(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103743
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】極低温タンクとその製造方法
(51)【国際特許分類】
F17C 1/00 20060101AFI20230720BHJP
B64G 1/40 20060101ALI20230720BHJP
F17C 1/06 20060101ALI20230720BHJP
F17C 1/16 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
F17C1/00 B
B64G1/40 200
F17C1/06
F17C1/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004441
(22)【出願日】2022-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】重成 有
(72)【発明者】
【氏名】藤村 昌信
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕之
(72)【発明者】
【氏名】角 達也
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA03
3E172AA06
3E172AB12
3E172BA01
3E172BB03
3E172BB12
3E172BC01
3E172BC04
3E172BC05
3E172BD10
3E172CA14
3E172DA36
(57)【要約】 (修正有)
【課題】常温から極低温までの温度範囲、及び所定の圧力範囲において、極低温流体を内部に貯留することができ、かつ線膨張係数の差及び圧力による発生応力を許容値以下に抑えることができる極低温タンクとその製造方法を提供する。
【解決手段】内部に極低温流体Lを貯留するための中空のライナと、ライナに一体化され極低温流体を充填又は排出する流路を有する口金と、ライナの膨張を制限する外殻と、ライナの外面又は外殻の内面に設けられ両者の接着を防ぐ離型処理材とを備える。ライナは、極低温流体を貯蔵時の圧力負荷状態において外殻と接するまでに破断しない樹脂からなる。口金は、極低温流体に対する耐食性およびライナ成形時の熱負荷に耐える樹脂、繊維強化プラスチック、又は金属からなる。外殻は、成形温度がライナの溶融開始温度より低い繊維強化プラスチックからなる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に極低温の極低温流体を貯留するための中空のライナと、
前記ライナに一体化され前記極低温流体を充填又は排出する流路を有する口金と、
前記ライナの膨張を制限する外殻と、
前記ライナの外面又は前記外殻の内面に設けられ両者の接着を防ぐ離型処理材と、を備えた極低温タンク。
【請求項2】
前記外殻に固定され、外部に前記外殻を固定するための支持構造体と、
前記口金と外部配管とを繋ぐ伸縮可能な伸縮配管と、を有する、請求項1に記載の極低温タンク。
【請求項3】
前記極低温流体は、液体酸素、液体水素又は液体天然ガスであり、
前記ライナは、常温から前記極低温までの温度範囲において前記極低温流体に対する耐食性と液密性を有し、かつ前記極低温流体を貯蔵時の圧力負荷状態において前記外殻と接するまでに破断しない樹脂からなり、
前記外殻は、前記ライナの膨張時に生じる面内応力を超える引張強度を有し、かつ成形温度が前記ライナの溶融開始温度より低い繊維強化プラスチックからなる、請求項1に記載の極低温タンク。
【請求項4】
前記外殻は、軸心を中心とする中空回転体であり、
前記口金は、前記軸心を中心とする中空円板であり、
前記口金は、前記極低温流体に対する耐食性およびライナ成形時の熱負荷に耐える樹脂、繊維強化プラスチック、又は金属からなる、請求項1に記載の極低温タンク。
【請求項5】
請求項1に記載の極低温タンクの製造方法であって、
口金に一体化されたライナを製造し、
前記ライナの外面全体に前記離型処理材を貼付け、
前記口金の軸心を中心に前記ライナを回転させながら前記口金を除く前記ライナの外面に繊維強化プラスチックからなる前記外殻を成形する、極低温タンクの製造方法。
【請求項6】
前記外殻をフィラメントワインディングにより成形し、
前記フィラメントワインディングの際に、前記ライナの内側に加圧流体を封入する、請求項5に記載の極低温タンクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極低温の極低温流体を貯留するための極低温タンクとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、航空宇宙分野において液体酸素等の極低温流体を貯留するタンク(極低温タンク)には、金属製タンクが使用されている。
しかし、かかる金属製タンクは、重量が大きいため、その軽量化が求められている。
【0003】
この要望を満たすために、例えば特許文献1が提案されている。
また、本発明に関連する難燃性材料が、特許文献2に提案されている。
【0004】
特許文献1の極低温複合材圧力容器は、内殻及び外殻を有する耐圧層と、内殻の内面に形成された気密樹脂層と、を備える。気密樹脂層の融点以上の加熱に耐え得る繊維強化樹脂複合材で内殻を成形し、内殻の内面に熱可塑型気密性樹脂フィルムを融着することにより気密樹脂層を形成し、気密樹脂層の融点未満の温度で成形される繊維強化樹脂複合材で外殻を成形する。
【0005】
特許文献2の難燃性材料は、引張弾性率が700GPa以上である炭素繊維と、ポリカーボネートなどの難燃性材料とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-62320号公報
【特許文献2】国際公開第2019/074082号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献1の極低温複合材圧力容器には、以下の問題点があった。
(1)内殻の内面に熱可塑型気密性樹脂フィルムを融着することにより気密樹脂層を形成しているため、樹脂フィルムは内殻に融着している。
そのため、常温で内殻に樹脂フィルムが融着した状態であり、極低温流体(例えば液体酸素)を充填すると、内殻と樹脂フィルムがそれぞれ極低温流体の温度(例えば液体酸素の場合、約-180℃)まで冷却される。
この際、内殻と樹脂フィルムの線膨張係数の差が大きいため、樹脂フィルムに引張応力が作用し、内殻から樹脂フィルムが剥離する可能性がある。
【0008】
(2)気密樹脂層の形成に用いられる特定形状フィルムは、広幅辺と、狭幅辺と、これらを結ぶ緩やかに湾曲した2つの長辺と、を有する長尺略台形状の平面形状を有している。
内殻の内面に熱可塑型気密性樹脂フィルムを融着する際に、特定形状フィルムを重ね合わせて特定形状フィルム同士を繋ぎ合わせることにより、上方殻部材の内面や下方殻部材の内面の形状に沿う膜体を形成している。
そのため、気密樹脂層は多数の特定形状フィルムを繋ぎ合わせたものであり、上述の温度変化により樹脂フィルムに引張応力が作用した際に、繋ぎ合わせ部において内殻から特定形状フィルムの一部が剥離する可能性がある。
【0009】
(3)口金は、内殻を構成する上方殻部材の取付孔の周囲部分に接着剤で接着されている。
そのため、上述の温度変化により接着剤に強度以上の応力が発生し、口金の周辺で極低温流体が漏れる可能性がある。
【0010】
本発明は上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち本発明の目的は、常温から極低温までの温度範囲、及び所定の圧力範囲において、極低温流体を内部に貯留することができ、かつ線膨張係数の差及び圧力による発生応力を許容値以下に抑えることができる極低温タンクとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、内部に極低温の極低温流体を貯留するための中空のライナと、
前記ライナに一体化され前記極低温流体を充填又は排出する流路を有する口金と、
前記ライナの膨張を制限する外殻と、
前記ライナの外面又は前記外殻の内面に設けられ両者の接着を防ぐ離型処理材と、を備えた極低温タンクが提供される。
【0012】
また本発明によれば、上述した極低温タンクの製造方法であって、
口金に一体化されたライナを製造し、
前記ライナの外面全体に前記離型処理材を貼付け、
前記口金の軸心を中心に前記ライナを回転させながら前記口金を除く前記ライナの外面に繊維強化プラスチックからなる前記外殻を成形する、極低温タンクの製造方法が提供される
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ライナが中空であり、外殻が、中空のライナの膨張を制限するので、所定の圧力範囲において、極低温流体をライナの内部に貯留することができる。
【0014】
さらに、ライナの外面又は外殻の内面に設けられ両者の接着を防ぐ離型処理材を備えるので、極低温流体によりライナと外殻が極低温まで冷却される際に、ライナと外殻がそれぞれの線膨張係数で独立に収縮する。従って、ライナと外殻の線膨張係数の差及び圧力による発生応力を許容値以下に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明による極低温タンクの全体断面図である。
【
図3】ライナの内部が空の常温時(A)と内部に極低温流体を充填した極低温時(B)の比較図である。
【
図4】ライナの内部に極低温流体を充填した後、極低温流体の昇圧開始時(A)、昇圧中(B)、昇圧完了時(C)の比較図である。
【
図5】樹脂ブロックからの削り出しによる口金付きライナの製造方法の説明図である。
【
図6】圧縮成形による口金付きライナの製造方法の説明図である。
【
図7】極低温タンクの製造方法の第2工程の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0017】
図1は、本発明による極低温タンク100の全体断面図である。
この図において、極低温タンク100は、中空のライナ10、口金20、及び外殻30を備える。
【0018】
ライナ10は、内部に極低温流体Lを貯留するための中空容器である。ライナ10は、一体成形品であることが好ましいが、分割で製造され、その後に一体化されたものであってもよい。
極低温流体Lは、液体酸素(LOX)、液体水素(LH2)又は液体天然ガス(LNG)である。液体酸素の温度は約-180℃の極低温であり、液体水素の温度は約-253℃の極低温である。
ライナ10は、常温から極低温までの温度範囲において極低温流体Lに対する耐食性と液密性を有する樹脂からなる。
また、ライナ10は、極低温流体Lを貯蔵時の圧力負荷状態において外殻30と接するまでに破断しない樹脂からなる。すなわち、この樹脂は常温から極低温流体Lの極低温までの熱収縮量よりも極低温における伸び量が大きい必要がある。
かかる樹脂は、好ましくはポリカーボネート(PC)であるが、これに限定されず、液体水素の場合、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、又は、液晶ポリマー(LCP)であってもよい。
【0019】
口金20は、ライナ10に一体化され極低温流体Lを充填又は排出する流路22を有する。
口金20は、極低温流体Lに対する耐食性およびライナ成形時(例えば、ブロー成形など)の熱負荷に耐える樹脂、繊維強化プラスチック、又は金属からなる。
樹脂は、ライナ10に適用される樹脂であるのがよい。繊維強化プラスチックは外殻30と同じであるのがよい。また、金属は、好ましくはチタン、チタン合金、又はステンレスである。
なお、口金20がライナ10と同じ樹脂の場合は、一体成形、又は、樹脂ブロックから一体に削り出すことが好ましい。
【0020】
外殻30は、ライナ10の膨張を制限する。外殻30は、好ましくは、ライナ10の外面に沿って位置する。
外殻30は、ライナ10の膨張時に生じる面内応力を超える引張強度を有し、かつ成形温度がライナ10の溶融開始温度より低い繊維強化プラスチック(FRP)からなる。
繊維強化プラスチック(FRP)は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)であることが好ましい。また、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、常温硬化型であることが好ましいが、熱硬化型でも熱可塑型でもよい。
なお、繊維強化プラスチックは、ガラス繊維強化プラスチック、アラミド繊維強化プラスチック、等であってもよい。
この例で外殻30は、軸心Z-Zを中心とする中空回転体である。
【0021】
図1において、極低温タンク100は、さらにライナ10の外面又は外殻30の内面に設けられ両者(ライナ10と外殻30)の接着を防ぐ離型処理材40を有する。
離型処理材40は、離型フィルムまたは液状離型処理液である。離型フィルム材としてはテフロン(登録商標)テープやポリイミドテープが好ましく、また液状離型処理液としてはフッ素系離型剤が好ましい。
【0022】
図1において、極低温タンク100は、支持構造体50、伸縮配管52、及び固定配管54を有する。
支持構造体50は、外殻30に固定され、外部(例えば、ロケットや衛星内の固定フレーム)に外殻30を固定する。
伸縮配管52は、一方(図で上部)の口金20と外部配管(例えば、ロケットや衛星の推進装置)とを繋ぐ。伸縮配管52は、この例では軸方向に伸縮可能なベローズ配管である。
固定配管54は、他方(図で下部)の口金20と外部配管(例えば、ロケットや衛星の推進装置)との間に固定され軸方向に伸縮しない配管である。
【0023】
なお、
図1(及び後述する
図2~
図4)では、外殻30とライナ10との隙間が上だけとなっている。これは固定配管54が軸方向に伸縮せず、かつ重力の影響でこのように描いたものである。
また、
図1において、下側もベローズ配管(伸縮配管52)を配置しても良い。
【0024】
図2は、
図1の伸縮配管52を省略したA部拡大図である。
この図において、口金20は、軸心Z-Zを中心とする中空円板であり、外面20a、内面20b、内周面20c、及び外周面20dを有する。
【0025】
外面20aは、ライナ10の軸方向外側(図で上側)に位置し、内面20bは、ライナ10の軸方向内側(図で下側)に位置する。
この例において、外面20aと内面20bは、軸心Z-Zに直交する平面であるが、これに限定されず、軸心Z-Zに斜めに傾斜しても、曲面であってもよい。
【0026】
内周面20cは、流路22を囲み、この例では円筒面であるが、接頭円錐面であってもよい。
外周面20dは、内周面20cより半径方向外側に位置し、軸方向に外面20aから内面20bに向けて広がる。外周面20dは、この例では外端部が接頭円錐面である。
【0027】
この図において、ライナ10は、口金20(中空円板)の外周面20dと内面20bを間に挟持する挟持部12を有する。
挟持部12は、外周面20dと内面20bに密着している。
【0028】
図3は、ライナ10の内部が空の常温時(A)と内部に極低温流体Lを充填した極低温時(B)の比較図である。
この図において、FL1は支持構造体50の軸方向の固定位置、FL2は伸縮配管52の軸方向の固定位置である。固定位置FL1,FL2は、(A)(B)で同一である。
【0029】
図3(A)において、ライナ10の内部には、低圧ガス(例えば大気圧の空気)が充填されており、ライナ10及び外殻30の温度は、常温(例えば20~30℃)である。
この状態において、ライナ10の外面と外殻30の内面は、その間に離型処理材40を挟持して密着している。また、ライナ10及び外殻30に生じる面内応力は無視できる程度(実質的に0)である。
また、伸縮配管52は、その伸縮範囲の中間位置に位置している。なお図中のALは、口金20の外面20aの軸方向の変位位置である。
【0030】
図3(B)において、ライナ10の内部に極低温流体Lを充填すると、ライナ10は極低温流体Lの温度(例えば、液体酸素の場合、約-180℃の極低温)で冷却され、外殻30も極低温流体Lの温度近くまで冷却される。
この冷却により、ライナ10の外面と外殻30の内面は、その間に離型処理材40を挟持しているので、ライナ10と外殻30はそれぞれの線膨張係数で収縮する。
線膨張係数は、ライナ10を構成する樹脂(例えばポリカーボネート)の方が、外殻30を構成する炭素繊維強化プラスチックよりも大きい。例えばポリカーボネートの線膨張係数は、約5.6×10
-5/K、CFRPの線膨張係数は、約0.2~0.4×10
-5/Kである。
従って、この図に示すように、口金20の外面20aの変位位置ALは、常温時より軸方向内側(図で下側)に変位し、伸縮配管52は、常温時よりも伸びた状態となる。
この場合、外殻30も冷却により変位するが、CFRPの線膨張係数が小さいので、外殻30の変位量はライナ10よりも小さく、ライナ10は外殻30から離れた位置となる。
【0031】
図4は、ライナ10の内部に極低温流体Lを充填した後、極低温流体Lの昇圧開始時(A)、昇圧中(B)、昇圧完了時(C)の比較図である。
この図において、固定位置FL1,FL2は、(A)(B)(C)で同一である。
なお昇圧は、例えば、ヘリウムガスを配管52から入れても良い。この際、ヘリウムガスが極低温流体Lとともにスラスタに供給されてもよい。
また、極低温流体Lを使用するに従い、隙間があいてくるので、内圧をモニタしながら昇圧(加圧)しても良い。
【0032】
図4(A)において、極低温流体Lの昇圧を開始すると、極低温流体Lの圧力がライナ10に作用し、ライナ10を構成する樹脂(例えばポリカーボネート)が伸びてライナ10は半径方向及び軸方向に膨らむ。
これにより、ライナ10の外面が離型処理材40を介して外殻30の内面に接触する状態(
図4(B))となる。
図4(B)において、外殻30は、ライナ10の膨張を制限しているが、外殻30に作用する内圧は小さく、外殻30に生じる面内応力は、無視できる程度(実質的に0)である。
【0033】
図4(B)において、極低温流体Lの圧力がさらに上昇すると、その圧力によりライナ10が離型処理材40を介して外殻30に接触した状態のまま、ライナ10と外殻30が一体的に膨張する。
この際、極低温流体Lの圧力は外殻30により支持され、外殻30に大きな面内応力が生じるが、外殻30を構成する炭素繊維強化プラスチックが面内応力を超える引張強度を有するので、外殻30の損傷を防ぐことができる。
【0034】
例えばヤング率(引張弾性率)は、ポリカーボネートが約2~18GPaであり、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、約60~250GPaである。
すなわち、ライナ10を構成する樹脂(例えばポリカーボネート)は炭素繊維強化プラスチックよりもヤング率が1桁以上小さいので、圧力で膨張した外殻30の内面に追従してライナ10が膨張しても、ライナ10の損傷を防ぐことができる。
【0035】
図4(C)において、昇圧完了まで極低温流体Lを昇圧すると、ライナ10と外殻30は、
図4(B)の状態からさらに一体的に膨張する。この場合、ライナ10と外殻30は一体となって半径方向及び軸方向に伸びている。しかし、
図4(B)の状態と同様に、外殻30を構成する炭素繊維強化プラスチックが面内応力を超える引張強度を有するので、外殻30の損傷を防ぐことができ、かつライナ10の損傷を防ぐことができる。
【0036】
本発明の極低温タンクの製造方法は、第1工程と第2工程からなる。
第1工程では、ライナ10と口金20が一体化された口金付きライナ15を製造する。
【0037】
図5は、樹脂ブロックからの削り出しによる口金付きライナ15の製造方法の説明図であり、S1~S4の各ステップ(工程)からなる。
この方法では、ステップS1において樹脂ブロックを準備し、ステップS2において機械加工により、口金20およびライナ10のドーム部を一体にした口金付きドーム部10aを2個製造する。また、極低温タンク100の長さに応じてリング形状に加工したライナ10の胴部10bを製作する。ステップS3において口金付きドーム部10aと胴部10bを接着接合して口金付きライナ15が完成する(S4)。
接着接合には、溶着接合、加熱溶着(溶接)、摩擦攪拌接合、接着剤接合などを適用することができる。
【0038】
図6は、圧縮成形による口金付きライナ15の製造方法の説明図であり、T1~T7の各ステップ(工程)からなる。
この方法では、ステップT1において口金付きドーム部10aに合わせた金型1a,1bを準備し、ステップT2においてライナ10のライナ材料2(樹脂)を金型1a,1bの間に投入する。次いで、ステップT3において下型1bに上型1aを押し当て、金型1a,1bの間でライナ材料2を圧縮成形(加熱加圧)する。さらに、ステップT4において金型1a,1bを樹脂のガラス転位温度以下に冷却し、ステップT5において脱型して、口金付きライナ15が完成する。
【0039】
次いで、
図5と同様に、ライナ10の胴部10bを製作し、ステップT6において口金付きドーム部10aと胴部10bを接着接合して口金付きライナ15が完成する(T7)。
【0040】
口金付きライナ15は、その寸法、厚さ、耐圧性能、気密性能を試験する。
【0041】
図7は、極低温タンク100の製造方法の第2工程の説明図である。
第2工程では、口金付きライナ15のまわりに繊維強化プラスチックからなる外殻30を成形する。
この図において、(A)は離型処理工程、(B-1)(B-2)はフィラメントワインディング工程、(C)は試験工程である。
なお、第2工程は、フィラメントワインディングに限定されない。例えば、マトリックスに熱可塑性樹脂が適用される場合は、AFP(Automated Fiber Placement法:自動積層法)による成形であってもよい。
【0042】
図7(A)において、ライナ10の外面全体に離型処理材40を貼付ける。離型処理材40は、離型フィルム(テフロン(登録商標)テープやポリイミドテープ)であるのが好ましい。なお離型処理材40に替えて液状離型処理液を塗布してもよい。
【0043】
図7の(B-1)と(B-2)において、口金20の軸心Z-Zを中心にライナ10を回転させながら口金20を除くライナ10の外面にフィラメントワインディングにより繊維強化プラスチックからなる外殻30を成形する。
なお、外殻30に適用するマトリックス樹脂は、常温硬化樹脂に限定されず、熱硬化樹脂および熱可塑樹脂の両者を適用することができる。
図7の(B-1)は、常温硬化樹脂及び熱硬化樹脂を適用したWet FW法の場合、(B-2)は熱硬化または熱可塑樹脂のプリプレグを適用する場合を示している。
【0044】
なお外殻30をフィラメントワインディングにより成形する際に、ライナ10の内側に加圧流体を封入してもよい。加圧流体は、気体又は液体である。加圧流体の圧力は、フィラメントワインディングの際にライナ10が形状を保持できるように設定する。
【0045】
図7(C)において、成形後の極低温タンク100の寸法、厚さ、耐圧性能、気密性能、低温耐圧性能を試験して、極低温タンク100が完成する。
【0046】
上述した本発明の実施形態によれば、ライナ10が中空であり、常温から極低温までの温度範囲において極低温流体Lに対する耐食性と液密性を有する樹脂からなるので、常温から極低温までの温度範囲において、極低温流体Lをライナ10の内部に貯留することができる。
【0047】
また、外殻30が、中空のライナ10の膨張時に生じる面内応力を超える引張強度を有する繊維強化プラスチック(好ましくは炭素繊維強化プラスチック)からなり、ライナ10の外面に沿って位置しライナ10の膨張を制限する。これにより、所定の圧力範囲において、極低温流体Lをライナ10の内部に貯留することができる。
【0048】
さらに、ライナ10の外面又は外殻30の内面に設けられ両者の接着を防ぐ離型処理材40を備えるので、極低温流体Lによりライナ10と外殻30が極低温まで冷却される際に、ライナ10と外殻30がそれぞれの線膨張係数で独立に収縮する。従って、ライナ10と外殻30の線膨張係数の差及び圧力による発生応力を許容値以下に抑えることができる。
【0049】
なお本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0050】
AL 変位位置、FL1,FL2 固定位置、L 極低温流体、
Z-Z 軸心、1a,1b 金型、2 ライナ材料、10 ライナ、
10a 口金付きドーム部、10b 胴部、12 挟持部、
15 口金付きライナ、20 口金、20a 外面、20b 内面、
20c 内周面、20d 外周面、22 流路、30 外殻、
40 離型処理材(離型フィルム、液状離型処理液)、
50 支持構造体、52 伸縮配管、54 固定配管、100 極低温タンク