(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103650
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】人体用害虫忌避剤
(51)【国際特許分類】
A01N 47/16 20060101AFI20230720BHJP
A01N 37/18 20060101ALI20230720BHJP
A01P 17/00 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
A01N47/16 A
A01N37/18 Z
A01P17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004289
(22)【出願日】2022-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】000112853
【氏名又は名称】フマキラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】年光 良介
(72)【発明者】
【氏名】叶井 真美
(72)【発明者】
【氏名】枝松 広明
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AC06
4H011BA04
4H011BA05
4H011BB06
4H011BB13
4H011BC19
4H011DA16
4H011DG16
4H011DH16
4H011DH25
(57)【要約】
【課題】忌避有効成分の舞い散りがなく、手足や腕のみならず、顔や首筋にもムラなく均一に塗布でき、塗布後の肌のツッパリ感や刺激感が少なく、忌避有効成分の滞留性に優れ、かつ、経日安定性が良い人体用害虫忌避剤を提供する。
【解決手段】人体用害虫忌避剤は、忌避有効成分と、グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種又は2種のノニオン界面活性剤と、カルボキシル基を有する水溶性高分子と、水とを含んでいる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
忌避有効成分(a)と、グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種または2種以上のノニオン界面活性剤(b)と、水溶性高分子(c)と、水とを含む人体用害虫忌避剤。
【請求項2】
前記忌避有効成分(a)が、イカリジンおよびディートからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の人体用害虫忌避剤。
【請求項3】
前記グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる1種または2種以上のノニオン界面活性剤(b)のHLBが8~19であり、ノニオン界面活性剤(b)の濃度範囲が8~24質量%である、請求項1または2に記載の人体用害虫忌避剤。
【請求項4】
前記水溶性高分子(c)の濃度は、人体用害虫忌避剤の全質量に対して0.01~2質量%である、請求項1から3のいずれか1つに記載の人体用害虫忌避剤。
【請求項5】
前記グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルからある群から選ばれる1種または2種以上のノニオン界面活性剤(b)の濃度と、前記忌避有効成分(a)の濃度との濃度比(R=b/a)が、R=0.5~2.0である、請求項1から4のいずれか1つに記載の人体用害虫忌避剤。
【請求項6】
前記グリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンと脂肪酸のエステルであり、前記脂肪酸の炭素数は12以上で、前記グリセリン脂肪酸エステルのHLBが8以下である、請求項1から5のいずれか1つに記載の人体用害虫忌避剤。
【請求項7】
前記ポリオキシエチレン脂肪酸エステルは、ポリエチレングリコールと脂肪酸のエステルであり、前記脂肪酸の炭素数は12以上で、前記ポリオキシエチレン脂肪酸エステルのHLBが9以上である、請求項1から6のいずれか1つに記載の人体用害虫忌避剤。
【請求項8】
前記忌避有効成分(a)の濃度範囲が5~30質量%である、請求項1から7のいずれか1つに記載の人体用害虫忌避剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、人体用害虫忌避剤に関するものであり、詳しくは忌避有効成分の舞い散りがなく、手足のみならず、顔や首筋にもムラなく均一に塗布でき、使用時の肌のツッパリ感や刺激感が少なく、忌避有効成分の滞留性に優れ、かつ、経日安定性が良い人体用害虫忌避剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、肌に使用する、蚊をはじめとした害虫用の忌避剤(害虫忌避剤)は、有効成分(忌避有効成分)として、主にディートが汎用されている。しかしディートは揮発性が高く、肌に使用した際の滞留性が低いことから、上記のような忌避剤は持続性が低いという問題があり、持続性に優れた忌避剤についての検討が行われている。例えば特許文献1では、ディートとラウリン酸ヘキシルを用いる方法が提案されており、特許文献2では、乳化剤組成物とディートを配合する方法が提案されている。
【0003】
また、エアゾールやミストなどの液状で肌にスプレーして使用する忌避剤には、忌避有効成分の溶解性や分散性、さらには製剤の安定化を高めるため、エタノールや多価アルコールが高濃度で配合されることが多い。例えばイカリジンやディートは水には難溶であるが、エタノールには可溶であるため、エタノールを配合することで製剤の安定性が向上する。
【0004】
しかし、エタノールを含む忌避剤は、肌に適用したときに忌避有効成分が肌に滞留しにくい問題がある。また、エタノールを含むことで、使用者によっては刺激感や肌の乾燥感およびツッパリ感を感じることがある。
【0005】
多価アルコールを含む忌避剤は、安定化効果を得るために、高濃度の多価アルコールを配合することが必要で、肌に塗布したときにべたつき感やぬるつき感があり、使い勝手が悪いと感じることもある。また、エタノールを含む場合と同様、使用者が刺激を感じることがある。特許文献3では、多価アルコールの添加量を最小限にしたエタノールを含まない忌避剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-012414号公報
【特許文献2】特開平11-1404号公報
【特許文献3】特開2019-26603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の忌避剤は、エアゾールやミスト状のものが多く、消費者が使用時に舞い散った忌避有効成分を吸引することにより刺激を感じることがあった。また使用時の液だれなどの使い勝手の悪さを感じることもあり、製品使用上の注意表示に顔(眼や口の周囲)や首筋に使用しない様に記載している場合もある。さらに使用時に、忌避剤独特の肌のツッパリ感などの使用感の悪さを感じることもあった。
【0008】
加えて、忌避有効成分を均一に乳化・分散させるためには、高級アルコールや多価アルコールを高濃度に添加する必要があり、その結果忌避剤を肌に使用した際にべたつき感やぬるつき感が発生し、使用感が悪く感じることもある。
【0009】
上記のことから、忌避効果に優れ、持続性を訴求可能な高濃度忌避有効成分を含有する製剤は、界面活性剤、高級アルコールおよび多価アルコールを高濃度に添加するため、使用時にべたつき感やぬるつき感、並びに塗布後の肌のツッパリ感が生じてしまい、その結果、使用感および使い勝手がよく、しかも、高濃度に忌避成分を含有する忌避剤を得ることが困難であった。
【0010】
本開示は、かかる点に鑑みたものであり、その目的とするところは、舞い散りがなく、手足のみならず、顔や首筋にもムラなく均一に塗布でき、塗布時のべたつき感やぬるつき感、塗布後の肌のツッパリ感が少なく、忌避有効成分の滞留性に優れ、長期保存下でも分離などを生じず、しかも、良好な安定性を有する人体用害虫忌避剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の態様を有する。
【0012】
(1)忌避有効成分(a)と、グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる2種以上のノニオン界面活性剤(b)と、水溶性高分子(c)と、水とを含む人体用害虫忌避剤とすることができる。
【0013】
(2)前記忌避有効成分(a)が、イカリジンおよびディートからなる群から選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0014】
(3)前記グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる1種または2種以上のノニオン界面活性剤(b)のHLBが8~19、または9~16であってもよく、また、濃度範囲は8~24質量%、または9~20質量%であってもよい。
【0015】
(4)前記水溶性高分子(c)の濃度は、人体用害虫忌避剤の全質量に対して0.01~2質量%、または0.01~1質量%であってもよい。
【0016】
(5)前記のグリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる1種または2種以上のノニオン界面活性剤(b)の濃度の当該忌避有効成分(a)の濃度に対する濃度比(R=b/a)がR=0.5~2.0、またはR=0.6~1.6であってもよい。
【0017】
(6)前記のグリセリン脂肪酸エステルは、グリセリンと脂肪酸のエステルであり、脂肪酸の炭素数は12以上で、グリセリン脂肪酸エステルのHLBが8以下であってもよい。
【0018】
(7)前記のポリオキシエチレン脂肪酸エステルは、ポリエチレングリコールと脂肪酸のエステルであり、脂肪酸の炭素数は12以上で、POE脂肪酸エステルのHLBが9以上であってもよい。
【0019】
(8)前記の忌避有効成分(a)の濃度範囲が5~30質量%、または5~25質量%、または5~20質量%であってもよい。また、その他の成分を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本開示にかかる人体用害虫忌避剤は、使用時に舞い散りがなく、手足のみならず、顔や首筋にもムラなく均一に塗布でき、塗布時のべたつき感やぬるつき感、塗布後の肌のツッパリ感が少なく、忌避有効成分の滞留性に優れるとともに、長期保存下でも分離などを生じず、しかも、良好な安定性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0022】
本実施形態に係る人体用害虫忌避剤は、忌避有効成分(a)と、グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる1種または2種以上のノニオン界面活性剤(b)と、水溶性高分子(c)と、水とを含んでいる。水は例えば精製水である。人体用害虫忌避剤は、必要に応じて、他の成分を含んでいてもよい。人体用害虫忌避剤は、例えば容器等に収容された状態で害虫忌避製品として市場に流通させることができる。容器は、例えばスプレー容器、エアゾール容器等であってもよい。エアゾール容器の場合、人体用害虫忌避剤を噴射させる噴射剤も一緒に収容される。
【0023】
<忌避有効成分(a)>
忌避有効成分(a)は、害虫に対する忌避効果を有する成分である。害虫とは、例えば蚊などである。
【0024】
忌避有効成分(a)としては、害虫に対する忌避効果を有する成分であればよく、特に限定されるものではないが、例えばイカリジン、ディート(ジエチルトルアミド)、3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル(IR3535)、p-メンタン-3,8-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサジオール、ブチル3,4-ジヒドロ-2,2-ジメチル-4-オキソ-2H-ピラン-6-カルボキシレート、n-ヘキシルトリエチレングリコールモノエーテル、メチル6-n-ペンチル-シクロヘキセン-1-カルボキシレート、ジメチルフタレート、ユーカリプトール、α-ピネン、ゲラニオール、シトロネラール、カンファー、リナロール、テルペノール、カルボン、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、ナフタレン、桂皮、樟脳、レモングラス、クローバ、タチジャコウソウ、ジェラニウム、ベルガモント、月桂樹、松、アカモモ、ベニーロイアル、ユーカリ、インドセダン、等の害虫忌避成分;天然ピレトリン、ピレトリン、アレスリン、フタルスリン、レスメトリン、フラメトリン、フェノトリン、ペルメトリン、シフェノトリン、プラレトリン、エトフェンプロックス、エンペントリン、トランスフルトリン、等のピレスロイド系殺虫化合物等が挙げられる。これらはいずれか1種を単独で用いてもよいし、また任意の2種以上を組み合わせて(混合して)用いてもよい。
【0025】
忌避有効成分(a)としては、有用性の点で、水に難溶でエタノールに可溶である忌避有効成分を用いることができる。このような忌避有効成分(a)としては、イカリジン、ディート(ジエチルトルアミド)、3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル(IR3535)、p-メンタン-3,8-ジオール等が挙げられる。これらの中でも、肌に塗布した際の使用感や効果の点において、イカリジンまたはディートを用いることができる。
【0026】
<ノニオン界面活性剤(b)>
ノニオン界面活性剤(b)は、グリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる1種または2種以上である。1種または2種以上のノニオン界面活性剤(b)は、忌避有効成分(a)を均一乳化・分散させて人体用害虫忌避剤の安定性の向上に寄与する。
【0027】
本実施形態に用いられるグリセリン脂肪酸エステルは、特に限定されるものではないが、例えばグリセリンと脂肪酸のエステルであり、グリセリンの水酸基の少なくとも1個が脂肪酸によりエステル化されているものを挙げることができる。グリセリン脂肪酸エステルの具体例としては、ラウリン酸グリセリル、ミリスチン酸グリセリル、パルミチン酸グリセリル、ステアリン酸グリセリル、オレイン酸グリセリル、ベヘニン酸グリセリル、カプリン酸グリセリル等が挙げられる。
【0028】
また、脂肪酸の炭素数は12以上とすることができ、また14~22であってもよい。更に、グリセリン脂肪酸エステルのHLBは8以下とすることができ、また2~7であってもよい。
【0029】
本実施形態に用いられるポリオキシエチレン脂肪酸エステルは、ポリオキシエチレン基の平均繰り返し(エチレンオキサイドの平均付加モル数)したポリエチレングリコールと脂肪酸のエステルであり、ポリエチレングリコールの水酸基の少なくとも1個以上が脂肪酸によりエステル化されている。以下、「ポリオキシエチレン」を「POE」とも記載する。
【0030】
本実施形態に用いられるPOE脂肪酸エステルの具体例としては、ラウリン酸ポリエチレングリコール(120E.O.)、ミリスチン酸ポリエチレングリコール(150E.O.)、パルミチン酸ポリエチレングリコール(150E.O.)、ステアリン酸ポリエチレングリコール(150E.O.)、ジステアリン酸ポリエチレングリコール(150E.O.)、ジステアリン酸ポリエチレングリコール(250E.O.)等が挙げられる。
【0031】
また、脂肪酸の炭素数は12以上とすることができ、また14~22であってもよい。POEの数は10~250とすることができ、また100~200であってもよい。更に、POE脂肪酸エステルのHLBは9以上とすることができ、また10~20であってもよい。
【0032】
本実施形態に用いられるグリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルからなる群から選ばれる1種または2種以上であるノニオン界面活性剤(b)のHLBは8~19とすることができ、また9~16であってもよい。
【0033】
HLBは、親水性-親油性バランス(Hydrophile-Lipophile Balance)、つまり界面活性剤の分子がもつ親水性と親油性の相対的な強さを意味し、その親水親油バランスを数量的に表したものである。ノニオン界面活性剤のHLBは、分子構造式の有機性・無機性の各値から下記の式(1)より求められる。
【0034】
更に、1種または2種以上のノニオン界面活性剤の混合HLBは、下記の式(2)より求められる。
【0035】
ノニオン界面活性剤のHLB値=Σ無機性/Σ有機性×10 (1)
2種以上のノニオン界面活性剤HLB値=HLB1・W1+HLB2・W2+・・・ (2)
HLB1、HLB2:ノニオン界面活性剤のHLB値
W1、W2:ノニオン界面活性剤の重量分率(W1+W2=1)
【0036】
<水溶性高分子(c)>
本実施形態に用いられる水溶性高分子(c)は、乳化・分散させた会合体の吸着層に作用し、立体保護作用や静電反発力に起因し、会合体の安定化に寄与する。人体用害虫忌避剤が水溶性高分子(c)を含むことで、界面活性剤の濃度が少なくても会合体を安定化することができ、長期保存下でも経日粘度変化の低減や会合体の凝集や合一を抑制し、分離を防ぐことができる。
【0037】
本明細書および特許請求の範囲において「水溶性高分子」とは、水に溶解又は分散し、水性溶媒を増粘させることが可能な高分子を指す。
【0038】
水溶性高分子(c)の具体例としては、天然の水溶性高分子であれば、例えばアラビアガム、タマリンドガム、トラガカントガム、ガラクタン、グアーガム、キサンタンガム、キャロブガム、ローカストビーンガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、寒天、クインスシード、アルゲコロイド、デンプン等の植物系高分子、デキストラン、デキストリン、サクシノグルカン、プルラン等の微生物系高分子、コラーゲン、カゼイン、アルブミン、ゼラチン等の動物系高分子等が挙げられる。半合成の水溶性高分子としては、例えばカルボキシメチルデンプン、メチルヒドロキシプロピルデンプン等のデンプン系高分子、メチルセルロース、ニトロセルロース、エチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、セルロース硫酸ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、結晶セルロース、セルロース末等のセルロース系高分子、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等のアルギン酸系高分子等が挙げられる。合成の水溶性高分子としては、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー(カルボマー)等のビニル系高分子、ポリエチレングリコール(分子量1500、4000、6000等)等のポリオキシエチレン系高分子、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合系高分子、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチルアクリレート等のアクリル系高分子、ポリエチレンイミン、カチオンポリマー等が挙げられる。無機の水溶性高分子としては、例えばベントナイト、ケイ酸AlMg、ラポナイト、ヘクトライト、無水ケイ酸等が挙げられる。これらはいずれか1種を単独で用いてもよいし、任意の2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
上述した水溶性高分子(c)の中でもカルボキシビニルポリマーは、乳化・分散させた会合体の吸着層に作用し、立体保護作用やチキソトロピー性で会合体の凝集や合一を防止する作用もあるため、特に好ましい。カルボキシビニルポリマーは、アクリル酸メタクリル酸アルキル共重合体である。
【0040】
<他の成分>
人体用忌避剤には、上述した成分以外の成分(他の成分)が含まれていてもよい。他の成分としては、例えばグリセリン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルの界面活性剤以外の他の界面活性剤が挙げられる。その他、保湿剤、殺菌・防腐剤、水溶性高分子以外の増粘剤、色素、pH調整剤、香料、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、酸化防止剤等の添加剤等が挙げられる。これらのいずれか1種を単独で用いてもよいし、任意の2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
他の界面活性剤としては、特に限定されず、公知の界面活性剤を適宜用いることができる。具体例としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等が挙げられ、これらの界面活性剤は人体用害虫忌避剤の安定性を損ないにくく、好ましい。これらの界面活性剤のいずれか1種を単独で用いてもよいし、任意の2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
<各成分の濃度>
本実施形態に係る人体用害虫忌避剤中、忌避有効成分(a)の濃度は、人体用害虫忌避剤の全質量に対して5~30質量%とすることができる。また、忌避有効成分(a)の濃度は、5~25質量%としてもよいし、5~20質量%としてもよい。忌避有効成分(a)の濃度が上記下限値以上であれば、人体用害虫忌避剤を肌に使用したときに害虫に対する忌避効果が発揮されやすく、上記上限値以下であれば、人体用害虫忌避剤の安定性がより優れる。尚、本明細書および特許請求の範囲で例えば「5~30質量%」と記載している場合、「5質量%以上30質量%以下」のことであり、「~」の両側の数値を含んでいる。他も同様である。
【0043】
ノニオン界面活性剤(b)の濃度は、人体用害虫忌避剤の全質量に対して8~24質量%とすることができる。ノニオン界面活性剤(b)の濃度は、9~20質量%としてもよい。ノニオン界面活性剤(b)の濃度が上記下限値未満であると、人体用害虫忌避剤の安定性が低下するおそれがあり、上記上限値を超えると、人体用害虫忌避剤の使用感が低下するおそれがある。
【0044】
水溶性高分子(c)の濃度は、人体用害虫忌避剤の全質量に対して0.01~2質量%とすることができる。水溶性高分子(c)の濃度は、0.01~1質量%とすることができる。水溶性高分子(c)の濃度が上記範囲内であれば、ノニオン界面活性剤(b)の濃度が少ない場合でも、会合体が充分に安定化され、人体用害虫忌避剤の安定性が優れる。水溶性高分子(c)の濃度が多すぎても少なすぎても分子会合体が不安定化するおそれがある。
【0045】
ノニオン界面活性剤(b)濃度の忌避有効成分(a)濃度に対する濃度比Rは、(b)/(a)で求めることができる。上記濃度比(R=b/a)は0.5~2.0とすることができる。また、上記濃度比(R=b/a)は0.6~1.6とすることもできる。ノニオン界面活性剤(b)の濃度が上記範囲の下限値未満であると、人体用害虫忌避剤の安定性が低下するおそれがあり、上記範囲の上限値超であると、人体用害虫忌避剤の使用感が低下し刺激性が高くなるおそれがある。
【0046】
<人体用害虫忌避剤の調製方法>
本実施形態に係る人体用害虫忌避剤の調製方法は特に限定されず、例えば以下の方法により人体用害虫忌避剤を調製可能である。
【0047】
忌避剤有効成分(a)と、界面活性剤(ノニオン性界面活性剤(b)、必要に応じて他の界面活性剤)と、油剤等を80℃程度の温浴で撹拌し、この混合物に精製水、および必要に応じて添加剤を添加し、均一に乳化・分散させた後、撹拌しながら冷却する。冷却後、水溶性高分子(c)、防腐剤、香料等の添加剤を加え、さらに室温付近まで冷却する。防腐剤としては、例えばメチルパラベン、プロピルパラベン等を挙げることができるが、これら以外の防腐剤を使用してもよい。
【0048】
<作用効果>
本実施形態に係る人体用害虫忌避剤は、舞い散りがなく、手足のみならず、顔や首筋にもムラなく均一に塗布でき、使用時のべたつき感やぬるつき感が少なく、塗布後の肌のツッパリ感も少なく、安定性および忌避有効成分の滞留性に優れる。
【0049】
すなわち、界面活性剤としてノニオン界面活性剤(b)の特定HLB範囲を用いることで、イカリジンのような水に難溶の忌避有効成分であっても、少量の界面活性剤で均一乳化・分散させて人体用害虫忌避剤を安定化することができる。
【0050】
また、ノニオン界面活性剤(b)に水溶性高分子(c)を組み合わせることで、界面活性剤の量を減らしても、安定な分散状態を保つことができる。水溶性高分子(c)は、乳化・分散させた会合体の吸着層に作用し、立体保護作用や静電反発力に起因し、会合体の安定化に寄与する。会合体の凝集・合一を防ぐ効果があるため、これを併用することで、界面活性剤が少量でも安定性に優れる人体用害虫忌避剤の調製が可能と考えられる。
【0051】
イカリジンのような揮発性の低い忌避有効成分(a)は、主に汗等による流亡や経皮吸収によって忌避効果が低下するため、経皮吸収を抑制することで滞留性の向上効果が得られる。そのため本発明は、様々な忌避有効成分に有効であるが、特にイカリジンのような揮発性の低い忌避有効成分を用いる場合に有用である。
【0052】
本実施形態に係る人体用害虫忌避剤の形態は、特に限定されるものではなく、例えば、乳液、クリーム、ジェル、スプレー等の剤型で利用することが可能である。剤型に応じた容器に人体用害虫忌避剤を収容できる。
【0053】
本実施形態に係る人体用害虫忌避剤は、例えば肌に塗布されることで、害虫に対して十分な忌避効果を発揮する。本実施形態に係る人体用害虫忌避剤によって忌避対象となる害虫としては、例えば蚊、ブヨ、サシバエ、イエダニ、トコジラミ(ナンキンムシ)、マダニ、ツツガムシ、ヒアリ等が挙げられるが、これら害虫以外にも忌避効果を発揮する。
【実施例0054】
以下に実施例および比較例を記載し本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0055】
<実施例および比較例の作製方法>
表1~3に記載の種類および配合量(数値は質量%を示す)の忌避有効成分(a)と、界面活性剤(ノニオン性界面活性剤(b)、必要に応じて他の界面活性剤)と、高級アルコールや多価アルコールを80℃程度の温浴で撹拌し、この混合物に加温した精製水を添加し、撹拌しながら50℃まで放冷する。その後、水溶性高分子と防腐剤を投入し、水酸化ナトリウム等の中和剤を添加し、室温まで撹拌、冷却する。高級アルコールとしては、例えばイソステアリルアルコール、オクチルドデカノール等を挙げることができるが、これら以外の高級アルコールを使用してもよい。また、多価アルコールとしては、例えばグリセリン、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール等を挙げることができるが、これら以外の多価アルコールを使用してもよい。
【0056】
表1~3中の精製水の「バランス」は、人体用害虫忌避剤の全量が100質量%になる量を示す。
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
<安定性試験評価>
上記作成方法によって作成された人体用害虫忌避剤(実施例1~28、比較例1~8)を室温(RT)、-5℃、50℃でそれぞれ1ヵ月保存した。保存後の人体用害虫忌避剤の状態(外観)をそれぞれ目視評価し、以下の基準で安定性を評価した。結果は表1~3に示したとおりであり、実施例1~28では幅広い温度範囲で分離がなく、均一に乳化・分散しているのに対し、比較例1~8では、液中に油滴が存在していたり、2相に分離しているものが見られた。
【0061】
(評価基準)
〇:分離がなく、均一に乳化・分散している。
△:一部乳化・分散しているが、油滴がある。
×:2相に分離している。
【0062】
<舞い散り評価>
人体用害虫忌避剤を被験者5名の前腕内側に均一塗布し、被験者の評価結果より以下の基準で舞い散りを評価した。結果は表4に示したとおりであり、実施例3では舞い散りが感じられなかったが、市販品A、Bでは舞い散りが感じられた。市販品Aはエアゾール製品であり、市販品Bはポンプミスト製品であり、市販品Cはジェル製品である。
【0063】
(評価基準)
〇:5名全員が舞い散りを感じなかった。
×:1名以上が舞い散りを感じた。
【0064】
【0065】
<均一塗布のし易さ評価>
人体用害虫忌避剤を被験者5名の前腕内側に塗布し、被験者の評価結果より以下の基準で、均一塗布のしやすさを評価した。結果は表4に示したとおりであり、実施例3では均一塗布し易かった。
【0066】
(評価基準)
〇:5名全員が均一塗布しやすいと感じた。
×:1名以上が均一塗布しにくいと感じた。
【0067】
<肌への刺激感評価>
人体用害虫忌避剤を被験者5名の前腕内側に均一塗布し、被験者の評価結果より以下の基準で、刺激感を評価した。結果は表4に示したとおりであり、実施例3では肌への刺激を感じなかったが、市販品A~Cでは肌への刺激感を感じた。
【0068】
(評価基準)
〇:5名全員が刺激を感じなかった。
×:1名以上が刺激を感じた。
【0069】
<肌のツッパリ感評価>
人体用害虫忌避剤を被験者5名の前腕内側に均一塗布し、被験者の評価結果より以下の基準で、塗布後の肌のツッパリ感を評価した。結果は表4に示したとおりであり、実施例3では肌のツッパリ感を感じなかったが、市販品A~Cでは肌のツッパリ感を感じた。
【0070】
(評価基準)
〇:5名全員が肌にツッパリ感を感じなかった。
×:1名以上が肌にツッパリ感を感じた。
【0071】
<吸血阻止持続効果試験(害虫忌避試験)>
人体用害虫忌避剤を被験者5名の前腕内側に均一塗布し、メスのヒトスジシマカ10匹を入れたシリンジを各時間経過後(10時間経過後、5時間経過後、5時間経過前)に肌に1分間押し当て、吸血した数をカウントし、忌避効果を測定し評価した。結果は表4に示したとおりであり、実施例3では塗布後、10時間経過しても90%の吸血阻止率を確認できたが、市販品A~Cでは塗布後、5時間経過すると、吸血阻止率が90%を下回った。
【0072】
(評価基準)
〇:10h後に90%吸血阻止効果を確認
△:5h後に90%吸血阻止効果を確認
×:5h未満で90%吸血阻止効果を確認
【0073】
表1に示すように、実施例1~9の人体用害虫忌避剤は、イカリジンをはじめとした油系の忌避有効成分の濃度が5~30質量%の範囲で、忌避有効成分を均一に乳化・分散が可能であり、1ヶ月後の安定性試験結果も良好であった。更に、忌避有効成分(a)に対するノニオン界面活性剤(b)の濃度比(R=b/a)が0.5~2.0の範囲内であれば、忌避剤有効成分が均一に乳化・分散され、1ヶ月後の安定性試験結果も良好であった。
【0074】
一方、比較例1~3のように、濃度比R=0.5~2.0の範囲内であっても、忌避有効成分の濃度が40質量%以上、且つ水溶性高分子(c)が未添加の場合、作製直後の外観は不均一状態で、1ヶ月後の安定性試験結果も良くなかった。
【0075】
実施例4、5の人体用害虫忌避剤は、ノニオン界面活性剤(b)がグリセリン脂肪酸エステル単独系およびポリオキシエチレン脂肪酸エステル単独系であるが、忌避有効成分を均一に乳化・分散が可能であり、1ヶ月後の安定性試験結果も良好であった。
【0076】
実施例6の人体用害虫忌避剤は、忌避有効成分としてディートを配合しているが、イカリジンと同様にディートも均一乳化・分散され、1ヶ月後の安定性試験も良好であった。
【0077】
表2に示すように、ノニオン界面活性剤(b)の混合HLBが9~16の範囲内である実施例10~16は、忌避有効成分が均一に乳化・分散され、1ヶ月後の安定性試験結果も良好であった。しかし、混合HLB値が8以下の比較例4、5では、配合直後の外観は均一乳化・分散であったが、1ヶ月後の安定性は良くなかった。
【0078】
また、比較例6~8のように、混合HLB値が9~16の範囲内であっても、忌避有効成分(a)に対するノニオン界面活性剤(b)の濃度比(R=b/a)が0.5以下では、1ヶ月後の安定性試験は良くなかった。
【0079】
上記の結果から、ノニオン界面活性剤(b)の混合HLB値が8~19、または9~16の範囲内であり、忌避有効成分(a)に対するノニオン界面活性剤(b)の濃度比(R=b/a)が、0.5~2.0、またはR=0.6~1.6であれば、忌避有効成分を均一乳化・分散が可能であり、1ヶ月後の安定性試験も良好である。
【0080】
表3に示すように、実施例17~20の人体用害虫忌避剤は水溶性高分子としてCMC(ヒドロキシメチルセルロース)、HEC(ヒドロキシエチルセルロース)、キサンタンガム、カチオン化グアーガムを含有するが、いずれも均一な乳化物が作製でき、1ヶ月後の安定性試験も良好であった。
【0081】
実施例21~23の人体用害虫忌避剤は、他の界面活性剤としてPOEソルビタン脂肪酸エステル、テトラオレイン酸POEソルビット、POE硬化ヒマシ油等を添加しているが、いずれも均一な乳化物が作製でき、1ヶ月後の安定性試験も良好であった。
【0082】
さらに実施例24~28の人体用害虫忌避剤は、添加剤として高級アルコールや多価アルコールを添加しているが、いずれも均一な乳化物が作製でき、1ヶ月後の安定性試験も良好であった。
【0083】
表4に示すように、実施例3の人体用害虫忌避剤は、市販品Aや市販品Bと比較すると、忌避剤有効成分の舞い散りがなく、使用時の刺激感も少なく、手足、腕のみならず、顔や首筋回りにも均一に塗布し易かった。
【0084】
さらに、市販品Cと比較すると、実施例3の人体用害虫忌避剤は、塗布時に液だれも少なく、顔、首筋を含めた体全体へ均一に塗布し易く、使用時のべたつき感やぬるつき感が少なく、塗布後の肌のツッパリ感も無かった。
【0085】
吸血阻止持続効果についても、市販品A、市販品B、市販品Cはいずれも5時間未満で90%吸血阻止効果が認められなくなったが、実施例3の人体用害虫忌避剤は10時間経過後も90%吸血阻止効力があった。
【0086】
上記の結果から、実施例3の人体用害虫忌避剤は市販品A~Cに比べ、顔、首筋を含めた体全体へ均一に塗布し易く、使用時のべたつき感やぬるつき感が少なく、塗布後の肌のツッパリ感も無く、更に吸血阻止効果試験で高い持続性を示すことがわかる。尚、他の実施例についても同様に、市販品A~Cに比べ、顔、首筋を含めた体全体へ均一に塗布し易く、使用時のべたつき感やぬるつき感が少なく、塗布後の肌のツッパリ感も無く、更に吸血阻止効果試験で高い持続性を示した。
【0087】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
以上説明したように、本発明に係る人体用害虫忌避剤は、例えば、蚊、ブヨ、サシバエ、イエダニ、トコジラミ(ナンキンムシ)、マダニ、ツツガムシ、ヒアリ等の害虫を忌避するために使用可能であり、例えば人の皮膚に塗布する虫よけ剤、ペットや家畜の表皮に塗布する虫よけ剤等としての利用が可能である。