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  • 特開-ボールねじの加工方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023103772
(43)【公開日】2023-07-27
(54)【発明の名称】ボールねじの加工方法
(51)【国際特許分類】
   B24C 1/04 20060101AFI20230720BHJP
   F16H 25/22 20060101ALI20230720BHJP
   B24C 3/32 20060101ALI20230720BHJP
   B23G 1/36 20060101ALI20230720BHJP
   B23G 1/02 20060101ALI20230720BHJP
   B24C 1/10 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
B24C1/04 D
F16H25/22 A
B24C1/04 F
B24C3/32 Z
B23G1/36
B23G1/02 Z
B24C1/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022004488
(22)【出願日】2022-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】野元 兵馬
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AA21
3J062AA27
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA07
3J062CD04
(57)【要約】
【課題】軌道面における加工痕を削除するとともに、他部品を取り付けるために必要な面精度や寸法精度を確保できるボールねじの加工方法を提供する。
【解決手段】ボールねじの加工方法において、ねじ軸の外周ねじ溝以外の部位であって、他部品と当接する箇所にマスキング材を配置した後に、外周ねじ溝をブラスト加工するか、または、ナットの内周ねじ溝以外の部位であって、他部品と当接する箇所にマスキング材を配置した後に、内周ねじ溝をブラスト加工する。これにより、かかる箇所の面精度や寸法精度を確保し、他部品の高精度な組付けが可能になる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋状の外周ねじ溝が形成されたねじ軸と、
前記ねじ軸の周囲に配置され、内周面に前記外周ねじ溝に対向して螺旋状の内周ねじ溝が形成されたナットと、
対向する前記外周ねじ溝と前記内周ねじ溝とにより形成される転動路内に収容される複数のボールと、
前記複数のボールを前記転動路に循環させるための循環部と、
を有するボールねじの加工方法であって、
前記ねじ軸の前記外周ねじ溝以外の部位であって、他部品と当接する箇所にマスキング材を配置した後に、前記外周ねじ溝をブラスト加工することを特徴とするボールねじの加工方法。
【請求項2】
外周面に螺旋状の外周ねじ溝が形成されたねじ軸と、
前記ねじ軸の周囲に配置され、内周面に前記外周ねじ溝に対向して螺旋状の内周ねじ溝が形成されたナットと、
対向する前記外周ねじ溝と前記内周ねじ溝とにより形成される転動路内に収容される複数のボールと、
前記複数のボールを前記転動路に循環させるための循環部と、を有するボールねじの加工方法であって、
前記ナットの前記内周ねじ溝以外の部位であって、他部品と当接する箇所にマスキング材を配置した後に、前記内周ねじ溝をブラスト加工することを特徴とするボールねじの加工方法。
【請求項3】
前記他部品を組み付けるために、前記ブラスト加工後に、前記他部品と当接する箇所から前記マスキング材を剥がすことを特徴とする請求項1または2に記載のボールねじの加工方法。
【請求項4】
前記他部品と当接する箇所には、前記マスキング材を配置する前に切削加工及び研削加工の少なくとも一方が施されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のボールねじの加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械や搬送装置には、ボールねじやリニアガイド等の直動装置が使用されているが、より円滑な動作や静寂性、高速性、耐久性向上等の要求が強く、そのための対策が求められている。
【0003】
ボールねじの製造工程において、軌道面を形成する際に切削加工や研削加工が行われる。しかし、この切削加工や研削加工した後の軌道面には、ある方向に沿った筋状の加工痕が形成される。この筋状の加工痕は、潤滑剤の保持能力が十分ではないことがあり、潤滑剤不足により焼付きを起こしたり、ボールの表面に損傷を与えたり、自身が剥離等の損傷を受けるなどして、耐久性を低下させる原因になりうる。
【0004】
これに対し、特許文献1においては、ショットピーニングなどのブラスト加工により、軌道面における加工痕を削除するとともに、潤滑油を保持可能な凹凸を形成する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-67153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ショットピーニングなどのブラスト加工においては、加工時にショット剤が拡散して投射されるため、ボールねじのねじ軸やナットに対して、直接的に吹き付けを行うと、加工痕を削除したい部位以外の部位にショット剤が衝接する場合がある。当該部位が、例えば他部品との嵌合部であるような場合、ショット剤が当たったことで表面に凹凸が形成され、必要な面精度や寸法精度を確保できない恐れがある。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、軌道面における加工痕を削除するとともに、他部品を取り付けるために必要な面精度や寸法精度を確保できるボールねじの加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、以下の構成によって達成される。
(1) 外周面に螺旋状の外周ねじ溝が形成されたねじ軸と、
前記ねじ軸の周囲に配置され、内周面に前記外周ねじ溝に対向して螺旋状の内周ねじ溝が形成されたナットと、
対向する前記外周ねじ溝と前記内周ねじ溝とにより形成される転動路内に収容される複数のボールと、
前記複数のボールを前記転動路に循環させるための循環部と、
を有するボールねじの加工方法であって、
前記ねじ軸の前記外周ねじ溝以外の部位であって、他部品と当接する箇所にマスキング材を配置した後に、前記外周ねじ溝をブラスト加工することを特徴とするボールねじの加工方法。
(2) 外周面に螺旋状の外周ねじ溝が形成されたねじ軸と、
前記ねじ軸の周囲に配置され、内周面に前記外周ねじ溝に対向して螺旋状の内周ねじ溝が形成されたナットと、
対向する前記外周ねじ溝と前記内周ねじ溝とにより形成される転動路内に収容される複数のボールと、
前記複数のボールを前記転動路に循環させるための循環部と、を有するボールねじの加工方法であって、
前記ナットの前記内周ねじ溝以外の部位であって、他部品と当接する箇所にマスキング材を配置した後に、前記内周ねじ溝をブラスト加工することを特徴とするボールねじの加工方法。
(3) 前記他部品を組み付けるために、前記ブラスト加工後に、前記他部品と当接する箇所から前記マスキング材を剥がすことを特徴とする(1)または(2)に記載のボールねじの加工方法。
(4) 前記他部品と当接する箇所には、前記マスキング材を配置する前に切削加工及び研削加工の少なくとも一方が施されていることを特徴とする(1)~(3)のいずれか一つに記載のボールねじの加工方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、軌道面における加工痕を削除するとともに、他部品を取り付けるために必要な面精度や寸法精度を確保できるボールねじの加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の実施形態に係る循環コマ式のボールねじの斜視図である。
図2図2(a)及び(b)は、ボールねじのねじ軸の製造工程を示す図である。
図3図3(a)~(c)は、ボールねじのナットの製造工程を示す図である。
図4図4は、ボールねじを、移動部材を備えた搬送装置に組付けた例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るボールねじの一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る循環コマ式のボールねじの斜視図である。
【0012】
ボールねじ1は、ねじ軸10と、ナット20と、複数のボール30と、循環部としての複数の循環コマ40と、を備えて構成されている。ねじ軸10は、中心軸CLを中心とした円筒形状に形成され、その外周面に所定のリードを有する螺旋状の外周ねじ溝11が形成されている。
【0013】
ナット20は、略円筒状をなし、その内径はねじ軸10の外径よりも大きく形成されている。ナット20は、ねじ軸10の周囲に所定の径方向隙間を介して外嵌している。ナット20の軸方向一端部には、案内対象(他部品)と結合するためのフランジ25が設けられている。ナット20の内周面には、ねじ軸10の外周ねじ溝11と等しいリードを有し、外周ねじ溝11と対向する内周ねじ溝21が螺旋状に形成されている。そして、ねじ軸10の外周ねじ溝11とナット20の内周ねじ溝21とによって断面略円形状の転動路23が形成されている。この転動路23内に複数のボール30が転動可能に収容配置されている。
【0014】
また、ナット20の内周面には、ボール30を手前の転動路23に戻すための複数の循環コマ40が装着されている。各循環コマ40には、転動路23の一端と一巻き手前の転動路23の他端とを連結するボール戻し通路42が形成されている。このボール戻し通路42により、各循環コマ40に向かって転動路23を転がってくるボール30をねじ軸10の径方向にすくい上げ、さらに、ねじ軸10の外ランド部13を乗り越えさせ、一巻き手前(一リード手前)の転動路23に戻すことでボール30を循環可能にしている。
【0015】
そして、このボール戻し通路42及び転動路23によってねじ軸10の外側に略円環状の無限循環路が形成される。これにより、ナット20に対するねじ軸10の相対的な回転に伴って、複数のボール30が無限循環路内を循環することによって、ナット20をねじ軸10に対してねじ軸10の軸方向に相対的に直線運動させることが可能となる。
【0016】
[ボールねじの製造方法]
図2(a)及び(b)は、ボールねじ1のねじ軸10の製造工程を示す図である。図3(a)~(c)は、ボールねじ1のナット20の製造工程を示す図である。
【0017】
ボールねじ1のねじ軸10の製造工程について説明する。まず、丸軸状の素材M1の外周を切削加工及び研削加工する。より具体的には、図2(a)を参照して、素材M1を軸線回りに回転させながら、不図示の切削工具及び研削工具により、第1外周部10aと、第1外周部10aより径が大きい第2外周部10bと、第2外周部10bより径が大きい第3外周部10cと、第3外周部10cより径が小さい第4外周部10dと、を形成する。なお、第2外周部10b径と第4外周部10dの径とは、略同一である。図示の例では、軸方向一端側(図中、左側)から順に、第1外周部10a、第2外周部10b、第3外周部10c、及び第4外周部10dが配置される。第2外周部10b及び第4外周部10dは、ボールねじ1を設置する他部品が当接して嵌合する部位として使用するため、ガタなどが生じないよう高い面精度管理が必要である。
【0018】
さらに、素材M1を軸線回りに回転させながら、切削工具T1を軸方向に同期して移動させ、第3外周部10cの外周に外周ねじ溝11を切削する。第3外周部10cの外周において、外周ねじ溝11以外の部位を外ランド部13とする。外ランド部13の外径は一様である。
【0019】
次に、図2(b)に示すように、素材M1の第3外周部10cの外周面(外周ねじ溝11及び外ランド部13)以外の部分、すなわち第1外周部10aの外周面と第2外周部10bの外周面と第4外周部10dの外周面とに、マスキングテープ(マスキング材)MTを貼り付ける。マスキングテープMTの代わりに、例えば筒状の樹脂であって熱を付与することで縮径する熱収縮チューブや、専用の治具部品などを用いてもよい。
【0020】
なお、ねじ軸10の端部に、モータの回転軸を連結する場合などには、該端部をマスキングテープで覆うことが望ましい。
【0021】
その後、素材M1を軸線回りに回転させながら、第3外周部10cの外周に対して、ショット剤の吹き出し口BOを向け、吹き出し口BOからショット剤を吹き付けてブラスト加工を行う。吹き出し口BOから噴き出されたショット剤は、第3外周部10cの外周ねじ溝11及び外ランド部13に吹き付けられ、切削加工により形成された加工痕を除去するとともに、微細な凹凸を形成する。この凹凸により潤滑剤が保持されるため、潤滑性に優れたねじ軸10が形成される。しかしながら、マスキングテープMTが貼り付けられた素材M1の第1外周部10aの外周面と、第2外周部10bの外周面と、第4外周部10dの外周面とは、マスキングテープMTによりショット剤から保護されるため、凹凸形状が生じることなく、切削加工後の面精度や寸法精度を維持できる。
【0022】
吹き出し口BOは、素材M1に対して軸方向に相対移動され、第3外周部10c全体にショット剤が吹き付けられる。さらに素材M1からマスキングテープMTを剥がした後、熱処理などの後工程を施して、ねじ軸10(図1)が完成する。
【0023】
次に、ボールねじ1のナット20の製造工程について説明する。まず、図3(a)に示すように、内周面20aを有する円筒状の素材M2の外周端部に、切削加工及び研削加工などによりフランジ25を形成する。その後、図3(b)に示すように、素材M2の内側に溝切削工具T2を挿入し、溝切削工具T2を回転させながら外周の刃先により素材M2の内周面20aを切削加工して、内周ねじ溝21を形成する。素材M2の内周面20aにおいて、内周ねじ溝21以外の部位を内ランド部26とする。内ランド部26の内径は一様である。素材M2の軸方向両端面20b,外周面20c及びフランジ25は、ボールねじ1とともに移動する他部品が当接して嵌合する部位として使用するため、ガタが生じないよう高い面精度管理が必要である。
【0024】
次に、図3(c)に示すように、素材M2の内周ねじ溝21及び内ランド部26以外の、軸方向両端面20b,外周面20c及びフランジ25の表面にマスキングテープ(マスキング材)MTを貼り付ける。マスキングテープMTの代わりに、例えば筒状の樹脂であって熱を付与することで縮径する熱収縮チューブや、専用の治具部品などを用いてもよい。
【0025】
その後、素材M2を軸線回りに回転させながら、素材M2の内周面20aに対して、ショット剤の吹き出しチューブBTの出口を向け、吹き出しチューブBTからショット剤を吹き付けてブラスト加工を行う。吹き出しチューブBTから噴き出されたショット剤は、素材M2の内周面20aの内周ねじ溝21及び内ランド部26に吹き付けられ、切削加工により形成された加工痕を除去するとともに、微細な凹凸を形成する。この凹凸により潤滑剤が保持されるため、潤滑性に優れたナット20が形成される。しかしながら、マスキングテープMTが貼り付けられた素材M2の軸方向両端面20b,外周面20c及びフランジ25の表面は、マスキングテープMTによりショット剤から保護されるため、凹凸形状が生じることなく、切削加工及び研削加工後の面精度や寸法精度を維持できる。
【0026】
チューブBTは、素材M2の内側を軸方向に沿って相対移動させられ、内周面20a全体にショット剤が吹き付けられる。さらに素材M2からマスキングテープMTを剥がした後、熱処理などの後工程を施して、ナット20(図1)が完成する。
【0027】
さらに、ナット2は、循環コマ40を取り付けた後、ねじ軸10に組付けられ、その内部にボール30を組み込むことで、ボールねじ1が完成する。
【0028】
[ボールねじの適用例]
図4は、ボールねじ1を、移動部材MMを備えた搬送装置に組付けた例を示す断面図である。ボールねじ1の組み付けは、ねじ軸10の第1外周部10a及び第2外周部10bに、軸受などの第1固定部材FM1を取り付け、また第4外周部10dに、軸受などの第2固定部材FM2を取り付けることにより行われる。これにより、ねじ軸10が回転可能に支持される。一方、ナット20には、移動部材MMが取り付けられる。第1固定部材FM1、第2固定部材FM2、および移動部材MMを他部品という。
【0029】
ねじ軸10の端部にモータ(不図示)を連結して回転させることにより、複数のボール30が無限循環路内を無限循環することによって、ナット20とともに移動部材MMを、第1固定部材FM1、第2固定部材FM2に対して、ねじ軸10の軸方向に相対的に直線運動させることができる。
【0030】
本実施形態によれば、他部品と当接する箇所であり、マスキングテープMTによってねじ軸10及びナット20における切削加工及び研削加工後の寸法及び表面状態を確保したい部位(ここでは、ねじ軸10の第1外周部10a、第2外周部10b及び第4外周部10d、並びにナット20の軸方向両端面20b,外周面20c及びフランジ25の表面)をショット剤から保護することができる。それにより、これら部位への、第1固定部材FM1、第2固定部材FM2、および移動部材MMの高精度な組付けが可能になる。
【0031】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されない。本発明の範囲内において、上述の実施形態の任意の構成要素の変形が可能である。また、上述の実施形態において任意の構成要素の追加または省略が可能である。例えば、他部品と当接する箇所には切削加工及び研削加工の少なくとも一方が施されていれば足りる。本発明は循環コマ式ボールねじに限らず、チューブ式ボールねじ、デフレクタ式ボールねじ、エンドキャップ式ボールねじなど、種々のボールねじの加工方法に適用できる。
【符号の説明】
【0032】
1 ボールねじ
10 ねじ軸
10a 第1外周部
10b 第2外周部
10c 第3外周部
10d 第4外周部
11 外周ねじ溝
13 外ランド部
20 ナット
20a 内周面
20b 軸方向端面
20c 外周面
21 内周ねじ溝
23 転動路
25 フランジ
26 内ランド部
30 ボール
40 循環コマ
M1 ねじ軸の素材
M2 ナットの素材
MT マスキングテープ(マスキング材)
BO ショット剤の吹き出し口
BT ショット剤の吹き出しチューブ
FM1 第1固定部材
FM2 第2固定部材
MM 移動部材
図1
図2
図3
図4