(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103690
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
F02D 21/06 20060101AFI20230720BHJP
F02D 19/02 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
F02D21/06
F02D19/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004348
(22)【出願日】2022-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(71)【出願人】
【識別番号】503116899
【氏名又は名称】株式会社IHI原動機
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久下 喬弘
(72)【発明者】
【氏名】山田 敬之
(72)【発明者】
【氏名】原 崇
(72)【発明者】
【氏名】田貝 哲哉
(72)【発明者】
【氏名】中山 貞夫
【テーマコード(参考)】
3G092
【Fターム(参考)】
3G092AB06
3G092AB18
3G092AB20
3G092DF06
3G092FA15
3G092HE03Z
(57)【要約】
【課題】未燃の燃料の排出を抑制する。
【解決手段】エンジン100は、ピストン106と、ピストン106を収容するシリンダライナ102と、シリンダライナ102の内壁に設けられ、シリンダライナ102の軸方向に見た場合にシリンダライナ102の径方向に対して交差する方向に臨み、少なくとも圧縮行程中に不燃性の気体(空気)を噴射する気体噴射孔(空気噴射孔116)と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンと、
前記ピストンを収容するシリンダライナと、
前記シリンダライナの内壁に設けられ、前記シリンダライナの軸方向に見た場合に前記シリンダライナの径方向に対して交差する方向に臨み、少なくとも圧縮行程中に不燃性の気体を噴射する気体噴射孔と、
を備える、
エンジン。
【請求項2】
前記気体噴射孔と接続される流路と、
前記流路に設けられる開閉弁と、
を備え、
前記開閉弁が開弁することによって、前記気体噴射孔から不燃性の気体が噴射される、
請求項1に記載のエンジン。
【請求項3】
前記開閉弁の動作を制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、少なくとも圧縮行程中に、前記開閉弁を開弁させることによって、前記気体噴射孔から不燃性の気体を噴射させる、
請求項2に記載のエンジン。
【請求項4】
前記気体噴射孔は、前記径方向に見た場合に前記シリンダライナの周方向に対して交差する方向に臨む、
請求項1~3のいずれか一項に記載のエンジン。
【請求項5】
前記シリンダライナの内壁には、第1気体噴射孔と、前記第1気体噴射孔よりも下死点側に配置される第2気体噴射孔とが、前記気体噴射孔として設けられ、
前記第1気体噴射孔は、前記径方向に見た場合に前記周方向に対して上死点側に傾斜する方向に臨み、
前記第2気体噴射孔は、前記径方向に見た場合に前記周方向に対して下死点側に傾斜する方向に臨む、
請求項4に記載のエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼室、吸気弁および排気弁を有するエンジンがある。このようなエンジンでは、例えば、特許文献1に開示されているように、燃焼室と連通する吸気ポートが吸気弁によって開閉される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
吸気行程において、吸気弁が開弁し、吸気ポートから燃焼室に向かうガスの流れが生じる。ここで、燃焼室内において、混合気の一部はシリンダライナの内壁に沿って流れる。シリンダライナの内壁に沿って流れる混合気は、ピストンのトップランド部とシリンダライナの内壁との間の空間、または、シリンダライナとシリンダヘッドとの接続部分の近傍の空間に侵入する。これらの空間に侵入した燃料は、燃焼行程において燃焼しにくいので、未燃の燃料として排出される場合がある。熱効率を向上させる観点、または、温室効果ガスの排出を抑制する観点では、未燃の燃料の排出を抑制することが望ましい。
【0005】
本開示の目的は、未燃の燃料の排出を抑制することが可能なエンジンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のエンジンは、ピストンと、ピストンを収容するシリンダライナと、シリンダライナの内壁に設けられ、シリンダライナの軸方向に見た場合にシリンダライナの径方向に対して交差する方向に臨み、少なくとも圧縮行程中に不燃性の気体を噴射する気体噴射孔と、を備える。
【0007】
気体噴射孔と接続される流路と、流路に設けられる開閉弁と、を備え、開閉弁が開弁することによって、気体噴射孔から不燃性の気体が噴射されてもよい。
【0008】
開閉弁の動作を制御する制御装置を備え、制御装置は、少なくとも圧縮行程中に、開閉弁を開弁させることによって、気体噴射孔から不燃性の気体を噴射させてもよい。
【0009】
気体噴射孔は、径方向に見た場合にシリンダライナの周方向に対して交差する方向に臨んでもよい。
【0010】
シリンダライナの内壁には、第1気体噴射孔と、第1気体噴射孔よりも下死点側に配置される第2気体噴射孔とが、気体噴射孔として設けられ、第1気体噴射孔は、径方向に見た場合に周方向に対して上死点側に傾斜する方向に臨み、第2気体噴射孔は、径方向に見た場合に周方向に対して下死点側に傾斜する方向に臨んでもよい。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、未燃の燃料の排出を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態に係る吸排気システムの構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本開示の実施形態に係るエンジンの各気筒の構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、本開示の実施形態に係るエンジンの燃焼室をシリンダライナの軸方向に見た様子を示す図である。
【
図4】
図4は、本開示の実施形態に係るエンジンのシリンダライナの内壁をシリンダライナの径方向に見た様子を示す図である。
【
図5】
図5は、本開示の実施形態に係るエンジンの各気筒の圧縮行程の期間を示す図である。
【
図6】
図6は、変形例に係るエンジンのシリンダライナの内壁をシリンダライナの径方向に見た様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施形態について説明する。実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0014】
図1は、本実施形態に係る吸排気システム1の構成を示す模式図である。吸排気システム1は、エンジン100の吸気および排気に関するシステムである。
図1に示すように、吸排気システム1は、エンジン100と、吸気流路200と、排気流路300と、過給機400と、接続流路500と、制御装置600とを備える。制御装置600は、エンジン100に含まれる。
【0015】
エンジン100は、複数の気筒を有する。
図1の例では、エンジン100は、第1気筒#1と、第2気筒#2と、第3気筒#3と、第4気筒#4と、第5気筒#5と、第6気筒#6とを有する。ただし、エンジン100の気筒数は、6つ以外であってもよい。
図2は、本実施形態に係るエンジン100の各気筒の構成を示す模式図である。
図2では、吸気ポート104a、排気ポート104b、燃料噴射弁112および点火装置114が、同一断面上に図示されている。ただし、吸気ポート104a、排気ポート104b、燃料噴射弁112および点火装置114は、同一断面上に位置しなくてもよい。
【0016】
図2に示すように、エンジン100は、シリンダライナ102、シリンダヘッド104、および、ピストン106を備える。ピストン106は、シリンダライナ102内に収容される。シリンダライナ102、シリンダヘッド104およびピストン106によって、燃焼室108が形成される。以下、シリンダライナ102の軸方向、径方向および周方向を、単に軸方向、径方向および周方向とも呼ぶ。
【0017】
ピストン106は、ピストン本体106aと、ピストンリング106b、106c、106dとを有する。ピストン本体106aは、略円柱形状を有する。ピストン本体106aは、シリンダライナ102と同軸上に配置される。ピストンリング106b、106c、106dは、ピストン本体106aの外周面に形成された溝に嵌合している。ピストンリング106b、106c、106dは、上死点側からこの順に軸方向に並んで配置される。ピストン本体106aの外周面のうちピストンリング106bより上死点側の部分は、トップランド部TLと呼ばれる。
【0018】
シリンダヘッド104には、吸気ポート104aおよび排気ポート104bが形成される。吸気ポート104aおよび排気ポート104bは、燃焼室108に開口する。吸気弁110aは、吸気ポート104aのうち、燃焼室108側の開口を開閉する。排気弁110bは、排気ポート104bのうち、燃焼室108側の開口を開閉する。吸気弁110aおよび排気弁110bの開閉動作は、不図示のカムシャフトの回転に伴って行われる。
【0019】
吸気ポート104aには、後述する吸気流路200の分岐流路202を形成する配管が接続される。吸気ポート104aを介して、燃焼室108に混合気が流入する。排気ポート104bには、後述する排気流路300の分岐流路302を形成する配管が接続される。燃焼室108から排気ポート104bを介して排気ガスが排出される。
【0020】
燃料噴射弁112は、燃料供給源と接続される。燃料供給源は、例えば、不図示の燃料タンク、または、都市ガス等のパイプラインである。燃料噴射弁112は、吸気流路200の分岐流路202に設けられる。燃料噴射弁112の先端部は、吸気ポート104aに臨む。燃料噴射弁112は、燃料ガスを吸気ポート104aに噴射する。燃料ガスは、例えば、LNG(液化天然ガス)をガス化して生成される。燃料ガスは、LNGに限らず、例えば、LPG(液化石油ガス)、軽油、重油、アンモニアまたは水素等をガス化したものであってもよい。エンジン100は、燃料ガスを燃料として用いるガスエンジンである。以下では、燃料ガスを単に燃料とも呼ぶ。
【0021】
点火装置114は、シリンダヘッド104に設けられる。点火装置114の先端部は、燃焼室108内に突出する。
【0022】
エンジン100は、4サイクルエンジンである。吸気行程において、燃料噴射弁112から燃料が噴射され、吸気弁110aが開弁し、排気弁110bが閉弁した状態になる。ピストン106が下死点に向かい、吸気ポート104aから燃焼室108に吸気および燃料が吸入される。圧縮行程において、吸気弁110aおよび排気弁110bが閉弁した状態になる。ピストン106が上死点に向かい、燃焼室108内の混合気が圧縮される。混合気は点火装置114により着火されて燃焼し、燃焼行程において、ピストン106が下死点側に押圧される。排気行程において、吸気弁110aが閉弁し、排気弁110bが開弁した状態になる。ピストン106が上死点に向かい、燃焼後の排気ガスが排気ポート104bを通って燃焼室108から排出される。
【0023】
シリンダライナ102の内壁には、空気噴射孔116が設けられる。空気噴射孔116は、後述するように、気体噴射孔の一例に相当する。空気噴射孔116から燃焼室108内に空気が噴射されるようになっている。空気噴射孔116から噴射される空気は、後述するように、気体噴射孔から噴射される不燃性の気体の一例に相当する。ピストン106が下死点位置に位置する場合、空気噴射孔116は、ピストンリング106bよりも上死点側に位置する。なお、ピストン106が上死点位置に位置する場合、空気噴射孔116は、ピストンリング106bよりも上死点側に位置してもよく、ピストンリング106bよりも下死点側に位置してもよい。空気噴射孔116には、後述する接続流路500の分岐流路502を形成する配管が接続される。空気噴射孔116の詳細については後述する。以下、
図1に戻り、説明を続ける。
【0024】
吸気流路200は、エンジン100の燃焼室108と連通する。吸気流路200には、燃焼室108に供給される空気である吸気が流通する。吸気流路200の上流側の端部には、空気が外部から取り込まれる不図示の吸気口が設けられる。吸気流路200は、複数の燃焼室108とそれぞれ連通する複数の分岐流路202を有する。複数の分岐流路202は、吸気流路200の下流側に設けられる。上述したように、分岐流路202を形成する配管は、エンジン100の吸気ポート104aと接続される。吸気ポート104aは、分岐流路202のうちの下流側の端部に相当する。吸気ポート104aは、吸気流路200に含まれる。
【0025】
排気流路300は、エンジン100の燃焼室108と連通する。排気流路300には、燃焼室108から排出された排気ガスが流通する。排気流路300の下流側の端部には、排気ガスが外部に排出される不図示の排気口が設けられる。排気流路300は、複数の燃焼室108とそれぞれ連通する複数の分岐流路302を有する。複数の分岐流路302は、排気流路300の上流側に設けられる。上述したように、分岐流路302を形成する配管は、エンジン100の排気ポート104bと接続される。排気ポート104bは、分岐流路302のうちの上流側の端部に相当する。排気ポート104bは、排気流路300に含まれる。
【0026】
過給機400は、コンプレッサ402とタービン404とを有する。コンプレッサ402の翼車、および、タービン404の翼車は、一体として回転する。コンプレッサ402の翼車とタービン404の翼車とは、シャフトによって連結されている。
【0027】
コンプレッサ402は、吸気流路200のうち分岐流路202より上流側に設けられている。コンプレッサ402は、吸気口から取り込まれた吸気を圧縮して、下流側に送出する。吸気流路200のうち分岐流路202より上流側、かつ、コンプレッサ402より下流側には、インタークーラC1が設けられている。インタークーラC1の内部を流通する吸気は、インタークーラC1の外部の空気と熱交換することによって冷却される。インタークーラC1を通過した吸気は、各分岐流路202を介して各燃焼室108に送られる。なお、インタークーラC1として、吸気の冷却にエンジン冷却水や工業用水などの冷却水を用いるものを使用することもできる。
【0028】
タービン404は、排気流路300のうち分岐流路302より下流側に設けられている。エンジン100から排出された排気ガスは、各分岐流路302を介してタービン404に送られる。タービン404に送られた排気ガスは、タービン404を通過して、排気口から排出される。タービン404は、タービン404の翼車が排気ガスによって回されることによって、回転動力を生成する。タービン404により生成された回転動力は、シャフトを介してコンプレッサ402に伝達される。
【0029】
接続流路500は、吸気流路200と各気筒の空気噴射孔116とを接続する。接続流路500は、吸気流路200を流通する空気を各気筒の空気噴射孔116に供給するために設けられている。接続流路500では、吸気流路200から各気筒に向かって空気が流れる。以下では、接続流路500における上流側は吸気流路200側を意味し、接続流路500における下流側は気筒側を意味する。
【0030】
図1の例では、接続流路500の上流端は、吸気流路200のうち分岐流路202より上流側、かつ、インタークーラC1より下流側と接続される。接続流路500の下流側には、複数の分岐流路502が設けられる。各分岐流路502は、各気筒の空気噴射孔116とそれぞれ接続される。
図1の例では、分岐流路502として、分岐流路502a、502b、502c、502d、502e、502fが設けられている。分岐流路502a、502b、502c、502d、502e、502fは、それぞれ第1気筒#1、第2気筒#2、第3気筒#3、第4気筒#4、第5気筒#5、第6気筒#6の空気噴射孔116と接続される。
【0031】
各分岐流路502には、開閉弁504が設けられている。開閉弁504は、分岐流路502を開閉可能である。
図1の例では、開閉弁504として、開閉弁504a、504b、504c、504d、504e、504fが設けられている。開閉弁504a、504b、504c、504d、504e、504fは、それぞれ分岐流路502a、502b、502c、502d、502e、502fに設けられている。
【0032】
制御装置600は、中央処理装置(CPU)、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAM等を含む。制御装置600は、吸排気システム1中の各装置の動作を制御する。例えば、制御装置600は、エンジン100の動作を制御する。例えば、制御装置600は、各開閉弁504の動作を制御する。
【0033】
ここで、エンジン100の各気筒では、吸気行程において、吸気弁110aが開弁し、吸気ポート104aから燃焼室108に混合気が供給される。エンジン100では、空気噴射孔116から燃焼室108内に空気が噴射されることによって、
図2に示すように、シリンダライナ102の内壁に沿った破線で示す領域ALに空気の層が形成される。それにより、燃焼が生じにくい空間への燃料の進入が抑制され、未燃の燃料の排出が抑制される。以下、空気噴射孔116による空気の噴射について詳細に説明する。
【0034】
図3は、エンジン100の燃焼室108をシリンダライナ102の軸方向に見た様子を示す図である。
図3では、シリンダライナ102の中心軸CAに直交し、空気噴射孔116を通る断面が示されている。
図3に示すように、空気噴射孔116から噴射される空気の噴射方向DAは、空気噴射孔116からシリンダライナ102の中心軸CAに向かう方向DRに対して交差する。このように、空気噴射孔116は、シリンダライナ102の軸方向に見た場合にシリンダライナ102の径方向に対して交差する方向に臨む。それにより、空気噴射孔116から噴射された空気は、シリンダライナ102の内壁に沿って周方向に流れる。ゆえに、
図2に示す領域ALに空気の層を形成することが適切に実現される。空気噴射孔116から噴射された空気をシリンダライナ102の内壁に沿って流す観点では、空気噴射孔116の噴射方向DAは、軸方向に見た場合にシリンダライナ102の接線方向に近いことが好ましい。
【0035】
図4は、エンジン100のシリンダライナ102の内壁をシリンダライナ102の径方向に見た様子を示す図である。
図4中の上側は上死点側であり、
図4中の下側は下死点側である。
図4に示すように、空気噴射孔116から噴射される空気の噴射方向DAは、シリンダライナ102の周方向DCに対して交差する。このように、空気噴射孔116は、シリンダライナ102の径方向に見た場合にシリンダライナ102の周方向DCに対して交差する方向に臨む。それにより、空気噴射孔116から噴射された空気は、シリンダライナ102の内壁に沿って周方向に流れながら軸方向に移動しやすくなる。例えば、空気噴射孔116から噴射された空気は、シリンダライナ102の内壁に沿って螺旋状に流れる。ゆえに、
図2に示す領域ALに空気の層を形成することがより適切に実現される。
【0036】
図4の例では、空気噴射孔116は、シリンダライナ102の径方向に見た場合にシリンダライナ102の周方向DCに対して上死点側に傾斜する方向に臨んでいる。ただし、空気噴射孔116は、シリンダライナ102の径方向に見た場合にシリンダライナ102の周方向DCに対して下死点側に傾斜する方向に臨んでいてもよい。
【0037】
図5は、エンジン100の各気筒の圧縮行程の期間を示す図である。
図5では、各気筒の圧縮行程の期間が、クランク角により示されており、第1気筒#1の圧縮行程開始のクランク角を0degとしている。
図5中の矢印で示す期間が圧縮行程の期間である。エンジン100では、第1気筒#1、第3気筒#3、第5気筒#5、第6気筒#6、第4気筒#4、第2気筒#2の順に、燃焼が起こるようになっている。ゆえに、第1気筒#1、第3気筒#3、第5気筒#5、第6気筒#6、第4気筒#4、第2気筒#2の順に、圧縮行程が行われる。
【0038】
図5に示すように、各気筒の圧縮行程は、クランク角度で180°程度の期間に行われる。例えば、第1気筒#1の圧縮行程の期間は、クランク角度で大凡0°から180°までの期間である。第3気筒#3の圧縮行程の期間は、クランク角度で大凡120°から300°までの期間である。第5気筒#5の圧縮行程の期間は、クランク角度で大凡240°から420°までの期間である。第6気筒#6の圧縮行程の期間は、クランク角度で大凡360°から540°までの期間である。第4気筒#4の圧縮行程の期間は、クランク角度で大凡480°から660°までの期間である。第2気筒#2の圧縮行程の期間は、クランク角度で大凡600°から60°までの期間である。このように、各気筒の圧縮行程の開始タイミングは、クランク角度で120°ずつズレている。
【0039】
ここで、制御装置600は、圧縮行程中の気筒と接続される分岐流路502に設けられる開閉弁504を開弁させる。それにより、制御装置600は、各気筒において、圧縮行程中に空気噴射孔116から空気を噴射させることができる。
【0040】
なお、制御装置600は、各気筒において、少なくとも圧縮行程中に空気噴射孔116から空気を噴射させればよい。制御装置600は、圧縮行程の開始時点から終了時点までの間に亘って、空気噴射孔116から空気を噴射させてもよい。制御装置600は、圧縮行程のうちの一部の期間において、空気噴射孔116から空気を噴射させてもよい。例えば、制御装置600は、圧縮行程において、空気噴射孔116がピストンリング106bよりも上死点側に位置している期間に限り、空気噴射孔116から空気を噴射させてもよい。制御装置600は、吸気行程が終了する時点より少し前の時点で、空気噴射孔116からの空気の噴射を開始させてもよい。この場合、吸気行程の終了間際から圧縮行程に亘って、空気噴射孔116からの空気の噴射が行われる。
【0041】
図5に示すように、制御装置600は、第1気筒#1の圧縮行程中に、分岐流路502aに設けられる開閉弁504aを開弁させる。それにより、第1気筒#1の圧縮行程中に、第1気筒#1の空気噴射孔116から空気が噴射される。同様に、
図5に示すように、制御装置600は、第2気筒#2、第3気筒#3、第4気筒#4、第5気筒#5、第6気筒#6の圧縮行程中に、それぞれ開閉弁504b、504c、504d、504e、504fを開弁させる。それにより、第2気筒#2、第3気筒#3、第4気筒#4、第5気筒#5、第6気筒#6の圧縮行程中に、それぞれ第2気筒#2、第3気筒#3、第4気筒#4、第5気筒#5、第6気筒#6の空気噴射孔116から空気が噴射される。
【0042】
上記のように、エンジン100では、空気噴射孔116が、シリンダライナ102の内壁に設けられる。空気噴射孔116は、シリンダライナ102の軸方向に見た場合にシリンダライナ102の径方向に対して交差する方向に臨む。空気噴射孔116は、少なくとも圧縮行程中に空気を噴射する。それにより、圧縮行程中に、空気噴射孔116から噴射された空気によって、
図2に示すように、シリンダライナ102の内壁に沿った領域ALに空気の層が形成される。ここで、空気の層が形成される領域ALには、ピストン106のトップランド部TLとシリンダライナ102の内壁との間の空間、および、シリンダライナ102とシリンダヘッド104との接続部分の近傍の空間を含む。ゆえに、これらの燃焼が生じにくい空間への燃料の進入が抑制される。よって、未燃の燃料の排出が抑制される。それにより、熱効率の向上、および、温室効果ガスの排出の抑制が実現される。
【0043】
特に、エンジン100では、分岐流路502に設けられる開閉弁504が開弁することによって、空気噴射孔116から空気が噴射される。それにより、空気噴射孔116からの空気の噴射タイミングが開閉弁504によって適正化される。ゆえに、未燃の燃料の排出がより適切に抑制される。なお、分岐流路502は、空気噴射孔116と接続される流路の一例に相当する。
【0044】
特に、エンジン100では、制御装置600は、少なくとも圧縮行程中に、開閉弁504を開弁させることによって、空気噴射孔116から空気を噴射させる。それにより、空気噴射孔116からの空気の噴射タイミングをより適切に制御できる。ゆえに、未燃の燃料の排出がさらに適切に抑制される。
【0045】
上記では、エンジン100に、空気噴射孔116が気体噴射孔として設けられる例を説明した。ただし、エンジン100に設けられる気体噴射孔は、不燃性の気体を燃焼室108内に噴射する孔であればよく、空気噴射孔116に限定されない。例えば、燃焼室108内に排気を噴射する気体噴射孔がエンジン100に設けられてもよい。この場合にも、上記と同様の効果が奏される。
【0046】
上記では、吸気流路200を流通する空気が空気噴射孔116に供給される例を説明した。ただし、空気噴射孔116に供給される空気は、吸気流路200を流通する空気以外の空気であってもよい。その場合、接続流路500の上流端は、別途設けられた図示しないコンプレッサ等の空気供給源と接続される。
【0047】
上記では、空気噴射孔116に空気を供給する機構として接続流路500について説明した。ただし、上記で説明した接続流路500に対して、構成要素が適宜追加または削除されてもよい。例えば、空気噴射孔116に空気を適切に供給する観点では、空気を昇圧するポンプ等の装置が接続流路500に追加されてもよい。また、例えば、吸気行程においてピストン106が下死点に到達する時点よりも前の時点で吸気弁110aが閉弁する場合、接続流路500から開閉弁504が省略されてもよい。この場合、吸気弁110aの閉弁後の筒内圧が低くなるタイミングで、接続流路500を介して空気噴射孔116に空気が供給され得る。それにより、制御装置600を省略した上で、少なくとも圧縮行程中に、空気噴射孔116から空気を噴射させることができる。この場合にも、上記と同様の効果が奏される。
【0048】
上記では、
図2を参照して、空気噴射孔116がシリンダライナ102の内壁に設けられる旨を説明した。ただし、シリンダライナ102における空気噴射孔116の軸方向位置は
図2の例に限定されない。空気噴射孔116の軸方向位置が下死点側になるほど、燃焼圧力が空気噴射孔116に与える影響が小さくなる。一方、空気噴射孔116の軸方向位置が上死点側になるほど、圧縮行程において、空気噴射孔116がピストンリング106bよりも上死点側に位置している期間を長くすることができるので、空気噴射孔116から燃焼室108内に空気が噴射される期間を長くすることができる。空気噴射孔116の軸方向位置は、これらの観点を考慮して適宜設定され得る。
【0049】
上記では、燃料噴射弁112が、吸気流路200の分岐流路202に設けられ、燃料ガスを吸気ポート104aに噴射する例を説明した。ただし、燃料噴射弁112は、燃焼室108に臨むようにシリンダヘッド104に設けられ、燃料ガスを燃焼室108内に直接噴射してもよい。この場合においても、空気噴射孔116から噴射される空気により領域ALに空気の層が形成されることによって、未燃の燃料の排出が抑制される。
【0050】
図6は、変形例に係るエンジン100Aのシリンダライナ102の内壁をシリンダライナ102の径方向に見た様子を示す図である。
図6中の上側は上死点側であり、
図6中の下側は下死点側である。
図6に示すように、変形例に係るエンジン100Aでは、シリンダライナ102の内壁に、第1空気噴射孔116aと、第2空気噴射孔116bとが、空気噴射孔116として設けられる。第1空気噴射孔116aは、第1気体噴射孔の一例に相当する。第2空気噴射孔116bは、第2気体噴射孔の一例に相当する。第2空気噴射孔116bは、第1空気噴射孔116aよりも下死点側に配置される。
図6の例では、第1空気噴射孔116aと第2空気噴射孔116bとの間で、周方向位置が略一致している。ただし、第1空気噴射孔116aと第2空気噴射孔116bとの間で、周方向位置は異なっていてもよい。
【0051】
第1空気噴射孔116aから噴射される空気の噴射方向DAaは、シリンダライナ102の周方向DCに対して上死点側に傾斜する。このように、第1空気噴射孔116aは、シリンダライナ102の径方向に見た場合にシリンダライナ102の周方向DCに対して上死点側に傾斜する方向に臨む。ゆえに、第1空気噴射孔116aから噴射された空気は、シリンダライナ102の内壁に沿って周方向に流れながら上死点側に移動する。
【0052】
一方、第2空気噴射孔116bから噴射される空気の噴射方向DAbは、シリンダライナ102の周方向DCに対して下死点側に傾斜する。このように、第2空気噴射孔116bは、シリンダライナ102の径方向に見た場合にシリンダライナ102の周方向DCに対して下死点側に傾斜する方向に臨む。ゆえに、第2空気噴射孔116bから噴射された空気は、シリンダライナ102の内壁に沿って周方向に流れながら下死点側に移動する。
【0053】
上記のように、エンジン100Aでは、第1空気噴射孔116aと、第2空気噴射孔116bとが、空気噴射孔116として設けられる。それにより、上死点側に設けられた第1空気噴射孔116aから噴射された空気が上死点側に移動し、下死点側に設けられた第2空気噴射孔116bから噴射された空気が下死点側に移動する。ゆえに、シリンダライナ102の内壁の近傍において、軸方向の広い範囲に空気の層を適切に形成することができる。
【0054】
上記では、2つの空気噴射孔116がシリンダライナ102の内壁に設けられる例を説明した。ただし、シリンダライナ102の内壁に設けられる空気噴射孔116の数は、3つ以上であってもよい。例えば、上記で説明したエンジン100Aにおいて、第1空気噴射孔116aの軸方向位置と第2空気噴射孔116bの軸方向位置との間の軸方向位置に、他の空気噴射孔116が追加されてもよい。
【0055】
以上、添付図面を参照しながら本開示の実施形態について説明したが、本開示はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0056】
100 エンジン
100A エンジン
102 シリンダライナ
106 ピストン
116 空気噴射孔(気体噴射孔)
116a 第1空気噴射孔(第1気体噴射孔)
116b 第2空気噴射孔(第2気体噴射孔)
502 分岐流路(流路)
504 開閉弁
600 制御装置