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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103699
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】マグネシウム化合物の還元装置
(51)【国際特許分類】
   C22B 26/22 20060101AFI20230720BHJP
   C22B 5/12 20060101ALI20230720BHJP
   B22F 9/22 20060101ALI20230720BHJP
   B22F 9/14 20060101ALI20230720BHJP
   B01J 19/08 20060101ALN20230720BHJP
【FI】
C22B26/22
C22B5/12
B22F9/22 Z
B22F9/14 Z
B01J19/08 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004370
(22)【出願日】2022-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】506213382
【氏名又は名称】アンヴァール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 重利
【テーマコード(参考)】
4G075
4K001
4K017
【Fターム(参考)】
4G075AA22
4G075AA62
4G075AA63
4G075BA06
4G075CA15
4G075CA47
4G075CA63
4G075DA02
4G075EB41
4G075EB42
4G075EC21
4G075ED11
4G075FB06
4G075FC15
4K001AA42
4K001BA04
4K001BA05
4K001BA06
4K001BA07
4K001BA08
4K001HA09
4K001HA11
4K001HA12
4K017AA03
4K017BA10
4K017CA06
4K017CA07
4K017CA08
4K017EF02
4K017EH15
4K017EH16
4K017EH18
4K017FB05
4K017FB06
(57)【要約】
【課題】環境負荷の小さい新たなマグネシウム化合物の還元装置を提供する。
【解決手段】反応室10aと、反応室10a内で非平衡プラズマを発生させるプラズマ発生手段11と、反応室10aに還元剤を供給する供給手段12と、を備えている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応室と、
前記反応室内で非平衡プラズマを発生させるプラズマ発生手段と、
前記反応室に還元剤を供給する供給手段と、を備えていることを特徴とするマグネシウム化合物の還元装置。
【請求項2】
前記プラズマ発生手段は、ストリーマ放電を発生させることを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム化合物の還元装置。
【請求項3】
前記還元剤は、ガス状であることを特徴とする請求項1または2に記載のマグネシウム化合物の還元装置。
【請求項4】
前記供給手段は、不活性ガスを前記還元剤と共に供給することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のマグネシウム化合物の還元装置。
【請求項5】
前記供給手段は、前記プラズマ発生手段を囲うように還元性ガスを供給することを特徴とする請求項3または4に記載のマグネシウム化合物の還元装置。
【請求項6】
温度調整手段を備え、
前記温度調整手段は、前記反応室内の温度に応じて前記還元性ガスの温度・量等の供給状態を調整することを特徴とする請求項3ないし5のいずれかに記載のマグネシウム化合物の還元装置。
【請求項7】
温度調整手段を備え、
前記温度調整手段は、前記反応室内の温度に応じて前記不活性ガスの温度・量等の供給状態を調整することを特徴とする請求項4に記載のマグネシウム化合物の還元装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム化合物の還元装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃焼時に多量の熱が発生し、還元することで再利用可能であるばかりでなく、二酸化炭素中においても多量の熱を発しながら反応する金属マグネシウム(以下、単に「マグネシウム」とも言う)は、化石燃料に代わる新時代の燃料として期待が高まってきている。また、マグネシウムは、電気自動車やドローン等の次世代基幹産業製品の骨格材料としても期待されている。
【0003】
また、マグネシウムは、地殻や海水等に多量に含まれているが、その多くが酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等のマグネシウム化合物として存在している。このことから、マグネシウムとして使用するためには、マグネシウム化合物をマグネシウムに還元する必要がある。
【0004】
マグネシウム化合物の還元方法としては、熱還元法が一般的に知られている。熱還元法は、一般的にマグネシウム化合物に還元剤を混ぜ、減圧下で高熱に加熱する方法である。そのため、高熱を維持するために多量の化石燃料を必要とするばかりでなく、二酸化炭素等発生による環境負荷も大きいという問題がある。
【0005】
そこで、マグネシウム化合物の還元において生じる環境負荷を軽減するべく、例えばアーク放電を利用してマグネシウム化合物をマグネシウムに還元する特許文献1のような還元装置が知られている。特許文献1の還元装置は、反応室と、反応室内にて酸化マグネシウムにアーク放電を行うための一対の電極と、反応室内にメタンを供給するための供給手段と、から主に構成されている。そして、反応室内にメタンを供給した状態で一対の電極間でアーク放電を行い生成した熱プラズマ内に、酸化マグネシウム粉末を供給することで、気体のマグネシウム、一酸化炭素、水素を主成分とするプラズマを生じさせ、気体のマグネシウムを冷却することでマグネシウム粉末が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-032131号公報(第5頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように特許文献1のような還元装置にあっては、アーク放電を用いて熱プラズマを生じさせることにより、マグネシウム化合物をマグネシウムに還元することができるため、還元にあたって二酸化炭素の発生量を低減することができる。しかしながら、熱プラズマを生じさせるにあたって高熱が必要となってくるため、耐熱に優れる反応室を設ける必要があることに加え、反応室の消耗が激しいという問題があった。
【0008】
そこで発明者らは、高熱が生じることを抑止するべく、熱プラズマと比較して相対的に低温である非平衡プラズマを用いてマグネシウム化合物を還元することを見出した。
【0009】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、環境負荷の小さい新たなマグネシウム化合物の還元装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明のマグネシウム化合物の還元装置は、
反応室と、
前記反応室内で非平衡プラズマを発生させるプラズマ発生手段と、
前記反応室に還元剤を供給する供給手段と、を備えていることを特徴としている。
この特徴によれば、低温状態において非平衡プラズマ化したマグネシウム化合物が還元剤で還元されることにより、マグネシウムを得ることができる。このようにして、環境負荷の小さいマグネシウム化合物の還元装置を提供することができる。
【0011】
前記プラズマ発生手段は、ストリーマ放電を発生させることを特徴としている。
この特徴によれば、広範囲でマグネシウム化合物を非平衡プラズマ化することができることから、還元効率を高めることができる。
【0012】
前記還元剤は、ガス状であることを特徴としている。
この特徴によれば、非平衡プラズマ化したマグネシウム化合物との反応効率を向上させることができる。
【0013】
前記供給手段は、不活性ガスを前記還元剤と共に供給することを特徴としている。
この特徴によれば、還元剤を所望の箇所に供給でき、反応効率と反応室内の温度上昇を抑えることを両立できる。
【0014】
前記供給手段は、前記プラズマ発生手段を囲うように還元性ガスを供給することを特徴としている。
この特徴によれば、還元性ガスがプラズマ化することによる反応室内の温度上昇を抑えつつ、非平衡プラズマ化したマグネシウム化合物に還元性ガスを供給することができるため、還元効率を高めることができる。
【0015】
温度調整手段を備え、
前記温度調整手段は、前記反応室内の温度に応じて前記還元性ガスの温度・量等の供給状態を調整することを特徴としている。
この特徴によれば、マグネシウム化合物の還元に伴い水が生じた場合であっても、反応室内の温度が所定温度以下に調整されるため、水とマグネシウムとが反応することを防止することができる。
【0016】
温度調整手段を備え、
前記温度調整手段は、前記反応室内の温度に応じて前記不活性ガスの温度・量等の供給状態を調整することを特徴としている。
この特徴によれば、マグネシウム化合物の還元に伴い水が生じた場合であっても、反応室内の温度が所定温度以下に調整されるため、水とマグネシウムとが反応することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施例1におけるマグネシウム化合物の還元装置が適用される炭素固定システムを示す概要図である。
図2】実施例1におけるマグネシウム化合物の還元装置を示す図である。
図3】本発明の実施例2におけるマグネシウム化合物の還元装置を示す図である。
図4】実施例2におけるマグネシウム化合物の還元装置の変形例1を示す図である。
図5】実施例2におけるマグネシウム化合物の還元装置の変形例2を示す図である。
図6】マグネシウム化合物の還元装置によりマグネシウム化合物を連続処理するための構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、マグネシウム化合物の還元装置において、熱プラズマと比較して相対的に低温である非平衡プラズマを発生させることにより、高熱が生じることを抑止しつつ、マグネシウム化合物をマグネシウムに還元することが可能であることを見出し、これを契機とするものである。
【0019】
本発明に係るマグネシウム化合物の還元装置を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例0020】
実施例1に係るマグネシウム化合物の還元装置につき、図1から図2を参照して説明する。
【0021】
本実施例1のマグネシウム化合物の還元装置1(以下、単に「還元装置1」とも言う)は、図1に示されるように、炭素固定システム100において、マグネシウム化合物としての酸化マグネシウム(MgO)をマグネシウム(Mg)に還元するために用いられる。
【0022】
炭素固定システム100は、還元装置1と、電解装置2と、低温焼成装置3と、Mg/CO発電装置4と、から主に構成されており、還元装置1においてMgOから還元されたMgをMg/CO発電装置4に供給することにより、二酸化炭素(CO)中におけるMgの燃焼反応によりCOを炭素固定しつつ、その高い反応熱を利用して発電を行うものである。さらに、炭素固定システム100は、Mg/CO発電装置4において生成されたMgOを還元装置1においてMgに還元し、Mg/CO発電装置4におけるMgの燃焼反応に再利用することにより循環させるマグネシウムルーピングにより、環境負荷を小さくすることができる。
【0023】
電解装置2においては、海水を電解して水酸化マグネシウム(Mg(OH))を生成する。
【0024】
低温焼成装置3においては、電解装置2で得られたMg(OH)に後述するMg/CO発電装置4で発生した熱(600℃)を与えて熱分解させ(反応式1参照)、MgOを生成する。
Mg(OH)→MgO+HO・・・(反応式1)
【0025】
還元装置1においては、高電圧パルスを利用して、低温焼成装置3で得られたMgOの非平衡プラズマ還元反応を行わせ(反応式2参照)、Mg/CO発電装置4の反応に利用されるMgを生成する。
2MgO→2Mg+O・・・(反応式2)
【0026】
詳しくは、還元装置1に供給されたMgOに対して、高電圧パルスを直接印加することによりMgOから多量の電子が放出され、MgOが非平衡プラズマ化し、非平衡プラズマ還元反応によりMgが得られるものと推察される。尚、Mgと共に得られる酸素(O)は、反応性が高い酸素ラジカル(O )となる。
【0027】
MgOが非平衡プラズマ化することにより発生するO は、非平衡プラズマ還元反応により得られるMgとの反応性が高く、常温でもMgを再び酸化させてMgOを生成してしまうことから還元効率が低下してしまう。そのため、還元装置1においては、非平衡プラズマ化したMgOに対して還元剤としての還元性ガス(本実施例1においては水素(H))を供給し、水(HO)を発生させる(反応式3参照)ことにより、Mgの酸化を抑制し、MgOの還元効率が高められている。
MgO+H→2Mg+HO・・・(反応式3)
【0028】
Mg/CO発電装置4においては、COをMgと反応させ(下記反応式4,5参照)、炭素の固定が行われる。尚、COとMgの反応は、発熱反応である。
【0029】
詳しくは、例えば火力発電所で生じた排気等、COリッチな気体に含まれるCOをMgと反応させると、COはMgとは完全に反応せずCOが一部生じ、反応熱の温度が約1500℃~約2000℃となる(反応式4参照)。
Mg+CO→MgO+CO・・・(反応式4)
【0030】
また、CO濃度が高濃度、例えば95%以上である場合には、COはMgと略完全に反応し、MgOと炭素(C)とが生成されCOは生成されず、反応熱の温度が約3000℃以上となる(反応式5参照)。COとMgの反応の観点からはCO濃度が100%であることが好ましい。本実施例においては、反応熱の温度が約2000℃~約3000℃となるようにCO濃度が調整されることが好ましい。
2Mg+CO→2MgO+C・・・(反応式5)
【0031】
Mg/CO発電装置4では、反応を利用して回転される図示しないタービンを利用して、発電が行われている。
【0032】
Mg/CO発電装置4において生成されたMgOは、還元装置1に供給されることにより、再びMgに還元される(反応式2,3参照)。
【0033】
次いで、本実施例1における還元装置1について図2を用いて詳しく説明する。図2に示されるように、本実施例1の還元装置1は、反応室10aが形成されるケーシング10と、反応室10a内で非平衡プラズマを発生させるプラズマ発生手段としての高電圧パルス印加装置11と、反応室10aに還元性ガスとしてのHと不活性ガスとしてのアルゴン(Ar)を共に供給可能な供給手段12と、温度調整手段13と、から主に構成されている。
【0034】
高電圧パルス印加装置11は、反応室10aの上下に配置される針状の電極11aと、平板状の電極11bと、を備えている。電極11aは、電極11b上に供給されたMgOに先端を接触させた状態で配置される。すなわち、高電圧パルス印加装置11は、MgOに高電圧パルスを直接印加する。
【0035】
詳しくは、高電圧パルス印加装置11は、図示しない静電容量の大きなコンデンサに充電した電荷を電極11aから電極11bに向けて短時間で一気に放電する。尚、高電圧パルス印加装置11からの印加電圧は、1~80kVであることが好ましく、2~40kVであることがより好ましく、4~20kVであることがより一層好ましい。
【0036】
また、高電圧パルス印加装置11による高電圧パルスの印加は、断続的に複数回行ってもよく、放電回数、放電時間、周波数等の条件は、還元されるマグネシウム化合物の種類や平均粒子径等に応じて適宜調整されてよい。
【0037】
ケーシング10の内部は、筒状の区画部材10bにより内側の反応室10aと外側の供給室10cとに区画されている。反応室10aと供給室10cは、区画部材10bの下端と電極11bの上面との間に形成される隙間Gにより連通している。
【0038】
供給室10cには、供給手段12が接続されている。供給手段12から供給口10dを通して供給室10cに供給された還元性ガスと不活性ガス(図2の矢印A1参照)は、隙間Gを通って反応室10aに供給される(図2の矢印A2参照)。反応室10aに供給された還元性ガスと不活性ガスは、排出口10eを通して外部に排出される(図2の矢印A3参照)。このように、ケーシング10の内部には、還元性ガスと不活性ガスによる流れが形成される。
【0039】
また、高電圧パルス印加装置11により高電圧パルスを印加する前には、供給手段12から不活性ガスのみを供給することにより、ケーシング10の内部、特に反応室10a内が不活性ガスにより満たされた状態とすることが好ましい。これにより、反応室10a内が電気の流れやすい大気で満たされている場合と比べて、MgOに高電圧パルスが直接印加されやすくなる。尚、不活性ガスとしてアルゴンのような希ガスを用いる場合には、減圧下では不活性ガスに電気が流れやすくなるため、高電圧パルスの印加は、常圧(大気圧)下または加圧下で行われることが好ましい。
【0040】
温度調整手段13は、反応室10a内の温度に応じて還元性ガスと不活性ガスの温度・量等の供給状態を調整する。尚、温度調整手段13は、還元性ガスと不活性ガスの少なくとも一方の温度・量等の供給状態を調整するものであればよい。高電圧パルス印加装置11からMgOに高電圧パルスが直接印加され、MgOが非平衡プラズマ化する。このとき、反応室10a内の温度は、後述するように省エネルギ量の観点、HOとMgの反応量を減らす観点から、80℃以下に調整されることが好ましく、60℃以下に調整されることがより好ましく、40度以下に調整されることがより一層好ましい。また、MgOが非平衡プラズマ化することにより、温度が過度に上昇する際には、ケーシング10の内部における還元性ガスと不活性ガスの流れにより反応室10a内の温度を調整する。
【0041】
以上、説明したように、本実施例1の還元装置1に供給されたMgOに高電圧パルス印加装置11により高電圧パルスを直接印加することにより、低温状態において非平衡プラズマ化したMgOが還元剤としてのHで還元され、Mgを得ることができる。このように、本発明のマグネシウム化合物の還元装置は、従来の熱還元法、電解法、熱平衡プラズマ還元反応による方法等に比べて、マグネシウム化合物の還元に必要なエネルギ量を小さくすることができ、二酸化炭素を排出することもないことから、環境負荷の小さいマグネシウム化合物の還元装置を提供することができる。尚、還元装置1に供給されたMgOが全てMgに還元されない場合、図示しない遠心分離装置等を用いてMgのみを分離することにより得られるMgの純度を高めてもよい。
【0042】
また、プラズマ発生手段として高電圧パルス印加装置11を用いることにより、電流を抑制してジュール加熱を低減することができる。また、印加時間が短時間であり、非通電の時間があることにより、マグネシウム化合物を非平衡プラズマ化しやすい。
【0043】
また、還元剤がガス状であることにより、非平衡プラズマ化したMgOとの反応効率を向上させることができる。
【0044】
また、供給手段12は、不活性ガスを還元剤と共に供給することにより、還元剤を所望の箇所に供給でき、反応効率と反応室10a内の温度上昇を抑えることを両立できる。また、反応室10a内への大気の混入を防止することができる。
【0045】
また、供給手段12は、高電圧パルス印加装置11を構成する電極11a,11bを囲うように供給室10cに還元性ガスを供給することにより、還元性ガスがプラズマ化することによる反応室10a内の温度上昇を抑えつつ、非平衡プラズマ化したMgOに還元性ガスを供給することができるため、還元効率を高めることができる。
【0046】
また、温度調整手段13は、反応室10a内の温度に応じて不活性ガスと還元性ガスの温度・量等の供給状態を調整することにより、MgOの還元に伴いHOが生じた場合であっても、反応室10a内の温度が所定温度以下に調整されるため、HOとMgとが反応することを防止することができる。詳しくは、非平衡プラズマ化したMgOと還元性ガスとしてのHが反応して生成されるHO(反応式3参照)の温度が高い状態(例えば100℃以上の水蒸気)では、還元されたMgと再反応しやすくなることから、温度調整手段13によって反応室10a内の温度を所定温度以下に調整することにより、HOとMgとが反応することを防止している。
【0047】
尚、還元装置1において還元されるマグネシウム化合物は、酸化マグネシウム(MgO)に限られず、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、塩化マグネシウム(MgCl)、臭化マグネシウム(MgBr)、炭酸マグネシウム(MgCO)、窒化マグネシウム(Mg)、硫化マグネシウム(MgS)、硫酸マグネシウム(MgSO)等であってもよい。
【0048】
また、還元装置1において還元されるマグネシウム化合物は、粉体、粒体、膜等の形態であってもよい。また、マグネシウム化合物は、マグネシウム化合物の還元効率を高める観点から粉体あるいは粒体であることが好ましい。マグネシウム化合物の粉体あるいは粒体の平均粒子径は、1nm~5mmであることが好ましく、5nm~500μmであることがより好ましく、10nm~100μmであることがより一層好ましい。尚、マグネシウム化合物の平均粒子径は、例えばレーザ回折/散乱法や光子相関法により測定された粒子径分布から求めることができる。
【0049】
また、還元性ガスは、水素(H)に限られず、還元性を有する気体であれば、一酸化炭素(CO)、メタン(CH)、硫化水素(HS)等であってもよい。
【0050】
また、不活性ガスは、アルゴン(Ar)に限られず、特にマグネシウム化合物や還元性ガスに対して反応性が低い気体であれば、ネオン(Ne)、ヘリウム(He)等の希ガスや窒素(N)等であってもよい。
【0051】
また、高電圧パルスの印加は、常温で行われてもよく、冷却して行われてもよい。また、高電圧パルスの印加は、大気条件下で行われてもよい。また、高電圧パルスの印加は、減圧下または真空条件下で行われてもよい。
【実施例0052】
本発明の実施例2に係るマグネシウム化合物の還元装置につき、図3を参照して説明する。尚、前記実施例1と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0053】
本実施例2において、図3に示されるように、還元装置1においては、高電圧パルスを利用して、低温焼成装置3(図1参照)で得られたMgOの非平衡プラズマ還元反応を行わせ(反応式2参照)、Mg/CO発電装置4の反応に利用されるMgを生成する。
【0054】
詳しくは、還元装置1に供給されたMgOに対して、反応室10a(図3参照)内において発生するストリーマ放電(図3の電極間におけるドットハッチング参照)により非平衡プラズマ化した不活性ガスとしてのArが衝突して、Mgが飛び出すことによりMgOが非平衡プラズマ化し、非平衡プラズマ還元反応によりMgが得られるものと推察される。尚、本実施例2においては、不活性ガスとしてArを用いることにより不活性ガスが非平衡プラズマ化した際の温度を40℃以下、好ましくは10℃~35℃の範囲に維持することができる。
【0055】
次いで、本実施例2における還元装置1について図3を用いて詳しく説明する。図3に示されるように、本実施例1の還元装置1は、反応室10aが形成されるケーシング10と、反応室10a内で非平衡プラズマを発生させるプラズマ発生手段としての高電圧パルス印加装置11と、反応室10aに還元性ガスとしてのHと不活性ガスとしてのArを共に供給可能な供給手段12と、温度調整手段13と、から主に構成されている。
【0056】
高電圧パルス印加装置11は、反応室10aの上下に配置される針状の電極11aと、平板状の電極11bと、を備えている。電極11aは、電極11b上に供給されたMgOから先端を離間させた状態で配置される。
【0057】
詳しくは、高電圧パルス印加装置11は、図示しない静電容量の大きなコンデンサに充電した電荷を電極11aから電極11bに向けて短時間で一気に放電することにより、ストリーマ放電を発生させる。尚、高電圧パルス印加装置11からの印加電圧は、1~80kVであることが好ましく、2~40kVであることがより好ましく、4~20kVであることがより一層好ましい。
【0058】
また、高電圧パルス印加装置11によるストリーマ放電は、断続的に複数回行ってもよく、放電回数、放電時間、周波数等の条件は、還元されるマグネシウム化合物の種類や平均粒子径等に応じて適宜調整されてよい。
【0059】
以上、説明したように、本実施例2の還元装置1に供給されたMgOを高電圧パルス印加装置11により発生させたストリーマ放電にさらすことにより、低温状態において非平衡プラズマ化したMgOが還元剤としてのHで還元され、Mgを得ることができる。このように、本発明のマグネシウム化合物の還元装置は、従来の熱還元法、電解法、熱平衡プラズマ還元反応による方法等に比べて、マグネシウム化合物の還元に必要なエネルギ量を小さくすることができ、二酸化炭素を排出することもないことから、環境負荷の小さいマグネシウム化合物の還元装置を提供することができる。
【0060】
また、高電圧パルス印加装置11は、ストリーマ放電を発生させることにより、広範囲でマグネシウム化合物を非平衡プラズマ化することができることから、還元効率を高めることができる。
【0061】
尚、高電圧パルス印加装置11は、誘電体バリア放電の電極形式により小さなストリーマ放電を多数発生させるものであってもよい。例えば、図4に示される還元装置1の変形例1のように、平板状の電極111a,111bの内、電極111bをガラス等の誘電体111cで被覆することにより、誘電体バリア放電を発生させてもよい。これにより、反応室10aのより広範囲を安定して非平衡プラズマ化させることができる。尚、電極111a,111bの両方を誘電体により被覆してもよい。
【0062】
また、図5に示される還元装置1の変形例2のように、棒状の電極211aを円筒状の電極211bの内側に配置し、電極211bの内周面をガラス等の誘電体211cで被覆することにより、誘電体バリア放電を発生させてもよい。これにより、反応室10aの上方に形成される投入口10fからMgOを連続投入することにより、MgOを非平衡プラズマ化させることができる。尚、電極211aの外周面と電極211bの内周面の両方を誘電体により被覆してもよい。
【0063】
また、供給手段12から供給口10dを通して供給室10cに供給された還元性ガスと不活性ガスは、略円錐形状の区画部材210bと電極211bに被覆される誘電体211cの内周面との間に形成される隙間Gを通って反応室10aに供給される。これにより、還元性ガスがプラズマ化することによる反応室10a内の温度上昇を抑えつつ、非平衡プラズマ化したMgOに還元性ガスを供給することができるため、還元効率を高めることができる。
【0064】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0065】
例えば、前記実施例では、マグネシウム化合物の還元装置は、炭素固定システムにおいて、マグネシウム化合物としてのMgOをMgに還元するために用いられるものとして説明したが、これに限らず、例えば電解装置において海水を電解して生成されたMg(OH)を還元装置でMgに還元してもよい。
【0066】
また、Mg/CO発電装置4において生成されるMgOとC(反応式5参照)は、高温の水蒸気(HO)と反応させることにより、Hの生成に利用されてもよい。
【0067】
また、マグネシウム化合物の還元装置は、炭素固定システムに適用されるものに限られない。
【0068】
また、還元剤は、ガス状のものに限らず、固体や液体であってもよい。
【0069】
また、供給手段は、還元剤のみを供給するものであってもよく、不活性ガスは別途供給されてもよい。
【0070】
また、前記実施例における変形例2に示されるように、プラズマ発生手段を囲うように還元性ガスを供給するものでなくてもよい。
【0071】
また、マグネシウム化合物の還元装置は、マグネシウム化合物を連続処理できるようになっていることが好ましく、例えば図6に示されるように、MgOを載せた前記実施例における平板状の電極11b,111bをベルトコンベア20により順次移動させ還元装置1で連続処理してもよい。この場合、電極11b,111bは、電極11a,111aに対向する位置で高電圧パルス印加装置11と電気的に接続されるようになっている。尚、ベルトコンベア20以外にもチェーンコンベアやスクリュコンベア等の搬送手段によりマグネシウム化合物を還元装置に供給して連続処理してもよい。また、スクリュコンベアの場合、反応室内に配置されるスクリュコンベアの回転軸または羽の少なくともいずれかがプラズマ発生手段の一方の電極を構成していればよい。
【0072】
また、還元装置に供給された粒状のマグネシウム化合物の下方から不活性ガスを上向きに噴出させることにより流動床を形成し、マグネシウム化合物と非平衡プラズマ還元反応により得られたMgを急速に混合して還元効率を高めるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 還元装置
2 電解装置
3 低温焼成装置
4 Mg/CO発電装置
10 ケーシング
10a 反応室
10b 区画部材
10c 供給室
10d 供給口
10e 排出口
10f 投入口
11 高電圧パルス印加装置(プラズマ発生手段)
11a,11b 電極
12 供給手段
13 温度調整手段
20 ベルトコンベア
100 炭素固定システム
111a,111b 電極
111c 誘電体
210b 区画部材
211a,211b 電極
211c 誘電体
G 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6