(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103562
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】電力供給システム、制御装置、制御方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H02J 7/34 20060101AFI20230720BHJP
H02J 7/35 20060101ALI20230720BHJP
H02J 1/00 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
H02J7/34 B
H02J7/35 K
H02J1/00 306L
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004156
(22)【出願日】2022-01-14
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100137394
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】泉井 良夫
(72)【発明者】
【氏名】西田 義人
(72)【発明者】
【氏名】夏梅 大輔
(72)【発明者】
【氏名】田畑 浩数
(72)【発明者】
【氏名】松井 康浩
【テーマコード(参考)】
5G165
5G503
【Fターム(参考)】
5G165CA04
5G165DA01
5G165EA02
5G165EA03
5G165EA04
5G165GA04
5G165GA09
5G165HA01
5G165HA09
5G165JA07
5G165JA09
5G165LA01
5G165LA02
5G165MA10
5G503AA01
5G503AA06
5G503BA02
5G503BB01
5G503CA10
5G503CA11
5G503CA17
5G503DA04
5G503DA19
5G503EA05
5G503GD03
5G503GD06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】晴れや雨が継続するような場合であっても、蓄電池の蓄電量等を適正に維持することができる電力供給システムを提供する。
【解決手段】直流母線9と、この直流母線に接続された少なくとも一つのサブシステム10A~10Xと、サブシステムにおける電力供給を制御する制御装置と、を含む電力供給システム1であって、サブシステムは、太陽光発電装置と、発電装置により発電された電力又は直流母線から供給される電力を蓄電する蓄電池110Aとを有する。制御装置は、基準電圧と実測値との差分値と、充放電電力との関係を定義した制御パターンを格納するパターン格納部と、パターン格納部に格納されている制御パターンの中から、適用する制御パターンを選択するパターン選択部と、パターン選択部により選択された制御パターンに従って、前記蓄電池の充放電を制御する充放電制御部とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流母線と、この直流母線に接続された少なくとも一つのサブシステムと、前記サブシステムにおける電力供給を制御する制御装置とを含む電力供給システムであって、
前記サブシステムは、
発電装置と、
前記発電装置により発電された電力、又は、前記直流母線から供給される電力を蓄電する蓄電池と
を有し、
前記制御装置は、
基準電圧と実測値との差分値と、充放電電力との関係を定義した制御パターンを格納するパターン格納部と、
前記パターン格納部に格納されている制御パターンの中から、適用する制御パターンを選択するパターン選択部と、
前記パターン選択部により選択された制御パターンに従って、前記蓄電池の充放電を制御する充放電制御部と
を有する
電力供給システム。
【請求項2】
前記パターン格納部は、前記差分値と充放電電力の関係を示すグラフの傾きが充電側と放電側で非対称となる制御パターン、前記差分値と充放電電力の関係を示すグラフの中心点が前記差分値のプラス側又はマイナス側にシフトした制御パターン、又は、これらを組み合わせた制御パターンの少なくとも一つを格納している
請求項1に記載の電力供給システム。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記パターン選択部により選択された制御パターンについて、複数の時点における制御パターンの妥当性を評価する評価部と、
前記評価部による評価結果に応じて、前記パターン選択部により選択された制御パターンを修正する修正部と
をさらに有し、
前記充放電制御部は、前記修正部により修正された制御パターンに従って、前記蓄電池の充放電を制御する
請求項2に記載の電力供給システム。
【請求項4】
前記発電装置は、太陽光発電装置であり、
前記評価部は、前記太陽光発電装置が設置された地域の天気情報に基づいて、現時点と将来時点における制御パターンの妥当性を評価する
請求項3に記載の電力供給システム。
【請求項5】
前記発電装置は、太陽光発電装置であり、
前記制御装置は、
将来時点における電力消費量を予測する消費電力予測部と、
前記太陽光発電装置が設置された地域の天気情報に基づいて、将来時点における前記太陽光発電装置による発電量を予測する発電量予測部と
をさらに有し、
前記パターン選択部は、前記消費電力予測部により予測された電力消費量と、前記発電量予測部により予測された発電量とに基づいて、前記制御パターンを選択する
請求項1に記載の電力供給システム。
【請求項6】
直流母線と、この直流母線に接続された複数のサブシステムと、前記サブシステムに対する電力供給を制御する制御装置とを含む電力供給システムであって、
前記サブシステムは、
発電装置と、
前記発電装置により発電された電力、又は、前記直流母線から供給される電力を蓄電する蓄電池と
を有し、
前記制御装置は、
前記直流母線の複数の地点で計測された電流値を比較する比較部と、
前記比較部による比較結果に基づいて、前記直流母線の一部を遮断させる遮断指示部と
を有する
電力供給システム。
【請求項7】
前記遮断指示部は、前記比較部による比較結果と、複数の地点における電流の向きとに基づいて、遮断する地点を決定する
請求項6に記載の電力供給システム。
【請求項8】
前記制御装置は、
前記直流母線における電流測定位置に基づいて、遮断すべき地点を決定するための判定表を作成する判定表作成部
をさらに有し、
前記遮断指示部は、前記判定表作成部により作成された判定表を用いて、遮断する地点を決定する
請求項7に記載の電力供給システム。
【請求項9】
発電装置及び蓄電池を有するサブシステムの電力供給を制御する制御装置であって、
基準電圧と実測値との差分値と、充放電電力との関係を定義した制御パターンを格納するパターン格納部と、
前記パターン格納部に格納されている制御パターンの中から、適用する制御パターンを選択するパターン選択部と、
前記パターン選択部により選択された制御パターンに従って、前記蓄電池の充放電を制御する充放電制御部と
を有する制御装置。
【請求項10】
発電装置及び蓄電池を有するサブシステムの電力供給を制御する制御装置であって、
前記サブシステム内の直流電圧の実測値と、基準電圧との差分値を取得する差分値取得部と、
前記差分値と充放電電力の関係を示すグラフの傾きが充電側と放電側で非対称となる制御パターン、又は、前記差分値と充放電電力の関係を示すグラフの中心点が前記差分値のプラス側又はマイナス側にシフトした制御パターンに従い、前記差分値取得部により取得された差分値に応じて前記蓄電池の充放電を制御する充放電制御部と
を有する制御装置。
【請求項11】
発電装置及び蓄電池を有するサブシステムの電力供給を制御する制御方法であって、
前記サブシステム内の直流電圧の実測値と、基準電圧との差分値を取得する差分値取得ステップと、
前記差分値と充放電電力の関係を示すグラフの傾きが充電側と放電側で非対称となる制御パターン、又は、前記差分値と充放電電力の関係を示すグラフの中心点が前記差分値のプラス側又はマイナス側にシフトした制御パターンに従い、前記差分値取得ステップにより取得された差分値に応じて前記蓄電池の充放電を制御する充放電制御ステップと
を有する制御方法。
【請求項12】
発電装置及び蓄電池を有するサブシステムの電力供給を制御するプログラムであって、
前記サブシステム内の直流電圧の実測値と、基準電圧との差分値を取得する差分値取得ステップと、
前記差分値と充放電電力の関係を示すグラフの傾きが充電側と放電側で非対称となる制御パターン、又は、前記差分値と充放電電力の関係を示すグラフの中心点が前記差分値のプラス側又はマイナス側にシフトした制御パターンに従い、前記差分値取得ステップにより取得された差分値に応じて前記蓄電池の充放電を制御する充放電制御ステップと
をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力供給システム、制御装置、制御方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、非特許文献1には、太陽光発電などの再生可能エネルギーを用いた小規模エリア直流電力供給システム(直流マイクログリッド)において、DC電圧のみに基づいて蓄電池の充放電制御を行う自立分散制御方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「再生可能エネルギーベストミックスのコミュニティモデル実証実験-DCマイクログリッドの電圧による自立分散型制御-」,2019年電気学会電子・情報・システム部門大会論文集,OS6-4,pp746-750,2019年9月4日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、晴れや雨が継続するような場合であっても、蓄電池の蓄電量等を適正に維持することができる電力供給システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る電力供給システムは、直流母線と、この直流母線に接続された少なくとも一つのサブシステムと、前記サブシステムにおける電力供給を制御する制御装置とを含む電力供給システムであって、前記サブシステムは、発電装置と、前記発電装置により発電された電力、又は、前記直流母線から供給される電力を蓄電する蓄電池とを有し、前記制御装置は、基準電圧と実測値との差分値と、充放電電力との関係を定義した制御パターンを格納するパターン格納部と、前記パターン格納部に格納されている制御パターンの中から、適用する制御パターンを選択するパターン選択部と、前記パターン選択部により選択された制御パターンに従って、前記蓄電池の充放電を制御する充放電制御部とを有する。
【0006】
好適には、前記パターン格納部は、前記差分値と充放電電力の関係を示すグラフの傾きが充電側と放電側で非対称となる制御パターン、前記差分値と充放電電力の関係を示すグラフの中心点が前記差分値のプラス側又はマイナス側にシフトした制御パターン、又は、これらを組み合わせた制御パターンの少なくとも一つを格納している。
【0007】
好適には、前記制御装置は、前記パターン選択部により選択された制御パターンについて、複数の時点における制御パターンの妥当性を評価する評価部と、前記評価部による評価結果に応じて、前記パターン選択部により選択された制御パターンを修正する修正部とをさらに有し、前記充放電制御部は、前記修正部により修正された制御パターンに従って、前記蓄電池の充放電を制御する。
【0008】
好適には、前記発電装置は、太陽光発電装置であり、前記評価部は、前記太陽光発電装置が設置された地域の天気情報に基づいて、現時点と将来時点における制御パターンの妥当性を評価する。
【0009】
好適には、前記発電装置は、太陽光発電装置であり、前記制御装置は、将来時点における電力消費量を予測する消費電力予測部と、前記太陽光発電装置が設置された地域の天気情報に基づいて、将来時点における前記太陽光発電装置による発電量を予測する発電量予測部とをさらに有し、前記パターン選択部は、前記消費電力予測部により予測された電力消費量と、前記発電量予測部により予測された発電量とに基づいて、前記制御パターンを選択する。
【0010】
また、本発明に係る電力供給システムは、直流母線と、この直流母線に接続された複数のサブシステムと、前記サブシステムに対する電力供給を制御する制御装置とを含む電力供給システムであって、前記サブシステムは、発電装置と、前記発電装置により発電された電力、又は、前記直流母線から供給される電力を蓄電する蓄電池とを有し、前記制御装置は、前記直流母線の複数の地点で計測された電流値を比較する比較部と、前記比較部による比較結果に基づいて、前記直流母線の一部を遮断させる遮断指示部とを有する。
【0011】
好適には、前記遮断指示部は、前記比較部による比較結果と、複数の地点における電流の向きとに基づいて、遮断する地点を決定する。
【0012】
好適には、前記制御装置は、前記直流母線における電流測定位置に基づいて、遮断すべき地点を決定するための判定表を作成する判定表作成部をさらに有し、前記遮断指示部は、前記判定表作成部により作成された判定表を用いて、遮断する地点を決定する。
【0013】
また、本発明に係る制御装置は、発電装置及び蓄電池を有するサブシステムの電力供給を制御する制御装置であって、基準電圧と実測値との差分値と、充放電電力との関係を定義した制御パターンを格納するパターン格納部と、前記パターン格納部に格納されている制御パターンの中から、適用する制御パターンを選択するパターン選択部と、前記パターン選択部により選択された制御パターンに従って、前記蓄電池の充放電を制御する充放電制御部とを有する。
【0014】
また、本発明に係る制御装置は、発電装置及び蓄電池を有するサブシステムの電力供給を制御する制御装置であって、前記サブシステム内の直流電圧の実測値と、基準電圧との差分値を取得する差分値取得部と、前記差分値と充放電電力の関係を示すグラフの傾きが充電側と放電側で非対称となる制御パターン、又は、前記差分値と充放電電力の関係を示すグラフの中心点が前記差分値のプラス側又はマイナス側にシフトした制御パターンに従い、前記差分値取得部により取得された差分値に応じて前記蓄電池の充放電を制御する充放電制御部とを有する。
【0015】
また、本発明に係る制御方法は、発電装置及び蓄電池を有するサブシステムの電力供給を制御する制御方法であって、前記サブシステム内の直流電圧の実測値と、基準電圧との差分値を取得する差分値取得ステップと、前記差分値と充放電電力の関係を示すグラフの傾きが充電側と放電側で非対称となる制御パターン、又は、前記差分値と充放電電力の関係を示すグラフの中心点が前記差分値のプラス側又はマイナス側にシフトした制御パターンに従い、前記差分値取得ステップにより取得された差分値に応じて前記蓄電池の充放電を制御する充放電制御ステップとを有する。
【0016】
また、本発明に係るプログラムは、発電装置及び蓄電池を有するサブシステムの電力供給を制御するプログラムであって、前記サブシステム内の直流電圧の実測値と、基準電圧との差分値を取得する差分値取得ステップと、前記差分値と充放電電力の関係を示すグラフの傾きが充電側と放電側で非対称となる制御パターン、又は、前記差分値と充放電電力の関係を示すグラフの中心点が前記差分値のプラス側又はマイナス側にシフトした制御パターンに従い、前記差分値取得ステップにより取得された差分値に応じて前記蓄電池の充放電を制御する充放電制御ステップとをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、晴れや雨が継続するような場合であっても、蓄電池の蓄電量等を適正に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】電力供給システム1の全体構成を例示する図である。
【
図2】自律分散型制御システム20による制御方法を説明する図である。
【
図3】制御装置5のハードウェア構成を例示する図である。
【
図5】電力供給システム1における電力制御処理(S10)を説明するフローチャートである。
【
図6】複数の制御パターンに基づく自律分散制御処理を説明する図である。
【
図9】保護協調システム40による事故点推定方法を説明する図である。
【
図10】保護協調システム40による保護協調処理(S20)を説明するフローチャートである。
【
図11】電流の大きさと方向による事故点推定方法を説明する図である。
【
図13】保護協調システム40による判定表作成処理(S30)を説明するフローチャートである。
【
図14】変形例における制御プログラム62を例示する図である。
【
図15】変形例における電力制御処理(S22)を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
図1は、電力供給システム1の全体構成を例示する図である。
図1に例示するように、電力供給システム1は、直流母線9と、この直流母線9に接続する複数のサブシステム10(サブシステム10A、サブシステム10B、…、サブシステム10X)と、各サブシステム10の電力供給を制御する自律分散型制御システム20と、多時刻断面最適化システム30と、保護協調システム40とを含む。
直流母線9には、複数の地点で電流を測定する複数のセンサ900と、直流母線9を複数の地点で遮断するための複数のスイッチ910とが設けられている。センサ900は、例えば、電流変成器(CT)である。
【0020】
サブシステム10は、例えば、太陽光発電装置100と、蓄電池110と、家電や電気自動車などの電気機器120とを有する。各サブシステム10において、蓄電池110は、太陽光発電装置100により発電された直流電力、又は、直流母線9から供給される直流電力を蓄電し、必要に応じて電気機器120に電力を供給する。
【0021】
自律分散型制御システム20、多時刻断面最適化システム30、及び、保護協調システム40は、後述する制御装置5の機能として実現されるが、これに限定されるものではなく、例えば、分散システムとして実現されてもよい。
自律分散型制御システム20は、
図2を参照して後述するように、直流母線9の基準電圧と実測値の差分(電圧偏差)に基づいて、蓄電池110の充放電を自律分散的に制御する。
多時刻断面最適化システム30は、
図8を参照して後述するように、自律分散型制御システム20で使用される制御パターンを、複数の時点のロスを勘案して最適化するものである。
保護協調システム40は、センサ900の出力に基づいて、直流母線9の故障電流を検知し、事故点に対応するスイッチ910を開いて電流を遮断させる。
【0022】
なお、電力供給システム1は、天候予測システム32、実績値データベース34、再生可能エネルギー発電量予測システム36(再エネ発電量予測システム36)、及び、電力消費量予測システム38をさらに含み、自律分散型制御システム20又は多時刻断面最適化システム30に対して必要な情報を提供する。
天候予測システム32は、太陽光発電装置100が設置された地域の天候を予測する。例えば、天候予測システム32は、インターネット網から、天気予報の情報を取得する。
実績値データベース34は、各サブシステム10における発電実績値及び電力消費実績値を格納する。
電力消費量予測システム38は、実績値データベース34に格納されている電力消費実績値に基づいて、将来の時点の電力消費量を予測する。
【0023】
図2は、自律分散型制御システム20による制御方法を説明する図である。
図2に例示するように、自律分散型制御システム20は、サブシステム10内の直流電圧の実測値と、基準電圧との差分値を取得し、この差分値と充放電電力の関係を示すグラフの傾きが充電側と放電側で非対称となる制御パターン、又は、この差分値と充放電電力の関係を示すグラフの中心点がこの差分値のプラス側又はマイナス側にシフトした制御パターンとなるように、蓄電池110の充放電を制御する。すなわち、差分値(電圧偏差ΔV)と充放電電力ΔP(kW)の関係に関して、
図2に示すように、非対称な傾き、中心点の左右シフト、又は、これらの組合せを許容することにより、太陽光発電の発電連続時(晴れ継続時)、又は、発電停止連続時(雨継続時)等であっても、蓄電池110が適正に運用できる。例えば、晴れ継続時の場合、蓄電池110が満充電になり、太陽光発電装置100が出力抑制される可能性が高いため、自律分散型制御システム20は、事前に蓄電池110を放電させて充電量を低めに抑え、かつ、充電量を抑える制御パターンで、蓄電池110の充放電を制御する。また、雨継続時には、この逆となる。
【0024】
図3は、制御装置5のハードウェア構成を例示する図である。
図3に例示するように、制御装置5は、CPU500、メモリ502、HDD504、ネットワークインタフェース506(ネットワークIF506)、表示装置508、及び、入力装置510を有し、これらの構成はバス512を介して互いに接続している。
CPU500は、例えば、中央演算装置である。
メモリ502は、例えば、揮発性メモリであり、主記憶装置として機能する。
HDD504は、例えば、ハードディスクドライブ装置であり、不揮発性の記録装置としてコンピュータプログラム(例えば、
図4の制御プログラム6)やその他のデータファイルを格納する。
ネットワークIF506は、有線又は無線で通信するためのインタフェースであり、例えば、センサ900やスイッチ910、サブシステム10との通信を実現する。
表示装置508は、例えば、液晶ディスプレイ(LCDパネル)である。
入力装置510は、例えば、タッチパネルである。
【0025】
図4は、制御装置5の機能構成を例示する図である。
図4に例示するように、本例の制御装置5には、制御プログラム6がインストールされ、動作する。制御プログラム6は、例えば、CD-ROM等の記録媒体に格納されており、この記録媒体を介して、制御装置5にインストールされる。
制御プログラム6は、制御パターン格納部600、パターン選択部605、差分値取得部610、充放電制御部615、発電量予測部620、消費電力予測部625、評価部630、修正部635、判定表作成部640、判定表格納部645、比較部650、及び遮断指示部655を有する。
なお、制御プログラム6の一部又は全部は、ASICなどのハードウェアにより実現されてもよく、また、OS(Operating System)の機能を一部借用して実現されてもよい。
【0026】
制御プログラム6において、制御パターン格納部600は、基準電圧と実測値との差分値と、充放電電力との関係を定義した複数の制御パターンを格納する。より具体的には、制御パターン格納部600は、差分値(電圧偏差)と充放電電力の関係を示すグラフの傾きが充電側と放電側で非対称となる制御パターン、差分値(電圧偏差)と充放電電力の関係を示すグラフの中心点が差分値(電圧偏差)のプラス側又はマイナス側にシフトした制御パターン、及び、これらを組み合わせた制御パターンを格納している。本例の制御パターン格納部600は、
図6に例示するように、グラフの傾きが対称であり、グラフの中心点が原点Oである通常パターンと、放電弱パターンと、放電強パターンと、充電弱パターンと、充電強パターンとを格納する。
【0027】
パターン選択部605は、制御パターン格納部600に格納されている制御パターンの中から、適用する制御パターンを選択する。例えば、パターン選択部605は、消費電力予測部625により予測された電力消費量と、発電量予測部620により予測された発電量とに基づいて、制御パターンを選択する。本例のパターン選択部605は、多時刻断面最適化システム30として機能し、
図8の目的関数によって、多時点における出力制御ロス、直流母線9の送電損失、及びDDC変換ロス(DC/DC変換器の変換ロス)を加味した最適な制御パターンを、制御パターン格納部600に格納されている複数の制御パターンの中から選択する。
【0028】
差分値取得部610は、各サブシステム内の直流電圧の実測値と、基準電圧との差分値(電圧偏差)を取得する。
充放電制御部615は、差分値(電圧偏差)と充放電電力の関係を示すグラフの傾きが充電側と放電側で非対称となる制御パターン、又は、差分値(電圧偏差)と充放電電力の関係を示すグラフの中心点が差分値(電圧偏差)のプラス側又はマイナス側にシフトした制御パターンに従い、差分値取得部610により取得された差分値に応じて蓄電池110の充放電を制御する。本例の充放電制御部615は、自律分散型制御システム20として機能し、パターン選択部605により選択された制御パターンに従い、差分値取得部610により取得された差分値に応じて蓄電池110の充放電を自律分散的に制御する。
【0029】
発電量予測部620は、太陽光発電装置100が設置された地域の天気情報に基づいて、将来時点における太陽光発電装置100による発電量を予測する。本例の発電量予測部620は、再エネ発電量予測システム36として機能し、天気予測システム32から提供される天気情報と、実績値データベース34に格納されている発電実績とに基づいて、将来時点の発電量を予測する。
消費電力予測部625は、将来時点におけるサブシステム10内の電力消費量を予測する。本例の消費電力予測部625は、電力消費量予測システム38として機能し、実績値データベース34に格納されている電力消費量の実績値に基づいて、将来時点におけるサブシステム10の電力消費量を予測する。
【0030】
評価部630は、パターン選択部605により選択された制御パターンについて、複数の時点における制御パターンの妥当性を評価する。本例の評価部630は、
図7の自律分散型制御システム20として機能し、先行予測制御により、将来時点でも、太陽光発電の出力制御の発生が最小となる、又は、蓄電池110の運用が適切であることを確認して、制御パターンが妥当であるか否かを判定する。
【0031】
修正部635は、評価部630による評価結果に応じて、パターン選択部605により選択された制御パターンを修正する。例えば、修正部635は、評価部630による評価結果に応じて、パターン選択部605に対して制御パターンの再選択を指示してもよいし、パターン選択部605により選択された制御パターンの傾きを変更してもよいし、パターン選択部605により選択された制御パターンのグラフを上下左右にシフトさせてもよい。
【0032】
判定表作成部640は、直流母線9における電流測定位置に基づいて、遮断すべき地点を決定するための判定表を作成する。判定表の具体的な作成方法は、
図13を参照して後述する。
判定表格納部645は、判定表作成部640により作成された判定表を格納する。
比較部650は、センサ900の出力値に基づいて、直流母線9の複数の地点で計測された電流値を比較する。
遮断指示部655は、比較部650による比較結果に基づいて、直流母線9の一部を遮断させるようにスイッチ910を制御する。より具体的には、遮断指示部655は、比較部650による比較結果と、判定表格納部645に格納されている判定表とに基づいて、直流母線9の遮断させる地点を決定し、決定された地点に対応するスイッチ910を開閉させる。本例の判定表作成部640、比較部650及び遮断指示部655は、
図9~
図13を参照して後述するように、保護協調システム40として機能する。
【0033】
図5は、電力供給システム1における電力制御処理(S10)を説明するフローチャートである。
図5に示すように、ステップ100(S100)において、制御装置5の発電量予測部620(
図4)は、実績値データベース34に格納されている太陽光発電装置100の発電量実績値と、天気予測システム32から提供される天気情報とに基づいて、将来の太陽光発電装置100による発電量を予測する。
【0034】
ステップ105(S105)において、消費電力予測部625は、実績値データベース34に格納されているサブシステム10内の電力消費量実績値に基づいて、このサブシステム10における将来の電力消費量を予測する。
ステップ110(S110)において、差分値取得部610は、直流母線9の目標電圧を予測する。
【0035】
ステップ115(S115)において、パターン選択部605は、多時刻最適化処理(
図8を参照して後述)に基づいて、制御パターン格納部600に格納されている複数の制御パターンの中から、適用する制御パターンを選択する。
ステップ120(S120)において、評価部630は、パターン選択部605により選択された制御パターンに関して、先行予測制御処理(
図7を参照して後述)に基づいて、制御パターンの妥当性を評価する。
【0036】
ステップ125(S125)において、制御プログラム6は、評価部630により制御パターンが妥当であると判定された場合に、S135の処理に移行し、評価部630により制御パターンが妥当でないと判定された場合に、S130の処理に移行する。
ステップ130(S130)において、修正部635は、パターン選択部605により選択された制御パターンを修正する。
【0037】
ステップ135(S135)において、充放電制御部615は、パターン選択部605により選択された制御パターンに従って、差分値取得部610により取得される差分値(電圧偏差)に応じて蓄電池110の充放電を制御する。
【0038】
ステップ140(S140)において、制御プログラム6は、既定の時間、同じ制御パターンに基づく充放電制御を継続し(S140:No)、既定の時間が経過すると、S145の処理に移行する(S140:Yes)。
ステップ145(S145)において、制御プログラム6は、次の時刻の制御処理に進む。
ステップ150(S150)において、制御プログラム6は、制御対象のサブシステム10が停止するまで、S100~S145の処理を継続し(S150:No)、制御対象のサブシステム10が停止すると、電力制御処理(S10)を終了する(S150:Yes)。
【0039】
図6は、複数の制御パターンに基づく自律分散制御処理を説明する図である。
図6に例示するように、制御パターン格納部600は複数の制御パターンを発電の傾向及び電力消費の傾向に関連付けて格納しており、自律分散型制御システム20(パターン選択部605)は、再エネ発電量予測システム36(発電量予測部620)により予測された将来の発電量と、電力消費量予測システム38(消費電力予測部625)により予測された将来の電力消費量とに対応する制御パターンを選択し、自律分散型制御システム20(充放電制御部615)は、選択された制御パターンに従って、蓄電池110の充放電を制御する。
【0040】
図7は、先行予測制御処理を説明する図である。
図7に例示するように、自律分散型制御システム20(評価部630)は、パターン選択部605により選択された制御パターンについて、再エネ発電量予測システム36(発電量予測部620)により予測された将来の発電量と、電力消費量予測システム38(消費電力予測部625)により予測された将来の電力消費量とに基づいて、将来時点における制御パターンの妥当性を評価する。制御パターンの妥当性は、選択された制御パターンが適用されている場合に、太陽光発電装置10の出力抑制が少ないほど高く評価され、蓄電池110の運用が適正であるほど高く評価される。制御パターンの妥当性が基準以下である場合には、修正部535により制御パターンが修正される。
このように、現時刻から将来時刻に向かって先行シミュレーションすることにより、将来時刻まで適正な制御パターンで蓄電池110の充放電を制御することが可能になる。
【0041】
図8は、多時刻断面最適化処理を説明する図である。
図8に例示するように、多時刻断面最適化システム30は、再エネ発電量予測システム36(発電量予測部620)により予測された将来の発電量と、電力消費量予測システム38(消費電力予測部625)により予測された将来の電力消費量とに基づいて、多時点における出力制御ロス、直流母線9の送電損失、及び、DDC変換ロスの総和を目的関数(
図8)で算出し、この総和が最小となる制御パターンを選択する。
このように、多時刻断面最適化処理によって、制御パターンの選択時において、将来のロスを加味することができる。
【0042】
図9は、保護協調システム40による事故点推定方法を説明する図である。
図9に例示するように、保護協調システム40は、直流母線9の複数の地点に設けられたセンサ900により、電流の大きさを特定し、特定された電流の大きさを比較して、事故点を推定し、事故点に対応するスイッチ910を開けて電流を遮断する。例えば、本図の例において、CT1<CT2<CT3<CT4となった場合、事故点はFT45であると推定し、スイッチSW34を開ける。同様に、CT1>CT2>CT3>CT4となった場合、事故点はFT01であると推定される。また、CT1<CT2かつCT3>CT4となった場合、事故点はFT23であると推定される。
このように、保護協調システム40は、直流母線9における電流の大きさを比較するだけで、事故点を推定でき、事故点に対応するスイッチ910を開けて電流を遮断することができる。
【0043】
図10は、保護協調システム40による保護協調処理(S20)を説明するフローチャートである。なお、保護協調システム40は、
図4の判定表作成部650、判定表格納部645、比較部650及び遮断指示部655により実現される。
図10に示すように、ステップ200(S200)において、比較部650は、複数のセンサ900それぞれで検知された電流値を既定の閾値と比較する。
ステップ205(S205)において、保護協調システム40は、いずれの電流値も閾値以下であると比較部650により判定された場合に、保護協調処理を終了し、いずれかの電流値が閾値よりも大きいと比較部650により判定された場合に、S210の処理に移行する。
ステップ210(S210)において、比較部650は、複数のセンサ900により検知された電流値を互いに比較する。遮断指示部655は、
図12(A)の判定表と、比較部650による比較結果とに基づいて、事故点を推定し、対応するスイッチ910を開かせる。
【0044】
図11は、電流の大きさと方向による事故点推定方法を説明する図である。
図11に例示するように、保護協調システム40は、直流母線9の複数の地点に設けられたセンサ900により、電流の大きさ及び向きを特定し、特定された電流の大きさ及び向きに基づいて事故点を推定してもよい。この場合も、
図10のフローチャートをそのまま適用でき、
図12(B)に例示する判定表を適用し、電流の向きを加味する点で相違する。
【0045】
図13は、保護協調システム40による判定表作成処理(S30)を説明するフローチャートである。
図13に示すように、ステップ300(S300)において、判定表作成部640は、直流母線9及びサブシステム10(小規模エリア直流給電システム)を電気回路でモデル化する。
ステップ305(S305)において、判定表作成部640は、ユーザの操作に応じて、モデル化された電気回路に、センサ900の設置位置(CT位置)と、想定する事故点を設定する。
ステップ310(S310)において、判定表作成部640は、電気回路モデルで、事故発生をシミュレーションする。
ステップ315(S315)において、判定表作成部640は、シミュレーション結果から、CT位置における事故電流の大きさ及び方向を特定する。
ステップ320(S320)において、判定表作成部640は、全ての想定事故点における事故発生をシミュレーションを実施したか否かを判断し、全ての想定事故点についてシミュレーションを実施した場合に、S325の処理に移行し、未実施の想定事故点がある場合に、S310の処理に戻って、次の想定事故点についてシミュレーションを行う。
ステップ325(S325)において、判定表作成部640は、特定された事故電流の大きさ及び方向に基づいて、判定表を作成し、作成された判定表を判定表格納部645に登録する。
【0046】
以上説明したように、本実施形態の電力供給システム1によれば、
図6に例示する種々の制御パターンを用いることにより、晴れ継続や雨継続により太陽光発電の発電量が大幅に変化する場合であっても、蓄電池110の蓄電量を適正に維持し、太陽光発電装置100を出力抑制することなく、直流マイクログリッドを安定かつ適正に運用することができる。
また、本例の電力供給システム1によれば、保護協調システム40によって、短絡事故や地絡事故等が発生した場合であっても、全システムを停止することなく、事故箇所だけを部分的に停止させて、健全箇所における発電・蓄電を継続できる。
【0047】
なお、本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0048】
図14は、変形例における制御プログラム62を例示し、
図15は、変形例における電力制御処理(S22)を説明するフローチャートである。
上記実施形態では、制御パターンがパターン選択部605により選択する形態を説明したが、変形例では、パターン設定部660が、発電量の傾向や電力消費の傾向に応じて制御パターンを設定する(S107)。
このように、変形例の制御装置5は、制御パターンを選択するのではなく、将来の発電量や電力消費量に基づいて、都度、制御パターンを設定するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 電力供給システム
5 制御装置
20 自律分散型制御システム
30 多時刻断面最適化システム
40 保護協調システム