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特開2023-103746測定装置、測定方法、及び、測定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103746
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】測定装置、測定方法、及び、測定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/30 20060101AFI20230720BHJP
   G01R 31/26 20200101ALI20230720BHJP
【FI】
G01R31/30
G01R31/26 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004444
(22)【出願日】2022-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】岩下 秀徳
(72)【発明者】
【氏名】奥川 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】広島 芳春
(72)【発明者】
【氏名】鬼柳 善明
(72)【発明者】
【氏名】古坂 道弘
(72)【発明者】
【氏名】加美山 隆
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 博隆
【テーマコード(参考)】
2G003
2G132
【Fターム(参考)】
2G003AA07
2G003AA08
2G003AH01
2G132AA08
2G132AB18
2G132AC09
(57)【要約】
【課題】宇宙陽子線環境における半導体デバイスのソフトエラー試験を電子システムレベルで正確に実施可能な技術を提供する。
【解決手段】測定装置1は、加速器中性子源を用いて測定された中性子による電子システム内の半導体デバイスでのソフトエラー発生率に対して、陽子線環境での前記加速器中性子源による中性子の加速係数を適用し、前記加速係数の適用後の前記ソフトエラー発生率を宇宙陽子線環境における前記半導体デバイスのソフトエラー発生率とする演算部12、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速器中性子源を用いて測定された中性子による電子システム内の半導体デバイスでのソフトエラー発生率に対して、陽子線環境での前記加速器中性子源による中性子の加速係数を適用し、前記加速係数の適用後の前記ソフトエラー発生率を宇宙陽子線環境における前記半導体デバイスのソフトエラー発生率とする演算部、
を備える測定装置。
【請求項2】
前記加速係数を、陽子エネルギーに依存する陽子SEU(Single Event Upset)クロスセクションと、前記加速器中性子源を用いて測定された中性子エネルギーに依存する中性子SEUクロスセクションと、を用いて、算出する加速係数演算部を更に備える請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
測定装置で行う測定方法において、
加速器中性子源を用いて測定された中性子による電子システム内の半導体デバイスでのソフトエラー発生率に対して、陽子線環境での前記加速器中性子源による中性子の加速係数を適用し、前記加速係数の適用後の前記ソフトエラー発生率を宇宙陽子線環境における前記半導体デバイスのソフトエラー発生率とするステップ、
を行う測定方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の測定装置としてコンピュータを機能させる測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙陽子線環境におけるSEU(Single Event Upset)の影響を測定する技術に関する。SEUとは、単一の粒子(中性子、陽子、重粒子等)が半導体デバイス(メモリ等のLSI)に入射し、核反応により生成された電荷によって内部に保存されたデータが反転してしまう事象をいう。SEUは、ソフトエラーとも呼ばれる。
【背景技術】
【0002】
宇宙空間では、太陽や銀河から発生した宇宙放射線が飛び交っている。宇宙放射線の主成分は陽子であるため、宇宙空間で半導体デバイスを運用する場合には、陽子線の影響を把握する必要がある。
【0003】
宇宙陽子線の影響を地上で測定する場合、陽子加速器が用いられる。陽子加速器を用いて陽子が半導体デバイスにSEUを発生させる割合を測定し、その半導体デバイスで単位時間・単位面積あたりに通過する陽子の数を掛け合わせることで、宇宙陽子線環境におけるSER(Soft Error Rate;単位時間あたりのSEU/ソフトエラー発生数)を算出する(非特許文献1)。
【0004】
具体的には、陽子加速器を用いて陽子SEUクロスセクションを測定する。ここで、SEUクロスセクションとは、粒子が半導体デバイスにSEUを発生させる割合を表す尺度である。粒子によるSEUクロスセクションσは、半導体デバイスにフルエンスΦ[n/cm2](単位面積に入射する粒子の総数)を照射したときに発生したSEUの値をNとすると、式(1)で表される。
【0005】
【数1】
【0006】
陽子加速器は、式(1)より、陽子(proton)による陽子SEUクロスセクションσを測定する。その後、測定装置は、陽子SEUクロスセクションσの測定結果を用いて、式(2)より、宇宙陽子線環境におけるSERを算出する。
【0007】
【数2】
【0008】
σ(E)は、エネルギーEの陽子SEUクロスセクションである。φ(E)は、宇宙環境におけるエネルギーEの陽子フラックス(単位時間・単位面積あたりに通過する陽子の数)である。
【0009】
従来は、上記方法を用いて、半導体デバイスレベル(LSI単体)のソフトエラー試験(SEU影響の測定・評価)が行われていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】N. A. Dodds、外33名、“The Contribution of Low-Energy Protons to the Total On-Orbit SEU Rate”、IEEE Transactions on Nuclear Science、vol.62、no.6、2015年12月、p.2440-p.2451
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、陽子により、半導体デバイスレベルではなく、半導体デバイスを含む電子システムレベル(例えば、通信装置)のソフトエラー試験を行うと、陽子が半導体デバイス以外の物質(例えば、筐体、ヒートシンク、ヒートスプレッダ)と反応し、減衰や二次粒子(例えば、中性子)等が生成されてしまう。そのため、陽子により電子システムレベルのソフトエラー試験を行うのは困難であった。
【0012】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、宇宙陽子線環境における半導体デバイスのソフトエラー試験を電子システムレベルで正確に実施可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様の測定装置は、加速器中性子源を用いて測定された中性子による電子システム内の半導体デバイスでのソフトエラー発生率に対して、陽子線環境での前記加速器中性子源による中性子の加速係数を適用し、前記加速係数の適用後の前記ソフトエラー発生率を宇宙陽子線環境における前記半導体デバイスのソフトエラー発生率とする演算部、を備える。
【0014】
本発明の一態様の測定方法は、測定装置で行う測定方法において、加速器中性子源を用いて測定された中性子による電子システム内の半導体デバイスでのソフトエラー発生率に対して、陽子線環境での前記加速器中性子源による中性子の加速係数を適用し、前記加速係数の適用後の前記ソフトエラー発生率を宇宙陽子線環境における前記半導体デバイスのソフトエラー発生率とするステップ、を行う。
【0015】
本発明の一態様の測定プログラムは、上記測定装置としてコンピュータを機能させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、宇宙陽子線環境における半導体デバイスのソフトエラー試験を電子システムレベルで正確に実施可能な技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、測定システムの全体構成を示す図である。
図2図2は、加速係数の算出フローを示す図である。
図3図3は、ソフトエラー発生率の算出フローを示す図である。
図4図4は、中性子線を電子システムに照射した場合において、その電子システム内の半導体デバイスに照射される粒子数のシミュレーション結果を示す図である。
図5図5は、陽子線を電子システムに照射した場合において、その電子システム内の半導体デバイスに照射される粒子数のシミュレーション結果を示す図である。
図6図6は、測定装置のハードウェア構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付し説明を省略する。
【0019】
[概要]
本発明は、中性子に着目する。
【0020】
宇宙放射線の主成分は陽子であるが、中性子により発生するソフトエラーの事象は、陽子により発生するソフトエラーの事象と同じ事象である。つまり、原因となる粒子に依らず、発生する事象としては同じである。また、中性子は、電荷を持たないため、電子システムの実装部品やその位置に依存することなく、電子システム内の半導体デバイスに対して均一に中性子を照射可能である。
【0021】
そこで、本発明は、宇宙空間で使用する電子システムのソフトエラー試験を、加速器中性子源で実施する。具体的には、ある半導体デバイスを搭載した電子システムについてソフトエラー試験を行う際に、陽子と中性子との各エネルギー依存SEUクロスセクションデータを用いて宇宙陽子線環境での中性子の加速係数を算出し、加速器中性子源を用いた中性子による電子システムレベルのソフトエラー試験の試験結果に対して適用する。
【0022】
[システム構成]
図1は、本実施形態に係る測定システムの全体構成を示す図である。
【0023】
測定システム100は、中性子を用いて宇宙陽子線の影響を地上で測定するシステムである。測定システム100は、測定装置1と、加速器中性子源2と、半導体デバイスを内蔵する電子システム3と、を備える。
【0024】
測定装置1は、入力部11と、演算部12と、出力部13と、加速係数演算部14と、を備える。
【0025】
加速係数演算部14は、陽子エネルギーに依存する陽子SEUクロスセクションデータと、陽子エネルギーの陽子フラックスと、中性子エネルギーに依存する中性子SEUクロスセクションデータと、中性子エネルギーの中性子フラックスと、を用いて、宇宙陽子線環境での加速器中性子源2による中性子の加速係数を算出する機能を備える。
【0026】
入力部11は、加速器中性子源2が電子システム3内の半導体デバイスに対して中性子線を照射したときの中性子フルエンスと、中性子による電子システム3内の半導体デバイスでのソフトエラー発生率と、を入力する機能を備える。
【0027】
演算部12は、中性子による電子システム3内の半導体デバイスでのソフトエラー発生率に対して、加速係数演算部14で算出された中性子の加速係数を適用し、その加速係数を適用したソフトエラー発生率を宇宙陽子線環境における当該半導体デバイスのソフトエラー発生率として出力する機能を備える。
【0028】
出力部13は、宇宙陽子線環境における半導体デバイスのソフトエラー発生率をモニタ装置等へ出力する機能を備える。
【0029】
[加速係数の算出方法]
図2は、加速係数の算出フローを示す図である。
【0030】
ステップS101、S102;
まず、陽子加速器は、陽子エネルギーに依存する半導体デバイス単体の陽子SEUクロスセクションを測定する。次に、加速器中性子源2は、中性子エネルギーに依存する半導体デバイス単体の中性子SEUクロスセクションを測定する。
【0031】
陽子SEUクロスセクションの測定は、前述したように既存技術を用いて実施可能である。中性子SEUクロスセクションの測定も既存技術を用いて実施可能である。例えば、飛行時間法を用いて中性子SEUクロスセクションを測定できる。具体的には、半導体素子でSEUが発生した場合に正常時と異なる値を出力する判定回路を半導体デバイス内に形成しておき、中性子放射線環境において、その判定回路で発生した異常動作の発生数を基に中性子SEUクロスセクションを算出する。
【0032】
ステップS103;
その後、測定装置1において、加速係数演算部14が、上記陽子エネルギーに依存する陽子SEUクロスセクションと、その陽子エネルギーの陽子フラックスと、上記中性子エネルギーに依存する中性子SEUクロスセクションと、その中性子エネルギーの中性子フラックスと、を用いて、式(3)より、宇宙陽子線環境での加速係数Fを算出する。
【0033】
【数3】
【0034】
σ(E)は、陽子エネルギーE(p:proton)の陽子SEUクロスセクションである。φ(E)は、陽子エネルギーEの陽子フラックスである。σ(E)は、中性子エネルギーE(n:neutron)の中性子SEUクロスセクションである。φ(E)は、中性子エネルギーEの中性子フラックスである。
【0035】
加速係数Fは、宇宙陽子線環境に対して中性子加速器環境(加速器中性子源2)が中性子を何倍加速してソフトエラー試験をできるかを示す指標となる。
【0036】
なお、上記算出フローは、例である。例えば、ステップS102をステップS101よりも前又は同時に行ってもよい。また、陽子SEUクロスセクションや中性子SEUクロスセクションについて、既存のデータがあれば、ステップS101やステップS102を行わず、それらの既存のデータを用いて加速係数Fを算出してもよい。
【0037】
[ソフトエラー発生率の算出方法]
図3は、ソフトエラー発生率の算出フローを示す図である。
【0038】
ステップS201;
まず、加速器中性子源2は、ソフトエラー発生率の測定対象である半導体デバイスを含む電子システム3に対して中性子を照射し、その中性子による当該電子システム3内の当該半導体デバイスでのソフトエラー発生率を測定する。
【0039】
ここで、電子システム内の半導体デバイスに対して中性子線を照射した場合のシミュレーション結果を図4に示す。このシミュレーションでは、80[MeV]の中性子線を電子システムに照射し、LSI1及びLSI2での陽子と中性子の各粒子数を計算した。電子システムを模擬するため、筐体としてのステンレス、ヒートシンク、ヒートスプレッダ、LSI、プリント基板を再現している。
【0040】
図4(a)は、中性子線の入力に対して前側のLSI1に照射される各粒子数である。図4(b)は、後側のLSI2に照射される各粒子数である。LSI1もLSI2も、照射される粒子数にほとんど変化がなく、粒子の照射位置によらずほぼ同じであった。この結果から、中性子は、電子システム内の半導体デバイスに対して均一に照射可能であり、電子システム部品の実装位置に依存しないことがわかる。それゆえ、中性子を用いることで、宇宙陽子線環境における半導体デバイスのソフトエラー試験を電子システムレベルで正確に実施することができる。
【0041】
同じシミュレーション系で陽子線を照射した場合のシミュレーション結果を図5に示す。LSI1では、ステンレスやヒートシンク等の影響により、もともと80[MeV]であった陽子のピークが28[MeV]まで減衰していることがわかる。また、陽子が電子システムの様々な部位と反応し、中性子が生成されていることがわかる。さらに、後側のLSI2では、その影響が大きくなり、陽子と中性子との各数が逆転してしまうことがわかる。このように、陽子を用いて電子システムレベルの試験を行うのは困難である。
【0042】
ステップS202;
その後、測定装置1において、入力部11は、加速器中性子源2で測定された電子システム3内の半導体デバイスでのソフトエラー発生率を入力し、そのソフトエラー発生率を演算部12に出力する。
【0043】
そして、演算部12は、上記ソフトエラー発生率に対して上記加速係数Fを適用し、その加速係数Fを適用したソフトエラー発生率を、宇宙陽子線環境における半導体デバイスのソフトエラー発生率として出力部13に出力する。
【0044】
例えば、演算部12は、加速係数Fが1千万であり、加速器中性子源2でのソフトエラー発生率が1時間に100回であった場合には、宇宙空間では1千万時間(1時間×1千万)でソフトエラーが100回発生すると予測計算する。
【0045】
その後、出力部13は、そのソフトエラー発生率を、宇宙陽子線環境で発生する障害数レポートに入力して各種装置(例えば、モニタ装置、印刷装置、サーバ装置、クライアント装置)へ出力する。
【0046】
[効果]
本実施形態によれば、測定装置1は、加速器中性子源を用いて測定された中性子による電子システム3内の半導体デバイスでのソフトエラー発生率に対して、陽子線環境での前記加速器中性子源による中性子の加速係数を適用し、前記加速係数の適用後の前記ソフトエラー発生率を宇宙陽子線環境における前記半導体デバイスのソフトエラー発生率とする演算部12、を備えるので、宇宙陽子線環境における半導体デバイスのソフトエラー試験を電子システムレベルで正確かつ低コストで実施することができる。
【0047】
[その他]
本発明は、上記実施形態に限定されない。本発明は、本発明の要旨の範囲内で数々の変形が可能である。本実施形態に係る測定装置1は、コンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【0048】
例えば、本実施形態に係る測定装置1は、図6に示すように、CPU901と、メモリ902と、ストレージ903と、通信装置904と、入力装置905と、出力装置906と、を備えた汎用的なコンピュータシステムを用いて実現できる。メモリ902及びストレージ903は、記憶装置である。当該コンピュータシステムにおいて、CPU901がメモリ902上にロードされた所定のプログラムを実行することにより、測定装置1の各機能が実現される。
【0049】
測定装置1は、1つのコンピュータで実装されてもよい。測定装置1は、複数のコンピュータで実装されてもよい。測定装置1は、コンピュータに実装される仮想マシンであってもよい。測定装置1用のプログラムは、HDD、SSD、USBメモリ、CD、DVD等のコンピュータ読取り可能な記録媒体に記憶できる。測定装置1用のプログラムは、通信ネットワークを介して配信することもできる。
【符号の説明】
【0050】
1…測定装置
11…入力部
12…演算部
13…出力部
14…加速係数演算部
2…加速器中性子源
3…電子システム
100…測定システム
901…CPU
902…メモリ
903…ストレージ
904…通信装置
905…入力装置
906…出力装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6