(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103742
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】マイクロバイオームを予測するためのシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20230720BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20230720BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20230720BHJP
C12R 1/01 20060101ALN20230720BHJP
【FI】
A61B5/00 G
C12Q1/06
C12N1/20 Z
C12R1:01
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004440
(22)【出願日】2022-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】514060204
【氏名又は名称】チトセ バイオ エボリューション ピーティーイー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】藤田 朋宏
(72)【発明者】
【氏名】大仲 惇司
(72)【発明者】
【氏名】稲森 貴一
(72)【発明者】
【氏名】川原田 雄希
(72)【発明者】
【氏名】原田 大士朗
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C117
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA05
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ03
4B063QQ06
4B063QQ42
4B063QR32
4B063QR39
4B063QR72
4B063QR75
4B063QS36
4B063QS39
4B063QX02
4B063QX10
4B065AA06X
4B065CA46
4C117XB01
4C117XB09
4C117XC13
4C117XD27
4C117XE13
4C117XE15
(57)【要約】 (修正有)
【課題】簡便なシステムにより,対象者の腸内放線菌門割合を予測する。
【解決手段】対象者の血圧及び脈拍情報を受け取る血圧脈拍情報受信手段3と,前記血圧脈拍情報に基づいて,前記対象者の腸内マイクロバイオーム中の放線菌門の割合を予測するための腸内放線菌門割合予測手段5と,を有する,腸内放線菌門割合を予測するためのシステム1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の血圧及び脈拍情報を受け取る血圧脈拍情報受信手段と,
前記血圧及び脈拍情報に基づいて,前記対象者の腸内マイクロバイオーム中の放線菌門の割合を予測するための腸内放線菌門割合予測手段と,を有する,
放線菌門割合を予測するためのシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のシステムであって,
前記腸内放線菌門割合予測手段は,複数の被験者の血圧及び脈拍情報と腸内放線菌門の割合を用いて,血圧及び脈拍情報と腸内放線菌門の割合との関係を機械学習し,血圧及び脈拍情報と腸内放線菌門の割合の関係情報を得た機械学習手段を有し,
前記腸内放線菌門割合予測手段は,前記対象者の前記血圧及び脈拍情報を用いて,前記機械学習手段により,前記対象者の腸内放線菌門の割合を予測する,
システム。
【請求項3】
請求項1に記載のシステムであって,
前記対象者の血圧及び脈拍情報は,前記対象者が着用したウェアラブルデバイスに設置されたセンサまたは血圧・脈拍計により得られた情報である,システム。
【請求項4】
コンピュータを,
対象者の血圧及び脈拍情報を受け取る血圧脈拍情報受信手段と,
前記血圧及び脈拍情報に基づいて,前記対象者の腸内マイクロバイオーム中の放線菌門の割合を予測するための腸内放線菌門割合予測手段と,を有する,
腸内放線菌門割合を予測するためのシステムとして機能させるためのプログラム。
【請求項5】
請求項4に記載のプログラムを含む,コンピュータが読み取り可能な情報記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,対象者の腸内の放線菌門の割合を予測するためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許第6637885号公報には,マイクロバイオームの特性解明,モニタリング,および処置のための方法およびシステムが記載されている。このシステムは,対象者の有する微生物のゲノムシークエンシングを行い,16Sまたは23Sリボソームサブユニットの核酸配列を得て,基準核酸配列と比較し,微生物を株レベルまたは亜株レベルで同定するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のシステムは,マイクロバイオームの特性を解明するために,対象者から微生物を採取し,採取した微生物の遺伝子解析を行う必要がある。遺伝子の解析には時間・費用とも大きくかかるため,簡便なシステムにより,対象者のマイクロバイオーム(例えば,対象者の腸内マイクロバイオーム中の放線菌門の割合)を予測するためのシステムが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は,対象者の血圧及び脈拍情報を用いることで,対象者の腸内マイクロバイオーム中の放線菌門の割合を予測することができるという実施例による知見に基づく。
第1の発明は,腸内の放線菌門割合を予測するためのシステムに関する。
このシステム1は,血圧脈拍情報受信手段3と,腸内放線菌門割合予測手段5とを有する。
血圧脈拍情報受信手段3は,対象者の血圧及び脈拍情報を受け取るための手段である。
腸内放線菌門割合予測手段5は,対象者の血圧及び脈拍情報に基づいて,対象者の腸内マイクロバイオーム中の放線菌門割合を予測するための手段である。
【0006】
対象者の血圧及び脈拍情報は,例えば,対象者が着用したウェアラブルデバイスに設置されたセンサにより得られてもよいし,血圧・脈拍計により得られた情報であってもよい。
【0007】
上記のシステム1の好ましい例は,機械学習手段7をさらに有する。腸内放線菌門割合予測手段5が,機械学習手段7を有してもよい。
機械学習手段7は,複数の被験者の血圧脈拍情報と腸内放線菌門割合情報を用いて,血圧脈拍情報と腸内放線菌門割合との関係を機械学習し,血圧脈拍情報と腸内放線菌門割合の関係情報を得るための手段である。
この場合,腸内放線菌門割合予測手段5は,対象者の血圧及び脈拍情報を用いて,機械学習手段7により,対象者の腸内放線菌門割合を予測する。
【0008】
第2の発明は,コンピュータを上記のシステムとして機能させるためのプログラムや,そのプログラムを含む,コンピュータが読み取り可能な情報記録媒体に関する。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば,対象者の血圧及び脈拍情報に基づいて,対象者の腸内マイクロバイオーム中の放線菌門に属する菌の割合を簡便に予測できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は,腸内マイクロバイオーム中の放線菌門に属する菌の割合を予測するためのシステムのブロック図である。
【
図2】
図2は,コンピュータの基本構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は,腸内放線菌門割合予測手段による対象者の腸内マイクロバイオーム中の放線菌門に属する菌の割合の予測例の結果を示す図である。
【
図4】
図4は,腸内放線菌門割合予測手段による対象者の腸内マイクロバイオーム中の放線菌門に属する菌の割合の予測値と実測値を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0012】
図1は,腸内マイクロバイオーム中の放線菌門に属する菌の割合を予測するためのシステムのブロック図である。
図1に示される通り,このシステム1は,血圧脈拍受信手段3と,腸内放線菌門割合予測手段5とを有する。このシステム1の好ましい例は,機械学習手段7をさらに有する。各手段は,要素や部のようによみかえてもよい。また,コンピュータは,各種手段に関する工程を行う。
【0013】
一般の健康な個体の身体には種々の身体部位にわたって数兆個の微生物が生息しており,マイクロバイオームとよばれる。マイクロバイオーム部位の幾つかの例には,皮膚,腸,胃,消化管,口腔,結膜,および膣が含まれる。これらのマイクロバイオームの役割ならびにそれらがどのようにして生理および疾患に影響を及ぼすかをより良く理解するために,どのような微生物がマイクロバイオームを構成しているか,それらがどのように相互作用し,あるいは個体の健康状態および臨床応答に影響を及ぼすかを分析することができる。対象者の腸内マイクロバイオーム中の放線菌門の割合とは,対象者の腸内に存在する微生物のうち放線菌門に属する菌の割合(数値割合)をいう。もっとも,同様のコンセプトで,対象者の腸内に存在する微生物のうち放線菌門に属する菌の体積割合や重量割合も求めることができる。
放線菌門は多くの場合,マイクロバイオームに含まれる菌であり, 生理および疾患と相関することが知られている。「腸内放線菌門割合を予測する」とは,対象者の腸内において放線菌門に属する菌がどのような割合で生息しているかを予測することを意味する。
このシステムは,コンピュータにより自動的に処理がなされるシステムであることが望ましい。
【0014】
図2は,コンピュータの基本構成を示すブロック図である。この図に示されるように,コンピュータは,入力部11,出力部13,制御部15,演算部17及び記憶部19を有しており,各要素は,バス21などによって接続され,情報の授受を行うことができるようにされている。例えば,記憶部には,制御プログラムが記憶されていてもよいし,各種情報が記憶されていてもよい。入力部から所定の情報が入力された場合,制御部は,記憶部に記憶される制御プログラムを読み出す。そして,制御部は,適宜記憶部に記憶された情報を読み出し,演算部へ伝える。また,制御部は,適宜入力された情報を演算部へ伝える。演算部は,受け取った各種情報を用いて演算処理を行い,記憶部に記憶する。制御部は,記憶部に記憶された演算結果を読み出して,出力部から出力する。このようにして,各種処理が実行される。この各種処理を実行するものが,各手段である。
【0015】
血圧脈拍情報受信手段3は,対象者の血圧及び脈拍情報を受け取るための手段である。血圧及び脈拍情報は,血圧に関する情報(データ)と,脈拍に関する情報(データ)とを含む。コンピュータの入力部11が,血圧脈拍情報受信手段3として機能する。コンピュータは,血圧及び脈拍情報の授受を行うことができるように接続されており,対象者の血圧及び脈拍情報がシステムに入力されるようにすればよい。対象者の血圧及び脈拍情報は,例えば,対象者が着用したウェアラブルデバイスにより得られた情報である。ウェアラブルデバイスの例は,腕時計型のセンサ,及び心拍計である。対象者の血圧脈拍情報は対象者と非接触なセンサによりシステムに入力されてもよい。また,キーボードやマウスなどの入力装置から,対象者の血圧及び脈拍情報がシステムに入力されてもよい。また,記憶装置や記憶部から,対象者の血圧及び脈拍情報がシステムに入力されてもよい。システムに入力された血圧及び脈拍情報は,適宜記憶部に記憶され,後の演算に用いることができるようにされてもよい。血圧脈拍情報受信手段3は,各種血圧及び脈拍情報を連続的に受信するものであってもよい。脈拍は,安静時のものであってもよいし,睡眠時や運動時といった特殊な時間におけるものであってもよい。なお,対象者の血圧情報又は対象者の脈拍情報を用いて,対象者の腸内マイクロバイオーム中の放線菌門に属する菌の割合を求めるものは,この明細書に記載された上記とは別の発明である。この場合も,上記と同様にして当該割合を求めることができる。
【0016】
腸内放線菌門割合予測手段5は,対象者の血圧及び脈拍情報に基づいて,対象者の腸内マイクロバイオーム中の放線菌門に属する菌の割合を予測するための手段である。例えば,コンピュータの制御部15,演算部17及び記憶部19が腸内放線菌門割合予測手段5として機能する。
【0017】
図3は,腸内放線菌門割合予測手段による対象者の腸内放線菌門割合の予測例を示す概念図である。システムには,対象者の血圧及び脈拍情報が記憶されている。血圧脈拍は,日常生活において変動する。そして,血圧脈拍の変動のパターンは,腸内放線菌門割合のパターンと相関がある。
図3(a)は,血圧脈拍情報受信手段3が受信した対象者の血圧及び脈拍の一日の変動パターンである。一方,記憶部には,血圧及び脈拍の参照パターンと,それぞれの参照パターンに対応した腸内放線菌門割合情報が記憶されている。腸内放線菌門割合予測手段は,対象者の血圧脈拍情報の変動パターンを用いて,記憶部に記憶された参照パターンとパターンマッチングを行う。そして,この手段は,パターンマッチングの結果,マッチングした参照パターンに対応した腸内放線菌門割合情報を得る。このようにして,システム1は,対象者の腸内マイクロバイオーム中の放線菌門に属する菌の割合を予測できる。
【0018】
上記のシステム1の好ましい例は,機械学習手段7をさらに有する。
機械学習手段7は,複数の被験者の血圧及び脈拍情報と腸内放線菌門割合を用いて,血圧及び脈拍情報と腸内放線菌門割合との関係を機械学習し,血圧脈拍情報と腸内放線菌門割合の関係情報を得るための手段である。例えば,このシステム1には,複数の被験者の血圧及び心拍情報と,その腸内放線菌門割合に関する情報を記憶部に記憶させる。そして,対象者の血圧及び心拍情報が入力された場合,機械学習を用いて,対象者の血圧及び心拍情報に対応した腸内放線菌門割合を予測する。つまり,この場合,腸内放線菌門割合予測手段5は,対象者の血圧及び脈拍情報を用いて,対象者の腸内放線菌門割合を予測する。
【0019】
第2の発明は,コンピュータを上記のシステムとして機能させるためのプログラムや,そのプログラムを含む,コンピュータが読み取り可能な情報記録媒体に関する。
【実施例0020】
最高血圧、最低血圧、脈拍、糞便を収集する。糞便から核酸を抽出し、ショートリードメタゲノムシーケンシングを行った。メタゲノムデータを細菌ゲノムデータベースにマッピングし、マッピングされたリード数に基づき、腸内マイクロバイオームを構成する細菌の組成比のデータを得る。
【0021】
目的変数を腸内マイクロバイオームを構成する細菌のうち放線菌門に属する細菌の占める割合を標準化した値、説明変数を最高血圧、最低血圧、脈拍として勾配ブースティングによる回帰モデルを作成する。
【0022】
作成した回帰モデルを用いて予測を行い、精度評価指標としてRMSE値を得る。
図4は,腸内放線菌門割合予測手段による対象者の腸内マイクロバイオーム中の放線菌門に属する菌の割合の予測値と実測値を示す概念図である。横軸はサンプル番号を示す。縦軸は腸内の放線菌門に属する細菌の割合を標準化した値を示す。
【0023】
このことから最高血圧、最低血圧及び脈拍から腸内細菌の放線菌門に属する細菌の割合が、RMSE値の精度で予測できる。
【0024】
一般に機械学習による予測精度は、データ数を増やすことにより向上が期待できるため、データ数を増やすことで予測精度の向上が期待できる。