(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103632
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】NK細胞の培養方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/02 20060101AFI20230720BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20230720BHJP
【FI】
C12N5/02
C12N5/0783
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004262
(22)【出願日】2022-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】511082263
【氏名又は名称】株式会社グランソール免疫研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中澤 務
(72)【発明者】
【氏名】向 陽
(72)【発明者】
【氏名】▲辻▼村 貴弘
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065BA22
4B065BB19
4B065BB32
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】純度を高く維持しつつ、且つ、NK細胞の増幅効率を向上できるNK細胞の培養方法を提供する。
【解決手段】抗ヒトNKp46抗体をコーティングした培養容器を準備する容器準備工程と、血液系単核細胞からのT細胞を除去する除去工程と、超高濃度のIL-2及びIL-18を含む無血清培地に、T細胞を除去した血液系単核細胞を浮遊させて細胞浮遊液を作製し、該細胞浮遊液を培養容器に加えて細胞培養を行う培養工程と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗ヒトNKp46抗体をコーティングした培養容器を準備する容器準備工程と、
血液系単核細胞からのT細胞を除去する除去工程と、
超高濃度のIL-2及びIL-18を含む無血清培地に、前記T細胞を除去した血液系単核細胞を浮遊させて細胞浮遊液を作製し、該細胞浮遊液を前記培養容器に加えて細胞培養を行う培養工程と、
を有することを特徴とするNK細胞の培養方法。
【請求項2】
前記培養容器の表面には更に抗ヒトCD16抗体もコーティングされていることを特徴とする請求項1に記載のNK細胞の培養方法。
【請求項3】
前記血液系単核細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)、骨髄単核球細胞(BMNC)又は臍帯血単核球細胞(CBMNC)であることを特徴とする請求項1又は2に記載のNK細胞の培養方法。
【請求項4】
前記除去工程では、血液系単核細胞からT細胞の除去のみを行い、NK細胞の単離を行わないことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のNK細胞の培養方法。
【請求項5】
前記除去工程では、T細胞に発現するCD3を認識する抗体を加えて血液系単核細胞からT細胞の除去のみを行い、NK細胞の単離を行わないことを特徴とする請求項4に記載のNK細胞の培養方法。
【請求項6】
前記容器準備工程では、抗体をリン酸緩衝液に加えて4~6 μg/mlの抗体溶液を作製し、該抗体溶液を0.15~0.2 ml/cm2となるように前記培養容器に入れ、静置することで抗体を培養容器表面に固相化してコーティングすることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のNK細胞の培養方法。
【請求項7】
前記培養容器はプラスチック製であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載のNK細胞の培養方法。
【請求項8】
前記培養工程では、IL-2を3,000 IU/ml以上且つIL-18を50 IU/ml以上含有する無血清培地に、T細胞を除去した血液系単核細胞を浮遊させて細胞浮遊液を作製することを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載のNK細胞の培養方法。
【請求項9】
前記培養工程では、前記無血清培地に、T細胞を除去した血液系単核細胞を0.5~1.5 x 106/mlの濃度で浮遊させて細胞浮遊液を作製することを特徴とする請求項8に記載のNK細胞の培養方法。
【請求項10】
前記培養工程では、前記細胞浮遊液を前記培養容器に加えて0.22~0.40 ml/cm2の細胞溶液量とすることを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載のNK細胞の培養方法。
【請求項11】
前記培養工程では、細胞培養は7日以上21日以下の培養期間であることを特徴とする請求項1乃至10の何れか1項に記載のNK細胞の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NK細胞の培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年がん治療の一方法として、体外で増幅させた末梢血細胞を体内に再び輸注する免疫細胞治療法が着目されている。がん細胞に対する患者の免疫応答を増強することによりがん治療を行う方法である。
【0003】
キラー細胞の有する細胞傷害活性を利用した免疫療法として、リンホカイン活性化キラー細胞(Lymphokine activated killer cells)を利用したLAK療法が知られている(特許文献1)。このLAK療法は、患者の末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cells:PBMC)から分離した細胞を、インターロイキン-2(IL-2)の存在下で培養し、活性化された細胞をIL-2と共に患者体内に輸注する方法である。また、がん組織から分離したリンパ球をIL-2の存在下で培養し、活性化された細胞をIL-2と共に患者体内に輸注するがん浸潤性リンパ球(tumor infiltration lymphocytes)療法も知られている。さらに、がん特異的に発現する抗原(がん抗原)を分子標的とし、細胞傷害性を示すCD8陽性のキラー細胞を利用する細胞傷害性Tリンパ球(cytotoxic T lymphocytes)療法(CTL療法)やがん患者の末梢血から分離したリンパ球から、がん細胞を特異的に傷害する細胞を選択し、その細胞傷害性をIL-2及びINF-αによって高めた後、当該リンパ球を患者体内に戻す生物製剤(Biological response modifiers)活性化キラー細胞(BRM activated killer cells)療法も知られている。
【0004】
T細胞は、がん細胞等の表面に発現する抗原を認識するT細胞レセプター(T cell receptor:TcR)をその表面に有している。T細胞には、α鎖とβ鎖で構成されるTcRを有するαβT細胞(TcRαβ陽性細胞)、γ鎖とδ鎖で構成されるTcRを有するγδT細胞(TcRγδ陽性細胞)、NK細胞(natural killer cells)様の性質を併せもつNKT細胞などが知られている。αβT細胞は、主要組織適合遺伝子複合体( major histocompatibitily complex:MHC)拘束性に抗原を認識し、IL-2の刺激により活性化され、キラーT細胞として機能する。キラーT細胞は認識した標的がん細胞に作用し、LAK療法やCTL療法などに利用するにはサイトカインによる刺激並びに抗原提示するがん細胞の認識が必要である。また、αβT細胞は、自己細胞を傷害するおそれもある。
【0005】
γδT細胞は、がん細胞に対してMHC非拘束性に細胞傷害性(ナチュラルキラー活性)を示す。αβT細胞が特定のがん特異抗原を発現するがん細胞を1種類のTcRにより認識し、高い特異性を持って細胞傷害性を発揮するのに対し、γδT細胞は、γδTcRや活性化NKレセプターである2B4(CD244)、NKG2D(CD314)、NKp44(CD336)によりがん細胞を認識し、高い多様性を持って細胞傷害性を発揮する。
【0006】
NKT細胞、とりわけinvariant NKT細胞は、その表面に抗原受容体であるVα14Vβ8TcRと代表的なNK細胞受容体であるCD161を併せ持ち、CD1d拘束性にαガラクトシルセラミドを認識することで強力なサイトカイン産生能、とくにIFN-γ産生能、及びFasやパーフォリンを介した細胞傷害性等の機能を持つことで知られている。また、MHC-クラスIを発現した細胞に結合する抑制性受容体を有しているので正常な細胞を認識せず、MHC分子を失った標的がん細胞を認識する。
【0007】
また、NK細胞を利用したがん免疫細胞治療も知られている。NK細胞は、TcRを有しない細胞傷害性細胞である。NK細胞は、主にMHCクラスIを発現しない細胞を認識し、がん細胞を攻撃する。
【0008】
がん免疫細胞治療においては、がん細胞に対する細胞傷害性を示す細胞の拡大培養(増幅)並びに細胞傷害活性の増強が重要な課題である。PBMCから、MHC非拘束性の細胞傷害性細胞を拡大する方法として、CD3アゴニストとCD52アゴニスト及びIL-2を用いて、T細胞の増幅に比べて優位となるNK細胞の増幅方法が開示されている(特許文献2)。この方法によると3週間の培養で、PBMC1×108個から1.1×1011個のCD16+NK細胞が拡大培養される。
【0009】
特許文献3には、グリコサミノグリカンなどのCD56リガンドを用いて、PBMCからNK細胞を増幅させる方法が開示されている。この方法によると、培養前のNK細胞の比率が8.5%から約50%近くまで増加し、約20~100倍程度に拡大培養される。
【0010】
非特許文献1には、PBMCをIL-2とIL-18の存在下で培養すると、それぞれ単独の存在下で培養した場合に比べてNK細胞の存在率が高められたことが記載されている。この方法によると、両者を併用した場合には、NK細胞は約14倍に拡大培養され、NK細胞が占める割合も34%にまで高められる。
【0011】
特許文献4には、PBMCからフィブロネクチンやフィブロネクチンフラグメント及びIL-2の存在下に培養を行ってγδT細胞を含む細胞集団を拡大培養する方法が記載されている。この方法によると、培養開始後14日でγδT細胞(CD3及びγδT細胞陽性群)の比率がPBMC中8.9%から約30~50%に上昇し、約5~16倍程度に拡大培養されたことが記載されている。
【0012】
特許文献5には、PBMCをパミドロネートやゾレドロネートなどのビスホスホネート及びIL-2の存在下で培養し、γδT細胞を選択的に増幅させる方法が開示されている。この方法によると、14日程度の培養でγδT細胞が単核球中に占める割合が90%近くまで上昇させることができ、約100倍程度に拡大培養される。
【0013】
また、非特許文献2には、ビスホスホネートの1種であるゾレドロネート(ZOL)の存在下又はZOLとIL-2の存在下でPBMCを培養したところ、γδT細胞の存在比が高められたことが記載されている。この方法によると、培養前にはγδT細胞の存在比が約3.8%であったところ、14日の培養でその存在比が約13%程度に高められる。また、γδT細胞は、300~800倍程度に拡大培養される。
【0014】
非特許文献3や特許文献6には、IL-2とゾレドロネートとIL-18の存在下において、PBMCを培養することが試みられている。これによるとPBMC中のγδT細胞(Vγ9Vδ2T細胞)の存在比が、14日の培養で培養前の1%から75%に高められ、γδT細胞は約25倍程度に拡大培養される。
【0015】
さらに、特許文献7には、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)を投与した後、末梢血単核画分(G-PBMC)をα-ガラクトシルセラミド(α-GalCer)とIL-2、IL-12、IL-18などのサイトカインの存在下に培養して、NKT細胞を増幅させることが開示されている。これによると、G-CSFを投与なくしても、α-ガラクトシルセラミドとIL-2の存在により、PBMC中のNKT細胞(Vα24+NKT細胞)は約4倍に増加し、その存在比は約16倍程度に増大する。
【0016】
ところで、TNF-αは腫瘍細胞を壊死させる作用を有する物質である。TNF-αが、INF-γ、IL-6、IL-8の産生を誘導することは公知である。これまでに、拡大培養されたNK細胞又はNKT細胞を含む細胞集団に対してTNF-αを添加し、細胞傷害性を増強することは、例えば特許文献8において開示されている。また、TNF-αを用いて、NK細胞やNKT細胞などのMHC非拘束性の細胞傷害性細胞を拡大培養することは、例えば、非特許文献4や特許文献9、特許文献10に開示されている。また、特許文献10には、核酸架橋剤で不活化した人工抗原提示細胞と接触したTリンパ球を、IL-2、IL-21、TNF-αなどのサイトカインの存在下に培養して活性化Tリンパ球の増幅を促進させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2001-314183号公報
【特許文献2】特開2006-340698号公報
【特許文献3】特開2006-115826号公報
【特許文献4】国際公開WO2008/111430号公報
【特許文献5】国際公開WO2006/006720号公報
【特許文献6】特開2010-17134号公報
【特許文献7】国際公開WO01/94553公報
【特許文献8】特開2000-245451号公報
【特許文献9】特表2002-515756号公報
【特許文献10】特表2010-505845号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】Young-Ik Son, et al., Cancer Research 61, 884-888
【非特許文献2】Kiyoshi Sato et al., Int. J. Cancer, 116, p.94-99(2005)
【非特許文献3】Wen Li et al., J. Immunother. 33(3), P287-206 2010
【非特許文献4】Jpn J Cancer Chemother 30(11), p.1776-1779
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
がん免疫細胞治療においてはNK細胞をがん患者に大量に輸注する必要がある。また、末梢血中におけるNK細胞の頻度は個人差が大きく、ある患者ではNK細胞の比率が大きいが、別の患者ではNK細胞の比率が小さいことはよく知られている。
【0020】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、純度が高く且つ増幅効率が向上したNK細胞の培養方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明にかかるNK細胞の培養方法は、抗ヒトNKp46抗体をコーティングした培養容器を準備する容器準備工程と、血液系単核細胞からのT細胞を除去する除去工程と、超高濃度のIL-2及びIL-18を含む無血清培地に、前記T細胞を除去した血液系単核細胞を浮遊させて細胞浮遊液を作製し、該細胞浮遊液を前記培養容器に加えて細胞培養を行う培養工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明のNK細胞の培養方法によれば、純度を高く維持しつつ、且つ、NK細胞の増幅効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】NK細胞をフローサイトメーターで解析した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0025】
本発明にかかるNK細胞の培養方法は、
抗ヒトNKp46抗体をコーティングした培養容器を準備する容器準備工程と、
血液系単核細胞からのT細胞を除去する除去工程と、
超高濃度のIL-2及びIL-18を含む無血清培地に、前記T細胞を除去した血液系単核細胞を浮遊させて細胞浮遊液を作製し、該細胞浮遊液を前記培養容器に加えて細胞培養を行う培養工程と、を有する。
【0026】
(i)容器準備工程
容器準備工程では、抗ヒトNKp46抗体をコーティングした培養容器を準備する。
【0027】
培養容器は、特に限定されるものではないが、プラスチック製である。プラスチックとしては、例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、環状ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シリコーン樹脂、又はアクリル樹脂が挙げられる。アクリル樹脂としては、汎用性の観点から、ポリメチルメタクリレート(PMMA)が好ましい。
【0028】
NKp46は、NK細胞の活性化受容体であり、それにより抗ヒトNKp46抗体はNKp46を刺激してNK細胞を活性化させることができる。
【0029】
抗ヒトNKp46抗体(抗体クローン名:195314)を0.1%(w/v%)ヒト血清アルブミン(human serum albumin; HSA)含有リン酸緩衝液に加えて4~6 μg/mlの抗体溶液を作製する。その抗体溶液を0.15~0.2 ml/cm2となるように培養容器に入れる。例えば、培養容器が6穴プレート(培養面積9 cm2)であれば1.5 mlとなるように培養容器に入れ、T25フラスコ(培養面積25 cm2)であれば4 mlとなるように培養容器に入れる。その後4℃で一晩静置することで抗ヒトNKp46抗体を培養容器表面に固相化してコーティングする。
【0030】
なお培養容器の表面には抗ヒトNKp46抗体のみならず更に抗ヒトCD16抗体もコーティングされていることが好ましい。抗ヒトCD16抗体は、CD16抗原に対する抗体である。CD16抗原は、NK細胞や顆粒球のマーカーであり、休止期におけるほとんどのNK細胞の細胞表面上に存在するFcレセプターの構成タンパク質FcγRIIIとして知られている。抗ヒトCD16抗体はNK細胞増殖誘導活性を有する。抗ヒトCD16抗体のNK細胞増殖誘導機構については明らかにされていないが、抗ヒトCD16抗体をIL-2等のサイトカインと共添加することで、サイトカイン単独で添加した場合と比較して、NK細胞の増殖誘導率を飛躍的に増大させることができる。
【0031】
かかる場合は、抗ヒトNKp46抗体(抗体クローン名:195314)及び抗ヒトCD16抗体(抗体クローン名:3G8)をそれぞれ0.1%(w/v%)ヒト血清アルブミン(human serum albumin; HSA)含有リン酸緩衝液に加え、抗ヒトNKp46抗体4~6 μg/mlであり、抗ヒトCD16抗体も4~6 μg/mlである抗体溶液を作製する。その抗体溶液を0.15~0.2 ml/cm2となるように培養容器に入れる。その後4℃で一晩静置することで抗ヒトNKp46抗体及び抗ヒトCD16抗体を培養容器表面に固相化してコーティングする。
【0032】
(ii)除去工程
除去工程では、血液系単核細胞からT細胞を除去する。
【0033】
血液系単核細胞は、特に限定されるものではないが、例えば、末梢血単核細胞(Peripheral Blood Mononuclear Cells:PBMC)、骨髄単核球細胞(Bone Marrow-derived Mononuclear Cells:BMNC)又は臍帯血単核球細胞(Cord Blood Mononuclear Cells:CBMNC)である。
【0034】
除去工程では、血液系単核細胞からT細胞の除去のみを行い、NK細胞の単離を行わないことが好ましい。換言すれば、除去工程では、血液系単核細胞から、B細胞や単球等の抗原提示細胞を包含する状態にしてT細胞の除去を行う。除去工程ではT細胞のみならず不要成分である赤血球も除去することが更に望ましい。
【0035】
血液系単核細胞には、T細胞(CD3+CD56-)、NK細胞(CD3-CD56+)、NKT細胞(CD3+CD56+)、B細胞(CD3-CD56-CD20+)、単球(CD3-CD56-CD11b+)等が含まれている。T細胞の除去のみを行い、NK細胞の単離を行わない場合、NK細胞、NKT細胞、B細胞、単球等が残った状態となる。血液系単核細胞からNK細胞のみを分離して培養するよりも、T細胞のみを除去して培養した方が培養効率が良い。B細胞や単球は抗原提示細胞と呼ばれており、様々な共刺激分子を発現し、これら細胞がNK細胞を刺激するため増幅効率が増強するものと考えられる。
【0036】
T細胞の除去は、例えば、T細胞に発現するCD3を認識する抗体を加えて血液系単核細胞からT細胞の除去のみを行い、NK細胞の単離を行わない。
【0037】
即ち、ヘパリンが最終濃度10μg/ml~100μg/ml;1.2U/ml~12U/mlとなるように添加されている真空採血管に経静脈で血液を採取する。RosetteSep Human CD3 Depletion Cocktail(Stem Cell Technologies社)を使用し、採血した血液に赤血球に発現するGlycophorin AとT細胞に発現するCD3を認識する抗体(CD3抗体とGlycophorin A抗体とが連結された4量体)を加え、室温で20分間反応させる。なおこれ以外でもMiltenyi biotech社の抗体結合磁気ビーズ(MACS)等を用いてCD3陽性細胞を除去することも可能である。この場合にはリンパ球分離液でPBMCを分離してからCD3陽性細胞の除去操作を行う。
【0038】
その後、細胞培養液(例えばRPMI、DMEM、AIM-V、X-VIVO15、NK MACS Medium、AlyS 505NK等)を血液と同じ量加えて混和し、リンパ球分離液Lymphoprep (Stem Cell Technologies社)に重層し、遠心分離を1,200G、30分間行う。なおリンパ球分離液はFicoll-PAQUE等を使用することもできる。遠心分離後にリンパ球分離液と血漿の境界に分離されるCD3発現細胞が除去された血液系単核細胞をメスピペットで慎重に取り除き、別の遠心チューブに移す。移した細胞溶液に細胞培養液を加え、620G、7分間の遠心分離による洗浄操作を行い、上清を取り除いてから細胞培養に用いる。
【0039】
(iii)培養工程
培養工程では、超高濃度のIL-2及びIL-18を含む無血清培地に、T細胞を除去した血液系単核細胞を浮遊させて細胞浮遊液を作製し、該細胞浮遊液を培養容器に加えて細胞培養を行う。
【0040】
無血清培地は、例えば2~10%の自己血漿もしくは血清を含有する無血清培地(例えばAIM-V、X-VIVO15、NK MACS Medium、AlyS 505NK等)である。
【0041】
無血清培地は超高濃度のIL-2及びIL-18を含む。特に限定されるものではないが、無血清培地は、例えば、IL-2を3,000 IU/ml以上且つIL-18を50 IU/ml以上含有し、好ましくはIL-2を3,000 IU/ml以上6,000 IU/ml以下且つIL-18を50 IU/ml以上100 IU/ml以下含有する。なお無血清培地は超高濃度のIL-2又は超高濃度のIL-18何れか一方のみを含むものとすることも可能である。例えば、IL-2を3,000 IU/ml以上含有する、又は、IL-18を50 IU/ml以上含有する。好ましくはIL-2を3,000 IU/ml以上6,000 IU/ml以下含有する、又は、IL-18を50 IU/ml以上100 IU/ml以下含有する。
【0042】
細胞浮遊液の濃度は、特に限定されるものではないが、例えば、無血清培地に、T細胞を除去した血液系単核細胞を0.5~1.5 x 106/mlの濃度で浮遊させる。
【0043】
細胞浮遊液を培養容器に加える溶液量は、特に限定されるものではないが、例えば0.22~0.40 ml/cm2の細胞溶液量とすることが可能である。例えば、培養容器が6穴プレート(培養面積9 cm2)であれば2 mlとなるように培養容器に入れ、T25フラスコ(培養面積25 cm2)であれば10 mlとなるように培養容器に入れる。
【0044】
細胞培養の日数は、特に限定されるものではないが、例えば、7日以上21日以下の培養期間である。培養条件は、例えば、37℃、5%CO2、湿度100%の環境下である。
【0045】
細胞増殖に応じて高濃度のIL-2を含む無血清培地(血漿は含まなくてもよい)を2から3倍量加え、容量にあわせて適切な培養容器に移し替える。培養液が300 mlを超える場合にはガス透過性細胞培養用バッグに移すことも可能である。21日間まで培養可能であるがその後は細胞はほとんど増殖しない。
【0046】
このようにして純度を高く維持しつつ、且つ、増幅効率を向上(従来技術の2~6倍)させてNK細胞を培養することができる。
【実施例0047】
1.実施例1
(1)抗ヒトNKp46抗体コーティングプラスチック製培養容器の作製工程
5 μg/mlとなるように抗ヒトNKp46抗体(抗体クローン名:195314)を0.1%(w/v%)ヒト血清アルブミン(human serum albumin; HSA)含有リン酸緩衝液(phosphate buffer saline; PBS)に調整した。即ち、調製した結果、リン酸緩衝液中において、抗ヒトNKp46抗体の濃度は5 μg/mlであった。
【0048】
プラスチック製培養容器は6 穴プレート(培養面積9 cm2)を使用した。1.5 mlの調整済抗体溶液をそのプラスチック製培養容器に移し、4℃で一晩静置し固層化した。これにより抗ヒトNKp46抗体をコーティングした培養容器を作製した。
【0049】
(2)PBMCからのT細胞除去工程
ヘパリンが最終濃度 10μg/ml~100μg/ml;1.2U/ml~12U/mlとなるように添加されている真空採血管に経静脈で血液を被験者から採取した。RosetteSep(登録商標) Human CD3 Depletion Cocktailを使用してCD3陽性細胞の除去を除去した。即ち、採血した血液に、赤血球に発現するGlycophorin A(グリコフォリンAは赤血球膜上に豊富かつ特異的に発現しており、細胞の凝集を防ぐ役割を果たしている。)と、T細胞に発現するCD3を認識する抗体と、を加えて、室温で20分間反応させた(CD3抗体とグリコフォリンA抗体とが連結された4量体を加えた。)。その後、細胞培養液(RPMI培地)を血液と同じ量加えて混和し、リンパ球分離液Lymphoprep (Stem Cell Technologies社)に重層し、遠心分離を1,200G、30分間行った。遠心分離後にリンパ球分離液と血漿の境界に分離されるCD3発現細胞が除去された末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cells: PBMC)をメスピペットで慎重に取り除き、別の遠心チューブに移した。移した細胞溶液に細胞培養液を加え、620G、7分間の遠心分離による洗浄操作を行い、上清を取り除いた。
【0050】
(3)超高濃度のIL-2及びIL-18を用いた細胞培養
インターロイキン(IL)-2を3,000 IU/ml、IL-18を50 IU/ml、及び、10%の自己血漿を含有する無血清培地(AIM-V)2 mlに、CD3陽性細胞を除去したPBMC(細胞数は106個)を0.5 x 106/mlの濃度で浮遊させて細胞浮遊液とした。
【0051】
抗ヒトNKp46抗体を固層したプラティック製培養容器を生理食塩水で洗浄操作を行い、上記の細胞浮遊液を洗浄後のプラスチック製培養容器に移した。
【0052】
6 穴プレート(培養面積9 cm2)プラスチック製培養容器に2 mlの上記細胞浮遊液を移した。培養開始時の細胞溶液量は約0.22 ml/cm2であった。
【0053】
細胞浮遊液を移したプラティック製培養容器を37℃、5%CO2、湿度100%の環境下で培養を開始した。細胞増殖に応じて高濃度のIL-2を含む無血清培地(血漿は含まなくてもよい)を2~3倍量加え、容量にあわせて適切な培養容器に移し替えた。このようにして14日間培養した。
【0054】
2.実施例2
(1)抗ヒトNKp46抗体及び抗ヒトCD16抗体コーティングプラスチック製培養容器の作製工程
5 μg/mlとなるように抗ヒトNKp46抗体(抗体クローン名:195314)及び抗ヒトCD16抗体(抗体クローン名:3G8)をそれぞれ0.1%(w/v%)ヒト血清アルブミン(human serum albumin; HSA)含有リン酸緩衝液(phosphate buffer saline; PBS)に調整した。即ち、調製した結果、リン酸緩衝液中において、抗ヒトNKp46抗体の濃度は5 μg/mlであり、抗ヒトCD16抗体の濃度も5 μg/mlであった。
【0055】
プラスチック製培養容器は6 穴プレート(培養面積9 cm2)を使用した。1.5 mlの調整済抗体溶液をそのプラスチック製培養容器に移し、4℃で一晩静置し固層化した。これにより抗ヒトNKp46抗体及び抗ヒトCD16抗体をコーティングした培養容器を作製した。
【0056】
(2)PBMCからのT細胞除去工程
ヘパリンが最終濃度 10μg/ml~100μg/ml;1.2U/ml~12U/mlとなるように添加されている真空採血管に経静脈で血液を被験者から採取した。RosetteSep(登録商標) Human CD3 Depletion Cocktailを使用してCD3陽性細胞の除去を除去した。即ち、採血した血液に、赤血球に発現するGlycophorin Aと、T細胞に発現するCD3を認識する抗体と、を加えて、室温で20分間反応させた(CD3抗体とグリコフォリンA抗体とが連結された4量体を加えた。)。その後、細胞培養液(RPMI培地等)を血液と同じ量加えて混和し、リンパ球分離液Lymphoprep (Stem Cell Technologies社)に重層し、遠心分離を1,200G、30分間行った。遠心分離後にリンパ球分離液と血漿の境界に分離されるCD3発現細胞が除去された末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cells: PBMC)をメスピペットで慎重に取り除き、別の遠心チューブに移した。移した細胞溶液に細胞培養液を加え、620G、7分間の遠心分離による洗浄操作を行い、上清を取り除いた。
【0057】
(3)超高濃度のIL-2及びIL-18を用いた細胞培養
インターロイキン(IL)-2を3,000 IU/ml、IL-18を50 IU/ml、及び、10%の自己血漿を含有する無血清培地(AIM-V)2 mlに、CD3陽性細胞を除去したPBMC(細胞数は106個)を0.5 x 106/mlの濃度で浮遊させて細胞浮遊液とした。
【0058】
抗ヒトNKp46抗体抗ヒトNKp46抗体及び抗ヒトCD16アゴニスト抗体を固層したプラティック製培養容器を生理食塩水で洗浄操作を行い、上記の細胞浮遊液を洗浄後のプラスチック製培養容器に移した。
【0059】
6 穴プレート(培養面積9 cm2)プラスチック製培養容器に2 mlの上記細胞浮遊液を移した。培養開始時の細胞溶液量は約0.22 ml/cm2であった。細胞浮遊液を移したプラティック製培養容器を37℃、5%CO2、湿度100%の環境下で培養を開始した。細胞増殖に応じて高濃度のIL-2を含む無血清培地(血漿は含まなくてもよい)を2~3倍量加え、容量にあわせて適切な培養容器に移し替えた。このようにして14日間培養した。
【0060】
3.実施例3
(1)NK細胞の増幅効率及び純度の確認
3名の健常人供血者より血液を採取して上述の方法で増幅培養試験を行った。増幅培養試験は、3名に対して、それぞれ、抗ヒトNKp46抗体コーティングプラスチック製培養器と、抗ヒトNKp46抗体及び抗ヒトCD16抗体コーティングプラスチック製培養容器とで行った。
【0061】
開始時のCD3陽性細胞を除去したPBMCと培養14日後の培養細胞をトリパンブルー染色液で染色し、細胞計算盤を用いて細胞数を算定した。また、それらの細胞集団に存在するCD3陰性CD56陽性NK細胞の純度をフローサイトメーター(FACSCalibur: BD社)を用いて解析した。抗体による細胞染色は、10
6個の細胞を100 μlのStain Buffer (BD社)に懸濁し、PE/Cy5標識抗CD3抗体(抗体クローン名: HIT3a)とAlexaFluoro488標識抗ヒトCD56抗体(抗体クローン名:NCAM1)をそれぞれ2 μlずつ加え、4℃で30分間反応させた。反応後に1 mlのStain Bufferで洗浄操作を行い、500 μlの1%パラホルムアルデヒド/PBS溶液に細胞を懸濁した。4℃、30分間反応させ、フローサイトメータで解析を実施した。結果を表1及び
図1に示す。
【0062】
【0063】
表1及び
図1に示されるように、サンプル1、2、3では培養開始時の細胞集団にはそれぞれ48.2%、52.1%、60.7%のCD3陰性CD56陽性NK細胞が含まれており、CD3陰性CD56陽性NK細胞数は0.48 x 10
6細胞、0.52 x 10
6細胞、0.61 x 10
6細胞であった。
【0064】
培養14日目、サンプル1では、対照、抗ヒトCD16抗体固層化プレート、抗ヒトNKp46抗体固層化プレート、抗CD16及び抗ヒトNKp46抗体固層化プレートにおいて、それぞれ214.0 x 106細胞、243.7 x 106細胞、353.3 x 106細胞、403.3 x 106細胞まで細胞が増幅され、CD3陰性CD56陽性NK細胞の純度はそれぞれ90.1%、80.8%、96.2%、96.9%、CD3陰性CD56陽性NK細胞数はそれぞれ192.8 x 106細胞、196.9 x 106細胞、339.9 x 106細胞、390.8 x 106細胞、そしてCD3陰性CD56陽性NK細胞の増幅倍率は400.0倍、408.5倍、705.1倍、810.8倍であった。
【0065】
培養14日目、サンプル2では、対照、抗ヒトCD16抗体固層化プレート、抗ヒトNKp46抗体固層化プレート、抗ヒトCD16及び抗ヒトNKp46抗体固層化プレートにおいて、それぞれ88.8 x 106細胞、130.0 x 106細胞、382.2 x 106細胞、412.2 x 106細胞まで細胞が増幅され、CD3陰性CD56陽性NK細胞の純度はそれぞれ95.2%、97.4%、97.6%、98.6%、CD3陰性CD56陽性NK細胞数はそれぞれ84.5 x 106細胞、126.6 x 106細胞、373.0 x 106細胞、406.4 x 106細胞、そしてCD3陰性CD56陽性NK細胞の増幅倍率は162.3倍、243.0倍、716.0倍、780.1倍であった。
【0066】
培養14日目、サンプル3では、対照、抗ヒトCD16抗体固層化プレート、抗ヒトNKp46抗体固層化プレート、抗ヒトCD16及び抗ヒトNKp46抗体固層化プレートにおいて、それぞれ186.0 x 106細胞、348.8 x 106細胞、447.2 x 106細胞、478.4 x 106細胞まで細胞が増幅され、CD3陰性CD56陽性NK細胞の純度はそれぞれ45.9%、35.0%、83.2%、86.7%、CD3陰性CD56陽性NK細胞数はそれぞれ85.4 x 106細胞、122.1 x 106細胞、372.1 x 106細胞、414.8 x 106細胞、そしてCD3陰性CD56陽性NK細胞の増幅倍率は140.6倍、201.1倍、613.0倍、683.3倍であった。
【0067】
サンプル1では、対照においてNK細胞の純度と増幅倍率は表1記載程度であった。対照と比べて抗ヒトCD16抗体では純度が9.3%低く、増幅倍率は1.02倍高かった。抗ヒトNKp46抗体では純度が6.1%高く、増幅倍率は1.76倍高かった。抗ヒトCD16抗体及びに抗ヒトNKp46抗体では純度が6.8%高く、増幅倍率は2.02倍高かった。以上の結果より、抗ヒトNKp46抗体でNK細胞の増幅倍率が著明に増強され、抗ヒトCD16抗体及び抗ヒトNKp46抗体ではさらにその効率が増強された。
【0068】
サンプル2では、対照において表1記載程度のNK細胞の純度を示したが、増幅効率は著明に低い傾向にあった。対照と比べて、抗ヒトCD16抗体では純度が2.2%高く、増幅倍率は1.49倍高かった。抗ヒトNKp46抗体では純度が2.4%高く、増幅倍率は4.41倍高かった。抗ヒトCD16抗体及びに抗ヒトNKp46抗体では純度が3.4%高く、増幅倍率は4.80倍高かった。以上の結果より、抗ヒトNKp46抗体でNK細胞の増幅倍率が著明に増強され、抗ヒトCD16抗体及びに抗ヒトNKp46抗体ではさらに増強された。
【0069】
サンプル3では、対照において表1に記載されるようにNK細胞の純度と増幅効率は著明に低い傾向にあった。対照と比べて、抗ヒトCD16抗体では純度が10.9%低く、増幅倍率は1.43倍高かった。抗ヒトNKp46抗体では純度が37.3%高く、増幅倍率は4.35倍高かった。抗ヒトCD16抗体及び抗ヒトNKp46抗体では純度が40.8%高く、増幅倍率は4.86倍高かった。以上の結果より、抗ヒトNKp46抗体でNK細胞の増幅倍率が著明に増強され、抗ヒトCD16抗体及びに抗ヒトNKp46抗体ではさらに増強された。