(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103668
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】チタン酸バリウム系誘電体粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 23/00 20060101AFI20230720BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20230720BHJP
H01G 4/12 20060101ALI20230720BHJP
H01C 7/115 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
C01G23/00 C
H01G4/30 515
H01G4/12 270
H01G4/30 517
H01C7/115
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004316
(22)【出願日】2022-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(72)【発明者】
【氏名】藤井 和也
(72)【発明者】
【氏名】橘 紀和
【テーマコード(参考)】
4G047
5E001
5E034
【Fターム(参考)】
4G047CA07
4G047CB05
4G047CC02
4G047CD04
4G047CD08
5E001AE02
5E001AE03
5E001AH09
5E001AJ02
5E034AC02
5E034DE02
(57)【要約】
【課題】微細であるとともにハロゲン不純物量が少なく、且つ結晶性の高いチタン酸バリウム系誘電体粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】ハロゲン化バリウム、ハロゲン化チタン、及びシュウ酸を水性溶液中で接触させて、シュウ酸バリウムチタニルを得る反応工程、及び前記シュウ酸バリウムチタニルを炉内で仮焼する仮焼工程を備えるチタン酸バリウム(BaTiO
3)系誘電体粒子の製造方法であって、前記仮焼工程で水蒸気を前記炉内に供給する方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化バリウム、ハロゲン化チタン、及びシュウ酸を水性溶液中で接触させて、シュウ酸バリウムチタニルを得る反応工程、及び
前記シュウ酸バリウムチタニルを炉内で仮焼する仮焼工程
を備えるチタン酸バリウム(BaTiO3)系誘電体粒子の製造方法において、
前記仮焼工程で水蒸気を前記炉内に供給する方法。
【請求項2】
前記シュウ酸バリウムチタニルの仮焼を600℃以上の温度で行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記仮焼工程において前記炉内の温度が720℃以上となった時点から前記仮焼工程が終了するまでの期間に、前記水蒸気の濃度が0.3体積%以上の雰囲気ガスを前記炉内に供給する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記シュウ酸バリウムチタニル1kgに対し、1分間当たり0.7~60gの量で前記水蒸気を供給する、請求項1~3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記誘電体粒子の比表面積S(m2/g)、及び前記誘電体粒子中の残留ハロゲン量C(質量ppm)が、式:
S≧4.0、かつ
C<260×S-1150
を満たす、請求項1~4の何れか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸バリウム系誘電体粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸バリウム(BaTiO3)は、ペロブスカイト型複合酸化物の一種であり、室温で正方晶系の結晶系に属する。正方晶系の結晶構造を有するチタン酸バリウムでは、これを構成するバリウムイオン(Ba2+)及びチタンイオン(Ti4+)がc軸方向に変位することで誘電分極が生じ、その結果、高い誘電率を示す。そのため、チタン酸バリウム粉末は、コンデンサ、特に積層セラミックコンデンサの誘電体材料として有用である。またチタン酸バリウムは、圧電特性にも優れるとともに、適切なアクセプター成分やドナー成分を加えることで特有の電気抵抗温度依存性を示すという特徴がある。そのため、コンデンサのみならず、圧電素子やPTCサーミスタの用途にも利用されている。
【0003】
ところで、積層セラミックコンデンサには、小型化及び大容量化の要望がある。この要望を満たすためには、積層セラミックコンデンサを構成する誘電体層の薄層化を進めるとともに、誘電体層の誘電率を高めることが有効である。したがって、原料たるチタン酸バリウム粉末には微細であるとともに、結晶性に優れることが求められている。またチタン酸バリウム粉末には不純物の少ないこと、すなわち高純度であることが求められている。
【0004】
従来からチタン酸バリウム粉末の合成には、固相反応法、シュウ酸塩法、水熱合成法、アルコキシド法などの手法がとられてきた。固相反応法は、炭酸バリウム(BaCO3)などのバリウム化合物と酸化チタン(TiO2)などのチタン化合物を混合及び仮焼(焼成)する手法であり、製造コストが安価という利点がある。しかしながら、高い結晶性を得る上で高温焼成が必要であり、高温焼成を行うと粒子が粗大化するという問題がある。焼成後に粉砕することも考えられるが、この場合には粒度分布がブロードになるという問題が発生する。さらに、固相反応法では、製造工程由来の不純物が多いという問題もある。
【0005】
水熱合成法やアルコキシド法は、微細で高純度のチタン酸バリウムを合成できるという利点があるものの、原料及び製造コストが高いという問題がある。特にアルコキシド法で用いられる原料は非常に高価であり、生産性に難がある。
【0006】
これに対して、シュウ酸塩は、原料が安価であるとともに、比較的微細な粉末を得ることができ、さらに組成安定性に優れるという利点がある。シュウ酸塩法では、例えば塩化バリウム(BaCl2・2H2O)及び塩化チタン(TiCl4)をシュウ酸(H2C2O4・2H2O)と反応させてシュウ酸バリウムチタニル(BaTiO(C2O4)2・4H2O)を得、このシュウ酸バリウムチタニルを焼成及び熱分解させてチタン酸バリウム(BaTiO3)を合成する。原料たる塩化バリウム及び塩化チタンは安価である。またシュウ酸バリウムチタニルの熱分解により化学量論組成のチタン酸バリウムが得られるため、組成安定性に優れる。
【0007】
シュウ酸塩法によるチタン酸バリウム粉末の合成を開示する文献として、特許文献1及び2が挙げられる。特許文献1には、シュウ酸バリウムチタニルを酸素含有ガス雰囲気下で300~600℃に加熱した後、酸素不含の減圧雰囲気下で600~1100℃に加熱する製造方法が開示されている。特許文献2には、バリウムとチタンを含む複合金属錯体を、亜臨界水または超臨界水の反応環境中に滞在させるチタン酸バリウム微粒子の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010-70391号公報
【特許文献2】特開2010-83708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、シュウ酸塩法でチタン酸バリウム粉末を合成することが従来から提案されているものの、従来の技術には改善の余地があった。すなわち、シュウ酸塩法では、塩素などのハロゲンを含む原料を用いる。この原料を反応させてシュウ酸バリウムチタニルを得る際に、ハロゲンがシュウ酸バリウムチタニルに取り込まれ、焼成後のチタン酸バリウム粉末に不純物として残存する恐れがある。チタン酸バリウム粉末が多量のハロゲン不純物を含むと、コンデンサの電気的特性を劣化させるとともに、他の部品の腐食を促す恐れがある。
【0010】
シュウ酸バリウムチタニルや、それを焼成して得たチタン酸バリウム粉末の水洗を繰り返してハロゲン不純物を除去する手法も考えられるが、その場合にはバリウムの溶出が進行して、組成ズレを起す可能性がある。また、高温焼成によりハロゲン不純物を揮散させることも考えられるが、その場合にはチタン酸バリウム粉末の粒子が粗大化する恐れがある。またシュウ酸塩法では、結晶性の比較的高いチタン酸バリウム粉末が得られるものの、未だ改善の余地があった。
【0011】
このような問題点に鑑みて、本発明者らは検討を進めた。その結果、シュウ酸塩法でチタン酸バリウム系誘電体粒子を合成する際の仮焼時に水蒸気を導入することで、微細であるとともにハロゲン不純物量が少なく、且つ結晶性の高い粒子を得ることができるという知見を得た。
【0012】
本発明はこのような知見に基づき完成されたものであり、微細であるとともにハロゲン不純物量が少なく、且つ結晶性の高いチタン酸バリウム系誘電体粒子の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、下記の態様を包含する。なお本明細書において「~」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
【0014】
本発明の一態様によれば、ハロゲン化バリウム、ハロゲン化チタン、及びシュウ酸を水性溶液中で接触させて、シュウ酸バリウムチタニルを得る反応工程、及び前記シュウ酸バリウムチタニルを炉内で仮焼する仮焼工程を備えるチタン酸バリウム(BaTiO3)系誘電体粒子の製造方法において、前記仮焼工程で水蒸気を前記炉内に供給する方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、微細であるとともにハロゲン不純物量が少なく、且つ結晶性の高いチタン酸バリウム系誘電体粒子の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】チタン酸バリウム粉末の比表面積及び結晶性(c軸/a軸比)の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0018】
本実施形態はチタン酸バリウム(BaTiO3)系誘電体粒子(以下、単に「誘電体粒子」と呼ぶ場合がある)の製造方法に関する。ここでチタン酸バリウム系誘電体粒子は、チタン酸バリウム(BaTiO3)系化合物を主成分として含む粒子である。誘電体粒子は、BaTiO3系化合物以外の成分を含んでもよい。例えば、希土類元素(Re)、マグネシウム(Mg)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、クロム(Cr)、バナジウム(V)などの元素を含む成分を含んでもよい。しかしながら、BaTiO3に基づく優れた特性を活かすために、BaTiO3系化合物の含有量は高いほど好ましい。BaTiO3系化合物の含有量は、50質量%以上、70質量%以上、または90質量%以上が好ましい。誘電体粒子はBaTiO3系化合物を含み、残部不可避不純物の組成を有してもよい。
【0019】
BaTiO3系化合物は、一般式:ABO3で表される組成を有するペロブスカイト型構造を有する複合酸化物である。BaTiO3系化合物は、Aサイト元素としてバリウム(Ba)を含み、Bサイト元素としてチタン(Ti)を含む。またBaTiO3系化物は、BaTiO3のみならず、BaTiO3に含まれるBaの一部をSr及び/又はCaなどの他のAサイト元素で置換したもの、あるいはTiの一部をZr及び/又はHfなどの他のBサイト元素で置換したものを包含する。これにより誘電率の温度特性を平坦化させることができる。ただし高い誘電率を得る上で、Ba及びTiの含有量は高いほど好ましい。Aサイト元素中のBaの割合は、モル比で70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。またBサイト元素中のTiの割合は、モル比で70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。Aサイト元素がBa及び不可避不純物元素以外の成分を含まず、またBサイト元素がTi及び不可避不純物元素以外の成分を含まなくてもよい。
【0020】
次に本実施形態の製造方法について説明する。本実施形態の製造方法は、ハロゲン化バリウム、ハロゲン化チタン、及びシュウ酸を水性溶液中で接触させて、シュウ酸バリウムチタニルを得る反応工程、及びシュウ酸バリウムチタニルを炉内で仮焼する仮焼工程を備える。また仮焼工程で水蒸気を炉内に供給する。各工程について以下に説明する。
【0021】
<反応工程>
反応工程では、ハロゲン化バリウム、ハロゲン化チタン、及びシュウ酸を水性溶液中で接触させて、シュウ酸塩法によりシュウ酸バリウムチタニルを得る。
【0022】
ハロゲン化バリウム及びハロゲン化チタンは、それぞれBaTiO3系化合物のBa源及びTi源である。ハロゲン化バリウムとして、塩化バリウムが好ましいが、臭化バリウムやヨウ化バリウムを用いてもよい。ハロゲン化チタンとして、塩化チタンが好ましいが、臭化チタンやヨウ化チタンを用いてもよい。シュウ酸は、ハロゲン化バリウム及びハロゲン化チタンと反応して、中間生成物たるシュウ酸バリウムチタニルを合成する際に用いられる原料である。シュウ酸の代わりにナトリウムやカリウム等のシュウ酸塩を用いることが可能である。しかしながら、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属不純物が残存すると、仮焼時に誘電体粒子が粒成長して微細な誘電体粒子を得ることが困難になる場合がある。また、アルカリ金属不純物が残存すると、誘電体粒子の絶縁特性が劣化する恐れがある。したがって、金属不純物残存を防止する観点から、シュウ酸を使用することが好ましい。また、水性溶液としては水溶液が好ましい。しかしながら、少量、例えば10体積%以下のエタノール、エチレングリコール等の有機溶媒を含む水溶液を用いることも可能である。
【0023】
Baの一部をSrやCaなどの他の元素で置換した誘電体粒子の製造を目的とする場合、及び/又はTiの一部をZrやHfなどの他の元素で置換した誘電体粒子の製造を目的とする場合には、ハロゲン化バリウム及びハロゲン化チタンとともに他の元素のハロゲン化物、例えばハロゲン化ストロンチウムやハロゲン化ジルコニウム等のハロゲン化物を原料に加えればよい。
【0024】
各原料の比に特に制限はない。しかしながら、ペロブスカイト型構造が得られる化学量論組成とすること、すなわちペロブスカイト型化合物のAサイト元素(Ba等)とBサイト元素(Ti等)のモル比がほぼ等量となるように原料を配合することが好ましい。例えば、BaTiO3合成を目論む場合にはBa/Ti比が0.99~1.01、特に0.995~1.005の範囲内となるようにハロゲン化バリウムとハロゲン化チタンを配合する。これによりいずれかの元素が過剰となることがなく、結晶性に優れたBaTiO3系化合物を得ることができる。好適には、ほぼ等モル量の塩化バリウム及び四塩化チタン、並びに過剰モル量のシュウ酸を配合する。
【0025】
原料を水性溶液中で接触させる手法として、各原料の水性溶液を予め調整し、この水性溶液を混合することが好ましい。これにより各原料を分子レベルで均質に混合でき、その結果、中間生成物たるシュウ酸バリウムをより均質な状態で得ることができる。水性溶液は、1種類の原料のみを含んでもよく、あるいは複数種の原料を混合して含んでもよい。具体的には、ハロゲン化バリウム水性溶液、ハロゲン化チタン水性溶液、及びシュウ酸水性溶液を調整し、これらの水性溶液を同時に混合する手法が挙げられる。または、ハロゲン化バリウム及びハロゲン化チタンの混合水性溶液を調整し、この混合水性溶液にシュウ酸水性溶液を添加してもよい。さらに、ハロゲン化チタンとシュウ酸の混合水性溶液にハロゲン化バリウム水性溶液を添加してもよい。ただし、ハロゲン化バリウムとシュウ酸を予め混合すると、シュウ酸バリウム(BaC2O4又はその水和物)が生成し、シュウ酸バリウムチタニルの生成が阻害される恐れがある。したがって、ハロゲン化バリウムとシュウ酸との混合に先立ち、ハロゲン化チタンを加えておくることが好ましい。
【0026】
原料水性溶液を調整する際は、好ましくは、各原材料を水、特に精製水に溶解し、例えば0.1モル/L程度~飽和状態の濃度、特に0.5~5モル/L程度の濃度の水溶液とする。ハロゲン化バリウムやシュウ酸の水性溶液を調製する際には、所望により50℃以上、例えば60~90℃程度に加温してもよい。これら水性溶液はまた、上記原料の内の2種またはそれ以上を溶解していてもよい。
【0027】
調製した原料水溶液を混合する際には、溶液の一方、特にハロゲン化チタン不含の溶液を、50~90℃、特に60~80℃程度に加温するのが好ましい。加温によって、反応をより迅速かつ均一に進行させることができる。ここで、混合後も加温しながら30分間~2時間程度撹拌するとよい。この操作によって生じた沈殿が熟成し、後の濾過等による分離が容易になると共に、残留ハロゲン不純物量が低減される。混合操作はまた、一方の溶液に他方の溶液を滴下して行うことが好ましい。特にハロゲン化バリウム及びハロゲン化チタンの溶液とシュウ酸溶液とを混合する場合、一方に他方を滴下して徐々に、例えば30分間~6時間程度の時間を掛けて沈殿させることにより、より均質かつ濾別が容易な沈殿を得ることができる。
【0028】
原料たるハロゲン化バリウム、ハロゲン化チタン、及びシュウ酸を水性溶液中で接触させることで反応が起こり、溶液中にシュウ酸バリウムチタニル(BaTiO(C2O4)2又はその水和物)が生成する。生成したシュウ酸バリウムチタニルを固液分離して回収する。固液分離は、濾過、及び/又は遠心分離などの公知の手法で行えばよい。分離に先立ち、シュウ酸バリウムチタニル及び溶液を放冷するのが好ましい。また分離したシュウ酸バリウムチタニルを水洗するのが好ましい。さらに分離したシュウ酸バリウムチタニルに乾燥や粉砕処理を施してもよい。乾燥条件に特に制限はなく、例えば100~150℃、特に105~110℃で30分間~3時間程度行うことができる。乾燥を減圧条件下で行ってもよい。粉砕方法にも特に制限はなく、汎用の乾式法または湿式法により、例えばレーザー回折散乱法による平均粒子径が200μm以下程度、特に10~100μm程度となるまで粉砕すればよい。
【0029】
<仮焼工程>
仮焼工程では、得られたシュウ酸バリウムチタニルを、炉内で仮焼(焼成)する。仮焼することで、シュウ酸バリウムチタニルの脱水及び熱分解が進行し、水分、一酸化炭素及び二酸化炭素等の副生物を放出しながらBaTiO3系化合物が生成される。
【0030】
仮焼は、好ましくは600℃以上、より好ましくは720℃以上、例えば720~1300℃、さらには800~1200℃、特に850~1050℃の温度で行う。600℃以上、特に720℃以上であれば、BaTiO3系化合物の生成反応がスムーズに進行し、結晶性に優れた誘電体粒子を得ることが可能になる。1300℃以下、特に1200℃以下であれば、BaTiO3系化合物の粒成長が抑制されるため、微細な誘電体粒子を得ることができる。また仮焼は、上述した温度で、1~30時間、特に4~15時間程度保持すればよい。仮焼炉としても、トンネル炉、バッチ炉、ロータリーキルン、ローラーハースキルン、プッシャー等の公知の炉を使用すればよい。
【0031】
仮焼時の雰囲気は、所望の誘電体粒子が得られる限り、特に限定されない。しかしながら、得られる誘電体粒子の還元を防ぐため、酸素含有雰囲気、特に大気雰囲気とするのが好ましい。還元されると誘電体粒子は半導体化して、所望の誘電特性、特に絶縁特性を得ることが困難になる。
【0032】
本実施形態の製造方法では、仮焼工程で水蒸気を炉内に供給する。これにより、微細且つハロゲン不純物量が低く、さらに結晶性に優れた誘電体粒子を得ることが可能になる。そのメカニズムの詳細は明確ではないが、次のように推測している。すなわち、仮焼時には、低温でシュウ酸バリウムチタニルの脱水反応が起こり、高温になるとともにシュウ酸が熱分解する。シュウ酸の熱分解に伴い、一酸化炭素及び二酸化炭素等の副生物が放出されて、チタン酸バリウムの生成が進行する。仮焼工程での水蒸気供給によって、反応副生成物の排出及びチタン酸バリウムの合成が促進されるのではないかと考えられる。具体的には、水蒸気中の水分子がバリウムやチタンの原子に一時的に配位または結合することが考えられる。バリウムやチタン原子の反応サイトが水分子によって塞がれる結果、周囲に残存していたハロゲン成分がこれら原子に再結合することなく、例えばハロゲン化水素の形で炉外に排出されると期待される。その上に、仮焼時に副生するシュウ酸分解物の排出も促進される結果、結晶化がよりクリーンな状態で進行し、結果として誘電体粒子の結晶性が改善されると考えられる。
【0033】
水蒸気の供給方法に、特に制限はない。例えば、仮焼炉中に雰囲気ガスを供給し、そのガスに水蒸気(水分)を混入してもよい。雰囲気ガスとして、空気などの酸素含有ガスを用いることができる。あるいは、仮焼炉内に水酸化カルシウムや硫酸マグネシウム・7水和物等を置き、それらから所定温度で発生する水分を利用してもよい。
【0034】
所望の誘電体粒子が得られる限り、水蒸気の供給タイミングは限定されない。しかしながら、仮焼工程での水蒸気供給は、炉内の温度が少なくとも720℃以上となった時点から仮焼終了までの期間に行うことが好ましい。後述する実施例にも示すように、仮焼温度が720℃以上となったタイミングで水蒸気を供給することで、得られる誘電体粒子の結晶性が向上するとともに、ハロゲン等の不純物がさらに低減され、さらに比表面積も比較的大きくなる。これは、チタン酸バリウムの生成反応が720℃以上の温度領域で活発になることと関係していると推察している。
【0035】
所望の誘電体粒子が得られる限り、水蒸気の供給量は限定されない。しかしながら、炉内における水蒸気濃度が0.3体積%以上となるように水蒸気を供給することが好ましい。例えば、水蒸気の濃度が0.3体積%以上、より好ましくは3体積%以上、さらに好ましくは10~50体積%の雰囲気ガスを、炉内に供給するとよい。こうした濃度であれば、ハロゲン類等の不純物の低減及び誘電体粒子の結晶性の向上をより一層顕著に図ることができるとともに、水蒸気の供給をより精度よく容易に行うことが可能となる。
【0036】
シュウ酸バリウムチタニル1kgに対して1分間当たり0.7~60g程度の量で、すなわち0.7~60g/kg・分程度の量で水蒸気を供給することが好ましい。水蒸気供給量は、より好ましくは7~50g/kg・分程度、さらに好ましくは10~40g/kg・分程度、特に好ましくは20~35g/kg・分程度とすることが推奨される。
【0037】
仮焼により、チタン酸バリウム系誘電体粒子を得ることができる。得られた粒子は、そのまま誘電体粒子として使用することもできる。また、必要に応じて粉砕や熱処理といった後処理を施してもよい。粉砕方法に特に制限はなく、乾式または湿式の粉砕法により、例えば数十μm、1~10μm、あるいは1μm以下等の所望の粒子径に粉砕することができる。さらに熱処理工程に付してもよい。熱処理する場合には、誘電体粒子の粒成長を抑えるため、仮焼温度以下の温度で熱処理することが好ましい。
【0038】
このようにして、本実施形態のチタン酸バリウム系誘電体粒子を得ることができる。この誘電体粒子は、微細であるとともに、塩素などのハロゲン不純物量が少なく、かつ結晶性に優れる。例えば、限定されるわけではないが、比表面積(SSA)が5.0m2/g以上、特に6.0m2/g以上である。また、例えば、ハロゲン量、特に塩素量が1000質量ppm以下、特に800質量ppm以下である。さらにc/a値が1.005~1.011、特に1.008~1.010の範囲内となり得る。ここでc/a値は、ペロブスカイト型結晶構造の格子定数たるa軸長に対するc軸長の比である。誘電体粒子の組成が同じであれば、c/a値が大きいほど、正方晶化度が高い、すなわち結晶性に優れると言える。
【0039】
好適には、誘電体粒子は、誘電体粒子の比表面積S(m2/g)、及び誘電体粒子中の残留ハロゲン量C(質量ppm)が、式:
S≧4.0、かつ
C<260×S-1150
を満たす。
【0040】
本実施形態の誘電体粒子は、微細で、ハロゲン不純物量が少なく、かつ結晶性に優れるが故に、誘電特性を始めとする諸特性に優れている。そのため、積層セラミックコンデンサ、圧電素子、PTCサーミスタ等の電子部品、特に小型電子部品の材料として好適である。
【実施例0041】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0042】
[実施例1]
(シュウ酸バリウムチタニルの調製)
塩化バリウム2水和物600g(2 .46モル)及び四塩化チタン450g(2.37モル)を精製水4Lに溶解した第一液、並びに、シュウ酸2水和物600g(4.76モル)を70℃の精製水2Lに溶解した第二液を、それぞれ調製した。第一液を攪拌しながら、そこに約70℃に保持した第二液を2.5時間かけて滴下した。滴下終了後、70~80℃でさらに1時間攪拌し、1晩放冷した。次いで沈殿を濾過し、精製水で3回洗浄した後、105℃で2時間乾燥させた。得られたシュウ酸バリウムチタニルについて蛍光X線分析を行ったところ、Ba/Tiモル比は1.00であった。
【0043】
(仮焼)
上記で得られたシュウ酸バリウムチタニル144gをバッチ式焼成炉に入れ、空気を流量45L/分で供給しながら、9.5℃/分にて900℃まで昇温した。ここで、焼成炉の温度が200℃となった時点以降は、予め水を毎分5gの割合で混入し、350℃に加熱した空気を供給した(供給空気中の水蒸気濃度:約30体積%、シュウ酸バリウムチタニルに対する水蒸気供給量:35g/kg・分)。900℃で1時間保持した後、水の混入(水蒸気の供給)を止めて放冷し、チタン酸バリウム試料を採取した。
【0044】
(物性評価)
得られたチタン酸バリウム試料について、含有塩素量、比表面積、及びc/a値を、以下の方法により測定した。試験結果を、表1及び
図1に示す。
・含有塩素量:燃焼イオンクロマトグラフィーにより測定した。
・比表面積:流動法によりBET比表面積を測定した。
・c/a値:X線回折法により測定した。
【0045】
[実施例2~3、比較例1~3]
焼成炉の保持温度(仮焼温度)を950℃(実施例2)、1000℃(実施例3)とした以外は、実施例1と同様の操作を行った。
水蒸気を供給しなかった以外は、実施例1~3と同様の操作を行った(比較例1~3)。
試験結果を、表1及び
図1に示す。
【0046】
【0047】
仮焼工程で水蒸気を供給することにより、含有塩素量(残留ハロゲン量)が低減され、かつ比表面積も比較的大きな誘電体粒子が得られることが示された。実施例1~3の試料は、いずれも上記した式の関係を満たしている。c/a値も、1.008~1.010の範囲内に収まる、適正な値であった。なお、c/a値は水蒸気供給の結果小さくなっているようにも見える。しかし、
図1のように比表面積に対してプロットすると、同等の比表面積の誘電体粒子であれば、水蒸気を供給せずに製造した試料に比べて大きなc/a値を示すことが分かる。本実施形態の製法方法により、不純物量が低減されている上に、結晶性(正方晶性)が良好で比表面積も比較的大きな誘電体粒子が得られることが示された。
【0048】
[実施例4~7]
焼成炉に水蒸気を供給する期間を、表2に示す温度領域の期間に限定した以外は、実施例1と同様の操作を行った。試験結果を、表2に示す。
【0049】
【0050】
[実施例8]
焼成炉に水蒸気を供給する期間を、表3に示す温度領域の期間に限定した以外は、実施例3と同様の操作を行った。試験結果を、表3に示す。
【0051】
【0052】
本実施形態の製造方法に従い、仮焼工程で水蒸気を供給することにより、得られる誘電体粒子の含有塩素量が低減し、c/a値が適正範囲内になると共に、比表面積も増大した。そうした効果は、温度が720℃以上となった時点から前記仮焼工程が終了するまでの期間に水蒸気を導入した実施例1、7、及び8で、特に顕著となることが明らかになった。
【0053】
以上のように、本実施形態の製造方法により、ハロゲン類量が低減され、結晶性(正方晶性)が良好で比表面積が比較的大きく、Ba/Tiの原子比が1に近いBaTiO3系誘電体粒子が提供された。