IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社奥村組の特許一覧

<>
  • 特開-削孔システム 図1
  • 特開-削孔システム 図2
  • 特開-削孔システム 図3
  • 特開-削孔システム 図4
  • 特開-削孔システム 図5
  • 特開-削孔システム 図6
  • 特開-削孔システム 図7
  • 特開-削孔システム 図8
  • 特開-削孔システム 図9
  • 特開-削孔システム 図10
  • 特開-削孔システム 図11
  • 特開-削孔システム 図12
  • 特開-削孔システム 図13
  • 特開-削孔システム 図14
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103612
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】削孔システム
(51)【国際特許分類】
   B28D 1/14 20060101AFI20230720BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20230720BHJP
   B28D 7/02 20060101ALI20230720BHJP
   E04G 23/02 20060101ALN20230720BHJP
【FI】
B28D1/14
E01D22/00 B
B28D7/02
E04G23/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004231
(22)【出願日】2022-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】100101971
【弁理士】
【氏名又は名称】大畑 敏朗
(72)【発明者】
【氏名】三澤 孝史
(72)【発明者】
【氏名】山口 治
(72)【発明者】
【氏名】石井 敏之
(72)【発明者】
【氏名】有川 健
(72)【発明者】
【氏名】日浦 光一
【テーマコード(参考)】
2D059
2E176
3C069
【Fターム(参考)】
2D059AA03
2D059AA14
2D059GG40
2E176AA01
2E176BB21
2E176BB29
3C069AA04
3C069BA09
3C069BB01
3C069BC01
3C069BC06
3C069CA07
3C069DA07
3C069EA01
(57)【要約】
【課題】削孔装置を自動的に削孔対象である構造物に沿って移動可能にする。
【解決手段】構造物Sを削孔するハンマドリル1を備えた削孔装置A1と、削孔装置A1の構造物Sに沿った移動を案内する案内手段A2からなる。削孔装置A1は、ハンマドリル1が搭載された昇降テーブル14を備えた昇降用マスト12と、昇降用マスト12が搭載され、ピニオンギア27が出力軸28aに取り付けられたギヤードモータ28が設置されたシャーシ20と、シャーシ20に取り付けられ、削孔装置A1を移動可能に支持する複数のキャスタ26とを備える。案内手段A2は、構造物Sに沿って敷設されたガイドレール33と、ガイドレール33に沿って取り付けられ、ピニオンギア27と噛み合うラックギア34とを備える。削孔装置A1が、ギヤードモータ28によりガイドレール33に案内されながら、キャスタ26の回転で構造物Sに沿って移動する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
削孔対象である構造物に対して進退移動可能に設けられた削孔機を備えた削孔装置、および当該削孔装置の前記構造物に沿った移動を案内する案内手段を有する削孔システムであって、
前記削孔装置は、
前記削孔機が搭載されて昇降用モータで昇降する昇降部材が取り付けられた昇降用柱と、
前記昇降用柱が搭載されるとともに、ピニオンギアが出力軸に取り付けられた走行用モータが設置されたシャーシと、
前記シャーシに取り付けられ、前記削孔装置を移動可能に支持する複数のキャスタとを備えており、
前記案内手段は、
前記構造物に沿って敷設されたガイドレールと、
前記ガイドレールの延伸方向に沿って取り付けられ、前記ピニオンギアと噛み合うラックギアとを備えており、
前記削孔装置が、前記走行用モータにより前記ピニオンギアおよび前記ラックギアを介して前記ガイドレールに案内されながら、前記キャスタの回転で前記構造物に沿って移動する、
ことを特徴とする削孔システム。
【請求項2】
前記削孔装置の移動量を検出する検出手段をさらに有する、
ことを特徴とする請求項1記載の削孔システム。
【請求項3】
前記検出手段に基づいて前記削孔装置が予め設定された移動位置となるように前記走行モータの回転を制御する制御手段をさらに有する、
ことを特徴とする請求項2記載の削孔システム。
【請求項4】
前記走行用モータには、動力源であるモータとしてサーボモータが用いられ、
前記検出手段は、前記削孔装置の移動に伴って回転するロータリエンコーダ、および前記削孔装置の移動距離を計測する距離計の少なくとも何れかである、
ことを特徴とする請求項2または3記載の削孔システム。
【請求項5】
前記走行用モータには、動力源であるモータとしてステッピングモータが用いられ、
前記検出手段は、前記走行用モータに入力されるパルス信号を生成するコントローラ、および前記削孔装置の移動距離を計測する距離計の少なくとも何れかである、
ことを特徴とする請求項2または3記載の削孔システム。
【請求項6】
前記走行用モータは、動力源であるモータと減速機とが一体化され、前記モータの回転を前記減速機により減速して回転力を前記出力軸に伝達するギヤードモータである、
ことを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載の削孔システム。
【請求項7】
前記シャーシには、前記ラックギアと前記ピニオンギアとが噛み合った状態を保持する保持部材が取り付けられている、
ことを特徴とする請求項1~6の何れか一項に記載の削孔システム。
【請求項8】
前記ガイドレールは、相互に平行に配置された2本のレールで構成され、
前記保持部材は、2本の前記レールの間に配置され、前記削孔装置の移動に伴ってそれぞれの前記レールに接触して回転する一対の保持ローラである、
ことを特徴とする請求項7記載の削孔システム。
【請求項9】
前記ラックギアは、前記ガイドレールの側部に沿って取り付けられ、
前記ピニオンギアは、下方に突出した前記走行用モータの前記出力軸に取り付けられている、
ことを特徴とする請求項1~8の何れか一項に記載の削孔システム。
【請求項10】
前記削孔機に設けられた電源スイッチを空圧で操作する操作部材を駆動するとともに前記削孔機を進退移動させるエアシリンダを駆動するエアコンプレッサと、
前記削孔機による削孔で発生した粉塵を吸引する集塵機と、
前記制御手段の搭載された制御盤が収納された筐体部とをさらに有する、
ことを特徴とする請求項3記載の削孔システム。
【請求項11】
前記エアコンプレッサ、前記集塵機および前記筐体部は前記シャーシとは別体の台車に搭載され、連結部材を介して前記シャーシと連結されて当該シャーシに牽引される、
ことを特徴とする請求項10記載の削孔システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート製の構造物を削孔する削孔装置を備えた削孔システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリート製の躯体で構成された道路、橋梁、ダム、堤防などの既設の構造物では、耐力の維持や補強を目的として、躯体の側面や上下面に対し、配筋を行ってさらにコンクリートを打設する工法、すなわち増し打ち工法が行われている。
【0003】
増し打ち工法では、構造物に所定間隔で削孔してあと施工アンカー(せん断補強筋)を埋め込んで定着材を充填し、当該あと施工アンカーと連結するようにして増し打ちを行う領域に鉄筋を配置する。その後、型枠を取り付けてコンクリートを打設している。
【0004】
なお、コンクリートの増し打ちをして既設の構造物を補強する技術については、例えば特許文献1(特開2018-131848号公報)が知られている。
【0005】
ここで、増し打ち工法では、あと施工アンカーを埋め込むために既設の構造物を削孔する削孔機が用いられる。具体的な削孔機としては、回転しながら打撃を加えて削孔するハンマドリルや、細かく振動しながら回転して削孔する振動ドリルなどが知られている。
【0006】
そして、削孔作業において、現場の作業者は、重量物である削孔機のハンドルおよびサイドハンドルを両手でしっかりと保持した上で、ハンドルに配置されたトリガを指で引いて電源を入れ、削孔位置にビットの先端を当てて掘り進める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-131848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
増し打ち工法では、多数のあと施工アンカーを埋め込むために、構造物に何千、何万という孔を開けなければならない。すると、削孔機を用いた人力での作業は重労働となり、結果として作業効率が悪化することになる。そのため、穿孔作業の機械化、自動化が期待されていた。
【0009】
そこで、作業者の負担を軽減しつつコンクリート製の構造物を削孔することのできる装置として、前述した削孔機を昇降可能且つ進退可能に設置した削孔装置を構成し、設置された削孔機でコンクリートに連続削孔を行うようにすることが考えられる。
【0010】
ここで、削孔装置で削孔する場合は、削孔対象である構造物に沿って削孔装置を移動させる必要がある。そのためには、削孔装置にキャスタを取り付けておき、所定位置での削孔が終了したならば、人力で削孔装置を構造物に沿って次の削孔位置に移動させる構造を採用することが考えられる。
【0011】
しかしながら、このような構造では、削孔装置を移動させて次の削孔位置にセットするために時間を要することになり、より効率的な削孔を行うという要請を満たすことはできない。
【0012】
本発明は、上述の技術的背景からなされたものであって、削孔装置を自動的に削孔対象である構造物に沿って移動させることのできる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の本発明の削孔システムは、削孔対象である構造物に対して進退移動可能に設けられた削孔機を備えた削孔装置、および当該削孔装置の前記構造物に沿った移動を案内する案内手段を有する削孔システムであって、前記削孔装置は、前記削孔機が搭載されて昇降用モータで昇降する昇降部材が取り付けられた昇降用柱と、前記昇降用柱が搭載されるとともに、ピニオンギアが出力軸に取り付けられた走行用モータが設置されたシャーシと、前記シャーシに取り付けられ、前記削孔装置を移動可能に支持する複数のキャスタとを備えており、前記案内手段は、前記構造物に沿って敷設されたガイドレールと、前記ガイドレールの延伸方向に沿って取り付けられ、前記ピニオンギアと噛み合うラックギアとを備えており、前記削孔装置が、前記走行用モータにより前記ピニオンギアおよび前記ラックギアを介して前記ガイドレールに案内されながら、前記キャスタの回転で前記構造物に沿って移動する、ことを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の本発明の削孔システムは、上記請求項1記載の発明において、前記削孔装置の移動量を検出する検出手段をさらに有する、ことを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の本発明の削孔システムは、上記請求項2記載の発明において、前記検出手段に基づいて前記削孔装置が予め設定された移動位置となるように前記走行モータの回転を制御する制御手段をさらに有する、ことを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載の本発明の削孔システムは、上記請求項2または3記載の発明において、前記走行用モータには、動力源であるモータとしてサーボモータが用いられ、前記検出手段は、前記削孔装置の移動に伴って回転するロータリエンコーダ、および前記削孔装置の移動距離を計測する距離計の少なくとも何れかである、ことを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載の本発明の削孔システムは、上記請求項2または3記載の発明において、前記走行用モータには、動力源であるモータとしてステッピングモータが用いられ、前記検出手段は、前記走行用モータに入力されるパルス信号を生成するコントローラ、および前記削孔装置の移動距離を計測する距離計の少なくとも何れかである、ことを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載の本発明の削孔システムは、上記請求項1~5の何れか一項に記載の発明において、前記走行用モータは、動力源であるモータと減速機とが一体化され、前記モータの回転を前記減速機により減速して回転力を前記出力軸に伝達するギヤードモータである、ことを特徴とする。
【0019】
請求項7に記載の本発明の削孔システムは、上記請求項1~6の何れか一項に記載の発明において、前記シャーシには、前記ラックギアと前記ピニオンギアとが噛み合った状態を保持する保持部材が取り付けられている、ことを特徴とする。
【0020】
請求項8に記載の本発明の削孔システムは、上記請求項7記載の発明において、前記ガイドレールは、相互に平行に配置された2本のレールで構成され、前記保持部材は、2本の前記レールの間に配置され、前記削孔装置の移動に伴ってそれぞれの前記レールに接触して回転する一対の保持ローラである、ことを特徴とする。
【0021】
請求項9に記載の本発明の削孔システムは、上記請求項1~8の何れか一項に記載の発明において、前記ラックギアは、前記ガイドレールの側部に沿って取り付けられ、前記ピニオンギアは、下方に突出した前記走行用モータの前記出力軸に取り付けられている、ことを特徴とする。
【0022】
請求項10に記載の本発明の削孔システムは、上記請求項3記載の発明において、前記削孔機に設けられた電源スイッチを空圧で操作する操作部材を駆動するとともに前記削孔機を進退移動させるエアシリンダを駆動するエアコンプレッサと、前記削孔機による削孔で発生した粉塵を吸引する集塵機と、前記制御手段の搭載された制御盤が収納された筐体部とをさらに有する、ことを特徴とする。
【0023】
請求項11に記載の本発明の削孔システムは、上記請求項10記載の発明において、前記エアコンプレッサ、前記集塵機および前記筐体部は前記シャーシとは別体の台車に搭載され、連結部材を介して前記シャーシと連結されて当該シャーシに牽引される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、削孔装置が、走行用モータの出力軸に取り付けられたピニオンギアがガイドレールに取り付けられたラックギアに噛み合っており、走行用モータが回転することによってピニオンギアおよびラックギアを介してガイドレールに案内されながら、キャスタの回転で構造物に沿って移動するようになっている。したがって、削孔装置を自動的に削孔対象である構造物に沿って移動させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施の形態に係る削孔システムで削孔された孔にせん断補強鉄筋を挿入して耐震補強されたコンクリート製の構造物の一部を示す説明図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る削孔システムの側面図である。
図3図2の削孔システムを構成する削孔装置のシャーシとガイドレールとを示す平面図である。
図4図2の削孔システムを構成する削孔装置の要部とガイドレールとを示す図である。
図5図2の削孔システムを構成する削孔装置の要部とガイドレールとを図4から水平方向に90度異なった方向から示す図である。
図6図2の削孔システムを構成する削孔装置に取り付けられたロータリエンコーダとガイドレールとを示す側面図である。
図7図2の削孔システムを構成する削孔装置に取り付けられたロータリエンコーダとガイドレールとを図6から水平方向に90度異なった方向から示す図である。
図8図2の削孔システムを構成するガイドレールを示す平面図である。
図9図8のガイドレールの端部を拡大して示す平面図である。
図10図8のガイドレールを端部から水平方向に見た図である。
図11図2の削孔システムを示す背面図である。
図12】本発明の変形例に係る削孔システムの削孔装置を構成する削孔部を示す側面図である。
図13図12の削孔装置の背面図である。
図14図12の削孔装置を構成する削孔支援部を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一例としての実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための図面において、同一の構成要素には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0027】
本実施の形態の削孔システムA(図2等)は、例えば図1に示すような地盤Gに接する既設のコンクリート製の構造物Sや、鉄道や道路等の建造物に近接する地上に構築された既設のコンクリート製の構造物(道路、橋梁、ダム、堤防など)などに対して、補強工事の一工程として片側面からアンカー孔(あと施工アンカーを埋め込むための孔)などの孔Hを開けるために用いられる。開けた孔Hの内部に定着材Mを充填した後、せん断補強鉄筋Rを挿入して構造物Sと一体化させることで、構造物Sのせん断耐力を向上させる。なお、せん断補強鉄筋Rとしては、例えば、一般的に使用される鉄筋R1の片側をネジ切り、斜め切断加工し、先端部に六角ナット(定着体)R2を装着したものなどが適用される。
【0028】
図2示すように、本実施の形態の削孔システムAは、削孔対象である構造物Sに対して削孔を行うためのハンマドリル(削孔機)1が進退移動可能に設けられた削孔装置A1と、削孔装置A1の構造物Sに沿った移動を案内する案内手段A2とで構成されている。
【0029】
ここで、削孔装置A1は、ハンマドリル1を昇降可能に支持するリフタ10を備えている。このリフタ10は、リフタ台11と、リフタ台11に搭載された昇降用マスト(昇降用柱)12と、昇降用マスト12の下端部に設置された昇降用モータ13により駆動されて昇降用マスト12の側面に沿って昇降する昇降テーブル(昇降部材)14とを備えており、前述したハンマドリル1は昇降テーブル14上に設置されている。
【0030】
水平方向断面が角形になった昇降用マスト12における昇降テーブル14の設置側には、当該昇降テーブル14の昇降をガイドする2本のスリット(図示せず)が上下方向に伸びて形成されている。このスリットには、昇降テーブル14の後部に設けられた2枚のガイドプレート(図示せず)が、当該スリットと僅かな隙間を形成して上下方向に移動自在となるように嵌め込まれている。これにより、昇降テーブル14はガイドプレートを介してスリットに沿って昇降用マスト12を昇降する。また、リフタ10には、上下方向に配置されて昇降用モータ13により回転し、昇降テーブル14と螺合したボールねじ15が設けられている。したがって、昇降用モータ13の駆動でボールねじ15が回転すると、昇降テーブル14がスリットに沿って上昇あるいは下降する。そして、昇降用モータ13が停止すると、昇降テーブル14はそのときの高さ位置で停止する。
【0031】
リフタ10の昇降テーブル14に設置されたハンマドリル1はドリル駆動用モータ(図示せず)に駆動されており、打撃および回転の一方あるいは併用が可能で、さらに強弱の調整も可能になっている。但し、強弱の調整は不能であってもよい。また、このハンマドリル1は、昇降テーブル14上において直線的に往復動する進退部材2に搭載されており、当該進退部材2によって削孔方向に対して進退移動可能になっている。
【0032】
ここで、進退部材2は、ハンマドリル1が搭載されたスライダ2aと、スライダ2aを削孔方向に対して進退移動可能に保持するスライドガイド2bと、スライダ2aに推進力(往復移動するための推進力)を付与する推力付与手段としてのエアシリンダ(図示せず)とが設置されている。エアシリンダは、シリンダ室がスライダ2aの前後に位置して各シリンダ室にエアが供給・排出される2ポート式となっており、何れかのシリンダ室へのエアの供給によってスライダ2aがスライドガイド2bに案内されてスライドし、これによりスライダ2a上のハンマドリル1が進退移動する。
【0033】
なお、本実施の形態において、ハンマドリル1の電源スイッチを操作するための操作部材として、空圧式操作部1bが用いられている。この空圧式操作部1bには、駆動力としてのエアが供給されるチューブ(図示せず)が着脱可能に接続されており、エアが注入されると空圧式操作部1bが膨張して電源スイッチを押圧して電源が入り、エアを抜くと空圧式操作部1bが収縮して電源スイッチの押圧が解除されて電源が切れるようになっている。
【0034】
そして、空圧式操作部1bにエアを供給してハンマドリル1の電源スイッチをオンにし、ドリル駆動用モータを回転させてハンマドリル1の駆動を開始し、エアシリンダにより削孔対象であるコンクリート製の構造物Sに接近する方向にスライダ2aを移動させて当該ハンマドリル1を前進させると、ハンマドリル1のビット1aの先端が構造物Sの削孔位置に押し当てられて削孔が実行される。また、削孔が終わり、エアシリンダにより構造物Sから離間する方向にスライダ2aを移動させてハンマドリル1を後退移動させると、当該ハンマドリル1のビット1aが孔から抜き取られて待機位置に戻る。
【0035】
本実施の形態において、ハンマドリル1による削孔深さは200mm程度である。但し、削孔深さはハンマドリル1に取り付けられるビット1aの長さやスライダ2aのスライド長などにより決定されるものであり、本実施の形態である200mmに限定されるものではない。
【0036】
昇降用マスト12における昇降テーブル14の設置側と反対側には、スライダ2aに推進力を付与するエアシリンダやハンマドリル1の電源スイッチを操作する空圧式操作部1bを駆動する際に、後述するエアコンプレッサ36からのエア圧力を所定の値に調整するためのレギュレータ12aが配置されている。
【0037】
なお、スライダ2aに推進力を付与する推力付与手段としては、回転によりスライダ2aを進退させるボールねじ、およびこのボールねじを回転させるドリル進退用モータなど、エアシリンダ以外の推進力付与手段を用いてもよい。
【0038】
図3に示すように、削孔装置A1には、リフタ10を構成要素である昇降用マスト12の搭載された前述のリフタ台11を含むシャーシ20が設けられている。このシャーシ20は、後述する削孔装置A1の移動方向と直交するとともに相互に平行に設けられた一対の第1のビーム21と、第1のビーム21の両側に固定されて相互に平行になった一対の第2のビーム22とを備えており、平面視で略矩形枠状の形状を呈している。また、第2のビーム22の長さは一対の第1のビーム21で形成される幅よりも長くなっており、当該第2のビーム22の両側の第1のビーム21の固定位置よりも外側がオーバーハング部22aとなっている。
【0039】
なお、本実施の形態において、第1のビーム21および第2のビーム22には、角筒鋼材であるコラムが用いられているが、これに限定されるものではなく、例えばH型鋼などコラム以外の鋼材を用いることが可能である。
【0040】
さて、前述したリフタ台11は、昇降用モータ13が取り付けられるとともに、一対の第1のビーム21の間で且つ当該第1のビーム21の長さ方向の略中央位置に固定されている。さらに、リフタ台11の近傍には、第1のビーム21を補強するための補強フレーム23が、一対の第1のビーム21の間に設けられている。
【0041】
一対(つまり2本)の第2のビーム22の両端の合計4カ所にはブラケット24aが取り付けられており、ハンマドリル1による削孔時に接地してシャーシ20を安定させるためのアウトリガ24が取り付けられている。また、第1のビーム21の端部と第2のビーム22のオーバーハング部22aとに跨がるようにして、平面視L字型のキャスタ台25が4カ所に設置されている。そして、それぞれのキャスタ台25には、シャーシ20つまり削孔装置A1を移動可能に支持しているキャスタ26が、ハンマドリル1の移動方向と略直交方向に向けて取り付けられている。
【0042】
図4および図5に示すように、シャーシ20には、後述するラックギア34と噛み合うピニオンギア27が出力軸28aに取り付けられたギヤードモータ(走行用モータ)28が、ブラケット29を介して設置されている。このギヤードモータ28は、モータと減速機とが一体化されており、モータの回転を減速機により減速して回転力を出力軸28aに伝達する装置である。
【0043】
なお、本実施の形態では、走行用モータとして、大きなトルクを得ることができるギヤードモータ28が用いられているが、モータ単体、あるいは減速機が別体となったモータなどを用いることが可能であり、走行用モータはギヤードモータ28に限定されるものではない。
【0044】
図6および図7に示すように、シャーシ20には、一対の第1のビーム21を挟んでギヤードモータ28と反対側に、削孔装置A1の移動量を検出するロータリエンコーダ(検出手段)31がブラケット30を介して取り付けられている。このロータリエンコーダ31の回転軸31aにも、後述するラックギア34と噛み合うピニオンギア32が取り付けられている。また、ロータリエンコーダ31は、周囲の塵埃の進入を防止するために、ハウジング31b内に格納されている。なお、ロータリエンコーダ31による削孔装置A1の移動量を検出については後述する。
【0045】
本実施の形態のギヤードモータ28では、動力源であるモータとして、回転位置の制御が可能なサーボモータが用いられており、ロータリエンコーダ31によって回転の機械的変位量を電気信号(パルス)に変換することで、図示しないカウンタで計数されたパルス数でサーボモータを停止させることができるようになっている。
【0046】
さて、本実施の形態の削孔システムAにおいては、削孔装置A1の構造物Sに沿った移動を案内するための案内手段A2が設けられている。
【0047】
図8図10において、この案内手段A2は、削孔対象である構造物Sに沿って敷設されたガイドレール33と、ガイドレール33の延伸方向に沿って取り付けられたラックギア34を備えている。また、ラックギア34は、前述したピニオンギア27,32(つまり、ギヤードモータ28の出力軸28aに取り付けられたピニオンギア27、およびロータリエンコーダ31の回転軸31aに取り付けられたピニオンギア32)と噛み合っている。
【0048】
したがって、削孔装置A1は、ギヤードモータ28が回転するとピニオンギア27およびラックギア34を介してガイドレール33に案内されながら、当該削孔装置A1に取り付けられたキャスタ26の回転で構造物Sに沿って移動する。このとき、削孔装置A1の移動に伴ってロータリエンコーダ31が回転(詳しくは、ラックギア34およびピニオンギア32を介してロータリエンコーダ31が回転)するので、次の移動位置までのパルス数を設定するとともにロータリエンコーダ31で生成されるパルス数をカウンタで計数しておくことで削孔装置A1の移動量が検出される。そして、設定したパルス数になったときにギヤードモータ28を停止させることにより、削孔装置A1を目的とする位置に正確に移動させることができる。
【0049】
本実施の形態の削孔システムAでは、削孔装置A1が予め設定された移動位置となるようにロータリエンコーダ31に基づいてギヤードモータ28の回転を制御する図示しないCPU(制御手段)が設けられており、自動制御により削孔装置A1を所定の削孔位置へ移動させることができるようになっている。さらに、CPUが、ギヤードモータ28の回転制御のみではなく、ハンマドリル1が搭載された昇降テーブル14を昇降させる昇降用モータ13の回転制御、およびハンマドリル1による削孔動作の制御をも行うようになっており、予め設定した削孔位置および削孔深さで構造物Sの削孔が自動制御で実行される。但し、CPUは、ギヤードモータ28による削孔装置A1の移動制御のみを行うようになっていれば足り、昇降用モータ13の回転制御やハンマドリル1の削孔制御まで行うようになっていなくてもよい。
【0050】
なお、本実施の形態においては、削孔装置A1の移動量の検出手段としてロータリエンコーダ31が用いられているが、削孔装置A1の移動量をレーザ光や超音波などで計測する距離計を用いてもよい。また、検出精度を高めるために、ロータリエンコーダ31と距離計とを併用してもよい。さらに、ギヤードモータ28を構成するモータがステッピングモータの場合には、コントローラで生成されてモータに入力されるパルス信号の数がモータの回転量(つまり、削孔装置A1の移動量)となることから、当該コントローラを削孔装置A1の移動量の検出手段としてもよい。この場合においても、削孔装置A1の移動量をレーザ光や超音波などで計測する距離計を用いてもよいし、検出精度を高めるために、コントローラと距離計とを併用してもよい。
【0051】
また、検出手段を用いて削孔装置A1の移動量を検出するのではなく、例えばガイドレール33に移動位置をマーキングしておき、その位置で削孔装置A1を停止させるようにしてもよい。この場合には、検出手段は不要になる。
【0052】
さて、図4図6図8図10に示すように、前述した本実施の形態のガイドレール33は、相互に平行に配置されたアングル材からなる2本のレール33aと、レール33aの所定間隔おきに配置されてこれら2本のレール33aを底面で連結するように溶接された鋼板である連結板33bとを備えている。また、ガイドレール33には、相互に隣接する連結板33bに架け渡すようにして溶接されるとともに長孔33caの形成されたブリッジ板33cが設けられており、ブリッジ板33cの長孔33caを貫通したアンカボルト33dで地面に固定されている。
【0053】
なお、図8に示すように、ブリッジ板33cの架け渡された連結板33bの近傍(ブリッジ板33cの長さ分の間隔をとった位置)には、ブリッジ板33cの架け渡されていない連結板33b(独立した連結板33b)が設置されている。このようにすれば、当初の予定位置にアンカボルト33dを打ち込めなかった場合、ブリッジ板33cの一方側を独立した連結板33bに架け渡すように設置することで、アンカボルト33dの打ち込み位置をずらして打ち直しを行うことができるからである。
【0054】
また、図3図4および図6に示すように、シャーシ20には、ラックギア34とピニオンギア27,32とが噛み合った状態を保持するための保持ローラ(保持部材)35が、ギヤードモータ28およびロータリエンコーダ31に隣接した位置に取り付けられている。
【0055】
この保持ローラ35は一対となって2本のレール33aの間に配置されており、削孔装置A1の移動に伴ってそれぞれのレール33aに接触して回転する。これにより。削孔装置A1の移動時に保持ローラ35が回転してガイドの役割を果たすことでラックギア34とピニオンギア27,32とを噛み合った状態に保持するとともに、削孔時には反力機構の一部として機能する。
【0056】
なお、レール33aはアングル材以外で構成してもよい。また、ラックギア34とピニオンギア27,32とが噛み合った状態を保持する保持部材としては本実施の形態に示す保持ローラ35に限定されるものではなく、例えば、レール33aを1本とするとともに保持ローラ35も1個とし、その1個の保持ローラ35とピニオンギア27,32とでラックギア34とレール33aとを挟み込む構造など、本実施の形態以外の構造を採用してもよい。
【0057】
本実施の形態において、ラックギア34はガイドレール33の側部に沿って取り付けられており、ピニオンギア27は下方に突出したギヤードモータ28の出力軸28aに、ピニオンギア32は下方に突出したロータリエンコーダ31の回転軸31aに取り付けられ取り付けられている。このようにすれば、ラックギア34は、上向きに取り付けることも可能だが、構造物の削孔時における粉塵がラックギア34とピニオンギア27,32との間に入り込んで堆積するという不具合が回避されるために、削孔装置A1の移動を常にスムーズに行うことができる。但し、ラックギア34の取付位置はガイドレール33の側部ではなくてもよい。
【0058】
さて、図2において、シャーシ20の後部には、スライダ2aを推進させるエアシリンダやハンマドリル1の電源スイッチを操作する空圧式操作部(操作部材)1bにエアを供給するエアコンプレッサ36が搭載されている。また、エアコンプレッサ36には集塵機37が搭載されている。集塵機37から伸びる吸引ホース(図示せず)の先端はハンマドリル1のビット1aに接続されており、構造物Sを削孔する際に発生する粉塵は集塵機に吸引される。
【0059】
さらに、エアコンプレッサ36の背後には、前述したCPUの搭載された制御盤や配電盤、各種機器類が収納されたコントロールボックス(筐体部)38が搭載されている。このような削孔装置A1の背面図を図11に示す。
【0060】
以上説明したように、本実施の形態の削孔システムAによれば、削孔装置A1が、ギヤードモータ28の出力軸28aに取り付けられたピニオンギア27がガイドレール33に取り付けられたラックギア34に噛み合っており、ギヤードモータ28が回転することによってピニオンギア27およびラックギア34を介してガイドレール33に案内されながら、キャスタ26の回転で構造物Sに沿って移動するようになっている。したがって、削孔装置A1を自動的に削孔対象である構造物Sに沿って移動させることが可能になる。
【0061】
これにより、人力で削孔装置A1を構造物Sに沿って次の削孔位置に移動させる必要がなくなるので、作業者の負担が軽減されるのみならず、削孔装置A1を速やかに移動させることができるので、移動時間が短縮されて効率的な削孔を行うことが可能になる。
【0062】
なお、ガイドレール33とラックギア34とを備えた案内手段A2は、削孔対象である構造物Sの全長に渡って敷設しておかなくてもよい。すなわち、削孔が完了した部分の案内手段A2を撤去してこれから削孔を行う部分に敷設して延伸するようにすれば、案内手段A2の全長が削孔対象となる構造物Sの全長よりも短くても削孔装置A1を自動的に移動させて連続削孔することができる。
【0063】
また、前述のように、削孔装置A1にはキャスタ26が設けられているので、ガイドレール33を敷設して自動走行させることができない場所であっても、あるいは、削孔装置A1の移動距離が短いなどの理由からガイドレール33を敷設しない場合であっても、人力で削孔装置A1を移動させることが可能である。
【0064】
さて、前述した削孔システムAの削孔装置A1では、実際に削孔を実行する削孔部A1a(ハンマドリル1、リフタ10、昇降用モータ13、ギヤードモータ28など)と、削孔部を駆動したり削孔で発生した粉塵を吸引する削孔支援部A1b(エアコンプレッサ36、集塵機37、コントロールボックス38など)とが、同じシャーシ20上に搭載されているが、図12図14に示すように、削孔支援部A1bをシャーシ20とは別体となった台車39に搭載して連結部材40でシャーシ20と連結し、台車39に取り付けられたキャスタ39aの回転によってシャーシ20に牽引されるようにしてもよい。
【0065】
このようにすれば、シャーシ20の前後方向(削孔対象である構造物Sに対して接近・離間する方向)が短くなって削孔装置A1のコンパクト化が図れるので、削孔装置A1を移動させるためのスペースが狭い場合(例えば、狭い通路の場合)でも、削孔装置A1を用いて削孔を行うことができるようになる。
【0066】
また、このように削孔装置A1の前後方向コンパクト化が図れるので、作業者がコントロールボックス38内の配電盤を操作する場合に、作業者の背後に広いスペースが生まれることから、作業性が向上する。
【0067】
なお、図14に示すように、台車39にはガイドレール33に案内される機能(つまり、ガイドレール33に取り付けられたラックギア34と噛み合うピニオンギアなど)は設けられていない。これは、台車39には削孔対象である構造物Sとの距離が問題になることなく、削孔部A1aに牽引されるだけで足りるからである。
【0068】
以上本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本明細書で開示された実施の形態はすべての点で例示であって、開示された技術に限定されるものではない。すなわち、本発明の技術的な範囲は、前記の実施の形態における説明に基づいて制限的に解釈されるものでなく、あくまでも特許請求の範囲の記載に従って解釈されるべきであり、特許請求の範囲の記載技術と均等な技術および特許請求の範囲の要旨を逸脱しない限りにおけるすべての変更が含まれる。
【0069】
たとえば、本実施の形態において、削孔機としてハンマドリル1が用いられているが、これに限定されるものではない。すなわち、例えば振動ドリルなど、コンクリート製の構造物Sを削孔可能な様々な削孔機を適用することができる。
【0070】
また、本実施の形態では、ハンマドリル1の電源スイッチの操作部材に、駆動力としてのエアにより膨張・収縮する空圧式操作部1bが用いられているが、例えば駆動力としての電力により電源スイッチを押圧・押圧解除する電動アクチュエータなど様々なものを適用することが可能である。
【0071】
また、本実施の形態では、スライダ2aに推進力を付与する推力付与手段として、空圧で動作するエアシリンダが用いられているが、油圧で動作する油圧シリンダや、モータで回転するボールねじなどを用いてもよい。
【0072】
さらに、キャスタ26は、本実施の形態のようにハンマドリル1の移動方向と直交する方向を向いた、つまり走行方向が固定された固定型であるが、走行方向が旋回する自在型を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上の説明では、本発明の削孔装置を、コンクリート製の既設の構造物に対する増し打ち工法におけるアンカー孔の孔開けに用いられた場合が示されているが、これに限定されるものではなく、コンクリート製の構造物の孔開けに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 ハンマドリル(削孔機)
1a ビット
1b 空圧式操作部(操作部材)
2 進退部材
2a スライダ
2b スライドガイド
10 リフタ
11 リフタ台
12 昇降用マスト(昇降用柱)
13 昇降用モータ
14 昇降テーブル(昇降部材)
20 シャーシ
21 第1のビーム
22 第2のビーム
22a オーバーハング部
23 補強フレーム
24 アウトリガ
24a ブラケット
25 キャスタ台
26 キャスタ
27 ピニオンギア
28 ギヤードモータ(走行用モータ)
28a 出力軸
29 ブラケット
30 ブラケット
31 ロータリエンコーダ(検出手段)
31a 回転軸
31b ハウジング
32 ピニオンギア
33 ガイドレール
33a レール
33b 連結板
33c ブリッジ板
33ca 長孔
33d アンカボルト
34 ラックギア
35 保持ローラ(保持部材)
36 エアコンプレッサ
37 集塵機
38 コントロールボックス(筐体部)
39 台車
40 連結部材
A 削孔システム
A1 削孔装置
A1a 削孔部
A1b 削孔支援部
A2 案内手段
S 構造物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14