(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103500
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/20 20060101AFI20230720BHJP
C08F 283/10 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
C08G59/20
C08F283/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020105315
(22)【出願日】2020-06-18
(71)【出願人】
【識別番号】000132404
【氏名又は名称】株式会社スリーボンド
(72)【発明者】
【氏名】大槻 直也
【テーマコード(参考)】
4J026
4J036
【Fターム(参考)】
4J026AB04
4J026BA50
4J026BB01
4J026BB03
4J026BB08
4J026DB06
4J026DB22
4J026DB24
4J026DB32
4J026FA05
4J026GA07
4J036AG05
4J036AG06
4J036AK19
4J036DA10
4J036DC25
4J036DC35
4J036DC41
4J036EA09
4J036JA06
4J036JA07
(57)【要約】 (修正有)
【課題】異種材質の接着において硬化時の反りを抑制でき、柔軟性と樹脂強度に優れたエポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】以下の(A)~(C)を含む熱硬化性エポキシ樹脂組成物。(A)ダイマー酸変性エポキシ樹脂および/またはオキシアルキレン骨格を有する脂肪族エポキシ樹脂、(B)ウレタン(メタ)アクリレート、(C)ヒドラジド化合物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)~(C)を含む熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
(A)ダイマー酸変性エポキシ樹脂および/またはオキシアルキレン骨格を有する脂肪族エポキシ樹脂
(B)ウレタン変性(メタ)アクリレート
(C)ヒドラジド化合物
【請求項2】
さらに硬化促進剤(D)を含む請求項1に記載の熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記ダイマー酸変性エポキシ樹脂が以下の構造を有する請求項1もしくは2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化1】
(Rはそれぞれ独立してグリシジル基および/またはビスフェノールA型ジグリシジルエーテルである。nはそれぞれ独立して3~9の整数。)
【請求項4】
170℃×60分で硬化させた時の硬化物の伸び率が200%以上である請求項1~3のいずれか1項に記載の熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
光開始剤を含まない請求項1~4のいずれか1項に記載の熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の熱硬化性エポキシ樹脂組成物の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種材接合用の熱硬化型エポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は耐熱性や耐薬品性に優れていることから接着剤、塗料、土木建築用材料、電気電子部品の絶縁材料など様々な分野に広く用いられている。近年では対象部材の多様化の観点から線膨張係数の異なる異種材質の接着が必要とされている。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のエポキシ樹脂を使用した接着剤を線膨張係数の異なる異種材質に使用すると、硬化時に反りが生じ、部材を変形させることがある。この反りを防止するために接着剤の硬化物をより硬くすると部材への追従性が低いため、使用時の振動や衝撃による歪みなどから接着性が低下してしまう問題があった。一方で振動や衝撃を抑えようとゲルや粘着剤のような柔軟な硬化物にしてしまうと硬化物自体の樹脂強度が低いため、応力により硬化物が破壊され、接着強度が低下してしまうという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、異種材質の接着に使用しても、硬化時に部材の反りを生じず、硬化物が柔軟であるため振動や衝撃に強く、さらに接着剤として樹脂強度の高いエポキシ樹脂組成物を得る手法を見出した。なお、本発明でいう樹脂強度が高いとは、柔軟な硬化物でありながらも、応力が加わった時に硬化物自体が破壊されないということである。
【0006】
本発明の要旨を次に説明する。
[1]以下の(A)~(C)を含む熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
(A)ダイマー酸変性エポキシ樹脂および/またはオキシアルキレン骨格を有する脂肪族エポキシ樹脂
(B)ウレタン変性(メタ)アクリレート
(C)ヒドラジド化合物
【0007】
[2]さらに硬化促進剤(D)を含む[1]に記載の熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【0008】
[3]前記ダイマー酸変性エポキシ樹脂が以下の構造を有する[1]もしくは[2]に記載の熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【化1】
(Rはそれぞれ独立してグリシジル基および/またはビスフェノールA型ジグリシジルエーテルである。nはそれぞれ独立して3~9の整数。)
【0009】
[4]170℃×60分で硬化させた時の硬化物の伸び率が200%以上である[1]~[3]のいずれか1項に記載の熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【0010】
[5]光開始剤を含まない[1]~[4]のいずれか1項に記載の熱硬化性エポキシ樹脂組成物。
【0011】
[6][1]~[5]のいずれか1項に記載の熱硬化性エポキシ樹脂組成物の硬化物。
【発明の効果】
【0012】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、異種材質に使用しても反りを生じず、柔軟であり、樹脂強度に優れているため、非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の詳細を次に説明する。なお、本明細書において「X~Y」は、その前後に記載される数値(XおよびY)を下限値および上限値として含む意味で使用し、「X以上Y以下」を意味する。
【0014】
本発明で使用される前記(A)成分はダイマー酸変性エポキシ樹脂および/またはオキシアルキレン骨格を有する脂肪族エポキシ樹脂である。(A)成分は反りの低減と高い樹脂強度の両立を可能にする主要な成分である。本発明のダイマー酸変性エポキシとは、不飽和脂肪酸の二量体(ダイマー酸)を変性したグリシジルエステル型のエポキシ樹脂のことである。なかでも、より一層の柔軟性と反りを低減できることから、以下の構造を有するものが好ましい。
【0015】
【化1】
(Rはそれぞれ独立してグリシジル基および/またはビスフェノールA型ジグリシジルエーテルである。nはそれぞれ独立して3~9の整数。)
【0016】
ダイマー酸エポキシ樹脂の市販品としては、三菱ケミカル株式会社製のjER871、jER872、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製のYD-171、YD-172などが挙げられる。
【0017】
本発明でいうオキシアルキレン骨格を有する脂肪族エポキシ樹脂とは、芳香環や脂環構造を有さず、主鎖に-CR2O-(Rはそれぞれ独立して水素または炭化水素からなる)の骨格を有し、エポキシ基を1以上有する化合物のことである。主鎖は直鎖状でも分岐状になっていても良い。柔軟性の観点から主鎖が-CR2O-の繰り返し単位からなるポリオキシアルキレン骨格を有することが好ましく、硬化性の観点から、エポキシ基は末端にあることが好ましく、2以上有することが好ましい。具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ブチレングリコールジグリシジルエーテル、ペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリブチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテルなどが挙げられるが、伸びの観点から、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテルが好ましい。
【0018】
ポリオキシアルキレン骨格を有する脂肪族エポキシ樹脂の市販品としては、共栄社化学株式会社製のエポライトM-1230、エポライト100E、エポライト200E、エポライト400E、エポライト200P、エポライト400P、四日市合成株式会社製のエポゴーセーEN、エポゴーセーPT、エポゴーセーAN、エポゴーセー2EH、エポゴーセーHD、CE-EP、S-EPなどが挙げられる。
【0019】
本発明で使用される(A)成分は柔軟性と樹脂強度のバランスの観点から、エポキシ当量が200~2000g/eqのものが好ましく、250~1500g/eqがより好ましく、300~1200g/eqが最も好ましい。
【0020】
本発明のエポキシ樹脂組成物は特性を損なわない範囲で(A)成分以外のエポキシ樹脂を含有しても良い。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。その他様々な方法で変性したエポキシ樹脂を挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは単独あるいは混合で使用してもよい。
【0021】
本発明で使用される(B)成分はウレタン変性(メタ)アクリレートである。硬化物の柔軟性と樹脂強度を向上させる主要な成分である。本発明のウレタン変性(メタ)アクリレートはポリイソシアネート化合物とポリオール化合物と活性水素を有する(メタ)アクリレートモノマーとの反応により得られる。なかでも柔軟性の観点からポリエーテル系ウレタン変性(メタ)アクリレート、ポリエステル系ウレタン変性(メタ)アクリレート、ポリカーボネート系ウレタン変性(メタ)アクリレートが好ましく、ポリエーテル系ウレタン変性(メタ)アクリレート、ポリエステル系ウレタン変性(メタ)アクリレートがより好ましい。ポリエーテル系ウレタンアクリレートとは、分子鎖の両末端に水酸基を有するポリエーテルポリオールとジイソシアネート化合物、単官能(メタ)アクリレートから構成される化合物である。ポリエステル系ウレタン(メタ)アクリレートとは、分子鎖の両末端に水酸基を有するポリエステルポリオールとジイソシアネート化合物、単官能(メタ)アクリレートから構成される化合物である。また本発明で得られる柔軟性や樹脂強度をより高めるために、2種以上のウレタン(メタ)アクリレートを混合することが好ましいポリカーボネート系ウレタン(メタ)アクリレートとは、分子鎖の両末端に水酸基を有するポリカーボネートポリオールとジイソシアネート化合物、単官能(メタ)アクリレートから構成される化合物である。また本発明で得られる柔軟性や樹脂強度をより高めるために、2種以上のウレタン(メタ)アクリレートを混合することが好ましく、ポリエーテル系ウレタン変性(メタ)アクリレートとポリエステル系ウレタン変性(メタ)アクリレートを併用することが好ましい。
【0022】
前記ジイソシアネート化合物としては、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネートがあげられ、この中でも、柔軟で樹脂強度に優れる硬化物が得られるという観点から、脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネートが好ましい。
【0023】
前記脂肪族ジイソシアネートとしては、エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘプタメチレンジイソシアネート、オクタメチレンジイソシアネート、デカメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2,2,4-又は2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6-ジイソシアナトメチルカプロエート、2,6-ジイソシアナトエチルカプロエート、ビス(2-イソシアナトエチル)フマレート及びビス(2-イソシアナトエチル)カーボネート等が挙げられる。これらの単独または複数を混合して使用される。
【0024】
前記脂環式ジイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’- ジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-シクロヘキシレン-1,2-ジカルボキシレート及び2,5-又は2, 6-ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられる。これらの単独または複数を混合して使用される。
【0025】
また、前記ポリオールとしては、分子内に2個以上の活性水酸基を有する化合物が挙げられ、例えばポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートジオール、ポリブタジエンポリオール、水素化ポリブタジエンポリオール、ポリラクトンポリオール、ヒマシ油系ポリオール、水素化ヒマシ油系ポリオール、ポリイソプレンポリオール、水素化ポリイソプレンポリオール等が挙げられる。これらの単独または複数を混合して使用することができる。
【0026】
また、単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-メトキシプロピル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、N-メチロールアクリルアミドもしくはメタクリルアミド、N-ヒドロキシアクリルアミドもしくはメタクリルアミド等が挙げられる。これらの単独または複数を混合して使用することができる。
【0027】
また、(B)成分の合成において触媒を用いる場合があるが、無触媒でも良い。触媒を用いる場合の具体例としては、オレイン酸鉛、テトラブチルスズ、三塩化アンチモン、トリフェニルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、ジブチル錫ジラウレート、チタンアルコキシド等のチタン系触媒、ナフテン酸銅、ナフテン酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、オクテン酸亜鉛、ナフテン酸ジルコニウム、ナフテン酸コバルト、テトラ-n-ブチル-1,3-ジアセチルオキシジスタノキサン、トリエチルアミン、1,4-ジアザ[2,2,2]ビシクロオクタン、N-エチルモルホリンなどを挙げることができ、中でも活性が高いことから、ジブチル錫ジラウレート、ナフテン酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、オクテン酸亜鉛が好ましく用いられる。
【0028】
本発明の(B)成分の重量平均分子量は1,000~100,000の範囲であることが好ましく、更に好ましくは、2,000~70,000の範囲であり、特に好ましくは、3,000~50,000の範囲である。重量平均分子量が1,000~100,000であれば、(A)成分と組み合わせることで、硬化物の柔軟性と高い樹脂強度を両立することができる。なお、本発明における重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量をいう。
【0029】
前記(A)成分と前記(B)成分の質量比は柔軟性と樹脂強度のバランスの観点から、1:9~9:1、より好ましくは1:9~5:5であり、最も好ましくは1:9~4:6である。
【0030】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、特性を損なわない範囲で(B)成分以外の(メタ)アクリレートを含むことができる。例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-メトキシプロピル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、N-メチロールアクリルアミドもしくはメタクリルアミド、N-ヒドロキシアクリルアミドもしくはメタクリルアミド等が挙げられる。これらの単独または複数を混合して使用することができる。
【0031】
本発明の(C)成分は、ヒドラジド化合物である。本発明でいうヒドラジド化合物とはヒドラジド基を1以上有する化合物である。硬化性の観点から、ヒドラジド基を2以上有することが好ましい。(C)成分は、潜在性硬化剤として保存安定性を維持するため、常温で固体であることが好ましい。ヒドラジド化合物の具体例としては、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカンジオヒドラジド、コハクジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、p-オキシ安息香酸ヒドラジド、サリチル酸ヒドラジド、フェニルアミノプロピオン酸ヒドラジド、マレイン酸ヒドラジドなどが挙げられるが、樹脂強度が良好な硬化物が得られる観点から、フタル酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドが好ましい。
【0032】
前記(C)成分の融点としては、120℃~300℃が好ましく、より好ましくは150℃~250℃未満である。120℃~300℃未満であることで、常温での保存安定性と硬化性の両立が可能である。
【0033】
前記(C)成分の市販品としては、例えば、大塚化学株式会社製のADH、SDH、DDH、IDH、SAHや味の素ファインテクノ株式会社製のVDH、VDH-J、UDH、UDH-Jなどが挙げられる。
【0034】
前記(C)成分の含有量は(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して0.1~30質量部が好ましく、1~25質量部がより好ましく、3~10質量部が最も好ましい。0.1質量部以上であれば硬化性を損なう恐れがなく、30質量部以下であれば柔軟性や保存安定性を低下させることがない。
【0035】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、さらに(D)成分として硬化促進剤を含むことが好ましい。硬化促進剤としては、(C)成分の硬化を促進させるものであれば特に限定されない。汎用性や低温での硬化性の観点から、アミン化合物が好ましく、粉末状に粉砕された粉体が好ましい。粉体であれば25℃で液状のエポキシ樹脂中に(D)成分が分散されたエポキシ樹脂組成物において、経時による粘度変化や物性変化が少ないなどの保存安定性を確保することができる。なお、予め液状のエポキシ樹脂中に粉体を分散させたものを用いてもよい。(D)成分の具体例としては、室温で粉体のイミダゾール誘導体やエポキシ樹脂に三級アミンを付加させて反応を途中で止めているエポキシアダクト化合物を粉砕した粉末であるアミンアダクト型化合物、イミダゾール化合物をイソシアネート化合物でカプセル処理したマイクロカプセル型アミン化合物、アミン化合物とイソシアネート化合物または尿素化合物の反応生成物である尿素アダクト型化合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。(C)成分の硬化を促進させる観点から120℃以上の軟化点を有するものが好ましい。120℃以上であれば、(A)および(B)成分と(C)成分が反応を開始する前に硬化してしまうことがない。
【0036】
前記(D)成分の市販品としては、味の素ファインテクノ株式会社製のアミキュア(登録商標)シリーズや、株式会社T&K TOKA製のフジキュアー(登録商標)シリーズのFXE-1000、FXR-1020、FXR-1081、FXR-1030、FXR-1121、FXR-1032、FXR-1131、FXR-1090-FA等や旭化成ケミカルズ株式会社製のノバキュア(登録商標)シリーズのHX-3088、HX-3941、HX-3742などが挙げられる。
【0037】
前記(D)成分の平均粒径は、0.1~30μmが好ましく、更に好ましくは0.5~20μmであり、特に好ましくは1~10μmである。0.1~50μmであることで、(A)成分と(B)成分に混合した際の分散性に優れ、安定した硬化性を示すエポキシ樹脂組成物を作製することができる。なお、本発明における平均粒径の測定方法は、レーザー回折・散乱法(50%体積平均粒径)である。
【0038】
前記(D)成分の配合量は、(C)成分100質量部に対して、1~50質量部が好ましく、より好ましくは10~40質量部である。1~50質量部であることで、保存安定性を低下させることなく、(C)成分の硬化を促進することができる。
【0039】
さらに、本発明の特性を損なわない範囲で、無機充填剤、有機充填剤、顔料、染料、カップリング剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤、保存安定剤等の添加剤をさらに適量含んでいてもよいが、保存安定性の観点から、光開始剤は含まないことが好ましい。
【0040】
前記無機充填剤(E)としては、ガラス、シリカ、アルミナ、マイカ、セラミックス、シリコーンゴム粉体、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、窒化アルミ、カーボン粉、カオリンクレー、ウォラストナイトなどの鉱物等が挙げられる。これらは、それぞれ単独で用いることも、また2種以上を混合して用いても良い。なかでも柔軟性や樹脂強度を低下させることなく、作業性に優れるという観点から、炭酸カルシウムおよび/またはウォラストナイトが好ましい。炭酸カルシウムを使用する場合、平均粒径が0.5~15μmのものが好ましく、1.0~5μmのものがさらに好ましい。ウォラストナイトを使用する場合、平均繊維径は1~20μmのものが好ましく、3~10μmのものがさらに好ましい。平均繊維長は10~200μmのものが好ましく、30~100μmのものがさらに好ましい。また、アスペクト比は3以上のものが好ましく、4以上のものがさらに好ましい。。本発明における平均繊維径、平均繊維長の測定はレーザー回折・散乱法で行った。前記無機充填剤の含有量(2種以上含む場合、その合計量)は、(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対し、0.1~200質量部程度が好ましく、より好ましくは1~100質量部である。
【0041】
前記有機充填剤としては、ゴム、エラストマー、プラスチック、重合体(または共重合体)などから構成される有機物の粉体であればよい。また、コアシェル型などの多層構造を有する有機フィラーでもよい。有機充填剤の配合量は、(A)成分と(B)成分の合計量100質量部に対して、1~50質量部が好ましく、より好ましくは5~30質量部である。
【0042】
前記シランカップリング剤としては、例えば、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジプロピルオキシシラン、3-グリシドキシプロピルジメチルモノメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルジメチルモノエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルジメチルモノプロピルオキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のグリシジル基含有シランカップリング剤、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル基含有シランカップリング剤、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルジメチルモノメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルジメチルモノエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルメチルジプロピルオキシシラン、3-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルメチルジプロピルオキシシラン、3-アクリロキシプロピルジメチルモノプロピルオキシシラン、3-アクリロキシプロピルジメチルモノメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルジメチルモノエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルジメチルモノプロピルオキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリル基含有シランカップリング剤、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有シランカップリング剤、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらの中でも、接着力が優れるという観点より、グリシジル基含有シランカップリング剤がより好ましい。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。シランカップリング剤の配合量は、本発明の(A)成分と(B)成分の合計量100質量部に対して0.1~20質量部であることが好ましい。0.1~20質量部であれば、特性を損なう恐れがない。
【0043】
前記保存安定剤としては、ホウ酸エステル、リン酸、アルキルリン酸エステル、p-トルエンスルホン酸を使用することができる。ホウ酸エステルとしては、ホウ酸トリブチル、トリメトキシボロキシン、ホウ酸エチルなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。アルキルリン酸エステルとしては、リン酸トリメチル、リン酸トリブチルなどを使用することができるが、これらに限定されるものではない。保存安定剤は単独でも複数を混合して使用しても良い。保存安定性を考慮すると、リン酸、ホウ酸トリブチル、トリメトキシボロキシン、およびp-トルエンスルホン酸メチルからなる群から選択される1つ以上であることが好ましい。
【0044】
<塗布方法>
本発明のエポキシ樹脂組成物を被着体への塗布する方法としては、公知のシール剤や接着剤の方法が用いられる。例えば、自動塗布機を用いたディスペンシング、スプレー、インクジェット、スクリーン印刷、グラビア印刷、ディッピング、スピンコートなどの方法を用いることができる。
【0045】
<硬化方法および硬化物>
本発明のエポキシ樹脂組成物は任意の加熱条件により硬化することができる。例えば、100℃以上300℃未満の温度が好ましく、より好ましくは、120℃以上200℃未満である。硬化時間は特に限定されないが、100℃以上300℃未満の温度の場合には3分以上3時間未満が好ましく、5分以上2時間以内がさらに好ましい。
【0046】
<用途>
本発明のエポキシ樹脂組成物は様々な用途に使用することができる。具体例としては、自動車用のスイッチ部分、ヘッドランプ、エンジン内部品、電装部品、駆動エンジン、ブレーキオイルタンク、フロントフード、フェンダー、ドアなどのボディパネル、ウインドウ等の接着、封止、注型、コーティング等;電子材料分野では、フラットパネルディスプレイ(液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、発光ダイオード表示装置、フィールドエミッションディスプレイ)や、ビデオディスク、CD、DVD、MD、ピックアップレンズ、ハードディスク等の接着、封止、注型、コーティング等;電池分野では、リチウム電池、リチウムイオン電池、マンガン電池、アルカリ電池、燃料電池、シリコン系太陽電池、色素増感型電池、有機太陽電池等の接着、封止、コーティング等;光学部品分野では、光スイッチ周辺、光コネクタ周辺の光ファイバー材料、光受動部品、光回路部品、光電子集積回路周辺の接着、封止等;光学機器分野では、カメラモジュール、レンズ用材料、ファインダプリズム、ターゲットプリズム、ファインダーカバー、受光センサー部、撮影レンズ、プロジェクションテレビの当社レンズ等の接着、封止等;インフラ分野では、ガス管、水道管などの接着、ライニング材、封止材等に使用が可能である。なかでも本発明のエポキシ樹脂組成物は異種材質の接着時の反りを低減でき、柔軟性に優れていることから、異種材質同士の接着、耐衝撃性が求められる用途に好適である。
【実施例0047】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0048】
[実施例1~8、比較例1~9]
組成物を調製するために下記成分を準備した。
【0049】
(a-1)化1の構造を有し、Rがグリシジル基であるダイマー酸変性エポキシ樹脂 三菱ケミカル株式会社製 商品名:jER871 エポキシ当量:430g/eq
(a-2)ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル 共栄社化学株式会社製 商品名:エポライト400P エポキシ当量:315g/eq
(a-3)ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル 四日市合成株式会社製 商品名:エポゴーセーPT(高分子量タイプ) エポキシ当量:1000g/eq
(a’-1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂 三菱ケミカル株式会社製 商品名:jER828 エポキシ当量:190g/eq
(a’-2)ビスフェノール骨格を有するポリオキシアルキレングリコールジグリシジルエーテル 株式会社ADEKA 商品名:EP-4000 エポキシ当量:320g/eq
(a’-3)水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂 新日本理化株式会社製 商品名:リカレジンHBE-100 エポキシ当量:215g/eq
(b-1)ウレタン変性アクリレート1 分子鎖両末端にアクリロイル基を有するポリエーテル系ウレタンアクリレート Mw:15,000
(b-2)ウレタン変性アクリレート2 分子鎖両末端にアクリロイル基を有するポリエステル系ウレタンアクリレート Mw:5,500
(b-3)ウレタン変性アクリレート3 分子鎖両末端にアクリロイル基を有するポリエーテル系ウレタンアクリレート Mw:4,000
(b-4)ウレタン変性アクリレート4 分子鎖両末端にアクリロイル基を有するポリエーテル系ウレタンアクリレート Mw:27,000
(b’-1)エポキシ変性アクリレート ダイセル・オルネクス株式会社製 商品名:EBECRYL3708
(b’-2)ブロックウレタン樹脂 株式会社ADEKA製 商品名:QR-9466
(c-1)イソフタル酸ジヒドラジド 株式会社日本ファインケム製 商品名:K-IDH 融点:215℃~225℃
(c-2)セバシン酸ジヒドラジド 株式会社日本ファインケム製 商品名:SDH 融点:186℃~188℃
(c’-1)ジシアンジアミド CVC Thermoset Specialties社製 商品名:OMICURE DDA5 融点:207~211℃
(d-1)変性脂肪族ポリアミン 株式会社T&K TOKA製 商品名:FXR-1030 平均粒径:4~7μm 軟化点:140℃
(その他)
(e-1)ウォラストナイト IMERYS社製 商品名:NYGLOS4W
平均繊維径:7μm、平均繊維長:63μm、アスペクト比:9
(e-2)炭酸カルシウム 白石カルシウム株式会社製 商品名:ソフトン1800 平均粒径:1.3μm
【0050】
前記(A)成分と(B)成分を撹拌容器に秤量し、30分間ミキサーで撹拌した。さらに(E)成分を添加し、30分間攪拌した。その後、(C)成分と(D)成分を添加し15分撹拌した。詳細な調製量は表1および表2に従い、数値は全て質量部で表記する。いずれの試験も25℃で行った。
【0051】
[硬化性]
ガラス板(25mm×100mm×3mm)にエポキシ樹脂組成物を5g滴下し、熱風乾燥炉にて170℃,60分で硬化させた。常温まで戻した硬化物をガラス棒でつつ合否を判断した。
○:ガラス棒に樹脂の付着が無い。
×:ガラス棒に樹脂の付着がある。
結晶化:原料を混合時に液中でゲル物が生じた。
なお×や結晶化した樹脂組成物については物性測定が不可能であるため、物性評価は未実施とした。
[伸び率(樹脂強度)]
ポリテトラフルオロエチレン板上にエポキシ樹脂組成物を厚さ1mmになるようにスキージし、熱風乾燥炉で170℃60分間硬化させ、シート状の硬化物を得た。2号ダンベルを用いて硬化物を打ち抜き、得られた試験片の長手方向の中心からそれぞれ±10mm(間隔20mm)のところに標線を記入した。引張試験機のチャックに試験片の両端を固定し、速度50mm/minで長軸方向に引っ張りながら標線間隔を光学式非接触測定器で測定する。試験は試験片が破断するまで行う。
伸び率は以下の式により算出される。
E=(L1-L0)/L0×100
E:伸び率(%)
L1:破断時の標線間隔(mm)
L0:標線間隔(mm)
合格基準:200%以上(200%以上であれば応力が加わった場合でも硬化物が破壊されることがないため、高い樹脂強度を有しているといえる。)
[反り]
線膨張係数が23.6×10-6/Kのアルミニウム板(A6061P/25×150×1.5mm)の全面に厚み0.2mmになるようにエポキシ樹脂組成物を塗布し、線膨張係数が11.7×10-6/KのFe板(SPCC-SD/25×150×1mm)を貼り合わせてクリップで固定し試験片を作成した。この試験片を熱風乾燥炉で170℃で60分硬化し、熱風乾燥炉から取り出し、25℃まで冷却した。平らな面にFe板が下になるように試験片を置き、平面からのZ軸方向の距離(反り)を測定した。
合格基準:2mm以下
【0052】
【0053】
【0054】
表1、表2に示すように実施例1は(A)成分にダイマー酸変性エポキシ樹脂を用いたものだが、伸び率も非常に高く、反りも低い良好な結果を示している。実施例2と実施例3は実施例1から(A)成分をオキシアルキレン骨格を有する脂肪族エポキシ樹脂に変更したものだが、いずれも伸び率が高く反りも低く良好な結果であった。一方で、(A)成分にビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた比較例1や水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いた比較例3は伸び率が低く、反りも大きい結果を得た。また比較例2のオキシアルキレン骨格を有し、ビスフェノール骨格も有するエポキシ樹脂を用いた組成物は伸び率は優れていたが、反りについて満足のいくものではなかった。さらに(A)成分を含まない比較例7は各原料の混合時に結晶物が発生してしまい、保存安定性が著しく悪い結果であった。実施例4~7は主骨格や分子量の異なる(B)成分を組み合わせて用いたものだが、いずれも高い伸び率と反りの低減を実現することができた。一方で、ウレタン骨格を有さない(メタ)アクリレートを用いた比較例4は伸び率も反りも基準に達しておらず、比較例5のような(メタ)アクリロイル基を有さないウレタン樹脂は伸び率は良いものの、反りを抑制することができなかった。さらに(B)成分を含まない比較例8は伸び率が非常に低く、反りも大きい結果であった。実施例8は(C)成分の種類を変更したものだが、伸び率と反りの両方の基準を満たしていた。一方で、(C)成分以外の硬化剤を用いた比較例6や(C)成分を含まない比較例9は硬化性が悪く、硬化物を作成することができなかった。以上のことから、特定の構造を有する(A)成分と(B)成分および(C)成分を組み合わせることで、線膨張係数の異なる異種材質間においても低い反りを実現し、高い樹脂強度(伸び率)を有する硬化物を得られることがわかる。
【0055】
[接着強度]
実施例1のエポキシ樹脂組成物を使用し、引張試験機で剪断接着強度を測定したところ、3.6MPaであり、接着剤として満足のいく結果であった。
試験片:SPCC-SD 25×100×1.5mm(接着面積:25×10mm)
硬化条件:170℃,60分
試験速度:10mm/min
[光硬化性]
実施例1のエポキシ樹脂組成物をベルトコンベア型UV照射機を使用し、積算光量30kJ/m2を照射し硬化を試みたが、未硬化であったことから本発明は熱硬化時のみ有用であることがわかった。
本発明のエポキシ樹脂組成物は、異種材質の接着において、部材に反りを生じさせることがなく、硬化後は柔軟な硬化物であり、樹脂強度にも優れているため様々な分野に非常に有用である。