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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103633
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】レドックスフロー電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/18 20060101AFI20230720BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20230720BHJP
   H01M 8/0438 20160101ALI20230720BHJP
   H01M 8/04537 20160101ALI20230720BHJP
   H01M 8/04858 20160101ALI20230720BHJP
   H01M 8/2455 20160101ALI20230720BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M8/04 J
H01M8/0438
H01M8/04537
H01M8/04858
H01M8/2455
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004263
(22)【出願日】2022-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】000222174
【氏名又は名称】東洋エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】中尾 公人
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126AA10
5H126BB10
5H126RR01
5H127AA10
5H127AB16
5H127AC15
5H127BA01
5H127BA20
5H127BA28
5H127BA43
5H127BA57
5H127BA59
5H127BB03
5H127BB12
5H127BB23
5H127BB37
5H127BB39
5H127DB02
5H127DB22
5H127DB53
5H127DC42
(57)【要約】
【課題】高出力と高効率を両立するレドックスフロー電池システムを提供する。
【解決手段】レドックスフロー電池システム100は、積層された複数の電池セル60をそれぞれが有し、複数の電池セル60の少なくとも一部が、互いに流体的に直列に接続されている、第1および第2のセルスタック4,5と、第1および第2のセルスタック4,5に正極流体を直列に流通させる正極側流体流通機構10と、第1および第2のセルスタック4,5に負極流体を直列に流通させる負極側流体流通機構20とを有している。正極側流体流通機構10および負極側流体流通機構20のそれぞれは、第1および第2のセルスタック4,5間に設けられ、充電時に第1のセルスタック4から流出した流体を第2のセルスタック5に圧送し、放電時に第2のセルスタック5から流出した流体を第1のセルスタック4に圧送する補助ポンプ16,26を有している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層された複数の電池セルをそれぞれが有し、正極活物質および負極活物質の酸化還元反応を利用して充放電を行う第1および第2のセルスタックであって、前記各電池セルが、前記正極活物質を含む正極流体が供給される正極セルと、前記負極活物質を含む負極流体が供給される負極セルとを有し、前記複数の電池セルの少なくとも一部は、互いに流体的に直列に接続されている、第1および第2のセルスタックと、
前記第1および第2のセルスタックに前記正極流体を直列に流通させる正極側流体流通機構と、
前記第1および第2のセルスタックに前記負極流体を直列に流通させる負極側流体流通機構と、を有し、
前記正極側流体流通機構および前記負極側流体流通機構のそれぞれが、前記第1および第2のセルスタック間に設けられ、充電時に前記第1のセルスタックから流出した前記流体を前記第2のセルスタックに圧送し、放電時に前記第2のセルスタックから流出した前記流体を前記第1のセルスタックに圧送する補助ポンプを有する、レドックスフロー電池システム。
【請求項2】
前記正極側流体流通機構および前記負極側流体流通機構のそれぞれが、前記補助ポンプに対応して前記第1および第2のセルスタック間に設けられ、前記各セルスタックから流出した前記流体を一時的に貯留するバッファタンクを有する、請求項1に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項3】
前記正極活物質および前記負極活物質の酸化還元反応を利用して充放電を行う別の電池であって、前記正極流体が供給される正極セルと、前記負極流体が供給される負極セルとを有する別の電池セルと、
前記別の電池セルと前記正極側流体流通機構の前記バッファタンクとの間で前記正極流体を循環させる正極側流体循環機構と、
前記別の電池セルと前記負極側流体流通機構の前記バッファタンクとの間で前記負極流体を循環させる負極側流体循環機構と、を有する、請求項2に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項4】
前記正極側流体流通機構の前記補助ポンプは、前記正極流体を循環させる前記正極側流体循環機構の循環ポンプとして機能し、前記負極側流体流通機構の前記補助ポンプは、前記負極流体を循環させる前記負極側流体循環機構の循環ポンプとして機能する、請求項3に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項5】
前記正極側流体流通機構および前記負極側流体流通機構のそれぞれが、前記各セルスタックから流出した前記流体を冷却する熱交換器を有する、請求項1から4のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項6】
前記各セルスタックは、流体的に並列に接続された複数のセルグループに分割され、前記各セルグループを構成する前記複数の電池セルは、互いに流体的に直列に接続されている、請求項1から5のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項7】
前記正極側流体流通機構が、充電状態が相対的に低い前記正極流体を貯留する第1の正極側タンクと、充電状態が相対的に高い前記正極流体を貯留する第2の正極側タンクと、前記第1の正極側タンクに対応して設けられ、充電時に前記第1の正極側タンク内の前記正極流体を前記第1のセルスタックに送出する第1の正極側ポンプと、前記第2の正極側タンクに対応して設けられ、放電時に前記第2の正極側タンク内の前記正極流体を前記第2のセルスタックに送出する第2の正極側ポンプと、を有し、
前記負極側流体流通機構が、充電状態が相対的に低い前記負極流体を貯留する第1の負極側タンクと、充電状態が相対的に高い前記負極流体を貯留する第2の負極側タンクと、前記第1の負極側タンクに対応して設けられ、充電時に前記第1の負極側タンク内の前記負極流体を前記第1のセルスタックに送出する第1の負極側ポンプと、前記第2の負極側タンクに対応して設けられ、放電時に前記第2の負極側タンク内の前記負極流体を前記第2のセルスタックに送出する第2の負極側ポンプと、を有する、請求項1から6のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項8】
前記第1および第2のセルスタックを含むセルスタック部と電力系統との間に設けられた電力変換器と、
前記正極側流体流通機構と前記負極側流体流通機構と前記電力変換器とを制御して、前記セルスタック部の充放電を制御する制御装置と、を有する、請求項7に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項9】
充電時に前記第2のセルスタックに流入する前記正極流体の流量を測定する第1の正極側流量計と、
充電時に前記第2のセルスタックに流入する前記負極流体の流量を測定する第1の負極側流量計と、
充電時に前記第2のセルスタックに流入する前記正極流体と前記負極流体との電位差を測定する第1の電位差測定装置と、
放電時に前記第1のセルスタックに流入する前記正極流体の流量を測定する第2の正極側流量計と、
放電時に前記第1のセルスタックに流入する前記負極流体の流量を測定する第2の負極側流量計と、
放電時に前記第1のセルスタックに流入する前記正極流体と前記負極流体との電位差を測定する第2の電位差測定装置と、を有し、
前記制御装置は、前記第1の正極側流量計、前記第1の負極側流量計、および、前記第1の電位差測定装置の測定値に基づいて、前記セルスタック部への充電量を調整し、前記第2の正極側流量計、前記第2の負極側流量計、および、前記第2の電位差測定装置の測定値に基づいて、前記セルスタック部からの放電量を調整する、請求項8に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項10】
前記制御装置は、充電時、前記第1の電位差測定装置の測定値に基づいて算出した、前記第2のセルスタックに流入する前記各流体の充電状態と、前記第1の正極側流量計および前記第1の負極側流量計の測定値とに基づいて、前記電力変換器を制御して前記セルスタック部への充電電流を調整するとともに、前記正極流通機構および前記負極側流体流通機構を制御して前記各流体の流量を調整し、それにより、前記第2のセルスタックから流出する前記各流体の充電状態が目標値以上になるように前記セルスタック部への充電量を調整する、請求項9に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項11】
前記制御装置は、放電時、前記第2の電位差測定装置の測定値に基づいて算出した、前記第1のセルスタックに流入する前記各流体の充電状態と、前記第2の正極側流量計および前記第2の負極側流量計の測定値とに基づいて、前記電力変換器を制御して前記セルスタック部からの放電電流を調整するとともに、前記正極流通機構および前記負極側流体流通機構を制御して前記各流体の流量を調整し、それにより、前記第1のセルスタックから流出する前記各流体の充電状態が目標値以下になるように前記セルスタック部からの放電量を調整する、請求項9または10に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項12】
充電時に前記第2のセルスタックから流出する前記正極流体の流量を測定する第3の正極側流量計と、
充電時に前記第2のセルスタックから流出する前記負極流体の流量を測定する第3の負極側流量計と、
充電時に前記第2のセルスタックから流出する前記正極流体と前記負極流体との電位差を測定する第3の電位差測定装置と、
放電時に前記第1のセルスタックから流出する前記正極流体の流量を測定する第4の正極側流量計と、
放電時に前記第1のセルスタックから流出する前記負極流体の流量を測定する第4の負極側流量計と、
放電時に前記第1のセルスタックから流出する前記正極流体と前記負極流体との電位差を測定する第4の電位差測定装置と、を有し、
前記制御装置は、前記第1および第3の正極側流量計、前記第1および第3の負極側流量計、および、前記第1および第3の電位差測定装置の測定値に基づいて、前記セルスタック部への充電量を調整し、前記第2および第4の正極側流量計、前記第2および第4の負極側流量計、および、前記第2および第4の電位差測定装置の測定値に基づいて、前記セルスタック部からの放電量を調整する、請求項9にレドックスフロー電池システム。
【請求項13】
前記制御装置は、充電時、前記第1の電位差測定装置の測定値に基づいて算出した、前記第2のセルスタックに流入する前記各流体の充電状態と、前記第1の正極側流量計および前記第1の負極側流量計の測定値と、前記第3の電位差測定装置の測定値に基づいて算出した、前記第2のセルスタックから流出する前記各流体の充電状態と、前記第3の正極側流量計および前記第3の負極側流量計の測定値とに基づいて、前記電力変換器を制御して前記セルスタック部への充電電流を調整するとともに、前記正極流通機構および前記負極側流体流通機構を制御して前記各流体の流量を調整し、それにより、前記第2のセルスタックから流出する前記各流体の充電状態が目標値以上になるように前記セルスタック部への充電量を調整する、請求項12に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項14】
前記制御装置は、前記充電量の調整を行っても、前記第2のセルスタックから流出する前記各流体の充電状態が前記目標値以上にならない場合またはならないと予測される場合に、前記補助ポンプから吐出された前記各流体の少なくとも一部を前記第1のセルスタックの上流側に還流させる、請求項13に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項15】
前記制御装置は、放電時、前記第2の電位差測定装置の測定値に基づいて算出した、前記第1のセルスタックに流入する前記各流体の充電状態と、前記第2の正極側流量計および前記第2の負極側流量計の測定値と、前記第4の電位差測定装置の測定値に基づいて算出した、前記第1のセルスタックから流出する前記各流体の充電状態と、前記第4の正極側流量計および前記第4の負極側流量計の測定値とに基づいて、前記電力変換器を制御して前記セルスタック部からの放電電流を調整するとともに、前記正極流通機構および前記負極側流体流通機構を制御して前記各流体の流量を調整し、それにより、前記第1のセルスタックから流出する前記各流体の充電状態が目標値以下になるように前記セルスタック部からの放電量を調整する、請求項12から14のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項16】
前記制御装置は、前記放電量の調整を行っても、前記第1のセルスタックから流出する前記各流体の充電状態が前記目標値以下にならない場合またはならないと予測される場合に、前記補助ポンプから吐出された前記各流体の少なくとも一部を前記第2のセルスタックの上流側に還流させる、請求項15に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項17】
充電時に前記第2のセルスタックに流入する前記正極流体と前記第2のセルスタックから流出する前記正極流体との電位差を測定する第5の電位差測定装置と、
充電時に前記第2のセルスタックに流入する前記負極流体と前記第2のセルスタックから流出する前記負極流体との電位差を測定する第6の電位差測定装置と、
放電時に前記第1のセルスタックに流入する前記正極流体と前記第1のセルスタックから流出する前記正極流体との電位差を測定する第7の電位差測定装置と、
放電時に前記第1のセルスタックに流入する前記負極流体と前記第1のセルスタックから流出する前記負極流体との電位差を測定する第8の電位差測定装置と、を有し、
前記制御装置は、前記第1から第4の正極側流量計、前記第1から第4の負極側流量計、および、前記第1から第8の電位差測定装置の測定値に基づいて、前記セルスタック部を流通する前記流体間の充電状態のバランスを調整する、請求項9から16のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項18】
前記制御装置は、充電時、前記第5の電位差測定装置の測定値と前記第6の電位差測定装置の測定値との差を算出し、該算出した差と、前記第1および第3の正極側流量計、前記第1および第3の負極側流量計、および、前記第1および第3の電位差測定装置の測定値とに基づいて、前記バランスを調整する必要があるか否かを判断する、請求項17に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項19】
前記制御装置は、放電時、前記第7の電位差測定装置の測定値と前記第8の電位差測定装置の測定値との差を算出し、該算出した差と、前記第2および第4の正極側流量計、前記第2および第4の負極側流量計、および、前記第2および第4の電位差測定装置の測定値とに基づいて、前記バランスを調整する必要があるか否かを判断する、請求項17または18に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項20】
前記正極流体中の前記正極活物質を還元することで前記正極流体を再生する再生装置を有し、
前記制御装置は、前記バランスを調整する必要があると判断すると、充電時、前記正極側流体流通機構の前記補助ポンプから吐出された前記正極流体の少なくとも一部を前記再生装置に供給して再生させる、請求項18または19に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項21】
前記再生した正極流体は、前記正極側流体流通機構の前記補助ポンプの上流側に還流し、該補助ポンプに対応して設けられたバッファタンクに貯留される、請求項20に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項22】
前記正極活物質および水素ガスの酸化還元反応を利用して充放電を行う別の電池セルをであって、前記正極流体が供給される正極セルと、前記水素ガスが供給される負極セルとを有する別の電池セルを有し、
前記制御装置は、前記バランスを調整する必要があると判断すると、放電時、前記第2の正極側ポンプから吐出された前記正極流体の少なくとも一部を前記別の電池セルに供給し、水素ガスとの還元反応により再生させる、請求項18から21に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項23】
前記再生した正極流体は、前記第2のセルスタックをバイパスし、前記正極側流体流通機構の前記補助ポンプに対応して設けられたバッファタンクに貯留される、請求項22に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項24】
充電時に前記第2のセルスタックから流出する前記負極流体から水素ガスを分離して回収する水素回収装置を有し、
前記制御装置は、前記バランスを調整する必要があると判断すると、放電時、前記水素回収装置で回収された水素ガスを前記別の電池セルに供給する、請求項22または23に記載のレドックスフロー電池システム。
【請求項25】
前記第1の正極側タンクと前記第1の負極側タンクとを流体的に接続する流体移送配管を有し、
前記制御装置は、前記正極側流体流通機構内の前記正極流体の総液量と前記負極側流体流通機構内の前記負極流体の総液量との差に応じて、前記流体移送配管を通じて前記タンク間で前記正極流体または前記負極流体を移送させる、請求項8から24のいずれか1項に記載のレドックスフロー電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レドックスフロー電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電力貯蔵用の二次電池として、電解液に含まれる活物質の酸化還元反応を利用して充放電を行うレドックスフロー電池が知られている。レドックスフロー電池は、大容量化が容易、長寿命、電池の充電状態が正確に監視可能であるなどの特徴を有している。このような特徴から、近年では、特に発電量の変動が大きい再生可能エネルギーの出力安定化や電力負荷平準化の用途としてレドックスフロー電池は大きな注目を集めている。
【0003】
一般に、レドックスフロー電池は、所定の電圧を得るために、複数の電池セルが積層されたセルスタックから構成されている。このようなレドックスフロー電池には、電解液を通じて電流損失(シャントカレントロス)が生じるという課題がある。このシャントカレントロスを低減してエネルギー効率を向上させる方法として、特許文献1には、セルスタックを構成する複数の電池セルを流体的に直列に接続する方法が記載されている。この方法では、電解液が複数の電池セルを直列に流れることで、電解液による短絡を隣接する電池セル間のみに限定してシャントカレントロスを最小限に抑えることが期待される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6475661号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、電解液がセルスタックを通過する際の圧力損失が過大になり、電解液をセルスタックに供給するために必要なポンプの吐出圧力が大きくなる。そのため、レドックスフロー電池の高出力化の要求に対して電池セルの積層数を増やそうとすると、必要なポンプの吐出圧力がさらに増大してしまう。このことは、セルスタックから外部への電解液の漏れや正負極間での電解液の漏れが生じる可能性がある点でも好ましくない。
【0006】
そこで、本発明の目的は、高出力と高効率を両立するレドックスフロー電池システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために、本発明のレドックスフロー電池システムは、積層された複数の電池セルをそれぞれが有し、正極活物質および負極活物質の酸化還元反応を利用して充放電を行う第1および第2のセルスタックであって、各電池セルが、正極活物質を含む正極流体が供給される正極セルと、負極活物質を含む負極流体が供給される負極セルとを有し、複数の電池セルの少なくとも一部は、互いに流体的に直列に接続されている、第1および第2のセルスタックと、第1および第2のセルスタックに正極流体を直列に流通させる正極側流体流通機構と、第1および第2のセルスタックに負極流体を直列に流通させる負極側流体流通機構と、を有し、正極側流体流通機構および負極側流体流通機構のそれぞれが、第1および第2のセルスタック間に設けられ、充電時に第1のセルスタックから流出した流体を第2のセルスタックに圧送し、放電時に第2のセルスタックから流出した流体を第1のセルスタックに圧送する補助ポンプを有している。
【0008】
このようなレドックスフロー電池システムによれば、高出力化の要求に応じてセルスタックの数を増やすことに伴い、電解液(活物質を含む流体)がセルスタックを通過するために必要な圧力が増加したとしても、その一部を補助ポンプに負担させることができる。その結果、実際にセルスタックに供給される電解液の圧力が過度に上昇することを抑制することができる。
【発明の効果】
【0009】
以上、本発明によれば、高出力と高効率を両立するレドックスフロー電池システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態に係るレドックスフロー電池システムの概略構成図である。
図2】第1の実施形態に係るレドックスフロー電池の概略構成図である。
図3】第1の実施形態に係るレドックスフロー電池を構成するセルスタック、およびそのセルスタックを構成するセルグループの概略構成図である。
図4】3つの共用タンクを用いた場合の電解液の貯留動作を示す模式図である。
図5】第2の実施形態に係るレドックスフロー電池の概略構成図である。
図6】第3の実施形態に係るレドックスフロー電池の概略構成図である。
図7】第4の実施形態に係るレドックスフロー電池の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。以下の各実施形態に共通の構成については、図面に同じ符号を付して重複する説明は適宜省略する。また、各実施形態に示す特徴的な構成は、互いに矛盾しない限り、他の実施形態にも適用可能である。以下の各実施形態では、レドックスフロー電池のセルスタック部が2つのセルスタックを有する場合を例示するが、これは本発明を制限するものではなく、セルスタック部を構成するセルスタックの数は3つ以上であってもよい。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るレドックスフロー電池システムの概略構成図である。
【0013】
レドックスフロー電池(RFB)システム100は、レドックスフロー電池1と、レドックスフロー電池1と電力系統200との間に設けられた電力変換器2とを有している。
【0014】
レドックスフロー電池1は、セルスタック部3と、正極側流体流通機構10と、負極側流体流通機構20とを有している。セルスタック部3は、正極活物質および負極活物質の酸化還元反応を利用して充放電を行うものであり、2つのセルスタック、すなわち、第1のセルスタック4と第2のセルスタック5を有している。正極側流体流通機構10は、正極活物質を含む正極電解液を2つのセルスタック4,5に直列に流通させる機能を有し、負極側流体流通機構20は、負極活物質を含む負極電解液を2つのセルスタック4,5に直列に流通させる機能を有している。したがって、2つのセルスタック4,5は、正極電解液および負極電解液がそれぞれ2つのセルスタック4,5を直列に流れるように互いに流体的に接続されている。一方、2つのセルスタック4,5の電気的な接続は、直列であっても並列であってもよい。電力変換器2は、電力系統200からの交流電力を直流電力に変換してセルスタック部3に供給するとともに、セルスタック部3からの直流電力を交流電力に変換して電力系統200に供給する機能を有している。
【0015】
また、RFBシステム100は、レドックスフロー電池1の各流体流通機構10,20と、電力変換器2とを制御して、レドックスフロー電池1の充放電を制御する制御装置6を有している。
【0016】
図2は、本実施形態のレドックスフロー電池の概略構成図である。図3(a)は、本実施形態のレドックスフロー電池を構成するセルスタックの概略構成図であり、図3(b)は、そのセルスタックを構成するセルグループの概略構成図である。まず、本実施形態のレドックスフロー電池の構成を説明する前に、図3を参照して、セルスタックの構成について説明する。なお、第1のセルスタックと第2のセルスタックは構造的には同一であるため、以下の第1のセルスタックの説明は、特に断らない限り、第2のセルスタックにも該当する。
【0017】
第1のセルスタック(以下、単に「セルスタック」ともいう)4は、それぞれが積層された複数の電池セル60からなる複数のセルグループ7に分割されている。図3(a)には、4つのセルグループ7が示されているが、セルスタック4を構成するセルグループ7の数はこれに限定されるものではない。同様に、図3(b)には、5つの電池セル60が示されているが、セルグループ7を構成する電池セル60の数はこれに限定されるものではない。
【0018】
各電池セル60は、正極電極61を収容し、正極活物質を含む正極電解液が供給される正極セル62と、負極電極63を収容し、負極活物質を含む負極電解液が供給される負極セル64と、正極セル62と負極セル64とを分離する隔膜65とを有している。正極セル62では、充電動作時に還元状態の正極活物質が酸化状態に変化する酸化反応が起こり、放電動作時に酸化状態の正極活物質が還元状態に変化する還元反応が起こる。換言すると、正極セル62では、充電動作により正極電解液の充電状態が上昇し、放電動作により正極電解液の充電状態が低下する。一方、負極セル64では、充電動作時に酸化状態の負極活物質が還元状態に変化する還元反応が起こり、放電動作時に還元状態の負極活物質が酸化状態に変化する酸化反応が起こる。換言すると、負極セル64では、充電動作により負極電解液の充電状態が上昇し、放電動作により負極電解液の充電状態が低下する。
【0019】
なお、電解液としては、液相中に粒状の正極活物質を懸濁・分散させて形成されたスラリーや、液状になった活物質そのものなど、活物質を含むあらゆる流体を用いることができる。したがって、ここでいう電解液は、活物質の溶液に限定されるものではない。
【0020】
また、充電状態(SOC)とは、充電の程度(深度)を示す指標であり、電解液中の酸化状態の活物質の量と還元状態の活物質の量に依存する。SOCについては様々な観点からの定義が可能であるが、例えば、このような活物質の量を用いて電解液のSOCを表すこともできる。この場合、正極電解液のSOCは、電解液中の酸化状態の活物質濃度と還元状態の活物質濃度の和に対する酸化状態の活物質濃度の割合として表すことができる。また、負極電解液のSOCは、電解液中の酸化状態の活物質濃度と還元状態の活物質濃度の和に対する還元状態の活物質濃度の割合として表すことができる。正極電解液のSOCは、充電動作(酸化反応)が進行して還元状態の正極活物質が減少し酸化状態の正極活物質が増加するほど高くなり、放電動作(還元反応)が進行して酸化状態の正極活物質が減少し還元状態の正極活物質が増加するほど低くなる。一方、負極電解液のSOCは、充電動作(還元反応)が進行して酸化状態の負極活物質が減少し還元状態の負極活物質が増加するほど高くなり、放電動作(酸化反応)が進行して還元状態の負極活物質が減少し酸化状態の負極活物質が増加するほど低くなる。
【0021】
セルスタック4を構成する複数のセルグループ7は、互いに流体的に並列に接続されているのに対し、各セルグループ7を構成する複数の電池セル60は、互いに流体的に直列に接続されている。したがって、セルスタック4に流入した正極電解液は、各セルグループ7内を直列に流れることで、充電時にはSOCが相対的に高くなった状態でセルスタック4から流出し、放電時にはSOCが相対的に低くなった状態でセルスタック4から流出する。また、セルスタック4に流入した負極電解液は、各セルグループ7内を直列に流れることで、充電時にはSOCが相対的に高くなった状態でセルスタック4から流出し、放電時にはSOCが相対的に低くなった状態でセルスタック4から流出する。なお、ここでいう「流体的に並列」とは、各電解液が複数の要素(電池セル、セルグループ、またはセルスタック)を並列に流れることを意味し、「流体的に直列」とは、各電解液が複数の要素に直列に流れることを意味する。
【0022】
次に、図2を参照して、本実施形態のレドックスフロー電池の構成、特に、正極側流体流通機構および負極側流体流通機構の構成について説明する。
【0023】
レドックスフロー電池1は、正極側流体流通機構10として、第1の正極側タンク11と、第1の正極側ポンプ12と、第2の正極側タンク13と、第2の正極側ポンプ14と、正極側バッファタンク15と、正極側補助ポンプ16とを有している。
【0024】
第1の正極側タンク11は、SOCが相対的に低い正極電解液、すなわち、酸化状態の正極活物質に比べて還元状態の正極活物質が相対的に多い正極電解液を貯留し、第1の正極側流通配管L11を介して第1のセルスタック4に接続されている。第1の正極側ポンプ12は、第1の正極側タンク11に対応して設けられ、充電時に第1の正極側タンク11内の正極電解液を第1のセルスタック4に向けて送出する機能を有している。第1の正極側流通配管L11は、三方逆止弁(図示せず)を介して2つに分岐し、一方が第1の正極側タンク11の上部に接続され、他方が第1の正極側ポンプ12の吐出側に接続されている。これにより、第1の正極側流通配管L11内を流れる正極電解液の向きを充電時と放電時で切り替えることができる。なお、三方逆止弁の代わりに、第1の正極側流通配管L11の2つの分岐配管にそれぞれ開閉弁が設けられていてもよい。
【0025】
第2の正極側タンク13は、SOCが相対的に高い正極電解液、すなわち、還元状態の正極活物質に比べて酸化状態の正極活物質が相対的に多い正極電解液を貯留し、第2の正極側流通配管L12を介して第2のセルスタック5に接続されている。第2の正極側ポンプ14は、第2の正極側タンク13に対応して設けられ、放電時に第2の正極側タンク13内の正極電解液を第2のセルスタック5に向けて送出する機能を有している。第2の正極側流通配管L12は、三方逆止弁(図示せず)を介して2つに分岐し、一方が第2の正極側タンク13の上部に接続され、他方が第2の正極側ポンプ14の吐出側に接続されている。これにより、第2の正極側流通配管L12内を流れる正極電解液の向きを充電時と放電時で切り替えることができる。なお、三方逆止弁の代わりに、第2の正極側流通配管L12の2つの分岐配管にそれぞれ開閉弁が設けられていてもよい。
【0026】
正極側バッファタンク15とこれに対応する正極側補助ポンプ16は、第3の正極側流通配管L13を介して第1のセルスタック4に接続され、第4の正極側流通配管L14を介して第2のセルスタック5に接続されている。具体的には、第3の正極側流通配管L13は、三方逆止弁(図示せず)を介して2つに分岐し、一方が正極側バッファタンク15の上部に接続され、他方が三方切替弁V11を介して正極側補助ポンプ16の吐出側に接続されている。第4の正極側流通配管L14も、三方逆止弁(図示せず)を介して2つに分岐し、一方が正極側バッファタンク15の上部に接続され、他方が三方切替弁V11を介して正極側補助ポンプ16に接続されている。なお、三方逆止弁の代わりに、第3の正極側流通配管L13の2つの分岐配管と第4の正極側流通配管L14の2つの分岐配管にそれぞれ開閉弁が設けられていてもよい。三方切替弁V11は、制御装置6により制御され、正極電解液の吐出先を第1のセルスタック4と第2のセルスタック5で切り替えることができる。
【0027】
これにより、充電時には、正極側バッファタンク15は、第1のセルスタック4から流出した正極電解液を一時的に貯留し、正極側補助ポンプ16は、その正極電解液を第2のセルスタック5に圧送することができる。また、放電時には、正極側バッファタンク15は、第2のセルスタック5から流出した正極電解液を一時的に貯留し、正極側補助ポンプ16は、その正極電解液を第1のセルスタック4に圧送することができる。
【0028】
また、レドックスフロー電池1は、負極側流体流通機構20として、第1の負極側タンク21と、第1の負極側ポンプ22と、第2の負極側タンク23と、第2の負極側ポンプ24と、負極側バッファタンク25と、負極側補助ポンプ26とを有している。
【0029】
第1の負極側タンク21は、SOCが相対的に低い負極電解液、すなわち、還元状態の負極活物質に比べて酸化状態の負極活物質が相対的に多い負極電解液を貯留し、第1の負極側流通配管L21を介して第1のセルスタック4に接続されている。第1の負極側ポンプ22は、第1の負極側タンク21に対応して設けられ、充電時に第1の負極側タンク21内の負極電解液を第1のセルスタック4に向けて送出する機能を有している。第1の負極側流通配管L21は、三方逆止弁(図示せず)を介して2つに分岐し、一方が第1の負極側タンク21の上部に接続され、他方が第1の負極側ポンプ22の吐出側に接続されている。これにより、第1の負極側流通配管L21内を流れる負極電解液の向きを充電時と放電時で切り替えることができる。なお、三方逆止弁の代わりに、第1の負極側流通配管L21の2つの分岐配管にそれぞれ開閉弁が設けられていてもよい。
【0030】
第2の負極側タンク23は、SOCが相対的に高い負極電解液、すなわち、酸化状態の負極活物質に比べて還元状態の負極活物質が相対的に多い負極電解液を貯留し、第2の負極側流通配管L22を介して第2のセルスタック5に接続されている。第2の負極側ポンプ24は、第2の負極側タンク23に対応して設けられ、放電時に第2の負極側タンク23内の負極電解液を第2のセルスタック5に向けて送出する機能を有している。第2の負極側流通配管L22は、三方逆止弁(図示せず)を介して2つに分岐し、一方が第2の負極側タンク23の上部に接続され、他方が第2の負極側ポンプ24の吐出側に接続されている。これにより、第2の負極側流通配管L22内を流れる負極電解液の向きを充電時と放電時で切り替えることができる。なお、三方逆止弁の代わりに、第2の負極側流通配管L22の2つの分岐配管にそれぞれ開閉弁が設けられていてもよい。
【0031】
負極側バッファタンク25とこれに対応する負極側補助ポンプ26は、第3の負極側流通配管L23を介して第1のセルスタック4に接続され、第4の負極側流通配管L24を介して第2のセルスタック5に接続されている。具体的には、第3の負極側流通配管L23は、三方逆止弁(図示せず)を介して2つに分岐し、一方が負極側バッファタンク25の上部に接続され、他方が三方切替弁V21を介して負極側補助ポンプ26の吐出側に接続されている。第4の負極側流通配管L24も、三方逆止弁(図示せず)を介して2つに分岐し、一方が負極側バッファタンク25の上部に接続され、他方が三方切替弁V21を介して負極側補助ポンプ26に接続されている。なお、三方逆止弁の代わりに、第3の負極側流通配管L23の2つの分岐配管と第4の負極側流通配管L24の2つの分岐配管にそれぞれ開閉弁が設けられていてもよい。三方切替弁V21は、制御装置6により制御され、負極電解液の吐出先を第1のセルスタック4と第2のセルスタック5で切り替えることができる。
【0032】
これにより、充電時には、負極側バッファタンク25は、第1のセルスタック4から流出した負極電解液を一時的に貯留し、負極側補助ポンプ26は、その負極電解液を第2のセルスタック5に圧送することができる。また、放電時には、負極側バッファタンク25は、第2のセルスタック5から流出した負極電解液を一時的に貯留し、負極側補助ポンプ26は、その負極電解液を第1のセルスタック4に圧送することができる。
【0033】
レドックスフロー電池1の充放電は、電力変換器2を介して各セルスタック4,5の電池セル60に充放電電流が流れることで行われる。それに応じて、制御装置6により各流体流通機構10,20が制御され、電解液の流れる向きが制御される。具体的には、充電時には、第1の正極側ポンプ12と第1の負極側ポンプ22が作動し、それにより、第1の正極側タンク11と第1の負極側タンク21からそれぞれ第1のセルスタック4に向けて電解液が送出される。そして、三方切替弁V11,V21が切り替えられることで、補助ポンプ16,26による電解液の吐出先がそれぞれ第2のセルスタック5に切り替えられる。また、放電時には、第2の正極側ポンプ14と第2の負極側ポンプ24が作動し、それにより、第2の正極側タンク13と第2の負極側タンク23からそれぞれ第2のセルスタック5に向けて電解液が送出される。そして、三方切替弁V11,V21が切り替えられることで、補助ポンプ16,26による電解液の吐出先がそれぞれ第1のセルスタック4に切り替えられる。
【0034】
したがって、充電時には、第1の正極側タンク11内の正極電解液と第1の負極側タンク21内の負極電解液がそれぞれ第1のセルスタック4に供給される。第1のセルスタック4の正極セル62内では、正極電解液のSOCが上昇する酸化反応が連続的に進行し、負極セル64内では、負極電解液のSOCが上昇する還元反応が連続的に進行する。こうして、第1のセルスタック4での充電動作を経てSOCが相対的に高くなった正極電解液は、正極側バッファタンク15に一時的に貯留された後、正極側補助ポンプ16の作動により、第2のセルスタック5に供給される。また、第1のセルスタック4での充電動作を経てSOCが相対的に高くなった負極電解液は、負極側バッファタンク25に一時的に貯留された後、負極側補助ポンプ26の作動により、同じく第2のセルスタック5に供給される。そして、第2のセルスタック5では、第1のセルスタック4と同様に、正極電解液の酸化反応と負極電解液の還元反応がそれぞれ連続的に進行する。こうして、第2のセルスタック5での充電動作を経てSOCがさらに相対的に高くなった正極電解液は、第2の正極側タンク13に貯留され、第2のセルスタック5での充電動作を経てSOCがさらに相対的に高くなった負極電解液は、第2の負極側タンク23に貯留される。
【0035】
一方、放電時には、第2の正極側タンク13内の正極電解液と第2の負極側タンク23内の負極電解液がそれぞれ第2のセルスタック5供給される。第2のセルスタック5の正極セル62内では、正極電解液のSOCが低下する還元反応が連続的に進行し、負極セル64内では、負極電解液のSOCが低下する酸化反応が連続的に進行する。こうして、第2のセルスタック5での放電動作を経てSOCが相対的に低くなった正極電解液は、正極側バッファタンク15に一時的に貯留された後、正極側補助ポンプ16の作動により、第1のセルスタック4に供給される。また、第2のセルスタック5での放電動作を経てSOCが相対的に低くなった負極電解液は、負極側バッファタンク25に一時的に貯留された後、負極側補助ポンプ26の作動により、同じく第1のセルスタック4に供給される。そして、第1のセルスタック4では、第2のセルスタック5と同様に、正極電解液の還元反応と負極電解液の酸化反応がそれぞれ連続的に進行する。こうして、第1のセルスタック4での放電動作を経てSOCがさらに相対的に低くなった正極電解液は、第1の正極側タンク11に貯留され、第2のセルスタック5での放電動作を経てSOCがさらに相対的に低くなった負極電解液は、第1の負極側タンク21に貯留される。
【0036】
本実施形態によれば、各セルスタック4,5を構成する複数の電池セル60の一部、具体的には、セルグループ7内の複数の電池セル60は、互いに流体的に直列に接続されている。これにより、各セルスタック4,5の全ての電池セル60が流体的に並列に接続される場合に比べて、シャントカレントロスを低減してエネルギー効率を向上させることができる。また、こうした流路構成により、レドックスフロー電池1の運転をより定常状態に近づけることができる。そのため、SOCの典型的な使用範囲が20~80%であると考えられるところ、それよりも広範囲(例えば、5~95%)のSOCにわたって充放電を行うことが可能になり、電解液の有効利用率を高めることができる。
【0037】
加えて、本実施形態では、第1のセルスタック4と第2のセルスタック5との間に補助ポンプ16,26が設けられている。これにより、高出力化の要求に応じて2つのセルスタック4,5が設けられたことに伴い、各電解液が2つのセルスタック4,5を直列に通過するために必要な圧力が増加したとしても、その一部を補助ポンプ16,26に負担させることができる。その結果、充電時には、第1の正極側ポンプ12と第1の負極側ポンプ22の吐出圧力がそれぞれ過度に上昇することを抑制することができ、放電時には、第2の正極側ポンプ14と第2の負極側ポンプ24の吐出圧力がそれぞれ過度に上昇することを抑制することができる。こうして、高出力と高効率を両立するRFBシステム100を実現することができる。
【0038】
ポンプ12,14,22,24,16,26の性能が許せば、各セルスタック4,5を構成する全ての電池セル60が互いに流体的に直列に接続されていてもよい。ただし、このような構成は、電解液がセルスタック4,5を通過する際の圧力損失が必然的に大きくなり、より大きなポンプ動力が必要となるため、コスト面で好ましくない。したがって、必要なポンプ動力の増大を極力抑制しながらシャントカレントロスの低減が可能になる点で、本実施形態のように、セルグループ7内でのみ複数の電池セル60が互いに流体的に直列に接続されていることが好ましい。
【0039】
正極側バッファタンク15は必ずしも設けられている必要はなく、正極側補助ポンプ16の吸込側には、三方切替弁を介して第3および第4の正極側流通配管L13,L14が接続されていてもよい。同様に、負極側バッファタンク25は必ずしも設けられている必要はなく、負極側補助ポンプ26の吸込側には、三方切替弁を介して第3および第4の負極側流通配管L23,L24が接続されていてもよい。ただし、安定的に運転を継続するという観点からは、本実施形態のように、各セルスタック4,5から流出した電解液をバッファタンク15,25に一時的に貯留した後、補助ポンプ16,26で送り出すことが好ましい。
【0040】
本実施形態では、2つのセルスタック4,5での放電動作を経てSOCが最も低くなった電解液は、それぞれ専用のタンク11,21に貯留され、2つのセルスタック4,5での充電動作を経てSOCが最も高くなった電解液も、それぞれ専用のタンク13,23に貯留される。そのため、各タンク11,13,21,23の容積が必然的に大きくなる。バッファタンク15,25が設けられていることは、こうした大型の専用タンクの代わりに、より小型の複数の共用タンクを使用することを可能にし、それにより、タンク配置の自由度を高めてレドックスフロー電池1の設置面積の低減が期待できる点でも好ましい。
【0041】
以下、図4を参照して、複数の共用タンクによる電解液の貯留動作について説明する。図4は、3つの共用タンクを用いた場合の電解液の貯留動作を示す模式図であり、レドックスフロー電池の充電が状態Iから状態VIIへと進むにつれて共用タンク内の電解液が変化する様子を示している。なお、以下の説明は、当然ながら、正極電解液と負極電解液のいずれにも該当し、放電時の電解液の貯留動作にも該当する。また、以下の説明を含め、これ以降、2つのセルスタック4,5での充電動作を経てSOCが最も高くなった状態を「高SOC」といい、2つのセルスタック4,5での放電動作を経てSOCが最も低くなった状態を「低SOC」という場合があり、2つのセルスタック4,5のうち1つのセルスタックでの充電動作または放電動作を経た後のSOCが中間の状態を「中間SOC」という場合がある。
【0042】
全ての共用タンクに低SOCの電解液が貯留された状態で充電は開始され(状態I)、右側の共用タンクから第1のセルスタックに低SOCの電解液が供給される。充電が進むと、第1のセルスタックでの充電動作を経た中間SOCの電解液が一時的にバッファタンクに貯留されることで、右側の共用タンクが空になる(状態II)。右側の共用タンクが空になると、中央の共用タンクから低SOCの電解液が供給され始め、空になった右側の共用タンクには、バッファタンクから第2のセルスタックを経た高SOCの電解液が貯留される(状態III)。さらに、充電が進むと、右側の共用タンクに高SOCの電解液が貯留され続ける一方、中央の共用タンクが空になり、左側の共用タンクからの低SOCの電解液の供給が開始される(状態IV)。そして、右側の共用タンクが高SOCの電解液で満たされると、中央の共用タンクに高SOCの電解液が貯留される(状態V)。その後、左側の共用タンクが空になると(状態VI)、中央の共用タンクが高SOCの電解液が満たされた後、左側の共用タンクに高SOCの電解液が貯留される。最終的に、左側の共用タンクが高SOCの電解液で満たれると(状態VII)、充電は終了する。こうして、低SOCの電解液と高SOCの電解液を貯留するために、それぞれの共用タンクが共用される。
【0043】
一般に、レドックスフロー電池では、電池反応に伴う発熱によって電解液の温度が上昇すると、電解液が劣化して電池性能の低下を招いたり、電池セルの構成要素(セルフレームや双極板など)が熱によるダメージを受けたりするおそれがある。このような温度上昇は、本実施形態のようにセルグループ7内の複数の電池セル60を電解液が直列に流れる構成で顕著になる可能性がある。これは、本実施形態のような構成では、セルスタック内の全ての電池セルを電解液が並列に流れる構成に比べて、反応量に対する電解液の流量が相対的に小さくなるためである。このため、正極側流体流通機構10の各流通配管L11~L14には、図示したように、各セルスタック4,5から流出する正極電解液を冷却する熱交換器H1~H4が設けられていることが好ましい。同様に、負極側流体流通機構20の各流通配管L21~L24には、図示したように、各セルスタック4,5から流出する負極電解液を冷却する熱交換器H5~H8が設けられていることが好ましい。
【0044】
(第2の実施形態)
図5は、本発明の第2の実施形態に係るレドックスフロー電池の概略構成図である。本実施形態は、レドックスフロー電池の充放電を制御するためにその運転状態を把握するための測定機器が新たに設けられている点で第1の実施形態と異なっている。また、本実施形態は、正極側流体流通機構および負極側流体流通機構のそれぞれに電解液の流れを切り替えるための配管が追加されている点でも、第1の実施形態と異なっている。以下、そうした相違点を中心に説明する。
【0045】
レドックスフロー電池1の運転開始から定常運転に達するまでの間、あるいは運転中に運転条件を変更してから再び定常運転に達するまでの間には、未反応の活物質を多く含む電解液がセルスタック4,5から流出することがある。その場合、充電時には、高SOCの電解液用のタンク13,23に、所望のSOC(例えば、80~95%)よりも低いSOCの電解液が貯留されることになる。同様に、放電時には、低SOCの電解液用のタンク11,21に、所望のSOC(例えば、5~20%)よりも高いSOCの電解液が貯留されることになる。このようなSOCの異なる電解液の混合は、充放電効率の観点から好ましくない。そこで、本実施形態では、制御装置6が、レドックスフロー電池1の運転状態に応じて充放電量を調整することでセルスタック4,5から流出する電解液のSOCを調整するSOC制御を実行する。そのために、レドックスフロー電池1は、その運転状態を把握するためのいくつかの測定機器を備えている。
【0046】
具体的には、レドックスフロー電池1は、第4の正極側流通配管L14に設けられた第1の正極側流量計31と、第4の負極側流通配管L24に設けられた第1の負極側流量計41と、第4の正極側流通配管L14と第4の負極側流通配管L24との間に設けられた第1の電位差測定装置51とを有している。
【0047】
第1の正極側流量計31は、充電時に第2のセルスタック5に流入する正極電解液の流量を測定する機能を有し、第1の負極側流量計41は、充電時に第2のセルスタック5に流入する負極電解液の流量を測定する機能を有している。第1の電位差測定装置51は、電池セル60と同様に構成され、充電時に第4の正極側流通配管L14から抜き出された正極電解液と第4の負極側流通配管L24から抜き出された負極電解液とが供給されるモニタセルを有している。第1の電位差測定装置51は、そのモニタセルの開放電圧を計測することで、充電時に第2のセルスタック5に流入する正極電解液と負極電解液との電位差を測定する機能を有している。なお、第1の電位差測定装置51のモニタセルとして、第2のセルスタック5内の一部の電池セル60を用いてもよく、その場合、一部の電池セル60は、他の電池セル60とは電気的に分離されて充放電には寄与しない。また、第1の電位差測定装置51は、モニタセルを有するものに限定されず、他の公知の技術を用いて上記電位差を測定するようになっていてもよい。
【0048】
また、レドックスフロー電池1は、第3の正極側流通配管L13に設けられた第2の正極側流量計32と、第3の負極側流通配管L23に設けられた第2の負極側流量計42と、第3の正極側流通配管L13と第3の負極側流通配管L23との間に設けられた第2の電位差測定装置52とを有している。
【0049】
第2の正極側流量計32は、放電時に第1のセルスタック4に流入する正極電解液の流量を測定する機能を有し、第2の負極側流量計42は、充電時に第1のセルスタック4に流入する負極電解液の流量を測定する機能を有している。第2の電位差測定装置52は、電池セル60と同様に構成され、放電時に第3の正極側流通配管L13から抜き出された正極電解液と第3の負極側流通配管L23から抜き出された負極電解液とが供給されるモニタセルを有している。第2の電位差測定装置52は、そのモニタセルの開放電圧を計測することで、放電時に第1のセルスタック4に流入する正極電解液と負極電解液との電位差を測定する機能を有している。なお、第2の電位差測定装置52のモニタセルとして、第1のセルスタック5内の一部の電池セル60を用いてもよく、その場合、一部の電池セル60は、他の電池セル60とは電気的に分離されて充放電には寄与しない。また、第2の電位差測定装置52は、モニタセルを有するものに限定されず、他の公知の技術を用いて上記電位差を測定するようになっていてもよい。
【0050】
充電時には、制御装置6は、第1の正極側流量計31、第1の負極側流量計41、および、第1の電位差測定装置51の測定値に基づいて、セルスタック部3への充電量、すなわち、セルスタック4,5への充電電流と各電解液の流量とを調整する。具体的には、制御装置6は、まず、第1の電位差測定装置51の測定値に基づいて、第2のセルスタック5に流入する各電解液のSOCを算出する。このときの電解液のSOCは、例えば、正極電解液と負極電解液との電位差とSOCとの相関関係を予め取得しておき、その相関関係に基づいて算出することができる。そして、制御装置6は、第2のセルスタック5に流入する各電解液のSOC(算出値)および流量(測定値)に基づいて、第2のセルスタック5から流出する各電解液のSOCが目標値(例えば、80~95%)以上になるように、電力変換器2を制御するとともに、各流体流通機構10,20、すなわち、ポンプ12,14,22,24,16,26を制御する。こうして、レドックスフロー電池1の運転状態に応じて、セルスタック4,5への充電電流と各電解液の流量とが調整され、それにより、第2のセルスタック5から流出する各電解液のSOCが所望の値になるように調整される。
【0051】
一方、放電時には、制御装置6は、第2の正極側流量計32、第2の負極側流量計42、および、第2の電位差測定装置52の測定値に基づいて、セルスタック部3からの放電量、すなわち、セルスタック4,5からの放電電流と各電解液の流量とを調整する。具体的には、制御装置6は、まず、第2の電位差測定装置52の測定値に基づいて、第1のセルスタック4に流入する各電解液のSOCを算出する。このときの電解液のSOCは、例えば、上述したのと同様の方法で算出することができる。そして、制御装置6は、第1のセルスタック4に流入する各電解液のSOC(算出値)および流量(測定値)に基づいて、第1のセルスタック4から流出する各電解液のSOCが目標値(例えば、5~20%)以下になるように、電力変換器2を制御するとともに、各流体流通機構10,20、すなわち、ポンプ12,14,22,24,16,26を制御する。こうして、レドックスフロー電池1の運転状態に応じて、セルスタック4,5からの放電電流と各電解液の流量とが調整され、それにより、第1のセルスタック4から流出する各電解液のSOCが所望の値になるように調整される。
【0052】
制御装置6による電解液のSOC制御は、上述したフィードフォワード的な制御(第1のSOC制御)に限定されず、後述するように、フィードバック的な制御を組み合わせた制御(第2のSOC制御)であってもよい。そのために、レドックスフロー電池1は、さらにいくつかの測定機器を備えている。
【0053】
具体的には、レドックスフロー電池1は、第2の正極側流通配管L12に設けられた第3の正極側流量計33と、第2の負極側流通配管L22に設けられた第3の負極側流量計43と、第2の正極側流通配管L12と第2の負極側流通配管L22との間に設けられた第3の電位差測定装置53とを有している。
【0054】
第3の正極側流量計33は、充電時に第2のセルスタック5から流出する正極電解液の流量を測定する機能を有し、第3の負極側流量計43は、充電時に第2のセルスタック5から流出する負極電解液の流量を測定する機能を有している。第3の電位差測定装置53は、電池セル60と同様に構成され、充電時に第2の正極側流通配管L12から抜き出された正極電解液と第2の負極側流通配管L22から抜き出された負極電解液とが供給されるモニタセルを有している。第3の電位差測定装置53は、そのモニタセルの開放電圧を計測することで、充電時に第2のセルスタック5から流出する正極電解液と負極電解液との電位差を測定する機能を有している。なお、第3の電位差測定装置53のモニタセルとして、第2のセルスタック5内の一部の電池セル60を用いてもよく、その場合、一部の電池セル60は、他の電池セル60とは電気的に分離されて充放電には寄与しない。また、第3の電位差測定装置53は、モニタセルを有するものに限定されず、他の公知の技術を用いて上記電位差を測定するようになっていてもよい。
【0055】
また、レドックスフロー電池1は、第1の正極側流通配管L11に設けられた第4の正極側流量計34と、第1の負極側流通配管L21に設けられた第4の負極側流量計44と、第1の正極側流通配管L11と第1の負極側流通配管L21との間に設けられた第4の電位差測定装置54とを有している。
【0056】
第4の正極側流量計34は、放電時に第1のセルスタック4から流出する正極電解液の流量を測定する機能を有し、第4の負極側流量計44は、充電時に第1のセルスタック4から流出する負極電解液の流量を測定する機能を有している。第4の電位差測定装置54は、電池セル60と同様に構成され、放電時に第1の正極側流通配管L11から抜き出された正極電解液と第1の負極側流通配管L21から抜き出された負極電解液とが供給されるモニタセルを有している。第4の電位差測定装置54は、そのモニタセルの開放電圧を計測することで、放電時に第1のセルスタック4から流出する正極電解液と負極電解液との電位差を測定する機能を有している。なお、第4の電位差測定装置54のモニタセルとして、第1のセルスタック4内の一部の電池セル60を用いてもよく、その場合、一部の電池セル60は、他の電池セル60とは電気的に分離されて充放電には寄与しない。また、第4の電位差測定装置54は、モニタセルを有するものに限定されず、他の公知の技術を用いて上記電位差を測定するようになっていてもよい。
【0057】
フィードフォワード的な制御とフィードバック的な制御とを組み合わせた第2のSOC制御は、充電時と放電時でそれぞれ以下のように行われる。
【0058】
充電時には、制御装置6は、第1および第3の正極側流量計31,33、第1および第3の負極側流量計41,43、および、第1および第3の電位差測定装置51,53の測定値に基づいて、セルスタック部3への充電量、すなわち、セルスタック4,5への充電電流と各電解液の流量とを調整する。具体的には、制御装置6は、まず、第1の電位差測定装置51の測定値に基づいて、第2のセルスタック5に流入する各電解液のSOCを算出し、第3の電位差測定装置53の測定値に基づいて、第2のセルスタック5から流出する各電解液のSOCを算出する。このときの電解液のSOCは、例えば、上述したのと同様の方法で算出することができる。そして、制御装置6は、第2のセルスタック5に流入する各電解液のSOC(算出値)および流量(測定値)と、第2のセルスタック5から流出する各電解液のSOC(算出値)および流量(測定値)とに基づいて、第2のセルスタック5から流出する各電解液のSOCが目標値(例えば、80~95%)以上になるように、電力変換器2を制御するとともに、各流体流通機構10,20、すなわち、ポンプ12,14,22,24,16,26を制御する。こうして、レドックスフロー電池1の運転状態に応じて、セルスタック4,5への充電電流と各電解液の流量とが調整され、それにより、第2のセルスタック5から流出する各電解液のSOCが所望の値になるように調整される。
【0059】
一方、放電時には、制御装置6は、第2および第4の正極側流量計32,34、第2および第4の負極側流量計42,44、および、第2および第4の電位差測定装置52,54の測定値に基づいて、セルスタック部3からの放電量、すなわち、セルスタック4,5からの放電電流と各電解液の流量とを調整する。具体的には、制御装置6は、まず、第2の電位差測定装置52の測定値に基づいて、第1のセルスタック4に流入する各電解液のSOCを算出し、第4の電位差測定装置54の測定値に基づいて、第1のセルスタック4から流出する各電解液のSOCを算出する。このときの電解液のSOCは、例えば、上述したのと同様の方法で算出することができる。そして、制御装置6は、第1のセルスタック4に流入する各電解液のSOC(算出値)および流量(測定値)と、第1のセルスタック4から流出する各電解液のSOC(算出値)および流量(測定値)とに基づいて、第1のセルスタック4から流出する各電解液のSOCが目標値(例えば、5~20%)以下になるように、電力変換器2を制御するとともに、各流体流通機構10,20、すなわち、ポンプ12,14,22,24,16,26を制御する。こうして、レドックスフロー電池1の運転状態に応じて、セルスタック4,5からの放電電流と各電解液の流量とが調整され、それにより、第1のセルスタック4から流出する各電解液のSOCが所望の値になるように調整される。
【0060】
なお、上述した2つのSOC制御では、必ずしも調整代を大きく確保できるわけではないため、場合によっては、レドックスフロー電池1の運転状態の変化に対応できず、所望のSOC制御が困難になることも考えられる。そのような場合を想定して、2つのセルスタック4,5のうち1つのセルスタックでの充電動作または放電動作を経た中間SOCの電解液の少なくとも一部を、そのセルスタックの上流側に還流させるようになっていてもよい。すなわち、正極側流体流通機構10が、図示したように、第4の正極側流通配管L14と第1の正極側流通配管L11とを接続する第1の正極側還流配管L15と、第3の正極側流通配管L13と第2の正極側流通配管L12とを接続する第2の正極側還流配管L16とを有していてもよい。また、負極側流体流通機構20が、第4の負極側流通配管L24と第1の負極側流通配管L21とを接続する第1の負極側還流配管L25と、第3の負極側流通配管L23と第2の負極側流通配管L22とを接続する第2の負極側還流配管L26とを有していてもよい。
【0061】
第1の正極側還流配管L15は、三方切替弁V12を介して第4の正極側流通配管L14に接続され、充電時に正極側補助ポンプ16から吐出された正極電解液を第1の正極側流通配管L11に還流させる機能を有している。第2の正極側還流配管L16は、三方切替弁V13を介して第3の正極側流通配管L13に接続され、放電時に正極側補助ポンプ16から吐出された正極電解液を第2の正極側流通配管L12に還流させる機能を有している。第1の負極側還流配管L25は、三方切替弁V22を介して第4の負極側流通配管L24に接続され、充電時に負極側補助ポンプ26から吐出された負極電解液を第1の負極側流通配管L21に還流させる機能を有している。第2の負極側還流配管L26は、三方切替弁V23を介して第3の負極側流通配管L23に接続され、放電時に負極側補助ポンプ26から吐出された負極電解液を第2の負極側流通配管L22に還流させる機能を有している。
【0062】
電解液の還流動作は、第2のSOC制御の実行中に行われることが好ましい。それを行うか否かは、2つのセルスタック4,5での充電動作または放電動作を経た電解液のSOC(算出値)が目標値と比較され、そのSOCが目標値に達するか否か、あるいは、目標値に達することが予測されるか否かに基づいて判断される。
【0063】
すなわち、充電時には、充電量の調整を行っても、第2のセルスタック5から流出する各電解液のSOC(算出値)が目標値(例えば、80~95%)以上にならない場合、あるいは、目標値にならないことが予測される場合に、各電解液の還流動作が実行される。具体的には、三方切替弁V12が切り替えられることで、第4の正極側流通配管L14を流れる正極電解液の少なくとも一部が、第1の正極側還流配管L15を介して第1のセルスタック4の上流側に還流する。また、三方切替弁V22が切り替えられることで、第4の負極側流通配管L24を流れる負極電解液の少なくとも一部が、第1の負極側還流配管L25を介して第1のセルスタック4の上流側に還流する。
【0064】
一方、放電時には、放電量の調整を行っても、第1のセルスタック4から流出する各電解液のSOC(算出値)が目標値(例えば、5~20%)以下にならない場合、あるいは、目標値にならないことが予測される場合に、各電解液の還流動作が実行される。具体的には、三方切替弁V13が切り替えられることで、第3の正極側流通配管L13を流れる正極電解液の少なくとも一部が、第2の正極側還流配管L16を介して第2のセルスタック5の上流側に還流する。また、三方切替弁V23が切り替えられることで、第3の負極側流通配管L13を流れる負極電解液の少なくとも一部が、第2の負極側還流配管L26を介して第2のセルスタック5の上流側に還流する。
【0065】
(第3の実施形態)
図6は、本発明の第3の実施形態に係るレドックスフロー電池の概略構成図である。本実施形態は、レドックスフロー電池の運転状態を把握するためのさらなる測定機器と、その運転状態を改善するための機構が新たに設けられている点で第2の実施形態と異なっている。以下、そうした相違点を中心に説明する。なお、図6では、便宜上、図5に示す還流配管の図示を省略している。
【0066】
ところで、レドックスフロー電池では、特にSOCが高い状態での充電時に、負極電極において水素ガスが発生する副反応が起こることがある。このような水素ガスの発生は、正極電解液のSOCと負極電解液のSOCとのバランスの崩れを引き起こし、ひいては電池容量の低下を引き起こすおそれがある。そのため、レドックスフロー電池の運転中には、正極電解液と負極電解液との間でSOCのバランスが崩れているか否かを監視することが好ましく、バランスが崩れている場合には、それを適宜調整することが好ましい。なお、正極電解液のSOCと負極電解液のSOCのバランスを調整することは、各セルスタック4,5を流通する正極電解液と負極電解液との間でSOCのバランスが取れていることを前提とする第2の実施形態のSOC制御を適切に実行するためにも好ましい。
【0067】
そこで、レドックスフロー電池1は、電解液間でSOCのバランスが崩れているか否かを監視するために、4つの電位差測定装置55~58をさらに有している。すなわち、レドックスフロー電池1は、第2の正極側流通配管L12に設けられた第5の電位差測定装置55と、第2の負極側流通配管L22に設けられた第6の電位差測定装置56と、第1の正極側流通配管L11に設けられた第7の電位差測定装置57と、第1の負極側流通配管L21に設けられた第8の電位差測定装置58とを有している。そして、制御装置6は、これらの測定値に加え、第1から第4の正極側流量計31~34、第1から第4の負極側流量計41~44、および第1から第4の電位差測定装置51~54の測定値に基づいて、電解液間でSOCのバランスが崩れているか否かを判定する。
【0068】
第5の電位差測定装置55は、電池セル60と同様に構成され、充電時に第4の正極側流通配管L14から抜き出された正極電解液と第2の正極側流通配管L12を流れる正極電解液とが供給されるモニタセルを有している。第5の電位差測定装置55は、そのモニタセルの開放電圧を計測することで、充電時に第2のセルスタック5に流入する正極電解液と第2のセルスタック5から流出する正極電解液との電位差を測定する機能を有している。第6の電位差測定装置56は、電池セル60と同様に構成され、充電時に第4の負極側流通配管L24から抜き出された負極電解液と第2の負極側流通配管L22を流れる負極電解液とが供給されるモニタセルを有している。第6の電位差測定装置56は、そのモニタセルの開放電圧を計測することで、充電時に第2のセルスタック5に流入する負極電解液と第2のセルスタック5から流出する負極電解液との電位差を測定する機能を有している。なお、第5の電位差測定装置55と第6の電位差測定装置56は、それぞれモニタセルを有するものに限定されず、他の公知の技術を用いて上記電位差を測定するようになっていてもよい。
【0069】
第7の電位差測定装置57は、電池セル60と同様に構成され、放電時に第3の正極側流通配管L13から抜き出された正極電解液と第1の正極側流通配管L11を流れる正極電解液とが供給されるモニタセルを有している。第7の電位差測定装置57は、そのモニタセルの開放電圧を計測することで、放電時に第1のセルスタック4に流入する正極電解液と第1のセルスタック4から流出する正極電解液との電位差を測定する機能を有している。第8の電位差測定装置58は、電池セル60と同様に構成され、放電時に第3の負極側流通配管L23から抜き出された負極電解液と第1の負極側流通配管L21を流れる負極電解液とが供給されるモニタセルを有している。第8の電位差測定装置58は、そのモニタセルの開放電圧を計測することで、放電時に第1のセルスタック4に流入する負極電解液と第1のセルスタック4から流出する負極電解液との電位差を測定する機能を有している。なお、第7の電位差測定装置57と第8の電位差測定装置58は、それぞれモニタセルを有するものに限定されず、他の公知の技術を用いて上記電位差を測定するようになっていてもよい。
【0070】
正極電解液と負極電解液との間でSOCのバランスが取れていれば、各セルスタック4,5を通過する前後での正極電解液のSOC差と負極電解液のSOC差とは同じはずである。一方で、上述したように、正極電解液と負極電解液との電位差とSOCとの間には相関関係があることが知られているが、各電解液の電位(水素電位を基準とした電位)とSOCとの間にもそれぞれ相関関係があることが知られている。また、正極電解液のSOCに対する電位の変化と、負極電解液のSOCに対する電位の変化は、正負の符号を除いて実質的に同じであることも知られている。したがって、正極電解液と負極電解液との間でSOCのバランスが取れていれば、各セルスタック4,5を通過する前後での正極電解液の電位差と負極電解液の電位差とは、正負の符号を除いて実質的に同じはずである。この考え方に基づけば、各セルスタック4,5を通過する前後での正極電解液の電位差と負極電解液の電位差との絶対値の差を見ることで、正極電解液と負極電解液との間でSOCのバランスが崩れているか否かを判断することができる。ただし、実際には、レドックスフロー電池1の運転中に正負極間で電解液の移動(クロスオーバー)が生じることがあるため、その判断には、レドックスフロー電池1の運転状態を示す他の指標も考慮する必要がある。
【0071】
このため、電解液間でSOCのバランスが崩れているか否かは、上述したように、第5から第8の電位差測定装置55~58の測定値に加え、第1から第4の正極側流量計31~34、第1から第4の負極側流量計41~44、および第1から第4の電位差測定装置51~54の測定値に基づいて判断される。具体的には、充電時には、まず、第5の電位差測定装置55の測定値と第6の電位差測定装置56の測定値との差(すなわち、第2のセルスタック5を通過する前後での正極電解液の電位差と負極電解液の電位差との差)が算出される。そして、算出された差と、第1および第3の正極側流量計31,33、第1および第3の負極側流量計41,43、および、第1および第3の電位差測定装置51,53の測定値とに基づいて、電解液間でSOCのバランスが崩れているか否かが判定され、それにより、そのバランスを調整する必要があるか否かが判断される。一方、放電時には、まず、第7の電位差測定装置57の測定値と第8の電位差測定装置58の測定値との差(すなわち、第2のセルスタック5を通過する前後での正極電解液の電位差と負極電解液の電位差との差)が算出される。そして、算出された差と、第2および第4の正極側流量計32,34、第2および第4の負極側流量計42,44、および、第2および第4の電位差測定装置52,54の測定値とに基づいて、電解液間でSOCのバランスが崩れているか否かが判定され、それにより、そのバランスを調整する必要があるか否かが判断される。
【0072】
こうして、制御装置6により電極液間のSOCのバランスを調整する必要があると判断されると、必要に応じて充電時または放電時に、上述したように、SOCのバランスを調整するための処理が実行されることが好ましい。そのために、レドックスフロー電池1は、再生装置71と、燃料電池セルユニット72とを有している。
【0073】
再生装置71は、充電時にSOCのバランス調整を行うものであり、正極電解液中の正極活物質を還元することで電解液を再生する機能を有している。再生装置71は、上流側では、三方切替弁V14を介して第4の正極側流通配管L14に接続され、下流側では正極側バッファタンク15に接続されている。制御装置6により電極液間のSOCのバランスを調整する必要があると判断されると、充電時に、三方切替弁V14が切り替えられ、正極側補助ポンプ16から吐出された正極電解液の少なくとも一部が再生装置71に供給される。再生装置71では、正極電解液中の正極活物質が還元されることで正極電解液が再生され、再生された正極電解液は、正極側バッファタンク15に還流されて貯留される。なお、再生装置71は、上述した機能を有する限り、公知の任意の構成を有していてよい。
【0074】
燃料電池セルユニット72は、放電時にSOCのバランス調整を行うものであり、正極活物質および水素ガスの酸化還元反応を利用して充放電を行う電池セル(別の電池セル)を有している。詳細は図示しないが、燃料電池セルユニット72の電池セルは、正極電極を収容し、正極活物質を含む正極電解液が供給される正極セルと、負極電極を収容し、水素ガスが供給される負極セルと、正極セルと負極セルとを分離する隔膜とを有している。正極セルでは、酸化状態の正極活物質が還元状態に変化する還元反応が起こり、負極セルでは、水素ガスが水素イオンと電子に解離する酸化反応が起こる。正極セルには、三方切替弁V15を介して第2の正極側流通配管L12から正極電解液が供給される一方、負極セルには、第2の負極側流通配管L22に設けられた水素回収装置73から水素ガスが供給される。水素回収装置73は、充電時に第2のセルスタック5から流出する負極電解液から水素ガスを分離して回収するものであり、負極電解液から水素ガスを分離する気液分離部74と、気液分離部74で分離された水素ガスを回収して貯蔵する水素貯蔵部75とを有している。水素貯蔵部75は、水素ガスを貯蔵し、必要に応じて燃料電池セルユニット72に供給できるようになっている限り、公知の任意の構成を有していてよい。
【0075】
制御装置6により電極液間のSOCのバランスを調整する必要があると判断されると、三方切替弁V15が切り替えられ、第2の正極側ポンプ14から吐出された正極電解液の少なくとも一部が燃料電池セルユニット70に供給される。燃料電池セルユニット70では、水素回収装置73の水素貯槽部75ガスから供給された水素ガスとの還元反応を通じて正極電解液が再生される。再生された正極電解液は、第2のセルスタック5をバイパスして第4の正極側流通配管L14に合流し、正極側バッファタンク15に貯留される。このような燃料電池セルユニット70によるSOCのバランス調整は、再生装置71によるものとは異なり、稼働のための電力を必要としない点で有利である。水素回収装置73の代わりに、別の水素ガス供給源が設けられていてもよいが、上述した副反応により発生する水素ガスを回収することができ、それにより、正極電解液と負極電解液との間でSOCのバランスが崩れることも抑制することができる点で、水素回収装置73が設けられていることが好ましい。
【0076】
なお、上述したように、レドックスフロー電池1の運転中にはクロスオーバーが生じることがあるため、運転が長期間にわたると、正極電解液と負極電解液との液量差が大きくなり、電池容量の低下を引き起こすおそれがある。このような液量差を是正するために、第1の正極側11タンクと第1の負極側タンク21は流体的に接続されていることが好ましい。すなわち、第1の正極側11タンクと第1の負極側タンク21は、流体移送配管L1を介して接続されていることが好ましい。流体移送配管L1は、一方で三方切替弁V16を介して第1の正極側流通配管L11に接続され、他方で三方切替弁V24を介して第1の負極側流通配管L21に接続されている。制御装置6は、必要に応じて、正極側流体流通機構10内の正極電解液の総液量と負極側流体流通機構20内の負極電解液の総液量との差を監視し、その差が所定値以上になった場合に、タンク11,21間で電解液を移送させる。具体的には、三方切替弁V16,V24が切り替えられ、第1の正極側ポンプ12の作動により、第1の正極側11タンク内の正極電解液が第1の負極側タンク21に移送されるか、あるいは、第1の負極側ポンプ22の作動により、第1の負極側タンク21内の負極電解液が第1の正極側11タンクに移送される。
【0077】
(第4の実施形態)
図7は、本発明の第4の実施形態に係るレドックスフロー電池の概略構成図である。本実施形態は、第1および第2のセルスタックに加え、別のセルスタックが設けられている点で第1の実施形態と異なっている。以下、そうした相違点を中心に説明する。
【0078】
上述した実施形態によれば、レドックスフロー電池1を定常的に運転することが好ましく、それにより、より広範囲のSOCにわたって充放電を行うことが可能になる。その反面、充放電の切り替えに比較的時間を要するため、例えば、再生可能エネルギーの短周期の出力変動に対応することは困難である。こうした課題に対応するために、本実施形態のレドックスフロー電池1は、第1および第2のセルスタック4,5とは電気的に独立した第3のセルスタック8を有している。
【0079】
第3のセルスタック8は、第1および第2のセルスタック4,5と同様に、正極活物質および負極活物質の酸化還元反応を利用して充放電を行うものであり、積層された複数の電池セル(別の電池セル)を有している。これら複数の電池セルの流体的な接続は、直列であっても並列であってもよく、あるいは、電池セル60と同様に、直列と並列の組み合わせであってもよい。第3のセルスタック8は、正極側往路配管L31を介して正極側補助ポンプ16の吐出側に接続され、正極側復路配管L32を介して正極側バッファタンク15の上部に接続されている。これにより、第3のセルスタック8と正極側バッファタンク15との間で正極電解液を循環させる正極側流体循環機構が構成され、したがって、正極側補助ポンプ16は、そのような正極側流体循環機構の循環ポンプとしても機能する。また、第3のセルスタック8は、負極側往路配管L41を介して負極側補助ポンプ26の吐出側に接続され、負極側復路配管L42を介して負極側バッファタンク25の上部に接続されている。これにより、第3のセルスタック8と負極側バッファタンク25との間で負極電解液を循環させる負極側流体循環機構が構成され、したがって、負極側補助ポンプ26は、そのような負極側流体循環機構の循環ポンプとしても機能する。
【0080】
このような構成により、本実施形態では、第1および第2のセルスタック4,5の充放電とは独立して、第3のセルスタック8の充放電を行うことができる。加えて、上述した流体循環機構により、第3のセルスタック8の充放電の切り替えを短時間で行うこともできる。その結果、第1および第2のセルスタック4,5により定常的な運転を行いながら、第3のセルスタック8により、例えば、再生可能エネルギーの短周期の出力変動に対応することもできる。
【符号の説明】
【0081】
100 レドックスフロー電池(RFB)システム
1 レドックスフロー電池
2 電力変換器
3 セルスタック部
4 第1のセルスタック
5 第2のセルスタック
6 制御装置
7 セルグループ
8 第3のセルスタック(別の電池セル)
10 正極側流体流通機構
11,13 正極側タンク
12,14 正極側ポンプ
15 正極側バッファタンク
16 正極側補助ポンプ
20 負極側流体流通機構
21,23 負極側タンク
22,24 負極側ポンプ
25 負極側バッファタンク
26 負極側補助ポンプ
31~34,41~44 流量計
51~58 電位差測定装置
60 電池セル
62 正極セル
64 負極セル
71 再生装置
72 燃料電池セルユニット(別の電池セル)
73 水素回収装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7