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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103553
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】ハブユニット軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/32 20060101AFI20230720BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
F16C33/32
F16C19/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004137
(22)【出願日】2022-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 将充
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA01
3J701BA09
3J701EA02
3J701EA03
3J701FA31
3J701FA60
3J701GA03
3J701XB03
3J701XB31
(57)【要約】
【課題】耐久性を確保できるとともに、自動車の走行時に、外方部材と内方部材とを十分に導通させることができる、ハブユニット軸受を実現する。
【解決手段】ハブユニット軸受を、外輪と、ハブと、複列の転動体列4a、4bとを備えるものとする。複列の転動体列4a、4bの少なくとも一方を、第1転動体19と、第1転動体19の転動面よりも表面粗さの大きい転動面を備え、転動体数が2個以上かつ第1転動体19の転動体数以下である、第2転動体20とを有するものとする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道を備えた、導電性を有する外方部材と、
外周面に複列の内輪軌道を備えた、導電性を有する内方部材と、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に配置された複列の転動体列と、を備え、
前記複列の転動体列の少なくとも一方は、第1転動体と、前記第1転動体の転動面よりも表面粗さの大きい転動面を備え、転動体数が2個以上かつ前記第1転動体の転動体数以下である、第2転動体とを有し、
前記第1転動体は、前記第2転動体の円周方向両側に配置されており、
前記第2転動体は、円周方向に等間隔又はほぼ等間隔に配置されている、
ハブユニット軸受。
【請求項2】
前記第1転動体及び前記第2転動体は、玉であり、
前記第2転動体は、前記第1転動体よりも、JISB 1501に規定される等級が低い、
請求項1に記載したハブユニット軸受。
【請求項3】
前記第2転動体のゲージは、前記第1転動体のゲージよりも大きい、請求項1~2のうちのいずれか1項に記載したハブユニット軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体には、走行時に生じる空気との摩擦などに起因して、静電気が帯電する。そして、車体にある程度電荷が溜まると、絶縁破壊を起こし、放電現象(スパーク)が発生することが知られている。このようなスパークが発生すると、ラジオノイズを生じさせるほか、車載コンピュータに損傷を与える可能性がある。
【0003】
車体に静電気が帯電する要因の一つとして、車輪を回転自在に支持するために用いられるハブユニット軸受のうち、転動体と軌道輪との間に、自動車の走行時に、絶縁性の高い不導体のEHL油膜が形成されることが挙げられる。
【0004】
自動車の停止時には、転動体と軌道輪とは、EHL油膜を介さずに直接金属接触して互いに導通するため、車体に帯電した静電気を、ハブユニット軸受を介してタイヤへと流し、地面に放電することができるが、自動車の走行時には、転動体と軌道輪との間にEHL油膜が形成されるため、帯電した静電気を車体からタイヤへと流すことができなくなる。つまり、EHL油膜が、車体とタイヤとの間を絶縁してしまう。この結果、走行時に、車体に静電気が帯電しやすくなる。
【0005】
転動体と軌道輪との間からEHL油膜を除去すれば、車体の帯電を抑制することが可能になるが、EHL油膜は、ハブユニット軸受の低トルク化と長寿命化とに寄与するものであるため、車体の帯電抑制のためにEHL油膜を除去するという対策を採用することはできない。
【0006】
特開2008-144880号公報(特許文献1)には、モータやファンなどに組み込まれる転がり軸受を対象として、外輪及び/又は内輪の軌道面の表面粗さを全周にわたり粗くすることで、転動体と軌道輪との間にEHL油膜を形成されにくくして、電食の発生を防止する技術が記載されている。
【0007】
ただし、ハブユニット軸受は、自動車の旋回走行時などに、低速回転で高接触面圧の境界潤滑条件下で使用される。このため、車体の帯電を抑制するために、軌道面の表面粗さを全周にわたり粗くすると、ハブユニット軸受の耐久性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0008】
また、特開2008-144880号公報には、軌道溝の曲率半径を小さくすることで、転動体と軌道輪との間にEHL油膜を形成されにくくする技術も記載されている。ただし、ハブユニット軸受は、自動車の旋回走行時などにモーメント荷重を支承する必要があるため、軌道溝の曲率半径を小さくすると、転動体が軌道溝の肩へ乗り上げやすくなる。このため、ハブユニット軸受の耐久性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0009】
一方、特開2015-102200号公報(特許文献2)には、車載モータ用の転がり軸受を対象として、外輪と内輪とを、シールリングを構成する導電性ゴム及び導電性グリースにより導通させる技術が記載されている。特開2015-102200号公報に記載された技術をハブユニット軸受に適用すれば、導電性ゴム及び導電性グリースにより、外方部材と内方部材とを導通させられるため、EHL油膜を除去することなく、しかも、ハブユニット軸受の耐久性に悪影響を与えずに、車体の帯電を抑制することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008-144880号公報
【特許文献2】特開2015-102200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ただし、特開2015-102200号公報に記載された技術を、ハブユニット軸受に適用した場合にも、以下のような理由で、車体に帯電した静電気を放電するのに改善の余地がある。
【0012】
すなわち、シールリングを構成する導電性ゴムは、温度上昇時や機械的な力が負荷された際に、ゴムポリマーのブラウン運動が激しくなり、導体成分やイオン成分の結合力が弱まるため、導電性が低下しやすくなる。また、導電性グリースは、攪拌によって、導体成分の結合が切れやすくなり、導電性が低下しやすくなる。このため、特開2015-102200号公報に記載された技術をハブユニット軸受に適用した場合には、自動車の停止時に比べて、温度上昇や攪拌を生じる自動車の走行時に、導電性が低下する傾向になる。
【0013】
一方、車体には、走行時に静電気が帯電しやすくなる。したがって、特開2015-102200号公報に記載された技術をハブユニット軸受に適用した場合にも、走行時に、車体に帯電した静電気を十分に放電することは難しくなる。また、導電性グリースに含まれる導体成分として、カーボンブラックを使用した場合には、凝集が発生しやすくなるため、ハブユニット軸受の回転抵抗が大きくなる、あるいはゴリ感(カーボンブラックの凝集物を軌道面と転動体との間に噛み込むことによる転がり抵抗の急激な変化)が出る可能性もある。
【0014】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、耐久性を確保できるとともに、自動車の走行時に、外方部材と内方部材とを十分に導通させることができる、ハブユニット軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受は、外方部材と、内方部材と、複列の転動体列とを備える。
前記外方部材は、導電性を有し、内周面に複列の外輪軌道を備える。
前記内方部材は、導電性を有し、外周面に複列の内輪軌道を備える。
前記複列の転動体列は、前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に配置されている。
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受では、前記複列の転動体列の少なくとも一方は、第1転動体と、前記第1転動体の転動面よりも表面粗さの大きい転動面を備え、転動体数が2個以上かつ前記第1転動体の転動体数以下である、第2転動体とを有している。
また、前記第1転動体を、前記第2転動体の円周方向両側に配置している。
さらに、前記第2転動体を、円周方向に等間隔又はほぼ等間隔に配置している。
なお、前記第2転動体の転動面の表面粗さを、前記第1転動体の転動面の表面粗さよりも大きくする程度は、特に限定されないが、たとえば、前記第2転動体の転動面の表面粗さ(Ra)と前記第1転動体の転動面の表面粗さ(Ra)との差を、0.010μm以上、好ましくは0.020μm以上、かつ、0.040μm以下、好ましくは0.030μm以下とすることができる。
【0016】
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受では、前記転動体列の転動体総数が、前記第2転動体の転動体数の整数倍である場合には、前記第2転動体を円周方向に等間隔に配置することができる。
これに対して、前記転動体列の転動体総数が、前記第2転動体の転動体数の整数倍でない場合には、前記第2転動体を、円周方向にほぼ等間隔に配置する、別の言い方をすれば、円周方向に隣り合う前記第2転動体同士の間隔が可及的に(できる限り)大きくなるように配置することができる。
【0017】
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受では、前記第1転動体及び前記第2転動体を玉(鋼球)とし、前記第2転動体を、前記第1転動体よりも、JISB 1501に規定される等級(グレード)が低いものとすることができる。
JIS B 1501に規定された鋼球の表面粗さRa(最大値)は、たとえば、等級がG3では、0.010μm、G5では0.014μm、G10では0.020μm、G16では0.025μm、G20では0.032μm、G24では0.040μm、G28では0.050μm、G40では0.060μm、G60では0.080μm、G100では0.100μm、G200では0.150である。本発明を実施する場合に、前記第2転動体の等級を、前記1転動体の等級よりも低くすれば、等級同士の組み合わせは自由である。
【0018】
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受では、前記第2転動体のゲージを、前記第1転動体のゲージよりも大きくすることもできる。
なお、ゲージとは、JIS B 1501に規定されるように、ロットの平均直径と呼び直径との寸法差をいう。ゲージの間隔及び範囲は、等級によって異なる。たとえば、鋼球に関して、G20では、ケージの間隔は2μm、ゲージの範囲は-10μm~+10μmであり、G40では、ケージの間隔は4μm、ゲージの範囲は-16μm~+16μmである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、耐久性を確保できるとともに、自動車の走行時に、外方部材と内方部材とを十分に導通させることができる、ハブユニット軸受を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施の形態の第1例にかかるハブユニット軸受を示す、半部断面図である。
図2図2は、実施の形態の第1例にかかるハブユニット軸受の中心軸に直交する仮想平面に関する断面模式図であり、(A)は、軸方向外側の転動体列の位置での断面模式図であり、(B)は、軸方向内側の転動体列の位置での断面模式図である。
図3図3は、実施の形態の第2例を示す、図2に相当する図である。
図4図4は、実施の形態の第3例を示す、図2に相当する図である。
図5図5は、実施の形態の第4例を示す、図2に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、図1及び図2を用いて説明する。
【0022】
ハブユニット軸受1は、内輪回転型で、かつ、従動輪用のいわゆる第3世代のハブユニット軸受である。ハブユニット軸受1は、外方部材である外輪2と、内方部材であるハブ3と、複列の転動体列4a、4bとを備える。
なお、ハブユニット軸受1に関して、軸方向外側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向外側となる図1の左側であり、軸方向内側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向中央側となる図1の右側である。
【0023】
外輪2は、中炭素鋼などの導電性を有する金属製で、略円筒形状を有している。外輪2は、内周面に、複列の外輪軌道5a、5bを有しており、外周面の軸方向中間部に、径方向外側に向けて突出した静止フランジ6を有している。静止フランジ6は、円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する支持孔7を有する。外輪2は、支持孔7へ挿通したボルトにより、車体を構成する懸架装置に対し支持固定され、車輪が回転する際にも回転しない。なお、複列の外輪軌道5a、5bの表面粗さは、従来品の表面粗さと同程度である。
【0024】
ハブ3は、外輪2の径方向内側に外輪2と同軸に配置されており、中炭素鋼などの導電性を有する金属製のハブ輪8と、高炭素クロム鋼などの導電性を有する金属製の内輪9とを組み合わせてなる。ハブ3は、外周面のうち、複列の外輪軌道5a、5bと対向する部分に、複列の内輪軌道10a、10bを有している。なお、複列の内輪軌道10a、10bの表面粗さは、従来品の表面粗さと同程度である。
【0025】
ハブ輪8は、内輪9を外嵌保持する軸部材であり、軸部11と、回転フランジ12と、パイロット部13とを有している。本例では、ハブユニット軸受1を、従動輪用としているため、ハブ輪8は、中実状に構成されている。ただし、本発明を、駆動輪用のハブユニット軸受に適用する場合には、ハブ輪として、径方向中央部に、軸方向に貫通するスプライン孔を有するものを使用することができる。スプライン孔には、等速ジョイントを構成する駆動軸がスプライン係合される。
【0026】
軸部11は、ハブ輪8の軸方向内側部から軸方向中間部にわたる範囲に備えられている。軸部11は、軸方向内側部に、軸方向外側に隣接する部分よりも外径が小さい、内輪9が外嵌される小径部14を有しており、軸方向中間部の外周面に、外側列の内輪軌道10aを有している。軸部11は、軸方向内側の端部に、内輪9の軸方向内側の端面を押え付けるかしめ部15を有する。本発明を実施する場合には、軸部の軸方向内側の端部の外周面に雄ねじ部を形成し、該雄ねじ部にナット螺合することにより、ハブ輪に対して内輪を固定しても良い。
【0027】
回転フランジ12は、ハブ輪8のうち、外輪2の軸方向外側の端部よりも軸方向外側に位置する部分に備えられており、略円輪形状を有している。回転フランジ12は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する取付孔16を有する。取付孔16のそれぞれには、スタッド17が圧入されている。スタッド17の先端部には、図示しないナットが螺合される。これにより、車輪を構成するホイール及び制動用回転体を、回転フランジ12の軸方向外側に固定する。本発明を実施する場合には、回転フランジに雌ねじ孔を形成し、該雌ねじ孔にハブボルトを直接螺合することにより、ホイール及び制動用回転体を、回転フランジの軸方向外側に固定しても良い。
【0028】
パイロット部13は、ホイール及び制動用回転体をがたつきのない隙間嵌めで外嵌するためのもので、ハブ輪8の軸方向外側の端部に備えられており、略円筒形状を有している。
【0029】
内輪9は、円環形状を有しており、外周面の軸方向中間部に軸方向内側列の内輪軌道10bを有している。内輪9は、軸部11に備えられた小径部14に締り嵌めで外嵌されている。
【0030】
外輪2の内周面とハブ3の外周面との間には、円環形状を有する環状空間18が備えられている。本例の場合にも、環状空間18には、外輪軌道5a、5b及び内輪軌道10a、10bと、後述する第1転動体19及び第2転動体20の転動面との間にEHL油膜を形成することを目的として、図示しない導電性を有しない潤滑剤(グリース)が封入されている。
【0031】
複列の転動体列4a、4bは、複列の外輪軌道5a、5bと複列の内輪軌道10a、10bとの間に配置されている。具体的には、複列の転動体列4a、4bのうち、軸方向外側の転動体列4aは、外輪軌道5aと内輪軌道10aとの間に配置されており、軸方向内側の転動体列4bは、外輪軌道5bと内輪軌道10bとの間に配置されている。本例では、軸方向外側の転動体列4aのピッチ円直径と、軸方向内側の転動体列4bのピッチ円直径とを、互いに同じとしているが、軸方向外側の転動体列のピッチ円直径と、軸方向内側の転動体列のピッチ円直径とを、互いに異ならせることもできる。
【0032】
転動体列4a、4bのそれぞれは、複数の転動体から構成されている。特に本例では、図2(A)及び図2(B)に示すように、転動体列4a、4bのそれぞれは、転動面の表面粗さが互いに異なる2種類の転動体、すなわち、第1転動体19と第2転動体20とから構成されている。なお、図2(A)及び図2(B)には、第1転動体19を無地模様で示し、第2転動体20を斜格子模様で示している。
【0033】
転動体列4aを構成する第1転動体19及び第2転動体20は、円周方向に等間隔に配置されており、保持器21aにより転動自在に保持されている。また、転動体列4bを構成する第1転動体19及び第2転動体20は、円周方向に等間隔に配置されており、保持器21bにより転動自在に保持されている。転動体列4a、4bのそれぞれを構成する第1転動体19及び第2転動体20には、軸部11の軸方向内側の端部にかしめ部15を形成する際に、予圧が付与されている。
【0034】
第1転動体19及び第2転動体20のそれぞれは、高炭素クロム軸受鋼などの導電性を有する硬質金属製である。本例では、第1転動体19及び第2転動体20として、玉(鋼球)を使用しているが、玉に代えて円すいころを使用することもできる。
【0035】
第1転動体19は、転動体列4a、4bのそれぞれに、転動体列4a、4bを構成する転動体の総数(第1転動体19及び第2転動体20の合計数)の半数以上備えられている。これに対して、第2転動体20は、転動体列4a、4bのそれぞれに、2個以上かつ第1転動体19の転動体数以下備えられている。本例では、転動体列4aの転動体総数と転動体列4bの転動体総数とを同じとしている。また、転動体列4aを構成する第1転動体19の転動体数と、転動体列4bを構成する第1転動体19の転動体数とを同じとし、かつ、転動体列4aを構成する第2転動体20の転動体数と、転動体列4bを構成する第2転動体20の転動体数とを同じとしている。図示の例では、転動体列4a、4bのそれぞれの転動体総数は12個であり、転動体列4a、4bのいずれに関しても、第1転動体19の転動体数は10個、第2転動体20の転動体数は2個である。このため、転動体列4a、4bのそれぞれは、多数の第1転動体19と、少数の第2転動体20とから構成されている。また、転動体列4a、4bのそれぞれの転動体総数(12個)は、第2転動体20の転動体数(2個)の整数倍(6倍)である。
【0036】
第2転動体20は、第1転動体19の転動面よりも表面粗さの大きい転動面を有する。このために本例では、第2転動体20として、第1転動体19よりも、JISB 1501に規定される等級(グレード)が低いものを使用している。具体的には、第2転動体20として、転動面の表面粗さRa(最大値)が0.060μmである、等級がG40の規格品を使用し、かつ、第1転動体19として、転動面の表面粗さRa(最大値)が0.032μmである、等級がG20の規格品を使用している。
【0037】
なお、本発明を実施する場合に、等級の異なる規格品を使用せずに、第1転動体19及び第2転動体20の転動面の表面粗さのみを異ならせることもできる。また、第2転動体20の転動面の表面粗さを、第1転動体19の転動面の表面粗さよりも粗くする程度は、特に限定されないが、たとえば、第2転動体20の転動面の表面粗さ(Ra)と第1転動体19の転動面の表面粗さ(Ra)との差を、0.010μm以上、好ましくは0.020μm以上、かつ、0.040μm以下、好ましくは0.030μm以下とすることができる。また、第2転動面の表面粗さ(Ra)は、通電量を確保する面から、0.040μm以上、好ましくは0.060μm以上とするが、ハブユニット軸受1の軸受寿命を確保する面からは、0.050μm以下、好ましくは0.060μm以下とすることができる。
【0038】
さらに本例では、第2転動体20のゲージを、第1転動体19のゲージよりも大きくしている。本例では、第2転動体20の等級をG40とし、かつ、第1転動体19の等級をG20としているため、第2転動体20のゲージとして、-16μm~+16μmのゲージ範囲から+4μmを選択し、第1転動体19のゲージとして、-10μm~+10μmのゲージ範囲から+2μmを選択している。これにより、第2転動体20の平均直径を、第1転動体19の平均直径よりも+2μm大きくしている。なお、本発明を実施する場合に、第2転動体20のゲージを第1転動体19のゲージよりも大きくする程度は、特に限定されないが、たとえば、第2転動体20のゲージと第1転動体19のゲージとの差を、1μm以上、好ましくは2μm以上、かつ、4μm以下、好ましくは3μm以下とすることができる。
【0039】
本例では、転動体列4a、4bのそれぞれに関して、転動面の表面粗さの異なる第1転動体19と第2転動体20の配置を工夫している。具体的には、第1転動体19を、第2転動体20の円周方向両側に配置している。これにより、転動面の表面粗さの大きい第2転動体20の円周方向両側に、転動面の表面粗さの小さい第1転動体19を配置している。さらに本例では、転動体列4a、4bのそれぞれの転動体総数を、第2転動体20の転動体数の整数倍(図示の例では6倍)としているため、転動体列4a、4bのそれぞれに関して、第2転動体20を、円周方向に等間隔に配置している。図示の例では、転動体列4a、4bのそれぞれは、2個の第2転動体20を有しているため、転動体列4a、4bの直径方向反対側(位相が180度ずれた位置)に第2転動体20を配置している。また、2個の第2転動体20同士の間に、第1転動体19を5個ずつ配置している。
なお、本発明を実施する場合に、転動体列の転動体総数が第2転動体の転動体数の整数倍でない場合には、第2転動体を、円周方向にほぼ等間隔に配置することができる。別の言い方をすれば、第2転動体を、隣り合う第2転動体同士の間隔が可及的に大きくなるように配置することができる。
【0040】
なお、図2(A)及び図2(B)には、軸方向外側の転動体列4aを構成する第2転動体20(第1転動体19)の位相と、軸方向内側の転動体列4bを構成する第2転動体20(第1転動体19)の位相とが一致した状態を示している。ただし、ハブユニット軸受1の使用状態では、アキシアル荷重を支承することなどに起因して、軸方向外側の転動体列4aを構成する第1転動体19及び第2転動体20の公転速度と、軸方向内側の転動体列4bを構成する第1転動体19及び第2転動体20の公転速度とが不一致になる。このため、軸方向外側の転動体列4aを構成する第2転動体20(第1転動体19)の位相と、軸方向内側の転動体列4bを構成する第2転動体20(第1転動体19)の位相とは、一致したり、不一致になったりする。
【0041】
本例のハブユニット軸受1は、シールリング22と、キャップ23とをさらに備える。
【0042】
シールリング22は、外輪2の軸方向外側の端部に内嵌されており、図示しない1乃至複数本のシールリップを有する。前記シールリップの先端部は、軸部11の外周面又は/及び回転フランジ12の軸方向内側面に全周にわたり摺接している。これにより、シールリング22は、環状空間18の軸方向外側の開口部を塞ぐ。
【0043】
キャップ23は、有底円筒形状を有しており、外輪2の軸方向内側の端部に内嵌されている。これにより、キャップ23は、外輪2の軸方向内側の開口部を塞ぐ。
【0044】
なお、ハブユニット軸受1には、第1転動体19及び第2転動体20のそれぞれに予圧が付与されているため、無負荷の状態(ハブユニット軸受1の単品の状態)で、負荷圏の広さを表す負荷率εは1以上になる。ただし、ハブユニット軸受1の使用状態では、ハブユニット軸受1にはラジアル荷重が作用し、該ラジアル荷重には負荷率εを低下させる働きがあるため、負荷率εが0.5以上1以下になる場合が多い。このため、図2(A)及び図2(B)に示すように、転動体列4a、4bのうち、全周の50%以上100%以下の範囲が荷重を支承する負荷圏(斜線範囲)となり、残りの範囲は荷重を支承しない非負荷圏となる。
【0045】
以上のような本例のハブユニット軸受1によれば、耐久性を確保できるとともに、自動車の走行時に、外輪2とハブ3とを十分に導通させることができる。
すなわち、本例では、複列の転動体列4a、4bのそれぞれを、第1転動体19と、第1転動体19よりも表面粗さの大きい転動面を有する第2転動体20とから構成し、このうちの第2転動体20の転動体数を、2個以上かつ第1転動体19の転動体数以下としている。このため、ハブユニット軸受1の使用状態で、転動体列4a、4bのそれぞれに関して、第2転動体の転動体数を1個とした場合に比べて、第2転動体20を負荷圏に存在させやすくすることができる。
【0046】
上述したように、ハブユニット軸受1においては、転動体列4a、4bの全周の50%以上100%以下の範囲が負荷圏になることから、第2転動体20を円周方向に等間隔に配置した本例では、自動車の走行時に(ハブユニット軸受1の使用状態で)、1個以上の第2転動体20を必ず負荷圏に存在させることができる。図示の例では、転動体列4a、4bの直径方向反対側に第2転動体20を配置しているため、少なくとも1個の第2転動体20を負荷圏に存在させることができる。なお、第2転動体を円周方向にほぼ等間隔に配置(円周方向に隣り合う第2転動体同士の間隔を可及的に大きく)した場合にも、自動車の走行時に、少なくとも1個の第2転動体を負荷圏に存在させることができる。
【0047】
そして本例では、負荷圏に存在する第2転動体20の転動面を、外輪軌道5a、5b及び内輪軌道10a、10bに対して金属接触させやすくすることができる。具体的には、第2転動体20の転動面の表面粗さを、第1転動体19の表面粗さよりも大きくすることで、第2転動体20の転動面と外輪軌道5a、5b及び内輪軌道10a、10bとの間の油膜パラメータ(Λ)を下げ、油膜形成率を下げることができるため、第2転動体20の転動面を、外輪軌道5a、5b及び内輪軌道10a、10bに対して金属接触させやすくすることができる。なお、油膜パラメータとは、弾性流体潤滑理論により求まるEHL油膜厚さhと、転動面と軌道面の二乗平均粗さの合成表面粗さσとの比(Λ=h(EHL油膜厚さ)/σ(合成表面粗さ)で定義される。
【0048】
このため、本例のハブユニット軸受1によれば、自動車の走行時に、1個以上の第2転動体20を必ず負荷圏に存在させることができ、該負荷圏に存在する第2転動体20によって、外輪2とハブ3とを十分に導通させることができる。したがって、本例のハブユニット軸受1によれば、自動車の走行時に、車体に帯電した静電気を、ハブユニット軸受1を介してタイヤへと流し、地面に放電することができる。また、車体に対する静電気の帯電量を低減させて、放電(スパーク)時のエネルギを低下させることができるため、ラジオノイズの発生を防止できるとともに、車載コンピュータの損傷を防止できる。
【0049】
また、本例のハブユニット軸受1は、転動体列4a、4bを構成する複数の転動体のうち、少数の第2転動体20の転動面の表面粗さを、多数の第1転動体19の転動面の表面粗さよりも大きくすることで、外輪2とハブ3とを導通させることができ、特開2008-144880号公報に記載された従来構造のように、軌道面の表面粗さを全周にわたり粗くしたり、軌道溝の曲率半径を小さくしたりする必要がないため、ハブユニット軸受1の耐久性を確保できる。
【0050】
また、本例のハブユニット軸受1は、転動面の表面粗さの粗い第2転動体20を介して、外輪2とハブ3とを導通させるため、潤滑剤として、通常の(導電性のない)潤滑剤を使用することができる。このため、ハブユニット軸受1の低トルク化と長寿命化とを犠牲にすることなく、外輪2とハブ3とを導通させることができる。また、本例のハブユニット軸受1では、導電性を有するグリースを使用しなくて済むため、導体成分としてカーボンブラックを使用した場合のように、ハブユニット軸受1の回転抵抗が大きくなる、あるいはゴリ感が出ることもない。
【0051】
また、本例では、転動面の表面粗さが大きい第2転動体20の円周方向両側に、転動面の表面粗さが小さい第1転動体19を配置している。これにより、外輪軌道5a、5b及び内輪軌道10a、10bに対する接触面積が小さく、負荷容量の小さい第2転動体20の荷重分担を下げることができるので、油膜パラメータの低下に起因して、ハブユニット軸受1の寿命が低下することを防止できる。
【0052】
また、本例では、第2転動体20のゲージを+4μmとし、第1転動体19のゲージを+2μmとすることで、第2転動体20の平均直径を第1転動体19の平均直径よりも+2μm大きくしている。このため、第2転動体20の転動面を、外輪軌道5a、5b及び内輪軌道10a、10bに対して金属接触させやすくすることができる。また、第2転動体20の円周方向両側に配置された第1転動体19の転動体荷重を低下させて、ハブユニット軸受1の寿命向上を図ることもできる。
【0053】
さらに本例では、第1転動体19及び第2転動体20として、等級の異なる規格品の玉を使用できるため、ハブユニット軸受1のコスト上昇を抑えることができる。
【0054】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、図3を用いて説明する。
【0055】
本例では、軸方向外側の転動体列4cを構成する第2転動体20(第1転動体19)の転動体数と、軸方向内側の転動体列4dを構成する第2転動体20(第1転動体19)の転動体数とを、実施の形態の第1例の構造から変更している。
【0056】
すなわち、本例では、転動体列4c、4dのいずれに関しても、第1転動体19の転動体数を8個、第2転動体20の転動体数を4個としている。また、4個の第2転動体20を、円周方向に等間隔に配置(90度等配)している。そして、転動面の表面粗さの大きい第2転動体20の円周方向両側に、転動面の表面粗さの小さい第1転動体19を配置している。
【0057】
以上のような本例の場合には、実施の形態の第1例の構造に比べて、負荷圏に存在する第2転動体20の数を増やすことができる。このため、外輪2とハブ3とをより効果的に導通させることができる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0058】
[実施の形態の第3例]
実施の形態の第3例について、図4を用いて説明する。
【0059】
本例では、軸方向外側の転動体列4eを構成する第2転動体20(第1転動体19)の転動体数と、軸方向内側の転動体列4fを構成する第2転動体20(第1転動体19)の転動体数とを、互いに異ならせている。
【0060】
すなわち、本例では、軸方向外側の転動体列4eに関しては、第1転動体19の転動体数を9個、第2転動体20の転動体数を3個とし、軸方向内側の転動体列4fに関しては、第1転動体19の転動体数を8個、第2転動体20の転動体数を4個としている。そして、軸方向外側の転動体列4eに関しては、3個の第2転動体20を、円周方向に等間隔に配置(120度等配)し、軸方向内側の転動体列4fに関しては、4個の第2転動体20を、円周方向に等間隔に配置(90度等配)している。
【0061】
以上のような本例の場合にも、実施の形態の第1例の構造に比べて、負荷圏に配置する第2転動体20の数を増やすことができる。このため、外輪2とハブ3とをより効果的に導通させることができる。また、第1転動体19よりも転動面の表面粗さの大きい第2転動体20は、軌道面に対する真実接触面積が小さくなるため、微視的な表面応力が高くなり、ハブユニット軸受1の軸受寿命の低下を引き起こす可能性がある。したがって、本例のように、軸方向外側の転動体列4eが備える第2転動体20の転動体数を、軸方向内側の転動体列4fが備える第2転動体20の転動体数よりも少なくすれば、軸方向外側の転動体列4eの方が軸方向内側の転動体列4fよりも負荷が高くなる場合に、ハブユニット軸受1の軸受寿命への影響を抑制できる。また、第2転動体(玉)のゲージを、第1転動体のゲージよりも大きくした場合にも、第2転動体の転動体荷重が高くなり、やはり軸受寿命の低下を招くため、負荷の高い転動体列に関しては、ゲージを大きくした第2転動体の転動体数を減らすことが、軸受寿命への影響を抑制する面で有利になる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0062】
実施の形態の第3例の変形例として、軸方向内側の転動体列と軸方向外側の転動体列とで負荷の大きさが異なる(計算寿命が異なる)場合に、負荷の高い転動体列に関しては、転動面の表面粗さの大きい第2転動体を備えないようにし(第1転動体のみから構成し)、負荷の低い転動体列に関してのみ、第1転動体と、第1転動体よりも転動面の表面粗さの大きい第2転動体を備えるようにすることができる。このような構成を採用した場合にも、第2転動体を備えることによる軸受寿命への影響を抑制することができる。
【0063】
[実施の形態の第4例]
実施の形態の第4例について、図5を用いて説明する。
【0064】
本例では、複列の転動体列4g、4hのそれぞれの転動体総数を、第2転動体20の転動体数の整数倍とはしていない。すなわち、本例では、軸方向外側の転動体列4gの転動体総数及び軸方向内側の転動体列4hの転動体総数をそれぞれ15個とし、転動体列4g、4hのそれぞれに関して、第2転動体20の転動体数を4個としている。このため本例では、第2転動体20を、円周方向に等間隔に配置することができない。そこで本例では、第2転動体20を、円周方向にほぼ等間隔に配置している。別の言い方をすれば、第2転動体20を、円周方向に隣り合う第2転動体20同士の間隔が可及的に大きくなるように配置している。これにより、円周方向に隣り合う1対の第2転動体20同士の間に配置される第1転動体19の数を、3個又は2個としている。換言すれば、円周方向に隣り合う1対の第2転動体20同士の間に配置される第1転動体19からなる第1転動体群を、転動体列4g、4hのそれぞれで、転動体数が3個のものを3つ、転動体数が2個のものを1つ備えるようにしている。なお、転動体列4g、4hのそれぞれに関して、第1転動体19の転動体数は、11個である。
【0065】
以上のような本例の場合にも、第2転動体20を円周方向に等間隔に配置した場合と実質的に同様に、自動車の走行時に(ハブユニット軸受1の使用状態で)、1個以上(図示の例では2個)の第2転動体20を必ず負荷圏に存在させることができる。したがって、該負荷圏に存在する第2転動体20によって、外輪2とハブ3とを十分に導通させることができる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0066】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、発明の技術思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、実施の形態の各例の構造は、矛盾を生じない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。
【0067】
実施の形態では、第2転動体として、第1転動体の転動面よりも表面粗さの大きい転動面を有するものを使用するために、第1転動体及び第2転動体として、等級が異なる規格品を使用する場合について説明した。ただし、本発明を実施する場合には、第1転動体及び第2転動体として、同じ等級のものを使用し、第1転動体として使用する転動体の転動面にのみ、第2転動体に比べて、より高精度のラッピング加工を施すなどにして、第1転動体の転動面の表面粗さと第2転動体の転動面の表面粗さとを異ならせることもできる。また、第1転動体と第2転動体とで、異なる等級の規格品を使用する場合に、第1転動体の等級と第2転動体の等級との組み合わせは、実施の形態で説明した組み合わせに限定されず、適宜変更することができる。また、第2転動体のゲージを、第1転動体のゲージよりも大きくする場合にも、第1転動体に設定するゲージの大きさ及び第2転動体に設定するゲージの大きさは、実施の形態で説明した値に限定されず、適宜変更することができる。また、本発明のハブユニット軸受は、内輪回転型に限らず、外輪回転型の構造にも適用できる。
【符号の説明】
【0068】
1 ハブユニット軸受
2 外輪
3 ハブ
4a~4h 転動体列
5a、5b 外輪軌道
6 静止フランジ
7 支持孔
8 ハブ輪
9 内輪
10a、10b 内輪軌道
11 軸部
12 回転フランジ
13 パイロット部
14 小径部
15 かしめ部
16 取付孔
17 スタッド
18 環状空間
19 第1転動体
20 第2転動体
21a、21b 保持器
22 シールリング
23 キャップ
図1
図2
図3
図4
図5