(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103710
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】ディスククランプおよびディスク装置
(51)【国際特許分類】
G11B 17/028 20060101AFI20230720BHJP
G11B 33/12 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
G11B17/028
G11B33/12 313U
G11B33/12 313C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004385
(22)【出願日】2022-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上原 学
【テーマコード(参考)】
5D138
【Fターム(参考)】
5D138RA01
5D138UA03
5D138UA25
(57)【要約】
【課題】回転体のアンバランスを容易に調整することができ、装置の歩留まりを向上することが可能なディスククランプおよびディスク装置を提供することにある。
【解決手段】実施形態によれば、ディスククランプは、中心軸線Cを有する円盤状の本体21と、本体の第1面S1に設けられアンバランス調整用のワイヤを装填可能な環状の装着溝40と、本体を貫通して形成され、中心軸線の回りで円周方向に等間隔離間して設けられ、それぞれ固定ねじSCを挿通可能な複数の透孔と、本体の第1面に形成され円周方向に等間隔離間して設けられ、それぞれバランス調整用の調整ねじSAを螺合可能な複数の雌ねじ孔44と、を備えている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸線を有する円盤状の本体と、
前記本体の第1面に設けられアンバランス調整用のワイヤを装填可能な環状の装着溝と、
前記本体を貫通して形成され、前記本体の中心軸線の回りで円周方向に等間隔離間して設けられ、それぞれ固定ねじを挿通可能な複数の透孔と、
前記本体の前記第1面に形成され前記円周方向に等間隔離間して設けられ、それぞれバランス調整用の調整ねじを螺合可能な複数の雌ねじ孔と、
を備えたディスククランプ。
【請求項2】
前記複数の雌ねじ孔は、前記円周方向に隣合う2つの前記透孔の間にそれぞれ設けられている請求項1に記載のディスククランプ。
【請求項3】
前記複数の透孔および前記複数の雌ねじ孔は、前記中心軸線を中心とする同一円の上に配置されている請求項2に記載のディスククランプ。
【請求項4】
前記複数の透孔の数は、前記複数の雌ねじ孔の数と一致している請求項3に記載のディスククランプ。
【請求項5】
前記調整ねじは前記本体の第1面に設置されるワッシャを介して前記雌ねじ孔に螺合可能であり、前記ワッシャは、前記本体の径方向に変位可能であり、任意の径方向位置に配置された状態で前記調整ねじにより前記本体に固定される、請求項1に記載のディスククランプ。
【請求項6】
前記雌ねじ孔は、前記本体の前記第1面に開口する有底の孔と、前記有底の孔の内周面に切られた雌ねじと、を有している、請求項1に記載のディスククランプ。
【請求項7】
前記雌ねじ孔は、前記本体を貫通して形成された透孔と、前記透孔の内周面に形成された雌ねじと、を有し、前記本体の第2面にシール材が貼付され、前記透孔の前記第2面の側の開口を塞いでいる、請求項1に記載のディスククランプ。
【請求項8】
3.5インチディスク装置規格で規定された高さを有する筐体と、
回転自在に支持されたスピンドルハブを有し、前記筐体の内に配置されたスピンドルモータと、
前記スピンドルハブに装着された10枚以上の磁気ディスクと、
前記スピンドルハブに固定され前記磁気ディスクをクランプする請求項1から7のいずれか1項に記載のディスククランプと、
を備えるディスク装置。
【請求項9】
厚さ0.635mm、直径3.5インチの10枚以上の磁気ディスクが前記スピンドルハブのフランジ上に積層され、前記スピンドルハブに支持されている請求項8に記載のディスク装置。
【請求項10】
前記筐体は、空気よりも密度の低い低密度ガスが封入されている請求項8に記載のディスク装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明の実施形態は、ディスクをクランプするディスククランプおよびこれを備えたディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスク装置として、例えば、ハードディスクドライブ(HDD)は、筐体内に回転自在に配設された複数枚の磁気ディスクと、磁気ディスクに対して情報のリード、ライトを行う複数の磁気ヘッドと、磁気ヘッドを磁気ディスクに対して移動可能に支持したヘッドアクチュエータと、を備えている。筐体の底壁上にスピンドルモータが設置されている。複数枚の磁気ディスクは、スピンドルモータのハブに装着され、更に、円盤状のクランプによりハブに固定されている。
通常、磁気ディスクおよび磁気ディスク間に挟まれるスペーサリングは、スピンドルモータのハブにスムーズな挿入ができるよう、それらの内径がハブの径よりもわずかに大きめに設計される。そのため、搭載された磁気ディスクやスペーサリングは、ハブとの間に半径方向に十数um程度のガタを有する。磁気ディスクやスペーサリングが、その重心がハブの回転中心に対して偏った位置に固定されると、回転体の重心ずれ(アンバランス)が発生する。
【0003】
回転体のアンバランスは、装置自体、および周囲の構造体に対する加振源となり、磁気ディスク装置の性能低下などの悪影響を及ぼすため、極力小さくすることが望ましい。アンバランスを補正する方法として、円弧状のワイヤをディスククランプの溝に設置し、一定量以下のアンバランスとなるよう調整する方法が知られている。アンバランスの修正量はワイヤの長さで調整することができる。また、ワイヤを太くし重量を増やすことで、ワイヤのバランス修正能力を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第5572382号明細書
【特許文献2】米国特許第6550328号明細書
【特許文献3】米国特許第5537272号明細書
【特許文献4】実開昭62-018851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、磁気ディスク装置に搭載する磁気ディスクやスペーサリングの枚数が増加するにつれ、個々の部品のアンバランスが積み重なり、ワイヤでは修正しきれないほどの大きなアンバランスを持つ装置が発生する場合がある。このような装置は分解、再組立して救済するしかなく、磁気ディスク装置製造効率を悪化させる要因の一つとなる。
また、バランス修正用のワイヤを太くした場合、ワイヤを挿入するためのクランプ溝も大きくしなければならず、クランプの板厚を増加する必要がある。クランプが厚くなると、定められた装置高さの中に多数枚の磁気ディスクおよびクランプを搭載する上での障壁となる。更に、太いワイヤは柔軟性が低下し、クランプ溝への取付が難しくなる等の課題が生じる。
この発明が解決しようとする課題は、回転体のアンバランスを容易に調整することができ、装置の歩留まりを向上することが可能なディスククランプおよびディスク装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態によれば、ディスククランプは、中心軸線を有する円盤状の本体と、前記本体の第1面に設けられアンバランス調整用のワイヤを装填可能な環状の装着溝と、前記本体を貫通して形成され、前記中心軸線の回りで円周方向に等間隔離間して設けられ、それぞれ固定ねじを挿通可能な複数の透孔と、前記本体の前記第1面に形成され前記円周方向に等間隔離間して設けられ、それぞれバランス調整用の調整ねじを螺合可能な複数の雌ねじ孔と、を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、トップカバーを分解して示す、第1実施形態に係るハードディスクドライブ(HDD)の分解斜視図。
【
図4】
図4は、スピンドルハブに取り付けられた状態のディスククランプの平面図。
【
図5】
図5は、
図4の線B-Bに沿った前記ディスククランプの断面図。
【
図6】
図6は、
図4の線A-Aに沿った前記ディスククランプの断面図。
【
図7】
図7は、変形例に係るディスククランプの断面図。
【
図8】
図8は、第1実施形態に係るHDDのクランプ取り付け工程を示すフローチャート。
【
図9】
図9は、第1実施形態に係るHDDのアンバランス調整例を模式的に示す図。
【
図10】
図10は、第2実施形態に係るハードディスクドライブ(HDD)におけるディスククランプの平面図。
【
図11】
図11は、スピンドルハブに取り付けられた状態のディスククランプの平面図。
【
図12】
図12は、ワッシャおよび調整ねじの取り付け前、および取り付け後を示すディスククランプの斜視図。
【
図13】
図13は、ワッシャおよび調整ねじを拡大して示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図面を参照しながら、実施形態に係るディスク装置ついて説明する。
なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更であって容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の大きさ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0009】
(第1実施形態)
ディスク装置として、第1実施形態に係るハードディスクドライブ(HDD)について詳細に説明する。
図1は、カバーを分解して示す第1実施形態に係るHDDの分解斜視図である。
図示のように、HDDは、ほぼ矩形状の筐体10を備えている。筐体10は、上面の開口した矩形箱状のベース12と、複数のねじ13によりベース12にねじ止めされベース12の上端開口を閉塞する内カバー14と、内カバー14に重ねて配置され、周縁部がベース12に溶接される外カバー(トップカバー)16と、を有している。ベース12は、内カバー14と隙間を置いて対向する矩形状の底壁12aと、底壁12aの周縁に沿って立設された側壁12bとを有し、例えば、アルミニウム合金により一体に成形されている。側壁12bは、互いに対向する一対の長辺壁と互いに対向する一対の短辺壁とを含んでいる。側壁12bの上端面に、ほぼ矩形枠状の固定リブ12cが突設されている。
【0010】
内カバー14は、例えば、ステンレスにより矩形板状に形成されている。内カバー14は、その周縁部がねじ13により側壁12bの上面にねじ止めされ、固定リブ12cの内側に固定される。外カバー16は、例えば、アルミニウムにより矩形板状に形成されている。外カバー16は、内カバー14よりも僅かに大きな平面寸法に形成されている。外カバー16は、その周縁部が全周に亘って、ベース12の固定リブ12cに溶接され、ベース12に気密に固定される。外カバー16を固定した後、筐体10の内に空気よりも密度の低いガス、例えば、ヘリウム(He)が封入される。
【0011】
筐体10内には、ディスク状の記録媒体として複数枚、例えば、10枚の磁気ディスク18、および磁気ディスク18を支持および回転させる駆動モータとしてのスピンドルモータ19が設けられている。スピンドルモータ19は、底壁12a上に配設されている。各磁気ディスク18は、例えば、直径96mm(3.5インチ)、厚さ0.5~0.635mmの円板状に形成され、非磁性体、例えば、ガラスあるいはアルミニウムからなる基板と、基板の上面(第1面)および下面(第2面)に形成された磁気記録層とを有している。各磁気ディスク18は、スピンドルモータ19の後述するスピンドルハブに互いに同軸的に嵌合され、更に、ディスククランプ(以下、クランプと称する)20によりクランプされている。これにより、磁気ディスク18は、ベース12の底壁12aと平行に位置した状態に支持されている。複数枚の磁気ディスク18は、スピンドルモータ19により所定の回転数で回転される。なお、磁気ディスク18の搭載枚数は、10枚に限らず、9枚以下、あるいは、11枚以上としてもよい。
【0012】
筐体10内には、磁気ディスク18に対して情報の記録、再生を行なう複数の磁気ヘッド17、および、これらの磁気ヘッド17を磁気ディスク18に対して移動自在に支持したアクチュエータアッセンブリ27が設けられている。また、筐体10内には、アクチュエータアッセンブリ27を回動および位置決めするボイスコイルモータ(VCM)24、磁気ヘッド17が磁気ディスク18の最外周に移動した際、磁気ヘッド17を磁気ディスク18から離間したアンロード位置に保持するランプロード機構25、スポイラ70、変換コネクタ等の電子部品が実装された基板ユニット(FPCユニット)21が設けられている。ランプロード機構25は、底壁12aに立設されたランプ80を有している。
【0013】
アクチュエータアッセンブリ27は、透孔を有するアクチュエータブロック29と、透孔内に設けられた軸受ユニット(ユニット軸受)28と、アクチュエータブロック29から延出する複数、例えば、11本のアーム32と、各アーム32に取付けられたサスペンションアッセンブリ(ヘッドジンバルアッセンブリ:HGAと称する場合もある)30と、サスペンションアッセンブリ30に支持された磁気ヘッド17と、を備えている。アクチュエータブロック29は、軸受ユニット28により、底壁12aに立設された支持シャフト26の回りで回動自在に支持されている。
【0014】
FPCユニット34は、L字形状に折り曲げられたほぼ矩形状のベース部34a、ベース部34aの一側縁から延出した細長い帯状の中継部34bと、中継部34bの先端に連続して設けられた接合部21cと、を一体に有している。ベース部34a、中継部34b、および接合部21cは、フレキシブルプリント配線基板(FPC)により形成されている。
ベース部34a上に、図示しない変換コネクタ、複数のコンデンサ等の電子部品が実装され、FPCの配線に電気的に接続されている。ベース部34aは、ベース12の底壁12a上に設置されている。中継部34bは、ベース部34aの側縁からアクチュエータアッセンブリ27のアクチュエータブロック29に向かって延びている。中継部34bの延出端に設けられた接合部21cは、アクチュエータブロック29の側面(設置面)に貼付およびねじ止め固定されている。接合部21cに多数の接続パッドが設けられている。アクチュエータアッセンブリ27の各磁気ヘッド17は、配線部材を介して接合部21cの接続パッドに電気的に接続されている。
ベース12の底壁12aの外面には、プリント回路基板41がねじ止めされている。プリント回路基板41は制御部を構成し、この制御部は、スピンドルモータ19の動作を制御するとともに、基板ユニット34を介してVCM24および磁気ヘッド17の動作を制御する。
【0015】
図2は、
図1の線E-Eに沿ったHDDのスピンドルモータ部分の断面図である。
図示のように、一例では、スピンドルモータ19は、底壁12aにほぼ垂直に立設された枢軸48と、枢軸48の回りで回転自在に支持されたほぼ円筒状のスピンドルハブ64と、底壁12aに固定され枢軸48の周囲に配置された固定子コイルCSと、更に、スピンドルハブ64の内周面に取付けられ固定子コイルCSに対向した円筒状のマグネットMと、を有している。
枢軸48の基端部は、底壁12aに形成された透孔67に圧入、嵌合されている。
スピンドルハブ64は、枢軸48と同軸的に位置する外周面と、外周面の下端(底壁12a側の端)に一体に形成された環状のフランジ65とを有している。フランジ65は、磁気ディスク18が載置される環状のディスク搭載面72を有している。スピンドルハブ64の下端およびフランジ65は、例えば、0.4mm程度の隙間を置いて底壁12aの内面に対向している。
【0016】
スピンドルモータ19に通電するためのフレキシブルプリント配線基板(FPC)60が底壁12aの外面に貼付され固定されている。底壁12aの外面において、枢軸48の周囲に、所定形状の凹所50が形成されている。凹所50と底壁12aの外面との境界に段差部54が形成されている。FPC60は、プリント回路基板41に接続された一端部と凹所50内に配置された他端部60bと、他端部60bに設けられた複数の接続パッド62bと、を有している。接続パッド62bはFPC60の配線に電気的に接続されている。接続パッド62bには、スピンドルモータ19のコイルCSから引き出されたリードワイヤLがハンダSで接合されている。凹所50に接着剤ADが充填され、接続パッド62bおよびハンダ接合部を覆っている。
【0017】
磁気ディスク18は、その内孔にスピンドルハブ64が挿通された状態で、スピンドルハブ64の外周面に係合している。また、スピンドルハブ64の外周面に環状のスペーサリング66が装着され、隣合う2枚の磁気ディスク18間に挟まれている。複数の磁気ディスク18および複数のスペーサリング66は、スピンドルハブ64のフランジ65上に順に配置され、交互に重なった状態でスピンドルハブ64に取付けられている。スピンドルハブ64の上端に取付けられたクランプ20により、複数の磁気ディスク18の内周部およびスペーサリング66はフランジ65側に押圧されている。これにより、10枚の磁気ディスク18は、互いに所定の間隔を置いて積層状態でスピンドルハブ64に固定され、スピンドルハブ64と一体に回転可能に支持されている。10枚の磁気ディスク18は、所定の間隔を置いて、互いに平行に、また、底壁12aとほぼ平行に支持されている。
【0018】
トップカバー16を含む筐体10の高さ(厚さ)Hは、3.5インチHDD規格に従い、一例では、最大26.1mmに形成されている。各磁気ディスク18の板厚Tは、0.35~0.635mmに形成され、本実施形態では、0.635mmとしている。隣合う2枚の磁気ディスク18間の間隔d(スペーサリングの厚さに相当)は、1.2mm以上、1.65mm以下に形成され、本実施形態では、1.484mmとしている。磁気ディスク全体のスタック高さh(最下部の磁気ディスクの下面から最上部の磁気ディスクの上面までの高さ)は、本実施形態では、18.356mmとしている。
【0019】
以下、クランプ20について詳細に説明する。
図3は、クランプの平面図、
図4は、スピンドルハブに取り付けられた状態のクランプの平面図、
図5は、
図4の線B-Bに沿ったクランプの断面図、
図6は、
図4の線A-Aに沿ったクランプの断面図である。
図3に示すように、クランプ20は、中心(中心軸線)Cを有する円盤状の本体21を備えている。本体21は、中心軸線Cと同芯の内孔21aを有し、円環状を成している。本体21は、例えば、アルミニウムで形成されている。
図2に示したように、本体21は、トップカバー16の側に位置するほぼ平坦な第1面S1と磁気ディスク18の側に位置する第2面S2とを有している。本体21の内周側部分は、外周部分よりも厚い板厚に形成され、円環状の固定部22Aを構成している。本体21の外周側部分は、固定部22Aよりも板厚の薄い環状の押圧部22Bを構成している。第2面S2において、押圧部22Bの第2面は、磁気ディスク18の側に僅かに突出する円弧状に形成され、磁気ディスク18に当接する当接面22Cを構成している。
本体21の外径(押圧部22Bの外径)は、スピンドルハブ64の外径(磁気ディスク18の内径)よりも大きな径に形成され、押圧部22Bの内径、すなわち、固定部22Aの外径は、スピンドルハブ64の外径よりも小さく設定されている。クランプ20の固定部22Aをスピンドルハブ64に固定した状態において、押圧部22Bの当接面22Cが磁気ディスク18の内周側上面に当接し、押圧する。
【0020】
図3および
図4に示すように、クランプ20は、本体21に形成されアンバランス調整用のワイヤを装着可能な環状の装着溝40と、クランプ20を固定するための固定ねじが挿通される複数、例えば、6個の透孔(ざぐり孔)42と、バランス調整用の調整ねじを螺合可能な複数、例えば、6個の雌ねじ孔44と、を有している。
装着溝40は、中心軸線Cと同芯の円環状であり、本体21の第1面S1で押圧部22Bに形成され、本体21の外周縁に隣接して位置している。装着溝40の直径は、例えば、約31mm程度に形成されている。
【0021】
6個の透孔42は、本体21の固定部22Aを貫通して形成され、それぞれ中心軸線Cと平行に延びている。6個の透孔42は、それぞれ孔の中心が半径rの円と重なる位置に設けられ、更に、円周方向に互いに等間隔離間して配置されている。透孔42にはねじが切られていない。本実施形態では、半径r=10mmとしている。
6個の雌ねじ孔44は、固定部22Aに形成され、それぞれ孔の中心が半径rの円と重なる位置に設けられている。6個の雌ねじ孔44は、円周方向に互いに等間隔離間して配置され、それぞれ円周方向に隣合う2つの透孔42の中間に位置している。雌ねじ孔44は、有底の孔であり、一端が本体21の第1面S1に開口し、他端が閉じられている。各雌ねじ孔44の内周面に雌ねじが切られている。雌ねじ孔44は、例えば、M3程度のねじ孔としている。
【0022】
図2および
図4に示すように、クランプ20は、スピンドルハブ64の上端に重ねて、かつ、スピンドルハブ64と同軸に配置され、6本の固定ねじSCによりスピンドルハブ64にねじ止め固定される。クランプ20の固定部22Aは、スピンドルハブ64に設けられた凹所に嵌合している。
図5に示すように、固定ねじSCは、第1面S1の側から透孔42に挿通され、更に、スピンドルハブ64のねじ孔74にねじ込まれる。これにより、クランプ20の固定部22Aはスピンドルハブ64に固定され、また、押圧部22Bの当接面22Cは最上部の磁気ディスク18の内周部に当接し、磁気ディスク18およびスペーサリング66をクランプしている。
【0023】
磁気ディスク18、スペーサリング66などの回転体のアンバランスを調整する場合、クランプ20の装着溝40に調整用のワイヤWが装着される。ワイヤWは、例えば、材質がステンレス、SUS304で、直径0.65mmのものを用いることができる。ワイヤWは、装着溝40に設置され、ワイヤ自身が外側に広がろうとする復元力によって本体21に固定される。アンバランスの修正量はワイヤWの長さで調整することができる。
ワイヤWは、長さを調整することで、最大1.1gmm程度のアンバランスを発生させることができる。上述したように、厚さ0.635mm、直径96mmの磁気ディスク18を10枚積層配置したHDDにおいては、回転体のアンバランスが1.1gmmを超えてしまうことがあり、この場合は、ワイヤWではアンバランスを修正しきれないものが発生する。全てのHDDでアンバランス修正を可能にするには、1.8gmm程度のアンバランス修正能力が求められる。
【0024】
そこで、回転体のアンバランスが1.1gmmを超える場合は、
図4および
図6に示すように、クランプ20の雌ねじ孔44にアンバランス調整用の調整ねじSAが螺合される。ねじSAは、例えば、真鍮で形成した場合、重量が約0.1gとなる。このねじSAを半径r=10mmの位置に設けられた雌ねじ孔44に装着した場合、調整ねじSAによって発生するアンバランスは0.1×10=1gmmとなる。ワイヤWと調整ねじSAとを併せて、2.1gmm程度のアンバランス修正が可能となる。本実施形態では、調整用のねじSAとして、ヘッドを持たない、いわゆる、いもねじを用いている。
なお、調整用のねじSAは、クランプ20の固定部22Aのみにねじ込まれ、モータのスピンドルハブ64には到達していない。そのため、ねじSAは、クランプ20のクランプ力に影響を与えない。また、雌ねじ孔42は、有底の孔(非貫通孔)であるため、ねじ装着時の摩耗粉がねじ孔外部に飛散するのを防ぐことができる。
【0025】
ねじ長を確保するために非貫通孔にすることが困難な場合は、例えば、
図7に示すように、雌ねじ孔44は貫通孔としても良い。すなわち、雌ねじ孔44を、本体21を貫通して形成された貫通孔と貫通孔の内周面に切られた雌ねじとで構成し、クランプ20の第2面S2に貼付したシール材45により雌ねじ孔44の下端開口を封止する構成としてもよい。
【0026】
次に、アンバランス修正方法の一例を説明する。
図8は、アンバランス修正方法の一例を示すフローチャートである。
図示のように、始めに、スピンドルモータ19のスピンドルハブ64に磁気ディスク18およびスペーサリング66を装着し、フランジ65の上に積層した後、スピンドルハブ64の上端にクランプ20を積層し、6本の固定ねじSCによりクランプ20をスピンドルハブ64に締結する(ST1)。
次いで、初期状態のアンバランス測定を行う(ST2)。アンバランスの測定方法について詳細は省略するが、モータの回転によって筐体に生じる加速度の回転同期成分を計測し、加速度の最大値と、最大値をとる位相とから、回転体のアンバランスの方向と大きさを求めることが可能である。
測定したアンバランス初期値が1.1gmm以上であるか判定する(ST3)。1.1gmm以下である場合は、ワイヤWの追加のみでアンバランス修正が可能である。そのため、クランプ20の装着溝40に、適切な長さのワイヤWを適切な方向に装着して修正を終了する(ST6)。
【0027】
アンバランス初期値が1.1gmmを上回る場合、中心軸線Cに対してアンバランス方向+180°に最も近い雌ねじ孔44にアンバランス調整用の調整ねじSAをねじ込む(ST4)。
調整ねじ44の装着位置がアンバランス方向+180°と完全に一致する場合、調整ねじSAによるアンバランス修正効果が最大限発揮されるが、調整ねじ装着位置、すなわち、雌ねじ孔44は、6か所のみであるため、理想の方向に対して最大で30°のずれが発生する可能性がある。
図9は、初期アンバランス、調整ねじによるアンバランス、ワイヤによるアンバランスのつり合い状態を示す模式図である。
図9(a)に示すように、中心軸線Cを通り初期アンバランス方向と同一直線上に調整ねじ44が配置される場合、調整ねじ44によるアンバランス修正効果が最大となり、ワイヤによる修正能力1.1gmmと合わせて2.1gmmの初期アンバランスが修正可能となる。また、
図9(b)に示すように、初期アンバランス方向の直線上からずれた位置に調整ねじ44が配置される場合であっても、最大で1.84gmmまでの初期アンバランスが修正可能であり、ワイヤW単体でアンバランス修正を行う場合と比較して、修正能力を大幅に向上させることができる。
【0028】
図8に示すように、調整ねじ44だけでアンバランス修正が不十分な場合は、クランプ20の装着溝40に、適切な長さのワイヤWを適切な方向に装着して修正を終了する(ST5)。
【0029】
以上のように構成された第1実施形態に係るHDDおよびディスククランプによれば、クランプにクランプ固定用の固定ねじとは異なる調整ねじを装着可能なねじ孔を設け、調整ねじとワイヤとを併用することで、回転体のアンバランス修正可能な範囲を拡大することができる。ねじ孔はクランプ自身に形成されているため、ねじ孔に装着された調整ねじは磁気ディスクの締結力に影響を与えることがない。そのため、調整ねじを装着した場合でも、クランプにより磁気ディスクを均一にクランプすることができる。同時に、修正用のワイヤおよびこのワイヤを装着する装着溝の径を大きくする必要がなく、クランプの板厚を増加することなくアンバランス修正範囲の拡大を図ることができる。更に、アンバランス修正可能範囲が広がることにより、従来技術では装置を分解、再組立てしなければならないようなアンバランス大の装置もバランス調整可能となるため、装置の製造歩留まりを向上させることができる。
以上のことから、第1実施形態によれば、回転体のアンバランスを容易に調整することができ、装置の歩留まりを向上することが可能なディスククランプおよびディスク装置が得られる。
【0030】
なお、第1実施形態において、クランプ20の透孔42および雌ねじ孔44は、6個に限らず、必要に応じて、増減可能である。また、透孔42の数と雌ねじ孔44の数とは同一に限定されず、一方の孔を他方の孔よりも多く、あるいは、少なくすることも可能である。調整ねじ44は、いもねじに限らず、他のタイプのねじを用いてもよい。調整ねじ44の形成材料は真鍮に限らず、他の材料、例えば、ステンレスでもよい。
【0031】
次に、この発明の他の実施形態に係るHDDのクランプについて説明する。以下に述べる他の実施形態において、前述した第1実施形態と同一の部分には、同一の参照符号を付してその詳細な説明を省略あるいは簡略化し、第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
(第2実施形態)
図10は、第2実施形態に係るHDDにおけるディスククランプの平面図、
図11は、スピンドルハブに取り付けられた状態のディスククランプの平面図、
図12は、ワッシャおよび調整ねじの取り付け前、および取り付け後を示すディスククランプの斜視図、
図13は、ワッシャおよび調整ねじを拡大して示す平面図である。
図10および
図11に示すように、第2実施形態によれば、クランプ20は、それぞれ固定ねじSCが挿通される6個の透孔42と、それぞれ2つの透孔42の間に形成され調整ねじSAを螺合可能な6個の雌ねじ孔47と、を有し、更に、各雌ねじ孔47を含む領域にそれぞれ形成された6つの長円形の凹所(ざぐり部)46を有している。透孔42およびねじ孔47は、半径rの円上に中心が位置するように設けられ、更に、円周方向に互いに等間隔離間して位置している。凹所46は、クランプ20の第1面S1に形成され、中心軸線Cに対して、径方向に延在している。
クランプ20は、凹所46に装填可能な長円形状のワッシャSWを含んでいる。ワッシャSWは、例えば、ステンレス材で形成され、長円形の内孔を有している。
なお、板厚の薄いワッシャSWを用いる場合は、クランプ本体の凹所46を省略してもよい。
【0032】
図12(a)、(b)に示すように、ワッシャSWを凹所46内に装着した状態で、調整ねじSAをワッシャSWの内孔を通して雌ねじ孔47にねじ込むことにより、調整ねじSAとクランプ20との間にワッシャSWを挟み、固定する。なお、第2実施形態において、調整ねじSAは、ヘッドを有する通常のねじを用いている。よって、ワッシャSWは、調整ねじSAのヘッドとクランプ20との間に挟持される。
調整ねじSAに加えてワッシャSWを取り付けることにより、アンバランス修正範囲をより一層拡大することができる。
【0033】
ワッシャSWおよびその内孔は長円形であり、凹所46内において、ワッシャSWをクランプ20の径方向に移動、位置調整することができる。ワッシャSWの半径位置を調整することで、ワッシャSWによるアンバランス修正量(調整量)を微調整することが可能となる。
図13(a)に示すように、ワッシャSWが径方向の外側に位置する程、アンバランス調整量が大きくなり、
図13(b)に示すように、ワッシャSWが径方向の内側に位置する程、アンバランス調整量が小さくなる。
【0034】
第2実施形態において、HDDの他の構成は、前述した第1実施形態に係るHDDと同一である。
上記のように構成された第2実施形態に係るHDDによれば、調整ねじSAおよびワッシャSWをクランプ20に取り付け可能とすることにより、回転体のアンバランス修正可能な範囲を一層拡大することができ、一層大きなアンバランスを修正可能となる。これにより、回転体のアンバランスを容易に調整することができ、装置の歩留まりを向上することが可能なディスククランプおよびディスク装置が得られる。
【0035】
本発明は上述した実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
上述した実施形態において、クランプの形成材料はアルミニウムに限らず、例えばステンレスでもよい。磁気ディスクの設置枚数は、10枚に限らず、9枚以下、あるいは11枚以上としてもよい。磁気ディスクの厚さは、0.635mmあるいは0.5mmに限らず、必要に応じて、種々変更可能である。同様に、磁気ディスクの直径は、96mmに限らず、例えば、95mmあるいは97mmとしてもよい。磁気ディスクの基板の形成材料は、アルミニウムに限らず、ガラス等でもよい。スペーサリングの形成材料は、アルミニウムに限らず、例えば、チタン、ステンレス、ガラス等でもよい。更に、調整ねじの形成材料は、真鍮に限らず、例えば、ステンレスでもよい。
【符号の説明】
【0036】
10…筺体、12…ベース、12a…底壁、17…磁気ヘッド、18…磁気ディスク、
19…スピンドルモータ、20…ディスククランプ、21…本体、
22A…固定部、22B…押圧部、27…アクチュエータアッセンブリ、
40…装着溝、42…透孔、44…雌ねじ孔、46…凹所、64…スピンドルハブ、
S1…第1面、SC…固定ねじ、SA…調整ねじ、SW…ワッシャ、W…ワイヤ