(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103607
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】バリ取り工具、およびバリ取り方法
(51)【国際特許分類】
B23C 3/12 20060101AFI20230720BHJP
【FI】
B23C3/12 B
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004223
(22)【出願日】2022-01-14
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】597022425
【氏名又は名称】株式会社ジーベックテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100142619
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100153316
【弁理士】
【氏名又は名称】河口 伸子
(74)【代理人】
【識別番号】100196140
【弁理士】
【氏名又は名称】岩垂 裕司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 康児
【テーマコード(参考)】
3C022
【Fターム(参考)】
3C022DD11
(57)【要約】
【課題】チッピングの発生を抑制できるバリ取り工具を提供すること。
【解決手段】バリ取り工具1の軸部2は、その軸線Lと直交する先端面5、先端面5の外周端から外周側に向かってX2方向に延びる環状の接続面6、接続面6のX2方向の端から軸線Lと平行に延びる環状の外周面7を備える。また、軸部2は、周方向の4か所に、先端面5、接続面6、および外周面7に開口する切欠き部8を備える。各切欠き部8は、内壁面10に、周方向で対向する一対の対向面部分11、12を備える。一対の対向面部分11、12のぞれぞれは、軸線Lを中心とする径方向に広がる。一対の対向面部分11、12の縁は、切刃25である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部を有し、
前記軸部は、軸線と直交する先端面、前記先端面の外周端から外周側に向かって基端側に延びる環状の接続面、前記接続面の前記基端側の端から前記軸線と平行に延びる環状の外周面、および前記軸部の軸線回りの周方向の一部分に設けられて前記先端面、前記接続面、および前記外周面に開口する切欠き部を備え、
前記切欠き部の内壁面は、前記周方向で対向する一対の対向面部分を備え、
各対向面部分は、径方向に延び、
各対向面部分の外周縁は、前記周方向に前記先端面が連続する先端縁部分、前記周方向に前記外周面が連続する外周端縁部分、および前記周方向に前記接続面が連続して前記先端縁部分と前記外周端縁部分とを接続する接続端縁部分と、を有し、
前記先端縁部分、前記外周端縁部分、および前記接続端縁部分は、切刃であることを特徴とするバリ取り工具。
【請求項2】
前記接続端縁部分は、前記先端縁部分の外周側の端から外周側に向かって前記基端側に湾曲して前記外周端縁部分の先端側の端に連続することを特徴とする請求項1に記載のバリ取り工具。
【請求項3】
前記切欠き部の前記内壁面は、前記周方向および前記軸線に沿った軸線方向に延びて一対の前記対向面部分の内周側の端縁を接続する接続面部分を備え、
前記接続面部分の先端縁の内周側に前記先端面が連続することを特徴とする請求項1または2に記載のバリ取り工具。
【請求項4】
前記軸部は、前記切欠き部を等角度間隔で複数備えることを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか一項に記載のバリ取り工具。
【請求項5】
前記軸部は、前記切欠き部を4つ備え、
前記周方向で隣り合う2つの前記切欠き部の間に位置する刃部の前記周方向の幅寸法は、前記軸部の半径の1/3以上であり、
前記切欠き部が前記外周面に開口する外周側開口部の周方向の開口幅は、前記軸部の半径の2/3以上であることを特徴とする請求項4に記載のバリ取り工具。
【請求項6】
前記切欠き部の前記軸線方向の長さ寸法は、前記軸部の半径以上であることを特徴とする請求項1に記載のバリ取り工具。
【請求項7】
前記軸部は、その中心を前記軸線方向に貫通して前記先端面に開口する貫通孔を備えることを特徴とする請求項3に記載のバリ取り工具。
【請求項8】
請求項1から7のうちのいずれか一項に記載のバリ取り工具を、フローティングホルダを介して、工作機械に取り付け、
前記バリ取り工具を前記軸線回りに回転させた状態で前記先端面をワークのバリ除去対象面に接触させて前記バリ除去対象面に沿って移動させて当該バリ除去対象面のバリを取ることを特徴とするバリ取り方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークのバリ除去対象面に先端面を接触させた状態でバリを除去するバリ取り工具に関する。
【背景技術】
【0002】
バリ取り工具は、特許文献1に記載されている。同文献のバリ取り工具は、棒状であり、軸線を囲む外周面と、軸線と垂直な先端面と、先端面の中心を軸線と直交する方向に横断する一定幅の溝と、を備える。溝はバリ取り工具の先端面から基端側に向かって軸線と平行に延びる。バリ取り工具の先端部分は、溝により2つの刃部に分割されている。
【0003】
溝の開口縁は、先端面が連続する先端縁部分と、外周面が連続する外周端縁部分と、を備える。先端縁部分は軸線と垂直であり、外周端縁部分は軸線と平行である。従って、先端縁部分と外周端縁部分とは直角に交わる。先端縁部分および外周端縁部分はバリ取り工具の切刃である。溝の内壁面は、切刃のすくい面である。バリを除去する際には、バリ取り工具を軸線回りに回転させた状態で先端面をワークのバリ除去対象面に接触させ、バリ除去対象面に沿って移動させる。バリ除去対象面の縁に存在するバリは、切刃によって剪断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
はすば歯車の歯部は、ホブ加工や、スカイピング加工により形成される。これらの切削加工では、一般的な切削加工と比較して、大きなバリが発生する。ここで、バリが大きくなると、バリの根本部分の強度が高くなる。従って、はすば歯車に発生したバリを除去する際には、バリ取り工具の切刃に負荷がかる。
【0006】
図12および
図13は、特許文献1のバリ取り工具を用いてバリ取り動作を行う状態を、バリ取り工具の先端面の側から見た場合の説明図である。バリ取り工具100は、軸線Lを囲む外周面101と、軸線Lと垂直な先端面102と、先端面102の中心を横断する一定幅の溝103と、を備える。溝103により軸部101の先端部は2つの刃部104に分割されている。溝の開口縁は、切刃105である。
【0007】
バリ取り工具100が回転しながらバリ110に接触する際には、
図12に示すように、切刃105がバリ110に鋭角に当たる。すなわち、軸部101におけるバリ110との接点を通過する接線と、切刃105のすくい面103aとが成すすくい角θ1は、鋭角となる。また、
図13に示すように、バリ取り工具100では、刃部104がバリ110から離脱する時点で、刃部104がバリ110に鋭角に接触する。すなわち、軸部101におけるバリ110との接点を通過する接線と、バリ110との接点から延びる溝103の内壁面103とがなす角θ2は、鋭角となる。従って、バリ取り工具100を、はすば歯車に発生したバリ110のような強度の高いバリを除去する際に用いると、切刃105や刃部104にチッピングが発生しやすいという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明のバリ取り工具は、軸部を有し、前記軸部は、軸
線と直交する先端面、前記先端面の外周端から外周側に向かって基端側に延びる環状の接続面、前記接続面の前記基端側の端から前記軸線と平行に延びる環状の外周面、および前記軸部の軸線回りの周方向の一部分に設けられて前記先端面、前記接続面、および前記外周面に開口する切欠き部を備え、前記切欠き部の内壁面は、前記周方向で対向する一対の対向面部分を備え、各対向面部分は、径方向に延び、各対向面部分の外周縁は、前記周方向に前記先端面が連続する先端縁部分、前記周方向に前記外周面が連続する外周端縁部分、および前記周方向に前記接続面が連続して前記先端縁部分と前記外周端縁部分とを接続する接続端縁部分と、を有し、前記先端縁部分、前記外周端縁部分、および前記接続端縁部分は、切刃であることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、軸部に設けられた切欠き部は、周方向で対向する一対の対向面部分を備える。各対向面部分の外周縁は、切刃である。バリ取り工具は、軸線回りに回転した状態で、その先端面をワークに接触させてバリ取りを行う。ここで、軸部が所定の方向に回転して一方の対向面部分の外周縁が切刃となってバリを切断する場合には、切刃のすくい面は一方の対向面部分となる。従って、すくい面は径方向に延びる。よって、切刃がバリに接触する際のすくい角は、90°となる。一方、軸部において切刃を備える部分(刃部)がバリから離脱する時点では、他方の対向面部分の外周縁がバリに接触した状態となる。ここで、他方の対向面部分は径方向に延びる。従って、他方の対向面部分の外周縁は、バリに対して、90°の角度をもって接触した状態となる。よって、バリ取り工具を、はすば歯車に発生したバリのような強度の高いバリを除去する際に用いた場合でも、切刃や刃部にチッピングが発生することを防止或いは抑制できる。
【0010】
また、軸部は、先端面と外周面との間に先端面の外周端から外周側に向かって基端側に延びる環状の接続面を備える。従って、各対向面部分の外周縁である切刃において、周方向に接続面が連続する接続端縁部分は、接続面の断面形状の輪郭のとおり、先端面の外周端から外周側に向かって基端側に延びる。これにより、切刃を構成する先端縁部分と外周端縁部分とが直角に交わらないので、バリ取り加工時に軸部がワークのバリ除去対象面に対して垂直ではない状態となった場合でも、軸線回りに回転する切刃の角部がバリ除去対象面を傷付けることを防止或いは抑制できる。
【0011】
本発明において、前記接続端縁部分は、前記先端縁部分の外周側の端から外周側に向かって前記基端側に湾曲して前記外周端縁部分の先端側の端に連続するものとすることができる。
【0012】
本発明において、前記切欠き部の前記内壁面は、前記周方向および前記軸線に沿った軸線方向に延びて一対の前記対向面部分の内周側の端縁を接続する接続面部分を備え、前記接続面部分の先端縁の内周側に前記先端面が連続するものとすることができる。このようにすれば、切欠き部が広がるので、周方向における一対の対向面部分の間の空間に、バリの切削粉を受け入れることができる。また、この空間に受け入れた切削粉は、バリ取り工具の回転によって、軸部の外周側に排出される。よって、切刃がバリを剪断する際に切削粉が邪魔になることを防止或いは抑制しやすい。
【0013】
本発明において、前記軸部は、前記切欠き部を等角度間隔で複数備えるものとすることができる。このようにすれば、複数の切刃を周方向に等角度間隔で備えることができるので、軸部が1回転する間に、切刃をバリに複数回接触させることができる。
【0014】
本発明において、前記軸部は、前記切欠き部を4つ備え、前記周方向で隣り合う2つの前記切欠き部の間に位置する刃部の前記周方向の幅寸法は、前記軸部の半径の1/3以上であり、前記切欠き部が前記外周面に開口する外周側開口部の周方向の開口幅は、前記軸部の半径の2/3以上であるものとすることができる。このようにすれば、切欠き部を4
つ設けたときに、刃部の周方向の幅寸法を確保することが容易となるので、刃部の強度を高めることができる。従って、刃部のチッピングを防止或いは抑制できる。また、このようにすれば、切欠き部の外周側開口部の開口幅を確保することが容易となる。ここで、切欠き部の外周側開口部の開口幅を確保すれば、バリ取り工具をバリ除去対象面に沿った方向に移動させる際などに、軸部を移動させる送り速度を上昇させることが可能となる。
【0015】
本発明において、前記切欠き部の前記軸線方向の長さ寸法は、前記軸部の半径以上とすることができる。このようにすれば、切欠き部の軸線方向の長さを確保できる。従って、切刃の切削力が低下した場合などに、軸部の先端を削って新たな先端面を形成できる。また、新たな先端面と軸部の外周面と角部を削って環状の接続面を形成することができる。これにより、軸部に新たな切刃を設けることができる。
【0016】
本発明において、前記軸部は、その中心を前記軸線方向に貫通して前記先端面に開口する貫通孔を備えるものとすることができる。このようにすれば、貫通孔を介して、軸部の基端側から先端面の側に、クーラントや、エアーを、供給できる。
【0017】
次に、本発明のバリ取り方法は、上記のバリ取り工具を、フローティングホルダを介して、工作機械に取り付け、前記バリ取り工具を前記軸線回りに回転させた状態で前記先端面をワークのバリ除去対象面に接触させて前記バリ除去対象面に沿って移動させて当該バリ除去対象面のバリを取ることを特徴とする。
【0018】
バリ取り工具を、フローティングホルダを介して、工作機械に取り付けてバリ取り加工を行えば、ワークのバリ除去対象面に存在するバリの硬度が高く、切刃によってバリを剪断できない場合には、バリの側から刃部に働く力によって軸部が軸線方向に後退する。従って、バリ取り加工中に、切刃や刃部にチッピングが発生することを防止或いは抑制できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のバリ取り工具、およびバリ取り方法によれば、バリ取り加工中に切刃や刃部にチッピングが発生することを防止或いは抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図5】切刃がバリに接触する時点のすくい角の説明図である。
【
図7】バリ取り加工時に切刃にかかる負荷のベクトルの方向の説明図である。
【
図10】変形例2のバリ取り工具を先端側から見た平面図である。
【
図12】従来のバリ取り工具において切刃がバリに接触する際の説明図である。
【
図13】従来のバリ取り工具において刃部がバリから離脱する際の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態であるバリ取り工具およびバリ取り方法を説明する。
【0022】
図1は、バリ取り工具の斜視図である。
図2は、バリ取り工具を先端側から見た場合の平面図である。
図1に示すように、本例のバリ取り工具1は、軸部2を有する。軸部2は、超硬合金、または高速度工具鋼(ハイス)からなる。以下の説明では、軸部2の軸線Lに沿った方向を軸線方向Xとし、軸線方向Xにおける軸部2の先端側をX1方向、軸線方向X方向におけるX1方向とは反対側をX2方向とする。X2方向は、軸部2の基端側である。
【0023】
軸部2は、その軸線Lと直交する先端面5、先端面5の外周端から外周側に向かってX2方向に延びる環状の接続面6、接続面6のX2方向の端から軸線Lと平行に延びる環状の外周面7を備える。また、軸部2は、軸部2の軸線L回りの周方向の4か所に、先端面5、接続面6、および外周面7に開口する4つの切欠き部8を備える。4つの切欠き部8のそれぞれは、軸線L回りで等角度間隔に設けられている。
【0024】
図2に示すように、各切欠き部8は、内壁面10に、周方向で対向する一対の対向面部分11、12と、周方向に延びて一対の対向面部分11、12の内周側の端縁を接続する接続面部分13と、を備える。一対の対向面部分11、12のぞれぞれは、軸線Lを中心とする径方向に広がる。接続面部分13は、周方向の中央部分が両端と比較して外周側に位置する円弧の湾曲面である。一対の対向面部分11、12のぞれぞれと接続面部分13とが交わる角部にはそれぞれアールが設けられている。なお、接続面部分13は、一対の対向面部分11、12の間を周方向に直線状に延びる平面でもよい。
【0025】
図1に示すように、各対向面部分11、12の外周縁は、周方向に先端面5が連続する先端縁部分21、周方向に外周面7が連続する外周端縁部分22、および周方向に接続面6が連続する接続端縁部分23、を有する。接続端縁部分23は、先端縁部分21と外周端縁部分22とを接続する。接続端縁部分23は、接続面6の断面形状の輪郭のとおり、先端縁部分21の外周側の端から外周側に向かってX2方向に湾曲して外周端縁部分22のX1方向の端に連続する円弧である。
【0026】
各対向面部分11、12の先端縁部分21、外周端縁部分22、および接続端縁部分23は、バリ取り工具1の切刃25である。対向面部分11は、対向面部分11の外周縁にある切刃25のすくい面である。対向面部分12は、対向面部分12の外周縁にある切刃25のすくい面である。ここで、各すくい面(各対向面部分11、12)は、それぞれ径方向および軸線Lと平行に延びる。従って、各切刃25のすくい角は90°である。
【0027】
図2に示すように、軸部2が周方向の4か所に切欠き部8を備える本例のバリ取り工具1においては、切欠き部8が外周面7に開口する外周側開口部7aの周方向の開口幅Mは、軸部2の半径Rの2/3以上であることが望ましい。
図1に示すように、切欠き部8の軸線方向Xの長さ寸法Nは、軸部2の半径R以上であることが望ましい。切欠き部8におけるX2方向の端部分は、径方向の深さがX2方向に向かって浅くなる。周方向で隣り合う2つ切欠き部8の間は、周方向の一方面の外周縁および他方面の外周縁に切刃25を備える刃部26である。本例では、軸部2に4つの刃部26を備える。
図2に示すように、各刃部26の外周面7の周方向の幅寸法O、すなわち、刃部26の外周面7に沿った周方向の寸法は、軸部2の半径Rの1/3以上であることが望ましい。
【0028】
ここで、先端面5は、各切欠き部8の内周側、および各刃部26における接続面6の内周側に存在する。先端面5は、軸線Lと同軸の円形部分と、円形部分から径方向外側に放射状に突出する4つの突出部分と、を備える。
【0029】
また、軸部2は、
図1に示すように、切欠き部8のX2方向に、外周面を部分的にカットしたカット部9を備える。カット部9は、軸線と平行な平面9aを備える。本例では、
軸部2には、2つのカット部9が設けられている。一方のカット部9の平面9aと、他方のカット部9の平面とは、垂直である。
【0030】
(研磨方法)
図3は、バリ取り工具1によるバリ取り方法の説明図である。
図4は、バリ取り工具1によるバリ取り方法のフローチャートである。
図3、
図4に示すように、ワークのバリ取りを行う際には、バリ取り工具1を、フローティングホルダ50を介して、工作機械51のスピンドルに取り付ける(ステップST1)。しかる後に、バリ取り工具1を軸線L回りに回転させた状態で先端面5をワーク53のバリ除去対象面54に接触させ、バリ除去対象面54に沿って移動させる(ステップST2)。これにより、バリ取り工具1は、バリ除去対象面54の縁に存在するバリ55を剪断する。バリ取り工具1の回転方向は、時計回りでもよく、反時計回りでもよい。
【0031】
ここで、フローティングホルダ50は、一般的なものである。フローティングホルダ50は、バリ取り工具1を、前進位置と、前進位置よりもX2方向の後退位置との間で軸線方向に進退可能に保持する。また、フローティングホルダ50は、バリ取り工具1を、所定の付勢力で、前進位置に付勢する。
【0032】
(作用効果)
図5は、バリ取り動作において、切刃25がバリ55に接触する時点の状態を示す説明図である。
図6は、バリ取り動作において、刃部26がバリ55から離脱する時点の状態を示す説明図である。
図7は、バリ取り動作において、切刃25および刃部26がバリ55の側から受ける力の方向の説明図である。
図7では、軸部2における切刃25の周辺を拡大して示す。
【0033】
図5、
図6、
図7に示す例では、一方の対向面部分11の外周縁がバリ55を剪断する切刃25となっている。切刃25がバリ55を剪断する場合には、軸部2は所定の方向D1に回転しながらバリ55に接近するE方向に移動する。切刃25のすくい面は一方の対向面部分11となる。ここで、本例のバリ取り工具1は、すくい面(一方の対向面部分11)が径方向に延びる。従って、
図5に示すように、切刃25がバリ55に接触する時点で、バリ55との接点を通過する軸部2の接線と、切刃25のすくい面とが成すすくい角θ1は、90°となる。すなわち、切刃25がバリ55に接触する時点で、切刃25のすくい角θ1は、鋭角にならない。
【0034】
また、本例のバリ取り工具1は、
図6に示すように、所定の方向D1に回転する軸部2の刃部26がバリ55から離脱する時点では、他方の対向面部分12の外周縁がバリ55に接触した状態となる。ここで、他方の対向面部分12は径方向に延びる。従って、
図6に示すように、刃部26がバリ55から離脱する時点で、バリ55との接点を通過する軸部2の接線と、他方の対向面部分12とが成す角θ2は、90°となる。すなわち、刃部26がバリ55から離脱する時点で、刃部26がバリ55に接触している角度は、鋭角にならない。よって、バリ取り工具1を、はすば歯車に発生したバリのような強度の高いバリを除去する際に用いた場合でも、切刃25や刃部26にチッピングが発生することを防止或いは抑制できる。
【0035】
また、バリ除去対象面54の縁から起立するバリ55は、バリ除去対象面54に連続するバリ55の根元部分55aの剛性が、バリ55の先端部分55bと比較して、高い。従って、強度の高いバリ55を除去する際には、切刃25においてバリ55の根元部分を剪断する部分に負荷がかかりやすく、この部分にチッピングが発生しやすいという問題がある。
【0036】
かかる問題に対して、本例では、
図3に示すように、バリ取り工具1は、フローティングホルダ50を介して、工作機械51に取り付けられる。また、軸部2は、先端面5と外周面7との間に先端面5の外周端から外周側に向かって基端側に延びる環状の接続面6を備える。これにより、各対向面部分11、12の外周縁である切刃25において、周方向に接続面6が連続する接続端縁部分23は、接続面6の断面形状のとおり、先端面5の外周端から外周側に向かって基端側に延びる。本例では、接続端縁部分23は、先端縁部分21の外周側の端から外周側に向かって基端側に湾曲して外周端縁部分22の先端側の端に連続する円弧である。従って、
図7に示すように、切刃25がバリ55の根本部分55aを剪断する際に、バリ55の根本部分55aの側から切刃25に負荷がかかった場合には、その負荷のベクトルFがX2方向を向く。これにより、フローティングホルダ50にはX2方向の力がかかるので、フローティングホルダ50が機能して、バリ取り工具1はバリ除去対象面54からX2方向に後退する。よって、切刃25にチッピングが発生することを防止或いは抑制できる。
【0037】
また、本例では、切刃25は、先端縁部分21と外周端縁部分22との間に、先端縁部分21の外周側の端から外周側に向かって基端側に湾曲して外周端縁部分22の先端側の端に連続する接続端縁部分23を備える。これにより、切刃25を構成する先端縁部分21と外周端縁部分22とが直角に交わらないので、バリ取り加工時に軸部2がワーク53のバリ除去対象面54に対して垂直ではない状態となった場合でも、軸線L回りに回転する切刃25の角部がバリ除去対象面54を傷付けることを防止或いは抑制できる。
【0038】
さらに、本例では、切欠き部8の内壁面10は、周方向および軸線方向Xに延びて一対の対向面部分11、12の内周側の端縁を接続する接続面部分13を備える。接続面部分13の先端縁の内周側には、先端面5が連続する。このようにすれば、周方向における一対の対向面部分11、12の間の空間に、バリの切削粉を受け入れることが容易となる。また、この空間に収容された切削粉は、バリ取り工具1の回転によって、軸部2の外周側に排出される。切刃25がバリ55を剪断する際に切削粉が邪魔になることを防止或いは抑制しやすい。
【0039】
本例において、軸部2は、切欠き部8を等角度間隔で複数備える。これにより、複数の切刃25を周方向に等角度間隔で備えることができるので、軸部2が1回転する間に、切刃25をバリに複数回接触させることができる。
【0040】
また、本例では、軸部2は、切欠き部8を4つ備える。周方向で隣り合う2つの切欠き部8の間に位置する刃部26の周方向の幅寸法Oは、軸部2の半径Rの1/3以上である。このようにすれば、本例のバリ取り工具1のように、軸部2に切欠き部8を4つ設けたときに、刃部26の周方向の幅寸法Oを確保することが容易となる。従って、刃部26のチッピングを防止或いは抑制できる。
【0041】
さらに、本例では、軸部2が4つの切欠き部8を備える場合において、切欠き部8が外周面7に開口する外周側開口部7aの周方向の開口幅Mは、軸部2の半径Rの2/3以上である。このようにすれば、切欠き部8の外周側開口部7aの開口幅Mを確保することが容易となる。ここで、切欠き部8の外周側開口部7aの開口幅Mを確保すれば、バリの切削粉を排除しやすくなる。また、バリ取り工具1をバリ除去対象面54に沿った方向に移動させる際に、軸部2を移動させる送り速度を上昇させることが可能となる。
【0042】
本例において、切欠き部8の軸線方向の長さ寸法Nは、軸部2の半径Eの2倍以上である。これにより、切欠き部8の軸線方向の長さを確保できる。従って、切刃25の切削力が低下した場合などに、軸部2を軸線方向における切欠き部8の途中で軸線Lと直交する方向に切断して切断面をバリ取り工具1の新たな先端面5とし、かつ、新たな先端面5と
外周面7との間の角部を削って、新たな先端面5と外周面7との間に先端面5の外周端から外周側に向かって基端側に延びる環状の接続面6を形成すれば、軸部2に新しい切刃25を設けることができる。
【0043】
なお、各切欠き部8の開口幅M、および刃部26の周方向の幅は、上記の例から変更してもよい。また、切欠き部8の数は、1つ、2つ、または3つでもよく、5つ以上でもよい。
【0044】
(変形例)
図8は、変形例1のバリ取り工具1Aの説明図である。変形例1のバリ取り工具1Aでは、軸部2は、その中心を軸線方向に貫通して先端面5に開口する貫通孔30を備える。従って、先端面5は、円形部分の中央に、貫通孔30の開口を備える。バリ取り工具1Aの他の構成は、上記のバリ取り工具1と同一である。貫通孔30は、軸部2の先端側にクーラントや、エアーを供給するための供給孔である。
【0045】
図9は、変形例2のバリ取り工具の斜視図である。
図10は、変形例2のバリ取り工具を軸線方向Xの先端側から見た場合の平面図である。変形例2のバリ取り工具1Bは、切欠き部8の形状が上記のバリ取り工具1とは相違する。なお、バリ取り工具1Bは、バリ取り工具1と対応する構成を備えるので、対応する構成には同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0046】
バリ取り工具1Bでは、軸部2は、周方向で等角度間隔に4つの切欠き部8を備える。
図9に示すように、各切欠き部8の内壁面10は、一対の対向面部分11、12を備える。一対の対向面部分11、12のぞれぞれは、軸線Lを中心とする径方向に広がる。
図10に示すように、各対向面部分11、12の内周端は、軸部2の中心において鋭角に交わる。各対向面部分11、12の外周縁は、周方向に先端面5が連続する先端縁部分21、周方向に外周面7が連続する外周端縁部分22、および周方向に接続面6が連続する接続端縁部分23と、を有する。接続端縁部分23は、先端縁部分21の外周側の端から外周側に向かってX2方向に湾曲して外周端縁部分22のX1方向の端に連続する円弧である。
【0047】
各対向面部分11、12の先端縁部分21、外周端縁部分22、および接続端縁部分23は、切刃25である。対向面部分11は、対向面部分11の外周縁の切刃25のすくい面である。対向面部分12は、対向面部分12の外周縁の切刃25のすくい面である。ここで、各対向面部分11、12は、それぞれ径方向および軸線Lと平行に延びる。従って、各切刃25のすくい角は90°である。また、刃部26がバリ55から離脱する時点で、バリ55との接点を通過する軸部2の接線と、対向面部分11、12とが成す角θ2は、90°である。
【0048】
切欠き部8は、軸部2の中心から外周側に向かってX2方向に深くなる。周方向で隣り合う2つ切欠き部8の間は、周方向の一方面の外周縁および他方面の外周縁に切刃25を備える刃部26である。先端面5は、各刃部26における接続面6の内周側に存在する。先端面5は、放射状に配置された4つの扇型形状部分からなる。
【0049】
本例のバリ取り工具1を用いてバリ取りを行う際にも、バリ取り工具1は、フローティングホルダ50を介して工作機械51に接続される。本例のバリ取り工具1を用いた場合でも、切刃25および刃部26のチッピングを抑制できる。
【0050】
(変形例)
図11は、変形例3のバリ取り工具の説明図である。
図11は、変形例3のバリ取り工
具がバリ除去対象面54に沿って移動し、切刃25によりバリ55の根本部分55aを剪断する状態を示す。
図11に示すように、変形例3のバリ取り工具1Cは、軸部2の先端部分で先端面5と外周面7とを接続する接続面6の形状がバリ取り工具1と相違する。なお、接続面6を除くバリ取り工具1Cの他の構成は、バリ取り工具1と同一なので、接続面6を説明し、他の構成の説明は省略する。
【0051】
本例では、接続面6は、先端面5の外周縁から外周側に向かってX2方向に湾曲する環状の湾曲面部分41と、湾曲面部分41の外周側の端縁から外周側に向かってX2方向に傾斜する環状のテーパー面部分42と、を備える。テーパー面部分42の外周側の端縁は、外周面7に連続する。従って、切刃25において、先端縁部分21と外周端縁部分22とを接続する接続端縁部分23は、接続面66の断面形状の輪郭のとおり、先端縁部分21の外周側の端から外周側に向かってX2方向に湾曲する湾曲部分45と、湾曲部分45の外周側の縁から外周側に向かってX2方向に傾斜する傾斜部分46と、を備える。傾斜部分46の外周側の端は、外周端縁部分22に連続する。
【0052】
変形例3のバリ取り工具1Cにおいても、切刃25がバリ55の根本部分55aを剪断する際にバリ55の根本部分55aの側から切刃25に負荷がかかった場合には、その負荷のベクトルF1がX2方向を向く。これにより、フローティングホルダ50にはX2方向の力がかかるので、フローティングホルダ50が機能して、バリ取り工具1はバリ除去対象面54からX2方向に後退する。よって、切刃25にチッピングが発生することを防止或いは抑制できる。
【0053】
また、切刃25を構成する先端縁部分21と外周端縁部分22とが直角に交わらないので、バリ取り加工時に軸部2がワーク53のバリ除去対象面54に対して垂直ではない状態となった場合でも、軸線L回りに回転する切刃25の角部がバリ除去対象面54を傷付けることを防止或いは抑制できる。
【0054】
なお、接続面66は、外周面77に向かって外周側に広がるテーパー面とすることもできる。すなわち、変形例3のバリ取り工具1Cにおいて、接続面6が湾曲面部分41を備えず、テーパー面部分42のみを備えるものとする。この場合には、切刃25において、先端縁部分21と外周端縁部分22とを接続する接続端縁部分23は、接続面66の断面形状の輪郭のとおり、先端縁部分21の外周側の端から外周側に向かってX2方向に傾斜して外周端縁部分22に接続される。このようにしても、切刃25がバリ55の根本部分55aを剪断する際に、バリ55の根本部分55aの側から切刃25に負荷がかかった場合には、その負荷のベクトルがX2方向を向く。従って、バリ55の根本部分55aの側から切刃25に負荷がかかった場合には、フローティングホルダ50が機能して、バリ取り工具1はバリ除去対象面54からX2方向に後退する。よって、切刃25にチッピングが発生することを防止或いは抑制できる。また、切刃25を構成する先端縁部分21と外周端縁部分22とが直角に交わらないので、バリ取り加工時に軸部2がワーク53のバリ除去対象面54に対して垂直ではない状態となった場合でも、軸線L回りに回転する切刃25の角部がバリ除去対象面54を傷付けることを防止或いは抑制できる
【符号の説明】
【0055】
1・1A~1C…バリ取り工具、2…軸部、5…先端面、6…接続面、7…外周面、7a…外周側開口部、8…切欠き部、9…カット部、10…内壁面、11…一方の対向面部分、12…他方の対向面部分、13…接続面部分、21…先端縁部分、22…外周端縁部分、23…接続端縁部分、25…切刃、26…刃部、30…貫通孔、41…湾曲面部分、42…テーパー面部分、45…湾曲部分、46…傾斜部分、50…フローティングホルダ
51…工作機械、53…ワーク、54…バリ除去対象面、55…バリ、M…外周側開口部の開口幅、N…切欠き部の軸線方向の長さ寸法、O…刃部の幅寸法、R…軸部の半径