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特開2023-103483電極体、電極体を備える電解コンデンサ、及び電極体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103483
(43)【公開日】2023-07-26
(54)【発明の名称】電極体、電極体を備える電解コンデンサ、及び電極体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 9/055 20060101AFI20230719BHJP
   H01G 9/00 20060101ALI20230719BHJP
   H01G 9/048 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
H01G9/055 100
H01G9/00 290D
H01G9/048 G
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086141
(22)【出願日】2023-05-25
(62)【分割の表示】P 2020525527の分割
【原出願日】2019-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2018111486
(32)【優先日】2018-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】小関 良弥
(72)【発明者】
【氏名】大倉 数馬
(72)【発明者】
【氏名】長原 和宏
(72)【発明者】
【氏名】町田 健治
(57)【要約】
【課題】良好な陰極側容量を発現させる電極体、この電極体を備える電解コンデンサを提供する。
【解決手段】電解コンデンサの陰極に用いられる電極体は、陰極箔とカーボン層とを有する。陰極箔は、弁作用金属により成り、表面に拡面層が形成される。カーボン層は、拡面層に形成される。拡面層とカーボン層の界面は、凹凸形状を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解コンデンサの陰極に用いられる電極体であって、
弁作用金属により成り、表面に拡面層が形成された陰極箔と、
前記拡面層に形成されたカーボン層と、
を備え、
前記拡面層と前記カーボン層の界面は、凹凸形状を有すること、
を特徴とする電極体。
【請求項2】
前記凹凸形状の凹凸深さは、0.5μm以上を有すること、
を特徴とする請求項1記載の電極体。
【請求項3】
前記拡面層は、複数のエッチングピットが掘り込まれて成り、
前記エッチングピットの径は、表層付近で0.12μm以上0.43μm以下であり、
前記エッチングピットの深さは、1.5μm以上5.0μm以下であり、
前記凹凸形状は、凸領域を高さ方向に沿って切断した断面の両端間距離が、1.5μm以上8.0μm以下であり、
前記凹凸形状は、凸領域の高さが0.15μm以上0.80μm以下であること、
を特徴とする請求項1又は2記載の電極体。
【請求項4】
前記拡面層は、複数のエッチングピットが掘り込まれて成り、
前記カーボン層は、前記凹凸形状の界面から更に前記エッチングピット内に入り込んでいること、
を特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の電極体。
【請求項5】
前記凹領域から更に前記エッチングピット内に入り込んだ前記カーボン層は、当該凹領域に隣接する凸領域の頂点から深さ方向に平均0.5μm以上沈み込んだ位置まで入り込むこと、
を特徴とする請求項4記載の電極体。
【請求項6】
前記凹領域から更に前記エッチングピット内に入り込んだ前記カーボン層は、当該凹領域に隣接する凸領域の頂点から深さ方向に平均0.7μm以上沈み込んだ位置まで入り込むこと、
を特徴とする請求項4記載の電極体。
【請求項7】
前記拡面層は、複数のエッチングピットが掘り込まれて成り、
界面長さYと範囲長Xの割合(Y/X×100)は110%以上であること、
を特徴とする請求項1記載の電極体。
界面長さY:任意の始点から任意の終点までの、前記拡面層と前記カーボン層との界面に沿った長さであり、前記エッチングピットに入り込んだ前記カーボン層を含む長さ
範囲長X:前記界面長さYを測定した前記始点と前記終点とを一直線に結んだベクトルのうち、前記凹凸形状の高さ方向と直交する方向成分の長さ
【請求項8】
前記凹凸形状は、押圧により圧縮変形していること、
を特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の電極体。
【請求項9】
前記カーボン層は、鱗片状炭素材と球状炭素材とを含むこと、
を特徴とする請求項1乃至8の何れかに記載の電極体。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れかに記載の電極体を陰極に備えること、
を特徴とする電解コンデンサ。
【請求項11】
電解コンデンサの陰極に用いられる電極体の製造方法であって、
弁作用金属により成り、表面に拡面層が形成された陰極箔にカーボン層を形成する工程と、
前記カーボン層が形成された陰極箔を押圧する工程と、
を備え、
前記拡面層と前記カーボン層の界面は、凹凸形状を有すること、
を特徴とする電極体の製造方法。
【請求項12】
前記カーボン層が形成された陰極箔は、プレス線圧が1.54kNcm-1以上で押圧されていること、
を特徴とする請求項11に記載の電極体の製造方法。
【請求項13】
前記カーボン層は、鱗片状炭素と球状炭素を含むスラリーを陰極箔に塗布、乾燥して形成すること、
を特徴とする請求項11又は12に記載の電極体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極体、電極体を備える電解コンデンサ、及び電極体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解コンデンサは、タンタルあるいはアルミニウム等のような弁作用金属を陽極箔及び陰極箔として備えている。陽極箔は、弁作用金属を焼結体あるいはエッチング箔等の形状にすることで拡面化され、拡面化された表面に誘電体酸化皮膜層を有する。陽極箔と陰極箔の間には電解液が介在する。電解液は、陽極箔の凹凸面に密接し、真の陰極として機能する。この電解コンデンサは、誘電体酸化皮膜層の誘電分極作用により陽極側容量を得ている。
【0003】
電解コンデンサは陽極側と陰極側に容量が発現する直列コンデンサと見做すことができる。従って、陽極側容量を効率良く活用するには陰極側容量が非常に重要である。そこで、陰極箔も例えばエッチング処理により表面積を増大させているが、陰極箔の厚みの観点から陰極箔の拡面化にも限界がある。
【0004】
そこで、窒化チタン等の金属窒化物の皮膜を陰極箔に形成した電解コンデンサが提案されている(特許文献1参照)。窒素ガス環境下で、イオンプレーディング法の一種である真空アーク蒸着法によってチタンを蒸発させ、陰極箔の表面に窒化チタンを堆積させる。金属窒化物は不活性であり、自然酸化皮膜が形成され難い。また蒸着皮膜は微細な凹凸が形成されて陰極の表面積が拡大する。
【0005】
活性炭を含む多孔質のカーボン層を陰極箔に形成した電解コンデンサも知られている(特許文献2参照)。この電解コンデンサの陰極側容量は、分極性電極と電解質との境界面に形成される電気二重層の蓄電作用により発現する。電解質のカチオンが多孔質カーボン層との界面に整列し、多孔質カーボン層内の電子と極めて短い距離を隔てて対を成し、陰極に電位障壁が形成される。この多孔質カーボン層が形成された陰極箔は、多孔質カーボンを分散させた水溶性バインダー溶液を混練してペースト状にし、当該ペーストを陰極箔の表面に塗布し、高温下に晒すことで乾燥させることで作製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4-61109号公報
【特許文献2】特開2006-80111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
金属窒化物の蒸着プロセスは複雑であり、工業的に導入するのは困難であり、電解コンデンサのコスト高及び歩留まりの悪化を招く。活性炭を含む多孔質カーボン層をペーストの塗布により陰極箔に形成した電解コンデンサは、金属窒化物を陰極箔に蒸着させた電解コンデンサと比べて、静電容量が常温環境下及び高温環境下において低い。そのため、多孔質カーボン層をペーストの塗布により陰極箔に形成した電解コンデンサにおいて、満足する静電容量は未だに得られていない。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、良好な容量を発現させる電極体、この電極体を備える電解コンデンサ、及び電極体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく、本発明に係る電極体は、電解コンデンサの陰極に用いられる電極体であって、弁作用金属により成り、表面に拡面層が形成された陰極箔と、前記拡面層に形成されたカーボン層と、を備え、前記拡面層と前記カーボン層の界面は、凹凸形状を有すること、を特徴とする。
【0010】
前記凹凸形状の凹凸深さは、0.5μm以上を有するようにしてもよい。
【0011】
前記拡面層は、複数のエッチングピットが掘り込まれて成り、前記エッチングピットの径は、表層付近で0.12μm以上0.43μm以下であり、前記エッチングピットの深さは、1.5μm以上5.0μm以下であり、前記凹凸形状は、凸領域を高さ方向に沿って切断した断面の両端間距離が、1.5μm以上8.0μm以下であり、前記凹凸形状は、凸領域の高さが0.15μm以上0.80μm以下であるようにしてもよい。
【0012】
前記拡面層は、複数のエッチングピットが掘り込まれて成り、前記カーボン層は、前記凹凸形状の界面から更に前記エッチングピット内に入り込んでいるようにしてもよい。
【0013】
前記凹領域から更に前記エッチングピット内に入り込んだ前記カーボン層は、当該凹領域に隣接する凸領域の頂点から深さ方向に平均0.5μm以上沈み込んだ位置まで入り込むようにしてもよい。
【0014】
前記凹領域から更に前記エッチングピット内に入り込んだ前記カーボン層は、当該凹領域に隣接する凸領域の頂点から深さ方向に平均0.7μm以上沈み込んだ位置まで入り込むようにしてもよい。
【0015】
前記拡面層は、複数のエッチングピットが掘り込まれて成り、界面長さYと範囲長Xの割合(Y/X×100)は110%以上であるようにしてもよい。但し、界面長さYは、任意の始点から任意の終点までの、前記拡面層と前記カーボン層との界面に沿った長さであり、前記エッチングピットに入り込んだ前記カーボン層を含む長さである。範囲長Xは、前記界面長さYを測定した前記始点と前記終点とを一直線に結んだベクトルのうち、前記凹凸形状の高さ方向と直交する方向成分の長さである。
【0016】
前記凹凸形状は、押圧により圧縮変形しているようにしてもよい。
【0017】
前記カーボン層は、鱗片状炭素材と球状炭素材とを含むようにしてもよい。
【0018】
この電極体を陰極に備える電解コンデンサも本発明の一態様である。
【0019】
また、本発明に係る電解コンデンサの陰極に用いられる電極体の製造方法は、
弁作用金属により成り、表面に拡面層が形成された陰極箔にカーボン層を形成する工程と、前記カーボン層が形成された陰極箔を押圧する工程と、を備え、前記拡面層と前記カーボン層の界面は、凹凸形状を有すること、を特徴とする。
【0020】
前記カーボン層が形成された陰極箔は、1.54kNcm-1以上で押圧されていてもよい。
【0021】
前記カーボン層は、鱗片状炭素と球状炭素を含むスラリーを陰極箔に塗布、乾燥して形成してもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、陰極体にカーボン層を用いても、良好な静電容量を発現させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態に係る電極体の拡面層とカーボン層の界面構造を示す模式図である。
図2】比較例1のSEM画像であり、(a)はプレス無し、(b)はプレス線圧3.85kNcm-1である。
図3】比較例2のSEM画像である。
図4】実施例1のSEM画像である。
図5】実施例2のSEM画像である。
図6】実施例3のSEM画像である。
図7】実施例5のSEM画像である。
図8】実施例8のSEM画像である。
図9】カーボン層が存在しない陰極箔のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施形態に係る陰極体及び陰極体を備える電解コンデンサについて説明する。本実施形態では、電解液を有する電解コンデンサを例示して説明するが、これに限定されるものではなく。電解液、導電性ポリマーなどの固体電解質層、ゲル電解質、又は固体電解質層とゲル電解質に対して電解液を併用した電解質を有する電解コンデンサの何れにも適用できる。
【0025】
(電解コンデンサ)
電解コンデンサは、静電容量に応じた電荷の蓄電及び放電を行う受動素子である。この電解コンデンサは、巻回型又は積層型のコンデンサ素子を有する。コンデンサ素子は、陽極箔と陰極体とをセパレータを介して対向させ、電解液が含浸されて成る。この電解コンデンサは、電解液と陰極体の界面に生じる電気二重層作用によって陰極側容量が生じ、また誘電分極作用による陽極側容量が生じる。
【0026】
即ち、陽極箔の表面には、誘電分極作用が生じる誘電体酸化皮膜層が形成されている。陰極体の表面には、電解液との界面に電気二重層作用を生じさせるカーボン層が形成されている。電解液は、陽極箔と陰極体の間に介在し、陽極箔の誘電体酸化皮膜層と陰極体のカーボン層に密接する。セパレータは、陽極箔と陰極体のショートを防止すべく、陽極箔と陰極体との間に介在し、また電解液を保持する。
【0027】
尚、固体電解質を用いた場合は、集電体と接触したカーボン層によって固体電解質と導通することとなり、誘電分極作用による陽極側容量によって電解コンデンサの静電容量が構成される。
【0028】
(陰極体)
この陰極体は陰極箔とカーボン層の2層構造を有する。陰極箔は集電体となり、その表面には拡面層が形成されている。カーボン層は炭素材を含み、陰極箔の拡面層に密着する。
【0029】
陰極箔は、弁作用金属を材料とする長尺の箔体である。弁作用金属は、アルミニウム、タンタル、ニオブ、酸化ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス及びアンチモン等である。純度は、99%程度以上が望ましいが、ケイ素、鉄、銅、マグネシウム、亜鉛等の不純物が含まれていても良い。陰極箔としては、例えばJIS規格H0001で規定される調質記号がHであるアルミニウム材、いわゆるH材や、JIS規格H0001で規定される調質記号がOであるアルミニウム材、いわゆるO材を用いてもよい。H材からなる剛性が高い金属箔を用いると、後述するプレス加工による陰極箔の変形を抑制できる。
【0030】
この陰極箔は、弁作用金属が延伸された金属箔に拡面処理が施されている。拡面層は、電解エッチングやケミカルエッチング、サンドブラスト等により形成され、又は金属箔に金属粒子等を蒸着若しくは焼結することにより形成される。電解エッチングとしては、直流エッチング又は交流エッチング等の手法が挙げられる。また、ケミカルエッチングでは、金属箔を酸溶液やアルカリ溶液に浸漬させる。形成された拡面層は、箔表面から箔芯部へ向けて掘り込まれたトンネル状のエッチングピット、又は海綿状のエッチングピットを有する層領域である。尚、エッチングピットは、陰極箔を貫通するように形成されていてもよい。
【0031】
カーボン層において、炭素材は繊維状炭素、炭素粉末、又はこれらの混合である。繊維状炭素は、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ等である。カーボンナノチューブは、グラフェンシートが1層である単層カーボンナノチューブでも、2層以上のグラフェンシートが同軸状に丸まり、チューブ壁が多層をなす多層カーボンナノチューブ(MWCNT)でもよい。炭素粉末は、やしがら等の天然植物組織、フェノール等の合成樹脂、石炭、コークス、ピッチ等の化石燃料由来のものを原料とする活性炭、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャネルブラックなどのカーボンブラック、カーボンナノホーン、無定形炭素、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化ケッチェンブラック、メソポーラス炭素等である。電解質として電解液を用いる電解コンデンサでは、炭素材は電気二重層作用を発現させるものが好ましい。
【0032】
繊維状炭素や炭素粉末には、賦活処理や孔を形成する開口処理などの多孔質化処理を施してもよい。炭素粉末の賦活方法としては、用いる原料により異なるが、通常、ガス賦活法、薬剤賦活法などの従来公知の賦活処理を用いることができる。ガス賦活法に用いるガスとしては、水蒸気、空気、一酸化炭素、二酸化炭素、塩化水素、酸素またはこれらを混合したものからなるガスが挙げられる。また、薬剤賦活法に用いる薬剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、ホウ酸、リン酸、硫酸、塩酸等の無機酸類、または塩化亜鉛などの無機塩類などが挙げられる。この賦活処理の際には必要に応じて加熱処理が施される。
【0033】
図1(a)は、陰極箔とカーボン層とが接している面、即ち拡面層とカーボン層の界面構造を示す模式図である。エッチングピット(図中符号1)には、カーボン層(図中符号2)が入り込むことで、拡面層(図中符号3)とカーボン層の界面の一部は、エッチングピットに沿った細かい凹凸形状となっている。以下、このカーボン層がエッチングピットに入り込んだ凹凸形状をエッチング凹凸(図中符号4)という。
【0034】
拡面層とカーボン層の界面には、エッチング凹凸とは別に、うねりのある凹凸、即ち波長が長い凹凸が生じている。以下、この凹凸を外表凹凸(図中符号5)という。換言すれば、エッチングピットが無いものとすると、拡面層の表面は、裾野が広い凸領域と凹領域が繋がってうねりを構成し、カーボン層は、このうねりに沿って密着している。エッチング凹凸は、外表凹凸の凸領域及び凹領域から連続して深部へ向けて延びている。外表凹凸は、拡面層の表面に立体構造をもたらし、カーボン層との密着面積を増大させている。
【0035】
ここで、電解コンデンサのエージング工程では、拡面層の表面の露出部分に酸化皮膜が形成される。また、拡面層とカーボン層との密着面積の増大は、拡面層の表面の露出部分の減少を導く。そうすると、拡面層とカーボン層との密着面積を増大させる外表凹凸は、エージング工程で陰極箔全体として酸化皮膜が形成される面積を減少させる。従って、拡面層とカーボン層との界面に外表凹凸を有する陰極体を用いた電解コンデンサは、窒化チタンを蒸着させた陰極箔を用いた電解コンデンサに比べて、10kHz等の高周波領域の充放電による静電容量を増加させ、125℃等の高熱環境下の静電容量の減少率も抑制される。
【0036】
特に、外表凹凸の適度な入り組み様は、拡面層とカーボン層の密着面積の増大効果を高める。第1に、自然に、又は電解液を起因として拡面層表面には酸化皮膜が形成されるが、カーボン層を拡面層上に形成し、押圧する際、カーボン層の炭素材が拡面層の表面に突き立てられ、酸化皮膜を破り、未酸化の拡面層とカーボン層とが直に接触する。また、第2に、凹領域内のカーボン層を更にエッチングピットへ押し込む力が伝達され易く、凹領域とエッチングピットを加えた深さ分だけ、カーボン層が拡面層に入り込み、更にカーボン層と拡面層の密着面積が増大し陰極体を低抵抗化できる。
【0037】
一方、入り組み様が一定程度複雑になると、凹領域に入り込んだカーボン層を更にエッチングピットへ押し込む力が伝達し難くなる。そのため、入り組み様が一定程度複雑になると、静電容量は向上するものの、その向上の程度は限定的となる。
【0038】
適度な入り組み様を有する外表凹凸は次の通りである。まず、外表凹凸の凹凸深さHfは、0.5μm以上が好ましい。この外表の凹凸深さHfは、外表凹凸の2つの頂点を繋ぐ線である平坦線Lを基準に外表凹凸の最深部の凹部までの距離を示す。陰極体の断面を走査電子顕微鏡で撮影し、SEM画像にて外表凹凸のうち最も高い凸部2点を繋ぐ平坦線を基準に、最も深い凹部までの距離を測定すればよい。外表の凹凸深さHfが0.5μm以上とすることで、カーボン層との密着性が高まる。
【0039】
また、外表凹凸の凸領域の長さLcは1.5μm以上8.0μm以下の範囲であり、平均すると2.9μmから4.0μm程度であり、外表凹凸の凸領域の高さHcは0.15μm以上0.80μm以下の範囲であり、平均すると0.3μmから0.6μm程度である。凸領域の長さLcは、凸領域を高さ方向に沿って切断した断面における両端間距離である。凹領域の長さLdは2.0μm以上7.7μm以下の範囲であり、平均すると3.8μm程度である。外表凹凸を表す各数値については、陰極体の断面を走査電子顕微鏡で撮影し、SEM画像にて計測すればよい。平均は5点を抽出して計測すればよい。
【0040】
但し、この範囲であっても、外表凹凸のうねりが激しいと、即ち外表凹凸の凸領域の長さLcが3.77μm以下の範囲であると、窒化チタンを蒸着させた陰極体に対して、125℃等の高熱環境下及び10kHz等の高周波数領域での使用時の静電容量の劣化に関する優位性が小さくなる。一方、外表凹凸のうねりが穏やかになると、即ち外表面凹凸はあるが、外表凹凸の凸領域の長さLcが3.78μm以上であると、125℃等の高熱環境下及び10kHz等の高周波数領域での使用時、窒化チタンを蒸着させた陰極体に対して、静電容量の劣化に関する優位性は大きい。
【0041】
この外表凹凸により、凹領域における界面から更にエッチングピットへ押し込まれたカーボン層の最深距離Hdは、当該凹領域に隣接する凸領域の頂点から深さ方向に、0.42μm以上1.40μm以下であり、平均すると0.54μmから0.96μm程度となる。外表凹凸が緩やかであると平均0.7μm以上ともなる。0.5μm以下であると、静電容量の向上効果は小さい。0.7μm以上であると、良好な静電容量を有し、また熱安定性も高い。熱安定性とは、高温環境下における静電容量の劣化が少ないことをいう。
【0042】
尚、エッチングピットは、表面近辺で0.12μm以上0.43μm以下の範囲の径Deを有し、平均で0.25μm程度の径を有する。また、エッチング処理によるエッチングピットは、1.5μm以上5.0μm以下の範囲の深さHeを有し、平均で3.3μm程度の深さを有する。
【0043】
更に、適度な入り組み様を有する外表凹凸について別の指標を示す。図1(b)は、凹凸の高さ方向に沿って切断した断面図、換言すると、陰極体の表面から深部へ向かう陰極体の厚み方向に沿って切断した断面図である。この断面において、任意の始点から任意の終点までの拡面層とカーボン層との界面に沿った長さを界面長さYとする。この界面には、エッチングピットに入り込んだカーボン層を含むものである。また、界面長さYを測定した始点と終点とを一直線に結んだベクトルのうち、凹凸の高さが一定の方向成分、即ち凹凸の高さ方向と直交する方向成分の長さを範囲長Xとする。
【0044】
このとき、範囲長Xに対する界面長さYの割合は、110%以上であることが望ましい。110%未満は、外表凹凸がほとんど形成されていないことを示し、20℃で無負荷の場合、及び125℃環境下で直流2.4Vの負荷を250時間かけ続けた後の120Hz及び10kHz充放電時の各静電容量が、窒化チタンを蒸着させた陰極体で作製された電解コンデンサと比べて劣るものとなる。
【0045】
また、カーボン層内の空隙は殆どが消失し、カーボン層は密となっていることが好ましい。カーボン層の空隙率は、18%未満が望ましい。カーボン層の空隙率が小さいことで、カーボン層とエッチング表面との密着性が高まることとなる。カーボン層の空隙率は、(カーボン層空隙部の面積/カーボン層全体の面積)×100で算出される。空隙率は各断面SEM像(観察倍率: 25,000倍)に対して、画像解析ソフトImageJ(NIH,米国国立衛生研究所)を使用し、解析することで算出することができる。
【0046】
この外表凹凸とエッチング凹凸とを有する界面構造の形成方法を例示する。但し、外表凹凸とエッチング凹凸により界面構造が構成されていれば、例示する方法に限られない。例えばショットピーニング等の別の方法で拡面層の表面にエッチングピットを除いて、うねりのある凹凸を形成してもよい。
【0047】
まず、陰極箔に拡面層を形成する。典型的には、硝酸、硫酸、塩酸等の酸性水溶液中で直流又は交流を印加する直流エッチング又は交流エッチングにより、拡面層は形成される。
【0048】
カーボン層に関しては、炭素材の粉末を溶媒中で分散させ、バインダーを加えてスラリーを作製する。溶媒は、メタノール、エタノールや2-プロパノールなどのアルコール、炭化水素系溶媒、芳香族系溶媒、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)やN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)などのアミド系溶媒、水及びこれらの混合物などである。分散方法としては、ミキサー、ジェットミキシング(噴流衝合)、または、超遠心処理、その他超音波処理などを使用する。分散工程では、混合溶液中の炭素材の粉末及びバインダーが細分化及び均一化し、溶液中に分散する。バインダーとしては、例えばスチレンブタジエンゴムが挙げられる。
【0049】
次に、スラリーを拡面層に塗布し、乾燥させた後、所定圧力で押圧することで、陰極箔とカーボン層とを密着させ一体化させる。陰極箔とカーボン層とを密着させるプレス工程において、拡面層とカーボン層の界面構造が形成されると考えられる。
【0050】
このプレス工程では、カーボン層の炭素材が拡面層に押し付けられ、陰極箔の表面全体が圧縮変形する。更に、エッチングピットの密な領域が大きく圧縮変形する。これにより、平滑な陰極箔の表面状態が変形し、拡面層とカーボン層の界面にうねりのある凹凸が生まれる。また、凹凸の出現と同時に、拡面層とカーボン層とが密着する。また陰極箔の表面に存在する自然酸化皮膜を炭素材が突き破って陰極箔と直に接触する。このように、所定圧力のプレス工程を経た場合、外表凹凸の形成と、拡面層とカーボン層との密接が同時に達成され、うねりのある拡面層とカーボン層との間に隙間が生じにくくなる。
【0051】
このプレス工程は、例えば、カーボン層が塗布された陰極箔に対してプレスローラーでプレス線圧を加える。このとき、カーボン層に含まれるバインダーの軟化温度以上の熱を加えたプレスローラーを用いてもよい。このようにすることで、カーボン層の流動性が高まる。そのため、カーボン層がエッチングピット内に入り込みやすくなり、カーボン層と陰極箔の接触面積が増加し、界面抵抗がより低くなる。
【0052】
また、所定圧力のプレス加工によって、緩やかな外表凹凸が形成されるとともに、この緩やかな外表凹凸によって、凹領域内のカーボン層にプレス圧が伝わり易く、凹領域内のカーボン層が更にエッチングピットに入り込み易くなる。更に、プレス加工によってカーボン層が圧縮され、カーボン層内の空隙を消失させ易くなる。プレスによる線圧は、陰極箔の表面に存在する自然酸化皮膜を前記炭素材が突き破って陰極箔と直に接触する程度に押圧することが望ましく、具体的には1.54kNcm-1以上が望ましく、更に望ましくは、3.85kNcm-1以上である。プレス線圧が1.54kNcm-1以上であると、外表凹凸が形成され、プレス線圧が3.85kNcm-1以上であると外表凹凸が緩やかになる。
【0053】
界面構造の変化を助勢する炭素材として、好ましくは鱗片状炭素材と球状炭素材の混合である。鱗片状炭素材は、拡面層に押し付け易く、拡面層との界面に整然と敷き詰め易く、またプレス接合によって箔表面の自然酸化皮膜に突き立て易く、自然酸化皮膜を突き破り易い。従って、鱗片状炭素材は、界面構造をうねりのある凹凸状に成型し易く、そして陰極箔と界面で密着し易い。また、鱗片状炭素材は、拡面層の界面に整然と積み重なり易い。従って、鱗片状炭素材は、カーボン層内の空隙を低減させる。球状体炭素材は、カーボン層内の空隙を埋め、また陰極箔との接合過程でエッチングピットに入り込み易い。
【0054】
鱗片状炭素材としては、天然黒鉛、人造黒鉛、又は黒鉛化ケッチェンブラックが挙げられる。これらの鱗片状炭素は、その短径と長径とのアスペクト比が1:5~1:100の範囲のものを用いるのが望ましい。球状炭素材としては、ケッチェンブラック(以下、KB)、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラックが挙げられる。カーボンブラックの一次粒子径は100nm以下が望ましく、エッチングピットの深部に入りやすいものである。一般的に、これら鱗片状炭素材及び球状炭素材は、活性炭やカーボンナノチューブと比べて比表面積が小さく、電気二重層容量が小さいため、一般的には活物質ではなく導電助剤としての役割を担う。しかし、この電解コンデンサでは、拡面層とカーボン層の界面構造、即ち外表凹凸が生じ、または更にエッチング凹凸が生じていることに起因して十分な陰極側容量を引き出される。
【0055】
もちろん、これら鱗片状炭素材及び球状炭素材に加えて、活性炭やカーボンナノチューブ等を含有させることもできるし、これら鱗片状炭素材及び球状炭素材のみを活物質としてカーボン層に含有させることもできる。活性炭やカーボンナノチューブは、パイ電子が非局在化し、比表面積が大きい。また、この電解コンデンサでは、拡面層とカーボン層の界面が外表凹凸を有し、または更にエッチング凹凸を有し、十分な陰極側容量を引き出されるため、鱗片状炭素材及び球状炭素材に多孔質化処理が未処理であってもよい。もちろん、鱗片状炭素材及び球状炭素材に多孔質化処理を施して使用することもできる。
【0056】
(陽極箔)
次に、陽極箔は、弁作用金属を材料とする長尺の箔体である。純度は、陽極箔に関して99.9%程度以上が望ましい。この陽極箔は、延伸された箔にエッチング処理を施して成り、弁作用金属の粉体を焼結して成り、または金属粒子等の皮膜を箔に蒸着させて皮膜を施して成る。陽極箔は、拡面層又は多孔質構造層を表面に有する。
【0057】
陽極箔に形成される誘電体酸化皮膜層は、典型的には、陽極箔の表層に形成される酸化皮膜であり、陽極箔がアルミニウム製であれば、多孔質構造領域を酸化させた酸化アルミニウム層である。この誘電体酸化皮膜層は、硼酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、アジピン酸アンモニウム等の酸あるいはこれらの酸の水溶液等のハロゲンイオン不在の溶液中で電圧印加する化成処理により形成される。尚、陰極箔には、自然酸化皮膜層が形成され得るし、意図的に誘電体酸化皮膜層を設けてもよい。
【0058】
(セパレータ)
セパレータは、クラフト、マニラ麻、エスパルト、ヘンプ、レーヨン等のセルロースおよびこれらの混合紙、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、それらの誘導体などのポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ビニロン系樹脂、脂肪族ポリアミド,半芳香族ポリアミド,全芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、トリメチルペンテン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリル樹脂等が挙げられ、これらの樹脂を単独で又は混合して用いることができる。
【0059】
(電解液)
電解液は、溶媒に対して溶質を溶解し、また必要に応じて添加剤が添加された混合液である。溶媒は水やプロトン性の有機極性溶媒又は非プロトン性の有機極性溶媒の何れでもよい。プロトン性の有機極性溶媒として、一価アルコール類、及び多価アルコール類、オキシアルコール化合物類などが代表として挙げられる。非プロトン性の有機極性溶媒としては、スルホン系、アミド系、ラクトン類、環状アミド系、ニトリル系、オキシド系などが代表として挙げられる。
【0060】
一価アルコール類としては、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類およびオキシアルコール化合物類としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メトキシプロピレングリコール、ジメトキシプロパノール等が挙げられる。スルホン系としては、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン等が挙げられる。アミド系としては、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-エチルホルムアミド、N,N-ジエチルホルムアミド、N‐メチルアセトアミド、N,N‐ジメチルアセトアミド、N-エチルアセトアミド、N,N‐ジエチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックアミド等が挙げられる。ラクトン類、環状アミド系としては、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、N-メチル-2-ピロリドン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、イソブチレンカーボネート、イソブチレンカーボネート等が挙げられる。ニトリル系としては、アセトニトリル、3-メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル等が挙げられる。オキシド系としてはジメチルスルホキシド等が挙げられる。溶媒として、これらが単独で用いられてもよく、また2種類以上を組み合わせても良い。
【0061】
電解液に含まれる溶質は、アニオン及びカチオンの成分が含まれ、典型的には、有機酸若しくはその塩、無機酸若しくはその塩、又は有機酸と無機酸との複合化合物若しくはそのイオン解離性のある塩であり、単独又は2種以上を組み合わせて用いられる。アニオンとなる酸及びカチオンとなる塩基を溶質成分として別々に電解液に添加してもよい。
【0062】
電解液中でアニオン成分となる有機酸としては、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、マレイン酸、アジピン酸、安息香酸、トルイル酸、エナント酸、マロン酸、1,6-デカンジカルボン酸、1,7-オクタンジカルボン酸、アゼライン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸等のカルボン酸、フェノール類、スルホン酸が挙げられる。また、無機酸としては、ホウ酸、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、炭酸、ケイ酸等が挙げられる。有機酸と無機酸の複合化合物としては、ボロジサリチル酸、ボロジ蓚酸、ボロジグリコール酸等が挙げられる。
【0063】
また、有機酸、無機酸、ならびに有機酸と無機酸の複合化合物の少なくとも1種の塩として、アンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級化アミジニウム塩、アミン塩、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。四級アンモニウム塩の四級アンモニウムイオンとしてはテトラメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等が挙げられる。四級化アミジニウムとしては、エチルジメチルイミダゾリニウム、テトラメチルイミダゾリニウムなどが挙げられる。アミン塩のアミンとしては、一級アミン、二級アミン、三級アミンが挙げられる。一級アミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミンなど、二級アミンとしては、ジメチルアミン、ジエチルアミン、エチルメチルアミン、ジブチルアミンなど、三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、エチルジメチルアミン、エチルジイソプロピルアミン等が挙げられる。
【0064】
さらに、電解液には他の添加剤を添加することもできる。添加剤としては、ポリエチレングリコール、ホウ酸と多糖類(マンニット、ソルビットなど)との錯化合物、ホウ酸と多価アルコールとの錯化合物、ホウ酸エステル、ニトロ化合物(o-ニトロ安息香酸、m-ニトロ安息香酸、p-ニトロ安息香酸、o-ニトロフェノール、m-ニトロフェノール、p-ニトロフェノールなど)、リン酸エステルなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
尚、電解質として、固体電解質を用いる場合は、ポリエチレンジオキシチオフェンなどのポリチオフェンや、ポリピロール、ポリアニリンなどの導電性ポリマーが挙げられる。
【実施例0066】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0067】
(陰極体)
まず、各種の陰極体を作製した。陰極箔として下記表1に示すアルミニウム箔を用意した。表1において、エッチング倍率は、プレーンの表面積、即ちエッチング未処理の状態での表面積に対する、エッチング処理後の表面積の倍率を示す。エッチド層厚は、表面からエッチングピット最深部までの深さの平均を示す。残芯厚は、エッチングピットが届いていない層の厚みを示す。酸化皮膜は、公称化成電圧で示している。即ち、箔種1、箔種2及び箔種4の陰極箔については、リン酸二水素アンモニウムの水溶液で電圧を印加し、意図的に酸化皮膜層を形成した。箔種3の陰極箔に対しては、化成処理は行わなかった。
【0068】
【表1】
【0069】
表1の各箔種の陰極箔に形成するカーボン層のために、共通条件でスラリー作製した。鱗片状炭素材として16.3gの黒鉛を選択し、球状炭素材として5gのカーボンブラックを選択し、バインダーとして3.7gのスチレンブタジエンゴムを選択した。そして、これらをアンモニアにてpH8に調整された75ミリリットルの純水に加え、攪拌機により分散させた。このスラリーを各陰極箔に塗布し、100℃で乾燥させた。黒鉛の粒径は4μmであり、カーボンブラックの一次粒子径は35nmであり、双方とも賦活処理及び開口処理は未処理である。
【0070】
そして、下記表2に示すように、カーボン層が塗布された各陰極箔に対して各プレス線圧を加えることで、エッチング処理とプレス線圧が異なる各種の陰極体を作製した。プレス線圧は、有限会社タクミ技研製のプレス機を用いた。このプレス工程において、プレスローラーの径は直径180mmであり、プレス処理幅は130mmであり、陰極体を3m/minで1回搬送した。
【0071】
【表2】
【0072】
表2に示されるように、エッチング未処理の箔種1を用いた電解コンデンサをプレス線圧に関わらず、比較例1と呼ぶ。エッチング倍率が7倍の箔種2を用いた電解コンデンサにおいて、未プレスのものを比較例2、そしてプレス線圧が低い順に実施例1~3と呼び、実施例2と実施例3との間のプレス線圧のものを実施例10と呼ぶ。エッチング倍率が17倍で酸化皮膜未形成の箔種3を用いた電解コンデンサにおいて、未プレスのものを比較例3、そしてプレス線圧が低い順に実施例4~6と呼ぶ。エッチング倍率が22倍の箔種4を用いた電解コンデンサを、未プレスのものを比較例4、そしてプレス線圧が低い順に実施例7~9と呼ぶ。
【0073】
(陰極体断面観察)
比較例1、比較例2、実施例1乃至3、実施例5及び実施例8の陰極体の断面を走査電子顕微鏡で5千倍にて撮影し、SEM画像を得た。その結果を図2乃至8に示す。図2は、比較例1のSEM画像であり、(a)はプレス線圧が0kNcm-1の陰極体、(b)はプレス線圧が3.85kNcm-1の陰極体である。図3は比較例2のSEM画像である。図4は、実施例1のSEM画像であり、図5は実施例2のSEM画像であり、図6は実施例3のSEM画像であり、図7は実施例5のSEM画像であり、図8は実施例8のSEM画像である。図4乃至図8では、(a)(b)ともに同一の画像であるが、(a)は凸部長さLcを表記し、(b)は凹凸深さHfを表記している。
【0074】
図2及び図3に示すように、比較例1及び比較例2の陰極体は、拡面層とカーボン層との界面が平坦線Lにほぼ沿っている。一方、図2及び図3に対して、図4乃至図8を対比するとわかるように、実施例1乃至3、実施例5及び実施例8の陰極体は、拡面層とカーボン層との界面が平坦線Lに沿っておらず、外表凹凸が存在していることが確認でき、またエッチング凹凸も確認できた。
【0075】
図4乃至図8のSEM画像から確認できた各凸領域1番から最大6番の長さLc及び高さHcを計測し、またカーボン層の空隙率を測定したところ、下表3の結果となった。表中、長さ及び高さの数値の単位はμmである。
【0076】
【表3】
【0077】
表3に示されるように、詳細には、実施例1の陰極体には、適度の範囲内で、うねりの激しい外表凹凸が形成されている。実施例1の外表凹凸の凸領域の長さLcの平均は2.91μmと短く、凹凸が急峻である。この実施例1では、拡面層が全体的に圧縮されてはいるものの、圧縮変形の程度は疎らであり、大きく圧縮変形している領域と、圧縮変形が小さい領域が目立つと言える。また、カーボン層と拡面層との間に所々隙間が残っている。エッチング凹凸は形成されているものの、エッチングピットには、炭素材が未充填の空隙が未だ多く残っており、カーボン層の空隙率も高い。
【0078】
一方、実施例2、3、5及び8の陰極体では、外表凹凸のうねりは、適度の範囲内で、穏やかになってくる。外表凹凸の凸領域の長さLCは3.99μm、3.86μm、3.78μm及び3.82μmと長くなっている。この実施例2、3、5及び8では、拡面層が全体的に圧縮され、圧縮変形の程度は一様に近づきつつあるが、疎らであることが視認でき、大きく圧縮変形している領域と、圧縮変形が小さい領域が残存している。カーボン層と拡面層との間の隙間はほとんど見られない。また、エッチングピットには、炭素材が多く充填され、空隙がかなり少なくなっており、カーボン層の空隙率も小さい。実施例5及び8のようにエッチング倍率が高いほど、カーボンの空隙率は減少する。またエッチング倍率が高いほど凸部高さの平均も大きくなりカーボン層との界面が大きくうねっており良好な密着性を発現するものと考えられる。
【0079】
次に、図2乃至図8に示す写真に基づき、プレス線圧が3.85kNcm-1の比較例1、実施例1乃至3、実施例5及び実施例8の陰極体において、任意の5箇所のカーボン層の入り込み深さHdを測定した。即ち、凹領域から更にエッチングピット内に入り込んだカーボン層の最深部から、凹領域に隣接する凸領域の頂点との高さ方向の差を5箇所で測定した。また、同じく図2乃至図8に示す写真に基づき、プレス線圧が3.85kNcm-1の比較例1、実施例1乃至3、実施例5及び実施例8の陰極体において、凹凸形状(外表凹凸)の凹凸深さを測定した。その結果を下記表4に示す。
【0080】
【表4】
【0081】
表4に示すように、プレス線圧が3.85kNcm-1の比較例1では、入り込み深さHdは平均0.28μmであった。また外表凹凸の凹凸深さHfも0.36μmと小さいことがわかった。これは、比較例1が未エッチングであるため、エッチングピットに入り込む余地がないこと、また未エッチングであるため、圧縮変形し難く、凹領域が存在しないことに起因する。また、平坦な陰極箔の凹凸の程度を示している。
【0082】
一方、実施例1は、入り込み深さが平均0.54μm以上である。また外表凹凸の凹凸深さもいずれも0.5μm以上である。実施例2、3、5及び8は、エッチングピットの粗密に応じた凹領域が発生し、更にこの凹領域から炭素材がエッチングピットに入り込むことにより、入り込み深さが平均0.7μm以上であった。これにより、適度な入り込み様の外表凹凸が、エッチング凹凸の発生を促していることがわかる。
【0083】
尚、実施例4及び7の陰極体については、実施例1と比べて陰極箔のエッチング倍率が高いが、実施例1と同じ1.54kNcm-1のプレス線圧をかけているため、適度の範囲内で、うねりの激しい外表凹凸が形成されている。また、実施例6及び9の陰極体については、実施例1と比べて陰極箔のエッチング倍率が高く、3.85kNcm-1以上のプレス線圧をかけているため、適度の範囲内で、うねりの穏やかな外表凹凸が形成され、またエッチング凹凸も発生している。
【0084】
また、図2乃至図8のSEM画像から、プレス線圧が0kNcm-1の比較例1、プレス線圧が3.85kNcm-1の比較例1、比較例2、実施例1乃至3、5及び8の陰極体に対して、範囲長Xに対する界面長さYの割合を計測した。また、実施例10の陰極体についても範囲長Xに対する界面長さYの割合を計測した。その結果を表5に示す。
【0085】
【表5】
【0086】
表5の範囲長Xに対する界面長さYの割合が示すように、比較例1及び比較例2では範囲長Xと界面長さYがほとんど変わらず、外表凹凸が発生していない。一方、実施例1、2、3及び10に対して比較例2を比較するとわかるように、実施例1、2及び10は、割合が110%以上となり、外表凹凸が発生し、陰極体の表面積が向上していることがわかる。また、実施例5と実施例8とを比較するとわかるように、実施例5及び実施例8にも外表凹凸が発生し、陰極体の表面積が向上していることがわかる。
【0087】
尚、プレスを行っていない比較例1(プレス線圧0kNcm-1)および比較例2の陰極体について、外表凹凸の凹凸深さは略無く、実質的に平坦な外表形状であった。また、図9は、カーボン層不存在で比較例2と同じ箔種の陰極箔をプレスした場合のSEM写真であり、図9の(a)はプレス無し、(b)はプレス線圧が3.85kNcm-1、及び(c)はプレス線圧が7.69kNcm-1の場合である。図9に示すように、陰極箔に対するプレスを行っていても、カーボン層が不存在であれば、1.54kNcm-1以上のプレス線圧をかけたとしても、外表凹凸が発生しなかった。
【0088】
(電解コンデンサ)
次に、比較例1乃至4並びに実施例1乃至9の陰極体に加えて、エッチング未処理のプレーン箔を基材集電体として用い、電子ビーム蒸着法により窒化チタン層を形成させた陰極体を作製し、比較例5とした。これら比較例1乃至5並びに実施例1乃至9の陰極体を用いて電解コンデンサを作製した。
【0089】
各電解コンデンサとも、共通条件で作製された陽極箔と各種の陰極体とを同一のセパレータを介して対向させ、共通条件で作製された電解液を含浸させ、ラミネートセルとし、共通の再化成処理を施した。詳細には、全電解コンデンサとも、アルミニウム箔にエッチング処理を施し、公称化成電圧が4Vfsとなるように誘電体酸化皮膜を形成し、投影面積が2.1cmの大きさのアルミニウム箔を得て、これを陽極箔とした。セパレータとしては、全電解コンデンサにおいてレーヨンを用いた。また、全電解コンデンサ共通の電解液としては、フタル酸テトラメチルイミダゾリウムを溶質とし、γ-ブチルラクトンを溶媒として作製された。再化成の際には、全電解コンデンサとも105℃の環境下で、3.35Vの電圧を60分間印加した。
【0090】
(静電容量試験)
そして、比較例1乃至5及び実施例1乃至9の電解コンデンサに対して、20℃で無負荷の場合(初期)、及び125℃環境下で直流2.4Vの負荷を250時間かけ続けた後(高熱環境下負荷時)の120Hz及び10kHz充放電時の静電容量(Cap)を測定した。その結果を表6に示す。
【0091】
【表6】
【0092】
表6の比較例1と比較例5との対比からわかるように、カーボン層と陰極箔で成り、エッチング未処理のプレーン箔を用いた電解コンデンサは、窒化チタンを蒸着させた陰極体で作製された電解コンデンサと比べて、初期特性及び高熱環境下負荷時特性と低周波領域及び高周波領域の全ての組み合わせにおいて静電容量が劣っており、また静電容量の変化率も芳しくはなかった。また、比較例2乃至4に対して比較例5を比べると、エッチング処理がされていても、拡面層とカーボン層との界面に外表凹凸が形成されていない場合には、概ね全測定項目で、窒化チタンを蒸着させた陰極体で作製された電解コンデンサと比べて劣っていた。
【0093】
一方、実施例1乃至9に対して比較例5を比べるとわかるように、初期特性において、陰極箔とカーボン層との界面に外表凹凸が形成されている電解コンデンサは、窒化チタンを蒸着させた陰極体を用いた電解コンデンサと比べて、10kHzでの充放電による静電容量が向上している。また、実施例8及び9に対して比較例5を比べるとわかるように、うねりの緩やかな外表凹凸と、この外表凹凸と高エッチング倍率が促す十分な深さに到るエッチング凹凸により、初期特性において、120Hzの充放電による静電容量が、窒化チタンを蒸着させた陰極体を用いた電解コンデンサと比べて大きくなっている。
【0094】
更に、実施例1乃至9に対して比較例5を比べると、カーボン層と拡面層との界面に外表凹凸を形成した全ての電解コンデンサは、高熱環境下負荷特性において、充放電が120Hzであると、窒化チタンを蒸着させた陰極体を用いた電解コンデンサと比べて、高い静電容量を有している。特に、実施例1乃至9に対して比較例5を比べるとわかるように、初期の静電容量に対する高温環境下で負荷をかけた際の静電容量の増減割合に関し、120Hzの充放電では、外表凹凸を形成すると、静電容量の低下度合いが劇的に抑制されている。
【0095】
更に、実施例2、3、5、6、8及び9に対して比較例5を比べるとわかるように、適度な範囲でうねりの緩やかな外表凹凸と、この外表凹凸が促す十分な深さに到るエッチング凹凸により、10kHzの充放電での静電容量の増減割合が劇的に抑制されている。
【0096】
以上より、外表凹凸によってカーボン層と拡面層との密着性が向上すること、低周波領域と高周波領域の何れであっても、また初期特性であっても高温環境下負荷特性であっても、静電容量が向上し、熱安定性も向上することが確認された。特に、外表凹凸の存在は、低周波数領域及び高温熱環境下の組み合わせにおいて、窒化チタンを陰極箔に蒸着した場合を上回る熱安定性を有し、高い静電容量を発揮する。
【0097】
更に、外表凹凸のうねりが緩やかであれば、高周波数領域及び高温熱環境下であっても、窒化チタンを陰極箔に蒸着した場合を上回る熱安定性を有し、高い静電容量を発揮する。また、うねりが緩やかな外表凹凸であり、高エッチング倍率であれば、低周波数領域及び高周波領域、更に初期特性及び高温熱環境下の全組み合わせにおいて、窒化チタンを陰極箔に蒸着した場合を上回る静電容量を発揮する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2023-06-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解コンデンサの陰極に用いられる電極体であって、
調質記号がHであるアルミニウム材により成り、表面に拡面層が形成された陰極箔と、
前記拡面層に形成されたカーボン層と、
を備え、
前記拡面層と前記カーボン層の界面は、圧縮変形された凹凸形状を有し、
前記拡面層は、前記凹凸形状とは別の複数のエッチングピットが掘り込まれて成り、
前記カーボン層は、前記凹凸形状の界面から更に前記エッチングピット内に入り込んでいること、
を特徴とする電極体。
【請求項2】
前記凹凸形状の凹凸深さは、0.5μm以上を有すること、
を特徴とする請求項1記載の電極体。
【請求項3】
前記凹領域から更に前記エッチングピット内に入り込んだ前記カーボン層は、当該凹領域に隣接する凸領域の頂点から深さ方向に平均0.5μm以上沈み込んだ位置まで入り込むこと、
を特徴とする請求項1又は2記載の電極体。
【請求項4】
前記凹領域から更に前記エッチングピット内に入り込んだ前記カーボン層は、当該凹領域に隣接する凸領域の頂点から深さ方向に平均0.7μm以上沈み込んだ位置まで入り込むこと、
を特徴とする請求項3記載の電極体。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の電極体を陰極に備えること、
を特徴とする電解コンデンサ。
【請求項6】
電解コンデンサの陰極に用いられる電極体の製造方法であって、
調質記号がHであるアルミニウム材を陰極箔として、当該陰極箔の表面に、複数のエッチングピットが掘り込まれて成る拡面層を形成する工程と、
前記拡面層上にカーボン層を形成する工程と、
前記カーボン層が形成された陰極箔を押圧することで、前記拡面層と前記カーボン層の界面に圧縮変形した凹凸形状を形成すると共に、前記凹凸形状の界面から更に前記エッチングピット内に前記カーボン層を入り込ませる工程と、
を備えること、
を特徴とする電極体の製造方法。