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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103402
(43)【公開日】2023-07-26
(54)【発明の名称】メトトレキサート製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/519 20060101AFI20230719BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230719BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20230719BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20230719BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20230719BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20230719BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230719BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230719BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20230719BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230719BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230719BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20230719BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230719BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230719BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230719BHJP
   C07D 475/08 20060101ALN20230719BHJP
【FI】
A61K31/519
A61K9/08
A61K9/10
A61K47/12
A61K47/02
A61K47/14
A61K47/26
A61K47/10
A61P17/06
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P37/06
A61P35/00
A61P35/02
A61P21/00
C07D475/08
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023081484
(22)【出願日】2023-05-17
(62)【分割の表示】P 2021096385の分割
【原出願日】2015-10-28
(31)【優先権主張番号】1419261.1
(32)【優先日】2014-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】517154982
【氏名又は名称】セラカインド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】THERAKIND LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】フロドシャム,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ペントン,ジュリー-アン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】経口投与用の溶解度及び安定性に優れる液体メトトレキサート組成物を提供する。
【解決手段】組成物は、メトトレキサート遊離酸と緩衝剤とを含み、組成物のpHは、6.5乃至8.2の範囲である。液体医薬組成物の調製プロセスも記載されている。液体医薬組成物は、治療に有用である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メトトレキサート遊離酸と緩衝剤とを含む液体医薬組成物であって、組成物のpHは、6.5乃至8.2の範囲である組成物。
【請求項2】
前記組成物のpHは、6.6、6.7、6.8、6.9、又は7である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
pHは、6.8である、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
pHは、7である、請求項1又は2記載の組成物。
【請求項5】
緩衝剤の強度は、0.01乃至1Mの範囲である、何れかの先行請求項に記載の組成物。
【請求項6】
緩衝剤の強度は、0.01乃至0.1Mの範囲である、何れかの先行請求項に記載の組成物。
【請求項7】
緩衝剤の強度は、0.01M乃至0.06Mである、何れかの先行請求項に記載の組成物。
【請求項8】
緩衝剤の強度は、0.02M乃至0.05Mである、何れかの先行請求項に記載の組成物。
【請求項9】
緩衝剤の強度は、0.05Mである、何れかの先行請求項に記載の組成物。
【請求項10】
緩衝剤の強度は、0.02Mである、何れかの先行請求項に記載の組成物。
【請求項11】
前記緩衝剤は、クエン酸ナトリウム緩衝剤である、何れかの先行請求項に記載の組成物。
【請求項12】
前記緩衝剤は、リン酸緩衝剤である、何れかの先行請求項に記載の組成物。
【請求項13】
前記液体組成物は、溶液又は懸濁液である、何れかの先行請求項に記載の組成物。
【請求項14】
前記液体は、溶液である、請求項13記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物は、更に、1種以上の保存料を含む、何れかの先行請求項に記載の組成物。
【請求項16】
前記1種以上の保存料は、パラヒドロキシ安息香酸エチル及び/又はパラヒドロキシ安息香酸メチルを含む、請求項15記載の組成物。
【請求項17】
前記パラヒドロキシ安息香酸メチルは、パラヒドロキシ安息香酸メチルナトリウム塩である、請求項15又は16記載の組成物。
【請求項18】
前記組成物は、更に、1種以上の香味料化合物及び/又は甘味料を含む、何れかの先行請求項に記載の組成物。
【請求項19】
前記1種以上の香味料化合物及び/又は甘味料は、オレンジ香味料又はベリー香味料及び/又はスクラロースを含む、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記組成物は、更に、1種以上の共溶媒を含む、何れかの先行請求項に記載の組成物。
【請求項21】
前記組成物は、グリセロールを含む、何れかの先行請求項に記載の組成物。
【請求項22】
前記組成物は、ポリエチレングリコールを含む、何れかの先行請求項に記載の組成物。
【請求項23】
前記ポリエチレングリコールは、PEG400である、請求項22記載の組成物。
【請求項24】
何れかの先行請求項に記載の組成物であって、 0.4乃至20mg/mlのメトトレキサート遊離酸と、 PEG400と、 パラヒドロキシ安息香酸エチルと、 パラヒドロキシ安息香酸メチルナトリウム塩と、 グリセロールと オレンジ香味料と、 スクラロースと、 クエン酸ナトリウム緩衝剤又はリン酸緩衝剤と、を含む組成物。
【請求項25】
経口投与用である、何れかの先行請求項に記載の液体医薬組成物。
【請求項26】
何れかの先行請求項に記載の液体医薬組成物を調製するプロセスであって、緩衝剤をメトトレキサート遊離酸に加えてpHを6.5乃至8.2に調整することを含むプロセス。
【請求項27】
投与が経口経路によるものである治療に使用するための、請求項1乃至25の何れかに記載の組成物。
【請求項28】
治療を必要とする患者にメトトレキサートを投与する方法であって、請求項1乃至25の何れかに記載の液体医薬組成物の治療有効量を患者に経口投与することを含む方法。
【請求項29】
請求項1乃至25の何れかに記載の組成物又は請求項28記載の方法であって、前記治療は、乾癬、乾癬性関節炎、全身性皮膚筋炎、血清反応陰性関節炎、成人性関節リウマチ、抵抗性若年性関節リウマチ、多発性関節炎の形態の活動性若年性特発性関節炎(JIA)、移植片対宿主病、菌状息肉腫、脊椎関節症、脊椎関節症、強直性脊椎炎、新生物、急性リンパ芽球性白血病、髄膜白血病の予防、乳癌、膀胱癌、頭部癌、頸部癌、非ホジキンリンパ腫、骨肉腫、成人軟部肉腫、絨毛癌若しくは肺癌、造血器増殖症、又は他の任意の悪性腫瘍若しくはメトトレキサートの適応症となる状態に対するものである、組成物又は方法。
【請求項30】
前記患者は、子供である、請求項27乃至29の何れかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経口投与用の新規な液体メトトレキサート組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
メトトレキサート、又は4-アミノ-N10-メチルプテロイルグルタミン酸は、抗増殖及び免疫抑制剤である。メトトレキサートは、他の形態の治療には十分に反応しない乾癬性関節炎を含む重度の難治性乾癬と、関節リウマチの治療と、広範な新生物状態、例えば、絨毛性新生物、急性リンパ芽球性白血病、髄膜白血病の予防、非ホジキンリンパ腫、骨肉腫、乳癌、頭頸部癌、絨毛癌及び類似の絨毛性疾患、膀胱癌、及び他の様々な状態との治療とに用いられる。
【0003】
メトトレキサートは、2.5mg及び10mg錠の形態で英国において市販されている。小児又は高齢患者等、一部の患者集団では、固形錠剤製剤を嚥下するのが困難となる場合がある。メトトレキサートは、注射用の2.5mg/ml、25mg/ml、50mg/ml、又は100mg/ml溶液としても英国において販売されている。小児集団では、注射は許容可能だが、協力を促すために気晴らしの手法及び痛みを軽減する局所麻酔が必要になる場合がある。更に、子供の筋肉量は変わりやすいため、筋肉注射を施す際に適切な針挿入部位、針サイズ、及び注射角度が選択されない場合、神経損傷又は他の合併症につながる恐れがある。
【0004】
現在、子供に使用可能な製剤は、限定されている。成人の医薬品を子供への投与に適したものにする操作は、錠剤を精度よく破壊し、錠剤又は錠剤片を飲料に溶解させることが困難であるため、不正確な投薬をもたらす可能性がある。したがって、現在利用可能な製剤より安全で、より便利な治療が必要とされている。
【0005】
メトトレキサート遊離酸の化学構造は、式Iにより表される。メトトレキサート遊離酸は、ジカルボン酸官能性を有するグルタミン酸基を含む。カルボン酸基のpKa値は、2.15及び3.84である。
【化1】
【0006】
メトトレキサートは、水、アルコール、クロロホルム、及びエーテルには殆ど溶けず、アルカリ溶液には溶けやすく、塩酸には溶けにくいことが報告されている。薬剤溶液では、治療剤及び賦形剤の両方が、製品の保存可能期間全体に亘り溶液中に存在することが必須である。これは、治療剤の水溶解度が限定されている場合、特に課題となる。
【0007】
更に、メトトレキサートは、特に非常に低いpH及び非常に高いpHにおいて、ある程度の化学的不安定性を有する。
【0008】
製剤科学者にとって大きな課題は、最終組成物のpHを化学的安定性にとって最適なものにすると同時に、有効活性成分の許容可能な溶解度を達成することである。水溶解度は、経口投与剤形の経口バイオアベイラビリティを評価する際に考慮すべき主要な要素の1つである。経口バイオアベイラビリティが低くなる原因としては、溶解度が低いことに起因するものが最も多い。
【0009】
本発明の製剤の他の考慮点は、小児用製剤での使用に許容可能且つ安全であると判断される必要がある賦形剤の選択である。
【0010】
様々な研究から、メトトレキサートの溶解度にはpH依存性があることが明らかとなっている。メトトレキサート系製剤の報告は、Vaidyanathanらがメトトレキサートの50%(v/v)プロピレングリコール:水製剤の溶解度に対するpH上昇の影響を調べた1980年代に遡る。溶解度は、pH5.29においてpH4よりも有意に高く、ビヒクルのpHを6.34まで高めることで、薬物の溶解度は更に増加した。緩衝剤は、pHシフトを防ぐために用いられることが多い
が、メトトレキサート遊離酸の加水分解及び光分解を触媒して、緩衝系のイオン強度が高まるにつれて、分解率が増加する状態となることが明らかになっている。したがって、メトトレキサート遊離酸の溶液を処方する際には、pH及び緩衝剤の強度を慎重に考慮する必要がある。
【0011】
難溶性薬物の溶解度を高めるための様々な技術が知られており、粒子サイズの操作、塩形成、並びに界面活性剤、水溶性高分子、及びシクロデキストリンの使用が含まれる。US6309663は、界面活性剤の組み合わせを含む組成物を開示している。US6383471は、界面活性剤及びトリグリセリドを含む組成物を開示しており、US5925669は、高レベルのドコサヘキサエン酸を有するグリセリド油を含む組成物を開示している。US5472954は、シクロデキストリン-メトトレキサート薬物複合体を開示している。US4474752は、熱ゲル化高分子を含む持続放出組成物を開示し、US5770585は、メトトレキサートを肺へ投与するための水性ペルフルオロケミカル分散液を開示している。
【0012】
薬物の開発及び公知の薬物の再製剤化において、薬物を塩の形で使用することは一般的に行われている。これは、薬物の塩が優先的な特性を有することが知られているためである。公知の利点には、安定性の向上、溶解度、及び加工性の向上が含まれる。したがって、安定した製剤の開発において、塩は、一般に好ましい。他の多くの薬物と同様に、メトトレキサートは、塩形態として市販されており、様々な塩形態が利用可能である。市販されている多数の製品には、メトトレキサートのナトリウム塩が含まれており、これが選択されるのは、遊離酸と比較して溶解度が高いためである。EP2614814Aは、メトトレキサートの医薬的に許容可能な塩、具体的にはジナトリウム塩を含有する経口液剤を開示している。US2005101605も、液体メトトレキサート製剤を開示している。ここでも、全ての実施例でジナトリウム塩が使用されている。
【0013】
pH及び緩衝剤濃度も、最終的な製剤中に存在する保存料等の医薬的に許容可能な賦形剤の安定性及び溶解度に影響を与える。したがって、最終製品の最終的なpHは、有効成分の安定性及び溶解度にとって重要であると共に、保存料の安定性及び有効性に悪影響を与えないように慎重に選択する必要がある。小児用医薬品での使用が承認されている保存料は、比較的少ない。エチル及びメチルパラベンは、適しているものの、これらの保存料の有効性は、pHが高くなるにつれて低下することが明らかになっている。パラベンは、4乃至8の有効pH範囲を有すると報告されており、組み合わせることで、より効果的に作用することが明らかになっている。
【0014】
小児用液剤の販売を成功させるためには、液剤中の薬物の味を隠すことが重要となる。メトトレキサートには苦味があることが報告されており、この治療薬を味の良い経口液剤として製剤化することを更に難しくしている。許容される味、匂い、及び質感を達成することは、経口固体剤形の液体代替物を製剤化する際に課題となる場合が多い。一般に、小児用医薬品において好ましい風味は、柑橘類又はベリーの風味である。クエン酸緩衝剤を用いることで、経口剤形の風味が改善されることが知られている。ナトリウム塩も、幼児用の液状の医薬品の苦味を低減することが明らかになっている(Mennella JA, Beauchamp GK, “Optimizing oral medications for children”, Clin Ther. 2008; 30:2120-32)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】US2005101605
【特許文献2】EP2614814A
【特許文献3】US4474752
【特許文献4】US5472954
【特許文献5】US5770585
【特許文献6】US5925669
【特許文献7】US6309663
【特許文献8】US6383471
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Mennella JA, Beauchamp GK, “Optimizing oral medications for children”, Clin Ther. 2008; 30:2120-32
【発明の概要】
【0017】
驚くべきことに、メトトレキサートの遊離酸及び緩衝剤を含む液体組成物であって、pHが6.5乃至8.2の範囲にあるものは、メトトレキサート液剤について以前に報告された溶解度及び安定性の問題を克服することが分かった。この発見は、pH6.8のメトトレキサート遊離酸組成物が、pH6.2の組成物に比べ、化学的及び物理的に遙かに安定していることを示す本明細書で報告した研究に部分的に基づく。
【0018】
本発明の第1の態様によれば、メトトレキサート遊離酸及び緩衝剤を含む液体医薬組成物であって、組成物のpHは、6.5乃至8.2の範囲であるものが提供される。
【0019】
本発明の第2の態様によれば、上記液剤は、経口投与に適している。
【0020】
本発明の第3の態様によれば、上記液剤は、投与が経口経路によるものである治療において有用である。
【0021】
本発明の第4の態様によれば、上記液体医薬組成物を調製するプロセスは、緩衝剤をメトトレキサート遊離酸に添加してpHを6.5乃至8.2に調整することを含む。
【0022】
本発明の第5の態様によれば、治療を必要とする患者にメトトレキサートを投与する方法は、上記液体医薬組成物の治療有効量を患者に経口投与することを含む。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本明細書での使用において、「医薬的に許容可能な」という用語は、個体に投与された際に、有害反応、アレルギ反応、又は他の不都合又は不要な反応を発生させない任意の分子実体又は組成物を意味する。本明細書での使用において、「医薬的に許容可能な組成物」という用語は、「医薬組成物」と同義である。本発明の医薬組成物は、ヒト及び獣医学の用途で使用することができる。本発明の好適な実施形態において、本発明の組成物は、ヒト、最も好ましくは子供に投与される。本明細書に開示した医薬組成物は、単独で、又は他の有効成分と組み合わせて、個体に投与し得る。
【0024】
本明細書で使用される「子供」又は「小児患者」という用語は、18歳未満の患者を示す。好ましくは、子供は、0乃至16歳である。より好ましくは、子供は、0乃至12歳である。
【0025】
本明細書で使用される共溶媒という用語は、物質の溶解度を増加させる、液剤中に存在する任意の溶媒を意味する。共溶媒は、メトトレキサートの遊離酸の溶解度を高めることができる。
【0026】
本発明において、組成物のpHは、6.5乃至8.2の範囲である。
【0027】
好適な実施形態において、組成物のpHは、6.5乃至8.2又は6.5乃至8.0又は6.5乃至7.0の範囲である。他の好適な実施形態において、組成物のpHは、6.6乃至8.2又は6.6乃至8.0又は6.6乃至7.0の範囲である。好適な実施形態において、pHは6.6、6.7、6.8、又は6.9である。より好適な実施形態において、pHは、6.7又は6.8である。更に好適な実施形態において、pHは、6.8である。他のより好適な態様において、pHは、7である。
【0028】
特に好適な実施形態において、pHは6.8であり、緩衝剤の強度は、0.05Mである。他の特に好適な実施形態において、pHは、7.0であり、緩衝剤の強度は0.02Mである。
【0029】
結果的に生じる調製物が医薬的に許容可能となるならば、様々な緩衝剤を用いて本発明の医薬組成物を調製し得る。このような緩衝剤には、限定ではなく、酢酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、中性緩衝食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、及びホウ酸緩衝剤が含まれる。酸又は塩基を用いて、組成物のpHを必要に応じて調整することができると理解される。好適な実施形態において、緩衝剤は、クエン酸ナトリウム緩衝剤である。より好適な実施形態において、クエン酸ナトリウム緩衝剤は、クエン酸三ナトリウム、クエン酸、及び精製水を含む。他の好適な実施形態において、緩衝剤は、リン酸緩衝剤である。
【0030】
好ましくは、緩衝剤の強度は、0.01乃至0.1M又は0.01乃至1Mの範囲である。より好ましくは、緩衝剤の強度は、0.01M乃至0.06Mである。更に好適な実施形態において、緩衝剤の強度は、0.02M乃至0.06M、より好ましくは0.02M乃至0.05M、最も好ましくは0.02M又は0.05Mである。このような低強度の緩衝剤で安定した組成物が形成されるのは、驚くべきことである。
【0031】
有効成分及び/又は賦形剤は、可溶性にすること、又は所望の担体又は希釈剤中の懸濁液として送達することができる。本発明の好適な実施形態において、液体医薬組成物は、溶液である。
【0032】
好適な実施形態では、1種以上の保存料が使用される。使用される保存料は、パラヒドロキシ安息香酸エチル若しくはパラヒドロキシ安息香酸メチル又はそれらの医薬的に許容可能な塩、又は当該技術分野において公知の任意の適切な保存料にしてよい。更により好適な実施形態では、パラヒドロキシ安息香酸エチル又はパラヒドロキシ安息香酸メチルが使用される。更により好適な実施形態では、パラヒドロキシ安息香酸エチル及びパラヒドロキシ安息香酸メチルナトリウム塩が使用される。
【0033】
好ましくは、香味料化合物及び/又は甘味料が使用される。使用される香味料は、当該技術分野において公知の任意の適切な香味料にしてよい。好ましくは、香味料は、オレンジ又はベリー香味料である。使用される甘味料は、当該技術分野において公知の任意の適切な甘味料にしてよい。好適な実施形態において、甘味料は、スクラロースである。より好適な実施形態において、本発明の組成物は、オレンジ香味料及びスクラロースを含む。これにより美味性が向上することが分かった。本発明の緩衝剤は、オレンジ及びスクラロースとの相乗効果により、風味を改善すると考えられる。
【0034】
本発明において、1種以上の共溶媒が製剤中に存在してもよい。
【0035】
好適な実施形態では、グリセロールが使用される。これも味に対して肯定的な影響を与える。好ましくは、使用されるグリセロールは、Kollisolv(登録商標) G99である。
【0036】
本発明の他の好適な実施形態では、ポリエチレングリコールが、製剤中に存在する。より好ましくは、ポリエチレングリコールは、PEG400である。ポリエチレングリコールは、メトトレキサートの遊離酸の溶解度を高めると考えられる。
【0037】
特に好ましい実施形態では、グリセロール及びポリエチレングリコールが、製剤中に存在する。
【0038】
好ましくは、本発明の組成物は、メトトレキサート遊離酸と、1種以上の保存料と、1種以上の共溶媒と、香味料と、甘味料と、緩衝剤とを含む(好ましくは、これらからなる)。
【0039】
より好ましくは、本発明の組成物は、メトトレキサート遊離酸と、ポリエチレングリコールと、パラヒドロキシ安息香酸エチルと、パラヒドロキシ安息香酸メチルナトリウム塩と、グリセロールと、オレンジ香味料と、スクラロースと、クエン酸ナトリウム緩衝剤とを含む。
【0040】
本発明によれば、本発明の組成物中のメトトレキサート遊離酸の量は、0.4mg/ml乃至20mg/mlの範囲である。好ましくは、メトトレキサート遊離酸は、1mg/ml乃至10mg/mlの濃度で存在する。より好ましくは、メトトレキサート遊離酸は、1mg/ml乃至5mg/mlの濃度で存在する。
【0041】
賦形剤は、香味料、共溶媒、緩衝剤成分、及び保存料を含め、慎重に選択して、欧州医薬品庁の小児用医薬品の医薬開発のガイドラインに準拠させており、これは、成人に許容されている医薬賦形剤でも、必ずしも子供において同じように代謝又は除去されない場合があるためである。
【0042】
一態様においては、緩衝剤をメトトレキサート遊離酸に添加してpHを6.5乃至8.2に調整することを含む、本発明の液体医薬組成物を調製するためのプロセスが提供される。このプロセスにおいて、例えば緩衝剤を添加すること又は安定剤若しくは保存料を添加すること等、本発明の好適な組成物を調製するために、どのような追加工程が必要かは、当業者には公知であろう。このような組成物を調製するための日常的な手順及び条件は、当業者には公知であろう。
【0043】
本発明による医薬組成物は、有効成分を医薬的に許容可能な組成物に加工することを容易にする医薬的に許容可能な担体を任意に含み得る。本明細書での使用において、「医薬的に許容可能な担体」という用語は、投与された場合に長期間又は永久的な有害作用を実質的に有しない任意の担体を意味する。限定では無いが、水、溶媒、共溶媒、希釈剤等の水性媒体を含め、当業者に公知である任意の医薬的に許容可能な担体を使用することができる。更に賦形剤、アジュバント、又は香味料等を添加し得る。医薬的に許容可能な担体、賦形剤、アジュバント、又は香味料等が有効成分に適合する場合には、医薬的に許容可能な組成物において使用することが考えられる。
【0044】
本発明の組成物は、好ましくは経口投与に適している。好ましくは、投与が経口経路によるものである治療において有用となる。本発明の組成物は、溶液、シロップ、エリキシル、及び懸濁液を含む、任意の種類の経口液体にしてよい。
【0045】
本発明の組成物は、脊椎関節症、全身性皮膚筋炎、他の形態の治療には十分に反応しない乾癬性関節炎を含む重度の難治性乾癬、関節リウマチ、血清反応陰性関節炎、成人性関節リウマチ全身性皮膚筋炎、クローン病、多発性硬化症、多発性関節炎の形態の重度活動性若年性特発性関節炎、抵抗性若年性関節リウマチ、移植片対宿主病、狼瘡、モルフェア(限局性強皮症としても知られる)、強直性脊椎炎及び他の自己免疫疾患の治療と、広範な新生物状態、例えば、菌状息肉腫、造血器増殖症、絨毛性新生物、急性リンパ芽球性白血病、髄膜白血病の予防、非ホジキンリンパ腫、骨肉腫、乳癌、頭頸部癌、絨毛癌及び類似の絨毛性疾患、肺癌、膀胱癌、成人軟部肉腫、及び様々な他の悪性腫瘍、又は患者がメトトレキサート治療を必要とする他の任意の状態の治療とにおいて有用となり得る。
【0046】
本発明による治療は、患者の性別、年齢、又は状態と、1種以上の併用治療の存在又は不在等の様々な要因に応じて、一般に公知の方法で実施し得る。
【0047】
好ましくは、患者は、ヒトの患者である。しかしながら、本発明の製剤は、獣医学的用途でも使用し得る。
【0048】
製剤は、当業者に公知の適切な条件下で、例えば、III型アンバーガラスフラスコ、バイアル、又はボトル内で、保存するべきである。
【0049】
本発明に記載のメトトレキサート液体経口製剤及び調製プロセスを、以下の実施例において実証する。これらの実施例は、例示としてのみ記載しており、本発明の限定として解釈するべきではない。
【実施例0050】
実施例1:
【0051】
4種類の経口液剤を、以下の表に従って調製した。
【0052】
【表1】
【0053】
これらの製剤は、以下のように緩衝剤の強度/pHが異なる。
製剤1:0.05Mクエン酸ナトリウム緩衝剤、pH6.8
製剤2:0.05Mクエン酸ナトリウム緩衝剤、pH6.2(比較)
製剤3:0.1Mクエン酸ナトリウム緩衝剤、pH6.8
製剤4:0.1Mクエン酸ナトリウム緩衝剤、pH6.2(比較)
【0054】
試験
【0055】
製剤は、アンバーガラスボトルに保存し、チャイルドレジスタントクロージャにより密閉後、ICH安定条件で保存した。製剤の化学的及び物理的安定性は、定期的に観察した。
【0056】
結果
【0057】
本発明による全ての製剤は、25℃及び40℃で3ヶ月間保存後、外観又はpHの変化を示さなかった。このようなデータは、評価した条件下において、低い緩衝剤濃度が、製剤のpHを維持するのに十分であることを示している。
【0058】
類縁物質のデータ(不純物試験)は、製剤組成に関係無く、40℃で保存された全てのサンプルで総類縁物質が増加したことを示した。しかしながら、pH6.2に調整された製剤では、総関連物質が略5%となり、pH6.8に調整された製剤での略3.5%乃至4.5%と比較して、大きな増加を示した。
【0059】
3ヶ月保存後、製剤1は、最も低い不純物レベルを示した。この系は、3種類の代替系よりも大きな化学的安定性を提供すると思われる。
【0060】
保存1ヶ月後、製剤1及び3は透明であったが、製剤2及び4(比較)は沈殿を示した。これは、pH6.8の溶液がpH6.2の製剤よりも安定していることを示している。
【0061】
製剤1は、他の製剤より劣化が少なかった。pH6.8の製剤は、pH6.2の製剤よりも分解度が低かった。
【0062】
美味性試験において、オレンジ香料はベリー香料よりも味が良く、オレンジ香料、スクラロース、及び緩衝剤の間に相乗効果があることが示唆された。
【手続補正書】
【提出日】2023-06-15
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メトトレキサート遊離酸、緩衝剤、1種類以上の保存剤、及び1種類以上の共溶媒を含む小児用液体医薬組成物であって、前記組成物のpHは、6.8であり、前記緩衝剤の強度は、0.05Mであり、前記1種類以上の保存剤は、パラヒドロキシ安息香酸エチル及び/又はパラヒドロキシ安息香酸メチルを含み、前記1種類以上の共溶媒は、グリセロール、及び/又はポリエチレングリコールである、組成物。
【請求項2】
前記パラオキシ安息香酸メチルは、パラオキシ安息香酸メチルナトリウム塩である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記ポリエチレングリコールは、PEG400である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記緩衝剤は、クエン酸ナトリウム緩衝剤又はリン酸緩衝剤である、請求項1~3の何れかに記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物は、更に、1種類以上の香味料化合物及び/又は甘味料を含む、請求項1~4の何れかに記載の組成物。
【請求項6】
前記1種以上の香味料化合物及び/又は甘味料は、オレンジ香味料又はベリー香味料及び/又はスクラロースを含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1~6の何れかに記載の組成物であって、
0.4乃至20mg/mlのメトトレキサート遊離酸と、
PEG400と、
パラヒドロキシ安息香酸エチルと、
パラヒドロキシ安息香酸メチルナトリウム塩と、
グリセロールと、
オレンジ香味料と、
スクラロースと、
クエン酸ナトリウム緩衝剤と、を含む組成物。
【請求項8】
前記液体組成物が溶液又は懸濁液である、請求項1~7の何れかに記載の組成物。
【請求項9】
治療を必要とする患者にメトトレキサートを投与する方法に使用するための請求項1~8の何れかに記載の組成物であって、治療有効量の請求項1~8の何れかに記載の組成物を患者に経口投与投与することを含み、患者が小児である、前記組成物。
【請求項10】
請求項9記載の組成物であって、前記治療は、乾癬、乾癬性関節炎、全身性皮膚筋炎、血清反応陰性関節炎、成人性関節リウマチ、抵抗性若年性関節リウマチ、多発性関節炎の形態の活動性若年性特発性関節炎(JIA)、移植片対宿主病、菌状息肉腫、脊椎関節症、脊椎関節症、強直性脊椎炎、新生物、急性リンパ芽球性白血病、髄膜白血病の予防、乳癌、膀胱癌、頭部癌、頸部癌、非ホジキンリンパ腫、骨肉腫、成人軟部肉腫、絨毛癌若しくは肺癌、造血器増殖症、又は他の任意の悪性腫瘍若しくはメトトレキサートの適応症となる状態に対するものである、組成物。
【外国語明細書】