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特開2023-103547スパンボンド不織布およびこれを用いてなるエアバッグ包材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103547
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】スパンボンド不織布およびこれを用いてなるエアバッグ包材
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/147 20120101AFI20230720BHJP
   D04H 3/16 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
D04H3/147
D04H3/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004127
(22)【出願日】2022-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松浦 博幸
(72)【発明者】
【氏名】山野 千夏
(72)【発明者】
【氏名】羽根 亮一
【テーマコード(参考)】
4L047
【Fターム(参考)】
4L047AA13
4L047AA19
4L047AA21
4L047AA27
4L047BA09
4L047CA19
4L047CB01
4L047CC08
(57)【要約】
【課題】 熱接着加工性、機械的強度に優れ、軽量かつコンパクトなスパンボンド不織布およびエアバッグ包材を提供すること。
【解決手段】 熱可塑性樹脂を主成分とする繊維からなるスパンボンド不織布であって、前記スパンボンド不織布の断面の空隙率が35%以上55%以下であり、かつ、スパンボンド不織布の断面の空隙率の変動係数が10%以上30%以下である、スパンボンド不織布。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を主成分とする繊維からなるスパンボンド不織布であって、前記スパンボンド不織布の断面の空隙率が35%以上55%以下であり、かつ、該スパンボンド不織布の断面の空隙率の変動係数が10%以上30%以下である、スパンボンド不織布。
【請求項2】
前記繊維が、高融点重合体の周りに当該高融点重合体の融点よりも低い融点を有する低融点重合体を配した複合繊維である、請求項1に記載のスパンボンド不織布。
【請求項3】
前記スパンボンド不織布の目付が40g/m以上80g/m以下であって、厚さが0.10mm以上0.25mm以下であり、破断伸度が15%以上45%以下であり、破裂強力が300kPa以上である、請求項1または2に記載のスパンボンド不織布。
【請求項4】
前記スパンボンド不織布の熱接着加工後における引張強力保持率が30%以上である、請求項1~3のいずれかに記載のスパンボンド不織布。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のスパンボンド不織布を用いてなる、エアバッグ包材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱接着加工性、機械的強度に優れ、軽量かつコンパクトなスパンボンド不織布、および、これを用いてなるエアバッグ包材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の事故が発生した際に、乗員の安全を確保するために、種々のエアバッグが所定の車体に取り付けられている。このエアバッグは、車両の衝突時に衝撃が加わった場合にガス発生器から膨張用ガスがエアバッグに供給され、エアバッグがエアバッグ収納部材を破って展開及び膨張し、車両用シートに着座している乗員を衝撃から保護する。このようなエアバッグ収納部材を構成する素材(エアバッグ包材)として、不織布が多く提案されており、成型形態としては、不織布を縫製して袋状にするものや、熱接着加工で袋状にするものがある。また、縫製にて袋状にした場合には、縫製部の糸が切れることで、エアバッグが展開し、熱接着加工にて袋状にした場合には、袋の切れ目からエアバッグが展開される。
【0003】
例えば、特許文献1には、特定の目付、平均みかけ密度、縦方向の引張強度などの機械的特性を有するカーテン状エアバッグ収納用包材が開示されている。また、特許文献2には、特定の引張強力、引張強力比、目付を有する布帛からなるエアバッグカバーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-306118号公報
【特許文献2】特開2005-001622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1や2が開示するような技術において、エアバッグ包材の軽量化のために熱接着加工で成型を行った場合には、不織布が部分的熱圧着部を有していることに起因して、熱接着加工時に融着ムラが生じ、包材としての接着強力に劣るという課題がある。
【0006】
そこで本発明の目的は、熱接着加工性、機械的強度に優れ、軽量かつコンパクトなスパンボンド不織布およびエアバッグ包材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するべく鋭意検討した結果、単に部分的熱圧着部を設けないようにしただけでは、熱接着加工性や熱接着加工後の機械的強度に劣るという課題が残るため、表面がフラットな熱ロールを用いて特定の条件で熱接着して、スパンボンド不織布の断面の空隙率、スパンボンド不織布の断面の空隙率の変動係数を特定の範囲とすることで、不織布の表面が平滑で熱接着加工に優れたものとなり、エアバッグ包材に好適なスパンボンド不織布を得られることを見出した。さらに、この不織布が、表面平滑であるだけでなく、機械的強度に優れ、軽量かつコンパクトなスパンボンド不織布になることも見出した。
【0008】
本発明は、この知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0009】
本発明のスパンボンド不織布は、熱可塑性樹脂を主成分とする繊維からなるスパンボンド不織布であって、前記のスパンボンド不織布の断面の空隙率が35%以上55%以下であり、かつ、該スパンボンド不織布の断面の空隙率の変動係数が10%以上30%以下である。
【0010】
本発明のスパンボンド不織布の好ましい態様によれば、前記の繊維が、高融点重合体の周りに当該高融点重合体の融点よりも低い融点を有する低融点重合体を配した複合繊維である。
【0011】
本発明のスパンボンド不織布の好ましい態様によれば、前記のスパンボンド不織布の目付が40g/m以上80g/m以下であって、厚さが0.10mm以上0.25mm以下であり、破断伸度が15%以上45%以下であり、破裂強力が300kPa以上である。
【0012】
本発明のスパンボンド不織布の好ましい態様によれば、前記のスパンボンド不織布の熱接着加工後における引張強力保持率が30%以上である。
【0013】
また、本発明のエアバッグ包材は、前記のスパンボンド不織布を用いてなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のスパンボンド不織布は、熱接着加工性、機械的強度に優れるものであり、軽量かつコンパクトなエアバッグ包材を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のスパンボンド不織布は、熱可塑性樹脂を主成分とする繊維からなるスパンボンド不織布であって、前記スパンボンド不織布の断面の空隙率が35%以上55%以下であり、かつ、該スパンボンド不織布の断面の空隙率の変動係数が10%以上30%以下である。以下に、その構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではない。
【0016】
[熱可塑性樹脂を主成分とする繊維]
まず、本発明のスパンボンド不織布に係る熱可塑性樹脂としては、例えばポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、あるいはこれらの混合物や共重合体等を挙げることができる。なかでもポリエステルが機械的強度や耐熱性、耐水性、耐薬品性等の耐久性に優れることから好ましく用いられる。
【0017】
ポリエステルは、酸成分とアルコール成分とをモノマーとする高分子重合体である。本発明において、酸成分としては、テレフタル酸(オルト体)、イソフタル酸およびテレフタル酸等の芳香族カルボン酸、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸等を用いることができる。また、アルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール等を用いることができる。
【0018】
前記のポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート等が挙げられる。
後述する高融点重合体として用いられるポリエステルとしては、より融点が高く耐熱性に優れ、かつ、剛性にも優れた、ポリエチレンテレフタレート(PET)が最も好ましく用いられる。
【0019】
これらのポリエステル原料には、本発明の効果を損なわない範囲で、結晶核剤や艶消し剤、滑剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、難燃剤、金属酸化物、脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミド、そして、親水剤等の添加剤を添加することができる。なかでも、酸化チタン等の金属酸化物は、繊維の表面摩擦を低減し繊維同士の融着を防ぐことにより紡糸性を向上し、また長繊維不織布の熱ロールによる融着成形の際、熱伝導性を増すことにより長繊維不織布の融着性を向上させる効果がある。また、エチレンビスステアリン酸アミド等の脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドは、熱ロールと不織布ウェブとの間の離型性を高め、搬送性を向上させる効果がある。
【0020】
本発明のスパンボンド不織布は、前記の熱可塑性樹脂を主成分とする繊維からなる。ここで言う「主成分」とは、繊維の成分のうち、50質量%以上を占める成分のことである。
【0021】
本発明に係る繊維としては、高融点重合体の周りに当該高融点重合体の融点よりも低い融点を有する低融点重合体を配した複合繊維であることが好ましい。このような形態の複合繊維とすることにより、繊維がスパンボンド不織布内において強固に融着されやすくなり、その結果、スパンボンド不織布の表面の毛羽立ちを抑え、容易に平滑な表面を得ることができる。さらに、例えば、エアバッグ包材として用いた場合には、スパンボンド不織布を構成する繊維同士が、互いに強固に融着されることに加え、融点の異なる繊維同士を混繊させたものに比べてスパンボンド不織布における繊維同士の融着点の数も多くすることができるため、機械的強度をも向上することができる。
【0022】
上記の高融点重合体の融点と低融点重合体の融点との間の差(以降、単に融点の差と略記することがある)としては、10℃以上140℃以下が好ましい。換言すれば、高融点重合体の融点よりも、10℃以上140℃以下の範囲で低い融点を有する低融点重合体であることが好ましい。融点の差を10℃以上、より好ましくは20℃以上、さらに好ましくは30℃以上とすることで、各繊維間の融着性を高めることができる。また、140℃以下、より好ましくは120℃以下、さらに好ましくは100℃以下とすることで、融着させる時に、熱ロールに低融点重合体成分が融着してしまい、生産性が低下してしまうことを抑制できる。
【0023】
本発明における高融点重合体の融点は、160℃以上320℃以下の範囲であることが好ましい。好ましくは160℃以上、より好ましくは170℃以上、さらに好ましくは180℃以上とすることにより、例えばエアバッグ包材として用いた場合において、熱が加わるような加工を行ったとしてもその形態が維持できるような、形態安定性に優れたスパンボンド不織布とすることができる。また、320℃以下、より好ましくは300℃以下、さらに好ましくは280℃以下とすることにより、スパンボンド不織布製造時に溶融するための熱エネルギーを多大に消費し生産性が低下することを抑制することができる。
【0024】
一方、上記複合繊維における低融点重合体の融点は、前記の融点の差を確保した上で、150℃以上310℃以下の範囲であることが好ましい。150℃以上、より好ましくは160℃以上、さらに好ましくは170℃以上とすることにより、スパンボンド不織布をエアバッグ包材として使用する際、熱が加わるような加工を行ったとしてもその形態が維持できるような、形態安定性に優れた長繊維不織布とすることができる。また、310℃以下、より好ましくは290℃以下、さらに好ましくは270℃以下とすることにより、スパンボンド不織布を製造する際の融着性に優れ、機械的強度に優れるスパンボンド不織布を容易に得ることができる。
【0025】
なお、本発明において、熱可塑性樹脂の融点は、示差走査型熱量計(例えば、パーキンエルマー社製「DSC-2」型)を用い、昇温速度20℃/分、測定温度範囲30℃から350℃の条件で測定し、得られた融解吸熱曲線において極値を与える温度を当該熱可塑性樹脂の融点とする。また、示差走査型熱量計において融解吸熱曲線が極値を示さない樹脂については、ホットプレート上で加熱し、顕微鏡観察により樹脂が溶融した温度を融点とする。
【0026】
熱可塑性樹脂がポリエステルの場合、対となるポリエステル系高融点重合体とポリエステル系低融点重合体の組み合わせ(以下、ポリエステル系高融点重合体/ポリエステル系低融点重合体の順に記載することがある)としては、例えば、PET/PBT、PET/PTT、PET/ポリ乳酸、およびPET/共重合PET等の組み合わせを挙げることができ、これらの中でも、紡糸性に優れることからPET/共重合PETの組み合わせが好ましく用いられる。また、共重合PETの共重合成分としては、特に紡糸性に優れることから、イソフタル酸共重合PETが好ましく用いられる。
【0027】
複合繊維の複合形態については、例えば、同心芯鞘型、偏心芯鞘型および海島型等が挙げられ、なかでも、繊維同士を均一かつ強固に融着させることができることから同心芯鞘型のものが好ましい。さらにその複合繊維の断面形状としては、円形断面、扁平断面、多角形断面、多葉断面および中空断面等の形状が挙げられる。なかでも、複合繊維の断面形状としては円形断面の形状のものを用いることが好ましい態様である。
【0028】
また、熱可塑性樹脂を主成分とする繊維が前記の複合繊維である場合における、高融点重合体と低融点重合体との含有比率は、質量比で90:10~60:40の範囲であることが好ましく、85:15~70:30の範囲がより好ましい態様である。高融点重合体を60質量%以上90質量%以下とすることにより、スパンボンド不織布の耐久性を優れたものとすることができる。一方、低融点重合体を10質量%以上40質量%以下とすることにより、スパンボンド不織布を構成する繊維同士が強固に融着され、機械的強度に優れたスパンボンド不織布とすることができる。
【0029】
本発明に係る繊維の平均単繊維直径は、10.0μm以上26.0μm以下の範囲であることが好ましい。平均単繊維直径を10.0μm以上、好ましくは10.5μm以上、より好ましくは11.0μm以上とすることで、機械的強度に優れたスパンボンド不織布とすることができる。一方、平均単繊維直径が26.0μm以下、好ましくは25.0μm以下、より好ましくは24.0μm以下とすることでスパンボンド不織布の均一性を向上させ、緻密な表面を有するスパンボンド不織布とすることができ、例えばエアバッグ包材として使用した場合には、表面ムラが少ない不織布とすることができる。
【0030】
なお、本発明において、スパンボンド不織布の平均単繊維直径(μm)は、以下の方法によって求められる値を採用することとする。
(i)長繊維不織布からランダムに小片サンプル10個を採取する。
(ii)採取した小片サンプルの表面を走査型電子顕微鏡等で500倍~2000倍の範囲で繊維の太さを計測することが可能な写真を撮影する。
(iii)各小片サンプルの撮影した写真から10本ずつ、計100本の繊維を任意に選び出して、その太さを測定する。繊維は断面が円形と仮定し、太さを繊維直径とする。
(iv)それらの算術平均値の小数点以下第二位を四捨五入して算出した値を平均単繊維直径とする。
【0031】
[スパンボンド不織布]
本発明のスパンボンド不織布は、前記の熱可塑性樹脂を主成分とする繊維からなる。スパンボンド不織布は、長繊維不織布の中でも、紡出直後の糸条を高温・高圧のガスで吹き飛ばして極細繊維にして、ネット上に捕集されるようなメルトブロー不織布とは異なり、そのようなガスを用いる工程がないことから、容易に一定の繊維径で面内に均一な厚みの不織布とすることができ、その結果、機械的強度を高めることができる。スパンボンド不織布とすることによって、機械的強度、熱接着加工性に優れる長繊維不織布とすることができる。
【0032】
本発明のスパンボンド不織布の断面の空隙率は、35%以上55%以下である。空隙率を35%以上、好ましくは38%以上、より好ましくは40%以上とすることで、熱接着加工性や機械的強度に優れるスパンボンド不織布とすることができる。また、空隙率を55%以下、好ましくは53%以下、より好ましくは50%以下とすることで、厚さを抑え、軽量、コンパクトなスパンボンド不織布となる。
【0033】
なお、本発明において、スパンボンド不織布の断面の空隙率は、以下の方法によって測定・算出された値のことを指す。
(i)スパンボンド不織布から厚さ方向に垂直な断面が観察できる小片サンプルを10個採取する。
(ii)採取した小片サンプルの断面を、走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500」など)を用いて、2000倍で写真を撮影する。
(iii)各小片サンプルの撮影した写真をグレースケール画像(8bit画像)とし、画素値の0~127が黒、128~255が白となるように閾値を設定し、二値化する。
(iv)画像解析ソフト「ImageJ」を用いて写真全体(白色領域、黒色領域)に対する黒色領域の割合を空隙率として算出した。
【0034】
また、スパンボンド不織布の断面の空隙率は、スパンボンド不織布を構成する繊維の形態(複合繊維とするなど)を前記のようなものとしたり、熱接着時に使用するロールの温度・圧力条件、熱接着時のシートにかかる張力などを後述するような範囲としたりすることによって、調整することができる。
【0035】
また、本発明において、スパンボンド不織布の断面の空隙率の変動係数(以下、単に「空隙率の変動係数」と略記することがある)が10%以上30%以下である。空隙率の変動係数が10%以上、好ましくは13%以上、より好ましくは15%以上とすることで、充填密度が高くなり過ぎず、スパンボンド不織布として好適な引裂強度を確保することができる。また、空隙率の変動係数を30%以下、好ましくは28%以下、より好ましくは25%以下とすることで、断面の空隙率が均一となり、熱接着加工性、機械的強度に優れるスパンボンド不織布とすることができる。
【0036】
この空隙率の変動係数は、スパンボンド不織布を構成する繊維の形態(複合繊維とするなど)を前記のようなものとしたり、熱接着時に使用するロールの温度・圧力条件、熱接着時のシートにかかる張力などを後述するような範囲としたりすることによって、調整することができる。
【0037】
本発明のスパンボンド不織布の目付は、40g/m以上80g/m以下であることが好ましい。スパンボンド不織布の目付を40g/m以上、好ましくは45g/m以上、より好ましくは50g/m以上とすることで、機械的強度に優れたスパンボンド不織布を得ることができる。一方、スパンボンド不織布の目付を80g/m以下、好ましくは75g/m以下、より好ましくは70g/m以下とすることで、軽量かつコンパクトなスパンボンド不織布となる。
【0038】
なお、本発明において、長繊維不織布の目付は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.2 単位面積当たりの質量」に準拠して、以下の手順によって測定される値を採用するものとする。
(i)25cm×25cmの試験片を、試料の幅1m当たり3枚採取する。
(ii)標準状態におけるそれぞれの質量(g)を量る。
(iii)その平均値を1m当たりの質量(g/m)で表し、小数点以下第1位で四捨五入する。
【0039】
本発明におけるスパンボンド不織布の厚さは、0.10mm以上0.25mm以下であることが好ましい。厚さを上記の範囲とすることで、熱接着加工性に優れ、軽量かつコンパクトなスパンボンド不織布となる。
【0040】
なお、本発明において、スパンボンド不織布の厚さ(mm)は、JIS L1906:2000「織物及び編物の生地試験方法」の「5.1」に準じ、以下の手順によって測定される値を採用するものとする。
(i)直径10mmの加圧子を使用し、荷重10kPaで不織布の幅方向等間隔に1mあたり10点の厚さを0.01mm単位で測定する。
(ii)上記10点の平均値の小数点以下第三位を四捨五入し、不織布の厚さ(mm)とする。
【0041】
本発明のスパンボンド不織布は、その破断伸度が15%以上45%以下であることが好ましい。スパンボンド不織布の破断伸度を15%以上、好ましくは17%以上、より好ましくは20%以上とすることで、スパンボンド不織布が硬くなり過ぎず、スパンボンド不織布として好適な引裂強度を確保することができる。また、スパンボンド不織布の破断伸度を45%以下、好ましくは43%以下、より好ましくは40%以下とすることで、スパンボンド不織布が柔らかくなり過ぎず、熱接着加工性に優れるスパンボンド不織布とすることができる。
【0042】
なお、本発明において、スパンボンド不織布の破断伸度(%)は、JIS L1913:2010の「6.3」に準じ、以下の手順によって測定される値を採用するものとする。
(i)不織布の縦方向および横方向のそれぞれについて、長さ30cm×幅5cmの試験片を1mあたり10点採取する。
(ii)試験片を定速伸長型引張試験機(例えば、ボールドウィン社製「RTG-1250」など)にて、つかみ間隔20cm、引張速度10±1cm/minで引張試験を実施し、破断するまで荷重を加える。
(iii)試験片の最大荷重時の伸び(cm)を0.1cmの位まで求め、これを試験長(20cm)で除し、小数点以下第一位を四捨五入して、伸度(%)を求めた。
【0043】
本発明のスパンボンド不織布は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.5 破裂強さ」A法(ミューレン形法)に基づいて測定される破裂強力が300kPa以上であることが好ましい。スパンボンド不織布の破裂強力を300kPa以上、好ましくは350kPa以上、より好ましくは400kPaとすることで、機械的強度が十分なスパンボンド不織布を得ることができる。
【0044】
なお、本発明において、スパンボンド不織布の破裂強力(kPa)は、JIS L1913:2010の「6.5」A法(ミューレン形法)に準じ、以下の手順によって測定される値を採用するものとする。
(i)10cm×10cmの試験片を、試料の幅1m当たり5枚採取する。
(ii)試験片をミューレン低圧形試験機(例えば、株式会社東洋精機製作所社製「M2-LD」など)のクランプに挟み込むようにセットし、油圧でクランプ下部のゴム膜を膨らませ、試験片が破裂したときの最大強力(kPa)を読み取る。
(iii)上記5点の平均値の小数点以下第一位を四捨五入した値を破裂強力(kPa)とする。
【0045】
本発明におけるスパンボンド不織布の熱接着加工後における引張強力保持率が30%以上であることが好ましい。スパンボンド不織布の熱接着加工後における引張強力保持率が30%以上、好ましくは35%以上、より好ましくは40%以上とすることで、熱接着加工性に優れ、エアバッグ包材とし用いた場合、包材の切れ目が容易に破れることなく、機械的強度に優れたスパンボンド不織布を得ることができる。一般には、熱接着加工後の引張強力が熱接着加工前のそれを上回ることはないため、スパンボンド不織布の熱接着加工後における引張強力保持率は100%以下となる。
【0046】
本発明におけるスパンボンド不織布の熱接着加工後における引張強力保持率は、以下の順によって測定される値を採用するものとする。
(i)スパンボンド不織布のタテ方向について、長さ300mm×幅50mmの試験片を1mあたり10点採取する。
(ii)試験片を定速伸長型引張試験機(例えば、ボールドウィン社製「RTG-1250」など)にて、つかみ間隔200mm、引張速度200±10mm/minで引張試験を実施し、破断するまでの最大荷重時の強さ(N)を0.1Nの位まで求め、これをスパンボンド不織布の熱接着加工前における引張強力(N/5cm)とする。
(iii)同様に、スパンボンド不織布のタテ方向について、長さ300mm×幅50mmのサンプルを1mあたり10点採取する。
(iv)1枚のスパンボンド不織布を、その中央部分に設定した折線に沿って二つ折りにして重ね合わせ、その重ね合わせた部分を袋状になるように、マイコン制御温度コントロールシーラー(例えば、富士インパルス株式会社製「OPL-200-10」など)を用い、加熱時間5.0秒、冷却時間2.0秒の条件で接着する。シール圧力は、例えば、富士インパルス株式会社製「OPL-200-10」の場合には、シール圧力調整ナットを調整して、「袋の厚さが0.1~0.5mmのとき」に目盛りを合わせることによって達成される圧力である。また、接着温度は、190~220℃の範囲とする。
(v)熱接着部分が中央に配されるように二つ折りにし、重ねた部分をハサミでカットし、長さ300mm×幅50mmのサンプルとする。
(vi)試験片を定速伸長型引張試験機(例えば、ボールドウィン社製「RTG-1250」など)にて、つかみ間隔200mm、引張速度200±10mm/minで引張試験を実施し、破断するまでの最大荷重時の強さ(N)を0.1Nの位まで求め、これをスパンボンド不織布の熱接着加工後における引張強力(N/5cm)とする。
(vii)前記の手順の(ii)、(vi)によって得られたスパンボンド不織布の熱接着加工前、熱接着加工後の引張強力の値から、以下の式によって求められる値を小数点以下第1位で四捨五入して得られる値をスパンボンド不織布の熱接着加工後における引張強力保持率(%)とする
引張強力保持率(%)=熱接着加工後の引張強力(N/5cm)/熱接着加工前の引張強力(N/5cm)×100
ただし、熱接着加工前の引張強力(N/5cm)が熱接着加工後の引張強力(N/5cm)を下回る場合には、スパンボンド不織布の熱接着加工後における引張強力保持率が100%であったとする。
【0047】
[スパンボンド不織布の製造方法]
次に、本発明の長繊維不織布、およびその製造方法について説明する。本発明の長繊維不織布は、下記(a)~(c)の工程を順次施すことによって製造されることが好ましい。
(a)熱可塑性樹脂を紡糸口金から溶融押出した後、これをエジェクターにより牽引、延伸して繊維を形成する工程。
(b)開繊板により繊維の配列を規制し、移動するネットコンベアー上に堆積させ、繊維ウェブを形成する工程。
(c)得られた繊維ウェブに熱処理加工を施す工程。
以下に、上記の各工程について、さらに詳細を説明する。
【0048】
(a)繊維を形成する工程
まず、熱可塑性樹脂を紡糸口金から溶融押出する。特に、繊維として、高融点重合体の周りに当該高融点重合体の融点よりも低い融点を有する低融点重合体を配した複合繊維を用いる場合には、高融点重合体と、低融点重合体とを、それぞれ融点以上、(融点+70℃)以下で溶融し、高融点重合体の周りに、その高融点重合体の融点に対して、10℃以上140℃以下の低い融点を有する低融点重合体を配した複合繊維として、口金温度が融点以上、(融点+70℃)以下の紡糸口金で細孔から紡出した後、エジェクターにより紡糸速度3000m/分以上6000m/分以下で牽引、延伸して円形断面形状の繊維を紡糸する。
【0049】
(b)繊維ウェブを形成する工程
上記の工程により得た繊維をノズルから送り出して帯電開繊したのち、移動捕集面上に堆積させ、繊維ウェブに形成される。
【0050】
前記の繊維を帯電させる方法は何ら制限されるものではないが、コロナ放電法による帯電や、金属との摩擦帯電による帯電が好ましいものである。
【0051】
(c)繊維ウェブに熱処理加工を施す工程
前記の繊維ウェブは、一対のフラットロールで圧接処理されたのち、一方のフラットロールに所定時間押し当てられて片面が平滑化され、スパンボンド不織布に形成される。このフラットロールによる平滑処理は、フラットロールを繊維ウェブに接触させるものであれば何ら制限されるものではないが、後述するような所定温度に加熱したフラットロールを繊維ウェブに接触させる熱処理加工が好ましい。
【0052】
この熱処理加工におけるフラットロールの表面温度は、繊維ウェブの表面に存在する繊維を構成する、最も融点の低い重合体の融点に対して、30℃以上120℃以下低いことが好ましい。すなわち、この融点を(Tm)とした場合、フラットロールの表面温度は、(Tm-120)℃以上(Tm-30)℃以下であることが好ましい。フラットロールの表面温度を、好ましくは(Tm-120)℃以上、より好ましくは(Tm-110)℃以上、さらに好ましくは(Tm-100)℃以上とすることによって、繊維ウェブの熱処理を十分に行うことができ、所望の厚みのスパンボンド不織布を容易に得ることができるほか、接着強度や表面平滑性も高めることができる。一方、フラットロールの表面温度を、好ましくは(Tm-30)℃以下、より好ましくは(Tm-40)℃以下、さらに好ましくは(Tm-50)℃以下とすることで、繊維ウェブ表面の繊維をフィルム状にすることなく熱処理を行うことができ、十分な機械的強度を得ることができる。
【0053】
繊維ウェブを一対のフラットロールにより圧接処理する際の線圧は、500N/cm以上1100N/cm以下の範囲が好ましい。線圧を好ましくは500N/cm以上、より好ましくは510N/cm以上とすることで、繊維ウェブへの熱処理を十分に行うことができ、十分な機械的強度を得られる。一方、線圧を好ましくは1100N/cm以下、より好ましくは1090N/cm以下とすることで、繊維ウェブを構成する繊維がフィルム状に溶融しにくくなり、引裂強力の低下を抑制することができる。
【0054】
また、この熱処理加工において、所定温度に加熱したフラットロールに繊維ウェブが所定時間押し当てられる際の時間(以下、単に「接触時間」と略記することがある)は、0.01秒以上10秒以下が好ましい範囲である。接触時間が好ましくは0.01秒以上、より好ましく0.02秒以上、さらに好ましくは0.03秒以上であれば、繊維ウェブへの熱処理を十分に行うことができ、十分な機械的強度を得られる。一方、接触時間が好ましくは10秒以下、より好ましくは9秒以下、さらに好ましくは8秒以下であれば、繊維ウェブを構成する繊維がフィルム状に溶融しにくくなり、引裂強力の低下を抑制することができる。
【0055】
また、前記繊維ウェブを一対のフラットロールで圧接処理されたのち、一方のフラットロールに所定時間押し当てる際の張力は、繊維ウェブの走行方向に5N/m以上200N/m以下の張力をかけた状態で実施することが好ましい。張力が5N/m以上であれば、フラットロールに不織布が巻き付いたりする傾向が少なくなり好ましい。張力が200N/m以下であれば、不織布の切断が発生しにくくなり、好ましい方向である。より好ましい張力の範囲は8N/m以上180N/m以下である。
【0056】
さらに、この際、その接触距離は、40cm以上250cm以下の範囲が好ましい。接触距離が40cm以上であると平滑処理効果が十分となり、熱接着加工性に優れる不織布が得られる。接触距離が250cm以下であれば、熱処理が強くなり過ぎて引裂強力が低下することがない。より好ましい接触距離は50cm以上200cm以下の範囲である。
【0057】
前記のフラットロールと繊維ウェブとを接触させる方法としては、前記の加熱圧接部から一方のフラットロールに連続的に接触させ、熱処理することが可能であればよく、特定の方法に限定されない。繊維ウェブを加熱圧接部で一対のフラットロール間で加熱圧接したのち、所定長さの接触部で一方のフラットロールに接触させる方法が一般的であるが、例えば、一対のフラットロールに繊維ウェブをS字型(または、逆S字型)に巻き付ける様な方法であってもよい。
【0058】
[エアバッグ包材、ならびに、その製造方法]
本発明のエアバッグ包材は、前記のスパンボンド不織布を用いてなる。本発明のスパンボンド不織布が、熱接着加工性、機械的強度に優れ、軽量であることから、エアバッグ包材としたときに、エアバッグの収納性に優れ、エアバッグ作動時には、エアバッグの膨張圧で容易に破断させ、エアバッグ作動性に優れたエアバッグ包材とすることができる。
【0059】
本発明でいうエアバッグ包材とは、自動車等の安全装置として運転席のハンドル部分、シート背もたれ側面部分、助手席のインストルメントパネル部分、ルーフサイド部分などに配置される、所定の形状に折り畳まれたエアバッグを収納する包材のことである。
【0060】
本発明のエアバッグ包材は、前記のスパンボンド不織布を中央で二つ折りにして端部を重ね合わせられてなり、該重ね合わせられてなる端部に融着部を有することが好ましい。このようにすることで、軽量でコンパクトなエアバッグ包材としながらも、エアバッグの膨張を均一なものとし、意図しない破断を防ぐことができる。
【0061】
また、本発明のエアバッグ包材は、その配置部分に合わせ、他の部材との固定具を設置するため、あるいは、エアバッグの膨張のための切り欠き部や開口部があってもよい。
【0062】
本発明のエアバッグ包材は、前記のように、前記のスパンボンド不織布を中央で二つ折りにして端部を重ね合わせ、この重ね合わせられた端部に、融着部を有させることで製造することができる。さらに、切り欠き部や開口部を公知の方法によって設けさせることもできる。
【0063】
前記の融着部を有させる手段としては、例えば、マイコン制御温度コントロールシーラー(例えば、富士インパルス株式会社製「OPL-200-10」など)を用い、所定の加熱時間、加熱温度、シール圧力、冷却時間で当該部分を押圧する方法が挙げられる。
【実施例0064】
次に、実施例に基づき本発明のスパンボンド不織布について具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。
【0065】
[測定方法]
(1)ポリエステルの融点(℃)
パーキンエルマー社製の示差走査型熱量計「DSC-2型」を用い、昇温速度20℃/分の条件で測定し、得られた融解吸熱曲線において極値を与える温度を融点とした。
【0066】
(2)ポリエステルの固有粘度(IV)
ポリエステルの固有粘度(IV)は次の方法で測定した。
【0067】
オルソクロロフェノール100mLに対し試料8gを溶解し、温度25℃においてオストワルド粘度計を用いて相対粘度ηを、下記式により求めた
η=η/η0=(t×d)/(t0×d0
(ここで、ηはポリマー溶液の粘度、η0はオルソクロロフェノールの粘度、tは溶液の落下時間(秒)、dは溶液の密度(g/cm)、t0はオルソクロロフェノールの落下時間(秒)、d0はオルソクロロフェノールの密度(g/cm)をそれぞれ表す。)
次いで、相対粘度ηから、下記式により固有粘度(IV)を算出した
固有粘度(IV)=0.0242η+0.2634。
【0068】
(3)平均単繊維直径(μm)
本発明に係る繊維の平均単繊維直径は、株式会社キーエンス製「VHX-D500」の走査型電子顕微鏡を用いて前記の方法で算出した。
【0069】
(4)スパンボンド不織布の目付(g/m
長繊維不織布の目付は前記の方法で算出した。
【0070】
(5)スパンボンド不織布の厚さ(mm)
スパンボンド不織布の厚さは、厚さ計として、株式会社テクロック製“TECLOCK”(登録商標)SM-114を使用し、前記の方法で評価した。
【0071】
(6)スパンボンド不織布の破断伸度(%)
スパンボンド不織布の破断伸度は、JIS L1913:2010の「6.3」に準じ、定速伸長型引張試験機として、ボールドウィン社製「RTG-1250」を用い、前記の方法で評価した。
【0072】
(7)スパンボンド不織布の破裂強力(kPa)
スパンボンド不織布の破裂強力は、JIS L1913:2010の「6.5」A法(ミューレン形法)に準じ、ミューレン低圧形試験機として、株式会社東洋精機製作所社製「M2-LD」を用い、前記の方法で評価した。
【0073】
(8)スパンボンド不織布の接着加工後における引張強力保持率(%)
スパンボンド不織布の引張強力(N/5cm)をJIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.3」に準じ、定速伸長型引張試験機として、ボールドウィン社製「RTG-1250」を用い、マイコン制御温度コントロールシーラーとして、富士インパルス株式会社製「OPL-200-10」を用い、シール圧力は、マイコン制御温度コントロールシーラーのシール圧力調整ナットを調整して、「袋の厚さが0.1~0.5mmのとき」に目盛りを合わせ、接着温度は、実施例1、比較例1のスパンボンド不織布は200℃で、実施例2、3、ならびに、比較例2のスパンボンド不織布は、その目付の増加に応じて205℃で行った他は、前記の方法で評価した。
【0074】
[実施例1]
(繊維を形成する工程)
熱可塑性樹脂を主成分とする繊維として、以下に示す熱可塑性樹脂(芯成分、鞘成分)からなる複合繊維を用いた。
芯成分:固有粘度(IV)0.65、融点260℃であり、酸化チタンを0.3質量%含むポリエチレンテレフタレート樹脂を水分率50ppm以下に乾燥したもの(表1において、「PET」と記載した)
鞘成分:固有粘度(IV)0.66、イソフタル酸共重合率10モル%、融点230℃であり、酸化チタンを0.2質量%含む共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂を水分率50ppm以下に乾燥したもの(表1において、「co-PET」と記載した)
上記のとおり、芯成分の熱可塑性樹脂が高融点重合体であり、鞘成分の熱可塑性樹脂が低融点重合体である。
【0075】
上記の芯成分を295℃、鞘成分を280℃で溶融し、芯/鞘の複合比を質量比で80/20として円形断面の同心芯鞘型に複合し、口金温度300℃で細孔より紡出した後、エジェクターにより紡糸速度4300m/分で牽引、延伸して、円形断面形状の繊維を得た。
【0076】
(繊維ウェブを形成する工程)
そして、この繊維を、ウェブ進行方向に対し左右へそれぞれ36度で揺動するノズルに通過させ、ノズル出口に設置された金属衝突板へ繊維を衝突させて摩擦帯電により繊維を帯電して開繊させ、移動するネットコンベアー上に、繊維ウェブとして捕集した。このとき捕集した繊維ウェブが目付50g/mとなるように、ネットコンベアーの移動速度を調整した。
【0077】
(繊維ウェブに熱処理加工を施す工程)
上記繊維ウェブを、上下1対のフラットロールにてフラットロール表面温度を150℃(低融点重合体の融点(230℃に対して、80℃低い温度(Tm-80℃))、接触時間を1.9秒、線圧を588N/cmとして圧接処理させた。続いて、繊維ウェブの走行方向の張力を100N/mとし、一方のフラットロールへの接触距離を120cmとして、当該フラットロールに1.9秒押し当てた。
【0078】
上記の処理により、繊維径16μm、目付50g/mのスパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布は、その断面の空隙率が51%であり、かつ、スパンボンド不織布の断面の空隙率の変動係数が22%、厚さが0.12mm、破断伸度が19%、破裂強力が450kPa、熱接着加工後における引張強力保持率が75%であった。
【0079】
[実施例2]
実施例1において、目付が60g/mとなるように、ネットコンベアーの移動速度を調整したこと以外は、実施例1と同じ方法でスパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布は、その断面の空隙率が43%であり、かつ、スパンボンド不織布の断面の空隙率の変動係数が18%、厚さが0.14mm、破断伸度が21%、破裂強力が610kPa、熱接着加工後における引張強力保持率が82%であった。
【0080】
[実施例3]
実施例1において、目付が70g/mとなるように、ネットコンベアーの移動速度を調整したこと以外は、実施例1と同じ方法でスパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布は、その断面の空隙率が38%であり、かつ、スパンボンド不織布の断面の空隙率の変動係数が14%、厚さが0.16mm、破断伸度が23%、破裂強力が755kPa、熱接着加工後における引張強力保持率が100%であった。
【0081】
[比較例1]
実施例1において、目付が55g/mとなるように、ネットコンベアーの移動速度を調整したこと以外は、実施例1と同じ方法で繊維ウェブを得た。この繊維ウェブを実施例1と同様の熱圧着処理した後、エンボスロールによる部分的熱圧着を行い、繊維径16μm、目付55g/mのスパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布は、その断面の空隙率が57%であり、かつ、スパンボンド不織布の断面の空隙率の変動係数が40%、厚さが0.21mm、破断伸度が32%、破裂強力が605kPa、熱接着加工後における引張強力保持率が28%であった。
【0082】
[比較例2]
実施例1において、目付が72g/mとなるように、ネットコンベアーの移動速度を調整したこと以外は、実施例1と同じ方法でスパンボンド不織布を得た。得られたスパンボンド不織布は、その断面の空隙率が10%であり、かつ、スパンボンド不織布の断面の空隙率の変動係数が29%、厚さが0.10mm、破断伸度が27%、破裂強力が1000kPa、熱接着加工後における引張強力保持率が25%であった。
【0083】
【表1】
【0084】
表1に示されるように、実施例1~3のスパンボンド不織布は、スパンボンド不織布の断面の空隙率が35%以上55%以下であり、かつ、スパンボンド不織布の断面の空隙率の変動係数が10%以上30%以下であったことから、熱接着加工性、機械的強度に優れたスパンボンド不織布を得ることができた。このようなスパンボンド不織布であれば、軽量かつコンパクトなエアバッグ包材を容易に得ることができる。
【0085】
一方、比較例1のスパンボンド不織布は、破裂強度は良好なものではあったものの、スパンボンド不織布の断面の空隙率、および、空隙率の変動係数が高く、熱接着加工性に劣るものであった。また、比較例2のスパンボンド不織布は、破裂強度は良好なものではあったものの、断面の空隙率が低く、熱接着加工性に劣るものであった。