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特開2023-103599ポリアリーレンスルフィド樹脂成形用材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103599
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド樹脂成形用材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20230720BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20230720BHJP
   C08K 9/02 20060101ALI20230720BHJP
   C08L 67/04 20060101ALI20230720BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20230720BHJP
   C08G 75/0263 20160101ALI20230720BHJP
   C08J 5/06 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
C08L81/02
C08L69/00
C08K9/02
C08L67/04
C08K9/04
C08G75/0263
C08J5/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004212
(22)【出願日】2022-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤本 大樹
(72)【発明者】
【氏名】松野 勇一
(72)【発明者】
【氏名】野々川 竜司
(72)【発明者】
【氏名】横田 峰
【テーマコード(参考)】
4F072
4J002
4J030
【Fターム(参考)】
4F072AA08
4F072AB10
4F072AB22
4F072AC16
4F072AD41
4F072AD46
4F072AG05
4F072AH04
4F072AH11
4F072AH46
4F072AK15
4F072AL11
4J002CF18Y
4J002CF19Y
4J002CG01X
4J002CN01W
4J002DA016
4J002FA046
4J002FB076
4J002FB276
4J002FD016
4J002FD20Y
4J002GN00
4J002GQ00
4J030BA03
4J030BA49
4J030BB01
4J030BB18
4J030BC02
4J030BC40
4J030BF01
4J030BG05
(57)【要約】
【課題】電磁波遮蔽特性、機械強度および外観に優れる成形用材料を提供する。
【解決手段】(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂(A成分)50~99重量部および(B)ポリカーボネート樹脂(B成分)50~1重量部からなる樹脂成分100重量部に対し、(C)ニッケルで被覆された炭素繊維を含む炭素繊維束100重量部に対して1種類以上の含浸助剤3~40重量部を含有する易含浸性炭素繊維束(C成分)5~150重量部を含有する成形用材料。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂(A成分)50~99重量部および(B)ポリカーボネート樹脂(B成分)50~1重量部からなる樹脂成分100重量部に対し、(C)ニッケルで被覆された炭素繊維を含む炭素繊維束100重量部に対して1種類以上の含浸助剤3~40重量部を含有する易含浸性炭素繊維束(C成分)5~150重量部を含有する成形用材料。
【請求項2】
含浸助剤が脂肪族ヒドロキシカルボン酸系ポリエステルを含有する含浸助剤であることを特徴とする請求項1に記載の成形用材料。
【請求項3】
脂肪族ヒドロキシカルボン酸系ポリエステルが、重量平均分子量が3,000~50,000であるε-カプロラクトン、δ-カプロラクトン、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-バレロラクトンまたはエナントラクトンの各単独重合体および重量平均分子量が3000~50000である2種以上の上記モノマーよりなる共重合体からなる群より選ばれる1種類以上の化合物である請求項2に記載の成形用材料。
【請求項4】
A成分およびB成分からなる樹脂成分を鞘成分、C成分を芯成分とする芯鞘型構造である請求項1~3のいずれか一項に記載の成形用材料。
【請求項5】
成形用材料の形態がペレットである請求項1~4のいずれか一項に記載の成形用材料。
【請求項6】
ペレットの長手方向の長さが3~10mmである請求項5に記載の成形用材料。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の成形用材料からなる成形体。
【請求項8】
C成分に由来する炭素繊維が平均繊維長0.3mm以上の長さで分散していることを特徴とする請求項7記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリカーボネート樹脂および易含浸性炭素繊維束からなる成形用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンスルフィド樹脂は、耐薬品性、耐熱性などに優れるエンジニアリングプラスチックである。このため、ポリアリーレンスルフィド樹脂は優れた特性を活かし金属代替材料として、電気電子、車両関連、航空機、住設などの用途に広く利用されている。近年、自動車分野においては環境対策に伴い樹脂材料の使用が増えており、耐熱性、耐薬品性、機械強度に加え、高い電磁波遮蔽特性が求められている。しかしながら、ポリアリーレンスルフィド樹脂は耐熱性および耐薬品性には優れるものの絶縁性であるため、電磁波遮蔽特性に劣り機械強度も十分ではない。そこでポリアリーレンスルフィドの機械強度を向上させるため、連続繊維に対してポリアリーレンスルフィド樹脂を含侵させ4~50mmの長繊維ペレットとすることで成形品の機械強度を向上させる方法が提案されている(特許文献1)。しかしながら、特許文献1の方法では成形品の強度は十分とは言えず、また電磁波遮蔽特性については何ら記載されていない。さらに、特許文献1に記載の様に連続繊維に対して樹脂を含侵させた材料を射出成形等で成形した場合、成形体中に繊維が上手く分散せず、成形品の外観不良を引き起こすという問題がある。そこで、繊維の分散性向上を目的とし、樹脂含浸強化繊維束に対して流動改質剤を含んだ熱可塑性樹脂を付着させることで繊維への含浸性を向上させ、成形体中の繊維の分散性を向上させた炭素繊維強化熱可塑性樹脂の成形用材料が提案されている(特許文献2)。しかしながら特許文献2の場合でも、得られた成形品の機械強度は十分とは言えず、電磁遮蔽特性と成形品外観については何ら記載されていない。一方で、電磁波遮蔽特性の向上を目的とし、熱可塑性樹脂に対して金属で被覆された炭素繊維と金属繊維を組み合わせることで、電磁波遮蔽特性を向上させる方法が提案されている(特許文献3)。しかしながら、特許文献3の方法では得られる成形品の電磁波遮蔽特性の向上は十分とは言えず、また機械強度も十分とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-171905号公報
【特許文献2】WO16/021479号公報
【特許文献3】特開2005-72123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、電磁波遮蔽特性、機械強度および外観に優れる成形用材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、ポリアリーレンスルフィド樹脂およびポリカーボネート樹脂からなる樹脂成分に、ニッケルで被覆された炭素繊維を含む炭素繊維束に対して含浸助剤を含有させた易含浸性炭素繊維束を含有させることで、電磁波遮蔽特性、機械物性および外観に優れる成形用材料を得ることができることを見出し本発明に至った。
【0006】
具体的には、上記課題は、(A)ポリアリーレンスルフィド樹脂(A成分)50~99重量部および(B)ポリカーボネート樹脂(B成分)50~1重量部からなる樹脂成分100重量部に対し、(C)ニッケルで被覆された炭素繊維を含む炭素繊維束100重量部に対して1種類以上の含浸助剤3~40重量部を含有する易含浸性炭素繊維束(C成分)5~150重量部を含有する成形用材料により達成される。
以下、本発明について具体的に説明する。
【0007】
(A成分:ポリアリーレンスルフィド樹脂)
本発明のA成分として使用されるポリアリーレンスルフィド樹脂としては、ポリアリーレンスルフィド樹脂と称される範疇に属するものであれば如何なるものを用いてもよい。
【0008】
ポリアリーレンスルフィド樹脂としては、その構成単位として、例えばp-フェニレンスルフィド単位、m-フェニレンスルフィド単位、o-フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルホン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ジフェニレンスルフィド単位、置換基含有フェニレンスルフィド単位、分岐構造含有フェニレンスルフィド単位、等よりなるものを挙げることができ、その中でも、p-フェニレンスルフィド単位を70モル%以上、特に90モル%以上含有しているものが好ましく、さらに、ポリ(p-フェニレンスルフィド)がより好ましい。
【0009】
本発明のA成分として使用されるポリアリーレンスルフィド樹脂の総塩素含有量は、好ましくは500ppm以下、より好ましくは450ppm以下、さらに好ましくは300ppm以下、特に好ましくは50ppm以下である。総塩素含有量が500ppmを超える場合には、発生ガス量が増加しモールドデポジットが増え剥離性を悪化させる場合がある。
【0010】
本発明のA成分として使用されるポリアリーレンスルフィド樹脂の総ナトリウム含有量は、好ましくは39ppm以下、より好ましくは30ppm以下、さらに好ましくは10ppm以下、特に好ましくは8ppm以下である。39ppmを超える場合には、樹脂の分解の促進による物性低下だけではなく、高温高湿環境下において、ナトリウム金属と水分子の配位結合による樹脂の吸水量の増加によって耐湿熱性を低下させる場合がある。なお、総ナトリウム含有量はICP発光分析法(ICP-AES法)により測定した。
【0011】
本発明のA成分として使用されるポリアリーレンスルフィド樹脂の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)で表される分散度(Mw/Mn)は好ましくは2.7以上、より好ましくは2.8以上、さらに好ましくは2.9以上である。分散度が2.7未満の場合は、成形時のバリ発生が多くなる場合がある。なお、分散度(Mw/Mn)の上限は特に規定されないが、10以下であることが好ましい。ここで、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)はゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で算出された値である。なお、溶媒には1-クロロナフタレンを使用し、カラム温度は210℃とした。
【0012】
ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法としては、特に限定されるものではなく、既知の方法で重合されるが、特に好適な重合方法としては、米国登録特許第4,746,758号、第4,786,713号、特表2013-522385、特開2012-233210および特許5167276等に記載された製造方法が挙げられる。これらの製造方法は、ジヨードアリール化合物と固体硫黄を、極性溶媒なしに直接加熱して重合させる方法である。
【0013】
前記製造方法はヨウ化工程および重合工程を含む。該ヨウ化工程ではアリール化合物をヨードと反応させて、ジヨードアリール化合物を得る。続く重合工程で、重合停止剤を用いてジヨードアリール化合物を固体硫黄と重合反応させてポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する。ヨードはこの工程で気体状で発生し、これを回収して再びヨウ化工程に用いられる。実質的にヨードは触媒である。
【0014】
前記製造方法で用いられる代表的な固体硫黄としては、室温で8個の原子が連結されたシクロオクタ硫黄形態(S)が挙げられる。しかしながら重合反応に用いられる硫黄化合物は限定されるものではなく、常温で固体または液体であればいずれの形態でも使用し得る。
【0015】
前記製造方法で用いられる代表的なジヨードアリール化合物としては、ジヨードベンゼン、ジヨードナフタレン、ジヨードビフェニル、ジヨードビスフェノールおよびジヨードベンゾフェノンからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられ、またアルキル基やスルホン基が結合していたり、酸素や窒素が導入されたりしているヨードアリール化合物の誘導体も使用される。ヨードアリール化合物はそのヨード原子の結合位置によって異なる異性体に分類され、これらの異性体のうち好ましい例は、p-ジヨードベンゼン、2,6-ジヨードナフタレン、及びp,p’-ジヨードビフェニルのようにヨードがアリール化合物の分子両端に対称的に位置する化合物である。該ヨードアリール化合物の含有量は前記固体硫黄100重量部に対し500~10,000重量部であることが好ましい。この量はジスルフィド結合の生成を考慮して決定される。
【0016】
前記製造方法で用いられる代表的な重合停止剤としては、モノヨードアリール化合物、ベンゾチアゾール類、ベンゾチアゾールスルフェンアミド類、チウラム類、ジチオカルバメート類、芳香族スルフィド化合物などが挙げられる。モノヨードアリール化合物のうち好ましい例としては、ヨードビフェニル、ヨードフェノール、ヨードアニリン、ヨードベンゾフェノンからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。ベンゾチアゾール類のうち好ましい例としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、2,2’-ジチオビスベンゾチアゾールからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。ベンゾチアゾールスルフェンアミド類のうち好ましい例としては、N-シクロヘキシルベンゾチアゾール2-スルフェンアミド、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド、2-モルホリノチオベンゾチアゾール、ベンゾチアゾールスルフェンアミド、ジベンゾチアゾールジスルファイド、N-ジシクロヘキシルベンゾチアゾール2-スルフェンアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。チウラム類のうち好ましい例としては、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィドからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。ジチオカルバメート類のうち好ましい例としては、ジメチルジチオカルバメート酸亜鉛、ジエチルジチオカルバメート酸亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。芳香族スルフィド化合物のうち好ましい例としては、ジフェニルスルフィド、ジフェニルジスルフィド、ジフェニルエーテル、ビフェニル、ベンゾフェノンからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。また、いずれの重合停止剤においても、共役芳香環骨格上に一つまたは複数の官能基が置換されていてもよい。前記官能基の例としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、メルカプト基、アミノ基、シアノ基、スルホ基、ニトロ基などが挙げられ、好ましい例としてはカルボキシ基、アミノ基が挙げられ、さらに好ましい例としてはFT-IRスペクトル上で、1600~1800cm-1のピークを示すカルボキシ基が挙げられる。重合停止剤の含有量は前記固体硫黄100重量部に対し1~30重量部であることが好ましい。この量はジスルフィド結合の生成を考慮して決定される。
【0017】
また本発明のA成分として使用されるポリアリーレンスルフィド樹脂として、より高い相溶化を得ることを目的に、カルボキシ基やカルボキシ基誘導体基、チオール基、スルホン基、ヒドロキシ基、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、シアノ基、ニトロ基等の反応性官能基を末端に有するポリアリーレンスルフィド樹脂を用いることもできる。該反応性官能基を末端に有するポリアリーレンスルフィド樹脂を用いることで、他の高分子素材や、フィラーとの優れた相溶性を示し、より高い機械的強度を有する樹脂組成物を得ることができる場合がある。該反応性官能基を末端に有するポリアリーレンスルフィド樹脂のうちより好ましい例としては、カルボキシ基およびアミノ基から選ばれる少なくとも1種の末端基構造を有するポリアリーレンスルフィド樹脂が挙げられる。前記カルボキシ基およびアミノ基から選ばれる少なくとも1種の末端基構造を有するポリアリーレンスルフィド樹脂とは、FT-IR分光法のFT-IRスペクトルにて、カルボキシ基由来の約1600~1800cm-1またはアミノ基由来の約3300~3500cm-1のピークを示し、かつ1400~1600cm-1で現れる芳香環伸縮ピークの高さ強度を100%としたとき、前記約1600~1800cm-1または約3300~3500cm-1のピークの相対的高さ強度が0.001~10%であるポリアリーレンスルフィド樹脂である。
【0018】
前記カルボキシ基およびアミノ基から選ばれる少なくとも1種の末端基構造を有するポリアリーレンスルフィド樹脂のうち特に好ましい例としては、カルボキシ基の末端基構造を有するポリアリーレンスルフィド樹脂であり、下記一般式(1)で表される構造単位で示される。
-(SAr)n-COOH (1)
(式中、Ar基はアリーレン基であり、nは繰り返し単位数である。)
【0019】
ここで、前記アリーレン基は、p-フェニレン基、m-フェニレン基、o-フェニレン基、および、置換されたフェニレン基などを使用することができる。具体的に、置換されたフェニレン基は、一つ以上のF、Cl、Br、C1~C3のアルキル、トリフルオロメチル、C1~C3のアルコキシ、トリフルオロメトキシ、トリフルオロメチルチオ、ジメチルアミノ、シアノ、(C1~C3アルキル)SO-、(C1~C3アルキル)NHSO-、(C1~C3アルキル)2NSO-、NHSO-により任意に置換されたフェニレン基である。
【0020】
ポリアリーレンスルフィド樹脂に前記反応性官能基を導入する方法としては特に限定されるものではなく、既知の方法で重合されるが、共役芳香環骨格上に一つまたは複数の基を有する重合停止剤を使用する方法が挙げられる。前記重合停止剤で用いられる共役芳香環骨格としては、例えば、ジフェニルジスルフィド、モノヨードベンゼン、チオフェノール、2,2’-ジベンゾチアゾリルジスルフィド、2-メルカプトベンゾチアゾール、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、2-(モルホリノチオ)ベンゾチアゾール、N,N’-ジシクロヘキシル-1,3-ベンゾチアゾール-2-スルフェンアミドなどが挙げられる。
【0021】
カルボキシ基の末端基構造を有するポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法の好適な重合方法としては、ジヨード芳香族化合物と硫黄元素を含む反応物を重合反応させる段階、前記重合反応段階を進行しながら、カルボキシ基を有する化合物を添加してポリアリーレンスルフィド主鎖の末端基中をカルボキシ基で置換する製造方法が挙げられる。前記カルボキシ基を有する化合物で用いられる代表的な例は、2-ヨード安息香酸、3-ヨード安息香酸、4-ヨード安息香酸、および2,2’-ジチオ安息香酸からなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。前記カルボキシ基を有する化合物は、ジヨード芳香族化合物100重量部を基準に約0.0001~5重量部添加することができる。
【0022】
前記製造方法では重合反応触媒を使用しても良く、代表的な重合反応触媒としては、ニトロベンゼン系触媒が上げられる。ニトロベンゼン系触媒のうち好ましい例としては、1,3-ジヨード-4-ニトロベンゼン、1-ヨード-4-ニトロベンゼン、2,6-ジヨード-4-ニトロフェノール、ヨードニトロベンゼン、2,6-ジヨード-4-ニトロアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種が挙げられる。重合反応触媒の含有量は前記固体硫黄100重量部に対し0.01~20重量部であることが好ましい。この量はジスルフィド結合の生成を考慮して決定される。
【0023】
該製造方法の反応条件の代表的な例は、温度180~250℃および圧力50~450Torr(6.7~60kPa)の初期反応条件から、温度270~350℃および圧力0.001~20Torr(0.00013~2.7kPa)の最終反応条件まで、温度を上昇させると共に圧力を降下させながら、1~30時間進行させる。好ましくは前記初期反応条件は反応速度を考慮して、温度180℃以上、圧力450Torr(60kPa)以下とし、最終反応条件は高分子の熱分解を考慮して温度350℃以下、圧力20Torr(2.7kPa)以下が挙げられる。
【0024】
但し、重合反応の条件は、反応器の構造設計および生産速度に依存し、当業者に知られているため、特に制限されない。反応条件は、当業者がプロセス条件を考慮して適宜設定することができる。
【0025】
この重合方法を使うことにより、実質的にナトリウム含有量を低減させる必要が無く、コストパフォーマンスに優れたポリフェニレンスルフィド樹脂を得ることができる。
【0026】
(B成分:ポリカーボネート樹脂)
本発明において使用されるポリカーボネート樹脂は、二価フェノールとカーボネート前駆体とを反応させて得られるものである。反応方法の一例として界面重合法、溶融エステル交換法、カーボネートプレポリマーの固相エステル交換法、および環状カーボネート化合物の開環重合法などを挙げることができるが、溶融エステル交換法が好ましい。ポリカーボネート樹脂はまた3官能フェノール類を重合させた分岐ポリカーボネート樹脂であってもよく、更に脂肪族ジカルボン酸や芳香族ジカルボン酸、または二価の脂肪族または脂環族アルコールを共重合させた共重合ポリカーボネートであってもよい。
【0027】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(M)は、好ましくは1.3×10~4.0×10、より好ましくは1.5×10~3.8×10である。芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(M)は塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを溶解した溶液から20℃で求めた比粘度(ηsp)を次式に挿入して求めたものである。かかるポリカーボネート樹脂の詳細については、特開2002-129003号公報に記載されている。
ηsp/c=[η]+0.45×[η]c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10-40.83
c=0.7
【0028】
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂は、通常使用されるビスフェノールA型ポリカーボネート以外にも、他の二価フェノールを用いて重合された、高耐熱性または低吸水率の各種のポリカーボネート樹脂であってもよい。他の二価フェノールを用いて重合された、高耐熱性または低吸水率の各種のポリカーボネート樹脂の具体例としては、下記のものが好適に例示される。
【0029】
(1)該ポリカーボネートを構成する二価フェノール成分100モル%中、4,4’-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール(以下“BPM”と略称)成分が20~80モル%(より好適には40~75モル%、さらに好適には45~65モル%)であり、かつ9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン(以下“BCF”と略称)成分が20~80モル%(より好適には25~60モル%、さらに好適には35~55モル%)である共重合ポリカーボネート。
(2)該ポリカーボネートを構成する二価フェノール成分100モル%中、ビスフェノールA成分が10~95モル%(より好適には50~90モル%、さらに好適には60~85モル%)であり、かつBCF成分が5~90モル%(より好適には10~50モル%、さらに好適には15~40モル%)である共重合ポリカーボネート。
(3)該ポリカーボネートを構成する二価フェノール成分100モル%中、BPM成分が20~80モル%(より好適には40~75モル%、さらに好適には45~65モル%)であり、かつ1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン成分が20~80モル%(より好適には25~60モル%、さらに好適には35~55モル%)である共重合ポリカーボネート。
【0030】
これらの特殊なポリカーボネートは、単独で用いてもよく、2種以上を適宜混合して使用してもよい。また、これらを汎用されているビスフェノールA型のポリカーボネートと混合して使用することもできる。これらの特殊なポリカーボネートの製法および特性については、例えば、特開平6-172508号公報、特開平8-27370号公報、特開2001-55435号公報および特開2002-117580号公報等に詳しく記載されている。さらにポリオルガノシロキサン単位を共重合した、ポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体の使用も可能である。
【0031】
ポリカーボネート樹脂はバージン原料のみならず、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂を利用することが可能である。その使用済みの製品としては、水ボトルに代表される容器、光学ディスクおよび自動車ヘッドランプなどが例示される。
【0032】
B成分の含有量は、A成分およびB成分からなる樹脂成分100重量部中50~1重量部であり、40~1重量部であることが好ましく、25~1重量部であることがより好ましい。B成分の含有量が1重量部未満の場合、ポリカーボネート樹脂の特徴が発現せず、炭素繊維の分散性が十分でなく電磁波遮蔽特性および外観が低下する。一方、B成分の含有量が50重量部を超える場合、ポリアリーレンスルフィドの特性が十分に発現せず、機械強度が低下する。
【0033】
(C成分:易含侵性炭素繊維束)
本発明における易含浸性炭素繊維束とは、ニッケルで被覆された炭素繊維を含む炭素繊維束100重量部に対し、含浸助剤を3~40重量部を含むことにより、樹脂成分により容易に含浸されることを特徴とする易含浸性炭素繊維束である。この易含浸性炭素繊維束は、炭素繊維に対し、含浸助剤を所定の量含む炭素繊維束であれば良く、その製造方法や、炭素繊維および含浸助剤が含まれている形態を問わない。
【0034】
[炭素繊維束]
本発明の成形用材料に含まれる炭素繊維束はニッケルで被覆された炭素繊維単独または該炭素繊維束と他の炭素繊維との併用である。
【0035】
炭素繊維は、ポリアクリロニトリル(PAN)系、石油・石油ピッチ系、レーヨン系、リグニン系など、何れの炭素繊維であっても良い。特に、PANを原料としたPAN系炭素繊維が、工場規模における生産性及び機械的特性に優れており好ましい。
【0036】
炭素繊維としては、平均直径5~10μmのものが好ましく使用できる。なお、一般的な炭素繊維は、1,000~50,000本の単繊維が繊維束となった炭素繊維フィラメントである。本発明における炭素繊維束には、そのような一般的な炭素繊維フィラメントも含まれるが、該炭素繊維フィラメントを、更に重ね合わせて合糸したものや、合糸に撚りを掛け撚糸としたもの等も含まれる。本発明の成形用材料に含まれる炭素繊維としては、炭素繊維と樹脂成分との接着性を高めるため、表面処理によって、表面に含酸素官能基を導入されたものも好ましい。
【0037】
ニッケルで被覆された炭素繊維は、炭素繊維にメッキ法および蒸着法等の公知の方法でニッケルまたはニッケル合金等を被覆したものである。
【0038】
[含浸助剤]
本発明にて用いられる易含浸性炭素繊維束は、複数種の含浸助剤を含むものでもよい。含浸助剤は、50%以上含まれる主成分が、脂肪族ヒドロキシカルボン酸系ポリエステルを含有する含侵助剤であることが好ましい。
【0039】
本発明に用いられる脂肪族ヒドロキシカルボン酸系ポリエステルの重量平均分子量は、3,000~50,000であるのが好ましい。重量平均分子量が3,000~50,000の範囲であると、樹脂成分との親和性がよく、また乳化も容易である場合がある。重量平均分子量は、より好ましくは5,000~35,000、さらに好ましくは8,000~30,000の範囲である。なお、重量平均分子量の測定方法としては、高温GPC法など公知の方法を使用することができる。
【0040】
脂肪族ヒドロキシカルボン酸系ポリエステルは、特に限定されないが、ε-カプロラクトン、δ-カプロラクトン、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-バレロラクトンまたはエナントラクトンの各単独重合体および2種以上の上記モノマーよりなる共重合体からなる群より選ばれる1種類以上の化合物であることが好ましい。より好ましくは、重量平均分子量が3、000~50,000のε-カプロラクトンまたはδ-カプロラクトンの各単独重合体である。なお、本願発明においてラクトン類の重合体というときは、実際に、ラクトン類を開環重合させた重合体だけでなく、該ラクトン類の等価体である脂肪族ヒドロキシカルボン酸やその誘導体を原料とする同様の構造の重合体も含まれる。
【0041】
易含浸性炭素繊維束に付着させる含浸助剤の量は、ニッケルで被覆された炭素繊維を含む炭素繊維束100重量部に対し、3~40重量部であり、好ましくは5~20重量部、より好ましくは7~18重量部である。含浸助剤の量が3重量部未満である場合、成形用材料の外観、機械物性および電磁遮蔽特性が損なわれ、40重量部を超える場合、外観および機械強度が大きく低下する。
【0042】
(その他の成分)
また、易含浸性炭素繊維束を作る場合、炭素繊維束の収束性を持たせるための収束剤を併用することが好ましい。収束剤としては、炭素繊維フィラメント製造用に、公知のものが使用できる。例えば、非イオン性、アニオン性、カチオン性界面活性剤が好適に使用できる。特に、非イオン性界面活性剤であるポリオキシアルキレンアルキルエーテル類が好ましい。集束剤の含有量は、炭素繊維束100重量部に対し、0.5~5重量部であることが好ましく、1~3重量部であることがより好ましい。
【0043】
さらに、本願発明において、炭素繊維製造時に滑り性を向上させるために、使用された油剤が残存したものであっても、問題なく使用することができる。
【0044】
易含浸性炭素繊維束の代表的な製法としては、ディッピング法、スプレー法、ローラー転写法、スリットコーター法などからなる群より選ばれる1種類以上の方法にて、汎用の炭素繊維束に含浸助剤を含ませる方法が例示される。これらの方法において、炭素繊維束に含浸助剤を含ませた場合、含浸助剤は主に炭素繊維束の表面に付着し、一部は炭素繊維束の内部にも浸み込んでいるものと思われる。
【0045】
易含浸性炭素繊維束を製造する際における含浸助剤の形態としては、水性エマルジョン、有機溶媒希釈溶液並びに加熱された粘調または溶融状態の液体が挙げられる。製造方法と含浸助剤の形態との好ましい組合せとしては、水性エマルジョンの場合、ディッピング法、ローラー転写法であるが、十分に水分を乾燥させるために100℃以上の雰囲気下での乾燥工程が必要となる。また加熱粘調液体の場合、スリットコーター法などの一般的なコーティング手法が可能であり、適量を炭素繊維束に付着させた後にスムージングロールなどで均一に付着させることが可能である。
【0046】
本発明の成形用材料を用いて成形し、炭素繊維が樹脂成分に均質に分散した成形体を得るためには、炭素繊維束に含浸助剤をできるだけ均一に付着させるのが好ましい。炭素繊維束に含浸助剤をより均一に付着させる方法として、上記方法により含浸助剤を炭素繊維束に付着させた後、これら含浸助剤の粘度が十分に低下する温度以上に再度熱処理する方法が例示される。また、該熱処理には、例えば、熱風、熱板、ローラー、赤外線ヒーターなどを使用することができ、ローラーを用いることが好ましい。
【0047】
C成分の含有量は、A成分およびB成分からなる樹脂成分100重量部に対し、5~150重量部であり、好ましくは10~125重量部であり、より好ましくは15~100重量部である。C成分の含有量が5重量部未満の場合、外観、機械強度および電磁波遮蔽性が低下し、一方150重量部を超えると外観および機械強度が低下する。
【0048】
(その他成分)
また、本発明における成形用材料は本発明の効果を損なわない範囲で、C成分以外の充填材を含むことができる。好適な充填材としては、特に限定されるものではないが、繊維状、板状、粉末状、粒状などの強化材を使用することができる。具体的には、ワラストナイト、炭素繊維、チタン酸カリウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの無機繊維および全芳香族ポリアミド繊維などの有機繊維などが挙げられ、ワラストナイト、全芳香族ポリアミド繊維が好ましく用いられる。また、セリサイト、カオリン、マイカ、クレー、ベントナイト、アスベスト、タルク、アルミナシリケートなどの珪酸塩、モンモリロナイト、合成雲母などの膨潤性の層状珪酸塩、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、ガラスフレーク、ガラス・ビーズ、セラミックビ-ズ、窒化ホウ素、炭化珪素、燐酸カルシウムおよびシリカなどが挙げられ、ガラスフレーク、マイカ、タルク、ガラスビーズが好ましく用いられる。これらは中空であってもよく、さらにはこれら強化材を2種類以上併用することも可能である。
【0049】
また、これら強化材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で、膨潤性の層状珪酸塩では有機化オニウムイオンで予備処理して使用することは、より優れた機械的強度を得る意味において好ましい。
【0050】
本発明における樹脂組成物中には本発明の効果を損なわない範囲で、エラストマー成分を含むことができる。好適なエラストマー成分としては、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン系共重合体(ABS樹脂)、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体(MBS樹脂)およびシリコーン・アクリル複合ゴム系グラフト共重合体などのコア-シェルグラフト共重合体樹脂、あるいはシリコーン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーなどの熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0051】
本発明における樹脂組成物中は本発明の効果を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂を含むことができる。他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアルキルメタクリレート樹脂などに代表される汎用プラスチックス、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、液晶性ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂(非晶性ポリアリレート、液晶性ポリアリレート)等に代表されるエンジニアリングプラスチックス、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォンなどのいわゆるスーパーエンジニアリングプラスチックスと呼ばれるものを挙げることができる。
【0052】
本発明における樹脂組成物中は本発明の効果を損なわない範囲で、酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤および滑剤(モンタン酸およびその金属塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミド、各種ビスアミド、ビス尿素およびポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p-オキシ安息香酸オクチル、N-ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(赤燐、リン酸エステル、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンエーテル、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)および他の重合体を添加することができる。
【0053】
(成形用材料の製造)
本発明の成形用材料を調製する方法としては、易含浸性炭素繊維束の表面に溶融状態の樹脂成分を被覆する方法、易含浸性炭素繊維束を引き並べた上にTダイなどを使って溶融状態の樹脂成分をキャストし積層する方法、引き並べた易含浸性炭素繊維束にフィルム状樹脂を積層ラミネートする方法、易含浸性炭素繊維束を引きそろえた上に粉末状樹脂成分を吹きつける方法などが挙げられる。連続上に引き並べられた易含浸性炭素繊維束の替わりに、所定の長さに切断された易含浸性繊維束の集合体を同様に用いることも可能である。本発明の成形用材料は、易含浸性炭素繊維束を芯成分、ポリアリーレンスルフィド樹脂およびポリカーボネート樹脂からなる樹脂成分を鞘成分とする芯鞘型構造であることが好ましく、特に、射出成形用のものとしては、易含浸性炭素繊維束の周囲がポリアリーレンスルフィド樹脂およびポリカーボネート樹脂からなる樹脂成分で被覆されたストランドをストランドカッターにて切断するなどして得られるペレットであることがより好ましく、長手方向の長さが3~10mmのペレット(以下、芯鞘型ペレットと称することがある)が更に好ましい。該芯鞘型ペレットの直径に特に制限は無いが、ペレット長さの1/10以上2倍以下であることが好ましく、ペレット長さの1/4以上かつペレット長さと同等以下であることがより好ましい。
【0054】
(成形品について)
本発明の樹脂組成物を用いてなる成形品は、上記の如く製造されたペレットを成形して得ることができる。好適には、射出成形、押出成形により得られる。射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体を注入する方法を含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、多色成形、サンドイッチ成形、および超高速射出成形等を挙げることができる。また成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。また押出成形では、各種異形押出成形品、シート、フィルム等が得られる。シート、フィルムの成形にはインフレーション法や、カレンダー法、キャスティング法等も使用可能である。更に特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。また本発明の樹脂組成物を回転成形やブロー成形等により成形品とすることも可能である。なお、、本発明の樹脂組成物を用いてなる成形品はC成分に由来する炭素繊維が平均繊維長0.3mm以上の長さで分散している成形体であることが好ましい。
【発明の効果】
【0055】
本発明の成形用材料は電磁波遮蔽特性、機械強度および外観に優れた成形用材料であるため電気電子部品、車両部品等の用途に有用であり、その奏する産業上の効果は格別である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
本発明者が現在最良と考える本発明の形態は、前記の各要件の好ましい範囲を集約したものとなるが、例えば、その代表例を下記の実施例中に記載する。もちろん本発明はこれらの形態に限定されるものではない。
【実施例0057】
[樹脂組成物の評価]
(1)外観
下記の方法で得られた平板状試験片の表面外観を観察し、炭素繊維束への樹脂成分の含浸が不十分だったことにより発生する直径3mm以上の繊維状物質の塊が表面に観察されなかったものを〇(良好)、確認されたものを×(不良)とした。
(2)電磁波遮蔽特性
下記の方法で得られた平板状試験片の300MHzにおける磁界遮蔽性能(単位:dB)をKEC(関西電子工業振興センター)法準拠の電磁波シールド性測定装置を用いて測定した。磁界遮蔽性能は70dB以上であることが好ましい。
(3)引張破断強度
下記の方法で得られた試験片を用いて、ISO527(測定条件23℃)に準拠して引張破断強度を測定した。この数値が大きいほど樹脂組成物の機械的強度が優れていることを意味する。
【0058】
[成形体の評価]
(1)成形体中の炭素繊維の平均繊維長
下記の方法で得られた平板状試験片から20mm×10mmの試験片を切り出し、500℃にて4時間有酸素雰囲気下で加熱し樹脂成分を燃焼除去した。残った炭素繊維を界面活性剤入りの水に投入し、超音波振動により十分に攪拌させた。攪拌させた分散液を計量スプーンによりランダムに採取し評価用サンプルを得て、ニレコ社製画像解析装置Luzex APにて、繊維数3000本の長さを計測し、成形体中における炭素繊維の平均繊維長を求めた。
【0059】
[実施例1~7、比較例1-7]
表1に示す割合で混合されたA成分およびB成分からなる混合物を押出機の第1供給口から供給した。かかる混合物はV型ブレンダーで混合して得た。押出は径26mmφのベント式二軸押出機(東芝機械株式会社 TEM-26SS)を使用し、スクリュー回転数200rpm、吐出量20kg/h、ベントの真空度3kPaで溶融混練しペレットを得た。なお、押出温度については、第1供給口を280℃とし第2供給口からダイス部分まで310℃で実施した。次に、易含浸性炭素繊維束を、出口径3mmの電線被覆用クロスヘッドダイを用いて310℃で溶融された上記ペレットからなる樹脂成分で被覆し、これを長さ3mmに切断し、直径2.8mm、長さ3mmの射出成形に適した芯鞘型ペレットである成形用材料を得た。得られたペレットを130℃で6時間、熱風循環式乾燥機にて乾燥した後、射出成形機(東芝機械(株)製 EC160NII-4Y)によりシリンダー温度320℃、金型温度140℃の条件で引張破断強度試験片並びに外観、電磁波遮蔽特性および成形体中の炭素繊維の平均繊維長評価用の150mm×150mm×2mm厚の平板状試験片を成形した。
【0060】
(A成分:ポリアリーレンスルフィド樹脂)
A-1:以下の製造方法で得られたポリフェニレンスルフィド樹脂
[製造方法1]
反応器の内温測定が可能なサーモカップル、窒素充填および真空をかけられる真空ライン付き5L反応器に、パラジヨードベンゼン(p-DIB)5130g、硫黄450g、反応開始剤として1,3-ジヨード-4-ニトロベンゼンメルカプトベンゾチアゾール4gを含む反応物を、180℃に加熱して完全に溶融および混合した後、220℃および350Torrの初期反応条件から始まって、最終反応温度は300℃、圧力は1Torr以下まで段階的に温度上昇および圧力降下を行いながら、重合反応を進行させた。前記重合反応が80%進行した時(重合反応の進行程度は、目標粘度に対する現在粘度の相対割合[(現在粘度/目標粘度)×100(%)]を測定することで判定した。なお、現在粘度は、重合進行中のサンプルを採取して粘度計で測定した。)、重合停止剤として2,2’-ジチオビスベンゾチアゾールを60g添加し、10分間窒素雰囲気下で反応を進行させた後、0.5Torr以下に徐々に真空を加えて目標粘度に到達した後、反応を終了して、フェニル基を主鎖末端に有するポリアリーレンスルフィド樹脂を合成した。反応が完了した樹脂を、小型ストランドカッター機を用いてペレット形態で製造した。重量平均分子量は72,000であった。
【0061】
A-2:以下の製造方法で得られたポリフェニレンスルフィド樹脂
[製造方法2]
反応器の内温測定が可能なサーモカップル、窒素充填および真空をかけられる真空ライン付き5L反応器に、パラジヨードベンゼン(p-DIB)5130g、硫黄450g、反応開始剤として1,3-ジヨード-4-ニトロベンゼン4gを含む反応物を、180℃に加熱して完全に溶融および混合した後、220℃および350Torrの初期反応条件から始まって、最終反応温度は300℃、圧力は1Torr以下まで段階的に温度上昇および圧力降下を行いながら、重合反応を進行させた。前記重合反応が80%進行した時(重合反応の進行程度は、目標粘度に対する現在粘度の相対割合[(現在粘度/目標粘度)×100(%)]を測定することで判定した。なお、現在粘度は、重合進行中のサンプルを採取して粘度計で測定した。)、重合中止剤として2,2’-ジチオビスベンゾチアゾールを25g添加し、1時間反応を進行させた。次に、前記重合反応が90%進行した時、4-Iodobenzoic acid51gを添加し、10分間窒素雰囲気下で反応を進行させた後、0.5Torr以下に徐々に真空を加えて1時間反応を進行させた後、終了して、カルボキシ基を主鎖末端に有するポリアリーレンスルフィド樹脂を合成した。反応が完了した樹脂を、小型ストランドカッター機を用いてペレット形態で製造した。ポリアリーレンスルフィド樹脂をFT-IRで分析して、スペクトル上で、約1600~1800cm-1のカルボキシ基のピークの存在を確認した。また、前記FT-IRスペクトル上で、約1400~1600cm-1で現れるRing stretchピークの高さ強度を100%とした時、前記約1600~1800cm-1のピークの相対的高さ強度は約3.4%であった。また、重量平均分子量は71.000であった。
【0062】
(B成分:ポリカーボネート樹脂)
B-1:芳香族ポリカーボネート樹脂、帝人(株)製 パンライトL-1225WP(製品名)
【0063】
(C成分:易含浸炭素繊維束)
C-1~C-5を以下の方法で製造した。
(C-1の製造方法)
含浸助剤として、脂肪族ヒドロキシカルボン酸系ポリエステルであるポリカプロラクトン(ダイセル化学工業製PLACCEL(登録商標)H1P 分子量10000)90重量%と非イオン性界面活性剤であるポリオキシエチレンラウリルエーテル(三洋化成製 エマルミン NL-90)10重量%を撹拌機のついた溶融タンク内で150℃にて溶融し、ギアポンプにて、スリットダイより、押出し、炭素繊維束としてニッケル被覆炭素繊維(テナックス金属被覆炭素繊維 HTS40 A23 12K 1420TEX MC)の両面に付着させ、冷却ロールで冷却することにより、サンプルを得た。このとき、糸速度は10m/min、スリットダイからの含浸助剤の吐出量は3.4g/minとした。得られたサンプルは、加熱ロールにて熱処理し、炭素繊維束により含浸助剤が均一に付着した易含浸性炭素繊維束とした。この易含浸性炭素繊維束の含浸助剤の含有率は炭素繊維100重量部あたり15.0重量部であった。
【0064】
(C-2の製造方法)
含浸助剤として、脂肪族ヒドロキシカルボン酸系ポリエステルであるポリカプロラクトン(ダイセル化学工業製PLACCEL(登録商標)H1P 分子量10000)を用い、これを不揮発分12重量%のエマルジョン液としたものに、炭素繊維束としてニッケル被覆炭素繊維(テナックス金属被覆炭素繊維 HTS40 A23 12K 1420TEX MC)を通過させた後、ニップロールにて過剰に付着した溶液を取り除き、更にその後、180℃に加熱された熱風乾燥炉内を2分間かけて通過させ、乾燥させた。上記処理により得られた易含浸炭素繊維束を200℃に加熱した直径60mmの2本の金属製ロールに沿わせ、再度の加熱処理を行い、炭素繊維束により含浸助剤が均一に付着した易含浸性炭素繊維束とした。この易含浸性炭素繊維束の含浸助剤の含有率は炭素繊維100重量部あたり3.0重量部であった。
【0065】
(C-3の製造方法)
含浸助剤の含浸工程のスリットダイからの含浸助剤の吐出量を10.8g/minにした以外は、C-1の製造方法と同様に操作を行い、易含浸性炭素繊維束を得た。この易含浸性炭素繊維束の含浸助剤の含有率は炭素繊維100重量部あたり40.0重量部であった。
【0066】
(C-4の製造方法)
含浸助剤の含浸工程のスリットダイからの含浸助剤の吐出量を16.5g/minにした以外は、C-1の製造方法と同様に操作を行い、易含浸性炭素繊維束を得た。この易含浸性炭素繊維束の含浸助剤の含有率は炭素繊維100重量部あたり50.0重量部であった。
C-5:ニッケル被覆炭素繊維(テナックス金属被覆炭素繊維 HTS40 A23 12K 1420TEX MC)
【0067】
【表1】
【0068】
表1から本発明の配合により電磁遮蔽特性、機械物性および外観に優れた成形用材料が得られることが分かる。