(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103448
(43)【公開日】2023-07-26
(54)【発明の名称】ガイドとして自身のカルレティキュリンを使用して癌細胞を食べるマクロファージ
(51)【国際特許分類】
A61K 45/06 20060101AFI20230719BHJP
A61K 31/4745 20060101ALI20230719BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20230719BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20230719BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20230719BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230719BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230719BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20230719BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20230719BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
A61K45/06
A61K31/4745
A61K39/395 N
A61K31/713
A61K31/519
A61P43/00 105
A61P25/00
A61P7/06
A61P7/00
A61P43/00 121
A61P35/00
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023083411
(22)【出願日】2023-05-19
(62)【分割の表示】P 2020200548の分割
【原出願日】2016-01-21
(31)【優先権主張番号】62/106,050
(32)【優先日】2015-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】515158308
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】ワイズマン,アーヴィング エル.
(72)【発明者】
【氏名】フォン,ミンギ
(72)【発明者】
【氏名】ボルクマー,イエンス-ペーター
(57)【要約】 (修正有)
【課題】癌細胞の食作用を増加させる方法を提供する。
【解決手段】食細胞の集団を、前記食細胞表面上のカルレティキュリンの発現を増加させるために効果的な用量のTLRアゴニストと、CD47遮断剤の有効量とに、接触させることを含み、前記食細胞による癌細胞のプログラムされた細胞除去が増加する、方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌細胞の食作用を増加させる方法であって、
食細胞の集団を、前記食細胞表面上のカルレティキュリンの発現を増加させるために効果的な用量のTLRアゴニストと、CD47遮断剤の有効量とに、接触させることを含み、
前記食細胞による癌細胞のプログラムされた細胞除去が増加する、
方法。
【請求項2】
前記接触させることが生体内で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記接触させることが生体外で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記食細胞はマクロファージである、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記TLRアゴニストはイミキモドである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記TLRアゴニストはポリI:Cである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記CD47遮断剤は抗体である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記抗体はCD47に特異的に結合する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記食細胞が、TLRアゴニスト及びCD47遮断剤に接触させた後、対象内へ導入される、請求項3に記載の方法。
【請求項10】
前記食細胞表面上のカルレティキュリンの発現が、前記導入する工程の前に測定される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
血液細胞を食作用から保護する方法であって、
前記血液細胞をBtk阻害剤に接触させることを含む、
方法。
【請求項12】
対象の血液細胞をBtk阻害剤に生体内で接触させる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記対象は骨髄異形成症候群を患っている、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記対象は自己免疫溶血性貧血(AIHA)を患っている、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記対象は免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)を患っている、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記Btk阻害剤はイブルチニブである、請求項11~15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
細網内皮系(RES)は免疫系の一部である。RESは、網状結合組織、主に単球及びマクロファージに位置する食細胞からなる。RESは、1)循環単球、2)肝臓、脾臓、リンパ節、胸腺、呼吸及び消化管の粘膜下組織、骨髄ならびに結合組織の常在マクロファージ、ならびに3)リンパ節の樹枝細胞を含むマクロファージ様細胞、皮膚のランゲルハンス細胞及び中枢神経系の小膠細胞からなる。
【0002】
これらの細胞は、リンパ節及び脾臓に蓄積する。RESは、病原体、循環血中の粒子状物質、及び老化または損傷した造血細胞を消去するように機能する。
【0003】
自然免疫応答の外来細胞または粒子を除去するために、ホスファチジルセリン受容体(PSR)がホスファチジルセリン(PS)に反応するとき、マクロファージ媒介の食作用は誘発され、アポトーシス及び壊死細胞などの死細胞の膜から外面化することができる。次に、PSとPSRとの間の相互作用は、マクロファージによるアポトーシス細胞の消失において重要な役割を果たす。一旦食作用がマクロファージにより実行されると、炎症反応は、IL-10、TGF-β及びプロスタグランジンE2(PGE2)などの因子の増加によって減少する。自然免疫及び獲得免疫の両方の炎症性ならびに抗炎症反応の間の厳格なバランスは、細胞恒常性を維持して、宿主を外部侵入から保護する際に重要な役割を果たす。
【0004】
炎症と腫瘍進行との因果関係は、広く受け入れられている概念である。データは現在、癌免疫監視の概念-免疫系の生理的機能のうちの1つは形質転換細胞を認識して、破壊すること-を支持する。しかし、いくつかの腫瘍細胞は、免疫系による認識及び破壊を免れることができる。一旦腫瘍細胞が免れると、免疫系は、例えば腫瘍の血管新生を促進することによって、その増殖に関与し得る。
【0005】
獲得免疫細胞及び自然免疫細胞は、腫瘍細胞の監視及び除去に関与している。しかし、それらが急速にコロニーを形成し、樹枝細胞(DC)及びナチュラルキラー(NK)細胞を引き寄せて活性化するサイトカインを分泌するので、単球/マクロファージは腫瘍の防御の第1線であり得て、それは形質転換細胞に対して適応免疫反応を順次に開始できる。
【0006】
遺伝子変異の進行、及び癌遺伝子を活性化し、増殖シグナルの自給自足、抗増殖シグナル、組織侵入及び転移に対する非感受性、十分には制御されていない複製能、維持される血管新生、ならびにアポトーシスを含む様々な経路による細胞死の回避を含む、大部分の癌細胞と共通するいくつかの特徴の遺伝に至る腫瘍抑制経路を不活性化するエピジェネティックリプログラミングによって、悪性細胞形質転換は生じる。これらの細胞固有の特性に加えて、最近のエビデンスは、多くの癌がいくつかの異なる機構により免疫系を回避することも可能である点を示唆する。
【0007】
細胞が食作用により消去されることを回避する機構の研究は、造血及び前駆幹細胞の移植成功を改善するための方法、ならびに身体から癌細胞を除去する改善された方法に対する手がかりを提供することができる。本発明は、このような、及び他の必要性を満たす。
【発明の概要】
【0008】
治療及び診断方法が提供され、その方法は、マクロファージ媒介のプログラムされた細胞除去(PrCR)に関する。TLRシグナル伝達に反応する食細胞、例えばマクロファージが、食細胞表面上のカルレティキュリン(CRT)の発現を上方制御することが、本明細書に示される。食細胞表面上のCRTは標的細胞、例えば癌細胞と相互作用して、PrCRを開始させる。食細胞の細胞によるCRTの上方制御は、ブルトン型チロシンキナーゼ(Btk)シグナル伝達経路を含むことが示されており、Btkの阻害は食細胞表面上のカルレティキュリンを下方制御し、それによってPrCRを減少させる。本発明の方法は、食細胞にTLRアゴニストを接触させることによってPrCRを増加させる、または食細胞にBTK阻害剤を接触させることによってPrCRを下方制御できる。例えば治療目的のために食細胞を刺激するために、接触は生体外で実行できる、または治療目的のために生体内で実行できる。食細胞表面上のCRTの発現は、細胞の食作用能を判定するためのバイオマーカーを提供する。
【0009】
本発明の一実施形態において、TLRシグナル伝達の活性化剤またはBTKアゴニストは、CD47の遮断と組み合わせて提供され、PrCrは、単独療法としていずれかの薬剤の存在下で、細胞除去と比較して増加する。いくつかの実施形態では、マクロファージを含む細胞集団は、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%までマクロファージの細胞表面上のCRTを増加させるために効果的であり、及び刺激されていない細胞と比較して2倍、3倍、5倍以上に発現を増加する場合がある、TLRアゴニストもしくはBTKアゴニストの用量に、生体外または生体外で接触する。このように処置した細胞の食作用のレベルは少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%であり得て、刺激されていない細胞と比較して2倍、3倍、5倍以上に食作用を増加させることができる。CD47とSIRPαとの相互作用を阻止する薬剤がある場合、TLRアゴニストもしくはBTKアゴニストの有効量で処置した細胞の食作用の漸増は、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%であり得て、及びCD47の遮断がない状態でTLRアゴニストで処置した細胞と比較して、2倍、3倍、5倍以上に食作用を増加させる場合がある。いくつかの実施形態において、CD47は抗体である。いくつかの実施形態において、抗体はhu5F9-G4である。
【0010】
生体内処置において、TLRアゴニストまたはBTKアゴニストは、レシピエントのPrCrを増加させるために十分な、例えば食細胞による腫瘍細胞の食作用により判定されるような、有効量及び一定期間で投与され得る。TLRアゴニストまたはBTKアゴニストは、CD47とSIPαとの相互作用を阻止する薬剤の有効量を併用投与される、または同時に投与されることができる。TLRアゴニストまたはBTKアゴニストは、特に癌細胞を標的とする薬剤、例えば腫瘍選択的標的に向けられる抗体を併用投与される、または同時に投与されることができる。
【0011】
TLRアゴニストまたはBTKアゴニストで生体外処置した食細胞は、癌治療のため個人に投与されることができ、細胞は全身にまたは局所的に、例えば腫瘍部位に投与される。細胞は、CD47とSIPαとの相互作用を阻止する薬剤の有効量を併用投与される、または同時に投与されることができる。細胞は、投与前に生体外で腫瘍細胞または腫瘍細胞抗原と接触させることができる。細胞は、特に癌細胞を標的とする薬剤、例えば腫瘍選択的標的に向けられる抗体を併用投与される、または同時に投与されることができる。
【0012】
食細胞、例えばマクロファージの食作用能は、細胞表面上のCRTの発現を測定することにより判定することができ、CRTの増加は食細胞の能力の増加に相当する。いくつかの実施形態では、マクロファージ細胞表面上のカルレティキュリンの発現は、CRT特異的抗体を有する細胞に接触させること、及び、例えば当該技術分野において周知のとおりフローサイトメトリー、ELISA、免疫組織化学などによって結合した抗体の量を測定することを含むが、これらに限定されないことにより、測定される。いくつかのこのような実施形態において、測定工程は、生体外で細胞をTLRアゴニストで処置した後に実施される。いくつかの実施形態では、測定は、既定レベル、またはTLRアゴニストで処置されない対照細胞と比較される。いくつかの実施形態では、CRTの既定レベルを有する細胞は、癌治療のため個人に投与され、細胞は全身にまたは局所的に、例えば腫瘍部位に投与される。
【0013】
本発明の他の実施形態において、イブルチニブ、抗BTK抗体などを含むがこれらに限定されない、BTK阻害剤は、過剰なまたは望ましくないPrCRを患っている個人に、治療用量で提供され、それは、以下に限定しないが、骨髄異形成症候群(MDS)、自己免疫溶血性貧血、免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)、リウマチ性関節炎を含む自己免疫疾患、全身エリテマトーデスなどを患っている個人を含む。Btk阻害剤の投与量は、食細胞上のCRTの発現を減少させるために十分であり、例えば少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%まで減少させて、刺激されていない細胞と比較して2倍、3倍、5倍以上に発現を減少させることができる。このように処置された細胞の食作用のレベルは少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%まで減少させることができ、刺激されていない細胞と比較して2倍、3倍、5倍以上食作用を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】TLRシグナル伝達の活性化は、生きた癌細胞の強化されたPrCRを導く。(A)左は、マクロファージによる生きた腫瘍細胞のPrCRを示す略図である。CD47の遮断は、「don’t eat me」経路上の「eat me」の不均衡を導き、それは、腫瘍細胞の食作用、Fc依存的(Fc-FcR相互作用により誘発)、またはFc独立的(赤で表示、Fc以外の癌特有の「eat me」シグナルを表す)を誘発する。右は、標的細胞としてSW620細胞(対照IgG処置、抗CD47抗体(B6H12)処置、またはCD47
KO)及びRAG2
-/-、γc
-/-マウスからのBMDMによる、食作用を誘発したCD47の遮断を示す、食作用アッセイである。Fc受容体遮断剤(FcRB)は、B6H12処置細胞の食作用をCD47
KO細胞と同じレベルに逆転させた。
**P<0.01、t検定。(B)標的細胞としてSW620細胞(PBS処置、抗CD47抗体(Hu5F9-G4)処置、またはCD47
KO)及びBALB/cマウスからのBMDMによる、TLRアゴニストのスクリーニングを示す、食作用アッセイである。スクリーニングで使用するTLRアゴニストは、Pam3CSK4(Pam,TLR1/2)、加熱殺菌リステリアモノサイトゲネス(HKLM、TLR2)、ポリ(I:C)HMW(ポリ(I:C)、TLR3)、リポ多糖体(LPS、TLR4)、ネズミチフス菌からのフラゲリン(FLA-ST、TLR5)、Pam2CGDPKHPKSF(FSL-1、TLR6/2)、イミキモド(Imi、TLR7)、クラスB CpGオリゴヌクレオチド(ODN1826、TLR9)であった。破線は、対照マクロファージ群の各条件(PBS処置、抗CD47抗体(Hu5F9-G4)処置またはCD47
KO)の2倍の食作用を示す。エラーバーは、標準偏差(A及びB)を表す。
【
図2】Btkは、癌細胞のPrCRを調整する重要なシグナル伝達分子である。(A)標的細胞としてSW620細胞(対照、またはCD47
KO)及びRAG2
-/-、γc
-/-マウスからのBMDMによる、併用したTLRアゴニスト及び下流のシグナル伝達分子を標的とする各種の阻害剤によるスクリーニングを示す、食作用アッセイである。スクリーニングで使用する阻害剤は、PD98059(PD、MEK阻害剤)、LY294002(LY、PI3K阻害剤)、イブルチニブ(Ibr、Btk阻害剤)、YVAD(YVAD、カスパーゼ-1阻害剤)であった。
**P<0.01(t検定、対照またはCD47
KO群の試料の間の比較、Imi-対照対他の条件)。(B)TLRアゴニスト(ポリ(I:C)HMW、LPS、イミキモド)により誘発されるBtkのリン酸化を示す免疫ブロットである。細胞が同時にTLRアゴニスト及びイブルチニブで処置されるとき、Btkリン酸化の誘発は弱くなった。総Btkは、変化を示さなかった。(C)及び(D)標的細胞としてSW620細胞
CD47KO及びNSGマウスからのBMDMによる、食作用のBtk活性剤(イミキモド)(C)及び阻害剤(イブルチニブ)(D)の時間的効果である。エラーバーは、標準偏差(A、C及びD)を表す。
【
図3】Btkは、マクロファージ上のCRTの細胞表面曝露を制御して、癌細胞のPrCRを調整する。(A)マクロファージ上のCRTの発現は、細胞表面ビオチン化アッセイによって試験した。細胞表面CRTがBtk活性化に応じて増加して、Btk阻害に応じて減少することを、免疫ブロットは示した。Imi:イミキモド、Ibr:イブルチニブ。(B)フローサイトメトリー分析によって試験した、TLR作用薬(ポリ(I:C)HMW、LPS、イミキモド)により誘発される、マクロファージ上のCRTの増加した細胞表面曝露である。破線は、対照マクロファージ群の各条件(PBS処置、抗CD47抗体(Hu5F9-G4)処置またはCD47
KO)の正規化した食細胞指数を示す。(D)J774細胞のCRTの過剰発現は、食作用を促進した。CRTの発現は、免疫ブロット法により試験した。SW620細胞(対照IgG-または抗CD47抗体(B6H12)処置)が、標的細胞として用いられた。
*P<0.05、
**P<0.01(t検定)。エラーバーは、標準偏差(C及びD)を表す。
【
図4】CRTは、癌細胞のPrCRを媒介する際のマクロファージ上の重要なエフェクターである。(A)マクロファージまたは癌細胞上のCRTをブロックする効果を示す食作用アッセイである。左は、実験の設計を示す概略図である。マクロファージ、標的細胞またはその両方は、CRT抗体で前処置されて、それから食作用アッセイを受けた。右は、マクロファージのCRTが、標的細胞としてSW620細胞(対照またはCD47
KO)及びRAG2
-/-、γc
-/-マウスからのBMDMによる、癌細胞の食作用に必要であること示す、食作用アッセイである。(B)示差的表面CRT発現レベルによる、マクロファージの食細胞の能力である。CRT
Low、CRT
Medium及びCRT
High集団の定義は、
図S8A~8Bに記載した。(C)正規化した腫瘍細胞食作用(Y軸)を、標的細胞としてSW620細胞(CD47
KO)及びRAG2
-/-、γc
-/-またはNSGマウスからのBMDMによる、マクロファージ上の正規化した細胞表面CRT発現(Log2、X軸)に対してプロットした。□:0、1、6、16、24時間のイミキモドで処置したNSGマウスからのBMDM、△:RAG2
-/-、γc
-/-マウスからのBMDM(CRT
Low、CRT
Medium、CRT
High及び混合集団)、○:NSGマウスからのBMDM(CRT
Low、CRT
Medium、CRT
High及び混合集団)。エラーバーは、標準偏差(A及びB)を表す。
【
図5】SW620細胞のTALEN介在のCD47ノックアウトである。(A)及び(B)フローサイトメトリー分析による、SW620
WT及びSW620
CD47KOの細胞表面CD47の試験である。細胞は、フィリコエリトリン(PE)共役抗CD47抗体(B6H12)またはPE共役アイソタイプ対照で染色した。フローサイトメトリー分析は、ヒストグラム(A)または等高線(S)で示した。
【
図6】TLRアゴニストによる、腫瘍細胞のPRCRのためのTLRシグナル伝達のスクリーニングである。(A)及び(B)標的細胞としてSW620細胞(PBS処置、抗CD47抗体(Hu5F9-G4)処置またはCD47
KO)、及びRAG2
-/-、γc
-/-マウス(A)またはNSGマウス(B)からのBMDMによる、腫瘍細胞の食作用を促進した、TLRアゴニスト(ポリ(I:C)HMW、LPS、イミキモド)によるマクロファージの処置を示す、食作用アッセイである。破線は、対照マクロファージ群の各条件(SW620+PBS、SW620+Hu5F9-G4またはSW620
CD47KO+PBS)の2倍の食作用を示す。(C)食作用を強化するTLRアゴニストを示す、代表的なフローサイトメトリーの図である。標的細胞としてSW620細胞(PBSまたはHu5F9-G4処置)、及びNSGマウスからのBMDMによる、癌細胞の食作用を強化するTLRアゴニストを示す、食作用アッセイである。食作用は、フローサイトメトリー分析によって試験した。マクロファージはPEcy7共役抗F4/80抗体で染色して、SW620細胞はGFPで標識した。右上角の正方形中の細胞はF4/80+GFP+細胞であり、癌細胞を貪食するマクロファージを表す。LPSによるマクロファージの処置は、その食細胞の能力を著しく強化した。エラーバーは、標準偏差(A及びB)を表す。
【
図7】HL60、Raji、PC-3、MDA-MB-231の食作用は、TLRアゴニストによって強化される。標的細胞として異なる造血(HL60及びRaji)及び固形腫瘍(PC3及びMDA-MB-231)細胞(PBSまたはHu5F9-G4処置)ならびにNSG(HL60、Raji及びPC3)またはRAG2
-/-、γc
-/-(MDA-MB-231)マウスからのBMDMによる、複数のヒト癌細胞の食作用を強化したTLRアゴニストを示す、食作用アッセイである。HL60:前骨髄球性白血病、Raji:バーキットリンパ腫、PC3:前立腺癌、MDA-MB-231:乳癌。エラーバーは、標準偏差(A~D)を表す。
【
図8】TLRアゴニストは、CD47遮断抗体の有効性を改善して、生体内で腫瘍の増殖を阻害する。(A)生物発光画像診断によって監視した、腫瘍増殖である。PC3前立腺癌細胞を、NSGマウスに移植した。マウスを、PBS、Hu5F9-G4またはHu5F9-G4+TLRアゴニスト(ポリ(I:C)HMW+LPS)で処置した(各群においてn=5、PBS対照群の1匹のマウスは8週目に腫瘍進行のため死亡した)。TLRアゴニストはHu5F9-G4の有効性を著しく強化して、腫瘍増殖を阻害した。(B)フローサイトメトリーによる腫瘍標本の分析である。(A)に記載されている実験の各群からの腫瘍標本を収集して、単細胞懸濁液を得るために解離した。細胞は、フローサイトメトリーにより分析した。抗CD31及び抗Gr-1抗体を用いて、内皮細胞(CD31)及び好中球(Gr-1)を除外した。マクロファージは抗F4/80抗体で標識した。a4(GFP+F4/80-)は腫瘍セル群を表し、a1(GFP-F4/80+)はマクロファージを表し、及びa2(GFP+F4/80+)は腫瘍細胞を貪食したマクロファージを表す。より少ない腫瘍細胞は、PBS群(56%)と比較して、Hu5F9-G4群(40%)で観察され、その一方で、腫瘍細胞はHu5F9-G4+TLRアゴニスト群でほとんど消失した(1.06%)。Hu5F9-G4群は進行中の食作用(a2)(39.3%対PBS群の2.18%)を示し、その一方で、Hu5F9-G4+TLRアゴニスト群は、ほとんど完了した腫瘍細胞の食作用(94.7%のマクロファージ(a1+a2)による、対Hu5F9-G4群46.26%及びPBS群23.8%)を示した。Hu5F9-G4が、生体内で腫瘍細胞のPrCRを誘発する際のHu5F9-G4の有効性を強化することを、これらの結果は示唆した。
【
図9】造血系のBtkの発現である。Gene Expression Commons(5)によって生成された、造血系のBtkの発現を示す、概略図である。遺伝子発現活性は、青(低)または赤(高)で標識した。Btkは、T細胞及びNK細胞を除いて、すべての列で表す。HSC:造血幹細胞、MPP:多能性前駆細胞、GMLP:顆粒球/マクロファージ/リンパ球性前駆細胞、pMEP/MEP:前/巨大球赤血球前駆細胞、CMP:骨髄球性共通前駆細胞、CLP:リンパ球性共通前駆細胞、Plt:血小板、Ery:赤血球、pGMP/GMP:前/顆粒球マクロファージ前駆細胞、MkP:巨大球収容前駆細胞、pCFU-E:前CFU-E、Gra:顆粒球、Mono:単球、BLP:Bリンパ球前駆細胞、iNK/mNK:中間/成熟ナチュラルキラー細胞、BM:骨髄、Spl:脾臓。
【
図10】Btkは、マクロファージ上のCRTの細胞表面曝露を調整することにより、PrCRを媒介する。(A)Btk拮抗作用による基準レベルのPrCRの阻害(静止マクロファージ)である。標的細胞としてSW620細胞(対照IgG処置、抗CD47抗体(B6H12)処置、またはCD47
KO)及びRAG2
-/-、γc
-/-マウスからのBMDMによる、Btkの遮断が、静止マクロファージ(TLRシグナル伝達によって刺激されていない)によって腫瘍細胞食作用を阻害することを示す、食作用アッセイである。マクロファージ及び標的癌細胞は、Btk遮断剤イブルチニブと共に、またはそれ無しで、示された条件下で16時間共培養した。細胞は、フローサイトメトリー分析によって試験した。残存する標的細胞は、より強力な食作用を表すより少ない残存する標的細胞と共に、食作用の有効性を評価するために使用した。CD47遮断(抗CD47抗体またはCD47
KO)により誘発されるFc依存的食作用及びFc独立的食作用は両方とも、Btk拮抗作用によってほとんど逆転した。(B)CRTの細胞表面発現は、フローサイトメトリー分析によって試験した。マクロファージ(対照、イミキモドまたはイミキモド+イブルチニブ)は、抗CRT抗体で分析した。イミキモドはマクロファージ上のCRTの細胞表面発現を増加させ、この効果はイブルチニブによって逆転した。(C)食作用を遮断する際のCRT抗体の用量反応である。食作用を遮断する際のCRT抗体、またはウサギIgG(対照)による、CRT拮抗作用の用量反応曲線である。食作用アッセイは、標的細胞としてSW620
CD47KO細胞、及びRAG2
-/-、γc
-/-マウスからのBMDMにより実施した。(D)CRT抗体またはイブルチニブが、標的細胞としてSW620細胞(対照IgG-または抗CD47抗体(B6H12)処置)及びヒトPBMC由来マクロファージにより、癌細胞の食作用を阻害すること示す、食作用アッセイである。
**P<0.01(t検定)。(E)BtkによるCRTのリン酸化。Btk活性化に応じてCRTリン酸化を示す免疫ブロットである。Mycタグ付加CRTはJ774細胞で発現して、イミキモド処置後、抗myc抗体により免疫沈降した。リン酸化CRTは、抗ホスホチロシン抗体で検出した。エラーバーは、標準偏差(A、C及びD)を表す。
【
図11】Btk活性化による細胞表面CRTの誘発は、マクロファージにおいて特異的である。(A)マクロファージ及び癌細胞のBtk発現の免疫ブロットである。Btkは、固形腫瘍細胞ではなく、マクロファージにおいて発現した。620:SW620、231:MDA-MB-231。(B~D)フローサイトメトリーによって試験した、マクロファージ(B)、大腸癌(SW620、C)及び乳癌(MDA-MB-231、D)細胞における、Btk活性化を伴うまたは伴わない、CRTの細胞表面発現である。Imi:イミキモド。
【
図12】マクロファージ上の表面CRT発現は、その食細胞の能力と関連している。(A)及び(B)示差的細胞表面CRT発現を伴う、マクロファージ亜集団である。対照条件またはイミキモド処置下で、RAG2
-/-、γc
-/-(A)またはNSG(B)マウスからのBMDM上のCRT発現を示す、FACSプロットである。CRT
Low、CRT
Medium及びCRT
High集団は画定されて、領域a、b及びcと標示した。未処置マクロファージの異なる群(容積-集団全体、CRT
Low-領域aの細胞、CRT
Medium-領域bの細胞、CRT
High-領域cの細胞)の食細胞の能力を、
図4Bに示した。(C)フローサイトメトリー分析によって抗CRT抗体で試験した、NSGマウスからのBMDM上のCRTの細胞表面発現におけるイミキモドの時間的効果(0、1、6、16、24時間の処置)である。(D)イミキモド処置後の異なる時点のCRTの平均蛍光強度値は、0hr及び変換した対数(Log2)に正規化された。
【
図13】M1及びM2ヒトマクロファージ上のCRTの細胞表面発現である。(A)及び(B)M1(A)及びM2(B)マクロファージの分化は、特異的マーカー(M1はCD80及びM2はCD163)で試験した。(C)及び(D)M1及びM2ヒトマクロファージ上のCRTの細胞表面発現を示す、FACSプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を更に説明する前に、本発明は記載する特定の実施形態に限定されておらず、したがって当然ながら変更することが可能であることを理解すべきである。本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるので、本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを説明する目的であり、限定するものでない点も理解されたい。
【0016】
値の範囲が提供される場合、その範囲の上限値及び下限値の間、文脈が別途明確に指示しない限り下限値の単位の10分の1まで各介在値、ならびにその言及された範囲の任意の他の表示値または介在値が本発明内に包含されると理解される。これらのより小さい範囲の上限値及び下限値は、より小さい範囲内にそれぞれ独立して含まれてもよく、言及された範囲内の具体的に除外された任意の値に従って本発明内にも包含される。言及された範囲がそれらの上限値及び下限値のうちの1つまたは両方を含む場合、それらの包含される上限値及び下限値のいずれかまたは両方を除外する範囲も本発明に包含される。
【0017】
本明細書で詳述した方法は、論理的に可能な詳述された事象の任意の順番で、同様に事象の詳述した順番で実施できる。
【0018】
別途定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する当業者が一般に理解する意味と同一の意味を有する。本明細書に記載されているものと同様または同等の任意の方法及び材料も、本発明を実施または試験するために使用することが可能であるが、好ましい方法及び材料を以下に記載する。
【0019】
本明細書で記すすべての刊行物は、刊行物が引用されたことに関する方法及び/または材料を開示かつ記載するために、参照により本明細書に組み込まれる。
【0020】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される場合、別途明記されない限り、単数形「a」「an」及び「the」は複数の指示物を含むことに留意しなければならない。特許請求の範囲が任意の要素を除外するように作成されてもよいことに更に留意する。したがって本記述は、特許請求の範囲の要素の列挙に関連した「単に」「のみ」の排他的な専門用語の使用のため、または「否定的な」限定の使用のための先行詞としての役目を果たすよう意図される。
【0021】
本明細書で示す出版物は、本出願の出願日前のその開示のためだけに提供される。本明細書におけるいずれの内容も、本発明が先行発明という理由でかかる刊行物に先行する権利を有しないことを認めるものと解釈されるべきではない。更に提供される刊行物の日付は実際の出版日とは異なる場合があり、それぞれ確認する必要があり得る。
【0022】
定義
カルレティキュリン。カルレティキュリンは417アミノ酸の多機能タンパク質であり、分子量は48kDaで、Ca2+イオンと結合して活性が失われる。Ca2+は低親和性だが高容量で結合し、シグナルで放出されることができる。カルレティキュリンは、小胞体に関連した貯蔵区画に位置することができ、そこで誤って折り畳まれたタンパク質と結合して、それらがゴルジ体に排出されることを防止する。カルレティキュリンは核にも存在しており、それが転写調節の役割を有し得ることを示唆する。カルレティキュリンは合成ペプチドKLGFFKRと結合しており、それは核内受容体のスーパーファミリーのDNA結合領域のアミノ酸配列とほぼ同一である。カルレティキュリンの遺伝子名はCALRであり、ヒト配列は、タンパク質登録番号NP_004334、ヌクレオチド登録番号NM_004343としてPubmedでアクセスできる。
【0023】
抗CD47剤。本明細書で使用する場合「抗CD47剤」という用語は、CD47(例えば、標的細胞上の)とSIRPα(例えば、食細胞)との結合を減少させる、任意の薬剤を指す。好適な抗CD47試薬の非限定例としては、高親和性SIRPαポリペプチド、抗SIRPα抗体、可溶性CD47ポリペプチド、ならびに抗CD47抗体、抗体フラグメント、ペプチド、小分子、ペプチド模倣薬などを含むがこれらに限定されない、SIRPα試薬を含む。いくつかの実施形態において、好適な抗CD47剤(例えば、抗CD47抗体、SIRPα試薬など)は、CD47のSIRPαへの結合を減少させるために、CD47に特異的に結合する。いくつかの実施形態において、好適な抗CD47剤(例えば、抗SIRPα抗体、可溶性CD47ポリペプチドなど)は、CD47のSIRPαへの結合を減少させるために、SIRPαに特異的に結合する。SIRPαに結合する好適な抗CD47剤は、(例えば、SIRPαを発現している食細胞中において)SIRPαを活性化しない。
【0024】
好適な抗CD47剤の有効性は、薬剤を分析することにより評価され得る。代表的なアッセイにおいて、標的細胞は、候補薬剤の存在下または非存在下で培養される。本発明で使用する薬剤は、薬剤の非存在下に比べて、食作用及びその後のT細胞の活性化を少なくとも10%(例えば、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、少なくとも120%、少なくとも140%、少なくとも160%、少なくとも180%、または少なくとも200%)まで上方制御する。同様に、SIRPαのチロシンリン酸化のレベルの生体外アッセイは、候補薬剤の非存在下で観察されるリン酸化に比べて、少なくとも5%(例えば、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも100%)までリン酸化の減少を示す。
【0025】
いくつかの実施形態において、抗CD47剤は、結合においてCD47を活性化しない。CD47が活性化された場合、アポトーシス(すなわちプログラムされた細胞死)に類似のプロセスが生じ得る(Manna and Frazier(2004)「Cancer Research」64:1026-1036)。したがって、いくつかの実施形態において、抗CD47剤は、CD47発現細胞の細胞死を直接には誘発しない。
【0026】
SIRPα試薬。SIRPα試薬は、通常シグナル配列及び膜貫通ドメインの間に位置し、認識可能な親和性でCD47に結合するために十分なSIRPαの部位、または結合活性を維持したそのフラグメントを含む。好適なSIRPα試薬は、天然タンパク質SIRPα及びCD47の間の相互作用を減少(例えば遮断、防止など)させる。SIRPα試薬は、通常少なくともSIRPαのd1ドメインを含む。いくつかの実施形態において、SIRPα試薬は、例えば第2ポリペプチドとインフレームで融合した、融合タンパク質である。いくつかの実施形態において、第2ポリペプチドは、融合タンパク質の大きさを増大させることができ、例えば、これにより、融合タンパク質が循環血から急速に取り除かれることはない。いくつかの実施形態において、第2ポリペプチドは、免疫グロブリンFc領域の一部または全体である。Fc領域は、「eat me」シグナルを提供することにより食作用を援助し、高親和性のSIRPα試薬により提供される「don’t eat me」シグナルの遮断を強化する。他の実施形態において、第2ポリペプチドは、実質的にFcと同様であり、例えば、増大した大きさ、多量体化ドメイン、及び/またはIg分子との付加的な結合もしくは相互作用を提供する、任意の好適なポリペプチドである。
【0027】
いくつかの実施形態において、対象の抗CD47剤は、SIRPα由来のポリペプチド及びその類似体を誘発する「高親和性SIRPα試薬」である。高親和性SIRPα試薬は、国際出願PCT/US13/21937号に記載されており、これは参照により具体的に本明細書に組み込まれる。高親和性SIRPα試薬は、天然のSIRPαタンパク質の変異体である。いくつかの実施形態において、高親和性SIRPα試薬は可溶性であり、そのポリペプチドはSIRPα膜貫通ドメインを欠き、野生型SIRPαの配列と比べて少なくとも1つのアミノ酸変化を含み、アミノ酸変化は、例えば少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも500倍以上までオフ速度を減少させることにより、CD47に結合するSIRPαポリペプチドの親和性を増大させる。
【0028】
高親和性SIRPα試薬は、通常シグナル配列と膜貫通ドメインとの間に位置し、認識可能な親和性、例えば高親和性でCD47に結合するために十分なSIRPαの一部、または結合活性を維持したそのフラグメントを含む。高親和性SIRPα試薬は、通常、親和性を増加するように改変されたアミノ酸残基を備える、SIRPαのd1ドメインを少なくとも含む。いくつかの実施形態において、本発明のSIRPαの変異体は、例えば第2ポリペプチドとインフレームで融合した、融合タンパク質である。いくつかの実施形態において、第2ポリペプチドは、融合タンパク質の大きさを増大させることができ、例えば、これにより、融合タンパク質が循環血から急速に取り除かれることはない。いくつかの実施形態において、第2ポリペプチドは、免疫グロブリンFc領域の一部または全体である。Fc領域は、「eat me」シグナルを提供することにより貪食を援助し、高親和性のSIRPα試薬により提供される「don’t eat me」シグナルの遮断を強化する。他の実施形態において、第2ポリペプチドは、実質的にFcと同様であり、例えば、増大した大きさ、多量体化ドメイン、及び/またはIg分子との付加的な結合もしくは相互作用を提供する、任意の好適なポリペプチドである。増大した親和性を提供するアミノ酸変化はd1ドメインに局在化されて、したがって高親和性のSIRPα試薬は、d1ドメイン中の野生型配列に比べて少なくとも1つのアミノ酸変化を有するヒトSIRPαのd1ドメインを含む。そのような高親和性SIRPα試薬は、所望により、付加的なアミノ酸配列、例えば抗体Fc配列;天然タンパク質またはそのフラグメント、通常d1ドメインに隣接するフラグメントの残基150~374を含むがこれらに限定されない、d1ドメイン以外の野生型ヒトSIRPαタンパク質の一部などを含む。高親和性のSIRPα試薬は、単量体または多量体、すなわち二量体、三量体、四量体などであり得る。
【0029】
抗CD47抗体。いくつかの実施形態において、対象の抗CD47剤は、CD47に特異的に結合する抗体(すなわち、抗CD47抗体)であり、1つの細胞(例えば、感染細胞)上のCD47と、他の細胞(例えば、食細胞)上のSIRPαとの相互作用を減少させる。いくつかの実施形態において、好適な抗CD47抗体は、結合する際、CD47を活性化しない。好適な抗体の非限定例としては、クローンB6H12、5F9、8B6、及びC3(例えば、国際特許公開第WO2011/143624号に記載されており、参照により具体的に本明細書に組み込まれる)がある。好適な抗CD47抗体は、完全ヒト抗体、ヒト化抗体、またはそのような抗体のキメラ版を含む。ヒト化抗体(例えば、hu5F9-G4)は、その低抗原性のため、ヒトの生体内適用に特に有用である。同様にイヌ化、ネコ化などの抗体はイヌ、ネコの適用に特に有用であり、他の種においてもそれぞれ同様である。目的の抗体は、ヒト化抗体、またはイヌ化抗体、ネコ化抗体、ウマ化抗体、ウシ化抗体、ブタ化抗体など及びその変異体を含む。
【0030】
抗SIRPα抗体。いくつかの実施形態において、対象の抗CD47剤は、SIRPαに特異的に結合する抗体(すなわち、抗SIRPα抗体)であり、1つの細胞上のCD47と別の細胞上のSIRPαとの間の相互作用を減少させる。好適な抗SIRPα抗体は、SIRPαの活性化が食作用を阻害するので、SIRPαによるシグナル伝達を活性化または刺激せずに、SIRPαに結合できる。代わりに好適な抗SIRPα抗体は、標的細胞の食作用を促進する。したがって好適な抗SIRPα抗体は、SIRPαに特異的に結合し(食作用を阻害するためにシグナル伝達応答を十分に活性化/刺激することなく)、SIRPαとCD47との間の相互作用を遮断する。好適な抗SIRPα抗体は、完全ヒト抗体、ヒト化抗体またはそのような抗体のキメラ版を含む。同様にイヌ化、ネコ化などの抗体はイヌ、ネコの適用に特に有用であり、他の種においてもそれぞれ同様である。目的の抗体は、ヒト化抗体、またはイヌ化抗体、ネコ化抗体、ウマ化抗体、ウシ化抗体、ブタ化抗体など及びその変異体を含む。
【0031】
可溶性CD47ポリペプチド。いくつかの実施形態において、対象の抗CD47剤は、SIRPαに特異的に結合する可溶性CD47ポリペプチドであり、1つの細胞上のCD47と別の細胞上のSIRPαとの間の相互作用を減少させる。好適な可溶性CD47ポリペプチドは、SIRPαによるシグナル伝達を活性化または刺激することなく、SIRPαに結合できる。好適な可溶性CD47ポリペプチドは、標的細胞の貪食を促進する。したがって好適な可溶性CD47ポリペプチドは、食作用を阻害するためにシグナル伝達応答を十分に活性化/刺激することなく、SIRPαに特異的に結合する。
【0032】
場合によっては、好適な可溶性CD47ポリペプチドは、融合タンパク質であり得る(例えば、米国特許公開第2010/0239579号に構造的に記載されており、参照により具体的に本明細書に組み込まれる)。しかし、SIRPαを活性化/刺激しない融合タンパク質のみが本明細書において開示される方法に適している。好適な可溶性CD47ポリペプチドは、SIRPαに特異的に結合することができ、食作用を阻害するために十分なSIRPαの活性を刺激することなく、CD47とSIRPαとの間の相互作用を阻害できる変異体または自然に存在するCD47配列(例えば、細胞外ドメイン配列または細胞外ドメイン変異体)を含む、任意のペプチドまたはペプチドフラグメントも更に含む。
【0033】
特定の実施形態では、CD47の細胞外部分が通常142アミノ酸長であり、配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するように、可溶性CD47ポリペプチドは、シグナルペプチド(配列番号2)を含有するCD47の細胞外ドメインを含む。本明細書に記載の可溶性CD47ポリペプチドは、少なくとも65%~75%、75%~80%、80%~85%、85%~90%または95%~99%(または65%~100%の間で具体的に列挙しない任意の同一パーセント)のアミノ酸配列を含み、SIRPαシグナル伝達を刺激せずに、SIRPαに結合する能力を維持するCD47細胞外ドメイン変異体も更に含む。
【0034】
特定の実施形態において、シグナルペプチドのアミノ酸配列は、別のポリペプチド(例えば、免疫グロブリンまたはCTLA4)由来のシグナルペプチドのアミノ酸配列で置換され得る。例えば、外側細胞膜を横断する細胞表面ポリペプチドである完全長CD47とは異なり、可溶性CD47ポリペプチドは分泌される。したがって、可溶性CD47ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、通常細胞から分泌されるポリペプチドに関連するシグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み得る。
【0035】
他の実施形態において、可溶性CD47ポリペプチドは、シグナルペプチドを欠くCD47の細胞外ドメインを含む。例示的な実施形態において、シグナルペプチドを欠くCD47細胞外ドメインは、配列番号1で示されるアミノ酸配列(124アミノ酸)を有する。本明細書に記載されるように、シグナルペプチドはタンパク質の移行の間に分離される、またはシグナルペプチドは外側の細胞膜に係留されたままである(このようなペプチドはシグナルアンカーとも称される)のいずれかであるため、シグナルペプチドは分泌したまたは膜貫通タンパク質の細胞表面に曝露されない。CD47のシグナルペプチド配列は、前駆体CD47ポリペプチドから生体内分離されると考えられている。
【0036】
他の実施形態において、可溶性CD47ポリペプチドは、CD47細胞外ドメイン変異体を含む。このような可溶性CD47ポリペプチドは、SIRPαシグナル伝達を刺激することなく、SIRPαと結合する能力を維持している。CD47細胞外ドメイン変異体は、配列番号1と少なくとも65%~75%、75%~80%、80~85%、85%~90%または95%~99%同一であるアミノ酸配列を有し得る(記載された範囲のいずれか1つの間の任意の同一パーセントを含む)。
【0037】
自然免疫。自然免疫系は、病原体抗原に対して細胞の防御を提供する、原始的細胞応答である。自然免疫系によるこれらの抗原の認識は、TNF、IL-1、IL-6及びIL-8などのサイトカインの生成、ならびにとりわけICAM-1及びE-セレクチンの遺伝子活性化を特徴とする炎症反応をもたらす場合がある。
【0038】
広範な種類の病原体、例えばウイルス、細菌及び真菌は、病原体関連分子パターン(PAMP)と呼ばれる1組の特定種類の変異耐性分子を恒常的に発現し得る。これらの微生物分子マーカーは、タンパク質、炭水化物、脂質、核酸及び/またはこれらの組み合わせからなることができて、内部にまたは外部に位置できる。例としては、エンドトキシンリポ多糖体(LPS)、1本鎖または2本鎖RNAなどを含む。
【0039】
通常、PAMP受容体(PRR)は非クローンであり、すなわち所定の種類のすべての細胞で発現し、生殖細胞系にコードされる、または免疫記憶に依存しない。一旦結合すると、PRRはクラスター化して、複合体に他の細胞外及び細胞内タンパク質を補充して、転写に最終的に影響を与えるシグナル伝達カスケードを開始する傾向がある。更にPRRは、病原体検出に反応して、補体の活性化、凝固、食作用、炎症、及びアポトーシス機能に関与している。それぞれが特定のPAMPリガンド、発現パターン、シグナル伝達経路及び抗病原体反応を有する、補体、グルカン、マンノース、スカベンジャーならびにtoll様受容体を含む、数種類のPRRがある。
【0040】
Toll様受容体は、様々な数の細胞外N末端ロイシンリッチリピート(LRR)モチーフ、続いてシステインリッチ領域、TMドメイン、及び細胞内Toll/IL-1R(TIR)モチーフを有する、I型膜貫通(TM)PRRである。LLRドメインは、リガンド結合及び関連するシグナル伝達にとって重要であり、PRRの一般的な特徴である。TIRドメインは、タンパク質間相互作用において重要であり、通常、自然免疫と関連する。TIRドメインは更に、3つのサブグループからなるより大きいIL-1R/TLRスーパーファミリーを結合する。ヒトTLRファミリーは、少なくとも10個の要素、TLR1~10からなる。各TLRは、その発現パターン及びPAMP感受性において特異的である。
【0041】
Toll様受容体3(TLR3)は、2本鎖RNA(dsRNA)及びその模倣物、ウイルス感染と関連する分子パターンを認識する。それは染色体4q35に位置しており、その配列は、24のN末端LRR及び97kDaの計算上の分子量を有する推定上の904aaタンパク質をコードする。TLR3は、TLR5、TLR7及びTLR8に最も密接に関連があり、それぞれ26%の全体aa配列同一性を有する。TLR3mRNAは、グラム陰性細菌への、及びグラム陽性細菌に反応して更により大きな範囲への曝露の後、増加する。
【0042】
TLR3は具体的には2本鎖RNA(dsRNA)を認識して、多くのウイルス感染に対する自然抗ウイルス免疫の原因である、複数の細胞内事象を誘発する。予測904アミノ酸TLR3タンパク質は、特徴的なTollモチーフ、細胞外ロイシンリッチリピート(LRR)ドメイン及び細胞質インターロイキン-1受容体様領域を含む。
【0043】
2本鎖RNA(dsRNA)またはポリイノシン-ポリシチジン酸(ポリ(I:C))、合成dsRNA類似体への曝露は、インターフェロンα及びβの生成を誘発し、TLR3によるシグナル伝達によってNFκBを活性化する。IRF3は具体的には、TLR3またはTLR4の刺激によって誘発され、それは自然抗ウイルス応答の原因である特定の遺伝子プログラムを媒介する。TRIFは、NFKBのTLR3依存活性化に必要である。それは、TLR3誘発NFKB活性化を媒介するために、RIP1及びTLR3を結合するアダプタータンパク質として機能する。
【0044】
Toll様受容体4は、ヒトにおけるTLR4遺伝子によってコードされる、タンパク質である。それはグラム陰性細菌からリポ多糖体を検出して、したがって自然免疫系の活性化において重要である。この受容体は、胎盤及び白血球の骨髄単球の亜集団において、最も豊富に発現する。ヒトTLR4遺伝子はGenbankでNM_003266.3でアクセスでき、タンパク質はGenbankでNP_003257.1でアクセスできる。
【0045】
TLR4の活性化は、TNF-α及びインターロイキン-1を含有する炎症調節因子の下流放出を導く。アゴニストは、モルヒネ、オキシコドン、フェンタニル、メタドン、リポ多糖体(LPS)、カルバマゼピン、オクスカルバゼピンなどを含む。
【0046】
TLRアゴニスト。TLRアゴニストは、TLR3、TLR4及びRIG1を含むがこれらに限定されない、TLRを活性化する。TLRアゴニストの例は、病原体関連分子パターン(PAMP)及びその模倣物を含む。これらの微生物分子マーカーは、タンパク質、炭水化物、脂質、核酸及び/またはこれらの組み合わせからなることができて、当該技術分野において周知のとおり、内部にまたは外部に位置できる。例としては、LPS、ザイモサン、ペプチドグリカン、フラゲリン、合成TLR2アゴニストPam3cys、Pam3CSK4、MALP-2、イミキモド、CpG ODNなどを含む。
【0047】
TLR3アゴニストは、2本鎖RNA、ポリ(I:C)、ポリ(A.U)などを含み、このような核酸は通常、少なくとも約10bp、少なくとも約20bp、少なくとも約50bpの大きさを有しており、約1~約20kb、通常約50以下~100kbの高分子量を有することができる。代替的なTLR3アゴニストは、タンパク質、例えばTLR3と選択的に結合して、活性化する抗体または小分子と、直接結合できる。他のTLR3アゴニストは、レトロウイルス、例えばゲノムに統合される能力を欠くように設計されたレトロウイルスを含む。
【0048】
本発明の方法に効果的なアゴニストの用量は、TLRアゴニストの非存在下の同じ母集団と比較して、食細胞または細胞集団上のCRTの発現を増加させる用量である。
【0049】
例えばポリI:Cまたはその類似体のTLRアゴニストでは、有効量は、少なくとも約10ng/ml、少なくとも約50ng/ml、少なくとも約100ng/ml、少なくとも約250ng/ml、少なくとも約500ng/mlであり得る。ポリI:C以外のTLRアゴニストの用量は、最適化したポリI:Cと同等の活性の提供に基づいて算出されることができる。
【0050】
TLR3、4、7/8及び9アゴニストは、癌を治療する免疫療法薬として特に関心の対象である。限定されるものではないが、852A:ウイルスssRNAに類似した合成イミダゾキノリン、VTX-2337:ウイルスssRNAに類似した小分子選択的TLR8アゴニスト、BCG:カルメット-ゲランのバチルス、マイコバクテリウムボビス、CpG ODN:CpGオリゴデオキシヌクレオチド、イミキモド:ウイルスssRNAに類似した合成イミダゾキノリン、LPS:リポ多糖体、MPL:モノホスホリルリピドA、ポリI:C:ポリリボイノシン-ポリリボシチジル酸、ポリICLC:ポリI:C-ポリ-l-リジン、レシキモド:ウイルスssRNAに類似した合成イミダゾキノリンの群が含まれる。
【0051】
イミキモドは、TLR7を標的とする合成イミドアゾキノリンである。単剤療法として非経口的に投与される、より新しいイミドアゾキノリンTLR7アゴニスト、852Aは、単剤療法として疾患安定化で適度の臨床的有効性を示した。レジキモドは、ヒトのイミドアゾキノリンTLR7/8アゴニストである。
【0052】
CpGは1本鎖オリゴデオキシヌクレオチド(ODN)であり、シトシン及びグアニンを含有するモチーフを特徴とする。それらの免疫学的効果に基づいて、CpG ODNは、3つの異なるクラス、CpG-A:pDCへのそのIFNα生成の影響による、NK細胞の強力な刺激物質、CpG-B:適度なIFNα誘発物質、及び抗原特異的免疫反応の増強剤(pDC及びB細胞上の同時刺激分子を上方制御し、Th1サイトカイン生成を誘発し、pDCによる抗原提示を刺激する)、ならびにCpG-C:CpG-A及びCpG-B両方の刺激能を結合する、に分けられる。CpG7909(PF-3512676、CpG B型及びTLR9アゴニスト)は、腎細胞癌、神経膠芽腫、黒色腫、皮膚T細胞リンパ腫及び非ホジキンリンパ腫を含む、いくつかの腫瘍の種類で評価されてきた。
【0053】
ポリリボイノシン-ポリリボシチジル酸(ポリI:C)は、I型IFNの更なる生成をもたらす、エンドソーム(TLR3)及び/またはサイトゾル黒色腫分化関連遺伝子5(MDA5)を刺激する、ウイルスdsRNAの合成類似体である。
【0054】
TLR4複合体を標的とするリピドA分子は、モノホスホリルリピドA(MPL)、サルモネラミネソタからのリピドA誘導体を含む。
【0055】
ブルトン型チロシンキナーゼ(Btk)は、ホスファチジルイノシトール(3,4,5)-トリスリン酸(PIP3)を結合する、PHドメインを含む。PIP3結合はBtkを誘導してホスホリパーゼCをリン酸化し、それによりPIP2、ホスファチジルイノシトールを、2つの2次メッセンジャー、イノシトールトリスリン酸(IP3)及びジアシルグリセロール(DAG)に加水分解して、次にB細胞のシグナル伝達中に下流のタンパク質の活性を調整し続ける。BTK遺伝子の突然変異は、原発性免疫不全症X連鎖型無ガンマグロブリン血症(ブルトン型無ガンマグロブリン血症)に関係する。XLA患者は、骨髄に正常なB前駆細胞集団を有しているが、これらの細胞は、発達して循環血に入ることができない。イブルチニブ(PCI-32765)は、選択的ブルトン型チロシンキナーゼ阻害剤である。
【0056】
イブルチニブ(1-[(3R)-3-[4-アミノ-3-(4-フェノキシフェニル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル]ピペリジン-1-イル]プロパ-2-エン-1-オン)は、Btkの特異的阻害剤である。本発明の方法において、例えば経口投与剤形で、約10mg/日、約50mg/日、約100mg/日、約250mg/日、約350mg/日、約420mg/日、約500mg/日、約600mg/日及び約1000mg/日以下の用量で投与され得る。投与は、許容できない毒性または疾患進行まで続行することができる。
【0057】
貪食抗原提示細胞。「貪食細胞」及び「食細胞」という用語は本明細書では同じ意味で用いられて、食作用、すなわち、特に哺乳動物細胞、例えば腫瘍細胞の大きさまでを含む大きな粒子状塊、例えば直径約0.1μm~直径約2mmまたは約1mm、直径約0.5μm~直径約1mmなどを飲み込むことが可能な細胞を指す。本文脈における食作用は、エフェクター細胞膜で取り囲むことにより、細胞、病原体及び様々な微粒子を飲み込むことによって定義される。
【0058】
食細胞のいくつかの分類があり、マクロファージ、単核細胞(組織球及び単球)、多形核白血球(好中球)、及び樹状細胞がある。マクロファージは特に関心の対象である。食作用関連細胞応答は、炎症誘発性及び抗炎性のメディエータの生成ならびに放出などの免疫調節性応答を含み、更に、呼吸性バースト、脱顆粒による有毒性及び殺菌性分子の放出などの破壊的な性質の細胞応答も含む。プロフェッショナル食細胞は、多種多様な食細胞の標的を認識することができ、非食細胞よりも高い比率でそれらを摂取できる。
【0059】
好中球及びマクロファージは、十分に分化した食細胞の代表である。骨髄から離れた好中球は十分に分化している一方で、マクロファージは、血管外の組織の循環単球から分化する。単球は、好中球及びマクロファージに比べて、より低い貪食反応を示し、最適な貪食能力を得るために活性及び分化シグナルに応答しなければならない。単球からマクロファージの分化の工程は、十分に特性が明らかにされており、生体外または生体内で実行され得る。
【0060】
「治療有効量」または「治療用量」は、所望の臨床結果(すなわち、治療有効性)をもたらすために十分な量である。本発明のいくつかの目的のため、抗CD47剤の有効量は、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約100%、2倍、3倍以上まで食作用を増大させる量である。
【0061】
本発明の目的のために、抗CD47剤の治療有効量は、標的細胞のマクロファージ媒介の死滅を増加させることによって疾患状態(例えば、癌または慢性感染症)の進行を軽減、緩和、安定、逆転、抑制、遅延または遅らせるために十分な量である。したがって抗CD47剤の治療有効量は、生体内免疫反応により標的細胞群を、phAPCの蓄積群を投与しない状態の効果と比べて、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約50%、少なくとも約75%、少なくとも約90%以上、減少し得る。
【0062】
骨髄異形成症候群。骨髄異形成症候群(別名MDSまたは骨髄異形成)は、血液細胞の無効な発達(または「形成異常」)を有する血液学的(すなわち、血液に関する)病態である。MDS患者は重度の貧血を起こして、輸血を必要とする可能性がある。場合によっては疾患は悪化して、患者は、進行性の骨髄不全によって生じる血球減少(低血球計算)を起こす。MDSの見通しは、種類及び重篤度に依存する。
【0063】
本発明の方法により処置できるMDSの種類は、不応性貧血、環状鉄芽球を伴う不応性貧血、芽球増加を伴う不応性貧血、多血球系統の異形成を伴う不応性血球減少症、単一血球系統の異形成を伴う不応性血球減少症、分類不可能な骨髄異形成症候群、del(5q)単独の染色体異常を伴う骨髄異形成症候群、慢性骨髄単球性白血病(CMML)を含むことができる。
【0064】
自己免疫溶血性貧血(AIHA)は、抗赤血球自己抗体(AEA)の存在に起因する赤血球の増大した破壊と定義されて、免疫反応を引き起こす抗原の種類に応じて、自己免疫、同種免疫または薬物誘発性のいずれかに分類されることができる。一般的な溶血性貧血は、1年で1000人当たり約4例発生すると推定されるが、AIHAに関して年間発生率は、1年で100,000人当たり約1~3例と推定される。AIHAは、原発性疾患として、または、症例中約20~80%は他の自己免疫疾患、リンパ系腫瘍、感染症、免疫不全または腫瘍の続発性のいずれかであると考えることができ、リンパ系腫瘍は続発性AIHAの最も一般的な理由である。AEAは、30℃未満または35℃~40℃の温度それぞれで最適に反応するので、寒冷自己抗体または温暖自己抗体と分類される。温暖AEAの大部分はIgGであるが、時々IgA及び/またはIgMも存在し、AIHA症例の約50~70%の原因である。温暖IgG AEAを赤血球に結合することは、それ自体赤血球を損傷しない。その理由は、赤血球結合のIgGは、表面結合のIgMとは対照的に、古典的補体経路の低活性化剤だからである。その代わり、表面結合のIgGは、通常、脾臓及び肝臓で優先的に、単核-マクロファージ食細胞系の細胞のFcγ受容体により認識されて、IgGオプソニン化した赤血球の取り込み及び破壊をもたらす。しかし、AIHAの赤血球のマクロファージ媒介性の除去は、マクロファージFcγ及び補体受容体(補体因子C3b及びC3biを認識する)の相乗的な活性により媒介される傾向が見られる。その理由は、超低レベルのIgGでオプソニン化される赤血球は、補体の非存在下で生体内除去されないからである。更に、低レベルの補体オプソニン化は、IgGの非存在下で赤血球食作用をもたらさないが、一方で、低レベルの補体及びIgG両方のオプソニン化は、生体内及び生体外で効果的な赤血球食作用を誘発できる。
【0065】
免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)は、マクロファージによる血小板の抗体媒介性の破壊に起因する、血小板数の低下で特徴付けられる自己免疫疾患である。ITPは急性または慢性に分類されて、急性ITPは、典型的な点状出血及び挫傷を有する急性発症型があり、多くの場合感染性疾患が先行し、主に幼児に影響を及ぼして、通常6か月以内に自然に消失する。慢性ITPは多くの場合、急性型より潜行性で、男性より女性で約2~3倍一般的に見られる、成人発症型である。
【0066】
陽性の抗血小板自己抗体検査は、ITPの成人の約70~80%及び慢性ITPの児童で見られる。血小板自己抗体はIgG型であり、ほとんどの場合、GPIIb/IIIa、GPIb-IX及びGPIa-IIaを含む、血小板膜糖タンパク質を対象としている。IgG自己抗体で覆われた血小板は、好ましくは脾臓及び肝臓で、マクロファージによってFcγ受容体媒介性の食作用による加速したクリアランスを受ける。大部分の患者は、いくつかの異なる血小板表面タンパク質を目的とする、抗体を有する。ITPと診断された成人は通常、最初に副腎皮質ホルモンで治療される。静脈注射用ガンマグロブリン(IVIG)は、特に内出血の処置において、ITP治療の別の一般的な方法である。IVIGは周知の抗炎症性効果を有し、通常、免疫グロブリンG(IgG)Fcドメインに起因しており、それはマクロファージ上の食作用促進性Fc受容体を遮断すると考えられる。
【0067】
「抗体」または「抗体部分」という用語は、エピトープに適合して認識する特定の形状を有する、ポリペプチド鎖を含有する分子構造を含むことを目的とし、1つ以上の非共有結合性の結合相互作用は、分子構造とエピトープとの間に複合体を安定させる。本発明で利用する抗体はポリクローナル抗体であり得るが、モノクローナル抗体が好ましい。その理由は、それらが細胞培養によって、または組換えで再生することができ、抗原性を減らすために改変することができるからである。
【0068】
「二重特異性抗体」という語句は、複数のタンパク質を認識する、合成または組換え抗体を意味する。例としては、二重特異性抗体2B1、520C9xH22、mDX-H210及びMDX447を含む。エピトープの組み合わせに対する二重特異性抗体は、エピトープの組み合わせを発現する細胞集団を標的とする及び/またはその減少を可能にする。
【0069】
ポリクローナル抗体は、産生動物に抗原組成物を注入することによって、標準プロトコルにより産生できる。例えば、Harlow and Lane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,1988を参照のこと。タンパク質全体またはタンパク質のより大きい部分を利用するとき、抗体は、産生動物にタンパク質及び好適なアジュバント(例えば、フロイント、完全フロイント、水中油型エマルションなど)をワクチン接種することにより産生できる。より小さなペプチドを利用する場合、より大きな分子を有するペプチドを共役結合して免疫活性化共役結合を作ることは有利である。このような使用のため市販されている、一般に利用される複合タンパク質は、ウシ血清アルブミン(BSA)及びキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)を含む。特定のエピトープに対する抗体を産生するために、完全配列に由来するペプチドを利用できる。あるいは、タンパク質標的の比較的短いペプチド部分に対する抗体を産生するために、オボアルブミン、BSAまたはKLHなどの担体タンパク質にポリペプチドが接合される場合、優れた免疫反応を誘発できる。
【0070】
あるいはモノクローナル抗体において、播種した動物の脾臓などから刺激した免疫細胞を単離することによって、ハイブリドーマを形成できる。そしてこれらの細胞は、黒色腫細胞または形質転換細胞などの不死化細胞に融合して、それは細胞培養で無期限に複製でき、それによって不死の免疫グロブリンを分泌する細胞系を生成する。更に抗体または抗原結合性フラグメントは、遺伝子工学によって生成することができる。ヒトに投与されるとき、それはより少ない免疫反応をもたらす、ヒト化、キメラまたは異種間のヒト抗体は、本発明で使用するために好ましい。
【0071】
ヒトの激しいまたは有害な免疫反応(アナフィラキシーショックなど)を誘発する傾向の減少を有し、更に抗体治療剤または造影剤の反復投与を妨げる免疫反応を刺激する傾向の減少を示す、抗体は、本発明で使用するために好ましい。これらの抗体は、すべての投与経路で好ましい。したがってヒトに投与されるとき、それはより少ない免疫反応をもたらす、ヒト化、キメラまたは異種間のヒト抗体は、本発明で使用するために好ましい。
【0072】
主にヒトドメインを有する抗体を生成するために、マウス(または他の動物由来)ハイブリドーマクローンから得た、マウス可変軽鎖及び重鎖領域(VK及びVH)を、ヒト定常軽鎖及び重鎖領域と結合することによる、組換え手段によって、キメラ抗体は作成されることが可能である。このようなキメラ抗体の生成は当該技術分野において周知であり、標準手段(例えば、米国特許第5,624,659号に記載されており、参照により完全に組み込まれる)によって実施することが可能である。ヒト化抗体は遺伝子操作されて、更にヒト様免疫グロブリンドメインを含み、動物由来の抗体の相補性決定領域だけを組み込む。モノクローナル抗体の可変領域の超可変ループの配列を慎重に調べて、それらをヒト抗体鎖の構造に適合させることによって、これは達成される。表面的には複雑であるが、この方法は実際は確実である。例えば、米国特許第6,187,287号を参照のこと。あるいは1本鎖抗体(後述のようにFv)は、ヒト可変領域を含むファージライブラリーから生成されることができる。米国特許第6,174,708号を参照し、参照により完全に本明細書に組み込まれる。
【0073】
免疫グロブリン全体(またはその組換え物)に加えて、エピトープ結合部位(例えば、Fab’、F(ab’)2または他のフラグメント)を含む免疫グロブリンフラグメントは、本発明の抗体部分として有用である。このような抗体フラグメントは、フィシン、ペプシン、パパインまたは他のプロテアーゼ切断によって、全部の免疫グロブリンから生成できる。「フラグメント」または最小の免疫グロブリンは、組換え免疫グロブリン技術を利用して設計されることができる。例えば本発明で使用する「Fv」免疫グロブリンは、ペプチドリンカー(例えば、ポリグリシン、またはαらせん型またはβシート型モチーフを形成しない別の配列)を介して、可変軽鎖領域を可変重鎖領域に連結することによって、生成することができる。
【0074】
Fvフラグメントは、可変重鎖ドメイン(VH)及び可変軽鎖ドメイン(VL)のヘテロ二量体である。IgG全体に生じる重鎖及び軽鎖ドメインのヘテロ二量体は、例えばジスルフィド結合によって接続される。ペプチドリンカーにより接続されるVH及びVLのある組換えFvsは、通常安定的であり、例えばHustonら、Proc.Natl.Acad,Sci.USA85:5879-5883(1988)及びBirdら、Science242:423-426(1988)を参照し、参照により両方とも完全に本明細書に組み込まれる。これらは、選択性及び親和性を保持することが見いだされており、腫瘍の画像診断に有用で、腫瘍療法のための組換え抗毒素を作ることを示すことが見いだされた、単鎖Fvsである。これらの最小抗体のいずれかは本発明で用いることができ、HAMA反応を避けるためにヒト化したものは、本発明の実施形態で使用するために好ましい。
【0075】
更に、追加の化学リンカーを有する誘導体化された免疫グロブリン、検出可能な部分、例えば蛍光色素、酵素、放射性同位体元素、基質、化学発光部分、または特異的結合部分、例えばストレプトアビジン、アビジン、ビオチンなどは、本発明の方法及び組成物で用いることができる。便宜上「抗体」または「抗体部分」という用語は、一般に標的タンパク質のエピトープと特異的に結合する分子を意味するために全体にわたって使用するが、その用語は、上述のとおり、すべての免疫グロブリン、誘導体、フラグメント、組換え型または遺伝子操作した免疫グロブリン、及び改変免疫グロブリンを包含する。
【0076】
候補結合剤は、任意の好適な標準手段によって活性を試験されることができる。第1のスクリーニングとして、抗体は、それらを生成するために利用される標的抗原に対して結合することを試験することができる。第2のスクリーニングとして、候補薬剤は、適切な細胞、例えば癌細胞、造血細胞などと結合することを試験することができる。これらのスクリーニングにおいて、候補抗体は、検出のために標識化されることができる(例えば、蛍光剤もしくは別の蛍光部分によって、またはホースラディッシュペルオキシダーゼなどの酵素によって)。標的への選択的結合の後、候補薬剤は、生体内モデルの適切な活性(すなわち、腫瘍細胞の増殖を減少させる及び/または腫瘍細胞を視覚化することを補助するための能力)を試験することができる。
【0077】
「食作用を操作すること」によって、介入の非存在で観察される食作用のレベルと比較して、少なくとも約10%、または最大20%、または50%、または70%、または80%、または最高約90%までの食作用のアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションを意味する。したがって循環造血細胞の食作用を減少させることに関して、特に移植に関連して、「食作用を操作する」は、介入の非存在で観察される食作用のレベルと比較して、少なくとも約10%、または最大20%、または50%、または70%、または80%、または最高約90%までの食作用のダウンレギュレーションを意味する。
【0078】
「貪食細胞」及び「食細胞」という用語は、本明細書では同じ意味で用いられて、食作用することができる細胞を意味する。食細胞には3つの主なカテゴリ、マクロファージ、単核球細胞(組織球及び単球)、多形核白血球(好中球)、及び樹状細胞がある。
【0079】
「生体試料」という用語は、生物から得た様々な種類の試料を含んでおり、診断またはモニタリングアッセイで使用可能である。その用語は、血液、及び生体由来の他の液体試料、生検標本または組織培養またはそれに由来する細胞及びその子孫など固形組織試料を含む。その用語は、調達の後、試薬による処置、可溶化または特定の成分の濃縮など任意の方法で操作された試料を包含する。その用語は臨床試料を含み、更に、細胞培養の細胞、細胞上澄み、細胞可溶化物、血清、血漿、生体液及び組織試料も含む。
【0080】
「癌」「新生物」及び「腫瘍」という用語は、自律的で未制御の増殖を示す細胞に意味するために本明細書では同じ意味で用いられており、その結果、それらは、細胞増殖の制御の著しい損失を特徴とする、異常な増殖表現型を示す。本出願の検出、分析または処置の目的の細胞は、前癌性(例えば、良性の)、悪性、転移前、転移性及び非転移性細胞を含む。実質上すべての組織の癌は周知である。「癌負荷」という語句は、対象の癌細胞の量または癌の容積を意味する。したがって「癌負荷を減らすこと」とは、対象の癌細胞の数または癌の容積を減らすことを意味する。本明細書で使用する場合「癌細胞」という用語は、癌細胞、または癌細胞に由来する、例えば癌細胞のクローン、任意の細胞を意味する。多くの種類の癌は当業者に周知であり、固形腫瘍(例えば細胞腫、肉腫、神経膠芽腫、黒色腫、リンパ腫、骨髄腫など)、及び循環血中癌(例えば白血病)を含む。癌の例としては、卵巣癌、乳癌、大腸癌、肺癌、前立腺癌、肝細胞癌、胃癌、膵臓癌、子宮頸癌、卵巣癌、肝臓癌、膀胱癌、尿路癌、甲状腺癌、腎臓癌、細胞腫、黒色腫、頭頸部癌、及び脳癌を含むが、これらに限定されない。
【0081】
癌の「病状」は、患者の健康を損なう、すべての現象を含む。これは、異常なまたは制御不能の細胞増殖、転移、隣接細胞の正常機能の阻害、異常なレベルのサイトカインまたは他の分泌物の放出、炎症性もしくは免疫性反応の抑制または悪化、腫瘍、前悪性、悪性、周囲もしくは遠隔組織または器官(例えばリンパ節)への侵襲などを含むが、これらに限定されない。
【0082】
本明細書で使用する場合「癌の再発」及び「腫瘍の再発」ならびにその文法的変形は、癌の診断後、新生物または癌細胞の更なる成長を意味する。特に再発は、更なる癌細胞増殖が癌組織に生じるとき、発生する場合がある。「腫瘍の進展」は、腫瘍の細胞が局所または遠隔組織及び器官内に広まるとき、同様に生じ、したがって腫瘍の進展は腫瘍転移を含む。腫瘍増殖が局所的に広がって、正常な器官の機能の圧迫、滅失または妨害による関連組織の機能を危険にさらすとき、「腫瘍浸潤」は生じる。
【0083】
本明細書で使用する場合「転移」という用語は、器官または身体部分の癌腫瘍の増殖を意味し、それは最初の癌腫瘍の器官に直接接続していない。転移は当然ながら微小転移を含み、それは、最初の癌腫瘍の器官に直接接続していない器官または身体部分の癌細胞の、検出不可能な量の存在である。転移は、プロセス(例えば、最初の腫瘍部位からの癌細胞の分離及び移行、及び/または身体の他の部分への癌細胞の浸潤)のいくつかの工程としても定義され得る。
【0084】
「処置」「処置すること」「処置する」などの用語は、望ましい薬理学的効果及び/または生理学的効果を得ることを概して指すように、本明細書において使用される。効果とは、疾患もしくはその症状を完全にもしくは部分的に阻止する点で予防的であることができ、及び/または、疾患及び/または疾患に起因する有害効果の部分的もしくは完全な安定化もしくは治癒の点で治療的であり得る。本明細書で使用する場合「処置」とは、哺乳動物、特にヒトにおける疾患の任意の処置を包含し、(a)疾患もしくは症状に罹患しやすい可能性があるが、それを有するとまだ診断されていない対象において、疾患もしくは症状が起こるのを阻止すること、(b)疾患の症状を阻害すること、すなわちその発生を停止すること、または(c)疾患の症状を軽減すること、すなわち疾患もしくは症状の退縮を引き起こすこと、を含む。
【0085】
「レシピエント」「個体」「被験体」「宿主」「患者」という用語は、本明細書で同じ意味で用いられ、診断、処置または治療が望まれる任意の哺乳動物の対象、特にヒトを指す。
【0086】
本明細書で使用する場合「宿主細胞」とは、組換えベクターまたは他の転移ポリヌクレオチドのレシピエントとして使用できる、または使用して、及びトランスフェクトした最初の細胞の子孫を含む、単細胞物質として培養される微生物、または真核細胞もしくは細胞系を意味する。単一細胞の子孫は、自然、偶然もしく意図的突然変異により、必ずしも、元々の親と形態またはゲノムもしくは全DNA補体において完全に同一でなくてもよいと理解できる。
【0087】
「治療標的」は、その活性の調節に応じて(例えば、発現、生物活性などの調節によって)癌表現型の調節を提供できる、遺伝子または遺伝子産物を意味する。全体にわたって使用するように「調節」とは、示された現象の増加または減少を指すことを意味する(例えば生物活性の調節は、生物活性の増加または生物活性の減少を意味する)。
【0088】
「癌細胞の成長を減らす」とは、癌細胞の増殖を減らす、癌細胞になる非癌細胞の発現率を低下させることを含むが、これらに限定されない。癌細胞の成長の減少が達成されたかは、[3H]-チミジン取り込み、ある期間にわたる細胞数の計数、癌と関連するマーカーを検出及び/または測定することなどを含むがこれらに限定されない、任意の周知のアッセイを使用して直ちに判定されることができる。
【0089】
物質、または物質の特定の量が癌治療で効果的であるかは、生検、造影X線検査、CATスキャン、及び個人の血液中の癌と関連した腫瘍マーカーの検出を含むがこれらに限定されない、様々な周知の癌診断アッセイのいずれかを使用して評価される。物質は、全身にまたは局所的に、通常は全身に投与されることができる。
【0090】
特定の実施態様において、二重特異性抗体を使用し得る。例えば二重特異性抗体は、そこで、1つの抗原結合領域はCTRを標的として、他の抗原結合領域は癌細胞マーカー、例えばCD47、EGFR、HER2、CD96、CD97、CD99、PTHR2、HAVCR2などを標的とする。
【0091】
投与において、活性剤は、投与前に、非毒性の薬学的に許容される担体物質と混合される。通常これは水溶液、普通の食塩水またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、リンゲル液、乳酸塩-リンゲル液、または選ばれた手段による投与用の任意の生理学的に許容できる等張性溶液である。好ましくは溶液は、無菌で発熱性物質非含有であり、FDAの承認を得た現在のGood Manufacturing Processes(GMP)の下で製造されて包装される。血管内注入、クモ膜下腔内注入、脳脊髄液内注入、腫瘍内への直接注入、または他の経路による投与のために医薬組成物を配合するとき、通常技術の臨床医は、pH、張度及び添加物または防腐剤に関する適切な範囲に精通している。pHまたは張度を調整するための添加剤に加えて、抗体治療剤及び抗体造影剤は、アミノ酸及び非イオン性界面活性剤、ポリソルベートならびにポリエチレングリコールによる、凝集ならびに重合に対して安定化し得る。所望により、追加の安定剤は、各種の生理的に許容可能な炭水化物及び塩を含むことができる。ポリビニルピロリドンも、アミノ酸に加えて添加することができる。貯蔵及びヒトへの投与のために安定化した好適な治療用免疫グロブリン溶液は、米国特許第5,945,098号に記載されており、参照により完全に本明細書に組み込まれる。他の薬剤、例えばヒト血清アルブミン(HSA)は、治療用または画像診断組成物に加えられて、抗体接合体を安定させることができる。
【0092】
本発明の組成物は、任意の医学的に適切な手順を使用して、例えば血管内(静脈内、動脈内、毛細管内)投与、脳脊髄液内、腔内、皮下への注入、腫瘍への直接注入により、投与され得る。本発明の画像診断組成物に関して、血管内注入を介した投与は、腫瘍の手術前の視覚化のために好ましい。
【0093】
特定の患者に与えられる活性剤の有効量は、様々な要因に依存しており、そのいくつかは患者間で異なる。適格な臨床医は、増殖を遅延させて、腫瘍細胞の死滅を促進するために患者に投与する有効量、または骨髄異形成症候群の治療のため患者に投与する画像診断組成物の有効量を決めることができる。投与量は、腫瘍の治療、投与の経路、治療法の性質、治療法に対する腫瘍の感受性などに依存する。薬剤に関して利用可能なLD50動物データ及び他の情報を利用して、臨床医は、投与経路に応じて、個人にとって最大限安全な投与量を決めることができる。例えば静脈内投与される投与量は、治療組成物が投与される流体が可能なより大きな身体であれば、クモ膜下腔内に投与される投与量を超えてもよく、治療組成物が投与される流体をより大きな身体を与える。同様に、身体から急速に消滅する組成物は、治療用濃度を維持するために、高用量でまたは反復投与で投与することができる。画像診断部分は通常、細胞障害性部分より有毒性ではなく、いくつかの実施形態では高用量で投与することができる。普通の技術を利用して、適格な臨床医は、日常的な臨床試験の過程で特定の治療組成物の用量を最適化することが可能である。
【0094】
通用投与量は、対象の体重の1キログラム当たり0.001~100ミリグラムである。薬剤は、一連の複数の投与で対象に投与することが可能である。治療組成物に関して、規則的な周期的投与(例えば、2~3日ごと)は、毒性を低減するために時々必要とされる、または望ましい場合がある。反復投与レジメンで利用する治療用組成物において、HAMAまたは他の免疫反応を誘発しない薬剤は好ましい。
【0095】
使用方法
癌治療のための方法を提供する。TLRシグナル伝達の活性化剤またはBTKアゴニストは、CD47の遮断と組み合わせて提供され、癌細胞の除去は、単独療法としていずれかの薬剤の存在下で、細胞除去と比較して増加する。いくつかの実施形態では、マクロファージを含む細胞集団は、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%までマクロファージの細胞表面上のCRTを増加させるために効果的であり、及び刺激されていない細胞と比較して2倍、3倍、5倍以上に発現を増加する場合がある、TLRアゴニストもしくはBTKアゴニストの用量に、生体外または生体外で接触する。このように処置した細胞の食作用のレベルは少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%であり得て、刺激されていない細胞と比較して2倍、3倍、5倍以上に食作用を増加させることができる。CD47とSIRPαの相互作用を阻止する薬剤がある場合、TLRアゴニストもしくはBTKアゴニストの有効量で処置した細胞の食作用の漸増は、少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%であり得て、及びCD47の遮断がない状態でTLRアゴニストで処置した細胞と比較して、2倍、3倍、5倍以上に食作用を増加させる場合がある。
【0096】
生体内処理において、TLRアゴニストまたはBTKアゴニストは、レシピエントのPrCrを増加させるために十分な、例えば食細胞による腫瘍細胞の食作用により判定されるような、有効量及び一定期間で投与できる。TLRアゴニストまたはBTKアゴニストは、CD47とSIPαとの相互作用を阻止する薬剤の有効量を併用投与される、または同時に投与されることができる。TLRアゴニストまたはBTKアゴニストは、特に癌細胞を標的とする薬剤、例えば腫瘍選択的標的に向けられる抗体を併用投与される、または同時に投与されることができる。
【0097】
TLRアゴニストまたはBTKアゴニストで生体外処置した食細胞は、癌治療のため個人に投与されることができ、細胞は全身にまたは局所的に、例えば腫瘍部位に投与される。細胞は、CD47とSIPαとの相互作用を阻止する薬剤の有効量を併用投与される、または同時に投与されることができる。細胞は、投与前に生体外で腫瘍細胞または腫瘍細胞抗原と接触させることができる。細胞は、特に癌細胞を標的とする薬剤、例えば腫瘍選択的標的に向けられる抗体を併用投与される、または同時に投与されることができる。
【0098】
食細胞、例えばマクロファージの食作用能は、細胞表面上のCRTの発現を測定することにより判定することができ、CRTの増加は食細胞の能力の増加に相当する。いくつかの実施形態では、マクロファージ細胞表面上のカルレティキュリンの発現は、CRT-特異抗体を有する細胞に接触させること、及び、例えば当該技術分野において周知のとおりフローサイトメトリー、ELISA、免疫組織化学などによって結合した抗体の量を測定することを含むが、これらに限定されないことにより、測定される。いくつかのこのような実施形態において、測定工程は、生体外で細胞をTLRアゴニストで処置した後に実施される。いくつかの実施形態では、測定は、既定レベル、またはTLRアゴニストで処置されない対照細胞と比較される。いくつかの実施形態では、CRTの既定レベルを有する細胞は、癌治療のため個人に投与され、細胞は全身にまたは局所的に、例えば腫瘍部位に投与される。
【0099】
本発明の他の実施形態において、イブルチニブなどを含むがこれに限定されない、BTK阻害剤は、過剰なまたは望ましくないPrCRを患っている個人に、治療用量で提供され、それは、以下に限定しないが、骨髄異形成症候群(MDS)、自己免疫溶血性貧血(AIHA)、免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)などを患っている個人を含む。Btk阻害剤の投与量は、食細胞上のCRTの発現を減少させるために十分であり、例えば少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%まで減少させて、刺激されていない細胞と比較して2倍、3倍、5倍以上に発現を減少させることができる。このように処置された細胞の食作用のレベルは少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約75%まで減少することができ、刺激されていない細胞と比較して2倍、3倍、5倍以上食作用を減少させることができる。
【0100】
実施例1
マクロファージは、ガイド、TLR及びBTKの役割としてそれ自身のカルレティキュリンを使用して、癌細胞を食べる。
マクロファージ媒介性のプログラムされた細胞除去(PrCR)は、プログラムされた細胞死に先立って、疾患及び損害細胞を除去する重要なメカニズムである。腫瘍細胞上の「eat me」シグナルによるPrCRの誘発は、CD47などの「don’t eat me」シグナルによって相殺されて、それは、食作用を阻害するために、マクロファージシグナル調節性タンパク質(SIRPα)を結合する。腫瘍細胞上のCD47の遮断は、マクロファージによる食作用を導く。ここで本発明者らは、マクロファージのtoll様受容体(TLR)シグナル伝達経路の活性化が、PrCRを強化するために、腫瘍細胞上のCD47の遮断と相乗作用することを実証した。ブルトン型チロシンキナーゼ(Btk)は、マクロファージのTLRシグナル伝達を媒介する。癌細胞上の「eat me」シグナルであると既に示したカルレティキュリンは、分泌、及びTLR及びBtkによる細胞表面露出のためにマクロファージで活性化されて、癌細胞がそれ自身カルレティキュリンを発現しない場合でも、食作用の癌細胞を標的とする。
【0101】
プログラムされた細胞除去(PrCR)は、標的細胞が認識されて貪食されるマクロファージ媒介性の免疫監視のプロセスである。PrCRは、アポトーシス細胞の消失のためプログラムされた細胞死と同時に起きる重要な工程として既知であるが、アポトーシスが阻止されるとき、PrCRが瀕死の野生型好中球を除去するのとまさに同時に、生きている好中球のPrCRは生じる(bcl2の強制発現による)。近年、生きた腫瘍細胞を除去する際のPrCRの役割が、明らかにされた。いくつかの研究は、PrCRを支配する抗食作用「don’t eat me」シグナルとしてのCD47の重要な機能を示した。癌の進行中、腫瘍細胞はCD47を上方制御し、それらをPrCRから保護する。標的細胞上のCD47とその受容体、マクロファージ上のシグナル調節性タンパク質α(SIRPα)との間の相互作用の遮断は、生体外及び生体内で多くの正常な細胞でなく、癌細胞のPrCRを効率よく誘発する(
図1A)。CD47が遮断されるとき、正常な細胞ではなく、癌細胞が貪食されて、その理由は、カルレティキュリン(CRT)などの食作用促進性「eat me」シグナルが、多くの白血病、リンパ腫及び固形腫瘍で一般的に発現されるからである(
図1A)。
【0102】
カルレティキュリンは通常、ER保留KDEL配列を有する小胞体(ER)タンパク質であるが、細胞毒性薬または炎症による細胞障害の多くの場合に、細胞表面に放出されることができて、アポトーシス細胞の食作用の間、マクロファージLRP1/CD91により認識される。ブルトン型チロシンキナーゼ(Btk)はTec非受容体タンパク質チロシンキナーゼファミリーに属しており、それは自然免疫応答の調節で重要な役割を果たす。Btkの異常は、おそらくB細胞発生の遮断による、X連鎖低または無ガンマグロブリン血症を含む免疫不全を導き、おそらく同様に不完全なB系細胞の非効率的な消失に関連する。しかし、これまでのところ、マクロファージが生きた癌細胞を認識して貪食する、分子的メカニズムに関することは、ほとんどわかっていない。マクロファージがカルレティキュリンを発現すること、及びBtkによるtoll様受容体(TLR)シグナル伝達が細胞表面にその遊走をもたらすことを、本発明者らはここで示し、それは適切な腫瘍細胞のPrCRを媒介するために使用することができる。
【0103】
本発明者らは、マウス骨髄由来のマクロファージ(BMDM)と標的ヒト癌細胞とを共培養することにより、食作用アッセイを実施して、異なる条件下でPrCRの有効性を試験する。食作用を誘発するために、本発明者らは、腫瘍細胞をCD47遮断抗体で処理する、または直接それをノックアウトすることによって、ヒト大腸癌細胞株(SW620)上のCD47を遮断した。「don’t eat me」経路上の「eat me」の不均衡から生じる(
図1A)、自己防衛的シグナルCD47をノックアウトすることによって、食作用は著しく増加する(SW620
CD47KO、
図5A~B)。抗CD47抗体によるSW620
WT細胞の処置は、SW620
CD47KO細胞と同じレベルまでFc受容体遮断剤によって逆転したより強力な食作用を誘発して、抗CD47抗体がCD47の遮断-SIRPα両方の相互作用(Fc独立的)によって、及びFc依存的メカニズムにより、SW620癌細胞の食作用を誘発したことを示唆する(
図1A)。
【0104】
PrCRの分子的メカニズムを理解するために、本発明者らはスクリーニング試験を行って、マクロファージの食細胞の能力を調整するシグナル伝達経路を確認した。TLRシグナル伝達は、病原体に対する自然免疫応答で重要な役割を果たしており、TLRアゴニストは、癌を抑える可能性を有する免疫療法薬としてあげられる。しかし、生きた癌細胞のPrCRのTLRシグナル伝達の役割は、未調査のままである。したがって本発明者らは、種々のTLRアゴニストでBMDMを前処置して、癌細胞に対するその食作用能力を分析した。本発明者らは、複数のTLRの活性化が癌細胞の食作用を著しく強化することを見いだした(
図1B)。本発明者らは次に、食作用を強化する際に最も効果的だったTLRアゴニストに焦点を合わせて、より広範囲なマクロファージ及び腫瘍細胞におけるその効果を評価した。TLR3、4及び7アゴニスト(すなわち、ポリイノシン-ポリシチジン酸-高分子量(ポリ(I:C)HMW)、リポ多糖体(LPS)及びイミキモド)によるマクロファージの処置が、複数の造血及び固形腫瘍細胞の食作用を劇的に強化することを、本発明者らは示した(
図6A~C及び
図7A~D)。T細胞、B細胞及びNK細胞を欠くマウスの次の評価は、これらのTLRアゴニストがCD47遮断抗体の有効性を大幅に改善して、生体内で腫瘍増殖を阻止することを示した(
図8A~B)。
【0105】
マクロファージのTLRシグナル伝達の活性化が腫瘍細胞食作用を促進した、メカニズムを更に理解するために、陽性に(MAPK、Btk)または陰性に(PI3K、Caspase-1)TLRシグナル伝達を調整する主要な分子を標的とする、種々の阻害剤とTLRアゴニストとを混合することによって、本発明者らはマクロファージを処置した。MAPK、PI3K及びカスパーゼ1の遮断剤は、癌細胞の食作用へ影響を示さなかった。それに対し、イブルチニブ-ブルトン型チロシンキナーゼ(Btk)、造血系で発現したチロシンキナーゼの特異的遮断剤(
図9)は、TLRアゴニストにより誘発される食作用を著しく減衰させた(
図2A)。ポリ(I:C)HMW、LPSまたはイミキモドでのマクロファージの処置は、Btkを刺激してリン酸化し、この効果はイブルチニブによって相殺されて、基本のBtkのリン酸化をもたらす(
図2B)。特に癌細胞の基礎レベルの食作用は、Btk経路によって調整されて、イブルチニブは、両方のFc依存的及びFc独立的両方の食作用への抑制効果を示した(
図10A)。要するにBtkは、それを通して、TLRが腫瘍細胞の食作用を媒介する、重要なエフェクターである。興味深いことに、Btkの刺激及び阻害は、食作用への時間的差異効果を示した。マクロファージの最大限の食細胞の能力は、16時間のBtk活性化によって達成された(
図2C)。それに対し、Btkの遮断は迅速な効果を示して、1時間以内に最大限の阻害に達した(
図2D)。
【0106】
活性化に応じて、Btkは、核のTFII-I及びSTAT5Aならびに原形質膜のPLCγ2などの転写因子をリン酸化する。最近の研究は、TLR7がアポトーシス細胞の認識において活性化したとき、Btkによってリン酸化した基質としてCRTを確認した。マクロファージのBtkによるCRTのリン酸化は、細胞表面へのCRT遊走が、CRT/CD91/C1q複合体の架橋分子として機能するために重要であり、それはアポトーシス細胞の食作用を開始させる。CRTが腫瘍細胞のPrCRを媒介するTLR-Btk経路の重要な下流エフェクターであるか調査するために、本発明者らは次にマクロファージのCRTの発現及び機能を調べた。本発明者らは、CRTがマクロファージの表面上に発現して、その細胞表面曝露がBtkの活性化状態によって調節されることを見いだした(
図3A~B、
図10B)。CRT抗体は、マウスBMDMまたはヒト末梢血単核球細胞(PBMC)由来のマクロファージによる、SW620細胞の食作用を著しく阻害し(
図3C及び
図10C~D)、その一方で、マウス単球/マクロファージ細胞系J774のCRTの過剰発現は、強化された食作用を導いた(
図3D)。更に本発明者らは、Btk活性化の際のCRTのリン酸化を確認し、それはマクロファージのイミキモド処置の30分後、最大レベルに達した(
図10E)。CRTが、生きた癌細胞の食作用を媒介するために、TLR-Btk経路により調節される必須要素であることを、これらの結果は示唆する。
【0107】
本発明者らは、癌細胞のPrCRを媒介するCRTの役割を更に分析した。以前の研究は、アポトーシス細胞及び複数の生存可能なヒト癌細胞上のCRTの細胞表面の発現を証明した(
図11B~D)。したがって、マクロファージ及び標的腫瘍細胞上の癌細胞食作用を媒介する際にCRTが重要な役割を果たすかどうか、本発明者らは試験した(
図4A)。興味深いことに、マクロファージ上のCRTの遮断は食作用を減少させたが、癌細胞上のCRTの遮断は効果を示さず、食作用を媒介するためのマクロファージ上のCRTの特異的役割を示唆する(
図4A)。重要なことに、CRTの細胞表面発現は、標的癌細胞ではなく、マクロファージのTLRアゴニストにより強化されて、それはBtk(
図11A~D)を欠いており、CRT曝露を調節する異なるメカニズムを示した。次に本発明者らは、異なるレベルの細胞表面CRTを有するマクロファージ亜集団を試験して、より高い表面CRTを有するマクロファージが、より強力な食細胞の能力を示すことを見いだした(
図4B及び
図12A~B)。イミキモド処置の後の異なる時点で、異なる表面CRT発現及びマクロファージを有する亜集団を含む、マクロファージのパネルの定量分析は、マクロファージ上のCRT発現と腫瘍細胞の食作用との間の有意な相関を明らかにした(
図4C及び
図12C~D)。そのうえ、末梢血由来のM1及びM2ヒトマクロファージは両方とも、表面上にCRTを発現して、M1サブセットは、いくらかより高いレベルのCRTを発現した(
図13)。総合すれば、これらの発見は、CRTが腫瘍細胞のマクロファージ媒介性の監視において重要なエフェクターであり、及びマクロファージ上のCRTを上方制御することによって、癌細胞の強化したPrCRを得ることができることを示す。
【0108】
癌免疫学における最近の進歩は、癌の基本的特徴の1つとして免疫監視を避ける癌細胞の能力を強調した。リンパ球(T細胞、B細胞及びNK細胞)が多くの抗癌免疫監視を媒介すると考えられる一方で、本発明者らは、腫瘍細胞上のCD47の遮断が、生体内免疫認識、腫瘍細胞のマクロファージ食作用及びリンパ球欠損のマウスの腫瘍除去を導くことを証明し、食作用が癌細胞に対する監視にとって重要なことを示した。抗CD47の遮断により媒介される腫瘍細胞の食作用は、CD8T細胞へ腫瘍抗原のクロスプレゼンテーションをもたらすことができ、その結果、CD47の遮断は、適応免疫系T細胞毒性の自然免疫系マクロファージの監視及び刺激の両方をもたらすことができる。
【0109】
ここで本発明者らは、マクロファージ上の細胞表面CRTを示して、それは、小胞体CRTのリン酸化を引き起こすTLR-Btk経路によって調整されており、ER保留からのその切断は、その後の分泌と共にシグナルを送りだし、そこでそれはマクロファージCD91と結合することが可能である。分泌のこのメカニズムが、アポトーシス細胞を除去するこのメカニズムの実証に加えて、生きた癌細胞のPrCRを媒介するために重要であることを、本発明者らは示す。標的癌細胞上のまだ未確認の特異的受容体として、トランス相互作用により標的細胞を検出する際、マクロファージ上のCRTは機能でき、したがって表面CRTの遮断は、PrCRを阻害する。更にCD47変異体マウスは、自己赤血球または造血幹細胞(HSC)を貪食しないが、野生型類遺伝子性正常または照射処理マウスへ移すとき、他の「eat me」シグナルを使用する可能性、または、CRTはカルレティキュリン遺伝子を発現しない標的細胞を修飾できる可能性を示し、いずれの細胞型もマイクロアレイでCRTを発現しないが、これらの細胞は急速に貪食される。
【0110】
複数の種類のTLRアゴニストがマクロファージを刺激して、固形腫瘍細胞のPrCRを強化することができ、CD47-SIRPα相互作用を破壊した後、マクロファージを活性化して急性骨髄性白血病細胞を貪食するために、TLR4アゴニスト、LPS及びIFNγ受容体が必要であるという報告と一致することを、本発明者らは示す。これらの研究からTLRシグナル伝達は、腫瘍細胞の食作用を強化するために抗CD47の遮断と相互作用することができるが、食作用の標的としてもそれらを作成する、正常な細胞のTLRシグナル伝達の可能性は、このような相乗作用の臨床的可能性を判断できる前に、いくつかのシステムで試験されなければならない。マクロファージと標的癌細胞との間の相互作用の更なる研究は、癌細胞免疫回避の原理の理解を前進させるであろう。
【0111】
材料及び方法
マウス。BALB/c、RAG2-/-、γc-/-、BALB/c及びNOD.Cg-PrkdcscidII2rgtm1WjI/SzJ(NSG)マウスは、スタンフォード大学のInstitute for Stem Cell Biology and Regenerative Medicineの無菌施設で飼育した。すべての動物作業は、スタンフォード大学のAdministrative Panel on Laboratory Animal Careによって承認された。
【0112】
細胞培養。細胞株SW620(大腸癌)、HL60(白血病)、Raji(リンパ腫)、MDA-MB-231(乳癌)、PC3(前立腺癌)及びマウスマクロファージ/単核細胞株J774由来のヒト癌は、ATCCから得られて、10%のウシ胎児血清を補充したDMEM培地(SW620、MDA-MB-231、J774)、20%のウシ胎児血清を補充したIMDM培地(HL60)、10%のウシ胎児血清を補充したF-12K培地(PC-3)、または10%のウシ胎児血清を補充したRPMI-1640培地(Raji)で日常的に培養した。腫瘍細胞はレンチウイルスで形質導入し、それはルシフェラーゼ-eGFP融合タンパク質を発現するpCDH-CMV-MCS-EF1レンチウイルスベクターによって生成されて、上述のとおり、GFP+細胞のBD FACSAriaIIセルソーターを備えたフローサイトメトリーでソートした。
【0113】
TALENによるCD47ノックアウト。TALENは、記載されているように設計され構築された。ヒトCD47のゲノム座(NC_000003.12)を、推定上のTALEN結合対のためにスキャンした。エクソン2は標的化のために最終的に選択され、TALEN対TGTCGTCATTCCATGCTTTG及びTATACTTCAGTAGTGTTTTGは、pTALEN主鎖内にそれぞれクローン化した。SW620細胞は、lipofectamine2000を使用してCD47-TALEN構造体と共にトランスフェクトした。トランスフェクションの3日後に、細胞は、抗CD47またはアイソタイプ抗体で染色した。CD47細胞は、BD FACSAriaIIセルソーターを備えたフローサイトメトリーでソートした。
【0114】
フローサイトメトリー分析。フローサイトメトリー分析をBD LSRFortessaを使用して実行する。染色において、2.5×105~106細胞を、示した抗体で(1:50~1:200)、FACS緩衝剤(2%のウシ胎児血清入りのPBS)中、30分間氷上でインキュベートした。それから細胞はFACS緩衝剤で洗浄して、FACS分析を受けた。マクロファージの染色において、細胞は最初にFc受容体遮断剤または高濃度のアイソタイプIgG対照(示した抗体の5~10倍)で処置して、マクロファージ上のFcドメインとFc受容体との相互作用によって生じる抗体の非特異的結合を遮断した。
【0115】
マクロファージの調製。ヒト末梢血由来マクロファージを、上述したように生成した。単球はヒト末梢血から濃縮して、7~10日間10%のヒト血清を補充したIMDMの培養によって、マクロファージに分化した。M1ヒトマクロファージを生成するために、単球を、5%のFBS及び1%のglutamaxを補充したRPMI1640培地中の組換えヒトGM-CSF(5ng/mL)で、全7日処置した。M1分極化は、1時間のIFN-γ(20ng/mL)刺激による5日目の更なる処置、その後6~7日目のLPS(100ng/mL)処置によって達成した。M2ヒトマクロファージを生成するために、単球を、5%のFBS及び1%のglutamaxを補充したRPMI1640培地中の組換えヒトM-CSF(25ng/mL)で、全7日処置した。M2分極化は、IL-4(20ng/mL)及びIL-13(20ng/mL)による5日目及び6日目の更なる処置によって達成した。M1及びM2マクロファージの分化は、特異的表面マーカーCD80(M1)及びCD163(M2)の発現により評価した。
【0116】
抗CD47(BD Biosciences)、抗カルレティキュリン(Enzo Life Sciences、Abeam and MBL International)、抗F4/80抗体(Biolegend)、抗CD31抗体(BD Biosciences)、抗Gr-1抗体(Biolegend)をFACS分析のために使用した。抗体は、フィリコエリトリン(PE)-、PEcy-7-、APC-もしくはBrilliant Violet421(BV421)抱合型であり、またはフルオロフォア抱合型二次抗体を用いた。Sytoxブルーは、死細胞を除外するために用いた。
【0117】
食作用アッセイ。FACSベースの食作用アッセイを、マクロファージの食細胞の能力を評価するために実施した。マクロファージは6~8日の分化後回収されて、ウェル/管当たり1~5×104細胞を有する、FACS管または低接着96穴プレートに分けられた。標的細胞を加えて、マクロファージと混合し、示した条件(抗体/薬剤処置)で2時間、37℃でインキュベートした。CD47の遮断に関して、抗CD47(B6H12、BD Biosciences)またはヒト化抗CD47(Hu5F9-G4、スタンフォード大学のCD47疾患チームにより提供)抗体を使用した。次に細胞を、PEcy7抱合型抗マウスF4/80抗体でインキュベートして、マクロファージを染色した。インキュベーション後、細胞をFACS緩衝剤で洗浄し、sytoxブルーを含むFACS緩衝剤で再懸濁して死細胞を識別した。食細胞指数をFACS分析で試験して、標的細胞を貪食したマクロファージはF4/80+及びGFP+であった。食細胞指数は、F4/80+GFP+細胞の数をF4/80+細胞の数で分割して算出した。各実験において、食細胞指数は最大指数に正規化された。
【0118】
あるいはマクロファージ及び標的細胞を混合して、示した条件で16~24時間の24ウェルプレートで共培養した。細胞をTrypLEによってプレートから収集して、PEcy7抱合型抗マウスF4/80抗体でインキュベートして、マクロファージのために染色した。インキュベーション後、細胞をFACS緩衝剤で洗浄し、sytoxブルー及び未着色標準細胞を含むFACS緩衝剤で再懸濁した(293T細胞を標準細胞として使用した)。それから細胞は、FACS分析を受けた。残りの標的細胞を、標準細胞に正規化して(標準細胞の数は周知であり、各試料で等しい)、インキュベーションの間、マクロファージにより貪食された細胞のパーセンテージを評価した。
【0119】
CRTの細胞表面の示差的発現でマクロファージの食細胞の能力を試験する実験において、細胞は、抗F4/80抗体、及び抗カルレティキュリン抗体、または食作用アッセイ後同じ色に共役結合したアイソタイプ対照で染色した。F4/80+細胞(マクロファージ)をゲートして、中でも、CRTHigh、CRTMediumまたはCRTLow細胞は食細胞指数について別途分析した。
【0120】
CRTの過剰発現。複製能力がないレンチウイルスを、J774細胞のカルレティキュリンを過剰発現させるために用いた。CRTcDNAを、シグナルペプチドの後、mycタグで、pCDH-MCS-IRS-Puroレンチウイルスベクターにクローン化した。mycタグ付加したCRTを発現するレンチウイルスベクターを、比率(4:3:1)で293T細胞、psPAX2及びpMD2.Gに一時的にトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、上澄みを収集して、J774細胞に加えた。細胞を48時間のピューロマイシン(2μg/ml)で処置して、選択した細胞を食作用アッセイに使用した。CRT過剰発現は、抗myc抗体によるウエスタンブロットによって確認した。
【0121】
細胞表面ビオチン化。マウス骨髄由来のマクロファージを6日目に播種して、ビオチン化アッセイ前に16時間のイミキモドまたはイブルチニブで処置した。細胞を、PBS(pH8.0)中で1時間、NHS-SS-ビオチン(0.5mg/ml)でインキュベートして、次にクエンチ緩衝剤(20mMのトリスHCl、120mMのNaCl、pH7.4)、PBS中の100mMのグリシン及びPBSですすいだ。細胞を、溶解緩衝液(20mMのトリス-HCl、pH7.4、150mMのNaCl、2mMのEDTA,1%のトリトンX-100、プロテアーゼ阻害剤カクテル及びホスファターゼ阻害剤カクテルを補充)中に溶解した。細胞可溶化物を4℃で4時間、ニュートラアビジンアガロース樹脂でインキュベートし、樹脂を溶解緩衝液を使用して洗浄した。ビオチン標識化したタンパク質を、2%SDS及び100mMのDTTを含有する溶解緩衝剤で溶出して、SDS-PAGE及び免疫ブロット法を受けた。細胞内タンパク質GAPDHを陰性対照として使用して、細胞表面タンパク質だけがNHS-SS-ビオチンによって標識されることを確認した。
【0122】
免疫沈降。カルレティキュリンは、myc-CRTを発現するJ774細胞から免疫沈降した。J774細胞は、免疫沈降の12時間前に蒔かれた。細胞を、示された時点でイミキモド(1ug/ml)で処置して、ホスファターゼ阻害剤を含有する予め冷却したPBSで氷上で洗浄した。それから細胞を、溶解緩衝液(20mMのトリス-HCl、pH7.4、150mMのNaCl、2mMのEDTA,1%のトリトンX-100、プロテアーゼ阻害剤カクテル及びホスファターゼ阻害剤カクテルを補充)中に溶解した。細胞可溶化物を、4℃で、プレクリアランスのためGammaBind Plusセファロースで1時間、及び抗myc抗体で4時間インキュベートした。GammaBindセファロースを細胞可溶化物に加えて、4℃で1時間インキュベートした。ビーズを、溶解緩衝剤で洗浄した。タンパク質を、2%SDS及び100mMのDTTを含有する溶解緩衝剤で溶出して、SDS-PAGE及び免疫ブロット法を受けた。リン酸化CRTを検出するために、ブロットを、ビオチン標識化したpT66抗pチロシン抗体及びHRP抱合型ストレプトアビジンでインキュベートした。
【0123】
腫瘍移植及び処置。PC3細胞(ヒト前立腺癌)を、25%のマトリックスマトリゲルを有するF-12K培地中に収容して、6~10週間NSGマウスの背中に皮下注入した。マウスを、移植2週間後、PBSまたはHu5F9-G4抗体を腹腔内注入によって処置して、腫瘍が100mm3に達した移植7週間後、PBSまたはTLRアゴニスト(ポリ(I:C)HMW20μg、及びLPS20μg)を腫瘍内注入によって処置した。
【0124】
生物発光画像診断を、上述のように、腫瘍増殖を監視するために実施した。要約すると、D-ルシフェリン(ホタル)カリウム塩を、16.6mg/mlの最終濃度までPBS中に溶解させた。マウスは、ルシフェリン溶液(0.139gルシフェリン/体重kg)を腹腔内注入されて、撮像されて、Living Image4.0ソフトウェアで分析した。
【0125】
腫瘍解離及びFACS分析。腫瘍標本をマウスから収集して、直径1mmより小さい部分に細かく分割して、単一細胞懸濁液が得られるまで、37℃でTM酵素及びDNAアーゼを有する培地199中に分離した。細胞を、赤血球の溶解のためACK溶解緩衝剤で処置して、HBSSで2回洗浄し、70μmの細胞ストレーナーでろ過して、フローサイトメトリー分析を受けた。細胞を抗CD31抗体、抗Gr1抗体及びsytoxブルーで染色して内皮細胞、好中球及び死細胞を除外し、抗F4/80抗体で染色してマクロファージを除外した。
【0126】
関連出願の相互参照
本出願は、2015年1月21日出願の米国特許仮出願第62/106,050号の利益を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。