含んでもよいまたは含まなくてもよい核酸試料と、1つまたは複数の標的配列と少なくとも部分的に相補的な少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマーと、ファンコニ貧血相補群A(FANCA)タンパク質とを含む反応混合物を形成することと;1つまたは複数の標的配列と少なくも1つのプライマーとの間のハイブリダイゼーションがFANCAタンパク質によって触媒される条件下で反応混合物をインキュベートすることと、少なくとも1つのプライマーを伸長し、それにより、1つまたは複数の標的配列を複製することと;を含む、方法である。
【0014】
いくつかの実施形態では、本発明は、標的核酸配列を増幅する方法であって、1つまたは複数の標的配列を含んでもよいまたは含まなくてもよい核酸試料と、1つまたは複数の標的配列と少なくとも部分的に相補的な少なくとも1対のフォワードおよびリバースオリゴヌクレオチドプライマーと、ファンコニ貧血相補群A(FANCA)タンパク質とを含
む反応混合物を形成することと、1つまたは複数の標的配列と少なくとも1対のフォワードおよびリバースオリゴヌクレオチドプライマーとの間のハイブリダイゼーションがFANCAタンパク質によって触媒される条件下で反応混合物をインキュベートすることと、プライマー伸長、変性、プライマーハイブリダイゼーションおよびプライマー伸長の一連のサイクルにおいて少なくとも1対のフォワードおよびリバースオリゴヌクレオチドプライマーを伸長させ、それによって1つまたは複数の標的配列を増幅させることと、を含む、方法である。
【0015】
いくつかの実施形態では、本発明は、試料から核酸を選択的に枯渇させる方法であって、試料を、枯渇させるべき核酸と少なくとも部分的に相補的な1つまたは複数のオリゴヌクレオチドプローブおよびファンコニ貧血相補群A(FANCA)タンパク質と接触させることと;枯渇されるべき核酸とオリゴヌクレオチドプローブとの間のハイブリダイゼーションがFANCAタンパク質によって触媒される条件下で試料をインキュベートすることと;工程b)において形成された複合体を試料から除去することと;を含む、方法である。枯渇されるべき配列は、ヒトLINEおよびSINEから選択される反復配列、リボソームまたはミトコンドリアのRNAもしくはDNAまたはグロビン遺伝子もしくはcDNA配列であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、その鎖アニーリング(SA)活性を示すFANCAタンパク質の二量体を示す。
図2図2は、その鎖交換(SE)活性を示すFANCAタンパク質の二量体を示す。
図3図3は、FANCAタンパク質の添加によって1つまたは複数の工程が改善される例示的な配列決定ワークフローを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
定義
以下の定義は、本開示の理解を補助する。
「試料」という用語は、標的核酸を含有する、または含有すると推定される任意の組成物を指す。本用語には、個体から単離された組織または流体の試料、例えば、皮膚、血漿、血清、脊髄液、リンパ液、滑液、尿、涙、血球、器官および腫瘍が含まれ、ならびにホルマリン固定されたパラフィン包埋組織(FFPET)およびそこから単離された核酸を含む個体から採取された細胞から確立されたインビトロ培養物の試料も含まれる。 試料には、無細胞DNA(cfDNA)または循環腫瘍DNA(ctDNA)を含有する無細胞血液画分などの無細胞材料も含まれ得る。試料は、動物(ヒトを含む)、植物および真菌種に由来し得る。試料は、細菌、古細菌またはウイルスの標的を潜在的に含む環境試料でもあり得る。
【0018】
「核酸」という用語は、DNA、RNA、およびそれらのサブカテゴリ、例えばcDNA、mRNAなどを含むヌクレオチド(例えば、リボヌクレオチドおよびデオキシリボヌクレオチド、天然および非天然の両方)のポリマーを指す。核酸は一本鎖または二本鎖であり得、一般に5’-3’ホスホジエステル結合を含有するが、いくつかの事例では、ヌクレオチド類似体は他の結合を有し得る。核酸は、天然の塩基(アデノシン、グアノシン、シトシン、ウラシルおよびチミジン)および非天然の塩基を含み得る。非天然塩基のいくつかの例としては、例えば、Seelaら、(1999)Helv.Chim.Acta 82:1640に記載されている非天然塩基が挙げられる。非天然塩基は、特定の機能、例えば、核酸二重鎖の安定性を増加させること、ヌクレアーゼ消化を阻害すること、またはプライマー伸長もしくは鎖重合を遮断すること、を有し得る。
【0019】
「ポリヌクレオチド」および「オリゴヌクレオチド」という用語は、互換的に使用される。ポリヌクレオチドは、一本鎖または二本鎖の核酸である。オリゴヌクレオチドは、より短いポリヌクレオチドを記載するために時折使用される用語である。オリゴヌクレオチドは、少なくとも6ヌクレオチドまたは約15~30ヌクレオチドから構成され得る。オリゴヌクレオチドは、本技術分野において公知の任意の適切な方法によって、例えば、Narangら(1979)Meth.Enzymol.68:90-99;Brownら(1979)Meth.Enzymol.68:109-151;Beaucageら(1981)Tetrahedron Lett.22:1859-1862;Matteucciら(1981)J.Am.Chem.Soc.103:3185-3191に記載されている直接的化学合成を含む方法によって調製される。
【0020】
「プライマー」という用語は、標的核酸中の配列とハイブリダイズし、かつこのような合成に適した条件下で核酸の相補鎖に沿った合成の開始点として作用することができる一本鎖オリゴヌクレオチドを指す。プライマーは、標的と安定なハイブリッドを形成し、核酸ポリメラーゼによって伸長され得る限り、標的核酸と部分的にまたは完全に相補的であり得る。「フォワードおよびリバースプライマー」という用語は、標的配列に隣接する部位で標的核酸の反対鎖に相補的なプライマー対を指す。フォワードおよびリバースプライマーは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって標的を指数関数的に増幅することができる。
【0021】
「プローブ」という用語は、標的核酸中の配列とハイブリダイズし、標的と安定なハイブリッドを形成することができる一本鎖オリゴヌクレオチド(または使用前にシグナル(signal)鎖に変性される二本鎖オリゴヌクレオチド)を指す。プローブは、ハイブリダイゼーション条件下で標的と安定なハイブリッドを形成することができる限り、標的核酸と部分的にまたは完全に相補的であり得る。
【0022】
本明細書で使用する場合、「標的配列」、「標的核酸」または「標的」という用語は、検出または分析されるべき、試料中の核酸配列の一部を指す。標的という用語は、標的配列のすべての変異形、例えば、1つまたは複数の突然変異体変異形および野生型変異形を含む。
【0023】
「配列決定」という用語は、標的核酸中のヌクレオチドの配列を決定する任意の方法を指す。
【0024】
本発明は、様々な用途において核酸ハイブリダイゼーションの効率および精度を改善するためのFANCAタンパク質の使用方法を含む。FANCAは、一本鎖の核酸二重鎖へのアニーリングおよび鎖交換を促進する。FANCAのこの活性は、ホモ二量体を形成し、一本鎖または部分的一本鎖DNAオリゴマーに結合するこのタンパク質の能力によって証明される。次いで、一本鎖部分は相補的な一本鎖オリゴマーにアニーリングされ、鎖が交換されて完全な二本鎖DNA種を形成する。(図1および図2を参照)。インビトロでSAおよびSE鎖アニーリングおよび鎖交換を引き起こすFANCAの能力は、ATPなどのエネルギー源または他のFANCファミリーメンバーとの相互作用に依存しないようである(ただし、精製されたFANCGタンパク質を含めることは、インビトロアッセイにおいてFANCAのSAおよびSE活性を増強することが示されている)。
【0025】
いくつかの実施形態では、反応条件は、他の非特異的ハイブリッドまたは部分的に相補的な(部分的に一致した)ハイブリッドよりもプローブ-標的ハイブリッドの形成に有利である。FANCAは、反応におけるハイブリッド形成の速度を増加させるための触媒として作用する。
【0026】
いくつかの実施形態では、本発明は、配列決定過程、例えば(限定されないが)全エクソーム配列決定(WES)の一部である標的濃縮ワークフローを含む現在の標的濃縮ワークフローにおける標的捕捉の改善された方法である。FANCAならびに任意にFANCGおよびRAD52(またはその両方)から選択されるさらなるタンパク質は、標的濃縮のハイブリダイゼーション工程中に添加剤として使用される。いくつかの実施形態では、標的濃縮は溶液中配列捕捉アッセイである。いくつかの実施形態では、標的濃縮は、ベイトオリゴヌクレオチドまたはオリゴまたは捕捉プローブとも呼ばれる捕捉ssDNAオリゴマーを利用する。いくつかの実施形態では、捕捉プローブは、後のアフィニティー捕捉のために捕捉部分(例えば、ビオチン)でタグ付けされる。本発明は、ハイブリダイゼーション反応のために必要とされる時間(典型的には、数時間または一晩にわたって行われる)を短縮することによって、試料処理量の増大を可能にする。本発明は、標的捕捉反応をより低い温度、例えば室温またはさらにより低い温度で行うことを可能にすることによって既存の方法をさらに改善する。現在、特異性を増大するために、捕捉反応は通常45℃を超える温度で行われる。いくつかの実施形態では、本方法は、高温での最初の標的変性工程をなお含む。しかしながら、その後のプローブハイブリダイゼーションは、FANCAタンパク質の存在下において、より低い温度、例えば室温またはそれより低い温度などで行われ得る。本発明の方法では、捕捉プローブハイブリダイゼーション工程中に、FANCAタンパク質が相補的なssDNA種のアニーリングを触媒する。さらに、捕捉プローブハイブリダイゼーション工程の間、FANCAタンパク質は、部分的に一致したまたは不完全に一致したハイブリッド中の鎖の、より高いレベルの相補性を有する鎖への交換を触媒する。
【0027】
このアプローチは、現在の技術水準の標的捕捉過程を著しく改善する。FANCAの使用は、ハイブリッド捕捉反応の効率および精度を増大させる。効率の向上は、総ワークフロー時間の短縮をもたらす。精度の改善は、標的領域の十分なカバレッジを達成するために必要とされる配列決定デプスの減少をもたらす。
【0028】
図1は、その鎖アニーリング(SA)活性を示すFANCAタンパク質の二量体を図示し、このタンパク質二量体は、2つの相補的な核酸鎖のアニーリングを促進する。図2は、その鎖交換(SE)活性を示すFANCAタンパク質の二量体を図示し、このタンパク質二量体は、部分的に相補的な鎖を完全に相補的な鎖で置換することを容易にする。図3は、FANCAタンパク質の添加によって1つまたは複数の工程が改善される例示的な配列決定ワークフローを示す。
【0029】
いくつかの実施形態では、本発明は、試料を利用する。いくつかの実施形態では、試料は、対象または患者に由来する。いくつかの実施形態では、試料は、例えば、生検によって、対象または患者に由来する固形組織または固形腫瘍の断片を含み得る。試料は、体液(例えば、尿、痰、血清、血漿またはリンパ、唾液、痰、汗、涙、脳脊髄液、羊水、滑液、心膜液、腹水、胸水、嚢胞液、胆汁、胃液、腸液および/または糞便試料)も含み得る。試料は、腫瘍細胞が存在し得る全血または血液画分を含み得る。いくつかの実施形態では、試料、特に液体試料は、無細胞腫瘍DNAまたは腫瘍RNAを含む無細胞DNAまたはRNAなどの無細胞材料を含み得る。本発明は、希少で少量の標的を分析するのに特に適している。いくつかの実施形態では、試料は、無細胞試料、例えば、無細胞腫瘍DNAまたは腫瘍RNAが存在する無細胞血液由来試料である。他の実施形態では、試料は、培養された試料、例えば、感染性因子または感染性因子に由来する核酸を含有するか、または含有すると疑われる培養物または培養上清である。いくつかの実施形態では、感染性因子は、細菌、原生動物、ウイルスまたはマイコプラズマである。
【0030】
標的核酸は、試料中に存在する可能性がある、関心対象の核酸である。複数の異なる標的核酸が試料中に存在し得る。標的は、DNAの形態のゲノム配列またはRNAの形態の
転写された配列、mRNAまたはcDNAであり得る。いくつかの実施形態では、標的核酸は、遺伝子または遺伝子断片である。他の実施形態では、標的核酸は、一塩基多型もしくは一塩基変異形(SNPまたはSNV)を含む遺伝的変異形、例えば、多型、または、例えば、遺伝子融合をもたらす遺伝子再編成を含有する。いくつかの実施形態では、標的核酸は、バイオマーカーを含む。他の実施形態では、標的核酸は、特定の生物の特徴であり、例えば、病原性生物または病原性生物の特徴、例えば、薬物感受性もしくは薬物耐性の同定を補助する。さらに他の実施形態では、標的核酸は、ヒト対象の特徴、例えば、対象の固有のHLAまたはKIR遺伝子型を規定するHLAまたはKIR配列である。さらに他の実施形態では、試料中のすべての配列は、例えば、ショットガンゲノム配列決定における標的核酸である。
【0031】
いくつかの実施形態では、試料中の核酸は、大規模並列配列決定のために形成された核酸のライブラリを含む。このような核酸は、配列決定プラットフォームに特異的なアダプターに隣接するインサート配列を含み得る。このような実施形態では、プローブ核酸は、安定なハイブリッドを形成し、本明細書に記載されている捕捉、濃縮および枯渇を可能にするために、インサート配列に対して十分に相補的である。
【0032】
いくつかの実施形態では、本発明は、試料中の核酸から特定の核酸を選択的に枯渇させる方法である。枯渇は、増幅、配列決定および任意のさらなる分析などの下流の用途で使用するために関心対象の核酸を濃縮する。試料からの1つまたは複数の核酸の枯渇または除去は、プローブおよびFANCAタンパク質を使用して、プローブと枯渇されるべき核酸との間に複合体を形成する。枯渇されるべき核酸は、リボソームRNA(rRNA)遺伝子または転写産物、ミトコンドリアDNA(mtDNA)遺伝子または転写産物、LINEおよびSINEエレメントを含む反復エレメント、ならびにグロビン遺伝子などの高度に発現された遺伝子の配列または転写産物などの過剰に存在する配列を含み得る。
【0033】
本発明は、試料から濃縮、捕捉または枯渇されるべき配列に捕捉プローブをハイブリダイズさせる工程を含む。プローブは、標的配列と安定なハイブリッドを形成する程度に少なくとも部分的に相補的なオリゴヌクレオチドプローブである。プローブの結合温度または融解温度(Tm)は、以下のように、従来のヌクレオチドの代わりに1つまたは複数の修飾されたヌクレオチドをプローブ中に組み込むことによって高められ得る。
【表1】
【0034】
プローブ-標的ハイブリッドの安定性を増大させるその他の核酸修飾には、ロックド核酸(LNA)などの骨格修飾が含まれる。いくつかの実施形態では、本発明は、ハイブリッド捕捉アッセイにおいてFANCAタンパク質を使用する方法であって、捕捉プローブの添加とともにまたは捕捉プローブの添加の前もしくは後に試料がFANCAタンパク質と接触される方法である。いくつかの実施形態では、捕捉反応は溶液中で行われ、試料核酸分子(標的核酸分子および非標的核酸分子を含む)、捕捉プローブおよびFANCAタンパク質は溶液中に存在する。いくつかの実施形態では、溶液は、マイクロウェル、マイクロ流体チャネルもしくはリザーバなどのマイクロリアクタ、または油中水型エマルジョンの一部である油に封入された液滴中に封入される。
【0035】
いくつかの実施形態では、標的捕捉反応は、ビオチン化されたプローブ、試料核酸およびFANCAタンパク質を適切なハイブリダイゼーション緩衝液中に含有する。ハイブリダイゼーションは、低温(氷を含む)、室温および最高45℃のさらに高い温度で行われる。特定の用途に最適な温度は、実験的に決定され得る。任意に、RAD52およびFANCGタンパク質の一方または両方が、FANCAタンパク質の活性を補うために添加される。
【0036】
ハイブリダイゼーション反応は、ハイブリダイゼーション緩衝液を含む。緩衝液は、5mM~100mM Tris-HCl(pH 6.5~8.5)、0mM~200mM NaCl、0mM~10mM EDTA、0mM~10mM DTT、0%~20%グリセロール、0%~40% DMSO、0%~2% Tween-20(v/v)、0%~10%ウシ血清アルブミン(w/v)を含み得る。あるいは、緩衝液は、5mM~100mM Na2HPO4(pH6.5~8.5)、5mM~100mM K2HPO4(pH6.5~8.5)、0mM~10mM KCl、0mM~200mM NaCl、0mM~10mM EDTA、0mM~10mM DTT、0%~20%グリセロール、0%~40% DMSO、0%~2% Tween-20(v/v)、0%~10%ウシ血清アルブミン(w/v)を含み得る。あるいは、緩衝液は、10mM~3M TMAC(pH6.5~8.5)、0M~4Mのベタイン、0mM~200mM MES、0mM~10mM EDTA、0mM~10mM DTT、0%~20%グリセロール、0%~40% DMSO、0%~2% Tween-20(v/v)、0%~10%ウシ血清アルブミン(w/v)を含有し得る。
【0037】
ハイブリダイゼーション反応は、FANCG(1nM~2mM)および/またはRAD52(1nM~2mM)を含むまたは含まないFANCA(1nM~2mM)も含む。反応は、血液、FFPE組織を含む組織、細胞株からのDNAもしくはRNA、無細胞循環DNAおよび/または合成もしくはアンプリコンDNAなどの核酸を、0.1nM~500nMの濃度までさらに含む。反応は、ビオチン化されたまたはその他化学的に修飾された核酸プローブ(0.1nM~2mM)をさらに含む。
【0038】
他の実施形態では、試料核酸分子および捕捉プローブのうちの1つの成分が固体支持体に結合される。いくつかの実施形態では、固体支持体は、DYNABEADS(商標)磁気ビーズ(ThermoFisher,Scientific,Waltham,Mass.)またはMAGPLEX(登録商標)ミクロスフェア(Luminex、Austin、Tex.)として入手可能な超常磁性球状ポリマー粒子などのガラスまたはポリマー粒子またはビーズを含む磁性粒子または磁化可能粒子などの微粒子である。いくつかの実施形態では、固体支持体は、スライドまたはアドレス指定可能なマイクロアレイを含むマイクロアレイを含むが、これらに限定されない二次元表面である。
【0039】
いくつかの実施形態では、本発明は、固体支持体上に固定されており、FANCAタンパク質を含む溶液中で別の生物由来のゲノム核酸と接触されている1つの生物由来のゲノム核酸を含むゲノムを比較する方法(比較ゲノムハイブリダイゼーション、CGH)である。
【0040】
いくつかの実施形態では、本発明は、固体支持体上に固定されており、FANCAタンパク質を含む溶液中で試験ゲノム由来のゲノム核酸と接触されている参照ゲノム由来のゲノム核酸を含む、一塩基変異もしくは多型(SNVもしくはSNP)またはコピー数多型(CNV)を含む変異を検出する方法である。いくつかの実施形態では、本発明は、固体支持体上に固定されており、FANCAタンパク質を含む溶液中で参照ゲノム由来のゲノ
ム核酸と接触されている試験ゲノム由来のゲノム核酸を含む、一塩基変異もしくは多型(SNVもしくはSNP)またはコピー数多型(CNV)を含む変異を検出する方法である。
【0041】
いくつかの実施形態では、本発明は、FANCAタンパク質を含む溶液中での1つまたは複数の標的特異的プライマーのアニーリングおよび伸長を含む、試料中の標的核酸をコピーし、任意に増幅する方法である。いくつかの実施形態では、該方法は、FANCAタンパク質の存在下で、標的にハイブリダイズする1つまたは複数の標的特異的プライマーを伸長することによって標的核酸の一方または両方の鎖を複製することを含む。いくつかの実施形態では、該方法は、FANCAタンパク質の存在下で、標的にハイブリダイズする1つまたは複数の標的特異的プライマーを伸長することによって標的核酸の一方または両方の鎖を増幅する工程を含み、増幅は直鎖プライマー伸長(linear primer extension)の過程による。いくつかの実施形態では、該方法は、FANCAタンパク質の存在下で、標的にハイブリダイズする1つまたは複数の標的特異的プライマーを伸長することによって標的核酸の一方または両方の鎖を増幅することを含み、増幅は、非対称PCR、ロングPCR、対立遺伝子特異的PCR、ライゲーション媒介PCR、ユニバーサルPCR、逆PCR、ホットスタートPCRなどを含むが、これらに限定されない当技術分野で公知のPCRのすべての変形を含むポリメラーゼ連鎖反応(PCR)の過程による。
【0042】
増幅反応は、1mM~300mM Tris-HCl(pH=6~9)、1mM~100mM MgCl、0mM~1M KCl、0%~5% Triton X-100(v/v)、0%~5% Tween-20(v/v)、0.1pg~10ug(25uL反応中)の鋳型DNA(血液、組織、細胞株、FFPE、無細胞循環DNA、ウイルスDNA、cDNAおよび合成またはアンプリコンDNA由来)、0.01μM~10μMプライマーおよびdNTP混合物:0.01mM~20mMなどの緩衝液を含み得る。反応は、用途に応じて適切な量および種類のDNAポリメラーゼをさらに含む(例えば、ロングレンジPCR、アンプリコンをベースとするNGSのためのPCR、ホットスタートPCR、高忠実度PCRなど)。ポリメラーゼは、マスターミックスの一部として、または鋳型DNAおよびプライマーを最初に変性させた後に添加され得る。いくつかの実施形態では、マスターミックスを添加したポリメラーゼは、ホットスタート能力を有し、例えば、変性温度に達するまで不活性である。
【0043】
いくつかの実施形態では、増幅反応は、65℃~100℃で1秒~10分間のDNA
試料の変性、0℃~45℃への冷却、ならびにFANCAおよび/またはFANCGおよび/またはRad52タンパク質の反応への添加、その後の5秒~24時間のインキュベーションを含む。次に、0℃~80℃で5秒間~30分間、プライマーを伸長させ得る。いくつかの実施形態では、反応は、標的配列の長さ、使用されるポリメラーゼの種類、および所望の収率に基づいて変化する標準的なサーモサイクラーパラメータにさらに供される。
【0044】
いくつかの実施形態では、FANCAは、プライマー伸長標的濃縮(PETE)の方法を改善するために使用される。PETEの複数のバージョンは、米国特許出願公開第14/910,237号、第15/228,806号、第15/648,146号および国際出願第PCT/EP2018/085727号に記載されている。手短に言えば、PETE法の共通の特徴は、バーコードを付けた標的特異的プライマーの一巡の伸長の第一の工程である。いくつかの実施形態では、本発明は、試料中のその標的への標的特異的プライマーの結合がFANCAタンパク質の存在下で起こる改良されたPETE法である。FANCAによって触媒されるプライマー結合は、技術水準と比較してより特異的かつ効率的である。
【0045】
いくつかの実施形態では、本発明は、過剰なプローブおよび非標的核酸を含む試料から捕捉された核酸を分離する工程をさらに含む。いくつかの実施形態では、捕捉工程は、プローブに結合された捕捉部分および捕捉部分に対するリガンドを利用した。捕捉部分は、ビオチンおよびその等価物(例えば、デスチオビオチン)から選択され得、リガンドは、アビジンおよびその等価物(例えば、ストレプトアビジン)から選択され得る。いくつかの実施形態では、プローブ-標的核酸ハイブリッドが捕捉され、反応混合物から分離される。結合した標的-プローブハイブリッドを分離するために、ガラスビーズまたはポリマー粒子(DYNABEADS(商標)またはMAGPLEX(登録商標)ミクロスフェア)を使用することができる。
【0046】
いくつかの実施形態では、FANCAの存在下で形成された標的-プローブハイブリッドは、エキソヌクレアーゼ消化によって非標的核酸および過剰なプローブから分離することができる。例えば、エキソヌクレアーゼVIIおよび他の一本鎖特異的エキソヌクレアーゼが使用され得る。
【0047】
いくつかの実施形態では、本発明は、ブロッキングプローブを使用して、ゲノム試料または複数の核酸配列を含む試料の複雑性を減少させる改善された方法である。ブロッキングプローブは、典型的には、反復配列(例えば、LINEおよびSINE)に結合するように設計される。ブロッキングプローブは、稀な変異体配列の検出を容易にするためにブロックする必要がある野生型配列に結合するようにも設計され得る。いくつかの実施形態では、本発明は、核酸試料の複雑性を低減させる改良された方法であって、試料中の核酸にブロッキングプローブを結合させる工程がFANCAタンパク質の存在下で行われる、方法である。FANCAによって触媒されるブロッキングプローブ結合は、現在の技術水準と比較してより特異的かつ効率的である。
【0048】
いくつかの実施形態では、本発明は、試料中の核酸から1つまたは複数の核酸を枯渇させる方法である。
【0049】
いくつかの実施形態では、本発明は、CRISPR-Cas系(Doudna J.,Mali P.,(2016).CRISPR-Cas:a laboratory manual.Cold Spring Harbor,NY)を使用するインビトロ遺伝子組換えの改良された方法である。CRISPR法の共通の特徴は、ガイドRNA(gRNA)を標的配列にハイブリダイズさせる最初の工程である。いくつかの実施形態では、本発明は、ガイドRNAのその標的への結合がFANCAタンパク質の存在下で起こる改良されたインビトロCRISPR組換え方法である。FANCAによって触媒されるgRNA結合は、現在の技術水準と比較してより特異的かつ効率的である。
【0050】
いくつかの実施形態では、本発明は、捕捉プローブによって捕捉された標的核酸を検出する工程をさらに含む。いくつかの実施形態では、検出は、捕捉された標的核酸の配列決定による。配列決定は、当技術分野で公知の任意の方法によって行うことができる。環状標的核酸を読み取ることができる高処理量の単一分子配列決定は、特に有利である。このような技術の例としては、SOLiDプラットフォーム(ThermoFisher Scientific,Foster City,Cal.)、Heliscope蛍光ベース配列決定装置(Helicos Biosciences,Cambridge,Mass.)、SMRTを利用するPacific BioSciencesプラットフォーム(Pacific BioSciences,Menlo Park,Cal.)または可逆的ターミネーターSequencing by Synthesis(SBS)(Illumina,San Diego,Cal.)を介して、Oxford Nanopore Technologies(Oxford,UK)もしくはRoche Sequencing Solutions(Roche Genia,Santa Clara,Cal.)によって製造されたものなどのナノポア技術を利用するプラットフォーム、および合成による配列決定を含むまたは含まない任意の他の現在存在するまたは将来のDNA配列決定技術が挙げられる。
【0051】
いくつかの実施形態では、本発明は、改良された配列決定ワークフローである(図3)。典型的な配列決定ワークフローは、ライブラリ調製工程を含む。この工程は、核酸ハイブリダイゼーションの1つまたは複数の段階を含む。標的濃縮工程の間、試料中の1つまたは複数の標的は、1つまたは複数の捕捉プローブ配列にハイブリダイズされる。いくつかの実施形態では、本発明は、捕捉プローブ結合がFANCAタンパク質の存在下で起こる改良された配列決定ワークフローである。FANCAによって触媒されるプローブ結合は、現在の技術水準と比較してより特異的かつ効率的であり、したがって標的濃縮工程および配列決定ワークフロー全体が改善される。
【0052】
いくつかの実施形態では、配列決定ワークフローは、標的特異的プライマーまたはユニバーサルプライマーのいずれかを用いる増幅工程を含む。この工程では、1つまたは複数のプライマー対が標的核酸にアニーリングする。いくつかの実施形態では、本発明は、増幅プライマーアニーリングがFANCAタンパク質の存在下で行われる改良された配列決定ワークフローである。FANCAによって触媒されるプライマーアニーリングは、現在の技術水準と比較してより特異的かつ効率的であり、したがって増幅工程および配列決定ワークフロー全体が改善される。
【0053】
いくつかの実施形態では、捕捉プローブは、適切な装置で検出することができる蛍光部分を含む。いくつかの実施形態では、酵素ベースの検出系が使用され、酵素基質が検出プローブに結合される。いくつかの実施形態では、検出可能な部分を有するプローブ-標的核酸ハイブリッドは、それらが検出され得る二次元固体支持体上に位置する。
【0054】
いくつかの実施形態では、本発明は、標的核酸を捕捉するための組成物または反応混合物である。新規組成物または反応混合物は、1つまたは複数の標的核酸と、標的と少なくとも部分的に相補的な1つまたは複数のプローブと、FANCAタンパク質とを含む。任意に、組成物または反応混合物は、鎖ハイブリダイゼーションを促進することまたはFANCA活性を増強することが公知の1つまたは複数のさらなるタンパク質をさらに含む。追加のタンパク質は、RAD52およびFANCGであり得る。
【0055】
いくつかの実施形態では、本発明は、標的核酸を捕捉するためのキットである。新規キットは、標的と少なくとも部分的に相補的な1つまたは複数のプローブとFANCAタンパク質とを含む。任意に、キットは、鎖ハイブリダイゼーションを促進することまたはFANCA活性を増強することが公知のさらなるタンパク質をさらに含む。追加のタンパク質は、RAD52およびFANCGであり得る。いくつかの実施形態では、キットは、顧客にとって関心のある標的核酸の特定のセットに対するカスタムプローブのセットを含む。いくつかの実施形態では、キットは、特定の用途のためのプローブのセットを含む。例えば、キットは、癌の診断、モニタリングおよび治療選択に関連する標的に対するプローブの1つまたは複数のセットを含み得る。このようなプローブのセットの例は、AVENIO ctDNA Analysisキット(Roche Sequencing Solutions,Inc.,Pleasanton,Cal)中のプローブである。キットは、ハイブリダイゼーション緩衝液、洗浄緩衝液、および本明細書に開示される方法に従ってFANCAタンパク質の存在下でハイブリダイゼーションを実施するための1組の説明書をさらに含み得る。
【0056】
いくつかの実施形態では、本発明は、標的核酸を複製または増幅するための組成物また
は反応混合物である。新規組成物または反応混合物は、1つまたは複数の標的核酸と、標的の複製または増幅を駆動することができる1つまたは複数のプライマーまたはプライマー対と、FANCAタンパク質とを含む。任意に、組成物または反応混合物は、鎖ハイブリダイゼーションを促進することまたはFANCA活性を増強することが公知の1つまたは複数のさらなるタンパク質をさらに含む。追加のタンパク質は、RAD52およびFANCGであり得る。
【0057】
いくつかの実施形態では、本発明は、核酸を複製または増幅するためのキットである。新規キットは、標的の複製または増幅を駆動することができる1つまたは複数のプライマーまたはプライマー対と、FANCAタンパク質とを含む。任意に、キットは、鎖ハイブリダイゼーションを促進することまたはFANCA活性を増強することが公知のさらなるタンパク質をさらに含む。追加のタンパク質は、RAD52およびFANCGであり得る。いくつかの実施形態では、キットは、顧客にとって関心のある標的核酸の特定のセットに対するカスタムプライマーのセットを含む。いくつかの実施形態では、キットは、特定の用途のためのプライマーのセットを含む。例えば、キットは、感染性疾患の検査に関連する標的に対するプライマーの1つまたは複数のセットを含み得る。このようなプライマーセットの例は、COBAS(登録商標)TaqScreen MPX Testキット(Roche Molecular Solutions,Inc.,Pleasanton,Cal.)中のプライマーである。キットは、増幅緩衝液と、dNTPSと、核酸ポリメラーゼと、本明細書に開示されている方法に従ってFANCAタンパク質の存在下で標的の複製または増幅を実施するための1組の説明書とをさらに含み得る。
【実施例0058】
[実施例1]FANCAタンパク質を使用する標的捕捉の改善された方法(予測)。
【0059】
本実施例では、典型的な標的捕捉反応は、ビオチン化されたプローブと、試料核酸と、FANCAタンパク質を適切なハイブリダイゼーション緩衝液中に含有する。ハイブリダイゼーションは、低温(氷を含む)、室温および最高45℃のさらに高い温度で行われる。任意に、RAD52およびFANCGタンパク質の一方または両方が、FANCAタンパク質の活性を補うために添加される。
【0060】
ハイブリダイゼーション反応は、以下のような緩衝液を含む:5mM~100mM Tris-HCl(pH6.5~8.5)、0mM~200mM NaCl、0mM~10mM EDTA、0mM~10mM DTT、0%~20%グリセロール、0%~40%
DMSO、0%~2% Tween-20(v/v)、0%~10%ウシ血清アルブミン(w/v)。あるいは、緩衝液は、5mM~100mM Na2HPO4(pH6.5~8.5)、5mM~100mM K2HPO4(pH6.5~8.5)、0mM~10mM KCl、0mM~200mM NaCl、0mM~10mM EDTA、0mM~10mM DTT、0%~20%グリセロール、0%~40% DMSO、0%~2% Tween-20(v/v)、0%~10%ウシ血清アルブミン(w/v)を含む。あるいは、緩衝液は、10mM~3M TMAC(pH6.5~8.5)、0M~4Mのベタイン、0mM~200mM MES、0mM~10mM EDTA、0mM~10mM DTT、0%~20%グリセロール、0%~40% DMSO、0%~2% Tween-20(v/v)、0%~10%ウシ血清アルブミン(w/v)を含む。
【0061】
ハイブリダイゼーション反応は、FANCG(1nM~2mM)および/またはRAD52(1nM~2mM)を含むまたは含まないFANCA(1nM~2mM)も含む。反応は、血液、FFPE組織を含む組織、細胞株からのDNAもしくはRNA、無細胞循環DNAおよび/または合成もしくはアンプリコンDNAなどの核酸を、0.1nM~500nMの濃度までさらに含む。反応は、ビオチン化されたまたはその他化学的に修飾された核酸プローブ(0.1nM~2mM)をさらに含む。
【0062】
鎖交換/鎖アニーリング反応を氷上または0℃~50℃の間の温度で行う。反応時間は1分~最大24時間である。
【0063】
任意に、各温度で、鎖アニーリングまたは鎖交換活性を有しないFANCA変異体(例えば、FANCA-F1263Δ)は陰性対照として使用される。標的核酸および捕捉プローブを含有する二重鎖は、ストレプトアビジンまたはプローブ修飾に特異的な任意の捕捉分子などの捕捉分子で捕捉され、放出され、配列決定される。標的核酸のカバレッジおよび提示を決定するために、配列を分析する。
【0064】
[実施例2]
FANCAタンパク質を使用するPCRの改善(予想)
【0065】
本実施例では、典型的なPCR反応は、ポリメラーゼ作用に必要なイオンおよび任意の補因子、ならびにFANCG(1nM~2mM)および/またはRAD52(1nM~2mM)を含むまたは含まないFANCAタンパク質(FANCA(1nM~2mM)とともに、PCRプライマー、試料核酸、耐熱性ポリメラーゼおよびdNTPを適切な緩衝液中に含有する。PCRは、適切なPCR温度プロファイルを使用して標準的な条件下で行う。PCR温度プロファイルのプライマーアニーリング工程は、FANCAタンパク質の存在下でのアニーリングの改善を考慮するために改変され得る(すなわち、短縮され、除去され、または異なる温度で行われる)。増幅産物は、適切な検出方法によって分析される。
【0066】
本実施例において、緩衝液は、1mM~300mM Tris-HCl(pH=6~9)、1mM~100mM MgCl、0mM~1M KCl、0%~5% Triton X-100(v/v)、0%~5% Tween-20(v/v)、0.1pg~10ug(25uL反応中)の鋳型DNA(血液、組織、細胞株、FFPE、無細胞循環DNA、ウイルスDNA、cDNAおよび合成またはアンプリコンDNA由来)、0.01μM~10μMプライマーおよびdNTP混合物:0.01mM~20mMおよびマスターミックスの一部として加えられたDNAポリメラーゼである。
【0067】
増幅反応は、65℃~100℃で1秒~10分間のDNA試料の変性、0℃~45℃
への冷却、ならびにFANCAおよび/またはFANCGおよび/またはRad52タンパク質の反応への添加、続いて5秒~24時間のインキュベーションを含む。次に、プライマーは、0℃~80℃で5秒間~30分間伸長させ得る。いくつかの実施形態では、反応は、標的配列の長さ、使用されるポリメラーゼの種類、および所望の収率に基づいて変化する標準的なサーモサイクラーパラメータにさらに供される。
参考文献
【0068】
Benitez,A.ら(2018).FANCA Promotes DNA Double-Strand Break Repair by Catalyzing Single-Strand Annealing and Strand Exchange.Molecular Cell,71,621-628。
【0069】
Bhargava,R.,Onyango,D.およびStark,J.(2016).Regulation of Single-Strand Annealing and its Role in Genome Maintenance.Trends
in Genetics,Vol.32,No.9,566-575。
【0070】
Ceccaldi,R.,Rondinelli,B.,and D’Andrea,A.(2016)Repair Pathway Choices and Consequences at the Double-Strand Break.Trends in Cell Biology.Vol.26,No.1,52-64。
【0071】
Palovcak,A.ら(2018)Stitching up broken DNA ends by FANCA.Mol Cell Oncol.Vol.5,No.6。
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2023-06-14
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載された発明。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0071
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0071】
Palovcak,A.ら(2018)Stitching up broken DNA ends by FANCA.Mol Cell Oncol.Vol.5,No.6。
以下に、出願時の特許請求の範囲の記載を示す。
[請求項1]
標的核酸配列を捕捉するための方法であって、
a)
i)1つまたは複数の標的配列を含んでもよいまたは含まなくてもよい核酸試料と、
ii)前記1つまたは複数の標的配列と少なくとも部分的に相補的な1つまたは複数のオリゴヌクレオチドプローブと、
iii)ファンコニ貧血相補群A(FANCA)タンパク質と、
を含む反応混合物を形成することと、
b)複数の標的-プローブハイブリッドを形成するために、前記1つまたは複数の標的配列と複数の前記プローブとの間のハイブリダイゼーションが前記FANCAタンパク質によって触媒される条件下で前記反応混合物をインキュベートすることと、
を含む、方法。
[請求項2]
前記核酸試料がゲノムDNAを含む、請求項1に記載の方法。
[請求項3]
前記核酸試料がRNA標的配列を含む、請求項1に記載の方法。
[請求項4]
少なくとも1つの前記標的配列が一塩基多型(SNV)を含む、請求項1に記載の方法。
[請求項5]
少なくとも1つの前記標的配列がゲノムコピー数多型(CNV)を含む、請求項1に記載の方法。
[請求項6]
前記複数のプローブが、捕捉部分に結合されたプローブを含む、請求項1に記載の方法。
[請求項7]
前記プローブが基板に固定されている、請求項1に記載の方法。
[請求項8]
前記複数のプローブが照合ヌクレオチドを含む、請求項1に記載の方法。
[請求項9]
前記反応混合物が、RAD52タンパク質またはFANCGタンパク質をさらに含む、請求項1に記載の方法。
[請求項10]
1つまたは複数のオリゴヌクレオチドプローブと、ファンコニ貧血相補群A(FANCA)タンパク質とを含む、配列特異的核酸捕捉のための組成物。
[請求項11]
核酸配列を捕捉するためのキットであって、1つまたは複数のオリゴヌクレオチドプローブと、ファンコニ貧血相補群A(FANCA)タンパク質とを含むキット。
[請求項12]
前記捕捉プローブが検出部分をさらに含む、請求項1に記載の方法。
[請求項13]
標的核酸配列を複製する方法であって、
a)
i)1つまたは複数の標的配列を含んでもよいまたは含まなくてもよい核酸試料と、
ii)前記1つまたは複数の標的配列と少なくとも部分的に相補的な少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプライマーと、
iii)ファンコニ貧血相補群A(FANCA)タンパク質と、
を含む反応混合物を形成することと、
b)前記1つまたは複数の標的配列と前記少なくとも1つのプライマーとの間のハイブリダイゼーションが前記FANCAタンパク質によって触媒される条件下で前記反応混合物をインキュベートすることと、
c)前記少なくとも1つのプライマーを伸長し、それによって前記1つまたは複数の標的配列を複製することと、
を含む、方法。
[請求項14]
標的核酸配列を増幅する方法であって、
a)
i)1つまたは複数の標的配列を含んでもよいまたは含まなくてもよい核酸試料と、
ii)前記1つまたは複数の標的配列と少なくとも部分的に相補的な少なくとも1対のフォワードおよびリバースオリゴヌクレオチドプライマーと、
iii)ファンコニ貧血相補群A(FANCA)タンパク質と、
を含む反応混合物を形成することと、
b)前記1つまたは複数の標的配列と前記少なくとも1対のフォワードおよびリバースオリゴヌクレオチドプライマーとの間のハイブリダイゼーションが前記FANCAタンパク質によって触媒される条件下で前記反応混合物をインキュベートすることと、
c)プライマー伸長、変性、プライマーハイブリダイゼーションおよびプライマー伸長の一連のサイクルにおいて、前記少なくとも1対のフォワードおよびリバースオリゴヌクレオチドプライマーを伸長させ、それによって前記1つまたは複数の標的配列を増幅することと、
を含む、方法。
[請求項15]
試料から核酸を選択的に枯渇させる方法であって、
a)前記試料を、枯渇されるべき核酸と少なくとも部分的に相補的な1つまたは複数のオリゴヌクレオチドプローブおよびファンコニ貧血相補群A(FANCA)タンパク質と接触させることと;
b)前記枯渇されるべき核酸と前記オリゴヌクレオチドプローブとの間のハイブリダイゼーションが前記FANCAタンパク質によって触媒される条件下で前記試料をインキュベートすることと;
c)工程b)で形成された複合体を前記試料から除去することと;
を含む、方法。
【外国語明細書】